説明

帯状材料の周期性欠陥検査方法および装置

【課題】帯状材料に発生する周期性欠陥の有害度を適正に判定することができる帯状材料の周期性欠陥検査方法および装置を提供する。
【解決手段】搬送中の帯状材料の表面欠陥を検出し、検出した表面欠陥のうち、搬送方向に周期性を有する一群の欠陥を周期性欠陥として抽出し、抽出したそれぞれの周期性欠陥について少なくとも欠陥の発生する幅方向位置と欠陥サイズと搬送方向の欠陥発生ピッチとを含む特徴量を算出し、前記帯状材料のコイル毎にそれぞれの周期性欠陥が発生する搬送方向の起点位置と消滅する終点位置との差である発生長さを算出し、連続する複数のコイル内で抽出された前記周期性欠陥のうち、少なくとも前記幅方向発生位置及び欠陥発生ピッチが略同じものを一つの周期性欠陥と判定し、各コイル内の欠陥発生長さの総和である欠陥発生累積長さを求め、前記特徴量と前記欠陥発生累積長さとに基づいて前記周期性欠陥の有害度を判定する帯状材料の周期性欠陥検査方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯などの帯状材料表面に発生する周期性欠陥を検査する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板などの帯状材料の製造ラインでは、鋼板コイルは圧延ロール、ブライドルロール、デフレクターロールなど種々のロールにその表面を接触しながら連続的に搬送される。この際、ロール表面に凹み疵があったり、あるいはロール表面に異物が付着していたりすると、これが鋼板表面に転写され、そのロールの周長に対応したピッチで周期性表面欠陥(いわゆるロール疵)が発生する。ロール疵は多数のコイルに亘って、ほぼ同じ幅位置に連続的に発生する場合がある。従って、鋼板表面のロール疵を早期にかつ的確に検知してロール交換などの対処を迅速に行い、大量の不適合製品の発生を回避することが鋼板の表面品質管理上、極めて重要である。
【0003】
従来、周期性欠陥を検査する装置として、光学的表面検査装置により鋼板表面を撮像し、撮像した画像から適当なしきい値で欠陥部を切り出し、切り出した表面欠陥の中から周期性を有するものを抽出し、周期性欠陥を検知した旨を警報音あるいは検査モニタへの警告表示等によってオペレータに通知する装置が使用されている。オペレータはこれらの通知を受けると、製造ラインを一旦停止させて鋼板表面を目視点検し、周期性欠陥の程度や発生ピッチ、幅方向発生位置などを調査し、発生原因を推定し、発生原因となるロールを交換するなどの必要な対策を講じていた。
【0004】
周期性欠陥には、ロール交換などの対策を講じるまで連続的に発生し続けるものがある一方、所定の長さに亘って発生した後、自然に消失するものもある。後者には、ロール表面に付着した異物が自然に剥離するなど異常が解消した場合、操業条件が変更されたために異常が消滅したりする場合などが相当する。また、たとえばスキンパスミルの圧下率が低いコイル先尾端のみに局所的に発生する凹凸のない模様状のロール疵は無害であるが、これがコイル全長あるいは複数コイルに亘って連続的に発生すると有害となる場合がある。したがって、ロール疵は個々の欠陥の程度だけではなく、その発生の連続性(継続性)を含めて有害性を判定することが品質管理上、重要である。
【0005】
従来の表面検査装置は、基本的に、個々の欠陥を検出するものであり、検査はコイルごとに独立して行われている。したがって、複数コイルに亘り周期性欠陥が連続して発生しているかどうかを評価するには、複数コイルの検査結果を遡及調査し、これらを比較する必要があった。しかしこの作業は手間暇がかかり、また異なるコイルで検出した周期性欠陥が同一のものかどうかを判断するのは容易ではなかった。
【0006】
複数のコイルに亘って周期性欠陥の発生状況を自動判定する方法としては、特許文献1及び特許文献2に開示されている技術が知られている。
