説明

含酸素フッ素化合物の供給方法およびプラズマ処理方法

【課題】
室温で容易に重合する性質を有する含酸素フッ素化合物、特にテトラフルオロフランを、そのエッチング性能等を実質的に低下させることなく安定にプラズマ処理装置へ供給する方法、及びそのようにして供給された含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】
式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給することを特徴とする含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法、この供給方法により、含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給し、該装置内で、前記含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法、このプラズマ処理方法を用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライエッチングなどにおけるプラズマ原料としての含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造に用いられるドライエッチングガスや成膜用ガスとして、四フッ化炭素、オクタフルオロシクロブタンなどの飽和フルオロカーボン類が広く知られている。しかし、これらのガスは大気中の寿命が数千年以上と極めて長く、地球温暖化への悪影響が指摘されており、その使用において制限が加わろうとしている。そのため、その代替物として、種々の新しい含フッ素化合物が提案されている。
【0003】
例えば、分子中に炭素−炭素二重結合、あるいは三重結合を有する含フッ素化合物、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン(特許文献1)、ヘキサフルオロ−2−ブチン(特許文献1)などのフッ素化合物;ヘキサフルオロプロペンオキシド(特許文献2);トリフルオロメチル−トリフルオロビニルエーテル(特許文献3)などの含酸素フッ素化合物;を、シリコン酸化物に代表されるシリコン化合物層のドライエッチングに適用する例が報告されている。
【0004】
しかしながら、近年における半導体装置の高集積化および高性能化の進展に伴い、半導体装置の製造に用いられるドライエッチングガスや成膜用ガスに対する技術的要求がますます厳しくなってきており、よりエッチング性能に優れるドライエッチングガス、およびより高品質で密着性に優れた膜を成膜できる成膜用ガスの開発が要望されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−275568号公報
【特許文献2】WO02/39494号パンフレット
【特許文献3】特開平10−27781号公報
【特許文献4】特開平11−140441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、先の特願2005−308363号において、式:CO(xは4又は5を表し、yはy/xが1〜1.5を満たす整数を表す。)で示される含酸素フッ素化合物が優れたエッチング性能を有すること、および、かかる含酸素フッ素化合物の中でも、低F/C比を有する含酸素フッ素化合物が特に良好な加工性を付与できることを開示している。
【0007】
低いF/C比を有する含酸素フッ素化合物としては、テトラフルオロフランが代表例であるが、文献(Journal of Chemical Society(C),2146頁,1970年、以下、「文献A」という。)において指摘されているように、この化合物は熱的安定性に乏しく、室温で容易に重合して重合体を形成する性質を有する。そこで、テトラフルオロフランの重合体化のエッチング性能への影響を調べたところ、該性能が低下し得ることが明らかとなった。
【0008】
従って、本発明は、室温で容易に重合する性質を有する含酸素フッ素化合物、特にテトラフルオロフランを、そのエッチング性能等を実質的に低下させることなく安定にプラズマ処理装置へ供給する方法、そのようにして供給された含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理するプラズマ処理方法、および、該プラズマ処理方法を用いる半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、まず、テトラフルオロフランをプラズマ処理装置へ供給する際、テトラフルオロフランの重合防止を目的に重合禁止剤などの化合物の添加を試みた。しかしながら、重合体化を充分に抑制することはできず、エッチング性能等が低下した。そこで、さらに種々の方法について鋭意検討した結果、テトラフルオロフランの重合体を熱分解することにより該化合物のガス状単量体が容易に得られること、及びそのようにして得られたガス状単量体をプラズマ処理装置へ供給すれば優れたエッチング性能、成膜性能およびアッシング性能が発揮されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(4)に記載の、含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法が提供される。
