説明

半導体基板処理方法

【課題】リアクタの金属汚染を低減し、歩留まりを向上させる半導体基板処理方法を提供する。
【解決手段】リアクタ2、その内部に設けられた支持体4、及び支持体4と対向して平行に設けられたシャワープレート6を備える基板処理装置1を用いて、半導体基板3を処理する方法は、リアクタ2の内壁面、支持体4の露出面及びシャワープレート6の露出面にプリコート膜を形成する工程と、プリコートした支持体4上に半導体基板3を載置する工程と、半導体基板上に低誘電率の薄膜を形成する工程とを含み、プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、半導体基板処理方法に関し、特に、リアクタの金属汚染を低減する半導体基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、低誘電率膜(Low-k膜:比誘電率<3.0)がLSI配線用の層間絶縁膜材料として使用されている。層間絶縁膜に低誘電率膜を用いることで、デバイスの微細化により隣接する配線間の電気的容量を減少させることができ、配線の信号遅延を改善することができる。低誘電率膜は、多孔質の膜構造を有する場合が多く、そのような多孔質膜は、層間絶縁膜として広く使用されるTEOS酸化膜などに比べ、膜密度が低いため機械的強度が小さい。
【0003】
従来のCVDプロセスでは、リアクタのコンディショニング、パーティクル及び金属汚染の低減のため、基板をリアクタに搬入する前に、成膜材料と同じ材料を使ってリアクタ内部を被覆(プリコート)する方法が用いられてきた(例えば、国際公開WO05/098922参照)。
【0004】
しかし、低誘電率膜によりプリコートした場合には、膜密度が低いため、被覆性能が充分ではなく金属汚染を抑制するのが困難であるという問題が生じていた。
【0005】
また、プリコート膜の膜厚を大きくすると、及びパーティクルの増加が懸念される。
【特許文献1】WO05/098922公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明の目的は、リアクタの金属汚染を低減し、成膜プロセスの安定性と歩留まりを向上させる半導体基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のひとつの態様に従い、リアクタ、前記リアクタ内部に設けられた支持体、及び前記リアクタ内部にあって前記支持体と対向して平行に設けられたシャワープレートを備える基板処理装置を用いて、前記支持体上に載置された半導体基板を処理する方法は、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面にプリコート膜を形成する工程と、
プリコートした前記支持体上に前記半導体基板を載置する工程と、
前記半導体基板上に低誘電率の薄膜を形成する工程と、
を含み、
前記プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaであることを特徴とする。
本発明の他の態様に従い、リアクタ、前記リアクタ内部に設けられた支持体、及び前記リアクタ内部にあって前記支持体と対向して平行に設けられたシャワープレートを備える基板処理装置を用いて、前記支持体上に載置された半導体基板を処理する方法は、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面に酸素プラズマ処理を施す工程と、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面にプリコート膜を形成する工程と、
プリコートした前記支持体上に前記半導体基板を載置する工程と、
前記半導体基板上に低誘電率の薄膜を形成する工程と、
を含み、
前記プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願発明により、リアクタの金属汚染が低減し、成膜プロセスの安定性と歩留まりの向上した半導体基板処理方法が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に係る半導体基板処理方法を実行するための半導体処理装置を概略的に示したものである。
【図2】図2は、本発明に係る半導体基板処理方法のフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態に従う前処理工程を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に従う前処理工程を示すフローチャートである。
【図5】図5は、プリコート膜の弾性係数と薄膜中のCu元素濃度の関係を比較した実験結果を示すグラフである。
