説明

合成CVDダイヤモンド

合成環境内にて基板上でダイヤモンド材料を合成するための化学蒸着(CVD)方法であって、以下の工程:基板を供給する工程;原料ガスを供給する工程;原料ガスを溶解させる工程;及び基板上でホモエピタキシャルダイヤモンド合成させる工程を含み;ここで、合成環境は約0.4ppm〜約50ppmの原子濃度で窒素を含み;かつ原料ガスは以下:a)約0.40〜約0.75の水素原子分率Hf;b)約0.15〜約0.30の炭素原子分率Cf;c)約0.13〜約0.40の酸素原子分率Ofを含み;ここで、Hf+Cf+Of=1;炭素原子分率と酸素原子分率の比Cf:Ofは、約0.45:1<Cf:Of<約1.25:1の比を満たし;原料ガスは、存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の原子分率が0.05〜0.40で水素分子H2として添加された水素原子を含み;かつ原子分率Hf、Cf及びOfは、原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率である、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成CVDダイヤモンド材料の合成方法及び高品質の合成CVDダイヤモンド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、高い硬度、良い耐摩耗性、低い圧縮率及び低い熱膨張係数を有する。ダイヤモンドは非常に高い熱伝導率を有する可能性もあり、ダイヤモンドは極端に良い電気絶縁体であり得る。このことがダイヤモンドを多くの用途で望ましい材料にする。例えば、その熱伝導性を利用することによって、ダイヤモンドは電子デバイス用の優れたヒートスプレッダー(heat spreader)材料となり得る。
特定の電子デバイスでは、フェルミ準位をピン止めするためにダイヤモンドを窒素でドープする能力が重要である。
高圧高温(HPHT)合成法を用いて合成された合成ダイヤモンド材料は典型的に有意濃度の窒素不純物、特にダイヤモンドを黄色にする単置換窒素(Ns0)を含む。これを回避するため、特別な注意を払って合成環境から窒素を排除し得る。さらに、HPHT合成法を用いて製造されたダイヤモンド材料は、合成中に生じる異なった結晶方位の表面(異なる成長セクターに対応する表面)上における窒素不純物の非常に差次的な取込みを示す。従って、ダイヤモンド材料は、異なる成長セクター内の異なる窒素不純物濃度に起因して異なった色のゾーンを示す傾向がある。さらに、合成されたダイヤモンド材料内の単一成長セクターでさえ全体的に均一かつ所望の窒素濃度を与えるようにHPHT合成プロセスを十分に制御することは困難である。さらに、HPHT合成では、合成プロセス及び使用する触媒から生じる不純物(例はコバルト又はニッケルを含む包有物であろう)、機械的、光学的及び熱的特性を低下させる局在化した不均質の歪みをもたらし得るフィーチャー(feature)を目にするのが一般的である。
【0003】
CVD法(US 7,172,655に記載の方法等)を使用すると、有意濃度(約10ppm[百万分率]まで)のNs0を含むダイヤモンド材料を合成できるが、該ダイヤモンドは普通は褐色である。この褐色は、CVD合成環境への窒素の添加に起因すると考えられる、材料に取り込まれたNs0以外の欠陥の存在のためと考えられる。
真性ダイヤモンド材料は約5.5eVの間接的バンドギャップを有し、スペクトルの可視部で透明である。バンドギャップ内に関連エネルギー準位を有する「色中心」とも呼ばれる欠陥を導入すると、色中心のタイプと濃度によって決まる特徴的な色をダイヤモンドに与える。この色は、吸収若しくはフォトルミネセンス、又はこの2つの組合せから生じ得るが、一般的に吸収が主な要因である。例えば、Ns0欠陥は、可視スペクトルの青系統の色域(blue end)で吸収を起こし、単独で、材料に黄色を持たせることが周知である。同様に、Walker(J. Walker, ‘Optical Absorption and Luminescence in Diamond’, Rep. Prog. Phys., 42 (1979), 1605-1659)からは、このような黄色材料に高エネルギー電子を照射して空孔(そこから炭素原子が置換された、結晶格子内の部位)を作り出し、かつアニールして窒素不純物原子での空孔の移動と結果としてのトラッピングを生じさせると、NV中心が形成されることが知られている。
【0004】
EP 0 671 482、US 5,672,395及びUS 5,451,430は、HPHT処理を利用してCVDダイヤモンド内の望ましくない欠陥中心を減少させる方法を開示しており、またUS 7,172,655は、単結晶石の褐色度(brownness)を減少させるアニーリング技術を適用する。褐色の最も完全な除去は、約1600℃以上のアニーリング温度で達成され、通常はダイヤモンド安定化圧力を必要とする。しかしながら、このような処理は高価かつ複雑なプロセスであり、その収率は石の亀裂などによって大いに影響を受け得る。さらに、欠陥拡散のため、該アニーリング戦略は、窒素凝集を回避すること又は欠陥位置の制御が重要であろう高性能電子デバイスの製作とは必ずしも調和しない。従って、CVD法を利用して、褐色ではなく、所望の高濃度のNs0を保持するダイヤモンド材料を直接合成できることが望ましいと考えられる。
【0005】
今やよく確立されており、かつ特許その他の文献に広く記載されているダイヤモンド沈着のためのCVD法の多くの変形がある。この方法は一般的に、溶解するとプラズマを形成する原料ガスを供給する工程を含み、反応性ガス種、例えばラジカル及び他の反応種を供給することができる。原料ガスの溶解は、マイクロ波、RFエネルギー、火炎、熱フィラメント又はジェットベース手法等のエネルギー源によってもたらされ、基板上に沈着してダイヤモンドを形成できるようにする反応性ガス種を生成する。ほとんどの最近の技術は、典型的にメタンを少量添加したH2を典型的に1〜10体積%の範囲で含む水素ベース(H-ベース)プラズマ(例えば、J. Achard et al, “High quality MPACVD diamond single crystal growth: high microwave power density regime”, J. Phys. D: Appl. Phys., 40 (2007), 6175-6188参照)、及び典型的に0〜3体積%のレベルの酸素又は酸素含有種(例えばChia-Fu Chen and Tsao-Ming Hong, Surf. Coat. Technol., 54/55 (1992), 368-373)の使用に集中している。以降、酸素及び酸素含有種をまとめて「O含有種」と称し、これは原料ガス中のO含有原料から形成される。
【0006】
典型的には成長速度を増強するか、又はダイヤモンドの品質を何か他の方法、例えば応力及び亀裂の減少(WO2004/046427)で改善する目的で、合成環境に計画的に窒素を添加することが知られている(例えばSamlenski et al, Diamond and Related Materials, 5 (1996), 947-951)。これらの方法では、合成環境への窒素の添加は、ある程度の窒素を固体中に導入するが、これは主目的ではなく、方法全体は一般的に、合成されるダイヤモンド材料における窒素及び他の関連欠陥の包含を最小限にする。1つの例外は、その目的が特に窒素欠陥の形でダイヤモンド材料に色中心を作り出すことである場合であるが(例えばWO2004/046427)、このようなダイヤモンド材料は、ダイヤモンド材料中に取り込まれた単置換窒素以外の高い欠陥濃度のため、ここで予想される用途ではあまり使用されない。
WO2004/063430は、低欠陥濃度の合成CVDダイヤモンド材料(すなわち、一般的に「高品質」合成CVDダイヤモンド材料)の成長には高い圧力及びマイクロ波出力密度(MWPD)が重要であると開示している。
大部分の最近の技術は、ほとんど又は全くO含有種を含まないHベースプラズマに集中しているが、特にCVD法による多結晶ダイヤモンドの合成との関連で非ダイヤモンド炭素のエッチングにおいて(例えばChen et al., Phys. Rev. B, vol 62 (2000), pages 7581-7586; Yoon-Kee Kim et al., J. Mater. Sci.: Materials in Electronics, vol 6 (1995), pages 28-33参照)、及び合成プロセスでHベースプラズマを用いて同様の圧力と出力で行うと生じる不純物のない「高級色(high colour)」ダイヤモンドの合成においてO含有種の重要性への言及もある。決定的に、この分野の従来技術では、ダイヤモンド材料中に取り込まれた窒素は、最小限にされる欠陥の1つであるとみなされ、教示された方法は他の欠陥タイプと共に窒素含量を減らす(例えばWO 2006/127611)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づき、欠陥含量を制御できる単結晶ダイヤモンドを製造するためのCVD法及びその合成CVDダイヤモンド製品が要望されている。また、高級色(すなわち、高品質)の合成CVDダイヤモンド材料自体も必要である。
特に、直接合成によって得られ、均一に分布している相対的に高い窒素含量を有し、かつ例えば通常はHPHT合成プロセスに付随する包有物のような他の欠陥がない、CVDダイヤモンドが必要である。さらに、該CVDダイヤモンド材料が、窒素を含まない褐色欠陥によって支配されるのではなく、代わりに単置換窒素の存在に起因する黄色の色相によって支配される色を有する必要がある。同様に、電子特性が単置換窒素によって支配されるが、一般的に成長プロセスにおける窒素に起因する他の欠陥によって低下されないCVDダイヤモンド材料が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、合成環境内にて基板上でダイヤモンド材料を合成するための化学蒸着(CVD)方法であって、以下の工程:
基板を供給する工程;
原料ガスを供給する工程;
原料ガスを溶解させる工程;及び
基板上でホモエピタキシャルダイヤモンド合成させる工程
を含み;
ここで、合成環境は約0.4ppm〜約200ppmの原子濃度で窒素を含み;かつ
原料ガスは以下:
a)約0.40〜約0.75の水素原子分率Hf
b)約0.15〜約0.30の炭素原子分率Cf
c)約0.13〜約0.40の酸素原子分率Of
を含み;ここで、Hf+Cf+Of=1;
炭素原子分率と酸素原子分率の比Cf:Ofは、約0.45:1<Cf:Of<約1.25:1の比を満たし;
原料ガスは、存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の原子分率が約0.05〜約0.40で水素分子H2として添加された水素原子を含み;かつ
原子分率Hf、Cf及びOfは、原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率である、
方法を提供する。
【0009】
原料ガスは、原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数に基づいた原子分率Hf、Of及びCfで水素、酸素及び炭素を含む。水素は、H2又は他の原料、例えばCH4等によって供給され得る。
発明者らは、驚くべきことに、O含有原料を含む原料ガス(例えばCH4/CO2原料ガス)に水素をH2分子として添加することによって、Ns0の形で高濃度の窒素を含み、かつ他の欠陥が低濃度の合成CVDダイヤモンド材料を得るようにダイヤモンド成長条件を修正できることを見い出した。
CVDプロセスは、より均一の制御可能な合成ダイヤモンド材料の製造方法を提供するので、単結晶ダイヤモンドの合成方法として有利である。対照的に、HPHT技術はNs0のレベルが十分に制御されず、ひいては成長セクター間のNs0濃度の変動が大きい材料、及び他の不純物及び包有物を含む材料を生じさせる。
理論に拘束されることを望むものではないが、原料ガスへのO含有種の添加によって、CVDダイヤモンド材料合成の温度、圧力及び出力密度の合成パラメーターの有効範囲が減少すると考えられる。O含有種を含むプラズマは、Hベースプラズマより不安定であり、かつ例えば単極アークを形成しやすいので、プラズマにO含有種を使用するプロセスのマイクロ波出力密度及び圧力はHベースプラズマプロセスより低くせざるをえないかもしれない。O含有種を含むプロセスに、好ましくはH2の形でいくらかの水素を添加することの1つの利点は、より高いマイクロ波出力密度及び圧力の使用を可能にし得ることである。このようにして、合成プロセスが単極アークを形成する傾向によって乱される前に、操作圧力とマイクロ波出力密度を両方とも高めることができる。
本明細書では、「Hベースプラズマ」を、プラズマを形成する原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率として表される水素原子の原子分率(Hf)が約0.80以上、或いは約0.85以上、或いは約0.90以上である、水素、酸素及び炭素原子を含むプラズマと定義する。例えば、600sccmのH2、30sccmのCH4(ここで、「sccm」は「標準立法センチメートル」であり、これらはプラズマ含有チャンバーへの流れである)の原料ガス組成物は、
((600×2)+(30×4))/((600×2)+(30×5))=0.98
の水素原子分率を有し、該プラズマはHベースプラズマであろう。
本明細書では、「Oベースプラズマ」を、プラズマを形成する原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率として表される酸素原子の原子分率(Of)が約0.10以上、或いは約0.15以上、或いは約0.20以上であり、かつプラズマを形成する原料ガス中の水素原子の原子分率(Hf)が約0.75以下、或いは約0.70以下、或いは約0.60以下、或いは約0.50以下である、水素、酸素及び炭素原子を含むプラズマと定義する。例えば、290sccmのCO2、250sccmのCH4、及び230sccmのH2の原料ガス組成物は、
(290×2)/((290×2)+(25×5)+(230×2))=0.22
の酸素原子分率(Of)及び
((250×4)+(230×2))/((290×2)+(25×5)+(230×2))=0.56
の水素原子分率(Hf)を有し、該プラズマはOベースプラズマであろう。
【0010】
なぜそれほど多くの最近の技術がHベースプラズマ(例えば主にH2である原料ガスから形成されるプラズマ)に関するかの1つの理由は、大分率のO含有種(例えばCO2/CH4ベース原料ガスの溶解から形成されるプラズマ)は、高い圧力と高いマイクロ波出力密度で制御するのがより困難なことであると考えられる。状況によっては、特定の圧力と出力密度で合成されるダイヤモンドの「品質」が、同様の圧力と出力密度の組合せ下でHベースプラズマより大分率のO含有種を含むプラズマの方が良い(すなわち、欠陥含量がより少ない)ことがあり、モデルは一般的にこれはO含有種の優れたエッチング能力に基づくと仮定する。しかしながら、Hベースプラズマは有意に高い圧力と出力で行うことができ、これは、O含有種は「原子当たり」より効率的に非ダイヤモンド炭素をエッチングし得るが、ダイヤモンド表面では、より高い出力と圧力のHベースプラズマよりずっと低いエッチャント種の流量があることを意味する。これらのより低流量のエッチャント種は、一般的に最適化Hベースプラズマプロセスに比べてO含有種を含む最適化プラズマで合成された材料について製品の欠陥含量を高くする。
