説明

反射防止膜、成膜方法及び装置、露光装置、並びに、デバイス製造方法

【課題】基板との密着性を高めて膜剥がれを防止すると共に、優れた反射防止特性を有する反射防止膜を提供する。
【解決手段】基板上に施される反射防止膜であって、前記基板側から順に、金属で構成される第1の層と、フッ化物で構成される第2の層とを有することを特徴とする反射防止膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、反射防止膜に係り、特に、半導体ウェハ用の単結晶基板、液晶ディスプレイ(LCD)用のガラス基板などの被処理体を露光する露光装置の光学素子に施され、反射を防止又は低減する反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化及び薄型化の要請から、電子機器に搭載される半導体素子の微細化への要求はますます高くなっている。かかる要求を満足するために、半導体素子を製造する露光装置の解像度を高める提案が様々なされている。露光光の波長を短くすることは解像度の向上に有効な一手段である。このため、超高圧水銀ランプ(i線(波長約365nm))、KrFエキシマレーザー(波長約248nm)、ArFエキシマレーザー(波長約193nm)と、露光光として用いられる紫外線光の波長は短くなってきた。
【0003】
400nmよりも短い波長の光に用いられる光学部品等の基板(レンズ等)には、CaF(フッ化カルシウム)等のフッ化物基板やSiO(石英)基板が用いられる。また、光学薄膜にも、MgF(フッ化マグネシウム)、LaF(フッ化ランタン)、AlF(フッ化アルミニウム)、GdF(フッ化ガドリニウム)、NdF(フッ化ネオジウム)等のフッ化物が用いられる。
【0004】
金属フッ化物は、幅広い波長範囲で光学的に透明であり、古くから光学材料として用いられてきた。これらの材料は、バルクのみならず、真空蒸着法やスパッタリング法などの成膜方法によって、光学薄膜(例えば、反射防止膜)の材料としても広く用いられている。
【0005】
但し、成膜されたフッ化物膜は、柱状結晶構造になりやすい、大気中で水を吸収しやすい、更に、熱膨張係数の違いによって基板との間に応力を生じる等の原因によって、基板から剥がれやすい(膜剥がれ)という問題を有する。更に、かかる問題は、真空蒸着法よりも膜剥がれが生じにくいとされているスパッタリング法でも生じている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【特許文献1】特開2001−279437号公報
【特許文献2】特開平11−223707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ化物の光学薄膜を反応性DCマグネトロンスパッタで成膜する場合、ターゲットとして金属材料(Mg、La、Al、Nd等)を使用し、化学反応によって、かかる金属材料を基板上でフッ化物にする。その際、未反応のダングリングボンド等を終端するために、真空蒸着法と比較して多量のF(フッ素)、HO(水)、H(水素)を含むガスを材料として導入する必要がある。また、HOやHなどは、意図的に導入しなくても、成膜室(チャンバー)内で放電を立てることによって、成膜室の内壁等から脱離することがわかっている。
【0007】
しかしながら、これらのガスは、反応性DCマグネトロンスパッタによって、フッ化物の光学薄膜をSiO基板上に成膜する際には、水素、フッ素等を含むプラズマとなり、基板材料であるSiOをエッチングする。従って、エッチングと共に、成膜が進むことになる。この影響によって、成膜された薄膜は、基板との密着性が非常に悪くなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、基板との密着性を高めて膜剥がれを防止すると共に、優れた反射防止特性を有する反射防止膜を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての反射防止膜は、基板上に施される反射防止膜であって、前記基板側から順に、金属で構成される第1の層と、フッ化物で構成される第2の層とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の別の側面としての成膜方法は、反射防止膜の成膜方法であって、基板上に、金属で構成される第1の層を成膜する第1のステップと、前記第1の成膜ステップで成膜された前記第1の層上に、フッ化物で構成される第2の膜を成膜する第2のステップとを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の更に別の側面としての成膜装置は、上述の成膜方法を行う成膜モードを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の更に別の側面としての光学系は、複数の光学素子を有し、前記複数の光学素子のうち少なくとも一の光学素子は、上述の反射防止膜を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の更に別の側面としての露光装置は、上述の光学系を介して光を被処理体に照射して、当該被処理体を露光することを特徴とする。
