説明

基板洗浄方法、基板洗浄装置および記憶媒体

【課題】比較的簡単な手順によって、Si−H終端構造の存在比率が高い表面を有する基板を得ることができる洗浄方法を提供する。
【解決手段】基板洗浄方法は、基板を、HF系薬液を用いて洗浄する薬液洗浄工程と、薬液洗浄工程の後、基板を、HF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程と、を備え、前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板洗浄技術に係り、基板をHF系薬液によって薬液洗浄した後に、Si−H終端構造の存在比率が高い表面を有する基板を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、半導体ウエハ等の基板の表面に様々な膜が形成される。膜の形成の前には、薬液洗浄によりパーティクル、有機物、自然酸化膜などの不要な付着物の除去が行われる。薬液洗浄の一例として、DHF(希フッ酸)、BHF(バッファードフッ酸)等によるHF系薬液洗浄がある。HF系薬液洗浄は、自然酸化膜、他の薬液洗浄により形成された化学酸化膜(いずれもシリコン酸化膜)を除去する。HF系薬液洗浄の後には、基板の表面には、様々な終端構造(基板最表面のSi原子の外向きの結合手に結合する構造)が存在している。微視的な意味での基板表面の平坦化、耐自然酸化性の向上等の観点からは、可能な限りSi−H終端構造の比率を増すことが望ましく、また、可能な限りFを含む終端構造の存在比率を低減させることが望ましい。
【0003】
Si−H終端構造を有する基板表面を得るための方法として、例えば特許文献1に記載されたものなど、様々なものが知られている。しかし、公知の方法は比較的面倒な手順を実行する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−51141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比較的簡単な手順によって、Si−H終端構造の存在比率が高い表面を有する基板を得ることができる洗浄技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板を、HF系薬液を用いて洗浄する薬液洗浄工程と、薬液洗浄工程の後、前記基板を、HF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程と、を備え、前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液(すなわちHF(フッ酸)ないしDHF(希フッ酸))からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を含む水溶液からなる、基板洗浄方法を提供する。
【0007】
希薄DHFリンス工程にて用いられるHF水溶液中のHF濃度は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
【0008】
また、本発明は、基板を保持する基板保持部と、前記基板にHF系薬液を供給するHF系薬液供給手段と、前記基板にHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液を供給する希薄DHFリンス液供給手段と、前記HF系薬液供給手段および希薄DHFリンス液供給手段を制御して、HF系薬液を用いて前記基板を洗浄する薬液洗浄工程と、前記薬液洗浄工程の後に前記基板をHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程と、が実行されるように構成された制御部と、を備え、前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなる、基板洗浄装置を提供する。
【0009】