さらに、CO2/CH4ベース原料ガスに水素のみを添加すると、合成されるダイヤモンド材料の品質を下げることが以前に示されている(Chia-Fu Chen and Tsao-Ming Hong, “The role of hydrogen in diamond synthesis from carbon dioxide-hydrocarbon gases by microwave plazma chemical vapor deposition”, Surface and Coatings Technology, vol 54/55 (1992), pages 368-373)。
【0011】
対照的に、発明者らは驚くべきことに、原料ガスに慎重に制御した量のH含有原料を添加することによって(特にH2としての水素原子の添加による)、CVD合成プロセスを安定して行える圧力を高くし得る(すなわち水素の存在がプラズマの安定性を高めると考えれる)ことを見い出した。このことは、合成圧力とマイクロ波出力密度の増加を可能にし、ひひいては相当レベルの酸素を、適切なレベルの水素の存在によって可能となり得る出力及び圧力レジメと組み合わせることによって、相当レベルの単置換窒素がダイヤモンド格子に入れるようにし、同時に、合成環境内に存在する窒素に一般的に付随する他の欠陥を最小限にできる条件を見い出した。これは、より高品質の合成CVDダイヤモンド材料をもたらし得る。
理論によって拘束されることを望むものではないが、発明者らは、本発明で提案する条件下では、増加したマイクロ波出力密度が、O含有種を含むプラズマで一般的に可能であるより迅速な非ダイヤモンド炭素のエッチングを可能にする。この迅速なエッチングは、より高いプロセス圧力によって実質的に増強され得るO含有種の優れたエッチング能力から生じ得る。このことが実際に見られるエッチングにおける実質的な選択性を与え、非ダイヤモンド炭素の極端に効率的なエッチング及び褐色を生じさせると考えられる当該欠陥を与えるが、CVDダイヤモンド材料に異常に高いレベルの窒素の取込みを許容することは自明でなく、かつ確実に予測できなかった。このように、一意的に、本発明のプロセスで製造される材料は、単置換窒素に関連する有意な吸収を示すが、CVD合成環境に窒素を添加することによって生じると考えられる単置換窒素以外の欠陥に起因する褐色度に関連する吸収は非常に低い。
本発明はさらに本発明の方法で製造された合成CVDダイヤモンド材料を提供する。
本発明はさらに、約0.5ppmより大きい濃度で単置換窒素(Ns0)を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する、合成CVDダイヤモンド材料を提供する。
好ましくは本発明のCVDダイヤモンド材料は単結晶CVDダイヤモンド材料である。
【0012】
本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる宝石用原石を提供する。本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料の宝石用原石としての使用を提供する。本発明の合成CVDダイヤモンド材料に存在する欠陥は、黄色に着色した天然ダイヤモンド(例えばいわゆる「ケープイエロー(Cape Yellow)」ダイヤモンド)の黄色に類似する黄色をもたらすので、これらの宝石用原石は有利であり、自然な色を好む人にとって宝石用原石をより魅力的にする。
本発明はさらに本発明の合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる電子デバイスを提供する。
本発明はさらに本発明の合成CVDダイヤモンド材料の電子デバイスとしての使用を提供する。これらの電子デバイスは、上でデバイスが製作される基板内の高くかつ均一濃度のNs0がフェルミ順位を効率的にピン止めしながら、その上に引き続き真性ダイヤモンド又は低い拡張欠陥密度でドープされたダイヤモンドのエピ層が沈着可能な基板をもたらすので有利である。
【0013】
本明細書では、特定の色等級のダイヤモンド材料を記述する場合、言及する色等級スケールは、米国宝石学会(Gemological Institute of America)(「GIA」)の色等級スケールである。このスケールでは、「高級色(high colour)」は「L」以上の等級(すなわち、等級D、E、F、G、H、I、J、K又はL)であり、GIA等級「D」は、完全無色に最も近い「最高級色(highest colour)」である。ダイヤモンドの色等級付けの技術範囲の色の意味は良く理解されており、ダイヤモンドは世界中の宝石等級付け研究所で同一スケールに対して同一の方法で等級付けられている。正確な色と等級の関係は、V. Pagel-Theisen, “Diamond Grading ABC The Manual”, 9th Edition (2001), Rubin & Son, Antwerp, Belgium, page 61(折込み表)に掲載されている。
ダイヤモンドの色の定量的測定は良く確立されており、「CIE L*a*b*色度座標」を用いて表され、ダイヤモンドについてのその使用はWO 2004/022821に記載されている。a*及びb*はグラフのx軸及びy軸としてプロットされ、色相角は、正のa*軸から正のb*軸に向かって測定される。従って90°より大きく、180°未満の色相角は、a*b*グラフの左上象限にある。色を表すこのスキームでは、L*が明度であり、第4座標C*が彩度である。
【0014】
この発明との関連では、用語「品質」を用いて「目的適合性」を意味するので、特有の用途で使用する材料は、それが解決すべき課題のより良いか又は改良された技術的解決をもたらせば、別の材料より「高品質」であるとみなされる。
当該技術分野では、ダイヤモンド材料の「合成」をダイヤモンド材料の「成長」と称する。従って、「成長速度」及び「成長セクター」のような用語は、このことを考慮して解釈すべきである。
合成環境は原料ガスを含み、それ自体は炭素原子、水素原子及び酸素原子を分子、原子、ラジカル又はイオンの形で含む。合成環境に大量又は少量の他の種、例えば不活性ガス(例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等)又は窒素を意図的に(特に原料ガスにこれらの種を添加することによって)添加してよい。さらに、原料ガス混合物に不純物が存在してよい。
合成環境内の原子、すなわちC、H及びOの割合は、約70%以上、或いは約80%以上、或いは約85%以上、或いは約90%以上、或いは約95%以上、或いは約98%以上であってよい。
合成環境はさらに、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン及びキセノンから選択される1種以上の不活性ガスを含んでよい。これらの不活性ガスは原料ガスによって合成環境に添加され、すなわち不活性ガスが原料ガス中に存在する。不活性ガスは原料ガス中に約0〜約0.5、或いは約0〜約0.3、或いは約0〜約0.2、或いは約0〜約0.1、或いは約0〜約0.05の原子分率Xfで存在してよい(ここで、Xf+Hf´+Cf´+Of´=1)。原子分率Hf´、Cf´及びOf´は、原料ガス中に存在する水素、酸素、炭素及び不活性ガス原子の総数の分率である。明らかに、Xf=0の場合はHf=Hf´、Cf=Cf´かつOf=Of´である。不活性ガスは化学的観点からは不活性なので、プラズマ内で起こる化学的プロセスにおいては役割がなく、この点では無視することができる。しかしながら、不活性ガスの存在は、プラズマの物理的特性、例えばその熱伝導性などに影響を与えることがあり、或いは実際には反応に化学的に関与することなく、他の種間の化学反応を促進し得る第三体として作用することがある。その結果、発明者らは、如何なる特定の理論によっても拘束されるものではないが、少量の不活性ガス、特にArの存在は、必ずではないが、本発明に有利な効果を与え得ると考える。
【0015】
合成環境は原料ガスを含み、この原料ガスは、水素分子H2として添加された水素原子を、存在する水素、炭素及び酸素原子の総数の原子分率として表される原子分率が約0.05〜約0.40、或いは約0.10〜約0.35、或いは約0.15〜約0.30、或いは約0.05〜約0.10、或いは約0.10〜約0.15、或いは約0.15〜約0.20、或いは約0.20〜約0.25、或いは約0.25〜約0.30、或いは約0.30〜約0.35、或いは約0.35〜約0.40で含む。残りの水素原子(すなわち、添加されたH2分子に由来しない水素原子)は、CH4等の他の原料に由来する。
原料ガス中の水素は、水素(H2)又は水素含有原料(以後、まとめてH含有原料と呼ぶ)、例えばH2、CH4及び他の炭化水素種(アルデヒド、ケトン等の酸素を含有する炭化水素をも含めて)の形をしている。
原料ガス中の炭素は、炭素含有原料、例えばCO(一酸化炭素)、CO2(二酸化炭素)、CH4、他の炭化水素(アルカン、例えばエタン、プロパン、ブタン等;アルケン、例えばエテン、プロペン等;アルキン、例えばエチン、プロピン等)、酸素含有炭化水素、例えばアルコール、アルデヒド、エステル、カルボン酸等の形をしている。
原料ガス中の酸素は、酸素又は酸素含有原料(以後、まとめてO含有原料と称する)、例えばO2、O3(オゾン)、CO、CO2、酸素含有炭化水素、例えばアルコール、アルデヒド、エステル、エーテル、カルボン酸等の形をしている。
原料ガス混合物は、合成プロセスで本質的にその構成原子に分解され、これらの成分が、原子の特定混合物の熱力学的平衡であるか、又はそれに近い、種の混合物に再編成するので、原料ガス混合物を構成する分子種の選択は、特定のプラズマ組成を達成するための要件及び選択された分子混合物内で安定したプラズマをとばして維持する能力によって決定される。原料ガス混合物を形成するガスの選択は、ある程度まではさらにコスト、入手可能性、純度及び取扱いの容易さによって決定され;例えば、CH4、CO、CO2、H2及びO2は全て、化学的純度の範囲の安定したバルクガスとして容易に入手できるので、好ましいであろう。
【0016】
原料ガスが溶解すると、これらの原料がプラズマ内でそれぞれ水素又は水素含有種(まとめてH含有種)、炭素含有種及び酸素又は酸素含有種(まとめてO含有種)を形成する。典型的に、溶解した原料ガスは、水素ラジカル(H)、一酸化炭素ラジカル(CO)及び二炭素ラジカル種(例えばC2Hx、ここで、xは6未満)を含むであろう。これらの種の存在は、発光分光法(「OES」)等の手法で決定し得る。
原料ガスは、CO、CO2、CH4及びH2等の分子種を、原料ガス中の炭素原子分率Cf、水素原子分率Hf及び酸素原子分率Ofが以下の範囲内となるように含んでよい:
0.15<Cf<0.30、或いは0.18<Cf<0.28、或いは0.20<Cf<0.25;
0.40<Hf<0.75、或いは0.42<Hf<0.72、或いは0.45<Hf<0.70;及び
0.13<Of<0.40、或いは0.15<Of<0.38、或いは0.18<Of<0.35。
上記量のC、H及びO原子を含有するいずれの原料ガス組成の位置をもいわゆる「バックマンダイアグラム(Bachman Diagram)」(P. K. Bachmann et al, “Towards a general concept of diamond chemical vapour deposition”, Diamond and Related Materials, 1 (1991), 1-12)、修正三成分相図から得られる等温断面上に表すことができる。原型のバックマンダイアグラムは利点を有するが、本発明者らは、C、H及びOの原子分率をプロットする、もっと伝統的なC-H-O三成分相図から得られる等温断面を使用するとさらに有用であることを見い出した(図1)。図1中、Hfの上限及び下限をそれぞれ(2)及び(4)と表示し、Cfの下限及び上限をそれぞれ(6)及び(8)と表示し、Ofの下限及び上限をそれぞれ(10)及び(12)と表示してある。従って、これらの下限と上限のセットによって囲まれた図1の陰影領域(14)が、本発明の原料ガス組成を規定する。
図1に示すように、三成分相図の使用によって、原子種の分子原料と無関係に原子組成を比較することができ;このことは、プラズマ内の種が本質的に、存在する原子の原子分率に基づいた熱力学的平衡状態にある(当該原子の分子原料と無関係に)場合のプラズマCVDプロセスに特に関係がある。
炭素、水素及び酸素の原子分率は、原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率なので、Cf+Hf+Of=1の関係を満たし、いずれの他の種(例えば不活性ガス)の存否とは無関係である。
Cf:Of比は、0.45:1<Cf:Of<1.25:1、或いは0.50:1<Cf:Of<1.20:1、或いは0.55:1<Cf:Of<1.15:1の範囲内である。
或いは、Cf:Of比が、0.54:1<Cf:Of<1.20:1、或いは0.61:1<Cf:Of<1.18:1、或いは0.72:1<Cf:Of<1.15:1の範囲であってよい。
上記基準を満たす組成物の例を「実施例」で開示する。
【0017】
その上で合成CVDダイヤモンド材料が合成される基板の表面を基板の成長表面と呼ぶ。成長中に基板の成長表面に付着される合成CVDダイヤモンド材料の表面は、「基板サイド」として知られる(「核生成サイド」、「核生成面」、「核生成表面」又は「基板表面」としても知られる)。CVDダイヤモンド材料合成中に、上にさらに合成CVDダイヤモンド材料が沈着される、核生成サイドに実質的に平行な合成CVDダイヤモンド材料の表面は、「成長サイド」として知られる(「成長面」又は「成長表面」としても知られる)。
基板は、ホモエピタキシャルダイヤモンド合成で使うのに適したダイヤモンド基板であってよい。従って、基板自体がIa型、IIa型若しくはIIb型天然ダイヤモンド、Ib型若しくはIIa型HPHT合成ダイヤモンド又はCVD合成ダイヤモンドであってよい。CVD合成ダイヤモンド基板は、ホモエピタキシャルであってもよい単結晶CVDダイヤモンドであってよい(ここではホモエピタキシャル基板として知られる)。従って、基板が、それ自体、当初の基板上に合成されたものであってよい。
ダイヤモンド基板は、基板の主要面であり、かつ実質的に<100>方向に沿って位置する稜によって境界が定められ得る(001)成長表面を有し得る。基板は、[001]方向の約10°以内、或いは[001]方向の約5°以内、或いは[001]方向の約4°以内、或いは[001]方向の約3°以内である法線を持つ成長面をも有し得る。基板の稜は、<100>方向の約10°以内、或いは<100>方向の約5°以内、或いは<100>方向の約3°以内であってよい。基板の稜は、<110>方向の約10°以内、或いは<110>方向の約5°以内、或いは<110>方向の約3°以内であってよい。基板の成長表面は、実質的に{001}、{101}、{113}、{311}又は{111}表面であってよく、一般的に{001}表面である。
【0018】
ダイヤモンドの結晶学に以下の慣例を適用して、基板の成長表面を他の表面と区別することができる。本明細書で使用する場合、平行六面体を形成する矩形の形状を有する、2つの対向する主要面と4つの小さい面を持つ典型的基板(全ての面が名目上は(nominally){100}形の部分である)では、2つの対向する主要面が(001)及び
【0019】
【数1】

