説明

建設機械の制御方法

【課題】本発明は、油圧負荷が急激に増大したときでも、内燃機関の運転条件を適正に維持しながら、油圧負荷の増大に応じて油圧発生機に供給される動力を増大させることができる建設機械の制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】内燃機関10により油圧発生機12を駆動して作業を行う建設機械の制御方法において、内燃機関10の出力の増加率を所定値に設定する。増加率の所定値から求められる内燃機関10の出力上限値と、油圧発生機12に要求される油圧出力から求められた要求動力とを比較する。要求動力が出力上限値を超えたときに、内燃機関10の出力が出力上限値以下になるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械に係り、特に内燃機関を動力源として油圧発生機を駆動して発生した油圧で作業を行う建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の動力と電動機の動力を併用して効率的に動作するハイブリッド式の建設機械が開発され用いられるようになっている。ハイブリッド式の建設機械として、いわゆるパラレル方式の駆動形態をとるものが知られている。
【0003】
パラレル方式の駆動形態では、油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行なう動力機とが、共通の動力源としての内燃機関(エンジン)にパラレルに接続される。油圧ポンプによって油圧アクチュエータが駆動されるとともに、動力機の発電機作用によって蓄電装置に充電が行われる。この蓄電装置からの電力により動力機を電動機として動作させてエンジンをアシストする。なお、動力機としては、一台で発電機作用と電動機作用の双方を行なう兼用機(発電機兼電動機)を用いる場合と、別々の発電機と電動機を併用する場合とがある。
【0004】
上述のハイブリッド式建設機械において、油圧ポンプは例えばディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関により駆動される。内燃機関の最大出力はそのときの内燃機関の回転数によって決まるため、内燃機関の出力には回転数に応じた上限値が設定される。したがって、油圧ポンプが内燃機関に要求する動力(油圧作動部分が必要とする油圧を発生させるための出力)が、そのときの内燃機関の回転数によって決まる上限値を越えている場合は、要求しただけの動力を出力することはできない。
【0005】
そこで、油圧ポンプが内燃機関に要求する動力が上限値を越えた場合に、動力機を電動機として用いて内燃機関をアシストし、上限値を超えた部分の出力を動力機により補うことが行われる。しかし、蓄電装置からの電力により駆動される動力機にも出力の上限があり、上限値を超えた部分の出力を動力機により十分に補うことができないことがある。
【0006】
そこで、動力機によって出力を十分に補うことができない場合に、内燃機関の回転数を上げて内燃機関の出力を増大させる制御を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第3740426号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関の回転数を一定にして出力を増大させるには、内燃機関に供給する燃料の量を増大させる。内燃機関の出力は供給される燃料の量に応じて変化(増大)するが、その応答は比較的鈍く、単位時間当たりの出力変化(出力増大率)には限度がある。すなわち、適正な燃焼効率を維持しながら出力を増大させるには、単位時間当たりの出力変化(出力増大率)を制限しなければならない。
【0008】
ところが、油圧モータあるいは油圧ポンプ等の油圧発生機が要求する内燃機関の出力(すなわち、油圧作動部が必要とする油圧)は急激に増大することがあり、油圧発生機が要求する出力の増大率が内燃機関の出力増大率の限度を越えてしまう場合がある。すなわち、内燃機関の出力を急激に増大させようとし、内燃機関に過大な量の燃料が供給されてしまうことがある。
【0009】
内燃機関に過大な量の燃料が急激に供給された場合、内燃機関での燃焼効率が低下し、内燃機関の回転数が一時的に低下して出力が低下し、内燃機関から黒煙が発生するおそれがある。あるいは、内燃機関の出力低下により、油圧作動部を操作する際の操作感が悪化するおそれがある。さらに、最悪の場合、内燃機関の回転数が低下し過ぎて停止(エンスト)してしまうおそれもある。
【0010】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、油圧負荷が急激に増大したときでも、内燃機関の運転条件を適正に維持しながら、油圧負荷の増大に応じて油圧発生機に供給される動力を増大させることができる建設機械の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、内燃機関により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械の制御方法であって、該内燃機関の出力の増加率を所定値に設定し、該増加率の該所定値から求められる前記内燃機関の出力上限値と、前記油圧発生機に要求される油圧出力から求められた要求動力とを比較し、前記要求動力が前記出力上限値を超えたときに、前記内燃機関の出力が前記出力上限値以下になるように制御することを特徴とする建設機械の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、油圧負荷が急激に増大したときでも、内燃機関の負荷を急激に増大することが無いように制御することができる。したがって、内燃機関の運転条件を適正な範囲に維持できるため、燃焼効率の低下、黒煙の発生、エンジン停止を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
