説明

半導体素子、半導体装置およびそれらの製造方法

【課題】透明な絶縁基板上に結晶方位が制御された擬単結晶半導体薄膜を得るが可能となる半導体膜、半導体素子、半導体装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体薄膜の製造方法は、表面に配列された複数の突起部10を設けた単結晶半導体基板(単結晶シリコン基板2)と表面に半導体薄膜を堆積した光透過性基板4とを互いの表面を向き合わせて結合する。半導体薄膜に熱処理を施して半導体薄膜を溶融結晶化させ、光透過性基板4上に、複数の突起部10のそれぞれを起点として複数の略単結晶粒(結晶シリコン16)から構成される擬単結晶半導体薄膜(擬単結晶シリコン薄膜20)を形成する。擬単結晶半導体薄膜(擬単結晶シリコン薄膜20)を含む光透過性基板4と単結晶半導体基板(単結晶シリコン基板2)とを分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜、半導体素子、半導体装置およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン薄膜トランジスタ(poly-Si TFT)は、ガラスや石英などの絶縁基板上に高性能なトランジスタ素子を製造する手法として、広く用いられている。Poly-Si TFTにおいてその性能を大きく左右するのは、多結晶シリコン薄膜中の構造欠陥である。多結晶シリコン薄膜には、転移、双晶界面、積層欠陥、結晶粒界などの各種構造欠陥が存在する。これらが電気伝導の担い手である電子/正孔の運動を妨げる原因となるため、poly-Si TFTは単結晶シリコン素子と比較して一般に性能が劣っている。こうした課題を解決するために、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜の結晶粒径を大きくしたり、部分的に擬単結晶シリコン薄膜を形成したりする方法が報告されている。以下にその方法を列記する。
【0003】
1.SLS(Sequential Lateral Solidification)法は、エキシマレーザを照射して多結晶シリコン薄膜を得る際、走査方向のピッチを非常に小さくすることによって、結晶粒をレーザ走査方向に長く伸張する方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
2.CLC(CW-laser Lateral Crystallization)法は、連続発振レーザを照射しながら基板を走査し、シリコンの結晶粒をレーザ走査方向に長く伸張する方法である(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
3.SELAX(Selectively Enlarging Laser X'tallization)法は、エキシマレーザによって結晶化を行った後に、連続発振レーザを用いて既存結晶粒をレーザ走査方向に長く伸張する方法である(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
4.PMELA(Phase-mask Modulated Excimer Laser Annealing)法は、位相差マスクを用いて、強度分布を持ったエキシマレーザ光を形成し、シリコン薄膜の結晶化を行い、強度の強い領域と弱い領域との間に生じる熱勾配を利用して、薄膜の面内方向の結晶粒を成長させる方法である(例えば、非特許文献4参照)。
【0007】
5.μ-Czochralski法は、基板上に微細孔を設け、それを覆うようにアモルファスシリコン薄膜を堆積し、こうした構造に対してエキシマレーザを照射すると、微細孔の底部から溶融/結晶化が進行し、最も成長速度の速い結晶のみが選択的に成長して擬単結晶シリコン薄膜を得ることができる方法である(例えば、非特許文献5、6参照)。
【0008】
これらの方法を用いると、いずれも数μm以上の結晶粒径をもった多結晶シリコン薄膜が得られる。こうしたシリコン薄膜に対し、結晶粒界を含まないように注意して薄膜トランジスタ素子を製造すると、いずれも300〜500cm2/Vs以上の高いキャリア移動度をもった薄膜トランジスタ素子を絶縁基板上に得ることができる。
【0009】
【非特許文献1】”Characterisation of poly-Si TFT's in Directionally Solidified SLS Si”. S.D.Brotherton, et al., Asia Display/IDW' 01 Proceedings,pp.387-390
【非特許文献2】”Ultra-high Performance Poly-Si TFT's on a Glass by a Stable Scanning CW Laser Lateral Crystallization”, A.Hara, et al., AM-LCD' 01 Digest of Technical Papers,pp.227-230