【0020】
面(まとめて{001}と称する)であり、上で成長が起こる表面を(001)表面とみなす。従って、成長方向は[001]方向であり、基板の稜は[100]及び[010]方向に平行である。
本明細書で使用する場合、方向、例えば結晶方向又は基板の成長表面と関係する方向に言及するときの用語「実質的に」は、前記方向の約10°以内、或いは前記方向の約5°以内、或いは前記方向の約4°以内、或いは前記方向の約3°以内を意味する。
【0021】
ダイヤモンド基板の成長表面に実質的に結晶欠陥がない高品質CVDダイヤモンド材料を製造することが重要である。この関係で、結晶欠陥は、主に転位及び微小亀裂を意味するが、双晶境界、積層欠陥(stacking fault)、点欠陥、低角度境界及びいずれの他の結晶格子の破壊をも包含する。
ダイヤモンドの褐色の原因である欠陥の性質は現在正確には理解されていないが、発明者らは、プラズマに水素/メタン(H2/CH4)原料ガスによって窒素を添加することで混入した、大きい成長速度下で成長している多空孔クラスターの存在に関係があると考える。該クラスターは熱的に不安定であり、完全でないことが多いが、ある程度は、高温処理(すなわちアニーリング)によって除去し得る。より小さい空孔に関連する欠陥、例えば窒素と水素で構成され、炭素原子を欠いているNVH(窒素-空孔-水素)欠陥は部分的に褐色の原因かもしれず、これらの欠陥も高温処理で除去得ると考えられる。
【0022】
欠陥密度は、暴露(revealing)プラズマ又は化学的エッチング(まとめて「暴露エッチング」と称する)の使用後の光学的評価で最も簡単に特徴づけられる。暴露エッチングは、ダイヤモンド基板内の欠陥を明らかにするように最適化され、後述するタイプの簡易の異方性プラズマエッチングであってよい。一般に、以下の2つのタイプの欠陥を明らかにすることができる。
1)ダイヤモンド基板材料の品質に固有の欠陥。選ばれた天然ダイヤモンド基板では、これらの欠陥の密度は50/mm2ほどに低く、さらに典型的な値は102/mm2であるが、他のダイヤモンド材料では、これらの欠陥の密度は106/mm2以上であり得る。
2)研磨の結果生じる欠陥、例えば転位構造及び研磨ラインに沿った「チャッタートラック(chatter tracks)」の形の微小亀裂が挙げられる。これらの欠陥の密度は、サンプルによってかなり変化し得る。典型的な値は、約102/mm2から104/mm2超えまで(不十分に研磨された領域又は基板内)の範囲で変化する。
従って、欠陥の好ましい低密度は、上述したように、欠陥に関連する表面エッチングフィーチャー(feature)の密度が5×103/mm2未満であるような密度であり、102/mm2未満であってよい。
基板の慎重な調製によってダイヤモンド基板の成長表面及びその下の欠陥レベルを最小限にすることができる。ここで、調製は、鉱物回収(天然ダイヤモンドの場合)又は合成(合成ダイヤモンド材料の場合)からの基板材料に適用されるいずれのプロセスをも包含する。これは、基板を形成するための加工処理が完了すると、最終的に基板の成長表面を形成するであろう平面では、各段階が基板材料内の欠陥密度に影響を与え得るからである。特定の加工処理工程には、機械的切削、粗研磨及び研磨条件などの通常のダイヤモンドプロセス、及びあまり一般的でない技術、例えばレザー加工処理又はイオン注入及びリフトオフ技術、化学的/機械的研磨、及び液体及びプラズマ化学加工処理技術が含まれる。さらに、表面のRa値で表される表面の粗さを最小限にすべきであり;いずれものプラズマエッチング前の典型的値は、数ナノメーター、すなわち10nm以下である。
Ra(「RA」又は「中心線平均」又は「c.l.a.」と呼ばれることもある)は、触針プロフィロメーター(stylus profilometer)で測定した平均線からの表面プロファイルの絶対偏差の算術平均を表し、0.08mmの長さにわたって測定され、British Standard BS 1134 Part 1及びPart 2に準拠して測定される。Raの数学的記述は以下のとおりである(“Tribology”, I. M. Hutchings, Pub. Edward Arnold (London), 1992, pages 8-9)。
【0023】
【数2】

