説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】基板と能動層との間に導電性半導体層を挿入した構成をもつGaN系デバイスにおいて、導電性半導体層中のドーパントの悪影響を抑制する。
【解決手段】このHEMT素子10においては、基板11としてn−GaN(n型のGaNウェハ)が用いられる。この上に、リーク電流の低減及び電流コラプス抑制等のためにp型GaN層(導電性半導体層)12が形成される。p型GaN層12の上に、ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)13が形成され、その上に、半絶縁性GaNからなる電子走行層(能動層)14、n−AlGaNからなる電子供給層(能動層)15が、MBE法、MOVPE法等によって順次形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に窒化物半導体からなる能動領域を具備する半導体装置の構造、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体を用いた半導体装置、特に高出力・高周波用の素子として、例えばGaNを用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)が用いられている。このHEMT素子90の断面構造の概略を図6に示す。図において、基板91上に、p型GaN層(導電性半導体層)92、電子走行層93、電子供給層94がエピタキシャル成長によって形成される。ここで、HEMT動作における能動層となる電子走行層93は半絶縁性(ノンドープ)GaNで構成され、同じく能動層となる電子供給層94はn−AlGaN(正確には例えばn型Al0.20Ga0.80N)で構成される。ここで、電子走行層93と電子供給層94との界面の電子走行層93側において、2次元電子ガス層が形成される。この2次元電子ガス層はソース電極95とドレイン電極96との間に形成され、これによりソース電極95とドレイン電極96間に電流が流れるが、この2次元電子ガスのチャンネルのオン・オフがゲート電極97に印加した電圧によって制御され、スイッチング動作が行われる。この際、この2次元電子ガス中の電子の速度(移動度)は極めて高くなるため、高速動作が可能である。また、GaNはGaAs等と比べてバンドギャップが大きいため、このHEMT素子90は高い絶縁耐圧をもち、高出力動作をすることができる。この場合、良好な増幅特性やスイッチング特性を得るためには、ソース電極95とドレイン電極96間に流れる電流のオン/オフ時の比率、あるいはこれらの間の抵抗のオフ/オン時の比率を大きくすることが必要である。なお、図6に示された構造はHEMT素子の最も単純な構造であり、実際には、例えばソース電極95、ドレイン電極96と電子供給層94とのコンタクトの形状やゲート電極97近傍の形状等はより最適化され、図6とは異なったものとなる場合が多い。
【0003】
HEMT素子90の特性は、能動層となる電子走行層93、電子供給層94の結晶性の影響を大きく受け、これらの結晶性や製造コストは基板91の影響を強く受ける。従って、基板91の選定は重要である。基板91としては、例えば、絶縁性のものとして、サファイアや半絶縁性のSiC等が用いられる。また、近年は、GaNのウェハとして、取り扱い容易な大きさのn−GaN(n型GaN)ウェハを安価に得ることができるようになり、これを基板91として用いることもできるようになった。この場合には、基板91の導電性は高い。
【0004】
導電性の高い基板91を用いた場合には、基板91全体をソース電極95と電気的に接続すれば、HEMT素子90の表面(上面)側にソース電極パッドを形成する必要がなくなりレイアウト上有利であり、かつオン抵抗を小さくすることができるというメリットがある。また、GaN系のHEMT素子においては、大電流動作時のオフからオン切替時において電流が減少する電流コラプスという現象が知られている。導電性の基板91を用いて基板91側を一定電位に固定することにより電界集中を抑制することは、この電流コラプスの抑制という観点からも有効であることが知られている。しかしながら、一方で、ソース電極95とドレイン電極96間において基板91を介したリークが発生し、この間の耐圧が劣化するというデメリットがある。図6の構造においては、この点を改善するために、n−GaN(基板91)と電子走行層93との間にp型GaN層92が挿入されている。この場合には、基板91とp型GaN層92との間のpn接合によって導電性の基板91はバイアスされるため、基板91を介したリークは抑制される。ただし、このp型GaN層92中の正孔がHEMT素子90の動作(ゲート電流やドレイン電流)に悪影響を与える場合がある。これを抑制するために、特許文献1には、p型GaN層92と電子走行層93との間に更にn型層、p型層を挿入した構成が記載されている。
【0005】
一方、基板91が例えばサファイア等の絶縁体である場合には、基板91を介したリークは発生しないが、逆に、上記のようなソース電極構成をとることができないため、上記のメリットは得られない。従って、この場合においても、絶縁性の基板91と電子走行層93との間に導電性半導体層(p型GaN層92)を挿入することが行われている。これによって、導電性の基板91を用いた場合と同様のメリットを得ることができる。
【0006】
上記の通り、結局、基板91の種類によらず、基板91上にp型GaN層92を形成することは有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−150538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
p型GaN層92は、電子走行層93や電子供給層94と同様に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、MOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法等によってエピタキシャル成長によって形成される。この際、p型ドーパントとしては、MgやZn等が用いられる。
