説明

円筒状基体上の塗膜の膜厚測定方法及び測定装置

【課題】円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚みを測定する際に、測定によって前記基体にかかる負荷を少なくし、個々の測定値を極めて正確にする。
【解決手段】円筒状基体外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記円筒状基体外表面の軸に対して直交する前記円筒状基体外表面の断面円内に設定した基準点に対する前記断面円の円周上に定められた3つ以上の点の距離の前記円筒状基体の回転による変化に基づいて、前記基準点と前記円周上の点との距離を算出して前記円筒状基体外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、且つ、前記塗膜又は被膜外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記3つ以上の点とは別の、前記断面円と同一の断面上且つ前記塗膜又は被膜の外表面上の1つ以上の点と前記基準点との距離を算出し、前記円筒状基体外表面の断面円の形状をもとに前記塗膜又は被膜の厚みを測定する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜を有する円筒体上の塗膜又は被膜の厚みを測定する方法に関する。特には、精度良く塗布又は被覆された薄膜の厚みの測定に寄与する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式の複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ、印刷機等の画像形成装置における電子写真感光ドラムは、形状寸法が所定の精度に仕上げられた円筒部材を用いて、その表面に感光膜を施すことによって製造される。しかし前記感光膜の膜厚に場所によって凹凸が生じているか、又は基準となる感光膜の膜厚そのものが予め設定された所望膜厚に対して過度に厚く又は薄く形成されてしまうことがある。その場合、画像形成装置の画像に欠陥が生じる。従って、精度の高い画像形成装置を得るためには、前記感光膜の膜厚が正しく且つフラットであることが求められる。
【0003】
こうした電子写真感光ドラムを製造する工程においても、その塗布精度を保証することを目的とした高精度な測定機能が必要である。そして電子写真感光ドラムに用いる基体の材料はアルミニウム合金等に代表される金属によるものが一般的である。その基体上に形成された塗膜の膜厚測定方法としては、測定対象となる部分の塗膜表面に渦電流を用いた変位測定子を当接させた状態で金属である基体表面までの距離を測定することによって塗膜の厚みを測定する方法が用いられる。このとき、測定対象である塗膜の材質は一般的に樹脂を主体とするものが大半であるが、感光体としての機能上、微量ながらも金属を含有するものも用いられる。これについて前記渦電流を用いた変位測定方法においては、その測定に対して塗膜中に含まれる金属の影響が避け得ないことがある。しかしながらこの影響は、それが極めて微小であることと、金属の塗膜を形成する材料としての含有比率が一定であれば、電子写真感光体としての機能を保証する上で塗膜の厚みを計測する手段としてなんら問題にはならない。
【0004】
しかし前記の一般的な渦電流を用いた膜厚測定方法では次のことが必要となる。即ち、渦電流の検知距離が測定対象となる塗膜の厚み、即ち基体である金属体の外表面から塗膜の外表面までの距離と同一になるようにするため、測定子を前記塗膜の外表面に当接させて位置決めすることである。このとき、当接によって塗膜表面にその痕跡が残ることはほぼ避けられない。従って、一般的にはこうした測定においては生産品自体を測定することは望めず、予め用意した膜厚測定のためのサンプルワークを用いて測定する必要がある。加えて当接に不可欠な当接圧力によって少なからず塗膜の変形が発生することも避けられない。更には塗膜の強度が非常に低い状態での測定においては、当接圧力をいくら抑えたとしても、塗膜の膜厚を正確に測定することが困難な場合も発生する。
【0005】
