光学素子と光学装置
【課題】 ミラーを有する片持ち梁を備えており、耐久性の高い光学素子及び光学装置を提供する。
【解決手段】 光学装置2は、光学素子4,6で構成されている。光学素子4は、基板10と密着用膜18と片持ち梁30とを備える。片持ち梁30は、密着用膜18と反対側の面に成膜されたアルミニウム膜26(反射面)を有する。片持ち梁30は、外力が作用しない場合、内部応力によって密着用膜18から大きく離反する屈曲形状をとっている。片持ち梁30と密着用膜18の間に外力を作用させた場合、片持ち梁30の密着面28と密着用膜18の密着用基準平面20とを密着させることができる。光学素子4は、外力を利用して形状を変化させることにより、光ビームの進行方向を切換えることができる。
【解決手段】 光学装置2は、光学素子4,6で構成されている。光学素子4は、基板10と密着用膜18と片持ち梁30とを備える。片持ち梁30は、密着用膜18と反対側の面に成膜されたアルミニウム膜26(反射面)を有する。片持ち梁30は、外力が作用しない場合、内部応力によって密着用膜18から大きく離反する屈曲形状をとっている。片持ち梁30と密着用膜18の間に外力を作用させた場合、片持ち梁30の密着面28と密着用膜18の密着用基準平面20とを密着させることができる。光学素子4は、外力を利用して形状を変化させることにより、光ビームの進行方向を切換えることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子に関する。本発明は、その光学素子の複数個を利用して画像を提供する光学装置をも提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを入射して射出する光学素子であって、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子が開示されている。さらに、この光学素子の複数個を配列した光学装置(2安定変形可能鏡装置(DMD装置)と表現されている)が開示されている。光学素子は、光ビームを反射するミラー(ビーム200と表現されている)と、ミラーを支える捩り梁(ヒンジ401と表現されている)と、ミラーの表面に設置されているとともに捩り梁と連結してミラーを回転可能に支持する支柱(ビーム支持ポスト201と表現されている)と、ミラーの指向方向を切換えるアクチュエータ(電極404,405と表現されている)を備えている。この光学素子では、アクチュエータによってミラーの指向角度を切換えることによって、光ビームの進行方向を切換える。
【0003】
【特許文献1】特開平5-196880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光学素子とDMD装置は、例えば暗視野投影光学装置(いわゆるプロジェクタ)や高品位テレビジョン装置(HDTV)に用いられる。上記の光学素子とDMD装置は、極めて有用なものであるが、耐久性に問題があることが分ってきた。
明るい像を得たいとする強い要求があり、明るい像を得るためには大口径の結像レンズを用いる必要がある。大口径の結像レンズに光ビームが入射する状態と入射しない状態を切換えるためには、光学素子によって光ビームの進行方向を大きく変化させる必要がある。すなわち明るい像を得るためには、ミラーを大きく回転する必要がある。ミラーを大きく回転するためには、ミラーを支える捩り梁を大きく捩る必要がある。上記のDMD装置を使用すると、捩り梁が繰返し大変形することから、捩り梁が疲労して変形しやすい。特許文献1の光学素子と光学装置は耐久性に不満を残している。
【0005】
本発明では、耐久性の高い光学素子と光学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光ビームの進行方向を切換える光学素子を提供する。本発明の光学素子は、基板と、片持ち梁と、アクチュエータを備えている。基板は、片持ち梁が密着することができる密着用基準面を有している。片持ち梁は、次の性質を備えている。すなわち、板状であり、その板状の一端が基板に固定されており、基板と反対側の面は光ビームを反射する反射面となっている。片持ち梁に外力が作用しない状態では、片持ち梁が基板に固定されている一端から遠ざかるにつれて密着用基準面から大きく離反する向きに2箇所以上で屈曲している屈曲形状をとる。また外力が作用すると、片持ち梁が密着用基準面に密着するだけの柔軟性を備えている。アクチュエータは、基板と片持ち梁の間に設置されている。アクチュエータは、基板と片持ち梁の間に、片持ち梁を密着用基準面に密着させる吸引力を発生させる。
片持ち梁は少なくとも2箇所以上で屈曲していればよく、屈曲点が連続して分布していてもよい。すなわち、片持ち梁がなめらかに湾曲していてもよい。
【0007】
上記の光学素子によると、アクチュエータによって、片持ち梁の形状を切換えることができる。すなわち、密着用基準面を密着する基準形状と、密着用基準面から離反する向きに屈曲する屈曲形状のいずれかに切換えることができる。その結果、片持ち梁の反射面を、密着用基準面を密着する基準形状と、密着用基準面から離反する屈曲形状のいずれかに切換えることができ、反射面の指向方向を切換えることができ、光ビームの反射方向を切換えることができる。
本発明の片持ち梁は少なくとも2箇所以上で屈曲している。本発明の片持ち梁は、2箇所以上で変形することによって反射面の指向方向を切換える。屈曲点ごとの変形量が小さくても、小さな変形量が累積した結果が反射面の指向方向の変化量となる。局所的な大変形を避けながら、反射面の指向方向を大きく変化させることができる。
本発明の光学素子は、構成部材の部分部分で観測すると小変形量でありながら、反射面の指向方向を大きく変化させることができる。光ビームの進行方向を大きく変化させる光学素子の耐久性が高められる。
【0008】
片持ち梁を小さな駆動力で大きく変形させるためには、基板に固定されている一端近傍(付け根部)での柔軟性が高いことが好ましい。
そこで、片持ち梁が伸びている方向に直交する方向に測定した片持ち梁の幅が、基板に固定されている一端近傍(付け根部)では狭く、片持ち梁の残りの部分(先端部)では広くなっていることが好ましい。
【0009】
この場合、付け根部では幅狭で柔軟なために、小さな駆動力で片持ち梁が大きく変形する。
片持ち梁を密着用基準面に密着させる場合、片持ち梁が基板に固定されている一端近傍(付け根部)から次々に密着用基準面に密着していく。この場合、次に密着用基準面に密着する部分における密着用基準面から片持ち梁までの距離は短い。すなわち、ごく近い位置にある片持ち梁を吸引するだけの吸引力を発生させればよい。離れて存在する物体を吸引するのに要する吸引力に比して、近くに存在する物体を吸引するのに要する吸引力は小さくてよい。本発明の光学素子は小さな駆動力で運転することができる。付け根部を幅狭で柔軟とすると、光学素子を駆動するための電力をさらに小さく抑えることができる。
【0010】
2箇所以上で屈曲している片持ち梁を密着用基準面に密着させる場合、片持ち梁の支持点から離れた部分では反射面の指向方向が大きく変化するのに対し、片持ち梁の支持点の近傍では反射面の指向方向の変化角度が小さい。
例えば、片持ち梁を密着用基準面に密着させた状態で反射される光ビームの光路上に受光素子を置き、光学素子のアクチュエータによって受光素子が光ビームを受光するか否かを切換えるアプリケーションを想定する。この場合、片持ち梁が屈曲形状をとっているにもかかわらずに受光素子が受光する光量がノイズとなる。ノイズを低減するためには、片持ち梁が屈曲形状をとっているにもかかわらずに受光素子が受光してしまう光量を低減するのが有利である。
片持ち梁が基板に固定されている一端近傍(付け根部)における片持ち梁の幅が狭ければ、ノイズとなる光量、すなわち、角度変化が小さい片持ち梁の付け根部で反射される光量を低減することもできる。
【0011】
ノイズの低減のためには、片持ち梁の付け根部の幅を狭くすることに加えて、片持ち梁の反射面のうち、片持ち梁が基板に固定されている一端近傍を除外した範囲に、高反射率膜を形成することが有利である。
この場合、反射面の指向方向が大きく変化する部分を選択して高反射率膜を形成することになり、姿勢変化が小さい片持ち梁の付け根部で反射される光量を相対的に低減することができる。
【0012】
片持ち梁と密着用基準面が密着した際に、外力を解除しても面と面とが張り付いてしまうことが懸念される。すなわち、アクチュエータをオフして外力を加えるのを中止しても、片持ち梁が屈曲形状に戻らない可能性がある。
【0013】
そこで、面と面が密着するうちの少なくとも一方の面に、突起群を形成するのが有効である。この場合、基板の密着用基準面の側に突起群を形成してもよい。あるいは、その密着用基準面に密着する片持ち梁の側の面に突起群を形成してもよい。あるいは両方の面に突起群を形成してもよい。
突起群が形成されていると、基板と片持ち梁が面と面で密着して張り付いてしまうことを防止できる。
【0014】
反射面の指向方向の変化角度が小さい付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減するために、光源と光学素子の位置関係を調整することも有用である。すなわち、屈曲形状をとっている片持ち梁の一端近傍(付け根部)で反射された光ビームが、片持ち梁の先端側で再度反射される位置関係に光源と光学素子を配置しておけば、付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
あるいは、片持ち梁の先端側に平面ミラーを固定しておくのも有効である。この場合、指向方向が大きく変化する片持ち梁の先端における変化角が、平面ミラーの全体に亘って得られる。平面ミラーで反射される光ビームの全体が一斉に大きく進行方向を切換える。
この反射板を片持ち梁の先端より先に張り出すように固定し、隣接する片持ち梁の付け根部に光ビームが到達しないようにできる。そのため、角度変化が小さい隣接する片持ち梁の付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
【0015】
本発明では、上記の光学素子を利用した光学装置も提供する。この光学装置は、複数個の光学素子が、1次元もしくは2次元的に配列されている。さらに、個々の光学素子のアクチュエータは、隣接するアクチュエータから独立して制御することができる。これによると、光学素子毎に光ビームの反射方向を制御することができる。例えば、光学素子毎に反射光を結像レンズに入射するか否かを制御することができ、像に現れる画像を制御することができる。
上記の光学装置は、上記したように結像光学系に利用することができる。この場合、密着用基準面に密着した片持ち梁からの反射光を結像系レンズに入射し、密着用基準面から離反して屈曲している片持ち梁からの反射光を結像系レンズに入射しないようにする。すると、密着用基準面に密着した片持ち梁からの反射光のみが結像した画像が提供される。複数の光学素子の中で、片持ち梁を密着用基準面に密着させる光学素子と、片持ち梁を密着用基準面から離反させる光学素子を選択することによって、像に現れる画像を制御することができる。