【0009】
上記の構造を製造する際に、このp型ドーパントは、p型GaN層92内だけに留まらず、その上方にある電子走行層93等にも拡散をする。この拡散として考えられるのは、単にp型GaN層92内から電子走行層93等にp型ドーパントが拡散する場合だけではない。例えば電子走行層93とp型GaN層92とを同一の結晶成長装置(MBE装置やMOVPE反応炉)内で形成する場合には、p型GaN層92を形成する際に結晶成長装置内に残留したp型ドーパントが、その後に形成する電子走行層93等に取り込まれる場合も含む。こうした拡散を抑制することは容易ではない。
【0010】
電子走行層93(能動層)にこのMg等が拡散した場合、例えば電子の散乱体となり、電子の移動度を低下させる。すなわち、HEMT素子90の動作に悪影響を与えることがある。
【0011】
こうした状況は、HEMT素子に限らず、基板上に導電性半導体層が形成され、この上にGaN系の能動層が形成されたデバイス、例えばMESFET(MEtal−Semiconductor Field Effect Transistor)あるいはSBD(Schottky Barrier Diode)等においても同様である。
【0012】
従って、基板と能動層との間に導電性半導体層を挿入した構成をもつGaN系デバイスにおいて、導電性半導体層中のドーパントの悪影響を抑制することは困難であった。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の半導体装置は、基板上に、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)で表される組成をもつ能動層が形成された構成を具備し、前記基板と前記能動層との間に、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される組成をもつ導電性半導体層が形成された構成を具備する半導体装置であって、前記能動層と前記導電性半導体層との間に、化学式AlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表される組成をもつ半絶縁性半導体層が形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記導電性半導体層における導電率は、前記基板側で高く、前記半絶縁性半導体層側で低く設定されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記半絶縁性半導体層の組成は厚さ方向において変動し、前記導電性半導体層側で、r=p、s=q、前記能動層側で、r=x、s=yであり、前記導電性半導体層側と前記能動層側の中間において、p<r、x<rとなる領域を具備することを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記導電性半導体層の組成は厚さ方向において変動し、前記半絶縁性半導体層側で、p=r、q=sであることを特徴とする。
本発明の半導体装置は、基板上に、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)で表される組成をもつ能動層が形成された構成を具備する半導体装置であって、前記基板と前記能動層との間に、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される組成をもつ導電性半導体層と、化学式AlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表される組成をもつ半絶縁性半導体層とが、前記導電性半導体層が前記基板側に、前記半絶縁性半導体層が前記能動層側にそれぞれくるように、交互にそれぞれ2層以上が形成されたことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記基板側に設けられた前記導電性半導体層の導電率は、前記能動層側に設けられた前記導電性半導体層の導電率よりも高いことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記基板はn型導電性をもち、前記導電性半導体層はp型導電性をもつことを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記基板は半絶縁性であることを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記基板は窒化ガリウムであることを特徴とする。
本発明の半導体装置において、前記基板はサファイアであることを特徴とする。
本発明の半導体装置の製造方法は、前記半導体装置の製造方法であって、前記基板上に、前記導電性半導体層、前記半絶縁性半導体層、及び前記能動層を、同一の結晶成長装置内で順次形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、基板と能動層との間に導電性半導体層を挿入した構成をもつGaN系デバイスにおいて、導電性半導体層中のドーパントの悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るHEMT素子の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るHEMT素子における導電性半導体層中のドーパントの分布の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るHEMT素子における半絶縁性半導体層中の組成分布の一例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るHEMT素子の断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るHEMT素子における導電性半導体層中のドーパント濃度構成の一例を示す図である。