【非特許文献3】”System on Glass Display with LTPS-TFTs Formed using SELAX(Selectively Enlarging Laser X'tallization) Technology”, M.Hatano, et al., Proceedings of IDW/AD' 05,pp.953-956
【非特許文献4】”Advanced Phase-Modulators for Next-Generation Low-Temperature Si Film Crystallization Method”, Y.Taniguchi, et al., Proceedings of IDW/AD' 05,pp.981-982
【非特許文献5】”Effects of crystallographic orientation of single-crystalline seed on μ-Czochralski process in excimer-laser crystallization”, M.He, et al., Proceedings of IDW/AD' 05,pp.1213-1214
【非特許文献6】”Single-Crystalline Si Thin-Film Transistors Fabricated with μ-Czochralski(Grain-Filter) Process”, R.Ishihara, et al., AM-LCD' 02 Digest of Technical Papers,pp.53-56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の方法では、数μm程度の大きな結晶粒を形成することが可能となるものの、得られる結晶粒の結晶方位については制御されておらず、それぞれの結晶粒の結晶方位についてランダムな状態となっていた。キャリア移動度はシリコンの結晶方位に依存して異なるため、結晶粒の方位が統一されていないので、薄膜トランジスタ素子ごとの性能が大きくばらついていた。薄膜トランジスタ素子の電気的特性の更なる向上を図るために、結晶粒の結晶方位が制御された高品質な半導体薄膜を形成することが可能な製造方法の確立が望まれている。
【0011】
本発明の一態様は、このような課題点に着目してなされたもので、効率良く結晶方位が制御された高品質な単結晶あるいは擬単結晶半導体膜を得ることを可能とする半導体膜、半導体装置およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る半導体素子の製造方法は、表面に形成された複数の突起部を設けた第1の基板と表面に半導体膜が形成された第2の基板とを用意する第1の工程と、前記複数の突起部と前記半導体膜とを接触させた状態で、前記半導体膜に熱処理を施す第2の工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
上記の半導体素子の製造方法において、前記第2の工程において、前記熱処理により前記半導体膜が溶融するようにしてもよい。
【0014】
上記の半導体素子の製造方法において、前記第2の工程を行うことにより、前記複数の突起部に対応して前記半導体膜内に複数の単結晶粒が形成されるようにしてもよい。
【0015】
本発明に係る半導体素子の製造方法において、「単結晶粒」とは、所定の結晶方位を有する結晶性ドメインを意味するが、例えば、擬単結晶性ドメイン、略単結晶性ドメイン、あるいは、半導体膜に対して熱処理を施すことにより、当該熱処理を施す前の半導体膜の少なくとも一部の結晶性に比べて相対的に結晶性が向上したドメイン等も含んでいてもよい。
【0016】
上記の半導体素子の製造方法において、前記第2の工程の後、前記第1の基板と前記第2の基板とを分離する第3の工程をさらに含むようにしてもよい。これにより、分離された前記第1の基板を再利用することも可能となる。
【0017】
上記の半導体素子の製造方法において、前記複数の突起部は、単結晶シリコンで形成されていてもよい。
【0018】
上記の半導体素子の製造方法において、前記複数の突起部は、前記複数の突起部の各々の表面に形成された酸化膜を含んでいてもよい。酸化膜を単結晶シリコン等の所定の結晶方位を有している下地層上に形成すれば、当該酸化膜も配向制御されたものとなり、半導体膜の熱処理の際に当該半導体膜の結晶性を向上させることが可能となる。
【0019】
上記の半導体素子の製造方法において、前記複数の突起部は、前記複数の突起部の各々の表面に形成された酸化膜を含み、前記第3の工程において、前記酸化膜は除去されるようにしてもよい。
【0020】
上記の半導体素子の製造方法において、前記複数の突起部の各々は、多孔質で形成されていてもよい。
【0021】
上記の半導体素子の製造方法において、前記複数の突起部の各々は、多孔質で形成されており、前記第3の工程において、前記複数の突起部を除去するようにしてもよい。
【0022】
