説明

内燃機関

【課題】火花点火燃焼運転領域と圧縮自着火燃焼運転領域との間の希薄燃焼運転領域における過早着火や失火を防止して、広い運転域にわたって安定した燃焼を得ることができ、燃料の着火性や燃焼性を確保して未燃焼ガスの排出量を低減でき、スモークの発生を防止できる内燃機関を提供すること。
【解決手段】低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13を備え、これらのインジェクタにそれぞれに高圧燃料ポンプ14を接続し、低圧センターインジェクタ12と高圧燃料ポンプ14との間にレギュレータ15を配置して低圧センターインジェクタ12からは低圧に規制された燃料が噴射されるようにし、圧縮自着火式燃焼と火花点火燃焼とを切り換える過渡領域となる中負荷または中回転運転領域における燃料の圧縮行程で、主として低圧センターインジェクタ12から燃料噴射をさせて火花点火を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関に関し、さらに詳しく予混合圧縮自着火式燃焼と火花点火式燃焼とを切り換えて運転を行う内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関としては、燃焼室内に直接燃料を噴射して、混合気を火花点火により燃焼させる火花点火式燃焼と、予混合圧縮自着火式(以下、圧縮自着火とも云う。)燃焼と、を切り換えるために、燃料噴射時期の自由度が大きい筒内噴射ガソリンエンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。一般の筒内噴射ガソリンエンジンでは、シリンダ毎に1つのインジェクタが取り付けられ、高圧燃料ポンプによってシリンダ内に燃料が直接噴射されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−342883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の筒内噴射ガソリンエンジンでは、通常の火花点火燃焼から低負荷時の圧縮自着火燃焼に切り換えるために、燃料の噴射量や噴射時期だけでなく、機関運転状態に伴う筒内圧力の変化に応じて、燃料の筒内噴射圧力の適切な調整を極短時間内に行う必要があった。しかし、高圧燃料ポンプおよびインジェクタの応答性には限界がある。このため、このような筒内噴射ガソリンエンジンでは、火花点火燃焼モードから圧縮自着火燃焼モードに切り換える場合に、燃料噴射圧力がまだ高いままの状態からエンジンの運転状態が圧縮自着火燃焼モードに切り換わって希薄燃焼を始める。このように燃料噴射圧力がまだ高いままの状態では、燃焼室内での燃料の噴射量が過剰になり易く、燃料の濃度も不均一になり易い。したがって、この状態では、噴霧された燃料の着火性および燃焼性が劣り、未燃焼ガス成分の排出量が増加するという問題がある。また、このような筒内噴射ガソリンエンジンでは、火花点火燃焼モードから圧縮自着火燃焼モードに切り換えた直後に、筒内に噴射される燃料の圧力が筒内圧力に比べて高すぎる場合に、気化した燃料噴霧が潰れて燃料微粒子化に逆行する要因となる。さらに、このような筒内噴射ガソリンエンジンでは、高圧噴射された燃料が燃焼室内の雰囲気に対して貫通力が大きいと、燃料が液状のままピストン頂面やシリンダ壁面に付着する。このように燃料が液状のままピストン頂面やシリンダ壁面に付着すると、燃焼室内の空燃比などに影響を及ぼして、安定した燃焼を妨げることや、スモークを発生させる原因となる。
【0005】
一方、このような筒内噴射ガソリンエンジンにおいて、圧縮自着火燃焼モードから中高負荷運転の火花点火燃焼モードに切り換える際には、燃料噴射圧力の低い状態から燃料噴射圧力を瞬時に上昇させる必要があり、火花点火燃焼に最適な燃料噴射量を供給することも困難である。したがって、この筒内噴射ガソリンエンジンでは、火花点火燃焼に切り換わった最初の数サイクルで空燃比がリーン側になり過ぎて不安定な燃焼や失火が発生し易くなる。また、このような筒内噴射ガソリンエンジンでは、圧縮自着火燃焼モードから中高負荷運転の火花点火燃焼モードに切り換える際に、燃焼温度が高くなることに起因して、NOの排出量が増加することが懸念されている。
【0006】
