説明

品質検査装置及び品質検査方法

【課題】本発明は、多重回折格子記録媒体のそれぞれの模様を検出することが可能な品質検査装置及び品質検査方法に関する。
【解決手段】多重回折格子記録媒体の裏面側から透過光を照射する透過光照射部と、多重回折格子記録媒体を保持する保持部と、多重回折格子記録媒体の透過光軸方向に設けられ、多重回折格子記録媒体の透過光を偏光する偏光素子と、偏光素子を前記多重回折格子記録媒体の透過光の光軸を中心に所定の角度に回転する偏光素子回転部と、所定の角度に応じて多重回折格子記録媒体の透過光による各模様の読取を行う画像読取部を有する画像撮影部と、画像撮影部により読取られた各模様を演算処理し、あらかじめ記録した基準模様と比較して良否判定を行う画像処理部と、画像処理部により演算処理された模様と、良否判定の結果を表示する出力部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、有価証券、商品券又はカード等の基材に付与された回折格子により少なくとも二以上の模様を形成した多重回折格子記録媒体の検査方法及び検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多重回折格子記録媒体は、模様状の回折格子に金属を蒸着した箔のことで、立体画像の顕出やカラーシフトといった独特な光学的変化機能を持つものであって、ホログラムや金属箔などと呼称される。ホログラム層のホログラムパターンとしては、レインボーホログラム、グレーティングイメージ等がある。グレーティングイメージは、微小な回折格子を並べ画像を形成するものであり、回折格子の配列角度を変更することで複数の模様を組み込むことも可能である。これらの多重回折格子記録媒体は、その製造方法の高度さから、偽造防止技術の一つとして、銀行券、有価証券、商品券又はクレジットカード等の貴重性印刷物に付与されている。
【0003】
多重回折格子記録媒体を付与した印刷物の製造は、転写や圧着によって、シートタイプやパッチタイプのホログラムシートを基材に付与することによって行われている。また、スレッドタイプのものは、基材にすき込まれたり、転写や圧着されて紙面内部又は表面に付与される。この多重回折格子記録媒体は、印刷物の製造時において、ホログラムシートの印刷不良、基材への転写不良、機械の調整不良等により、基材への付与時にピンホールや剥離等の欠陥が生じることがある。多重回折格子記録媒体それ自体又は多重回折格子記録媒体の付与状態の検査は、品質管理として重要な項目であり、このような欠陥のある製品は、不良品として、除去する必要がある。
【0004】
しかし、多重回折格子記録媒体は、回折格子を複数配列して形成しているため、光の波長と入射角度の依存性によりわずかな入射角度の変化で観察される模様が変わる。このため、可視光では、安定した多重回折格子記録媒体の検査が困難であり、その検査方法又は装置として、多重回折格子記録媒体を付与した印刷物を置き、その画像をカメラにより取得し、モニタ表示やプリントアウト等を行い比較検査していた。
【0005】
その一例として、多重回折格子記録媒体を検査する装置としては、被検査物に含まれるホログラム層を所定の傾斜角度(θ) で入射するように光照射し、該ホログラム層に記録されたホログラム再生像を撮像カメラに与える光源と、ホログラム層以外の印刷面及び下地を前記傾斜角度とは異なる傾斜角度(θ) で入射するように光照射し、該印刷面及び下地の反射像を撮像カメラへ与える光源とを備えるとともに、ホログラム層、印刷面及び下地の良否を同時に判定する判定手段を備える品質検査装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、照明手段により基材の表面に赤外線又は赤外線を含む光を照射し、画像入力手段により、基材に付与された多重回折格子記録媒体を含む領域を650nm以上の波長領域を含む画像データを入力し、あらかじめ標準となる多重回折格子記録媒体の基準模様データを記憶し、入力した画像データと基準模様データを比較し、その比較結果に基づいて基材に付与された多重回折格子記録媒体の形状、面積及び位置の少なくともいずれか一つの良否を判定することを特徴とする品質検査装置と品質検査方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3339426 号公報
