説明

内燃機関装置およびその制御方法

【課題】内燃機関の始動時に迅速に内燃機関の出力軸の回転位置を検出することにより内燃機関の始動性を向上させる。
【解決手段】エンジンの運転を停止するときに、エンジンを始動する際のタイミングロータの基準位置である欠歯の検出に必要なマスク時間と制御遅れ時間とからなる準備時間内にクランクシャフトが回転すると想定される角度(β+γ)とタイミングロータの基準位置を検出するのに必要な角度αとの和を360°CAから減じて定めた停止位置CAp*からそれよりも所定角度ΔCAだけ前の位置までの目標停止範囲内でクランクシャフトの回転停止に伴ってタイミングロータの基準位置が停止するようエンジンとモータMG1,MG2とを制御する。これにより、エンジンを始動する際には、クランクシャフトの回転位置を迅速に検出することができ、エンジンの始動性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関装置およびその制御方法に関し、詳しくは、内燃機関と当該内燃機関の出力軸にトルクを出力可能な電動機とを備える内燃機関装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関装置としては、エンジンのクランクシャフトを回転可能に接続されたモータジェネレータを備え、エンジンを停止するときにモータジェネレータから回転駆動力を付与することによりクランクシャフトを所定の位置に停止させるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この内燃機関装置では、エンジンを停止する際に、エンジンの始動時に圧縮行程における上死点の乗り越しが容易となるクランク角度の停止位置(例えば、4気筒エンジンの場合、クランク角度約90°CA〜120°CAの範囲内)に停止させることで、エンジンの再始動時に必要となるモータジェネレータからのトルクを小さくして始動性を向上している。
【特許文献1】特開2004−263569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の内燃機関装置では、エンジンの始動時の回転数を迅速に上昇させることができるが、クランクシャフトの回転位置を検出するクランク角センサによってはエンジンの始動性を向上させることができない場合が生じる。例えば、クランク角センサとして、10°毎に歯を形成すると共にその一部に基準位置として30°分の欠歯を形成してなるタイミングロータを有するものを用いる場合、エンジンの始動時に基準位置を検出した後でなければ、燃料噴射や点火のタイミングを得ることができないため、エンジンの始動時におけるタイミングロータの基準位置の停止位置によってはエンジンの始動に時間を要する場合が生じる。即ち、4気筒エンジンを備えた上述の内燃機関装置では、180°毎に始動に適した停止位置が存在することになるが、こうした位置に停止していたとしても、基準位置の検出は360°毎にしかできないため、エンジンの始動時におけるタイミングロータの基準位置の停止位置によっては180°回転する分だけ基準位置の検出が遅れることになり、始動に時間を要する場合が生じてしまう。
【0004】
本発明の内燃機関装置およびその制御方法は、内燃機関の始動時に迅速に内燃機関の出力軸の回転位置を検出することにより内燃機関の始動性を向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の内燃機関装置およびその制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の内燃機関装置は、
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸にトルクを出力可能な電動機と、を備える内燃機関装置であって、
所定の回転位置を基準位置として前記内燃機関の出力軸と同期して回転する回転体の該基準位置からの回転量に基づいて前記出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、
前記内燃機関の運転を停止するときに、前記内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に前記内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ前記基準位置より前の回転位置から該回転位置よりも所定の角度だけ前の回転位置までの範囲内で前記内燃機関の運転の停止に伴って前記出力軸の回転が停止するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する停止時制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の内燃機関装置では、内燃機関の運転を停止するときに、内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ基準位置より前の回転位置からこの回転位置よりも所定の角度だけ前の回転位置までの範囲内で内燃機関の運転の停止に伴って出力軸の回転が停止するよう内燃機関と電動機とを制御する。これにより、内燃機関の出力軸の回転位置を迅速に検出することができるので、内燃機関の始動性を向上することができる。
【0008】
こうした本発明の内燃機関装置において、前記準備時間は、前記内燃機関のクランキングの開始時に外乱による影響を排除するために一時的に前記回転位置検出手段からの検出信号をマスクする時間と制御遅れによる時間との和であるものとすることもできる。
【0009】
さらに、本発明の内燃機関装置において、前記回転位置検出手段は、前記基準位置を除いて所定角度毎に設けられた複数の歯を有する回転体を備える手段であり、前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度は前記基準位置の角度と前記所定角度との和の角度であるものとすることもできる。
【0010】
本発明の内燃機関装置の制御方法は、
