説明

反射防止構造体を有する部材およびその製造方法

【課題】 大面積で曲面形状あるいは複雑形状の表面であっても、高精度な反射防止構造体を有する部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 部材101の表面に触媒機能を持った核102形成を行う。次に、核102の上に結晶を成長させることにより針状結晶103の集合体で構成された反射防止構造体を形成する。反射防止構造体を形成する工程は、化学蒸着法、気相エピタキシー法、あるいは分子線エピタキシー法のうちのいずれかの方法により行う。核102の上には、炭素、珪素、炭化珪素、窒化硼素、二酸化珪素の中から選ばれる少なくとも1種類を含む結晶を成長させる。これにより、触媒機能を有する核結晶を介して表面に形成された針状結晶103の集合体である反射防止構造体を有する部材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止構造体を有する部材およびその製造方法に関し、より特定的には、大面積かつ大面積かつ曲面形状の表面であっても高精度な反射防止構造体を形成できる反射防止構造体を有する部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途に用いられている光学素子や光学部材には、多くの場合、光の反射を防止するために、反射防止機能が求められている。光学素子として、例えば、透過型映像拡大装置に使用されるスクリーンが挙げられる。透過型映像拡大装置に使用されるスクリーンは、投写レンズからの光を観察者の目に到達するように光線を曲げながら光を透過させる機能を持っているが、その表面では、光の反射防止機能を有することが望まれている。これは、表面に反射防止処理が施されていないスクリーンでは、入射するすべての光線を透過させることができず、スクリーンで反射した光線が再度反射ミラーに到達して、再び反射ミラーで反射されることにより再びスクリーンに戻ってしまうため、本来の映像の上に不要な反射光によって像が形成されてしまい、2重の像が表示されるためである。
【0003】
また、透過型映像拡大装置では、装置の小型化を図るために投写レンズとして広角レンズが用いられる。広角レンズを用いると、スクリーンに対する入射角は大きくなり、スクリーンの最周辺では約45°になる。一般的には、スクリーンに光学薄膜を利用した反射防止手段を設けて、上記した2重像の解消を図っている(例えば特許文献1)が、光学薄膜を利用した反射防止手段は、入射角が大きくなると反射防止効果が小さくなるという入射角依存性があり、上述のように入射角の大きいスクリーン周辺部では、充分な反射防止効果を発揮できなかった。また、光学薄膜を利用した反射防止手段は、波長依存性もあるため、全ての色について反射防止をすることは非常に困難であった。
【0004】
また、光学素子としては、太陽電池に使用される、シリコンの単結晶あるいは多結晶で構成されたシリコン基板が挙げられる。このようなシリコン材料にて形成された基板は、感度の高い波長領域で屈折率が3.5〜4程度もあるため、基板表面での反射率は約30%にもなり、光の利用効率を大きく損ねていた。そのため、太陽電池に使用されるシリコン基板には、表面に酸化チタン(TiO2 )や窒化シリコン(SiNx)などで形成された反射防止膜を多層に重ねることで、反射防止の特性や光の利用効率を向上させる検討がなされているが、製造工程数が複雑であるため、非常に生産コストが高くなるという問題があった。
【0005】
また、光学部品としては、投影レンズ系あるいは撮像光学系などで使用されるレンズ鏡筒が挙げられる。レンズ鏡筒の内面において光の反射が生じると、ゴーストやフレアとなって映像品質を低下させる原因となる。また、光学部品として、光学系の明るさの指標であるFナンバーを調整する開口絞りや、レンズに装着して使用するレンズキャップ、迷光の発生を抑制するための迷光防止部材や、軸外光束のフレアをカットするためのフレアカット絞り等の遮光防止部材がある。これらの遮光防止部材の内側面において不要光の反射が生じると、この反射光が迷光となる場合があり、ゴーストやフレアとなって映像品質を低下させることとなる。そのため、このような遮光防止部材の内側面にも反射防止膜を形成することが望まれているが、現状の技術ではこのような部位への反射防止膜の形成は困難である。
【0006】
また、光学素子にはハロゲン電球も含まれる。ハロゲン電球は、照明用の光源として用いられるだけでなく、ハロゲン電球が赤外線を出すことから熱源として暖房器具などの用途にも用いられている。ハロゲン電球の表面には、可視光や赤外線の透過率が高い薄膜を蒸着して形成するが、このような薄膜は、生産性の点で問題がある。また、電球の形状によっては、蒸着による薄膜を高精度に形成できないことがある。
【0007】
また、光学素子には、液晶パネルのバックライトとして利用される平板型蛍光灯も含まれる。液晶パネルは、薄型で消費電力が少ないという利点があるため、テレビ受像機の他に、パーソナルコンピュータのディスプレイなどに用いられるものであるが、液晶パネルに使用される液晶自身は非発光体である為、上述のように、バックライトとして平面型蛍光灯等が用いらえる(例えば、特許文献2)。ところで、ディスプレイとしての輝度を確保するには、平板型蛍光灯の表面における光の透過率が可視域の全体に亘って高いことが好ましいことから、液晶パネルには、従来より、可視域における透過率の高いソーダガラスなどの材料が用いられている。そして、このソーダガラスに反射防止薄膜を蒸着して反射防止性能を付与しているが、このような反射防止膜には、上述のように波長依存性があるため、可視光全域における十分な反射防止効果は得られていない。
【0008】
また、光学素子には、温度センサーや人体の検出などに用いられる赤外線用レンズも含まれる。人体の位置や体温を測定する焦電型の赤外線センサーでは、人体の温度(体温)が300K付近である為、赤外線の波長が8μm〜12μmにあたる。それより高温、例えば炎を検知する為の監視用カメラなどの場合には、炎からの赤外線の波長が3〜5μmにあたる。これらの波長を透過する材料として、比較的安価な単結晶珪素、すなわちシリコン(Si)、高価であるが性能のよいゲルマニウム(Ge)、亜鉛化セレン(ZnSe)等の材料が研磨や切削を施すことによりレンズやフィルターとして用いられている(例えば非特許文献1)。赤外線用の光学系に用いるシリコンや、ゲルマニウム等の材料は一般に屈折率が高いため、TiO2 やSiNx などの多層膜からなる反射防止膜を形成する必要があった。しかしながら、TiO2 やSiNx などを多層化するには製造工程が複雑になり、高価格化が問題となる。
【0009】