こうした場合、電子写真感光ドラムが円筒体の場合は、円筒体が不動の一点を中心として回転出来るようにその両端を何らかのチャッキングやその他の手段で正確に把持する。及び測定対象の塗膜が存在するのと同一断面上に、前記渦電流測定子と、非接触にて物体の外表面までの距離を測定可能な変位計測手段(例えばレーザー変位計など)を、同一断面円内の前記不動の回転中心に向けて固定する。そして、円筒体を前記二つの測定手段の挟角分だけ回転させて、それぞれが同一の点を計測した両距離の差を算出することによって、塗膜の膜厚を測定することは可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では前記電子写真感光ドラムの高精度化に向けた要求から、より多くの、或いは全ての生産品の膜厚を高精度に測定することが必要となっている。また、製造工程においてより高い生産能力が求められていることから、前記のように高精度に円筒を回転させるような両端把持方法を用いるのは困難と言わざるを得ない。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑み、円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜を有する円筒体上の塗膜又は被膜の厚みの測定においてかかる負荷が少なく、個々の測定値が極めて正確にすることを主たる目的として成される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、円筒状基体の外表面の断面円の形状を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚みを測定する方法であって、前記円筒状基体外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記円筒状基体外表面の軸に対して直交する前記円筒状基体外表面の断面円内に設定した、被測定円筒である円筒状基体の回転軸と前記断面円が交わる点である基準点に対する前記断面円の円周上に定められた3つ以上の点の距離の前記円筒状基体の回転による変化に基づいて、前記基準点と前記円周上の点との距離を算出して前記円筒状基体外表面の断面円の形状を特定し、且つ前記塗膜又は被膜外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記3つ以上の点とは別の、前記断面円と同一の断面上且つ前記塗膜又は被膜の外表面上の1つ以上の点と前記基準点との距離を算出し、前記円筒状基体外表面の断面円の形状をもとに前記塗膜又は被膜の厚みを測定することを特徴とする、円筒状基体の外表面の断面円の形状を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚みの測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
従来の測定方法の殆どが、より高い測定精度を得ることを目的として、測定子を塗膜表面に当接させてしまうか、測定基準位置として円筒中心の機械的限定の正確さを追求することに負荷を要している。本発明で提供する方法では、この円筒中心が回転によって移動してしまうような仮想中心即ち浮動中心であることを前提として捉えて機械的に限定することがない。そして、測定に従って順次測定子より得られる数値の変遷を元にこの浮動中心の位置を追跡して理論的に捕捉、限定し、これを基準とした基体の形状と塗膜の外表面形状を求めることを主たる特徴とする。従って、この方法によれば前記の円筒中心を正確に限定する必要が無いことから、かかる負荷を軽減することが出来る。また極めて簡便に、且つ高い精度を伴って前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜を有する円筒体の前記塗膜又は被膜の厚みを測定することが可能である。
【0010】
加えて、本発明で提供する方法では、上に設けられた塗膜又は被膜を有する円筒体の前記塗膜又は被膜の厚みを測定するにあたって回転させる方法が限定されない。従って、両端部を開放させたまま、或いはフランジ等の部品を装着した状態での測定が可能である。本測定方法を用いた測定機構を生産ライン中に搭載しても搬送手段との干渉などの問題が発生しずらく、非常に簡便且つ高精度な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の説明は本発明において用いる方法の一例であって、同様の効果は他の形態をもってしても得られる。また、以下の説明に用いる図3(a)、図3(b)、及び図4(a)から図5(a)では、説明の便宜上S1を鉛直方向の頂点に配置して示した。
本実施態様に係る円筒体状基体の表面の塗膜の膜厚の測定に用いる装置の一例を図2に示す。まず、表面に塗膜7を備える円筒状基体1を回転可能な円筒受け治具である2つのコロ(円筒受け治具)6上に塗膜7の外表面を当接させて載置する。当前記測定装置をガイドレール4及びボールねじ5によって円筒状基体1の円筒の回転軸に平行に往復可能に設けられた取り付け台2及び支持台3に、円筒状基体1の回転軸と直角を成す同一断面上に位置させる。そして、前記測定装置は前記円筒状基体1の回転軸と該回転軸と直角を成す断面とが交わる点である測定基準点Oに向けられる。及びそれは測定基準点Oを中心として互いに所定の角度θを挟んで扇状に配置して取り付け台2に固定された4個のセンサー(変位を検出するためのセンサー。以下同じ)S1,S2,S3、及びS4を有する。4個のセンサーS1、S2、S3、S4と2つのコロ6の回転中心は、共に同一の機械に固定されており、互いの位置は常に変化しない。