(1)式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給することを特徴とする含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法。
(2)前記重合体を熱分解して得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する際に、前記含酸素フッ素化合物の濃度を0.0001〜0.02モル/リットルにして供給することを特徴とする(1)に記載の供給方法。
(3)含酸素フッ素化合物がテトラフルオロフランであることを特徴とする(1)または(2)に記載の供給方法。
(4)プラズマ処理装置が、プラズマエッチング装置またはプラズマCVD法による成膜装置であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の供給方法。
【0011】
本発明の第2によれば、下記(5)〜(8)に記載のプラズマ処理方法が提供される。(5)式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給し、該装置内で、前記含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。
(6)前記重合体を熱分解して得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する際に、前記含酸素フッ素化合物の濃度を0.0001〜0.02モル/リットルにして供給することを特徴とする(5)に記載のプラズマ処理方法。
(7)含酸素フッ素化合物がテトラフルオロフランであることを特徴とする(5)または(6)に記載のプラズマ処理方法。
(8)プラズマ処理装置が、プラズマエッチング装置またはプラズマCVD法による成膜装置であることを特徴とする(5)〜(7)のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【0012】
本発明の第3によれば、下記(9)に記載の半導体装置の製造方法が提供される。
(9)前記(5)〜(8)いずれかに記載のプラズマ処理方法を用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、室温で容易に重合する性質を有する含酸素フッ素化合物を、そのエッチング性能等を実質的に低下させることなく安定にプラズマ処理装置へ供給することが可能となり、該装置内において、被処理物に対し所望のプラズマ処理を効率よく実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)含酸素フッ素化合物の供給方法
本発明の含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法は、式:COで表される繰り返し単位からなる重合体(以下、単に「重合体」ということがある。)を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物(以下、単に「含酸素フッ素化合物」ということがある。)を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給することを特徴とする。
【0015】
(1)重合体
本発明に用いる重合体としては、式:COで表される繰り返し単位からなり、熱分解することにより、式:COで表される含酸素フッ素化合物がガス状単量体として得られるものであれば、特に制限されない。本発明に用いる重合体の具体例としては、テトラフルオロフランの重合体;テトラフルオロシクロブテノンの重合体;テトラフルオロ−1−ブチン−3−オンの重合体;テトラフルオロフラン、テトラフルオロシクロブテノンおよびテトラフルオロ−1−ブチン−3−オンからなる群より選択される少なくとも2種の化合物の重合体などが挙げられる。中でも、テトラフルオロフランの重合体が特に好ましい。
これらの重合体はいずれも公知の方法(例えば、前記文献Aに記載の方法)を参照して適宜製造することができる。例えば、テトラフルオロフランの場合、文献Aには、テトラフルオロフランの重合体の推定構造として、フラン環の2位、及び5位で結合した重合体の構造が記されている。
【0016】
【化1】

【0017】
(2)重合体の熱分解
本発明においては、前記重合体を熱分解して、ガス状単量体として含酸素フッ素化合物を得る。ここで、重合体の熱分解とは、重合体を所定温度に加熱することにより、重合体の少なくとも一部を、その構成単位である単量体に分解することをいう。重合体の熱分解により、所望のプラズマ処理が可能になる量の含酸素フッ素化合物のガス状単量体が得られればよく、熱分解の程度には特に制限はない。
【0018】
重合体の熱分解は、例えば、前記重合体を反応容器に入れ、該反応容器を電気炉内に置き、電気炉内の温度を上昇させて重合体を加熱することで容易に行うことができる。
【0019】
用いる反応容器としては特に限定されないが、重合体を容器内に充填する必要があるため、上部にフランジを付した形態の容器が好ましい。例えば、有機金属気相成長(MOCVD)用途で使用されているような反応容器(例えば、ステンレス製の反応容器)が挙げられる。また、熱分解により生じたガス状単量体をプラズマ処理装置に供給するため、通常、耐熱性バルブが付された反応容器を用いる。
【0020】
