説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】基板の表面に形成された低誘電率絶縁膜の比誘電率を向上させることができる、基板処理装置および基板処理方法を提供する。
【解決手段】基板処理装置1は、ウエハWをほぼ水平に保持するスピンチャック2と、スピンチャック2に保持されたウエハWの表面付近の雰囲気をその周囲から遮断するための遮断板3とを備えている。遮断板3の下面には、シリル化剤(HMDSガス)を吐出するためのシリル化剤ノズル11と、窒素ガスを吐出するための窒素ガス吐出口15とが形成されている。遮断板3がスピンチャック2に保持されたウエハWの表面に対向配置された状態で、窒素ガス吐出口15からウエハWと遮断板3との間に窒素ガスが供給される。また、遮断板3がスピンチャック2に保持されたウエハWの表面に対向配置された状態で、シリル化剤ノズル11からウエハWと遮断板3との間にシリル化剤が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率絶縁膜(いわゆるLow−k膜。酸化シリコンよりも比誘電率が低い材料からなる絶縁膜をいう。)が表面に形成された基板のための基板処理装置および基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の多層配線構造では、配線抵抗の低減を図るため、アルミニウム配線に代えて、銅配線が用いられてきている。また、配線間容量の低減を図るため、配線間絶縁膜として、酸化シリコン膜よりも比誘電率の低い低誘電率絶縁膜が用いられてきている。
銅膜のエッチングによる微細なパターニングが困難であることから、銅配線は、いわゆるダマシン法によって形成される。すなわち、低誘電率絶縁膜には、銅配線を埋設するための配線溝と、この配線溝の底面に接続され、低誘電率絶縁膜を厚さ方向に貫通するバイアホールとが形成される。配線溝およびバイアホールには、銅が一括して埋め込まれる。これにより、配線溝に埋設された銅配線が得られ、バイアホールに埋設された銅を介して、下層の銅配線とその上層の銅配線との電気的な接続が達成される。
【0003】
配線溝およびバイアホールは、低誘電率絶縁膜上にハードマスクが形成された後、ドライエッチングが行われ、低誘電率絶縁膜におけるハードマスクから露出した部分が除去されることにより形成される。配線溝およびバイアホールの形成後、アッシングが行われ、低誘電率絶縁膜上から不要となったハードマスクが除去される。ドライエッチング時およびアッシング時には、低誘電率絶縁膜やハードマスクの成分を含む反応生成物が、ポリマーとなって、低誘電率絶縁膜の表面(配線溝およびバイアホールの内面を含む。)などに付着する。そのため、アッシング後には、基板(半導体ウエハ)にポリマー除去液が供給されて、基板からポリマーを除去するための処理が行われる。
【特許文献1】特開2006−86411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ドライエッチングおよびアッシングを含む一連の処理が行われると、低誘電率絶縁膜の表面がダメージを受け、このダメージにより、低誘電率絶縁膜の比誘電率(k値)が処理前と比較して低下するという問題がある。45nm世代では、ポーラスタイプの低誘電率絶縁膜、いわゆるポーラスLow−k膜が用いられるようになってきており、このポーラスLow−k膜では、表面のダメージによる比誘電率の低下の問題が顕著に現れる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、基板の表面に形成された低誘電率絶縁膜の比誘電率を向上(ダメージによる比誘電率の低下を回復)させることができる、基板処理装置および基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、低誘電率絶縁膜が表面に形成された基板を保持し、当該基板を前記表面と交差する回転軸線まわりに回転させる基板回転機構と、前記基板回転機構に保持された前記基板の前記表面に対して間隔を空けて対向配置され、前記基板の前記表面上の空間をその周囲から遮断するための遮断板と、前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、前記低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化のためのシリル化剤を供給するシリル化剤供給機構とを含む、基板処理装置である。
【0007】
