説明

干渉型光ファイバセンサシステムおよびセンシング方法

【課題】雑音を抑制した干渉型光ファイバセンサシステムを提供。
【解決手段】物理量を検知するセンシングファイバ14aおよびリファレンスファイバ14bを有する干渉計と、干渉計からの干渉光から物理量に対応する測定信号を検出するPGC復調器59とを含む干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号46aを干渉計に印加する雑音シフト信号発生器46を含み、PGC復調器59は、雑音低減信号46aにより雑音が低減された測定信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さまざまな物理量を検出することが可能な干渉型光ファイバセンサシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
干渉型光ファイバセンサシステムは、さまざまな物理量を検出することが可能である。光ファイバ干渉計においては、センシングファイバを光ファイバ干渉計のアームとして用いて、検出すべき物理量を、センシングファイバの歪みに変える。センシングファイバの歪みに応じて、干渉光が変化することを利用して物理量を検出する。従来の干渉型光ファイバセンサの一例としては、音響信号を検出するセンサが、非特許文献1および特許文献1に記載されており、磁気信号を検出するセンサは特許文献2、加速度を検出するセンサは、非特許文献2に、それぞれ記載されている。
【0003】
非特許文献1には、複数のセンサによりセンサアレイを構成することも記載されている。干渉光に含まれる物理量を検出するための位相復調の方法については、非特許文献1、非特許文献3などに記載されている。
【特許文献1】特許第3237051号公報
【特許文献2】特許第3107986号公報
【非特許文献1】佐藤陵沢、他3名、「光ファイバハイドロホンの開発」、電子情報通信学会技術研究報告、平成7年5月、OPE95-2、p.7-12
【非特許文献2】新藤雄吾(Yugo Shindo)、他3名、「ファイバ−オプティック 加速度計(Fiber-Optic Accelerometer)」、第12回光ファイバセンサ国際会議(12th International Conference on Optical Fiber Sensors)、1997年10月、p.202-205(OWC15-1 - 4)
【非特許文献3】リチャード ジー. プリエスト(Richard G. Priest)、「3×3ファイバカプラを用いたファイバ干渉計の解析(Analysisof Fiber Interferometer Utilizing 3×3 Fiber Coupler)」、量子エレクトロニクス(IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS)、アイトリプルイー(IEEE)、1982年10月、第QE-18巻、第10号、p.1601-1603
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
センシングファイバを通過した光、すなわちセンシング光の位相変化は、検出すべき物理量に起因して起こるが、それ以外に、センシングファイバなどに加わる温度変化や圧力変化などでも起こる。温度変化と圧力変化の周波数は低いので、物理量とは、周波数の違いを利用して分離できる。センシングファイバ等で温度及び圧力が大きく変化する場合、雑音の周波数が、検出すべき物理量の信号帯域に達して分離できない雑音となることがある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑み、雑音を抑制した干渉型光ファイバセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の課題を解決するために、物理量を検知するセンシングファイバおよびリファレンスファイバを有する干渉計と、干渉計からの干渉光から物理量に対応する測定信号を検出する検出部とを含む干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号を干渉計に印加する印加手段を含み、検出部は、雑音低減信号により雑音が低減された測定信号を出力することを特徴とする。
【0007】
雑音低減信号は、雑音信号の周波数を変化させるための信号であることが好ましい。たとえば、雑音低減信号は、雑音信号の周波数を高くするための信号である。そのときに、雑音低減信号は正弦波であり、正弦波の振幅は、振幅の2倍を0次のベッセル関数の引数としたときに0次のベッセル関数の値がゼロになるものであることが好ましい。
【0008】
また、雑音低減信号の周波数は、測定信号の上限の周波数と、雑音信号の周波数との和より高いことが好ましい。このとき、検出部が検出する測定信号に含まれる雑音低減信号を低減する低減手段を含むことが好ましい。
【0009】
なお、印加手段が印加する雑音低減信号は、雑音信号の周波数を低くするための信号であってもよい。その際に、印加手段は、干渉計を構成する干渉計アームに対して設けられ、この手段は、熱膨張率が所定値より大きい材料と、この材料を加熱または冷却する温度制御手段とを含むことができる。さらに、熱膨張率が所定値より大きい材料はアルミニウム合金であり、温度制御手段はペルチェ素子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号を干渉光に印加し、検出部は、雑音低減信号により雑音が低減された測定信号を出力するため、雑音を抑制した干渉型光ファイバセンサシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に添付図面を参照して本発明による干渉型光ファイバセンサシステムの実施例を詳細に説明する。最初に、干渉型光ファイバセンサシステムにおける物理量の測定原理を図2により説明し、図2のシステムにおいて発生する雑音の影響を抑制した本発明の実施例を図1により説明する。以下では、信号線と、当該信号線を流れる信号に同一の参照符号を付す。
