説明

形状計測装置、横座標校正方法及び光学素子の製造方法

【課題】汎用性の高い横座標の校正方法によって横座標を校正する形状計測装置、及びその横座標校正方法を提供する。
【解決手段】複数の開口が形成され、これら複数の開口の配列によって校正パターンを形成するアパーチャー板20をワークWの被検面Wsの前面に配置する。この開口を通過すると共に、被検面Wsで反射され、再度開口を通過した測定光Lmを撮像素子5によって検出する。撮像素子上にて結像した校正パターンの横座標位置と、予め計測されている校正パターンの基準横座標位置とを、演算装置7によって比較することによって、形状計測装置1の横座標を校正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉計などの光を用いた形状計測装置の横座標校正に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高精度光学装置は微細化及び高度化が進んでおり、例えば、半導体露光装置では、露光光源波長がKrFエキシマレーザ(λ=248nm)、ArFエキシマレーザ(λ=193nm)、F2レーザ(λ=157nm)と短波化してきている。更には、露光光として、EVU光(Extreme Ultra Vioret:λ=13.6nm)までもが使用されるに至っている。そのため、この半導体露光装置において使用される投影光学レンズや、ミラーなどの光学素子は、1nm〜0.1nmオーダーの形状精度が求められる。
【0003】
上述した高精度光学素子を製造するためには、求められる形状精度以上の精度でワークの表面形状や波面収差を計測し、修正加工を施す必要がある。一般に、このような高精度な表面形状や波面収差の計測が可能な装置として、干渉計などの光を用いて表面形状、波面収差を計測する形状計測装置が広く知られている。
【0004】
ところで、上述した光を用いた形状計測装置によって形状計測をした場合、得られた形状データに横座標の歪みが生じていることがある。形状データの横座標にズレが生じると、ワークの修正加工の際に、実際の横座標に対して横座標のズレ分だけ修正加工箇所がズレてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、従来、このような形状計測装置の横座標の校正方法として、特許文献1(特開2002―206915号公報)記載の方法が知られている。この方法は、所定パターンが形成されると共に、被検面と入れ替えた場合に測定光と略等しい反射波面を生成する反射光学素子を用いて横座標を校正する方法である。具体的には、上記反射光学素子を被検面の位置に配置し、反射光学素子に反射された測定光と参照光との干渉像を検出器の検出面上に形成する。この検出面上には、上記反射光学素子の所定パターンが結像するため、検出面に結像した所定パターンの横座標と、予め別の座標測定機などによって高精度に測定した上記所定パターンの横座標と、を比較することによって横座標の校正を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−206915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載の横座標校正方法は、測定光の球波面と略同じ反射波面を有する反射光学素子を用いて、横座標校正用の所定パターンを形成している。そのため、曲率半径の異なる被検面や、フィゾーレンズごとに、対応した反射光学素子を用意する必要がある。
【0008】
また、走査型干渉計のように、測定光の光軸方向にワークもしくはフィゾーレンズを走査する形状計測装置では、走査位置によって測定光の曲率が異なる。そのため、特許文献1記載の方法では、ワークもしくはフィゾーレンズの光軸方向位置ごとに測定光の曲率に合う反射光学素子を用意する必要があり、被検面のスキャン領域全てにおいて横座標を校正するには、多数の反射光学素子を必要とするという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、汎用性の高い横座標の校正方法によって横座標を校正する形状計測装置、及びその横座標校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の形状計測装置は、光源と、被検面を有するワークと、前記被検面に近接して配置されると共に複数の開口が形成され、これら複数の開口の配列によって校正パターンを形成するアパーチャー板と、前記開口を通過して前記被検面で反射され、再び前記