説明

寸法測定方法および両端面干渉計

【課題】 本発明の目的は両端面干渉計においてより高精度な寸法測定を行う方法および装置を提供することにある。
【解決手段】 光路上に端度器の測長軸を光軸に一致させて配置し、端度器の相対向する端面の両側から各端面に対して直角に光を入射させて光波干渉測定を行う両端面干渉計を用い、端度器の各端面側での干渉縞画像を観測し、観測した各干渉縞画像に基いて相対向する端面間の寸法を測定する寸法測定方法において、両端面干渉計の光路上に被測定物となる端度器を設置し、得られた各干渉画像から被測定物の寸法測定値を求める被測定物測定工程と、干渉計の光学部材に起因した光の波面歪により生じる測定値への誤差を補正するための補正値を取得する補正値取得工程と、補正値取得工程で得た補正値と被測定物測定工程で得た寸法測定値を基に補正された寸法測定値を求める補正工程と、を含むことを特徴とする寸法測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波干渉測定を用いた端度器の寸法測定方法および装置、特にその測長値の補正方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示したような干渉計を用いて、ブロックゲージ等の端度器の寸法測定を行う際、被測定物であるブロックゲージをベースプレートに密着(リンギング)する必要がある。このリンギングにおけるバラツキが寸法測定に対する誤差の主要因となるため、これを改善したリンギングを用いない干渉計が提案されている(例えば、特許文献2、3等)。これらの光波干渉測定では端度器の寸法を、使用する光の波長の半分(半波長)を単位として測定する。つまり、端度器の寸法が半波長の何倍(整数倍)であるかを示す整数部と、半波長以下の端数部との2つの情報から端度器の寸法値が得られる。光波干渉測定ではこの端数部分のみを測定し、整数部としてはあらかじめ半波長以下の精度で測定された予備測定値を用いることとなる。
特許文献2,3に示された両端面干渉計では被測定物の両端面側から光を照射し、各端面側で観察した干渉縞画像を基に被測定物の端面間の寸法測定を行う。つまり、各端面側から観察した干渉縞画像を基に、端面中央部分の位相と端面脇での位相との差から上記の端数部を演算し、端面間の寸法測定を行う。
【特許文献1】特開平6−341809号公報
【特許文献2】特開平8−271216号公報
【特許文献3】特開2003−194523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2、3のような両端面干渉計では、被測定物をベースプレート等にリンギングする必要がないため、リンギングによる測定誤差は生じない。しかしながら、本発明者らが検討した結果、両端面干渉計においても無視し得ない誤差要因が存在することが判明した。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は両端面干渉計においてより高精度な寸法測定を行う方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上で述べたように本発明者らは両端面干渉計においても無視し得ない誤差要因が存在することを見出した。光波干渉測定を用いた端度器測定では干渉画像領域内における複数地点の相対的な位相差を算出するため、精度良く測定するにはレーザ光の波面(等位相面)ができる限り揃っていることが重要である。光の波面は光学部品の精度に依存するため、できるだけ良いものを選択する必要があるが、市販の光学部品では評価装置の関係から保証する光学部品の面精度はλ/20程度となってしまう。この値は干渉計の読み取り精度や測定の再現性に比べて非常に大きい。このため、実測した被測定物の寸法値には波面歪の影響による系統誤差が常に加算されてしまうことになる。本発明者らはこの光学部材による波面歪の影響を取り除くことで、より高精度な寸法値が得られることを見出した。