さらに本発明は、基板洗浄装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記基板洗浄装置は、基板にHF系薬液を供給するHF系薬液供給手段と、前記基板にHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液を供給する希薄DHFリンス液供給手段とを有しており、前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなるものであり、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記HF系薬液供給手段および希薄DHFリンス液供給手段を制御して、HF系薬液を用いて前記基板を洗浄する薬液洗浄工程と、薬液洗浄工程の後に前記基板をHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程とを実行させる、記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低濃度のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程を設けるという比較的簡単な手段によって、Si−H終端構造の比率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液処理装置の構成を示す概略断面図。
【図2】図1の液処理装置を示す概略平面図。
【図3】実験結果を示すグラフ。
【図4】HFの解離状態図。
【図5】終端構造の変遷を説明する模式図。
【図6】リンス条件を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、液処理方法を実施するための液処理装置10の構成について図1を参照して説明する。液処理装置10は、基板、本例では半導体ウエハWを概ね水平に保持して回転するスピンチャック12を有している。スピンチャック12は、ウエハWの周縁部を保持する複数の保持部材15によって基板を水平姿勢で保持する基板保持部14と、この基板保持部14を回転駆動する回転駆動部16とを有している。基板保持部14の周囲には、ウエハWから飛散した各種の処理液を受け止めるカップ18が設けられている。この液処理装置10に対してウエハWを搬入、搬出する図示しない基板搬送アームと基板保持部14との間でウエハWの受け渡しができるように、基板保持部14およびカップ18は相対的に上下方向に移動できるようになっている。
【0013】
液処理装置10は、ウエハWにHF系薬液(詳細後述)を供給するための薬液ノズル20と、ウエハWに第1リンス液としての希薄DHF(詳細後述)を供給するための第1リンスノズル22と、ウエハに第2リンス液としての純水(DIW)を供給するための第2リンスノズル24とを有している。薬液ノズル20には、薬液供給源(HF−CHM)から適当な流量調整器例えば流量調整弁20aと開閉弁20bとが介設された薬液管路20cを介してHF系薬液が供給される。第1リンスノズル22には、希薄DHF供給源(VDHF)から、適当な流量調整器例えば流量調整弁22aと開閉弁22bとが介設された希薄DHF管路22cを介して希薄DHFリンス液が供給される。第2リンスノズル24には、DIW供給源(DIW)から、適当な流量調整器例えば流量調整弁24aと開閉弁24bとが介設されたDIW管路24cを介してDIWリンス液が供給される。なお、薬液供給源(HF−CHM)は所定の組成に調整されたHF系薬液を貯留するタンクにより構成することが好ましく、また、希薄DHF供給源(VDHF)は所定濃度に調整された希薄DHFを貯留するタンクにより構成することが好ましい。
【0014】
図2に示すように、薬液ノズル20、第1リンスノズル22および第2リンスノズル24は、ノズル移動機構30により駆動される。ノズル移動機構30は、ガイドレール31と、ガイドレール31に沿って移動可能な駆動機構内蔵型の移動体32と、その基端が移動体32に取り付けられるとともにその先端に上記の3つのノズル20、22、24を保持するノズルアーム33とを有している。ノズル移動機構50は、上記のノズル20、22、24を、基板保持部14に保持されたウエハWの中心の真上の位置とウエハWの周縁の真上の位置との間で移動させることができ、さらには、平面視でカップ18の外側にある待機位置まで移動させることもできる。
【0015】
基板洗浄装置10、その全体の動作を統括制御する制御部100を有している。制御部100は、基板洗浄装置10の全ての機能部品(例えば回転駆動部16、各種処理液の供給制御を行うための弁20a,20b,22a,22b,24a,24b、ノズル移動機構30など)の動作を制御する。制御部100は、ハードウエアとして例えば汎用コンピュータと、ソフトウエアとして当該コンピュータを動作させるためのプログラム(装置制御プログラムおよび処理レシピ等)とにより実現することができる。ソフトウエアは、コンピュータに固定的に設けられたハードディスクドライブ等の記憶媒体に格納されるか、或いはCDROM、DVD、フラッシュメモリ等の着脱可能にコンピュータにセットされる記憶媒体に格納される。このような記憶媒体が参照符号101で示されている。プロセッサ102は必要に応じて図示しないユーザーインターフェースからの指示等に基づいて所定の処理レシピを記憶媒体101から呼び出して実行させ、これによって制御部100の制御の下で基板洗浄装置10の各機能部品が動作して所定の処理が行われる。