【図6】図6は、プリコート膜の膜厚と薄膜中のCu元素濃度との関係を比較した実験結果を示すグラフである。
【図7】図7は、前処理工程として、酸素プラズマ処理とプリコート膜形成を組み合わせた場合と、プリコート膜形成のみの場合とで、薄膜中のCu元素濃度を比較した実験結果を示すグラフである。
【図8】図8は、活性ガスが酸素の場合とヘリウムの場合とで、薄膜中のCu元素濃度を比較した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本願発明を詳細に説明する。まず、本発明に係る半導体基板処理方法で使用する半導体基板処理装置について説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る方法で使用する半導体処理装置を概略的に示したものである。半導体処理装置1は、リアクタ2と、該リアクタ2の内部に設置され半導体基板3を支持するためのサセプタ4と、リアクタ2内部にあって、該サセプタ4と対向しそれと平行に配置されたシャワープレート6とを備えて構成されている。
【0012】
サセプタ4は、昇降機構7と結合されており、垂直方向に上下移動することが可能である。半導体処理装置1がプラズマCVD装置である場合には、サセプタ4は電気的に接地8されており、プラズマ放電のための一方の電極を画成する。サセプタ4の内部には、例えば抵抗加熱型ヒータ16が埋設されており、半導体基板3を所望の温度に加熱保持する。
【0013】
リアクタ2には、ゲートバルブ9を介して、搬送室10が結合されている。搬送室10の内部には、ロードロックチャンバ(図示せず)からリアクタ2内部へ半導体基板3を搬送するための搬送ロボット5が設置されている。搬送ロボット5は、例えば薄いアーム式のロボットにより構成されている。リアクタ2の内壁面は温度制御器(図示せず)により所望の温度に制御されている。
【0014】
シャワープレート6は反応ガス導入管12を介して、ガス供給装置(図示せず)と結合されている。シャワープレート6には、該ガス供給装置からの原料ガス及び添加ガスをリアクタ2内部の反応領域に均一に噴射するための多数の細孔(図示せず)が設けられている。半導体処理装置1がプラズマCVD装置である場合には、シャワープレート6が高周波発振器13(例えば、13.56MHzの高周波電力、または低周波電力と高周波電力の組み合わせ)と電気的に接続されており、プラズマ放電のもう一方の電極を画成する。シャワープレート6には加熱装置(図示せず)が接続されており、シャワープレートのプラズマ露出面の温度は、所望の温度に制御される。
【0015】
リアクタ2の底部には、リアクタ2内部のガスを排気するための排気口14が設けられている。排気口14はガス制御バルブ15を通じて真空排気装置(図示せず)と結合されており、リアクタ2内部は所望の圧力に制御される。
【0016】
[発明の第1の実施形態]
図2は、本発明に係る半導体基板処理方法を概略的に示したフローチャートである。本発明に係る方法は、前処理工程と、半導体基板搬入工程と、薄膜形成処理工程と、半導体基板搬出工程から成る。
【0017】
まず、ステップ20において、リアクタ2の内壁面、サセプタ4のプラズマ露出面、及びシャワープレート6のプラズマ露出面に対して、以下で詳細に説明する前処理を施す。
【0018】
次に、ステップ21において、ゲートバルブ9を通じて、搬送ロボット5によって搬送室10から半導体基板3をリアクタ2の内部に搬入し、サセプタ4上に載置する。
【0019】
次いで、ステップ22において、半導体基板3の表面に薄膜形成処理を実行し、所望の低誘電率の薄膜を堆積する。
【0020】
最後に、ステップ23において、処理済みの半導体基板3を、搬送ロボット5によって搬送室10へ搬出する。
【0021】
本発明の第1の実施形態において、上記前処理工程ステップ20は、プリコート膜の形成工程から成る。図3は、本発明の第1の実施形態に従うプリコート膜の形成方法を概略的に示すフローチャートである。
【0022】
まず、ステップ30において、リアクタ2の内壁面の温度、サセプタ4の表面温度、及びシャワープレート6のプラズマ露出面の温度を所望の温度に制御する。ここで、リアクタ2の内壁面の温度は、50℃から400℃、好ましくは100℃から300℃、より好ましくは100℃から200℃の範囲に制御する。サセプタ4の表面温度は、50℃から600℃、好ましくは300℃から500℃、より好ましくは400℃から500℃の範囲に制御する。シャワープレート6のプラズマ露出面の温度は、50℃から400℃、好ましくは100℃から300℃、より好ましくは100℃から200℃の範囲に制御する。
【0023】
