説明

半導体加工装置用部材及びその製造方法

【課題】環境温度の上昇、また昇温と降温の繰り返しなどの条件下において、被覆されたDLC膜の亀裂や剥離の発生を抑制する半導体加工装置用部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、被覆層を1層以上有する金属製基材からなる半導体加工装置用部材であって、前記被覆層の最外層が水素含有量18〜40at%のダイヤモンドライクカーボン層である。また、本発明の半導体加工装置用部材の製造方法は、金属製基材表面又は被覆層を1層以上有する金属製基材の最外層に、炭化水素含有ガス雰囲気下で、パルス幅が1μS〜20mS、印加電圧が−1〜−50kV、パルス繰り返しが1000〜8000ppsのパルス電圧を印加することにより発生するプラズマによってアモルファスカーボンを析出させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い腐食性の環境において使用される金属製部材のミクロ的な規模の腐食損傷を防止するとともに、部材表面に付着している化学物質および、ミクロ的な固体粉末からなる汚染物質を効果的に洗浄除去可能な薄膜と、その薄膜を形成した金属製部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の加工・製造分野では、腐食性の強い各種のハロゲンガスやハロゲン化合物を使用する環境に加えて、さらにシリコンウエハーなどのエッチング加工精度や効率を向上させるため、プラズマエネルギーを付加するなど他の産業では経験されないような過酷な腐食雰囲気下における作業を余儀なくされている。このため装置を構成する各種の部材・部品には耐食性を有する材料や表面処理皮膜が利用されている。
【0003】
なお、プラズマエネルギーが付加されている環境下では、Arガスのような腐食性のない気体でもイオン化してこれが固体面に強く衝突する現象(イオンホンバーメントと呼ばれている)や環境中に発生するSi02,Si34,Si,Wなどの微粉末状固形物などによるエロージョン損傷現象が発生するので、半導体製品の加工装置を構成する部材には優れた耐食性と耐エロージョン性を有する事が求められている。これらの要求に応えるため、古くからフッ素系あるいはエポキシ系樹脂の被覆、ニッケルめっき、窒化などの処理部材が使用されている。さらに優れた耐食性部材として、下記特許文献1〜3に示すようなアルミニウムめっきやアルミニウムの拡散処理部材がある。これらの処理部材の採用によって腐食損傷の程度はかなり軽減してきたが、半導体製品の一層の高性能化を達成するため、アルミニウム拡散処理材を凌駕する耐食性皮膜の要求が高くなっている。これに応える為、下記特許文献4〜7に示すダイヤモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:以下DLCと略記)を被覆した部材による対策技術が開示されている。さらにDLCに関する用途として、半導体加工装置の洗浄用部材に応用して優れた耐食性と耐食性の向上によるDLC被覆部材からの汚染物質(水溶性の腐食性生物が主成分)の排水による環境の悪化を防ぐ手段が、下記特許文献8〜11に開示されている。
【特許文献1】特開昭60−63364号公報
【特許文献2】特開平4−193966号公報
【特許文献3】特開平10−219426号公報
【特許文献4】特開平9−313926号公報
【特許文献5】特開2002−110655号公報
【特許文献6】特開2003−133194号公報
【特許文献7】特開2003−51485号公報
【特許文献8】特開2000−262989号公報
【特許文献9】特開2000−70884号公報
【特許文献10】特開2000−265945号公報
【特許文献11】特開2003−209086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献4〜11のDLC膜自体は非結晶の炭素を主成分としているため、酸、アルカリ、ハロゲンガスおよびその化合物に対しては卓越した耐食性を発揮するという特徴がある。また、薄膜であっても非常に硬質であるため、微粉状の固形物に起因するエロージョンにも十分な抵抗を示す特徴がある。しかし、これらの特徴を有する反面、ただ単にDLC膜を被覆しただけでは、環境温度の上昇、また昇温と降温の繰り返しなどの条件下において、DLC膜に亀裂が発生し、剥離脱落する現象を引き起こすことがあり、その対策技術の確立が求められている現状にある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、環境温度の上昇、また昇温と降温の繰り返しなどの条件下において、被覆されたDLC膜の亀裂や剥離の発生を抑制する半導体加工装置用部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被覆層を1層以上有する金属製基材からなる半導体加工装置用部材であって、前記被覆層の最外層が水素含有量18〜40at%のダイヤモンドライクカーボン層である。
