説明

導電性薄膜の形成方法及び導電性薄膜形成装置

【課題】スパッタ成膜において、あらゆる膜特性を同時に満足させる手法を提供すること。
【解決手段】スパッタ現象を利用して基板上に導電性薄膜を形成する方法であって、薄膜形成中に、スパッタ電力、スパッタガス、および反応性ガスを含む成膜パラメータの少なくとも1つを2つの値に変動させ、その時間分割比を制御することを特徴とする導電性薄膜の形成方法である。また、p型またはn型の導電型を有する半導体上に導電性薄膜を形成する方法において、半導体上への成膜開始時点に、強度にプラズマ照射を行うことを特徴とする導電性薄膜の形成方法も採用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイスや表示デバイスに用いられる導電性薄膜の形成方法およびそれに用いられる装置、とりわけ酸化物透明導電性薄膜の形成方法およびそれに用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性薄膜(以下、単に、薄膜、導電性薄膜ともいう)としては、各種表示デバイス等に広く用いられているITOの他に、IZO、ZnO、AZO、GZOなどが知られている。これらの薄膜の形成法としては、真空蒸着法やスパッタ法のほか、PLD(Pulsed Laser Deposition)やゾルゲル法など、様々な手法が試みられている。これらの薄膜は一般に酸化物などの2元または3元以上の化合物であり、形成法によって、膜組成や結晶性のほか、電気電導率や光学的な透過性、表面平坦性が大きく変化する。このため、例えば同じITOであっても、適用するデバイスに応じて形成法や条件を変え、必要とする特性を引き出してそれぞれのデバイスに利用している。
【0003】
従来ITO膜の形成法として最も一般的に用いられている方法は、スパッタと真空蒸着である。スパッタは大面積基板に均一に成膜でき、膜質も優れていることから、液晶パネルやタッチパネルなど、表示デバイスで多用されている。一方、LEDなどのように、成膜基板が半導体である場合には、半導体へのダメージの懸念や半導体とのオーミックコンタクトが困難であるなどの理由からスパッタが避けられ、長年にわたって真空蒸着が用いられてきた。
【0004】
しかしながら、蒸着で形成したITO膜は、一般に針状結晶のような不安定な膜になりやすく、デバイスプロセスで薬品耐性が不十分な点や、透過率や平坦性などの薄膜特性についての要求特性を満足できないなどで、他の成膜法に置き換えようとする試みが成されている。
【0005】
また、スパッタ、真空蒸着の何れにおいても、成膜中に微量の酸素を添加することで導電性や透過性などの特性を確保しているため、ガス流量制御性の精度や真空中の残留水分の影響で、成膜の安定性や再現性が極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1553959号公報
【特許文献2】特許第1462543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように近年では透明導電性薄膜に要求される特性は極めて多岐にわたっており、しかも適用するデバイスによって必要とする特性が大きく異なっているという事情がある。例えば液晶表示デバイスにおいては、導電性や透過率などが主に要求される特性となるが、LEDではこれらのほかに半導体との低いコンタクト抵抗が要求される。特に、キャリア濃度の低いp型GaNに対しては良好なコンタクトを得ることが極めて困難である。
【0008】
真空蒸着で形成したITO膜では比較的容易にオーミックコンタクトを得ることが可能であるが、膜質は不十分である。一方、スパッタ法では良好な膜質が得られる一方でオーミックコンタクトが困難である。また、何れの形成法においても微量な酸素添加が難しく、抵抗率や透過率のほか、平坦性などのすべての特性を満足させることが極めて困難であった。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明の目的は、スパッタ成膜において、あらゆる膜特性を同時に満足させる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、スパッタ現象を利用して基板上に導電性薄膜を形成する方法であって、薄膜形成中に、スパッタ電力、スパッタガス、および反応性ガスを含む成膜パラメータの少なくとも1つを2つの値に変動させ、その時間分割比を制御することを特徴とする導電性薄膜の形成方法である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導電性薄膜の形成方法において、プラズマ生成法としてECRを用い、前記成膜パラメータにマイクロ波電力をさらに含むことを特徴とする
