説明

回転子、モータ及び圧縮機

【課題】回転子において、永久磁石からの磁束の漏れを確実に防止する。
【解決手段】積層コア51に形成された上下端が開口した収納空間58aに永久磁石52が収納されている。積層コア51の下面及び上面には、それぞれ、収納空間58aの開口を塞ぐ端板53、54が配置されている。端板53、54はMd30値が−60℃以下のステンレス鋼からなる。端板53、54は、積層コア51及び端板53、54を上下方向に貫通するリベット56によって積層コア51に固定されている。端板54の略中央部には、上方に曲げられることによって上方に突出した突出部54aが形成されており、突出部54の上面には潤滑油が回転子32の上方に流れ出るのを防止するためのオイルセパレータ55が固定されている。突出部54aは、リベット56の上端とオイルセパレータ55とは2mm以上離隔するような高さとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁力によって回転する回転子、このような回転子を有するモータ、及び、このようなモータを備えた圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の圧縮機では、モータを構成する回転子において、ロータコアの上面にスペーサ及び取付台(端板)が配置されており、取り付け台の略中央部の上方に突出した部分に、油分離板が取り付けられている。スペーサは非磁性材料からなり、スペーサによりロータコアの内部に配置された永久磁石から上方に磁束が漏れ出してしまうのが防止されている。
【0003】
また、特許文献2に記載の圧縮機では、回転子において、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304のような非磁性体からなる2枚の端板が、磁石挿入孔内に永久磁石が配置されたロータ鉄心を挟むように配置されている。これにより、特許文献2に記載の圧縮機においても、特許文献1に記載されているのと同様、永久磁石から上方に磁束が漏れ出してしまうのが防止される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−120835号公報
【特許文献2】特開2007−49803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献2に記載の圧縮機の端板を製造する際には、その材料となるオーステナイト系ステンレスに常温での加工(冷間加工)が加えられる。一方、オーステナイト系ステンレスは、常温での加工(冷間加工)の際にマルテンサイト化して磁性を帯びてしまうという特性を有している。このため、特許文献2に記載の圧縮機の端板を製造する際の冷間加工において端板が磁性を有してしまい、永久磁石からの磁束の漏れを十分に防止することができなくなってしまう虞がある。
【0006】
また、特許文献1に記載の圧縮機における上記スペーサを構成する非磁性材料として、特許文献2に記載されているのと同様、オーステナイト系ステンレスを用いることは可能である。また、上記スペーサは、回転子の高さを合わせるために設けられているため、ロータコアの高さによってはスペーサが設けられないこともある。そして、スペーサが設けられていない場合には、ロータコアの内部に配置された永久磁石からの磁束の漏れを防止するために、取付台をオーステナイト系ステンレスによって構成することになる。そして、この場合にも、上述したのと同様、取付台の製造過程において取り付け台が磁性を有してしまい、永久磁石からの磁束の漏れを十分に防止することができなくなってしまう虞がある。
【0007】
本発明の目的は、鉄心の内部に配置された永久磁石からの磁束の漏れが確実に防止された回転子、このような回転子を有するモータ、及び、このようなモータを備えた圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る回転子は、永久磁石と、前記永久磁石が収納される両端が開口した収納空間を有する鉄心と、前記収納空間の開口を塞ぐ2枚の端板とを備えており、前記2枚の端板は、Md30値が−60℃以下のステンレス鋼によって構成されていることを特徴としている。
【0009】
端板は、永久磁石からの磁束が端板を越えて外側に漏れ出すのを防止するため、非磁性の材料によって構成することが好ましい。ここで、非磁性の材料であるSUS304のようなオーステナイト系ステンレス鋼によって端板を形成した場合には、端板の製造工程における冷間加工の際に組織がマルテンサイト化して磁性を有するようになってしまう。しかしながら、この回転子では、端板をMd30値が−60℃以下であるようなステンレスを用いて構成しているため、冷間加工を加えても、端板がマルテンサイト化してしまうことがなく、厚み、形状に関わらず、端板の非磁性を保つことができる。
【0010】
第2の発明に係る回転子は、第1の発明に係る回転子であって、前記端板の圧下率が40%以上であることを特徴としている。
【0011】