【0016】
また、上記の光学装置では、単位面積当たりの反射面の面積が大きく、ノイズが小さいことが好ましい。単位面積当たりの反射面の面積が大きければ光学装置に入射される光量を有効に利用でき、ノイズが小さければコントラストの高い画像を得ることができる。
【0017】
片持ち梁の伸びている方向に沿って複数個の光学素子が配列されている光学装置の場合は、片持ち梁が基板に固定される一端近傍が間隔をおいて並行に延びる2片に分割されており、その2片の間隔に隣接する光学素子の片持ち梁が侵入していることが好ましい。
この構成によると、ノイズの原因となる付け根部では、間隔の分だけ幅狭となり、ノイズの原因となる反射光量が低減される。また、その間隔は、指向方向が大きく変化する他の片持ち梁の反射面となる。ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、反射面積が減少することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、自然形状において少なくとも2箇所以上で屈曲している片持ち梁を密着用基準面に密着させることによって光ビームの反射方向を切換える。各々の屈曲点における変形量は小さくても、それが累積することによって反射面の指向方向を大きく変化させることができる。各々の点の変形量は小さいことから耐久性が高く、それでいて反射方向を大きく変化させることができる。
また片持ち梁に吸引力が作用すると、片持ち梁は付け根部から基板に密着していく。ごく近い位置にある物体を吸引できるだけの吸引力を発生させれば片持ち梁が基板に密着していくことから、反射方向の切換に要する駆動力はごく小さいもので足りる。消費電力を低く抑えることができる。
また片持ち梁は簡単に製造することができ、安価に製造することができる。
本発明の光学素子は高密度に配列することができ、光の反射効率が高い光学装置を提供する。
また、ノイズの低減対策を施しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理しておく。
(特徴1)シリコン基板を利用して複数個の光学素子を同時に製造できる。
(特徴2)シリコン基板を利用して複数個の光学素子が配列されている光学装置を製造できる。
(特徴3)片持ち梁は、外力が作用しない状態では内部応力により密着用基準面から離反する向きに湾曲した形状をとる。片持ち梁の製造過程において、上記向きに湾曲する内部応力が生じる条件を採用する。具体的には、単結晶シリコン層の上部にアモルファスシリコン層を形成し、そのアモルファスシリコン層を多結晶シリコン層に変え、その後に単結晶シリコン層を除去する。すると、多結晶シリコン層が湾曲する。
(特徴4)片持ち梁と密着用基板のそれぞれに電極を設置し、電圧を印加することで両者を密着させる。
【実施例】
【0020】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の光学装置2の一部の縦断面図を示す。光学装置2は、複数個の光学素子が2次元に配列されて構成されているが、図1は、そのうちの2個の光学素子4,6が配置されている部分の断面図を示す。図2は、図1と同じ部分を平面視した図面を示す。光学素子4と6は、同一の構成を有している。以下では、光学素子4の構成について説明する。
光学素子4は、基板10と、片持ち梁30と、アクチュエータ60を備えている。
光学素子4,6は、シリコン基板11上に形成されている。シリコン基板11は、シリコン酸化膜12で覆われている。シリコン酸化膜12の表面上に密着用膜18が形成されている。密着用膜18は、シリコン酸化膜12を介してシリコン基板11に固定されているポリシリコン膜14と、ポリシリコン膜14の周囲を覆っているシリコン酸化膜16で構成されている。シリコン酸化膜12の表面から垂直上方に伸びるポリシリコン膜22aが形成されており、ポリシリコン膜22aの上端から図示の右上方に向かって伸びているポリシリコン膜22bにつながっている。ポリシリコン膜22aとポリシリコン膜22bの表面は、シリコン酸化膜24a,24bで覆われている。シリコン酸化膜24bの上側の表面上にはアルミニウム膜26が形成されている。
図1は、ポリシリコン膜22bに外力が作用しない状態を示しており、ポリシリコン膜22bは、ポリシリコン膜22aに固定されている一端から遠ざかるにつれて密着用膜18から大きく離反する向きに湾曲している。
光学素子4の基板10は、シリコン基板11とシリコン酸化膜12とポリシリコン膜22aとシリコン酸化膜24aで構成されている。ポリシリコン膜14とシリコン酸化膜16で構成されている密着用膜18も、基板10の一部を構成している。
光学素子4の片持ち梁30は、ポリシリコン膜22bとシリコン酸化膜24bとアルミニウム膜26で形成されている。片持ち梁30は、薄い板状であり、その板の一端が基板10に固定されている(図1では片持ち梁30と基板10が固定されている境界をA線で示している)。片持ち梁30の上側の表面、すなわち、基板10と反対側の面は高反射率のアルミニウム面となっており、後記する光ビームを反射する反射面である。
光学素子4のアクチュエータ60は、基板10側のポリシリコン膜14と、片持ち梁30側のアルミニウム膜26で形成されており、ポリシリコン膜14とアルミニウム膜26の間に正負の電位差を与えると、片持ち梁30が密着用膜18に密着するように片持ち梁30を基板10に向けて吸引する。密着用膜18のシリコン酸化膜16の上面は平面であり、密着用基準平面20を構成している。アクチュエータ60は、基板10と片持ち梁30の間に設けられており、片持ち梁30の下側の面28を密着用基準平面20に密着させる吸引力を基板10と片持ち梁30の間に発生させる。
密着用膜18と片持ち梁30の間は絶縁されている。
【0021】
片持ち梁30は、外力が作用しない場合、基板10に固定されている固定部位Aから遠ざかるにつれて密着用膜18から大きく離反する湾曲形状をとっている。片持ち梁30は、ポリシリコン膜22bの内部応力によって湾曲形状をとる。内部応力が発生する理由については、後で詳しく説明する。一方において、片持ち梁30と密着用膜18の間に、静電引力等の外力を作用させた場合、片持ち梁30の密着面28を密着用膜18の密着用基準平面20を密着させることができる。片持ち梁30は、湾曲形状から、密着用基準平面20に密着する平面形状に引き伸ばせるだけの柔軟性を有している。
【0022】
ポリシリコン膜14は、シリコン酸化膜16で覆われているため、アルミニウム膜26から絶縁されている。ポリシリコン膜14は導電性であり、一方の電極に利用することができる。また、片持ち梁30上部に形成されているアルミニウム膜26を、他方の電極に利用することができる。例えば、ポリシリコン膜14にプラス電圧を印加し、アルミニウム膜26にマイナス電圧を印加した場合、両者の間に静電引力が作用し、片持ち梁30は密着用膜18に引き付けられる。図4の左側に示す図は、光学素子4のポリシリコン膜14にプラス電圧を印加し、アルミニウム膜26にマイナス電圧を印加した場合を示し、片持ち梁30はポリシリコン膜14にひきつけられ、密着用基準平面20に密着している。
【0023】
また、片持ち梁30を密着用膜18に密着させる際は、図3に示す順序で変形する。最初は(1)に示すように、点34と点36が密着する。自然形状における点34と点36の距離は、それよりも先端側の点、例えば点32と点38の距離よりも小さい。近い距離にある片持ち梁を吸引するのに要する吸引力は、遠い距離にある片持ち梁を吸引するのに要する吸引力に比して、小さくてよい。
点34と点36が密着すると、その後にその右側の部位で吸着が進行する。新たに吸着する右側の部位は、点34と点36が吸着された時点で十分に接近しており、小さな吸引力で吸着される。(1)から(2)に変化させるのに必要な吸引力も小さければ、(2)から(3)に変化させるのに必要な吸引力も小さくてすむ。
片持ち梁30は、十分に小さな力で、吸着ポイントが付け根部から先端部に向かって進行する。光学素子4は、小さな吸引力で、片持ち梁30が自然形状をとっている状態から密着用基準平面20に密着する形状に変化させることができる。光学素子4の消費電力を抑えることができる。
また片持ち梁30は、外力を解除すると内部応力によって自然に湾曲形状に戻る。即ち平面形状に引き伸ばされている状態から湾曲形状へ変形させる際には、外力を作用させる必要がない。これによっても、消費電力を抑えることができる。
また図1と図4を比較すると明らかに、アルミニウム膜26の先端部における傾斜角はθだけ変化する。このθの値は十分に大きく、光ビームの進行方向を大きく変化させることができる。しかしながら、この光学素子4では、どこかが局所的に大きく変形して大きな回転角θを実現するものでない。全長に亘って緩やかに湾曲している片持ち梁30が、全長に亘って少しずつ変形する現象が蓄積することによって大きな回転角θを実現する。部分部分で観測すると、各部における変形量は小さい。光ビームの反射方向を切換えるに際して大きく歪む部分がなく、繰返しの歪によって疲労が蓄積する速度が遅い。光学素子4の耐久性は高い。
上記では、屈曲点が連続して無数に存在している場合について説明したが、屈曲点の数は2以上であればよい。縦断面で観測したときに、2箇所以上で屈曲する折れ線形状を備えている片持ち梁を利用すれば、各屈曲点での変形が蓄積して先端では大きく変形する現象を得ることができる。
【0024】
片持ち梁30の付け根部は、残部よりも柔軟であることが好ましい。付け根部が小さな吸引力で変形すると、片持ち梁30を自然形状から密着用基準平面20に密着する形状に変化させるに要する駆動力をさらに低減することができ、光学素子4の消費電力をさらに抑えることができる。
【0025】
図2に、片持ち梁30を上から見た図を示す。片持ち梁30の付け根部42が2片に分割され、両者間に間隔Mが形成されている。間隔Mが形成されている分だけ、片持ち梁30が伸びている方向Cに直交する方向Bに沿って計測した場合に、付け根部42における幅(W1+W2)が先端部40における幅W3よりも狭くなっている。幅が狭い付け根部42は極めて柔軟であり、小さな吸引力で大きく変形させることができる。光学素子4では片持ち梁30の付け根部42が柔軟なために、小さな吸引力で先端部40に大きな角度変化を実現することができる。図2の構造による別の効果については、後で説明する。
【0026】
図4に、光学素子4,6に光ビーム100,120を入射させた場合の光路を示す。
光学素子4では、ポリシリコン膜14にプラス電圧を印加してアルミニウム膜26にマイナス電圧を印加しており、片持ち梁30の先端部40が密着用膜18に密着し、平面形状に引き伸ばされ、アルミニウム膜26の反射面が平面鏡となり、光ビーム100を平面鏡で反射する。平面鏡で反射された光ビーム100は結像レンズ102に入射し、スクリーン104の位置108では明点となる。ここで、位置108は光学素子4に対応するスクリーン上の位置である。
【0027】
