説明

圧縮自己着火式エンジンを搭載した車両の制御方法及びその装置

【課題】アイドルストップを行う車両のディーゼルエンジンDEにおいて、自動停止時の掃気による気筒内の温度低下を抑制し、再始動性を向上させる。
【解決手段】エンジンDEを自動停止させる際に、自動変速機ATのトルクコンバータ50のロックアップクラッチ56を締結させて、エンジンDEの回転抵抗を増大させる工程(ステップS4)と、エンジンDEへの燃料供給を停止する工程(ステップS6)と、フォワードクラッチ63のスリップ制御によってエンジンDEの回転抵抗の大きさを調整する工程(ステップS7)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンのような圧縮自己着火式エンジンを搭載した車両の制御に関連し、特に、所定の条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、再始動させるようにしたものに係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、例えば車両の一時停止中に所定の条件が成立すればエンジンを自動停止させることは知られているが(いわゆるアイドルストップ)、このようにエンジンを自動停止した後に再始動させる場合は、乗員のイグニッション操作に対応した通常の始動に比べて、より確実にかつ速やかに始動することが求められる。
【0003】
この点につき、気筒の圧縮により燃料を自己着火させるディーゼルエンジンには、冷間時に気筒内を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグが設けられており、例えば特許文献1に記載のものでは、再始動時にそのグロープラグによって気筒内を加熱することにより、エンジンの始動性を向上させるようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載のアイドルストップ制御装置は、グロープラグや吸気加熱装置のような始動促進装置を備えたエンジンにおいて、その始動促進装置が正常に機能しない場合には、エンジンの温度状態に拘わらずアイドルストップ制御を禁止するようにしている。
【特許文献1】特開2004−176569号公報
【特許文献2】特開2007−023825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記従来例のようにエンジンの再始動時にグロープラグ等によって加熱する方法では、その消費電力がかなり大きいことから、一時的にバッテリ電力が低下してしまい、グロープラグ等を除いた他の電気負荷への供給電力が低下するという問題があるし、グロープラグの場合はその耐久信頼性を損なう虞れもある。
【0006】
この点につき本発明は、燃料カット後にエンジンが惰性で数回転する間に気筒内の掃気が行われて、その温度が低下することに着目し、この温度低下を抑制することによって、エンジンの再始動性を向上させるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために本発明では、エンジンの自動停止時に気筒への燃料供給を停止した後、自動変速機の直結クラッチを締結状態にして回転抵抗を増大させることにより、エンジンを可及的速やかに停止させるようにしている。
【0008】
具体的に請求項1の発明は、所定の自動停止条件の成立に応じて気筒への燃料供給を停止して、エンジンを停止させる一方、その後、所定の再始動条件が成立すれば燃料供給を再開して、エンジンを再始動させる、車両の制御方法が対象である。
【0009】
そして、エンジンが、気筒の圧縮により燃料を自己着火させるものであって、このエンジンに連結されている自動変速機には、直結クラッチ付きの流体伝動装置が備えられている場合に、前記自動停止条件が成立した後に前記直結クラッチを締結した状態で、エンジンを停止させることを特徴とする。
【0010】
前記の方法により、自動停止条件の成立に応じてエンジンを停止させるときには、気筒への燃料供給を停止するとともに、自動変速機の流体伝動装置の直結クラッチを締結してエンジンの回転抵抗を増大させることにより、燃料供給の停止後にエンジンが惰性で回転する数を減らして、気筒の掃気回数を少なくする。これにより、吸入される新気による気筒の冷却が抑制されて、その後に再始動条件が成立したときの気筒内温度が比較的高い状態になり、エンジンの始動性が向上する。
【0011】
そうして変速機の直結クラッチを締結するのは、これに過大な負荷がかからないようにするために、車両の走行速度が所定の微低速以下のとき、即ち殆ど停止しているときとするのがよい(請求項2)。尚、直結クラッチは一般的に車両の走行速度が所定速度になれば、エンジンの回転変動による車体の振動を抑制するために解放するものであり、そうして解放したものを前記所定速度よりも低い微低速以下で再び締結させるのである(請求項3)。
