説明

内燃機関の空燃比制御装置

【課題】 排気ガスセンサのガスシール部からの酸素リークによる出力ずれを補正して、正確なセンサ出力を算出し、これに基づいた空燃比制御を行う。
【解決手段】 内燃機関の排気経路に設置され排気ガスの空燃比を検出する排気ガスセンサの出力に基づいて、空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置であって、空燃比制御装置は、排気ガスセンサのガスシール部の温度を推定し、この温度に応じて発生する、ガスシール部における基準ガスのリークによる、センサの出力ずれを予測する。このセンサの出力ずれを補正する補正値を求め、内燃機関の空燃比を制御する制御に反映させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の空燃比制御装置に関する。更に具体的には、内燃機関の排気経路に配置され排気ガスの空燃比を検出する排気ガスセンサの出力に基づいて、内燃機関の空燃比を制御する装置として好適な内燃機関の空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開昭62−203050号公報に開示されるように、内燃機関の排気経路に空燃比センサを配置し、この空燃比センサの出力に基づいて燃料噴射量をフィードバック制御することにより、内燃機関の空燃比を制御するシステムが知られている。空燃比センサは、排気ガス側に晒された排気ガス側電極と、大気側に晒された大気側電極との2つの電極を有し、両電極は固体電解質層を挟んで配置されている。空燃比検出の際には、両電極間に排気ガスと大気との酸素濃度の差に応じた電流が流れる。空燃比センサは、この電流を検出することにより空燃比を検出する。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−203050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のシステムにおいて、センサ電流を正しく検出するためには、各電極に供給される排気ガスと大気との間を確実に遮断して、両ガス間のリークを防止する必要がある。上記従来技術のセンサにおいても、大気側電極に大気を供給する大気室と、排気ガス側電極が配置される排気管との間は、ガスシール部によりシールされ、遮断されている。
【0005】
しかし、空燃比センサは、200℃〜950℃の幅広い温度範囲で使用される。また、ガスシール部は、金属部品やタルク材等の熱膨張率の異なる部品により構成されている。具体的に、金属部品は、タルク材に比べて熱膨張率が大きい。このため空燃比センサが高温に加熱されると、金属部分が他の部品に比べて大きく熱膨張し、その結果、ガスシール部の密閉性が低下することがある。また、空燃比センサの使用温度が高くなるに連れて、酸素の拡散速度が増加する。このため、空燃比センサが加熱されると、酸素は僅かの隙間からでもリークしやすい状態となり、リーク量が多くなる傾向にある。即ち、空燃比センサの加熱に伴う金属の熱膨張と酸素の拡散速度の増加とにより、空燃比センサのガスシール部におけるガスのシール性は低下すると考えられる。
【0006】
ガスシール部のシール性が低下する場合、大気は、排気ガス側電極付近にリークする。その結果、排気ガス中の酸素濃度が増加して、排気ガスと大気との間の酸素濃度の差が小さくなり、空燃比センサの出力がリッチ側にずれることとなる。このように空燃比センサの出力ずれが発生する場合、精度の高い空燃比の制御とならない場合があると考えられる。
【0007】
したがって、この発明は、上記課題を解決することを目的として、排気ガスセンサのガスシール性の変化に伴う出力ずれを補正し、正確なセンサ出力を得られるように改良した内燃機関の空燃比制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の排気経路に設置され排気ガスの空燃比を検出する排気ガスセンサの出力に基づいて、空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置であって、 前記排気ガスセンサは、
基準ガスが導入される基準ガス室と
前記基準ガス内に、前記基準ガスに晒されるように配置された基準ガス側電極と、
前記排気経路中に、前記排気ガスに晒されるように配置された排気ガス側電極と、
前記基準ガス室と前記排気経路とを遮断するガスシール部と、を備え、
前記空燃比制御装置は、
前記ガスシール部の温度を推定する温度推定手段と、
前記ガスシール部の温度に基づいて、前記排気ガスセンサの出力ずれを補正する補正値を算出する補正値算出手段と、
前記補正値を前記空燃比の制御に反映させる制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記内燃機関の冷却水温を検出する冷却水温検出手段を備え、
前記温度推定手段は、
前記冷却水温に応じて、前記ガスシール部の温度を推定することを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、前記冷却水温のなまし値を算出するなまし値算出手段を備え、
前記温度推定手段は、前記冷却水温として、前記なまし値を用いて、前記ガスシール部の温度を推定することを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、
前記出力ずれを補正する補正値を、前記内燃機関の暖機前における、前記冷却水温に対する関数として示す第1の補正値関数と、前記内燃機関の暖機後における、前記冷却水温に対する関数として示す第2の補正値関数とを記憶する補正値関数記憶手段と、
前記内燃機関が暖機状態に達したか否かを判定する暖機判定手段と、を備え、
前記補正値算出手段は、
前記内燃機関が暖機状態に達したと判定された場合に、前記第2の補正値関数に基づいて、前記補正値を算出し、
前記内燃機関が暖機状態に達していないと判定された場合に、前記第1の補正値関数に基づいて、前記補正値を算出することを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記暖機状態に達するのに必要な積算吸入空気量を、始動時冷却水温に対する暖機時積算吸入空気量関数として記憶する暖機時積算空気量関数記憶手段と、