特許文献1に開示された技術では、各コイルに対し、表面検査装置によって検出された疵の個数を鋼板の搬送方向に亘って積算し、この個数が所定のしきい値を超えている幅方向位置を検出し、この検出された幅方向位置を複数のコイルで比較し、複数のコイルの同じ幅方向位置に疵個数のピークが存在する場合に連続疵があると判定する。
また特許文献2に開示された技術では、各コイルの欠陥発生データをその前後コイルの欠陥発生データと比較し、その類似度をファジー集合で表す欠陥特徴量に基づいて計算し、類似度の高い場合に連続性の欠陥が存在すると判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−125686号公報
【特許文献2】特開2007−188471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術では、周期性欠陥の有害度を判定する方法については記載されていない。従って、特許文献1、2に開示された技術では、周期性欠陥の有害度を正確に判定できないという問題があった。
【0009】
更に、特許文献1の技術では、発生ピッチの長い周期性欠陥は発生ピッチの短い周期性欠陥に比べ、コイル全長に亘る積算個数が少なくなるため、過小評価される恐れがあった。さらに、コイルの搬送方向に局所的に発生する周期性欠陥とコイル全長に亘って発生する周期性欠陥を判別できない問題があった。
また特許文献2の技術では、一般にコイルの長さと幅はコイル毎に異なるため、この影響で欠陥類似度を正確に計算することができないという問題があった。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、帯状材料に発生する周期性欠陥の有害度を適正に判定することができる帯状材料の周期性欠陥検査方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、搬送中の帯状材料の表面欠陥を検出する欠陥検出ステップと、検出した表面欠陥のうち、搬送方向に周期性を有する一群の欠陥を周期性欠陥として抽出する周期性欠陥抽出ステップと、抽出したそれぞれの周期性欠陥について少なくとも欠陥の発生する幅方向位置と欠陥サイズと搬送方向の欠陥発生ピッチとを含む特徴量を算出する特徴量算出ステップと、前記帯状材料のコイル毎にそれぞれの周期性欠陥が発生する搬送方向の起点位置と消滅する終点位置との差である発生長さを算出する欠陥発生長さ算出ステップと、連続する複数のコイル内で抽出された前記周期性欠陥のうち、少なくとも前記幅方向発生位置及び前記欠陥発生ピッチが略同じものを一つの周期性欠陥と判定して、各コイル内の欠陥発生長さの総和である欠陥発生累積長さを求める周期性欠陥統合ステップと、前記特徴量と前記欠陥発生累積長さとに基づいて前記周期性欠陥の有害度を判定する欠陥有害度判定ステップとを備えた帯状材料の周期性欠陥検査方法である。
【0012】
また本発明は、搬送中の帯状材料の表面欠陥を検出する欠陥検出手段と、検出した表面欠陥のうち、搬送方向に周期性を有する一群の欠陥を周期性欠陥として抽出する周期性欠陥抽出手段と、抽出したそれぞれの周期性欠陥について少なくとも欠陥の発生する幅方向位置と欠陥サイズと搬送方向の欠陥発生ピッチとを含む特徴量を算出する特徴量算出手段と、前記帯状材料のコイル毎にそれぞれの周期性欠陥が発生する搬送方向の起点位置と消滅する終点位置との差である発生長さを算出する欠陥発生長さ算出手段と、連続する複数のコイル内で抽出された前記周期性欠陥のうち、少なくとも前記幅方向発生位置及び前記欠陥発生ピッチが略同じものを一つの周期性欠陥と判定して、各コイル内の欠陥発生長さの総和である欠陥発生累積長さを求める周期性欠陥統合手段と、前記特徴量と前記欠陥発生累積長さとに基づいて前記周期性欠陥の有害度を判定する欠陥有害度判定手段とを備えた帯状材料の周期性欠陥検査装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、帯状材料に発生する周期性欠陥の有害度を適正に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】鋼板の連続製造ラインにおける周期性欠陥検査システムを示す図。