電気炉内の温度を上昇させる方式としては、特に限定されず、ヒーター式、熱媒式、電磁式、誘電式などが適宜採用できる。
【0021】
重合体の加熱温度は、前記重合体が熱分解されて、ガス状単量体として含酸素フッ素化合物が生成する温度であればよい。加熱温度は、通常350〜600℃、好ましくは400〜500℃である。加熱は所望の温度まで連続的に行っても、断続的に行ってもよい。加熱時間や加熱時の圧力は、含酸素フッ素化合物の生成量や重合体の熱分解効率に応じて適宜調整すればよい。通常、常温(25℃)、常圧(0.1MPa)の条件下に重合体を加熱すればよい。
【0022】
なお、熱分解による重合体からの含酸素フッ素化合物の生成は、以下のようにして確認することができる。
前記重合体をバルブを付した反応容器に入れ、該反応容器を電気炉内に置き、バルブアウトを、ドライアイス/アセトン浴に浸すなどの方法により冷却したガラス製トラップに接続する。
次いで、電気炉内の温度を上昇させて反応容器を徐々に加熱して、重合体の熱分解を行うと同時に、熱分解により発生するガスをガラス製トラップ内に液状物として捕集する。
ガラス製トラップ内に捕集された液状物が式:COで表される含酸素フッ素化合物であること、及びその生成量は、ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC−MS分析)および核磁気共鳴分光分析(NMR分析)により適宜確認することができる。
【0023】
得られる式:COで表される含酸素フッ素化合物は、その構成原子であるフッ素原子および炭素原子の数の比F/Cが1であり、選択性良くエッチング加工できるドライエッチング用ガス、あるいは、強固な膜が形成できる成膜用ガスとして有用である。
【0024】
例えば、テトラフルオロフランの重合体の熱分解によりガス状単量体としてテトラフルオロフランが、テトラフルオロシクロブテノンの重合体の熱分解によりガス状単量体としてテトラフルオロシクロブテノンが、テトラフルオロ−1−ブチン−3−オンの重合体の熱分解によりガス状単量体としてテトラフルオロ−1−ブチン−3−オンが、テトラフルオロフラン、テトラフルオロシクロブテノンおよびテトラフルオロ−1−ブチン−3−オンからなる群より選択される少なくとも2種の化合物の重合体の熱分解によりガス状単量体として各構成単量体成分が、それぞれ得られる。そのようにして得られるガス状単量体としての含酸素フッ素化合物としてはテトラフルオロフランが特に好ましい。
【0025】
テトラフルオロフランの構造式を式(i)に、テトラフルオロシクロブテノンの構造式を式(ii)に、テトラフルオロ−1−ブチン−3−オンの構造式を式(iii)に、それぞれ示す。
【0026】
【化2】

【0027】
(3)含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給
本発明においては、前記重合体を熱分解して得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置内へ供給する。
含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給するに際しては、必要に応じて、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの不活性ガスを適当な割合で混合しても良い。また、プラズマ処理装置がプラズマドライエッチング装置である場合には、更に酸素、オゾン、二酸化炭素、一酸化炭素のような含酸素ガスを混合しても構わない。
【0028】
本発明においては、含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する際において、前記含酸素フッ素化合物の濃度を、好ましくは0.0001〜0.02モル/リットル、より好ましくは0.001〜0.02モル/リットル、さらに好ましくは0.01〜0.02モル/リットルにして供給する。ここで、含酸素フッ素化合物の濃度とは、重合体の分解に使用した反応容器の容積に占める含酸素フッ素化合物の量を表す。
【0029】
含酸素フッ素化合物の濃度が上記範囲内にあれば、熱分解により得られた含酸素フッ素化合物が、熱分解時の余熱により再重合するのを効果的に抑止でき、プラズマ処理装置への該化合物の供給量を安定に維持して、所望のプラズマ処理を達成することができる。
【0030】
反応容器内における含酸素フッ素化合物の濃度が所定値となるように調整する方法としては、(α)熱分解により発生する含酸素フッ素化合物の濃度が所定値となるように、反応容器内に入れる重合体の仕込み量を調節する方法、 (β)反応容器内にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガスを充填して、熱分解により発生する含酸素フッ素化合物を不活性ガスで希釈する方法、並びに、(γ)前記(α)及び(β)の方法を組み合わせた方法、などが挙げられる。
【0031】
含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する方法としては、特に限定はなく、公知の方法、例えば、マスフローコントローラを用いてプラズマ処理装置へ供給すればよい。含酸素フッ素化合物の供給速度は、特に限定されるものではなく、所望のプラズマ処理が行われるよう適宜調整すればよい。
【0032】