一方において、光学素子6では、ポリシリコン膜14とアルミニウム膜26の間に電圧が印加されず、片持ち梁30は密着用膜18から離反して湾曲形状をとっている。アルミニウム膜26の反射面が曲面鏡となり、しかも左上方を指向している。このために、光学素子6のアルミニウム膜26で反射された光ビーム120は結像レンズ102に入射しない。このために、スクリーン104の位置106では暗点となる。ここで、位置106は光学素子6に対応するスクリーン上の位置である。
【0028】
光学装置2では、個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御することができる。具体的に言うと、光学素子4に電圧を印加している場合、光学素子6に電圧を印加することもできれば、印加しないこともできる。これによって、光学装置2は、スクリーン104に現れる画像を自由に制御することができる。
【0029】
本明細書では、光学素子4のON状態とOFF状態を以下のように定義する。ON状態とは、光学素子4で光ビームを反射させた際にスクリーンに結像する状態をいう。OFF状態とは、光学素子4で光ビームを反射させた際に光路が結像レンズ102からずれて結像できない状態をいう。本実施例では、外力を作用させて片持ち梁30を密着用膜18に密着させている状態がON状態である。また、外力を作用させずに片持ち梁30が湾曲している状態がOFF状態である。
【0030】
ここで、結像のときに起きるノイズについて説明する。ノイズとは、片持ち梁30がOFF状態であるにも関わらず、一部の光が結像レンズ102に入射し、意図しない明点をスクリーン104に結像してしまう状態である。図5に、ノイズが発生する理由を図示する。図5(a)は、ON状態の光学素子4を示す。図5(b)は、OFF状態の光学素子4を示す。図5(a)では、光ビーム100,120,130が、平面形状に近い形状のアルミニウム面(点60の近傍)または平面形状のアルミニウム面(点62,64の近傍)で反射され、いずれも結像レンズ102に入射して結像する。これはON状態での理想的な光路である。
【0031】
一方において、図5(b)では、片持ち梁30の付け根部では、OFF状態であるにもかかわらず角度変化が小さいために、付け根部の近傍(点66,68の近傍)で反射された光ビーム100,120は、結像レンズ102に入射してしまう。即ちノイズを発生する。それに対して、先端部(点69の近傍)で反射された光ビーム130は結像レンズ102に入射しない。角度変化の大きい先端部でより多くの光ビームを反射させることができれば、ノイズを低減し、明るい画像を取得することができる。
【0032】
図2に示すように、光学素子4では、片持ち梁30の付け根部42の幅が狭くなっている。これによって、以下の2つの効果が得られる。
(1)付け根部42の面積が小さくなっているために、付け根部での光ビームの反射を低減させることができる。言い換えると、より多くの光ビームを、角度変化の大きい先端部40で反射させることができるために、ノイズを低減させることができる。
(2)付け根部42が2片に分割されており、複数の光学素子を配列させる場合、後記する実施例のように、隣接する光学素子の先端部を付け根部42の間隔M内に挿入するように配列させることができる。光学素子を高密度に配列させることによって、先端部40の占有面積率を増加させ、明るい画像を取得することができる。
付け根部42の面積を減少させれば、片持ち梁30の全面にアルミニウム膜26を形成してもよい。付け根部42の面積を減少するだけで、付け根部での光ビームの反射量を低減させることができる。しかしながら、図2に示すように、片持ち梁30の付け根部にはアルミニウム膜26を成膜しないことが好ましい。その場合は、付け根部での光ビームの反射量をさらに低減することができる。
片持ち梁30の付け根部にアルミニウム膜26を成膜しない場合は、付け根部42の面積を減少させる必要が必ずしもない。付け根部42の面積を減少させなくても、ノイズを低減することができる。
【0033】
図6から図16は、光学素子4、6の製造プロセスを示す。
図6は、シリコン基板11を用意した段階を示す。
図7は、シリコン基板11を熱酸化して、シリコン酸化膜12を成膜した段階を示す。
図8は、ポリシリコン膜14を成膜してイオン注入して導電性を付与した後に、ポリシリコン膜14をパターニングした段階を示す。
図9は、シリコン酸化膜16を成膜した段階を示す。シリコン酸化膜16が成膜されたポリシリコン膜14を、密着用膜18とする。
図10は、シリコン犠牲層17を成膜し、パターニングした段階を示す。この時、シリコン犠牲層17は、密着用膜18を覆い、かつ、後の工程で作製する片持ち梁30の先端部よりも長くなるようにパターニングする。
図11は、シリコン酸化膜24cを成膜し、パターニングした段階を示す。
図12は、ポリシリコン膜22を成膜してイオン注入した後、パターニングした段階を示す。この時、ポリシリコン膜22は、成膜した犠牲層17の一部を覆い、かつ、ポリシリコン膜22の先端部が、図10で作製した犠牲層17の先端部よりも短くなるようにパターニングする。
この工程で、片持ち梁30の内部応力を制御する。これによって、片持ち梁30は、図1に示すように外力を解除した状態で湾曲した構造をとることができる。図12での成膜条件の一例を以下に示す。
(1)LPCVD(low pressure chemical vapor deposition)法を用いて、成膜温度を520℃、Si2H6流量を300sccm、6Pa、成膜レートを100Å/min、膜圧を2000Åとする条件下で、アモルファスシリコン膜を成膜する。
(2)上記(1)で成膜したアモルファスシリコン膜に、温度を1000℃、N2流量を10L/min、時間を60minとする条件下で、結晶化アニールを行なう。
(3)イオンをP、加速エネルギーを80keV、ドーズ量を1×1016/cm2とする条件下で、イオン注入を行なう。
(4)温度を1000℃、ガスをN2、N2流量を10L/min、時間を60minとする条件下で、活性化アニールを行なう。
図13は、シリコン酸化膜24dを成膜し、パターニングした段階を示す。
図14は、アルミニウム膜26を成膜し、パターニングした段階を示す。このアルミニウム膜は、片持ち梁30の反射面となる。
図15は、シリコン酸化膜の一部である24eに穴を開け、エッチングホールを形成した段階を示す。
図16は、シリコン犠牲層17のエッチングを行ない、片持ち梁30の図示右側の端部がリリースされた段階を示す。図12に示したポリシリコン膜22の成膜工程を、前記した(1)から(4)の条件で実施しておくと、ポリシリコン膜22の下面に圧縮応力が作用した状態でポリシリコン膜22が形成される。そのために、シリコン犠牲層17を除去すると、ポリシリコン膜22の下面を圧縮しておく原因が消失し、ポリシリコン膜22の下面が膨張する。その結果、シリコン犠牲層17を除去すると、ポリシリコン膜22は上方に向かって湾曲する。図16に示した光学素子が完成する。
【0034】
光学素子4の片持ち梁30を形成するために、片持ち梁30の下部に厚いシリコン犠牲層17を形成する必要がない。特許文献1の技術でミラーの回転角を大きくするためには厚い犠牲層を成膜して厚い犠牲層をエッチングする必要があり、製造コストが増大する。本実施例の光学素子であれば、厚い犠牲層を成膜して厚い犠牲層をエッチングする必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0035】
なお、上記の成膜条件は一例であり、製造プロセスは上記に限定しない。例えば、上記の図12では、片持ち梁30のポリシリコン膜22は単層膜であるが、より強力な引っ張り応力の膜を上側に積層した複層膜であってもよい。また、上記の図15では、反射膜としてアルミニウム膜26を成膜しているが、反射膜の高いアルミニウム膜以外の膜を使用してもよい。また、アルミニウム膜等の高反射率を有する膜を、片持ち梁30の上部に貼り付けてもよい。あるいは、シリコン酸化膜24dの上側の表面をそのまま反射面に利用してもよい。
【0036】
本実施例の光学装置2によると、片持ち梁30を有する光学素子4を使用することによって、光ビームの進行方向を制御し、スクリーン104に現れる画像を制御することができる。片持ち梁30の付け根部の幅を狭くするよって、小さい駆動力で大きな角度変化をつけることができ、耐久性の向上と低コスト化を実現することができる。さらに、ノイズを発生しやすい片持ち梁30の付け根部の幅を狭くすることによって、コントラストの高い画像を取得することができる。また、片持ち梁の付け根部の2片に分割された構造によって、高密度に光学素子を配列させ、反射面の面積を増加させ、明るい画像を取得することができる。
【0037】
本実施例の光学素子は、複数個の光学素子を1次元または2次元に配列させることによって、スクリーンに現れる画像を制御することができる。例えば、各光学素子を1画素とすると、光学素子を800×600個配列させて、SVGA(Super Video Graphics Array)の解像度を有する画像を結像させることができる。
【0038】
(第2実施例)
図17に、第2実施例の光学素子を示す。第2実施例の片持ち梁30は、密着面28上に、突起50,52,54,56,58からなる突起群500を備えている。これによって、外力を解除しても密着面28が密着用基準面20に張り付いてしまうことを回避することができる。なお、突起群500は密着用膜18の側に形成してもよい。
【0039】
(第3実施例)
図18と図19に、第3実施例の光学素子を示す。図18と図19の光学素子では、片持ち梁30の上面に支持部72を介して平板ミラー74が固定されている。支持部72は、片持ち梁30の先端部に設けられている。平板ミラー74は片持ち梁30の先端より先に張り出すように固定されている。さらに、平板ミラー74は隣接する光学素子の片持ち梁30の付け根部の一部を覆うまで延びている。図18はON状態、図19はOFF状態であり、平板ミラー74は片持ち梁30に伴って角度が変化する。
図18に示すON状態では、平板ミラー74は水平姿勢をとる。即ち、平板ミラー74上で反射された光ビーム100,120は、図4の光学素子4(ON状態)と同一の反射角で反射され、結像レンズ102に入射して結像する。
図19に示すOFF状態では、平板ミラー74の全体に亘って、光ビームの反射方向を大きく変化させる変化角を得ている。即ち、光ビーム100,120,130は同一の反射角で反射され、結像レンズ102に入射しない。平板ミラー74のうち片持ち梁の先端よりも先に張り出した部分は、隣接する片持ち梁の付け根部に到達するはずであった光ビーム120aを遮ることができる。なお、平板ミラー74のうち片持ち梁30の先端よりも先に張り出した部分の張り出し長さは、光ビーム100,120,130の入射角に応じて、隣接する片持ち梁30の付け根部に光ビーム120aが到達しないように設定される。平板ミラー74のうち片持ち梁の先端よりも先に張り出した部分は、隣接する光学素子の片持ち梁30の付け根部の一部を覆うまで延びているのが好ましい。光ビーム100,120,130の入射角の広い範囲において、上記効果が得られる。