さらに、光学素子には、発光素子、受光素子、光変調素子(光変調器)なども含まれる。これらの素子の多くは、高屈折率材料より構成されており、反射率が非常に大きい。光学素子の入射および射出端面において、反射光は光学素子における光の利用効率を低下させ、また、反射光が他の光学素子に入射し、悪影響を及ぼす。そこで、従来より、酸化アルミニウム(Al23)、TiO2、SiNx、フッ化マグネシウム(MgF2)などの薄膜を、前記した素子表面に単層あるいは複層形成して反射防止膜を構成し、反射光を減少させていた。しかし、高屈折率材料における反射防止膜の性能を向上させるためには、製造工程が複雑になる上、高価格化が問題となる。
【0010】
上述のように、光学素子や光学部品などの部材に反射防止処理を施す手法として、蒸着やスパッタリングなどにより反射防止膜を形成する方法では、反射防止膜の入射角度依存性や波長依存性によって十分な射防止効果が得られず、また、反射防止膜の多層化による製造工程の複雑化や、鏡筒内面などのように複雑形状面への形成が困難という問題がある。そこで、これらの問題を改善するものとして、近年、光学素子あるいは光学部材の表面に、反射防止構造体を形成する方法が提案されている。(特許文献4)
【0011】
反射防止構造体とは、より具体的には、微細な凹凸形状の集合体であり、凹凸形状は光学素子や光学部材の光学機能面に入射する光の波長以下のピッチで形成されており、凹凸形状のピッチと高さの比であるアスペクト比は1以上である。一般に、光の反射は、屈折率が急激に変化する箇所で発生するが、このようなピッチおよびアスペクト比を有する反射防止構造体を形成することで、表面の急激な屈折率変化は解消されて、滑らかな屈折率分布が形成される。これにより、光学素子や光学部材の光学機能面に入射する光はほとんど全て光学素子の内部に進入し、光学素子の表面からの光の反射を防止することができる。したがって、上記した微細凹凸形状からなる反射防止構造体を設けることで、従来の反射防止層で問題でとなっていた波長依存性及び入射角依存性の問題は解消される。
【0012】
反射防止構造体を形成する方法としては、上記した特許文献4に記載されたものがある。この方法では、まず、石英ガラスやシリコン等からなる光学素子あるいは光学部材の表面に、電子ビーム(EB)描画法などにより、直接にサブミクロンピッチのパターンのマスクを形成する。次に、得られたマスクを用いて、光学素子材料のマスクで覆われた以外の部分をドライエッチングにより微細加工する。
【特許文献1】特開2001−127852号公報
【特許文献2】特表平6−50624号公報
【特許文献3】特開平5−60901号公報
【特許文献4】特開2001−272505号公報
【非特許文献1】佐伯利一 外,三菱電機技報,三菱電機株式会社,Vol.51 NO.11(1997) PP.745−748
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献4に記載の方法のように、ドライエッチングを用いた微細加工法では、用いる光学材料によっては、エッチング処理後の表面が荒れてしまったり、エッチングレートが非常に遅くなることがあり、使用できる光学材料が限定されるという問題がある。
【0014】
また、EB描画を用いる方法では、加工に非常に長い時間を要する。描画するパターン形状や条件にもよるが、例えば、5mm角の領域に0.25μmピッチで円形のパターン(直径0.20μm)を描画するには、約5時間の描画時間を要する。したがって、例えば、カメラ鏡筒の内面全体に対応する面積(50mm角)に描画するには、500時間もの描画時間が必要となり、直接に、光学材料に反射防止構造体を形成して量産することは現実的に不可能である。さらに、EB描画法を用いる方法では、レンズなどの曲面形状や、鏡筒内面の円筒内部などの複雑な形状の表面に微細パターンを描画することは非常に困難である。
【0015】
それ故に、本発明は、大面積で曲面形状あるいは複雑形状の表面であっても、高精度な反射防止構造体を有する部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する発明は、反射防止構造体を備えた部材に向けられており、この部材の表面に形成された反射防止構造体は、触媒機能を有する核結晶を介して表面に形成された針状結晶の集合体である。このような構成とすることで、大面積でかつ曲面形状あるいは複雑形状を有する表面であっても、高精度な反射防止構造体を有する部材が実現できる。
【0017】
本発明における部材とは、光学素子または光学部品である。また、針状結晶は、配向性を有することが好ましい。また、針状結晶は、部材において反射を抑制すべき光の波長以下のピッチでこの該部材の表面にアレイ状に形成されており、アスペクト比は1以上である。
【0018】
本発明では、上述のように、大面積を有する部材であっても反射防止構造体を有する部材とすることができるため、映像拡大装置に使用されるスクリーンのような部材に適用することができる。映像拡大装置は、スクリーンに加えて、表示素子、投写レンズ、および反射ミラーを備えるものであり、反射防止構造体は、スクリーンの全面に形成される。
【0019】
また、本発明は、太陽電池に使用されるシリコン基板のような部材に適用することもできる。このとき、反射防止構造体は、受光素子の受光面に形成される。
【0020】
また、本発明は、レンズ鏡筒のような部材にも適用できる。レンズ鏡筒は、円筒状又は円錐台形状の側面形状を有する基材を有するものであり、反射防止構造体は、基材の内面の少なくとも一部に形成される。
【0021】
また、本発明は、部材として、光束の少なくとも一部を遮蔽するように構成された遮光部材を用いることもできる。遮光部材は、円環状または円筒状の基材と、基材の少なくとも一部に形成された開口部とを有するものであり、反射防止構造体は、開口部の内側面に形成される。遮光部材とは、レンズキャップまたは撮像光学系に配置される開口絞り、フレアカット絞り、および迷光防止部品から選ばれるいずれかである。
【0022】
また、本発明は、部材として、ハロゲン電球に使用される透光性の気密容器にも適用できる。ハロゲン電極は、気密容器に加えて、密容器のほぼ中心軸上に位置するフィラメントと、密容器内に封入されたハロゲンガス及び不活性ガスとを有するものであり、反射防止構造体は、気密容器の内面または外面の少なくとも一方の面の一部に形成される。
【0023】
また、本発明は、部材として、平面型蛍光灯に使用される平板ガラスにも適用できる。平面型蛍光灯は、複数の平板ガラスが所定の間隔で対向するように配置されているガラス容器と、ガラス容器の内面側に形成された蛍光膜と、ガラス容器内に配置された少なくとも一対の放電電極とを備えるものであり、反射防止構造体は、平板ガラスの表面側に形成される。