【0024】
(一般的に0.08mmの長さにわたって触針プロフィロメーターで測定された表面プロファイルの絶対偏差の算術平均)。触針プロフィロメーターを用いたRaの測定は技術上周知であり、該測定を行うのに適した多くの機器がある;例えば、発明者らは“Taylor Hobson FormTalysurf 50”, (Taylor Hobson Ltd, Leicester, UK)を使用した。
ダイヤモンド基板の成長表面の表面損傷は、異方性エッチング、例えばプラズマエッチングを施すことで最小化し得る。
異方性エッチングは、実質的に平面であり、かついずれの前加工処理工程、特に機械的加工処理工程に起因する残存損傷フィーチャーもないか又は実質的にない成長表面をもたらすため、基板の成長表面から材料を除去することを含む。
異方性プラズマエッチングは、水素と酸素を含むエッチングガスを使用する酸素エッチングであってよい。或いは、プラズマエッチングが水素エッチングであってよい。さらなる代替法では、プラズマエッチングが酸素エッチングと水素エッチングを両方含んでよく、この場合、酸素エッチングの後に水素エッチングを行う。水素エッチングは結晶欠陥にあまり特異的でなく、酸素エッチングによって生じたいずれの傾斜度(積極的に該結晶欠陥を攻撃する)にも丸みをつけて、より滑らかで良い成長表面を基板上にもたらすので、酸素エッチングの後に水素エッチングを行うのが有利である。
【0025】
異方性 プラズマエッチングの持続時間及び温度を選択して、いずれの基板の表面へのいずれの損傷をも除去することができ、いずれの表面汚染物をも除去することができる。基板の表面は、プラズマエッチング前に行われた加工処理工程によって損傷を受けた可能性がある。一般的に、プラズマエッチングは、基板上に高度に粗面化された表面を形成せず、表面と交差して深いくぼみを生じさせる拡張欠陥(例えば転位)に沿って広くエッチングしない。
異方性エッチングは、その場(in situ)プラズマエッチングであってよい。原則として、このエッチングはその場エッチングである必要もなく、ダイヤモンド材料の合成直前である必要もないが、その場エッチングの場合、基板のいずれのさらなる物理的損傷又は化学的汚染のリスクをも回避するので、最大の利益が達成される。ダイヤモンド材料の合成もプラズマに基づく場合も一般的にその場エッチングが最も便利である。プラズマエッチングがダイヤモンド材料の合成のために使用する条件と同様の条件を使用できるが、いずれの炭素含有原料ガスも存在せず、かつ一般的にはわずかに低い温度でエッチング速度の良い制御を与える。
異方性酸素エッチング条件は、約50×102Pa〜約450×102Paの圧力、約1%〜約4%の酸素含量、約30%以下のアルゴン含量及びバランス水素(全て百分率は体積による)を含むエッチングガス、約600℃〜約1100℃(一般的に約800℃)の基板温度、及び約3分〜約60分のエッチング持続時間であってよい。
異方性水素エッチング条件は、約50×102Pa〜約450×102Paの圧力、水素と及び体積で約30%以下のアルゴンを含むエッチングガス、約600℃〜約1100℃(一般的に約800℃)の温度、及び約3分〜約60分のエッチング持続時間であってよい。
アルゴン、水素及び酸素のみに基づくのではないエッチングの代替方法、例えば、ハロゲン、他の不活性ガス又は窒素を利用する方法を使用してよい。
合成プロセスの持続時間の間、基板を約750℃〜約1000℃、或いは約750℃〜約950℃、或いは約780℃〜約870℃の温度で維持してよい。
【0026】
上述したように、「合成環境」は、中でCVDダイヤモンド材料合成が起こる合成装置の一部である。それは一般的にガス送達システムの下流かつ合成環境内の圧力を制御する手段、例えばガス流インピーダンス及び真空ポンプを制御する「絞り弁」の上流にある。合成環境は原料ガスと、漏出、真空ポンプによる逆流及び合成装置からの脱離によるいずれのガスをも含む。従って、ガス送達システムによって供給される原料ガスの組成の変化が合成環境のガス組成に反映される。しかしながら、合成環境内のガス組成は合成プロセス等の他の要因によっても影響を受ける。原則として、ガス送達システムは、合成環境に入る入口を複数有し得るので、ガス送達システムによって供給される原料ガスの組成は、ガス送達システム内に混合物として前から存在しないが、ガス送達システムによって合成環境に添加されるガスの相対流量によって決定される。
本明細書における合成環境内のガス組成への全ての言及は、ガス送達システムによって合成環境に添加されるガスと、漏出、真空ポンプによる逆流及び合成装置からの脱離によるいずれものガスとの合計に基づく。これは、ガス送達システムを活性化して、CVDダイヤモンド材料合成が起こるであろう合成システムに原料ガスを送達することによって決定可能であり、この時点で漏出、真空ポンプによる逆流及び合成装置からの脱離によるいずれのガスをも生成されるであろう。そして、実際にはいずれのCVDダイヤモンド材料をも合成せずにCVDダイヤモンド材料合成が起こるであろう合成システム内で合成環境内のガス組成を決定することができる。
【0027】
合成装置内に原料ガスを投入する前に原料ガス中のガスの濃度を変えることによって、合成環境内のガスの濃度を制御することができる。従って、本明細書で与える原料ガス中のガス濃度の測定値は、原料ガスを合成装置に投入する前の原料ガス組成によって決定されたものであり、合成環境でその場(すなわち、合成装置内部)で測定されたものではない。当業者は、原料ガスに所要濃度をもたらすのに必要であろういずれの別々のガスの所要流量をも計算できるであろう。
合成環境は、約0.2ppm〜約100ppm、或いは約0.5ppm〜約50ppm、或いは約1ppm〜約30ppm、或いは約2ppm〜約20ppm、或いは約5ppm〜約20ppmの原子濃度で窒素を含む。好ましくは合成環境の原子窒素含量は約5ppm〜約20ppmである。原料ガスの総ガス流の原子分率窒素Nとして窒素濃度を決定し得る;例えば100ppmのN2を含有する1000sccm(標準立法センチメートル)のH2及び150sccmのH2のガス流は、
(150×100×2)/(1000×2+150×2)=13ppm
の原子窒素含量を有するであろう。
合成環境内の窒素は、窒素(すなわちN2)又は窒素含有ガス(例えばアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N2H4)等)によって供給され得る。
【0028】
本発明の方法はさらに、原料ガスを溶解させる工程を含む。合成環境内の原料ガスの溶解は、例えばマイクロ波、RF(ラジオ周波数)エネルギー、火炎、熱フィラメント又はジェットベース手法等のエネルギー源によってもたらされ、そのようにして生成された反応性ガス種(本明細書では「プラズマ」とも呼ぶ)が基板の成長表面上に沈着され、合成CVDダイヤモンド材料を形成する。一実施形態では、エネルギーがマイクロ波エネルギー源である。マイクロ波源の周波数は約800MHz〜約2500MHzであってよく、一般的に工業上の加熱周波数の1つであり、その例は2450MHz、915MHz及び896MHzである。
本発明のプロセスは約8,000Pa(60Torr)以上、或いは約10,600Pa(80Torr)以上、或いは約13,300Pa(100Torr)以上、或いは約16,000Pa(120Torr)以上の圧力で行ってよい。
本発明のプロセスは約10,600Pa(約80Torr)〜約40,000Pa(約300Torr)、或いは約12,000Pa(約90Torr)〜約40,000Pa(約300Torr)、或いは約13,300Pa(約100Torr)〜約40,000Pa(約300Torr)、或いは約10,600Pa(約80Torr)〜約26,600Pa(約200Torr)、或いは約12,000Pa(約90Torr)〜約24,000Pa(約180Torr)、或いは約13,300Pa(約100Torr)〜約20,000Pa(約150Torr)の圧力で行ってよい。本発明の方法は、驚くべきことに、これらの高い圧力を、上述したように、非ダイヤモンド炭素及び欠陥の高効率エッチングを可能にし、それによって高品質CVDダイヤモンド材料の合成を可能にするO含有原料を含む原料ガスと併用することを可能にする。
一実施形態では、本発明のプロセスは13,300Pa(100Torr)〜40,000Pa(300Torr)の圧力で行ってよい。
【0029】
発明者らは、その値を超えるとプラズマ内における単極アーク形成のリスクが大いに増加し、合成プロセスを中断又は停止し得る圧力Pアークがあり、これは原料ガス中の水素の原子分率Hfと関連することを見い出した。発明者らは、Pアークが下記式によって与えられることを見い出した。
Pアーク=170(Hf+0.25)+X
ここで、Pアークの単位はル(1Torr=133.3Pa)である。この式は、Torrで計測されるPアークをもたらすが、当業者はそれをパスカルの計測値に換算する方法を知っているであろう。Xは、この圧力の上限が、与えられた反応器及びHf以外のプロセス条件に応じてわずかに変化し得るという事実を表すが、いずれの与えられた反応器及びプロセスについても、圧力を変化させて単極アークの形成圧力を観察することによってこの限界がどこにあるかを確立することは単純なエクササイズである。発明者らは、Xが典型的に約20〜約-50;或いは約20〜約-30;或いは約10〜約-30;或いは約20〜約-20;或いは約10〜約-20;或いは約10〜約-10;或いは約5〜約-10;或いは約5〜約-5の範囲であることを見い出した。或いはXは約10、或いは約5、或いは約0、或いは約-5、或いは約-10であってよい。
Xの値を決定したので、この表現が約0.4〜約0.95(例えば約0.4〜約0.75)のHf値の範囲にわたって、かつ合成環境のバランスを構成する広範なCf及びOfについて適用できることが分かった。さらに、発明者らは、以前に開示した原子分率の1種以上の不活性ガスの添加は、圧力限界Pアークに有意な影響を与えないことを見い出した。
発明者らは、本発明の方法で好ましい操作圧力はP下限を超えることを見い出した。ここで、P下限=Pアーク−Yであり、P下限及びYの単位はTorrであり、Yの値は約50Torr以下、或いは約40Torr以下、或いは約30Torr以下、或いは約20Torr以下、或いは約10Torrである。
一実施形態では、本発明の方法はP下限Torrより大きい圧力で行われる。ここで、P下限=Pアーク−YかつPアーク=170(Hf+0.25)+Xであり、Yは約50Torr、Xは約0Torrであり、Pアークは、プロセス内で単極アーク放電が始まる圧力である。
操作圧力は約120Torr以上、或いは約130Torr以上、或いは約140Torr以上、或いは約150Torr以上、或いは約160Torr以上であってよい。これらの操作圧力は、Hfが0.75のときに有用であり得る。
好ましい操作圧力はPアーク以下にあり、かつプロセスの安定性の理由のため、好ましくはPアーク未満の小さいが有意な圧力である。この圧力は「P上限」と呼ばれ、Torrで計測される。
このようにして、発明者らは、本発明の方法で好ましい操作圧力がP上限=Pアーク−Zで与えられることを見い出した。ここで、Zは約0Torrであり、或いはZは約5Torrであり、或いはZは約10Torrである。
当業者には当然のことながら、上述したX、Y及びZ値のいずれをも組み合わせてよい。
一実施形態では、本発明の方法はP上限以下の圧力で行われる。ここで、P上限=Pアーク−ZかつPアーク=170(Hf+0.25)+Xであり、Xは約20〜約-50であり、Pアークは、プロセス内で単極アーク放電が始まる圧力であり、Zは約0Torrである。
一実施形態では、プロセスがP上限以下の圧力で行われる。ここで、P上限=Pアーク−ZかつPアーク=170(Hf+0.25)+Xであり、Xは約0であり、Zは約0Torrであり、Pアークは、プロセス内で単極アーク放電が始まる圧力である。
操作圧力P上限は、約170Torr以下、或いは約165Torr以下、或いは約160Torr以下であってよい。これらの操作圧力は、Hfが0.75のときに有用であり得る。
【0030】
前述したように、本発明は、約0.5ppm(約8.8×1016原子/cm3)より大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料を提供する。
或いは、合成CVDダイヤモンド材料中のNs0の濃度が約1.0ppm超え、或いは約1.5ppm超え、或いは約1.8ppm超え、或いは約2.0ppm超え、或いは約2.5ppm超え、或いは約3.0ppm超え、或いは約3.5ppm超え、或いは約4.0ppm超え、或いは約5.0ppm超え、或いは約7.0ppm超え、或いは約10.0ppm超え、或いは約15.0ppm超え、或いは約20.0ppm超え、或いは約25.0ppm超え、或いは約50.0ppm超え、或いは約75.0ppm、或いは約100.0ppm超えであってよい。
好ましくはNs0の濃度が約200ppm以下である。
好ましくは合成CVDダイヤモンド材料中のNs0が約1.0ppmより多く、かつ約25ppm未満であり、或いは約2.0ppmより多く、かつ約15ppm未満である。
【0031】
ダイヤモンドは広いバンドギャップの半導体であるので、ダイヤモンド材料、特に欠陥を含有するダイヤモンド材料は必ずしも明確に定義されたフェルミ準位を持たない。室温(すなわち、約27℃(300K))では、価電子バンド最大値又は伝導バンド最小値のどちらかと比べて相対的に浅いエネルギー準位を有する欠陥で最初に捕捉される電荷は、価電子バンド又は伝導バンドへの熱励起後の輸送によって平衡分布に達するであろう。しかしながら、ダイヤモンド材料は、バンドギャップ内で相対的に深いエネルギー準位を有する欠陥(室温では、電子が価電子バンドと欠陥の間又は欠陥と伝導バンドの間で熱励起されるであろう低い確率が存在するように)を含有し得る。このような欠陥が存在する場合、種々の欠陥を横断する電荷分布は、サンプルの熱及び励起の履歴によって左右され得る。このような場合、材料の光吸収特性が材料内の欠陥の荷電状態によって決まる程度までは、それらもサンプルの熱及び励起の履歴によって決まるであろう。例えば、中性荷電状態で存在する孤立置換窒素欠陥の特性はサンプルの前の熱及び励起の履歴によって決まり得るので、この中性欠陥に起因する全光吸収の割合もサンプルの履歴によって決まるであろう。
誤解を避けるため、サンプルの履歴を特定しない場合は、本発明で述べる材料の特性は、測定を行うのに必要な励起以外は測定中にサンプルをさらに励起させずに室温(すなわち、約27℃(300K))で測定可能な特性であると解釈すべきである。
【0032】
好ましくは以下の条件下で重水素ランプの光を用いてサンプルを照射した後に特性を測定する。
(a)サンプルとランプの間の距離が約10cm以下;
(b)ランプ操作電力が少なくとも10ワット;及び
(c)持続時間が約5分〜約60分。
特に、以下の条件下で重水素ランプの光を用いてサンプルを照射した後に特性を測定する。
(d)サンプルとランプの間の距離が8cm;
(e)ランプ操作電力が10ワット;及び
(f)持続時間が10分。
重水素ランプ(「重水素アークランプ」としても知られる)は、約180nm〜約370nmの波長間で連続出力が必要な場合の分光測定で広く使用される。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料中に存在するNs0の濃度は、UV-可視吸収分光測定を利用して270nmピークを用いて測定し得る。UV-可視吸収分光測定の技術は当該分野で周知である。
合成CVDダイヤモンド材料中のNs0の濃度は、1332cm-1及び1344cm-1の波数における赤外吸収ピークを測定することによって分かる。分解能が1cm-1の分光計を用いて、1332cm-1及び1344cm-1のピークの吸収係数値(cm-1)と正に荷電した状態及び中性状態の単窒素の濃度との換算率は、それぞれ5.5(S. C. Lawson et al., J. Phys. Condens. Matter, 10(1998), 6171-6181)及び44である。しかし、1332cm-1ピークから導かれる値は上限のみであることに留意しなければならない。
【0033】
これとは別に、二次イオン質量分析(SIMS)を用いて窒素の全濃度を決定し得る。SIMSは、ダイヤモンド内の窒素について約0.1ppmという低い検出限界を有し、その使用法は技術上周知である。CVD法で製造された合成ダイヤモンドでは、固体中に存在する窒素の大部分が中性単置換窒素Ns0の形をしているため、全窒素濃度のSIMS測定は、必然的にNs0の濃度までの上限をもたらすので、それらも典型的にはその実際の濃度の妥当な推定値を与える。