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸にトルクを出力可能な電動機と、所定の回転位置を基準位置として前記内燃機関の出力軸と同期して回転する回転体の該基準位置からの回転量に基づいて前記出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、を備える内燃機関装置の制御方法であって、
前記内燃機関の運転を停止するときに、前記内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に前記内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ前記基準位置より前の回転位置から該回転位置よりも所定の角度だけ前の回転位置までの範囲内で前記内燃機関の運転の停止に伴って前記出力軸の回転が停止するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する、
ことを特徴とする。
【0011】
この本発明の内燃機関装置の制御方法では、内燃機関の運転を停止するとき、内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ基準位置より前の回転位置からこの回転位置よりも所定の角度だけ前の回転位置までの範囲内で内燃機関の運転の停止に伴って出力軸の回転が停止するよう内燃機関と電動機とを制御する。これにより、内燃機関の出力軸の回転位置を迅速に検出することができるので、内燃機関の始動性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は本発明の一実施としての内燃機関装置を搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0014】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、エアクリーナにより清浄された空気をスロットルバルブを介して吸入し、吸入された空気とガソリンとの混合気を燃料室で爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストンの往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号、例えば、エンジン22のクランクシャフト26のクランク角を検出するクランクポジションセンサ140からのクランク角CAなどが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁への駆動信号や、イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。図2は、クランクポジションセンサ140の構成の概略を示す構成図である。図示するように、クランクポジションセンサ140は、クランクシャフト26と回転同期して回転するように取り付けられて10°毎に歯が形成されると共に基準位置検出用に2つ分(30°分)の欠歯を形成したタイミングロータ142と電磁ピックアップ144とを有し、クランクシャフト26が10°回転する毎に整形波を生じさせる。なお、エンジンECU24では、このクランクポジションセンサ140からの整形波に基づいてエンジン22の回転数Neとして計算している。
【0015】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータM
G1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0016】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0017】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算したり、演算した残容量(SOC)と電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0018】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0019】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0020】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22の運転を停止する際の動作について説明する。図3はハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。図3のエンジン停止時駆動制御ルーチンは、エンジン22の運転停止の要求がなされたとき、例えばバッテリ50の残容量(SOC)が充電不要な所定残容量以上で要求動力がエンジン停止用に設定されたエンジン停止動力未満になったときや図示しないモータ走行スイッチを運転者が操作したときなどに実行される。
【0021】
エンジン停止時駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の運転を停止するエンジン停止指令をエンジンECU24に送信すると共に(ステップS100)、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,エンジン22の回転数Ne,クランクシャフト26のクランク角CA,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS110)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションに基づいて算出されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとし、クランク角CAは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションを基準角度からの角度として算出されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されるモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて計算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、温度センサ51により検出されたバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。なお、エンジン停止指令を受信したエンジンECU24は、燃料噴射制御や点火制御を停止してエンジン22の運転を停止する。