開口を通過した測定光を検出する撮像素子と、予め計測されている前記校正パターンの基準横座標位置と、前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置とを比較して、横座標の校正を行う演算装置と、を備えた、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の横座標校正方法は、複数の開口が形成されていると共にこの開口の配列により校正パターンを形成するアパーチャー板を、被検面の前面に配置する工程と、前記アパーチャー板の開口を通過すると共に前記被検面に反射され、再び前記開口を通過した測定光を撮像素子により検出する工程と、前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置を演算する工程と、前記被検面を測定光の光軸方向に移動させ、この被検面の形状計測が行われる光軸方向の複数位置にて、前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置を演算する工程と、前記演算した校正パターンの横座標位置と、予め計測されている前記校正パターンの基準横座標位置とを比較して、横座標の校正を行う工程と、を備えた、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の光学素子の製造方法は、上述の横座標校正方法によって形状計測装置の横座標位置を校正する工程と、横座標が校正された前記形状計測装置によって光学素子の形状を計測する工程と、計測された光学素子の形状とこの光学素子の設計値との差分を演算し、演算した設計値との差分だけ修正加工を施す工程と、を備えた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、測定光の曲率や被検面曲率に係わらず、形状計測の際に測定に使用される干渉縞が疎になる部分(ヌル領域)での校正パターンを取得することができる。従って、測定光と被検面の曲率が相違しても、被検面の前面にアパーチャー板を配置することによって、撮像素子上に校正パターンを結像させて、横座標を校正することができる。これにより、専用の校正原器を必要とせずに、実際に測定を行う被検ワークとアパーチャー板とによって横座標を校正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る形状計測装置の模式図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るアパーチャー板を示す模式図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る演算装置を示すブロック図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る形状計測装置の横座標校正方法を示すフローチャート図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るワークの走査状態を示す模式図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るアパーチャー板及びワークを示す模式図。
【図7】(a)本発明の第3の実施の形態に係る形状計測装置を示す模式図、(b)(a)の形状計測装置のアパーチャー板を示す模式図、(c)(a)の形状計測装置の撮像素子上でのスポットの状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る形状計測装置について図1乃至図7に基づいて説明をする。なお、以下の説明中において、測定光の光軸方向とは、基準レンズ(参照球面)から被検面に向う方向(図1中のZ軸方向)を言う。また、横座標とは、測定光の光軸方向Zに対して垂直平面上の座標(図1のXY軸座標)を言うこととする。
【0016】
[第1の実施の形態]
[形状測定装置の概略構成]
図1は、半導体露光装置の投影レンズやミラーなど高精度の光学素子の形状を計測する形状計測装置1であり、本実施の形態では、フィゾー型の干渉計によって構成されている。この形状計測装置1は、光源2とワークWとの間に参照球面3aを有するフィゾーレンズ3を配設しており、この参照球面3aによって反射された参照光Lrと、参照球面3aを透過してワークWの被検面Swに反射された測定光Lmとで干渉光Liを形成する。そして、この干渉光Liによって結像された干渉縞を解析することによって、被検面Swの形状を計測するように構成されている。