前記内燃機関の積算吸入空気量を検出する積算空気量検出手段と、
前記内燃機関の始動時の冷却水温を検出する始動時水温検出手段と、
前記暖機時積算吸入空気量関数に基づいて、前記始動時水温検出手段に応じた、前記暖機時積算吸入空気量を設定する暖機時積算空気量設定手段と、を備え、
前記暖機判定手段は、前記積算吸入空気量が、前記暖機時積算吸入空気量以上である場合に、前記暖機状態に達したことを判定することを特徴とする。
【0013】
また、第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、前記排気ガス側電極が目標空燃比に晒された際に、前記排気ガスセンサから発せられるべき出力を、ベース目標値として記憶するベース目標値記憶手段を備え、
前記制御手段は、前記補正値に基づいて、前記ベース目標値を補正するベース目標値補正手段を備えることを特徴とする。
【0014】
また、第7の発明は、第6の発明において、前記ベース目標値記憶手段は、前記ベース目標値を、前記センサ素子の温度に対する、ベース目標値関数として記憶し、
前記排気ガスセンサのセンサ素子の温度を推定する素子温推定手段と、
前記ベース目標値関数に基づいて、前記前記センサ素子の温度に応じた、前記ベース目標値を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第8の発明は、第6または第7の発明において、前記排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、前記三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサであって、
前記ベース目標値補正手段により補正された制御目標値と、前記酸素センサの出力との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差に応じて、前記上流側空燃比センサの出力に対するセンサ補正量を算出するセンサ補正量算出手段と、
前記センサ補正量に応じて、前記上流側空燃比センサの出力を補正する上流側センサ補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
また、第9の発明は、第1から第5のいずれかの発明において、前記排気ガスセンサのセンサ出力を検出するセンサ出力検出手段を備え、
前記制御装置は、前記補正値に基づいて、前記センサ出力を補正するセンサ出力補正手段を備えることを特徴とする。
【0017】
また、第10の発明は、第9の発明において、前記排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、前記三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサであって、
前記内燃機関の空燃比を目標空燃比に制御するための、前記酸素センサの出力目標値を、酸素センサ出力目標値として記憶する酸素センサ出力目標値記憶手段と、
前記センサ出力補正手段により補正されたセンサ出力と、前記酸素センサ出力目標値との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差に応じて、前記上流側空燃比センサの出力に対する上流側センサ出力補正値を算出する上流側センサ出力補正値算出手段と、
前記上流側センサ出力補正値に応じて、前記上流側空燃比センサの出力を補正する上流側空燃比センサ補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、排気ガスセンサのガスシール部の温度に応じて、補正値を算出し、この補正値を制御に反映させる。したがって、ガスシール部の温度に応じて発生するガスシール部におけるガスの漏れよる排気ガスセンサの出力ずれを補正することができる。したがって、排気ガスセンサの使用環境によりガスシール部のシール性が変化する場合にも、正確に空燃比を制御することができる。
【0019】
また、第2、第3の発明によれば、制御装置は、冷却水温に応じて、ガスシール部の温度を推定する。したがって、複雑なシステムを必要とせず、容易にガスシール部の温度を推定することができる。
【0020】
また、第4、5の発明によれば、制御装置は、冷却水温に応じた補正値の関数を、内燃機関が暖機状態に達する前と後とで、異なる関数として記憶する。したがって、内燃機関の暖機前後で、冷却水温とガスリーク量とが異なる相関関係を有する場合にも対応することができ、正確な空燃比制御を行うことができる。
【0021】
また、第6の発明によれば、算出された補正値に基づいて、ベース目標値を補正することができる。したがって、排気ガスセンサの使用環境によりガスシール部のシール性が変化する場合にも、正確に空燃比を制御することができる。
【0022】
また、第7の発明によれば、ベース目標値は、センサ素子温に対応する関数として記憶され、センサ素子温に応じて設定される。したがって、センサ素子温の温度変化によるセンサの出力特性の変化に対応して、正確に空燃比を制御することができる。
【0023】
また、第8の発明によれば、排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサとして用いる。したがって、より正確な制御を必要とするため、リークガスによる影響を排除する必要がある下流側の酸素センサにおいて、正確な検出結果を得ることができ、正確な空燃比制御を行うことができる。
【0024】
また。第9の発明によれば、算出された補正値に基づいて、センサ出力を補正することができる。したがって、排気ガスセンサの使用環境によりガスシール部のシール性が変化する場合にも、正確な出力結果を求めることができ、正確に空燃比を制御することができる。
【0025】
また、第10の発明によれば、排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサとして用いる。したがって、より正確な制御を必要とするため、リークガスによる影響を排除する必要がある下流側の酸素センサにおいて、正確な検出結果を得ることができ、正確な空燃比制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0027】
実施の形態1.