【0012】
図2の干渉型光ファイバセンサシステム10において、パルス光源12は、パルス光12aを生成し、光ファイバ12bを介して、生成したパルス光12aを第1の光カプラ14に出力する。パルス光12aを入力された第1の光カプラ14は、パルス光12aを、2つのパルス光に分割する。第1の光カプラ14は、分割により得られた2つのパルス光を、それぞれ、光ファイバ14a、14bを介してミラー16a、16bに出力する。光ファイバ14aはセンシングファイバであり、光ファイバ14bはリファレンスファイバである。ミラー16a、16bは、2つのパルス光を、それぞれ反射する。反射されたパルス光は、それぞれ光ファイバ14a、14bを戻り、第1の光カプラ14と光ファイバ14cを経由して、第2の光カプラ18に入力される。
【0013】
パルス光12aの一方は、センシングファイバ14aを通過してセンシング光20となり、もう一方は、光ファイバ14bを通過してリファレンス光22となる。センシング光20はセンシングファイバ14aを通過するときに、センシングファイバ14aに加わる物理量により位相変調される。このために、センシングファイバ14aには、測定する物理量に応じて、当該物理量をセンシングファイバ14aの歪みに変えるための手段を、必要に応じて設ける。センシングファイバ14aには、当該物理量に起因する歪みのほかに、雑音信号を生成する歪みも発生する。雑音信号を生成する歪みは、センシングファイバ14a自体の温度変化等により生じる。
【0014】
センシング光20は、光ファイバ14bよりも長いセンシングファイバ14aにより伝搬遅延も受ける。この結果、2つのパルス20、22となって光ファイバ14c上を伝送される。
【0015】
第2の光カプラ18に入力されたセンシング光20とリファレンス光22は、それぞれ第2の光カプラ18により2つに分割される。分割されたパルス光の一方は、第2の光カプラ18に接続された遅延補償ファイバ18aを通過してミラー24aに入射する。ミラー24aに入射した光は、ミラー24aで反射されて、遅延補償ファイバ18a、第2の光カプラ18、光ファイバ18cを順に通過してO/E(Opto/Electronics)変換器26に入力する。分割されたパルス光のもう一方は、第2の光カプラ18に接続された光ファイバ18bを通過してミラー24bに入射する。ミラー24bに入射した光は、ミラー24bで反射されて、光ファイバ18b、第2の光カプラ18、光ファイバ18cを順に通過してO/E変換器26に入力する。
【0016】
センシングファイバ14aと、遅延補償ファイバ18aの長さは、伝播遅延量が等しくなるように設定されているため、センシングファイバ14aを通過して遅延補償ファイバ18aを通過しなかった光と、センシングファイバ14aを通過せずに遅延補償ファイバ18aを通過した光が同じタイミングでO/E変換器26に入力する。この結果、この2つの光は干渉し、図1に示す干渉光25が光ファイバ18cを経て、O/E変換器26に入力する。
【0017】
光ファイバ12b、第1の光カプラ14、光ファイバ14a、14b、ミラー16a、16b、光ファイバ14c、第2の光カプラ18、遅延補償ファイバ18a、ミラー24a、24b、光ファイバ18b、光ファイバ18cにより、干渉計が構成される。なお、干渉光25は、干渉により、そのレベルが変わるパルスである。干渉光25の強度は、後述するA+B cos〔Ccos(ωt)+φ(t)〕である。光ファイバ18c上において、干渉光25の前後を伝播するパルス27は、干渉しないため、そのレベルが一定である。
【0018】
遅延補償ファイバ18aは、圧電子28に取り付けられており、圧電子28には、PGC信号発生器30から信号線30aを介して正弦波電圧が印加される。したがって、圧電子28により遅延補償ファイバ18aに正弦波状の歪が加えられる。これにより干渉光にPGC(Phase Generated Carrier)が発生する。PGC方式は、干渉型光ファイバセンサシステムで用いられる光信号の変復調方式の一つである。正弦波状の歪が加えられたレーザ光を、光路差をもつ干渉計に加え、干渉計の出力をO/E変換器26に入力して、電気信号に変換する。
【0019】
O/E変換器26から出力される信号の強度をI(t)とすると、I(t)は、A+B cosθという形で表される。この式中のθが、干渉する2つの光の位相差である。位相差θに、干渉する光の位相変化が含まれる。位相変化は、具体的には、センサで検出すべき測定信号、PGC信号、温度ドリフト(雑音信号)などである。すなわち、I(t)=A+Bcos[(PGC信号)+(測定信号)+(温度ドリフト)]となる。図2においては、測定原理を説明するために、測定信号とPGC信号のみを考慮し、その他は考慮していない。雑音等については、後述する図1において説明する。PGC信号のような正弦波状の位相変化は、次のようにベッセル関数で展開できる。
【0020】
測定信号とPGC信号のみを考慮する図2の場合、I(t)は、A+B cos〔Ccos(ωt)+φ(t)〕(ここで、Cは変調度)で与えられる。ωtは、レーザ光を変調するPGC信号発生器30が出力する正弦波の角周波数、φ(t)は、干渉計を通過した光の測定信号による位相差である。この式中のCcos(ωt)をPGCとよぶ。I(t)からφ(t)を求める復調処理は、次のように行われる。復調処理では、cos〔Ccos(ωt)+φ(t)〕を、ベッセル関数で展開すると、以下のように表されることを利用する。
【0021】
【数1】