【0024】
また、本発明は、部材として、赤外線を透過する材料を用いて構成された赤外線用レンズにも適用できる。反射防止構造体は、赤外線用レンズの少なくとも有効径内に形成される。ここで、赤外線の波長域は、3〜5μmまたは8〜12μmのいずれかであることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明は、部材として、発光素子、受光素子、および光変調素子から選ばれるいずれかの素子にも適用できる。反射防止構造体は、素子表面、素子側面、および素子内部に含まれる屈折率の異なる境界面の少なくとも1面以上に形成される。
【0026】
また、本発明は、反射防止構造体を有する部材の製造方法にも向けられている。この製造方法では、まず、部材の表面に触媒機能を持った核形成を行う。次に、核の上に結晶を成長させることにより針状結晶の集合体で構成された反射防止構造体を形成する。ここで、反射防止構造体を形成する工程は、化学蒸着法、気相エピタキシー法、あるいは分子線エピタキシー法のうちのいずれかの方法により行い、核の上には、炭素、珪素、炭化珪素、窒化硼素、二酸化珪素の中から選ばれる少なくとも1種類を含む結晶を成長させる。このように、部材の表面に形成された核の上に針状結晶を形成することで、一度に大面積を有する部材の表面に高精度な反射防止構造体を容易に形成することができる。また、曲面あるいは複雑な形状の表面であっても、同様に高精度な反射防止構造体を容易に形成することができる。さらに、反射防止構造体の加工時間の大幅な短縮が可能となるため、コストの削減が図れる。
【0027】
ここで、部材は、光学素子あるいは光学部品である。
また、針状結晶は、部材において反射を抑制すべき光の波長以下のピッチでアレイ状に形成され、アスペクト比は1以上である。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、一度で広範な部位に、かつ複雑な形状の部位であっても、波長依存性や入射角依存性の非常に小さな反射防止構造体を、短時間で容易にしかも安価に形成することができるため、各種の光学部材に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態に係る反射防止構造体を備えた部材の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る反射防止構造体を備えた部材を製造する過程における各段階での基板の断面図である。
【0030】
図1(a)は、反射防止構造体を形成するための部材を示す。この部材は、(100)面に配向した直径300mmの単結晶シリコンウェハ101であり、その表面は、高精密研削加工及び研磨加工によって平滑に加工されている。この単結晶シリコンウェハ101の表面に、触媒機能を持った核を形成する。ここで、触媒機能を持った核とは、反応性ガスを核表面に吸着し、核の表面上で酸化還元反応などを引き起こす働きをするものであり、例えば、d電子を有する金属元素を蒸着法やスパッタリング法により、基板表面で初期的に形成される小さな核が挙げられる。
【0031】
図1(b)は、単結晶シリコンウェハ101の表面に、触媒機能を持った核としてクロム(Cr)の島状結晶102を形成した状態を示す。図1(b)に示す状態の基板を得るためには、まず、単結晶シリコンウェハ101の表面に、Cr金属を原料とした電子ビーム真空蒸着法によりCrを蒸着させる。そして、Crの島状結晶102が形成されたところで蒸着を停止する。得られた島状結晶102も(100)面に配向しており、ピッチが250nmで、単結晶シリコンウェハ101の表面にほぼ均等にかつ緻密に形成されていた。
【0032】
図1(c)は、島状結晶102の上に、針状結晶103を形成した状態を示す。このような状態の基板を得るためには、まず、島状結晶102が形成された単結晶シリコンウェハ101を、TEOS(テトラエトオキシシラン)ガス雰囲気下に曝し、基板温度200℃、ガス圧50Paの条件下で周波数13.56MHzの高周波を印可することにより放電プラズマを発生させる。そして、CVD(化学蒸着法:Chemical vapor deposition)法により、島状結晶102の上にSiの結晶を成長させて針状結晶103を形成する。結晶の成長は、針状結晶103の大きさが、直径250nm、高さ800nmの円錐形状となったところで停止する。なお、針状結晶103は、反射防止構造体が形成された部材を使用する際に反射を抑制すべき光の波長(以下、使用波長と称す)以下のピッチでアレイ状に形成され、かつ、アスペクト比が1以上となるようにすることが好ましい。
【0033】
上記のように製造された針状結晶103の集合体である反射防止構造体は、直径300mmの大面積を有する単結晶シリコンウェハ101の表面においても均一に形成することができた。
【0034】
また、針状結晶103が形成された単結晶シリコンウェハ101の反射率を測定したところ、0.5%と非常に小さい値であった。なお、針状結晶103が形成されていない、表面が鏡面研磨された状態の単結晶シリコンウェハ表面101の反射率は、約30%である。これにより、針状結晶103を形成することで、すなわち反射防止構造体を形成することで、良好に反射率の低減が図れることが明らかである。
【0035】
また、ここでは図示されていないが、円筒形シリコン基板(直径80mm、高さ150mmの円筒形状)を用いて、その外周面に、上記と同様の方法によって配向性を有する針状結晶を形成した。ここでいう配向性とは、結晶方向が一定方向に配列された状態を示す。得られた円筒形シリコン基板は、その外周面を構成する曲面部分について、配向性を有する針状結晶が均一に形成されていた。また、針状結晶を形成した後の円筒形シリコン基板の外周面における反射率を測定したところ、上記した平板基板と同様に約0.5%であった。
【0036】
上記のように製造された部材は、例えば、レンズ、プリズム、フィルター、光学シート、および回折格子などの光学素子や、レンズ鏡筒のような光学素子を保持するための機構部品等の光学部品を、射出成形やプレス成形する際に使用される電鋳型として好適に使用できる。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、CVD法のように部材を気体と接触させることにより反射防止構造体を形成するため、処理面積の大きな部材や曲面や複雑な形状を有する部材であっても、反射防止構造体を均一に形成することができる。したがって、各種の部材への適用が可能である。また、短時間に反射防止構造体を形成することができるため、コストの削減が図れる。
【0038】
