説明

内燃機関

【課題】 負荷が急変する過渡時の負荷変化や、燃料カット時の負荷変化が生じても、空燃比を的確に制御する。
【解決手段】 負荷変化が検出された場合(ステップS33)、負荷が急変する過渡時の負荷変化であれば、負荷が急変している際に吸気行程で、燃料噴射期間の中心位置が吸気バルブの閉動作以前に位置するように燃料を噴射し(ステップS32)、燃料カット時の負荷変化であれば、燃料カットが行われる前及び燃料カットからの復帰時に吸気行程で、燃料噴射期間の中心位置が吸気バルブの閉動作以前に位置するように燃料を噴射し、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を容易に算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気通路への燃料噴射の状況を制御することで、負荷変化時の燃料噴射量を適正に制御することができる内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)では、燃料の気化が遅い運転領域では吸気通路の内壁に燃料が付着して液膜が形成される。このため、吸気通路の内壁に付着した燃料を考慮して燃料噴射が実施されている。即ち、吸気通路の内壁に付着している燃料量と噴射する燃料量、及び新たに吸気通路の内壁に付着する燃料量に基づいて、運転状態に応じた空燃比となるように燃料噴射量が決定される。
【0003】
一方、エンジンの運転は負荷の変化を伴うもので、負荷の変化に伴い燃料噴射量を変化させている。また、減速時等には燃料の供給を停止して燃費の向上が図られている。このため、吸気通路の内壁に付着している燃料の状態や吸気通路の内壁に付着する燃料の状況に応じて燃料噴射量を設定すると共に、負荷の変化に応じて燃料噴射量を設定する必要があり、燃料量の算出が複雑になり空燃比設定精度が低下する(目標空燃比と実空燃比に誤差が生じる)虞があるのが現状である。
【0004】
このような状況から、過渡運転状態の際に吸気行程中に燃料を供給し、燃料の大部分を吸気の気流に乗せて燃焼室に送る技術が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された技術では、要求に応じた量の燃料を供給することが可能になる。しかし、吸気行程であっても吸気バルブの動作状況によっては吸気が促進されないこともあり、必ずしも要求に応じた量の燃料が供給されているとはいえず、空燃比設定精度が低下する虞は否めないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−106946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、負荷変化に拘わらず燃料噴射量を容易にしかも確実に設定することができる内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の内燃機関は、燃料を吸気通路内に噴射するインジェクタと、前記吸気通路と筒内とを連通する吸気開口と、吸気行程中に前記インジェクタから燃料を噴射させる吸気行程噴射手段を少なくとも含む燃料噴射手段と、負荷の変化を検出する負荷変化検出手段と、前記負荷変化検出手段により負荷変化が検出された際に前記吸気行程噴射手段を制御し、前記吸気行程中に前記インジェクタから燃料を噴射させ、前記吸気開口から前記筒内に燃料を導入する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記インジェクタからの燃料噴射期間の中心が、吸気バルブに閉動作方向の変位速度が生じる以前に位置するように(吸気バルブの閉じ方向の変位速度が生じる以前に)前記吸気行程噴射手段を動作させて燃料を噴射させることを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、負荷変化検出手段により負荷変化が検出された際に吸気行程中にインジェクタから燃料を吸気通路内に噴射させる。吸気行程中の燃料噴射は、吸気通路の内壁等に新たな燃料の付着がないので、負荷変化が検出された際に、吸気行程で燃料を噴射することにより、吸気通路の内壁等に付着していた燃料は急減し、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を容易に算出することができる。