【図2】本実施の形態の周期性欠陥検査装置の概略の動作手順を示すフロー図。
【図3】本実施の形態の周期性欠陥検査装置の各部の情報の流れを示す図。
【図4】欠陥有害度判定ロジックの一例を示す図。
【図5】実機試験に用いた周期性欠陥検査装置のブロック図。
【図6】コイル展開図の例を示す図。
【図7】コイル展開図の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下には、帯状材料の製造ラインとして、鋼板の連続製造ラインを例として説明する。
図1は、鋼板の連続製造ラインにおける周期性欠陥検査システムを示す図である。周期性欠陥検査システムは、周期性欠陥検査装置1、検査対象である鋼板2で構成され、外部信号であるPLG(Pulse Generator)信号3及びコイル切替信号4を取り込んでいる。
【0016】
そして周期性欠陥検査装置1は、欠陥検出手段11、周期性欠陥抽出手段12、特徴量算出手段13、欠陥発生長さ算出手段14、周期性欠陥統合手段15、欠陥有害度判定手段16及び記憶部17を備えている。
【0017】
製造ラインの入側まで運搬されたコイル状の鋼板2は、巻き戻されて帯状となり連続製造ライン中を通板する。この際、1つのコイルの終端部には次のコイルの先端部が接続され、複数のコイルが連続して製造ライン中を通板する。
【0018】
欠陥検出手段11は、搬送される鋼板の幅方向に配された複数のセンサで測定した信号に基づいて欠陥を検出する。鋼板2の搬送方向の測定位置を把握するために、欠陥検出手段11は、搬送ローラに設けられたPLGからPLG信号3を取り込む。更に、欠陥検出手段11は、前コイルと後コイルの継ぎ目が所定位置を通過したことを表すコイル切替信号4を取り込み、現在欠陥を検査しているコイルを識別する。
【0019】
周期性欠陥抽出手段12は、1コイルごとに検出した欠陥の内、搬送方向に周期性をもつ欠陥を抽出する。特徴量算出手段13は、抽出された周期性欠陥について欠陥発生間隔(ピッチ)、欠陥サイズなどの特徴量を算出する。欠陥発生長さ算出手段14は、1コイル内における周期性欠陥が存在するコイル長さを算出する。周期性欠陥統合手段15は、1コイルごとの欠陥情報を複数のコイルについての情報に統合する。欠陥有害度判定手段16は、統合した情報に基づいて有害度を判定する。なお、欠陥の特徴に関する情報、有害度に関する情報はオペレータに提示される。記憶部17は、上述の各部が処理する情報を保存する。
【0020】
図2は、本実施の形態の周期性欠陥検査装置の概略の動作手順を示すフロー図である。図3は、本実施の形態の周期性欠陥検査装置の各部の情報の流れを示す図である。図1乃至図3を参照しつつ周期性欠陥検査装置1の動作について説明する。
【0021】
図2のStep01において、欠陥検出手段11は搬送される鋼板の表面欠陥を検出する。表面欠陥を検出する方法としては、周知の光学的な方法や磁気的な方法を用いることができる。本実施の形態では、図3に示すように、鋼板表面に光を照射する照明11aとその反射・散乱光を受光するカメラなどの撮像器11bによって構成する光学的な手法を用いる。なお欠陥検出手段11は、板幅方向にセンサを多数並べるなどして鋼板の全幅をくまなく検査できるように構成されている。
【0022】
