説明

光重合性樹脂積層体及びそれを用いたパターンの製造方法

【課題】表面が撥インク性に優れた隔壁付き基板を簡便な手法で形成することを目的とする。
【解決手段】 支持フィルム上に、含フッ素化合物層、光重合性樹脂層、がこの順で積層された光重合性樹脂積層体であって、
該含フッ素化合物層は、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物からなり、該含フッ素化合物層の積層量は支持フィルム1mあたり1〜40mmであり、該光重合性樹脂層は、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物からなることを特徴とする光重合性樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子や電子ペーパー等のバンクまたは隔壁内に材料をインクジェット方式で付与するために有用な、表面が撥インク性を有する隔壁パターン等を形成する材料及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代わる自発光型ディスプレイとして、発光層に有機物を用いた有機EL素子の開発がさかんに行われている。
有機EL素子における発光層の形成方法としては、低分子材料を蒸着法で製膜する方法と、高分子材料を塗布する方法が開発されている。フルカラー化の手段としては、低分子材料を用いる場合には、所定のパターンのマスクで発光層を付着させる部分のみ開口し、その部分に蒸着し発光層を形成する方法が採られ、これをRGBの色ごとに繰り返すことになり極めて生産性が悪く、そのためコストアップになる。それに対し、高分子材料を用いる場合には発光層の形成をインクジェット方式により印刷する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方式によって、工程を大幅に短縮でき、かつ発光層を形成する有機材料を無駄にしないため製造コストを大幅に低減できる。
しかしながら、この工法においては、画素を隔てる隔壁が無いため、発光層の混色が避けられないという問題点があった。一方、画素を隔てる隔壁を設けて、その画素内にインクジェット法で発光層を充填する工法が提案されている(特許文献2)。
【0003】
この方法の一例を図1に示す。図1(a)はガラスなどの基板1上に画素電極2を形成し、図1(b)はそこに隔壁3を形成した工程を示す。画素電極はフォトリソグラフィー法による方法が好ましい。図1(c)は、インクジェットヘッドより正孔注入層4を付与する工程を示している。図1(d)は、正孔注入層上にインクジェット法により、赤、緑、青に対応した発光層5、6、7を付与する工程を示している。図1(e)は、発光層上に陰極8を形成する工程を示している。各マトリックスに正孔注入層や発光層を付与する場合には、それらを溶剤に溶解したインク状態で注入し、必要に応じて乾燥処理を行い、光照射または熱処理、またはこれらの併用によりインクを硬化させる。この方法においては、隔壁の上面(基板との接触面の対向面)はインクの混色を防ぐために、インクをはじく、いわゆる撥インク性が求められている。一方、側面においてはインクとの濡れ性は良好な方が好ましい。側面においてインクが弾くと、インクと隔壁の界面に隙間が発生し、色抜けの原因になるためである。
【0004】
これらの相反する目的のために、特許文献2においては、酸素プラズマとフロロカーボンガスプラズマの連続処理を行う方法が提案されている。特許文献3においては、フッ素原子を含むガスを導入してプラズマ処理を行う方法が提案されている。しかしながら、これらの手法では、側面の濡れ性が十分ではなかった。
【0005】
特許文献4においては、光重合性樹脂組成物からなる転写層とベースフィルムとの界面にシリコーン成分を含有する転写フィルムを作製し、ガラス基板にラミネートする手法が記載されている。しかし、転写層とベースフィルムとの界面にシリコーン成分を含有する転写フィルムの製造工程においては、シリコーン成分を塗布したフィルム上に光重合性樹脂組成物層を製膜する工程が必要である。光重合性樹脂組成物層を製膜するには、光重合性樹脂組成物を溶剤に溶解させた光重合性樹脂組成物の溶液をシリコーン成分上に塗布しなければならない。このため、シリコーン成分と光重合性樹脂組成物の溶液との相性が悪い場合には、シリコーン成分を塗布したフィルム上に光重合性樹脂組成物層を欠陥無く製膜することが困難であった。また、シリコーン成分によりブラックマトリックス層の上面に撥インク性を付与させた場合には、インクの成分によっては撥インク性が十分ではなかった。
一方、フィルム表面に含フッ素化合物を積層したフィルムとして、特許文献5にはドライフォトレジスト用フィルムが記載されている。しかし、含フッ素化合物をフィルム上に熱によって固着しているため、このフィルムのフッ素化合物を別の材料に転写して撥インク性を付与することは困難であった。また含フッ素化合物の膜厚とフィルム上への薄膜レジストの製膜性との関連性についての具体的な記載はない。
【0006】
含フッ素化合物を積層したフィルムの使用例としては、離型フィルム、表面保護フィルム、電子部品用離型シート、反射防止用フィルム、ドライフィルム用保護フィルムなど、フィルムそのものの使用が多く知られている。フッ素化合物を含む層を転写して有機EL用隔壁に使用する例としては、例えば特許文献6〜8に撥インク性を有する第1層と親インク性を有する第2層とからなる転写層を転写してインクジェット用隔壁を作製する例が記載されている。これら文献には、フッ素系化合物は感光性樹脂組成物に添加して撥インク性を有する第1層として使用されており、また好ましい膜厚が0.1μm〜1μmであることが開示されている。この撥インク性を有する層を現像で取り除くためには、現像性を考慮した配合にしなければならない。このため、第1層表面の撥インク性は十分ではなかった。また、撥インク性を有する第1層の上に親インク性を有する第2層を形成する手法として、いわゆる公知のコーティング法が記載されている。しかし、撥インク性を有する層はその親インク性を有する材料をはじきやすい性質を持つ。このため、撥インク性を有する層上に親インク性を有する層を直接コーティングすることは事実上困難であった。
【0007】
また、近年新しい表示体としていわゆる電子ペーパーの開発がさかんに行われている。これらの例として、電気泳動表示体が知られている。構造例を図2に示す。この表示体は帯電した粒子12と、着色した色素が溶解された着色絶縁性液体13からなる分散液と、分散液を挟んで対向する透明電極11、基板9からなっている。この製造方法として隔壁10にシリコン樹脂を用い、帯電粒子12と着色絶縁液体13の混合物(電気泳動液体)をインクジェットで注入する工法が提案されている(特許文献9)。この方法では隔壁10にシリコン樹脂を用いることで、撥インク性を発現している。これら電子ペーパー用素子等をインクジェットで形成する場合にも、表面撥インク性が必要である。
【0008】
【特許文献1】日本国特開平10−012377号公報
【特許文献2】日本国特開2003−142260号公報
【特許文献3】日本国特開2002−055218号公報
【特許文献4】日本国特開2002−131525号公報
【特許文献5】日本国特開2004−053897号公報
【特許文献6】日本国特開2002−139612号公報
【特許文献7】日本国特開2002−139613号公報
【特許文献8】日本国特開2002−139614号公報
【特許文献9】日本国特開2001−235771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、パターン形成性に優れ、有機ELや電子ペーパー用等に適した隔壁上面にのみ撥インク性に優れた隔壁パターン等を簡便な方法で形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、支持フィルム上に、特定の含フッ素化合物層、光重合性樹脂層、がこの順で積層された光重合性樹脂積層体、およびこれを用いた隔壁パターン付き基板の製造方法を見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.支持フィルム上に、含フッ素化合物層、光重合性樹脂層、がこの順で積層された光重合性樹脂積層体であって、
該含フッ素化合物層は、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物からなり、該含フッ素化合物層の積層量は支持フィルム1mあたり1〜40mmであり、該光重合性樹脂層は、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物からなることを特徴とする光重合性樹脂積層体。
2.上記含フッ素化合物層表面のキシレンに対する接触角が20度以上であることを特徴とする上記1に記載の光重合性樹脂積層体。
【0012】
3.上記含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする上記1又は2に記載の光重合性樹脂積層体。
4.支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成したものからなり、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程と、
該含フッ素化合物層上に、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を積層する第二の積層工程、
を含むことを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体の製造方法。
【0013】
5.第一の支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成し、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、
アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を第二の支持フィルム上に積層する第二の積層工程、
該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせる第三の積層工程、を含むことを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体の製造方法。