上述のように、筒内噴射ガソリンエンジンでは、急激な筒内圧力の変化に伴う目標空燃比からのずれの抑制、或いは燃料噴射量の誤差を低減するために、筒内燃料噴射圧力制御の応答性や正確性を向上できることが重要である。また、このような筒内噴射ガソリンエンジンでは、機関運転状態に応じて、燃料噴射の形状や到達距離と濃度分布などを、燃料噴射圧力の調整により適正化することが重要となる。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、火花点火燃焼運転領域と圧縮自着火燃焼運転領域との間の希薄燃焼運転領域における過早着火や失火を防止すると共に、燃料の着火性や燃焼性を確保して未燃焼ガスの排出量を低減でき、スモークの発生を防止することができ、広い運転域にわたって安定した燃焼を得ることができる内燃機関を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、燃焼室内に高圧燃料ポンプから送出される燃料直接噴射する燃料噴射弁と、点火栓と、を備え、少なくとも低負荷または低回転運転領域にて、ピストンによる圧縮作用により混合気を圧縮自着火により燃焼させる予混合圧縮自着火式燃焼を行い、高負荷または高回転運転領域にて、火花点火燃焼を行う内燃機関であって、この燃料噴射弁は、高圧燃料ポンプから送出される燃料の燃料噴射圧力を所定圧力に下げる圧力調整弁を介して高圧燃料ポンプに接続され、高圧燃料ポンプから送出される燃料噴射圧力よりも低い燃料噴射圧力で燃料噴射する低圧燃料噴射弁と、高圧燃料ポンプに直接接続され、かつ高圧燃料ポンプからの送出される燃料噴射圧力で燃料噴射する高圧燃料噴射弁と、でなり、予混合圧縮自着火式燃焼と火花点火燃焼とを切り換える過渡領域となる中負荷または中回転運転領域における燃料の圧縮行程で、主として低圧燃料噴射弁から燃料を噴射させて点火栓により火花点火を行って希薄成層燃焼させることを特徴とする。
【0009】
上記態様としては、予混合圧縮自着火式燃焼の吸気行程で、主として高圧燃料噴射弁から燃料を多段噴射させ、火花点火燃焼の吸気行程で、主として高圧燃料噴射弁から燃料を噴射させることが好ましい。
【0010】
上記態様としては、低圧燃料噴射弁および点火栓は、燃焼室の天面中央部に配置され、高圧燃料噴射弁は、燃料噴射方向が、ピストンが下死点に向かって下降する際に発生する空気のタンブル流の略中心に向くように、燃焼室の側部に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、火花点火燃焼運転領域と圧縮自着火燃焼運転領域との間の過渡領域である希薄燃焼運転領域における過早着火や失火を防止すると共に、燃料の着火性や燃焼性を確保して未燃焼ガスの排出量を低減でき、スモークの発生を防止でき広い運転域にわたって安定した燃焼を得ることができる内燃機関を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置を示す構成図である。
【図3】図3は、中回転域または中負荷域における、内燃機関の火花点火燃焼運転領域と圧縮自着火燃焼運転領域との境界と、エンジン回転数あるいはエンジン負荷と、の関係を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る内燃機関で行う、火花点火燃焼、希薄成層燃焼(過渡時)、圧縮自着火燃焼の領域と、エンジン回転数あるいはエンジン負荷と、の関係を示す図である。
【図5−1】図5−1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の主に圧縮自着火燃焼モードの制御行程を示すフローチャートである。
【図5−2】図5−2は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の主に希薄成層燃焼モードの制御行程を示すフローチャートである。
【図5−3】図5−3は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の主に火花点火燃焼モードの制御行程を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る内燃機関の圧縮自着火燃焼モード、希薄成層燃焼モード、および火花点火燃焼モードでの制御動作を示す説明図である。
【図7】図7(A)は、シリンダライナウェット状態を示す説明図、図7(B)はピストンウェット状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態に係る内燃機関の詳細を図面に基づいて説明する。なお、図1は本発明の実施の形態に係る内燃機関1の概略構成図であり、図2は内燃機関1の制御装置(以下、ECUという)20の構成を示すブロック図である。
【0014】
先ず、図1を用いて内燃機関1の構成について説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る内燃機関1は、運転領域において、火花点火燃焼(SI:Spark Ignition)運転領域と、ピストンによる圧縮作用により均質な混合気を自着火させて燃焼を行う予混合圧縮自着火式燃焼(HCCI:Homogeneous Charge