【特許文献2】WO2006/028077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許第3339426号公報は、反射光を使用しているため、搬送時における多重回折格子記録媒体のバタツキ、うねり又は機械振動等によりカメラ、光源又は基材の撮影角度に変化が生じ、その撮影角度の変化により多重回折格子記録媒体の模様が変化するため、多重回折格子記録媒体の模様を正確に検査することは難しく、安定した検査が困難であるという問題があった。
【0009】
また、WO2006/028077号公報は、搬送時の多重回折格子記録媒体のバタツキ、うねり又は機械振動の影響を受けないように光の回折が起こらない赤外領域の光を照射して多重回折格子記録媒体の模様の映り込みを排除し、安定的に多重回折格子記録媒体の面積、欠陥及び付与位置を検査している。しかし、当該装置と方法では、赤外光の回折が起こらないため、多重回折格子記録媒体の模様を撮影することはできないという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、複数の光源を使用せず、単一光源を使用し、偏光素子を使用することによって、多重回折格子記録媒体のそれぞれの模様を検出することが可能な品質検査装置及び品質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多重回折格子記録媒体の各模様を検査する品質検査装置であって、前記多重回折格子記録媒体の裏面側から透過光を照射する透過光照射部と、前記多重回折格子記録媒体を保持する保持部と、前記多重回折格子記録媒体の透過光軸方向に設けられ、前記多重回折格子記録媒体の透過光を偏光する偏光素子と、前記偏光素子を前記多重回折格子記録媒体の前記透過光の光軸を中心に所定の角度に回転する偏光素子回転部と、前記所定の角度に応じて前記多重回折格子記録媒体の前記透過光による各模様の読み取りを行う画像読取部を有する画像撮影部と、前記画像撮影部により読み取られた各模様を演算処理し、あらかじめ記録した基準模様と比較して良否判定を行う画像処理部と、前記画像処理部により演算処理された模様と、前記良否判定の結果を表示する出力部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明は、偏光素子が、円偏光フィルタ又は直線偏光フィルタであることを特徴とする品質検査装置である。
【0013】
本発明は、保持部が、透明部材又は光透過性部材から成る試料台であることを特徴とする品質検査装置である。
【0014】
本発明は、透過光照射部の照射光が、可視光又は赤外光であることを特徴とする品質検査装置である。
【0015】
本発明は、画像処理部が、画像撮影部により読み取られた各模様を演算処理する演算部と、多重回折格子記録媒体の基準模様をあらかじめ記録し、演算部により処理された各模様の二値化データを記録する記憶部と、演算部で処理された各模様と、基準模様とを比較し、あらかじめ設定した基準値以内であるか否かの良否の判定を行う判定部を有することを特徴とする品質検査装置である。
【0016】
本発明は、透過光照射部、保持部、画像撮影部及び画像処理部を有する品質検査装置を用いて、多重回折格子記録媒体の各模様を検査する品質検査方法であって、前記保持部によって保持された前記多重回折格子記録媒体の格子面の裏側から前記透過光照射部によって透過光を照射する照射工程と、前記画像撮影部によって、前記多重回折格子記録媒体を透過した光を偏光する偏光素子を前記透過光の光軸を中心に所定の角度で回転させて、前記偏光素子の偏光軸と、前記多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度をそれぞれ一致させて、前記透過光を照射された際における前記多重回折格子記録媒体の各模様を読み取る読取工程と、前記画像処理部によって、前記読取工程により読み取られた各模様と、基準模様とを比較して良否判定を行う良否判定工程を少なくも有する。
【0017】
本発明は、偏光素子が、円偏光フィルタ又は直線偏光フィルタであることを特徴とする品質検査方法である。
【0018】
本発明は、照射光が、可視光又は赤外光であることを特徴とする品質検査方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の品質検査装置及び品質検査方法は、透過光を使用しているため、多重回折格子記録媒体の回折による影響を受けず、多重回折格子記録媒体に形成された模様を安定的に検査することができる。
【0020】
また、本発明の品質検査装置及び検査方法は、偏光素子を使用しているため、回折パターンにより形成された複数の模様を個別に検査することができる。