上記展開式の1次の成分と2次の成分を、第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bにより、以下のように抽出する。
【0022】
第1のAM復調器34aは、1次信号:2J1 (C)・sinφ(t)・cosωt を、第2のAM復調器34bは、2次信号:2J2 (C)・cosφ(t)・cos2ωt を、同期検波して、それぞれ1次信号:J1 (C)・sinφ(t)および2次信号:J2 (C)・cosφ(t)を抽出する。第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bは、同期検波のために、PGC信号発生器30から信号線30bを介して正弦波電圧を受ける。
【0023】
第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bの出力から、信号位相φ(t)を抽出する方法は種々あるが、逆正接処理による場合は、J1 (C)・sinφ(t)をJ2 (C)・cosφ(t)で割って、さらに、J2 (C)/J1 (C)をかけて、tan-1(アークtan)をとることによって信号位相φ(t)を抽出する。
【0024】
具体的に、上記の処理を説明する。O/E変換器26から信号線26aを介してA/D変換器32に、干渉光I(t)に相当する電気信号を出力する。A/D変換器32によりA/D変換した信号を、信号線32aを介して、第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bに送る。第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bは、A/D変換器32から出力される電気信号を受け、また、PGC信号発生器30から正弦波電圧を受けて、それぞれ1次信号:J1 (C)・sinφ(t)および2次信号 :J2 (C)・cosφ(t)を抽出する。すなわち、PGC信号発生器30と同期の取れた第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bで、PGCの奇数次の振幅である干渉光の位相の正弦、PGCの偶数次の振幅である干渉光の位相の余弦を抽出する。
【0025】
第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bの具体的な構成方法は種々あるが、たとえば、乗算器と低域通過フィルタ(LPF)でAM復調器を構成してもよい。すなわち、第1のAM復調器34aでは、A/D変換器32から出力される電気信号と、PGC信号発生器30からの正弦波電圧とを乗算し、乗算結果をLPFで処理する。第2のAM復調器34bでは、A/D変換器32から出力される電気信号と、PGC信号発生器30からの正弦波電圧を2倍の周波数にしたものとを乗算し、乗算結果をLPFで処理する。正弦波電圧を2倍にする理由は、既述のように、第1のAM復調器34aは、cosωtを含む1次信号を復調し、第2のAM復調器34bは、cos2ωtを含む2次信号を復調するためである。
【0026】
第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bはそれぞれ、信号線36a、36bを介して1次信号:J1 (C)・sinφ(t)および2次信号 :J2 (C)・cosφ(t)を逆正接演算器38に出力する。逆正接演算器38は、既述のように逆正接で位相φ(t)を算出して、位相φ(t)を、信号線38aを介して、アンラップ処理器40に出力する。
【0027】
アンラップ処理器40は、逆正接の不連続点を繋ぎ合わせるアンラップ処理をする。アンラップ処理が必要な理由は次のとおりである。一般に逆正接演算による演算結果は、引数を2つにしても、-π〜πの範囲で出力される。したがって、たとえば入力信号φが3.0→3.1→3.2→3.3と変化したとき、逆正接演算器38による演算結果は、3.0→3.1→-3.08(=3.2-2π)→-2.98となる。アンラップ処理器40は、過去の値を参考にして2πn(nは整数)のずれを補正する処理を行う。アンラップ処理器40は、得られた位相φ(t)を、信号線40aを介して、出力端子42に出力する。このようにして、干渉光の位相に含まれる信号を復調する。A/D変換器32、第1のAM復調器34a、第2のAM復調器34b、逆正接演算器38、アンラップ処理器40は、PGC復調器44を構成する。PGC復調器44が、干渉計からの干渉光から物理量に対応する測定信号を検出する。
【0028】
以上述べたように、センシング光の位相変化は、検出すべき物理量に起因して起こるが、それ以外に、温度変化と圧力変化でも起こる。温度変化と圧力変化の周波数は低いので、物理量とは、周波数の違いを利用して分離できる。
【0029】
しかし、復調に誤差がある場合、高い周波数の雑音が発生する。たとえば第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bの出力振幅をそれぞれ、a1、a2としたときに、出力振幅a1とa2が一致しない場合、逆正接の演算で誤差が生じる。以下、これについて説明する。位相の真値をφ、誤差をΔφとすると、Δφは次式で表される。
【0030】
【数2】