撮像器11bで撮像された信号は、画像入力部11cに送られ、複数のセンサの情報が統合される。欠陥検出部11dは、シェーディング補正や2値化などの画像処理を施して欠陥の検出を行う。鋼板の搬送方向の位置はPLG信号3に基づいて把握し、検出した各欠陥の鋼板上の搬送方向位置を算出する。一方、製造ラインの上位の処理装置(不図示)などからコイル切替信号4を取り込み、さらに検査中のコイルNo.などの工程管理情報を取得して検出した欠陥とコイルNo.とを対応付ける。
【0023】
欠陥検出部11dは、画像データ中に欠陥の特徴を表す信号があるかどうかを調べ、その欠陥の存在する位置を抽出する。例えば、反射率が局所的に高くなって輝度が所定の閾値を外れている領域が存在している場合は、検出した領域の中心位置を周期性欠陥候補位置として抽出する。
【0024】
Step02において、周期性欠陥抽出手段12は、検出した欠陥の中から搬送方向に周期性を有するものを周期性欠陥として抽出する。具体的には、上述の欠陥の存在する位置が、概略同一の幅方向位置であって、かつ搬送方向に概略等間隔でN個以上検出された場合、その欠陥群を一つの周期性欠陥群と判定する。通常、搬送される鋼板は蛇行を生ずるため、許容幅方向位置変動量を考慮して同一の幅方向位置かどうかを判定する。また、搬送速度も変化するため、例えばPLG信号3を用いて搬送速度の変化の影響を補正した等間隔の画像データを得るとともに、許容ピッチ変動量を考慮して、搬送方向の間隔であるピッチが同じ欠陥かどうかを判定する。また、上記Nの値としては例えば、3〜8程度の自然数を用いる。
【0025】
また周期性欠陥であるか否かの判定に際しては、あらかじめ判定対象とする周期性欠陥の諸元を周期性欠陥判定ロジック記憶部17aに記憶しておき、これを参照して実行する。例えば、鋼板の連続製造ラインでは、多数のロールが使用されているため、これらのロール径からそれぞれの周期性欠陥の発生ピッチを求めることができる。そこで、これらの発生ピッチや許容ピッチ変動量、あるいは上記のNの値などを周期性欠陥判定ロジック記憶部17aに記憶する。なお、周期性欠陥の判定法としては、周知の自己相関を利用した手法を用いることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
Step03において、特徴量算出手段13は、抽出した各周期性欠陥の特徴量を算出する。算出する特徴量としては、少なくとも鋼板幅方向の発生位置、搬送方向の発生ピッチ、欠陥サイズ(欠陥の幅、長さ、面積など)を含むものとし、更に欠陥検出時の信号強度、欠陥の形態情報なども算出する。
【0027】
鋼板幅方向の発生位置は、一群の欠陥のそれぞれの周期性欠陥候補位置の平均値を用いる。発生ピッチは、一群の欠陥のそれぞれの発生ピッチの平均値を用いる。欠陥サイズ(欠陥の幅、長さ、面積等)は、一群の欠陥のそれぞれの欠陥サイズの平均値または最大値を用いる。欠陥検出時の信号強度は、画像データの欠陥部位の輝度値の平均値または最小値または最大値を用いる。また欠陥の形態情報には、欠陥の形状である縦長、横長、丸形などの情報が含まれる。
【0028】
特徴量算出手段13が算出した特徴量のうち、発生ピッチは、欠陥の発生原因となるロールの直径を特定するために必須の情報である。また欠陥サイズと信号強度は、欠陥の程度を把握する上で有効な情報である。特徴量算出手段13が算出したこれらの特徴量は、特徴量記憶部17bに記憶させる。
【0029】
Step04において、欠陥発生長さ算出手段14は、抽出した各周期性欠陥の搬送方向の発生長さを求める。欠陥発生長さは、当該コイル上で、周期性欠陥が発生する搬送方向起点位置と消失する搬送方向終点位置との差として算出する。ここで、鋼板幅方向の発生位置及び発生ピッチが許容変動範囲内にある一群の周期性欠陥については、同一の周期性欠陥であるとしてマージして取り扱う。欠陥発生長さ算出手段14が算出した欠陥発生長さは、それぞれの幅方向位置に対応させて欠陥発生長さ記憶部17cに記憶させる。
【0030】