平板ミラー74を固定することによって、ON状態では平板ミラーが固定されていない場合(即ち、平面形状の片持ち梁の上面で反射された場合)と同様に結像するが、OFF状態では姿勢変化の小さい付け根部での光ビームの反射を禁止し、ノイズを低減することができる。また平板ミラー74によって、隣接する光学素子の平板ミラー74との間隔を小さくすることができるので、有効反射面積を大きくすることができる。
【0040】
(第4実施例)
反射面の指向方向の変化角度が小さい付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減するために、光源と光学素子の位置関係を調整することも有用である。図20に、OFF状態の光学素子に光ビーム100を入射させた場合の光路を示す。光ビームは湾曲形状をとっている付け根部で反射され、先端部で再度反射される。光ビーム100は、最終的に変化角度の大きい先端部で反射され進行方向が大きく切換えられるため、結像レンズ102に入射しない。これにより、付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
【0041】
(第5実施例)
光学装置では、ノイズが小さく、単位面積当たりの有効反射面積が大きいことが好ましい。このために片持ち梁の形状と配列方法を調整することも有用である。第5実施例では、片持ち梁の形状を工夫し、片持ち梁の先端部を隣接する片持ち梁の2片に分割された付け根部の間隔に挿入するように配列することによって、ノイズを低減し、有効反射面積を大きくすることができる光学素子を提供する。
【0042】
図21から図24に、光学素子を上から見た図を示す。隣接している光学素子は全て同じ構造である。図21は光学素子140,160,180が隣接している状態を示している。光学素子160では、2片に分割された付け根部の間隔M160は、片持ち梁の先端部を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M160>W3)。これによって、間隔M160に、隣接する光学素子140の先端部を挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。
【0043】
図22は、光学素子240,260,280が隣接している状態を示している。光学素子260では、片持ち梁の先端部の幅が2段階になっており、先端部の位置262,268より先端側の先端部の幅W3−260は、付け根部の間隔Mに挿入できるだけの幅に狭められている(即ち、M>W3−260)。これによって、光学素子260の、幅W3−260を備える先端部を、隣接する光学素子280の付け根部分の間隔Mに挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。
【0044】
図23は、光学素子340,360,380が隣接している状態を示している。光学素子360では、2片に分割された付け根部の間隔を2段階で広げており、付け根部の位置364,366より付け根側の間隔M360−1は、間隔M360−2より広くなっている。間隔M360−2は、片持ち梁の先端部(幅W3)を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M360−2>W3)。間隔M360−1は、幅(W1+W2+M360−2)の付け根部を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M360−1>(W1+W2+M360−2))。これによって、光学素子340の付け根部の一部と先端部を、光学素子360の間隔に挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。また付け根部の間隔に、隣接する光学素子の付け根部をも挿入することによって、間隔M360−1と直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0045】
図24では、光学素子440,460,480が隣接している状態を示している。光学素子460は、片持ち梁の先端部の幅が2段階になっており、先端部の位置462,468より先端側の先端部の幅W3−460は、付け根部の間隔Mに挿入できるだけの幅に狭められている(即ち、M>W3−460)。さらに、付け根部の間隔Mの幅を、付け根部の途中(位置464,466)から付け根部の付け根側に向けて広げている。付け根部の間隔M460は、幅Wの先端部と付け根部(W=W1+W2+M)を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M460>(W1+W2+M))。これによって、光学素子440の付け根部の一部と先端部を、光学素子460の間隔に挿入するように配列させることができる。また付け根部の間隔に、隣接する光学素子の付け根部をも挿入することによって、間隔Mと直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0046】
第5実施例では、いずれも付け根部の幅を狭くして面積を小さくすることで、付け根部での光ビームの反射光量を低減させ、ノイズを低減させることができる。また、2片に分割された付け根部の間隔に他の片持ち梁の先端部を挿入し、指向方向が大きく変化する他の片持ち梁の反射面とすることで、有効反射面積として利用することができる。さらに、付け根部の間隔に、隣接する光学素子の先端部に加え付け根部の一部をも挿入することによって、間隔Mと直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば密着用基準面は必ずしも平面である必要がなく、光学装置からの光を利用する光学系の特性に合わせた曲面であってもよい。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施例の光学素子の断面図を示す。
【図2】第1実施例の光学素子の平面図を示す。
【図3】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図4】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図5】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図6】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図7】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図8】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図9】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図10】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図11】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図12】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図13】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図14】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図15】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図16】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図17】第2実施例の光学素子の断面図を示す。
【図18】第3実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図19】第3実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図20】第4実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図21】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図22】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図23】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図24】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【符号の説明】
【0049】
2:光学装置
4,6:光学素子
10:基板
18:密着用膜
20:密着用基準平面
28:密着面
30:片持ち梁
26:アルミニウム膜
100,120,130:光ビーム
102:結像レンズ
104:スクリーン
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子に関する。本発明は、その光学素子の複数個を利用して画像を提供する光学装置をも提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを入射して射出する光学素子であって、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子が開示されている。さらに、この光学素子の複数個を配列した光学装置(2安定変形可能鏡装置(DMD装置)と表現されている)が開示されている。光学素子は、光ビームを反射するミラー(ビーム200と表現されている)と、ミラーを支える捩り梁(ヒンジ401と表現されている)と、ミラーの表面に設置されているとともに捩り梁と連結してミラーを回転可能に支持する支柱(ビーム支持ポスト201と表現されている)と、ミラーの指向方向を切換えるアクチュエータ(電極404,405と表現されている)を備えている。この光学素子では、アクチュエータによってミラーの指向角度を切換えることによって、光ビームの進行方向を切換える。
【0003】
【特許文献1】特開平5-196880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光学素子とDMD装置は、例えば暗視野投影光学装置(いわゆるプロジェクタ)や高品位テレビジョン装置(HDTV)に用いられる。上記の光学素子とDMD装置は、極めて有用なものであるが、耐久性に問題があることが分ってきた。
明るい像を得たいとする強い要求があり、明るい像を得るためには大口径の結像レンズを用いる必要がある。大口径の結像レンズに光ビームが入射する状態と入射しない状態を切換えるためには、光学素子によって光ビームの進行方向を大きく変化させる必要がある。すなわち明るい像を得るためには、ミラーを大きく回転する必要がある。ミラーを大きく回転するためには、ミラーを支える捩り梁を大きく捩る必要がある。上記のDMD装置を使用すると、捩り梁が繰返し大変形することから、捩り梁が疲労して変形しやすい。特許文献1の光学素子と光学装置は耐久性に不満を残している。