【0009】
そして、吸気行程での燃料噴射は、インジェクタからの燃料噴射期間の中心が、吸気バルブに閉じ動作方向の変位速度が生じる以前に位置するようにインジェクタから燃料を噴射させるので、混合気の筒内への吸引が促進される期間に少なくとも燃料の大半を噴射することができる。
【0010】
このため、負荷変化に拘わらず燃料噴射量を容易にしかも確実に設定することができ、負荷変化が生じる運転状態における空燃比設定精度を向上させることができる。
【0011】
また、請求項2に係る本発明の内燃機関は、請求項1に記載の内燃機関において、前記制御手段は、前記吸気バルブに閉動作方向の変位速度が生じる以前に前記吸気行程噴射手段を動作させて前記インジェクタからの燃料噴射を完了させることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、吸気バルブに閉動作方向の変位速度が生じる以前に、即ち、吸気バルブの変位速度がゼロ以上である期間に、インジェクタからの燃料噴射を完了させるので、吸気バルブの開動作時により燃料が筒内に最も引き込まれる状態で、所定量の燃料全てを筒内に噴射することができる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の内燃機関は、請求項1もしくは請求項2に記載の内燃機関において、前記負荷変化検出手段は、機関回転速度及びスロットル開閉状態に基づいて負荷変化が生じている(過渡時の)状態であることを検出し、前記制御手段は、過渡時の状態にある時に前記吸気行程噴射手段を動作させることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、機関回転速度及びスロットル開閉状態に基づいて、負荷変化が生じている(過渡時の)状態であることを検出し、過渡負荷変化に応じた燃料量を的確に算出する。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の内燃機関は、請求項3に記載の内燃機関において、前記負荷変化検出手段は、燃料噴射を停止させる状態の負荷変化(減速やエンジン停止)を検出し、前記制御手段は、燃料噴射を停止させる前及び後に前記吸気行程噴射手段を動作させることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る本発明では、燃料噴射を停止する状態(燃料カット時)の負荷変化を検出し、燃料カット時の前及び燃料噴射を復帰させる時(燃料復帰時)の燃料量を的確に算出する。燃料噴射停止直後は、吸気管内壁に付着した燃料のみが燃焼室内に吸引され、燃焼室内は燃焼が成立しないレベルのリーンな空燃比となるため、燃料は未燃のまま排出され、排ガスの悪化を招く。燃料カット前に吸気行程噴射手段を動作させることで、吸気管内壁への燃料の付着を抑制し、排ガスの悪化を防止できる。一方、燃料カット中の排気は酸素を大量に含む(空気)ため、排気管に設置された排気浄化触媒に酸素が大量にストレージされ、触媒の浄化効率が低下してしまう。このため、燃料復帰時には燃料を多めに噴射する(リッチ空燃比とする)ことで触媒上の酸素を放出し、浄化効率を回復させる技術が一般的である。燃料を多めに噴射する際にも、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を的確に算出できるため、空燃比設定精度が向上して排ガス性能を低下させる虞がない。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の内燃機関は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記吸気バルブの開閉時期が前記制御手段により変更されるバルブ開閉時期変更手段を備え、前記制御手段は、前記バルブ開閉時期変更手段により前記吸気バルブの閉時期を吸気下死点近傍に設定することを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る本発明では、吸気バルブの閉時期を吸気下死点近傍に設定することで、ピストンが上昇する際には吸気バルブが閉じられていることになり、燃焼室内の燃料が吸気通路に吹き返して、吸気通路の内壁に付着することがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の内燃機関は、負荷変化に拘わらず燃料噴射量を容易にしかも確実に設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本本発明の一実施形態例に係る内燃機関の概略構成図である。