【0022】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度AccやブレーキペダルポジションBP,車速Vに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS120)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度AccやブレーキペダルポジションBP,車速V,要求トルクTr*の関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度AccやブレーキペダルポジションBP,車速Vが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図4に要求トルク設定用マップの一例を示す。続いて、入力したエンジン22の回転数Neが予め定められた閾値Nrefより小さいか否かを判定し(ステップS130)、回転数Neが閾値Nrefより小さくないと判定されたときには、エンジン22の回転数Neに基づいてモータMG1から出力すべきトルク指令Tm1*を設定する(ステップS140)。モータMG1のトルク指令Tm1*とエンジン22の回転数Neとの関係の一例を図5(a)および図5(b)に示す。図示するように、ステップS140において、トルク指令Tm1*は、共振現象を生じさせるエンジン22の回転領域(共振帯)を素早く通過してエンジン22の回転をスムーズに引き下げるよう設定される。ここで、閾値Nrefは、共振帯の下限の回転数よりも低い回転数として設定される。
【0023】
こうしてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると、設定したトルク指令Tm1*と要求トルクTr*と動力分配統合機構30のギヤ比ρと減速ギヤ35のギヤ比Grとに基づいて要求トルクTr*をリングギヤ軸32aに出力するためにモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮モータトルクTm2tmpを次式(1)により設定し(ステップS160)、モータMG2のトルク制限Tmin,Tmaxを次式(2)および式(3)により計算すると共に(ステップS170)、設定した仮トルクTm2tmpを次式(4)によりトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS180)。モータMG1からのトルクによりエンジン22の回転数Neを引き下げる際の動力分配統合機構30の回転要素を力学的に説明するための共線図の一例を図6に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したリングギヤ32の回転数Nrを示す。S軸上の矢印は、エンジン22の回転数Neを引き下げるためにモータMG1から出力するトルクを示し、R軸上の2つの矢印は、モータMG1から出力されたトルクがリングギヤ軸32aに作用するトルクとモータMG2から出力されるトルクが減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクを示す。なお、式(1)は、この共線図から容易に導き出すことができる。
【0024】
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (1)
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (2)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (3)
Tm2*=max(min(Tm2tmp,Tmax),Tmin) (4)
【0025】
こうしてモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する(ステップS190)。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行う。そして、エンジン回転数Neが値0か否かを判定する(ステップS200)。いま、ステップS130でエンジン22の回転数Neが閾値Nrefより小さくないと判定したときを考えているから、ステップS200で回転数Neは値0ではないと判定し、ステップS110に戻って処理を繰り返す。
【0026】
このような処理を繰り返すうちに、ステップS130でエンジン22の回転数Neが閾値Nref以下に至ったと判定したときには、エンジン22のクランクシャフト26の回転が停止したときにタイミングロータ142の基準位置が次回のエンジン22の始動に適した所定の目標停止範囲内に位置するようステップS110で入力したエンジン22の回転数Neとクランク角CAとに基づいてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定し(ステップS150)、設定したトルク指令Tm1*を用いてステップS160〜S200の処理を実行する。ここで、実施例のステップS150では、エンジン22の回転数Neが閾値Nref以下に至ってから所定時間内にタイミングロータ142の基準位置を目標停止範囲内に停止させるためのトルク指令Tm1*とクランク角CAとの関係を予め定めてトルク指令設定用マップとしてROM74に記憶しておき、クランク角CAが与えられると記憶したマップから対応するトルク指令Tm1*を導出して設定するものとした。また、目標停止範囲は、エンジン22を始動する際にクランクポジションセンサ140を構成するタイミングロータ142の基準位置(欠歯)の迅速な検出を可能とする停止位置CAp*を含む所定範囲、即ち停止位置CAp*からそれよりも所定角度ΔCA(例えば、20°〜40°)だけ手前の位置までの範囲とされる。なお、停止位置CAp*については後述する。そして、エンジン22の回転数Neが値0になるまで上述の処理を繰り返し、ステップS200で回転数Neが値0と判定されると、エンジン停止時駆動制御ルーチンを終了する。このようにクランク角CAに基づいてモータMG1のトルク指令Tm1*に設定して駆動することにより、エンジン22を所定の目標停止位置近傍に停止させることができる。エンジン22を停止する際のエンジン22の回転数NeやモータMG1のトルクTm1に対するクランク角CAの時間変化の様子の一例を図5(c)に示す。