Compression Ignition)運転領域と、希薄成層燃焼(SI)運転領域を有し、火花点火燃焼と、圧縮自着火式燃焼と、希薄成層燃焼と、を切り替えて運転できるようになっている。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態に係る内燃機関1は、シリンダ2(気筒)と、シリンダヘッド3と、シリンダ2内で上下に往復動作を行うピストン4と備える。シリンダ2の内面2aと、このシリンダ2に臨むシリンダヘッド3の下面3aと、ピストン4の上面4aとの間の空間は、燃焼室5となっている。ピストン4は、コンロッド6を介して図示しないクランクシャフトに連結されている。そして、このピストン4の上下運動は、コンロッド6を介して図示しないクランクシャフトの回転運動に変換されるようになっている。
【0016】
シリンダヘッド3には、燃焼室5に連通する一対の吸気ポート7と、これら吸気ポート7にそれぞれ対向する位置に配置された一対の排気ポート8と、が形成されている。また、シリンダヘッド3には、それぞれの吸気ポート7の開口7aの開閉を行う一対の吸気バルブ9と、それぞれの排気ポート8の開口8aの開閉を行う一対の排気バルブ10と、が設けられている。吸気バルブ9は燃焼室5内に空気の導入を可能とし、排気バルブ10は燃焼室5内の排気を開口8aから排気ポート8へ排出可能としている。これら吸気バルブ9と排気バルブ10を所定のタイミングで開弁させる図示しない動弁機構を備えている。
【0017】
シリンダヘッド3の下面(燃焼室5の天面)3aの中央には、火花点火燃焼運転のときに用いられるプラグ11が設けられている。また、シリンダヘッド3の下面3aの中央には、上記プラグ11に近接して配置された低圧燃料噴射弁としての低圧センターインジェクタ12が設けられている。この低圧センターインジェクタ12は、噴霧を拡散できるように低圧高分散した燃料の層を燃焼室5の天井付近に形成するように設定されている。そして、シリンダヘッド3における一対の排気バルブ9の中間の下部(燃焼室5内のサイド部)には、高圧燃料噴射弁としての高圧サイドインジェクタ13が設けられている。図1に示すように、この高圧サイドインジェクタ13の燃料噴射方向は、ピストン4が下死点に向かって下降する際に発生する空気のタンブル流(図1に一点鎖線の矢印Tで示す)の略中心に向けて燃料を噴射するように(図1に燃料の流れを矢印Fで示す)、シリンダヘッド3において燃焼室5の側部となる位置に配置されている。なお、図1は、一点鎖線で示すようにピストン4が下死点に至った状態でタンブル流Tを示す。
【0018】
高圧サイドインジェクタ13は、高圧燃料ポンプ14に直接、接続されている。したがって、高圧サイドインジェクタ13には、高圧の燃料が供給される。なお、低圧センターインジェクタ12は、高圧燃料ポンプ14に対して圧力調整弁としてのレギュレータ15を介して接続されている。レギュレータ15は、高圧燃料ポンプ14からの高圧な燃料を所定の低い圧力になるように規制している。したがって、低圧センターインジェクタ12の燃料噴射圧力は、高圧サイドインジェクタ13よりも低圧な燃料噴射圧力となる。なお、図2に示すように、レギュレータ15でオーバーフローされた燃料は、配管16を通って図示しない燃料タンクへ戻されるようになっている。
【0019】
なお、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13は、図示しない燃料フィルタを介して導入された燃料を、図示しないソレノイドを制御することにより図示しないプランジャを作動させるような周知の構成である。このため、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13では、燃料噴射動作、閉動作、並びに多段的な噴射動作が自在に行えるようになっている。
【0020】
上述の構成の内燃機関1は、ピストン4の上下動と、吸気バルブ9および排気バルブ10を所定のタイミングで開閉させつつ、燃焼室5内に低圧センターインジェクタ12と高圧サイドインジェクタ13から燃料を直接噴射させて、プラグ11による火花点火燃焼および希薄成層燃焼、またはプラグ11を用いない圧縮自着火燃焼によって燃焼させたときの爆発力でピストン4を上下動させることができる。そして、内燃機関1では、燃焼室5内での燃焼用空気の吸入、混合気の圧縮・燃焼、この燃焼による膨張、燃焼ガスの排気を繰り返すようになっている。
【0021】