本発明に用いるプラズマ処理装置としては、例えば、プラズマエッチング装置、プラズマCVD法による成膜装置、およびプラズマアッシング装置が挙げられる。
プラズマ処理装置のプラズマの発生様式については特に限定されない。例えば、ヘリコン波方式、高周波誘電方式、平行平板方式、マグネトロン方式、マイクロ波方式などが挙げられる。なかでも、高密度領域のプラズマ発生が容易であることから、ヘリコン波方式、高周波誘導方式、又はマイクロ波方式のプラズマ処理装置が好適である。
【0033】
本発明の供給方法によれば、室温付近において重合し易い含酸素フッ素化合物の重合体化を抑制して、プラズマ処理装置内へガスとして安定に供給することが可能となり、該装置内において、所望のプラズマ処理を効率よく実施することができる。
【0034】
また、熱分解により得られる含酸素フッ素化合物の濃度を所定濃度に調整して供給することにより、重合体の熱分解時の余熱に起因する再重合を効果的に防止して、含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置へのより安定した供給が可能となり、所望のプラズマ処理をより効率よく実施することができる。
【0035】
2)含酸素フッ素化合物を用いるプラズマ処理方法
本発明のプラズマ処理方法は、式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給し、該装置内で、前記含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理することを特徴とする。ここで、被処理物をプラズマ処理するとは、具体的には、プラズマ雰囲気中で被処理物に対し、エッチング、成膜およびアッシングからなる群より選択される少なくとも1つの処理を行うことをいう。
【0036】
前記重合体を熱分解して所定の含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する方法は、上述した本発明の含酸素フッ素化合物の供給方法に従って行えばよい。
【0037】
本発明のプラズマ処理方法としては、例えば、(a)プラズマ処理装置へ供給される前記含酸素フッ素化合物をドライエッチングガスとして用いるプラズマエッチング方法、(b)プラズマ処理装置へ供給される前記含酸素フッ素化合物を成膜用ガスとして用いるプラズマCVD法による成膜方法、(c)プラズマ処理装置へ供給される前記含酸素フッ素化合物をプラズマ放電により活性化させて、例えば、ドライエッチング装置やCVD装置のチャンバー内にある汚染物質等を灰化除去するアッシング方法が挙げられる。
【0038】
(a)プラズマエッチング方法
本明細書においてプラズマエッチングとは、ガス状の含酸素フッ素化合物分子がプラズマ化した雰囲気中で被処理物(被エッチング基体)上に微細パターンを食刻する操作をいう。
【0039】
被エッチング基体としては、例えばガラス基板、シリコン単結晶ウエハー、ガリウム−ヒ素などの基板上に被エッチング材料の薄膜層を備えたものが挙げられる。
【0040】
被エッチング材料の好適な具体例としては、酸化シリコン膜;TEOS膜、BPSG膜、PSG膜、およびSOG膜;HSQ(Hydrogen silsesquioxane)膜;MSQ(Methyl silsesquioxane)膜;PCB膜;SiOC膜;SiOF膜;あるいは上記膜のポーラス状膜があるが、酸化シリコン膜が特に好ましい。
【0041】
プラズマエッチングにおいては、エッチングの際に照射するプラズマとして、通常1010イオン/cm以上の高密度領域のものを発生せしめる。特に、1010〜1013イオン/cmのプラズマ密度とすることにより、高いエッチング速度および高選択性を確保することができ、より微細なパターンを形成することができる。
【0042】
プラズマエッチング装置としては、前記本発明の供給方法の項で挙げたプラズマ処理装置と同様のものが使用できる。
【0043】
プラズマエッチング時の圧力は、特別な範囲を選択する必要はなく、一般的には、真空に脱気したエッチング装置内に、本発明のプラズマ反応用ガスを、エッチングチャンバー内が好ましくは0.0013〜1.3kPa、特に好ましくは0.0013〜0.13kPaになるように導入する。
【0044】
プラズマエッチング時における被エッチング基体の到達温度は、好ましくは0〜300℃、より好ましくは60〜250℃、特に好ましくは80〜200℃の範囲である。
基体の温度は冷却などにより制御しても、制御しなくてもよい。エッチング処理の時間は、一般的には10秒間〜10分間であるが、本発明においては、高速エッチングが可能であり、10秒間〜3分間として生産性を向上させることが好ましい。
【0045】
前記含酸素フッ素化合物をエッチングガスとして使用する場合、プラズマ中で発生するエッチング種の濃度制御やイオンエネルギーの制御のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンおよびクリプトンからなる群から選択される不活性ガスが添加されていてもよい。これらの不活性ガスは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
不活性ガスの添加量としては、含酸素フッ素化合物に対する不活性ガスの合計量が、容量比(不活性ガスの合計量/含酸素フッ素化合物量)で2〜200となることが好ましく、5〜150となることが特に好ましい。