また、上記説明では、CVD法によりSiの針状結晶103を単結晶シリコンウェハ101の表面に形成した例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、CVD法に代えて気相エピタキシー(VPE)法、および分子線エピタキシー(MBE)法のうちのいずれかの方法を適用できる。また、Siの針状結晶13だけでなく、炭素(C)、窒化珪素(SiC)、二酸化珪素(SiO2 )、および窒化硼素(BN)の中から選ばれる少なくとも1種類を含む結晶を成長させて針状結晶とすることもできる。
【0039】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態で説明した製造方法を用いて、光学素子としてのスクリーン表面に反射防止構造体を形成した例を挙げて説明する。図2は、本実施形態に係る映像拡大装置の構成を示す模式図である。図中矢印は、光の光路を示している。図2において映像拡大装置は、スクリーン1、反射ミラー2、投写レンズ3、および表示素子4を備える。スクリーン1は、40インチのサイズであり、光の入射側にある表面の全面には、第1の実施形態と同様の方法で形成された針状結晶の集合体である反射防止構造体5を備える。この反射防止構造体5が形成された表面の反射率は、約0.6%であった。
【0040】
図2において、表示素子4に映し出された映像は、投写レンズ3を透過して反射ミラー2に到達し、この反射ミラーで反射されることによりスクリーン1に到達する。スクリーン1の光の入射面には、上述のように反射防止構造5が形成されているため、ほとんどの入射光はスクリーン1を透過し、反射して反射ミラー2へと向かう光線は無いに等しい。
【0041】
以上のように本実施形態によると、反射防止構造体を有するスクリーンとすることで、このスクリーンを備えた映像拡大装置は、投写レンズ3を透過した表示素子4からの光は、反射することなく可視光全域に亘って全て透過し観察者の方向へと進むため、2重の像となる不要な反射光は存在しなくなる。また、反射防止構造体に対する入射角の変化による反射率の変化を少なくすることができ、不要な反射光を効果的に抑えることができ、スクリーン周辺部においても必要な透過光の光量を大きくすることができる。なお、上記のように構成された映像拡大装置に組み込んだ状態での、上述のような表面反射率を有するスクリーン1の反射率は、平均で約0.4%であり、実使用上において問題のないレベルのものであった。
【0042】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態で説明した製造方法を用いて、光学素子として、太陽電池に使用されるシリコン基板を用い、この表面に反射防止構造体を形成した例を挙げて説明する。図3は、本実施形態に係る太陽電池に使用されるシリコン基板を製造する過程における各段階での基板の断面図である。
【0043】
図3(a)は、太陽電池に使用するためのシリコン基板の状態を示す断面図である。このシリコン基板11は、単結晶あるいは多結晶のシリコンにて形成されており、その表面12には、後述の各種処理が施される。シリコン基板11には、一般的に、p型基板が用いられる。
【0044】
図3(b)は、シリコン基板11の表面12に、拡散剤13をスピンコートにより塗布した状態を示す。図3(c)は、拡散剤13が塗布されたシリコン基板11に、n+ 型の拡散層14を形成した状態を示す。拡散層14は、p型のシリコン基板11の表面にリンや砒素などの不純物を導入して、ベーキングによる拡散処理を施すことにより形成される。
【0045】
図3(d)は、拡散層14が形成された基板から拡散剤13を除去した状態を示す。拡散剤13の除去は、化学処理により行われ、残滓は完全に除去される。
【0046】
図3(e)は、基板の表面に反射防止構造体を形成した状態を示す。このような状態の基板を得るためには、まず、シリコン基板11の表面に、実施の形態1と同様の方法により、配向性を有する針状結晶15を形成する。これにより針状結晶15の集合体である反射防止構造体が形成される。なお、針状結晶15のピッチは400nmであり、高さは600nmであった。また、シリコン基板11の表面反射率は、約0.8%であった。
【0047】
図3(f)は、仕上がり後の太陽電池の状態を示す。このような状態の基板を得るためには、まず、針状結晶15が形成されたシリコン基板11の表面12に表電極16を形成する。次いで、シリコン基板11の裏面に裏電極17を形成する。これにより、pn接合を有するシリコン基板11を用いた太陽電池が得られる。
【0048】
上記のように製造された本実施形態に係る太陽電池は、シリコン基板11の表面に反射防止構造体が形成されていたため、太陽電池において感度の高い波長領域(500〜1100nm)である光をほとんど反射することなくシリコン基板上に取り込むことができた。これにより、高い光利用効率が得られた。
【0049】
なお、太陽電池に使用されるシリコン基板は、上記従来例で説明したエッチング処理によって反射防止構造体を形成しようとすると、シリコン基板の表面が劣化するため、蒸着やスパッタ等によって反射防止膜を形成することしかできなかったが、本実施形態においては、第1の実施形態で説明した反射防止構造体の製造方法を適用することにより、従来は反射防止処理を施すことができなかった部分にも反射防止処理を施すことが可能となった。
【0050】
(第4の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態で説明した製造方法を用いて、光学部品として、レンズ鏡筒を用い、この表面に反射防止構造体を形成した例を挙げて説明する。図4は、本実施形態に係るレンズ鏡筒の光軸に垂直な方向で切断した状態を示す断面図であり、図5は、本実施形態に係るレンズ鏡筒を光軸27に平行な方向で切断した状態を示す断面図である。
【0051】
図4および図5において、レンズ鏡筒21は、円筒状の側面形状を有する基材22を有する。基材22は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の樹脂中にシアン、マゼンタ、イエロー等の色素を混ぜることによって得られる黒色染料(例えば、有本化学工業社製の商品名:Plast Black 8950または8970)等の染料を含有させることによって得られた黒色材料や、黒色染料の代わりにカーボンブラック等の顔料を混ぜることにより光を吸収するように構成された材料にて形成される。
【0052】
基材21の内面には、反射防止構造体23が形成されている。反射防止構造体23は、第1の実施形態と同様の方法により形成されたものであり、ここでは、入射光より小さいピッチ、すなわち150nmピッチ、高さ400nmの配向性を有する針状結晶の集合体で構成されている。
【0053】