6.上記1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体を光重合性樹脂層が基板に接するように積層する積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光部の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【0014】
7.支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成し、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、
アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物からなる光重合性樹脂層を基板上に積層する第二の積層工程、
該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせることによって、該光重合性樹脂積層体を基板上に積層したものを得る第三の積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
8.含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記7に記載の、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【0015】
9.基板にアルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を積層する第一の積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光の光重合性樹脂層を現像除去して表面撥インク性を有する隔壁とする現像工程、
隔壁付き基板の隔壁面に、支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を厚さ1〜60nmで塗布したものからなり、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を設けた積層体の該含フッ素化合物層側を積層する第二の積層工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
10.含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記9に記載の、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
11.上記6〜10のいずれか一項に記載の製造方法により表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を製造する工程、及び該表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の少なくとも隔壁パターンで覆われていない部分の一部に正孔注入層および発光層をインクジェット法により形成する有機EL素子の製造方法。
12.上記6〜10のいずれか一項に記載の製造方法により表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を製造する工程、及び該表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の少なくとも隔壁パターンで覆われていない部分の一部に電気泳動液体またはマイクロカプセルをインクジェット法により付与する表示素子の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、インクジェット法による有機EL素子や電子ペーパー用素子の製造において必要な、パターン形成性に優れ、隔壁パターンの上面が撥インク性を示す隔壁パターン付き基板を簡便な手法で形成できる。本発明で製造した隔壁パターン付き基板を用いることによって、発光層等の混色を防ぎ、歩留まり高く有機EL素子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1)光重合性樹脂積層体
光重合性樹脂積層体は、支持フィルム上に、含フッ素化合物層、光重合性樹脂層、をこの順で含んでなる光重合性樹脂積層体であって、
該含フッ素化合物層が、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物からなり、該含フッ素化合物層のキシレンに対する接触角が20度以上であって、含フッ素化合物の積層量が支持フィルム1mあたり1〜40mmであって、
該光重合性樹脂層は、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び架橋剤を含有する光重合性樹脂層である。光重性樹脂層は透明であっても、必要により着色していても良い。着色する場合には顔料の添加が好ましい。
【0018】
(a)含フッ素化合物層
含フッ素化合物層の積層量は、支持フィルム1mあたり1〜40mmである。隔壁パターン表面の撥インク性の観点より該積層量は1mm以上である。含フッ素化合物積層フィルムを基板上の光重合性樹脂層の上に形成してから現像して含フッ素化合物層付着隔壁パターンを作製する場合に、撥インク性ならびに光重合性樹脂の現像性の観点から該積層量は、40mm以下である必要がある。また、露光現像して得られた含フッ素化合物層付着隔壁パターンをポストベークした時の、ガラス基板に与える影響から40mm以下がより好ましく、12mm以下がさらにより好ましい。上記のガラス基板に与える影響とは、ポストベーク時に隔壁表面の含フッ素化合物成分が、熱によってガラス基板上にわずかに撥インク性をもたらすことを示し、ガラス基板上のインクに対する接触角を測定することで調べることが出来る。接触角は、マイクロシリンジからサンプル上に液滴を1マイクロリットル滴下し、2秒後に接触角測定装置(協和界面科学(株)製CA−VE型)を用いて測定した値をいう。また、含フッ素化合物積層フィルムの上に光重合性樹脂層を直接塗工する場合の製膜性の観点から該積層量は、4mm以下であることがより好ましい。
【0019】
含フッ素化合物層の厚さは1〜40nmである。含フッ素化合物層の厚みは、含フッ素化合物層が30nm程度に厚い場合には、例えば平坦なガラス基板上に含フッ素化合物層を積層したときの高さをテンコールインスツルメンツ社製接触式段差計アルファステップなどで測定することが出来る。含フッ素化合物層の厚みが非常に薄い場合には、上記接触式段差計の精度や基板の平坦性の理由から、簡易に計測することは困難である。含フッ素化合物層の厚みが非常に薄い場合には、別途含フッ素化合物層の厚みが厚いときにおける、含フッ素化合物を有する組成物の溶液の固形重量分率と含フッ素化合物層の厚みとの関係を求めておき、目的とする含フッ素化合物を有する組成物の溶液の固形重量分率から求めることが出来る。また含フッ素化合物層は、後述するキシレンに対する接触角が20度以上であれば均一な層である必要性はなく、微細な穴があいていたり、メッシュ状であったり、含フッ素化合物を有する組成物が島状に点在していたりしてもよい。含フッ素化合物層は、キシレンに対する接触角が20度以上である必要がある。キシレンに対する接触角が20度以上であれば、隔壁表面の撥インク性が高くなるために好ましい。より好ましくは35度以上、更に好ましくは50度以上である。また、含フッ素化合物層と光重合性樹脂層との相性の観点から、キシレンに対する接触角は90度以下が好ましく、より好ましくは、80度以下である。キシレンに対する接触角が高ければ高い方が、含フッ素化合物を含有する有機物層を隔壁表面に付着させたときの隔壁表面の撥インク性が高くなってより好ましい。含フッ素化合物を含有する有機物層のキシレンに対する接触角は、前記の接触角測定装置(協和界面科学(株)製CA−VE型)を用いて測定できる。キシレンは20℃での表面張力が28.3〜30mN/mであり、インクジェットのインク液滴に用いる一般的な溶媒の表面張力50mN/m以下(日本国特開2005−352105号公報参照)であることから、本発明ではキシレンをインクジェット用の溶媒に想定している。インクジェットのインク液滴に用いる溶媒が水であれば、水に対する接触角は90〜130度が好ましく、100〜120度がより好ましい。
【0020】
含フッ素化合物層は、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物からなる。含フッ素化合物層における含フッ素化合物の割合は30質量%以上である場合には、含フッ素化合物層のキシレンに対する接触角が高くなって好ましく、含フッ素化合物層をパターン表面に付着させたときのパターンの表面の撥インク性が高くなってより好ましい。より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%である。上記のように含フッ素化合物層のキシレンに対する接触角が20度以上であるような含フッ素化合物の含有量であることが好ましい。
含フッ素化合物層を形成する組成物には、含フッ素化合物以外にコーティング性を良くするために可塑剤や添加剤などを添加することが出来る。含フッ素化合物層を形成する組成物には電子線または紫外線によって硬化する硬化性成分や、熱によって硬化する硬化性成分を添加することが出来る。ここでいう硬化とは、電子線、紫外線または熱による反応によって含フッ素化合物層を形成する組成物中の分子の分子量が反応前と比較して増大することや、電子線、紫外線または熱による反応によって含フッ素化合物が光重合性樹脂層の反応基と結合することを示す。
特に紫外線や熱により光重合性組成物と架橋するものが好ましい。
【0021】
上記含フッ素化合物としては、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線硬化性成分を含有するフッ素系表面処理剤、熱硬化性成分を含有するフッ素系表面処理剤などが好ましい。パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマーの他の共重合成分としては、アルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレートが好ましい。
【0022】