【0016】
なお、図示されたスピンチャック11の基板保持部14は、可動の保持部材15によってウエハWの周縁部を把持するいわゆるメカニカルチャックタイプのものであったが、これに限定されるものではなく、ウエハWの裏面中央部を真空吸着するいわゆるバキュームチャックタイプのものであってもよい。また、図示されたノズル移動機構30は、ノズルを並進運動させるいわゆるリニアモーションタイプのものであったが、鉛直軸線周りに回動するアームの先端にノズルが保持されているいわゆるスイングアームタイプのものであってもよい。また、図示例では、3つのノズル20、22、24が共通のアームにより保持されていたが、それぞれ別々のアームに保持されて独立して移動できるようになっていてもよい。また、液処理装置10は、HF系薬液洗浄に先行して実施される別の薬液洗浄を行うために別の薬液(例えばSC−1、SC−2、APM、HPM等)を供給するためのノズルおよび供給系、或いは、DIWリンス後の乾燥処理時に乾燥促進のために供給される乾燥促進流体(IPA、Nガス等)を供給するためのノズルおよび供給系をさらに備えていてもよい。
【0017】
次に、液処理方法の実施形態について説明する。まず、図示しない基板搬送アームが、基板処理装置10内に表面に自然酸化膜が形成されたシリコンウエハ(ウエハW)を搬入するとともに、基板保持部14が当該ウエハWを水平に保持する。なお処理対象の基板は、シリコン(Si)、シリコン酸化物(SiOx(xは正数))、シリコン窒化物(SiNx(xは正数))等のシリコン含有材料からなる表面を有する任意の基板とすることができる。従って、基板は、シリコン含有材料からなる層を表面に有するガラス基板であってもよい。
【0018】
[HF系薬液洗浄工程]
次に、薬液ノズル20をウエハWの中心の真上に位置させ、スピンチャック11によりウエハWを回転させ、薬液ノズル20から、HF系薬液をウエハWに供給する。ウエハWの中心に供給されたHF系薬液は、遠心力により半径方向外側に拡散ながら流れ、ウエハWの表面はHF系薬液の薄い液膜により覆われる。これにより、ウエハWの表面に付着していた自然酸化膜が除去される。HF系薬液洗浄工程において用いられるHF系薬液としては、HF(フッ酸(フッ化水素酸))、NHF(フッ化アンモニウム)、NHHF(フッ化水素アンモニウム)およびこれらの混合物例えばBHF(バッファードフッ酸、HF+NHF)、LAL(ステラケミファ株式会社の商品名、HF+NHHF)などの原液、或いはこれらを適当な濃度となるように純水(DIW)で希釈した希釈液が例示される。なお、HF系薬液としてHF水溶液を用いる場合は、通常は0.5〜10wt%程度のHF濃度を有するDHFが用いられるが、このDHF中のHF濃度は、後述の希薄DHFリンス工程で用いられるDHFよりもかなり高い。
【0019】
[希薄DHFリンス工程]
HF系薬液洗浄工程を所定時間実行した後、引き続きウエハWを回転させながら、薬液ノズル20からのHF系薬液の供給を停止するとともに、第1リンスノズル22をウエハWの中心の真上に位置させて第1リンスノズル22から希薄DHFリンス液を供給する。ウエハWの中心に供給された希薄DHFリンス液は、遠心力により半径方向外側に拡散ながら流れ、ウエハWの表面は希薄DHFリンス液の薄い液膜により覆われる。これにより、ウエハWの表面がSi−H終端する(詳細後述)。希薄DHFリンス液中のHF濃度は、2500ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
【0020】
[DIWリンス工程]
希薄DHFリンス工程を所定時間実行した後、引き続きウエハWを回転させながら、第1リンスノズル22からの希薄DHFリンス液の供給を停止するとともに、第2リンスノズル24をウエハWの中心の真上に位置させて第2リンスノズル24からDIWリンス液を供給する。ウエハWの中心に供給されたDIWリンス液は、遠心力により半径方向外側に拡散ながら流れ、ウエハWの表面はDIWリンス液の薄い液膜により覆われる。これにより、ウエハWの表面に残留していた希薄DHFリンス液が除去される。なお、このDIWリンス工程においては、40℃〜80℃に暖められたDIWをリンス液として供給することが好ましい。こうすれば、DIWリンス工程開始時点において残存しているFを含む終端構造の少なくとも一部を、Fを含まない終端構造に変化させることができる。但し、この場合、Si−H終端構造だけでなくSi−Si−OHの終端構造が発生する可能性がある。なお、前述の希薄DHFリンス工程において、希薄DHFリンス液を40℃〜80℃に暖めて使用してもよい。