[実施の形態のハードウエア構成]
図1は、この発明の実施の形態1におけるシステムを説明するための模式図である。図1に示すように、実施の形態1のシステムは内燃機関2を備える。内燃機関2の各気筒の吸気ポート4には、吸気枝管6が接続されている。吸気枝管6には、燃料噴射弁8が設けられている。内燃機関2の各気筒の排気ポート12は、共通の排気マニホルド14に接続されている。排気マニホルド14は、三元触媒16を内蔵する触媒コンバータ18に接続されている。触媒コンバータ18は、排気管20を介してマフラー(図示せず)に接続されている。三元触媒16の上流側において、排気マニホルド14には空燃比センサ22が配置されている。空燃比センサ22は、広い空燃比領域に渡って空燃比に対応した出力電圧を発生するセンサである。また、三元触媒16の下流において、排気管20には酸素センサ24が配置されている。酸素センサ24は、その出力値が理論空燃比付近でステップ状に変化するセンサである。燃料噴射弁8、空燃比センサ22および酸素センサ24は制御装置30に接続されている。
【0028】
図2および図3は、実施の形態1のシステムにおいて用いる酸素センサ24について説明するための模式図である。図2に示すように、酸素センサ24は、センサ素子40を備える。センサ素子40は、一端が閉じられた管状の構造を有している。管状構造の外側表面は多孔質保護層42により覆われている。多孔質保護層42は、耐熱性の多孔質のセラミックス、例えば、アルミナを用いたスピネル型化合物(MgO・Al)により構成され、排気ガスに含まれる被毒物をトラップする機能を有している。多孔質保護層42の内側には、排気ガス側電極44が設けられている。排気ガス側電極44は、多孔質保護層42を通過した排気ガスに晒される状態となっている。排気ガス側電極44の内側には、固体電解質層46が設けられている。固体電解質層46の内側、即ち固体電解質層46の排気ガス側電極44とは反対側の面には、大気側電極48が設けられている。排気ガス側電極44および大気側電極48は、Ptのように触媒作用の高い金属で構成された電極である。センサ素子40の内側には、大気室50が形成されている。大気室50内には大気が導かれる構造となっている。したがって、大気側電極48は大気に晒されている。大気室50内には、ヒータ52が設置されている。
【0029】
図3は、酸素センサ24の排気管20への設置状態を説明するための模式図である。上記のように構成されたセンサ素子40は、図3に示すように、排気管20内において、カバー54に覆われている。カバー54にはその内部に排気ガスを導くための複数の通気穴(図示せず)が設けられている。カバー54は、ハウジング56により排気管20内に固定されている。より具体的には、ハウジング56は、排気管20側に配置される部分においてカバー54と係合し、カバー54上縁部をかしめた状態で排気管20内に保持している。
【0030】
カバー54およびハウジング56内にはセンサ素子40およびヒータ52が設置されている。センサ素子40の固体電解質層46の外周面には、外側に向けて突出した固体電解質層凸部58が設けられている。一方、ハウジング56の内周面には、内周円のさらに内側に向けて突出したハウジング凸部60が設けられている。図3に示すように、固体電解質層凸部58の下部が、ハウジング凸部60の上部に支持されることにより、センサ素子40はハウジング56およびカバー54内に固定されて支持されている。
【0031】
固体電解質層凸部58とハウジング凸部60との間は、ガスシール部62により密閉されている。具体的にガスシール部62は、金属パッキン64を有する。また固体電解質層凸部58の上部には、充填部66が配置されている。充填部66は、固体電解質層凸部58上部とハウジング56との隙間に、タルク材を充填することにより構成されている。充填部66の上部には絶縁ガラス68が配置されている。絶縁ガラス68上部にはかしめ用の金属リング70が配置されている。この構造により、金属パッキン64、充填部66、絶縁ガラス68および金属リング70からなるガスシール部62が、ハウジング56内の固体電解質層46とハウジング56との間に、かしめられて固定されている。つまり、ガスシール部62とハウジング56との構造により、大気室50と、排気管20とが遮断され、大気室50内の大気とカバー54内の排気ガスとの間のリークが防止されている。また、固体電解質層46の内側にヒータ保持部72が配置され、これにより、大気室50内にヒータ52が保持される。
【0032】
図4は、酸素センサ24と制御装置30との電気的な接続関係を表すブロック図である。図4に示すように、センサ素子40は、抵抗成分と起電力成分とを用いて等価的に表すことができる。また、ヒータ52は抵抗成分を用いて等価的に表すことができる。制御装置30は、センサ素子駆動回路74を有する。センサ素子40は、センサ素子駆動回路74が接続されている。センサ素子駆動回路74には、センサ素子40に対して、所望のバイアス電圧を印加するためのバイアス制御回路と、センサ素子40に流れるセンサ電流およびセンサ素子40の電極間に発する電圧を検出するための検出回路とが含まれている。
【0033】
センサ素子駆動回路74が備えるバイアス制御回路には、ローパスフィルタ(LPF)76及びD/Aコンバータ78を介して、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と称する)80が接続されている。マイコン80は、これらの要素を介してバイアス制御回路にセンサ素子40に印加すべき電圧を指令することができる。検出回路には、D/Aコンバータ82を介して、マイコン80が接続されている。マイコン80は、D/Aコンバータ82を介して、検出回路の検出結果を読み込むことができる。空燃比測定時、センサ素子40には、排気ガスと大気との酸素濃度に応じたセンサ電流が流れる。このときマイコン80は、検出回路を介して、排気ガス側電極44と大気側電極48との間に発生する電圧を読み込むことにより、空燃比を検出することができる。
【0034】
バイアス制御回路は、マイコン80の指令に従い、センサ素子40に対して、インピーダンス検出用電圧を印加することができる。センサ素子40は、インピーダンス検出用電圧が印加されると、その印加電圧の変化に対応してセンサ電流に変化が生じる。この際、印加電圧の変化量とセンサ電流の変化量との比が、センサ素子40の素子インピーダンスに相当する値となる。マイコン80は、これを利用して、インピーダンス検出用電圧が印加されている状況下で生ずるセンサ電流に基づいて、センサ素子40の素子インピーダンスを算出することができる。
【0035】