以下に具体的な例を示す。アモルファスフッ素樹脂としては、旭硝子社製ルミフロン(登録商標)、同サイトップ(登録商標)などが挙げられる。パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとを主成分とする共重合オリゴマーとしては、日本油脂社製モディパー(登録商標)Fシリーズ、ダイキン工業社製ユニダイン(登録商標)、大日本インキ化学工業社製メガファック(登録商標)F470シリーズ、同F480シリーズ、同F110シリーズなどが挙げられ、共重合はブロック共重合がより好ましい。フッ素系コーティング剤としては、住友3M社製EGC1700が挙げられる。フッ素系界面活性剤としては、大日本インキ化学工業製メガファック(登録商標)F114、同F410シリーズ、同440シリーズ、同450、同490シリーズなどが挙げられる。電子線または紫外線硬化性成分を含有するフッ素系表面処理剤としては、オムノヴァ・ソリューション社製ポリフォックスPF−3320、ユニマテック社製ケミノックス(登録商標)FAMAC−8などが挙げられる。熱硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤としては、住友3M社製EGC1720、大日本インキ化学工業社製NH−10、NH−15などが挙げられる。含フッ素化合物層における含フッ素化合物は、複数種の含フッ素化合物の混合であってもよい。
含フッ素化合物層の光透過性の観点から、アモルファスフッ素樹脂が、その非晶質による高い紫外線透過性を有する(参考文献:旭硝子研究報告55,2005)ために好ましい。光重合性樹脂表面に撥インク層を積層した場合には、露光によって光重合性樹脂と撥インク剤が結合しやすいという観点から、エチレン性不飽和結合を含有する含フッ素化合物が好ましい。
【0023】
(b)支持フィルム
支持フィルムは、支持フィルムを剥離して露光工程を行う場合には、支持フィルムの厚み、透明性は問わないが、より平坦であることが好ましい。支持フィルムを通して活性光線を照射する露光工程を行う場合は、支持フィルムは厚み5〜100μmの透明なフィルムであることが好ましい。
透明な支持フィルムとしては、実質的に活性光線を透過する透明な有機ポリマーフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデン共重合体フィルム、メタクリル酸メチル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、スチレン共重合体フィルム、ポリアミドフィルム、セルロース誘導体フィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。これらのフィルムとしては、必要に応じ延伸されたものも使用可能である。
有機ポリマーフィルムのヘーズは5.0以下であるものが好ましく、1.0以下であるものが特に好ましい。ここでいうヘーズ(Haze)とは濁度を表す値であり、ランプにより照射され試料中を透過した全透過率Tと、試料中で拡散され散乱した光の透過率Dにより、ヘーズ値H=D/T×100として求められる。これらはJIS−K−7105により規定されており、市販の濁度計によって容易に測定可能である。
【0024】
(c)含フッ素化合物層の支持フィルム上への形成方法
含フッ素化合物層の支持フィルム上への形成方法としては、含フッ素化合物を有する組成物を支持フィルム上にディップコーティング、メイヤーコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、エアーナイフコーティング、バーコーティング、コンマコーティング、ダイコーティング、などの公知の塗布方法を利用して塗布した後、加熱処理や紫外線照射などの含フッ素化合物層に適合する公知の方法で乾燥、あるいは硬化する方法が挙げられる。また含フッ素化合物層は前述したキシレンに対する接触角が20度以上であれば均一な層である必要は無く、微細な穴があいていたり、含フッ素化合物層がメッシュ状であったり、含フッ素化合物を有する組成物が島状に点在していたりしてもよい。以下においては、支持フィルム上に含フッ素化合物層を形成したものを、含フッ素化合物積層フィルムと呼ぶ。
【0025】
支持フィルムと含フッ素化合物層との間に、酸素遮断効果の高い層やクッション層などの機能層を持たせても良い。酸素遮断効果の高い層としては、酸素透過性の低い公知のものが使用でき、例えば日本国特開平10−039133号公報の[0033]に中間層として記載されているものが挙げられるが、ポリビニルアルコールやその誘導体、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体、またはこれらの混合物が好ましく、厚みは0.1〜5μmが好ましい。また、クッション層としては、例えば日本国特開平10−039133号公報の[0032]にアルカリ可溶性の熱可塑性樹脂として記載されているものが挙げられ、特に軟化点が80℃以下のアルカリ可溶性の熱可塑性樹脂が好ましく、厚みは5μm〜30μmが好ましい。
【0026】
(d)光重合性樹脂層
光重合性樹脂層は、支持フィルム上に形成した含フッ素化合物層の上に液状の光重合性樹脂組成物を塗布して乾燥することで作製できる。液状の光重合性樹脂組成物は、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物であれば良い。液状光重合性樹脂組成物は、光重合性樹脂層とした場合に撥インク性が生じないものが好ましい。
液状光重合性樹脂組成物として、アルカリ可溶性高分子とエチレン性二重結合を有する光重合性単量体と黒色顔料と光重合開始剤と溶剤と種々の添加剤を混合して作製した場合の液状光重合性樹脂組成物について以下に説明する。
【0027】
アルカリ可溶性高分子としては、側鎖にカルボキシル基を有する単量体と(メタ)アクリル系単量体とを共重合していることが好ましい。ここで、(メタ)アクリルとは、アクリル、又はメタクリルを示す。
側鎖にカルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステル等が挙げられる。アルカリ可溶性高分子において、側鎖にカルボキシル基を有する単量体を共重合する割合は、現像性の観点から5質量%以上が好ましく、黒色顔料の分散性、現像後に黒色顔料が基板へ付着するのを抑制する観点から、30質量%以下が好ましい。該単量体は5質量%〜20質量%共重合することがより好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルモノ(メタ)アクリレート等、側鎖にヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなど脂環式側鎖を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを示す。
【0029】
アルカリ可溶性高分子は、その重量平均分子量が3,000〜50,000であることが好ましい。現像性の観点から分子量は50000以下が好ましく、密着性の観点から3000以上が好ましい。その重量平均分子量が10,000〜40,000であることがより好ましい。該分子量の測定は、日本分光(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(ポンプ:Gulliver、PU−1580型、カラム:昭和電工社製Shodex(登録商標)(KF−807、KF−806M、KF−806M、KF−802.5)4本直列、移動層溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン標準サンプル(昭和電工社製標準試料ShodexSTANDARD、SM−105ポリスチレン)による検量線使用)により重量平均分子量(ポリスチレン換算)として求められる。
アルカリ可溶性高分子は、カルボキシル基の量が酸当量で200〜2,000であることが好ましい。酸当量とは、1当量のカルボキシル基を有する線状重合体の質量を示す。現像性の観点から酸当量は2,000以下が好ましく、現像後に黒色顔料が基板へ付着するのを抑制する観点から、酸当量は200以上が好ましい。該酸当量は、400〜900がより好ましく、500〜800がさらに好ましい。なお、酸当量の測定は、平沼産業(株)製平沼自動滴定装置(COM−555)を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを用いて電位差滴定法により測定される。
【0030】
アルカリ可溶性高分子は、上記種々単量体の混合物を、アセトン、メチルエチルケトン、イソプロパノール等の溶剤で希釈した溶液に、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤を適量添加し、加熱攪拌することにより合成を行うことが好ましい。混合物の一部を反応液に滴下しながら合成を行う場合もある。反応終了後、さらに溶媒を加えて、所望の濃度に調整する場合もある。合成手段としては、溶液重合以外に、塊状重合、懸濁重合及び乳化重合を用いてもよい。
またアルカリ可溶性高分子として、特許第3754065号の明細書に記載されているような、エポキシ樹脂にα,β−不飽和モノカルボン酸又はエステル部分にカルボキシル基を有するα,β−不飽和モノカルボン酸エステルを付加させ、さらに、多塩基酸無水物を反応させることにより合成されるエポキシアクリレート樹脂や、特許第3268771号の請求項1に記載されているようなビスフェノール型フルオレンエポキシアクリレートとテトラカルボン酸二無水物との反応物に無水フタル酸を反応させた光重合性不飽和化合物を用いることが出来る。
【0031】
エチレン性不飽和二重結合を有する光重合性化合物としては、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、フタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、イソフタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テレフタル酸変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均2モルのプロピレンオキサイドと平均6モルのエチレンオキサイドを付加したポリアルキレングリコールのジメタクリレートや、ビスフェノールAの両端にそれぞれ平均5モルのエチレンオキサイドを付加したポリエチレングリコールのジメタクリレート(新中村化学工業(株)製NKエステルBPE−500)、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、またポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート及び、β−ヒドロキシプロピル−β’−(アクリロイルキシ)プロピルフタレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