【0021】
[乾燥工程]
DIWリンス工程を所定時間実行した後、第2リンスノズル24からのDIWリンス液の供給を停止し、ウエハWの回転速度を増大させ、振り切り乾燥を行う。なお、基板処理装置10が乾燥促進流体の供給手段(IPA供給ノズル、Nガス供給ノズル等)を有しているならば、乾燥促進流体の供給をあわせて行うことが好ましい。以上により、一連の液処理が終了する。
【0022】
<実験>
希薄DHFリンス工程の効果を確認するために行った実験について以下に説明する。
【0023】
試験用ウエハWとして表面に自然酸化膜が形成されているシリコンウエハを用意した。以下の一連の工程、(1)HF系薬液洗浄工程、(2)DIW粗リンス工程、(3)乾燥工程、(4)希薄DHFリンス工程、(5)DIWリンス工程、(6)乾燥工程を各試験用ウエハW(試料A〜E)に対して施した。
【0024】
(1)HF系薬液洗浄工程、(2)DIW粗リンス工程、(3)乾燥工程、(5)DIWリンス工程、(6)乾燥工程については、図1および図2に示した形式の試験用の液処理装置により行った。
【0025】
(1)HF系薬液洗浄工程では、スピンチャックにより試験用ウエハを750rpm(途中で500rpmに減速)で回転させた状態で、試験用ウエハの中心の真上に位置するノズルからLAL5000(ステラケミファ株式会社の商品名、重量%で30.8%のNHHFおよび8.9%のHFを含む水溶液)を、1L/minの流量で、60sec供給した。次いで(2)DIW粗リンス工程では、DIWリンスを5sec行い、次いで(3)乾燥工程では、スピン乾燥を80sec行った。ここで、試験用ウエハを一旦、試験用の液処理装置から取り出した。
【0026】
(4)希薄DHFリンス工程はマニュアル操作により行った。具体的には、試験用ウエハと概ね同じ形状寸法の底面を有する槽の中に試験用ウエハを置いて、この槽の中に希薄DHFリンス液を入れて、マニュアル操作によりウエハ表面上の希薄DHFリンス液をパドル攪拌することにより、後述の表1に記載された各条件で希薄DHFリンス工程を行った。
【0027】
再び、試験用の液処理装置に試験用ウエハをセットし、試験用ウエハを1000rpmで回転させ、DIWを1.8L/minの流量でウエハに供給し、後述の表1に記載された各時間だけ(5)DIWリンス工程を行い、その後に、(6)乾燥工程としてスロードライを行った。スロードライについては特開2007−173308号を参照されたい。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に記載された条件について説明する。まず、全ての試料において、希薄DHFリンス工程の時間とDIWリンス工程の時間との合計は等しくしている。また、試料A、Cに対する希薄DHFリンス工程でのHF濃度は、初期において試料B、Dに対する希薄DHFリンス工程でのHF濃度と同じであるが、その後、段階的に減少させている。なお、試料Eでは、比較参照のため希薄DHFリンス工程の代わりにDIWリンス工程を行った。
【0030】
上記の一連の工程(1)〜(6)が終了した後、試験用ウエハを純水で満たした容器内に1時間浸漬して、ウエハ表面に残存しているF成分を純水中に抽出し、イオンクロマトグラフィー(IC)により純水中のF濃度をppbオーダーで検出して、検出値に基づいてウエハ表面単位面積あたりのF原子の量に換算した(単位はmolecule/cm2)。その結果を図3のグラフに示す。
【0031】
図3より明らかなように、試料A〜Dの全てにおいて、試料E(希薄DHFリンス工程無し)よりもF量が少なくなっていた。また、より低いHF濃度で希薄DHFリンス工程を行った試料A、Bの方が、試料C、DよりもF量が少なくなっていた。また、初期のHF濃度が同じ試料A(試料C)と試料B(試料D)とを比較すると、段階的にHF濃度を減少させた試料A(試料C)の方が、F量が少なくなっていた。従って、希薄DHFリンス工程は、ウエハ表面の残留F量の低減に効果があることが確認された。
【0032】
<実験結果に関する考察>
上記の実験結果に関する発明者の考察を以下に記載する。HF水溶液中では下記の式に示すような解離が生じる。
・HF = H+ F
・HF + F= HF
・HF + HO = H + F
・HO = H+ OH