ヒータ52には、ヒータ制御回路84が接続されている。ヒータ制御回路84には、マイコン80が接続されている。ヒータ制御回路84は、マイコン80から供給される指令を受けて、その指令に応じた駆動信号をヒータ52に供給し、ヒータ52に所望の熱量を発生させることができる。
【0036】
[実施の形態1のシステムによる空燃比の基本的な制御について]
実施の形態1のシステムは、空燃比を制御する。より具体的には、上流側空燃比センサ22の出力電圧を、下流側の酸素センサ24の出力に応じて補正して、空燃比制御のパラメータを求める。酸素センサ24の出力により算出される補正値は、空燃比センサ22の出力から求められる空燃比が、目標空燃比に一致するように、PID制御によって設定される。
【0037】
図5は、この発明の実施の形態1の制御装置が実行する制御のルーチンについて説明するためのフロー図である。このルーチンにおいては、まず、後に説明する処理にしたがって、上流側空燃比センサに対するセンサ補正値算出ルーチンが実行される(ステップS100)。このルーチンにより、上流側空燃比センサに対するセンサ補正値ΔVが算出される。
【0038】
次に、上流側の空燃比センサ22の出力V22が読み取られる(ステップS110)。制御装置30は、検出回路によって検出される空燃比センサ22の電極間の電圧を、空燃比センサの出力V22として読み取る。その後、空燃比センサ22の出力V22を補正した補正出力*V22が算出される(ステップS112)。補正出力*V22は、空燃比センサ22の出力V22と、ステップS100において算出されたΔVから、次式(1)により算出される。
*V22=V22+ΔV ・・・・(1)
補正出力*V22は、下流側の酸素センサ24の出力から算出された補正値ΔVを加味した値となる。即ち、求められた補正出力*V22は、上流側の空燃比センサ22の経時劣化や出力のばらつきが補正された値となっている。
【0039】
次に、燃料噴射量が算出される(ステップS114)。燃料噴射量は、補正出力*V22を用いて算出される。実施の形態1のシステムには、例えば、現代制御を用いて行う燃料噴射量の算出方法が記憶されており、これに基づいて燃料噴射量が算出される。
【0040】
次に、設定された燃料噴射量に基づいて、燃料噴射が制御される(ステップS116)。より具体的には、制御装置30により燃料噴射弁8を制御することにより、設定された燃料噴射量の燃料が噴射されるように制御される。これにより、空燃比が目標空燃比になるように制御される。
【0041】
[実施の形態1の特徴的な制御]
図6は酸素センサ24の素子温とインピーダンスとの関係を示すグラフである。図6において横軸は素子温(℃)を示し、縦軸はインピーダンス(Ω)を表す。図6に示すように、センサ素子40のインピーダンスと素子温とは相関を有し、インピーダンスが低下するにつれて素子温は上昇する。制御装置30は図6に示すセンサ素子40の素子温とインピーダンスとの関係を記憶している。また制御装置30は、記憶した素子温とインピーダンスとの関係から、センサ素子40の素子温を算出することができる。
【0042】
図7は、素子温に対する酸素センサ24のベース目標値Vbsを示すグラフである。図7において横軸は素子温、縦軸はベース目標値を表す。ベース目標値Vbsは、内燃機関2の空燃比が目標空燃比である場合の、素子温に応じたセンサ出力を表す。但し、このセンサ出力は、ガスシール部62におけるリークはないものとした場合の出力である。実施の形態1の制御装置30による空燃比制御においては、酸素センサ24の出力が、図7に示すベース目標値Vbsと一致するように制御することにより、空燃比が目標空燃比に制御される。図7に示すように、センサ素子40の出力特性は素子温に応じて変化する。より具体的には、センサ出力は、素子温550℃を中心に、その出力特性が変化する。したがって、この出力特性の変化に合わせて、ベース目標値Vbsを素子温に応じて変化させる。制御装置30は、図7に示すような、素子温とベース目標値Vbsとの関係をベース目標値Vbsマップとして記憶している。また、インピーダンスから求められる素子温に応じて、ベース目標値Vbsを読み出すことができる。
【0043】
ところで、上記のように酸素センサ24において、センサ素子40の大気室50と、カバー54内の排気ガスとは、ガスシール部62により遮断されている。しかし、ガスシール部62の温度変化により、ガスシール部62のシール性が変化する。より具体的には、ガスシール部62の金属部品とタルク材等との間の熱膨張率に差があるため、酸素センサ24の温度上昇に伴う熱膨張量に差が生じ、ガスシール部62のシール性が低下する。また、温度上昇に伴い、酸素の拡散速度が大きくなる。したがって、ガスシール部62の各部品の膨張量の差と、酸素拡散速度の増加とがあいまって、ガスシール部62の温度が高くなるにつれてリーク量が増加することとなる。大気の排気ガス側へのリーク量が上昇すると、排気ガス中の酸素濃度が変化し、酸素センサ24の出力はリーン側にずれることとなる。
【0044】
また、酸素センサ24は、三元触媒16の下流の排気管20内に設置される。したがって検知対象となる排気ガスは、三元触媒16により浄化されたストイキ近傍のガスである。また、酸素センサ24は、ストイキ近傍において出力が急変する。このため、ガスシール部62から排気ガス側にリークする酸素が僅かであっても、そのリークした酸素が酸素センサ24の出力に与える影響は大きなものとなる。そこで、このシステムは、酸素センサ24における酸素リーク量を予測して、ベース目標値Vbsを補正した値を最終的な制御目標値Vtgとして設定する。
【0045】
図8は、酸素リーク量とガスシール部62との温度関係を説明するためのグラフである。図8に示すように、ガスシール部62と酸素リーク量とは相関を有する。より具体的には、ガスシール部62の温度上昇が進むにつれて酸素リーク量は大きくなる。
【0046】
図9は、ガスシール部62の温度と、内燃機関2の冷却水温の温度とを表すグラフである。図9において、横軸は時間(秒)を表し、縦軸左側は冷却水温の温度(℃)、縦軸右側はガスシール部62の温度(℃)を表す。図9に示すように、ガスシール部62の温度と内燃機関2の冷却水温とは相関を有する。具体的に、内燃機関2の始動開始から完全暖機までの間は、冷却水温およびガスシール部62の経過時間に対する温度変化は、比較的急激である。一方、完全暖機後は、冷却水温およびガスシール部62の温度変化は、完全暖気前に比して非常に緩やかになる。このように、ガスシール部62の温度と内燃機関2の冷却水温とは連動して変化する。したがって、経過時間と、冷却水温またはガスシール部62の温度との関係から、冷却水温によりガスシール部62の温度を予測することができる。
【0047】