上記の半導体素子の製造方法において、前記第2の工程は、前記第2の基板の前記半導体膜が形成されている面とは対向する面の側から前記半導体膜にレーザ光を照射する工程を含むようにしてもよい。
【0023】
本発明に係る半導体素子は、上記の半導体素子の製造方法により製造される。
【0024】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記半導体素子の製造方法を含む。
【0025】
本発明に係る半導体装置は、上記の半導体装置の製造方法により製造される。
【0026】
本発明に係る半導体薄膜の製造方法は、表面に配列された複数の突起部を設けた単結晶半導体基板と表面に半導体薄膜を堆積した光透過性基板とを互いの表面を向き合わせて結合する工程と、前記半導体薄膜に熱処理を施して前記半導体薄膜を溶融結晶化させ、前記光透過性基板上に、前記複数の突起部のそれぞれを起点として複数の略単結晶粒から構成される擬単結晶半導体薄膜を形成する工程と、および、前記擬単結晶半導体薄膜を含む前記光透過性基板と前記単結晶半導体基板とを分離する工程と、を含む。本発明によれば、光透過性基板上に擬単結晶半導体薄膜を得ることができる。得られた擬単結晶半導体薄膜は、単結晶半導体基板の突起部を略中心とする範囲に形成される略単結晶粒から構成されるので、結晶粒が大きくかつ結晶方位が制御された、実質的に単結晶シリコンや、SOIなどと同等の優れた半導体性能を有する。また、結晶成長部の位置を正確に制御することができるので、光透過性基板上の必要な部分にのみ効率的に高品質な擬単結晶半導体薄膜を得ることができる。
【0027】
この半導体薄膜の製造方法について、前記単結晶半導体基板は、前記複数の突起部を含む表面に酸化膜が設けられており、前記分離する工程で、前記酸化膜を除去してもよい。
【0028】
この半導体薄膜の製造方法について、前記単結晶半導体基板は、前記複数の突起部が多孔質であり、前記分離する工程で、前記複数の突起部を除去してもよい。
【0029】
この半導体薄膜の製造方法について、前記擬単結晶半導体薄膜を形成する工程では、前記光透過性基板の前記半導体薄膜が形成されている面とは逆面側から前記半導体薄膜にレーザ光を照射する工程を含んでもよい。
【0030】
本発明に係る半導体薄膜は、上記半導体薄膜の製造方法により製造される。
【0031】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、上記半導体薄膜の製造方法を含む。
【0032】
本発明に係る半導体装置は、上記半導体装置の製造方法により製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明を適用した実施の形態について図面を参照して説明する。
【0034】
図1および図2は、本発明の実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法を示す図である。本実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法は、図1(A)に示すように、まず、光透過性基板4上に、半導体薄膜としてのアモルファスシリコン薄膜(以降、シリコン薄膜という)12を堆積する。シリコン薄膜12は、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)、低圧化学気相堆積法(LPCVD法)等により光透過性基板4上に厚さ100nm程度に堆積されてもよい。なお、光透過性基板4を構成する絶縁材料はガラスに限定されるものではない。光透過性基板4は、例えば液晶用の無アルカリガラスや、石英を用いることができる。光透過性基板4の表面粗さはできるだけ小さいことが望ましい。これは後述する単結晶半導体基板と接するためである。次に、表面に突起部10を設けた単結晶半導体基板としての単結晶シリコン基板2を用意する。単結晶シリコン基板2は、これと対向する光透過性基板4の湾曲や厚さの不均一性がある場合、こうした表面高さの不均一性に追随するために、ある程度薄いことが望ましい。具体的には、例えば単結晶シリコン基板2が50μm〜500μm程度の厚さであれば、圧力を加えることによって光透過性基板4と密着することができる。単結晶シリコン基板2の厚さが50μm以下では強度を保つことが難しく、500μm以上では光透過性基板4に対する追随性が落ちる。
【0035】
次に、図1(B)に示すように、表面に突起部10を設けた単結晶シリコン基板2と、表面にシリコン薄膜12を堆積した光透過性基板4とを、互いの表面を向き合わせて張り合わせる。このとき、単結晶シリコン基板2の突起部10と、光透過性基板4上に成膜されたシリコン薄膜12とが接点18で接した状態となる。次に、単結晶シリコン基板2の突起部10の接点18と、光透過性基板4上に成膜されたシリコン薄膜12とが接した状態で、光透過性基板4のシリコン薄膜12に熱処理を施す。
【0036】