【図6】GaN系半導体を用いた従来のHEMT素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体装置として、特に高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)素子について説明する。このHEMT素子においては、基板上に導電性のGaN系半導体層が形成され、その上にGaN系の半導体からなる能動層(デバイス動作に直接関わる層)が形成される。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1に、第1の実施の形態に係るHEMT素子の断面構造を示す。このHEMT素子10においては、基板11としてn−GaN(n型のGaNウェハ)が用いられる。この上に、リーク電流の低減及び電流コラプス抑制等のためにp型GaN層(導電性半導体層)12が形成される。p型GaN層12におけるp型ドーパントとしては、MgやZnが用いられ、この層の形成は、MBE法やMOVPE法によって行うことができる。
【0019】
ここでは、p型GaN層12の上に、ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)13が形成され、その上に、半絶縁性GaNからなる電子走行層(能動層)14、n−AlGaNからなる電子供給層(能動層)15が、MBE法、MOVPE法等によって順次形成される。なお、ここでいうノンドープとは、伝導性の制御等のための意図的な不純物導入を行っていないことを意味する。従って、意図的でなく不可避的に導入された不純物は含んでいてもよい。電子走行層14及び電子供給層15は、共にHEMT素子10における能動層として機能する。ここで、電子供給層15を構成するn−AlGaNは、例えばn型のAl0.20Ga0.80N(x=0.20程度)である。電子供給層15上には、ソース電極16、ドレイン電極17が形成され、これらの間における電子走行層14と電子供給層15との界面の電子走行層14側に2次元電子ガスが形成される。この2次元電子ガスからなるチャンネルのオン・オフが、空乏層を介してゲート電極18に印加された電圧で制御される。ソース電極16、ドレイン電極17は、共に電子供給層15(n−AlGaN)とオーミック接触をする材料として、例えばTi/Au等で構成される。ゲート電極18は、n−AlGaNとショットキー接触をし、n−AlGaN中に空乏層を形成する材料として、例えばNi/Auで構成される。
【0020】
この構造においては、基板11が導電性であり、その電位を一定とすることができるため、電流コラプスが抑制される。また、基板11とソース電極16とを同電位とすることができるため、基板11全体をソース電極とする構成を実現することができる。この際、導電性である基板11(n−GaN)を介したソース電極16、ドレイン電極17間のリークは、基板11とp型GaN層12間のpn接合によって基板11がバイアスされるため、抑制される。
【0021】
このHEMT素子10の特徴は、能動層となる電子走行層14とp型GaN層(導電性半導体層)12との間にノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)13が形成されていることである。このノンドープAlN層13によって、p型GaN層12中のドーパントであるMgやZnが上側の能動層である電子走行層14に拡散することを抑制することができる。また、この層はノンドープであるため、この層中のドーパントが上側の能動層へ拡散することもない。ここでいう拡散とは、単にp型GaN層12中から電子走行層14側にドーパントが拡散する場合だけでない。p型GaN層12と電子走行層14とを同じ結晶成長装置(MBE装置、MOVPE反応炉等)内で形成する場合に、p型GaN層12を成長する際にこの結晶成長装置内に残留したドーパントが、その後に成長させた電子走行層14に添加される場合も含む。どちらの場合においても、半絶縁性半導体層13を介在させることによって、このドーパントが電子走行層14等の中に混入することを抑制できることは明らかである。特に後者の場合には、p型GaN層12、半絶縁性半導体層13、電子走行層14等を同一の結晶成長装置内で形成するという製造方法を用いる場合に有効である。この場合には、例えば結晶成長装置の内壁に付着したドーパント元素上にAlN層が付着し、電子走行層14を成長する際にこのドーパントが混入することが抑制される。
【0022】
また、ノンドープAlN層13には、ドナー、アクセプタ等のドーパントが意図的に添加されておらず、かつAlNのバンドギャップは6.3eVと、GaNの3.4eVと比べて大きい。従って、この層の絶縁性は充分に高く、この層の面内方向を介したソース電極16、ドレイン電極17間のリークは抑制される。一方、AlNと、この層の上下にある電子走行層14、p型GaN層(GaN)12との間には、格子不整合が存在する。この格子不整合による電子走行層14中の結晶欠陥の発生を抑制するためには、このノンドープAlN層13を薄くすることが好ましい。従って、ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)13の厚さは、上記のMg等の拡散の抑制効果と、結晶欠陥の影響を考慮した上で適宜設定される。
【0023】
また、上記の効果が強くなるようにp型GaN層12におけるドーパント(Mg、Zn等)の濃度分布を設定すれば、更に効果的である。この場合のp型GaN層12における深さ方向のドーパント濃度分布の一例を図2に示す。この場合には、pn接合を形成する基板11側におけるp型ドーパント濃度を高く(導電率を高く)し、拡散を抑制したい半絶縁性半導体層13側で低く(導電率を低く)している。これによって、pn接合の形成によってリーク電流が抑制されるという効果が保たれると共に、ドーパントの拡散は更に抑制される。この構成は、p型GaN層12の結晶成長時のドーパント量を制御することにより容易に実施できる。
【0024】