ここで、Δφ<<1radとして近似した。かりに、温度変化による位相ドリフトがα[rad/sec]で一定のとき、ドリフトで位相が1周するごとに正弦波状の出力が2周期現われて雑音となる。以下、これを、単に雑音と記す。次式に示すように、雑音の振幅が復調誤差の最大値と一致し、周波数はα/π[Hz]で表される。
【0031】
【数3】

位相ドリフトの速度が変化すると、それに応じて雑音の周波数が変化する。PGC信号発生器30の波形歪み、圧電子28で発生する高調波でもAM復調器34a、34bの出力の振幅誤差の原因となり、同様に雑音が発生する。センシングファイバ14aと遅延補償ファイバ18aにおいて、温度及び圧力が大きく変化する場合、雑音の周波数が信号帯域に達して分離できない雑音となる。
【0032】
この問題を解決するための本発明の実施例を図1により説明する。以下では、図2と同様な部分については、同一の参照符号を付し、その説明は省略する。図1に、本発明による干渉型光ファイバセンサシステム50の第1の実施例の構成を示す。図1を参照すると、本実施例は、雑音低減信号を加えることで位相ドリフトによる雑音を抑制することを特徴とする。
【0033】
そのために、本実施例では、雑音低減信号発生器46を設け、発生器46により雑音低減信号を生成する。雑音低減信号発生器46は、干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号を干渉計に印加するものである。生成した雑音低減信号を、信号線46aを介して加算器48に出力する。
【0034】
加算器48には、PGC信号発生器30から信号線30bを介して正弦波電圧も入力される。加算器48は、雑音低減信号と、正弦波電圧とを加算し、加算した信号を、信号線48aを介して、圧電子28に出力する。この結果、遅延補償ファイバ18aにおいて、測定すべき信号と、雑音信号と、既述のPGCと、雑音低減信号とが加算された信号が発生する。なお、2つの正弦波を重ねることが目的であるため、加算器48は、減算器でもよい。ただし、正弦波のときは、乗算でも2つの正弦波を重ねた形になるため、本実施例では、乗算器も利用できる。
【0035】
雑音低減信号が加算された場合、既述のI(t)=A+Bcos[(PGC信号)+(測定信号)+(温度ドリフト)は、I(t)=A+Bcos[(PGC信号)+(測定信号)+(温度ドリフト)+(雑音低減信号)]となる。雑音低減信号を正弦波状にした場合、PGC信号に起因する既述のベッセル関数に加えて、雑音低減信号に起因するベッセル関数が追加される。
【0036】
ここで、雑音低減信号の周波数fshiftは、次式を満たすように設定する。
【0037】
【数4】

