説明

回転速度検出装置付き車輪用軸受装置

【課題】組立の作業性を改善し、組立精度を向上させると共に、検出部に異物が侵入するのを防止して信頼性を向上させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】カバー11が、外方部材5のインナー側の端部に圧入される円筒状の嵌合部11aと、この嵌合部11aから径方向内方に延び、外方部材5の端面に密着される鍔部11bと、この鍔部11bからさらに径方向内方に延びる底部11cとを備え、この底部11cの径方向外方の周方向一箇所に、嵌合部11aからインナー側に突出して固定部19が形成され、この固定部19に回転速度センサ20が包埋された合成樹脂製の保持部12が一体に結合されると共に、外方部材5のインナー側の端部と、センサホルダ10の回転速度センサ20に対応する位置にマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて外方部材5にセンサホルダ10が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車等の車輪を回転自在に支承すると共に、この車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支承すると共に、アンチロックブレーキシステム(ABS)を制御し、車輪の回転速度を検出する回転速度検出装置が内蔵された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が一般的に知られている。従来、このような車輪用軸受装置は、転動体を介して転接する内方部材および外方部材の間にシール装置が設けられ、円周方向に磁極を交互に並べてなる磁気エンコーダを前記シール装置に一体化させると共に、磁気エンコーダと、この磁気エンコーダに対面配置され、車輪の回転に伴う磁気エンコーダの磁極変化を検出する回転速度センサとで回転速度検出装置が構成されている。
【0003】
前記回転速度センサは、懸架装置を構成するナックルに車輪用軸受装置が装着された後、当該ナックルに装着されているものが一般的である。しかし、この回転速度センサと磁気エンコーダとのエアギャップ調整作業の煩雑さを解消すると共に、よりコンパクト化を狙って最近では、回転速度センサをも軸受に内蔵した回転速度検出装置付き車輪用軸受装置が提案されている。
【0004】
このような回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一例として図8に示すような構造が知られている。この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、図示しない懸架装置に支持固定され、固定部材となる外方部材51と、この外方部材51に複列のボール53、53を介して内挿された内方部材52とを有している。外方部材51は、外周に車体取付フランジ51bを一体に有し、内周には複列の外側転走面51a、51aが形成されている。
【0005】
一方、内方部材52は、前記した外方部材51の複列の外側転走面51a、51aに対向する複列の内側転走面55a、56aが形成されている。これら複列の内側転走面55a、56aのうち一方の内側転走面55aはハブ輪55の外周に一体形成され、他方の内側転走面56aは内輪56の外周に形成されている。この内輪56は、ハブ輪55の内側転走面55aから軸方向に延びる円筒状の小径段部55bに圧入されている。そして、複列のボール53、53がこれら両転走面間にそれぞれ収容され、保持器57、57によって転動自在に保持されている。
【0006】
ハブ輪55は、外周に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ54を一体に有し、この車輪取付フランジ54の円周等配位置には車輪を固定するためのハブボルト54aが植設されている。また、ハブ輪55の内周にはセレーション55cが形成され、図示しない等速自在継手を構成する外側継手部材60のステム部61が内嵌されている。内方部材52は、このハブ輪55と内輪56を指す。そして、外方部材51の端部にはシール58、59が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0007】
インナー側のシール59は、図9に拡大して示すように、外方部材51の端部内周に内嵌され、断面L字状に形成された第1のシール板62と、この第1のシール板62に対向し、断面L字状に形成された第2のシール板63とからなる。この第2のシール板63は、内輪56に外嵌される円筒部63aと、この円筒部63aから径方向外方に延びる立板部63bとを有し、この立板部63bの外側面には磁気エンコーダ64が一体に加硫接着されている。この磁気エンコーダ64は、磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが形成されたゴム磁石からなる。
【0008】
一方、第1のシール板62は、断面L字状に形成された芯金65と、この芯金65に一体に加硫接着され、前記第2のシール板63における立板部63bの内側面に摺接するサイドリップ66aと、円筒部63aに摺接する一対のラジアルリップ66b、66cとからなるシール部材66とを有している。
【0009】
外方部材51の端部には、嵌合筒67と、この嵌合筒67に結合された保持部68とからなる円環状のセンサホルダ69が装着されている。嵌合筒67は、嵌合筒部67aと、この嵌合筒部67aから径方向内方に延びる内向鍔部67bとからなり、断面L字状で全体として円環状に形成されている。
【0010】