次いで、ステップ31において、原料ガスをシャワープレート6を通じてリアクタ2内部に導入する。ここで、原料ガスは、半導体基板上に低誘電率薄膜を形成するのに使用されるガスと同じであり、例えば、DM-DMOS(ジメチル・ジメトキシシラン)を使用することができる。原料ガスの流量は、10sccmから500sccm、好ましくは100sccmから400sccm、より好ましくは200sccmから300sccmの範囲に制御する。
【0024】
次いで、ステップ32において、添加ガスとしてヘリウム(He)ガスをリアクタ2内部に導入する。添加するHeガスの流量は、100sccmから1000sccm、好ましくは200sccmから700sccm、より好ましくは300sccmから500sccmの範囲に制御する。
【0025】
次いで、ステップ33において、リアクタ2内部の圧力を、50Paから500Pa、好ましくは100Paから400Pa、より好ましくは150Paから300Paの範囲に制御する。
【0026】
次いで、ステップ34において、高周波発振器13によりシャワープレート6に高周波電力を印加する。印加する高周波電力は、例えば13.56MHzで、1000Wから6000W、好ましくは2000Wから5000W、より好ましくは2000Wから4000Wの範囲に制御する。他に、低周波電力と高周波電力を重畳的に印加してもよい。
【0027】
最後に、ステップ35において、所定の時間経過後に、リアクタ2の内壁面、サセプタ3の露出面、及びシャワープレート6のプラズマ露出面にプリコート膜を形成する。該プリコート膜の膜厚は100nmから700nm、好ましくは300nmから600nm、より好ましくは300nmから500nmの範囲に制御する。また該プリコート膜の弾性係数(EM)は、15GPaから75GPa、好ましくは30GPaから60GPa、より好ましくは30GPaから50GPaの範囲に制御する。さらに、該プリコート膜の誘電率は、2.0から9.0、好ましくは、2.0から8.0、より好ましくは2.0から7.0の範囲に制御する。
【0028】
本発明の第1実施形態において、薄膜形成処理ステップ22は、半導体基板3を所望の温度に保持する工程と、原料ガスをリアクタ2内部に導入する工程と、リアクタ2内部を所望の圧力に保持する工程と、シャワープレート6に高周波発振器13により高周波電力を印加する工程と、半導体基板3上に所望の低誘電率の薄膜を形成する工程とを含む。
【0029】
半導体基板3の温度は、サセプタ4に埋設されたヒータ16により、50℃から600℃、好ましくは300℃から500℃、より好ましくは400℃から500℃の範囲に制御する。
【0030】
原料ガスは、例えば、DM-DMOSが使用される。原料ガスの流量は、10sccmから500sccm、好ましくは100sccmから400sccm、より好ましくは200sccmから300sccmの範囲に制御する。他に、He等の不活性ガスを添加ガスとして用いても良い。He添加ガスの流量は、10sccmから500sccm、好ましくは100sccmから400sccm、より好ましくは200sccmから300sccmの範囲に制御する。
【0031】
リアクタ2の内部の圧力は、50Paから1000Pa、好ましくは200Paから800Pa、より好ましくは300Paから600Paの範囲に制御する。
【0032】
シャワープレート6には、高周波発振器13により、例えば、13.56MHzの高周波電力を印加する。ここで、高周波電力は、1000Wから6000W、好ましくは2000Wから5000W、より好ましくは2000Wから4000Wの範囲に制御する。他に、400kHz程度の低周波電力と、27MHz程度の高周波電力を重畳して印加してもよい。
【0033】
リアクタ2内部のプラズマ反応領域においてプラズマ励起された活性種が半導体基板3表面上で化学反応を起こし、低誘電率の薄膜が堆積される。所望の低誘電率は、2.0から5.0、好ましくは2.0から4.0、より好ましくは2.0から3.0である。
【0034】
本発明の第1実施形態によれば、前処理工程として、機械的強度が高くかつ誘電率が低いプリコート膜を形成することができる。結果として、低誘電率膜成膜プロセスの安定性が向上する。また、リアクタ内部の金属汚染濃度が低減され、半導体装置製造の歩留まりが向上する。
【0035】
[発明の第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態に従う半導体基板処理方法について説明する。第2実施形態に係る方法は、プリコート膜の形成処理の前に、活性ガスとして酸素(O2)ガスを用いたプラズマ処理を行う点で、第1実施形態と異なる。
図4は、本発明の第2の実施形態に従う方法の前処理工程を概略的に示すフローチャートである。本発明の第2の実施形態に従う前処理工程は、酸素プラズマ処理工程及びプリコート膜形成工程から成る。