【図2】噴射制御の機能を表した概略ブロック図である。
【図3】燃料噴射の制御フローチャートである。
【図4】吸気バルブのリフト動作と変位速度の経時変化の図である。
【図5】燃料噴射時期を説明する吸気バルブの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1、図2に基づいて本発明の内燃機関を説明する。
【0022】
図1には本発明の一実施形態例に係る内燃機関の全体の概略構成を示してある。
【0023】
図1に示すように、内燃機関(エンジン)であるエンジン本体(以下、エンジンと称する)1のシリンダヘッド2には気筒毎に点火プラグ3が取り付けられ、点火プラグ3には高電圧を出力する点火コイル4が接続されている。シリンダヘッド2には気筒毎に吸気ポート5(吸気通路)が形成され、各吸気ポート5の燃焼室6側には吸気バルブ7がそれぞれ設けられている。吸気バルブ7は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各吸気ポート5と燃焼室6との連通・遮断を行なうようになっている。
【0024】
各吸気ポート5には吸気マニホールド9の一端がそれぞれ接続され、各吸気ポート5に吸気マニホールド9が連通している。吸気マニホールド9(またはシリンダヘッド2)には電磁式の燃料噴射弁(インジェクタ)10が取り付けられ、燃料タンクから燃料パイプ8を介してインジェクタ10に燃料が供給される。
【0025】
また、シリンダヘッド2には気筒毎に排気ポート11が形成され、各排気ポート11の燃焼室6側には排気バルブ12がそれぞれ設けられている。排気バルブ12は、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト(図示省略)のカムに倣って開閉作動され、各排気ポート11と燃焼室6との連通・遮断を行うようになっている。そして、各排気ポート11には排気マニホールド13の一端がそれぞれ接続され、各排気ポート11に排気マニホールド13が連通している。
【0026】
尚、このようなエンジンは公知のものであるため、構成の詳細については省略してある。
【0027】
インジェクタ10の上流側における吸気マニホールド9には吸気管14が接続され、吸気管14には電磁式のスロットルバルブ15が取り付けられ、スロットルバルブ15の弁開度を検出するスロットルポジションセンサ16が設けられている。アクセルペダル61の踏み込み状態がアクセルポジションセンサ62で検出され、アクセルポジションセンサ62の検出情報に基づいてスロットルバルブ15が動作される。また、アクセルポジションセンサ62によりアクセルペダル61の踏み込みの解除(減速・下り坂走行)が検出される。
【0028】
スロットルバルブ15の上流側には吸入空気量を計測するエアフローセンサ17が設けられている。エアフローセンサ17としては、カルマン渦流式やホットフィルム式のエアフローセンサが使用される。また、吸気マニホールド9とスロットルバルブ15との間における吸気管14にはサージタンク18が設けられている。
【0029】
排気マニホールド13の他端には排気管20が接続され、排気マニホールド13には排気ガス循環ポート(EGRポート)21が分岐している。EGRポート21にはEGR管22の一端が接続され、EGR管22の他端はサージタンク18の上流部の吸気管14に接続されている。サージタンク18に近接するEGR管22にはEGRバルブ23が設けられ、EGRバルブ23が開かれることにより排気ガスの一部がEGR管22を介してサージタンク18の上流部の吸気管14に導入される。
【0030】
つまり、EGR管22及びEGRバルブ23により排気ガス還流手段(EGR装置)が構成されている。EGR装置は、排気ガスの一部をエンジン1の吸気系(サージタンク18)に還流させ、エンジン1の燃焼室6内の燃焼温度を低下させ、窒素酸化物(NOx)の排出量を低減させるための装置であり、EGRバルブ23が開閉動作されることにより開度に応じて所定のEGR率で排気ガスの一部がEGRガスとして吸気系に還流される。