保持部68は、その内部に前記磁気エンコーダ64に所定のエアギャップを介して対峙する回転速度センサ70が包埋され、合成樹脂で円弧状に一体モールド成形されている。回転速度センサ70は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子と、この磁気検出素子の出力波形を整える波形成形回路が組み込まれたICとからなる。
【0011】
ここで、内輪56の端面と嵌合筒67の内向鍔部67bとを微小隙間71を介して全周に亙り近接対向させてラビリンスシールが構成されている。これにより、自動車の完成品メーカの組立ラインへの搬送時を含む、ハブ輪55の内径に外側継手部材60のステム部61を嵌合する以前の状態でも、磁気エンコーダ64と回転速度センサ70の検出部との間に外部から磁性粉末等の異物が侵入するのを防止できる。したがって、車輪の回転速度検出の信頼性向上を図ることができる。
【特許文献1】特開2003−254985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
こうした従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、自動車の完成品メーカの組立ラインへの搬送時を含む、ハブ輪55の内径に外側継手部材60のステム部61を嵌合する以前の状態でも、磁気エンコーダ64と回転速度センサ70の検出部との間に外部から磁性粉末等の異物が侵入するのを防止できる特徴を具備する。然しながら、センサホルダ69は外方部材51の周方向の所定箇所に配設されるが、嵌合筒67を外方部材51に圧入する際、周方向の位置がずれた状態で圧入される恐れがある。この位置ずれにより、嵌合筒67に結合された保持部68の位置がずれ、車輪用軸受装置を車両に組み立てた後にハーネス72の長さが不足して断線したり、嵌合筒67のドレーン孔73の位置ずれにより泥水等の異物が排出されずに嵌合筒67内に滞留して固着する。そして、車両発進時に固着した異物が遠心力で攪拌されて磁気エンコーダ64や保持部68の表面が損傷する恐れがある。これでは、長期間の使用において、車輪の回転速度検出の信頼性を維持することは難しい。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、組立の作業性を改善し、組立精度を向上させると共に、検出部に異物が侵入するのを防止して信頼性を向上させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、外周に懸架装置に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入された環状のカバー、およびこのカバーに結合され、回転速度センサが包埋された合成樹脂製の保持部からなるセンサホルダとを備え、前記内輪の外径に周方向に関する特性が交互にかつ等間隔に変化するパルサリングが配設され、このパルサリングが前記回転速度センサに所定の軸方向すきまを介して対峙された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記外方部材のインナー側の端部の所定箇所にマークが形成されると共に、前記センサホルダの所定の位置に所定のマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて前記外方部材に前記センサホルダが装着されている。
【0015】
このように、外方部材のインナー側の端部外周に圧入された環状のカバーと、このカバーに結合され、回転速度センサが包埋された合成樹脂製の保持部からなるセンサホルダを備えた内輪回転タイプの回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、外方部材のインナー側の端部の所定箇所にマークが形成されると共に、センサホルダの所定の位置に所定のマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて外方部材にセンサホルダが装着されているので、各マークを目視しながら外方部材に対してセンサホルダを精度良く装着することができ、組立の作業性を改善し、信頼性を向上させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、前記外方部材のマークがレーザーマーキングまたはペイントによって形成されている。
【0017】
また、請求項3に記載の発明は、前記センサホルダのマークがペイントまたは刻印によって形成されている。
【0018】
また、請求項4に記載の発明のように、前記シールのうちインナー側のシールが、前記外方部材のインナー側の端部に内嵌され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成された芯金、およびこの芯金に一体に接合されたシール部材からなる環状のシール板と、このシール板に対向して前記内輪の外径に圧入され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成されたスリンガとからなり、このスリンガのインナー側の側面に、エラストマに磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが着磁された磁気エンコーダが一体に接合されていても良い。
【0019】