また、上記のように構成されたレンズ鏡筒21の内部には、図5に示すように、レンズ24、25および26が光軸27の同軸上に配置されている。このような構成を有するレンズ鏡筒21の内面には、図5においてレンズ24の側から入射する包括画角以上の光束や、レンズレンズ24、25および26の表面の反射で発生する迷光が、入射する。しかしながら、本実施形態に係るレンズ鏡筒21では、入射光束は反射防止構造体23により効率よく吸収されるため、不要光の反射が抑制されることとなり、ゴーストやフレアの発生を解消して、コントラストの良好な撮像を実現できる。また、第1の実施形態に係る製造方法を適用することで、レンズ鏡筒21の内面に反射防止処理を容易に施すことができた。
【0054】
なお、上記説明では、円筒状の側面形状を有する基材を備えたレンズ鏡筒を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、円錐台形状の側面形状を有する基材を備えたレンズ鏡筒であっても良い。
【0055】
(第5の実施形態)
本実施形態では、光束の少なくとも一部を遮蔽するように構成された遮光部材に反射防止構造体を設けた例について説明する。遮光部材とは、レンズキャップ、撮像光学系に配置される開口絞りやフレアカット絞り、および迷光防止部品等であり、このような遮光部材においても、入射光の反射が生じるとゴーストやフレアが生じる。そこで、本実施形態では、遮光部材に第1の実施形態で説明した製造方法により反射防止構造体を形成することにより、これらの現象が解消された撮像光学系について説明する。
【0056】
まず、開口絞りに反射防止構造体を設けた例を挙げて説明する。図6は、本発明の第5の実施形態に係る開口絞りの構成を示す斜視図である。図6において開口絞り31は、所望の光学系の明るさ(Fナンバー)となるような円形開口部30と、円形開口部30の内側に形成された内側面32とを有する。ここで、円形開口部30の直径は3mmであり、内側面32の幅は0.25mmである。開口絞り31を構成する円環状の基材は、黒色材料にて形成されており、このような黒色材料は、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等の樹脂材料に、シアン、マゼンタ、イエロー等の色素を混ぜることによって得られる黒色染料(例えば、有本化学工業社製の商品名Plast Black 8950または8970)等の染料を含有させることによって得られる。あるいは、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂等の樹脂材料にカーボンブラック等の顔料を含有させることによっても得られる。
【0057】
開口絞り31の内側面32には、第1の実施形態と同様の方法により、ピッチ150nm、高さ400nmの針状結晶が形成されている。これは、入射光として可視光を用いた場合の、可視帯域波長(400nm〜700nm)よりも小さいピッチで、かつ、当該ピッチの1倍以上の高さを有する反射防止構造体に相当する。このようなに開口絞り31の内側面32に光吸収機能を持たせた構成とすることで、内側面32での反射光による迷光が低減する。
【0058】
なお、上記説明では、入射光として可視光を想定して反射防止構造体のピッチを設定しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、入射光には、可視光の他に、紫外光(紫外帯域波長:150nm〜400nm)、近赤外光(近赤外帯域波長:700nm〜2μm)、及び遠赤外光(遠赤外帯域波長:2μm〜13μm)を用いることもできる。このような場合には、反射防止構造体のピッチは、それぞれの光の波長よりも小さいピッチとなるように形成される。また、このような場合においても、反射防止構造体のアスペクト比は、当該ピッチの1倍以上あるいは3倍以上のであることが望ましい。
【0059】
次に、レンズキャップに反射防止構造体を設けた例について説明する。図7は、本実施形態に係るレンズキャップの斜視図である。本実施形態に係るレンズキャップ33は、撮像に必要な光束を遮ることのない範囲で迷光発生の要因となる光束のみを遮蔽する円形開口部33aと、その内側に形成された内側面34とを有する。レンズキャップ33は、上記した開口絞り31と同様に、黒色染料やカーボンブラック等により黒色に着色されている。円形開口部33aの直径は2mmであり、内側面34の幅は0.25mmである。内側面34には、第1の実施形態と同様の方法により、ピッチ150nm、高さ400nmの針状結晶が形成されており、これにより反射防止構造体が構成されている。
【0060】
反射防止構造体は、入射光として可視光を用いた場合を想定して形成したものであり、可視帯域波長(400nm〜700nm)よりも小さいピッチで、かつ、当該ピッチの1倍以上の高さを有する反射防止構造体に相当している。このようなにレンズキャップ33の内側面34に光吸収機能を持たせた構成とすることで、内側面34での反射光による迷光が低減する。
【0061】
次に、上記したレンズ鏡筒35内に、上述の開口絞り31やレンズ等を配置した撮像光学系について説明する。図8は、本実施形態に係る撮像光学系の断面図である。図8において、レンズ鏡筒35の内部には、開口絞り31、レンズ36、37および、レンズキャップ33が装着されたレンズ38が、光軸39上に同軸に配置されている。レンズ鏡筒35においては、レンズ36の側から入射する包括画角以上の光束や、レンズ36、37および38の表面反射で発生する迷光が開口絞り31あるいはレンズキャップ33の内側面に入射する。しかし、本実施形態に係る撮像光学系においては、これらの入射光束は、開口絞り31やレンズキャップ33に形成された反射防止構造体によって効率よく吸収されるため、ゴーストやフレアの発生が抑制され、コントラストの良好な撮像を実現できる。
【0062】
(第6の実施形態)
図9は、本発明の第6の実施形態に係るハロゲン電球の構成をし、図9(a)は、ハロゲン電球全体の構成を示し、図9(b)は、ハロゲン電球の外表面に形成された反射防止構造体の拡大模式図を示す。
【0063】
図9(a)において、ハロゲン電球は、気密容器41、フィラメント42、一対の内部導入線43、および一対の外部導入線44を備える。気密容器41は、透光性の容器であり、硬質ガラスにて形成されている。また、気密容器41は、主要部41a、ネック部41b、封止部41c、及び排気チップ部41dを備え、その内部には、ハロゲンガスおよび不活性ガスが封入されている。フィラメント42は、気密容器42のほぼ中心軸上に配置されている。
【0064】