この構成によれば、基板回転機構に保持された基板の表面に対して、遮断板が間隔を空けて対向配置される。基板の表面には、低誘電率絶縁膜が形成されている。遮断板が基板の表面に対向配置された状態で、シリル化剤が基板の表面と遮断板との間に供給される。これにより、低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化(ダメージ部分とシリル化剤とのシリル化反応)を生じさせることができる。そして、ダメージ部分のシリル化により、低誘電率絶縁膜の比誘電率を向上(ダメージによる比誘電率の低下を回復)させることができる。
【0008】
また、シリル化剤の供給と並行して、基板をその表面と交差する回転軸線まわりに回転させることにより、シリル化剤を基板の表面の全域にむらなく行き渡らせることができる。その結果、低誘電率絶縁膜の表面の全域において、ダメージ部分の良好なシリル化を達成することができる。
さらに、遮断板が基板の表面に対向配置された状態で、基板の表面と遮断板との間への不活性ガスの供給が可能である。
【0009】
たとえば、基板の表面と遮断板との間に不活性ガスが供給され、基板の表面上の空間が不活性ガスで充満した状態で、基板の表面に対するシリル化剤の供給を開始することができる。これにより、低誘電率絶縁膜が微細なパターンを有する場合に、そのパターン間にシリル化剤を良好に進入させることができる。また、低誘電率絶縁膜からその下層の金属膜などが部分的に露出している場合に、シリル化剤の供給開始前に、その金属膜などが酸化するのを防止することができる。
【0010】
一方、基板の表面に対するシリル化剤の供給の終了後に、基板の表面と遮断板との間に不活性ガスを供給することができる。これにより、基板の表面上の空間からシリル化剤を排除することができる。また、低誘電率絶縁膜からその下層の金属膜などが部分的に露出している場合に、シリル化剤の供給終了後に、その金属膜などが酸化するのを防止することができる。
【0011】
前記基板処理装置は、基板の表面に対するシリル化剤の供給の開始に先立ち、基板の表面上の空間を不活性ガスで充満した状態とするために、請求項2に記載されている制御ユニットをさらに含むことが好ましい。すなわち、前記基板処理装置は、前記シリル化剤供給機構による前記シリル化剤の供給の開始に先立ち、前記不活性ガス供給機構による前記不活性ガスの供給が開始されるように、前記不活性ガス供給機構および前記シリル化剤供給機構を制御する制御ユニットを含むことが好ましい。
【0012】
また、請求項3に記載のように、前記低誘電率絶縁膜がその主成分の異なる低誘電率絶縁材料からなる複数の層の積層構造を有している場合、前記シリル化剤供給機構は、前記低誘電率絶縁膜の各層の低誘電率絶縁材料に応じた複数のシリル化剤を供給することが好ましい。これにより、低誘電率絶縁膜の各層におけるダメージを有する部分を良好にシリル化することができる。その結果、低誘電率絶縁膜のダメージにより低下した比誘電率をより良好に回復させることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、低誘電率絶縁膜が表面に形成された基板を、前記表面と交差する回転軸線まわりに回転させる基板回転工程と、前記基板回転工程中に、記基板の前記表面上の空間をその周囲から遮断するための遮断板を、前記基板の前記表面に対して間隔を空けて対向配置させる遮断板配置工程と、前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、前記不活性ガス供給工程後、(前記不活性ガスが充満した)前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、前記低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化のためのシリル化剤を供給するシリル化剤供給工程とを含む、基板処理方法である。
【0014】
この方法によれば、基板がその表面と交差する回転軸線まわりに回転されつつ、遮断板が基板の表面に対して間隔を空けて対向配置される。この状態で、基板の表面と遮断板との間に不活性ガスが供給され、基板の表面上の空間が不活性ガスで充満した状態とされる。そして、基板の表面と遮断板との間へのシリル化剤の供給が開始される。これにより、基板の表面の全域にシリル化剤をむらなく行き渡らせることができ、また、低誘電率絶縁膜が微細なパターンを有する場合には、そのパターン間にシリル化剤を良好に進入させることができる。その結果、低誘電率絶縁膜の表面の全域において、その低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化(ダメージ部分とシリル化剤とのシリル化反応)を良好に生じさせることができる。このダメージ部分のシリル化により、低誘電率絶縁膜の比誘電率を向上(ダメージによる比誘電率の低下を回復)させることができる。また、低誘電率絶縁膜からその下層の金属膜などが部分的に露出している場合には、シリル化剤の供給開始前に、基板の表面上の空間が不活性ガスで充満した状態とされることによって、その金属膜などが酸化するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置の図解的な側面図である。