すなわち本発明の寸法測定方法は、光路上に端度器の測長軸を光軸に一致させて配置し、端度器の相対向する端面の両側から各端面に対して直角に光を入射させて光波干渉測定を行う両端面干渉計を用い、端度器の各端面側での干渉縞画像を観測し、観測した各干渉縞画像に対し、干渉縞画像内の端度器端面位置での干渉縞から求められる位相と端度器端面周囲の干渉縞から求められる位相とから算出される端数値を求め、各干渉縞画像から求めた端数値に基いて相対向する端面間の寸法を測定する寸法測定方法において、前記両端面干渉計の光路上に被測定物となる端度器を設置し、前記各干渉画像から端数値を算出して、被測定物の寸法測定値を求める被測定物測定工程と、干渉計の光学部材に起因した光の波面歪によって干渉縞が歪むことで、それにより生じる前記端数値への誤差を補正するための補正値を取得する補正値取得工程と、前記補正値取得工程で得た補正値と被測定物測定工程で得た寸法測定値を基に、補正された寸法値を求める補正工程と、を含むことを特徴とする。
上記の寸法測定方法において、前記補正値取得工程では、前記両端面干渉計の光路上に被測定物を未設置の状態で、両側から干渉縞画像を観察し、前記被測定物が前記光路上に設置されていると仮定したときに、干渉縞画像内で被測定物の端面が位置していたであろう場所での干渉縞の位相と、被測定物の端面周囲に対応したであろう場所での干渉縞の位相とから端数値を算出し、各干渉縞画像から求めた端数値を基に補正値を求め、前記補正工程では、被測定物測定工程で得た寸法測定値と前記補正値との差の絶対値を求め、それによって補正された寸法値を得ることが好適である。
上記の寸法測定方法において、前記補正値取得工程での、仮想の被測定物の端面が位置している位置、および仮想の被測定物の端面周囲に対応している位置の判断は、前記被測定物測定工程にて取得した干渉縞画像から得た端面の輪郭情報を基に行うことが好適である。
また、本発明の両端面干渉計は、光路上に端度器の測長軸を光軸に一致させて配置し、端度器の相対向する端面の両側から各端面に対して直角に光が入射され、端度器の各端面側での干渉縞画像を観測し、各干渉縞画像に対し、干渉縞画像内の端度器端面位置での干渉縞から求められる位相と端度器端面周囲の干渉縞から求められる位相とから算出される端数値を求め、各干渉縞画像から求めた端数値に基いて相対向する端面間の寸法を測定する両端面干渉計において、被測定物となる端度器が光路上に配置されたとき、前記各干渉縞画像から求めた端数値に基き、被測定物の寸法測定値を演算する寸法値演算手段と、前記測定時の被測定物の各端面での干渉縞画像を記憶する干渉縞記憶手段と、該干渉縞記憶手段にて記憶した干渉縞画像から、被測定物の各端面の輪郭情報を取得する輪郭情報取得手段と、被測定物未設置の状態で測定が行われ、前記輪郭情報取得手段にて取得した輪郭情報に基き、前記被測定物が前記光路上に設置されていると仮定したときに、被測定物の端面が位置していたであろう場所での位相と、被測定物の端面周囲に対応したであろう場所での位相とに基いて、補正値を演算する補正値演算手段と、を備え、補正値演算手段にて求めた補正値と、寸法値演算手段にて求めた被測定物の寸法測定値とから、補正された寸法値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の寸法測定方法によれば、干渉計の光学部品による波面歪の影響を補正する補正値を求めることができるため、干渉計に高価、超高精度な光学部品を必要とすることなく、高精度な寸法測定を行うことが可能となる。
また、本発明の寸法測定方法によれば、波面歪の影響を取り除くための補正値を、被測定物が未設置の状態での測定によって得ているため、簡単に高精度な寸法測定を行うことが可能となる。
本発明の両端面干渉計によれば、干渉計の光学部品による波面歪の影響を取り除くことができるため、干渉計に高価、超高制度な光学部品を必要とすることなく、安価に高精度な測定を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明にかかる好適な実施形態について説明する。
本実施形態においては図1に記載の両端面干渉計10を使用する。図1の両端面干渉計10は、干渉計本体12と、コンピュータ等で構成されるデータ処理系14とを備える。