【0047】
また、エッチングストップを緩和するためにOやOが添加されていてもよい。OやOを添加する場合、含酸素フッ素化合物に対するOおよびOの合計量が、容量比(OおよびOの合計量/含酸素フッ素化合物量)で0.1〜50が好ましく、0.5〜30がより好ましい。
【0048】
さらに、前記含酸素フッ素化合物のガスには、レジストやポリシリコンなどのマスクに対する選択性を向上させるために、COおよびCOのいずれか1種以上を添加してもよい。前記含酸素フッ素化合物に対するCOおよびCOの合計量は、容量比(COおよびCOの合計量/含酸素フッ素化合物量)で5〜150が好ましく、10〜100が特に好ましい。
【0049】
(b)プラズマCVD法による成膜方法
本明細書においてプラズマCVD法は、プラズマ放電により前記含酸素フッ素化合物を活性化ならびに重合させ、各種の被処理物表面に薄いフルオロカーボン膜を形成せしめる技術をいう。
【0050】
フルオロカーボン膜が生成する過程は必ずしも明確ではないが、放電解離条件下で含酸素フッ素化合物が分解するとともに、重合して、フルオロカーボンの膜が形成されるものと考えられる。
生成するフルオロカーボン膜の厚さは、通常0.01〜10μmの範囲である。
【0051】
プラズマCVD法の手法としては、具体的には、従来公知の手法、例えば特開平9−237783号公報に記載されている手法を採用できる。
またプラズマ発生条件としては、通常、高周波(RF)出力10W〜10kW、被処理物温度0〜500℃、反応室圧力0.005〜13.3kPaを採用できる。
【0052】
プラズマCVD法に用いる装置としては、前記本発明の供給方法の項で挙げたプラズマ処理装置と同様のものが挙げられる。
【0053】
また、プラズマ中で発生する活性種の濃度制御や原料ガスの解離促進のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンおよびクリプトンからなる群から選択される不活性ガスを添加してもよい。これらの不活性ガスは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
不活性ガスの添加量としては、含酸素フッ素化合物に対する不活性ガスの合計量が、容量比(不活性ガスの合計量/含酸素フッ素化合物量)で2〜200となることが好ましく、5〜150となることがより好ましい。
【0054】
さらに、プラズマ反応用ガスの解離促進および被処理物の損傷低減を目的として低圧水銀ランプなどによる紫外線照射を行ったり、被処理物および反応空間に超音波を照射することもできる。
【0055】
被処理物は特に限定されないが、半導体製造分野、電子電気分野、精密機械分野、その他の分野で絶縁性、撥水性、耐腐食性、耐酸性、潤滑性、光の反射防止性などの機能または性質が要求される物品や部材、好ましくは半導体製造分野、電子電気分野の絶縁性が要求される物品や部材が挙げられ、それらの分野で用いられる基板が特に好ましい。
【0056】
好ましい基板の具体例としては、単結晶シリコン膜、多結晶シリコン膜およびアモルファスシリコン膜などのシリコン膜;タングステン、モリブデン、チタンおよびタンタルなどから成るシリサイド膜;SiN、SiON、SiO、BSG(ボロン−シリケートガラス)、PSG(リン−シリケートガラス)、BPSG(ボロン−リン−シリケートガラス)、AsSG(砒素シリケートガラス)、SbSG(アンチモンシリケートガラス)、NSG(窒素−シリケートガラス)、PbSG(鉛−シリケートガラス)およびSOG(スピンオングラス)などのシリコン含有絶縁膜;TiNおよびTaNなどの導電性膜;ガリウム−砒素基板;ダイヤモンド状炭素膜やアルミ板;ソーダ石灰ガラス;アルミナ膜;酸化ジルコニウム膜;および、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムから成るセラミックス;などが挙げられる。
【0057】
(c)アッシング方法
本明細書においてアッシング(プラズマアッシングともいう。)とは、前記含酸素フッ素化合物を含むガスを用い、プラズマ放電により前記含酸素フッ素化合物を活性化させて、ドライエッチング装置やCVD装置のチャンバー内にある汚染物質を灰化除去することをいう。また、ドライエッチングやCVDの被処理物表面にある汚染物質を活性種で除去すること、さらには被処理物の表面を活性種で研磨して平坦化することなどをもいう。特に好適には、チャンバー内に堆積した不要なポリマー成分の除去、半導体装置基板の酸化膜除去、半導体装置のレジスト剥離に用いられるものである。
【0058】
プラズマアッシングでは、プラズマ分解による活性種の発生が必要であり、そのためのプラズマ反応条件が適宜選択される。
【0059】
以上の本発明のプラズマ処理方法によれば、室温付近において重合し易い含酸素フッ素化合物の重合体化を抑制して、そのエッチング性能等を実質的に低下させることなく安定にプラズマ処理装置へ供給し、該装置内において、被処理物の所望のプラズマ処理を効率よく実施することができる。
【0060】
また、熱分解により得られた含酸素フッ素化合物の濃度を所定濃度に調整することにより、重合体の熱分解時の余熱に起因する再重合を効果的に防止して、含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へより安定に供給し、被処理物の所望のプラズマ処理をより効率よく実施することができる。