【0017】
具体的には、上記形状計測装置1は、レーザ光を出射する光源2と、フィゾーレンズ(基準レンズ)3と、CCDカメラからなる撮像素子5と、を備えている。また、この撮像素子5によって検出された光を表示するモニタ6と、撮像素子上に結像した画像を解析するコンピュータからなる演算装置7と、を備えている。
【0018】
更に、光源2とフィゾーレンズ3との間には、レンズ9、開口10及びコリメータレンズ11が配置されており、フィゾーレンズ3に入射する光が、平行光となるように調整されている。また、開口10とコリメータレンズ11との間には、偏光ビームスプリッタ12及び1/4波長板13が配設されており、干渉光Liを撮像素子5へと反射するように構成されている。
【0019】
そのため、光源2から射出された光Lsは、レンズ9、開口10、偏光ビームスプリッタ12、1/4波長板13及びコリメータレンズ11を経て平面波へと変換されてフィゾーレンズ3に入射する。そして、このフィゾーレンズ3の参照球面3aで上述した参照光Lrと測定光Lmとに分離される。
【0020】
上記参照球面3aは、非常に精度良く研磨された球面であり、この参照球面3aに反射された参照光Lrは球面波となる。一方、測定光Lmも同様に参照球面3aを透過して球面波となる。この球面波はワークWの被検面Swで反射されることで被検面Swの球面波からのずれに応じた波面収差を伴い参照球面3aへと戻る。例えば被検面Swが非球面形状であれば反射波面は非球面になる。そして、この参照球面3aにおいて、再度、参照光Lrと測定光Lmとが重ね合わされて干渉光Liが形成される。この干渉光Liは、球面波の参照光Lrと非球面波の測定光Lmとによって形成されており、1/4波長板13を2回通過することにより偏光方位が光源2から偏光ビームスプリッタ12へ入射した時の偏光方位に対し90度回転する。これにより、偏光ビームスプリッタ12によって反射され、レンズ15を介して撮像素子5に入射する。
【0021】
上記参照球面3aと被検面Swとの間には空気間隔しかなく、参照光Lrと測定光Lmとの参照球面3a以前の光路は同一である。そのため、この干渉光Liを検出する上記撮像素子5では、参照球面3aと被検面Swとの差が光強度として検出され、モニタ6には干渉縞が表示される。
【0022】
上記演算装置7は、参照光Lrと測定光Lmとの光路差を形状情報として使用し、上述した干渉縞(干渉光の位相、光強度、反射光位置)を解析することによって、被検面Swの形状を計測するようになっている。このように、形状計測装置1は、参照光Lrと測定光Lmとの光路差を形状情報として使用しているため、着目する点の明るさが分かれば、位相を計算し、更に高さ情報に換算することができる。
【0023】
ところで、演算装置7が干渉縞を解析して位相を精密に求めるには、干渉縞の幅が撮像素子5の分解能以上(以下、この状態を干渉縞が疎または、ヌル状態であるという)である必要がある。しかしながら、干渉縞が疎の状態であるためには、参照光Lrと測定光Lmとの進行方向が略平行である必要があるが、参照光Lrは球面波であり、ワークで反射された測定光Lmは非球面波であるため、干渉光波面全域に亘ってこの条件が満たされることはない。
【0024】
そこで、形状計測装置1は、上記構成に加え、ワークWを保持すると共に測定光Lmの光軸Aに沿ってZ方向に駆動可能な駆動ステージ16を有しており、測定光Lmの光軸方向ZにワークWを走査することが可能な走査型干渉計となっている。即ち、この駆動ステージ16は、被検面Swの位置を測定光Lmの光軸方向に変化させる駆動装置となっている。これにより、演算装置7からの駆動指令によって駆動ステージ16を光軸方向Zに移動させ、光軸方向の各位置において形状計測を行うことによって、干渉縞の疎の部分の径方向位置を遷移させることができる。そして、干渉縞が疎になった輪帯状の範囲で干渉縞データを取得して行き、取得された輪帯状のデータを繋ぎ合わすことで被検面Sw全体の形状を正確に測定することができるようになっている。
【0025】
なお、上記駆動ステージ16は、アライメント調整機構を有しており、ワークWは常に測定光Lmの光軸Aに対して垂直になるように調整されている。
【0026】
[横座標校正装置の構成]
ところで、上記形状計測装置1によって計測されたワークWは、演算装置7によって、計測値と設計値との差分が演算され、加工装置40(図3参照)により修正加工が施される。そして、設計値通りワークWが修正加工されたことを確認することによってワークWの加工が終了する。この修正加工では、横座標を基準として高さ位置が修正されて行くため、形状計測装置1の横座標位置にズレがあると、修正加工するべき場所と、加工装置が実際に加工する場所にズレが生じる虞がある。