ここで、fSHは、測定すべき信号帯域の上限周波数、fNHは、想定される雑音信号の最高周波数である。雑音低減信号の波形は正弦波とすることが望ましく、雑音低減信号の振幅は復調器出力において、
【0038】
【数5】

とすることが望ましい。ここで、J0は0次の第1種ベッセル関数、Ashiftは雑音低減信号の振幅である。たとえば、
【0039】
【数6】

で(4)式を満たす。
【0040】
本実施例では、雑音低減信号を付加したことに伴い、復調器52の出力段にLPF 54を設ける。LPF 54の遮断周波数fLPFは、次式を満たすように設定する。
【0041】
【数7】

LPF 54は、信号線54aを介して、雑音が低減された信号を出力端子42に出力する。LPF 54は、復調器52が出力する測定信号に含まれる雑音低減信号を低減する。復調器52は、雑音低減信号により雑音が低減された測定信号を出力する。なお、PGCの周波数の設定においては、雑音低減信号も考慮して、雑音低減信号がPGC周波数から折り返す現象で問題にならないように、PGC周波数を設定する。
【0042】
このように構成された干渉型光ファイバセンサシステム50の動作を次に説明する。図2のシステム10との相違点は、雑音低減信号を加えることで雑音信号の周波数が、信号帯域より高い周波数にシフトし、LPF 54で遮断されることである。正弦波状の雑音低減信号を加えた場合、(1)式のΔφは、次式のようになる。
【0043】
【数8】

この式は、次のように、ベッセル関数で展開できる。
【0044】
【数9】

(6)式の[ ]内の最初の項は、図1に示す例でも発生する項であり、本実施例では、Ashiftがゼロでなくなるため、J0(2Ashift)が1未満の係数となる。これにより、高周波にシフトしないで残る成分が小さくなり、雑音が抑制されることが分かる。[ ]内の2番目以降の項は、J1(2Ashift)、J2(2Ashift)がゼロではなくなることで、fshiftの整数倍の周波数帯に、雑音成分がシフトすることを表している。さらに、(4)式の条件を満たす場合、(6)式の[ ]内の最初の項がほぼゼロとなり、雑音成分の内、高周波にシフトしないで残る成分が最小になる。
【0045】
なお、(3)式を満たすため、(6)式の[]内の2番目の項からの折り返しが信号帯域に重なる現象を防止できる。さらに、(5)式を満たすフィルタ54により、(6)式の[ ]内の2番目以降の項、すなわち高周波にシフトした雑音を遮断することができる。
【0046】
本実施例によれば、雑音を抑制した干渉型光ファイバセンサシステムを提供することができる。
【0047】
次に、本発明の干渉型光ファイバセンサシステムの第2の実施例を説明する。図3に、第2の実施例に係る干渉型光ファイバセンサシステム60の構成を示す。第1の実施例との相違点は、PGCを用いる復調方式から、多ポートの光カプラを用いる方式にしたことである。図1の光カプラ18の代わりに、3ポートの光カプラ56を設ける。図1と同様に、ミラー16a、16bで、それぞれ反射されたパルス光は、それぞれ光ファイバ14a、14bを戻り、第1の光カプラ14と光ファイバ14cを経由して、第2の光カプラ56に入力される。
【0048】
光カプラ56に入力されたセンシング光20とリファレンス光22は、それぞれ光カプラ56により2つに分割される。分割されたパルス光の一方は、光カプラ56に接続された遅延補償ファイバ18aを通過してミラー24aに入射する。ミラー24aで反射されて、遅延補償ファイバ18a、光カプラ56、光ファイバ56a、56bを順に通過して第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bに入力する。分割されたパルス光のもう一方は、光カプラ56に接続された光ファイバ18bを通過してミラー24bに入射する。ミラー24bで反射されて、光ファイバ18b、光カプラ56、光ファイバ56a、56bを順に通過して第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bに入力する。
【0049】
センシングファイバ14aを通過して遅延補償ファイバ18aを通過しなかった光と、センシングファイバ14aを通過せずに遅延補償ファイバ18aを通過した光が同じタイミングで、第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bの両方に入力する。この結果、この2つの光は干渉し、図3に示す干渉光25が、第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bに入力する。
【0050】
第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bの出力は、PGC復調器59内の第1のA/D変換器64aと第2のA/D変換器64bに入力される。光カプラ56の分岐比を1:1:1として、第1のO/E変換器58aから信号線62aを介して出力される干渉光を、それが出力されるタイミングに合わせて、第1のA/D変換器64aにおいてサンプリングすることにより、
【0051】
【数10】