また、請求項5に記載の発明のように、前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材の端面に密着する鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる底部とを備え、この底部に前記保持部が一体に結合されていれば、外方部材に対してセンサホルダが容易に、かつ正確に位置決め固定することができ、車輪の回転速度を精度良く検出することができる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明のように、前記底部の径方向外方の周方向一箇所に、前記嵌合部からインナー側に突出して固定部が形成され、この固定部に前記保持部が一体に結合されていれば、保持部のスペースを確保しつつカバーと内輪との環状空間を小さくでき、密封性を向上させることができる。
【0021】
好ましくは、請求項7に記載の発明のように、前記固定部が路面垂直方向に対して30〜90°の範囲に形成されると共に、前記外方部材のインナー側の端部外周における前記固定部に対応する位置に前記マークが形成されていれば、保持部に対してハーネスを過度に曲げることにより内部配線への悪影響が生じるのを防止すると共に、ハーネス自体の長さが必要以上に長くなり、組立作業が煩雑となって作業性が低下するのを防止することができる。
【0022】
また、請求項8に記載の発明のように、前記底部の路面から最も近い側の周方向一箇所にドレーン孔が穿設されていれば、車両走行中に底部内に泥水や小石等の異物が入り込んだとしても容易に排出され、長時間に亘って滞留することはない。したがって、異物が車両停止時に固着して周辺部品に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、外周に懸架装置に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材および前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入された環状のカバー、およびこのカバーに結合され、回転速度センサが包埋された合成樹脂製の保持部からなるセンサホルダとを備え、前記内輪の外径に周方向に関する特性が交互にかつ等間隔に変化するパルサリングが配設され、このパルサリングが前記回転速度センサに所定の軸方向すきまを介して対峙された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記外方部材のインナー側の端部の所定箇所にマークが形成されると共に、前記センサホルダの所定の位置に所定のマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて前記外方部材に前記センサホルダが装着されているので、各マークを目視しながら外方部材に対してセンサホルダを精度良く装着することができ、保持部の位置がずれた状態で車両に組み立てた後、ハーネスの長さが不足して断線したり、ドレーン孔の位置ずれにより泥水等の異物が排出されずに滞留するのを防止することができ、信頼性を向上させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
外周に懸架装置に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に前記複列の外側転走面の一方に対向する内側転走面と、この内側転走面から軸方向に延びる円筒状の小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入され、外周に前記複列の外側転走面の他方に対向する内側転走面が形成された内輪からなる内方部材と、この内方部材および前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入された環状のカバー、およびこのカバーに結合され、回転速度センサが包埋された合成樹脂製の保持部からなるセンサホルダとを備え、前記シールのうちインナー側のシールが、前記外方部材のインナー側の端部に内嵌され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成された芯金、およびこの芯金に一体に接合され、サイドリップとラジアルリップを有するシール部材からなる環状のシール板と、このシール板に対向して前記内輪の外径に圧入され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成されたスリンガとからなり、このスリンガのインナー側の側面に、エラストマに磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが着磁された磁気エンコーダが一体に接合さると共に、この磁気エンコーダが前記回転速度センサに所定の軸方向すきまを介して対峙された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材の端面に密着される鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる底部とを備え、この底部の径方向外方の周方向一箇所に、前記嵌合部からインナー側に突出して固定部が形成され、この固定部に前記保持部が一体に結合されると共に、前記外方部材のインナー側の端部と、前記センサホルダの所定の位置にそれぞれ所定のマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて前記外方部材に前記センサホルダが装着されている。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図、図2は、図1の検出部を示す要部拡大図、図3は、センサホルダ装着前の車輪用軸受装置を示す側面図、図4は、図1の側面図、図5は、図3の変形例で、センサホルダ装着前の車輪用軸受装置を示す正面図、図6は、図5のセンサホルダ装着後の車輪用軸受装置を示す正面図、図7(a)は、図6の組立状態を示す要部拡大図、(b)は、(a)の変形例を示す要部拡大図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(図面左側)、中央寄り側をインナー側(図面右側)という。