【0005】
本発明では、耐久性の高い光学素子と光学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光ビームの進行方向を切換える光学素子を提供する。本発明の光学素子は、基板と、片持ち梁と、アクチュエータを備えている。基板は、片持ち梁が密着することができる密着用基準面を有している。片持ち梁は、次の性質を備えている。すなわち、板状であり、その板状の一端が基板に固定されており、基板と反対側の面は光ビームを反射する反射面となっている。片持ち梁に外力が作用しない状態では、片持ち梁が基板に固定されている一端から遠ざかるにつれて密着用基準面から大きく離反する向きに2箇所以上で屈曲している屈曲形状をとる。また外力が作用すると、片持ち梁が密着用基準面に密着するだけの柔軟性を備えている。アクチュエータは、基板と片持ち梁の間に設置されている。アクチュエータは、基板と片持ち梁の間に、片持ち梁を密着用基準面に密着させる吸引力を発生させる。
片持ち梁は少なくとも2箇所以上で屈曲していればよく、屈曲点が連続して分布していてもよい。すなわち、片持ち梁がなめらかに湾曲していてもよい。
【0007】
上記の光学素子によると、アクチュエータによって、片持ち梁の形状を切換えることができる。すなわち、密着用基準面を密着する基準形状と、密着用基準面から離反する向きに屈曲する屈曲形状のいずれかに切換えることができる。その結果、片持ち梁の反射面を、密着用基準面を密着する基準形状と、密着用基準面から離反する屈曲形状のいずれかに切換えることができ、反射面の指向方向を切換えることができ、光ビームの反射方向を切換えることができる。
本発明の片持ち梁は少なくとも2箇所以上で屈曲している。本発明の片持ち梁は、2箇所以上で変形することによって反射面の指向方向を切換える。屈曲点ごとの変形量が小さくても、小さな変形量が累積した結果が反射面の指向方向の変化量となる。局所的な大変形を避けながら、反射面の指向方向を大きく変化させることができる。
本発明の光学素子は、構成部材の部分部分で観測すると小変形量でありながら、反射面の指向方向を大きく変化させることができる。光ビームの進行方向を大きく変化させる光学素子の耐久性が高められる。
【0008】
片持ち梁を小さな駆動力で大きく変形させるためには、基板に固定されている一端近傍(付け根部)での柔軟性が高いことが好ましい。
そこで、片持ち梁が伸びている方向に直交する方向に測定した片持ち梁の幅が、基板に固定されている一端近傍(付け根部)では狭く、片持ち梁の残りの部分(先端部)では広くなっていることが好ましい。
【0009】
この場合、付け根部では幅狭で柔軟なために、小さな駆動力で片持ち梁が大きく変形する。
片持ち梁を密着用基準面に密着させる場合、片持ち梁が基板に固定されている一端近傍(付け根部)から次々に密着用基準面に密着していく。この場合、次に密着用基準面に密着する部分における密着用基準面から片持ち梁までの距離は短い。すなわち、ごく近い位置にある片持ち梁を吸引するだけの吸引力を発生させればよい。離れて存在する物体を吸引するのに要する吸引力に比して、近くに存在する物体を吸引するのに要する吸引力は小さくてよい。本発明の光学素子は小さな駆動力で運転することができる。付け根部を幅狭で柔軟とすると、光学素子を駆動するための電力をさらに小さく抑えることができる。
【0010】
2箇所以上で屈曲している片持ち梁を密着用基準面に密着させる場合、片持ち梁の支持点から離れた部分では反射面の指向方向が大きく変化するのに対し、片持ち梁の支持点の近傍では反射面の指向方向の変化角度が小さい。
例えば、片持ち梁を密着用基準面に密着させた状態で反射される光ビームの光路上に受光素子を置き、光学素子のアクチュエータによって受光素子が光ビームを受光するか否かを切換えるアプリケーションを想定する。この場合、片持ち梁が屈曲形状をとっているにもかかわらずに受光素子が受光する光量がノイズとなる。ノイズを低減するためには、片持ち梁が屈曲形状をとっているにもかかわらずに受光素子が受光してしまう光量を低減するのが有利である。
片持ち梁が基板に固定されている一端近傍(付け根部)における片持ち梁の幅が狭ければ、ノイズとなる光量、すなわち、角度変化が小さい片持ち梁の付け根部で反射される光量を低減することもできる。
【0011】
ノイズの低減のためには、片持ち梁の付け根部の幅を狭くすることに加えて、片持ち梁の反射面のうち、片持ち梁が基板に固定されている一端近傍を除外した範囲に、高反射率膜を形成することが有利である。
この場合、反射面の指向方向が大きく変化する部分を選択して高反射率膜を形成することになり、姿勢変化が小さい片持ち梁の付け根部で反射される光量を相対的に低減することができる。
【0012】
片持ち梁と密着用基準面が密着した際に、外力を解除しても面と面とが張り付いてしまうことが懸念される。すなわち、アクチュエータをオフして外力を加えるのを中止しても、片持ち梁が屈曲形状に戻らない可能性がある。
【0013】
そこで、面と面が密着するうちの少なくとも一方の面に、突起群を形成するのが有効である。この場合、基板の密着用基準面の側に突起群を形成してもよい。あるいは、その密着用基準面に密着する片持ち梁の側の面に突起群を形成してもよい。あるいは両方の面に突起群を形成してもよい。
突起群が形成されていると、基板と片持ち梁が面と面で密着して張り付いてしまうことを防止できる。
【0014】
反射面の指向方向の変化角度が小さい付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減するために、光源と光学素子の位置関係を調整することも有用である。すなわち、屈曲形状をとっている片持ち梁の一端近傍(付け根部)で反射された光ビームが、片持ち梁の先端側で再度反射される位置関係に光源と光学素子を配置しておけば、付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
あるいは、片持ち梁の先端側に平面ミラーを固定しておくのも有効である。この場合、指向方向が大きく変化する片持ち梁の先端における変化角が、平面ミラーの全体に亘って得られる。平面ミラーで反射される光ビームの全体が一斉に大きく進行方向を切換える。
この反射板を片持ち梁の先端より先に張り出すように固定し、隣接する片持ち梁の付け根部に光ビームが到達しないようにできる。そのため、角度変化が小さい隣接する片持ち梁の付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
【0015】
本発明では、上記の光学素子を利用した光学装置も提供する。この光学装置は、複数個の光学素子が、1次元もしくは2次元的に配列されている。さらに、個々の光学素子のアクチュエータは、隣接するアクチュエータから独立して制御することができる。これによると、光学素子毎に光ビームの反射方向を制御することができる。例えば、光学素子毎に反射光を結像レンズに入射するか否かを制御することができ、像に現れる画像を制御することができる。
上記の光学装置は、上記したように結像光学系に利用することができる。この場合、密着用基準面に密着した片持ち梁からの反射光を結像系レンズに入射し、密着用基準面から離反して屈曲している片持ち梁からの反射光を結像系レンズに入射しないようにする。すると、密着用基準面に密着した片持ち梁からの反射光のみが結像した画像が提供される。複数の光学素子の中で、片持ち梁を密着用基準面に密着させる光学素子と、片持ち梁を密着用基準面から離反させる光学素子を選択することによって、像に現れる画像を制御することができる。
【0016】
また、上記の光学装置では、単位面積当たりの反射面の面積が大きく、ノイズが小さいことが好ましい。単位面積当たりの反射面の面積が大きければ光学装置に入射される光量を有効に利用でき、ノイズが小さければコントラストの高い画像を得ることができる。
【0017】
片持ち梁の伸びている方向に沿って複数個の光学素子が配列されている光学装置の場合は、片持ち梁が基板に固定される一端近傍が間隔をおいて並行に延びる2片に分割されており、その2片の間隔に隣接する光学素子の片持ち梁が侵入していることが好ましい。
この構成によると、ノイズの原因となる付け根部では、間隔の分だけ幅狭となり、ノイズの原因となる反射光量が低減される。また、その間隔は、指向方向が大きく変化する他の片持ち梁の反射面となる。ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、反射面積が減少することを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、自然形状において少なくとも2箇所以上で屈曲している片持ち梁を密着用基準面に密着させることによって光ビームの反射方向を切換える。各々の屈曲点における変形量は小さくても、それが累積することによって反射面の指向方向を大きく変化させることができる。各々の点の変形量は小さいことから耐久性が高く、それでいて反射方向を大きく変化させることができる。
また片持ち梁に吸引力が作用すると、片持ち梁は付け根部から基板に密着していく。ごく近い位置にある物体を吸引できるだけの吸引力を発生させれば片持ち梁が基板に密着していくことから、反射方向の切換に要する駆動力はごく小さいもので足りる。消費電力を低く抑えることができる。
また片持ち梁は簡単に製造することができ、安価に製造することができる。
本発明の光学素子は高密度に配列することができ、光の反射効率が高い光学装置を提供する。
また、ノイズの低減対策を施しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理しておく。
(特徴1)シリコン基板を利用して複数個の光学素子を同時に製造できる。
(特徴2)シリコン基板を利用して複数個の光学素子が配列されている光学装置を製造できる。
(特徴3)片持ち梁は、外力が作用しない状態では内部応力により密着用基準面から離反する向きに湾曲した形状をとる。片持ち梁の製造過程において、上記向きに湾曲する内部応力が生じる条件を採用する。具体的には、単結晶シリコン層の上部にアモルファスシリコン層を形成し、そのアモルファスシリコン層を多結晶シリコン層に変え、その後に単結晶シリコン層を除去する。すると、多結晶シリコン層が湾曲する。
(特徴4)片持ち梁と密着用基板のそれぞれに電極を設置し、電圧を印加することで両者を密着させる。
【実施例】
【0020】
(第1実施例)
図1は、第1実施例の光学装置2の一部の縦断面図を示す。光学装置2は、複数個の光学素子が2次元に配列されて構成されているが、図1は、そのうちの2個の光学素子4,6が配置されている部分の断面図を示す。図2は、図1と同じ部分を平面視した図面を示す。光学素子4と6は、同一の構成を有している。以下では、光学素子4の構成について説明する。
光学素子4は、基板10と、片持ち梁30と、アクチュエータ60を備えている。