【0031】
また、EGR装置により排気ガスをエンジン1の吸気系に還流させることにより、スロットルバルブ15で規制される空気量を減らすことができ、即ち、スロットルバルブ15を開いても大量の空気が流入することがなく、スロットルバルブ15の絞り損失を減少させることができる。また、低速、低回転領域であっても、燃焼室に流入する吸気に乱れを生じさせることができる。
【0032】
一方、吸気マニホールド9にはタンブルフラップ25が設けられ、タンブルフラップ25は負圧アクチュエータ等のアクチュエータ26によって開閉される。タンブルフラップ25はバタフライバルブやシャッターバルブ等の開閉式のバルブで構成され、タンブルフラップ25は、図1に示したように、吸気通路の下半分を開閉するようになっている。即ち、タンブルフラップ25を閉じることにより、吸気通路の断面の上側に開口部を形成し、吸気通路の断面積を狭くすることで燃焼室6の内部に縦タンブル流を発生させるようになっている。
【0033】
また、サージタンク18の上流部の吸気管14には過給機51が備えられ、過給機51はエンジン1の排気ガスが、排気マニホールド13に設けられた排気タービン51aを回転させ、排気タービン51aに直結した吸気コンプレッサ51bの作動により、吸気が加圧されて体積密度が高められ、加圧されて体積密度が高められた吸気が燃焼室6に送られる(過給される)。
【0034】
排気マニホールド13に接続された排気管20には、排気浄化触媒(例えば、三元触媒)55が介装され、排気浄化触媒55により排気ガスが浄化される。排気浄化触媒55には触媒温度センサ56が設けられ、触媒温度センサ56で検出された温度情報により排気浄化触媒55の活性状態(例えば、冷態状態か否か)が判断される。
【0035】
尚、排気浄化触媒55の温度を検出する場合、触媒温度センサ56を用いる代わりに、エンジン1の運転状態等からECU(電子コントロールユニット)31で推定(演算)することも可能である。
【0036】
例えば、排気浄化触媒55では、排気空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍の時に排気ガス中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等が浄化される。また、排気空燃比が酸化雰囲気(リーン空燃比)になった際に、HCやCOが酸化・浄化されると共に、排気空燃比が還元雰囲気(リッチ空燃比)となるまで酸素(O)がストレージされ、リッチ空燃比となった際に、NOxが還元・浄化されると共に、ストレージされたOが放出され、HCやCOが酸化・浄化される。
【0037】
エンジン1には、吸気バルブ7及び排気バルブ12のリフト量及びリフト時期(バルブ動作状態)を任意に変更する可変動弁機構63が設けられ、可変動弁機構63によりカムの位相が変更される等して、吸気バルブ7及び排気バルブ12の動作状態が任意に設定される。また、燃料パイプ8にはインジェクタ10に供給される燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ64が備えられている。更に、エンジン1には、クランク角を検出してエンジン回転速度(Ne)を求めるクランク角センサ32、冷却水温を検出する水温センサ33が備えられている。
【0038】
ECU(電子コントロールユニット)31は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU31により、エンジン1の総合的な制御が行われる。
【0039】
ECU31の入力側には、上述したスロットルポジションセンサ16、エアフローセンサ17、クランク角センサ32、水温センサ33、触媒温度センサ56、アクセルポジションセンサ62、燃料圧力センサ64等の各種センサ類が接続され、これらセンサ類からの検出情報が入力される。また、ECU31には、可変動弁機構63の情報が入力され、吸気バルブ7及び排気バルブ12のリフト量及びリフト時期の情報が送られる。
【0040】