また、導電性半導体層(p型GaN層)12が能動層(電子走行層14、電子供給層15)と基板11との間に形成された構造であれば、こうした半絶縁性半導体層(ノンドープAlN層)13を用いることが有効であることは明らかである。従って、基板11として、n−GaN以外にも、半絶縁性GaN、SiC、絶縁性であるサファイア等が用いられた場合にも同様の構造を用いることができる。なお、GaN以外を基板11として用いる場合には、基板11と導電性半導体層(p型GaN層)12との間に、バッファ層としてAlN層等を設けることが好ましい。絶縁性の基板が用いられる場合には、p型GaN層12によって、基板11側の電位を一定とすることができるために、電流コラプスが抑制される。この場合においても、ドーパントの能動層への拡散を抑制することができる。また、上記の例においては、基板11をn−GaNとしたために、導電性半導体層12をp型としたが、半絶縁性や絶縁性の基板を用いる場合には、導電性半導体層12をn型とすることもできる。また、基板11がp型の導電性であれば、導電性半導体層12をn型とすることができることも明らかである。
【0025】
なお、上記の例では、半絶縁性半導体層13をノンドープAlN層としたが、下層のドーパントの拡散を抑制できると共に、この層からのドーパントの拡散が無視できる半導体層であり、かつ基板11や能動層よりも充分に高い絶縁性をもつ半導体層であれば、半絶縁性半導体層13として用いることができる。
【0026】
また、上記の例では、能動層(電子走行層14)をGaNとしたが、GaN系の混晶半導体として、これを一般的に、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)とすることができる。これに対応して、導電性半導体層12として、p型GaNの代わりに、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される導電性の半導体を用いることができる。この場合、半絶縁性半導体層13として、能動層、導電性半導体層12よりもAlリッチでありバンドギャップの大きなAlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表されるノンドープの半絶縁性半導体層を用いることができる。この場合、x、y、p、q、r、sの値については、上記の効果を得るという観点だけでなく、良好な結晶性をもつ電子走行層14を得るという観点からも、適宜設定される。
【0027】
この場合、半絶縁性半導体層13中の組成(r、s)を均一とする必要はない。その一例における半絶縁性半導体層13中のr、sの組成分布を図3(a)(b)にそれぞれ示す。この場合には、r、sを厚さ方向において変化させ、導電性半導体層12側ではr=p、s=q、能動層側ではr=x、s=yとし、これらの中間においてp、x<rとなるような傾斜組成としている。こうした組成の半絶縁性半導体層13を用いることにより、能動層(電子走行層14)との界面における格子不整合を低減し、より良好な特性の能動層を得ることができる。
【0028】
同様に、導電性半導体層12の組成p、qを厚さ方向で変化させ、半絶縁性半導体層13側ではp=s、q=rとなるような設定とすることができる。この場合においても、半絶縁性半導体層13と導電性半導体層12との界面における格子不整合を低減することができる。この場合には、基板11側では基板11に対する格子不整合が小さいようにp、qを設定すればよく、特に基板11がGaN系半導体である場合には有効である。基板11がGaN系半導体でない場合でも、p、qを最適化することによって基板11との格子不整合を緩和できる場合には同様である。
【0029】
また、上記の例ではHEMT素子について説明したが、これ以外の半導体装置においても本願発明が適用できることは明らかである。導電性のGaN系半導体層上にGaN系の能動層を形成した構成をもつ半導体装置において、能動層へのドーパントの拡散を、半絶縁性半導体層を挿入することによって抑制することができる。
【0030】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のHEMT素子においては、第1の実施の形態のHEMT素子におけるp型GaN層(導電性半導体層)12とノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)13とのなす構造を、別の構成とすることにより、同様の効果を奏する。
【0031】
第2の実施の形態に係るHEMT素子の断面構造の一部を図4に示す。ここで、電子供給層15より上側は第1の実施の形態と同様であるため、省略している。このHEMT素子20においては、基板11上に、p型GaN層(導電性半導体層)22、ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)23とが交互に4層ずつ形成され、その上に電子走行層(能動層)14が形成されている。ただし、基板11側にp型GaN層22が、電子走行層14側にノンドープAlN層23が、それぞれくるような順序とされる。
【0032】
第1の実施の形態は、この構成におけるp型GaN層22、ノンドープAlN層23とを1層ずつ設けた場合に該当する。従って、第2の実施の形態に係る構成によっても、p型GaN層(導電性半導体層)22のもたらす効果である、リーク電流の抑制、電流コラプスの抑制等が得られることは明らかである。一方、ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)23のもたらす効果である、p型GaN層22中のドーパントの能動層(電子走行層14)側への拡散の抑制が得られることも明らかである。すなわち、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0033】
一方、p型GaN層22とノンドープAlN層23とでは、格子定数の不整合が存在する。これに対して、図4の構造においては、p型GaN層22とノンドープAlN層23の各々を薄くして積層することにより、この不整合による結晶欠陥(転位等)や残留応力を緩和することができる。電子走行層14はこの構造の上に形成されるため、第1の実施の形態と比べて、電子走行層14をより良質とすることができる、
【0034】
この際、第1の実施の形態と同様に、p型GaN層22中のドーパント濃度は、全てのp型GaN層22において同一とする必要はない。図5に示されるように、基板11側にあるp型GaN層22のドーピング濃度を高く、能動層(電子走行層14)側にあるp型GaN層22のドーピング濃度を低くすることによって、ドーパントの能動層側への拡散が更に抑制できることは明らかである。この場合、各p型GaN層22を形成する際においては、ドーピング濃度を各々一定とすることができる。