【0061】
従って、本発明のプラズマ処理方法を用いることにより、高集積化、高密度化および大口径化された高性能な半導体装置を効率よく製造することも可能である。具体的には、半導体装置の製造過程において、基板に対し、エッチング、成膜、及びアッシングからなる群より選択される少なくとも1つの処理を、本発明のプラズマ処理方法に従い、すなわち、式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給し、該装置内で、前記含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、前記処理を行うことにより半導体装置を製造すればよい。半導体装置の製造は、本発明のプラズマ処理方法を実施する以外、公知の方法、例えば、特開2002−9014号公報に記載の方法に従って行うことができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0063】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
(1)ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:HP−6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:Neutrabond−1(60m×I.D0.25μm、1.5μmdf)
(GLサイエンス社製)
カラム温度:40℃(10分)→[20℃/分で昇温]→240℃(10分)
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
検出器:FID
【0064】
(2)ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS分析)
GC部分:HP−6890(ヒューレットパッカード社製)
カラム:Neutrabond−1(60m×I.D0.25μm、1.5μmdf)
(GLサイエンス社製)
カラム温度:40℃(10分)→[20℃/分で昇温]→240℃(10分)
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
検出器:FID
MS部分:5973NETWORK(ヒューレットパッカード社製)
検出器:EI型(加速電圧:70eV)
【0065】
(3)NMR分析
装置:19F−NMR装置(JNM−ECA−500、日本電子社製)
【0066】
(製造例1)テトラフルオロフラン、およびその重合体の調製
(a)テトラフルオロフランの合成
この化合物は文献Aにしたがって合成した。三フッ化コバルト(シンクエスト社製)2500部を充填した撹拌機付きSUS316反応管を温度120℃に保ち、そこヘテトラヒドロフラン(和光純薬社製)を1部/minの速度でガス化させながら窒素気流下(50ml/min)に供給して、合計50部を反応させた。反応管から出てくるガスは洗瓶内に充填した水ヘバブリングさせ、酸性ガスを除去した。洗瓶から出てくる反応生成物は−78℃に冷却されたガラス製トラップ(中にフッ化ナトリウムのペレットを充填)により、捕集した。
【0067】
ガラス製トラップ内に捕集した反応混合物についてGC分析およびGC−MS分析を行った結果、このものは、ヘキサフルオロフラン34%、ペンタフルオロフラン39%、テトラフルオロフラン27%を含む混合物(83部)であった。
【0068】
(b)テトラフルオロフランの重合体の調製
撹拌機、滴下ロートおよび精留塔(理論段数7段)を備えたガラス製四つ口反応器に、水酸化カリウム(純度85%、和光純薬社製)を200部仕込み、150℃に加温して水酸化カリウムを溶融させた。水酸化カリウムが溶融したところで、撹拌機により撹拌羽を回転させ、滴下ロートより、上記(a)で得られたテトラフルオロフランを含む混合物80部を30分間かけて滴下した。滴下しながら反応を継続して精留塔の塔頂温度が17〜18℃になったところで生成物の抜き出しを開始し、−30℃に冷却したガラス製受器に捕集した。収量は11部であった(収率11%)。
【0069】
得られた生成物のGC分析を行ったところ、純度は98.5%であった。更に、GC−MS分析、およびNMR分析を行ったところ、目的物であるテトラフルオロフラン(液状物)であることを確認した。
得られたテトラフルオロフランのスペクトルデータを以下に示す。
GC−MS(EI−MS):m/z140、112、93
19F−NMR(CFCl3,CDCl3):−137.3(2F),−196.2(2F)
【0070】
次いで、得られたテトラフルオロフランをステンレス製容器内に静置したまま室温で3日間放置することにより、白色粉状のテトラフルオロフランの重合体を得た。
【0071】
(実施例1)
実施例1は、図1に示す構成を有する装置を用いて行った。
耐熱性バルブ(7)を付した体積0.5LのSUS316製容器(1)内に、製造例1で得たテトラフルオロフラン(CO)の重合体1.28gを充填し、電気炉にセットした。また、バルブアウトはマスフローコントローラ(MFC)(6)を介して、プラズマエッチング装置(10)に接続した。プラズマエッチング装置(10)のチャンバー(4)内には、基板(8)を載置した。なお、図中、矢印はガスの流れる向きを示す。
【0072】