すなわち、HF水溶液中には、H、F、HF、H、OHが共存している。
【0033】
図4はHF水溶液中のHFの解離状態を示す状態図である。この状態図は、「ウルトラクリーンULSI技術(培風館、大見忠弘著)」より引用したものである。この状態図よりわかるように、酸化膜除去に用いられるHF系薬液としてのDHFの一般的なHF濃度である0.25wt%〜1wt%(50%HFとDIWとの混合比=1:200〜1:50)では、H、F、HFが共存している。HF濃度を減少させて2500ppm(=0.25wt%)以下になるとFの濃度がHFの濃度を上回るようになる。さらにHF濃度を減少させて10ppm以下になるとHFが存在しなくなる。さらにHF濃度を減少させて1ppm以下になると完全に解離したH、Fだけが存在するようになる。
【0034】
上記を踏まえた上で、ウエハ表面における反応について考察する。HF系薬液処理中においては、ウエハ表面では、図5に示すような反応A〜反応C(図表中それぞれ左端の状態から右端の状態に進む反応)が生じているものと思われる。なお、図5の破線は、クーロン力の作用を意味している。殆どの部位(微視的に見て)では、反応Aまたは反応Bが生じ、Si−H終端構造(水素終端構造)が生成されているものと考えられる。あまり多くは無いがある一定の割合で、反応Cも生じているものと考えられる。反応Cでは、反応Bの左から3番目の状態になった後にH−Fが作用せず、その状態で反応が止まってしまっている。このような状態は、確率論的に反応に主としてHF、Hが作用する部分において生じる。
【0035】
反応Cが終了した状態から、DIWリンス工程および乾燥工程を行うと、反応Cの図中右端の状態のままとなるか、DIWリンス工程時に一部分において終端のFがOHに置換されることもあるが、Fを効果的に減少させることは難しく、ウエハの表面にFを含む終端構造がある程度の存在比率で残ってしまう。
【0036】
Fを含む終端構造をSi−H終端構造に変化させるには、反応Bの欄の左から3番目〜5番目に至る反応が促進される環境、特にH---HFからH−Fへの置換が促進される環境を整えてやればよい。この置換が促進されるのは、Fの量がHFの量よりも大きい場合である。
【0037】
図4の解離状態図より明らかなように、HF濃度が2500ppm以下のHF水溶液中に含まれるFの量はHFの量より大きくなる。従って、「HF濃度が2500ppm以下」という条件を少なくとも満たすものを希薄DHFリンス液として用いることにより、Si−H終端構造が形成されやすくなるものと考えられる。なお、HF濃度2500ppmは、HF(濃度50%原液):HOの混合比が1:200の場合に得られる。
【0038】
図4の解離状態図より明らかなように、Si−H終端構造が形成されやすくするには、希薄DHFリンス液としてのHF水溶液中のHF濃度は10ppm以下であることが好ましい。HF濃度が10ppm以下となるとHF水溶液中に解離したHFが存在しなくなるためである。さらには、希薄DHFリンス液としてのHF水溶液中のHF濃度は1ppm以下であることがより好ましい。HF濃度が1ppm以下となるとHF水溶液中では、HFがHとFに完全解離するからである。上記の考察は図3に示す実験結果と良く整合している。
【0039】
上記試験結果より明らかなように、前述の実施形態によれば、希薄DHFリンス工程を行うことにより、効率よく、短時間でSi−H終端構造を形成することができる。すなわち、従来では、図6(a)に示すようにHF系薬液洗浄工程を行った後に直ちにDIWリンス工程を行っていたが、これでは基板表面からFを十分に除去するまでに長時間がかかり、また、Si−H終端構造の比率を十分に高めることができなかった。これに対して、図6(b)に示すように、HF系薬液洗浄工程を行った後に希薄DHFリンス工程を行うことにより、短時間でFを含む終端構造からSi−H終端構造を形成することができ、また、その後のDIWリンス工程の時間も短縮することができる。
【0040】
また、上記実施形態においては、HF系薬液洗浄工程を行った後に、DIWリンス処理を経ることなく希薄DHFリンス工程を行うようにしたが、これに限らず、HF系薬液洗浄工程と希薄DHFリンス工程の間にDIWリンス処理を行うようにしてもよい。しかしながら、この場合、DIWリンス処理時にSi−OH終端構造をとる部分の割合が増えてしまい、最終的にSi−H終端構造をとる部分の割合が減ってしまうため、上記実施形態のようにHF系薬液洗浄工程を行った後にDIWリンス処理を経ることなく希薄DHFリンス工程を行うようにした方が好ましい。
【符号の説明】