【0014】
本発明の更に別の側面としての露光装置は、レチクルのパターンを被処理体に露光する露光装置であって、光源からの光で前記レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクルのパターンを前記被処理体に投影する投影光学系とを有し、前記照明光学系及び/又は投影光学系を構成する複数の光学素子のうち少なくとも一の光学素子は、上述の反射防止膜を有することを特徴とする
本発明の更に別の側面としてのデバイス製造方法は、上述の露光装置を用いて被処理体を露光するステップと、露光された前記被処理体を現像するステップとを有することを特徴とする。
【0015】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板との密着性を高めて膜剥がれを防止すると共に、優れた反射防止特性を有する反射防止膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の一側面としての反射防止膜1の構成を示す概略断面図である。本発明の反射防止膜1は、光の反射を防止する機能を有し、図1に示すように、基板SB上に、金属で構成される第1の層(金属膜)10と、フッ化物で構成される第2の層20とを積層した構成を有する。これにより、反射防止膜1は、後述するように、基板SBとの界面の密着性を改善することができる。なお、第2の層20は、1つのフッ化物の膜を積層した膜構成だけではなく、複数のフッ化物の膜を順次積層した膜構成も含む。また、基板SBは、石英又はフッ素ドープ石英で構成される。
【0019】
反応性DCマグネトロンスパッタを用いて、フッ化物系の薄膜を石英基板に成膜すると、上述したように、膜剥がれを生じてしまう。これは、F、H、HO等のガスがプラズマ中に存在するプロセスを用いると、放電条件によってプラズマ中のF及びH等の活性種が、石英基板をエッチングしてしまうからである。
【0020】
そこで、本実施形態では、反射防止膜1と基板SBとの界面を覆う第1の層10を、表面自由エネルギーが高く、且つ、基板SBと十分な密着性を得ることができる金属で構成する。第1の層10は、フッ化物で構成される第2の層20を成膜する際に、F及びH等の活性種によって、基板SBがエッチングされることを防止する。換言すれば、第1の層10は、保護層(保護膜)として機能する。従って、反射防止膜1は、膜剥がれを生じることなく、フッ化物の第2の層20を積層することができる。
【0021】
ここで、反射防止膜1を成膜するための成膜装置100について説明する。図2は、成膜装置100の構成を示す概略断面図である。成膜装置100は、基板SBとターゲットTGを相対して配置し、基板SB上に反射防止膜1を成膜する成膜装置である。
【0022】
成膜装置100は、図2に示すように、チャンバー110と、排気部120と、基板ホルダー130と、ガス導入機構140と、シャッター150と、シールド160と、電源部170とを有する。
【0023】
チャンバー110は、基板ホルダー130と、シャッター150と、シールド160を収納する。チャンバー110は、内部を所定の減圧環境(真空環境)に維持する。チャンバー110は、ガスの放出が少ない材料を使用する必要があり、一般には、ステンレス鋼やニッケルめっきを施した軟鋼を使用する。チャンバー110は、後述する排気部120と連通する排気口112を有する。また、チャンバー110は、電気を逃がすためのアース114を有する。
【0024】
排気部120は、排気口112を介してチャンバー110と連通し、チャンバー110の内部を真空排気する。排気部120は、例えば、粗挽き排気系と高真空排気系とを組み合わせて構成される。
【0025】
基板ホルダー130は、基板SBを保持する。基板ホルダー130は、均一な膜質及び膜厚を有する反射防止膜1を成膜するために、基板SBを移動及び回転可能に保持する。基板ホルダー130は、例えば、カルーセル型の基板ホルダーを使用する。
【0026】
ガス導入機構140は、チャンバー110にガスを導入する。ガス導入機構140は、チャンバー110の内部に、ターゲット側ガス導入口142と、基板側ガス導入口144とを有する。ターゲット側ガス導入口142は、後述するターゲットTGに形成される。また、基板側ガス導入口144は、基板SB(基板ホルダー130)とターゲットTGとの間に配置される。
【0027】
ガス導入機構140は、ターゲット側ガス導入口142を介して、He(ヘリウム)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)、H(水素)等の少なくとも一種類を含むガス(スパッタリングガス)をチャンバー110に導入する。また、ガス導入機構140は、基板側ガス導入口144を介して、F2(フッ素)、O2(酸素)、N2(窒素)、NH3(アンモニア)等の少なくとも一種類を含むガス(反応ガス)をチャンバー110に導入する。
【0028】