基板(8)としては、シリコン基板上に厚さが約2μmのシリコン酸化膜を形成し、さらにフォトレジストを厚さ4000Åになるように塗布、露光することにより、0.13μmのレジストパターンを形成したものを用いた。
【0073】
電気炉の温度を徐々に上げていき、最終的に420℃まで到達させた。発生したテトラフルオロフランのガス(テトラフルオロフランの濃度:0.016モル/リットル)をマスフローコントローラ(MFC)(6)により30sccmの流速になるよう調整してチャンバー(4)に導入し、さらに、不活性ガスとしてArをボンベ(2)から流速500sccm、酸素ガスをボンベ(3)から流速30sccmの速度でそれぞれ供給し、系内の圧力を0.01kPaに維持した。不活性ガスおよび酸素ガスの流速もマスフローコントローラ(MFC)(6)により調整した。
【0074】
次いで、マイクロ波電源パワー1200W(2.45GHz)、基板バイアスパワー1000W(800KHz)の条件のもとにエッチングを行った。なお、エッチング時の、プラズマ密度は1011イオン/cmであった。
【0075】
エッチングを実施したところ、シリコン酸化膜のエッチング速度は、中央部590nm/min、エッジ部520nm/minであり、レジストのエッチング速度は、中央部37nm/min、エッジ部49nm/minであり、その選択比は中央部15.9、エッジ部10.6であった。
【0076】
(実施例2)
実施例1において、プラズマエッチング装置(10)をプラズマCVD法による成膜装置に変更した以外は、実施例1と同様に操作して熱分解によりガスを発生させて、成膜を行った。基板として、表面の一部にアルミが蒸着されたシリコン酸化膜ウェハを用い、プラズマCVD法による成膜装置として、マイクロ波CVD成膜装置を用い、次の条件により成膜を実施した。
【0077】
テトラフルオロフラン(CO)ガスの流量:80sccm
アルゴンの流量:300sccm
圧力:0.013kPa
RF出力(周波数2.45GHz):1500W
シャワーヘッド温度:280℃
基板温度:200℃
チャンバー壁温度:300℃
【0078】
上記条件で処理することにより、シリコン酸化膜ウェハ上に厚さ0.2μmのフルオロカーボン膜を形成することができた。この膜はボイドの発生もなく繊密で均一であり、基板への密着性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】実施例1のプラズマ処理方法を実施するための装置の一例の概要図である。
【符号の説明】
【0080】
1…反応容器、2…不活性ガスを充填したボンベ、3…酸素ガスを充填したボンベ、4…チャンバー、5…高周波発生器、6…マスフローコントローラ(MFC)、7…耐熱性バルブ、8…基板、10…プラズマエッチング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給することを特徴とする含酸素フッ素化合物のプラズマ処理装置への供給方法。
【請求項2】
前記重合体を熱分解して得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する際に、前記含酸素フッ素化合物の濃度を0.0001〜0.02モル/リットルにして供給することを特徴とする請求項1に記載の供給方法。
【請求項3】
含酸素フッ素化合物がテトラフルオロフランであることを特徴とする請求項1または2に記載の供給方法。
【請求項4】
プラズマ処理装置が、プラズマエッチング装置またはプラズマCVD法による成膜装置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の供給方法。
【請求項5】
式:COで表される繰り返し単位からなる重合体を熱分解して、式:COで表される含酸素フッ素化合物を得た後、得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給し、該装置内で、前記含酸素フッ素化合物をプラズマ化し、被処理物をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記重合体を熱分解して得られた含酸素フッ素化合物をプラズマ処理装置へ供給する際に、前記含酸素フッ素化合物の濃度を0.0001〜0.02モル/リットルにして供給することを特徴とする請求項5に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
含酸素フッ素化合物がテトラフルオロフランであることを特徴とする請求項5または6に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
プラズマ処理装置が、プラズマエッチング装置またはプラズマCVD法による成膜装置であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
請求項5〜8いずれかに記載のプラズマ処理方法を用いることを特徴とする半導体装置の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−34734(P2008−34734A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208708(P2006−208708)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】