この基板処理装置1は、基板の一例としての半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ]という。)Wを1枚ずつ処理する枚葉型の装置である。基板処理装置1は、ウエハWをほぼ水平に保持するスピンチャック2と、スピンチャック2に保持されたウエハWの表面付近の雰囲気をその周囲から遮断するための遮断板3とを備えている。
【0016】
スピンチャック2は、スピンモータ4と、このスピンモータ4の駆動力によって鉛直軸線まわりに回転される円盤状のスピンベース5と、このスピンベース5の周縁部の複数箇所にほぼ等角度間隔で設けられ、ウエハWをほぼ水平な姿勢で挟持するための複数個の挟持部材6とを備えている。
複数個の挟持部材6によってウエハWを挟持した状態で、スピンモータ4が駆動されると、その駆動力によってスピンベース5が鉛直軸線まわりに回転され、そのスピンベース5とともに、ウエハWがほぼ水平な姿勢を保った状態で鉛直軸線まわりに回転される。
【0017】
なお、スピンチャック2としては、このような構成のものに限らず、たとえば、ウエハWの裏面(非デバイス面)を真空吸着することにより、ウエハWを水平な姿勢で保持し、さらにその状態で鉛直な軸線まわりに回転することにより、その保持したウエハWを回転させることができる真空吸着式のバキュームチャックが採用されてもよい。
遮断板3は、ウエハWとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成され、スピンチャック2の上方でほぼ水平に配置されている。この遮断板3の上面には、スピンベース5と共通の鉛直軸線を中心とする回転軸7が固定されている。回転軸7は、中空に形成されている。回転軸7の内部には、シリル化剤流通管8が挿通されている。
【0018】
シリル化剤流通管8には、HMDS供給管9が接続されている。このHMDS供給管9を通して、シリル化剤の一例としてのHMDS(Hexamethyldisilazane)ガスがシリル化剤流通管8に供給されるようになっている。HMDS供給管9の途中部には、HMDSバルブ10が介装されている。また、シリル化剤流通管8は、遮断板3の下面まで延びており、その先端は、シリル化剤(HMDSガス)を吐出するためのシリル化剤ノズル11を形成している。
【0019】
また、回転軸7の内壁面とシリル化剤流通管8との間は、不活性ガスの一例としての窒素ガスが流通する窒素ガス流通路12を形成している。窒素ガス流通路12には、窒素ガス供給管13が接続されている。この窒素ガス供給管13を通して、図示しない供給源からの窒素ガスが窒素ガス流通路12に供給されるようになっている。窒素ガス供給管13の途中部には、窒素ガスバルブ14が介装されている。窒素ガス流通路12は、遮断板3の下面において、シリル化剤ノズル11の周囲で環状に開口して、窒素ガスを吐出するための窒素ガス吐出口15を形成している。
【0020】
回転軸7は、ほぼ水平に延びて設けられたアーム16の先端付近から垂下した状態に取り付けられている。そして、このアーム16には、遮断板3をスピンチャック2の上方に大きく離間した位置(図1に実線で示す位置)とスピンチャック2に保持されたウエハWの表面に微小な間隔を隔てて近接する位置(図1に破線で示す位置)との間で昇降させるための昇降駆動機構17が結合されている。さらに、アーム16に関連して、遮断板3をスピンチャック2によるウエハWの回転にほぼ同期させて回転させるための回転駆動機構18が設けられている。
【0021】
また、スピンチャック2は、有底円筒容器状のカップ19内に収容されている。カップ19の底部には、図示しない排気機構から延びる排気ライン20が接続されている。この排気ライン20を介して、カップ19内の雰囲気を排気することができる。
図2は、基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
基板処理装置1は、たとえば、マイクロコンピュータで構成される制御部21を備えている。マイクロコンピュータには、CPU、RAMおよびROMなどが含まれる。
【0022】
制御部21は、予め定められたプログラムに従って、スピンモータ4、昇降駆動機構17および回転駆動機構18の駆動を制御し、HMDSバルブ10および窒素ガスバルブ14の開閉を制御する。
図3は、基板処理装置によって処理されるウエハの表面の状態を説明するための断面図である。