【0021】
また、本発明の品質検査装置及び検査方法は、複数の光源を使用せず、単一光源により透過光を多重回折格子記録媒体を照射し、偏光素子を回転させることによって多重回折格子記録媒体のそれぞれの模様を検出することできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の品質検査装置の一例を示すブロック図。
【図2】本発明の品質検査装置の一例を示す構成図。
【図3】本発明の品質検査装置の一例を示す構成図。
【図4】本発明の品質検査装置の一例を示す構成図。
【図5】検査対象の多重回折格子記録媒体の一例を示す平面図。
【図6】検査対象の多重回折格子記録媒体の一例を示す平面図。
【図7】本発明の品質検査装置の原理を示す平面図。
【図8】本発明の品質検査装置の原理を示す平面図。
【図9】本発明の品質検査方法を示す工程図。
【図10】本発明の品質検査装置の一実施例を示す構成図。
【図11】多重回折格子記録媒体の一実施例を示す平面図。
【図12】多重回折格子記録媒体の一構成例を示す平面図。
【図13】多重回折格子記録媒体の一構成例を示す平面図。
【図14】多重回折格子記録媒体の一構成例を示す平面図。
【図15】多重回折格子記録媒体の一実施例を示す平面図。
【図16】検出された多重回折格子記録媒体の不良品を示す平面図。
【図17】本発明の品質検査装置の一実施例を示す構成図。
【図18】印刷物に貼付した多重回折格子記録媒体の一実施例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0024】
図1は、本発明の品質検査装置の一例を示すブロック図である。本発明の品質検査装置は、保持部(2)を介して多重回折格子記録媒体の回折面と反対側の面である裏面から光を照射する透過光照射部(1)と、偏光素子回転部により偏光素子を回転し、偏光素子の回転角度に応じて多重回折格子記録媒体に形成されている各模様の透過画像を撮影する画像撮影部(4)と、多重回折格子記録媒体の偏光素子の回転角度に応じた各模様の透過画像と、あらかじめ記録した多重回折格子記録媒体の基準模様とをパターンマッチングにより比較し、多重回折格子記録媒体の模様について、あらかじめ設定した基準値以内であるか否かの良否判定を行う画像処理部(5)と、判定結果と検査対象物の透過画像をモニタ等に出力する出力部(6)から成る。
【0025】
透過光照射部(1)は、保持部(2)により所定の位置に保持された多重回折格子記録媒体の格子面の裏側から保持部(2)を介してする。
【0026】
保持部(2)は、試料台(2a)と試料保持部(2b)から成り、多重回折格子記録媒体(3)を所定の位置に保持する。試料台(2a)は、多重回折格子記録媒体(3)を所定の位置に載置する。試料保持部(2b)は、ローラ、ベルト、エアー等により多重回折格子記録媒体を試料台(2a)上に密着させて保持する。
【0027】
画像撮影部(4)は、偏光素子(4a)と、偏光素子回転部(4b)と画像読取部(4c)から成る。偏光素子(4a)は、多重回折格子記録媒体の各模様を形成する各回折パターンの透過光を所定の方向に偏光させることによって、各回折パターンにより形成された模様ごとに透過光を切り分ける。偏光素子回転部(4b)は、制御部(H)の制御に従い、偏光素子(4a)を透過光軸(L)を中心にあらかじめ記録した所定の角度により回転し、偏光素子の偏光軸の方向を変更する。偏光素子の偏光軸の方向を変更させることによって、多重回折格子記録媒体を形成する各回折パターンに対応した透過光ごとに切り分け、各回折格子パターンの透過画像を検出することが可能となる。なお、所定の角度とは、後述する多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度である。格子線の配置角度が明確な場合は、当該配置角度を所定の角度として記録する。格子線の配置角度が不明な場合は、偏光素子回転部(4b)を回転させて画像読取部(4c)により多重回折格子記録媒体の透過画像を取り込み、当該透過画像の模様が最も鮮明な場合における偏光素子回転部(4b)の回転角度を検出することによって、格子線の配置角度を検出することができる。よって、偏光素子回転部(4b)は、偏光素子(4a)を回転させることにより偏光素子(4a)の偏光軸と、多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度を一致させる。画像読取部(4c)は、偏光素子回転部(4b)の回転角度に応じて、多重回折格子記録媒体の各回折格子パターンにより形成された各模様の透過画像を取り込む。