【0026】
この回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と内輪2からなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体(ボール)4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。
【0027】
ハブ輪1は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、この車輪取付フランジ6の円周等配位置にハブボルト6aが植設されている。また、外周にはアウター側(一方)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成され、内周にはトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。ハブ輪1の小径段部1bには内輪2が所定のシメシロを介して圧入固定されている。この内輪2の外周にはインナー側(他方)の内側転走面2aが形成されている。
【0028】
ハブ輪1はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、内側転走面1aをはじめ、後述するシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部1bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。これにより、基部6bの耐摩耗性が向上するばかりでなく、内輪2の嵌合面となる小径段部1bのフレッティングが抑制されると共に、車輪取付フランジ6に負荷される回転曲げ荷重に対してハブ輪1は充分な機械的強度を有する。なお、内輪2および転動体4は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0029】
外方部材5はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼からなり、外周にナックル(図示せず)に取り付けるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周には前記内方部材3の複列の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。これら複列の外側転走面5a、5aは高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0030】
そして、外方部材5の複列の外側転走面5a、5aと、これらに対向する内方部材3の複列の内側転走面1a、2a間には複列の転動体4、4がそれぞれ収容され、保持器7、7によって転動自在に保持されている。また、外方部材5と内方部材3との間に形成される環状空間の開口部にはシール8、9が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩と、外部から軸受内部に雨水やダスト等が侵入するのを防止している。
【0031】
アウター側のシール8は、外方部材5に装着され、車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bに摺接する複数のリップを有する一体型のシールで構成されている。一方、インナー側のシール9は、外方部材5に装着され、断面略L字状に形成された環状のシール板13と、このシール板13に対向配置され、内輪2の外径に圧入されたスリンガ14とからなる、所謂パックシールで構成されている。
【0032】
シール板13は、図2に拡大して示すように、外方部材5のインナー側の端部に内嵌された芯金15と、この芯金15に加硫接着等で一体に接合されたシール部材16とからなる。芯金15は、耐食性を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)、あるいは防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面略L字状に形成されている。一方、シール部材16は合成ゴム等の弾性部材からなり、サイドリップ16aとグリースリップ16bおよび中間リップ16cを有している。
【0033】
また、スリンガ14は、強磁性体の鋼鈑、例えば、フェライト系のステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工によって断面略L字状に形成され、内輪2に圧入される円筒部14aと、この円筒部14aから径方向外方に延びる立板部14bとを有している。このスリンガ14における立板部14bのインナー側の側面には、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入された磁気エンコーダ(パルサリング)17が加硫接着等によって一体に接合されている。この磁気エンコーダ17は周方向に交互に磁極N、Sが着磁され、車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。シール部材16のサイドリップ16aは、スリンガ14の立板部14bに摺接されると共に、グリースリップ16bおよび中間リップ16cは、円筒部14aにそれぞれ摺接されている。そして、立板部14bの外縁は、シール板13と僅かな径方向すきまを介して対峙し、ラビリンスシール18を構成している。