【0012】
好ましいのは、自動変速機において流体伝動装置と直列に設けられ、所定の変速段を構成するための摩擦締結要素を、自動停止条件の成立後にスリップ状態に制御することである(請求項4)。すなわち、一般的に自動変速機の直結クラッチは制御の応答性が低く、微妙な締結力の制御も難しい構造なので、これを例えばフォワードクラッチのスリップ制御によって補完するものである。
【0013】
具体的には、例えば自動停止条件の成立後、気筒への燃料供給を停止する前に直結クラッチの締結動作を開始するとともに、その締結動作が完了する前に摩擦締結要素をスリップ状態に制御することで(請求項5)、燃料供給の停止後、速やかにエンジンの回転抵抗を増大させることができる。
【0014】
また、直結クラッチの締結動作が完了した後は、相対的に制御性の高い摩擦締結要素をスリップ状態に制御することによって、エンジンの回転抵抗を緩やかに増大させることができ、過大なショックを生じることがない(請求項6)。
【0015】
より好ましいのは、気筒への燃料供給の停止によってエンジンが停止する過程の少なくとも前半において、スロットル弁やバルブリフト可変機構のような吸気量調整手段によって気筒への吸気の流れを絞ることであり(請求項7)、こうすれば、新気による気筒の冷却をより効果的に抑制できる上に、エンジンの停止過程において気筒の圧縮、膨張に伴う振動を軽減することができる。
【0016】
別の観点から、本発明は、所定の自動停止条件の成立に応じて気筒への燃料供給を停止してエンジンを停止させる一方、その後、所定の再始動条件が成立すれば燃料供給を再開してエンジンを再始動させる、エンジン制御手段を備えた車両の制御装置であって、前記エンジンが、気筒の圧縮により燃料を自己着火させるものであり、このエンジンに連結されている自動変速機には、直結クラッチ付きの流体伝動装置が備えられている場合を対象とする。
【0017】
そして、前記自動停止条件の成立後に前記直結クラッチを締結状態とする変速機制御手段を備えるとともに、前記エンジン制御手段は、前記自動停止条件成立後の前記直結クラッチの締結状態において気筒への燃料供給を停止するものとする(請求項8)。
【0018】
斯かる構成の制御装置によれば、上述した請求項1の発明に係る制御方法が容易に実行可能であり、その発明の作用が容易且つ確実に得られる。
【0019】
また、前記変速機制御手段は、車両の走行中にその走行速度が低下して、所定車速になったときに前記直結クラッチを解放し、その後、車両の走行速度が所定の微低速以下になって前記自動停止条件が成立したとき、前記直結クラッチを締結するものとするのが好ましく(請求項9)、こうすれば、上述した請求項2,3に係る発明の作用が得られる。
【0020】
さらに、一般的に自動変速機には、所定の変速段を構成するための摩擦締結要素が流体伝動装置と直列に設けられているので、前記変速機制御手段は、エンジンの自動停止条件の成立後に前記摩擦締結要素をスリップ状態に制御するようにするのが好ましく(請求項10)、こうすれば上述した請求項4に係る発明の作用が得られる。
【発明の効果】
【0021】
以上、説明したように本発明に係る車両の制御方法等によると、ディーゼルエンジンのような圧縮自己着火式エンジンを搭載し、所定の条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後、再始動させるものにおいて、その自動停止の際に自動変速機の直結クラッチを締結し、エンジンの回転抵抗を増大させることにより、気筒への燃料供給の停止後にエンジンが惰性で回転する数を減らして、気筒の掃気回数を少なくすることができる。これにより気筒の冷却が抑制されて、その後の再始動時における気筒内温度が比較的高くなり、エンジンの始動性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
(パワートレインの概略構成)
図1は、まず、本発明の実施形態に係る車両に搭載されるディーゼルエンジンDE(以下、単にエンジンDEという)の概略構成を示す。図の例ではエンジンDEは直列4気筒エンジンであり、シリンダヘッド11及びシリンダブロック12にはエンジンDEの前後方向に4つの気筒14,14,…が並んで形成されている。尚、図には1つの気筒14しか示さないが、4つの気筒を区別する場合にはエンジン前側の1番気筒から順に14A,14B,14C,14Dとする。
【0024】