なお、周期性欠陥抽出手段12と特徴量算出手段13との動作順序は上述の順序に限定されず、逆の順序で動作しても良く、同時に並行して動作しても良い。
以上述べた処理は1つのコイル内での処理、即ちコイルNo.が同じコイル内での処理である。以下に述べる処理は、連続した異なるコイルについての処理である。
【0031】
Step05において、周期性欠陥統合手段15は、連続して製造される複数のコイル内で抽出された周期性欠陥のうち、幅方向発生位置および発生ピッチがそれぞれ許容変動範囲内のものを一つの周期性欠陥として統合する。すなわち、各コイル内での欠陥発生長さの総和を統合後の周期性欠陥の欠陥発生長さ(以下、「欠陥発生累積長さ」という。)とする。同一の周期性欠陥であっても、搬送中の鋼板の蛇行などにより幅方向位置にずれが生じたり、あるいは製造ラインの圧延圧下率などによって発生ピッチが多少ずれる場合があるので、周期性欠陥の統合にあたっては、あらかじめ適当な許容変動量を定義しておくのがよい。
【0032】
Step06において、欠陥有害度判定手段16は、算出した特徴量および欠陥発生累積長さに基づいて欠陥の有害度を判定する。判定に当っては、適用する製造ラインで発生する周期性欠陥の有害度に関する知見を定式化したロジックを参照して実行する。このロジックは、あらかじめ欠陥有害度判定ロジック記憶部17dに記憶させる。
【0033】
図4は、欠陥有害度判定ロジックの一例を示す図である。図4では周期性欠陥の有害度を○(有害度低)、△(有害度中)、×(有害度高)の3等級に分類したものである。この分類には、「発生ピッチ」、「欠陥サイズ」、「欠陥発生累積長さ」の各情報を使用する。「発生ピッチ」は、鋼板製造ラインで使用されるそれぞれのロールの周長Piに許容変動量ΔPi(Pi>>ΔPi)を考慮した値である。ここで、許容変動量ΔPiは、ロール磨耗などによるロール径変動やスキンパス圧延の圧下率変動などを吸収できる値である。「欠陥サイズ」は、欠陥面積、幅、長さの少なくとも一つである。「欠陥発生累積長さ」は、各コイル内の欠陥発生長さを複数コイルについて累積した総和である。
【0034】
図4の例では、「発生ピッチ」がP1で、「欠陥発生累積長さ」がL2以上の周期性欠陥は、「欠陥サイズ」がS1以上のものは最も有害度の高い×に、欠陥サイズがS1未満のものは有害度が次に高い△と判定している。また、「発生ピッチ」がP1で「欠陥発生累積長さ」がL1未満の周期性欠陥は、欠陥サイズがS2以上のものは△に、S2未満のものは有害度の低い○に判定している。ここで、S1<S2、L1<L2である。一方、「発生ピッチ」がP3の周期性欠陥は有害度が高いという知見を反映して、図4に示すように、この発生ピッチの欠陥は、有害度の判定基準を厳しく設定している。
【0035】
図4の例では、「欠陥サイズ」および「欠陥発生累積長さ」をそれぞれ3水準に分けて判定するロジックを示したが、2水準、あるいは4水準以上にしてもよいことは言うまでもない。また図4の例では、有害度を○△×の3水準に分けて判定しているが、2水準、あるいは4水準以上に分類したり、あるいは有害度を数値で表すようにしても良い。また、判定ロジックに使用する情報として、「欠陥の信号強度」、「形態情報」などを含めることによって、より高精度の判定結果を得ることができる。例えば、欠陥の信号強度が強い場合に有害度を高く判定させたり、「形態情報」として縦長の欠陥の場合に有害度を高く判定させたりすることができる。
【0036】
ところで、この鋼板の製造ラインで検出される周期性欠陥には、当該製造ラインで発生したものだけではなく、上流工程の別の製造ラインで発生したものも含まれる。当該製造ラインにおいて処理されるコイルの処理順序は、上流工程の製造ラインで処理されるコイルの処理順序と必ずしも一致しない。したがって、上流工程で発生した周期性欠陥が連続して発生する長さは、上述のように当該製造ラインにおいて連続する複数コイルについて処理したのでは求められない。上流工程で発生した周期性欠陥が重要となる場合は、コイル単位で算出した、特徴量記憶部17bに記憶されている周期性欠陥の特徴量と、欠陥発生長さ記憶部17cに記憶されている欠陥発生長さのデータを上流工程の製造順序にソートした後、本実施の形態の手法を適用するのが有効である。