干渉計本体12ではハーフミラーHM2とハーフミラーHM3との間の光路上に、被測定物となる端度器(ブロックゲージGB)がその測長軸を光軸に一致させて配置される。ハーフミラーHM2、3からブロックゲージGBの相対向する各端面へ向けて、端面に垂直に光が照射され、各端面側での干渉縞画像が第一観察手段38(CCD1、第一結像光学系40)、第二観察手段42(CCD2、第二結像光学系44)にて撮像される。
【0007】
データ処理系14は干渉計本体12にて撮像した干渉縞画像等のデータの処理を行う。寸法値演算手段16では測定した干渉縞画像を基に、ブロックゲージGBの相対向する端面間の寸法を求める。具体的には第一観察手段38にて取得した干渉縞画像48aを用い、端面中央部の位相をブロックゲージ端面46a(図中右側の端面)部分に対応する干渉縞50aから求め、また端面両脇での位相をブロックゲージ端面の周囲の干渉縞52aから求める。同様に第二観察手段42にて撮像した干渉縞画像48bを用い、端面中央部の位相をブロックゲージ端面46b(図中左側の端面)部分に対応する干渉縞50bから求め、端面両脇での位相を端面周囲の干渉縞52bから求める。端面両脇の位相の平均値をとり、この平均値と端面中央の位相との差をとることで端数部が求められる。こうして求めた各端数値と、ブロックゲージGBの相対向する端面間の予備値とを用いて寸法測定値が算出される。
【0008】
本実施形態ではさらにデータ処理系14としてブロックゲージGBの各端面での干渉縞画像を記憶する干渉縞画像記憶手段18と、干渉縞画像記憶手段18にて記憶した干渉縞画像から、ブロックゲージGBの各端面の輪郭情報を取得する輪郭情報取得手段20と、波面歪によって寸法値に生じる誤差を補正するための補正値を取得する補正値演算手段22と、を備える。本実施形態の補正値演算手段22は、ブロックゲージGBを未設置の状態で測定を行い、輪郭情報取得手段20にて取得した輪郭情報を基に、ブロックゲージGBの端面が位置していたであろう仮想端面位置での位相と、ブロックゲージGBの端面周囲に対応していたであろう仮想両脇位置での位相とに基いて補正値を演算する。この補正値演算手段にて求めた補正値と、実際にブロックゲージGBを測定して得られた寸法測定値とからブロックゲージの補正された寸法値が算出される。また、上記補正値や寸法測定値は演算値記憶手段24に記憶される。
また、本発明にかかる寸法測定方法は、上記の両端面干渉計を用いて端度器の相対向する端面(測定面)間の寸法の光波干渉測定を行う方法であって、被測定物の寸法値を実測する被測定物測定工程と、波面歪による系統誤差を補正する補正値を取得する補正値取得工程と、前記補正値を用いて、実測された寸法測定値を補正する補正工程とを含む。
【0009】
被測定物測定工程では、両端面干渉計10の干渉計本体12の光路上に被測定物となるブロックゲージGBを設置し、ブロックゲージGBの各端面46a,46b側での各干渉画像から端数値を取得して、ブロックゲージGBの寸法測定値を求める。
次に補正値取得工程では、両端面干渉計の光路上にブロックゲージGBが未設置の状態での干渉縞画像を取得する。つまり、ブロックゲージが光路上に設置されていると仮定したときに、仮想のブロックゲージの一方の端面側の干渉縞画像と、他方の端面側の干渉縞画像との取得を実際にブロックゲージが設置されたときの測定と同様に行う。そして、各干渉縞画像内でブロックゲージの端面が位置していたであろう場所での干渉縞の位相と、ブロックゲージの端面周囲に対応したであろう場所での干渉縞の位相とに基いて端数値を求める。この端数値の求め方は、被測定物測定工程における端数値の求め方と同じである。つまり、仮想のブロックゲージ端面の両脇の位相の平均値を求め、その平均値と仮想のブロックゲージ端面中央の位相との差をとることで算出される。そして仮想のブロックゲージの予備値を0とおいて、実際の寸法算出の方法と同様に上記の端数値から仮想のブロックゲージの寸法測定値を求める。この仮想のブロックゲージの寸法測定値が補正値となる。
【0010】
また、補正値取得工程での、仮想のブロックゲージの端面が位置している位置、および仮想のブロックゲージの端面周囲に対応している位置の判断は、前記被測定物測定工程にて取得した干渉縞画像から得た端面の輪郭情報を基に行うことが好適である。これにより、実際に測定する被測定物の配置位置と正確に対応した点での位相を用いて補正値を算出することができるため、高精度な測定が可能となる。