【0012】
また、Oは前記4つのセンサーの検知軸が互いにほぼ交わる点で、機械基準に準じて常に移動しない測定基準位置である。それと同時に、測定に従って真円ではない円筒状基体1がコロ6上を塗膜7の外表面を当接させて回転するにつれて移動する仮想中心即ち浮動中心Oの始点でもある。(以降On=0と記す。nは断面円の円周形状を算出するために要する数であり、例えば、均等にθ°間隔で上記距離を求めて断面円の円周形状を算出する場合には、n=360°/θ°となる。図1に示すフローチャートでは、表記の便宜上、OnをO´として表示する。)Oの位置は、Oが円筒状基体1の被測定断面円の真の中心と一致しておらず、且つ塗膜7の外表面が真円形状でない限り、円筒状基体1の被測定断面円が測定に伴って回転するに従って順次移動する。これを仮想中心即ち回転により移動してもよい浮動中心として捉えている。しかし、Oと円筒状基体1の被測定断面円上の各点との間の距離は常に変化しない。即ち、図8に示すように、浮動中心の始点を基準点として、円筒を所定角度(θ°)で回転させると浮動中心は始点から移動する。更に再度回転させると浮動中心は更に移動し、順次回転させ、最終的に360度の円筒の回転により、浮動中心は図示するような浮動中心の軌跡をとることとなる。よって、本発明の測定方法は、測定基準位置を機械的に限定することがない。そして測定に従って順次測定子より得られる数値の変遷を元にこの浮動中心の位置を測定円筒が一刻み毎に回転するたびに追跡して理論的に捕捉し、該浮動中心と測定対象たる円の円周上の点との距離を算出する。
また、本明細書において使用する、「回転軸」、「軸」、及びそれらと交わる「点」は、例えば数学的に用いるような太さを持たない直線や面積をもたない点を指すのではない。それらは図2に示すように、被測定円筒は自身の外周面を基準として回転するので、少なくとも被測定円筒が真円筒でないか、或いはコロ6に当接する外周面が真円形状でない限り、回転軸や点は、ある範囲を持っている。以下に、その範囲を示す数値について説明する。回転軸の範囲は、測定される断面円の最小自乗中心を中心として、ΔLを半径とする円を範囲として示したとき、好ましくは次のことを満足する。下記式且つΔL´<d2・10−3を満たし、更に好ましくは、下記式且つΔL´<d2・10−4を満たし、
最も好ましくは、下記式且つΔL´<d2・10−5を満たす。
【0013】
【数1】

【0014】
例えば、最も好ましい場合の回転軸の範囲は、d2=50.00mmかつT=0.05mmとした場合には、ΔL´<0.0005mm、ΔL<0.274mmとなり、計算による回転軸の範囲はφ0.548mmとなる。
【0015】
またΔLの現実性として、このような精度でのセンサーの位置決めは、現代の機械加工技術の水準(当業界での一般的な限界は、d2=50mmのときΔL≒0.002mm程度)からすれば、なんら問題なく可能な範囲でもある。
【0016】
塗膜7の膜厚を測定するに際し、これを備える円筒状基体1の、軸と直交する断面の円の形状の測定方法について述べる。ここでは、円筒状基体1の1測定あたりの回転角度θ°を30°とした。従って円周上の測定点は図4(a)に示す通り1から12の12点となる。そして本測定方法では、いったん前記浮動中心の始点O(On=0)と円筒状基体1の被測定断面円の円周上の各点1から12との距離を算出し、円筒状基体1の被測定断面円の形状を特定する。更に同様に塗膜7の外周円形状を捉えて、最終的に膜厚を得ることになる。
次より膜厚の測定方法を順次説明する。なお、図1は次より述べる膜厚の測定方法に関するフローチャートであり、膜厚を算出する工程は該フローチャートに従って遂行される。
【0017】
第一段階として、図3(a)に示すように、外径値が既知であり且つ断面が真円形状である基準円筒8を用いて、前記基準円筒8の断面の円中心を前記測定基準点OとしてセンサーS1、S2、S3及びS4からOまでの距離を限定する。これに際して、先ず、基準円筒8を前記2つのコロ6上に載置して、センサーS1から前記基準円筒8の外表面までの距離を測定し、ΔS1とする。基準円筒8は外径値が既知であることから、その半径値、即ち円中心Oから基準円筒8の外表面までの距離をd2とすれば、センサーS1からOまでの距離LS1は下記式で得られる。
【0018】