【0037】
また、本実施の形態の周期性欠陥検査装置1を用いた周期性欠陥の検査結果は、オペレータガイダンス用にコイル展開図として表示することも可能である。
【0038】
次に、本実施の形態の周期性欠陥検査装置1を実機に適用した結果について説明する。図5は、実機試験に用いた周期性欠陥検査装置1のブロック図である。搬送される鋼板の表面を、照明とラインセンサカメラで構成した表面検査装置で検査する。鋼板の搬送速度は一定ではないため、カメラによる搬送方向の検査位置を正確に把握するため、搬送ライン中にPLGを設け、このPLGからの信号をパソコンに搭載したエンコーダボードを介して取り込む。カメラで撮像された画像データは、パソコンに搭載した画像キャプチャーボードに取り込み、画像処理、周期性欠陥の抽出、特徴量の算出、欠陥発生長さの算出、および周期性欠陥の有害度判定はすべてこのパソコンで処理する。
【0039】
また、製造ラインのプロセスコンピュータからコイル切替信号をパソコンに搭載したDIO(ディジタル入出力)ボードに取り込み、コイル単位で検査を行う。コイルごとに検出した周期性欠陥の特徴量(幅方向位置、欠陥発生ピッチ、欠陥面積、欠陥信号強度)および欠陥発生長さをパソコン内のメモリに記憶させ、複数コイルに亘って連続する周期性欠陥の長さ情報の統合を行う。そして、この特徴量と欠陥発生累積長さとに基づいて周期性欠陥の有害度を判定し、その結果をリアルタイムで出力する。
【0040】
実機試験に用いた周期性欠陥検査装置1にはコイル展開図表示手段18が設けられている。コイル展開図表示手段18は、連続する4コイル分(現在製造中のコイルと直近の3コイル分)の周期性欠陥検出状況をコイル展開図として、パソコンに接続された大型モニター19に表示する。
【0041】
図6は、コイル展開図の例を示す図である。図6の縦軸は、コイルの幅方向位置を表している。コイル#1〜#4の幅は全て異なっているが、中心位置(CE)は共通である。また、OPは製造ラインの運転者(オペレータ)が居る側を表し、DRは製造ラインの駆動ロールを回転させる駆動(ドライブ)装置が設けられている側を表している。
【0042】
図6のコイル展開図では、発生ピッチが約1575mm、約3160mm、約4780mmの周期性欠陥をそれぞれ○印、◇印、△印でプロットするとともに、それらの発生ピッチを数値で表記している。また、発生ピッチ、欠陥発生累積長さ、欠陥サイズ、および欠陥信号強度によって、周期性欠陥を重欠陥(プロット点を塗りつぶして表記)と軽欠陥(白抜きのプロット点で表記)の2水準に分類して表示している。コイル展開図の横軸は、搬送方向を表している。搬送方向および板幅方向にそれぞれΔX(=500m)、ΔY(=200mm)刻みで目盛線を表示し、欠陥の発生位置が視覚的に容易に認識できるようにしている。また、各コイルの板幅より外側を灰色に塗りつぶすことによって視認性を高めて表示している。このコイル展開図はリアルタイムに表示される。
【0043】
周期性欠陥を検出すると、パソコンはアラーム用に接点信号を出力し、オペレータに周期性欠陥が発生したことを通知する。この際、重欠陥と軽欠陥でアラーム音を変えるように設定されている。オペレータはアラームが鳴ると、モニター19に表示された展開図から周期性欠陥の発生状況を正確に確認することで、速やかにロール交換などの処置をとることができる。
【0044】
従来の検査装置のようにコイル#1だけを監視した場合、欠陥群P=1578とP=3167とは同程度の有害度と認識される。しかし、図6のように有害度を表示することによりP=3167の欠陥群の方が有害度が高いことが把握できる。