請求項3に記載の発明は、p型またはn型の導電型を有する半導体上に導電性薄膜を形成する方法において、半導体上への成膜開始時点に、強度にプラズマ照射を行うことを特徴とする導電性薄膜の形成方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の導電性薄膜の形成方法において、プラズマ生成法がECRであることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、スパッタ現象を利用して基板上に導電性薄膜を形成する装置であって、薄膜形成中に、スパッタ電力、スパッタガス、および反応性ガスを含む成膜パラメータの少なくとも1つを、2つの値に変動させ、その時間分割比を制御する手段を有することを特徴とする導電性薄膜形成装置である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の導電性薄膜形成装置において、プラズマ生成法としてECRを用い、前記成膜パラメータにマイクロ波電力をさらに含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】代表的な固体ソースECRプラズマ成膜装置の断面構造を示す図である。
【図2】比較例1の成膜法によるITO膜の抵抗率と表面平坦性を示す図である。
【図3】比較例1及び実施例1において形成したITO膜の透過特性を示す図である。
【図4】本願発明によるコンタクト層を挿入した場合と挿入しない場合とにおけるITO/p−GaNコンタクトのI−V特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0017】
本発明は、スパッタリング現象を利用した導電性薄膜の成膜方法において、第1に、膜質の制御性と再現性を確保するために、成膜中にガス流量や電力の少なくとも1つを2つの値に変動させ、その時間分割比を制御する手段を用いることに特徴がある。微量な成膜パラメータをアナログ的に制御する従来の方法では、成膜条件の僅かな変動や残留ガス等によって膜質が大きく変化する欠点があったが、時間分割比で制御することで、容易に高精度な膜質制御が可能となる。また、本発明の第2の手段は、成膜開始時点で基板に強度のプラズマ照射を行うことに特徴があり、これにより導電性薄膜と半導体との良好なオーミックコンタクトを得ることができる。
【0018】
導電膜自身の膜特性のみを利用する、例えばタッチパネル等のデバイスに適用する場合には第1の手段だけで十分な効果が得られるが、LEDなどのように半導体とのコンタクトが必要となるデバイスでは、第1の手段および第2の手段の両方の手段を用いることとなる。
【0019】
(第1の実施形態)
本実施形態では、固体ソース型ECRプラズマ成膜装置を用いたスパッタリング法によりITO膜を形成した。ECRは、Electron Cyctron Resonance、すなわち電子サイクロトロン共鳴の略記号である。固体ソース型ECRプラズマ成膜装置はこのECR現象を利用してプラズマ流を発生することができる。発生させたプラズマ流の周囲に配置したターゲットに電圧を印加することによりプラズマ中のイオンをターゲットに加速入射させてスパッタリング現象を生ぜしめ、放出したターゲット粒子を近傍に設置した試料基板上に付着させて薄膜を形成する技術は、既に特許化されている(特許文献1および2参照)。
【0020】
ここで、ECRスパッタ法に用いることができる固体ソースECRプラズマ装置について説明する。図1は固体ソースECRプラズマ装置の代表的な構造を示したものである。同図において、プラズマ生成室1は試料室2に対して傾斜して取り付けられており、プラズマ引出し窓3を介して試料室に繋がっている。何れも大気から隔離された密閉空間である。
【0021】
回転する試料台4に置かれた試料基板5上に薄膜を形成するには、まず、プラズマ生成室1と試料室2を、排気路6を通して真空ポンプ(図示せず)により真空排気した後、ガス導入口7またはガス導入口8からガスを導入して所定の圧力に保持する。
【0022】
次いで、プラズマ生成室1の周囲に置かれた2つの磁気コイル9に電流を流して磁界を発生させた後、矩形導波管10に導かれたマイクロ波11をプラズマ生成室1下部のマイクロ波導入窓12を通して真空側に導入する。これにより、プラズマ生成室1内で電子サイクロトロン共鳴が生じ、ECRプラズマが発生する。