光重合開始剤としては、たとえば、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ビス−(m−メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(p−メトシキフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体類が挙げられる。また、p−アミノベンゾフェノン、p−ブチルアミノフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−ビス(エチルアミノ)ベンゾフェノン、p,p’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン[ミヒラーズケトン]、p,p’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、p,p’−ビス(ジブチルアミノ)ベンゾフェノン等のp−アミノフェニルケトン類が挙げられる。また、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン等のキノン類、ベンゾフェノン等の芳香族ケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインエーテル類、9−フェニルアクリジン等のアクリジン化合物、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ピペロニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−スチリル−s−トリアジン、2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−トリクロロメチル−(ピペロニル)−6−トリアジン、2,4−トリクロロメチル(4’−メトキシスチリル)−6−トリアジン等のトリアジン系化合物、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−2−モルフォリノ−1−(4−(メチルチオフェニル)−プロパン−1−オン等公知の種々の化合物が挙げられる。
【0033】
オキシムエステル化合物を用いることもできる。例えば、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−O−ベンゾイルオキシム、及び1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(O−エトキシカルボニル)オキシム等のオキシムエステル類や、日本国特表2004−534797号公報に記載の化合物を挙げることが出来る。中でも、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9.H.−カルバゾール−3−イル]−エタン−1−オンオキシム−O−アセテート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製 IRGACURE OXE−02)などである。
光重合性樹脂組成物には、オキシムエステル化合物以外の光重合開始剤、増感剤、連鎖移動剤含有させても良い
【0034】
増感剤、連鎖移動剤としては、たとえば、N−アリールグリシン、メルカプトトリアゾール誘導体、メルカプトテトラゾール誘導体、メルカプトチアジアゾール誘導体、ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1,4−ブタンジオールビスチオプロピオネート、1,4−ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4−ジメチルメルカプトベンゼン、2、4、6−トリメルカプト−s−トリアジン、2−(N,N−ジブチルアミノ)−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン等の多官能チオールなど、公知の種々の化合物が挙げられる。
【0035】
本発明は1時間半減期温度が120℃以上230℃以下の熱ラジカル発生剤を必須成分とする。保存安定性の観点から1時間半減期温度120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましい。またポストベーク時間の観点から230℃以下が好ましく、220℃以下がさらに好ましい。このような熱ラジカル発生剤の具体例としては、パーブチルA、パーヘキサ22、パーブチルZ、パーヘキサV、パーブチルIF、パーブチルP、パークミルD、パーヘキサ25B、パーブチルC、パーブチルD、パーメンタH、パーヘキシン25B、パークミルP、パーブチルSM、パーオクタH、パークミルH、パーヘキシルH、パーブチルH(以上日本油脂(株)製)が挙げられる。
【0036】
光重合性樹脂組成物中のアルカリ可溶性高分子、エチレン性二重結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤の各々の好ましい含有量は以下の通りである。アルカリ可溶性高分子の含有量は、20質量%〜70質量%が好ましく、30質量%〜60質量%がより好ましい。エチレン性二重結合を有する光重合性化合物の含有量は、10質量%〜60質量%が好ましく、20質量%〜50質量%がより好ましい。光重合性開始剤の含有量は、0.1質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましい。熱ラジカル発生剤は、0.01質量%〜5質量%が好ましく、0.1質量%〜2質量%がより好ましい。
また、本発明の感光性樹脂組成物に、さらに必要に応じて可塑剤、増粘剤、充填剤、カップリング剤、顔料等の公知の添加剤を含有させることもできる。
【0037】
(e)光重合性樹脂層の含フッ素化合物層上への形成方法
光重合性樹脂組成物を液状の光重合性樹脂組成物として、支持フィルム上に形成した含フッ素化合物層の上に塗工する際には適宜溶剤を加えて塗工に最適な状態に整えることが出来る。
溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテート、3−メトキシペンチルアセテート、4−メトキシペンチルアセテート、2−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、4−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルシソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、炭酸メチル、炭酸エチル、炭酸プロピル、炭酸ブチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
【0038】
毒性、含フッ素化合物積層フィルム又は支持フィルムに塗工した際の乾燥性の観点からメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンが好ましく、液状の光重合性樹脂組成物を、含フッ素化合物層上に塗布する方法としては、メイヤーコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、エアーナイフコーティング、バーコーティング、コンマコーティング、ダイコーティング、などの公知の塗布方法が挙げられ、乾燥する方法としては、ホットプレートやオーブンなどの手段が挙げられる。これらの手法は、特に限定されるものではない。
【0039】
(f)保護層
光重合性樹脂積層体は、支持フィルムとは反対側の光重合性樹脂層表面に、必要に応じて保護層を積層することも出来る。支持フィルムと光重合性樹脂層との密着力よりも、保護層と光重合性樹脂層との密着力が充分小さく、容易に剥離できることが好ましい。
このような保護層としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム(例えば、王子製紙(株)製E−200Cなど)、離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。保護層の厚みとしては、5〜38μmが好ましく、取り扱い性の観点から10〜25μmがより好ましい。
【0040】
(g)光重合性樹脂積層体の製造方法
光重合性樹脂積層体は、以下のいずれかの方法で製造することが好ましい。
<直接塗工法> 支持フィルム上に含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を該含フッ素化合物層上に積層する第二の積層工程からなる製造方法。
<貼り合わせ法> 第一の支持フィルム上に含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を第二の支持フィルム上に積層する第二の積層工程、該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせる第三の積層工程からなる製造方法。
【0041】
光重合性樹脂積層体は、次のような手法で作製することが出来る。光重合性樹脂の組成物として、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和二重結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、熱ラジカル発生剤と、溶媒とを混合して、液状の光重合性樹脂組成物を作製する。含フッ素化合物積層フィルム上に上記の液状の光重合性樹脂組成物を塗布して乾燥し、光重合性樹脂層を形成する。その後で保護層となるポリエチレンフィルムを貼り合わせて積層する。光重合性樹脂層の厚みは0.3μm以上であることが好ましく、インクジェットで有機ELや電子ペーパーの画素を作成する場合にインクの隣の画素への漏れを防ぐという観点から、1.0μm以上であることが特に好ましく、現像によるパターンの形成時の解像性の観点から100μm以下、特に50μm以下が好ましい。厚さはインクジェットで付与する成分や、構造等により任意に設定が可能である。
【0042】
(2)隔壁パターン付き基板の製造方法
有機ELや電子ペーパー用隔壁付き基板において、基板は透明であることが好ましい。透明基板としては、ディスプレイ等に用いる基板であれば何でもよく、具体的には、無アルカリガラス基板、透明なプラスチック基板、透明なプラスチックフィルムなどが挙げられる。基板の厚みとしては、液晶ディスプレイの強度の観点から100〜1000μmが好ましい。
隔壁付基板は、以下のいずれかの方法で製造することが好ましい。
【0043】