各気筒14の内部には、図略のコネクティングロッドによってクランクシャフト15に連結されたピストン16が嵌挿されて、それぞれ、クランクシャフト15の回転に伴い上下動するようになっており、4サイクル4気筒エンジンでは各気筒14A〜14Dがクランク角で180°の位相差をもって吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程からなる燃焼サイクルを行う。例えば1番気筒14A、3番気筒14C、4番気筒14D、2番気筒14Bの順に燃焼サイクルを行う。
【0025】
前記ピストン16の上面には燃焼室17を区画するキャビティ16aが形成され、その燃焼室17に先端を臨ませてグロープラグ18がシリンダヘッド11に配設されている。また、シリンダヘッド11には各気筒14毎に燃料噴射弁19が設けられている。この燃料噴射弁19は、燃料を高圧状態で蓄えているコモンレール20に対し気筒14毎の分岐管21を介して接続されており、コモンレール20から供給される高圧の燃料を各気筒14内に直接、噴射するようになっている。
【0026】
この実施形態においては、燃料圧力を検出するための燃圧センサSW1がコモンレール20に設けられており、燃料噴射弁19の燃料噴射量は通電時間で制御される。燃料噴射弁19に燃料を供給するコモンレール20は、高圧燃料供給管22を介して燃料供給ポンプ23に接続されている。
【0027】
また、シリンダヘッド11には、燃焼室17に向かって開口する吸気ポート24及び排気ポート25が各気筒14毎に設けられていて、これらのポート24,25の燃焼室17への開口部には吸気弁26及び排気弁27がそれぞれ配設されている。これら吸排気弁26,27を駆動する動弁系には、それぞれ、カムシャフトのクランクシャフト15に対する回転位相を所定の角度範囲内で変更可能な公知の位相可変機構26A,27Aが備えられている。
【0028】
前記吸気ポート24及び排気ポート25には、吸気通路28及び排気通路30がそれぞれ接続されている。吸気通路28の下流側の部分は各気筒14毎に分岐した分岐吸気通路28aであり、この各分岐吸気通路28aの上流端がそれぞれサージタンク28bに連通している。サージタンク28bよりも上流側は共通吸気通路28cとされ、そこには吸気の流れを絞る電磁式のスロットル弁29(吸気量調整手段)が設けられている。また、図では模式化しているが、共通吸気通路28cには、吸気流量を検出するエアフローセンサSW2と、吸気圧力を検出する吸気圧センサSW3と、吸気温度を検出する吸気温度センサSW4とが設けられている。
【0029】
一方、排気通路30もその上流側の部分は各気筒14毎に分岐した分岐排気通路とされ、図示は省略するが、それら分岐排気通路の集合する排気マニホルドよりも下流側には、排気ガスを浄化するための触媒やパティキュレートフィルタ(DPF)等が配設されている。
【0030】
また、エンジンDEには、タイミングベルト等によりクランクシャフト15に連結されたオルタネータ32が付設されている。このオルタネータ32は、図略のフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路33を内蔵しており、車両の電気負荷や車載バッテリの残容量等に応じて適切な発電作動を行うようになっている。
【0031】
また、エンジンDEには、それを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aとピニオンギア34bとを有している。ピニオンギア34bは、モータ本体34aの出力軸上にて相対回転不能な状態で往復移動する。また、クランクシャフト15には、図略のフライホイールに固定されたリングギア35が同心状に設けられており、このスタータモータ34を用いてエンジンDEを再始動する場合には、このピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動してリングギア35に噛合することにより、クランクシャフト15が回転駆動されるようになっている。
【0032】
さらに、エンジンDEには、クランクシャフト15の回転角を検出する2つのクランク角センサSW5,SW6が設けられ、一方のクランク角センサSW5から出力される検出信号(パルス信号)に基づいてエンジン回転数が検出されるとともに、この両クランク角センサSW5,SW6から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク角位置が検出されるようになっている。また、図示のようにエンジンDEの冷却水温度(エンジン水温)を検出する水温センサSW7と、車両のアクセルペダル36の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW8と、車両のブレーキペダル37の操作を検出するブレーキペダルセンサSW9とが設けられている。
【0033】