【0034】
ここで、本実施形態では、センサホルダ10が外方部材5のインナー側の端部に装着されている。このセンサホルダ10は、カップ状に形成されたカバー11と、このカバー11に結合された保持部12とからなる。カバー11は、耐食性を有する非磁性体の鋼鈑、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼鈑(JIS規格のSUS304系等)等のステンレス鋼板をプレス加工にて形成されている。これにより、後述する回転速度センサ20の感知性能に悪影響を及ぼさず、また、カバー11の発錆を抑えて長期間に亘って信頼性を維持させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。
【0035】
このカバー11は、外方部材5のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部11aと、この嵌合部11aから径方向内方に延び、外方部材5の端面5cに密着する鍔部11bと、この鍔部11bからさらに径方向内方に延びる底部11cとを備え、全体として円環状に形成されている。このように、鍔部11bを外方部材5の端面5cに密着させた状態で、カバー11が外方部材5のインナー側の端部に外嵌されているので、外方部材5に対してセンサホルダ10が容易に、かつ正確に位置決め固定することができ、車輪の回転速度を精度良く検出することができる。
【0036】
そして、カバー11における底部11cの径方向外方(路面から遠い側)の周方向一箇所に、嵌合部11aからインナー側に突出して固定部19が形成されている。具体的には、図4に示すように、固定部19は、路面垂直方向に対して傾斜角θが30〜90°の範囲に形成され、この固定部19に切欠き19aが設けられて保持部12が一体に結合されている。ハーネス21はこの保持部12からカバー11の接線方向に延び、回転速度センサ20に結線されている。これにより、ハーネス21がナックルの外径側へ取り出し易くなって組立の作業性が向上する。なお、カバー11の固定部19に保持部12をインサート成形によって一体に結合するようにしても良い。
【0037】
カバー11における固定部19の傾斜角θが路面垂直方向を基準に30°より小さくなれば、ハーネス21を過度に曲げてナックルの外径側へ取り出すことになり、保持部12に対してハーネス21の屈曲角度が大きくなる。これでは、内部配線への悪影響が生じて信頼性を損なう恐れがあり好ましくない。一方、傾斜角θが90°を超えると、ハーネス21自体の長さが必要以上に長くなり、組立作業が煩雑となって作業性が低下するだけでなく、ハーネス21がナックルや他の周辺部品に干渉し易くなるため、信頼性が低下する。
【0038】
なお、カバー11の底部11cにおける路面から最も近い側の周方向の一箇所に繭型形状のドレーン孔22が穿設されている。このドレーン孔22により、車両走行中に底部11c内に泥水や小石等の異物が入り込んだとしても容易に排出され、長時間に亘って滞留することはない。したがって、異物が車両停止時に固着して周辺部品に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【0039】
前記保持部12には回転速度センサ20が包埋されている。この保持部12は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の非磁性の特殊エーテル系合成樹脂材から射出成形によって形成され、さらにGF(ガラスファイバー)等の強化材が添加されている。これにより、回転速度センサ20の感知性能に悪影響を及ぼさず、また、耐食性に優れ、長期間に亘って強度・耐久性を向上させることができる。
【0040】
回転速度センサ20は、磁気エンコーダ17に所定の軸方向すきま(エアギャップ)を介して対峙し、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子と、この磁気検出素子の出力波形を整える波形成形回路が組み込まれたICとからなる。そして、回転速度センサ20の出力がハーネス21によって取り出され、図示しないABSの制御器に送られる。これにより、低コストで信頼性の高い回転速度検出ができる。なお、保持部12は前述した材質以外にPA(ポリアミド)66、PPA(ポリフタルアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の射出成形可能な合成樹脂を例示することができる。
【0041】
ここで、本実施形態では、図3に示すように、外方部材5のインナー側の端面5cに所定のマーク23が付与されている。このマーク23は、レーザーマーキングによって、センサホルダ10の保持部12に対応する位相にドット形状に形成されている。なお、このマーク23は、レーザーマーキングに限らず、ペイントによって形成されていても良い。
【0042】
一方、図4に示すように、センサホルダ10における保持部12の側面にはペイントによって所定の位置にマーク24が形成されている。このマーク24は、回転速度センサ20に対応する位置にドット形状に形成されている。そして、センサホルダ10の組立工程で、外方部材5のマーク23と保持部12のマーク24の位置を合わせてセンサホルダ10が装着されている。これにより、各マーク23、24を目視しながら外方部材5に対してセンサホルダ10を精度良く装着することができ、組立の作業性を改善し、信頼性を向上させた回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を提供することができる。なお、このマーク24は、ペイントに限らず、刻印であっても良く、また、保持部12の成形時に一体に形成しても良い。