シリコン薄膜12にシリコン薄膜12に熱処理を施す手法としては、エキシマレーザ、YAGレーザおよびその高周波、等が好ましく用いられてもよい。例えばエキシマレーザ14を光透過性基板4のシリコン薄膜12の面とは逆面側から照射する。レーザ照射は、例えば波長308nm、パルス幅100ns〜300nsのXeClパルスエキシマレーザを用いて、エネルギー密度が0.4〜1.5J/cm2程度となるようにして行うことが好適である。このような条件でレーザ照射を行うことにより、照射したレーザはそのほとんどがシリコン薄膜12の表面付近で吸収される。これはXeClパルスエキシマレーザの波長(308nm)における非晶質シリコンの吸収係数が0.139nm−1と比較的に大きいためである。
【0037】
このようにしてレーザ照射の条件を適宜に選択することにより、突起部10近傍にある結晶成分含有半導体膜が膜厚方向全域に渡って完全には溶融せず、必ずある程度の非溶融状態の部分が残る一方で、突起部10近傍以外の領域にあるシリコン薄膜12が膜厚方向全域に渡って完全に溶融するようにする。これにより、レーザ照射後のシリコンの結晶成長は突起部10の接点18近傍で先に始まり、シリコン薄膜12の表面付近、すなわち略完全溶融状態の部分へ進行する。なお、熱処理は複数回に分けて行ってもよい。これにより、結晶成長が複数回に渡って起こるため、より上記の現象を起こさせることができる。
【0038】
次に、図2(A)に示すように、熱処理が施されたシリコン薄膜12は瞬間的に溶融し、その後溶融したシリコン薄膜12が放熱(冷却)され凝固する過程において結晶粒界24を境界として複数の略単結晶粒としての複数の結晶シリコン16に相変態する。このとき、シリコン薄膜12と単結晶シリコン基板2の突起部10とが接している部分、接点18から優先的に放熱(冷却)が行われるため、接点18を起点として結晶成長が進行する。これは、シリコン薄膜12の冷却時において熱の拡散が空気、真空、ガラス材等より熱伝導率の高いシリコン材である単結晶シリコン基板2の突起部10の接点18から優先的に冷却されることによる。得られる結晶シリコン16は、それぞれ独立に接点18から結晶成長が進行するため、厳密には多結晶シリコン薄膜である。しかしながら、すべての突起部10は同じ結晶方向をもっているため、得られる結晶シリコン16は多結晶でありながら、同一方向を有する。この結晶シリコン16から構成される擬単結晶半導体薄膜としての擬単結晶シリコン薄膜20が形成される。
【0039】
図3は、このときの状態を、光透過性基板4面に垂直な方向から見た図である。図3に示すように、それぞれの突起部10の接点18を起点として結晶シリコン16が成長する。結晶シリコン16が縦横方向に成長できる距離には限界Rmaxがあるが、突起部10の間隔を2Rmax以下に設定することで、それぞれの結晶シリコン16が結晶粒界24を境界として接し合い、光透過性基板4面の略全面を覆い尽くすことができる。改めて述べるが、各結晶シリコン16の間には結晶粒界24が存在するものの、互いの結晶方位が同一であるため、結晶構造的には結晶粒界24が存在しないのと略同等である。
【0040】
したがって、シリコン薄膜12は多結晶でありながら、得られる薄膜は同一の方位を有する擬単結晶シリコン薄膜20となる。例えば突起部10は、0.1μm〜5μm程度の直径の円筒または方形状に、数〜数十μm間隔で単結晶シリコン基板2上に形成される。それぞれの突起部10からは、独立にシリコン薄膜12のエピタキシャル成長が起こるが、起点であるすべての突起部10の接点18は、同じ単結晶シリコン基板2の表面であるため、そこから成長する結晶方位も同一である。したがって、光透過性基板4面全面にわたって同一方向を持った擬単結晶半導体薄膜としての擬単結晶シリコン薄膜20を得ることができる。
【0041】
シリコン薄膜12に対してレーザ照射を行うことにより、突起部10の接点18を起点としてシリコン薄膜12を溶融結晶化させて結晶シリコン16を形成する。これにより、突起部10の接点18を中心とした結晶シリコン16、具体的には大粒径の結晶粒からなる略単結晶のシリコン膜が形成される。この溶融結晶化の際に、突起部10の接点18が結晶の結晶方位を整える作用を奏することにより、結晶シリコン16の結晶方位を特定の方向に略制御することが可能になる。
【0042】
最後に、図2(B)に示すように、単結晶シリコン基板2と擬単結晶シリコン薄膜20とを分離して、結晶シリコン16から構成される擬単結晶シリコン薄膜20が得られ半導体薄膜の製造工程が終了する。このようにして、光透過性基板4上に擬単結晶シリコン薄膜20を形成した後、単結晶シリコン基板2と光透過性基板4とを分離すれば、高品質な擬単結晶シリコン薄膜20を光透過性基板4上に得ることができる。したがって、光透過性基板4上に擬単結晶シリコン薄膜20を得ることができる。得られた擬単結晶シリコン薄膜20は、単結晶シリコン基板2の突起部10の接点18を略中心とする範囲に形成される結晶シリコン16から構成されるので、結晶粒が大きくかつ結晶方位が制御された、実質的に単結晶シリコンや、SOIなどと同等の優れた半導体性能を有する。また、結晶成長部の位置を正確に制御することができるので、光透過性基板4上の必要な部分にのみ効率的に高品質な擬単結晶シリコン薄膜20を得ることができる。なお、一度使用した単結晶シリコン基板2は分離した後、繰り返し使用することが可能である。