完全暖機前および完全暖気後の何れの場合であっても、経過時間に対する温度変化率は、冷却水温とガスシール部62の温度との間で異なっている。また、経過時間に対する冷却水温の変化率と、経過時間に対するガスシール部62の温度の変化率との比も、完全暖機前と、完全暖気後とでは異なっている。したがって、完全暖機前と完全暖機後とでは、冷却水温に対するガスシール部62の温度変化率は異なるものとなる。
【0048】
図10は、酸素リークを考慮した補正値Vrevと、冷却水温との関係を表すグラフである。図10において、横軸は冷却水温を表し、縦軸は補正値Vrevを表す。ここで、補正値Vrevは、酸素センサ24のベース目標値Vbsから減ずるべき値であり、酸素リーク量により酸素センサ24に生じる出力のズレを補正する値である。したがって、補正値Vrevは酸素リーク量と同様に、ガスシール部62の温度に比例して変化する値である。上述したように、冷却水温に対するガスシール部62の温度の変化率は、完全暖機前後で異なる。このため、ガスシール部62の温度に比例して変化する補正値Vrevを、冷却水温に応じた補正値Vrevとして表す場合には、補正値Vrevの変化率は、完全暖機前後で異なるものとなる。
【0049】
より具体的に、完全暖機前のガスシール部62の温度に対する冷却水温の関係から、冷却水温と補正値Vrevの関係を算出すると、完全暖機前の補正値Vrevのマップは、補正値マップF1で表すことができる。一方、完全暖気後のガスシール部62の温度に対する冷却水温の関係から、完全暖機後における補正値Vrevのマップは、補正値マップF1とは傾きの異なる補正値マップF2で表すことができる。また、冷却水温とガスシール部62との相関は完全暖機時に切り替わることから、補正値マップF1、F2の交点は完全暖機時となる。制御装置30は、この補正値マップF1、F2を記憶する。補正値Vrevの算出においては、完全暖機前か後かを判断し、完全暖気前においては、補正値マップF1を用い、完全暖機後においては、補正値のマップF2を用いる。
【0050】
図11は、始動時冷却水温TWと完全暖機に至るまでの積算吸入空気量との関係を示すグラフである。図11において、横軸は始動時冷却水温TWを表し、縦軸は積算吸入空気量を表す。図11において積算吸入空気量は、内燃機関2が完全暖機に至るまでに必要な暖機時積算吸入空気量(以下、「暖機ΣGa」と表す)を表す。図11に示すように、暖機ΣGaは始動時冷却水温TWと相関を有する。制御装置30は、図11に示す、始動時冷却水温TWと暖機ΣGaとの関係を記憶する。また、制御装置30は、内燃機関2の積算吸入空気量(以下「積算Ga」と表す)を測定し、積算Gaと暖機ΣGaとを比較することにより、完全暖機状態に達したか否かを判断することができる。
【0051】
[実施の形態1の制御装置による制御目標値の設定]
図12は、始動時冷却水温記憶ルーチンのフローチャートを示す。制御目標値設定においては、始動時冷却水温TWを必要とするため、はじめに、図12に示すルーチンが実行される。このルーチンでは、まず、内燃機関2のイグニッションスイッチIGがONとされた後、50msecが経過する以前であるか否かが判断される(ステップS122)。その結果、上記条件の成立が認められる場合は、内燃機関2の始動時判定がなされ、現在の内燃機関2の冷却水温が始動時冷却水温TWとして記憶される(ステップS124)。一方、上記条件の成立が認められない場合には、何ら処理が行われることなく今回の処理サイクルが終了される。
【0052】
図13は、図5のステップS100の処理として実行されるセンサ補正値算出ルーチンを説明するためのフローチャートである。このルーチンでは、まず、インピーダンスが算出される(ステップS130)。インピーダンスは、センサ素子40にインピーダンス検出用電圧を供給して、これに応じて流れるセンサ電流を測定することにより算出される。次に、算出されたインピーダンスに応じて素子温が算出される(ステップS132)。素子温は、制御装置30に記憶されたインピーダンスと素子温との関係のマップ(図6参照)に基づいて算出される。次に、ベース目標値Vbsが算出される(ステップS134)。より具体的には、制御装置30に記憶された、素子温とベース目標値Vbsとの関係を表すマップ(図7参照)に基づいて、算出された素子温に応じたベース目標値Vbsが設定される。
【0053】
次に、冷却水温が測定される(ステップS136)。次に、冷却水温から、なまし値TWが算出される(ステップS138)。なまし値TWは、前回、図13のルーチンが実行された際に記憶された前回冷却水温なまし値TWと、今回測定された冷却水温との平均を求めることにより算出される。次に、ステップS138において算出されたなまし値TWが、制御装置30に前回冷却水温なまし値TWとして記憶される(ステップS140)。記憶されたなまし値TWは、次回にこのルーチンが実行される際のなまし値の算出に用いられる。
【0054】
次に、始動時冷却水温TWが読み出される(ステップS142)。次に、積算Gaが測定される(ステップS144)。積算Gaは、内燃機関2の始動開始から内燃機関2に吸入された空気の積算量として求められる。次に、暖機ΣGaが読み出される(ステップS146)。具体的には、制御装置30に記憶された、始動時冷却水温TWと暖機ΣGaとの関係のマップ(図11参照)から、ステップS142において読み出された始動時冷却水温TWに応じた値が、暖機ΣGaとして読み出される。次に、ステップS146において測定された積算Gaが、暖機ΣGa以下であるか否かが判定される(ステップS148)。これにより、完全暖機前であるか否かが判定される。
【0055】
ステップS148において、積算Ga≦暖機ΣGaの成立が認められた場合には、暖機前であると判定され、補正値マップF1(図10参照)に従って、補正値Vrevが算出される(ステップS150)。より具体的には、制御装置30に記憶された補正値マップF1(図10参照)に従って、冷却水温のなまし値TWに応じた補正値Vrevが算出される。一方、ステップS150において、積算Ga≦暖機ΣGaの成立が認められない場合には、暖気後であると判定され、補正値マップF2(図10参照)に従って、補正値Vrevが設定される(ステップS152)。より具体的には、制御装置30に記憶された補正値マップF2(図10参照)にしたがって、冷却水温のなまし値TWに応じた補正値Vrevが算出される。
【0056】
次に、ステップS134において算出されたベース目標値Vbsと、ステップS150またはS152において設定された補正値Vrevとから、制御目標値Vtgが算出される(ステップS154)。具体的に制御目標値Vtgは、以下の式(2)に基づいて、ベース目標値Vbsから、補正値Vrevを減算することにより算出される。
Vtg=Vbs−rev ・・・・(2)
【0057】
次に、酸素センサ24の出力V24が検出される(ステップS156)。より具体的には、制御装置30は、検出回路によって検出される酸素センサ24の電極間の電圧を酸素センサの出力V24として読み取る。