【0027】
そのため、形状計測装置1は、横座標校正装置17を有しており、以下、この形状計測装置1の横座標校正装置17について図1を参照しつつ、図2及び図3に基づいて詳しく説明をする。図1に示すように、横座標校正装置17は、上述した撮像素子5、演算装置7の他に、被検面Swを有するワークW及びアパーチャー板20を備えて構成されている。
【0028】
上記アパーチャー板20は、フィゾーレンズ3(基準レンズ)及び被検面Swの間でこの被検面Swに近接して配置されており、移動機構18(図3参照)により光路中から取外し可能に構成されている。また、図2に示すように、アパーチャー板20には、複数の開口21が形成されており、これら複数の開口21の配列によって校正パターンPが形成されている。具体的には、校正パターンPは、開口21が同心円状に配置されて構成されている。アパーチャー板25は、この開口21によって測定光Lmの入射光束及び反射光束を制限することによって、撮像素子上に任意の校正パターンPを結像させている。なお、上記アパーチャー板20は、駆動ステージ16に支持されており、ワークWが光軸方向Zに走査されても被検面Swとアパーチャー板20との位置関係は常に一定になるようになっている。
【0029】
上記演算装置7は、図3に示すように、撮像素子5から取得した干渉縞の画像データを解析して被検面Swの形状を計測する計測部30、駆動ステージ16の駆動を制御する駆動指令部31を有している。また、一回の計測中における光軸方向への移動数(撮像回数)及び駆動ステージ16の移動距離を設定するステップ設定部32、及び記憶部33を有している。更に、計測部30が演算した被検面Swの形状データと記憶部33に記憶されている被検面Swの設計データとの差分を演算する誤差演算部34を有している。
【0030】
また、上記演算装置7は、形状計測装置1の横座標校正を行う部分として、校正部35を有している。この校正部35は、上記移動機構18を制御して、アパーチャー板20を、被検面Swの前面の校正位置と、光路中から退避した退避位置とに切り替える位置制御部35cを有している。また、撮像素子5が測定光Lmを検出することによって取得された画像上の校正パターンPの横座標位置を演算する横座標演算部35aを有している。更に、この横座標演算部35aによって算出された校正パターンPの横座標位置と、予め別の座標計測装置などによって計測され、記憶部33に格納されていた校正パターンPの基準横座標位置と、を比較する比較演算部35bを備えている。比較演算部35bは、計測された校正パターンの横座標位置の基準横座標位置に対するズレを演算し、誤差演算部34へ校正データとして出力する。
【0031】
[横座標校正方法]
ついで、上述した横座標校正装置17を用いた形状計測装置1の横座標校正方法について図1乃至図3を参照しつつ、図4に基づいて説明をする。作業者は、非球面形状の光学素子を製造するにあたり、ワークWを光学素子の設計値に従って加工をすると、この加工されたワーク(光学素子)Wを駆動ステージ16に配置し(図4のS1)、形状計測装置1の横座標を校正するように演算装置7に指令する(S2)。
【0032】
横座標の校正が指令されると、校正部35の位置制御部35cによってアパーチャー板20が退避位置からワークWの被検面Swの前面に配置される(S3)。また、校正部35からステップ設定部32及び駆動指令部31に電気指令が出され、走査する際の原点位置である計測基準位置(図5(a)の位置)に駆動ステージ16が移動させられる(S4)。そして、駆動ステージ16が計測基準位置に位置すると光源2からレーザ光が出射される。
【0033】
上記光源2から出射されたレーザ光Lsは、フィゾーレンズ3の参照球面3aによって参照光Lrと測定光Lmとに分離され、フィゾーレンズ3を透過して測定光Lmとなったレーザ光はアパーチャー板20によって被検面Swへの入射が制限される。具体的には、図2に示すように、測定光Lmは、その一部Lmがアパーチャー板20の表面で反射され、開口21を通過した光Lm,Lmのみが被検面Swに照射される。そして、光軸近傍及び測定光Lmの球波面Sの曲率と被検面Swの曲率とが一致する輪帯領域に入射した光、即ち、被検面Swに垂直に入射した測定光Lmのみが元来た方向に反射され、再度、開口21を通過してフィゾーレンズ3の参照球面3aへと再入射する。この被検面Swによって反射された測定光Lmは、偏光ビームスプリッタ12によって反射されて撮像素子5に入射して、図5(a)に示すように、撮像素子上で校正パターンPを結像する(S5)。即ち、ワークWは、被検面Swに垂直に入射した測定光Lmを元来た方向に反射し、校正パターンPの内、駆動ステージ16の光軸方向位置において形状計測に使用される範囲に対応する開口21を撮像素子上に結像させる。