【0043】
図4および図5は、図2(B)の基板分離工程を容易に行うための手段を示す工程図である。図4は、突起部10を設けた単結晶シリコン基板2の表面に薄い酸化皮膜22を形成した例である。まず、図4(A)に示すように、突起部10を設けた単結晶シリコン基板2の表面に薄い酸化皮膜22を形成する。酸化皮膜22は、厚すぎるとシリコン薄膜12のエピタキシャル成長が阻害されてしまうが、好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは1nm〜10nm程度の薄さに設定する。
【0044】
次に、図4(B)に示すように、酸化皮膜22が元の単結晶シリコンの方位を反映した結晶構造となるので、その酸化皮膜22の接点26からシリコン薄膜12のエピタキシャル成長が可能である。これにより、結晶シリコン16から構成される擬単結晶シリコン薄膜20が形成される。
【0045】
次に、図4(C)に示すように、単結晶シリコン基板2と光透過性基板4との分離工程において、例えばHF水溶液等を用いて酸化皮膜22を除去すれば、単結晶シリコン基板2と光透過性基板4との分離が容易となる。
【0046】
また、図5に示すように、単結晶シリコン基板30の表面を予め多孔質単結晶シリコン層32にしておき、多孔質単結晶シリコン層32に多孔質状の突起部34を設けることも有効な手段である。多孔質状の突起部34は、結晶方向は元の単結晶シリコン基板30と同一であるので、シリコン薄膜12のエピタキシャル成長が容易に可能である。その上単結晶シリコン基板30と光透過性基板4との分離時には多孔質状の突起部34をエッチングによって、あるいは機械的に分離することができるので、単結晶シリコン基板30と光透過性基板4とを容易に分離することができる。
【0047】
まず、図5(A)に示すように、単結晶シリコン基板30の表面に、例えば電界腐食処理を施して多孔質単結晶シリコン層32を形成する。
【0048】
次に、図5(B)に示すように、多孔質単結晶シリコン層32を突起部34として加工する。
【0049】
次に、図5(C)に示すように、突起部34の接点36を起点として結晶シリコン16から構成される擬単結晶シリコン薄膜20を形成する。
【0050】
次に、図5(D)に示すように、単結晶シリコン基板30と光透過性基板4との分離時に、突起部34(多孔質単結晶シリコン層32)を化学的エッチングまたは機械的に破壊することによって、単結晶シリコン基板30と光透過性基板4とを容易に分離することができる。
【0051】
図6および図7は、単結晶シリコン基板38に突起部を設ける工程を示したものである。図6(A)〜(C)は、単結晶シリコン基板38上のレジスト40の所定のパターニング形状から露出する単結晶シリコン基板38の部分をウェットエッチングによって加工し、突起部44を設けた単結晶シリコン基板42を形成するものである。図7(A)〜(C)は、単結晶シリコン基板38上のレジスト46の所定のパターニング形状から露出する単結晶シリコン基板38の部分を異方性ドライエッチングによって加工し、突起部50を設けた単結晶シリコン基板48を形成するものである。
【0052】
以上述べたように、本実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法では、光透過性基板4上に高品質な擬単結晶シリコン薄膜20を得ることができる。本実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法により製造される半導体薄膜としての擬単結晶シリコン薄膜20は、すべての箇所において同一の結晶方位を有するので、実質的に単結晶シリコンや、SOIなどと同等の優れた半導体性能を有する。ここでは、最も汎用的に用いられるシリコンを例にとって説明を行ったが、原理的には素材はシリコンに限定されず、ゲルマニウム、ガリウム、ガリウム砒素等の各種半導体素材に適用し得るものであってもよい。ここで本明細書において「略単結晶粒」とは、結晶粒が単一である場合のみならずこれに近い状態、すなわち、複数の結晶が組み合わさっていてもその数が少なく、半導体薄膜の性質の観点から略単結晶により形成された半導体薄膜と同等の性質を備えている場合も含む。
【0053】
図8には、本実施の形態に係る半導体薄膜を用いた半導体素子の製造方法が示されている。本実施の形態に係る擬単結晶シリコン薄膜20を用いて半導体素子としての薄膜トランジスタ6を形成する際の工程を説明する。まず、擬単結晶シリコン薄膜20が形成された光透過性基板4を準備する。
【0054】
次に、図8(A)に示すように、擬単結晶シリコン薄膜20をパターニングし、薄膜トランジスタの形成に不要となる部分を除去して擬単結晶シリコン薄膜52を形成する。例えば結晶粒界24(図3参照)を含まないように形成する。