端板を製造する際には、圧延によって端板の厚みを薄くすることになるが、このとき、オーステナイト系のステンレス鋼では、圧下率が大きいほど組織がマルテンサイト化しやすくなる。しかしながら、この回転子では、Md値が−60℃以下のステンレス鋼を用いた場合には、圧下率を40%以上にした場合であっても、組織がマルテンサイト化しないため、端板を薄く形成することができる。
【0012】
第3の発明に係る回転子は、第1の発明に係る回転子であって、前記端板の比透磁率が1.01以下あることを特徴としている。
【0013】
この回転子では、端板の比透磁率が1.01以下であるので、永久磁石からの磁束が端板を越えて外側に漏れ出すのを確実に防止することができる。
【0014】
第4の発明係る回転子は、第1又は第2の発明に係る回転子であって、前記端板及び前記鉄心を貫通するように延びて、前記2枚の端板を前記鉄心に固定する固定部材をさらに備えており、前記端板の少なくとも一方に、前記鉄心と反対側に突出した突出部が設けられており、前記突出部の先端には、磁性部材が固定されていることを特徴としている。
【0015】
端板の外側の面に磁性部材が配置されている場合、固定部材の先端と磁性部材とが接触あるいは非常に近接して配置されていると、固定部材及び磁性部材を介して、永久磁石の磁束が、端板を越えて外側に漏れ出してしまう虞がある。しかしながら、この回転子では、端板に突出部が設けられているとともに、突出部の先端に磁性部材が固定されているので、固定部材の先端と磁性部材とが十分に離隔して配置されることになり、上述したような磁束の漏れ出しを防止することができる。
【0016】
第5の発明に係る回転子は、第4の発明に係る回転子であって、前記固定部材と前記磁性部材との距離が、2mm以上であることを特徴としている。
【0017】
この回転子では、固定部材と磁性部材との距離が2mm以上となっている場合には、固定部材及び磁性部材を介して永久磁石の磁束が端板を越えて外側に漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。
【0018】
第6の発明に係るモータは、第1〜第5の発明のいずれかに係る回転子を備えていることを特徴としている。
【0019】
このモータでは、第1〜第5の発明のいずれかと同様の効果を得ることができる。
【0020】
第7の発明に係る圧縮機は、第1〜第5のいずれかの発明に係る回転子を備えていることを特徴とするものである。
【0021】
この圧縮機では、第1〜第5の発明のいずれかと同様の効果を得ることができる。
【0022】
第8の発明に係る圧縮機は、第4又は第5の発明に係る回転子を備えており、前記磁性部材が、潤滑油と圧縮冷媒とを分離するオイルセパレータであることを特徴としている。
【0023】
この圧縮機では、第4又は第5の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0025】
第1の発明では、端板をMd30値が−60℃以下であるようなステンレスを用いて構成しているため、冷間加工を加えても、端板がマルテンサイト化してしまうことがなく、厚み、形状に関わらず、端板の非磁性を保つことができる。
【0026】
第2の発明では、Md値が−60℃以下のステンレス鋼を用いた場合には、圧下率を40%以上にした場合であっても、組織がマルテンサイト化しないため、端板を薄く形成することができる。
【0027】
第3の発明では、端板の比透磁率が1.01以下であるので、永久磁石からの磁束が端板を越えて外側に漏れ出すのを確実に防止することができる。
【0028】
第4の発明では、端板に突出部が設けられているとともに、突出部の先端に磁性部材が固定されているので、固定部材の先端と磁性部材とが十分に離隔して配置されることになり、永久磁石から固定部材及び磁性部材を介して磁束が漏れ出してしまうのを防止することができる。
【0029】
第5の発明では、固定部材と磁性部材との距離が2mm以上となっている場合には、固定部材及び磁性部材を介して、永久磁石の磁束が、端板を越えて外側に漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。
【0030】
第6の発明では、第1〜第5の発明のいずれかと同様の効果を得ることができる。
【0031】
第7の発明では、第1〜第5の発明のいずれかと同様の効果を得ることができる。
【0032】
第8の発明では、第4又は第5の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る回転子、モータ及び圧縮機の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係る圧縮機の概略構成図である。圧縮機1は、アキュムレータ2から導入される水分が除去された圧縮冷媒を圧縮して、その上端部に配置された排出流路25から圧縮した圧縮冷媒を排出するものである。図1に示すように、圧縮機1は、ケーシング11(密閉容器)、モータ12及び圧縮機構13(圧縮要素)を備えている。
【0035】