まず、本発明の基本的な概念について図1を参照しながら説明する。図1は内燃機関(エンジン)の出力上限値を決定するための処理を行う制御部のブロック図である。
【0015】
出力上限値を決定するための処理は、単位時間毎に繰り返し行われるものであり、現在の時点においてどのくらいまでエンジン出力を増大させてよいか、すなわちエンジンに供給する燃料の量をどのくらいまで増やしてよいかを決定するための処理である。
【0016】
制御部には、エンジンの回転数に対する出力の上限値を示すテーブル情報あるいはマップ情報1が格納されている。制御部にエンジン実回転数Nactの現在の値が入力されると、制御部はマップ情報1を参照して現在のエンジン実回転数Nactにおける出力上限値Pengmax1を求める。求められた出力上限値Pengmax1は比較器2に入力される。
【0017】
一方、制御部には、エンジン実出力Pengactの前回の値が入力される。制御部は、エンジン実出力Pengactの前回の値にエンジン出力の増加分リミットPengincを加算して求めた出力上限値Pengmax2を、比較器2に入力する。
【0018】
ここで、増加分リミットPengincは、エンジンの運転条件を適正な範囲に維持しながらエンジンの出力を増大させることのできる値に設定されている。すなわち、エンジンに要求される出力が急激に増大しても、単位時間当たりの出力の増大量を制限してエンジンに供給される燃料の量の増大を制限するための出力制限値である。
【0019】
比較器2は、入力された出力上限値Pengmax1と出力上限値Pengmax2とを比較し、値の小さなほうをエンジン出力上限値Pengmaxとして出力する。エンジンの実際の出力がこのエンジン出力上限値Pengmaxを越えないようにエンジンの運転を制御することで、エンジンにかかる負荷の急激な増大を防止することができる。これにより、エンジンが停止してしまったり(いわゆるエンスト)、エンジンの排気に黒煙が発生したりすることを回避することができる。また、エンジンに急激な負荷がかかって回転数が急激に低下することを防止することができ、油圧作動部分の操作感の悪化を回避することができる。
【0020】
次に、本発明の第1実施形態による建設機械の制御方法について説明する。
【0021】
図2は本発明の第1実施形態による建設機械の制御方法が適用される建設機械のシステム構成図である。建設機械の一例として油圧ショベルを用いて説明する。
【0022】
油圧ショベルは、内燃機関であるエンジン10により油圧発生機である可変容量型油圧ポンプ12を駆動して油圧を発生させ、発生した油圧を各油圧作動部に供給して作業を行う建設機械である。油圧ポンプ12により発生した油圧は、コントロールバルブ14により各油圧作動部に分配される。油圧ショベルの場合、油圧作動部として、走行用油圧モータ16,バケット駆動用油圧シリンダ18,アーム駆動用油圧シリンダ20、ブーム駆動用油圧シリンダ22、旋回用油圧モータ24などがある。
【0023】
例えば、アームとブームを駆動しながら急旋回を行うような場合には、アーム駆動用油圧シリンダ20とブーム駆動用油圧シリンダ22と旋回用油圧モータ24が同時に油圧を要求するため、油圧ポンプ12は大きな油圧を発生させる必要が生じる。この場合、油圧ポンプ12はエンジン10からの動力を急激に増大するように要求する(すなわち、エンジン10に対する負荷が急激に増大することとなる。)。要求されただけの動力をエンジン10が出力することができればよいが、要求された動力に応じてエンジン10に供給する燃料の量を急激に増大すると、エンストを起したり、排気に黒煙が混ざったりするおそれがある。
【0024】
そこで、本実施形態では、エンジン10の出力を増大させる際に、単位時間当たりの出力増加量を制限して、エンジン10に供給される燃料の量が急激に増大されないように制御する。
【0025】
図3は図2に示す油圧ショベルにおいて行われる制御処理のブロック図である。出力上限値を決定するための処理は、単位時間毎に繰り返し行われるものであり、現在の時点においてどのくらいまでエンジン10の出力を増大させてよいかを決定するための処理である。
【0026】
制御部には、エンジン10の回転数に対する出力の上限値を示すテーブル情報あるいはマップ情報26が格納されている。制御部にエンジン実回転数Nactの現在の値が入力されると、制御部はエンジン出力特性に基づくマップ情報26を参照して現在のエンジン実回転数Nactに対応した出力上限値Pengmax1を求める。求められた出力上限値Pengmax1は比較器28に入力される。
【0027】
一方、制御部には、エンジン実出力Pengactの前回の値が入力される。ここで、前回の値は、前回のエンジンの出力を回転数の検出値から算出した値を用いてもよく、また、前回の油圧負荷等の検出値を基に算出された算出値等を用いてもよい。制御部は、エンジン実出力Pengactの前回の値にエンジン出力の増加分リミットPengincを加算して求めた出力上限値Pengmax2を、比較器28に入力する。