シャッター150は、基板SB(基板ホルダー130)とターゲットTGとの間に配置される。シャッター150は、可動式のシャッターである。シャッター150は、スパッタされた原子又は分子が基板SBに付着することを規制する。シャッター150は、基板SBに成膜する反射防止膜1の膜厚に基づいて、シャッタースピード(開閉速度)などが決定される。
【0029】
シールド160は、ターゲットTGの周囲に(即ち、ターゲットTGを覆うように)配置され、スパッタリングガスの流れを生成すると共に、反応ガスがターゲットTGの近傍に流入することを防止する。また、シールド160は、発生する磁界を制限し、放電を安定化させる。
【0030】
電源部170は、ターゲットTGをスパッタリングするためのプラズマを発生させる。電源部170は、ターゲットTGと接続し、ターゲットTGに数百V乃至数kVの負の直流高電圧を印加して放電させる。電源部170は、本実施形態では、DC電源(即ち、DC放電)を使用する。DC放電は、基板SBの近傍において、プラズマ密度を非常に小さくすることが可能であり、成膜中の反射防止膜1へのダメージを低減することができる。これにより、低吸収な膜を成膜することができる。
【0031】
ターゲットTGは、交換可能に配置され、スパッタによって原子又は分子を放出する。ターゲットTGは、成膜時のDC放電を可能とするために、導電性のターゲットを使用する。ターゲットTGは、例えば、Mg、La、Al、Nd等の金属材料を使用する。
【0032】
以下、図3を参照して、成膜装置100を用いた反射防止膜1の成膜方法1000について説明する。図3は、本発明の一側面としての成膜方法1000を説明するためのフローチャートである。
【0033】
まず、成膜装置100のチャンバー110に反射防止膜1を成膜する基板SBを配置する(ステップ1010)。具体的には、反射防止膜1を成膜する面をターゲットTGに向けて、基板SBを基板ホルダー130にセットする。また、基板SBがセットされた基板ホルダー130を駆動し、基板SBがターゲットTGと相対する位置になるように調整する。
【0034】
次いで、排気部120を介して、チャンバー110を真空排気し、チャンバー110を真空環境にする(ステップ1020)。例えば、排気部120は、チャンバー110を1×10−4Pa以下の真空環境に維持する。
【0035】
次に、シャッター150をターゲットTGの正面に配置し、ターゲット側ガス導入口142からスパッタリングガスを、基板側ガス導入口144から反応ガスを供給し、ターゲットTGに電圧を印可して、反射防止膜1を成膜する。なお、放電が安定してからシャッター150を開けて成膜を開始する。低吸収なフッ化物の薄膜の成膜は、上述したように、シールド160を用いて、スパッタリングガスをターゲットTGから供給し、かかるスパッタリングの流れによって、反応ガスをターゲットTGの近傍に寄せ付けないことが重要である。これは、反応ガスによるターゲットTGの不導体化を防止し、放電の安定性を維持するためである。また、ターゲットTGの近傍で反応ガスが負イオン化し、かかる負イオンがプラズマとターゲットTGとの間の電位差によって加速され、基板SB(膜)に入射してダメージを与えることを防止するためでもある。
【0036】
反射防止膜1の成膜について具体的に説明する。まず、反応ガスを供給せずに、He、Ar、Xr、Xe等のスパッタリングガスのみを供給し、シャッター150を開いて、第1の層10としての金属膜を成膜する(ステップ1030)。なお、第1の層10は、金属膜であり、吸収及び反射率が大きいため、膜厚を薄くする必要がある。
【0037】
次いで、プラズマ処理によって、第1の層10(金属膜)をフッ化、酸化又は窒化する(ステップ1040)。プラズマ処理の際には、上述したスパッタリングガスに加えて、F、O、N、NHの少なくとも1種類を添加し、シャッター150を閉じた状態で放電を立てる。プラズマ処理によって、第1の層10(金属膜)をフッ化、酸化又は窒化することで、保護層としての機能を維持したまま、膜を低吸収化することが可能となる。
【0038】
次に、上述したスパッタリングガスに加えて、H、HO、F等の反応ガスを供給し、第2の層20としてのフッ化物膜を成膜する(ステップ1050)。第2の層20を成膜する際には、フッ素を十分に供給し、目的の波長での膜吸収をできるだけ低減する。
【0039】
本発明者は、上述した成膜装置100及び成膜方法1000を用いて数多くの反射防止膜1を基板SB上に成膜し、反射防止膜1の評価を行った。
【実施例1】
【0040】
ターゲットTGには、MgとLaの2種類を用意し、2種類のターゲットTGを切り換えながら、反射防止膜1を成膜した。なお、ターゲットTGは、水冷されている。また、ターゲットTGの周囲に配置されたシールド160は、ターゲットTGの表面を基準とし、基板側に垂直に40mm伸びているシールドを使用した。基板SBには、石英基板を使用した。
【0041】