ケーシング11は、胴体21、トップ22及びボトム23によって構成されている。胴体21は、上下方向に延びた略円筒状の部材であり、その上下端が開口している。また、胴体21の側面には右下端部にアキュムレータ2から圧縮冷媒を導入するための導入口24が形成されている。トップ22は、胴体21の上端の開口を塞ぐ部材である。また、トップ22には、前述した排出流路25が設けられている。ボトム23は胴体21の下端の開口を塞ぐ部材である。そして、ケーシング11には、胴体21、トップ22及びボトム23によって囲まれた密閉空間26が形成されている。
【0036】
図2、図3は、それぞれ、図1のモータ12の斜視図及び平面図である。図4は、図2の回転子32の側面図である。ただし、図面を分かりやすくするため、図2においては、後述する固定子31のコイル、並びに、回転子32の端板54及びオイルセパレータ55の図示を省略している。図2〜図4に示すように、モータ12は固定子31及び回転子32を有している。
【0037】
固定子31は、積層鉄心41及びコイル42を有している。積層鉄心41は、金属材料からなる薄板である複数枚の固定子コア43が互いに積層されるとともに、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。積層鉄心41は、胴体21の内壁面に固定されている。
【0038】
積層鉄心41には、その略中央部に上下方向に延びた平面視で略円形の貫通孔44が形成されている。貫通孔44の内部には、回転子32が配置される。これにより、固定子31は、回転子32の径方向外側に配置される。また、積層鉄心41には、貫通孔44の外側に貫通孔44の周方向に沿って配置された複数のスロット45が形成されている。複数のスロット45は、それぞれ個別に貫通孔44と連通しているとともに、積層鉄心41を貫通している。積層鉄心41の、隣接するスロット45の間の部分には、銅線が巻きつけられることによって形成された複数のコイル42が配置されている。これら複数のコイル42のうち、互いに対向する位置に配置されたもの(平面視で積層鉄心41の中心に対して互いに180°ずれた位置に配置されたもの)は、それぞれ、同じ位相の電圧が印加される1組のコイルの組を構成している。
【0039】
回転子32は、積層鉄心51、4つの永久磁石52、端板53、54及びオイルセパレータ55を有している。積層鉄心51は、金属材料からなる薄板である複数の回転子コアが互いに積層されるとともに、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。また、積層鉄心51には、その略中央部に、平面視で略円形の貫通孔57が形成されている。貫通孔57には、クランク軸60の上端部が挿しこまれており、クランク軸60が積層鉄心51に固定されている。
【0040】
また、積層鉄心51には、貫通孔57の外側の部分に、積層鉄心51の周方向に沿って、互いに90°ずつずれて配置された4つの貫通孔58が形成されている。貫通孔58は、その略中央部が永久磁石52を収納するための収納空間58aとなっているとともに、その両端部が、収納空間58aから積層鉄心51の径方向に延びたバリア空間58bとなっている。バリア空間58bは、収納空間58aに配置された永久磁石52の磁束が、隣接する貫通孔58の収納空間58aに収納された永久磁石52に達し、磁束が積層鉄心51内で短絡してしまうのを防止するための空間である。
【0041】
4つの永久磁石52は、例えば、比較的磁力が大きい希土類磁石(ネオジ−鉄−ボロン)などである。これら4つの永久磁石は、略直方体形状を有して、4つの貫通孔58の収納空間58aに収納されている。これら4つの永久磁石52は、積層鉄心51の径方向外側がN極またはS極となるように配置されており、これにより、積層鉄心51のこれら4つの永久磁石52が配置された貫通孔58の外側の部分がN極またはS極に磁化されている。
【0042】
端板53は、非磁性材料である、Md30値が−60℃以下のステンレスからなる平面視で略円形の板状体であり、積層鉄心51の下端に接合されている。端板53は、収納空間58aに収納された永久磁石52が下方に飛び出てしまうのを防止しているとともに、永久磁石52の磁束が回転子32の下方(端板53を越えて外側)に漏れ出してしまうのを防止している。また、端板53の略中央部には、クランク軸60を通過させるための貫通孔53aが形成されている。
【0043】
ここで、Md30値とは、以下の式によって定義される値である。
【数1】

なお、この式における(C+N%)、(Si%)、(Mn%)、(Cr%)、(Ni+Cu%)、及び(Mo%)は、それぞれ、各元素の含有率(質量%)を示している。
【0044】
図5は圧下率が40%となるようにステンレスを圧延加工(冷間加工)したときのMd30値と比透磁率との関係を示す図である。図5に示すように、圧下率が40%となるようにステンレスを圧延加工した場合、Md値30が−60℃以下のときには比透磁率がほぼ1となる。また、Md30値が−60℃以下のステンレスにおいては磁性をほとんど帯びないことが知られている(例えば、特開平4−272158号公報参照)。
【0045】