という信号が得られる。ここで、I1は、第1のA/D変換器64aが出力する干渉光の強度である。I1は、雑音信号が無く、かつ雑音低減信号が印加されていないとしたときの干渉光の強度である。(7)式において、π/3の項がある理由は、分岐比が1:1:1の場合、3ポートの光カプラの3個の出力の間には、2π/3の位相差が生じ、2π/3の位相差を、便宜的に(7)式と、後述する(8)式にπ/3ずつ割り当てて表現したためである。
【0052】
第2のO/E変換器58bから信号線62bを介して出力される干渉光を、それが出力されるタイミングを合わせて、第2のA/D変換器64bにおいてサンプリングすることにより、
【0053】
【数11】

という信号が得られる。ここで、I2は、第2のA/D変換器64bが出力する干渉光の強度である。I2は、雑音信号が無く、かつ雑音低減信号が印加されていないとしたときの干渉光の強度である。分岐比が1:1:1の3ポートの光カプラを用いることにより、(7)、(8)式に示すように、互いに2π/3の位相差がある干渉光を得ることができる。
【0054】
第1のA/D変換器64aと第2のA/D変換器64bは、サンプリング結果を、それぞれ信号線66a、66bを介して、第1の演算器68aと第2の演算器68bに出力する。第1の演算器68aは、次式に示すように、I1とI2の差に定数を掛けて、sinφに比例した出力を得る。
【0055】
【数12】