一方、ECU31の出力側には、上述の点火コイル4、スロットルバルブ15、インジェクタ10の駆動装置、EGRバルブ23、タンブルフラップ25のアクチュエータ26、可変動弁機構63等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、各種センサ類からの検出情報に基づきECU31で演算された燃料噴射量、燃料噴射期間、燃料噴射時期、点火時期、EGRバルブ23の操作時期・操作量、タンブルフラップ25の操作時期、吸気バルブ7及び排気バルブ12の動作状態(バルブ動作状態)等がそれぞれ出力される。
【0041】
各種センサ類からの検出情報に基づき空燃比が適正な目標空燃比に設定され、目標空燃比に応じた量の燃料が適正なタイミングでインジェクタ10から噴射され、また、スロットルバルブ15が適正な開度に調整され、点火プラグ3により適正なタイミングで火花点火が実施される。
【0042】
本実施例のエンジン1は、負荷変化が生じる際に、吸気行程中にインジェクタ10から燃料を噴射する。尚、噴射した燃料が吸気バルブ7の近傍に到達した際に吸気バルブ7が開弁していれば吸気行程噴射と定義し、吸気バルブ7が開弁前である場合を排気行程噴射と定義する。実際にはインジェクタ駆動指令から燃料が吸気バルブ7の近傍に到達するまでインジェクタ針弁の開弁遅れやインジェクタ10から吸気バルブ7までの輸送遅れなど時間遅れが存在するので、吸気行程噴射のインジェクタ駆動指令が排気行程中に行われる場合もある。
【0043】
吸気行程中に(吸気バルブ7が開いている間に)燃料を噴射することにより、吸気ポート5や吸気バルブ7の傘部等への燃料の付着を抑制して燃料を供給することができ、燃料の気化潜熱を吸気の冷却に利用できる。このため、混合気の温度を下げてノッキングの発生を抑制すると共に、空気密度を高めて全負荷時の吸入空気量を増大させ、ポート噴射であっても、吸気冷却の効果を最大限に引き出すことができる。
【0044】
また、本実施例のエンジン1は、負荷変化が生じる際に、吸気行程中に燃料を噴射する場合、必要に応じて、可変動弁機構63により吸気バルブ7の閉じられる時期が、ピストンの吸気下死点近傍の時期とされる。これにより、ピストンが上昇した後には吸気バルブ7が閉じられていることになり、燃焼室内の燃料が吸気ポートに吹き返して、吸気通路の内壁に付着することがない。
【0045】
エンジン1の負荷変化はエンジン1の運転状況に応じてECU31の噴射制御手段により設定される。
【0046】
図2から図5に基づいて具体的な制御の状況を説明する。
【0047】
図2には噴射制御の機能を表した概略ブロック、図3には噴射制御手段による燃料噴射の状況を説明するフロー、図4には吸気バルブのリフト動作と変位速度の経時変化状態、図5には燃料噴射状況と吸気バルブのリフト動作および変位速度の経時変化状態を示してある。
【0048】
図2に示すように、ECU31には、クランク角センサ32の検出情報によるエンジン回転速度(Ne)、エアフローセンサ17の検出情報、アクセルポジションセンサ62の検出情報、スロットルポジションセンサ16の検出情報,燃料圧力センサ64の検出情報による実燃料圧力(Preal)、可変動弁機構63の情報による位相リフト情報(バルブ位相、バルブリフト)、車速情報が入力される。
【0049】
ECU31には、エンジン1のエンジン回転速度(Ne)及び負荷(吸気量等)に応じて燃料圧力(目標燃料圧力:Pobj)を設定する燃料圧力設定手段71が備えられ、燃料圧力設定手段71で設定された目標燃料圧力(Pobj)は噴射制御手段72に送られる。一方、エンジン回転速度(Ne)及び負荷(吸気量等)に応じて負荷変化を検出する負荷変化検出手段75が備えられ、負荷変化検出手段75により負荷変化が検出された際に負荷変化の情報が噴射制御手段72に送られる。
【0050】
そして、ECU31には、吸気行程中にインジェクタ10から燃料を噴射させる吸気行程噴射手段73と、排気行程中に前記インジェクタから燃料を噴射させる排気行程噴射手段74が備えられている。吸気行程噴射手段73及び排気行程噴射手段74からインジェクタ10に駆動指令が送られ、所定量の燃料が噴射される。
【0051】
負荷変化検出手段75により負荷変化が検出されて負荷変化の情報が噴射制御手段72に送られることで、吸気行程噴射手段73からインジェクタ10に駆動指令が送られ、吸気行程中にインジェクタ10から燃料を噴射させる。