端板53が、SUS304のようなオーステナイト系ステンレスなどにより構成されている場合には、端板53は、圧延加工の際にマルテンサイト化して磁性を帯びてしまいやすく、端板53が磁性を帯びてしまうと、永久磁石52の磁束が下方に漏れ出してしまうのを防止することができなくなってしまう。しかしながら、本実施の形態では、上記結果が示すように、端板53を、マルテンサイト化しにくいMd30値が−60℃以下のステンレスにより構成しているため、ステンレスを加工して端板53を製造しても端板53の非磁性は保持される。具体的には、端板53の比透磁率が1.01以下に保持される。したがって、永久磁石52の磁束が下方に漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。なお、永久磁石52として、上述したような磁力の大きい希土類磁石などを用いた場合には、この磁束の漏れの防止効果は特に顕著なものとなる。
【0046】
端板54は、端板53と同様のMd30値が−60℃以下のステンレスからなる、平面視で略円形の板状体であり、積層鉄心51の上端に接合されている。端板54は、収納空間58aに収納された永久磁石52が上方に飛び出してしまうのを防止しているとともに、永久磁石52の磁束が回転子32の上方(端板54を越えて外側)に漏れ出してしまうのを防止している。また、端板54の略中央部には、上方に折り曲げられることによって上方に突出した突出部54aが形成されている。端板53、54は、積層鉄心51、端板53、54、及び、端板54の上面に配置されたバランスウェイト57を貫通する金属などの磁性材料からなるリベット56によって積層鉄心51に固定されている。ここで、バランスウェイト57は、回転子32とクランク軸60とをあわせたものの重心が、クランク軸60の中心軸上にくるように、後述する偏心部60aに対応して設けられたおもりである。
【0047】
ここで、端板54が、Md30値が−60℃以下のステンレスにより構成されているため、前述したのと同様、永久磁石52の磁束が上方に漏れ出してし合うのを確実に防止することができる。さらに、端板54を形成する際には、突出部54aを形成するために曲げ加工を行うことになるが、端板54がSUS304のようなオーステナイト系ステンレスからなる場合には、曲げ加工の際に特にマルテンサイト化しやすい。しかしながら、本実施の形態では、端板54がMd30値が−60℃以下のステンレスにより構成されているため、突出部54aを形成する際の曲げ加工においても端板54はマルテンサイト化せず、非磁性が保持される。具体的には、端板54の比透磁率は1.01以下に保持される。したがって、永久磁石52の磁束が上方に漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。なお、永久磁石52として、上述したような磁力の大きい希土類磁石などを用いた場合には、この磁束の漏れの防止効果は特に顕著なものとなる。
【0048】
オイルセパレータ55(磁性部材)は、金属などの磁性体からなる平面視で略円形の板状体であり、突出部54aの上面に接合されている。ここで、圧縮機1においては、モータ12、圧縮機構13などの動作を滑らかにするため、密閉空間26内には、潤滑油が循環している。そして、オイルセパレータ55が回転する遠心力によって潤滑油と圧縮冷媒の混合体が分散され、固定子31の積層鉄心41から突出しているコイル42に衝突し、この際の衝撃で密閉空間26内の圧縮冷媒と潤滑油とが分離されるとともに、回転子32近傍を上方に流れる潤滑油が、さらに上方に流れて排出流路25に達してしまうのが防止される。
【0049】
ここで、リベット56の上端部に設けられた頭部56aの上面と、リベット56よりも面積の大きいオイルセパレータ55とが接触している、あるいは、非常に近接して配置されていると、リベット56及びオイルセパレータ55がともに磁性材料により構成されているため、永久磁石52の磁束がリベット56及びオイルセパレータ55を介して、モータ12の上方に漏れ出してしまう虞がある。
【0050】
図6は、リベット56の頭部56aの上面とオイルセパレータ55との間隔(リベット56とオイルセパレータ55との距離)と、フラックス(磁束量)との関係を示す図である。なお、図6では、オイルセパレータ55がない場合のフラックスを100%としている。図6の結果から、リベット56の頭部56aの上面とオイルセパレータ55との間隔dが大きくなるほどフラックスの低下は小さくなるが、両者の間隔dを2mm以上としても、フラックスの低下はそれ以上小さくならないことが分かる。したがって、永久磁石52の磁束が、リベット56及びオイルセパレータ55を介して漏れ出してしまうのを極力抑えるためには、リベット56の頭部56aの上面とオイルセパレータ55とを離隔させることが好ましく、さらに、両者の間隔dを2mm以上とすることが好ましい。
【0051】
そこで、本実施の形態では、リベット56の頭部56aの上面とオイルセパレータ55との間隔dを2mm以上となるように、前述した突出部54aが、リベット56の頭部56aの上面とオイルセパレータ55と間に2mm以上の間隔を形成するための高さに、リベット56の頭部56aの高さ(例えば、1mm)、及び、バランスウェイト57の厚みを加えた高さとなっている。
【0052】