【0028】
ここで、増加分リミットPengincは、エンジンの運転条件を適正な範囲に維持しながらエンジンの出力を増大させることのできる値に設定されている。すなわち、エンジン10に要求される出力が急激に増大しても、単位時間当たりの出力の増加量を制限してエンジン10に供給される燃料の量の増大を制限するための出力制限値である。
【0029】
比較器28は、入力された出力上限値Pengmax1と出力上限値Pengmax2とを比較し、値の小さなほうをエンジン出力上限値Pengmaxとして出力する最小値選択器である。エンジン10の実際の出力がこのエンジン出力上限値Pengmaxを越えないように油圧ポンプの出力を制限することで、エンジンにかかる負荷の急激な増大を防止することができる。
【0030】
具体的には、エンジン10の負荷は、油圧ポンプ12が出力すべき油圧の大きさにより決定される。油圧ポンプ12が出力すべき油圧は、各油圧作動部が要求する油圧を加算したものに相当し、この出力値は油圧負荷要求出力Phydreqとなる。
【0031】
ここで、エンジン10の負荷を急激に増大しても、エンジン10の運転条件が適正な範囲内でエンジン10の出力を増大することができるのであれば、油圧負荷である油圧作動部が要求している油圧負荷要求出力Phydreqをそのまま出力するように、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくすればよい。エンジン10の運転条件が適正な範囲内でエンジン10の出力を増大することができるのか否かは、上述のエンジン出力上限値Pengmaxと油圧負荷要求出力とを比較すれば判断することができる。この比較処理は、比較器30により行われる。
【0032】
すなわち、比較器30は、油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmax以下であれば、油圧負荷要求出力Phydreqをそのまま油圧負荷出力指令Phydoutとして出力する。一方、比較器30は、油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmaxを越えていれば、エンジン出力上限値Pengmaxを油圧負荷出力指令Phydoutとして出力し、油圧負荷出力指令に従い油圧ポンプの出力を容量を減少させることで油圧ポンプの出力を制限する。これにより、エンジン10に要求される出力は、油圧負荷要求出力Phydreqとエンジン出力上限値Pengmaxのうちいずれか小さい方に設定される。
【0033】
図4は上述の処理のフローチャートである。この処理は例えば0.1秒毎というように短い単位時間毎に行われる。また、図5は図4に示す処理を単位時間毎に繰り返し行った際のエンジン出力の推移の一例を示すグラフである。
【0034】
まず、ステップS1−1において、エンジン実出力Pengactの前回の値に増加分リミットPengincを加えてエンジン出力上限値Pengmax2が算出される。次に、ステップS1−2において、エンジン実回転数Nactから求めたエンジン出力上限値Pengmax1がエンジン出力上限値Pengmax2より大きいか否かが判定される。
【0035】
エンジン出力上限値Pengmax1がエンジン出力上限値Pengmax2以下の場合、処理はステップS1−3に進む。ステップS1−3では、Pengmax1をPengmaxとして設定する処理が行われる。一方、 エンジン出力上限値Pengmax1がエンジン出力上限値Pengmax2より大きい場合、処理はステップS1−4に進む。ステップS1−4では、Pengmax2をPengmaxとして設定する処理が行われる。
【0036】
ステップS1−3又はステップS1−4までの処理が、エンジン出力上限値Pengmaxを決定する処理となる。このように決定されたエンジン出力上限値Pengmaxは、エンジンの回転数が一定の場合に、現在のエンジンの出力において単位時間後に許容されるエンジン出力に相当し、且つエンジン回転数によって得られるエンジン出力の最大値で制限された値となる。Pengmax1はエンジンの回転数が一定であるからエンジンの回転数に対応して一定の値となり、図5において横軸に平行な直線となっている。Pengmax2は、エンジン出力に増加分リミットPengincを加算したものであるから、図5において△で示す曲線となる。したがって、エンジン出力上限値Pengmaxは△で示す曲線で示されるPengmax2と横軸に平行な直線で示されるPengmax1のどちらか小さい値のほうとなる。図5において、△で示す曲線で示されるPengmax2は凸上の曲線であり、その頂上部分が横軸に平行な直線で示されるPengmax1で切り取られたものがエンジン出力上限値Pengmaxに相当する。
【0037】
ステップS1−3又はステップS1−4の処理が終了してPengmaxが決定されたら、処理はステップS1−5に進む。ステップS1−5では、油圧負荷要求出力Phydreqが上述のように決定したエンジン出力上限値Pengmaxより大きいか否かが判定される。
【0038】