また、前記金属製基材が、その表面から深さ10〜200nmのFe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の金属イオンの注入層を有するものであることが好ましい。
また、前記被覆層が、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたFe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の金属薄膜、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたSiC、TiC、WC、Cr32、MoC、TaC及びNbCのうちから選ばれる1種以上の金属炭化物薄膜、又は、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたTiN、CrN、AlN、TiAlN及びSi34のうちから選ばれる1種以上の金属窒化物薄膜を有するものであることが好ましい。
さらに、前記金属製基材が、Cr、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Alの単体とその合金、Mg合金、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金及びCo基合金のうちから1種選ばれるものであることが好ましい。
【0007】
本発明の半導体加工装置用部材の製造方法は、金属製基材表面又は被覆層を1層以上有する金属製基材の最外層に、炭化水素含有ガス雰囲気下で、パルス幅が1μS〜20mS、印加電圧が−1〜−50kV、パルス繰り返しが1000〜8000ppsのパルス電圧を印加することにより発生するプラズマによってアモルファスカーボンを析出させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、DLC膜における水素含有量を18〜40at%に制御できるので、環境温度の上昇や昇温と降温の繰り返しなどの条件下において、被覆されたDLC膜の亀裂や剥離の発生が抑制される半導体加工装置用部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態に係る半導体加工装置用部材及びその製造方法について、図を参照しながら説明する。なお、一度説明した部分と同様の部分においては、その説明を省略することがある。
【0010】
(第1実施形態)
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図である。この第1実施形態に係る半導体加工装置用部材1は、金属製基材2表面にDLC膜3のみが被覆されたものからなる。
【0011】
金属製基材2は、Cr、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Alの単体とその合金、Mg合金、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金及びCo基合金のうちから1種選ばれるものである。
【0012】
DLC膜3は、その厚さが1〜50μm、特に5〜20μmであることが好ましい。1μm未満であると、DLC膜3の効果を十分に発揮できず、50μmよりも厚いと形成に長時間要する上、内部残留応力が大きくなり剥離しやすくなるという問題が発生するからである。なお、本発明のDLC膜3は、非結晶(アモルファス)である。
【0013】
次に、本実施形態に係る半導体加工装置用部材1の作製方法である、DLC膜3を金属製基材2表面に被覆する方法について説明する。図2は、本実施形態において使用する高密度パルスプラズマイオン注入装置の概略図を示したものである。本装置は、金属製の処理容器21の中に被処理体22を静置させるとともに、それぞれがパルス高周波電源又はパルス電源23に接続され、前者は「+」極、後者は「−」極となるように配設されている。また、金属製の処理容器には、気相イオン(例えば酸素、窒素、アルゴンなど)源24、金属イオン源25などとともに、容器内の環境を制御するための真空ポンプ26(図外)や気圧調整弁27が取り付けられている。なお、本実施形態においては、DLC膜3を形成するために、気相イオン源24は、C22、CH4等の炭化水素ガスの導入に用いられる。また、金属イオン源25は、DLC膜3の形成には用いられない。