これとは別に、Ns0の濃度を電子常磁性共鳴法(「EPR」)で決定し得る。この方法は技術上周知であるが、完全性のため、ここに要約する。EPRを用いて行う測定では、特定の常磁性欠陥(例えば中性単置換窒素欠陥Ns0)の存在量は、全EPR吸収共鳴線の、当該中心から生じる積分強度に比例する。これにより、マイクロ波出力飽和の影響を防止するか又は補正することに注意するという条件で、積分強度を参照サンプルから観察される当該積分強度と比較することによって欠陥濃度を決定することができる。磁場変調を利用して連続波EPRスペクトルを記録するので、EPR強度、ひいては欠陥濃度を決定するためには二重積分が必要である。二重積分、基線補正、積分の有限極限などに関連する誤差を最小限にするため、特に重なりEPRスペクトルが存在する場合、スペクトル適合法(Nelder-Meadシンプレックスアルゴリズム(J. A. Nelder and R. Mead, The Computer Journal, 7(1965), 308)を使用)を利用して、問題のサンプルに存在するEPR中心の積分強度を決定する。これは、実験スペクトルをサンプル中に存在する欠陥のシミュレートスペクトルと適合させる工程及びシミュレーションからの各スペクトルの積分強度を決定する工程を伴う。実験的にローレンツ型線形もガウス型線形も実験EPRスペクトルに良い適合をもたらさないので、Tsallis関数を用いてシミュレートスペクトルを作成する(D.F. Howarth, J.A. Weil, Z. Zimpel, J. Magn. Res., 161(2003), 215)。さらに、低窒素濃度の場合、EPRシグナルの線幅に近づくか又はそれを超える振幅変調を用いて良いシグナル・ノイズ比を達成する(妥当な時間枠内で正確な濃度決定を可能にする)必要があることが多い。従って、記録されたEPRスペクトルに対して良い適合を生じさせるため、Tsallis線形で擬似変調を利用する(J.S. Hyde, M. Pasenkiewicz-Gierula, A. Jesmanowicz, W.E. Antholine, Appl. Magn. Reson., 1(1990), 483)。この方法を用いて、±5%より良い再現性で濃度を決定することができる。
【0034】
当業者は、いずれの所定状況でも、どのNs0方法が使用に適しているかを決定できる。
当業者は、合成CVDダイヤモンドと合成HPHTダイヤモンドを区別するために使用できる方法に精通している。以下にこれらの方法のいくつかの非限定例を示す。
合成CVDダイヤモンド材料を、HPHT技術を用いて合成された合成ダイヤモンド材料から区別する1つの方法は転位構造による。合成CVDダイヤモンドでは、転位は一般的に基板の当初の成長表面にほぼ垂直な方向に縫うように進む。すなわち、基板が(001)基板である場合、転位は[001]方向に平行にほぼ整列している。HPHT技術を用いて合成された合成ダイヤモンド材料では、種晶の表面(多くの場合{001}に近い表面)上に核を成す転位が典型的には<110>方向に成長する。このように2つのタイプの材料は、例えば、X線トポグラフで観察されるそれらの異なる転位構造で区別可能である。しかし、X線トポグラフを得ることは面倒な仕事であり、明らかに、確かな区別を可能にするあまり面倒でない代替法が望ましいであろう。
合成CVDダイヤモンド材料を、HPHT技術を用いて合成された合成ダイヤモンド材料から区別するためのさらなる方法は、HPHT合成材料内に合成プロセスの結果として取り込まれる金属包有物の存在による。これらの包有物には溶媒触媒金属として使用される金属、例えばFe、Co、Ni等が含まれる。包有物は1μm未満から100μm超えまでサイズが異なり得る。立体顕微鏡(例えばZeiss DV4)を用いてより大きい包有物を観察でき;一方で金属顕微鏡(例えばZeiss “Axiophot”)で透過光を用いてより小さい包有物を観察できる。
CVD及びHPHT方法で製造された合成ダイヤモンド間の確かな区別をもたらすために使用可能なさらなる方法は、フォトルミネセンス分光法(PL)である。HPHT合成材料の場合、合成プロセスで使用した溶媒金属(典型的に遷移金属)由来の原子(例えばNi、Co、Fe等)が存在することが多く、該欠陥のPLによる検出は、その材料をHPHT法で合成したことを示唆する。
ダイヤモンド内に触媒金属原子の存在に関連する欠陥が存在しないことが、本発明で製造されたダイヤモンドの、HPHT法で製造されたダイヤモンド材料を超える利点である。該欠陥は局所的にフェルミ準位を乱し、FET等の電子デバイスの製作用の基板として使う材料の適合性に影響を与えるからである。
【0035】
本発明の合成CVDダイヤモンド材料はその独特な積分吸収及びそのNs0との関連性によって同定可能である。合成CVDダイヤモンド材料の室温で取ったUV/可視吸収スペクトルを用いて積分吸収を測定する。Perkin Elmer Lambda-9分光計を用いて本明細書で述べる全ての吸収スペクトルを収集した。ダイヤモンド材料のUV/可視吸収スペクトルは360nm及び510nmに特徴的なバンドを示し得る。
以下に示すように、スペクトルに記録されたデータ(「測定スペクトル」)をデコンボリューションして(deconvolved)、Ns0に起因し得る測定吸収の割合と他の欠陥に起因し得る測定吸収の割合の情報を得る。
a. 表形式の屈折率データと、平行面をもつ(parallel-sided)プレートの反射損の標準表現を用いて反射損スペクトルを作成した。
b. 測定吸光度データから反射損スペクトルを差し引き、結果として生じるスペクトルから吸収係数スペクトルを作成する。
c. 測定スペクトルの、Ns0に起因する成分を決定するため、Ib型HPHT合成ダイヤモンドの吸収スペクトル(吸収はNs0のみに起因している)を、それを差し引いたときの測定スペクトルから270nmピークにそれが実質的に移動されるまで縮小した(scaled)。
d. 380nm(すなわち3.2618eV)〜750nm(すなわち1.6527eV)まで広がるスペクトルの可視領域を用いて、測定スペクトルについて(C)及びNs0に起因する測定スペクトルの成分について(B)、可視領域内の積分吸収を決定した。その結果、Ns0に起因する成分についての可視領域内の積分吸収と測定スペクトルについての可視領域内の積分吸収の比(B/C)を計算することができる。可視領域内における光吸収へのNs0に起因しない寄与は、値C−Bで与えられる。
e. 実際には、反射損は一般的に理論値より大きく、このことが絶対吸収係数値の決定を困難にし得る。吸収に直接関連しないさらなる損失を補正するため、下記ルーチンを使用した。より低いエネルギーに向かって、特定エネルギー未満で測定吸収がエネルギーによる有意な変動をもはや示さないのは事実だった。吸収係数のさらなる有意な変動がないときのエネルギーで吸収係数がゼロになるように吸収係数データをシフトさせた。
残りのスペクトルをさらに1/λ3に比例する成分と2つの重なりバンド(一方は360nmを中心とし、他方は510nmを中心とする)にデコンボリューションした。当業者は、これらのバンドの吸収係数を計算する方法を知っているだろう。
【0036】
本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、350nm〜750nmの可視領域内に全積分吸収を、積分吸収(eV.cm-1で)の少なくとも約35%、或いは少なくとも約40%、或いは少なくとも約45%、或いは少なくとも約50%、或いは少なくとも約55%、或いは少なくとも約60%、或いは少なくとも約65%、或いは少なくとも約70%、或いは少なくとも約75%、或いは少なくとも約80%、或いは少なくとも約85%、或いは少なくとも約90%、或いは少なくとも約92%、或いは少なくとも約94%、或いは少なくとも約96%、或いは少なくとも約98%、或いは少なくとも約99%がNs0に起因するように有し得る。
好ましくは、本発明の合成CVDダイヤモンド材料では、350nm〜750nmの積分吸収の少なくとも約85%がNs0に起因する。
積分吸収のこれらの値は、本発明の合成CVDダイヤモンド材料が、高級色を有する真性ダイヤモンドと同様であること、これはスペクトルの可視部内で吸収する、Ns0以外の欠陥の濃度が低いためであることを示唆している。このことは、本発明の合成CVDダイヤモンド材料が高品質のものであることを示している。
【0037】
本発明の合成CVDダイヤモンド材料をそのフォトルミネセンス(PL)スペクトルで特徴づけることもできる。これらは典型的に、顕微鏡体物レンズを用いてダイヤモンドサンプル表面上に焦点を合わせた約10mW〜約100mWの出力を利用する連続波レーザー源を用いた励起、及び高分解能(約0.5nmより良い)回折格子分光計による検出によって行われる。-196℃(77K)でアルゴンイオンレーザーの488nm励起を使用すると、本発明の合成CVDダイヤモンド材料のPLスペクトルは約543.0nm〜約543.2nmにピークを示し、このピークを一次ダイヤモンドラマン(この励起では521.9nm)に正規化した強度比は約0.005より大きい。発明者らは、約543.0nm〜約543.2nmのピークは炭素原子分率に対して少なくとも約0.05の原子分率の合成プロセス中の酸素の存在に関連すると考える。このピークはこのような状況でのみ観察されたからである。-196℃(77K)でアルゴンイオンレーザーの488nm励起を使用すると本発明の合成CVDダイヤモンド材料のPLスペクトルは約539.9nm〜540.1nmに二次ピークをも示す。このピークは典型的に543.0n〜543.2nmのピークの強度の1/8th〜1/12thであるので、合成環境に有意な原子分率の酸素が存在するときだけ観察されると考えられる。約543.0nm〜約543.2nmのピーク又は約539.9nm〜約540.1nmのピークのどちらかに関与する欠陥の組成及び構造はまだ解明されていない。本発明の合成CVDダイヤモンド材料で明白なこれらの2つのピークが相互に関連する可能性がある。
【0038】
本発明の合成CVDダイヤモンド材料をアルゴンイオンレーザーの514.5nm励起を用いたそのPLスペクトルによって示すこともできる。このタイプの励起を使用すると、本発明の合成CVDダイヤモンド材料のPLスペクトルは2つのフォトルミネセンスピーク、すなわち574.8〜575.1nm(約575nm)の一次ピークと636.9〜637.1nm(約637nm)の二次ピークを、637nmピークと575nmピークの積分強度比が約1.0を超え、或いは約1.2を超え、或いは約1.4を超えるように示す。理論によって拘束されることを望むものではないが、このPLスペクトルの一次及び二次ピークは、それぞれその中性荷電状態及び負の荷電状態の窒素空孔欠陥に対応する。
さらに、本発明の材料は737nmのPL線のレベルの顕著な減少を示し、これはシリコン-空孔(Si-V)欠陥に関連すると考えられる。この737nmのPL線強度の減少は、合成環境内にシリコン濃度の特異的減少が存在しない場合に起こると考えられるので、発明者らは、この減少は、まだ同定されていないシリコン取込み機構の変化に起因すると考える。
ダイヤモンド内の欠陥を特徴づけるためにフォトルミネセンス(PL)分光法を使用することは技術上周知である。PLでは、サンプルを特定波長の光子にさらす(例えばアルゴンイオンレーザーの514.5nm照射)。これが材料内の電子をより高いエネルギー準位に励起する。励起された電子が減衰してそれらの基底状態に戻って、この遷移に固有であり、かつ分光計を用いて特徴づけ得る波長を有する光子を放つ。商業的に入手可能な多数のPL分光計がある。
【0039】
本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、1cm-1の分解能を有する赤外吸収分光計を用いて(i)1332cm-1で0.1cm-1及び(ii)1344cm-1で0.05cm-1より大きいIR吸収係数を具体化し得る。これらは、単窒素濃度がそれぞれ(i)正の荷電状態で0.55ppmより大きいこと及び(ii)中性荷電状態で2.2ppmより大きいことを示唆している。1332cm-1における吸収係数と中性荷電状態の単置換窒素の間の相関関係は1cm-1の吸収係数が約5.5ppmに相当することである。1344cm-1における吸収係数と正の荷電状態の単置換窒素の間の相関関係は1cm-1の吸収係数が約44ppmに相当することである。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、体積の少なくとも約50%、或いは少なくとも約80%、或いは少なくとも約90%、或いは少なくとも約95%が単一成長セクターから形成された合成CVDダイヤモンド材料である。単一成長セクターの材料は、該成長セクターの体積の約50%より多く、或いは該成長セクターの体積の約60%より多く、或いは成長セクターの体積の約80%より多くについての平均の±10%以内のNs0レベルを有し得る。単一成長セクターから合成CVDダイヤモンド材料を形成すると、CVDダイヤモンド材料が、結晶方位が異なる表面(異なる成長セクターに対応する表面)をほとんど持たないであろうことから有利である。結晶方位が異なる表面は、窒素不純物の非常に差次的な取込みを示すので、合成CVDダイヤモンド材料は、異なる成長セクターのNs0の異なる濃度の結果生じる異なる色を有する望ましくないゾーンを示す傾向がある。従って、単一成長セクターは、より高品質の合成CVDダイヤモンド材料をもたらすであろう。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、Ns0以外の不純物を含有し得る。一実施形態では、窒素及び水素以外の個々の化学的不純物の元素濃度が約0.1ppm未満、或いは約0.05ppm未満、或いは約0.02ppm未満、或いは約0.01ppmである。本明細書では、「元素濃度」は、言及している不純物の絶対化学濃度を意味する。
置換型ホウ素の濃度は約1×1017原子/cm3以下、或いは約5×1016原子/cm3以下、或いは約1×1016原子/cm3以下であってよい。水素(水素の同位体を含め)の濃度は約1×1019原子/cm3以下、或いは約1×1018原子/cm3以下、或いは約1×1017原子/cm3以下であってよい。
【0040】
物体の知覚色は、該物体の透過率/吸光度スペクトル、照明源のスペクトル出力分布及び観察者の目の反応曲線によって決まる。本明細書で引用するCIE L*a*b*色度座標(ひいては色相角)は、後述するように導かれた。標準D65照明スペクトル及び目の標準(赤色、緑色及び青色)反応曲線を用いて(G. Wyszecki and W. S. Stiles, John Wiley, New York-London-Sydney, 1967)、平行面のあるダイヤモンドプレートのCIE L*a*b*色度座標をその透過率スペクトルから下記関係を用いて導いた(1nmのデータ間隔で350nm〜800nm)。
Sλ=波長λでの透過率
Lλ=照明のスペクトル出力分布
xλ=目の赤色反応関数
yλ=目の緑色反応関数
zλ=目の青色反応関数
X=Σλ[Sλ xλ Lλ]/Y0
Y=Σλ[Sλ yλ Lλ]/Y0
Z=Σλ[Sλ zλ Lλ]/Y0
ここで、Y0=Σλ yλ Lλ
L*=116(Y/Y0)1/3−16=明度(Y/Y0>0.008856について)
a*=500[(X/X0)1/3−(Y/Y0)1/3](X/X0>0.008856、Y/Y0>0.008856について)
b*=200[(Y/Y0)1/3−(Z/Z0)1/3](Z/Z0>0.008856について)
C*=(a*2+b*2)1/2=彩度
hab=アークタンジェント(b*/a*)=色相角
【0041】
Y/Y0、X/X0及びZ/Z0の限界外ではこれらの方程式の修正版を使用しなければならない。修正版は、Commission Internationale de L'Eclairage(Colorimetry(1986))による技術報告に与えられている。
a*及びb*座標を、a*がx軸に対応し、b*がy軸に対応するグラフにプロットするのが標準的である。正のa*及びb*値は、色相のそれぞれ赤色成分及び黄色成分に相当する。負のa*及びb*値は、それぞれ緑色成分及び青色成分に相当する。従ってグラフの正象限は黄色乃至橙色〜赤色に及ぶ色相をカバーし、原点からの距離で彩度(C*)が与えられる。
所定の吸収スペクトルを有するダイヤモンドのa*b*座標が、光路長が変わるにつれてどのように変化するかを予測することができる。これを行うため、まず測定吸光度スペクトルから反射損を差し引かなければならない。次に吸光度を異なる路長に合わせて拡大縮小してから反射損を戻し含める。次に吸光度スペクトルを透過率スペクトルに変換し、これを用いてこの新しい厚さについてCIE L*a*b*座標を導くことができる。このように、光路長への色相、彩度及び明度の依存度をモデル化して、単位長さ当たり所定の吸収特性を有するダイヤモンドの色がどのように光路長に依存するかの理解を与えることができる。