第2の演算器68bは、次式に示すように、I1とI2の和から直流成分2Aを減算し、さらに定数を掛けて、cosφに比例した出力を得る。
【0056】
【数13】

このようにして、第1の実施例の第1のAM復調器34aと第2のAM復調器34bと同様の信号が得られる。第1の演算器68aと第2の演算器68bは、信号線70a、70bを介して2Bsinφ(t)および2Bcosφ(t)を逆正接演算器38に出力する。ここで、(9)式の2Bが(1)式のa1、(10)式の2Bが(10)式のa2に相当する。雑音信号があり、かつ雑音低減信号が印加されているときの第1の演算器68aと第2の演算器68bの出力は、第1の実施例と同様であり、雑音低減信号を用いることにより、雑音を低減することができる。
【0057】
第1、第2のA/D変換器64a、64b、第1、第2のAM復調器64a、64b、逆正接演算器38、アンラップ処理器40、LPF 54は、復調器59を構成する。復調器59が、干渉計からの干渉光から、物理量に対応する測定信号を検出する。
【0058】
本実施例の干渉型光ファイバセンサシステム60は、多ポートの光カプラ56を用いて復調する以外の点では、第1の実施例と同様に動作する。a1= a2となることが理想であるが、3ポート光カプラの分岐比誤差、第1のO/E変換器58aと第2のO/E変換器58bの変換利得の違いなどから誤差が生じ、(1)式で表される雑音の要因となる。しかし、雑音低減信号により信号帯域内の雑音は抑制される。このように、多ポートの光カプラを用いる方法で復調する構成でも、第1の実施例と同様な効果が得られる。
【0059】
次に、本発明の干渉型光ファイバセンサシステムの第3の実施例を説明する。図4に、第3の実施例に係る干渉型光ファイバセンサシステム80の構成を示す。本実施例では、干渉計アームとなる光ファイバ18aに、位相ドリフトを打ち消して位相ドリフトを遅くする手段であるペルチェ素子72と高熱膨張材料74を設ける。ペルチェ素子72と高熱膨張材料74は、雑音信号の周波数を低くするための雑音低減信号を干渉計に印加する手段である。
【0060】
図3に示すものとの相違点は、雑音低減信号発生器46を有しない代わりに、ペルチェ素子72と、熱膨張率が大きい高熱膨張材料74と、帯域通過フィルタ(BPF)78とを設けている。遅延補償ファイバ18aは、高熱膨張材料74に接着されている。復調器76内のアンラップ処理器40の出力は、信号線40aを介して帯域通過フィルタ78に送られる。帯域通過フィルタ78は、位相ドリフトの周波数帯の信号は通すが、測定信号の周波数帯の信号は通さないように、その周波数が設定されている。帯域通過フィルタ78は、帯域を制限した信号を、信号線78aを介して、増幅器82に出力する。増幅器82は、入力された信号を増幅して、信号線82aを介して、増幅後の信号をペルチェ素子72に出力する。増幅器82によりペルチェ素子72は駆動される。ペルチェ素子72は、入力された信号に従って、遅延補償ファイバ18aが接着されている高熱膨張材料74を加熱または冷却して高熱膨張材料74の温度を変える。
【0061】
ペルチェ素子72による加熱または冷却の方向は、センシングファイバ14aと遅延補償ファイバ18aで起きる位相ドリフトを打ち消す方向とする。BPF 78の低域遮断周波数は、ペルチェ素子72を駆動する増幅器82が飽和しないように、かつ、ペルチェ素子72が極度な加熱または冷却で故障しないように設定する。BPF 78により低域周波数を遮断する理由は、低域周波数が通過すると、直流成分が累積されて大きくなることがあり、このときに増幅器82が飽和するか、または極度な過熱または冷却が起きるからである。そこで、ゆっくりと増幅器82の出力を下げ、ペルチェ素子72を周囲温度に近づけるようにしておく必要がある。BPF 78の高域遮断周波数は、信号帯域の下限より低く設定する。
【0062】
高熱膨張材料74には、ガラスより熱膨張が大きく、かつ応答速度が早い熱容量の小さいアルミニウム合金などが適している。本実施例によれば、位相ドリフトの速度が低くなり、雑音が低い周波数にシフトして、雑音を抑制できる。
【0063】
なお、本実施例で、PGC信号発生器が不要な理由は、3ポート光カプラを使っているためであり、雑音低減信号発生器が不要な理由は、第2の実施例とは違う方法で雑音を抑制するからである。第2の実施例では、雑音を信号帯域より高い周波数にシフトさせているが、第3の実施例では、雑音を信号帯域より低い周波数にシフトさせている。
【0064】
なお、すべての実施例で逆正接演算器とアンラップ演算器を用いて、sinφ(t)とcosφ(t)の逆正接演算により、位相φ(t)を算出しているが、本発明はこれに限られるものではなく、非特許文献1の復調回路を用いることもできる。すなわち、微分クロス乗算と減算でφ(t)の時間微分を算出し、これを積分して、非特許文献1の(3)式に示すφ(t)に比例した量を求めてもよい。
【0065】
また、第2の実施例では分岐比1:1:1の3ポートカプラを用いているが、分岐比やポート数の異なる光カプラを用いても、光カプラに応じて演算器での演算を変えることで位相復調することができる。
【0066】
すべての実施例で、光カプラとミラーを用いるマイケルソン干渉計を構成する例で説明したが、本発明は、マッハ・ツェンダ干渉計など他の干渉計を用いることもできる。干渉計のタイプを替えた場合でも、第1または第2の実施例と同様に、干渉計のアームで、雑音を信号帯域より高い周波数にシフトするか、第3の実施例と同様に、雑音を低い周波数にシフトさせることができる。
【0067】
本発明では、非特許文献1に示された複数のセンサからなるセンサアレイを用いることもできる。第3の実施例をセンサアレイに適用する場合、センサアレイを構成する全センサから出力される信号をBPFに通し、これらのBPF出力の平均値をペルチェ素子に入力することが望ましい。しかし、全センサの位相ドリフトが互いに近い場合、代表的な1つの位相ドリフトを用いるだけでもよい。
【0068】
なお、第1の実施例と第2の実施例では圧電子を用いているが、圧電子の代わりに、電磁アクチュエータで遅延補償ファイバを歪ませてもよく、非特許文献1と同様にパルス光源12の周波数を周波数変調するなど、他の手段で光の位相を変化させてもよい。
【0069】