【0014】
処理容器内の空気を真空ポンプを用いて除去した後、C22、CH4等の炭化水素ガスを、単独又はAr、He、N2等の不活性ガスとの混合状態で容器21内に導入し、被処理体22(金属製基材)に負パルス電圧(例えばパルス幅1μS〜20mS、印加電圧−1kV〜−50kV、パルス繰返し1000〜8000pps)を印加すると、被処理体22を取りまくプラズマ28中において、炭化水素が励起分解されて、その一部が固形炭素となって析出し、DLCを構成する。水素は炭素中に含まれるが大部分はガス状態で排気される。容器21内に導入する炭化水素ガス量は0.2〜2.0Paの範囲が好適であるが、これ以上流しても未反応のガスを多量に排出するだけのこととなり、経済的でない。
【0015】
なお、DLC膜3の被覆方法としては、上記方法の他に、ガス状のC66等を用いるイオン源方式や、CH4ガス等を用いるプラズマCVD法等が挙げられるが、これらに限られない。
【0016】
上記のように構成された本実施形態によれば、DLC膜における水素含有量を18〜40at%に制御できるので、環境温度の上昇や昇温と降温の繰り返しなどの条件下において、被覆されたDLC膜の亀裂や剥離の発生が抑制される半導体加工装置用部材を提供することができる。
【0017】
(第2実施形態)
図1(b)は、本発明の第2実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図である。この第2実施形態に係る半導体加工装置用部材4は、表面から所定深さのイオン注入層5aを有する金属製基材5の表面にDLC膜3のみが被覆されたものからなる。
【0018】
金属製基材5は、第1実施形態の金属製基材2と同様、Cr、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Alの単体とその合金、Mg合金、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金及びCo基合金のうちから1種選ばれるものでもよく、Cr、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Al以外の合金、Ni、Cuのうちから1種選ばれるものであってもよい。
【0019】
イオン注入層5aは、金属製基材5の表面から深さ10〜200nmの範囲において、Fe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の金属イオンが注入された層である。
【0020】
次に、本実施形態に係る半導体加工装置用部材4の作製方法について説明する。まず、金属製基材5の表面から深さ10〜200nmの範囲にイオン注入層5aを形成する方法について説明する。なお、本実施形態においては、図3の概要図に示す金属イオンの注入装置を用いた直接的金属イオン注入法と、上記第1実施形態で用いた図2の概要図に示す高密度パルスプラズマイオン注入装置を用いたプラズマイオン注入法の2つについて説明する。
【0021】
(直接的金属イオン注入法)
図3に示す金属イオンの注入装置は、主としてイオン源ガス導入口31、イオン発生室32、静電加速器33、質量分離器34、ビーム走査器35、ターゲット試料(試験片)36および真空排気システム37(何れも図示せず)から構成されている。
【0022】
この金属イオンの注入装置におけるターゲット試料36(金属製基材)の表面に注入する金属のイオンとしては、Cr、Fe、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb、Al(以下Crなどと略記)が好適である。これらの金属イオンは真空中、例えば1×10-4PaでCrなどの金属をイオン化し、静電界によって加速して、ターゲット試料36表面へ衝撃的に注入する。
【0023】
Crなどの金属は、常温で固相状態であるから、電子ビームなどの熱源やスパッタリング現象を利用して金属をイオン化させたり、Crなどのハロゲン化合物などを気化させた後、イオン発生室32内に導入してイオン化させたりする。その後、イオン化した金属を加速器33にて静電界加速してイオンビームにした状態で、基材表面に衝突させる。
【0024】