ここで、気密容器41を構成する主要部41aの表面および内面には、図9(b)に示す反射防止構造体40が形成されている。図9(b)において、反射防止構造体40は、第1の実施形態と同様の方法により形成されたシリコンの単結晶からなるものであり、配向性を有する針状結晶の集合体で構成されている。反射防止構造体40のピッチpは200nmであり、高さhは300nmである。このような反射防止構造体40は、可視光領域の光の波長よりも十分に小さい構造であるため、気密容器41の表面における反射率が低下し、可視光を効率良く放出できるためハロゲン電球の明るさが平均で5%上昇した。この結果、消費電力を約5%抑えられるハロゲン電球を実現できた。
【0065】
なお、上記説明では、反射防止構造体40は、気密容器41の内面および外面の両方の面に形成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射防止構造体40は、気密容器41の内面または外面の少なくとも一方の面の一部に形成されるものであっても良い。また、上記説明では、反射防止構造体40をシリコン単結晶で構成した例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、SiO2などの他の材料でも同様の効果が得られる。また、上記説明では、気密容器41の内面および外面から突出した突起にて構成された反射防止構造体40を例に挙げて説明したが、突起に代えて気密容器41の表面に反射防止構造体40と同様の形状、すなわち同ピッチで反射防止構造体40の高さ分だけの深さを有する窪みを形成しても、同様の効果が得られる。さらに、上記説明では、反射防止構造体40のピッチおよび高さを可視光を効率良く放出するように設定した例を挙げて説明したが、本発明は可視光のみに限定されるものではなく、赤外光についても適用できる。
【0066】
(第7の実施形態)
図10は、本発明の第7の実施形態に係る平面型蛍光灯の構成を示し、図10(a)は、平面型蛍光灯の構成を示す斜視図であり、図10(b)は平板ガラスに形成された反射防止構造体50の拡大模式図である。図10(a)において、平面型蛍光灯は、内面側に蛍光体が塗布されることにより蛍光膜(図示せず)が形成された一対の平板ガラス51と、平板ガラス51の間に設けられた側面板52と、平板ガラス51の両端部に配置された一対の放電電極53とを備える。平板ガラス51の表面には、図10(b)に示す反射防止構造体50が形成されている。
【0067】
図10(b)において、反射防止構造体50は、第1の実施形態と同様の方法により形成されたシリコンの単結晶からなるものであり、配向性を有する針状結晶の集合体で構成されている。反射防止構造体50のピッチpは200nmであり、高さhは300nmである。このような反射防止構造体50は、可視光領域の光の波長よりも十分に小さい構造であることから、平板ガラス51の表面における反射率が低下するため、可視光全域でより明るい照明光源を得ることができる。
【0068】
(第8の実施形態)
図11は、本発明の第8の実施形態に係る赤外用レンズの構成を示し、図11(a)は、赤外用レンズ61の構成を示す側面図であり、図11(b)はレンズ表面に形成された反射防止構造体60の拡大模式図である。図11(a)において、赤外用レンズ61は、シリコン製のレンズであり、レンズ表面の少なくとも有効径の内部の範囲には、図11(b)に示す反射防止構造体60が形成されている。
【0069】
図11(b)において、反射防止構造体60は、第1の実施形態と同様の方法により形成されたシリコンの単結晶からなるものであり、配向性を有する針状結晶の集合体で構成されている。反射防止構造体60のピッチpは600nmであり、高さhは900nmである。このような反射防止構造体60は、赤外波長(波長3〜5μm帯、及び8〜12μ帯)の範囲の光の波長よりも十分に小さい構造であることから、反射率が0.4%まで低下した。
【0070】
このように、本実施形態に係る反射防止構造体を備えた赤外用レンズは、角度依存性が少なく、より良好な透過率をレンズ全域に亘って得ることができるため、特に微弱光を計測するような赤外用途ではより好ましい。一方、従来の赤外用レンズのように、表面に蒸着薄膜により形成された反射防止膜を備えたものは、反射率の角度依存性があるため、光の入射角がレンズの箇所によって異なるような場合には、レンズの全域に亘って良好な反射防止効果を得ることが困難である。
【0071】
なお、上記説明では、シリコン製の赤外用レンズ61を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、赤外用レンズ61の材料には、ゲルマニウム等の赤外線を透過する材料であれば適用可能である。また、上記説明では、反射防止構造体60をシリコン単結晶で形成した例を挙げて説明したが、SiO2等の他の材料でも同様の効果が得られる。
【0072】
(第9の実施形態)
図12は、本発明の第9の実施形態に係る発光ダイオードの構成を示し、図12(a)は、発光素子としての発光ダイオードの構成を示す斜視図であり、図12(b)は発光ダイオードの表面に形成された反射防止構造体72の拡大模式図である。図12(a)において、発光ダイオードは、p電極71、反射防止構造体72、p型半導体73、発光層74、n型半導体75、およびn電極76を備える。p型半導体73には、p−Al0.6Ga04Asを用い、n型半導体75にはn−Al0.6Ga0.4を用い、発光層74にはp−Al0.3Ga0.7Asを用いた。
【0073】
発光ダイオードの光射出面に形成された反射防止構造体72は、図12(b)に示すように配向性を有する針状結晶の集合体で構成されており、この反射防止構造体72は、第1の実施形態と同様の方法により形成されたシリコンの単結晶からなる。反射防止構造体72のピッチは300nmであり、高さは500nmである。
【0074】
上記のように構成された発光ダイオードにおいて、n電極76およびp電極71に電圧を加えると、発光層74から660nmの波長の光が放出された。放出された光は、発光ダイオードの上部へと伝播し、p型半導体73、反射防止構造体72を通って、発光ダイオードの外部へ放出された。
【0075】
ここで、本実施形態に係る発光ダイオードと反射防止構造体72を設けていない従来の発光ダイオードとを用いて、発光ダイオードの放射光強度を調べたところ、本実施形態に係る発光ダイオードは、従来の発光ダイオードに比べて、約10%放射光強度が大きかった。これは、本実施形態に係る構成により、p型半導体73の内部を通った光が射出面で反射が抑えられ、ほぼ全て外部へ放出されたためである。
【0076】
このように本実施形態に係る発光ダイオードによると、放射光強度の高いものとすることができる。また、本実施形態に係る構成は、発光ダイオードだけでなく半導体レーザーなどの半導体発光素子に適用することで、光取り出し効率の向上が図れる。