【0028】
画像処理部(5)演算部(5a)と記憶部(5b)、判定部(5c)から成る。演算部(5a)は、画像撮影部(4)により読み取られた各模様を二値化する。記憶部(5b)は、多重回折格子記録媒体の基準模様をあらかじめ記録し、演算部(5a)により演算処理された模様の二値化データを記録する。判定部(5c)は、演算部(5a)によりで処理された各模様と、基準模様とを比較し、あらかじめ設定した基準値以内であるか否かの良否の判定を行う。
【0029】
出力部(6)は、画像処理部(5)の判定結果と検査対象物の透過画像をモニタ等に出力する。
【0030】
図1に示した制御部(H)は、透過光照射部(1)、保持部(2)、画像撮影部(4)、画像処理部(5)、出力部(6)等の品質検査装置の各部の制御を行う。
【0031】
図2は、本発明の品質検査装置(A1)の一例を示す構成図である。本発明の品質検査装置(A1)は、多重回折格子記録媒体(3)に透過光を照射する透過光照射部(1)、多重回折格子記録媒体(3)を保持する保持部(2)、多重回折格子記録媒体(3)からの透過光(L)を受光する画像撮影部(4)、画像撮影部(4)が読み取った各模様を処理し、処理された各模様と、あらかじめ記録した多重回折格子記録媒体の基準模様とを比較して良否判定を行う判定部を有する画像処理部(5)と、画像処理部(5)により処理された模様と、判定部による判定結果を表示する出力部(6)から成る。
【0032】
透過光照射部(1)は、図2(a)に示すように、保持部(2)を介して多重回折格子記録媒体の回折面と反対側の面である裏面から光を照射する。透過光(L)は、多重回折格子記録媒体(3)の模様を透かして見える光であれば、特に限定されず、可視光、赤外光等の任意の波長を使用することができる。なお、多重回折格子記録媒体を印刷物に貼付した場合は、赤外光を使用する。赤外光を使用することによって、多重回折格子記録媒体の裏面の領域に印刷されたインキ又は多重回折格子記録媒体上に印刷されたインキの影響を受けること無く、多重回折格子記録媒体(3)の模様を透かして見ることができるからである。ただし、赤外吸収インキはこの限りではない。光源としては、可視光であれば白色灯、白色LED等、赤外光であれば赤外ランプ、赤外LED等の種々の光源を使用することができる。
【0033】
図2(b)に示すように、保持部(2)は、透過光照射部(1)からの透過光(L)を多重回折格子記録媒体に均一に照射させるため、試料台(2a)と試料保持部(2b)から成り、多重回折格子記録媒体(3)を所定の位置に保持する。試料台(2a)は、透過光照射部(1)の透過光(L)に影響を与えなければ特に限定されず、ガラス、プラスチック等の透明部材又は光透過性部材により構成される。また、試料保持部(2b)は、多重回折格子記録媒体(3)を試料台(2a)に密着、かつ、多重回折格子記録媒体の透過光に影響を与えなければ、特に限定されず、エアーの吹き付け、ローラ又はベルト等により構成される。なお、試料台(2a)は、透過光の中心である透過光軸(L)を中心に所定の角度に回転するように設けることもできる。試料台(2a)を回転させることにより多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度を一致させることができるからである。また、試料台回転部(図示せず)の駆動手段は、ベルト、歯車等により行うことができる。
【0034】
画像撮影部(4)は、図3(a)に示すように、多重回折格子記録媒体(3)に対する照射部(1)と反対面側、かつ、透過光軸上(L)に設けられ、多重回折格子記録媒体を透過した光を受光する位置に載置される。図3(b)の拡大図に示すように、画像撮影部(4)は、多重回折格子記録媒体の模様を切り分ける偏光素子(4a)、偏光素子(4a)を透過光軸(L)を中心に所定の角度により回転する偏光素子回転部(4b)、画像読取部(4c)から構成される。偏光素子(4a)は、多重回折格子記録媒体を形成する回折パターンを透過した光を偏光する。また、偏光素子回転部(4b)は、制御部(図示せず)の制御に従い、偏光素子(4a)を透過光軸(L)を中心にあらかじめ記録した所定の角度により回転し、偏光素子の偏光軸の方向を変更する。偏光素子は、偏光素子の偏光軸の方向を変更させることによって、多重回折格子記録媒体の各模様を形成する各回折パターンにより形成された模様ごとに透過光を切り分け、各回折格子パターンの透過画像を検出するためである。