イオンの注入量は1cm2当たり、1×1012〜1×1022個の範囲が適当であり、1×1012より少ない注入量では注入金属の効果が十分でなく、また、1×1022以上注入してもその効果に大きな差異が認められないので、処理に長時間を要し経済的でない。
【0025】
一方、基材表面に衝突したCrなどの金属イオンは、その運動エネルギーの大きさによって基材内部への侵入深さが異なるが、本発明の効果を得るには1KeVから1000KeVの範囲が適している。注入の運動エネルギーが少ない場合には、金属イオンの基材内部への打ち込みが不十分となり、単に表面に金属が堆積した状態(薄膜)になる。この状態であっても、使用環境が静的な状態であれば、十分利用することができる。
【0026】
(プラズマイオン注入法)
上記直接的金属イオン注入法は、イオンの真空環境で質量分離した後、必要なイオン種のみを選択し、これを加速して基材表面に注入するため、基材の表面が、平坦な状態にあることが必要であり、三次元的な構造を有する基材への注入は困難である。また1回の注入操作で1種類の金属イオンしか処理できない。
【0027】
そこで、金属イオン源を用いてCrなどの金属イオン種のプラズマ環境をつくり、基材に負のパルス電圧を印加することによって、基材表面への金属イオンのみを注入する現象を用いることとした。
【0028】
図2に示す高密度パルスプラズマイオン注入装置の処理容器21内の空気を真空ポンプ26を用いて除去した後、金属イオン種を導入し、被処理体22(金属製基材)に負パルス電圧(例えばパルス幅1μS〜20mS、印加電圧−1kV〜−50kV、パルス繰返し1000〜数1000pps)を印加すると、被処理体22を取りまくプラズマ28中の電子は、マイナスの電荷を持つため、「−」極の被処理体表面から反発されて飛びのき、プラスの電荷を有する金属イオンのみが残り、負のパルス電位を持つ被処理体22の表面に衝突する。この場合にも、印加電圧が高い場合には被処理体22の内部へ注入し、低い場合には表面に通常のイオンプレーティングによる被膜形成のような薄膜となる。
【0029】
この方法の特徴は、被処理体22を負のパルス電圧で印加した際に生成する金属イオンを含むプラズマ28は被処理体22の表面に沿って発生するため、三次元的な形状有する被処理体22に対しても、均等に金属イオンを注入することができる。形状や寸法の異なる被処理体を一緒に容器21内に入れても、同時に処理することができるので生産性の向上に大きく役立つことができる。
【0030】
また、プラズマ環境中にAr、He、N2などの気体分子を共存させておくと、これらの気体もイオンとなって金属イオンと同時に被処理体の表面に注入されることとなるが、このような現象に制約されるものでない。
【0031】
このように金属イオンが注入された金属製基材5の表面に、上記第1実施形態と同様のDLC膜3の被覆を行って、本実施形態の半導体加工装置用部材4を得る。
【0032】
上記のように構成された本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果に加え、金属製基材表層部にイオン注入層を形成することにより耐腐食性をさらに向上させた半導体加工装置用部材を提供できる。
【0033】
(第3実施形態)
図1(c)は、本発明の第3実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図である。この第3実施形態に係る半導体加工装置用部材6は、金属製基材2の表面に金属薄膜7、DLC膜3の順にそれぞれ被覆されたものからなる。
【0034】
金属薄膜7は、厚さ0.5〜15μmで被覆されたFe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の薄膜である。なお、金属薄膜7の代わりに、SiC、TiC、WC、Cr32、MoC、TaC及びNbCのうちから選ばれる1種以上の金属炭化物薄膜や、TiN、CrN、AlN、TiAlN及びSi34のうちから選ばれる1種以上の金属窒化物薄膜が被覆されていてもよい。なお、薄膜の厚さは0.5〜15μmの範囲が好適であるのは、以下の理由からである。0.5μmより薄い場合は均等な膜厚が得られにくく、この薄膜の上にDLC膜を形成した際、密着力に不均等な状態が顕在化するからである。また15μmより厚くてもDLC膜の性状、特に密着力の向上に格別の効果が認められず処理時間が長くなって生産コストの上昇を招くからである。
【0035】