【0052】
負荷変化が生じた際における吸気行程での燃料噴射の噴射終了時期は、吸気ポート5への吹き返しや吸気バルブ7の傘部の付着量の変化による空燃比の変動を抑制するため、噴射終了時期を固定している。図4に示すように、吸気バルブ7のリフトが開始されてからリフトが最大になるまでの期間は、吸気バルブ7の開き動作方向の変位速度が発生している期間とされ、燃料が吸気バルブ7に付着し難く、筒内に直入しやすい。
【0053】
一方、リフトが最大になった以降は吸気バルブ7に閉じ動作方向の変位速度が生じる期間とされ、燃料が吸気バルブ7に付着しやすく筒内に直入し難くなる。また、ピストンが吸気下死点(吸気BDC)以降で吸気バルブ7のリフトがゼロでない期間に燃料噴射を行うと、ピストンの上昇により筒内から吸気ポート5への吹き返しが起こり、燃料が筒内に直入しなくなるため望ましくない。
【0054】
このため、燃料噴射期間の中心位置が、吸気バルブ7の閉じ動作以前に位置するように燃料を噴射し、筒内への燃料の吸引を促進している。この場合、吸気バルブ7の最大リフト時期までに(吸気バルブ7に閉動作方向の変位速度が生じる以前に)燃料噴射を終了させることも可能である。
【0055】
図3、図5に基づいて負荷変化が生じた際の具体的な処理の状況を説明する。本実施例では、負荷が急変する過渡時の状態の負荷変化及び減速時や下り坂走行で燃料の供給を停止する時(燃料カット時)の状態の負荷変化の際に、吸気行程噴射手段73の指令に基づいて吸気行程中にインジェクタ10から燃料を噴射させる処理となっている。
【0056】
図3に示すように、処理がスタートすると、ステップS1でエンジン回転速度(Ne)とアクセル開度(θaps)から目標トルク(Tobj)を算出する。ステップS21で車速センサやアクセルポジション、スロットル開度などから燃料カット条件成立か否かが判断され、燃料カット条件が不成立と判断された場合、ステップS33でエンジン回転数やアクセルポジション、スロットル開度の変化量などから負荷変化を検出する。即ち、負荷(回転)検知か否かが判断される。
【0057】
ステップS33の負荷(回転)検知は、エンジン回転変化量が所定値を超えているか、または、アクセル踏込変化量が所定値を超えているか、または、スロットル開度変化量が所定値を超えているか、または、燃料カット復帰条件成立後における所定行程数内かが判断され、いずれかが否であると判断された場合、負荷(回転)検知ではない、即ち、負荷変化がないと判断される。負荷変化がないと判断された場合、ステップS30で排気行程中にインジェクタ10から燃料を噴射させる処理(排気行程噴射)に移行してリターンとなる。
【0058】
ステップS21で燃料カット条件成立と判断された場合、ステップS31で燃料カット条件成立後所定行程数内か否かが判断される。ステップS31で燃料カット条件成立後所定行程数内と判断された場合、ステップS32で過渡時の吸気行程噴射を設定する。つまり、燃料噴射停止前に吸気行程で燃料を噴射する状態にされる。
【0059】
ステップS31で燃料カット条件成立後所定行程数内でないと判断された場合、ステップS34の燃料噴射停止の処理に移行してリターンとなる。
【0060】
ステップS33で所定値以上の負荷(回転)変化が検出された場合、ステップS32で過渡時の吸気行程噴射を設定する。つまり、負荷変化が生じている際に吸気行程で燃料を噴射する状態にされる。
【0061】
即ち、負荷変化が検出された際に吸気行程中にインジェクタ10から燃料を吸気通路内に噴射させるようにしている。吸気通路の内壁等に新たな燃料の付着がないので、吸気通路の内壁等に付着していた燃料は急減し、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を容易に算出することができる。このため、負荷変化が生じても空燃比を的確に制御することが可能になる。
【0062】
ステップS32で過渡時の吸気行程噴射を設定した後、以下のステップS24からステップS27の処理により吸気行程噴射における吸気バルブ7の開閉時期、燃料噴射の時期が設定される。
【0063】
即ち、ステップS24でエンジン回転速度(Ne)と目標トルク(Tobj)を基に、目標スロットル開度(θtps)、目標燃圧(Pobj)、目標燃料噴射量(Qobj)、目標点火時期(θsa)がECUマップから読込まれて設定される。