画像読取部(4c)は、制御部(図示せず)の制御に従い、偏光素子回転部(4b)の回転角度に応じて、多重回折格子記録媒体の各回折格子パターンにより形成された各模様の透過画像を取り込む。なお、偏光素子回転部(4b)による偏光素子の回転速度に応じた周期で多重回折格子記録媒体の透過光による各模様を検出することができれば、特に限定されず、エリアセンサカメラ、ラインセンサカメラ、CCDカメラ又はCMOSカメラ等の検出機器類を使用することができる。偏光素子(4a)は、公知の偏光板、直線偏光フィルタ又は円偏光フィルタ等を使用することができる。偏光素子回転部(4b)の駆動手段は、ベルト又は歯車等により行うことができる。
【0035】
画像処理部(5)は、図4(a)に示すように、一例として、演算部(5a)、記憶部(5b)及び判定部(5c)から成る。演算部(5a)は、偏光素子回転部の回転角度に応じて画像撮影部により取り込まれた各模様を二値化する。記憶部(5b)は、多重回折格子記録媒体の基準模様をあらかじめ記録し、演算部(5a)により処理された模様の二値化データを記録する。判定部(5c)は、演算部(5a)で処理された各模様と、基準模様とを比較し、あらかじめ設定した基準値以内であるか否かの良否の判断を行い、多重回折格子記録媒体を良否ごとに分けて排出等の処理を行う。なお、良否の判定を行う手段としては、各種フィルタ処理、特徴点抽出及びパターンマッチング等の公知の画像処理手段を使用する。
【0036】
出力部(6)は、図4(b)に示すように、コンピュータ等が用いられ、画像処理部により処理された基準模様と検査対象の模様、判定部による判定結果を表示する。
【0037】
次に、本発明の品質検査装置の検査対象である多重回折格子記録媒体(3)について説明する。一般に、回折格子を利用して所定の図柄等を表現する場合は、図柄等を複数の領域の集合で構成し、各領域内に所定の回折格子パターンを配置する。このとき、各領域ごとに、配置する回折格子パターンを異ならせる。つまり、格子線のピッチや配置角度を変えることによって、視覚的に変化に富んだ図柄等を観察することができる。一例として、図5(a)に示すように、多重回折格子記録媒体(3)は、観察角度によって第1の模様(3b)と第2の模様(3b2)をそれぞれ視認することができる。図5(b)の断面図に示すように、多重回折格子記録媒体(3)は、アルミを蒸着する基材層(3a)、回折効果を有するアルミ層(3b)、アルミ層(3b)を保護する保護層(3c)により構成される。また、多重回折格子記録媒体(3)のアルミ層(3b)は、一例として、図5(c)の模式図に示すように、「1」の文字から成る第1の模様(3b)と、図5(c)に示す「鳳凰」の図形から成る第2の模様(3b)を同一面上に有している。なお、図5(c)の模式図は、説明の便宜上マトリクスで表現したものである。
【0038】
次に、前述した多重回折格子記録媒体について詳細に説明する。図6(a)に示すように、「1」の文字から成る第1の模様(3b)は、第1の格子線(G)を第1の格子間隔(d)、かつ、第1の配置角度(θ)で配置した第1の回折格子パターン(3b1’)を複数配置することにより形成されている。また、図6(b)に示すように、「鳳凰」の図形から成る第2の模様(3b)は、第2の格子線(G)を第2の格子間隔(d)、かつ、第2の配置角度(θ)で配置した第2の回折格子パターン(3b2’)を複数配置することにより形成されている。回折格子の配置角度を変えることによって、反射光による目視では、観察角度により「1」の画像と「鳳凰」の二つの画像が切り替わって観察することができる。なお、本品質検査装置では、多重回折格子記録媒体(3)の透過光を偏光素子を介し、当該偏光素子を回転させて角度を変化することにより、回転角度に応じて「1」の模様と「鳳凰」の模様を得ることができる。また、本例において、二つの回折格子パターンにより形成された画像は二つであるが、本品質管理装置の観察できる画像は、回折格子パターンの数に応じて形成された複数の画像を、偏光素子の回転角度を変化させて観察することができる。
【0039】
図7に示すように、第1の回折格子パターン(3b1’)と第2の回折格子パターン(3b2’)の格子面の反対側から透過光照射部(1)により照射された透過光(L)は、第1の回折格子パターン(3b1’)の第1の格子線(G)により透過光(L)が第1の配置角度(θ)の方向に直線偏光(L)される。一方、第2の回折格子パターン(3b2’)の第2の格子線(G)により透過光(L)は、第2の配置角度(θ)の方向に直線偏光(L)されるため、回折格子自体が偏光素子の役割をなす。