【0077】
(第10の実施形態)
図13は、本発明の第10の実施形態に係るフォトダイオードの構成を示し、図13(a)は、受光素子としてのフォトダイオードの構成を示す断面図であり、図13(b)はフォトダイオードの表面に形成された反射防止構造体82の拡大模式図である。図13(a)において、フォトダイオードは、p電極81、反射防止構造体82、SiO2層83、p型半導体84、n型半導体85、およびn電極86を備える。
【0078】
フォトダイオードの光入射面には、図13(b)に示す反射防止構造体82が形成されており、この反射防止構造体82は、第1の実施形態と同様の方法により形成された配向性を有する針状結晶の集合体である。反射防止構造体82のピッチは300nmであり、高さは500nmである。
【0079】
上記のように構成されたフォトダイオードでは、反射防止構造体82の上部から入射した光は、反射防止構造体82およびSiO2 層83を通って、p型半導体84に到達する。p型半導体84に到達した光は、半導体の内部で光電変換が行われ、p電極81およびn電極86の電位差として出力される。
【0080】
ここで、本実施形態に係るフォトダイオードと反射防止構造体72を設けていないフォトダイオードとを用いて、フォトダイオードへの入射光強度と出力電圧との関係を調べた。具体的には、フォトダイオードへの入射光として波長632.8nmのHe−Neレーザー光を用い、本実施形態に係るフォトダイオードと反射防止構造体72を設けていないフォトダイオードとに、それぞれ等しい強度の光を入射したところ、本実施形態に係るフォトダイオードは、従来のフォトダイオードに比べて、約10%出力電圧が高かった。これは、本実施形態に係るフォトダイオードの反射光強度が、反射防止構造体を設けていないフォトダイオードに比べて、10分の1以下に減少することに基因する。
【0081】
このように本実施形態に係るフォトダイオードによると、フォトダイオードの反射光強度を低減させて高い出力電圧を得ることができる。また、本実施形態に係る構成は、フォトダイオードだけでなくCCD、CMOSイメージセンサーなどの受光素子に適用することで、光電変換効率の向上が図れる。また、受光素子からの反射光を防ぐことができるため、レーザー光学系に用いた場合には光学系のS/Nを向上させることができ、撮像光学系に用いた場合には、ゴーストやフレアを減少できる。
【0082】
(第11の実施形態)
図14は、本発明の第11の実施形態に係る光変調器の構成を示し、図14(a)は、光変調素子としての光変調器の構成を示す斜視図であり、図14(b)は光変調器の表面に形成された反射防止構造体92の拡大模式図である。図14(a)において、光変調器は、ニオブ酸リチウム基板91、反射防止構造体92、変調信号発生器93、抵抗94、電極95、および光導波路96を備える。
【0083】
光変調器のベースとなるニオブ酸リチウム基板91の入射端面及び射出端面には、図14(b)に示す反射防止構造体92が形成されており、この反射防止構造体92は、第1の実施形態と同様の方法により形成された配向性を有する針状結晶の集合体である。反射防止構造体92のピッチは600nmであり、高さは900nmである。
【0084】
上記のように構成された光変調器では、左側光導波路96から光を入射させると、入射した光は反射防止構造体92を通過して光導波路96内を伝播し、光導波路96の途中で2つに分岐して、再び1つの光導波路96に結合する。光導波路96が結合した後の光は、分岐区間における位相差に基づく干渉光となる。また、右側導波路96の端面からは、干渉光が反射防止構造体92を通って出力される。ここで、波長1.55μmの赤外光を光導波路96に入射し、変調信号発生器93を通して光導波路96に電圧が印加されると、印加電圧に応じて、出力光の光強度が変化した。
【0085】
ここで、比較のために、本実施形態に係る光変調器と反射防止構造体を設けていない光変調器とを用いて出力光の強度変化を調べたところ、本実施形態に係る光変調器の出力光強度は、反射防止構造体を設けていない光変調器に比べて、約10%高くなった。このように本実施形態の構成は、光変調器の光利用効率の向上に好適であり、また、素子からの反射光を防ぐことが出来るため、光学系のS/Nが向上する。
【0086】
上記第9の実施形態〜第11の実施形態で説明したように、本発明に係る発光素子、受光素子、および光変調器などの光学素子は、入射面、射出面、素子の内部の面における反射が減少し、光の利用効率が向上し、また、反射防止構造体を有する素子からの反射光が減少するため、迷光による光学系のS/Nの低下、反射光の再入射による発光素子の不安定化を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、反射防止効果が要求されるレンズ素子、プリズム素子およびミラー素子などの光学素子のほかに、スクリーン、レンズ鏡筒、遮蔽部材、蛍光灯などの光学部材、および太陽電池など広く適用可能であり、これらが光学素子あるいは光学部材が搭載される光再生記録装置の光ピックアップ光学系、デジタルスチルカメラなどの撮影光学系、プロジェクタの投影系および照明系、並びに光走査光学系等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る反射防止構造体を有する部材の製造方法を説明する図
【図2】本発明の第2の実施形態に係る映像拡大装置の構成を示す図
【図3】本発明の第3の実施形態に係る太陽電池の製造方法を説明する図
【図4】本発明の第4の実施形態に係るレンズ鏡筒の光軸に垂直な方向で切断した状態を示す図
【図5】同実施形態に係るレンズ鏡筒を光軸に平行な方向で切断した状態を示す図
【図6】本発明の第5の実施形態に係る開口絞りの斜視図
【図7】同実施形態に係るレンズキャップの斜視図
【図8】同実施形態に係る撮像光学系を説明する図
【図9】本発明の第6実施の形態に係るハロゲン電球の構成を説明する図
【図10】本発明の第7実施形態に係る平板型蛍光灯の構成を説明する図
【図11】本発明の第8の実施形態に係る赤外線用レンズの構成を説明する図
【図12】本発明の第9の実施形態に係る発光ダイオードの構成を説明する図
【図13】本発明の第10の実施形態に係るフォトダイオードの構成を説明する図
【図14】本発明の第11の実施形態に係る光変調器の構成を説明する図
【符号の説明】
【0089】
1 スクリーン
2 反射ミラー
3 投写レンズ
4 表示素子
5 反射防止構造体
11 シリコン基板
12 表面
13 拡散剤
14 拡散層
15 針状結晶
16 表電極
17 裏電極
21 レンズ鏡筒
22 基材
23 反射防止構造体
24、25、26 レンズ
27 光軸
30 円形開口部
31 開口絞り