【0027】
次に、図7を参照しながら、エンジン22を始動する際にクランクポジションセンサ140を構成するタイミングロータ142の基準位置(欠歯)の迅速な検出を可能とする停止位置CAp*の設定手順について説明する。図7は、モータMG1によりエンジン22をクランキングして始動させる際にクランク角CAが変化する様子の一例を示す説明図である。エンジン22の始動指示がなされたのに伴って時刻t0にモータMG1によるクランキングが開始されると、図7に示すように、クランクシャフト26の回転と共にクランク角CAが変化していくことになるが、クランクシャフト26の回転開始直後には電磁ピックアップ144からの信号へのノイズの重畳等を考慮してクランクポジションセンサ140からの整形波をマスクすることが好ましい。また、クランク角CAを検出するに際しては、主にクランクポジションセンサ140とエンジンECU24との間の通信遅れからなる制御遅れを考慮する必要がある。従って、時刻t0にモータMG1によるエンジン22のクランキングが開始された後、クランクポジションセンサ140からの整形波をマスクする時間(例えば、100〜200msec、以下「マスク時間」という)が経過し(時刻t1)、更に制御遅れに相当する時間(以下「制御遅れ時間」という)が経過した時刻t2になって初めてタイミングロータ142基準位置(欠歯)を精度よく検出できるようになる。即ち、エンジン22のクランキングが開始された時刻t0から時刻t2までの時間は、タイミングロータ142の基準位置(欠歯)の検出に要求される準備時間となる。また、実施例のクランクポジションセンサ140を用いた場合、タイミングロータ142の基準位置(欠歯)は、タイミングロータ142の欠歯と当該欠歯の回転方向下流側の一つの歯が電磁ピックアップ144の検知部を通過した段階で検出される。従って、タイミングロータ142が最低でも欠歯の角度(実施例では30°)と1歯分の角度(実施例では10°)との和である角度αだけ回転しないと、タイミングロータ142の基準位置(欠歯)を検出できないことになる。この結果、時刻t0にモータMG1によるエンジン22のクランキングが開始された後、上記マスク時間と制御遅れ時間との和である準備時間が経過し(時刻t2)、さらにモータMG1によるエンジン22のクランキングに伴ってタイミングロータ142(クランクシャフト26)が上記角度αだけ回転するのに要する時間が経過した時刻t3が、タイミングロータ142の基準位置(欠歯)を精度よく検出可能な最も早いタイミングとなる。これらを踏まえて、実施例では、モータMG1によるエンジン22のクランキングに伴って上記マスク時間中にタイミングロータ142が回転する角度βと上記制御遅れ時間中にタイミングロータ142が回転する角度γとを実験・解析により求めた上で、360°CAから角度αと角度βと角度γとの和を減じた値を停止位置CAp*として定めている。これにより、クランクシャフト26の回転が停止したときに、タイミングロータ142の基準位置である欠歯が常に停止位置CAp*からそれよりも所定角度ΔCAだけ手前の位置までの目標停止範囲内にあるようにすれば、例えば、図7において破線で示すように、タイミングロータ142の欠歯が停止位置CAp*よりも大幅に手前に位置する状態でクランクシャフト26が停止した場合に比べて、精度よく速やかに(図7の例では、時間(t5−t3)だけ早く)タイミングロータ142の基準位置(欠歯)を検出することが可能となる。そして、このようにタイミングロータ142の基準位置(欠歯)を迅速に検出することでエンジン22の始動時間を短縮することが可能となる。また、実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の運転停止時にクランクシャフト26(タイミングロータ142の基準位置)が概ね同一の位置にあることになるので、例えば、エンジン22の始動に際して燃料噴射の開始時におけるクランクシャフト26の回転数Neを概ね一定にすることができ、エンジン22の始動を安定して実行することが可能となる。
【0028】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22の運転を停止するときに、エンジン22を始動する際のタイミングロータ142の基準位置の検出に必要なマスク時間と制御遅れ時間とからなる準備時間内にエンジン22のクランクシャフト26が回転すると想定される角度(角度β+角度γ)とタイミングロータ142の基準位置(欠歯)を検出するのに必要な角度(角度α)との和の角度を360°CAから減じて定めた停止位置CAp*を含む所定範囲、即ち停止位置CAp*からそれよりも所定角度ΔCAだけ手前の位置までの目標停止範囲内でクランクシャフト26の回転の停止に伴ってタイミングロータ142の基準位置である欠歯が停止するようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するから、次にエンジン22を始動する際には、エンジン22のクランクシャフト26の回転位置を迅速に検出することができ、エンジン22の始動性を向上することができる。
【0029】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1が「電動機」に相当し、エンジン22のクランクシャフト26のクランク角を検出するクランクポジションセンサ140が「回転位置検出手段」に相当し、エンジン22の運転を停止するときに、エンジン22の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内にクランクシャフト26が回転すると想定される角度(β+γ)と基準位置であるのを検出するのに必要な角度αとの和の角度だけ基準位置より前の回転位置から当該回転位置よりも所定角度ΔCAだけ前の回転位置までの目標停止範囲内でエンジン22の運転の停止に伴ってクランクシャフト26の回転が停止するよう図3のエンジン停止時駆動制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と、エンジン22の停止指令を受信してエンジン22に対する燃料噴射制御や点火制御を停止するエンジンECU24と、トルク指令Tm1*,Tm2*に従ってモータMG1,MG2を駆動するモータECU40とが「停止時制御手段」に相当する。