【0023】
ウエハWの表面上には、層間絶縁膜31が形成されている。層間絶縁膜31には、下配線溝32がその上面から掘り下げて形成されている。下配線溝32には、銅配線33が埋設されている。層間絶縁膜31上には、エッチストッパ膜34を介して、低誘電率絶縁膜35が積層されている。低誘電率絶縁膜35には、上配線溝36がその上面から掘り下げて形成されている。さらに、低誘電率絶縁膜35には、上配線溝36の底面から銅配線33の表面に達するバイアホール37が形成されている。上配線溝36およびバイアホール37には、銅が一括して埋め込まれる。
【0024】
上配線溝36およびバイアホール37は、低誘電率絶縁膜35上にハードマスクが形成された後、ドライエッチングが行われ、低誘電率絶縁膜35におけるハードマスクから露出した部分が除去されることにより形成される。上配線溝36およびバイアホール37の形成後、アッシングが行われ、低誘電率絶縁膜35上から不要となったハードマスクが除去される。ドライエッチング時およびアッシング時には、低誘電率絶縁膜35やハードマスクの成分を含む反応生成物が、ポリマーとなって、低誘電率絶縁膜35の表面(上配線溝36およびバイアホール37の内面を含む。)などに付着する。そのため、アッシング後には、ウエハWの表面にポリマー除去液が供給されて、低誘電率絶縁膜35の表面からポリマーを除去するための処理が行われる。
【0025】
また、ドライエッチングおよびアッシングを含む一連の処理が行われると、低誘電率絶縁膜35の表面がダメージを受け、このダメージにより、低誘電率絶縁膜35の比誘電率が処理前と比較して低下する。そこで、ポリマー除去のための処理後、ウエハWが基板処理装置1に搬入されて、低誘電率絶縁膜35のダメージを有する部分をシリル化するためのシリル化処理が行われる。
【0026】
図4は、基板処理装置におけるシリル化処理を説明するためのタイミングチャートである。
ポリマー除去のための処理を受けたウエハWは、図示しない搬送ハンドにより、基板処理装置1内に搬入され、スピンチャック2に受け渡される。このとき、遮断板3は、ウエハWの搬入の妨げにならないように、スピンチャック2の上方に大きく離間した位置に退避されている。また、基板処理装置1における処理中は、常時、カップ19内の雰囲気が排気ライン20を介して排気されている。
【0027】
スピンチャック2にウエハWが保持されると、スピンモータ4が駆動されて、ウエハWの回転が開始される(時刻T1)。ウエハWの回転速度は、たとえば、250rpmである。また、昇降駆動機構17の駆動が制御されて、遮断板3がウエハWの表面に近接する位置に下降される(時刻T1)。そして、回転駆動機構18の駆動が制御されて、遮断板3がウエハWと同方向に同じ回転速度で回転される。また、窒素ガスバルブ14が開かれて、窒素ガス吐出口15からウエハW(の表面)と遮断板3との間に窒素ガスが供給される(時刻T1)。
【0028】
窒素ガスバルブ14が開かれてから予め定める時間が経過すると、HMDSバルブ10が開かれる(時刻T2)。HMDSバルブ10が開かれることにより、シリル化剤ノズル11からウエハWと遮断板3との間にHMDSガスが供給される。このHMDSガスの供給開始に先立ち、ウエハWと遮断板3との間に窒素ガスが予め定める時間にわたって供給されていたことにより、HMDSガスの供給開始の時点で、ウエハWと遮断板3との間が窒素ガスで充満した状態になっている。そのため、HMDSガスの供給開始直後から、HMDSガスを低誘電率絶縁膜35に形成されている上配線溝36およびバイアホール37の内部にまで良好に進入させることができる。
【0029】
HMDSガスの供給により、低誘電率絶縁膜35のダメージを有する部分がシリル化される。すなわち、低誘電率絶縁膜35のダメージ部分において、次の反応式で示されるシリル化反応が生じる。
2Si-OH+(CH)SiNHSi(CH)→2Si-O-Si(CH)+NH
HMDSガスの供給が継続されている間、窒素ガスバルブ14が開かれたままとされている。ただし、図示しない流量調節バルブが制御され、窒素ガス吐出口15から吐出される窒素ガスの流量が小流量(HMDSガスの供給開始前よりも小さい流量。たとえば、5l/min)とされる。これにより、HMDSガスが窒素ガス吐出口15から窒素ガス流通路12に進入するのを防止することができる。
【0030】