<光重合性樹脂積層体法>前述の光重合性樹脂積層体を光重合性樹脂層が基板に接するように積層する積層工程、場合によっては支持フィルムを剥離する剥離工程、基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、支持フィルムがついている場合はこれを剥離する剥離工程、未露光部の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程からなる表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の製造方法。
【0044】
<後貼り法>支持フィルム上に含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、光重合性樹脂層を基板上に積層する第二の積層工程、該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせることによって、光重合性樹脂積層体を基板上に積層したものを得る第三の積層工程、場合によっては支持フィルムを剥離する剥離工程、基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、支持フィルムがついている場合はこれを剥離する剥離工程、未露光の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程からなる、表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の製造方法。
【0045】
<パターンに貼り付ける方法>基板に光重合性樹脂層を積層する第一の積層工程、基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、未露光の光重合性樹脂層を現像除去して隔壁パターン付き基板とする現像工程、隔壁パターン付き基板の隔壁パターン面に、支持フィルム上に、含フッ素化合物層を設けた積層体の該含フッ素化合物層側を積層する第二の積層工程、必要により支持フィルム上から全面を紫外線で露光し、その後支持フィルムを剥離する剥離工程からなる表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の製造方法。
【0046】
第一に、前述の<直接塗工法>によって光重合性樹脂積層体を作成し、前述の<光重合性樹脂積層体法>によって表面撥インク性を有するパターン付き基板を製造する方法について説明する。
まず保護層を剥離した後、ガラス基板に上記光重合性樹脂積層体をラミネート(熱圧着)する。このとき、ガラス基板は予熱されることが好ましい。ラミネート性およびラミネート時に巻き込む空気を抑制し十分な密着性を確保する観点から40℃以上が好ましく、支持フィルムの耐熱性の観点から150℃以下が好ましい。より好ましくは60℃以上120℃以下である。
次に、基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する。基板と反対側からの照射には、隔壁パターンを有するフォトマスクを通し、更に支持フィルムを通して光重合性樹脂層を露光する場合と、支持フィルムを除いて、隔壁パターンを有するフォトマスクを通して光重合性樹脂層を露光する場合がある。露光量を上げて露光する場合は、露光前に支持フィルムを剥離しても良い。但し、支持フィルムを剥離して露光する場合は、開始剤の配合量や光重合性モノマーの配合量などを適宜調整して、高感度に設計することが好ましい。感度に対する支持フィルムの影響は大きく、支持フィルムを介して露光する場合とくらべて非常に高感度に設計することが好ましい。
【0047】
次に、支持フィルムがある場合には、必要に応じてこれを除き、続いてアルカリ水溶液を用いて未露光部の光重合性樹脂層を現像除去する。アルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アミン水溶液等を用いる。これらのアルカリ水溶液は光重合性樹脂層の特性に合わせて選択されるが、一般的に0.1〜3質量%の炭酸ナトリウム水溶液、0.03〜0.1質量%の水酸化カリウム水溶液が用いられる。必要に応じて、現像しきれずに残っている光重合性樹脂層を取り除くために、別の現像液において更に現像を行っても良い。別の現像液とは、初めに光重合性樹脂層を現像する際に用いる現像液とはアルカリ性の異なるアルカリ水溶液であったり、酸性現像液であったり、有機溶剤を含有する現像液であったりしてもよく、現像液に合わせて光重合性樹脂層の組成を適宜選ぶことが出来る。また、現像しきれずに残っている未露光部の光重合性樹脂層や、着色顔料、黒色顔料は、高圧水洗などの方法により物理的に除去することも出来る。0.2MPa以上の水洗圧が効果的である。
【0048】
現像工程の後には、必要に応じて、ポストベーク工程を行うことが好ましい。
ポストベーク工程は、現像後の隔壁スパターン付き基板を、加熱または赤外線照射することによって、露光工程では完全に硬化しなかった光重合性樹脂層の硬化をより進める工程である。ポストベーク工程における温度や時間は光重合性樹脂層の厚みや組成にもよるが、十分な耐薬品性、耐インク性、耐アルカリ性、収縮による膜厚あたりの光学濃度の向上といた観点から、150℃〜250℃が好ましく、5〜90分が好ましい。乾燥オーブン、電気炉、赤外炉、といった公知の装置を使用することができる。
また、ポストベーク工程の前に更に露光工程(後露光工程)を入れることもできる。後露光工程は、現像後の表面撥水性隔壁パターンつき基板を、光重合性樹脂層面またはガラス基板面から露光することで光重合性樹脂層の硬化をより進める工程である。露光量は、生産性の観点から100〜5000mJ/cmが好ましい。
【0049】
第二に、前述の<貼り合わせ法>によって光重合性樹脂積層体を作成し、前述の<光重合性樹脂積層体法>によって隔壁パターン付き基板を製造する方法について説明する。
本方法では、<直接塗工法>と比較して、光重合性樹脂積層体を製造する方法において、支持フィルム上の含フッ素化合物層面に液状光重合性樹脂組成物を塗布して乾燥するのではなく、別の支持フィルム2上に光重合性樹脂組成物を塗布して乾燥して得られた光重合性樹脂層と、支持フィルム上の含フッ素化合物層とを貼り合わせることによって光重合性樹脂積層体を作製するという点で<直接塗工法>と異なる。該光重合性樹脂層を用いて隔壁パターン付き基板を製造する場合には、光重合性樹脂層側の支持フィルム2を<直接塗工法>の保護層とみなして、これを剥離して用いることで、<直接塗工法>と同じように隔壁パターン付き基板を製造することができる。
【0050】
本発明における支持フィルム2については、より平坦であることが好ましい。また、上記含フッ素化合物積層フィルムを作製する際に用いる支持フィルムと同じものを用いることが出来る。<貼り合わせ法>による隔壁パターン付き基板の製造方法は、支持フィルム2に光重合性樹脂層を積層する手法としては、積層するフィルムが含フッ素化合物積層フィルムではなく支持フィルム2であること以外は、<直接塗工法>と同じように製造することが出来る。
光重合性樹脂層面と含フッ素化合物層面とを貼り合わせる手法としては、常温ラミネートまたは加熱しながらのラミネート、真空ラミネートが挙げられる。ラミネート速度は生産性の観点から1〜100m/分であることが好ましい。また、光重合性樹脂層側の支持フィルム2を保護層とみなして剥離して用いるため、含フッ素化合物積層フィルムの含フッ素化合物層と支持フィルムの剥離力よりも光重合性樹脂層と支持フィルム2の剥離力のほうが小さいことがより好ましい。ここでいう剥離力とは、JISZ0237に準じた180度剥離方法で測定できる。両者の剥離力に差がない場合には、支持フィルム2と光重合性樹脂積層体との剥離角において、支持フィルム側を90度以上に保ち、光重合性樹脂積層体を0度に近い状態を保てば簡易に剥離することが出来る。
<貼り合わせ法>の光重合性樹脂積層体は、上記を除けば<直接塗工法>と同じように製造することが出来る。
<貼り合わせ法>の隔壁付き基板は、上記の光重合性樹脂積層体を用いて上記<直接塗工法>と同じように作製することが出来る。
【0051】
第三に、前述の<後貼り法>によって隔壁パターン付き基板を製造する方法について説明する。
本発明では、<光重合性樹脂積層体法>と比較して、積層工程が、含フッ素化合物層上に光重合性樹脂層を積層してなる光重合性樹脂積層体を作製し、該光重合性樹脂積層体とガラス基材とを積層するのではなく、光重合性樹脂層をあらかじめ基板上に形成し、光重合性樹脂層面と含フッ素化合物層面とを張り合わせるという点で、<光重合性樹脂積層体法>と異なる。
本発明における基板上に積層された光重合性樹脂層は、基板上に液状の光重合性樹脂組成物を塗布して乾燥する方法、または<貼り合わせ法>で記載した、別途支持フィルム上2に作製された光重合性樹脂層をラミネーターによって基板に熱転写する方法によって形成される。
液状の光重合性樹脂組成物としては、<直接塗工法>で記載したものと同じものを用いることが出来る。前記の液状の光重合性樹脂を基板上に塗布する方法としては、スピンコート、ロールコート、バーコート、ディップコート、スプレーコートなどの手段が挙げられるが、特に限定されるものではない。基板上の光重合性樹脂組成物溶液を乾燥して製膜する方法としては、ホットプレートやオーブンなどの手段が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0052】
隔壁パターン付き基板の製造方法には、上記の支持フィルム上の含フッ素化合物層面と、基板上に形成された光重合性樹脂層面と張り合わせる工程が含まれる。張り合わせる工程は、ラミネート(熱圧着)により行われる。このとき、上記基板をあらかじめ60〜120℃に加熱しておくことは、光重合性樹脂層面と含フッ素化合物層との密着性を向上させる観点から好ましい。加熱する手段としては、熱板による加熱、熱風乾燥機による加熱、赤外線による加熱、超音波による加熱、電磁誘導による加熱、圧力オーブン内での加温、真空容器中での加温、熱ロールによるラミネート、などが挙げられるが、中でも、熱板による加熱、熱風乾燥機による加熱、赤外線による加熱、熱ロールによるラミネートの中から選ばれた一以上の手法であることが好ましい。ラミネート(熱圧着)時のラミネートロール温度は40〜130℃が好ましく、基板搬送速度は分速0.2m〜4mが好ましく、ラミネートロール圧力は0.05MPa〜1MPaであることが好ましい。また、ラミネート時に真空ラミネーターやウエットラミネーションを用いることは、含フッ素化合物層と基板上に形成された光重合性樹脂層との間の空気を追い出し、光重合性樹脂層の感度を高める効果があって好ましい。積層工程後、加熱工程、露光工程、現像工程、後露光工程、ポストベーク工程をそれぞれ<直接塗工法>と同じように行うことにより、表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を作製することが出来る。