【0030】
ただし、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「電動機」としては、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1に限定されるものではなく、スタータモータなど内燃機関の出力軸にトルクを出力可能なものであれば如何なる電動機でも構わない。「回転位置検出手段」としては、エンジン22のクランクシャフト26のクランク角を検出するクランクポジションセンサ140に限定されるものではなく、所定の回転位置を基準位置として内燃機関の出力軸と同期して回転する回転体の基準位置からの回転量に基づいて出力軸の回転位置を検出するものであれば如何なるものでも構わない。「停止時制御手段」としては、内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ基準位置より前の回転位置から回転位置よりも所定角度だけ前の回転位置までの範囲内で内燃機関の運転の停止に伴って出力軸の回転が停止するよう内燃機関と電動機とを制御するものであれば、単一の電子制御ユニットといったようなハイブリッド用電子制御ユニット70とエンジンECU24とモータECU40との組み合わせ以外の如何なるものでも構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、内燃機関装置の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】クランクポジションセンサ140の構成の概略を示す構成図である。
【図3】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】エンジン22を停止する際のエンジン22の回転数NeとモータMG1の出力トルクTm1と補正係数kとクランク角CAの時間変化の様子を示す説明図である。
【図6】エンジン22の回転数Neを引き下げる際の動力分配統合機構30の回転要素を力学的に説明するための共線図の一例を示す説明図である。
【図7】モータMG1によりエンジン22をクランキングして始動させる際にクランク角CAが変化する様子の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリECU、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、140 クランクポジションセンサ、142 タイミングロータ、144 電磁ピックアップ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸にトルクを出力可能な電動機と、を備える内燃機関装置であって、
所定の回転位置を基準位置として前記内燃機関の出力軸と同期して回転する回転体の該基準位置からの回転量に基づいて前記出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、
前記内燃機関の運転を停止するときに、前記内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に前記内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ前記基準位置より前の回転位置から該回転位置よりも所定角度だけ前の回転位置までの範囲内で前記内燃機関の運転の停止に伴って前記出力軸の回転が停止するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する停止時制御手段と、
を備える内燃機関装置。
【請求項2】
前記準備時間は、前記内燃機関のクランキングの開始時に外乱による影響を排除するために一時的に前記回転位置検出手段からの検出信号をマスクする時間と制御遅れによる時間との和である請求項1記載の内燃機関装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関装置であって、
前記回転位置検出手段は、前記基準位置を除いて単位角度毎に設けられた複数の歯を有する回転体を備える手段であり、
前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度は、前記基準位置の角度と前記単位角度との和の角度である、
内燃機関装置。
【請求項4】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸にトルクを出力可能な電動機と、所定の回転位置を基準位置として前記内燃機関の出力軸と同期して回転する回転体の該基準位置からの回転量に基づいて前記出力軸の回転位置を検出する回転位置検出手段と、を備える内燃機関装置の制御方法であって、
前記内燃機関の運転を停止するときに、前記内燃機関の始動開始時に制御の準備に必要な準備時間内に前記内燃機関の出力軸が回転すると想定される角度と前記基準位置であるのを検出するのに必要な角度との和の角度だけ前記基準位置より前の回転位置から該回転位置よりも所定角度だけ前の回転位置までの範囲内で前記内燃機関の運転の停止に伴って前記出力軸の回転が停止するよう前記内燃機関と前記電動機とを制御する、
ことを特徴とする内燃機関装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−275635(P2009−275635A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128726(P2008−128726)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】