反射防止膜1の成膜条件を図4に示す。なお、図4には、各成膜条件で成膜した反射防止膜1(Fガス濃度及び膜構成)の基板SBへの密着性、耐摩耗性及び膜吸収もまとめて記載している。密着性欄の記号はそれぞれ○:基板全面において膜の剥離なし、△:基板の一部で膜の剥離あり、×:基板全面において膜の剥離ありを示す。耐摩耗性欄の記号はそれぞれ○:膜の傷なし、×:膜の傷ありを示す。
【0042】
成膜条件1では、第1の層10としての金属膜を成膜することなく、第2の層20を成膜した。第2の層20は、具体的には、基板SBから、1番目の膜としてMgF膜、2番目の膜としてLaF膜、3番目の膜としてMgF膜を有する。1番目の膜としてのMgF膜は、ターゲットガス導入口142からAr等のスパッタリングガスを、基板側ガス導入口144からFを供給して成膜した。なお、F/総ガス流量>20%の割合でガスを供給した。2番目の膜としてのLaF膜及び3番目の膜としてのMgF膜は、第1の層10と同様に、F/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜した。
【0043】
成膜条件2では、第1の層10としての金属膜を成膜することなく、第2の層20を成膜した。第2の層20は、具体的には、基板SBから、1番目の膜としてMgF膜、2番目の膜としてLaF膜、3番目の膜としてMgF膜を有する。1番目の膜としてのMgF膜は、ターゲットガス導入口142からAr等のスパッタリングガスを、基板側ガス導入口144からFを供給して成膜した。なお、F/総ガス流量>10%乃至20%の割合でガスを供給した。2番目の膜としてのLaF膜と3番目の膜としてのMgF膜は、F/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜した。
【0044】
成膜条件3では、第1の層10としてMg膜(金属膜)を成膜した後、第2の層20を成膜した。第1の層10としてのMg膜は、ターゲットガス導入口142からAr等のスパッタリングガスを導入して成膜した。その後、スパッタリングガスに加えて基板側ガス導入口144からFを供給し、シャッター150を閉じた状態で10分以上のプラズマ処理を行った。第2の層20は、MgF膜とLaF膜とを交互に積層し、MgF膜をF/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜し、LaF膜をF/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜した。成膜条件3で成膜した反射防止膜1の光学特性を図5に示す。図5では、横軸に波長[nm]を採用し、反射防止膜1の透過率、反射率、吸収(基板SBの吸収、散乱等を含む)を示している。
【0045】
成膜条件4では、第1の層10としてLa膜(金属膜)を成膜した後、第2の層20を成膜した。第1の層10としてのLa膜は、ターゲットガス導入口142からAr等のスパッタリングガスを導入して成膜した。その後、スパッタリングガスに加えて基板側ガス導入口144からFを供給し、シャッター150を閉じた状態で10分以上のプラズマ処理を行った。第2の層20は、MgF膜とLaF膜とを交互に積層し、MgF膜をF/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜し、LaF膜をF/総ガス流量>20%の割合で供給したガス条件で成膜した。
【0046】
図4を参照するに、成膜条件1では、膜吸収は良好であるが、密着性及び耐摩耗性に問題があることがわかる。また、成膜条件2は、基板SBから1番目の膜であるMgF膜(フッ化物膜)の成膜においてF濃度を低く抑えたため、密着性は改善されているが、耐摩耗性が不十分であると共に、膜吸収も大きくなってしまう。一方、第1の層10である金属膜を成膜した成膜条件3及び4は、第1の層10の成膜においてF濃度を低く抑えることができ、密着性、耐摩耗性及び膜吸収共に良好であることがわかる。また、成膜条件3で成膜された反射防止膜1は、図5に示すように、優れた光学特性(特に、反射防止特性)を有している。
【0047】
このように、成膜装置100及び成膜方法1000によれば、基板(石英基板)へのフッ化物の光学薄膜の成膜において、膜剥がれを生じることなく、反射防止膜1を成膜することができる。また、成膜装置100及び成膜方法1000によって成膜された反射防止膜1は、180nm以上の紫外線波長領域で優れた反射防止特性を有する。
【0048】
以下、図6を参照して、本発明の反射防止膜1が施された光学素子を有する光学系を搭載した露光装置300について説明する。ここで、図6は、本発明の一側面としての露光装置300の構成を示す概略断面図である。
【0049】
露光装置300は、図6に示すように、照明装置310と、レチクル(マスク)320を載置するレチクルステージ325と、投影光学系330と、被処理体340を載置するウェハステージ345とを有する。
【0050】