L1S = ΔS1 + d2
【0019】
同様に、センサーS2及びS3についても図4(b)に示すようなLS2及びLS3を求める。
【0020】
このとき、センサーS1、S2、S3のいずれの検知軸も前記測定基準位置Oを通過することなく、且つ3つの検知軸が互いに1点で交わっていないとき、この検知軸に対する測定基準位置Oの位置のズレは前記LS1、LS2,LS3の値に誤差を生じる。しかしながらその誤差は極めて小さく、これについてLS1を例として図3(b)を用いて説明する。基準円筒8の断面円の円中心である測定基準位置OとセンサーS1の検知軸までの最小距離、即ちセンサーS1の、検知軸に直交する方向での位置決め誤差距離をΔLとする。また前記検知軸と平行且つ測定基準位置Oを通過する軸が円周と交わる点と測定基準位置Oとの距離、即ち基準円筒8断面の半径距離をd2とする。そのとき、LS1に与える誤差ΔL´は下記式で得られる。
【0021】
【数2】

結果、ΔL´は非常に小さくなる。一例として、センサーS1を現在の比較的に容易な機械加工方法の範囲で位置決め加工した際に想定される位置ずれ誤差、即ち前記ΔLを挙げる。それは、大きくてもせいぜい±3.0μm程度であって、このとき基準円筒8の外径が100mmであった場合、ΔL´は数式1より約9.0×10−5μmとなる。この数値が、一般的に高精度とされるセンサーの測定再現性がほぼ0.1μmであることを考慮すれば、測定結果に与える影響は極めて小さいと言える。
【0022】
加えて、測定子の位置決め加工によって生じる誤差は、前記の位置決め誤差とは別に角度誤差についても言及されるべきである。これについては、いったん前記位置決め誤差と分離して、センサーS1の検知軸に対する角度誤差のみに由来する前記ΔLは、下記式で与えられる。
【0023】
ΔL = ΔS1・tanθ
【0024】
例えば分解能1μm程度の触芯式センサー等を用いて加工し位置決めした場合に想定される角度誤差は一般に±14秒(3.9×10−3°)程度である。また、センサーS1と基準円筒8の外表面までの距離ΔS1が1.0mm程度のときは、ΔLが0.068μmとなる。このとき基準円筒8の外径が100mmであった場合、ΔL´は数式1より約4.6×10−8μmであり、誤差として極めて小さいと言える。
【0025】
従ってセンサーS1は、これまで述べた範囲の測定系においては自身の検知軸が基準円筒8の断面円の円中心を通過していなくとも、前記円中心を測定基準位置Oとして測定を行うことが出来る。また、以上のことからLS2,LS3についても同様に扱うことが出来る。更に加えて述べれば、前記浮動中心Oの移動距離はあくまで前記LS1、LS2、LS3の数値によって算出されるものであって、前記ΔLの距離に影響を受けるものではない。
【0026】
続いて前記2つのコロ6上に円筒状基体1を載置し、センサーS1から円筒状基体1の外表面までの距離を測定し、S1とする。このときLS1が既知であることから、LS1からS1を減算して前記1を算出し、同様に、12及び11を測定、算出する。
【0027】
第二段階として、円筒状基体1を右方向に30°回転させる。すると第一段階での円筒状基体1の円周上の測定点1、12及び11は、図4(b)に示すように、各々1、12、11に移動する。またセンサーS1、S2及びS3は、各々円筒状基体1の円周上の点2、1及び12と測定基準点Oとの距離を測定可能となる。このとき、浮動中心On=0が、円筒状基体1の被測定断面円の真の中心と一致していない且つ塗膜7の外周形状が真円形状でないことを前提として、OはOn=1に移動する。この時点では、浮動中心On=0と円筒状基体1の円周上の点2との距離は不明である。次いで、センサーS1、S2及びS3を用いて、各々円筒状基体1の円周上の点2、1及び12と測定基準点Oとの距離L2、L1及びL12を測定する。
【0028】
ここで、回転による各距離の変化から浮動中心Oの現在位置On=1の位置を求める。L1、L12は既知であることから、センサーS2及びS3の各検知軸上におけるOn=0からOn=1への移動距離ΔL1、ΔL12が求まる。
【0029】
ΔL1=L1−L1・・・(1)
ΔL12=L12−L12・・・(2)
【0030】
以降、この2つの距離を用いてセンサーS1の検知軸上での浮動中心On=1の移動距離ΔL2を求める。そして、L2とΔL2の差をとることで、浮動中心On=0と円周上の点2との距離が求まる。即ち、図5(b)に示すようにΔL1をaとし、センサーS1の検知軸と浮動中心On=1の最短距離即ちセンサーS1の検知軸をy軸とする直交座標で表すところの浮動中心On=1のx軸成分での移動距離をbとする。そして、aとbをそれぞれ図5(b)に示すr及びr´を用いて表せば、