32 内側面
33 レンズキャップ
33a 円形開口部
34 内側面
35 レンズ鏡筒
36、37、38 レンズ
39 光軸
40 反射防止構造体
41 気密容器
41a 主要部
41b ネック部
41c 封止部
41d 排気チップ部
42 フィラメント
43 内部導入線
44 外部導入線
50 反射防止構造体
51 平板ガラス
52 側面板
53 放電電極
60 反射防止構造体
61 赤外線用レンズ
71 p電極
72 反射防止構造体
73 p型半導体
74 発光層
75 n型半導体
76 n電極
81 p電極
82 反射防止構造体
83 SiO2
84 p型半導体
85 n型半導体
86 n電極
91 ニオブ酸リチウム基板
92 反射防止構造体
93 変調信号発生器
94 抵抗
95 電極
96 光導波路
101 単結晶シリコンウェハ
102 島状結晶
103 針状結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材と、
前記部材の表面に形成された反射防止構造体とを備え、
前記反射防止構造体は、触媒機能を有する核結晶を介して前記表面に形成された針状結晶の集合体であることを特徴とする、反射防止構造体を有する部材。
【請求項2】
前記部材は、光学素子または光学部品であることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項3】
前記針状結晶は、配向性を有することを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項4】
前記針状結晶は、前記部材において反射を抑制すべき光の波長以下のピッチで当該部材の表面にアレイ状に形成され、アスペクト比が1以上であることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項5】
前記部材は、映像拡大装置に使用されるスクリーンであり、
前記映像拡大装置は、前記スクリーンに加えて、表示素子、投写レンズ、および反射ミラーを備え、前記反射防止構造は当該スクリーン全面に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項6】
前記部材は、太陽電池に使用される、シリコン基板にて構成された受光素子であり、
前記反射防止構造体は、前記受光素子の受光面に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項7】
前記部材は、レンズ鏡筒であり、
前記レンズ鏡筒は、円筒状又は円錐台形状の側面形状を有する基材を有し、
前記反射防止構造体は、前記基材の内面の少なくとも一部に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項8】
前記部材は、光束の少なくとも一部を遮蔽するように構成された遮光部材であり、
前記遮光部材は、円環状または円筒状の基材と、前記基材の少なくとも一部に形成された開口部とを有し、
前記反射防止構造体は、前記開口部の内側面に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項9】
前記遮光部材は、レンズキャップまたは撮像光学系に配置される開口絞り、フレアカット絞り、および迷光防止部品から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項8に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項10】
前記部材は、ハロゲン電球に使用される透光性の気密容器であり、
前記ハロゲン電極は、前記気密容器に加えて、前記気密容器のほぼ中心軸上に位置するフィラメントと、前記気密容器内に封入されたハロゲンガス及び不活性ガスとを有し、
前記反射防止構造体は、前記気密容器の内面または外面の少なくとも一方の面の一部に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項11】
前記部材は、平面型蛍光灯に使用される平板ガラスであり、
前記平面型蛍光灯は、複数の前記平板ガラスが所定の間隔で対向するように配置されてなるガラス容器と、前記ガラス容器の内面側に形成された蛍光膜と、前記ガラス容器内に配置された少なくとも一対の放電電極とを備え、
前記反射防止構造体は、前記平板ガラスの表面側に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項12】
前記部材は、赤外線を透過する材料を用いて構成された赤外線用レンズであり、
前記反射防止構造体は、前記赤外線用レンズの少なくとも有効径内に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項13】
前記赤外線の波長域は、3〜5μmまたは8〜12μmのいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項14】
前記部材は、発光素子、受光素子、および光変調素子から選ばれるいずれかの素子であり、
前記反射防止構造体は、素子表面、素子側面、および素子内部に含まれる屈折率の異なる境界面の少なくとも1面以上に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の反射防止構造体を有する部材。
【請求項15】
部材の表面に触媒機能を持った核形成を行う工程と、
前記核の上に結晶を成長させることにより針状結晶の集合体で構成された反射防止構造体を形成する工程とを備え、
前記反射防止構造体を形成する工程は、化学蒸着法、気相エピタキシー法、あるいは分子線エピタキシー法のうちのいずれかの方法により行い、前記核の上に、炭素、珪素、炭化珪素、窒化硼素、二酸化珪素の中から選ばれる少なくとも1種類を含む結晶を成長させることを特徴とする、反射防止構造体を有する部材の製造方法。
【請求項16】
前記部材は、光学素子あるいは光学部品であることを特徴とする、請求項15に記載の反射防止構造体を有する部材の製造方法。
【請求項17】
前記針状結晶は、前記部材において反射を抑制すべき光の波長以下のピッチでアレイ状に形成され、アスペクト比は1以上であることを特徴とする、請求項15に記載の反射防止構造体を有する部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−133617(P2006−133617A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324135(P2004−324135)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】