明度L*は、CIE L*a*b*色空間の三次元を形成する。特定の光吸収特性を有するダイヤモンドに合わせて光路長が変わるにつれて明度及び彩度が変化する道筋を理解することが重要である。これは、L*がy軸に沿ってプロットされ、C*がx軸に沿ってプロットされる色調図に基づいて説明可能である。上記パラグラフに記載の方法を利用して、所定の吸収係数スペクトルを有するダイヤモンドのL*C*座標がどのように光路長に依存するかを予測することもできる。
【0042】
C*(彩度)数を10個のC*単位の彩度範囲に分割し、以下のように記述用語を割り当てることができる。
0-10 弱い
10-20 弱い〜中程度
20-30 中程度
30-40 中程度〜強い
40-50 強い
50-60 強い〜非常に強い
60-70 非常に強い
70-80+ 非常に非常に強い
同様にL*数を以下のように明度範囲に分割することができる。
5-15 非常に非常に暗い
15-25 非常に暗い
25-35 暗い
35-45 中程度/暗い
45-55 中程度
55-65 明るい/中程度
65-75 明るい
75-85 非常に明るい
85-95 非常に非常に明るい
明度と彩度の以下の組合せによって定義される4つの基本的色調がある。
鮮やか:明るくかつ高彩度、淡い:明るくかつ低彩度、
深い:高彩度かつ暗い、鈍い:低彩度かつ暗い。
【0043】
1mmの透過路長について80°より高い色相角は、本発明の合成CVDダイヤモンド材料が、Ns0によって支配され、この材料には他の色中心由来の寄与がほとんどないことを示唆している。特に、本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、約1mmの厚さの、平行面のあるプレートの形の場合、CIE L*a*b*色空間の下記色パラメーターを有し得る。
約-20〜約1、或いは約-10〜約1、或いは約-5〜約1のa*
約5より大きく、約20未満、或いは約10より大きく、約20未満のb*
約0〜約30、或いは約1〜約25、或いは約2〜約30のC*(彩度);及び
約40より大きく、約100未満、或いは約50より大きく、約100未満、或いは約60より大きく、約100未満のL*(明度)。
これは、本発明の合成CVDダイヤモンド材料の品質の定量的尺度を提供する。これらの色特性は、ダイヤモンドに純粋な黄色を付与し、かつ宝飾品類の宝石用原石のような装飾目的に使用できるので有利である。
本発明のダイヤモンド材料は、1mmの透過路長について約80°以上、或いは約85°以上、或いは約90°以上、或いは約95°以上の色相角を有し得る。
本発明のCVDダイヤモンド材料は、1mmの透過路長について約180°未満の色相角を有し得る。
【0044】
Hベースプラズマ(例えばH2/CH4原料ガス混合物)を用いて製造される合成CVDダイヤモンド材料は0.5ppmより多いNs0を含む可能性があるが、これらのH2/CH4ベース原料ガスを用いて製造される該合成CVDダイヤモンド材料は、極端に高レベルの他の欠陥(材料の品質及び外観(又は色)を低下させる)を有するであろう。従って、従来技術の合成CVDダイヤモンド材料は典型的に1mmの透過路長について約80°より有意に低く、多くの場合70°未満の色相角を有し、結果として褐色に着色されるであろう。
一実施形態では、本発明の合成CVDダイヤモンド材は、約0.2mmより大きい、或いは約0.5mmより大きい、或いは約1.0mmより大きい、或いは約1.5mmより大きい、或いは約2.0mmより大きい、或いは約2.5mmより大きい、或いは約3.0mmより大きい、或いは約3.5mmより大きい、或いは約4.0mmより大きい、或いは約5.0mmより大きい、或いは約6.0mmより大きい、或いは約10mmより大きい、或いは約15mmより大きい厚さを有する自立実体の形であってよい。
一実施形態では、本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、約50mm未満;或いは約45mm未満;或いは約40mm未満;或いは約35mm未満;或いは約30mm未満;或いは約25mm未満;或いは約20mm未満の厚さを有する自立実体の形であってよい。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料製のこのような厚さの自立実体は、宝飾品類の宝石用原石のような装飾用途で使用できるので有利である。このような実体をFET等の電子デバイスで使用することもできる。
別の実施形態では、本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、異なる特徴(例えば不純物レベル、転位密度、炭素同位体比など)を有するダイヤモンドに付着された層の形であってよい。本発明のCVDダイヤモンド材料の層は、約0.5mm以下、或いは約0.2mm以下、或いは約0.1mm以下、或いは約10μm以下、或いは約1μm以下、或いは約300nm以下、或いは約100nm以下の厚さを有し得る。
別の実施形態では、本発明のCVDダイヤモンド材料は、約0.1nm以上;或いは約0.2nm以上;或いは約0.3nm以上;或いは約0.4nm以上;或いは約0.5nm以上の厚さを有する層の形であってよい。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料製のこのような層は、小型電子デバイスに使用できるので有利である。
本発明の合成CVDダイヤモンド材料は、ダブレット(doublet)の形であってよい。ダブレットは、層化セクション内で作られる合成CVDダイヤモンド材料である。下方のより大きい部分はより低品質の合成CVDダイヤモンド材料で作られ、その最上部に付着された、より高品質の合成CVDダイヤモンド材料のより小さい層がある。これらのダブレットは、宝石用原石用途に使用できるので有利である。
本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料及び/又は本発明の方法で作られた合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる宝石用原石を提供する。
本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料及び/又は本発明の方法で作られた合成CVDダイヤモンド材料の、宝石用原石としての使用を提供する。
本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料及び/又は本発明の方法で作られた合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる電子デバイスを提供する。
本発明はさらに、X線で照射するとフォトルミネセンスを発する本発明のダイヤモンド材料の層を含んでなるルミネセンス検出器を提供する。
本発明はさらに、本発明の合成CVDダイヤモンド材料及び/又は本発明の方法で作られた合成CVDダイヤモンド材料の、電子デバイスにおける使用を提供する。
【0045】
本発明は、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該材料が必要に応じて1つ以上の下記特性を有する合成CVDダイヤモンド材料を提供する:
(a) 1mmの透過路長について約80°より大きい色相角;
(b) アルゴンイオンレーザーの488nm励起を用いた-196℃(77K)でのフォトルミネセンススペクトル(約543.0〜約543.2nmにピークを示し、このピークの、一次ダイヤモンドラマン(この励起波長については521.9nm)に正規化した強度比が約1/50、好ましくは約1/100、さらに好ましくは約1/200より大きい);
(c) アルゴンイオンレーザーの514.5nm励起を用いたフォトルミネセンススペクトル(574.8〜575.1nm(約575nm)の一次ピークと636.9〜637.1nm(約637nm)の二次ピークの2つのフォトルミネセンスピークを、637nmピークと575nmピークの積分強度比が約1.0を超え、或いは約1.2を超え、或いは約1.4を超えるように示している)。
従って、本発明の一実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(a)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(b)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のなおさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(c)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のなおさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(a)及び(b)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のなおさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(a)及び(c)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(b)及び(c)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
本発明のなおさらなる実施形態では、約0.5ppmより大きい濃度でNs0を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、該吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料であって、該合成CVDダイヤモンド材料が上記特徴(a)、(b)及び(c)を有する合成CVDダイヤモンド材料が提供される。
ここで、添付図面を参照して、例示としてのみ、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】C-H-O空間についての三成分図を示す。
【図2】実施例1の「サンプル1、層2」から得たUV/可視光吸収スペクトルと、HPHT Ib型合成単結晶ダイヤモンドから得たスペクトルの比較を示す。
【図3】実施例1の「サンプル1、層2」から得たUV/可視光吸収スペクトルをその成分にデコンボリューションしたスペクトルを示す。
【図4】実施例2の「サンプル2、層1」及び「サンプル2、層2」から得たUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図5】実施例2の「サンプル2、層2」から得たUV/可視光吸収スペクトルをその成分にデコンボリューションしたスペクトルを示す。
【図6】50mWのArイオンレーザーを用いて488.2nmの波長を有する放射線で励起することによって実施例2の「サンプル2、層1」及び「サンプル2、層2」から-196℃(77K)で得たフォトルミネセンス(PL)スペクトルを示す。
【図7】50mWのArイオンレーザーを用いて514.5nmの波長を有する放射線で励起することによって実施例2の「サンプル2、層1」及び「サンプル2、層2」から-196℃(77K)で得たフォトルミネセンス(PL)スペクトルを示す。
【図8】実施例3の「サンプル3」から得たPL画像を示し、サンプルから空間的に分解した737nmのPLトレースと重なっている「サンプル3、層1」と「サンプル3、層2」の間に明瞭な区別を示している。
【図9】「サンプル4」の「サンプル4、層2」から得たUV/可視光吸収スペクトルを示す。
【図10】458nmの波長を有する放射線で励起することによって実施例5の「サンプル5、層2」及び「サンプル6、層2」から得たPLスペクトルを示す。
【図11】実施例5の「サンプル6」から得た投影X線トポグラフを示す。
【実施例】
【0047】
以下の実施例は、これら実施例の内容に限定することなく、本発明を説明することを意図している。
いくつかの実施例は、CO2/CH4/H2プロセスをCH4/Ar/H2プロセスと直接比較できるように、CVDダイヤモンド合成を通して合成環境をある程度変えたプロセスを用いて行った。
(実施例1)
実施例1は、本発明のダイヤモンド材料の沈着に適した単結晶ダイヤモンド基板の調製を示し、ダイヤモンド材料の層の沈着はCH4/H2合成プロセスを使用し、本発明の方法で作製した材料の層を引き続き沈着させる。
1) 下記工程を利用して基板を調製した:
a) 実質的に歪み及び不完全性のない石を同定するための顕微鏡調査及び複屈折イメージングに基づいて材料(Ia型天然石及びIb型HPHT石)の在庫から単結晶ダイヤモンドを選択した。
b) 選択したダイヤモンドからレーザー切断、機械的粗研磨及び研磨工程を含むプロセスを利用して、約4mm×4mmの横方向寸法、約500μmの厚さ及び1nmの表面Raを有する平行表面プレート(全ての面が{100}表面の5°以内である)を調製した。加工処理によって導入される欠陥レベルを決定するための暴露プラズマエッチング方法を用いて利用プロセスを前もって最適化して基板欠陥を最小限にした。
上記工程によって作製される基板は、典型的に、主に材料品質によって決まり、かつ約5×103欠陥/mm2未満、或いは約102欠陥/mm2未満である、暴露エッチング後に測定可能な欠陥密度を有する。
2) ダイヤモンド基板をタングステンキャリア上にAu-Ta高温ダイヤモンドろう付けを利用してマウントした。これを896MHzのマイクロ波プラズマCVDダイヤモンド反応器に導入した。
3) 反応器を起動し、基板を以下から成る2段階の前成長エッチングシークエンスに供した:
(a) 約236×102Pa(約180Torr)の圧力及び約716℃の基板温度で40/20/3000sccmのO2/Ar/H2のガス流を用いて約30分の持続時間行うその場酸素プラズマエッチング;
(b) その後中断せずにガス流からO2を除去しながら約30の持続時間行う水素エッチング。
4) エッチングした基板上にガス流にCH4を導入して140/20/3000sccmのCH4/Ar/H2を含むガス流を約236×102Pa(約180Torr)の圧力で与えることによって、CVDダイヤモンドの第1の層(「サンプル1、層1」)を沈着させた。原料ガスはさらに1.4ppmの原子分率の窒素を含んだ。基板温度は840℃だった。サンプル1の層1は、技術上周知かつ完全に特徴づけられたタイプのプロセスで作製されたので、サンプル1の層2と比較できるその場標準をもたらす。発明者らは、このダイヤモンド材料の光学特性が合成実験間で非常に一貫性があり、かつ再現できることを見い出した。
5) 下記条件:CO2/CH4/H2の290/250/230sccmのガス流、0.21:0.22:0.57のCf:Of:Hf比、0.95:1のCf:Of比、184×102Pa(138Torr)の圧力、18ppmの原子窒素当量で存在する窒素、及び830℃の基板温度を用いて第2の層「サンプル1、層2」を調製した。原料ガス中0.18の原子分率の水素をH2として添加し、H2以外の原料から0.39の原子分率の水素を添加する。0.57のHf値はPアーク=170(Hf+0.25)=139TorrのPアーク値を与える。
サンプルの表面を十分に処理してダイヤモンド材料の光学的特徴づけを容易にした。
光路が完全に層1又は層2内にあるようにサンプルの研磨側面の1つを照射することによってUV/可視吸収スペクトルを記録した。吸収スペクトルを得るために用いた路長は層のほぼ横方向寸法だった。
光学的特徴づけの前に、サンプルを重水素ランプ(15ワット電力消費)に、電球のフィラメントからサンプルを約80mm離して10分間さらした。
テキストの本文に記載のように実験吸収スペクトルを得た。図2は、サンプル1の層2のUV/可視吸収と、HPHT Ib型合成ダイヤモンドから得たスペクトルとの比較を示す。
次に、本明細書の他のところに記載したように、実験吸収スペクトルをデコンボリューションしてNs0の濃度を決定した。図3は、測定スペクトル及びサンプル1の層2のIb型成分を示す。
測定光吸収スペクトルを可視波長範囲(すなわち、3.2168eVに等価な380nm〜1.6527eVに等価な750nm)にわたって積分してeV.cm-1の単位で値(C)を得た。Ns0に起因する吸収を同波長にわたってeV.cm-1で同様に決定して値(B)を得た。次に比B/C及び差C−Bを計算して材料の特徴づけのために使用する。
【0048】