光学素子4,6は、シリコン基板11上に形成されている。シリコン基板11は、シリコン酸化膜12で覆われている。シリコン酸化膜12の表面上に密着用膜18が形成されている。密着用膜18は、シリコン酸化膜12を介してシリコン基板11に固定されているポリシリコン膜14と、ポリシリコン膜14の周囲を覆っているシリコン酸化膜16で構成されている。シリコン酸化膜12の表面から垂直上方に伸びるポリシリコン膜22aが形成されており、ポリシリコン膜22aの上端から図示の右上方に向かって伸びているポリシリコン膜22bにつながっている。ポリシリコン膜22aとポリシリコン膜22bの表面は、シリコン酸化膜24a,24bで覆われている。シリコン酸化膜24bの上側の表面上にはアルミニウム膜26が形成されている。
図1は、ポリシリコン膜22bに外力が作用しない状態を示しており、ポリシリコン膜22bは、ポリシリコン膜22aに固定されている一端から遠ざかるにつれて密着用膜18から大きく離反する向きに湾曲している。
光学素子4の基板10は、シリコン基板11とシリコン酸化膜12とポリシリコン膜22aとシリコン酸化膜24aで構成されている。ポリシリコン膜14とシリコン酸化膜16で構成されている密着用膜18も、基板10の一部を構成している。
光学素子4の片持ち梁30は、ポリシリコン膜22bとシリコン酸化膜24bとアルミニウム膜26で形成されている。片持ち梁30は、薄い板状であり、その板の一端が基板10に固定されている(図1では片持ち梁30と基板10が固定されている境界をA線で示している)。片持ち梁30の上側の表面、すなわち、基板10と反対側の面は高反射率のアルミニウム面となっており、後記する光ビームを反射する反射面である。
光学素子4のアクチュエータ60は、基板10側のポリシリコン膜14と、片持ち梁30側のアルミニウム膜26で形成されており、ポリシリコン膜14とアルミニウム膜26の間に正負の電位差を与えると、片持ち梁30が密着用膜18に密着するように片持ち梁30を基板10に向けて吸引する。密着用膜18のシリコン酸化膜16の上面は平面であり、密着用基準平面20を構成している。アクチュエータ60は、基板10と片持ち梁30の間に設けられており、片持ち梁30の下側の面28を密着用基準平面20に密着させる吸引力を基板10と片持ち梁30の間に発生させる。
密着用膜18と片持ち梁30の間は絶縁されている。
【0021】
片持ち梁30は、外力が作用しない場合、基板10に固定されている固定部位Aから遠ざかるにつれて密着用膜18から大きく離反する湾曲形状をとっている。片持ち梁30は、ポリシリコン膜22bの内部応力によって湾曲形状をとる。内部応力が発生する理由については、後で詳しく説明する。一方において、片持ち梁30と密着用膜18の間に、静電引力等の外力を作用させた場合、片持ち梁30の密着面28を密着用膜18の密着用基準平面20を密着させることができる。片持ち梁30は、湾曲形状から、密着用基準平面20に密着する平面形状に引き伸ばせるだけの柔軟性を有している。
【0022】
ポリシリコン膜14は、シリコン酸化膜16で覆われているため、アルミニウム膜26から絶縁されている。ポリシリコン膜14は導電性であり、一方の電極に利用することができる。また、片持ち梁30上部に形成されているアルミニウム膜26を、他方の電極に利用することができる。例えば、ポリシリコン膜14にプラス電圧を印加し、アルミニウム膜26にマイナス電圧を印加した場合、両者の間に静電引力が作用し、片持ち梁30は密着用膜18に引き付けられる。図4の左側に示す図は、光学素子4のポリシリコン膜14にプラス電圧を印加し、アルミニウム膜26にマイナス電圧を印加した場合を示し、片持ち梁30はポリシリコン膜14にひきつけられ、密着用基準平面20に密着している。
【0023】
また、片持ち梁30を密着用膜18に密着させる際は、図3に示す順序で変形する。最初は(1)に示すように、点34と点36が密着する。自然形状における点34と点36の距離は、それよりも先端側の点、例えば点32と点38の距離よりも小さい。近い距離にある片持ち梁を吸引するのに要する吸引力は、遠い距離にある片持ち梁を吸引するのに要する吸引力に比して、小さくてよい。
点34と点36が密着すると、その後にその右側の部位で吸着が進行する。新たに吸着する右側の部位は、点34と点36が吸着された時点で十分に接近しており、小さな吸引力で吸着される。(1)から(2)に変化させるのに必要な吸引力も小さければ、(2)から(3)に変化させるのに必要な吸引力も小さくてすむ。
片持ち梁30は、十分に小さな力で、吸着ポイントが付け根部から先端部に向かって進行する。光学素子4は、小さな吸引力で、片持ち梁30が自然形状をとっている状態から密着用基準平面20に密着する形状に変化させることができる。光学素子4の消費電力を抑えることができる。
また片持ち梁30は、外力を解除すると内部応力によって自然に湾曲形状に戻る。即ち平面形状に引き伸ばされている状態から湾曲形状へ変形させる際には、外力を作用させる必要がない。これによっても、消費電力を抑えることができる。
また図1と図4を比較すると明らかに、アルミニウム膜26の先端部における傾斜角はθだけ変化する。このθの値は十分に大きく、光ビームの進行方向を大きく変化させることができる。しかしながら、この光学素子4では、どこかが局所的に大きく変形して大きな回転角θを実現するものでない。全長に亘って緩やかに湾曲している片持ち梁30が、全長に亘って少しずつ変形する現象が蓄積することによって大きな回転角θを実現する。部分部分で観測すると、各部における変形量は小さい。光ビームの反射方向を切換えるに際して大きく歪む部分がなく、繰返しの歪によって疲労が蓄積する速度が遅い。光学素子4の耐久性は高い。
上記では、屈曲点が連続して無数に存在している場合について説明したが、屈曲点の数は2以上であればよい。縦断面で観測したときに、2箇所以上で屈曲する折れ線形状を備えている片持ち梁を利用すれば、各屈曲点での変形が蓄積して先端では大きく変形する現象を得ることができる。
【0024】
片持ち梁30の付け根部は、残部よりも柔軟であることが好ましい。付け根部が小さな吸引力で変形すると、片持ち梁30を自然形状から密着用基準平面20に密着する形状に変化させるに要する駆動力をさらに低減することができ、光学素子4の消費電力をさらに抑えることができる。
【0025】
図2に、片持ち梁30を上から見た図を示す。片持ち梁30の付け根部42が2片に分割され、両者間に間隔Mが形成されている。間隔Mが形成されている分だけ、片持ち梁30が伸びている方向Cに直交する方向Bに沿って計測した場合に、付け根部42における幅(W1+W2)が先端部40における幅W3よりも狭くなっている。幅が狭い付け根部42は極めて柔軟であり、小さな吸引力で大きく変形させることができる。光学素子4では片持ち梁30の付け根部42が柔軟なために、小さな吸引力で先端部40に大きな角度変化を実現することができる。図2の構造による別の効果については、後で説明する。
【0026】
図4に、光学素子4,6に光ビーム100,120を入射させた場合の光路を示す。
光学素子4では、ポリシリコン膜14にプラス電圧を印加してアルミニウム膜26にマイナス電圧を印加しており、片持ち梁30の先端部40が密着用膜18に密着し、平面形状に引き伸ばされ、アルミニウム膜26の反射面が平面鏡となり、光ビーム100を平面鏡で反射する。平面鏡で反射された光ビーム100は結像レンズ102に入射し、スクリーン104の位置108では明点となる。ここで、位置108は光学素子4に対応するスクリーン上の位置である。
【0027】
一方において、光学素子6では、ポリシリコン膜14とアルミニウム膜26の間に電圧が印加されず、片持ち梁30は密着用膜18から離反して湾曲形状をとっている。アルミニウム膜26の反射面が曲面鏡となり、しかも左上方を指向している。このために、光学素子6のアルミニウム膜26で反射された光ビーム120は結像レンズ102に入射しない。このために、スクリーン104の位置106では暗点となる。ここで、位置106は光学素子6に対応するスクリーン上の位置である。
【0028】
光学装置2では、個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御することができる。具体的に言うと、光学素子4に電圧を印加している場合、光学素子6に電圧を印加することもできれば、印加しないこともできる。これによって、光学装置2は、スクリーン104に現れる画像を自由に制御することができる。
【0029】
本明細書では、光学素子4のON状態とOFF状態を以下のように定義する。ON状態とは、光学素子4で光ビームを反射させた際にスクリーンに結像する状態をいう。OFF状態とは、光学素子4で光ビームを反射させた際に光路が結像レンズ102からずれて結像できない状態をいう。本実施例では、外力を作用させて片持ち梁30を密着用膜18に密着させている状態がON状態である。また、外力を作用させずに片持ち梁30が湾曲している状態がOFF状態である。
【0030】
ここで、結像のときに起きるノイズについて説明する。ノイズとは、片持ち梁30がOFF状態であるにも関わらず、一部の光が結像レンズ102に入射し、意図しない明点をスクリーン104に結像してしまう状態である。図5に、ノイズが発生する理由を図示する。図5(a)は、ON状態の光学素子4を示す。図5(b)は、OFF状態の光学素子4を示す。図5(a)では、光ビーム100,120,130が、平面形状に近い形状のアルミニウム面(点60の近傍)または平面形状のアルミニウム面(点62,64の近傍)で反射され、いずれも結像レンズ102に入射して結像する。これはON状態での理想的な光路である。
【0031】
一方において、図5(b)では、片持ち梁30の付け根部では、OFF状態であるにもかかわらず角度変化が小さいために、付け根部の近傍(点66,68の近傍)で反射された光ビーム100,120は、結像レンズ102に入射してしまう。即ちノイズを発生する。それに対して、先端部(点69の近傍)で反射された光ビーム130は結像レンズ102に入射しない。角度変化の大きい先端部でより多くの光ビームを反射させることができれば、ノイズを低減し、明るい画像を取得することができる。
【0032】
図2に示すように、光学素子4では、片持ち梁30の付け根部42の幅が狭くなっている。これによって、以下の2つの効果が得られる。
(1)付け根部42の面積が小さくなっているために、付け根部での光ビームの反射を低減させることができる。言い換えると、より多くの光ビームを、角度変化の大きい先端部40で反射させることができるために、ノイズを低減させることができる。
(2)付け根部42が2片に分割されており、複数の光学素子を配列させる場合、後記する実施例のように、隣接する光学素子の先端部を付け根部42の間隔M内に挿入するように配列させることができる。光学素子を高密度に配列させることによって、先端部40の占有面積率を増加させ、明るい画像を取得することができる。