次に、図2を用いて本実施の形態の内燃機関1のECU20について説明する。このECU20は、図4に示すような機関の運転領域に応じて、火花点火燃焼と圧縮自着火燃焼と希薄成層燃焼とを切り換える制御を行う。
【0022】
ECU20は、内燃機関1が、どのモードで運転を行うかを判定する燃焼領域判定部21と、低圧センターインジェクタ12の噴射時期、噴射時間等を制御する低圧センターインジェクタ制御部22と、高圧サイドインジェクタ13の噴射時期、噴射時間等を制御する高圧サイドインジェクタ制御部23と、プラグ11の点火時期を制御するプラグ制御部24と、を備える。
【0023】
このECU20には、図示しない各種センサで検出される、エンジン回転数信号、スロットル開度信号、空燃比(A/F)信号、クランク角信号、燃料噴射圧力信号、筒内温度信号が入力されるようになっている。
【0024】
燃焼領域判定部21は、エンジン回転数信号、スロットル開度信号に基づいて、運転領域を判定して、火花点火燃焼、圧縮自着火燃焼、および希薄成層燃焼のうちどのモードで運転を行うかを判定する。また、図2に示すように、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23では、1サイクル当たりの燃料噴射回数、燃料噴射時期、燃料噴射量を各種の検出信号に基づいて決定して低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13に制御信号を出力する。プラグ制御部24は、燃焼領域判定部21で運転モードが火花点火燃焼モードおよび希薄成層燃焼モードと判定されたときに、プラグ11へ所定のタイミングで点火を行わせる制御信号を出力する。
【0025】
次に、本実施の形態に係る内燃機関1の動作、作用、および効果について説明する。図3に示すように、一般に、内燃機関の燃焼モードはエンジン回転数およびエンジン負荷(運動負荷)によって決定される。本実施の形態に係る内燃機関1では、火花点火燃焼から圧縮自着火燃焼に燃焼モードを切り換える際に、図4に示す運転領域に応じて、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13により、異なった方向からの燃料噴射の制御を行うことで、瞬時に均質かつ希薄な燃料噴射を燃焼室5内に形成させるようになっている。特に、本実施の形態では、圧縮自着火式燃焼と火花点火燃焼とを切り換える過渡領域となる中負荷または中回転運転領域である希薄成層燃焼運転領域における燃料の圧縮行程で、主として低圧センターインジェクタ12から燃料噴射をさせて火花点火を行う制御を行う。なお、本実施の形態に係る内燃機関1の具体的な制御方法は、後述する。
【0026】
本実施の形態における内燃機関1は、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13のいずれかを主として噴射を行うかの決定や、これらの噴射を多段的な噴射とすることにより、瞬時に、適正な燃焼に要する燃料噴射量を任意に制御することを可能としている。したがって、本実施の形態では、内燃機関の運転状態が急激に変化するときに、燃焼モードの変化に応じて低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13の燃料噴射圧力自体を調整することを要しない。このため、従来のように、1本のインジェクタを用いて高圧燃料ポンプ側で圧力の高低を調整する場合に比べて、本実施の形態では適正な燃料噴射量の制御を瞬時に達成させることが可能となる。
【0027】
本実施の形態における内燃機関1では、高圧燃料ポンプ14のみを単一の圧力で駆動するにも拘わらず、低圧センターインジェクタ12と高圧サイドインジェクタ13とに目標噴射圧力に近い状態で燃料を複数段階の圧力で燃料噴射させて燃焼室5内へ導入させることで、最適な燃料噴霧形態を生成することができる。
【0028】
特に、本実施の形態では、このような燃料噴射形態により、火花点火燃焼から圧縮自着火燃焼に燃焼モードを切り換える際に、燃焼不安定に起因するトルク変動を低減するために、必要とする希薄成層燃焼の安定性を確保している。すなわち、図4に示す過渡時の希薄成層燃焼の領域では、圧縮行程で低圧センターインジェクタ12での燃料噴射を主として行い高圧サイドインジェクタ13を補助として行って混合気の成層化を達成し、火花点火による燃焼に導いている。なお、図4に示すように、内燃機関1の極低回転域あるいは極低負荷域では、圧縮自着火燃焼を安定して行うことができないため、この領域においても火花点火燃焼の運転を行う。
【0029】
また、本実施の形態に係る内燃機関1では、圧縮自着火式燃焼の吸気行程で、主として高圧サイドインジェクタ13から燃料を多段噴射させ、火花点火燃焼の吸気行程で、主として高圧サイドインジェクタ13から燃料を噴射させることで確実な着火性および燃焼性を確保できる。