【0049】
光学的分析の結果は、「サンプル1、層2」について、Ns0に起因する範囲350nm〜750nmにわたる光吸収の割合が0.35又は35%より大きいことを示す。
さらに、360nm及び510nmバンドの吸収係数をそれぞれのバンドのピークでデコンボリューションしたスペクトルから計測した。
【0050】

【0051】
本発明の詳細な説明に記載し、かつ下表に示す方法で1mmの光路長についてCIE L*a*b*座標を導いた。
【0052】

【0053】
本発明の方法で作製した「サンプル1、層2」は、Ns0に起因する、可視スペクトル内の少なくとも35%の光吸収に加えて1mmの光路長について80°より大きい色相角を有する。
50mWのArイオンレーザーからの514.5nmの光線を用いて-196℃(77K)で励起してサンプル1の層1及びサンプル1の層2のフォトルミネセンス(PL)スペクトルを記録した。637nm及び575nmのピークの強度比は、層1及び層2についてそれぞれ0.8及び1.4だった。
発明者らは、637nmのPL線と575nmのPL線の比の値が高いほど、純粋なIb型成分の当該値に近いことを見い出した。N及びNV中心のみを含有するダイヤモンドでは、NV-:NV0の比(すなわち637nm及び575nm線の強度比637nm:575nm)は、下記式によって大きく支配されると考えられる。
N+NV(575nm)→N++NV-(637nm)
しかしながら、360nm及び510nm周辺の吸収由来の有意な寄与を含むことが分かっているダイヤモンド材料では、この電子遷移について別のトラップが競合する。「X」を用いてこのトラップを示すと、下記式が認められる。
N+X→N++X-
式中、N+は、1332cm-1の1フォノンエネルギーにピークのある吸収バンドによって特徴づけが可能である。
この競合する電子トラップ機構の結果、637nm:575nmの強度比が減少することとなる。
【0054】
(実施例2)
実施例1の方法の工程1)〜4)に従った。
約190×102Pa(約142Torr)の圧力で約10分間にわたって投入ガス混合物を徐々に375/430/290sccmのCO2/CH4/H2に変えることによって、CVDダイヤモンドの第2の層(「サンプル2、層2」)を第1の層の上に沈着させた。原料ガスはさらに20ppmの原子Nを含んだ。基板温度は840℃だった。サンプル2の層2の合成条件は、0.21:0.19:0.60のCf:Of:Hf原子分率及び1.1:1のCf:Of比を有する。原料ガス中0.15の原子分率の水素をH2として添加し、H2以外の原料から0.45の原子分率の水素を添加する。0.60のHf値は、144.5TorrのPアーク値を与えるので、操作圧力はPアークより約2.5Torr低い。
成長時間が完了したら、基板を反応器から取り出し、基板からCVDダイヤモンド層を除去し、CVDダイヤモンド層の最上部と底部の表面及び2つの対向側面を層の光学的特徴づけのために十分研磨した。最終製品は全厚が2.4mm(層1と層2にほぼ均等に分けられる)、横方向寸法が約3.8mm×3.8mmのCVDダイヤモンド層だった。
光学的特徴づけの前に、サンプルを重水素ランプ(15ワットの電力消費)に電球のフィラメントからサンプルを約80mm離して10分間さらした。
サンプルの研磨側面の1つを光路が完全に層1又は層2内にあるように照射することによってUV/可視吸収スペクトルを記録した。従って、吸収スペクトルを得るために用いた路長は、層のほぼ横方向寸法であった。
サンプル2の層1及びサンプル2の層2についての光吸収スペクトルを図4に示す。サンプル2の層2のスペクトルを以下のように分析した。
測定スペクトルからIb型成分スペクトルにデコンボリューションした(図5)。
測定光吸収スペクトルを可視波長範囲(すなわち、3.2168eVに等価な380nm〜1.6527eVに等価な750nm)にわたって積分してeV.cm-1の単位で値(C)を得た。Ns0に起因する吸収を同波長にわたってeV.cm-1で同様に決定した(B)。次に比B/C及び差C−Bを計算して材料の特徴づけに使用する。サンプル2の層2の値を以下に示す。
【0055】