【0058】
次に、上流側の空燃比センサ22の出力に対する補正値ΔV24が算出される(ステップS158)。具体的には、ステップS154において算出された制御目標値Vtgと、酸素センサ出力V24との偏差ΔV24(即ち、ΔV24=Vtg−V24)が算出され、ΔV24から空燃比センサ22の出力に対する補正値ΔVが、次式(3)に基づいて算出される。
ΔV=KPΔV24+KI(ΣΔV24)+KD(dΔV24) ・・・・(3)
なお、式(1)において、KPΔV24は比例項、KI(ΣΔV24)は積分項、KD(dΔV24)は微分項を表す。また、KP、KI、KDは、各項に対するゲイン係数である。この補正値において、微分項及び比例項は過渡的変動を補正する値であり、積分項は定常的なずれを補正する値である。
【0059】
以上のように、実施の形態1においては、酸素センサ24の素子温に応じたベース目標値Vbsを、ガスシール部62の温度上昇による酸素リーク量を考慮して補正する。したがって、特に、検出対象となる排気ガスが希薄で、酸素リークによる影響を受けやすい三元触媒16下流側の酸素センサ24においても、より正確な出力を得ることができる。
【0060】
また、実施の形態1においては、冷却水温とガスシール部62の温度との相関関係を利用して、ガスシール部62の温度を推定し、その温度から予測される酸素リーク量に基づいて補正値を算出する。したがって、特にガスシール部62の温度測定手段を設けることなく、容易にガスシール部62の温度を推定することができる。しかしながら、この発明においてガスシール部62の温度推定手段はこれに限るものではなく、他の手段によりガスシール部62の温度を推定するものであってもよい。また、実施の形態1においては、冷却水温のなまし値TWを用いる場合について説明した。しかし、この発明においてはこれに限るものではなく、例えば、測定した冷却水温を、直接、補正値Vrevの算出に用いてもよい。
【0061】
また、冷却水温とガスシール部62の温度との関係が、内燃機関2の完全暖機前後で変化する。このため、実施の形態1においては、完全暖機前後で、補正値マップを切り替える場合について説明した。これにより、正確に酸素センサ24の出力を補正することができる。しかし、この発明は、マップの切り替えを行わないものであってもよい。例えば、マップの切り替えを行わずに完全暖機前後に対応できる平均的な補正量のマップを用いることとすれば、ベース目標値Vbsに対して、ある程度酸素リーク量を加味した補正をすることができる。また、マップの切り替えを行わないことで、制御をより単純にすることができる。
【0062】
また、マップの切り替えを行う際の完全暖機時の予測方法として、始動時冷却水温TWと暖機ΣGaの関係のマップを用いる場合について説明した。しかし、完全暖機時の予測方法は、これに限るものではなく、他の方法によるものであってもよい。
【0063】
また、上述したように、下流側の酸素センサ24は、三元触媒16で浄化された希薄な排気ガスを測定対象とするため、僅かな酸素のリークによっても、出力ずれを起こしやすい。このため、実施の形態1に説明したような、酸素リークによる出力ずれの補正は、特に下流側の酸素センサ(サブO2センサ)に適用すると効果的に空燃比を制御することができる。しかし、この発明における制御は、下流側の酸素センサ24に限るものではなく、三元触媒16上流側の空燃比センサや酸素センサ、あるいは他の位置に設置される空燃比センサや酸素センサ等に適用してもよい。これにより、より厳密な空燃比の制御を行うことができる。
【0064】
また、酸素センサ24のガスシール部62は、図3の構造に限るものではない。大気室50と排気ガス側とは、他の構造のガスシール部により遮断されたものであってもよい。また、基準ガスとして、大気を用いる場合について説明したが、この発明はこれに限るものではなく、例えば、大気に代えて、酸素濃度が予め明確になっているガスを、基準ガスとして用いるものであってもよい。また、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に限定されるものではない。また、実施の形態において説明する構造や、方法におけるステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0065】
なお、例えば実施の形態1において、大気室50、大気側電極48は、それぞれこの発明の「基準ガス室」、「基準ガス側電極」に該当する。また、例えば実施の形態1において、制御装置30が図7に示すマップを記憶することにより、「ベース目標値記憶手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、ステップS136およびS138を実行することにより、この発明の「温度推定手段」が実現し、ステップS150およびS152を実行することにより、「補正値算出手段」が実現し、ステップS154を実行することにより、「制御手段」および「ベース目標値補正手段」が実現する。
【0066】
また、例えば実施の形態1において、ステップS130およびS132を実行することにより、この発明の「素子温推定手段」が実現し、ステップS134を実行することにより、「設定手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、ステップS136を実行することにより、この発明の「冷却温度検出手段」が実現し、ステップS138を実行することにより、「なまし値算出手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、図10に示すマップを記憶することにより、この発明の「補正値関数記憶手段」が実現する。また、例えば、実施の形態1において、ステップS148を実行することにより、この発明の「暖機判定手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、図11に示すマップを記憶することにより、この発明の「暖機時積算空気量関数記憶手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、ステップS144を実行することにより、この発明の「積算空気量検出手段」が実現し、ステップS142を実行することにより、「始動時冷却水温検出手段」が実現し、ステップS146を実行することにより、「暖機時積算空気量設定手段」が実現する。また、例えば実施の形態1において、ステップS158を実行することにより、この発明の「偏差算出手段」および「センサ補正量算出手段」が実現し、ステップS112を実行することにより「上流側センサ補正手段」が実現する。
【0067】
実施の形態2.