次に、本実施形態に係る半導体加工装置用部材6の作製方法について説明する。まず、金属薄膜7の被覆方法としては、上記直接的金属イオン注入法やプラズマイオン注入法の他、各種の物理的蒸着法(例えばイオンプレーティング法、スパッタリング法、電子ビーム法、高周波励起蒸着法、熱電子活性化蒸着法など)および化学的蒸着法(例えば熱CVD法、プラズマCVD法、レーザCVD法など)を利用できる。
【0036】
なお、金属薄膜7の代わりに形成してもよい上記金属炭化物薄膜や金属窒化物薄膜は、金属薄膜7の被覆方法と同様の方法で金属製基材2に被覆できる。実質的には、酸素を含まない環境中において、炭化物薄膜の場合は金属の蒸気と炭素を含むガス成分、窒化物薄膜を得る場合は金属蒸気と窒素ガスなどを相互に反応させて被処理体の表面に形成させるものであり、化学的蒸着法を含め、既存の装置および方法を用いて形成する。
【0037】
このように金属薄膜7が被覆された金属製基材5に、さらに上記第1実施形態と同様のDLC膜3の被覆を行って、本実施形態の半導体加工装置用部材6を得る。
【0038】
上記のように構成された本実施形態によれば、各層の化学的親和力を向上させることができるため、各層の密着性を向上でき、その結果として、金属製基材に様々な種類の材料を用いても上記第1実施形態と同様の効果を奏する半導体加工装置用部材を提供できる。
【0039】
(第4実施形態)
図1(d)は、本発明の第4実施形態に係る半導体加工部材の構造図である。この第4実施形態に係る半導体加工装置用部材4は、表面から所定深さのイオン注入層5aを有する金属製基材5の表面に金属薄膜7、DLC膜3の順にそれぞれ被覆されたものからなる。
【0040】
金属薄膜7は、上記第3実施形態と同様に、金属炭化物薄膜や金属窒化物薄膜であってもよい。
【0041】
次に、本実施形態に係る半導体加工装置用部材8の作製方法について説明する。上記直接的金属イオン注入法又はプラズマイオン注入法で金属製基材5の表層部にイオン注入層5aを形成し、続いて上記直接的金属イオン注入法、プラズマイオン注入法、物理的蒸着法又は化学的蒸着法で金属薄膜7を形成する。このように金属薄膜7が被覆された金属製基材5に、さらに上記第1実施形態と同様のDLC膜3の被覆を行って、本実施形態の半導体加工装置用部材8を得る。
【0042】
上記のように構成された本実施形態によれば、上記第1〜3実施形態と同様の効果を奏する半導体加工装置用部材を提供できる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
この実施例は、DLC膜中に含まれている水素と、膜の耐食性及び耐熱衝撃性を中心に調査した。試験片はSUS304鋼(寸法幅20mm×長さ30mm×厚さ3.2mm)とし、この上に水素含有量の異なるDLC膜を8μm厚に形成した。この試験片は、次に示すような条件で腐食試験及び熱衝撃試験を行いそれぞれの膜の性能を評価した。腐食試験条件としては、CHF3ガス流量を80ml/min、O2ガス流量を100ml/min、Arガス流量を160ml/minとする温度60℃の混合ガス気流中に100h静置した。熱衝撃試験条件としては、大気中で室温から150℃まで15分間毎の加熱・冷却条件を10回繰り返し、DLC膜の耐剥離性を評価した。なお、比較用のDLC膜以外の試験片として、無処理のSUS304鋼及びSUS304鋼の表面にイオンプレーティング法によって、Crを5μm厚に成膜したものを同じ条件で供試した。
【0044】
下記表1は以上の結果を比較したものである。この結果から明らかなようにDLC膜を被覆した試験片(No.1〜5)の耐食性は水素含有量に関係なくすべて良好である。無処理のSUS304鋼(No.6)、この上にCr薄膜を形成したSUS304鋼(No.7)はともに腐食量が多く、耐食性に乏しい。DLC膜を形成した試験片の熱衝撃試験を行うとDLC膜中の水素含有量の影響が顕著に現れ、15%以下のDLC膜(No.1、2)は剥離し、18%〜40%のDLC膜(No、3、4、5)は健全な状態を維持していた。このような結果から、水素を含有していれば、DLC膜中の水素含有量は耐食性に影響を与えず、耐熱衝撃性の向上に有効であることが判明した。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例2)
この実施例ではアンダーコート処理(金属薄膜等を被覆する処理)をおこなったDLC膜の耐食性と耐熱衝撃性を調査した。試験片基材は実施例1と同じSUS304鋼を用い、その表面にDLC膜の形成に先駆けて金属イオンの注入や、次に示すようなアンダーコート薄膜を反応性イオンプレーティング法によって2〜4μm厚に施工し、その上に水素含有量の異なるDLC膜を10μm厚に被覆した。その後、これらのDLC膜被覆試験片を次に示す環境条件で腐食試験及び熱衝撃試験を行った。腐食試験条件及び熱衝撃試験条件は実施例1と同条件である。