【0036】
まず、ステップ40において、リアクタ2の内壁面の温度、サセプタ4の表面温度、及びシャワープレート6のプラズマ露出面の温度を所望の温度に制御する。ここで、リアクタ2の内壁面の温度は、50℃から400℃、好ましくは100℃から300℃、より好ましくは100℃から200℃の範囲に制御する。サセプタ4の表面温度は、50℃から600℃、好ましくは300℃から500℃、より好ましくは400℃から500℃の範囲に制御する。シャワープレート6のプラズマ露出面の温度は、50℃から400℃、好ましくは100℃から300℃、より好ましくは100℃から200℃の範囲に制御する。
【0037】
次いで、ステップ41において、リアクタ2の内部にシャワープレート6を通じて酸素ガスを導入する。酸素ガスの流量は、100sccmから1000sccmの範囲に制御する。
【0038】
次いで、ステップ42において、リアクタ2内部の圧力は、133Paから400Paの範囲に制御する。
【0039】
次いで、ステップ43において、高周波発振器13によりシャワープレート6に高周波電力を印加する。印加する高周波電力は、例えば13.56MHzで、100Wから500Wの範囲に制御する。他に、低周波電力と高周波電力を重畳的に印加してもよい。
【0040】
以上が、酸素プラズマ処理工程である。続いて、第1の実施形態と同様のプレコート膜処理工程が続く。
【0041】
リアクタ2内部を真空排気した後、ステップ44において、原料ガスをシャワープレート6を通じてリアクタ2内部に導入する。ここで、原料ガスは、半導体基板上に低誘電率薄膜を形成するのに使用されるガスと同じであり、例えば、DM-DMOS(ジメチル・ジメトキシシラン)を使用することができる。原料ガスの流量は、10sccmから500sccm、好ましくは100sccmから400sccm、より好ましくは200sccmから300sccmの範囲に制御する。
【0042】
次いで、ステップ45において、添加ガスとしてHeガスをリアクタ2内部に導入する。添加するHeガスの流量は、100sccmから1000sccm、好ましくは200sccmから700sccm、より好ましくは300sccmから500sccmの範囲に制御する。
【0043】
次いで、ステップ46において、リアクタ2内部の圧力を、50Paから500Pa、好ましくは100Paから400Pa、より好ましくは150Paから300Paの範囲に制御する。
【0044】
次いで、ステップ47において、高周波発振器13によりシャワープレート6に高周波電力を印加する。印加する高周波電力は、例えば13.56MHzで、1000Wから6000W、好ましくは2000Wから5000W、より好ましくは2000Wから4000Wの範囲に制御する。他に、低周波電力と高周波電力を重畳的に印加してもよい。
【0045】
最後に、ステップ48において、所定の時間経過後に、リアクタ2の内壁面、サセプタ3の露出面、及びシャワープレート6のプラズマ露出面にプリコート膜を形成する。該プリコート膜の膜厚は100nmから600nm、好ましくは200nmから500nm、より好ましくは200nmから300nmの範囲に制御する。また該プリコート膜の弾性係数(EM)は、15GPaから75GPa、好ましくは30GPaから60GPa、より好ましくは30GPaから50GPaの範囲に制御する。さらに、該プリコート膜の誘電率は、2.0から9.0、好ましくは、2.0から8.0、より好ましくは2.0から7.0の範囲に制御する。
【0046】
薄膜形成処理工程については、第1実施形態と同様なので説明を省略する。
本発明の第2実施形態によれば、前処理工程として、酸素プラズマ処理とプリコート膜形成処理を組み合わせることで、低誘電率薄成膜プロセス安定性がより一層向上するとともに、リアクタ内部の金属汚染濃度がさらに低減され、半導体装置製造の歩留まりがより一層向上する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に係る半導体基板処理方法を用いて実験を行ったので説明する。
【0048】
表1は、本発明に係る半導体基板処理方法で用いるプリコート膜の成膜条件を示したものである。実験には、半導体処理装置としてEagle-12(商標)(日本エー・エス・エム社製)を使用した。
【0049】
【表1】

表2は、表1のプリコート成膜条件で成膜したプリコート膜の膜特性を示したものである。
【0050】
【表2】

表2の結果より、表1の成膜条件で成膜したプリコート膜は、低誘電率でかつ機械的強度が高い膜であることがわかる。
【0051】
次に、表1の条件でプリコート膜を成膜したリアクタを用いて、半導体基板上に薄膜を成膜し、その特性を調べる実験を行ったので説明する。実験には、半導体処理装置としてEagle-12(商標)(日本エー・エス・エム社製)を使用した。