【0041】
14 基板保持部
20,20a,20b,20c HF系薬液供給手段
22,22a,22b,22c 希薄DHFリンス液供給手段
24,24a,24b,24c DIWリンス液供給手段
100 制御部
101 記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を、HF系薬液を用いて洗浄する薬液洗浄工程と、
前記薬液洗浄工程の後、前記基板を、HF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程と、
を備え、
前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなる、ことを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液のHF濃度が10ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の基板洗浄方法。
【請求項3】
前記希薄DHFリンス工程の後に、前記基板を、純水(DIW)でリンスするDIWリンス工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の基板洗浄方法。
【請求項4】
前記DIWリンス工程において、60℃〜80℃に加熱された純水をリンス液として用いることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記薬液洗浄工程の後であって前記、希釈リンス工程の前に、前記基板を純水(DIW)でリンスするDIWリンス工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の基板洗浄方法。
【請求項6】
前記HF系薬液は、BHF(バッファードフッ酸)水溶液からなることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の基板洗浄方法。
【請求項7】
基板を保持する基板保持部と、
前記基板にHF系薬液を供給するHF系薬液供給手段と、
前記基板にHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液を供給する希薄DHFリンス液供給手段と、
前記HF系薬液供給手段および希薄DHFリンス液供給手段を制御して、HF系薬液を用いて前記基板を洗浄する薬液洗浄工程と、前記薬液洗浄工程の後に前記基板をHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程と、が実行されるように構成された制御部と、
を備え、
前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなる、
ことを特徴とする基板洗浄装置。
【請求項8】
前記基板に純水(DIW)を供給するDIWリンス液供給手段をさらに備え、
前記制御部は、前記希薄DHFリンス工程の前または後に純水で前記基板をリンスするDIWリンス工程が実行されるように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の基板処理装置。
【請求項9】
基板洗浄装置の制御部をなすコンピュータにより読み取り可能なプログラムを記録する記憶媒体であって、前記基板洗浄装置は、基板にHF系薬液を供給するHF系薬液供給手段と、前記基板にHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液を供給する希薄DHFリンス液供給手段とを有しており、前記HF系薬液は、前記希薄DHFリンス工程で用いられるHF水溶液よりも高いHF濃度を有するHF水溶液からなるか、若しくは複数種のHF系薬剤を混合してなるものであり、前記コンピュータが前記プログラムを実行すると前記制御部が前記HF系薬液供給手段および希薄DHFリンス液供給手段を制御して、HF系薬液を用いて前記基板を洗浄する薬液洗浄工程と、薬液洗浄工程の後に前記基板をHF濃度が2500ppm以下のHF水溶液でリンスする希薄DHFリンス工程とを実行させる、記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−16594(P2013−16594A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147600(P2011−147600)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】