補正工程では、補正値取得工程で得た補正値と被測定物測定工程で得た寸法測定値との差の絶対値を演算する。こうして得られた値が補正された寸法値となる。
以上が本発明の概略構成であり、以下にさらに詳細に説明を行う。
【0011】
両端面干渉計
特許文献3に記載された干渉計(図1参照)は、非密着光波干渉測定装置とも称されている。類似の干渉計としては、特許文献2で示される干渉計などがある。このように、二つの平行な測定面(端面)を持つ端度器や同様な形状の測定物に対して、測定面に垂直方向から光を入射させ、その寸法を測定する干渉計を総称して、本発明では両端面干渉計と呼ぶ。
図1に示す両端面干渉計10の干渉計本体12は、レーザ光源26と、コリメータレンズ30と、反射鏡32と、ハーフミラーHM1と、第一干渉手段34と、第二干渉手段36とを備える。第一干渉手段34はハーフミラーHM2と第一参照鏡RM1とによって構成されている。また、第一干渉手段34の後段にはCCDカメラ1および第一結像光学系40によって構成される第一観察手段38が設置される。同様に第二干渉手段36はハーフミラーHM3と第二参照鏡RM2とで構成されている。第二干渉手段36の後段にはCCDカメラ2および第一結像光学系44によって構成される第二観察手段42が設置されている。
【0012】
レーザ光源26からの光はコリメータレンズ30にて適当な直径の平行光線とされ、反射鏡32へと向う。ここで、光の直径はブロックゲージ端面に外接する円の直径よりも大きくとることが望ましい。反射鏡32で反射された後、ハーフミラーHM1と、第一干渉手段(ハーフミラーHM2、第一参照鏡RM1)と、第二干渉手段(ハーフミラーHM3、第二参照鏡RM2)とで構成された環状の干渉部へと入射し、ハーフミラーHM1で時計回り光路(ハーフミラーHM2へ向う方向)と、反時計回り光路(ハーフミラーHM3へ向う方向)とに分けられる。つまり、ハーフミラーHM2ではハーフミラーHM1で反射された光(第一分割光)をブロックゲージGBへ向けて出射し、その一部を該ブロックゲージGBの一方の測定面46a(図中右側)に入射させて反射光を戻し、且つその残りをブロックゲージGBの脇を通過させてハーフミラーHM3に入射させる。同様にハーフミラーHM3ではハーフミラーHM1を透過した光(第二分割光)をブロックゲージGBへ向けて出射し、その一部を該ブロックゲージGBの他方の測定面46b(図中左側)に入射させて反射光を戻し、且つその残りをブロックゲージGBの脇を通過させてハーフミラーHM2に入射させる。
【0013】
ハーフミラーHM2ではブロックゲージGBの脇を通過してきたハーフミラーHM3からの光と、第一分割光の内ハーフミラーHM2を透過し第一参照鏡RM1で反射された光(第一参照光)とを重ね合わせて基準干渉光を得、かつハーフミラーHM2からの光をブロックゲージGBの一方の測定面46aに照射して得られた反射光と、第一参照光とを重ね合わせて測定干渉光を得る。第一観察手段38ではハーフミラーHM2で得られた基準干渉光及び測定干渉光をそれぞれ干渉縞52a、50aとして同時に観察する。すなわち、測定干渉光による干渉縞がブロックゲージ端面での干渉縞50aに対応し、基準干渉光による干渉縞が端面周囲の干渉縞52aに対応する。
【0014】
同様にハーフミラーHM3ではブロックゲージGBの脇を通過してきたハーフミラーHM2からの光と、第二分割光の内ハーフミラーHM3を透過し第二参照鏡RM2で反射された光(第二参照光)とを重ね合わせて基準干渉光を得、かつハーフミラーHM3からの光をブロックゲージGBの他方の測定面46bに照射して得られた反射光と、第二参照光とを重ね合わせて測定干渉光を得る。第二観察手段42では、ハーフミラーHM3で得られた基準干渉光及び測定干渉光をそれぞれ干渉縞52b、50bとして同時に観察する。測定干渉光による干渉縞がブロックゲージ端面での干渉縞50bに対応し、基準干渉光による干渉縞が端面周囲の干渉縞52bに対応する。
【0015】
以上の光路をまとめたものを表1に記す。表中の記号は図中の記号に対応する。
【表1】