【0055】
次に、図8(B)に示すように、光透過性基板4および擬単結晶シリコン薄膜52の上面に電子サイクロトロン共鳴PECVD法(ECR−PECVD法)またはPECVD法等の成膜法によって酸化シリコン膜54を形成する。この酸化シリコン膜54は薄膜トランジスタのゲート絶縁膜として機能する。
【0056】
次に、図8(C)に示すように、スパッタリング法などの成膜法によってタンタル、アルミニウム等の導電体薄膜を形成した後にパターニングを行うことによってゲート電極56およびゲート配線膜(図示せず)を形成する。そして、このゲート電極56をマスクとしてドナーまたはアクセプタとなる不純物元素を打ち込む、いわゆる自己整合イオン打ち込みを行うことにより擬単結晶シリコン薄膜52にソース領域58、ドレイン領域60および活性領域62を形成する。例えば本実施形態では、不純物元素としてリン(P)を打ち込み、その後、XeClエキシマレーザを400mJ/cm2程度のエネルギー密度に調整して照射して不純物元素を活性化することによってN型の薄膜トランジスタを作成する。なお、レーザ照射の代わりに250℃〜400℃程度の温度で熱処理を行うことにより不純物元素の活性化を行ってもよい。
【0057】
次に、図8(D)に示すように、酸化シリコン膜54およびゲート電極56の上面に、PECVD法などの成膜法によって、500nm程度の膜厚の酸化シリコン膜64を形成する。次に酸化シリコン膜54,64のそれぞれを貫通してソース領域58およびドレイン領域60のそれぞれに至るコンタクトホールを形成し、これらのコンタクトホール内にスパッタリング法などの成膜法によってアルミニウム、タングステン等の導電体を埋め込んでパターニングすることにより、ソース電極66およびドレイン電極68を形成する。これにより、図8(D)に示すように、金属含有物質からなり半導体膜の結晶化を促進する結晶化促進膜としてのニッケル膜が突起部の底部近傍に配置され、突起部を起点として溶融結晶化が行われて形成された擬単結晶シリコン薄膜52を用いて活性領域62等が形成された薄膜トランジスタ6が得られる。なお、以上の各工程で説明されていない加工方法は、公知の方法を適用すればよい。
【0058】
本実施の形態に係る擬単結晶シリコン薄膜52を薄膜トランジスタ6の活性領域62に用いることにより、オフ電流が少なく移動度の大きい高性能な薄膜トランジスタを形成することができる。なお、本実施形態において「半導体素子」とは、各種トランジスタやダイオード、抵抗、インダクタ、キャパシタ、その他の能動素子・受動素子を問わず、N型やP型半導体の組み合わせにより製造可能な素子を含む。
【0059】
図9には、本実施の形態に係る半導体素子を用いた半導体装置が示されている。本実施の形態に係る薄膜トランジスタを用いて半導体装置としての有機ELディスプレイ100を製造する。各工程の加工方法は、公知の方法を適用すればよい。
【0060】
図9に示すように、有機ELディスプレイ100は表示領域110内に画素領域112を配置して構成される。画素領域112は有機EL発光素子を駆動する薄膜トランジスタを使用している。薄膜トランジスタは上述した実施形態の製造方法によって製造されるものが使用される。ドライバ領域114からは発光制御線(Vgp)および書き込み制御線が各画素領域に供給されている。ドライバ領域116からは電流線(Idata)および電源線(Vdd)が各画素領域に供給されている。書き込み制御線と定電流線Idataを制御することにより、各画素領域に対する電流プログラムが行われ、発光制御線Vgpを制御することにより発光が制御される。なお、ドライバ領域114および116についても本発明に係る薄膜トランジスタを使用することが可能である。また、本発明に係る半導体薄膜は、上述した例に限らず半導体素子を適用可能なあらゆる半導体装置に適用可能である。例えば、この他に、液晶ディスプレイ、記憶装置、演算装置等にも活用することができる。
【0061】
本実施の形態に係る半導体素子を含んで構成される装置である半導体装置(例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、記憶装置および演算装置等)としての集積回路等を含む装置を製造すれば、極めて高性能で均質な集積回路等を含む装置を製造することができる。なお、本実施形態において「半導体装置」とは、半導体素子を含んで構成される装置であり、例えば集積回路等を含む装置である。本実施の形態に係る擬単結晶半導体薄膜を用いることにより、電気的特性に優れた半導体素子、半導体装置を得ることが可能となる。なお、結晶化促進膜として、遮光性を有するものを用いた場合には、半導体素子の擬単結晶半導体薄膜により構成される部分(例えば、薄膜トランジスタであれば活性領域等)に対する光の入射を結晶化促進膜によって遮り、擬単結晶半導体薄膜に光励起による起電力や暗電流の発生を防ぐことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法を示す図。