露光装置300は、例えば、ステップ・アンド・リピート方式やステップ・アンド・スキャン方式でレチクル320に形成された回路パターンを被処理体340に露光する投影露光装置である。かかる露光装置は、サブミクロンやクオーターミクロン以下のリソグラフィー工程に好適であり、以下、本実施形態ではステップ・アンド・スキャン方式の露光装置(「スキャナー」とも呼ばれる。)を例に説明する。ここで、「ステップ・アンド・スキャン方式」とは、レチクルに対してウェハを連続的にスキャン(走査)してレチクルパターンをウェハに露光すると共に、1ショットの露光終了後ウェハをステップ移動して、次の露光領域に移動する露光方法である。「ステップ・アンド・リピート方式」は、ウェハの一括露光ごとにウェハをステップ移動して次のショットの露光領域に移動する露光方法である。
【0051】
照明装置310は、転写用の回路パターンが形成されたレチクル320を照明し、光源部312と、照明光学系314とを有する。
【0052】
光源部312は、例えば、光源としては、波長約193nmのArFエキシマレーザー、波長約248nmのKrFエキシマレーザーなどを使用することができる。但し、光源の種類はエキシマレーザーに限定されず、例えば、波長約157nmのFレーザーを使用してもよいし、その光源の個数も限定されない。さらにスペックルを低減するために光学系を直線的又は回動的に揺動させてもよい。また、光源部312にレーザーが使用される場合、レーザー光源からの平行光束を所望のビーム形状に整形する光束整形光学系、コヒーレントなレーザー光束をインコヒーレント化するインコヒーレント化光学系を使用することが好ましい。
【0053】
照明光学系314は、複数の光学素子314aを有し、レチクル320を照明する光学系である。光学素子314aは、例えば、レンズ、ミラー、オプティカルインテグレーター、絞り等を含む。照明光学系314は、軸上光、軸外光を問わずに使用することができる。オプティカルインテグレーターは、ハエの目レンズや2組のシリンドリカルレンズアレイ(又はレンチキュラーレンズ)板を重ねることによって構成されるインテグレーター等を含むが、光学ロッドや回折素子に置換される場合もある。
【0054】
照明光学系314のレンズなどの光学素子314aに本発明の反射防止膜1を施した光学素子を使用することができる。反射防止膜1は、膜剥がれを生じることなく、優れた反射防止特性を発揮する。従って、光学素子314aは優れた光学性能を維持することができる。
【0055】
レチクル320は、例えば、石英製で、その上には転写されるべき回路パターン(又は像)が形成され、レチクルステージ325に支持及び駆動される。レチクル320から発せられた回折光は、投影光学系330を通り被処理体340上に投影される。レチクル320と被処理体340は、光学的に共役の関係にある。本実施形態の露光装置300はスキャナーであるため、レチクル320と被処理体340を縮小倍率比の速度比でスキャンすることによりレチクル320のパターンを被処理体340上に転写する。なお、ステップ・アンド・リピート方式の露光装置(「ステッパー」とも呼ばれる。)の場合には、レチクル320と被処理体340を静止させた状態で露光が行われる。
【0056】
レチクルステージ325は、図示しないレチクルチャックを介してレチクル320を支持し、図示しない移動機構に接続されている。図示しない移動機構は、リニアモーターなどで構成され、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向及び各軸の回転方向にレチクルステージ325を駆動することでレチクル320を移動することができる。露光装置300は、レチクル320と被処理体340を図示しない制御部によって同期した状態で走査する。ここで、レチクル320又は被処理体340の面内で走査方向をY軸、それに垂直な方向をX軸、レチクル320又は被処理体340の面に垂直な方向をZ軸とする。
【0057】
投影光学系330は、複数の光学素子330aを有し、レチクル320上のパターンを反映する光を被処理体340上に投影する光学系である。投影光学系330に色収差の補正が必要な場合には、互いに分散値(アッベ値)の異なるガラス材からなる複数のレンズ素子を使用したり、回折光学素子をレンズ素子と逆方向の分散が生じるように構成したりする。
【0058】
投影光学系330のレンズなどの光学素子330aに本発明の反射防止膜1を施した光学素子を使用することができる。反射防止膜1は、膜剥がれを生じることなく、優れた反射防止特性を発揮する。従って、光学素子330aは優れた光学性能を維持することができる。
【0059】
被処理体340は、本実施形態では、ウェハであるが、液晶基板、その他の被処理体を広く含む。被処理体340には、フォトレジストが塗布されている。
【0060】
ウェハステージ345は、図示しないウェハチャックによって被処理体340を支持する。ウェハステージ345は、レチクルステージ325と同様に、リニアモーターを利用して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向及び各軸の回転方向に被処理体340を移動する。また、レチクルステージ325の位置とウェハステージ345の位置は、例えば、レーザー干渉計などにより監視され、両者は一定の速度比率で駆動される。ウェハステージ345は、例えば、ダンパを介して床等の上に支持されるステージ定盤上に設けられ、レチクルステージ325及び投影光学系330は、例えば、床等に載置されたベースフレーム上にダンパを介して支持される図示しない鏡筒定盤上に設けられる。