【0045】
図7は、コイル展開図の他の例を示す図である。このコイル展開図では、周期性欠陥の欠陥サイズによって表示マークを、大欠陥◇(欠陥群c)、中欠陥○(欠陥群a、b)、小欠陥△(欠陥群d)として表示している。そして、上記例と同様に、周期性欠陥を重欠陥(プロット点を塗りつぶして表記)と軽欠陥(白抜きのプロット点で表記)の2水準に分類して表示している。
【0046】
従来の検査装置のようにコイル#3だけを監視した場合、欠陥群aとbとは同程度の有害度と認識される。しかし、図7のように複数コイルに亘る展開図を表示することにより、欠陥群a方が有害度が高いことが把握できる。
【0047】
このような複数のコイル展開図をリアルタイムで表示させることによって、周期性欠陥の発生起点位置と終点位置、幅方向位置、欠陥サイズの状況が一目でわかるようになり、有効なオペレータガイダンスとして使用することが可能である。
【0048】
以上説明した実施の形態の周期性欠陥検査装置によれば、従来の検査装置に比べて、周期性欠陥の有害度判定精度が格段に向上し、発生原因となるロールの交換を早期にかつ的確に行える。この結果、周期性欠陥に起因する表面品質の不良を大幅に削減することができる。また本来アクションが不要な無害の周期性欠陥に対する検査ラインでのチェック工程が削減できるなど大幅なコストダウンを達成することができる。
【0049】
なお以上の説明では、本実施の形態の周期性欠陥検査装置を鋼板の製造ラインに適用した場合について述べたが、本周期性欠陥検査装置の適用対象は鋼板に限定されるものではなく、アルミなどの非鉄金属や紙、フィルム、プラスチックなど帯状材料の製造ラインに広く適用することが可能である。
【0050】
[実施の形態の効果]
本実施の形態の周期性欠陥検査装置では、複数コイルにまたがって連続的に発生する周期性欠陥の発生長さを把握できるようにしたので、この情報に基づいて周期性欠陥の有害度を正確かつ迅速に判定できる。また、コイルの長さや幅が変動する場合でも、これらに影響されずに精度の高い欠陥判定ができる。
【0051】
また本実施の形態の周期性欠陥検査装置では、周期性欠陥の有害度をその発生長さ、および欠陥発生ピッチと欠陥サイズを含む情報によって判定するようにしたので、発生起因となるロールの種類や欠陥サイズによって欠陥の有害度をフレキシブルに判定することが可能になり、適用する製造ラインの特性に応じた、正確な有害度判定が行える。
【0052】
また本実施の形態の周期性欠陥検査装置では、複数コイルに亘る周期性欠陥の判定をリアルタイムで自動的に行えるようにしたので、従来の表面検査装置のように過去のコイルの検査結果を遡及調査することなく、即時に周期性欠陥の有害度判定が行えるようになり、周期性欠陥発生に対するアクションを迅速にとることができる。
【0053】
なお、上述の実施の形態で説明した各機能は、ハードウエアを用いて構成しても良く、また、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現しても良い。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0054】
更に、各機能は図示しない記録媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記録媒体は、プログラムを記録でき、かつコンピュータが読み取り可能な記録媒体であれば、その記録形式は何れの形態であってもよい。