油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmax以下である場合、処理はステップ1−6に進む。ステップS1−6では、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくする。すなわち、要求される出力が上限値を超えていないので、要求された出力が得られるようにエンジンの出力を設定してもよく、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくしている。
【0039】
一方、油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmaxより大きい場合、処理はステップ1−7に進む。ステップS1−7では、油圧負荷出力指令Phydoutをエンジン出力上限値Pengmaxに等しくする。すなわち、要求される出力が上限値を超えているので、エンジン出力が上限値を超えないように油圧負荷出力指令Phydoutをエンジン出力上限値Pengmaxに等しくする。
【0040】
ステップS1−5からステップS1−7までの処理が、油圧負荷出力指令Phydoutを決定する処理に相当する。
【0041】
図5において、油圧作動部が要求する出力である油圧負荷要求出力Phydreqが○で示されている。時刻t1から時刻t5までの間は、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)より小さいため、油圧負荷要求出力Phydreqが油圧負荷出力指令Phydoutとして設定されている。本実施形態では、エンジン10は油圧ポンプ12だけを駆動するため、油圧負荷出力指令Phydoutはエンジン10の実際の出力であるエンジン出力Pengactに等しくなる。より具体的には、時刻t1におけるエンジン実出力Pengactに、増加分リミットPengincを加算して時刻t2におけるPengmaxを算出しているので、Pengactが急激に変化しないt5時点までの間は、エンジン実出力Pengactの曲線に平行して、増加分リミットPengincを加えた曲線を形成する。ここで、時刻t5までの間は、急激な要求出力の増加が無いため、油圧負荷要求出力Phydreqに対してエンジンのエンジン実出力Pengactとは重なった波形を示している。
【0042】
時刻t5からt6までの間に油圧負荷要求出力Phydreqが急激に増大したため、時刻t6において油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)を超えてしまっている。したがって、そこで、油圧負荷出力指令Phydoutがエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)より大きくならないように、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)に制限されている。
【0043】
時刻t7においても時刻t6と同様に、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)に制限されている。時刻t8では、エンジン出力上限値Pengmax1のほうがエンジン出力上限値Pengmax2より小さいため、エンジン出力上限値PengmaxはPengmax1となっている。したがって、油圧負荷出力指令Phydoutがエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax1)より大きくならないように、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax1)に制限されている。
【0044】
時刻t7以降時刻t10までは、エンジン出力上限値Pengmax1のほうがエンジン出力上限値Pengmax2より小さいため、エンジン出力上限値Pengmaxは引き続きPengmax1となっている。したがって、油圧負荷出力指令Phydoutがエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax1)より大きくならないように、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax1)に制限されている。
【0045】
時刻t11から時刻t12までは、引き続きエンジン出力上限値Pengmax1のほうがエンジン出力上限値Pengmax2より小さいため、エンジン出力上限値Pengmaxは引き続きPengmax1となっている。一方、油圧負荷要求出力Phydreqはエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax1)より小さくなっており、油圧負荷要求出力Phydreqが油圧負荷出力指令Phydoutとして設定されている。
【0046】
時刻t13から時刻t14までは、エンジン出力上限値Pengmax2のほうがエンジン出力上限値Pengmax1より小さいため、エンジン出力上限値PengmaxはPengmax2となっている。油圧負荷要求出力Phydreqは、引き続きエンジン出力上限値Pengmax(=Pengmax2)より小さくなっており、油圧負荷要求出力Phydreqが油圧負荷出力指令Phydoutとして設定されている。
【0047】