加えて、図示のエンジンDEには、排気還流装置40が設けられている。この排気還流装置40は、排気マニホルドの集合部近傍に分岐接続されて、排気ガスの一部を排気通路30から吸気通路28に環流させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路41と、このEGR通路41の途中に設けられて前記還流される排気ガスの流れを絞るEGR弁42とを備えている。
【0034】
−自動変速機−
次に図2を参照して、この実施形態に係る車両に搭載される自動変速機ATの全体構成を示す。この自動変速機ATは、主たる構成要素として、ロックアップ機構付きのトルクコンバータ50と、その出力を変速して車輪側に伝達する変速歯車機構60とを備えている。この変速歯車機構60は、図の例では第1、第2の2組の遊星歯車機構61,62を有し、その回転要素の回転を選択的に規制する摩擦締結要素として3組の湿式多板クラッチ63〜65と、2組の湿式多板ブレーキ66,67と、1組のワンウエイクラッチ68とを備えている。
【0035】
前記トルクコンバータ50は、エンジンDEのクランクシャフト15に連結されたケース51内に固設されたポンプ52と、該ポンプ52に対向して配置され、該ポンプ52により作動油(ATF)を介して駆動されるタービン53と、該ポンプ52とタービン53との間に介設され、かつ変速機ケーシング70にワンウェイクラッチ54を介して支持されてトルク増大作用を行うステータ55と、前記ケース51とタービン53との間に設けられ、該ケース51を介してエンジン出力軸1とタービン53とを直結するロックアップクラッチ56(直結クラッチ)とで構成されている。そして、前記タービン53の回転は、変速歯車機構60の入力軸69と一体のタービンシャフトに出力される。
【0036】
前記トルクコンバ−タ50の反エンジン側、すなわちトルクコンバ−タ50及び変速歯車機構60の中間には、それらを変速機ケーシング70内で区画するように区画壁70aが設けられ、この区画壁70aに機械式のオイルポンプ57が配設されている。このオイルポンプ57はトルクコンバ−タ50のケース51に連結され、これを介してエンジンDEのクランクシャフト15により駆動される。また、図示は省略するが、前記機械式のオイルポンプ57とは別に、変速機ケーシング70の外壁に電動オイルポンプが組み付けられている。
【0037】
前記変速歯車機構60の第1、第2遊星歯車機構61,62は、それぞれ、サンギヤ61a,62aと、これらのサンギヤ61a,62aに噛み合った複数のピニオン61b,62bと、これらのピニオン61b,62bを支持するピニオンキャリヤ61c,62cと、ピニオン61b,62bに噛み合ったインターナルギヤ61d,62dとを有する所謂シングルプラネタリギヤセットからなる。
【0038】
そして、前記入力軸69と第1遊星歯車機構61のサンギヤ61aとの間にフォワードクラッチ63が、同じく入力軸69と第2遊星歯車機構62のサンギヤ62aとの間にリバースクラッチ64が、また、入力軸69と第2遊星歯車機構62のピニオンキャリア62cとの間に3−4クラッチ65がそれぞれ介設されているとともに、第2遊星歯車機構62のサンギヤ62aと変速機ケーシング70との間には該サンギヤ62aを固定する2−4ブレーキ66が配置されている。
【0039】
また、前記第1遊星歯車機構61のインターナルギヤ61dと第2遊星歯車機構62のピニオンキャリヤ62cとが連結されて、これらと変速機ケーシング70との間にローリバースブレーキ67とワンウェイクラッチ68とが並列に配置されているとともに、第1遊星歯車機構61のピニオンキャリヤ61cと第2遊星歯車機構62のインターナルギヤ62dとが連結されていて、これらにカウンタードライブギヤ71が接続されている。
【0040】
前記カウンタードライブギヤ71は、入力軸69と平行に配置されたカウンター軸72のドリブンギヤ73と噛み合うものであり、このカウンタードライブギヤ71の回転がカウンタードリブンギヤ73によりカウンター軸72に伝達され、このカウンター軸72上の出力ギヤ74とディファレンシャル75のリングギヤ76との噛み合いによって減速された後に、該ディファレンシャル75を介して左右の車軸77,77に伝達される。
【0041】
そうして、前記変速歯車機構60においてクラッチやブレーキ63〜67を選択的に作動させて、動力の伝達系路を切り替えることにより、Dレンジ(前進用走行レンジ)における1〜4速と、Rレンジにおける後退速とが得られるようになっている。すなわち、図1に模式化して示すのみであるが、変速機ケーシング70には一体的に、前記クラッチやブレーキ63〜67への作動油圧の給排を行う油圧制御系78が配設されている。
【0042】