【0055】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…周期性欠陥検査装置、2…鋼板、11…欠陥検出手段、11a…照明、11b…撮像器、11c…画像入力部、11d…欠陥検出部、12…周期性欠陥抽出手段、13…特徴量算出手段、14…欠陥発生長さ算出手段、15…周期性欠陥統合手段、16…欠陥有害度判定手段、17…記憶部、17a…周期性欠陥判定ロジック記憶部、17b…特徴量記憶部、17c…欠陥発生長さ記憶部、17d…欠陥有害度判定ロジック記憶部、18…コイル展開図表示手段、19…モニター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の帯状材料の表面欠陥を検出する欠陥検出ステップと、
検出した表面欠陥のうち、搬送方向に周期性を有する一群の欠陥を周期性欠陥として抽出する周期性欠陥抽出ステップと、
抽出したそれぞれの周期性欠陥について少なくとも欠陥の発生する幅方向位置と欠陥サイズと搬送方向の欠陥発生ピッチとを含む特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
前記帯状材料のコイル毎にそれぞれの周期性欠陥が発生する搬送方向の起点位置と消滅する終点位置との差である発生長さを算出する欠陥発生長さ算出ステップと、
連続する複数のコイル内で抽出された前記周期性欠陥のうち、少なくとも前記幅方向発生位置及び前記欠陥発生ピッチが略同じものを一つの周期性欠陥と判定して、各コイル内の欠陥発生長さの総和である欠陥発生累積長さを求める周期性欠陥統合ステップと、
前記特徴量と前記欠陥発生累積長さとに基づいて前記周期性欠陥の有害度を判定する欠陥有害度判定ステップと
を備えたことを特徴とする帯状材料の周期性欠陥検査方法。
【請求項2】
現在搬送中のコイルと直近の複数コイルとの周期性欠陥検出状況をコイル展開図としてリアルタイムに表示するコイル展開図表示ステップを更に有し、
前記コイル展開図には、連続する複数コイルを帯状に接続して展開した領域内に、それぞれの周期性欠陥の幅方向位置、搬送方向の起点位置と消滅する終点位置、発生ピッチ、有害度とを表す図形が表示されることを特徴とする請求項1に記載の帯状材料の周期性欠陥検査方法。
【請求項3】
搬送中の帯状材料の表面欠陥を検出する欠陥検出手段と、
検出した表面欠陥のうち、搬送方向に周期性を有する一群の欠陥を周期性欠陥として抽出する周期性欠陥抽出手段と、
抽出したそれぞれの周期性欠陥について少なくとも欠陥の発生する幅方向位置と欠陥サイズと搬送方向の欠陥発生ピッチとを含む特徴量を算出する特徴量算出手段と、
前記帯状材料のコイル毎にそれぞれの周期性欠陥が発生する搬送方向の起点位置と消滅する終点位置との差である発生長さを算出する欠陥発生長さ算出手段と、
連続する複数のコイル内で抽出された前記周期性欠陥のうち、少なくとも前記幅方向発生位置及び前記欠陥発生ピッチが略同じものを一つの周期性欠陥と判定して、各コイル内の欠陥発生長さの総和である欠陥発生累積長さを求める周期性欠陥統合手段と、
前記特徴量と前記欠陥発生累積長さとに基づいて前記周期性欠陥の有害度を判定する欠陥有害度判定手段と
を備えたことを特徴とする帯状材料の周期性欠陥検査装置。
【請求項4】
現在搬送中のコイルと直近の複数コイルとの周期性欠陥検出状況をコイル展開図としてリアルタイムに表示するコイル展開図表示手段を更に有し、
前記コイル展開図には、連続する複数コイルを帯状に接続して展開した領域内に、それぞれの周期性欠陥の幅方向位置、搬送方向の起点位置と消滅する終点位置、発生ピッチ、有害度とを表す図形が表示されることを特徴とする請求項3に記載の帯状材料の周期性欠陥検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−242318(P2011−242318A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116026(P2010−116026)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】