【0061】
露光において、光源部312から発せられた光束は、照明光学系314によりレチクル320を、例えば、ケーラー照明する。レチクル320を通過しレチクルパターンを反映する光は、投影光学系330により被処理体340に結像される。露光装置300が使用する照明光学系314及び/又は投影光学系330を構成する光学素子314a及び330aに施される反射防止膜は、優れた反射防止特性を発揮し、優れた光学性能を達成する。従って、露光装置300は、高いスループットで経済性よく従来よりも高品位なデバイス(半導体素子、LCD素子、撮像素子(CCDなど)、薄膜磁気ヘッドなど)を提供することができる
次に、図7及び図8を参照して、露光装置300を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。図7は、デバイス(ICやLSIなどの半導体チップ、LCD、CCD等)の製造を説明するためのフローチャートである。ここでは、半導体チップの製造を例に説明する。ステップ1(回路設計)では、デバイスの回路設計を行う。ステップ2(レチクル製作)では、設計した回路パターンを形成したレチクルを製作する。ステップ3(ウェハ製造)では、シリコンなどの材料を用いてウェハを製造する。ステップ4(ウェハプロセス)は、前工程と呼ばれ、レチクルとウェハを用いてリソグラフィー技術によってウェハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は、後工程と呼ばれ、ステップ4によって作成されたウェハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)では、ステップ5で作成された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テストなどの検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
【0062】
図8は、ステップ4のウェハプロセスの詳細なフローチャートである。ステップ11(酸化)では、ウェハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)では、ウェハの表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)では、ウェハ上に電極を蒸着などによって形成する。ステップ14(イオン打ち込み)では、ウェハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)では、ウェハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では、露光装置300によってレチクルの回路パターンをウェハに露光する。ステップ17(現像)では、露光したウェハを現像する。ステップ18(エッチング)では、現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)では、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによってウェハ上に多重の回路パターンが形成される。かかるデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。このように、露光装置300を使用するデバイス製造方法、並びに結果物としてのデバイスも本発明の一側面を構成する。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一側面としての反射防止膜の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す反射防止膜を成膜するための成膜装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一側面としての反射防止膜の成膜方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】反射防止膜の成膜条件を示す図である。
【図5】図4に示す成膜条件3で成膜した反射防止膜の光学特性を示すグラフである。
【図6】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略断面図である。
【図7】デバイス(ICやLSIなどの半導体チップ、LCD、CCD等)の製造を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7に示すステップ4のウェハプロセスの詳細なフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 反射防止膜
10 第1の層
20 第2の層
SB 基板
100 成膜装置
110 チャンバー
120 排気部
130 基板ホルダー
140 ガス導入機構