上述の説明でわかるように、図5において★を結ぶ曲線が油圧負荷出力指令Phydoutに相当し、エンジン10の実際出力を表している。また、斜線を施した部分は、エンジン出力制限値Pengmaxにより油圧負荷要求出力Phydreqが制限された部分であり、エンジン10の運転条件を適正に維持するために、エンジン出力の急激な増大を抑制した部分となる。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態による建設機械の制御方法について説明する。
【0049】
図6は本発明の第2実施形態による建設機械の制御方法が適用されるハイブリッド式建設機械のシステム構成図である。ハイブリッド式建設機械の一例としてハイブリッド式油圧ショベルを用いて説明する。なお、図6において、図2に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0050】
図6に示すハイブリッド式油圧ショベルは、内燃機関であるエンジン10及び電動機であるアシストモータ32により油圧発生機である油圧ポンプ12を駆動して油圧を発生させ、発生した油圧を各油圧作動部に供給して作業を行うハイブリッド式建設機械である。油圧ポンプ12により発生した油圧は、コントロールバルブ14により各油圧作動部に分配される。油圧ショベルの場合、油圧作動部として、走行用油圧モータ16、バケット駆動用油圧シリンダ18、アーム駆動用油圧シリンダ20、ブーム駆動用油圧シリンダ22、旋回用油圧モータ24などがある。
【0051】
アシストモータ32は、例えばIPMモータなどのようにインバータ制御可能な原動機である。アシストモータ32は、エンジン10の動力を油圧ポンプ12に伝達するための動力分配器34に接続され、アシストモータ32の動力を油圧ポンプ12に伝達してエンジン10をアシストすることができる。
【0052】
アシストモータ32は蓄電装置36からの電力により駆動される。蓄電装置36は、例えば大電流を得ることができるキャパシタ蓄電器により構成され、コンバータ及びインバータを介してアシストモータ32を駆動する。
【0053】
図7は図6に示すハイブリッド式油圧ショベルで行われる制御処理のフローチャートである。図7において、ステップS2−1からステップS2−5までの処理は、図4に示すステップS1−1からステップS1−5までの処理と同じであり、その説明は省略する。
【0054】
本実施形態では、ステップS2−5において油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmax以下である場合、処理はステップ2−6に進む。ステップS2−6では、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくする。すなわち、要求される出力が上限値を超えていないので、要求された出力が得られるようにエンジンの出力を設定してもよく、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくしている。したがって、アシストモータ32によるアシストは必要ではなく、アシストモータ32の出力指令Pasmrefはゼロに設定される(Pasmref=0)。
【0055】
一方、油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmaxより大きい場合、処理はステップ2−7に進む。ステップS2−7では、アシストモータ32の出力値を求める。すなわち、油圧負荷要求出力Phydreqがエンジン出力上限値Pengmaxを越えた部分の出力を、アシストモータ32の出力で補う。図5に示す斜線を施した部分を、上述の第1実施形態では削除しているが、本実施形態ではアシストモータ32の出力をエンジン10を介して油圧ポンプ12に供給することで、エンジン10をアシストする。したがって、ステップS2−7では、油圧負荷出力指令Phydoutを油圧負荷要求出力Phydreqに等しくし、且つアシストモータ32の出力指令Pasmrefを、負荷要求出力Phydreqからエンジン出力上限値Pengmaxを引いた値に設定する(Pasmref=Phydreq−Pengmax)。
【0056】
なお、ステップS2−5からステップS2−7までの処理が、アシストモータ32の出力指令Pasmrefを決定する処理に相当する。
【0057】
以上のように、エンジン10の負荷の急激な増大になる部分のみをアシストモータ32の出力で補うことで、エンジン10の出力を上限値以下に維持してエンジン10を適正な運転条件に維持しながら、油圧作動部が要求する油圧を低減せずに供給することができる。
【0058】
次に、本発明の第3実施形態による建設機械の制御方法について説明する。
【0059】
図8は本発明の第3実施形態による建設機械の制御方法が適用されるハイブリッド式建設機械のシステム構成図である。ハイブリッド式建設機械の一例としてハイブリッド式油圧ショベルを用いて説明する。なお、図8において、図6に示す構成部品と同等な部品には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0060】
本実施形態では、図6における旋回用の油圧モータ24が電動発電機38に置き換えられている。電動発電機38は、電動機(電動モータ)として機能する他に回生電力を発生させる発電機としても機能する。電動発電機38は、インバータを介して蓄電装置36用のインバータとコンバータの間に接続される。したがって、油圧ショベルの旋回動作において電動発電機38により発生した回生電力をアシストモータ32に供給することができる。本実施形態では、アシストモータ32でエンジン10をアシストするための電力として、電動発電機38からの回生電力と蓄電装置36からの電力を用いる