【0053】
第四に、前述の<パターンに貼り付ける方法>によって隔壁パターン付き基板を製造する方法について説明する。
本製造方法では、<後貼り法>と比較して、あらかじめ基板上に形成した光重合性樹脂積層体の光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせ、露光し、現像してパターンを形成するのではなく、基板上に既に形成した隔壁パターン面に、含フッ素化合物層とを積層するという点で、<後貼り法>と異なる。
隔壁パターン付き基板は、基板にアルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び酸ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を積層する工程、基板と反対側からフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程、
を少なくとも順に経て得られる。露光工程の前に加熱工程を経ても良く、現像工程の後に、後露光工程、ポストベーク工程を経ても良い。
【0054】
隔壁パターン付き基板を形成した後、隔壁パターン付き基板の隔壁パターン面に、含フッ素化合物層を積層する積層工程は、ラミネート(熱圧着)によって行われることが好ましい。ラミネート(熱圧着)時のラミネートロール温度は40〜130℃が好ましく、基板搬送速度は分速0.2m〜4mが好ましく、ラミネートロール圧力は0.05MPa〜1MPaであることが好ましい。積層工程後、支持フィルムを剥離することによって、表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を形成できる。また、架橋性のフッ素化合物を用いる場合には、支持フィルムを剥離する前に紫外線で露光することで、より強固な撥インク層を形成することができるので、より好ましい。
また、本製造方法における積層工程は、現像工程の後であれば後露光工程の前でも良く、ポストベーク工程の前でもよい。
【0055】
本発明の隔壁パターン付き基板の製造方法は、基板上に形成された光重合性樹脂層の上に、含フッ素化合物層を直接塗布して乾燥し、フォトマスクを通して露光・現像する製造方法と比較して、乾燥工程を使用しない、ガラスに塗布する際の膜厚ムラが生じない、透明な支持フィルムが含フッ素化合物層とフォトマスクとの接触を防いでいるのでフォトマスクが汚れにくい、などの面で好ましい手法である。本発明においては、含フッ素化合物層をフィルムへ連続的に塗工し、同様に連続的に基板へラミネートすることにより、直接基板に枚葉で含フッ素化合物層を塗布する場合と比べて大幅に生産性が向上する。更には、含フッ素化合物積層フィルムまたは支持フィルムを露光後に剥離する場合には、露光時において光重合性樹脂が含フッ素化合物積層フィルムまたは支持フィルムと基板との間にあって、空気に接していないために酸素阻害の影響を受けにくいと考えられ、着色物質を高濃度に含んでいても光に対する感度が高く、ガラス基板への密着性や解像度が優れているので好ましい手法である。
本発明の隔壁パターン付き基板の製造方法は、含フッ素化合物積層フィルムの積層工程によって、含フッ素化合物層の一部または全部が感光性樹脂層側に転写することにより、隔壁パターン表面の疎水性が向上し、撥インク性が発現し、インクジェット方式での正孔輸送層や発光層用インク塗布に適した隔壁パターンを形成することが可能になる。本発明においては、含フッ素化合物層をフィルムへ連続的に塗工し、同様に連続的に基板へラミネートすることにより、直接基板に枚様で含フッ素化合物層を塗布する場合と比べて大幅に生産性が向上する。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例に基づいて説明する。
<接触角>
接触角は、マイクロシリンジからサンプル上に液滴を1マイクロリットル滴下し、2秒後に接触角測定装置(協和界面科学(株)製CA−VE型)を用いて測定した値をいう。キシレンに対する接触角と精製水に対する接触角を測定した。
なお、本発明では、撥インク性の評価を液滴の接触角測定にて行っているが、同じ含フッ素化合物積層フィルムを用いても、<直接塗工法>、<貼り合わせ法>、<後貼り法>、<パターンに貼り付ける方法>、それぞれブラックマトリックス付き基板を形成する手法が異なる場合には、ブラックマトリックスに付着する含フッ素化合物層の量や、ブラックマトリックス表面の表面粗さが異なるため、接触角の測定値は必ずしも同一になるわけではない。
【0057】
<含フッ素化合物積層フィルムの製造>
フッ素系コーティング剤(住友スリーエム社製ノベックEGC−1700:フッ素系樹脂の固形重量分率2質量%、溶剤以外の成分中のフッ素ポリマー含有量は100重量%)をフッ素系溶剤であるメチルノナフルオロブチルエーテル/メチルノナフルオロイソブチルエーテル(住友スリーエム社製ノベックHFE7100)を用いて希釈し、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、80℃で2分間加熱して含フッ素化合物層を有する支持フィルム(含フッ素化合物積層フィルム)を得た。この時、フッ素系コーティング剤の固形重量分率を適宜変更することで、含フッ素化合物層の膜厚の異なる含フッ素化合物積層フィルム1〜7を作製した。
【0058】
支持フィルム1mあたりの含フッ素化合物層の積層量は、EGC−1700を10倍に薄めた固形重量分率0.2質量%の溶液を用いて作製したフィルムのフッ素系コーティング層の高さを接触式段差計で測定したところ60nmであったことから、支持フィルム1mあたり60nm×1000mm×1000mm=60mmと計算した。また、固形重量分率A(%)と得られるフィルムの含フッ素化合物層の膜厚Bとの割合がB=(A/0.2)×60であるとして、固形重量分率を適宜変更することで表1に示す値と概算した。
含フッ素化合物積層フィルム1〜7の塗工面に1μLのキシレン液滴を滴下し、接触角を接触角測定装置にて液滴測定した。結果を表1に示す。含フッ素化合物積層フィルム2〜5は、積層量が1mあたり1〜40mmの範囲内であり、含フッ素化合物積層フィルム1および6〜7は積層量が1mあたり1〜40mmの範囲外である。
【0059】
含フッ素化合物積層フィルムとして熱硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤(住友スリーエム社製ノベックEGC−1720:フッ素系ポリマーの固形重量分率0.1質量%、溶剤以外の成分中のフッ素ポリマー含有量は100重量%)をフッ素系溶剤であるメチルノナフルオロブチルエーテル/メチルノナフルオロイソブチルエーテル(住友スリーエム社製ノベックHFE7100)を用いて希釈し、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間加熱して含フッ素化合物積層フィルムを形成した。この時、フッ素系表面処理剤の固形分率を適宜変更することで、表1に示すとおり膜厚の異なる含フッ素化合物積層フィルム8、9を作製した。
含フッ素化合物層の膜厚は、固形重量分率0.1質量%の上記フッ素系表面処理剤溶液を用いて作製したフィルムのフッ素系表面処理剤層の高さを接触式段差計で測定したところ30nmであったであったことから、支持フィルム1mあたり30nm×1000mm×1000mm=30mmと計算した。また、固形重量分率A(%)と得られるフィルムの含フッ素化合物層の膜厚Bとの割合がB=(A/0.1)×30であるとして、固形重量分率を適宜変更することで表1に示す値と概算した。
【0060】
パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを主成分とする共重合オリゴマー(日本油脂社製モディパー(登録商標)F200:フッ素系ブロックコポリマーの固形重量分率30質量%、溶剤以外の成分中のフッ素ポリマー含有量は100重量%)をメチルエチルケトンを用いて希釈し、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間加熱して含フッ素化合物積層フィルムを形成した。この時、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを主成分とする共重合オリゴマーの固形分率を適宜変更することで、表1に示すとおりフィルム1mあたりの含フッ素化合物を含有する有機物量の異なる含フッ素化合物積層フィルム10、11を作製した。
【0061】
フィルム1mあたりの含フッ素化合物層の積層量は、モディパー(登録商標)F200を150倍に薄めて固形重量分率0.2質量%としたメチルエチルケトン溶液を用いて作製したフィルムのフッ素系コーティング層の高さを接触式段差計で測定したところ60nmであったであったことから、支持フィルム1mあたり60nm×1000mm×1000mm=60mmと計算した。固形重量分率A(%)と得られるフィルムの含フッ素化合物層の膜厚Bとの割合がB=(A/0.2)×60であるとして、固形重量分率を適宜変更することで表1に示す値と概算した。
含フッ素化合物積層フィルム1〜11の塗工面に1μLのキシレン液滴を滴下し、接触角を接触角測定装置にて液滴測定した。結果を表1に示す。
【0062】
<光重合性樹脂積層体法:直接塗工法>
[実施例1〜5]
○光重合性樹脂溶液の作製
アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を次に示す割合で混合し、固形分量が10質量%の光重合性樹脂組成物のメチルエチルケトン溶液(A)を得た。
A−1:ベンジルメタクリレート/メタクリル酸=8/2(質量比)の共重合体で重量平均分子量20,000、酸当量430、固形分濃度50%のバインダーのメチルエチルケトン溶液
B−1:ペンタエリスリトールテトラアクリレート
B−2:コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亜合成社製 アロニッ
クス TO−756)
C−1:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGACURE−907)
D−1:トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−ターシャリブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製 IRGANOX245)