表3は薄膜成膜条件を示したものである。
【0052】
【表3】

表4は、表3の薄膜成膜条件で成膜した薄膜の膜特性を示したものである。
【0053】
【表4】

表4の結果より、表1に示す成膜条件でプリコートしたリアクタを用いて、表3に示す成膜条件で半導体基板上に薄膜を成膜すると、誘電率が低く、優れた特性の薄膜を安定的に形成することができることがわかる。
【0054】
次に、本発明に係る半導体基板処理方法に従うプリコート膜と金属汚染濃度との関係を調べる実験を行ったので説明する。
【0055】
図5は、プリコート膜の弾性係数とCu元素の膜中濃度との関係を示すグラフである。実験には、膜厚200nmで、弾性係数の異なる4種類のプリコート膜を使用した。図5のグラフより、プリコート膜の弾性係数が大きくなるほど、Cu元素濃度が減少するのがわかる。低誘電率デバイスで要求されるCu元素濃度(<1E10atoms/cm2)を実現するには、プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaであることが好ましいと言える。
【0056】
図6は、プリコート膜の膜厚とCu元素の膜中濃度との関係を示すグラフである。実験には、弾性係数15GPaで、膜厚の異なる4種類のプリコート膜を使用した。図6のグラフより、プリコート膜の膜厚が増加するに従い、Cu元素の膜中濃度は減少するのがわかる。低誘電率デバイスで要求されるCu元素濃度(<1E10atoms/cm2)を実現するには、プリコート膜の膜厚は少なくとも300nmであることが好ましいと言える。
【0057】
図5及び図6の実験結果より、弾性係数が少なくとも30GPaでかつ膜厚が少なくとも300nmのプリコート膜を成膜することにより、半導体基板上に堆積される薄膜の金属汚染を低減させることが可能であることがわかった。
【0058】
次に、本発明に係る半導体基板処理方法の前処理工程として、酸素プラズマ処理及びプリコート膜形成を組み合わせた場合と、プリコート膜形成のみの場合とで金属汚染濃度の違いを調べる実験を行ったので説明する。
【0059】
図7は、弾性係数15GPaで膜厚200nmのプリコート膜と、弾性係数70GPaで膜厚200nmのプリコート膜を用いて、酸素プラズマ処理を施した場合と、施さなかった場合とで、Cu元素の膜中濃度を比較した棒グラフを示している。図7の結果より、酸素プラズマ処理を施した場合の方が、施さなかった場合に比べ、Cu元素の膜中濃度が低減していることがわかる。そして、この傾向は、プリコート膜の機械的強度に依存しないこともわかる。
【0060】
したがって、この実験結果から、前処理工程として、酸素プラズマ処理及びプリコート膜形成処理を組み合わせることで、半導体基板上の薄膜の金属汚染をより一層低減させる効果が得られることがわかった。
【0061】
次に、前処理工程に使用する活性ガスが酸素の場合と、ヘリウムの場合とで、Cu元素の膜中含有量を比較する実験を行ったので説明する。
【0062】
図8は、弾性係数15GPaで膜厚200nmのプリコート膜を用いて、前処理として、酸素プラズマ処理とプリコート膜形成を組み合わせた場合と、Heプラズマ処理とプリコート膜形成を組み合わせた場合とで、半導体基板上の薄膜中のCu元素濃度を比較したグラフである。図8の結果より、活性ガスとしてHeを使用した場合に比べ、O2を使用した場合の方がCu元素濃度を低減させる効果が得られることがわかる。
【0063】
したがって、この実験結果より、金属汚染濃度を低減させるためには、O2を活性ガスとして使用したプラズマ処理が効果的であることがわかった。
【0064】
[その他]
以上、本発明の特定の実施形態について説明してきたが、ここに開示される方法は例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載された本発明の思想から離れることなく、さまざまな修正及び変更が可能であることは当業者の知るところである。
【0065】
例えば、プリコート膜の種類は上記のものに限定されず、同等の効果を達成できる任意の膜を使用することができる。また、活性ガスは酸素に限定されず、同等の効果を達成できる他の種類のガスを使用することもできる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクタ、前記リアクタ内部に設けられた支持体、及び前記リアクタ内部にあって前記支持体と対向して平行に設けられたシャワープレートを備える半導体基板処理装置を用いて、前記支持体上に載置された半導体基板を処理する方法であって、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面にプリコート膜を形成する工程と、