次に、モータ12の駆動方法について説明する。モータ12を駆動させるためには、前述した複数のコイル42の組に、所定量ずつ位相がずれた交流電圧を印加する。各コイル42には、印加された電圧に応じた磁界が発生するが、交流電圧の位相の変化によって磁界の方向が変化する。その結果、貫通孔44の内部には、平面視で時計回りの回転磁界が発生する。そして、この回転磁界と永久磁石52の磁界とによって発生する磁力によって回転子32が回転する。そして、回転子32の回転により、回転子32に固定されたクランク軸60も回転する。
【0053】
圧縮機構13は、モータ12の下方に配置されている。圧縮機構13は、いわゆるロータリー型の圧縮機構であり、シリンダ部61、ピストン62、フロントヘッド63及びリアヘッド64を有している。
【0054】
シリンダ部61は、その側面が胴体21の内壁面に固定されている。また、シリンダ部61には、その略中央部に、シリンダ部61を上下方向に貫通する平面視で略円形のシリンダ室71が形成されている。さらに、シリンダ部61には、シリンダ室71の図1における右側の側面から図1の右方に導入口24まで延びた、圧縮冷媒をシリンダ室71に導入するための導入流路72が形成されている。これにより、アキュムレータ2から圧縮機1に導入された圧縮冷媒は、シリンダ室71に流れ込むことになる。
【0055】
フロントヘッド63は、シリンダ部61の上面に接合されており、シリンダ室71の上端の開口を塞いでいる。また、フロントヘッド63には、その略中央部に平面視で略円形の貫通孔63aが形成されており、クランク軸60が貫通孔63aを通過している。
【0056】
リアヘッド64は、シリンダ部61の下面に接合されており、シリンダ室71の下端の開口を塞いでいる。また、リアヘッド64には、その略中央部に平面視で略円形の貫通孔64aが形成されており、クランク軸60が貫通孔64aを通過している。
【0057】
ピストン62は、シリンダ室71の内部に収納されており、その略中央部に、貫通孔62aが形成されている。貫通孔62aには、クランク軸60の下端部近傍に設けられており、その中心軸がクランク軸60の中心軸からずれた偏心部60aが挿入されており、ピストン62が偏心部60aに固定されている。
【0058】
ここで、前述したように、モータ12を駆動させることにより、回転子32及びクランク軸60を回転させると偏心部60aも回転する。これにより、圧縮機構13においては、偏心部60aに固定されたピストン62が回転し、シリンダ室71の容積が変化することによりシリンダ室71内の圧縮冷媒が圧縮され、圧縮された圧縮冷媒が、シリンダ室71から密閉空間26に排出される。そして、密閉空間26内の圧縮冷媒は、排出流路25から排出される。なお、圧縮機構13の構成は、従来のロータリー型の圧縮機構と同様の構成を有するものであるので、ここでは、圧縮機構13についてのこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態の回転子32、モータ12及び圧縮機1では、端板53、54をMd30値が−60℃以下であるようなステンレスを用いて構成しているため、冷間加工、曲げ加工を加えても、端板53、54がマルテンサイト化してしまうことがなく、厚み、形状に関わらず、端板の非磁性を保つことができる。
【0060】
また、Md値が−60℃以下のステンレス鋼を用いて端板53、54を構成しているので、圧下率を40%以上にした場合であっても、組織がマルテンサイト化せず、端板53、54を薄く形成することができる。
【0061】
また、端板53、54の比透磁率が1.01以下であるので、永久磁石52からの磁束が端板53の下方、あるいは、端板54の上方に漏れ出すのを確実に防止することができる。
【0062】
また、端板54に突出部54aが設けられているとともに、突出部54aの先端にオイルセパレータ55が固定されているので、リベット56とオイルセパレータ55とが十分に離隔して配置されることになり、永久磁石52からリベット56及びオイルセパレータ55を介して磁束が上方に漏れ出してしまうのを防止することができる。
【0063】
また、リベット56とオイルセパレータ55との距離が2mm以上となっているので、永久磁石52の磁束がリベット56及びオイルセパレータ55を介して端板54の上方に漏れ出してしまうのを確実に防止することができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0065】
上述の実施の形態では、回転子32は、端板54の略中央部に突出部54aが形成されており、突出部54aの上端にオイルセパレータ55が固定された構造を有していたが、回転子の構造は、これには限られない。例えば、一変形例では、図7に示すように、回転子80において、積層鉄心81に、リベット56が貫通する部分よりも外側の部分に永久磁石52が収納される収納部91が形成されている。また、積層鉄心81の上面には平面視で略円形の、突出部が形成されていない平板である端板84が配置されており、オイルセパレータは設けられていない。ここで、端板84は、端板53と同様、Md30値が−60℃以下のステンレスからなる(変形例1)。
【0066】