r´・sinθ+r=a ・・・(3)
r´+r・sinθ=b ・・・(4)
r´=(b−a・sinθ)/(cosθ) ・・・(5)
r=a−sinθ・[(b−a・sinθ)/(cosθ)] ・・・(6)
更に、図5(b)より、ΔL2=r・cosθであることから、
ΔL2=a・cosθ−tanθ(b−a・sinθ) ・・・(7)
ここで、図5(a)より、
ΔL12−b・sin(θ+θ)=ΔL2・cos(θ+θ) ・・・(8)
ΔL2=[ΔL12−b・sin(θ+θ)]/[cos(θ+θ)] ・・・(9)
a・cosθ−tanθ・(b−a・sinθ
=[ΔL12−b・sin(θ+θ)]/[cos(θ+θ)] ・・(10)
b=[a(cosθ+sinθ・tanθ)・cos(θ+θ)−ΔL12]/[tanθ・cos(θ+θ)−sin(θ+θ)] ・・・(11)
従って、ΔL2は、以下の2つの式に含まれる引数、即ちセンサーの互いの挟角と測定値によって求めることが可能である。数式(7)より、
ΔL2=ΔL1・cosθ−tanθ(b−ΔL1・sinθ) ・・・(12)
b=[ΔL1・(cosθ+sinθ・tanθ)・cos(θ+θ)−ΔL12]/[tanθ・cos(θ+θ)−sin(θ+θ)] ・・・(13)
上記(12)(13)式を用いて求められたΔL2から、L2=L2−ΔL2として、L2を得る。
【0031】
第三段階として、更に円筒状基体1を右方向に30°回転させる。すると、上記第二段階に於ける円筒状基体1の円周上の測定点2、1、12は、各々2、1、12に移動する。またセンサーS1、S2、S3は、各々円筒状基体1の円周上の点3、2及び1と測定基準点Oとの距離を測定可能となる。また浮動中心On=1は、更にOn=2に移動する。次いで、センサーS1〜S3を用いて、各々円筒状基体1の円周上の点3、2及び1とOとの間の距離を測定する。これらの測定値を用いて、上記と同様の方法にて浮動中心On=2のOn=0からの移動距離を算出する。更にその計算結果を用いて、センサーS1の測定軸(y軸)上におけるOn=2のOn=0からの移動距離(ΔL3)を求める。そこから浮動中心On=0と円筒状基体1の円周上の点3との距離を求める。以降、同様に円筒状基体1を30°ずつ回転させ、浮動中心On=0と円筒状基体1の円周上の点4、5、6、7、8、9及び10各々との距離L4、L5、L6、L7、L8、L9及びL10を求める。このとき、L11、L12、についても同様な方法を用いて算出すれば、より高い精度の測定結果を得ることが出来る。
【0032】
最後に、塗膜7の膜厚を求めるにあたり、これまで求めた浮動中心Oの、センサーS4の検知軸上での移動距離を求める。ここでは、浮動中心On=1を用いて述べる。図6のようにセンサーS1の検知軸を直交座標系のY軸とかさねて示す。その場合、センサーS4の検知軸は、X軸との挟角θは90°+θ、浮動中心Oとの挟角をθ、OとOの距離をΔL1としたとき、浮動中心OのセンサーS4の検知軸上での移動距離をΔLは、下記式で得られる。
【0033】
ΔL=ΔL1・cos(θ−θ)・・・(14)
【0034】
そして塗膜7の膜厚は、このΔLを用いて前述と同様に塗膜7の外周形状を求め、既に明らかな円筒状基体1の被測定断面の寸法形状を減算することによって算出することが出来る。
【0035】
ここで、先に述べたように浮動中心Oは円筒状基体1が回転するに従ってその位置を移動する点であることから、必ずしも常にセンサーの検知軸上に存在することは望めず、この検知軸に対する浮動中心Oの位置のズレは測定誤差を生じる。しかしながらその誤差は次のようになる。まず浮動中心Oと前記検知軸までの最小距離をΔL、検知軸上の円筒状基体1の円周と測定基準位置Oとの距離をL、検知軸と平行且つ浮動中心Oを通過する軸が円筒状基体1の円周と交わる点と測定基準位置Oとの距離をLとする。そのとき、検知距離に与える誤差ΔL´は下記式で得られる。
【0036】
【数3】

結果、ΔL´は非常に小さくなる。一例として、平均半径が50mmであって真円度が100μm程度の円を測定対象とした場合、浮動中心Oの移動距離は50μm程度生じることが想定され、ΔL´は、約0.025μmとなる。この数値は、誤差として測定値に対して5×10−5%、浮動中心Oの移動距離に対しても0.05%である。一般的に高精度とされるセンサーの測定再現性がほぼ0.1μmであることを考慮すれば、測定結果に与える影響は極めて小さいと言える。
【0037】
加えて、円筒状基体1を測定に従って回転させるときに生じることが予想される、回転角度に起因する誤差について次に言及する。回転誤差角度をθ°、検知軸上の円筒状基体1の円周と測定基準位置Oとの距離をL、測定基準位置Oで検知軸と前記回転誤差角度を挟んで交差する軸上の、測定基準位置Oから円筒状基体1の円周までの距離をLとする。検知距離に与える誤差ΔL´は下記式で与えられる。