【0040】
次に、図8(a)に示すように、第1の模様(3b)は、偏光素子(4a)の偏光軸(P)を、第1の回折格子パターン(3b1’)により直線偏光(L)された偏光方向(第1の配置角度(θ))と一致させることによって、第1の模様(3b)を観察することができる。一方、第2の模様(3b)は、偏光軸(P)と偏光方向(第2の配置角度(θ))が一致していないため、観察することはできない。また、図8(b)に示すように、第2の模様(3b)は、偏光素子(4a)の偏光軸(P)を、第2の回折格子パターン(3b2’)により直線偏光(L)された偏光方向(第2の配置角度(θ))と一致させることによって、第2の模様(3b)を観察することができる。一方、第1の模様(3b)は、偏光軸(P)と偏光方向(第1の配置角度(θ))が一致していないため、観察することはできない。よって、本発明の品質検査装置は、回折格子により偏光された光を、偏光素子の偏光軸と回折格子を形成する格子線の配列方向の角度を一致させることによって、観察角度に応じた回折格子の画像を視認することができる。
【0041】
次に、本発明の品質検査方法について、図9により詳細に説明する。なお、本発明の品質検査方法は、前述した品質検査装置を使用することが望ましいが、これに限定されるものではなく、図9の工程にしたがって行う。本発明の品質検査方法は、多重回折格子記録媒体の格子面の裏側から光透過光照射部によって、透過光を照射する照射工程(ST1)と、画像撮影部によって、多重回折格子記録媒体を透過した光を偏光する偏光素子を透過光の光軸を中心に所定の角度で回転させて、多重回折格子記録媒体の各模様を読み取る読取工程と(ST2)と、画像処理部によって、前記読取工程により読み取られた各模様と、基準模様とを比較して良否判定を行う良否判定工程(ST3)を少なくとも有する。
【0042】
照射工程(ST1)は、多重回折格子記録媒体の格子面の裏側から透過光を照射する。使用する透過光は、白色灯又は白色LED等を光源とする可視光、赤外ランプ又は赤外LED等を光源とする赤外光であり、多重回折格子記録媒体を印刷物に貼付した場合は赤外光を使用する。赤外光を使用することによって、印刷物のインキの影響を受けないからである。
【0043】
読取工程(ST2)は、透過光を照射された際の多重回折格子記録媒体を、偏光素子を透過光の光軸を中心に所定の角度で回転させて、多重回折格子記録媒体の各模様をエリアセンサカメラ、ラインセンサカメラ、CCDカメラ又はCMOSカメラ等の検出機器類で読み取る。なお、偏光素子は、直線偏光フィルタ又は円偏光フィルタである。また、所定の角度とは、多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度である。
【0044】
良否判定工程(ST3)は、前記読取工程により読み取られた各模様と、基準模様とを特徴点の抽出及びパターンマッチングなどにより比較して良否判定を行う。なお、良否の判定を行う手段としては、各種フィルタ処理、特徴点抽出及びパターンマッチング等の公知の画像処理手段を使用する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の内容は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図10は、本発明の品質検査装置A2の一例図である。本実施例における品質検査装置A2は、照射部(1’)、保持部(2’)、画像撮影部(4’)、画像処理部(5’)、出力部(6’)から成る。照射部(1’)の光源は、可視光を照射するため白色LED(日進電子製WDL−10027)を使用した。保持部(2’)は、試料台(2’a)にガラス板を使用した。画像撮影部(4’)は、偏光素子(4’a)に円偏光フィルタ(SONY製MC−CIRCULAR PL)を使用し、偏光素子回転部(4’b)をモータ(図示せず。)により回転させ、画像読取部(4’c)にCMOSカメラ(アートレイ製ARTCAM−130MIBW)を使用し、カメラのレンズは、PENTAX製Cマウント12mmを使用した。
【0047】
本実施例における基準模様となる多重回折格子記録媒体(3’)は、図11(a)に示す、同一面上に第1の回折格子パターンにより形成された第1の模様(3’b)である「鳳凰」と、第2の回折格子パターンにより形成された第2の模様(3’b)である「1」と、第3の回折格子パターンにより形成された第3の模様(3’b)である「魚」を有する多重回折格子記録媒体を使用した。なお、図11(b)の模式図に示すように、多重回折格子記録媒体(3’)は、同一面上に各模様を有している。