【0016】
被測定物測定工程
次に上記干渉計における寸法算出の原理を説明する。ここでブロックゲージGBの両端面間の距離をLとすると、
【数1】

で表される。また、L、L、L、Lはそれぞれ、
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

と表される。ここで、λはレーザ光の真空波長、N〜N、N14、およびN23は整数部、ε〜ε、ε14、およびε23は端数部である。(式2)の第二項と(式5)の第二項は光路Lと光路Lの共通光路(HM1とHM2間の光路長)を表しており、また(式3)の第二項と(式4)の第二項は光路Lと光路Lの共通光路(HM1とHM3間の光路長)を表している。
【0017】
(式1)に(式2)〜(式5)を代入すると
【数6】

となる。なお、N=N−N+N−N、ε=(ε−ε)+(ε−ε)である。
【0018】
ここで、(ε−ε),(ε−ε)はブロックゲージの右側端面46a、左側端面46bで測定したときの端数値であり、それぞれ第一観察手段38、第二観察手段42において観測される干渉縞画像48a、48bから求められる。
次に端数の算出について説明する。図2にCCD1で撮像した干渉縞の例と、その位相検出位置を示す。干渉領域におけるブロックゲージ測定面の重心位置をプログラムにより検出し、その点の位相を測定面中央の位相bとする。次にブロックゲージ周囲の干渉縞部分において、先に検出した中央位置を挟む両脇2点の位置をプログラムにより検出し、それぞれの位相をa、cとする。この両脇2点の位相の平均値(以下、脇の位相)と中央の位相より、CCD1側で算出される端数ε−εは、
【数7】

で求められる。
【0019】
同様にCCD2の中央の位相をb、両脇の位相をa、cとするとCCD側で算出される端数ε−ε
【数8】

で求められる。
式7,8を合計したものがブロックゲージの端数εとなり、
【数9】

となる。
この端数値εが半波長以下のブロックゲージの長さ情報となり、正確な波長およびN(干渉次数整数部)が既知であれば、ブロックゲージの寸法が求められる。
【0020】
系統誤差の評価
次に本実施形態にかかる補正値の算出方法の原理を説明するために、図1で示した干渉計を以下の条件でモデル化し、波面歪によって生じる系統誤差の評価を行う。図3は図1の干渉部のみを取り出して示したものである。
各光学部材間の距離を次の記号で表す(図3参照)。
HM1−HM2:a
HM2−HM3:b
HM1−HM3:c
HM2−RM1:d
HM3−RM2:e
ブロックゲージ寸法:LG
【0021】
また、各光学部品での波面歪によって生じる、ブロックゲージ中央とその脇の位相の差を表2の記号で表す。
【表2】

【0022】
ここで、ハーフミラーHM2におけるミラー面内側反射による波面歪とは、第一参照鏡RM1からの光がハーフミラーHM2にて反射されるときに生じる波面歪のことを示し、ミラー面外側反射による波面歪とはハーフミラーHM1(環状の干渉部を構成するミラー)からの光がハーフミラーHM2にて反射されるときに生じる波面歪のことを示す。同様にハーフミラーHM3におけるミラー面内側反射による波面歪とは第二参照鏡RM2からの光がハーフミラーHM3にて反射されるに生じる波面歪を示し、ミラー面外側反射による波面歪とはハーフミラーHM1からの光がハーフミラーHM3にて反射されるときに生じる波面歪のことを示す。
また、上記の波面歪等による位相変化は反射時のブロックゲージ中央のみの影響を受けると仮定する。さらに光学部品の厚さは無視した。
【0023】
まず、各光学部品で上記波面歪等による位相差が発生した場合に実測されるブロックゲージ長さを計算する。
CCD1側で測定されるブロックゲージ中央を通る光路長LGC1(ただし、HM1→HM2→RM1→HM2という光路を経た第一参照光の光路長を引いたもの)は
【数10】

で表される。
【0024】
CCD1側で観測されるブロックゲージ脇を通る光路長LGS1(ただし、HM1→HM2→RM1→HM2という光路を経た第一参照光の光路長を引いたもの)は、
【数11】

と表される。
【0025】
よってブロックゲージ中央部分での光路長LGC1とブロックゲージ脇での光路長LGS1との光路長差LC1は
【数12】

となる。
【0026】
同様にCCD2側で観測されるブロックゲージ中央を通る光路長LGC2(ただし、HM1→HM3→RM2→HM3という光路を経た第二参照光の光路長を引いたもの)は
【数13】

で表される。また、CCD2側で観測されるブロックゲージ脇を通る光路長差LGS2(ただし、HM1→HM3→RM2→HM3という光路を経た第二参照光の光路長を引いたもの)は
【数14】