【0038】
【数4】

結果、ΔL´は非常に小さくなる。一例として、測定対象円の平均半径が50mmであって、回転誤差が0.1°生じた場合のΔL´は、約0.076μmとなる。この数値は、誤差として測定値に対して1.5×10−4%である。この誤差は前記の一般的なセンサーの測定再現性に加えて、一般的且つ安価な回転機構の停止精度がその再現性としてほぼ0.04°程度を十分期待出来ることを考慮すれば、測定結果に与える影響は極めて小さいと言える。
【0039】
以上述べた測定方法は、円筒状基体1の被測定断面円筒の外径、内径、及び長さによってその機能が影響を受ける度合いが小さいことから、例えば外径においては、φ5mm程度の非常に細いものから数メートルに至るものにまで用いることが出来る。更に、円筒状基体1の被測定断面円筒が自身の長さや重量に対して非常に細いか、又は材質として軟らかいか、或いは非常に薄肉である等の理由から、測定中に重力の影響を受けて撓む等の弾性変形を生じて測定結果に影響を与える可能性が有る。そのときは、円筒状基体1の被測定断面円筒の回転軸を重力その他の外的作用方向に対して平行に近づけて測定を行うことが有効である。
【0040】
また、各回転軸と直角を成す断面の円周形状の測定にあたって円筒状基体1の被測定断面円筒を回転させる際、各測定位置において回転を停止させることなくセンサーによる測定を行うことも、測定時間の短縮において有効である。
【0041】
更には、センサーを固定する前記取り付け台を複数台使用して、同時に複数の回転軸と直角を成す断面の円周形状を測定することによって、より少ない回転数、特には1回転のみでの測定を行うことも非常に有効である。
変位が測定可能なセンサーは、角度θを挟んで配置されたAとBの2つのセンサーと、角度θを挟んで配置された、A´とB´の2つのセンサーの4つのセンサーとからなる。且つ、前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の変位が測定可能なセンサーが、前記4つのいずれかのセンサーと前記θの正の整数倍の角度を挟んで配置されることによって、よりデータ数の多く、かつ測定精度の高い測定を行うことが出来る。このとき、AとA´又はBとB´の挟角の角度が前記θの正の整数倍であれば、より好ましい。
【実施例】
【0042】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0043】
円筒状基体として予め一般的な切削加工を施された、加工設定外径がφ84.0mm、内径がφ78.0mm、長さ360.0mmのA3003アルミニウム合金製円筒状基体を準備した。次に、下記式1で示されるアミン化合物9質量部、
【0044】
【化1】

【0045】
下記式2で示されるアミン化合物1質量部と、
【0046】
【化2】

【0047】
下記式3及び4で示される両ポリアリレート樹脂をそれぞれ7対3の割合で共重合させて作成した結着樹脂10質量部
【0048】
【化3】

【0049】
【化4】

【0050】
をモノクロロベンゼンに溶解して塗布液を作成した。そして、この塗布液を前記アルミニウム合金製円筒状基体に浸漬塗布法で塗布した。
【0051】
これを被測定円筒状基体サンプルとした。同時に基準円筒として、円筒の一端から回転軸方向に80mmの位置の真円度が0.20μm、平均外径値が84.000mmであることと前記塗膜を備えない以外は被測定円筒状基体と同様なアルミニウム合金製円筒を準備した。なお、基準円筒の形状測定に際しては、真円度測定器(商品名:ラウンドテストRA−H5000AH;株式会社ミツトヨ社製)を用いた。
【0052】
基準円筒を、図7に示す様に、3つの渦電流式センサーS0、S45、S90及び正反射型レーザー式センサーTを次のように載置した。各センサーの測定軸が、前記円筒の軸に直交する方向の断面の円内の所定の点においてほぼ交わり、且つその点を中心として、それぞれ互いに挟角として45°を挟んで扇状に配置した円筒体測定器の円筒受け治具上に位置される。上記4つのセンサーは、円筒状基体の被測定断面円の一端から回転軸方向に80mmの位置に配置した。渦電流式センサーはKAMAN社製渦電流式センサー、正反射型レーザー式センサーはキーエンス社製CCDレーザー変位センサLK010をそれぞれ使用した。このときの各センサーの検出値は、ΔS0=448μm、ΔS45=273μm、ΔS90=296μm、ΔT=321μmとなった。このとき各センサーから前記測定基準位置Oまでの距離を、LS0=42.448mm、LS45=42.273mm、LS90=42.296mm、LT=42.321mmとした。