具体的に各クラッチやブレーキ63〜67及びワンウェイクラッチ68の作動状態とギヤ段との関係をまとめると、図3に示すようになる。図において(○)はクラッチ等が係合される場合を示している。尚、Dレンジ1速の破線の(○)は、ローリバースブレーキ67がマニュアルモード或いはホールドモードでのみ係合されることを示している。
【0043】
上述したエンジンDE及び自動変速機ATは、図1にのみ模式化して示すパワートレインコントロールモジュール100(以下、PCM)によって運転制御される。このPCM100は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成され、主に前記センサSW1〜SW9からの信号に基づいて種々の演算を行うことによりエンジンDEの運転状態を判定し、これに応じて燃料噴射弁19や動弁系の位相可変機構26A,27A、スロットル弁29、EGR弁42のアクチュエータ等へ制御信号を出力する。
【0044】
また、エンジンDEの始動時にPCM100は、燃料噴射弁19やスタータモータ34へ制御信号を出力するとともに、必要に応じてグロープラグ18へも制御信号を出力する。すなわち、エンジンDEの冷間始動時にグロープラグ18に通電して気筒14内を暖めるとともに、後述する自動停止後の再始動の際に圧縮行程で停止している気筒14のピストン16が適正な範囲よりも上死点側にあるときにも、グロープラグ18に通電する。
【0045】
さらに、PCM100は、図1に示すように、車両の走行速度(車速)として自動変速機ATの出力回転数を検出する車速センサSW10からの信号と、該自動変速機ATのタービン回転数を検出するタービン回転数センサSW11からの信号と、作動油の温度を検出する油温センサSW12からの信号と、乗員により選択されているレンジを検出するインヒビタスイッチSW13からの信号と、を少なくとも入力し、前記センサSW1〜SW9からの信号と併せて所定の演算を行って、アクセル開度や車速に応じて決定される目標変速段が達成されるように、自動変速機ATの油圧制御系78に制御信号を出力する。
【0046】
(自動停止時の制御手順)
この実施形態では、燃費の低減やCO2の排出抑制等を目的として、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンDEを自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立すればエンジンDEを再始動させるようにしている(いわゆるアイドルストップ)。すなわち、PCM100は、エンジンDEの自動停止条件の成立を判定すると、燃料噴射弁19による燃料の噴射を停止させて(燃料カット)、エンジンDEを停止させる。
【0047】
その後、所定の再始動条件が成立すれば、PCM100は、スタータモータ34によりエンジンDEのクランキングを開始するとともに、圧縮行程の途中で停止している気筒14から順に燃料の供給を開始して、エンジンDEを再始動させる。このような自動停止後の再始動においては乗員のイグニッション操作に対応した通常の始動に比べて、より確実にかつ速やかに始動することが求められる。
【0048】
そこで、この実施形態では本発明の特徴部分として、前記自動停止の際、燃料供給を停止した後にエンジンDEが惰性で数回転する間に各気筒14内の掃気が行われ、その温度が低下することに着目し、このエンジン停止過程において自動変速機ATのロックアップクラッチ56を締結し、エンジンDEの回転抵抗を増大させることによって、停止までにエンジンDEが惰性で回転する数を減らし、掃気による温度低下を抑制するようにしたものである。
【0049】
以下、この実施形態の車両におけるエンジンDEの自動停止制御について、図4及び図5を参照して具体的に説明する。図4は制御の具体的な手順の一例を示すフローチャートであり、図5は、エンジンDEの停止過程におけるエンジン回転数Neの変化を示すタイミングチャートである。
【0050】
まず、図4のフローにおけるスタート後のステップS1では、予め設定されたエンジンDEの自動停止条件が成立するまで待機する。例えば、ブレーキペダル37の踏み操作が所定時間継続するとともに、車速が予め設定した微低速(例えば時速2〜5km)以下で車両が実質、停止しているときに、エンジンDEの自動停止条件が成立したと判定する。尚、この判定の以前に車速が所定速度(例えば時速10〜40km)にまで低下すれば、自動変速機ATのロックアップクラッチ56は解放されて、エンジンDEの回転変動による車体の振動を抑制するようになっている。
【0051】
そして、前記のように自動停止条件が成立してステップS1でYESと判定すると(図5の時刻t0)、ステップS2に進んでフォワードクラッチ63の解放動作を開始し、続くステップS3においてフォワードクラッチ63の解放に要する所定時間(0.2〜0.3秒くらい)の経過を待って、ステップS4に進む。ここではロックアップクラッチ56の締結動作を開始し(同時刻t1)、ステップS5ではロックアップクラッチ56の締結に要する所定時間(0.3〜0.5秒くらい)の経過を待って、ステップS6においてエンジンDEの各気筒14への燃料供給を停止し(同時刻t2)、エンジン停止過程に移行する。