【0030】
本実施の形態に係る内燃機関1では、成層燃焼または均質燃焼に伴う燃料噴射時期の変更に応じて、低圧センターインジェクタ12と高圧サイドインジェクタ13のどちらを主とするかの判断により、燃焼室5内での燃料の付着や再結合を防ぎ、燃料の霧化を促進する役割を果たす。この燃料の高微粒子化かつ均質な混合気を形成し、燃焼改善による燃費向上を図ることができる。
【0031】
また、成層燃焼を行わせる場合では、低圧センターインジェクタ12を主として用いて、低圧力で必要な燃料を噴射させ、噴霧の浸透度(ペネトレーション)を低減させることで、圧縮行程において燃料を燃焼室5に集約させ、ピストン4の上面4aが濡れるピストンウェット状態となることを防ぐことができる。なお、図7(A)においては、破線で示す楕円部分がピストンウェット状態となる領域を示している。
【0032】
一方、均質燃焼では、ピストン4が下死点に向かって下降するにつれて、タンブル流T(図1参照)が発生するため、高圧サイドインジェクタ13を主とし、かつ低圧センターインジェクタ12を補助となるように同時に駆動して、拡散噴霧を行い均質な燃料噴霧を生成させる。このように拡散噴霧を生成させることにより、安定した圧縮自着火燃焼の着火性を向上させ、燃料濃度分布不均一に起因するノッキングの発生を抑制する。
【0033】
本実施の形態に係る内燃機関1では、互いに燃料噴射圧力の異なる、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13の2つのインジェクタで、瞬時に必要な燃料状態を達成できる。したがって、上述のピストンウェット状態や、図7(B)に破線の楕円で示す領域にシリンダライナウェット状態が発生することを抑制してスモークの発生を抑制できる。
【0034】
一般に、火花点火燃焼から圧縮自着火燃焼に切り換える場合、希薄成層燃焼領域が必要とされるため、低圧での燃料噴射を燃焼室5に均質に形成させることが望ましいと考えられる。従来は、高圧燃料ポンプ14のみの圧力調節で圧縮自着火燃焼と火花点火燃焼とを切り換えていたため圧力応答遅延を起こしていたが、本実施の形態では低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13の組み合わせで、燃焼室5に集約し易い均質な噴霧を作り、過早着火や失火が起こることを防止できる。また、本実施の形態に係る内燃機関1では、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13とを組み合わせることで、燃料噴射量を大きい状態から小さい状態まで制御できるため、高圧燃料ポンプ14の圧力を、従来の高圧燃料ポンプの圧力よりも低く設定できるという利点がある。
【0035】
また、本実施の形態に係る内燃機関1では、低圧センターインジェクタ12と高圧サイドインジェクタ13の駆動を異なる時間帯となるようにシフトさせることで、燃焼室5内に沿った燃料噴射を行い、噴霧流を活用して燃焼室5内の気流を加速させ乱流強度を向上させることもできる。さらに、本実施の形態に係る内燃機関1では、低圧センターインジェクタ12と高圧サイドインジェクタ13とから同時に燃料を燃焼室5内に均質に噴射して、燃焼室5内のガスの瞬間冷却することにより燃料の充填率を高める作用も有する。
【0036】
上述のように、本実施の形態に係る内燃機関1では、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13で2段階の圧力で燃料を同時に燃焼室5内に噴射できる構成であるため、燃料噴射時間を短縮することによって、より正確な燃料噴射開始時期、燃料噴射終了時期、燃料噴射量を制御できるようになる。また、本実施の形態に係る内燃機関1では、上記のように燃料噴射が多段的になる状況において、従来のように機関運転状況の変化に対して燃料噴射圧力の応答性が遅いことに起因して燃料噴射量不足が生じるという問題を回避できる。
【0037】
次に、図5−1、図5−2、および図5−3のフローチャートを参照して、本実施の形態に係る内燃機関1の制御の流れを説明する。
【0038】
先ず、図5−1に示すように、ECU20における燃焼領域判定部21で、エンジン回転数信号、スロットル開度信号に基づいて、圧縮自着火燃焼(HCCI)モードであるか否かの判定を行う(ステップS1)。
【0039】
ここで、内燃機関1の運転モードが圧縮自着火燃焼モードである場合、エンジン回転数信号およびスロットル開度(エンジン負荷)信号に基づいて、高圧サイドインジェクタ13を主とし、低圧センターインジェクタ12を補助として、1サイクルで必要とする燃料噴射圧力を算出する(ステップS2)。なお、このステップS2では、クランク角度信号から燃料噴射時期やピストン4の位置を考慮する。