【0047】
下記表2はこの結果を比較したものである。この結果から明らかなように水素含有量が15%より少ない硬質のDLC膜(No.1〜4)は水素含有量の多いDLC膜(No.5〜11)同様優れた耐食性を示すものの熱衝撃試験によって剥離した。これに対して水素含有量の多いDLC膜はSUS304基材に金属イオン注入した後DLC膜を被覆したもの(No.7、8)炭化物や窒化物を形成した後DLC膜を被覆したもの(No.5、6、10)また金属イオン注入とアンダーコートを施工した後、DLC膜を被覆した多層構造のもの(No.9、11)ともに優れた耐熱衝撃性を示し、DLC膜の剥離は認められなかった。
【0048】
【表2】

【0049】
(実施例3)
この実施例は本発明に係るDLC膜を被覆したSUS304鋼からの超純水への金属の溶出量を評価した。試験片基材はSUS304鋼(寸法幅30mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)とし、この上に直接またはアンダーコートを施工した後、DLC膜を被覆した。DLC膜は30μmとした。溶出試験はテフロン(登録商標)製のビーカ(1L入り)に超純水500mlを入れ、試験片は完全に水没させ室温で7日間放置した後、超純水中に溶出した金属イオン量を定量分析した。なお比較のため無処理のSUS304鋼、電解研磨したSUS304鋼を同条件で評価した。
【0050】
下記表3はこの結果を比較したものである。この結果から明らかなように、比較例のSUS304鋼(No.5、6)からはSUS304鋼の主要成分である、Fe、Ni、Crが多量に溶出するのに対して、DLC膜を形成した試験片(No.1〜No.4)からの溶出はいずれの金属イオンとも10%前後に減少しており、超純水に対する金属基材の溶出を抑制していることが判明した。
【0051】
【表3】

【0052】
(実施例4)
この実施例では、水素含有量の異なるDLC膜を形成した後、室温から150℃まで15分間毎の加熱・冷却の操作を2回繰り返し後、実施例3と同じ条件で超純水を用いて金属イオンの溶出量を測定した。試験片基材の種類、寸法浸漬条件などは実施例3と同じである。
【0053】
下記表4はこの結果を比較したものである。この結果から水素含有量の少ないDLC膜(No.1、2)は熱衝撃を受けると金属イオンの溶出が多くなる傾向が認められ、DLC膜に何らかの欠陥が発生したことがうかがえる。これに対し水素含有量の多いDLC膜(No.3〜7)では熱衝撃試験後も優れた耐溶出性を示し、超純水洗浄が要求されるような環境用部材被覆として有望であることが判明した。
【0054】
【表4】

【0055】
(実施例5)
この実施例では半導体加工装置の運転環境を勘案してDLC膜被覆部材の表面に付着する腐食性化合物や異物が、純水による洗浄によって、清浄化する程度を実験的に調査した。試験片基材は実施例と同じものを使用し、この表面に腐食性化合物として、0.1規定の塩化第二鉄溶液を0.1ml/cm2塗布して室温(18℃〜22℃)で24時間及び48時間放置した。その後、この試験片を純水(500ml)中に5分間浸漬し、表面に残留する鉄分を測定することによって、腐食性化合物の水洗による除去の難易度を評価した。なお残留鉄分は水洗後、純水(300ml)中で超音波洗浄を30分間行い、水中に溶出したFe分を分析することによって判定した。
【0056】
試験結果は下記表5に示すとおりである。この結果から次のようなことがわかる。無処理のSUS304鋼(No.6)やCr薄膜を形成したSUS304鋼(No.7)はFeの残留量が多く、また表面が塩化第二鉄水溶液によって腐食されている状況が観察された。これはSUS304鋼およびCr薄膜がハロゲン化合物の腐食性に対して十分な抵抗を発揮できず、基材から溶出したFe分も表面に残留した結果であると思われる。これに対し、DLC膜を被覆した試験片(No.1〜5)はいずれも腐食されることなく塩化第二鉄水溶液もほぼ完全に除去されていた。
【0057】
【表5】

【0058】
これら実施例で詳述したように、本発明の技術に係る水素含有量が18〜40at%のDLC膜で被覆した金属製部材は、ハロゲン化合物を含む厳しい腐食性環境においても優れた腐食性を発揮して、自らが腐食して環境の汚染源となることがなく、またDLC膜の表面が非常に平滑であるため、環境の汚染物質が付着しても容易に水洗除去できることがわかる。