この場合でも、端板53、84が、Md30値が−60℃以下のステンレスからなるため、実施の形態と同様、端板53、84の圧延加工の際に端板53、84がマルテンサイト化して磁性を帯びてしまうことがなく、端板53、84により、永久磁石52からの磁束の漏れを確実に防止することができる。
【0067】
また、上述の実施の形態では、端板54の突出部54aの上面にオイルセパレータ55が固定されていたが、オイルセパレータ55以外の磁性部材が固定されていてもよい。この場合でも、リベット56の頭部56aの上面と磁性部材との間隔を2mm以上とすることにより、実施の形態と同様、永久磁石52の磁束がリベット56及び磁性部材を介して外部に漏れ出してしまうのを防止することができる。
【0068】
また、上述の実施の形態では、圧縮機1がいわゆるロータリー型の圧縮機となっていたが、これには限られず、スクロール型などの圧縮機のモータの回転子に本発明を適用することも可能である。さらには、圧縮機以外に用いられるモータの回転子に本発明を適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明を利用すれば、冷間加工を加えても、端板がマルテンサイト化してしまうことがなく、厚み、形状に関わらず、端板の非磁性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明における実施の形態に係る圧縮機の概略構成図である。
【図2】図1のモータの構成を示す斜視図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】図2の回転子の断面図である。
【図5】圧下率が40%となるようにステンレスを圧延加工したときのMd30値と比透磁率との関係を示す図である。
【図6】リベットとオイルセパレータとの間隔と、フラックス(磁束量)との関係を示す図である。
【図7】変形例1の図4相当の断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 圧縮機
11 ケーシング
12 モータ
13 圧縮機構
32 回転子
51 積層鉄心
52 永久磁石
53、54 端板
54a 突出部
55 オイルセパレータ
56 リベット
58a 収納空間
60 シャフト
80 回転子
82 永久磁石
84 端板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石(52、82)と、
前記永久磁石(52、82)が収納される両端が開口した収納空間(58a)を有する鉄心(51)と、
前記収納空間(58a)の開口を塞ぐ2枚の端板(53、54、84)とを備えており、
前記端板(53、54、84)は、Md30値が−60℃以下のステンレス鋼によって構成されていることを特徴とする回転子(32、80)。
【請求項2】
前記端板(53、54、84)の圧下率が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の回転子(32、80)。
【請求項3】
前記端板(53、54、84)の比透磁率が1.01以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転子(32、80)。
【請求項4】
前記端板(53、54)及び前記鉄心(51)を貫通するように延びて、前記端板(53、54)を前記鉄心(51)に固定する固定部材(56)をさらに備えており、
前記端板(53、54)の少なくとも一方(54)に、前記鉄心(51)と反対側に突出した突出部(54a)が設けられており、
前記突出部(54a)の先端には、磁性部材(55)が固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転子(32、80)。
【請求項5】
前記固定部材(56)と前記磁性部材(55)との距離が、2mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の回転子(32、80)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の回転子(32、80)を備えていることを特徴とするモータ(12)。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の回転子(32、80)を備えていることを特徴とする圧縮機(1)。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の回転子(32、80)を備えており、
前記磁性部材(55)が、潤滑油と圧縮冷媒とを分離するオイルセパレータ(55)であることを特徴とする圧縮機(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−171775(P2009−171775A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8691(P2008−8691)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】