【0023】
プラズマ生成室1で発生したプラズマは、発散磁界に沿ってプラズマ引出し窓3から試料基板5へプラズマ流13として流れ込む。この状態でスパッタ電源14を投入してターゲット15に電圧を印加すると、ECRプラズマ中のイオンがターゲット15に向かって加速を受け、そのイオン衝撃によってターゲット構成原子が真空中に放出される。このときにターゲットに印加するスパッタ電源としては直流(DC)または交流(RF)、DCパルスなどが用いられる。
【0024】
ターゲット15から飛び出した粒子はあらゆる方向に進み、試料基板5上に薄膜を形成するほか、プラズマ生成室1の内壁にも付着する。ターゲットの材質としてはあらゆる固体材料が利用でき、代表的なものとして、シリコン、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、炭素、タンタル、モリブデン、タングステンなどのほか、ITOやIZO、STOなどの化合物も用いられる。また、成膜する際にアルゴンやキセノンなどの不活性ガス以外に酸素や窒素などを用いれば、ターゲットが単体金属の場合でもシリコン酸化物やシリコン窒化物、アルミナなどの化合物薄膜を形成することができる。
【0025】
なお、シャッタ16は、通常閉鎖されており、試料基板5に対して所定の時間に渡ってプラズマ照射やスパッタ成膜処理を行う場合に開閉制御される。
【0026】
本実施形態におけるITO成膜は、上述の図1に示す装置において、ターゲット15としてSn組成10%のITOターゲットを用い、ガスとしてはアルゴン及び酸素を用いて、成膜中にガス流量や電力の少なくとも1つを、例えばON/OFF(1/0)などの2つの値に変動させ、その時間分割比を制御する手段を用いて行っている。制御する手段は、具体的には、スパッタ電源14、ガス導入口7または8に接続されたガス導入バルブ(図示せず)、矩形導波管10にマイクロ波11を導入するマイクロ波発生装置(図示せず)、シャッタ16をそれぞれ制御する手段などによって構成することができる。これにより、膜質の制御性と再現性を確保し、電気電導率、表面平坦性、光学的な透過性など、あらゆる要求特性を満足させている。比較のために以下の比較例1および実施例1を行った。
【0027】
(比較例1)
まず、比較例1として、図1の装置を用いてこれまでの一般的な方法でITO膜の成膜をおこなった。このときの成膜条件は、マイクロ波11の電力300W、ターゲット15に印加するスパッタ電力300W、アルゴンガス流量25sccm、2つの磁気コイルの電流26A、基板回転15rpmとし、基板の加熱は行わなかった。酸素ガスの流量を変えて、複数のITO膜を得た。なお、アルゴンガス、酸素ガスとも、ガス導入口7から導入した。試料基板5としては、直径6インチのSUS円板に5〜20mm角に劈開したSiウエハと、同様に劈開したサファイアウエハをネジ止めしたものを用いた。それぞれの酸素ガス流量において、膜厚約100nmとなるように成膜時間を調整してITO膜を形成した。
【0028】
上記比較例1の方法で成膜したITO膜について、Siウエハ上に形成したITO膜にヘリウム‐ネオンレーザを照射し、エリプソメトリによりITOの膜厚及び屈折率を測定した。またサファイア基板については、成膜したあとアニールを行い、その前後において、抵抗率と表面荒さ、透過率を測定した。アニールは、ゴールドファーネスを用い、窒素中で450℃、20分行った。抵抗率は四探針法、表面荒さはAFM、透過率は分光分析を、それぞれ用いて測定した。
【0029】
図2は、比較例1の方法でサファイア基板上に成膜した後にアニールしたITO膜の抵抗率と表面平坦性を、成膜時の酸素流量に対してプロットしたものである。図2において、2aは平均荒さRaを示し、2bは抵抗率ρを示している。同図によれば、僅かな酸素添加によって抵抗率ρは急激に増大し、一方で、平均荒さRaは大幅に低減されることが判る。酸素流量0sccmでは抵抗率は実用可能レベルであるが、凹凸(平均荒さRa)が大きくて問題となる可能性がある。従来の一般的な方法としては、各種特性が実用可能なレベルを満足するように、酸素流量を0.3〜0.4sccmに設定して用いてきた。しかし、これらの特性は十分満足出来るものとはならず、また、僅かな流量変化などで特性が大きく変動するため、再現性にも問題があった。
【実施例1】
【0030】