付け根部42の面積を減少させれば、片持ち梁30の全面にアルミニウム膜26を形成してもよい。付け根部42の面積を減少するだけで、付け根部での光ビームの反射量を低減させることができる。しかしながら、図2に示すように、片持ち梁30の付け根部にはアルミニウム膜26を成膜しないことが好ましい。その場合は、付け根部での光ビームの反射量をさらに低減することができる。
片持ち梁30の付け根部にアルミニウム膜26を成膜しない場合は、付け根部42の面積を減少させる必要が必ずしもない。付け根部42の面積を減少させなくても、ノイズを低減することができる。
【0033】
図6から図16は、光学素子4、6の製造プロセスを示す。
図6は、シリコン基板11を用意した段階を示す。
図7は、シリコン基板11を熱酸化して、シリコン酸化膜12を成膜した段階を示す。
図8は、ポリシリコン膜14を成膜してイオン注入して導電性を付与した後に、ポリシリコン膜14をパターニングした段階を示す。
図9は、シリコン酸化膜16を成膜した段階を示す。シリコン酸化膜16が成膜されたポリシリコン膜14を、密着用膜18とする。
図10は、シリコン犠牲層17を成膜し、パターニングした段階を示す。この時、シリコン犠牲層17は、密着用膜18を覆い、かつ、後の工程で作製する片持ち梁30の先端部よりも長くなるようにパターニングする。
図11は、シリコン酸化膜24cを成膜し、パターニングした段階を示す。
図12は、ポリシリコン膜22を成膜してイオン注入した後、パターニングした段階を示す。この時、ポリシリコン膜22は、成膜した犠牲層17の一部を覆い、かつ、ポリシリコン膜22の先端部が、図10で作製した犠牲層17の先端部よりも短くなるようにパターニングする。
この工程で、片持ち梁30の内部応力を制御する。これによって、片持ち梁30は、図1に示すように外力を解除した状態で湾曲した構造をとることができる。図12での成膜条件の一例を以下に示す。
(1)LPCVD(low pressure chemical vapor deposition)法を用いて、成膜温度を520℃、Si2H6流量を300sccm、6Pa、成膜レートを100Å/min、膜圧を2000Åとする条件下で、アモルファスシリコン膜を成膜する。
(2)上記(1)で成膜したアモルファスシリコン膜に、温度を1000℃、N2流量を10L/min、時間を60minとする条件下で、結晶化アニールを行なう。
(3)イオンをP、加速エネルギーを80keV、ドーズ量を1×1016/cm2とする条件下で、イオン注入を行なう。
(4)温度を1000℃、ガスをN2、N2流量を10L/min、時間を60minとする条件下で、活性化アニールを行なう。
図13は、シリコン酸化膜24dを成膜し、パターニングした段階を示す。
図14は、アルミニウム膜26を成膜し、パターニングした段階を示す。このアルミニウム膜は、片持ち梁30の反射面となる。
図15は、シリコン酸化膜の一部である24eに穴を開け、エッチングホールを形成した段階を示す。
図16は、シリコン犠牲層17のエッチングを行ない、片持ち梁30の図示右側の端部がリリースされた段階を示す。図12に示したポリシリコン膜22の成膜工程を、前記した(1)から(4)の条件で実施しておくと、ポリシリコン膜22の下面に圧縮応力が作用した状態でポリシリコン膜22が形成される。そのために、シリコン犠牲層17を除去すると、ポリシリコン膜22の下面を圧縮しておく原因が消失し、ポリシリコン膜22の下面が膨張する。その結果、シリコン犠牲層17を除去すると、ポリシリコン膜22は上方に向かって湾曲する。図16に示した光学素子が完成する。
【0034】
光学素子4の片持ち梁30を形成するために、片持ち梁30の下部に厚いシリコン犠牲層17を形成する必要がない。特許文献1の技術でミラーの回転角を大きくするためには厚い犠牲層を成膜して厚い犠牲層をエッチングする必要があり、製造コストが増大する。本実施例の光学素子であれば、厚い犠牲層を成膜して厚い犠牲層をエッチングする必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0035】
なお、上記の成膜条件は一例であり、製造プロセスは上記に限定しない。例えば、上記の図12では、片持ち梁30のポリシリコン膜22は単層膜であるが、より強力な引っ張り応力の膜を上側に積層した複層膜であってもよい。また、上記の図15では、反射膜としてアルミニウム膜26を成膜しているが、反射膜の高いアルミニウム膜以外の膜を使用してもよい。また、アルミニウム膜等の高反射率を有する膜を、片持ち梁30の上部に貼り付けてもよい。あるいは、シリコン酸化膜24dの上側の表面をそのまま反射面に利用してもよい。
【0036】
本実施例の光学装置2によると、片持ち梁30を有する光学素子4を使用することによって、光ビームの進行方向を制御し、スクリーン104に現れる画像を制御することができる。片持ち梁30の付け根部の幅を狭くするよって、小さい駆動力で大きな角度変化をつけることができ、耐久性の向上と低コスト化を実現することができる。さらに、ノイズを発生しやすい片持ち梁30の付け根部の幅を狭くすることによって、コントラストの高い画像を取得することができる。また、片持ち梁の付け根部の2片に分割された構造によって、高密度に光学素子を配列させ、反射面の面積を増加させ、明るい画像を取得することができる。
【0037】
本実施例の光学素子は、複数個の光学素子を1次元または2次元に配列させることによって、スクリーンに現れる画像を制御することができる。例えば、各光学素子を1画素とすると、光学素子を800×600個配列させて、SVGA(Super Video Graphics Array)の解像度を有する画像を結像させることができる。
【0038】
(第2実施例)
図17に、第2実施例の光学素子を示す。第2実施例の片持ち梁30は、密着面28上に、突起50,52,54,56,58からなる突起群500を備えている。これによって、外力を解除しても密着面28が密着用基準面20に張り付いてしまうことを回避することができる。なお、突起群500は密着用膜18の側に形成してもよい。
【0039】
(第3実施例)
図18と図19に、第3実施例の光学素子を示す。図18と図19の光学素子では、片持ち梁30の上面に支持部72を介して平板ミラー74が固定されている。支持部72は、片持ち梁30の先端部に設けられている。平板ミラー74は片持ち梁30の先端より先に張り出すように固定されている。さらに、平板ミラー74は隣接する光学素子の片持ち梁30の付け根部の一部を覆うまで延びている。図18はON状態、図19はOFF状態であり、平板ミラー74は片持ち梁30に伴って角度が変化する。
図18に示すON状態では、平板ミラー74は水平姿勢をとる。即ち、平板ミラー74上で反射された光ビーム100,120は、図4の光学素子4(ON状態)と同一の反射角で反射され、結像レンズ102に入射して結像する。
図19に示すOFF状態では、平板ミラー74の全体に亘って、光ビームの反射方向を大きく変化させる変化角を得ている。即ち、光ビーム100,120,130は同一の反射角で反射され、結像レンズ102に入射しない。平板ミラー74のうち片持ち梁の先端よりも先に張り出した部分は、隣接する片持ち梁の付け根部に到達するはずであった光ビーム120aを遮ることができる。なお、平板ミラー74のうち片持ち梁30の先端よりも先に張り出した部分の張り出し長さは、光ビーム100,120,130の入射角に応じて、隣接する片持ち梁30の付け根部に光ビーム120aが到達しないように設定される。平板ミラー74のうち片持ち梁の先端よりも先に張り出した部分は、隣接する光学素子の片持ち梁30の付け根部の一部を覆うまで延びているのが好ましい。光ビーム100,120,130の入射角の広い範囲において、上記効果が得られる。
平板ミラー74を固定することによって、ON状態では平板ミラーが固定されていない場合(即ち、平面形状の片持ち梁の上面で反射された場合)と同様に結像するが、OFF状態では姿勢変化の小さい付け根部での光ビームの反射を禁止し、ノイズを低減することができる。また平板ミラー74によって、隣接する光学素子の平板ミラー74との間隔を小さくすることができるので、有効反射面積を大きくすることができる。
【0040】
(第4実施例)
反射面の指向方向の変化角度が小さい付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減するために、光源と光学素子の位置関係を調整することも有用である。図20に、OFF状態の光学素子に光ビーム100を入射させた場合の光路を示す。光ビームは湾曲形状をとっている付け根部で反射され、先端部で再度反射される。光ビーム100は、最終的に変化角度の大きい先端部で反射され進行方向が大きく切換えられるため、結像レンズ102に入射しない。これにより、付け根部で反射されてノイズとなる光量を低減することができる。
【0041】
(第5実施例)
光学装置では、ノイズが小さく、単位面積当たりの有効反射面積が大きいことが好ましい。このために片持ち梁の形状と配列方法を調整することも有用である。第5実施例では、片持ち梁の形状を工夫し、片持ち梁の先端部を隣接する片持ち梁の2片に分割された付け根部の間隔に挿入するように配列することによって、ノイズを低減し、有効反射面積を大きくすることができる光学素子を提供する。
【0042】
図21から図24に、光学素子を上から見た図を示す。隣接している光学素子は全て同じ構造である。図21は光学素子140,160,180が隣接している状態を示している。光学素子160では、2片に分割された付け根部の間隔M160は、片持ち梁の先端部を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M160>W3)。これによって、間隔M160に、隣接する光学素子140の先端部を挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。
【0043】
図22は、光学素子240,260,280が隣接している状態を示している。光学素子260では、片持ち梁の先端部の幅が2段階になっており、先端部の位置262,268より先端側の先端部の幅W3−260は、付け根部の間隔Mに挿入できるだけの幅に狭められている(即ち、M>W3−260)。これによって、光学素子260の、幅W3−260を備える先端部を、隣接する光学素子280の付け根部分の間隔Mに挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。
【0044】
図23は、光学素子340,360,380が隣接している状態を示している。光学素子360では、2片に分割された付け根部の間隔を2段階で広げており、付け根部の位置364,366より付け根側の間隔M360−1は、間隔M360−2より広くなっている。間隔M360−2は、片持ち梁の先端部(幅W3)を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M360−2>W3)。間隔M360−1は、幅(W1+W2+M360−2)の付け根部を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M360−1>(W1+W2+M360−2))。これによって、光学素子340の付け根部の一部と先端部を、光学素子360の間隔に挿入するように配列させることができる。即ち、ノイズの原因となる付け根部の反射面を幅狭としてノイズを低減しながら、付け根部の間隔を有効反射面積として利用することができる。また付け根部の間隔に、隣接する光学素子の付け根部をも挿入することによって、間隔M360−1と直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0045】