で表される。よってブロックゲージ中央部分での光路長差LGC2とブロックゲージ脇での光路長差LGS2との差LC2は
【数15】

となる。これらにより測定されるブロックゲージの長さLG
【数16】

となり、第一項が求めたいブロックゲージの寸法、第二項が不要な系統誤差成分となる。
【0027】
補正値演算工程
本発明者らは上記の(式16)に着目することで、第二項の系統誤差成分を簡単な方法により求め、測定値の補正を行う方法を開発した。以下、これについて説明する。
上記の系統誤差はブロックゲージを設置せず、測定ワーク(被測定物)のない状態で空測定を行うことで測定することができる。この空測定では測定ワークのない状態で寸法を測るので、等価的に長さ0のワークを測定していることに相当する。
空測定で求められる長さを計算する。図4に空測定時の干渉計光路を示す。
【0028】
CCD1側で測定される「ブロックゲージが実際存在した場合に想定される中央(以下、仮想ブロックゲージ中央)」を通る光路長LNC1(ただし、上記第一参照光の光路長を引いたもの)は
【数17】

で表される。
【0029】
CCD1側で測定される「ブロックゲージが実際存在した場合に想定される脇(以下、仮想ブロックゲージ脇)」を通る光路長LNS1(ただし、上記第一参照光の光路長を引いたもの)は
【数18】

で表される。
【0030】
仮想ブロックゲージ中央と仮想ブロックゲージ脇での光路長差L'C1は
【数19】

となる。
【0031】
同様にCCD2側で測定される仮想ブロックゲージ中央を通る光路長LNC2(ただし、上記第二参照光の光路長を引いたもの)は
【数20】

で表され、CCD2側で測定される仮想ブロックゲージ脇を通る光路長LNS2(ただし、上記第二参照光の光路長を引いたもの)は
【数21】

で表される。よってCCD2側の仮想ブロックゲージ脇と仮想ブロックゲージ中央での光路長差L'C2は
【数22】

となる。これらより、空測定で測定される寸法L
【数23】

となる。空測定では測定ワークがないため寸法測定値の第一項は0である。第二項が今回求めるべき光学部品の波面歪による系統誤差となる。
【0032】
そこで、式16から式23を減算すると、
【数24】

となり、ブロックゲージの長さだけが正しく求めることができる。
すなわち、あらかじめ空測定により補正値を求めておき、その値を用いて寸法測定結果を補正すれば光学部品による波面歪の影響による系統誤差を除去することができることが分かる。
【0033】
この補正値取得工程においても、端数値の算出は被測定物測定工程と同様に行えばよい。図5は被測定物がない場合の干渉縞画像を模式的に示したものである(同図(A)がCCD1側、同図(B)がCCD2側を示す)。図5の点線部分は仮想のブロックゲージ端面の輪郭を示している。輪郭情報取得手段(図1参照)により取得した端面の輪郭情報から、仮想ブロックゲージ端面(測定面)の重心位置を求める。この重心位置での位相を端面中央の位相bとする。また端面周囲の干渉縞部分において、上記の重心位置を挟む両脇2点の位置を求め、それぞれの位相をa、cとする。この両脇2点の位相の平均値と中央の位相とより、CCD1側で算出される端数ε−εは、
【数25】