E−1:パーヘキサ25B(日本油脂(株)製、熱ラジカル発生剤;商品名)
A−1を50質量部、B−1を10質量部、B−2を30質量部、C−1を1質量部、D−1を0.3質量部、E−1を0.5質量部混合し、固形分量が10質量%の光重合性樹脂組成物のメチルエチルケトン溶液(A)を得た。
【0063】
○光重合性樹脂積層体の作製
前記光重合性樹脂組成物のメチルエチルケトン溶液(A)を、表1の含フッ素化合物積層フィルム2、3、5、8、9の含フッ素化合物層上にバーコーターを用いて均一に塗布し、95℃の乾燥機中で5分間乾燥し、厚さ10μmの光重合性樹脂層を形成した。次いで、得られた光重合性樹脂層上に厚さ20μmのポリプロピレン製保護フィルム(王子特殊紙(株)製アルファンE−200A)を貼り合わせ、光重合性樹脂積層体2、3、5、8、9を得た。このとき、光重合性樹脂積層体の膜質として、欠陥のないものを「◎」、光重合性樹脂層の小さなハジキや欠けが1mあたり5箇所以下見られるものを「○」、ハジキや欠けが1mあたり6箇所以上見られるか、欠陥が大きくて光重合性樹脂積層体の面積の10%以上あって使用不可なものを「×」と、表2に示すとおり評価した。
【0064】
○隔壁パターン付きガラス基板の形成
上記の光重合性樹脂積層体2、3、5、8、9の保護フィルムをそれぞれ剥がして、厚み0.7mmの10cm角の無アルカリガラス基板に95℃で毎分1mの速度でラミネートした後、支持フィルムを剥がして光重合性樹脂層と、含フッ素化合物層とを基板上に形成した。ライン幅/スペース幅が30μm/150μmのパターンのガラス製フォトマスクを通して、超高圧水銀ランプ((株)オーク製作所製HMW−801)により500mJ/cmで含フッ素化合物層側から露光した。0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液を25℃でスプレーし、未硬化部分の光重合性樹脂層を溶解除去して現像した。このときの標準現像時間は、未硬化部分の光重合性樹脂層がガラス基板からちょうど除去されたときの時間(「ブレイクポイント」と定義する。)の1.5倍とした。その後、240℃で60分ポストベークし、実施例1〜5の含フッ素化合物層付着隔壁パターン付きガラス基板を形成した。
ガラス基板上に光重合性樹脂積層体をラミネートして含フッ素化合物層付着隔壁層を形成するのに、基板1枚あたり1分のラミネート時間を要した。
【0065】
○隔壁パターン付きガラス基板の評価
(1)パターン形成
ライン幅/スペース幅=30μm/150μmの隔壁パターンが形成できている(評価:○)かどうかを光学顕微鏡で目視にて観察した。
(2)撥インク性
ラインパターン以外のベタのパターン表面(パターン上)及びガラス基板上におけるキシレンの接触角を、接触角測定装置を用いて液滴測定した。
評価結果を表2に示す。
【0066】
[比較例1]
表1の含フッ素化合物積層フィルム1を使用すること以外は実施例1と同じようにして表2の光重合性樹脂積層体1を作製した。前記の光重合性樹脂積層体1を使用すること以外は実施例1と同じようにして含フッ素化合物層付着隔壁付きガラス基板を形成した。
撥インク性の評価を行ったところ、隔壁表面のキシレンの接触角は5度であり、十分な撥インク性がなかった。
【0067】
[比較例2]
前記光重合性樹脂組成物メチルエチルケトン溶液(A)を、表1の含フッ素化合物積層フィルム7上にバーコーターを用いて均一に塗布し、95℃の乾燥機中で5分間乾燥したところ、フィルム上の光重合性樹脂層には欠けやハジキが10箇所以上発生し、適正な膜質の光重合性樹脂層が形成できなかった。
【0068】
<光重合性樹脂積層体法:貼り合わせ法>
[実施例6〜10]
○光重合性樹脂積層体の作製
前記光重合性樹脂組成物メチルエチルケトン溶液(A)を、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間乾燥し、厚さ20μmの光重合性樹脂層を形成した。次いで、得られた光重合性樹脂層上に、上記の含フッ素化合物積層フィルム2、3、5、8、9を光重合性樹脂層と含フッ素化合物層が接するように重ね合わせて、95℃で毎分1mの速度でラミネートして貼り合わせ、光重合性樹脂積層体12、13、15、18、19を得た。
【0069】
○隔壁パターン付きガラス基板の形成
上記の光重合性樹脂積層体12、13、15、18、19の光重合性樹脂側の支持フィルムを、支持フィルムと光重合性樹脂層との間で剥がし、光重合性樹脂層と厚み0.7mmの10cm角の無アルカリガラス基板とを95℃で毎分1mの速度でラミネートして、光重合性樹脂層と、含フッ素化合物層とを基板上に形成した。ライン幅/スペース幅が30μm/150μmのパターンのガラス製フォトマスクを通して、超高圧水銀ランプ((株)オーク製作所製HMW−801)により100mJ/cmで支持フィルム側から露光した。支持フィルムを剥離した後、0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液を25℃でスプレーし、未硬化部分の光重合性樹脂層を溶解除去して現像した。このときの標準現像時間は、ブレイクポイントの1.5倍とした。その後、240℃で60分ポストベークし、実施例6〜10の隔壁パターン付きガラス基板を形成した。
ガラス基板上に光重合性樹脂積層体をラミネートして含フッ素化合物層付着隔壁層を形成するのに、基板1枚あたり1分のラミネート時間を要した。
【0070】
○パターン付きガラス基板の評価
実施例1と同じように評価した。結果を表3に示す。
[比較例3]
表1の含フッ素化合物積層フィルム1を使用すること以外は実施例6と同じようにして表3の光重合性樹脂積層体11を作製した。前記の光重合性樹脂積層体11を使用すること以外は実施例6と同じようにして含フッ素化合物層付着隔壁付きガラス基板を形成した。
撥インク性の評価を行ったところ、ブラックマトリックス表面のキシレンの接触角は6度であり、十分な撥インク性がなかった。
【0071】
[比較例4]
表1の含フッ素化合物積層フィルム7を使用すること以外は実施例6と同じようにして表3の光重合性樹脂積層体17を作製した。前記の光重合性樹脂積層体17を使用すること以外は実施例6と同じようにして含フッ素化合物層付着隔壁付きガラス基板を形成することを試みた。途中、現像時間を2分まで長くしても未硬化部分の光重合性樹脂層は現像されなかった。
【0072】
<後貼り法>
[実施例11〜16]
前記光重合性樹脂組成物メチルエチルケトン溶液(A)を、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間乾燥して厚み1μmの光重合性樹脂層を形成し、光重合性樹脂積層体を得た。次いで、得られた光重合性樹脂積層体の光重合性樹脂層と厚み0.7mmの10cm角の無アルカリガラス基板とを95℃で毎分1mの速度でラミネートした後、支持フィルムを剥がしてガラス基板上に光重合成樹脂層を形成した。
上記の光重合性樹脂層が形成された基板と上記含フッ素化合物積層フィルム3、4、8、9、10、11とを光重合性樹脂層と含フッ素化合物層が接するように重ね合わせて、それぞれロール温度120℃、毎分1mの速度でラミネートした。ライン幅/スペース幅が10μm/90μmのパターンのガラス製フォトマスクを通して、超高圧水銀ランプ((株)オーク製作所製HMW−801)により100mJ/cmで支持フィルム側から露光した。支持フィルムを剥離した後、0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液を25℃でスプレーし、未硬化部分の光重合性樹脂層を溶解除去して現像した。このときの標準現像時間は、ブレイクポイントの1.5倍とした。その後、240℃で60分ポストベークし、実施例11〜16のパターン付きガラス基板を形成した。
ガラス基板上に光重合性樹脂積層体をラミネートし、その後に含フッ素化合物積層フィルムをラミネートして、ガラス基板上に含フッ素化合物層付着ブラックマトリックス層を形成するのに、ラミネートを2回することで基板の移動時間を含めて基板1枚あたり3分のラミネート時間を要した。
【0073】
○隔壁パターン付きガラス基板の評価
実施例1と同じように評価した。結果を表4に示す。
[比較例5]
表1の含フッ素化合物積層フィルム1を使用すること以外は実施例11と同じようにして含フッ素化合物層付着隔壁付きガラス基板を形成した。
撥インク性の評価を行ったところ、パターン表面のキシレンの接触角は5度であり、十分な撥インク性がなかった。
【0074】
[比較例6]
表1の含フッ素化合物積層フィルム7を使用すること以外は実施例11と同じようにして含フッ素化合物層付着隔壁パターン付きガラス基板を形成することを試みた。途中、現像時間を2分まで長くしても未硬化部分の光重合性樹脂層は現像されなかった。
【0075】
[比較例7、8]
上記含フッ素化合物積層フィルムの代わりに下記のフィルムを用いる以外は実施例11と同様に行った。なお、ラミネートにおいては、光重合性樹脂層とシリコーン系剥離剤が塗布された面とが接するように重ね合わせた。
比較例7:リンテック社製PET25GS(厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系剥離剤が塗布されたもの)
比較例8:リンテック社製PET38−2010(厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系剥離剤が塗布されたもの)
評価結果を表4に示す。
いずれも、キシレンの接触角が11度以下であり、十分な撥インク性がなかった。
【0076】
<パターンに貼り付ける方法>
[実施例17]
前記光重合性樹脂組成物メチルエチルケトン溶液(A)を、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間乾燥して光重合性樹脂層の厚みが10μmの光重合性樹脂積層体を得た。次いで、得られた光重合性樹脂積層体の光重合性樹脂面と厚み0.7mmの10cm角の無アルカリガラス基板とを95℃で毎分1mの速度でラミネートした後、ライン幅/スペース幅が30μm/150μmのパターンのガラス製フォトマスクを通して、超高圧水銀ランプ((株)オーク製作所製HMW−801)により100mJ/cmで支持フィルム側から露光した。支持フィルムを剥離した後、0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液を25℃でスプレーし、未硬化部分の光重合性樹脂層を溶解除去して現像した。このときの標準現像時間は、ブレイクポイントの1.5倍とした。このガラス基板と表1の含フッ素化合物積層フィルム4とを隔壁パターンと含フッ素化合物層とが接するように120℃で毎分1mの速度でラミネートした。支持フィルムを剥離して、隔壁パターン付きガラス基板を形成した。その後、240℃で60分ポストベークした。