また実施例1として、図1の装置を用いて本発明の方法でITO膜の成膜をおこなった。本実施例では、酸素流量を1.5sccmにして、その流量のみON/OFFを繰り返す以外は、他の全ての成膜条件を上記比較例1と同一条件で成膜を試みた。酸素流量のON/OFFは、ガス導入口7に接続されたマスフローの流量設定を1.5sccmに固定し、その配管前後に設置した2個のバルブを同時にON/OFFできるように配管を変更し、ON/OFFの時間(デューティー比)を変えた複数の条件下で成膜を行った。この方法で成膜したITO膜を上記比較例1と同様の方法で膜質を評価した。
【0031】
その結果、ON時間1秒、OFF時間4秒の場合に抵抗率が小さく、平坦性も良好な条件が得られた。ITO膜はアニール後において、抵抗率:5.7×10-4Ωcm、Ra:0.22nmとなり、抵抗率および平坦性の両方の特性を満足し、再現性よく制御することが可能となった。またON時間、OFF時間とも2.5秒にした場合にも、これとほぼ同様のデータが得られ、抵抗率、平坦性とも極めて良好な膜質となった。
【0032】
また、比較例1において酸素流量2sccmで成膜した試料と、実施例1においてON時間、OFF時間とも2.5秒の条件で形成した試料とを光学的な透過率について比較した。図3は、ITO膜の光学的な透過特性を示す図である。同図において、3aは実施例1の光学的な透過特性を示し、3bは比較例1の光学的な透過特性を示している。図3に示すように、光学的な透過率についても、本発明によるITO膜は、波長500nmで99.5%以上となり、従来法と同等以上の特性が得られ、透過波長領域は短波長側に広がることが確認された。
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、導電性薄膜の物性を高精度に制御でき、電気電導率、表面平坦性、光学的な透過性など、あらゆる要求特性を満足するように最適化可能になるとともに、その再現性も容易に確保される。
【0034】
上記以外の成膜条件例として、マイクロ波電力700W、スパッタ電力500W、アルゴンガス流量40sccm、2つの磁気コイルの電流26A、基板回転15rpm、基板加熱無しとした場合においても、酸素流量1.5sccmでON時間1秒、OFF時間4秒のほか、酸素流量0.5sccmでON時間3秒、OFF時間7秒などに設定したときに、従来法よりも優れたITO膜が得られた。酸素流量と時間分割比は、膜質を評価しながら最適化することで決定される。
【0035】
以上に示したパラメータのほかに、マイクロ波電力やスパッタ電力を様々に変えた状態で同様の酸素流量制御を行ったところ、それぞれの条件に対して上記と同等の効果が得られる酸素流量とそのON/OFFの時間分割比を選定できることが明らかとなった。傾向としては、マイクロ波電力を高くするに従って、酸素流量を最大2sccm程度までに増やすかまたは酸素のON時間を相対的に長くすることで最適条件が得られた。
【0036】
また、以上の実施形態では、成膜中の成膜パラメータの少なくとも1つを2つの値に変動させ、その時間分割比を制御する方法として、酸素流量およびそのON/OFFの時間分割比を制御する方法を例に挙げて説明したが、酸素流量だけでなく、スパッタ電力やマイクロ波電力、スパッタガスとしてのアルゴン流量などをON/OFF以外の2つの値の時間分割比を制御しても膜質の制御性を改善することが可能であった。また、これら成膜パラメータだけでなく、必要に応じてシャッタ16の開閉を伴う場合も想定される。成膜パラメータを変えた場合にターゲット表面の酸素吸着状態などが変化し、その遷移状態における基板への成膜を避けたい場合などにはシャッタ16を閉じることになる。
【0037】
また、以上の実施形態では、導電性薄膜としてITOを例に挙げて説明したが、導電性薄膜としてはITOだけでなく、IZOやAZO、GZOなどの3元化合物のほか、ZnOなどの酸化物薄膜でも同様の効果が得られる。
【0038】
また、本実施例ではECRプラズマ成膜を用いたが、同様の手法は一般のスパッタや対向スパッタ、アンバランスマグネトロンスパッタ、イオンビームなどによる成膜においても実施可能である。例えば、一般のスパッタによるITO成膜において、従来はスパッタガスであるアルゴンに微量の酸素を添加していたが、本願発明による酸素流量制御によれば、制御性、再現性が大きく改善される。
【0039】
(第2の実施形態)
本実施形態では、成膜開始時点、すなわち成膜前または初期の成膜中に、被成膜基板表面に強度にプラズマ照射を行うことによってITO膜をコンタクト層として形成している。
【0040】
ここで、ITO膜をLEDのp型GaNコンタクト電極に適用するために予め行った検討について説明する。まず、図1の装置を用いてp‐GaN基板も6インチSUS基板にセットして実施例1で用いたSiウエハとサファイアウエハと同様の方法でITOを成膜して試料を得て、この試料を評価した。