【0040】
続いて、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23にて、ステップS2で算出した燃料噴射圧力に基づいて吸気行程における低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13でのそれぞれの目標燃料噴射量、多段的な燃料噴射時期を決定する(ステップS3)。
【0041】
上記ステップS3で決定された目標燃料噴射量および燃料噴射時期に基づいて、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23が、それぞれに対応する低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13に制御信号を出力して、燃焼室5内の混合気を圧縮自着火燃焼させる(ステップS4)。
【0042】
その後、圧縮自着火燃焼運転において、筒内温度信号やA/F信号に基づいて燃焼安定性状態を検出して、この燃焼安定性状態に基づいて、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23から低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13へ燃料噴射補正制御を行う(ステップS5)。
【0043】
次いで、燃料領域判定部21では、エンジン回転数信号やスロットル開度信号等に基づいてエンジン運転継続中か否かの判定を行う(ステップS6)。このステップS6において、運転継続中(YES)の場合はステップS1の判定に戻り、運転が停止(NO)と判定された場合は制御が終了する。
【0044】
ステップS1において、圧縮自着火燃焼モードでないと判定された場合は、図5−2のフローチャートに示すAの制御の流れにしたがって、運転モードが希薄成層燃焼(SI)モードか否かの判定を行う(ステップS7)。このステップS7の判定は、エンジン回転数信号およびスロットル開度信号に基づいて燃焼領域判定部21が行う。
【0045】
希薄成層燃焼モードと判定された場合は、エンジン回転数信号およびスロットル開度(エンジン負荷)信号に基づいて、低圧センターインジェクタ12を主として高圧サイドインジェクタ13を補助とし、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13で必要とする燃料噴射制御圧力を算出する(ステップS8)。
【0046】
次に、内燃機関1の圧縮行程において、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13からの目標燃料噴射量および噴射時期を決定する(ステップS9)。なお、この希薄成層燃焼モードでは、図6に示すように、圧縮行程に低圧センターインジェクタ12を主として低圧の燃料噴射を行って成層燃焼に適した燃料噴霧状態を形成する制御を行う。
【0047】
その後、上記ステップS9で決定された目標燃料噴射量および燃料噴射時期に基づいて、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23が、それぞれに対応する低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13に制御信号を出力して、燃焼室5内の混合気を希薄成層燃焼に適した状態に燃料噴射させる。プラグ制御部24では、プラグ11へ点火制御信号を出力して所定のタイミングで点火を行う(ステップS10)。ステップS10の後は、図5−1のフローチャートのCの流れにしたがって、ステップS5の制御を行う。
【0048】
次に、上記ステップS7の判定において、希薄成層燃焼モードではないと判定された場合、すなわち火花点火燃焼モードであると判定された場合は、図5−3に示すBの流れにしたがって、ステップS11の制御を行う。このステップS11では、エンジン回転数信号およびスロットル開度(エンジン負荷)信号に基づいて高圧サイドインジェクタ13を主とし、かつ低圧センターインジェクタ12を補助として、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13の必要とする燃料噴射制御圧力を算出する。
【0049】