隔壁パターン付きガラス基板と含フッ素化合物積層フィルムをラミネートして隔壁パターン付き基板を形成するのに、基板1枚あたり1分のラミネート時間を要した。
○隔壁パターン付きガラス基板の評価
撥インク性の評価を行ったところ、隔壁表面のキシレンの接触角は50度であり、十分な撥インク性が見られた。
【0077】
[実施例18]
前記光重合性樹脂組成物メチルエチルケトン溶液(A)を、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート製支持フィルム(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製R340G16)上にバーコーターで塗工し、95℃で5分間乾燥して光重合性樹脂層の厚みが10μmの光重合性樹脂積層体を得た。次いで、得られた光重合性樹脂積層体の光重合性樹脂面と厚み0.7mmの10cm角の無アルカリガラス基板とを95℃で毎分1mの速度でラミネートした後、ライン幅/スペース幅が30μm/150μmのパターンのガラス製フォトマスクを通して、超高圧水銀ランプ((株)オーク製作所製HMW−801)により100mJ/cmで支持フィルム側から露光した。支持フィルムを剥離した後、0.2質量%の炭酸ナトリウム水溶液を25℃でスプレーし、未硬化部分の光重合性樹脂層を溶解除去して現像した。このときの標準現像時間は、ブレイクポイントの1.5倍とした。その後、240℃で60分ポストベークし、隔壁パターン付きガラス基板を形成した。
【0078】
上記の隔壁パターン付きガラス基板と表1の含フッ素化合物積層フィルム4とを隔壁パターンと含フッ素化合物層とが接するように120℃で毎分1mの速度でラミネートした。支持フィルムを剥離して、隔壁パターン付きガラス基板を形成した。
隔壁パターン付きガラス基板と含フッ素化合物積層フィルムをラミネートして隔壁パターン付き基板を形成するのに、基板1枚あたり1分のラミネート時間を要した。
○隔壁パターン付きガラス基板の評価
撥インク性の評価を行ったところ、隔壁表面のキシレンの接触角は61度であり、十分な撥インク性が見られた。
本発明の光重合性樹脂積層体ならびに含フッ素化合物積層フィルムを用いれば、簡便な手法で、ガラス基板の撥インク性を高めることなく、隔壁パターンの表面にのみ高い撥インク性を付与することが出来る。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、有機EL素子や電子ペーパー用素子などのフラットパネルディスプレイの分野において、隔壁を形成し、その中にインクジェット法で発光成分や表示成分を付与して製造するのに適した隔壁製造において好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】有機EL素子をインクジェット方式により印刷する方法を説明する概略図である。
【図2】電子ペーパーの構造の一形態である。
【符号の説明】
【0085】
1 透明基材
2 画素電極
3 隔壁
4 正孔注入層
5 赤色発光層
6 緑色発光層
7 青色発光層
8 陰極
9 基板
10 隔壁
11 透明電極
12 帯電粒子
13 着色絶縁性液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持フィルム上に、含フッ素化合物層、光重合性樹脂層、がこの順で積層された光重合性樹脂積層体であって、
該含フッ素化合物層は、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物からなり、該含フッ素化合物層の積層量は支持フィルム1mあたり1〜40mmであり、該光重合性樹脂層は、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物からなることを特徴とする光重合性樹脂積層体。
【請求項2】
上記含フッ素化合物層表面のキシレンに対する接触角が20度以上であることを特徴とする請求項1に記載の光重合性樹脂積層体。
【請求項3】
上記含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光重合性樹脂積層体。
【請求項4】
支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成したものからなり、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程と、
該含フッ素化合物層上に、アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤、及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を積層する第二の積層工程、
を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体の製造方法。
【請求項5】
第一の支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成し、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、
アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を第二の支持フィルム上に積層する第二の積層工程、
該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせる第三の積層工程、を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の光重合性樹脂積層体を光重合性樹脂層が基板に接するように積層する積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光部の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【請求項7】
支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を支持フィルム1mあたり1〜40mmで形成し、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を積層する第一の積層工程、
アルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂組成物からなる光重合性樹脂層を基板上に積層する第二の積層工程、
該光重合性樹脂層面と該含フッ素化合物層面を貼り合わせることによって、該光重合性樹脂積層体を基板上に積層したものを得る第三の積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光の光重合性樹脂層を現像除去する現像工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【請求項8】
含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化性成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項7に記載の、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【請求項9】
基板にアルカリ可溶性高分子、エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合性開始剤及び熱ラジカル発生剤を含有する光重合性樹脂層を積層する第一の積層工程、
基板と反対側から隔壁パターンを有するフォトマスクを通して活性光線を照射する露光工程、
未露光の光重合性樹脂層を現像除去して表面撥インク性を有する隔壁とする現像工程、
隔壁付き基板の隔壁面に、支持フィルム上に、含フッ素化合物を30〜100質量%含有する組成物を厚さ1〜60nmで塗布したものからなり、キシレンに対する接触角が20度以上である含フッ素化合物層を設けた積層体の該含フッ素化合物層側を積層する第二の積層工程、を少なくとも有する、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【請求項10】
含フッ素化合物が、アモルファスフッ素樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを含有する共重合オリゴマー、フッ素系コーティング剤、フッ素系界面活性剤、電子線または紫外線による硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、及び熱硬化成分を含んだフッ素系表面処理剤、からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項9に記載の、パターン表面のキシレンに対する接触角が20度以上であるパターン付き基板の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の製造方法により表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を製造する工程、及び該表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の少なくとも隔壁パターンで覆われていない部分の一部に正孔注入層および発光層をインクジェット法により形成する有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の製造方法により表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板を製造する工程、及び該表面撥インク性を有する隔壁パターン付き基板の少なくとも隔壁パターンで覆われていない部分の一部に電気泳動液体またはマイクロカプセルをインクジェット法により付与する表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−9913(P2010−9913A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167222(P2008−167222)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】