【0035】
また、各p型GaN層22、各ノンドープAlN層23の厚さを一定とする必要はない。これらの層数及び厚さは、上記の効果を奏する限りにおいて適宜設定される。特に、層数についてはp型GaN層22、ノンドープAlN層が各々が2層以上であればよい。
【0036】
なお、第1の実施の形態と同様に、電子走行層14(能動層)として、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)を用いることができる。これに対応して、導電性半導体層22として、p型GaNの代わりに、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される導電性の半導体を、半絶縁性半導体層23として、ノンドープAlNの代わりにAlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表されるノンドープの半絶縁性半導体を用いることができる。p、q、r、sの値を単一の導電性半導体層22、半絶縁性半導体層23内において均一とする必要はなく、端部において隣接する層に適合させるように設定することができることについても、第1の実施の形態と同様である。基板11として導電性のn−GaN、半絶縁性GaN、SiC、絶縁性のサファイア等を用いることができること、HEMT素子以外にこの構造を用いることができることも同様である。
【符号の説明】
【0037】
10、20、90 HEMT素子
11、91 基板
12、22、92 p型GaN層(導電性半導体層)
13、23 ノンドープAlN層(半絶縁性半導体層)
14、93 電子走行層(能動層)
15 94 電子供給層(能動層)
16、95 ソース電極
17、96 ドレイン電極
18、97 ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)で表される組成をもつ能動層が形成された構成を具備し、前記基板と前記能動層との間に、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される組成をもつ導電性半導体層が形成された構成を具備する半導体装置であって、
前記能動層と前記導電性半導体層との間に、化学式AlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表される組成をもつ半絶縁性半導体層が形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記導電性半導体層における導電率は、前記基板側で高く、前記半絶縁性半導体層側で低く設定されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半絶縁性半導体層の組成は厚さ方向において変動し、
前記導電性半導体層側で、r=p、s=q、
前記能動層側で、r=x、s=yであり、
前記導電性半導体層側と前記能動層側の中間において、p<r、x<rとなる領域を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記導電性半導体層の組成は厚さ方向において変動し、
前記半絶縁性半導体層側で、p=r、q=sであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
基板上に、化学式AlGa1−x−yN(0≦x<1、0≦y<1、0≦x+y<1、ここで、MはIn、Bのうちの1種を少なくとも含む)で表される組成をもつ能動層が形成された構成を具備する半導体装置であって、
前記基板と前記能動層との間に、化学式AlGa1−p−qN(0≦p<1、0≦q<1、0≦p+q<1)で表される組成をもつ導電性半導体層と、
化学式AlGa1−r−sN(p<r<1、x<r、0≦s<1、0≦r+s<1)で表される組成をもつ半絶縁性半導体層とが、
前記導電性半導体層が前記基板側に、前記半絶縁性半導体層が前記能動層側にそれぞれくるように、交互にそれぞれ2層以上が形成されたことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
前記基板側に設けられた前記導電性半導体層の導電率は、前記能動層側に設けられた前記導電性半導体層の導電率よりも高いことを特徴とする請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記基板はn型導電性をもち、前記導電性半導体層はp型導電性をもつことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記基板は半絶縁性であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記基板は窒化ガリウムであることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記基板はサファイアであることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記基板上に、前記導電性半導体層、前記半絶縁性半導体層、及び前記能動層を、同一の結晶成長装置内で順次形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−40676(P2011−40676A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189153(P2009−189153)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19〜21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発―窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000106276)サンケン電気株式会社 (982)
【Fターム(参考)】