【0041】
P‐GaN基板は主としてI‐V特性によりコンタクト抵抗を評価するもので、サファイア基板上にMOCVDによりMgドープGaNを成長した後、活性化アニールを行い、キャリア濃度5×1017cm‐3レベルとしたものである。GaN表面の自然酸化膜を除去するために、ITO成膜前に希フッ酸でライトエッチを行った。またITO成膜時に、直径0.1〜1mm程度の多数の穴の空いた薄いSUS板をマスクとして用い、p‐GaN基板上に円形の電極が形成されるように工夫した。I‐V特性は、これらのうちの隣り合った2つの電極間に電圧を印加して測定した。
【0042】
実施例1と同様の方法で成膜した上記試料では優れたITO膜特性が得られ、成膜の再現性も確保された。しかしながら、上記実施例1と同様の方法で成膜したp‐GaN基板を用いたITO/p‐GaNコンタクトの評価結果については、従来の成膜法と同様のショットキー特性を示し、全く改善されなかった。
【0043】
そこで、あらゆる成膜パラメータを可変してコンタクト特性を調べたところ、酸素流量を0.5sccm程度以下と少なくし、かつマイクロ波電力を500W以上と高くした方が、コンタクト特性は改善され、低電圧でも電流が流れ易くなる傾向が明らかとなった。しかしながら、酸素流量およびマイクロ波電力を最大限に変化させても全てショットキー特性を示し、オーミック特性は得られなかった。
【0044】
一方、ITO/p‐GaN界面の膜厚5nm‐10nm程度のITOのみについて酸素流量およびマイクロ波電力を可変する試みも行ったところ、コンタクト特性は界面側のITO成膜条件によって決定され、界面と離れたITOの成膜条件の影響は小さいことが判明した。これらの結果を基に、実施例1のITO成膜方法を用いた上で、p‐GaN界面に接した部分のみを各種工夫してオーミックコンタクトが得られないかを検討した。その結果、成膜開始時点、すなわち成膜前または初期の成膜中に、p‐GaN表面に十分なECRプラズマ流(強度のプラズマ)を照射することで、オーミック特性が得られる(コンタクト層が形成される)ことが明らかとなった。基板上への成膜開始時点に強度にプラズマ照射する具体的な実施法としては、以下の(A)〜(C)の3つの方法がある。
【0045】
(A)成膜前に圧力0.1Pa程度以上、500W程度以上のECRプラズマ流を少なくとも数秒から10分程度照射する。
【0046】
(B)圧力0.1Pa程度以上、マイクロ波電力500W程度以上の条件で、ターゲットへのスパッタ電力を下げるなどによってITO成膜速度を概略5nm/min以下に抑制して、代表的膜厚5nm‐20nmのITOを形成する。
【0047】
(C)原子1層分以上のITOを成膜した後、ターゲットへのスパッタ電力供給を停止して(A)と同じ条件のECRプラズマ流を照射するというシーケンスを繰り返し、代表的膜厚5nm‐20nmのITOを形成する。
【0048】
以上の3つの方法は、何れもITO/p‐GaN界面形成時に、低エネルギー・高密度のイオンビームを照射するところに効果があると想定され、マイクロ波電力を高くするほど、また照射時間を長くするほどコンタクト特性改善効果が向上した。代表的には、膜厚5nmのITO成膜が完了するまでにマイクロ波電力800Wで3分程度のECRプラズマ流を照射することによって実用的に十分満足できるオーミックコンタクトが実現された。
【実施例2】
【0049】
本実施例の方法で形成したコンタクト層有りのITOのITO/p‐GaNコンタクトのI‐V特性を、実施例1の方法により形成したコンタクト層無しITOのITO/p‐GaNコンタクトのI‐V特性と比較した。
【0050】
界面コンタクト層無しのITOは、実施例1の成膜方法と同様の方法で形成でき、図1の装置を用いて、マイクロ波電力700W、スパッタ電力500W、アルゴンガス流量40sccm、2つの磁気コイルの電流26A、基板回転15rpm、基板加熱無し、酸素流量1.5sccmでON時間1秒、OFF時間4秒の条件で、膜厚100nmのITO膜を形成した。
【0051】
本実施例のITOのコンタクト層の形成法は、図1の装置を用いて、マイクロ波電力900W、スパッタ電力100W、アルゴンガス流量40sccm、酸素流量0sccmで20秒成膜した後に、スパッタ電力をOFFして20秒間プラズマ流照射を行うシーケンスを4回繰り返し、トータル約5nmのITO層を形成した。その上の約5nmから100nmのITO層の形成法は、コンタクト層無しの場合と同一である。