【0053】
次に、受け冶具上の基準円筒を前記被測定円筒状基体と交換し、回転駆動伝達機にて一測定回数あたり45°ずつ回転させて測定を計8回行った。そして得られた検出値を、センサーごとに前記LS0,LS45,LS90及びLTから減算し、各測定ポイントから測定基準位置Oまでの距離を求めた。これをセンサーS0,S45,S90については表1に、センサーTについては表3にそれぞれ示す。なお、表1から表3中の寸法単位は、全てmmとして記した。
【0054】
以降、実施例で使用する表の枠中では、測定開始時点でS0位置における測定を0°とし、円筒状基体の被測定断面円筒の回転に従ってS0に到達する円周表面上の被測定位置に順次45°を加算して与える。
【0055】
前記浮動中心の移動距離を求めるにあたり、センサーS45、及びS90の検知軸上における各移動距離を、前記式(1)、(2)を用いて算出する。このとき各軸上での移動距離は、S45の検知軸上ではS45の測定値と45°回転前のS0の測定値との差、S90の検知軸上ではS90の測定値と45°回転前のS45の測定値との差としてそれぞれ算出する。以上を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
次に、前記式(13)を用いて、直交座標位置におけるΔxを求め、続いてΔyとして、前記式(12)を用いて算出した。ここでΔx及びΔyは、直交座標位置で示すところの浮動中心Oの移動距離である。続いて、このΔyをS0の測定値から減算することによって、S0位置の真値、即ち浮動中心Oを基準とした円筒状基体の被測定断面円筒表面までの距離を求めた。以上を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
最後に塗膜の膜厚を求めるにあたり、これまで求めた浮動中心Oの、センサーTの検知軸上での移動距離を前記式(14)を用いてΔLtとして求めた。ここでは、センサーTの検知軸と前記X軸との挟角θは135°として与えた。このΔLを用いて前述と同様にTの真値を求め、既に求められているS0の真値との差を求めて膜厚値を得る。なお、TとS0との位置関係から、本実施例ではS0はTよりも回転方向に対して45°位相を遅らせた数値、即ち回転回数が1回分後の真値を用いて減算した。以上を表3に示す。
【0060】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により円筒状基体上の塗膜又は被膜の膜厚の測定が容易になり、本発明は精度の良い塗膜形成に寄与する技術として利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】測定フローチャート
【図2】測定機概略図
【図3】(a)基準円筒とセンサーとの位置を示す図、(b)センサーの位置決め誤差を示す図
【図4】(a)測定位置説明図、(b)浮動中心の移動に関する説明図
【図5】(a)浮動中心位置の算出に関する説明図(1)、(b)浮動中心位置の算出に関する説明図(2)
【図6】浮動中心Oの、センサーS4の検知軸上での移動距離
【図7】実施例1のセンサー位置を示す図
【図8】浮動中心の軌跡を示す図
【符号の説明】
【0063】
1 円筒状基体
2 センサー取り付け台
3 支持台
4 ガイドレール
5 ボールねじ
6 円筒受け治具
7 塗膜
8 基準円筒
S1 センサーS1
S2 センサーS2
S3 センサーS3
S4 センサーS4
S0、S45、S90 渦電流式センサー
T 正反射型レーザー式変位測定センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基体の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚み及び塗膜又は被膜の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定して測定する方法であって、
前記円筒状基体外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記円筒状基体外表面の軸に対して直交する前記円筒状基体外表面の断面円内に設定した基準点に対する前記断面円の円周上に定められた3つ以上の点の距離の前記円筒状基体の回転による変化に基づいて、前記基準点と前記円周上の点との距離を算出して前記円筒状基体外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、