実施の形態2のハードウェア構成は、実施の形態1のハードウェア構成と同じものである。また、実施の形態2の制御装置は、酸素リークによる出力ずれを、センサ出力の値を補正することにより補正する点を除き、実施の形態1と同様の制御を行う。
【0068】
図10に示される補正値Vrevは、酸素リークによって生じる酸素センサ24の出力不足分を、ベース目標値Vbsから差し引いて、制御目標値Vtgを設定するための値である。つまり、酸素センサの出力ずれを、制御の目標値側で補正する値である。しかし、この補正値Vrevは、酸素リークによって生じる酸素センサ24の出力不足分であると捉えることもできる。実施の形態2においては、補正値Vrevを出力不足分を補正する値と捉えて、酸素センサ24の出力に、この補正値Vrevを直接加算することにより、酸素センサ24の出力を補正する。
【0069】
図14は、この発明の実施の形態2において、制御装置30が実行するセンサ補正値算出ルーチンを説明するためのフローチャートである。図14のルーチンは、図5のステップS100において、図13のルーチンに代えて実行されるルーチンである。また、図14のルーチンは、ステップS154、S158を実行せず、ステップS156の後で、ステップS202、S204を実行する点を除き、図13のルーチンと同じものである。
【0070】
具体的に、ステップS202においては、ステップS156において検出されたセンサ出力V24が補正される。より具体的には、補正後のセンサ出力*V24は、センサ出力V24に、ステップS150またはS152で算出されたVrevを加算することにより算出される。補正後のセンサ出力*V24は、以下の式(4)により表される。
*V24=V24+Vrev ・・・・(4)
【0071】
次に、上流側の空燃比センサ22の出力に対する補正値ΔVが算出される(ステップS204)。具体的には、ステップS134において算出されたベース目標値Vbsと、補正後の酸素センサ出力*V24との偏差ΔV24(ΔV24=Vbs−*V24)が算出され、ΔV24から空燃比センサ22の出力に対する補正値ΔVを算出する。実施の形態1のステップS158と同様に、算出式は式(3)を用いる。
【0072】
なお、ここで算出される偏差ΔV24は、ベース目標値Vbsから、補正後の酸素センサ出力*V24を減算したものである。また、ここで、式(4)に示すように、*V24=V24+Vrevである。また、式(2)より、Vtg=Vbs−Vrevである。したがって、算出される偏差ΔV24について、以下の式(5)の関係が成立する。
ΔV24=Vbs−*V24=Vbs−(V24+Vrev)=Vtg−V24 ・・・・(5)
つまり、実施の形態1のように、補正した制御目標値を用いる場合でも、あるいは、実施の形態2のように、センサ出力V24を補正する場合であっても、同一の、空燃比センサに対する補正値ΔVを求めることができる。
【0073】
なお、例えば実施の形態2において、ステップS150およびS152を実行することにより、この発明の「補正値算出手段」が実現し、ステップS156を実行することにより、この発明の「センサ出力検出手段」が実現し、ステップS202を実行することにより、「制御手段」および「センサ出力補正手段」実現する。また、例えば実施の形態2において図10に示すマップを記憶することにより、この発明の「補正値関数記憶手段」が実現する。また、例えば実施の形態2において、制御装置30が図7のマップを記憶することにより、この発明の「酸素センサ出力目標値記憶手段」が実現する。また、例えば実施の形態2において、ステップS204を実行することにより、「偏差算出手段」および「上流側センサ出力補正値算出手段」が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明の実施の形態1における空燃比制御装置を説明するための模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における酸素センサを説明するための模式図である。
【図3】この発明の実施の形態1における酸素センサを説明するための模式図である。
【図4】この発明の実施の形態1における酸素センサと制御装置との電気的な接続を説明するためのブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態1において制御装置が実行する空燃比制御のルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図6】センサ素子温とセンサ素子のインピーダンスとの関係を説明するためのグラフである。
【図7】素子温と空燃比制御のベース目標値との関係を説明するためのグラフである。
【図8】ガスシール部の温度と酸素リーク量との関係を説明するためのグラフである。
【図9】冷却水温とガスシール部の温度との関係を説明するためのグラフである。
【図10】この発明の実施の形態1における冷却水温に対する補正値を説明するためのグラフである。
【図11】始動時冷却水温と、完全暖機時の吸入空気量との関係を説明するためのグラフである。
【図12】この発明の実施の形態1において制御装置が実行する始動時冷却水温記憶ルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態1において制御装置が実行するセンサ補正値算出ルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図14】この発明の実施の形態2において制御装置が実行するセンサ補正値算出ルーチンを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
2 内燃機関
4 吸気ポート
6 吸気枝管
8 燃料噴射弁
12 排気ポート
14 排気マニホルド
16 三元触媒
18 触媒コンバータ
20 排気管
22 空燃比センサ
24 酸素センサ
30 制御装置
40 センサ素子
42 多孔質保護層
44 排気ガス側電極
46 固体電解質層
48 大気側電極
50 大気室
52 ヒータ
54 カバー
56 ハウジング
58 固体電解質層凸部
60 ハウジング凸部
62 ガスシール部
64 金属パッキン
66 充填部
68 絶縁ガラス
70 金属リング
72 ヒータ保持部
74 センサ素子駆動回路
76 ローパスフィルタ