プリコートした前記支持体上に前記半導体基板を載置する工程と、
前記半導体基板上に低誘電率の薄膜を形成する工程と、
を含み、
前記プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記プリコート膜を形成する工程は、
前記支持体の温度を300℃から500℃に保持する工程と、
前記リアクタの内壁の温度を100℃から300℃に保持する工程と、
前記シャワーヘッドの温度を100℃から300℃に保持する工程と、
前記リアクタ内部に所定の流量の原料ガスを導入する工程と、
前記リアクタ内部を100Paから400Paの圧力に保持する工程と、
前記リアクタに対して、少なくとも2000Wの高周波電力を印加する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記原料ガスは、DM-DMOS(ジメチル・ジメトキシシラン)である、ことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記プリコート膜を形成する工程は、添加ガスを導入する工程を含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記添加ガスはヘリウムである、ことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記プリコート膜の膜厚は少なくとも300nmである、ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
リアクタ、前記リアクタ内部に設けられた支持体、及び前記リアクタ内部にあって前記支持体と対向して平行に設けられたシャワープレートを備える基板処理装置を用いて、前記支持体上に載置された半導体基板の表面に薄膜を形成する方法であって、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面に酸素プラズマ処理を施す工程と、
前記リアクタの内壁面、前記支持体の露出面及び前記シャワープレートの露出面にプリコート膜を形成する工程と、
プリコートした前記支持体上に前記半導体基板を載置する工程と、
前記半導体基板上に低誘電率の薄膜を形成する工程と、
を含み、
前記プリコート膜の弾性係数は少なくとも30GPaであることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記酸素プラズマ処理を施す工程は、
前記支持体の温度を300℃から500℃に保持する工程と、
前記リアクタの内壁の温度を100℃から300℃に保持する工程と、
前記シャワーヘッドの温度を100℃から300℃に保持する工程と、
前記リアクタ内部に所定の流量の酸素ガスを導入する工程と、
前記リアクタ内部を100Paから400Paの圧力に保持する工程と、
前記リアクタに対して、少なくとも2000Wの高周波電力を印加する工程と、
を含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記プリコート膜を形成する工程は、
前記リアクタ内部を真空排気する工程と、
前記リアクタ内部に所定の流量の原料ガスを導入する工程と、
前記リアクタ内部を100Paから400Paの圧力に保持する工程と、
前記リアクタに対して、少なくとも2000Wの高周波電力を印加する工程と、
を含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記原料ガスは、DM-DMOS(ジメチル・ジメトキシシラン)である、ことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、前記プリコート膜を形成する工程は、添加ガスを導入する工程を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記添加ガスはヘリウムである、ことを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記プリコート膜の膜厚は少なくとも300nmである、ことを特徴とする請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−272614(P2010−272614A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121638(P2009−121638)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000227973)日本エー・エス・エム株式会社 (68)
【Fターム(参考)】