【0052】
このエンジン停止過程においてエンジンDEが惰性で数回転する間に、エンジン回転数Neは図示のようにアップダウンを繰り返しながら低下していき、所定回数気筒14の圧縮上死点を越えた後に、いずれかの気筒14の圧縮反力に抗して上死点を越えることができなくなって、僅かに逆転してから停止に至る(同時刻t4)。この実施形態では、前記のようにロックアップクラッチ56を締結してエンジンDEの回転抵抗を増大させることで、図に破線で示す通常の停止過程に比べて短時間でエンジンDEを停止できる。
【0053】
但し、ロックアップクラッチ56はあまり応答性がよくなくて、微妙な締結力の制御も難しいので、燃料カットと同時にそれを締結してエンジンDEの回転抵抗を急増させると、エンジン回転が急激に落ち込んで過大なショックを生じる虞れがある。そこで、この実施形態では、ロックアップクラッチ56の締結完了(時刻t2)と同時にフォワードクラッチ63をスリップ状態に制御して(図4のフローのステップS7)、これによりエンジンDEの回転抵抗を適度に増大させるようにしている。
【0054】
また、図5には示さないが、前記のようにロックアップクラッチ56の締結が完了してフォワードクラッチ63のスリップ制御を開始するのと同時に(時刻t2)エンジンDEのスロットル弁29を全閉させる(ステップS8)。これにより、エンジン停止過程の前半において各気筒14への吸気の流れを絞って、新気による気筒14の冷却をより効果的に抑制することができ、しかも、当該気筒14の圧縮、膨張に伴う振動も軽減できる。
【0055】
さらに、エンジン水温が所定値(図の例では80℃)未満かどうか判定し(ステップS9)、所定値未満であればステップS10に進んでエンジンDEのEGR弁42を開くとともに、このEGR弁42をバイパスする冷却水のバイパスバルブは開いて、できるだけ温度の高いガスが吸気側に還流されるようにする。一方、エンジン水温が所定値以上であればEGR弁42の制御は行わない。
【0056】
そして、エンジン停止過程において前記のようにアップダウンを繰り返しながら低下するエンジン回転数Neが設定回転数Ne1以下になれば(時刻t3)、図4のフローのステップS11でYESと判定してステップS12に進み、スロットル弁29を全開にする。こうすると、その後に吸気行程を行う所定気筒14に吸い込まれる吸気量が多くなってその圧縮反力が大きくなり、この気筒14の圧縮上死点を越えることができなくなって、エンジンDEの停止に至る。
【0057】
すなわち、エンジン停止過程においてはクランク角センサSW5,SW6からの信号等に基づいてエンジンDEの停止位置を予測することができるので、この予測結果から圧縮行程の途中で停止する気筒14を特定して、そこに停止直前に吸い込まれる吸気の分量を多くすることにより、この気筒内14のピストン16を相対的に下死点側の再始動に好適な位置で停止させることができる。
【0058】
一例としてこの実施形態では、圧縮行程の途中で停止する気筒14においてピストン16を、圧縮上死点前100°CAよりも下死点側の範囲に停止させるようにしている。これは、圧縮行程で停止する気筒14が再始動時に最初に燃焼する気筒であり、この気筒14においてピストン16を相対的に下死点側に停止させることで、気筒の有効圧縮比を十分に確保して、燃料(混合気)を確実に自己着火させることができるからである。
【0059】
但し、比較的温度が高ければ、その分、圧縮行程で停止する気筒14の有効圧縮比は小さくてもよいから、この気筒14におけるピストン16の停止位置を気筒内温度によって上死点側に補正するようにしてもよい。こうすれば、クランキング開始時の圧縮上死点までの行程が短縮されて、始動時間のさらなる短縮が図られる。
【0060】
そして、図4のフローのステップS13では、クランク角センサSW5,SW6からの信号等に基づいて、エンジンDEが完全に停止したかどうか判定し、完全に停止すれば(YES)ステップS14においてロックアップクラッチ56を解放し、ステップS15でフォワードクラッチ63を締結し、ステップS16ではEGR弁42を閉じて、エンジンの自動停止制御を終了する(エンド)。
【0061】
尚、上述したエンジンDEの自動停止後に所定の再始動条件が成立すれば、スタータモータ34の駆動により圧縮行程にある気筒14内の空気が圧縮されてその温度が上昇し、そこに所定のタイミングで噴射された燃料が着火、燃焼するようになる。これに続いて吸気行程で停止している気筒14、排気行程で停止している気筒14、膨張行程で停止している気筒14、…の順に燃焼が行われて、エンジンDEが始動する。