142 ターゲット側ガス導入口
144 基板側ガス導入口
150 シャッター
160 シールド
170 電源部
TG ターゲット
300 露光装置
310 照明装置
312 光源部
314 照明光学系
314a 光学素子
320 レチクル
325 レチクルステージ
330 投影光学系
330a 光学素子
340 被処理体
345 ウェハステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に施された反射防止膜であって、
前記基板側から順に、金属で構成される第1の層と、
フッ化物で構成される第2の層とを有することを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
前記第1の層は、10オングストローム以上100オングストローム以下の膜厚を有することを特徴とする請求項1記載の反射防止膜。
【請求項3】
前記金属は、アルミニウム、マグネシウム、ランタン、ネオジウム、サマリウム、イットリウム、チタン及びタンタルの一であり、
前記フッ化物は、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化サマリウム及びフッ化ストロンチウムの一であることを特徴とする請求項1記載の反射防止膜。
【請求項4】
前記基板は、石英又はフッ素ドープ石英であることを特徴とする請求項1記載の反射防止膜。
【請求項5】
反射防止膜の成膜方法であって、
基板上に、金属で構成される第1の層を成膜する第1のステップと、
前記第1の成膜ステップで成膜された前記第1の層上に、フッ化物で構成される第2の膜を成膜する第2のステップとを有することを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
前記第1のステップ及び前記第2のステップは、反応性DCマグネトロンスパッタを利用することを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
【請求項7】
前記第1の層を成膜した後に、前記第1の層をフッ化、酸化又は窒化する第3のステップを更に有することを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
【請求項8】
前記第1のステップは、10オングストローム以上100オングストローム以下の膜厚となるように、前記第1の層を成膜することを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
【請求項9】
前記金属は、アルミニウム、マグネシウム、ランタン、ネオジウム、サマリウム、イットリウム、チタン及びタンタルの一であり、
前記フッ化物は、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ガドリニウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化ネオジウム、フッ化サマリウム及びフッ化ストロンチウムの一であることを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
【請求項10】
前記基板は、石英又はフッ素ドープ石英であることを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
【請求項11】
請求項5乃至10のうちいずれか一項記載の成膜方法を行う成膜モードを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
複数の光学素子を有し、
前記複数の光学素子のうち少なくとも一の光学素子は、請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の反射防止膜を有することを特徴とする光学系。
【請求項13】
請求項12記載の光学系を介して光を被処理体に照射して、当該被処理体を露光することを特徴とする露光装置。
【請求項14】
レチクルのパターンを被処理体に露光する露光装置であって、
光源からの光で前記レチクルを照明する照明光学系と、
前記レチクルのパターンを前記被処理体に投影する投影光学系とを有し、
前記照明光学系及び/又は投影光学系を構成する複数の光学素子のうち少なくとも一の光学素子は、請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の反射防止膜を有することを特徴とする露光装置。
【請求項15】
請求項13又は14記載の露光装置を用いて被処理体を露光するステップと、
露光された前記被処理体を現像するステップとを有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−156362(P2007−156362A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355406(P2005−355406)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】