【0052】
図4はITO/p‐GaNコンタクトのI‐V特性を示す図であり、(a)はITOコンタクト層を形成していない場合であり、(b)はITOコンタクト層を形成した場合をそれぞれ示している。同図において、プロット線aはコンタクト層を形成していないITOのアニール前、プロット線bはコンタクト層を形成していないITOのアニール後、プロット線cはコンタクト層を形成したITOのアニール前、プロット線dはコンタクト層を形成したITOのアニール後、ぞれぞれにおけるI‐V特性を示している。
【0053】
ITO成膜後のアニールは、窒素中で550℃、10分とした。アニール前では何れのI‐V特性もショットキー特性(プロット線a、プロット線c)を示している。一方のコンタクト層有りの試料では、アニールにより直線性(プロット線d)を示しており、オーミックコンタクトが得られた。
【0054】
本実施例のITOのコンタクト層の形成法は、例えば以下のような3層構成でも大きな効果が確認された。第1ステップとして、マイクロ波電力900W、スパッタ電力150W、アルゴンガス流量40sccm、酸素流量0sccmで15秒成膜した後に、スパッタ電力をOFFして15秒間プラズマ流照射を行うシーケンスを3回繰り返し、トータル約5nmのITO層を形成する。第2ステップとして、マイクロ波電力900W、スパッタ電力150W、アルゴンガス流量40sccm、酸素流量0.5sccmで90秒間処理し、膜厚10nmのITO膜を形成する。第3ステップとして、マイクロ波電力700W、スパッタ電力500W、アルゴンガス流量40sccm、酸素流量1.5sccmでON時間1秒、OFF時間4秒とし、膜厚100nmのITO膜を形成する。これら3つのステップでは全て、2つの磁気コイルの電流は26A、基板回転は15rpmとし、基板加熱無しで行った。
【0055】
以上のように、コンタクト層形成パラメータの設定には例えば(A)、(B)、(C)の方法のように、多くのバリエーションが考えられるが、基板上への成膜開始時点に強度にプラズマ照射するためには、高いマイクロ波電力で所定以上の時間のプラズマを照射すること以外に、いくつかの配慮が必要である。例えば、圧力をおよそ0.05Pa以下にすると、アルゴンイオンのエネルギーが高くなって基板上に成膜されたITOがイオンエッチングされ、コンタクト改善効果が得られなくなるので、圧力を所定の値以上に保持するなどの注意が必要である。実際、マイクロ波電力500W、圧力0.03Pa程度のECRプラズマ流照射では、ITO膜が10nm/min程度の早さでエッチングされる現象が確認された。
【0056】
今回用いた装置ではプラズマ流の照射される面積は概ね直径30cmであるので、他の装置を用いる場合にはマイクロ波電力を単位面積当たりの電力密度を用いて規格化することが可能である。
【0057】
これまで、スパッタ法で形成したITOとp‐GaNとのコンタクトが得られない理由は、スパッタダメージによるとする説が一般的であったが、少なくとも本発明の実施例においては、そのような結果は見られなかった。仮にダメージによってコンタクト特性が低下する可能性があるとしても、今回用いた装置ではターゲット表面が対向状になっており、基板は離れた位置にあって、ターゲットと対面しないような配置関係にあることから、ターゲット表面から飛び出す高エネルギー粒子の影響は小さくなっていると考えられる。
【0058】
また、ECRプラズマ流におけるイオンエネルギーは、よく知られているように20eV‐30eV程度の極めて低いエネルギーであり、半導体表面に致命的なダメージを与えるものではない。むしろ、高密度低エネルギーのイオン照射により、ITOとp‐GaNとの界面反応促進作用などで、コンタクト特性を大きく改善する効果があるものと考えられる。
【0059】
上記(A)の方法の場合には、ITO成膜前であり、ITO/p‐GaN反応の促進効果はあり得ないことになるが、リスパッタ現象などにより、極めて僅かなITOがp‐GaN基板表面に付着することも十分に想定される。コンタクト改善のメカニズムとしては、上記のほかに、プラズマ照射によるp‐GaN基板のMg‐水素結合を切り離すなど化学的な作用や、原子レベルでのエネルギー増大による熱的な作用なども考えられる。以上の理由から、単にプラズマ照射を行うだけでなく、基板加熱しながらプラズマ照射を行うことで、コンタクト特性改善効果がより促進されるものと解釈される。
【0060】