【0064】
ステップS25でエンジン回転速度(Ne)、バルブ位相、バルブリフトから吸気バルブ7の開弁時期(θIO)及び閉弁時期(θIC)を算出し、ピストンの吸気上死点(TDC)をθITDCと設定し、吸気下死点(BDC)をθIBDCと設定する。ステップS26で吸気バルブ7の変位速度がゼロ以上から負に変わる時期、即ち、閉じ動作方向の変位速度が生じる時期(θACC0)を算出する。
【0065】
ステップS26で吸気バルブ7の変位速度がゼロ以上から負に変わる時期(θACC0)が算出された後、ステップS27に移行して負荷変化時における吸気行程噴射の燃料噴射時期が設定される。
【0066】
この場合、図5に示すように、ピストンの圧縮上死点が0°とされ、吸気下死点(θIBDC)が−180°、吸気上死点(θITDC)が−360°、排気下死点が−540°とされている時の角度の大小により時期が設定される。尚、図5中の一点鎖線は、排気行程噴射の時期及び排気バルブ12のリフトの状態を示してある。
【0067】
ステップS27で噴射開始時期(θSOI)と噴射終了時期(θEOI)が設定され、ステップS35で吸気行程噴射が実行される。
【0068】
噴射開始時期(θSOI)は、吸気バルブ7の開弁時期(θIO)と吸気上死点(θITDC)の大きい方(遅い方)から、噴射した燃料が吸気バルブ7に到達するまでの遅れ時間(θdly:インジェクタ針弁の開弁遅れも含む)を減じた(早めた)時期よりも遅い時期に設定される。つまり、吸気バルブ7が開いている状態で燃料が噴射されて燃料が筒内に噴射されるように噴射開始時期(θSOI)が設定される。
即ち、噴射開始時期(θSOI)>Max(θIO、θITDC)−θdly
とされる。
【0069】
噴射終了時期(θEOI)は、吸気バルブ7の変位速度がゼロ以上から負に変わる時期(θACC0)と吸気下死点(θIBDC)の小さい方(早い方)から噴射した燃料が吸気バルブ7に到達するまでの遅れ時間(θdly)を減じた(早めた)時期よりも早い時期に設定される。
即ち、噴射終了時期(θEOI)<Min(θACC0、θIBDC)−θdly
とされる。
【0070】
ステップS35で吸気行程噴射が実行された後、リターンとなる。
【0071】
上述したエンジン1では、負荷変化が検出された場合、吸気行程で燃料を噴射するように設定されている。即ち、負荷が急変する過渡時の負荷変化であれば、負荷が急変している際に吸気行程で燃料を噴射するようにしている。また、減速時や下り坂走行時、エンジン停止等の燃料カット時の負荷変化であれば、燃料カットが行われる前及び燃料カットからの復帰時に吸気行程で燃料を噴射するようにしている。
【0072】
吸気行程中の燃料噴射は、吸気通路の内壁等に新たな燃料の付着がないので、吸気通路の内壁等に付着していた燃料は急減し、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を容易に算出することができる。このため、負荷が急変する過渡時の負荷変化や、燃料カット時の負荷変化が生じても、空燃比を的確に制御することが可能になる。
【0073】
そして、吸気行程の燃料噴射の期間は、燃料噴射期間の中心位置が吸気バルブ7の閉動作以前に位置するように噴射される期間とされ、バルブ7の開き動作方向の変位速度が発生している期間とされている。このため、混合気の筒内への吸引が促進される期間に燃料を噴射することができる。また、吸気バルブ7の閉じられる時期が、ピストンの吸気下死点近傍の時期とされる。これにより、ピストンが上昇した後には吸気バルブ7が閉じられていることになり、燃焼室内の燃料が吸気ポートに吹き返して吸気通路内に付着することがない。
【0074】
特に、燃料カット時の負荷変化の場合、燃料噴射停止前及び燃料噴射を復帰させる時(燃料復帰時)の燃料量を的確に算出することができる。このため、燃料噴射停止直後の未燃燃料の排出を低減できる。また、燃料噴射停止中の排気は酸素を大量に含み、排気浄化触媒に酸素がストレージされ浄化効率が低下するため、燃料復帰時には触媒上の酸素を放出し、浄化効率を改善するため燃料を多めに噴射(リッチ空燃比)するが、燃料を多めに噴射する際にも、新たに付着する燃料量を考慮せずに、燃料供給量を的確に算出できるため、排ガス性能を低下させる虞がない。