次いで、この火花点火燃焼モードでは、吸気行程における低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13での目標燃料噴射量および燃料噴射時期(吸気行程における噴射時期)を決定する(ステップS12)。なお、この火花点火燃焼モードでは、エンジン回転数およびエンジン負荷も高い域にあるため、高圧サイドインジェクタ13が、圧縮自着火燃焼モードのように多段的に分散して噴射させる必要はない。
【0050】
次に、ステップS12で決定された目標燃料噴射量および噴射時期に基づいて、低圧センターインジェクタ制御部22および高圧サイドインジェクタ制御部23が、それぞれに対応する低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13に制御信号を出力して、燃焼室5内の混合気を火花点火燃焼に適した状態に燃料噴射させると共に、プラグ制御部24からプラグ11へ点火制御信号を出力して所定のタイミングで点火を行う(ステップS13)。ちなみに、この火花点火燃焼モードでは、吸気行程において高圧サイドインジェクタ13からタンブル流の略中心に向けて燃料噴射を行うため、乱流強度を大きくできるため、燃焼室5内の燃料を均質にでき、ガスの瞬間冷却により充填効率を高めることができる。ステップS13の後は、図5−1のフローチャートのCの流れにしたがって、ステップS5の制御を行う。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0052】
例えば、上記実施の形態では、高圧燃料ポンプ14の燃料噴射圧力を一定の高圧に固定したが、高圧燃料ポンプ14が圧力調整機能を備える構成としても勿論よい。
【0053】
また、上記実施の形態では、低圧センターインジェクタ12を燃焼室5の天井部に配置し、高圧サイドインジェクタ13を燃焼室5の側部に配置したが、低圧センターインジェクタ12および高圧サイドインジェクタ13の燃料噴射方向を変えることで、これらの配置を変更することも本発明の適用範囲であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1 内燃機関
2 シリンダ
3 シリンダヘッド
4 ピストン
5 燃焼室
7 吸気ポート
8 排気ポート
9 吸気バルブ
10 排気バルブ
11 プラグ(点火栓)
12 低圧センターインジェクタ
13 高圧サイドインジェクタ
14 高圧燃料ポンプ
15 レギュレータ(圧力調整弁)
20 制御装置
21 燃焼領域判定部
22 低圧センターインジェクタ制御部
23 高圧サイドインジェクタ制御部
24 プラグ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内に高圧燃料ポンプから送出される燃料直接噴射する燃料噴射弁と、点火栓と、を備え、少なくとも低負荷または低回転運転領域にて、ピストンによる圧縮作用により混合気を圧縮自着火により燃焼させる予混合圧縮自着火式燃焼を行い、高負荷または高回転運転領域にて、火花点火燃焼を行う内燃機関であって、
前記燃料噴射弁は、
前記高圧燃料ポンプから送出される燃料の燃料噴射圧力を所定圧力に下げる圧力調整弁を介して前記高圧燃料ポンプに接続され、前記高圧燃料ポンプから送出される燃料噴射圧力よりも低い燃料噴射圧力で燃料噴射する低圧燃料噴射弁と、
前記高圧燃料ポンプに直接接続され、前記高圧燃料ポンプからの送出される燃料噴射圧力で燃料噴射する高圧燃料噴射弁と、でなり、
前記予混合圧縮自着火式燃焼と前記火花点火燃焼とを切り換える過渡領域となる中負荷または中回転運転領域における燃料の圧縮行程で、主として前記低圧燃料噴射弁から燃料を噴射させて前記点火栓により火花点火を行って希薄成層燃焼させることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記予混合圧縮自着火式燃焼の吸気行程で、主として前記高圧燃料噴射弁から燃料を多段噴射させ、
前記火花点火燃焼の吸気行程で、主として前記高圧燃料噴射弁から燃料を噴射させる
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記低圧燃料噴射弁および前記点火栓は、前記燃焼室の天面中央部に配置され、
前記高圧燃料噴射弁は、燃料噴射方向が、前記ピストンが下死点に向かって下降する際に発生する空気のタンブル流の略中心に向くように、前記燃焼室の側部に配置されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96234(P2013−96234A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236688(P2011−236688)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】