且つ、前記塗膜又は被膜外表面の変位が測定可能な測定手段を用いて、前記3つ以上の点とは別の、前記断面円と同一の断面上且つ前記塗膜又は被膜の外表面上の1つ以上の点と前記基準点との距離を算出し、前記円筒状基体外表面の断面円の形状をもとに前記塗膜又は被膜の厚みを測定することを特徴とする、
円筒状基体の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚み及び塗膜又は被膜の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の円筒状基体を回転する円筒受け治具に載置し、前記円筒体の略回転軸に平行に往復可能に設けられた取り付け台に、センサー(変位を検出するためのセンサー。以下同じ)が前記円筒体の前記略回転軸と直角を成す同一断面上に取り付けられており、
前記センサーは、前記略回転軸と前記断面とが交わる点である測定基準点(O)に向けられ、且つOを中心として互いに角度θで扇状に配置して取り付け台に固定された3個以上あるm個の前記円筒状基体外表面の変位を測定するするセンサーS(S1、S2・・・Sm)と、前記塗膜又は被膜の外表面の変位を測定するセンサーTとであり、
前記m個のセンサーSによって測定された前記センサーSから前記円筒状基体の中心点までのn(断面円の円周形状を算出するために要する数であって、均等にθ°間隔で上記距離を求めて断面円の円周形状を算出する場合には、n=360°/θ°)個の距離データLS(LS1、LS1・・・LSm)及び前記センサーTから前記円筒状基体の中心点までのn個の距離データLT(LT、LT・・・LT)より、前記円筒状基体の断面円形状と円中心と真円度と外径値、及び前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚みΔLT(LT、LT・・・LT)を求めることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記円筒状基体が渦電流を用いた変位測定が可能な材料からなり、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜が前記渦電流を用いた変位測定が不可能な材料からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記円筒状基体外表面の変位が測定可能な変位測定手段が、角度θを挟んで配置されたAとBの2つのセンサーと、角度θを挟んで配置された、A´とB´の2つのセンサーの4つのセンサーからなり、且つ、前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の変位が測定可能な変位測定手段が、前記4つのいずれかのセンサーと前記θの正の整数倍の角度を挟んで配置されることを特徴とする、請求項1−3に記載の測定方法。
【請求項5】
円筒状基体の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚み及び塗膜又は被膜の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を測定する装置であって、
前記円筒状基体を保持する保持手段、
前記円筒状基体外表面の変位が測定可能な測定手段、
前記塗膜又は被膜外表面の変位が測定可能な測定手段、及び
前記測定手段を支持する支持手段
とを備えており、
前記円筒状基体外表面の変位が測定可能な測定手段は、前記円筒状基体外表面の軸に対して直交する前記円筒状基体外表面の断面円内に設定した基準点に対する前記断面円の円周上に定められた3つ以上の点の距離の前記円筒状基体の回転による変化に基づいて、前記基準点と前記円周上の点との距離を算出して前記円筒状基体外表面の断面円の形状を特定し、
前記塗膜又は被膜外表面の変位が測定可能な測定手段は、前記3つ以上の点とは別の、前記断面円と同一の断面上且つ前記塗膜又は被膜の外表面上の1つ以上の点と前記基準点との距離を算出し、前記円筒状基体外表面の断面円の形状をもとに前記塗膜又は被膜の厚みを測定することを特徴とする、
円筒状基体の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を特定し、且つ前記円筒状基体上に設けられた塗膜又は被膜の厚み及び塗膜又は被膜の外表面の断面円の形状、円中心、真円度、外径値を測定する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−232637(P2007−232637A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56475(P2006−56475)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】