また、第3の実施例では高熱膨張材料とペルチェ素子を用いているが、他の方式、たとえばヒータ、圧電子、電磁アクチュエータなどに替えて、位相ドリフトを抑制してもよい。また、レーザ光源12の周波数を変化させるなど他の手段で位相ドリフトを抑制することもできる。また、高熱膨張材料を用いずに、温度制御手段で光ファイバの温度を制御し、光ファイバ自体の温度変化による光ファイバの屈折率変化で位相ドリフトを抑制することもできる。
【0070】
なお、第3の実施例ではBPFを用いているが、高熱膨張材料の温度変化を含む位相変化の応答速度が、信号帯域に影響しない程度に遅い速度の場合、BPFから高域遮断の機能を外した高域通過フィルタ(HPF)としてもよい。
【0071】
すべての実施例において、O/E変換後にA/D変換器で干渉光をサンプリングしているが、パルスを切り出すゲート回路や、サンプルホールド回路などを用いることもできる。
【0072】
第1の実施例と第2の実施例では、遅延補償ファイバで雑音低減信号を発生させているが、干渉計のアームとなるほかの部分で雑音低減信号を発生させることもできる。また、第3の実施例では遅延補償ファイバで位相ドリフトを抑制しているが、干渉計のアームとなるほかの部分で位相ドリフトを抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明による干渉型光ファイバセンサシステムの第1の実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】干渉型光ファイバセンサシステムの測定原理を説明するためのブロック図である。
【図3】本発明による干渉型光ファイバセンサシステムの第2の実施例の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明による干渉型光ファイバセンサシステムの第3の実施例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0074】
10、50、60、80 干渉型光ファイバセンサシステム
14a センシングファイバ
14b リファレンスファイバ
18a 遅延補償ファイバ
26 O/E変換器
28 圧電子
30 PGC信号発生器
44、52 PGC復調器
46 雑音低減信号発生器
59、76 復調器
72 ペルチェ素子
74 高熱膨張材料
78 BPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量を検知するセンシングファイバおよびリファレンスファイバを有する干渉計と、該干渉計からの干渉光から前記物理量に対応する測定信号を検出する検出部とを含む干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、該システムは、
前記干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号を前記干渉計に印加する印加手段を含み、
前記検出部は、前記雑音低減信号により雑音が低減された測定信号を出力することを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記雑音低減信号は、前記雑音信号の周波数を変化させるための信号であることを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記雑音低減信号は、前記雑音信号の周波数を高くするための信号であることを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記雑音低減信号は正弦波であり、該正弦波の振幅は、該振幅の2倍を0次のベッセル関数の引数としたときに該0次のベッセル関数の値がゼロになるものであることを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項5】
請求項1に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記雑音低減信号の周波数は、前記測定信号の上限の周波数と、前記雑音信号の周波数との和より高いことを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項6】
請求項1に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、該システムは、前記検出部が検出する前記測定信号に含まれる前記雑音低減信号を低減する低減手段を含むことを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項7】
請求項2に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記印加手段が印加する前記雑音低減信号は、前記雑音信号の周波数を低くするための信号であることを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項8】
請求項7に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記印加手段は、干渉計を構成する干渉計アームに対して設けられ、該印加手段は、熱膨張率が所定値より大きい材料と、該材料を加熱または冷却する温度制御手段とを含むことを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項9】
請求項8に記載の干渉型光ファイバセンサシステムにおいて、前記材料はアルミニウム合金であり、前記温度制御手段はペルチェ素子であることを特徴とする干渉型光ファイバセンサシステム。
【請求項10】
センシングファイバおよびリファレンスファイバを有する干渉計により物理量を検知し、該干渉計からの干渉光から該物理量に対応する測定信号を検出する干渉型光ファイバセンシング方法において、該方法は、
前記干渉光に含まれる雑音信号を低減するための雑音低減信号を前記干渉計に印加し、
該雑音低減信号により雑音が低減された測定信号を出力することを特徴とする干渉型光ファイバセンシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−175746(P2008−175746A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10769(P2007−10769)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】