【0075】
従って、上述したエンジン1は、負荷変化に拘わらず燃料噴射量を容易にしかも確実に設定することができ、混合気の筒内への吸引が促進される期間に少なくとも燃料の大半を噴射することが可能になる。このため、負荷変化に拘わらず燃料噴射量を容易にしかも確実に設定することができ、負荷変化が生じる運転状態における空燃比の設定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、吸気通路への燃料噴射の状況を制御することで、負荷変化時の燃料噴射量を適正に制御することができる内燃機関の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジン
2 シリンダヘッド
3 点火プラグ
4 点火コイル
5 吸気ポート
6 燃焼室
7 吸気バルブ
8 燃料パイプ
9 吸気マニホールド
10 燃料噴射弁(インジェクタ)
11 排気ポート
12 排気バルブ
13 排気マニホールド
14 吸気管
15 スロットルバルブ
16 スロットルポジションセンサ
17 エアフローセンサ
18 サージタンク
20 排気管
21 排気ガス循環ポート(EGRポート)
22 EGR管
25 タンブルフラップ
26 アクチュエータ
31 ECU
32 クランク角センサ
33 水温センサ
51 過給機
55 排気浄化触媒
56 触媒温度センサ
61 アクセルペダル
62 アクセルポジションセンサ
63 可変動弁機構
64 燃料圧力センサ
71 燃料圧力設定手段
72 噴射制御手段
73 吸気行程噴射手段
74 排気行程噴射手段
75 負荷変化検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を吸気通路内に噴射するインジェクタと、
前記吸気通路と筒内とを連通する吸気開口と、
吸気行程中に前記インジェクタから燃料を噴射させる吸気行程噴射手段を少なくとも含む燃料噴射手段と、
負荷の変化状態を検出する負荷変化検出手段と、
前記負荷変化検出手段により負荷変化が検出された際に前記吸気行程噴射手段を制御し、前記吸気行程中に前記インジェクタから燃料を噴射させ、前記吸気開口から前記筒内に燃料を導入する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記インジェクタからの燃料噴射期間の中心が、吸気バルブに閉動作方向の変位速度が生じる以前に位置するように前記吸気行程噴射手段を動作させて燃料を噴射させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記制御手段は、
前記吸気バルブに閉動作方向の変位速度が生じる以前に前記吸気行程噴射手段を動作させて前記インジェクタからの燃料噴射を完了させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の内燃機関において、
前記負荷変化検出手段は、機関回転速度及びスロットル開閉状態に基づいて負荷変化が過渡時の状態であることを検出し、
前記制御手段は、過渡時の状態にある時に前記吸気行程噴射手段を動作させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関において、
前記負荷変化検出手段は、燃料噴射を停止させる状態の負荷変化を検出し、
前記制御手段は、燃料噴射を停止させる前及び後に前記吸気行程噴射手段を動作させる
ことを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関において、
前記吸気バルブの開閉時期が前記制御手段により変更されるバルブ開閉時期変更手段を備え、
前記制御手段は、
前記バルブ開閉時期変更手段により前記吸気バルブの閉時期を吸気下死点近傍に設定する
ことを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−202325(P2012−202325A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68517(P2011−68517)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】