図9は図8に示すハイブリッド式油圧ショベルで行われる制御処理のフローチャートである。図8において、ステップS3−1からステップS3−7までの処理は、図7に示すステップS2−1からステップS2−7までの処理と同じであり、その説明は省略する。
【0061】
ステップS3−6又はステップS3−7においてアシストモータ32の出力指令Pasmrefを決定したら、処理はステップS3−8に進む。ステップS3−8では、蓄電装置36からアシストモータ32に供給する電力量としてバッテリ出力Pbatoutを算出する。バッテリ出力Pbatoutは、アシストモータ32の出力指令Pasmrefsから電動発電機38の回生電力Pelcgenを引くことで求められる(Pbatout=Pasmref−Pelecgen)。
【0062】
ステップS3−8の処理が、バッテリ出力Pbatoutを決定する処理に相当する。
【0063】
以上のように本実施形態によれば、エンジン10の負荷の急激な増大になる部分のみをアシストモータ32の出力で補うことで、エンジン10の出力を上限値以下に維持してエンジン10を適正な運転条件に維持しながら、油圧作動部が要求する油圧を低減せずに供給することができる。加えて、作動部分を駆動するための電動発電機からの回生電力をアシストモータ32の電力として用いることができる。すなわち、回生電力をエンジン10のアシスト用に用いることができ、効率的に電力を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】エンジンの出力上限値を決定するための処理のブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態による建設機械の制御方法が適用される建設機械のシステム構成図である。
【図3】図2に示す油圧ショベルにおいて行われる制御処理のブロック図である。
【図4】図2に示す油圧ショベルにおいて行われる制御処理のフローチャートである。
【図5】図4に示す処理を単位時間毎に繰り返し行った際のエンジン出力の推移の一例を示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態による建設機械の制御方法が適用されるハイブリッド式建設機械のシステム構成図である。
【図7】図6に示すハイブリッド式油圧ショベルで行われる制御処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態による建設機械の制御方法が適用されるハイブリッド式建設機械のシステム構成図である。
【図9】図8に示すハイブリッド式油圧ショベルで行われる制御処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 マップ情報
2 比較器
10 エンジン
12 油圧ポンプ
14 コントロールバルブ
16 油圧モータ
18,20,22 油圧シリンダ
24 油圧モータ
26 マップ情報
28 比較器
30 比較器
32 アシストモータ
34 動力分配器
36 蓄電装置
38 電動発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械の制御方法であって、
該内燃機関の出力の増加率を所定値に設定し、
該増加率の該所定値から求められる前記内燃機関の出力上限値と、前記油圧発生機に要求される油圧出力から求められた要求動力とを比較し、
前記要求動力が前記出力上限値を超えたときに、前記内燃機関の出力が前記出力上限値以下になるように制御する
ことを特徴とする建設機械の制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械の制御方法であって、
前記要求動力が前記出力上限値を越えたとき、越えた部分の出力を電動機の出力で補うことを特徴とする建設機械の制御方法。
【請求項3】
請求項2記載の建設機械の制御方法であって、
前記電動機を蓄電装置からの電力と作業用の電動発電機からの回生電力とにより駆動することを特徴とする建設機械の制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の建設機械の制御方法であって、
前記内燃機関の出力制御を所定の時間毎に行い、
前記内燃機関の出力上限値を、前回の内燃機関の出力に所定の割合の値を加えて算出することと特徴とする建設機械の制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の建設機械の制御方法であって、
前記出力上限値を求める際に、さらに前記内燃機関の回転数も考慮することを特徴とする建設機械の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−216058(P2009−216058A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63070(P2008−63070)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(501132804)住友建機製造株式会社 (271)
【Fターム(参考)】