【0043】
図5は、前述した組立方法の変形例を示している。ここでは、外方部材5のインナー側の端面外周にマーク25が付与されている。このマーク25は、レーザーマーキングによって、センサホルダ10の保持部12に対応する位相に帯状に形成されている。
【0044】
一方、図6に示すように、センサホルダ10におけるカバー11の嵌合部11aの外周にマーク26が形成されている。このマーク26は、回転速度センサ20に対応する位置に帯状に形成されている。そして、図7(a)に示すように、外方部材5のマーク25とカバー11のマーク26とを一致させた状態で、センサホルダ11が外方部材5に嵌合される。これにより、各マーク25、26を目視しながらセンサホルダ10を容易に装着することができ、外方部材5に対するセンサホルダ10の位置決め精度を高めることができると共に、組立の作業性を一層改善することができる。
【0045】
マーキングの形態はこれ以外にも、図7(b)に示すように、外方部材5のインナー側の端面外周にマーク25が付与されると共に、センサホルダ10における保持部12の外周面にドット形状のマーク27が形成され、これらマーク25、27を一致させてセンサホルダ11を外方部材5に装着するようにしても良い。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置は、外方部材の端部に装着されたカバーと、このカバーに結合され、回転速度センサが包埋された樹脂製の保持部とからなるセンサホルダを備えた車輪用軸受装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る回転速度検出装置付き車輪用軸受装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の検出部を示す要部拡大図である。
【図3】図1のセンサホルダ装着前の車輪用軸受装置を示す側面図である。
【図4】図1の側面図である。
【図5】図3の変形例で、センサホルダ装着前の車輪用軸受装置を示す正面図である。
【図6】同上、センサホルダ装着後の車輪用軸受装置車輪用軸受装置を示す正面図である。
【図7】(a)は、図6の組立状態を示す要部拡大図である。 (b)は、(a)の変形例を示す要部拡大図である。
【図8】従来の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置を示す縦断面図である。
【図9】図8の要部拡大図である。
【図10】図8の側面図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・・・・・・・・・・・ハブ輪
1a、2a・・・・・・・・・・・内側転走面
1b・・・・・・・・・・・・・・小径段部
1c・・・・・・・・・・・・・・セレーション
2・・・・・・・・・・・・・・・内輪
3・・・・・・・・・・・・・・・内方部材
4・・・・・・・・・・・・・・・転動体
5・・・・・・・・・・・・・・・外方部材
5a・・・・・・・・・・・・・・外側転走面
5b・・・・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
5c・・・・・・・・・・・・・・外方部材の端面
6・・・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
6a・・・・・・・・・・・・・・ハブボルト
6b・・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジのインナー側の基部
7・・・・・・・・・・・・・・・保持器
8・・・・・・・・・・・・・・・アウター側のシール
9・・・・・・・・・・・・・・・インナー側のシール
10・・・・・・・・・・・・・・センサホルダ
11・・・・・・・・・・・・・・カバー
11a・・・・・・・・・・・・・嵌合部
11b・・・・・・・・・・・・・鍔部
11c・・・・・・・・・・・・・底部
12・・・・・・・・・・・・・・保持部
13・・・・・・・・・・・・・・シール板
14・・・・・・・・・・・・・・スリンガ
14a・・・・・・・・・・・・・円筒部
14b・・・・・・・・・・・・・立板部
15・・・・・・・・・・・・・・芯金
16・・・・・・・・・・・・・・シール部材
16a・・・・・・・・・・・・・サイドリップ
16b・・・・・・・・・・・・・グリースリップ
16c・・・・・・・・・・・・・中間リップ
17・・・・・・・・・・・・・・磁気エンコーダ
18・・・・・・・・・・・・・・ラビリンスシール
19・・・・・・・・・・・・・・固定部
19a・・・・・・・・・・・・・切欠き
20・・・・・・・・・・・・・・回転速度センサ
21・・・・・・・・・・・・・・ハーネス
22・・・・・・・・・・・・・・ドレーン孔
23、24、25、26、27・・マーク
51・・・・・・・・・・・・・・外方部材
51a・・・・・・・・・・・・・外側転走面
51b・・・・・・・・・・・・・車体取付フランジ
52・・・・・・・・・・・・・・内方部材
53・・・・・・・・・・・・・・ボール
54・・・・・・・・・・・・・・車輪取付フランジ
54a・・・・・・・・・・・・・ハブボルト
55・・・・・・・・・・・・・・ハブ輪
55a、56a・・・・・・・・・内側転走面