【0062】
前記した図4のフローのステップS4が、所定の自動停止条件の成立後に車速が微低速以下の状態で自動変速機ATのロックアップクラッチ56を締結する工程に対応し、ステップS6は、自動停止条件の成立に応じて気筒14A〜14Dへの燃料供給を停止して、エンジンDEを停止させる工程に対応しており、この例では燃料カットの前にロックアップクラッチ56の締結動作を開始するようにしている。
【0063】
また、ステップS7は、自動停止条件の成立後にフォワードクラッチ63をスリップ制御する工程に対応し、ここではロックアップクラッチ56の締結動作が完了した後にスリップ制御を行うようにしている。さらに、ステップS8は、燃料カット後のエンジン停止過程の少なくとも前半においてスロットル弁29を閉じて、気筒14A〜14Dへの吸気の流れを絞る工程に対応している。
【0064】
上述したように、この実施形態ではPCM100によって、自動停止条件の成立に応じてエンジンDEを自動停止させ、その後、再始動条件が成立すれば再始動させるエンジン制御手段が構成される。このエンジン制御手段は、自動停止の際にスロットル弁29を閉じて、気筒14A〜14Dへの吸気の流れを絞るようになっている。
【0065】
また、PCM100は、自動変速機ATを制御する変速機制御手段も構成しており、この変速機制御手段としては、車両の走行中に所定車速以下でロックアップクラッチ56を解放し、その後、自動停止条件が成立して車速が微低速以下になれば締結するとともに、フォワードクラッチ63はスリップ制御するようになっている。
【0066】
したがって、この実施形態に係る車両の制御方法等によると、ディーゼルエンジンDEを搭載し所定の状況で自動停止させるとともに、その後、再始動させるようにしたものにおいて、その自動停止時のエンジン停止過程において自動変速機ATのロックアップクラッチ56を締結し、エンジンDEの回転抵抗を増大させることにより、前記図5に示したように、燃料カット後にエンジンDEの惰性で回転する数を減らして、気筒14の掃気回数を少なくすることができ、これにより気筒内温度の低下を抑制して、その後の再始動性を向上できる。
【0067】
しかも、まず、ロックアップクラッチ56の締結動作を開始し、それに要する時間の経過を待って燃料カットするとともに、これと同時にフォワードクラッチ63のスリップ制御を行うようにしたから、燃料カット後に遅れなく、且つ適度に緩やかにエンジンDEの回転抵抗を増大させることができ、過大なショックを生じることがない。
【0068】
また、エンジン停止過程の前半においてスロットル弁29の制御により吸気を絞ることで、気筒内温度の低下をより効果的に抑制できる上に、気筒14の圧縮によって生じる振動、騒音も抑えることができる。
【0069】
尚、前記の実施形態において、比較的高い車速で自動停止条件が成立するようにして、所定車速より高い速度での車両走行中にアクセルペダルの踏み込みが解除されて減速燃料カットが実行されているとき(この状態は、自動変速機ATのロックアップクラッチ56が締結されている)、自動停止条件が成立するようにしても良い。この場合は、自動停止条件成立後もロックアップクラッチ56を締結状態に維持すれば良く、こうすれば、エンジンの自動停止に係わる燃料停止期間が長くなり、燃費やCO2の排出をより低減できる。
【0070】
また、フォワードクラッチ63のスリップ制御は、燃料カットの前に(例えば自動停止条件の成立に対応して)開始するようにしてもよく、こうすれば、より迅速にエンジンDEの回転抵抗を増大させることができる。
【0071】
また、フォワードクラッチ63の代わりに例えば3−4クラッチ65をスリップ制御するようにしてもよいし、制御性の悪いバンドブレーキでなく多板クラッチで構成すれば、2−4ブレーキ66も利用することができる。勿論、自動変速機ATは前進4段のものに限らず、5〜8段であってもよく、その場合には要するにトルクコンバータ50と直列に設けられ、好ましくは前進側の変速段を構成する摩擦締結要素が利用可能である。
【0072】
また、エンジン停止過程の前半において吸気を絞るのはスロットル弁29に限定されず、例えば吸気弁26のリフト量を連続的に変更可能な可変機構、或いは吸気弁26の作動を一時的に停止することのできる休止機構等によって、吸気を絞るようにしてもよい。
【0073】
さらに、本発明は、ディーゼルエンジンに限らず、気筒内に燃料を供給し、ピストンの上昇により圧縮して自己着火させるようにした種々の圧縮自己着火式エンジンに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、アイドルストップ等におけるエンジンの再始動性を向上させることができるもので、例えばディーゼルエンジンを搭載した自動車に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る車両に搭載されたエンジンの概略構成図である。