HMDSガスの供給開始から予め定める時間が経過すると、HMDSバルブ10が閉じられる(時刻T3)。そして、窒素ガスの流量が予め定める流量(たとえば、100l/min)に上げられる。また、スピンモータ4の駆動が制御されて、ウエハWの回転速度が予め定める回転速度(たとえば、250rpm)に上げられる。これにより、ウエハWと遮断板3との間に窒素ガスの気流が形成される。そして、その窒素ガスの気流によって、ウエハWと遮断板3との間からHMDSガスが排除される。カップ19内の雰囲気が排気ライン20を介して排気されているので、ウエハWと遮断板3との間から排除されたHMDSガスは、カップ19内に形成される排気流に乗って、排気ライン20を介して排出される。
【0031】
HMDSガスの供給停止から予め定める時間が経過すると、窒素ガスバルブ14が閉じられる(時刻T4)。また、スピンモータ4の駆動が停止されて、ウエハWの回転が停止される(時刻T4)。さらに、昇降駆動機構17の駆動が制御されて、遮断板3がウエハWの表面に近接する位置からスピンチャック2の上方に大きく離間した位置に上昇される(時刻T4)。これにより、ウエハWに対するシリル化処理が終了する。シリル化処理後のウエハWは、図示しない搬送ハンドによって、基板処理装置1から搬出される。
【0032】
以上のように、ウエハWがその表面と交差する鉛直軸線まわりに回転されつつ(T1〜T4:基板回転工程)、遮断板3がウエハWの表面に対して間隔を空けて対向配置される(T1〜T4:遮断板配置工程)。この状態で、ウエハWと遮断板3との間に窒素ガスが供給され(T1〜T2:不活性ガス供給工程)、ウエハWの表面上の空間が窒素ガスで充満した状態とされる。そして、ウエハWと遮断板3との間へのHMDSガスの供給が開始される(T2〜T3:シリル化剤供給工程)。これにより、ウエハWの表面の全域にHMDSガスをむらなく行き渡らせることができ、また、低誘電率絶縁膜35に形成されている上配線溝36およびバイアホール37の内部にHMDSガスを良好に進入させることができる。その結果、低誘電率絶縁膜35の表面の全域において、その低誘電率絶縁膜35におけるダメージを有する部分のシリル化を良好に生じさせることができる。このダメージ部分のシリル化により、低誘電率絶縁膜35の比誘電率を向上(ダメージによる比誘電率の低下を回復)させることができる。
【0033】
また、HMDSガスの供給開始前および供給終了後に、ウエハWと遮断板3との間に窒素ガスが供給されることにより、銅配線33における低誘電率絶縁膜35から露出した部分の酸化を防止することができる。
なお、シリル化剤の一例として、HMDSガスを例に挙げたが、HMDSの液体が用いられてもよい。また、HMDSに限らず、低誘電率絶縁膜35の材料に応じて、その低誘電率絶縁膜35におけるダメージを有する部分を良好にシリル化可能なシリル化剤が用いられることが好ましい。シリル化剤としては、HMDS以外に、TMSI(N-Trimethylsilyimidazole)、BSTFA(N,O-bis[Trimethylsilyl]trifluoroacetamide)、BSA(N,O-bis[Trimethylsily]acetamide)、MSTFA(N-Methyl-N-trimethylsilyl-trifluoacetamide)、TMSDMA(N‐Trimethylsilyldimethylamine)、TMSDEA(N‐Trimethylsilyldiethylamine)、MTMSA(N,O-bis(trimethylsilyl)trifluoroacetamide)、TMCS(Trimethylchlorosilane)などを例示することができる。
【0034】
また、不活性ガスの一例として、窒素ガスを例に挙げたが、窒素ガス以外に、窒素ガスとヘリウムとの混合ガス、アルゴンガス、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスなどを不活性ガスとして用いることができる。
また、本発明の一実施形態として、低誘電率絶縁膜35が単一の低誘電率絶縁材料からなる場合を例にとり、その低誘電率絶縁膜35のダメージ部分のシリル化に好適な基板処理装置1について説明した。しかし、処理対象のウエハWの表面に、互いに主成分の異なる低誘電率絶縁材料からなる複数の層を有する低誘電率絶縁膜が形成されている場合には、低誘電率絶縁膜の各層の低誘電率絶縁材料に応じたシリル化剤をウエハWの表面に供給可能な構成が採用されることが好ましい。これにより、低誘電率絶縁膜の各層におけるダメージを有する部分を良好にシリル化することができる。その結果、低誘電率絶縁膜のダメージにより低下した比誘電率をより良好に回復させることができる。
【0035】
たとえば、低誘電率絶縁膜の下層(バイアホールが形成される層)がSiOC:Hからなり、低誘電率絶縁膜の上層(配線溝が形成される層)がSiOCからなる場合、図5に示すように、HMDS供給管9と並列にTMSDMA供給管51が設けられて、HMDS供給管9からのHMDSガスとTMSDMA供給管51からのTMSDMAとをシリル化剤流通管8に選択的に供給可能な構成が採用されることが好ましい。TMSDMA供給管51の途中部には、シリル化剤流通管8へのTMSDMAの供給を制御するためのTMSDMAバルブ52が介装される。