55b・・・・・・・・・・・・・小径段部
55c・・・・・・・・・・・・・セレーション
56・・・・・・・・・・・・・・内輪
57・・・・・・・・・・・・・・保持器
58、59・・・・・・・・・・・シール
60・・・・・・・・・・・・・・外側継手部材
61・・・・・・・・・・・・・・ステム部
62・・・・・・・・・・・・・・第1のシール板
63・・・・・・・・・・・・・・第2のシール板
63a・・・・・・・・・・・・・円筒部
63b・・・・・・・・・・・・・立板部
64・・・・・・・・・・・・・・磁気エンコーダ
65・・・・・・・・・・・・・・芯金
66・・・・・・・・・・・・・・シール部材
66a・・・・・・・・・・・・・サイドリップ
66b、66c・・・・・・・・・ラジアルリップ
67・・・・・・・・・・・・・・嵌合筒
67a・・・・・・・・・・・・・嵌合筒部
67b・・・・・・・・・・・・・内向鍔部
68・・・・・・・・・・・・・・保持部
69・・・・・・・・・・・・・・センサホルダ
70・・・・・・・・・・・・・・回転速度センサ
71・・・・・・・・・・・・・・微小隙間
72・・・・・・・・・・・・・・ハーネス
73・・・・・・・・・・・・・・ドレーン孔
θ・・・・・・・・・・・・・・・傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に懸架装置に取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪を取り付けるための車輪取付フランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材および前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と内方部材との間に形成される環状空間の開口部に装着されたシールと、
前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入された環状のカバー、およびこのカバーに結合され、回転速度センサが包埋された合成樹脂製の保持部からなるセンサホルダとを備え、
前記内輪の外径に周方向に関する特性が交互にかつ等間隔に変化するパルサリングが配設され、このパルサリングが前記回転速度センサに所定の軸方向すきまを介して対峙された回転速度検出装置付き車輪用軸受装置において、
前記外方部材のインナー側の端部の所定箇所にマークが形成されると共に、前記センサホルダの所定の位置に所定のマークが形成され、これらのマークの位置を合わせて前記外方部材に前記センサホルダが装着されていることを特徴とする回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記外方部材のマークがレーザーマーキングまたはペイントによって形成されている請求項1に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記センサホルダのマークがペイントまたは刻印によって形成されている請求項1または2に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記シールのうちインナー側のシールが、前記外方部材のインナー側の端部に内嵌され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成された芯金、およびこの芯金に一体に接合されたシール部材からなる環状のシール板と、このシール板に対向して前記内輪の外径に圧入され、鋼板からプレス加工により断面略L字状に形成されたスリンガとからなり、このスリンガのインナー側の側面に、エラストマに磁性体粉が混入されて周方向に交互に磁極N、Sが着磁された磁気エンコーダが一体に接合されている請求項1乃至3いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記カバーが、前記外方部材のインナー側の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記外方部材の端面に密着する鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる底部とを備え、この底部に前記保持部が一体に結合されている請求項1乃至4いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記底部の径方向外方の周方向一箇所に、前記嵌合部からインナー側に突出して固定部が形成され、この固定部に前記保持部が一体に結合されている請求項5に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記固定部が路面垂直方向に対して30〜90°の範囲に形成されると共に、前記外方部材のインナー側の端部外周における前記固定部に対応する位置に前記マークが形成されている請求項6に記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記底部の路面から最も近い側の周方向一箇所にドレーン孔が穿設されている請求項1乃至7いずれかに記載の回転速度検出装置付き車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−8601(P2009−8601A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172075(P2007−172075)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】