また、上記(C)の方法を効果的に行うためには、装置構成も一般に用いられているものとは異なるシーケンス制御手段が必要となる場合がある。一例として、シャッタ16を開けて成膜を行いながら、ターゲットへのスパッタ電力のON/OFFを繰り返すことで、実効的に成膜速度を落としてECRプラズマ流照射効果を高めることが可能である。このとき、ON時間10秒、OFF時間10秒では、成膜速度は1/2であるが、OFF時間を20秒にすれば成膜速度を1/3にでき、その分だけ照射効果が高くなる。このように、秒単位でON/OFF時間を制御することで、必要とする特性を容易に得ることが可能となる。
【0061】
この例において、スパッタ電力ON時に、ターゲット表面の酸素吸着状態の変化や、プラズマの不安定性、パーティクル発生などが問題となる可能性があり、その場合には、一旦、シャッタ16を閉じてスパッタ電力をONさせて安定化させた後にシャッタ16を開けるなどの方法もある。その場合には、マイクロ波電力とスパッタ電力をONにして成膜可能状態にした後、「シャッタ16開後10秒維持→スパッタ電力OFF後20秒維持→シャッタ16を閉じ、スパッタ電力ON後20秒維持」のようなシーケンス例となる。
【0062】
また、上記例では電力のON/OFFにより第1の実施形態と同様に時間分割比制御しているが、これに限らず、電力を2つの値に上下してその時間分割比を制御する方法も採用できる。電力のON/OFFは、以上に示したような電源やシャッタ16のサイクル制御機構を含む。
【0063】
本実施形態によれば、従来、スパッタ法では困難とされていた半導体とのオーミックコンタクトについても、蒸着法など他の成膜方法を併用することなく実現される。
【0064】
以上に説明した本実施形態では、コンタクト電極としてITO、半導体としてp‐GaNの例を示したが、これに限定されず、ITO以外のあらゆる電極と例えばn型の半導体を含むあらゆる半導体の組み合わせにおいて発明の効果が得られる。電極としては、例えばIZOやAZO、GZOなどの3元化合物のほか、ZnOなどの酸化物薄膜、Ni、Au、Pdなどの全ての金属が想定され、一方、半導体としても、InP、GaP、GaAs、Si、SiCなどのあらゆる半導体材料が適用される。
【符号の説明】
【0065】
1 プラズマ生成室
2 試料室
3 プラズマ引出し窓
4 試料台
5 試料基板
6 排気路
7、8 ガス導入口
9 磁気コイル
10 矩形導波管
11 マイクロ波
12 マイクロ波導入窓
13 プラズマ流
14 スパッタ電源
15 ターゲット
16 シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ現象を利用して基板上に導電性薄膜を形成する方法であって、薄膜形成中に、スパッタ電力、スパッタガス、および反応性ガスを含む成膜パラメータの少なくとも1つを2つの値に変動させ、その時間分割比を制御することを特徴とする導電性薄膜の形成方法。
【請求項2】
プラズマ生成法としてECRを用い、前記成膜パラメータにマイクロ波電力をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の導電性薄膜の形成方法。
【請求項3】
p型またはn型の導電型を有する半導体上に導電性薄膜を形成する方法において、半導体上への成膜開始時点に、強度にプラズマ照射を行うことを特徴とする導電性薄膜の形成方法。
【請求項4】
プラズマ生成法がECRであることを特徴とする請求項3に記載の導電性薄膜の形成方法。
【請求項5】
スパッタ現象を利用して基板上に導電性薄膜を形成する装置であって、薄膜形成中に、スパッタ電力、スパッタガス、および反応性ガスを含む成膜パラメータの少なくとも1つを、2つの値に変動させ、その時間分割比を制御する手段を有することを特徴とする導電性薄膜形成装置。
【請求項6】
プラズマ生成法としてECRを用い、前記成膜パラメータにマイクロ波電力をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の導電性薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−241471(P2011−241471A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117454(P2010−117454)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(507204718)エム・イー・エス・アフティ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】