【図2】同自動変速機の構成を示すスケルトン図である。
【図3】自動変速機のクラッチ等の係合状態と変速段との関係を示す図である。
【図4】エンジンの自動停止制御の手順を示すフローチャート図である。
【図5】エンジン停止過程におけるクラッチの作動状態とエンジン回転数の低下状態とを対応づけて示すタイミングチャート図である。
【符号の説明】
【0076】
DE ディーゼルエンジン
14 気筒
29 スロットル弁(吸気量調整手段)
AT 自動変速機
50 トルクコンバータ(流体伝動装置)
56 ロックアップクラッチ(直結クラッチ)
63 フォワードクラッチ(摩擦締結要素)
100 PCM(エンジン制御手段、変速機制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の自動停止条件の成立に応じて気筒への燃料供給を停止し、エンジンを停止させる一方、その後、所定の再始動条件が成立すれば燃料供給を再開して、エンジンを再始動させる、車両の制御方法であって、
エンジンは、気筒の圧縮により燃料を自己着火させるものであって、このエンジンに連結されている自動変速機には、直結クラッチ付きの流体伝動装置が備えられており、
前記自動停止条件が成立した後に前記直結クラッチを締結した状態で、エンジンを停止させることを特徴とする、圧縮自己着火式エンジンを搭載した車両の制御方法。
【請求項2】
車両の走行速度が所定の微低速以下の状態で直結クラッチを締結する、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
車両の走行中にその走行速度が低下して、微低速よりも高い所定速度になったときに直結クラッチを解放する、請求項2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
自動変速機において流体伝動装置と直列に設けられ、所定の変速段を構成するための摩擦締結要素を、自動停止条件の成立後にスリップ状態に制御する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両の制御方法。
【請求項5】
自動停止条件の成立後、気筒への燃料供給を停止する前に直結クラッチの締結動作を開始するとともに、その締結動作が完了する前に摩擦締結要素をスリップ状態に制御する、請求項4に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
直結クラッチの締結動作が完了した後に摩擦締結要素をスリップ状態に制御する、請求項4に記載の車両の制御方法。
【請求項7】
気筒への燃料供給の停止によってエンジンが停止する過程の少なくとも前半において、吸気量調整手段により気筒への吸気の流れを絞る、請求項1〜6のいずれか1つに記載の車両の制御方法。
【請求項8】
所定の自動停止条件の成立に応じて気筒への燃料供給を停止してエンジンを停止させ、その後、所定の再始動条件が成立すれば燃料供給を再開して、エンジンを再始動させる、エンジン制御手段を備えた車両の制御装置であって、
エンジンは、気筒の圧縮により燃料を自己着火させるものであり、
そのエンジンに連結されている自動変速機には、直結クラッチの付いた流体伝動装置が備えられ、
前記自動停止条件の成立後に前記直結クラッチを締結状態とする変速機制御手段を備え、
前記エンジン制御手段は、前記自動停止条件成立後の前記直結クラッチの締結状態において気筒への燃料供給を停止するものである、ことを特徴とする圧縮自己着火式エンジンを搭載した車両の制御装置。
【請求項9】
変速機制御手段は、車両の走行中にその走行速度が低下して、所定車速になったときに直結クラッチを解放し、その後、車両の走行速度が所定の微低速以下になって自動停止条件が成立したときに直結クラッチを締結する、請求項8に記載の車両の制御方装置。
【請求項10】
自動変速機には、所定の変速段を構成するための摩擦締結要素が流体伝動装置と直列に設けられており、
変速機制御手段は、エンジンの自動停止条件の成立後に前記摩擦締結要素をスリップ状態に制御するものである、請求項8又は9のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−84658(P2010−84658A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255342(P2008−255342)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】