【0056】
「サンプル2、層2」では、Ns0に起因する範囲380nm〜750nmにわたる吸収の割合は0.45又は45%である。
さらに、本明細書の他のところに記載したように、スペクトルのさらなるデコンボリューション(deconvolution)によって360nm及び510nmバンドの吸収係数を決定した。
【0057】

【0058】
本発明の詳細な説明に記載した方法で、吸収スペクトルからCIE L*a*b*座標を導いた。下表に示す値は、1.0mmの光路長についてのこれらの値から計算した当該値である。
【0059】

【0060】
50mWのArイオンレーザーからの488.2nmの光線を用いて-196℃(77K)で記録されたサンプル2の層1及びサンプル2の層2のPLスペクトルを図6に示す。図6中、521.9nmの一次ラマン線下の積分領域を釣合いのとれるようにすることによってスペクトルを正規化した。サンプル1の層2のPLスペクトルは543.1nmにピークを示し、これはサンプル1の層1では存在せず、合成プロセスでの大分率の酸素の使用と関連すると考えられる。
50mWのArイオンレーザーからの514.5nmの光線を用いて-196℃(77K)で記録されたサンプル2の層1及びサンプル2の層2のPLスペクトルを図7に示す。637nmと575nmのピークの比は、サンプル2の層1については0.7であり、サンプル2の層2については1.1である。サンプル1の層2のこの比の値がサンプル2の層1と比較して高いことは、サンプル2の層2が材料中により高濃度のNs0を有することを示唆している。
【0061】
(実施例3)
工程5で以下の条件を用いて「サンプル3、層2」を形成したことを除き、実施例1で述べたのと同じシークエンスの工程を利用してサンプル3を調製した:CO2/CH4/H2について501/604/500sccmのガス流;0.20:0.18:0.62のCf:Of:Hf比;1.11:1のCf:Of比;190×102Pa(約143Torr)の圧力、15ppmの原子窒素当量として存在する窒素、及び860℃の基板温度。0.62の水素原子分率のうち0.18はH2として、0.44は他の形(この場合はCH4として)添加した。0.62のHf値は、148TorrのPアーク値を与えるので、操作圧力は、Pアークより5Torr低い。
このサンプルでは、シリコン-空孔欠陥と関係すると考えられる737nmのPL線の強度を用いて各層に取り込まれたシリコンの量を特徴づけた。図8は、737nm線についての強度プロットと重ね撮りした断面(画像の左側に基板)のPL画像(He-Neレーザーから633nm照射で励起した)を示す。この実施例は、本発明の方法がH2/CH4化学に比べて材料へのSiの取込みを抑制することを実証する。737nm線のピーク強度は、基板と第1のダイヤモンド層との界面の近くにあり、典型的にダイヤモンドの成長の第1段階中の例えば成長環境内におけるシリコン源の露出のためのより高い汚染物レベルと関係がある。
「サンプル3、層1」及び「サンプル3、層2」について、50mWのArイオンレーザーからの514.5nmの光線を用いて-196℃(77K)で得たPLスペクトルの分析により、0.5及び1.1のそれぞれ637nm及び575nmのピークの強度比を得た。
【0062】
(実施例4)
この比較例は、H2分子の形で水素原子を供給しないことが合成プロセスに及ぼす影響を実証する。
実施例1で述べた手順を工程5の条件に以下の変更を加えて繰り返して「サンプル4、層2」を形成した:ガス組成及びプロセス(圧力及び出力)ウィンドウに勾配のある変化で中断せずに行うCO2/CH4ベースプラズマ成長プロセスの合成条件。最終圧力(H2添加がないため制御上の問題点によって制限される)を130×102Pa(約97Torr)に固定し、1.07:1のCf:Of比、及び0.246:0.229:0.525のCf:Of:Hf比とした。ガス流は375/430sccmのCO2/CH4だった。原料ガスはさらに20ppmの原子Nを含んだ。基板温度は810℃だった。H2分子の形で添加されたHfの割合はゼロだった。サンプル4の層2の合成用の原料ガス中のHf分率では、Pアークの値は132Torrと予想されるであろう;これは約97Torrの操作圧力よりかなり高く、発明者らは原料ガス混合物にH2として添加されたHが存在しないためであると考える。
サンプル4の層2のUV/可視光吸収スペクトルを図9に示す。原料ガス混合物にH2として水素を添加することによって可能になる、より高圧で成長した前の実施例とは対照的に、サンプル4の層2から得たスペクトルは、Ib型成分に加えて多量のスペクトルを示す。
前述したように、サンプル4の層2の光学特性をデコンボリューションして、Ns0の濃度を決定した。色相角を測定し、1mmの光路長についての色相角に換算した。
【0063】

【0064】

【0065】
0.14の比B/Cは、Ns0に起因する可視領域内の光吸収の割合がたった0.14又は14%であることを意味し、本発明の方法で調製される当該サンプルよりずっと少なく、H2の重要性及び高圧での操作が望ましいことを実証している。
637nm及び575nmのピーク比は、サンプル4の層1では0.7、サンプル4の層2では1.0である。
さらに、この明細書の他のところに記載したように、測定スペクトルのさらなるデコンボリューションによって360nm及び510nmバンドについて吸収係数を決定した。
【0066】

【0067】
(実施例5)
この実施例は、原料ガス中のO、C及びHの原子分率が同一であるという条件で、作製されるダイヤモンド材料の光学特性が実質的に同様であることを実証する。
実施例1の工程1)〜3)で用いた方法論を繰り返して、「サンプル5、層2」及び「サンプル6、層2」と称する2つのさらなるサンプルを作製した。サンプル5の層2及びサンプル6の層2の開始ガス組成を下表に要約する(sccmのガス流量)。表は気相内のC、H及びOの分率をも示す。
【0068】

【0069】
プラズマ中のC、H及びOの原子分率が同一になるように開始ガスを選択した。Cf:Hf比は1.11:1である。両サンプルで、170×102Pa(約127Torr)のガス圧力にて14ppmの当量原子窒素をも含む原料ガスで成長した厚い単結晶ダイヤモンド体が生成された(サンプル5では3.7mm、サンプル6では3.6mm)。この場合Hf=0.62についてのPアークは148Torrである。
合成プロセスの完了後、サンプル5及びサンプル6を光学的に特徴づけできるように加工処理した。UV-可視吸収スペクトルを得た。この明細書の他のところに記載したように、光吸収スペクトルをデコンボリューションしてNs0の濃度を決定した。360nm及び510nmバンドについての吸収係数をそれぞれのバンドのピークで測定した。重要なパラメーターを下表に示す。
【0070】

【0071】
光吸収スペクトルのデコンボリューション及び吸収係数は、異なるガス混合物が各成分に起因する吸収については本質的に同じ結果を与えることを示す。
Arイオンレーザーからの514.5nm励起を用いてサンプル5及びサンプル6からPLスペクトルを得た。637nmと575nmのピーク比は、サンプル5では0.94、サンプル6では0.84である。
458nm励起を用いてサンプル5の層2及びサンプル6の層2から得たPLスペクトルを図10に示す。スペクトルのフィーチャーの特徴及び相対強度の両者は非常に類似しており;研究した他の励起波長(325nm、488nm、515nm及び660nm)で同様の結果が見られた。
サンプル6の投影X線トポグラフを図11に示す。X線のコントラストがほとんどなく、高い結晶品質及び低い転位密度を示唆している。この材料特性が、該材料を一部の光学的及び機械的用途に適したものにする。
【0072】
(実施例6)
この実施例では、光路長の関数としてのCIELABパラメーターの変動を示す。これらの結果は、本明細書で記載かつ言及したモデルから導かれる。
この場合、実施例1の層2に従ってサンプルを作製し、CIE L*a*b*座標を計算するために必要な吸収スペクトルは1.37mm厚のサンプルから得た。
【0073】

【0074】
特に、計算した全ての厚さについて色相角が80°より大きいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成環境内にて基板上でダイヤモンド材料を合成するための化学蒸着(CVD)方法であって、以下の工程:
前記基板を供給する工程;
原料ガスを供給する工程;
前記原料ガスを溶解させる工程;及び
前記基板上でホモエピタキシャルダイヤモンド合成させる工程
を含み;
ここで、前記合成環境は約0.4ppm〜約50ppmの原子濃度で窒素を含み;かつ
前記原料ガスは以下:
a)約0.40〜約0.75の水素原子分率Hf
b)約0.15〜約0.30の炭素原子分率Cf
c)約0.13〜約0.40の酸素原子分率Of
を含み;
ここで、Hf+Cf+Of=1;
前記炭素原子分率と酸素原子分率の比Cf:Ofは、約0.45:1<Cf:Of<約1.25:1の比を満たし;
前記原料ガスは、存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の原子分率が0.05〜0.40で水素分子H2として添加された水素原子を含み;かつ
前記原子分率Hf、Cf及びOfは、前記原料ガス中に存在する水素、酸素及び炭素原子の総数の分率である、
前記方法。
【請求項2】
前記プロセスをP下限Torrより大きい圧力で行い、ここで、P下限=Pアーク−YかつPアーク=170(Hf+0.25)+Xであり、Y=50TorrかつXは約20〜約-50であり、Pアークは、前記プロセス内で単極アーク放電が始まる圧力である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記原料ガスをマイクロ波で溶解させる、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロ波の周波数が約800MHz〜約1000MHzである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基板を約750℃〜約1000℃の温度で維持する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で製造された合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項7】
約0.5ppmより大きい濃度で単置換窒素(Ns0)を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、前記吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する、請求項6に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項8】
約0.5ppmより大きい濃度で単置換窒素(Ns0)を含み、かつ350nm〜750nmの可視範囲内に全積分吸収を、前記吸収の少なくとも約35%がNs0に起因するように有する合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項9】
1mmの透過路長について約80°より大きい色相角を有する、請求項7又は8に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項10】
前記材料が、アルゴンイオンレーザーの488nm励起を用いた-196℃(77K)でのフォトルミネセンススペクトルを有し、このスペクトルは約543.0〜約543.2nmにピークを示し、このピークの、一次ダイヤモンドラマン(この励起波長では521.9nm)に正規化した強度比が約0.005より大きい、請求項6〜9のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項11】
UV-可視吸収分光法を利用して270nmのピークを用いて測定した場合、Ns0の濃度が約2.5ppmより大きい、請求項6〜10のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項12】
窒素と水素以外の個々の化学的不純物の元素濃度が0.1ppm未満である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項13】
前記合成CVDダイヤモンド材料の体積の少なくとも約50%が単一成長セクターから形成されている、請求項6〜12のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項14】
色パラメーターa*が-20〜1、b*が5〜20、C*が0〜30かつL*が40〜100である、請求項6〜13のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項15】
前記合成CVDダイヤモンド材料が、少なくとも約0.2mmの厚さを有する自立実体の形をしている、請求項6〜14のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項16】
前記合成CVDダイヤモンド材料が、約0.5mm以下の厚さを有する層の形をしている、請求項6〜14のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項17】
前記合成CVDダイヤモンド材料がダブレットの形をしている、請求項6〜15のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料。
【請求項18】
請求項6〜16のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる宝石用原石。
【請求項19】
請求項6〜15のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料を含んでなる電子デバイス。
【請求項20】
請求項6〜16のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料の宝石用原石としての使用。
【請求項21】
請求項6〜15のいずれか1項に記載の合成CVDダイヤモンド材料の電子デバイスとしての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−514959(P2013−514959A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545239(P2012−545239)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069828
【国際公開番号】WO2011/076643
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(503458043)エレメント シックス リミテッド (45)
【Fターム(参考)】