【図2】本発明の実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法を示す図。
【図3】本発明の実施の形態に係る半導体薄膜を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係る基板分離工程を示す図。
【図5】本発明の実施の形態に係る基板分離工程を示す図。
【図6】本発明の実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法を示す図。
【図7】本発明の実施の形態に係る半導体薄膜の製造方法を示す図。
【図8】本発明の実施の形態に係る半導体素子の製造方法を示す図。
【図9】本発明の実施の形態に係る半導体装置を示す図。
【符号の説明】
【0063】
2…単結晶シリコン基板 4…光透過性基板 6…薄膜トランジスタ 10…突起部 12…シリコン薄膜(アモルファスシリコン薄膜) 14…エキシマレーザ 16…結晶シリコン 18…接点 20…擬単結晶シリコン薄膜 22…酸化皮膜 24…結晶粒界 26…接点 30…単結晶シリコン基板 32…多孔質単結晶シリコン層 34…突起部 36…接点 38…単結晶シリコン基板 40…レジスト 42…単結晶シリコン基板 44…突起部 46…レジスト 48…単結晶シリコン基板 50…突起部 52…擬単結晶シリコン薄膜 54…酸化シリコン膜 56…ゲート電極 58…ソース領域 60…ドレイン領域 62…活性領域 64…酸化シリコン膜 66…ソース電極 68…ドレイン電極 100…有機ELディスプレイ 110…表示領域 112…画素領域 114…ドライバ領域 116…ドライバ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成された複数の突起部を設けた第1の基板と表面に半導体膜が形成された第2の基板とを用意する第1の工程と、
前記複数の突起部と前記半導体膜とを接触させた状態で、前記半導体膜に熱処理を施す第2の工程と、を含むこと、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体素子の製造方法において、
前記第2の工程において、前記熱処理により前記半導体膜が溶融すること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体素子の製造方法において、
前記第2の工程を行うことにより、前記複数の突起部に対応して前記半導体膜内に複数の単結晶粒が形成されること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法において、
前記第2の工程の後、前記第1の基板と前記第2の基板とを分離する第3の工程をさらに含むこと、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法において、
前記複数の突起部は、単結晶シリコンで形成されていること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法において、
前記複数の突起部は、前記複数の突起部の各々の表面に形成された酸化膜を含むこと、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の半導体素子の製造方法において、
前記複数の突起部は、前記複数の突起部の各々の表面に形成された酸化膜を含み、
前記第3の工程において、前記酸化膜は除去されること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法において、
前記複数の突起部の各々は、多孔質で形成されていること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の半導体素子の製造方法において、
前記複数の突起部の各々は、多孔質で形成されており、前記第3の工程において、前記複数の突起部を除去すること、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法において、
前記第2の工程は、前記第2の基板の前記半導体膜が形成されている面とは対向する面の側から前記半導体膜にレーザ光を照射する工程を含むこと、
を特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法により製造される半導体素子。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置の製造方法により製造される半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−294849(P2007−294849A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318109(P2006−318109)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】