【0059】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、例えば、ハロゲン化合物を含むような厳しい腐食性環境においても優れた耐腐食性を発揮するので、自らが腐食してその環境の汚染源になることがない。また、DLC膜の表面は非常に平滑であるため、環境の汚染物質が付着しても容易に水洗除去等でき、高度な洗浄度が要求される最近の半導体加工装置の操業条件の維持に大きな効果がある。したがって、これらの効果により、半導体製品の高性能化、高品質化に寄与するとともに、半導体加工装置の稼働率の向上、装置部材の損傷に起因する修理、取替えなどの出費を減少させて、生産コストの低減に大きく貢献することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図、(b)は本発明の第2実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図、(c)は本発明の第3実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図、(d)は本発明の第4実施形態に係る半導体加工装置用部材の構造図である。
【図2】本発明に用いる高密度パルスプラズマイオン注入装置の概要図である。
【図3】本発明に用いる金属イオンの注入装置の概要図である。
【符号の説明】
【0062】
1、4、6、8 半導体加工装置用部材
2、5 金属製基材
3 DLC膜
5a イオン注入層
7 金属薄膜
21 処理容器
22 被処理体
23 電源(パルス高周波電源又はパルス電源)
24 気相イオン源
25 金属イオン源
26 真空ポンプ
27 気圧調整弁
28 プラズマ
31 イオン源ガス導入口
32 イオン発生室
33 静電加速器
34 質量分離器
35 ビーム走査器
36 ターゲット試料
37 真空排気システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆層を1層以上有する金属製基材からなる半導体加工装置用部材であって、前記被覆層の最外層が水素含有量18〜40at%のダイヤモンドライクカーボン層である半導体加工装置用部材。
【請求項2】
前記金属製基材が、その表面から深さ10〜200nmのFe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の金属イオンの注入層を有する請求項1記載の半導体加工装置用部材。
【請求項3】
前記被覆層が、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたFe、Cr、Ti、Si、W、Mo、Ta、Nb及びAlのうちから選ばれる1種以上の金属薄膜を有する請求項1又は2に記載の半導体加工装置用部材。
【請求項4】
前記被覆層が、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたSiC、TiC、WC、Cr32、MoC、TaC及びNbCのうちから選ばれる1種以上の金属炭化物薄膜を有する請求項1又は2に記載の半導体加工装置用部材。
【請求項5】
前記被覆層が、前記金属製基材の表面に厚さ0.5〜15μmで被覆されたTiN、CrN、AlN、TiAlN及びSi34のうちから選ばれる1種以上の金属窒化物薄膜を有する請求項1又は2に記載の半導体加工装置用部材。
【請求項6】
前記金属製基材が、Cr、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Alの単体とその合金、Mg合金、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金及びCo基合金のうちから1種選ばれるものである請求項1〜5のいずれかに記載の半導体加工装置用部材。
【請求項7】
金属製基材表面又は被覆層を1層以上有する金属製基材の最外層に、炭化水素含有ガス雰囲気下で、パルス幅が1μS〜20mS、印加電圧が−1〜−50kV、パルス繰り返しが1000〜8000ppsのパルス電圧を印加することにより発生するプラズマによってアモルファスカーボンを析出させる半導体加工装置用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−52435(P2006−52435A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234041(P2004−234041)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】