【0048】
図12に示すように、第1の模様(3’b)である「鳳凰」は、第1の格子線(G’)を第1の格子間隔(d’)として500本/mm、かつ、第1の配置角度(θ1’)を30°で配置した第1の回折格子パターン(3’b’)を複数配置することにより形成した。
【0049】
図13に示すように、第2の模様(3’b)である「1」は、第2の格子線(G’)を第2の格子間隔(d’)として500本/mm、かつ、第2の配置角度(θ2’)を90°で配置した第2の回折格子パターン(3’b’)を複数配置することにより形成した。
【0050】
図14に示すように、第3の模様(3’b)である「魚」は、第3の格子線(G’)を第3の格子間隔(d’)として500本/mm、かつ、第3の配置角度(θ3’)を140°で配置した第3の回折格子パターン(3’b’)を複数配置することにより形成した。
【0051】
図15に示す、第一の模様(3’b)の基準となる基準模様(K)と第二の模様(3’b)の基準模様(K)、第三の模様(3’b)の基準模様(K)の各透過画像は、図10に示す品質検査装置(A2)の照射部(1’)から、透過光(L)を多重回折格子記録媒体(3’)に照射しながら、偏光素子(4’a)を偏光素子回転部(4’b)により透過光軸を中心として偏光素子(4’a)の回転角度を30°にした第1の模様と、回転角度を90°にした第2の模様と、回転角度を140°にした第三の模様を画像読取部(4’c)により読み取った。画像読取部(4’c)により読み取った各模様は、画像処理部(5’)の記憶部において基準模様(K、K、K)として記録した。
【0052】
次に、判定部においては、各基準模様(K、K、K)と検査対象の多重回折格子記録媒体の各透過画像とをパターンマッチングにより比較して良否判定を行い、パターンマッチングの結果に基づき、基準値と比較し、基準値内である場合には良品として判断し、第1の模様、第2の模様又は第3の模様のいずれか一つの画像が基準値範囲外である場合には、不良品として判断してそれぞれを区別して排出することとした。なお、パターンマッチングは、各基準模様と、被検査対象画像のそれぞれの二値化データを16×16ピクセルで分割し、対象ピクセルごとの一致率が90%以上を基準値とした。
【0053】
品質検査装置(A2)により検査対象の多重回折格子記録媒体(3’)に可視光を照射して検査したところ、検出した第1の模様、第2の模様又は第3の模様の透過画像が、あらかじめ設定した基準値以内の透過画像のみからなる多重回折格子記録媒体(3’)は、良品と判断することができた。一方、検出した第1の模様、第2の模様又は第3の模様の透過画像のいずれかが、あらかじめ設定した基準値外のものは、図16に示すような不良品として判断することができた。
【0054】
(実施例2)
次に、図17により本発明の品質検査装置A3の一実施例について説明する。なお、前述した品質検査装置A2と同様な構成については説明を省略し、異なる部分のみ説明するものとする。
【0055】
本実施例における品質検査装置A3は、透過光照射部(1’)に赤外光を使用するため、光源として赤外LED(日進電子製IRDL−10027)を使用し、画像撮影部(4’)の偏光素子(4’a)には、直線偏光フィルタ(シグマ光機製SPFN−30C−26)を使用し、画像読取部(4’c)には、CMOSカメラ(アートレイ製ARTCAM−130MIBW)を使用した。
【0056】
実施例2の検査対象は、図18に示すように、上質紙にスクリーンインキを使用して作製した印刷物(T)に貼付した実施例1の多重回折格子記録媒体(3’)とした。なお、多重回折格子記録媒体(3’)の基準模様(K)、基準模様(K)、基準模様(K)の作製については、実施例1と同様であるため、省略する。
【0057】
品質検査装置(A3)により被検査対象の多重回折格子記録媒体(3’)に赤外光を照射して検査したところ、検出した第1の模様、第2の模様又は第3の模様の透過画像が、あらかじめ設定した基準値以内の透過画像のみからなる多重回折格子記録媒体(3’)は、良品と判断することができた。一方、検出した第1の模様、第2の模様又は第3の模様の透過画像のいずれかが、あらかじめ設定した基準値外のものは、不良品として判断することができた。
【符号の説明】
【0058】
A1、A2、A3 品質検査装置
1、1’ 透過光照射部
2、2’ 保持部
2a、2’a 試料台
2b 試料保持部