図24では、光学素子440,460,480が隣接している状態を示している。光学素子460は、片持ち梁の先端部の幅が2段階になっており、先端部の位置462,468より先端側の先端部の幅W3−460は、付け根部の間隔Mに挿入できるだけの幅に狭められている(即ち、M>W3−460)。さらに、付け根部の間隔Mの幅を、付け根部の途中(位置464,466)から付け根部の付け根側に向けて広げている。付け根部の間隔M460は、幅Wの先端部と付け根部(W=W1+W2+M)を挿入できるだけの幅に広げられている(即ち、M460>(W1+W2+M))。これによって、光学素子440の付け根部の一部と先端部を、光学素子460の間隔に挿入するように配列させることができる。また付け根部の間隔に、隣接する光学素子の付け根部をも挿入することによって、間隔Mと直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0046】
第5実施例では、いずれも付け根部の幅を狭くして面積を小さくすることで、付け根部での光ビームの反射光量を低減させ、ノイズを低減させることができる。また、2片に分割された付け根部の間隔に他の片持ち梁の先端部を挿入し、指向方向が大きく変化する他の片持ち梁の反射面とすることで、有効反射面積として利用することができる。さらに、付け根部の間隔に、隣接する光学素子の先端部に加え付け根部の一部をも挿入することによって、間隔Mと直交する方向の付け根部の長さを長くすることができる。これによって、幅狭で柔軟な付け根部分での屈曲点の数を増やすことができ、小さな駆動力で先端部を大きく変形させることができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば密着用基準面は必ずしも平面である必要がなく、光学装置からの光を利用する光学系の特性に合わせた曲面であってもよい。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施例の光学素子の断面図を示す。
【図2】第1実施例の光学素子の平面図を示す。
【図3】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図4】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図5】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図6】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図7】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図8】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図9】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図10】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図11】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図12】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図13】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図14】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図15】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図16】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図17】第2実施例の光学素子の断面図を示す。
【図18】第3実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図19】第3実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図20】第4実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図21】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図22】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図23】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【図24】第5実施例の光学素子の平面図を示す。
【符号の説明】
【0049】
2:光学装置
4,6:光学素子
10:基板
18:密着用膜
20:密着用基準平面
28:密着面
30:片持ち梁
26:アルミニウム膜
100,120,130:光ビーム
102:結像レンズ
104:スクリーン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、
密着用基準面を備えている基板と、
板状であり、その板状の一端が前記基板に固定されており、前記基板と反対側の面が光ビームを反射する反射面であり、外力が作用しない状態では前記基板に固定されている一端から遠ざかるにつれて前記密着用基準面から大きく離反する向きに2箇所以上で屈曲している屈曲形状をとるとともに、外力が作用すると前記密着用基準面に密着する柔軟性を備えている片持ち梁と、
前記基板と前記片持ち梁の間に設けられており、前記片持ち梁を前記密着用基準面に密着させる吸引力を前記基板と前記片持ち梁の間に発生させるアクチュエータと、
を備えている光学素子。
【請求項2】
前記片持ち梁が伸びている方向に直交する方向に測定した前記片持ち梁の幅が、前記片持ち梁が前記基板に固定されている一端近傍において、残部よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記片持ち梁の前記反射面のうち、前記片持ち梁が前記基板に固定されている一端近傍を除外した範囲に、高反射率膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記密着用基準面と、前記密着用基準面に密着する前記片持ち梁の面の少なくとも一方の面に、突起群が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
光源に対して、前記屈曲形状をとっている前記片持ち梁の前記基板に固定されている一端近傍で反射された光ビームが、前記片持ち梁の先端側で再度反射される位置関係に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記片持ち梁の先端側に平面ミラーが固定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光学素子の複数個が配列されており、
個々の光学素子の前記アクチュエータが隣接する光学素子の前記アクチュエータから独立に制御可能なことを特徴とする光学装置。
【請求項8】
前記片持ち梁の伸びている方向に沿って複数個の光学素子が配列されており、
前記片持ち梁の前記基板に固定される一端近傍が間隔をおいて並行に延びる2片に分割されており、
その2片の間隔に隣接する光学素子の片持ち梁が侵入していることを特徴とする請求項7に記載の光学装置。
【請求項1】
光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、
密着用基準面を備えている基板と、
板状であり、その板状の一端が前記基板に固定されており、前記基板と反対側の面が光ビームを反射する反射面であり、外力が作用しない状態では前記基板に固定されている一端から遠ざかるにつれて前記密着用基準面から大きく離反する向きに2箇所以上で屈曲している屈曲形状をとるとともに、外力が作用すると前記密着用基準面に密着する柔軟性を備えている片持ち梁と、
前記基板と前記片持ち梁の間に設けられており、前記片持ち梁を前記密着用基準面に密着させる吸引力を前記基板と前記片持ち梁の間に発生させるアクチュエータと、
を備えている光学素子。
【請求項2】
前記片持ち梁が伸びている方向に直交する方向に測定した前記片持ち梁の幅が、前記片持ち梁が前記基板に固定されている一端近傍において、残部よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記片持ち梁の前記反射面のうち、前記片持ち梁が前記基板に固定されている一端近傍を除外した範囲に、高反射率膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記密着用基準面と、前記密着用基準面に密着する前記片持ち梁の面の少なくとも一方の面に、突起群が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
光源に対して、前記屈曲形状をとっている前記片持ち梁の前記基板に固定されている一端近傍で反射された光ビームが、前記片持ち梁の先端側で再度反射される位置関係に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記片持ち梁の先端側に平面ミラーが固定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光学素子の複数個が配列されており、
個々の光学素子の前記アクチュエータが隣接する光学素子の前記アクチュエータから独立に制御可能なことを特徴とする光学装置。
【請求項8】
前記片持ち梁の伸びている方向に沿って複数個の光学素子が配列されており、
前記片持ち梁の前記基板に固定される一端近傍が間隔をおいて並行に延びる2片に分割されており、
その2片の間隔に隣接する光学素子の片持ち梁が侵入していることを特徴とする請求項7に記載の光学装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−258511(P2009−258511A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109400(P2008−109400)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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