【0036】
また、前述の実施形態では、遮断板3の下面にシリル化剤ノズル11が形成され、このシリル化剤ノズル11からウエハWの表面にシリル化剤(HMDSガス)が供給される構成を取り上げたが、ウエハWの表面にシリル化剤を供給するためのノズルが遮断板3から独立して設けられてもよい。この場合、ノズルとしては、シリル化剤を棒状に吐出するストレートノズル、シリル化剤を扇形状に吐出する扇形ノズル、シリル化剤をシャワー状に吐出するシャワーノズルなど、種々の形態のものを採用することができる。
【0037】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置の図解的な側面図である。
【図2】図2は、基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、基板処理装置によって処理されるウエハの表面の状態を説明するための断面図である。
【図4】図4は、基板処理装置におけるシリル化処理を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】図5は、本発明の他の実施形態に係る基板処理装置の図解的な側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基板処理装置
2 スピンチャック(基板回転機構)
3 遮断板
8 シリル化剤流通管
9 HMDS供給管
10 HMDSバルブ(シリル化剤供給機構)
11 シリル化剤ノズル
12 窒素ガス流通路
13 窒素ガス供給管
14 窒素ガスバルブ’(不活性ガス供給機構)
15 窒素ガス吐出口
21 制御部(制御ユニット)
51 TMSDMA供給管
52 TMSDMAバルブ(シリル化剤供給機構)
W ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低誘電率絶縁膜が表面に形成された基板を保持し、当該基板を前記表面と交差する回転軸線まわりに回転させる基板回転機構と、
前記基板回転機構に保持された前記基板の前記表面に対して間隔を空けて対向配置され、前記基板の前記表面上の空間をその周囲から遮断するための遮断板と、
前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構と、
前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、前記低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化のためのシリル化剤を供給するシリル化剤供給機構とを含む、基板処理装置。
【請求項2】
前記シリル化剤供給機構による前記シリル化剤の供給の開始に先立ち、前記不活性ガス供給機構による前記不活性ガスの供給が開始されるように、前記不活性ガス供給機構および前記シリル化剤供給機構を制御する制御ユニットを含む、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記低誘電率絶縁膜は、その主成分が異なる低誘電率絶縁材料からなる複数の層の積層構造を有し、
前記シリル化剤供給機構は、前記低誘電率絶縁膜の各層の低誘電率絶縁材料に応じた複数のシリル化剤を供給する、請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
低誘電率絶縁膜が表面に形成された基板を、前記表面と交差する回転軸線まわりに回転させる基板回転工程と、
前記基板回転工程中に、記基板の前記表面上の空間をその周囲から遮断するための遮断板を、前記基板の前記表面に対して間隔を空けて対向配置させる遮断板配置工程と、
前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、不活性ガスを供給する不活性ガス供給工程と、
前記不活性ガス供給工程後、前記基板の前記表面と前記遮断板との間に、前記低誘電率絶縁膜におけるダメージを有する部分のシリル化のためのシリル化剤を供給するシリル化剤供給工程とを含む、基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−188205(P2009−188205A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26801(P2008−26801)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】