3、3’ 多重回折格子記録媒体
3a 基材層
3b アルミ層
3b、3’b 第1の模様
3b1’、3’b’ 第1の回折格子パターン
3b、3’b 第2の模様
3b2’、3’b’ 第2の回折格子パターン
3b3’ 第3の模様
3’b’ 第3の回折格子パターン
3c 保護層
4、4’ 画像撮影部
4a、4’a 偏光素子
4b、4’b 偏光素子回転部
4c、4’c 画像読取部
5、5’ 画像処理部
5a 演算部
5b 記憶部
5c 判定部
6、6’ 出力部
、d’ 第1の格子間隔
、d’ 第2の格子間隔
d’ 第3の格子間隔
、G’ 第1の格子線
、G’ 第2の格子線
G’ 第3の格子線
H 制御部
、K、K、基準模様
L 透過光
透過光軸
P 偏光軸
T 印刷物
θ、θ2、θ3 配置角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重回折格子記録媒体の各模様を検査する品質検査装置であって、
前記多重回折格子記録媒体の裏面側から透過光を照射する透過光照射部と、
前記多重回折格子記録媒体を保持する保持部と、
前記多重回折格子記録媒体の透過光軸方向に設けられ、前記多重回折格子記録媒体の透過光を偏光する偏光素子と、前記偏光素子を前記多重回折格子記録媒体の前記透過光の光軸を中心に所定の角度に回転する偏光素子回転部と、前記所定の角度に応じて前記多重回折格子記録媒体の前記透過光による各模様の読み取りを行う画像読取部を有する画像撮影部と、
前記画像撮影部により読み取られた各模様を演算処理し、あらかじめ記録した基準模様と比較して良否判定を行う画像処理部と、
前記画像処理部により演算処理された模様と、前記良否判定の結果を表示する出力部を有することを特徴とする品質検査装置。
【請求項2】
前記偏光素子が、円偏光フィルタ又は直線偏光フィルタであることを特徴とする請求項1に記載の品質検査装置。
【請求項3】
前記保持部が、透明部材又は光透過性部材から成る試料台であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の品質検査装置。
【請求項4】
前記透過光照射部の照射光が、可視光又は赤外光であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の品質検査装置。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記画像撮影部により読み取られた各模様を演算処理する演算部と、多重回折格子記録媒体の基準模様をあらかじめ記録し、前記演算部により処理された各模様の二値化データを記録する記憶部と、前記演算部で処理された各模様と、前記基準模様とを比較し、あらかじめ設定した基準値以内であるか否かの良否の判定を行う判定部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の品質検査装置。
【請求項6】
透過光照射部、保持部、画像撮影部及び画像処理部を有する品質検査装置を用いて、多重回折格子記録媒体の各模様を検査する品質検査方法であって、
前記保持部によって保持された前記多重回折格子記録媒体の格子面の裏側から前記透過光照射部によって透過光を照射する照射工程と、
前記画像撮影部によって、前記多重回折格子記録媒体を透過した光を偏光する偏光素子を前記透過光の光軸を中心に所定の角度で回転させて、前記偏光素子の偏光軸と、前記多重回折格子記録媒体を形成する格子線の配置角度をそれぞれ一致させて、前記透過光を照射された際における前記多重回折格子記録媒体の各模様を読み取る読取工程と、
前記画像処理部によって、前記読取工程により読み取られた各模様と、基準模様とを比較して良否判定を行う良否判定工程を少なくも有する品質検査方法。
【請求項7】
前記偏光素子が、円偏光フィルタ又は直線偏光フィルタであることを特徴とする請求項6に記載の品質検査方法。
【請求項8】
前記透過光が、可視光又は赤外光であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の品質検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2011−64606(P2011−64606A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216366(P2009−216366)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】