78 D/Aコンバータ
80 マイコン
82 D/Aコンバータ
84 ヒータ制御回路
Vtg 制御目標値
Vbs ベース目標値
Vrev 補正値
TW 始動時冷却水温
TW 冷却水温なまし値
TW 前回冷却水温なまし値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路に設置され排気ガスの空燃比を検出する排気ガスセンサの出力に基づいて、空燃比を制御する内燃機関の空燃比制御装置であって、
前記排気ガスセンサは、
基準ガスが導入される基準ガス室と
前記基準ガス内に、前記基準ガスに晒されるように配置された基準ガス側電極と、
前記排気経路中に、前記排気ガスに晒されるように配置された排気ガス側電極と、
前記基準ガス室と前記排気経路とを遮断するガスシール部と、を備え、
前記空燃比制御装置は、
前記ガスシール部の温度を推定する温度推定手段と、
前記ガスシール部の温度に基づいて、前記排気ガスセンサの出力ずれを補正する補正値を算出する補正値算出手段と、
前記補正値を前記空燃比の制御に反映させる制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の冷却水温を検出する冷却水温検出手段を備え、
前記温度推定手段は、
前記冷却水温に応じて、前記ガスシール部の温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記冷却水温のなまし値を算出するなまし値算出手段を備え、
前記温度推定手段は、前記冷却水温として、前記なまし値を用いて、前記ガスシール部の温度を推定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記出力ずれを補正する補正値を、前記内燃機関の暖機前における、前記冷却水温に対する関数として示す第1の補正値関数と、前記内燃機関の暖機後における、前記冷却水温に対する関数として示す第2の補正値関数とを記憶する補正値関数記憶手段と、
前記内燃機関が暖機状態に達したか否かを判定する暖機判定手段と、を備え、
前記補正値算出手段は、
前記内燃機関が暖機状態に達したと判定された場合に、前記第2の補正値関数に基づいて、前記補正値を算出し、
前記内燃機関が暖機状態に達していないと判定された場合に、前記第1の補正値関数に基づいて、前記補正値を算出することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記暖機状態に達するのに必要な積算吸入空気量を、始動時冷却水温に対する暖機時積算吸入空気量関数として記憶する暖機時積算空気量関数記憶手段と、
前記内燃機関の積算吸入空気量を検出する積算空気量検出手段と、
前記内燃機関の始動時の冷却水温を検出する始動時水温検出手段と、
前記暖機時積算吸入空気量関数に基づいて、前記始動時水温検出手段に応じた、前記暖機時積算吸入空気量を設定する暖機時積算空気量設定手段と、を備え、
前記暖機判定手段は、前記積算吸入空気量が、前記暖機時積算吸入空気量以上である場合に、前記暖機状態に達したことを判定することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記排気ガス側電極が目標空燃比に晒された際に、前記排気ガスセンサから発せられるべき出力を、ベース目標値として記憶するベース目標値記憶手段を備え、
前記制御手段は、前記補正値に基づいて、前記ベース目標値を補正するベース目標値補正手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項7】
前記ベース目標値記憶手段は、前記ベース目標値を、前記センサ素子の温度に対する、ベース目標値関数として記憶し、
前記排気ガスセンサのセンサ素子の温度を推定する素子温推定手段と、
前記ベース目標値関数に基づいて、前記前記センサ素子の温度に応じた、前記ベース目標値を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項8】
前記排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、前記三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサであって、
前記ベース目標値補正手段により補正された制御目標値と、前記酸素センサの出力との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差に応じて、前記上流側空燃比センサの出力に対するセンサ補正量を算出するセンサ補正量算出手段と、
前記センサ補正量に応じて、前記上流側空燃比センサの出力を補正する上流側センサ補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項9】
前記排気ガスセンサのセンサ出力を検出するセンサ出力検出手段を備え、
前記制御装置は、前記補正値に基づいて、前記センサ出力を補正するセンサ出力補正手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関の空燃比制御装置。
【請求項10】
前記排気ガスセンサは、三元触媒下流に配置され、前記三元触媒上流側に配置された上流側空燃比センサの出力を補正する下流側酸素センサであって、
前記内燃機関の空燃比を目標空燃比に制御するための、前記酸素センサの出力目標値を、酸素センサ出力目標値として記憶する酸素センサ出力目標値記憶手段と、
前記センサ出力補正手段により補正されたセンサ出力と、前記酸素センサ出力目標値との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差に応じて、前記上流側空燃比センサの出力に対する上流側センサ出力補正値を算出する上流側センサ出力補正値算出手段と、
前記上流側センサ出力補正値に応じて、前記上流側空燃比センサの出力を補正する上流側空燃比センサ補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−9845(P2007−9845A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193911(P2005−193911)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】