で求められる。
【0034】
CCD2側においても同様に、中央の位相をb、両脇の位相をa、cとするとCCD2側で算出される端数ε−ε
【数26】

で求められる。
【0035】
(式25)と(式26)とを合計したものが仮想ブロックゲージの端数εであり、
【数27】

となる。
仮想ブロックゲージは予備値が0のブロックゲージに相当するため、上記(式27)で表される端数εが補正値となる。
【0036】
このようにして求めた補正値と、ブロックゲージを実測して得た寸法測定値との差の絶対値を求めることにより、補正された寸法値を得ることができる。
以上のように、本実施形態にかかる方法および装置によれば、光学部品による系統誤差を簡単に計測でき、測定値を補正することができる。そのため、干渉計に高価、超高精度な光学部品を必要とすることなく、安価に高精度に計測をすることができる。
また、本実施形態にかかる方法は、上記実施形態で示したような非リンギング方式(非密着)の光波干渉測定に適用することが好適である。なぜならリンギングを伴う方法でも原理的には上記と同様な方法で行えば補正は可能であるが、リンギング相手としてベースプレートやオプティカルフラットなどを用いるため、これらベースプレートの平面度に限界がある点と、空測定と実際の測定とでベースプレートの設置位置等を完全に再現することが難しい点とを考慮すると実用的でないからである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態にかかる両端面干渉計の概略構成図
【図2】ブロックゲージ設置時の干渉縞画像の例
【図3】被測定物測定工程における光路図
【図4】補正値取得工程における光路図
【図5】補正値取得工程における干渉縞画像の模式図
【符号の説明】
【0038】
10 両端面干渉計
12 干渉計本体
14 データ処理系
16 寸法演算手段
18 干渉縞画像記憶手段
20 輪郭情報記憶手段
22 補正値演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路上に端度器の測長軸を光軸に一致させて配置し、端度器の相対向する端面の両側から各端面に対して直角に光を入射させて光波干渉測定を行う両端面干渉計を用い、端度器の各端面側での干渉縞画像を観測し、観測した各干渉縞画像に対し、干渉縞画像内の端度器端面位置での干渉縞から求められる位相と端度器端面周囲の干渉縞から求められる位相とから算出される端数値を求め、各干渉縞画像から求めた端数値に基いて相対向する端面間の寸法を測定する寸法測定方法において、
前記両端面干渉計の光路上に被測定物となる端度器を設置し、前記各干渉画像から端数値を算出して、被測定物の寸法測定値を求める被測定物測定工程と、
干渉計の光学部材に起因した光の波面歪によって干渉縞が歪むことで、それにより生じる前記端数値への誤差を補正するための補正値を取得する補正値取得工程と、
前記補正値取得工程で得た補正値と被測定物測定工程で得た寸法測定値を基に、補正された寸法値を求める補正工程と、を含むことを特徴とする寸法測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の寸法測定方法において、
前記補正値取得工程では、前記両端面干渉計の光路上に被測定物を未設置の状態で、両側から干渉縞画像を観察し、前記被測定物が前記光路上に設置されていると仮定したときに、干渉縞画像内で被測定物の端面が位置していたであろう場所での干渉縞の位相と、被測定物の端面周囲に対応したであろう場所での干渉縞の位相とから端数値を算出し、各干渉縞画像から求めた端数値を基に補正値を求め、
前記補正工程では、被測定物測定工程で得た寸法測定値と前記補正値との差の絶対値を求め、それによって補正された寸法値を得ることを特徴とする寸法測定方法。
【請求項3】
請求項2記載の寸法測定方法において、
前記補正値取得工程での、仮想の被測定物の端面が位置している位置、および仮想の被測定物の端面周囲に対応している位置の判断は、前記被測定物測定工程にて取得した干渉縞画像から得た端面の輪郭情報を基に行うことを特徴とする寸法測定方法。
【請求項4】
光路上に端度器の測長軸を光軸に一致させて配置し、端度器の相対向する端面の両側から各端面に対して直角に光が入射され、端度器の各端面側での干渉縞画像を観測し、各干渉縞画像に対し、干渉縞画像内の端度器端面位置での干渉縞から求められる位相と端度器端面周囲の干渉縞から求められる位相とから算出される端数値を求め、各干渉縞画像から求めた端数値に基いて相対向する端面間の寸法を測定する両端面干渉計において、
被測定物となる端度器が光路上に配置されたとき、前記各干渉縞画像から求めた端数値に基き、被測定物の寸法測定値を演算する寸法値演算手段と、
前記測定時の被測定物の各端面での干渉縞画像を記憶する干渉縞記憶手段と、
該干渉縞記憶手段にて記憶した干渉縞画像から、被測定物の各端面の輪郭情報を取得する輪郭情報取得手段と、
被測定物未設置の状態で測定が行われ、前記輪郭情報取得手段にて取得した輪郭情報に基き、前記被測定物が前記光路上に設置されていると仮定したときに、被測定物の端面が位置していたであろう場所での位相と、被測定物の端面周囲に対応したであろう場所での位相とに基いて、補正値を演算する補正値演算手段と、を備え、
補正値演算手段にて求めた補正値と、寸法値演算手段にて求めた被測定物の寸法測定値とから、補正された寸法値を算出することを特徴とする両端面干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275883(P2006−275883A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97725(P2005−97725)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】