【0034】
測定光Lmを撮像素子5によって検出すると、この検出した測定光Lmが撮像素子上にて結像した校正パターンPの画像を演算装置7は取り込む。そして、横座標演算部35aによって校正パターンPを形成する各開口21の重心位置を演算し、校正パターンPの横座標を取得する(S6)。
【0035】
次に、校正部35はステップ設定部32から取得した情報に基づいて、現在の駆動ステージ16の位置が形状計測終了時の位置となる最終ステップ位置かを判定する(S7)。そして、最終ステップ位置でない場合には(S7のNo)、次のステップ位置(例えば図5の(b),(c)位置)へと移動して、計測基準位置と同様の方法(S6)によって、校正パターンPの横座標を取得する。
【0036】
上述した工程を駆動ステージ16が最終ステップ位置となるまで繰り返すことによって、ワークWの形状計測が行われる光軸方向の各位置における校正パターンPの横座標を取得する。そして、被検面全面における反射された測定光Lmの位置が取得されると、比較演算部35bによって、予め別の座標計測器等で高精度に計測されている校正パターンPの横座標関係と比較され、両者の対応関係が算出される。比較演算部35bは、得られた座標関係を用いフィッティングなどのデータ処理によって、倍率、ディストーションを求め横座標の校正を行い(S9)、横座標の校正を終了する(S10)。
【0037】
このように、ワークの被検面Swによって測定光Lmを反射することにより、被検面Swに垂直に入射した測定光Lmを元来た方向へと反射することができる。そして、被検面Swの計測に使用される疎の部分の干渉縞に対応する校正パターンPの開口21を撮像素子上に結像させることができる。従って、被検面Swを光軸方向Zに走査して、結像する開口21を遷移させることにより、被検面全面について、校正パターンPを取得することができ、測定光Lmの曲率によらずに形状計測装置の横座標を校正することができる。言い換えると、被検面Swの光軸方向の複数位置にて、アパーチャー板20を通過して被検面に垂直に入射し、元来た方向に反射された測定光により結像する開口パターンからなる校正パターンPを撮像素子5によって検出することができる。
【0038】
このように、一つのアパーチャー板20と被検面Swとのセットで、走査型の形状計測装置1の横座標を校正できるため、作業効率が大幅に向上すると共に、修正加工の際の面精度の追い込みが容易になる。また、横座標を校正する際に、特定の校正原器を必要としないため、横座標を校正する方法として汎用性が高く、コスト面においても校正原器の分だけ、低く抑えることができる。特に、走査型フィゾー型干渉計のようなワークを光軸方向に移動させる形状計測装置にあっては、1つの形状計測装置に対して複数の校正原器を必要しないため、作業効率及びコストの両方の面において適している。
【0039】
また、形状計測の際に使用される干渉縞が疎の部分に対応した校正パターンPを撮像素子上に結像させることができるため、必要な横座標データのみを取得することができ、演算量を小さくすることができる。更に、アパーチャー板20を取外せば、そのままワークWの被検面Swの形状を計測することができるため、横座標の校正の際と形状計測の際とで軸ズレが発生せず、この軸ズレに基づく横座標のズレが生じることもない。
【0040】
また、アパーチャー板20の開口21を同心円状に配置したことにより、軸対称非球面に対して開口21を正方に配置した場合と比較して開口21を通過した反射光Lmを多く検出でき、反射光位置の検出精度を向上することができる。
【0041】
[第2の実施の形態]
ついで、本発明に係る第2の実施の形態について図6に基づいて説明をする。この第2の実施の形態は、ワークWを保持するステージ位置が固定である点、被検面Swが球面形状である点、校正パターンPが格子形状である点、において第1の実施の形態と異なっており、第1の実施の形態と同一の構成についてはその説明を省略する。
【0042】
図6に示すように、ワークWは、その被検面Swの形状が球面状に形成されている。また、アパーチャー板20は、一方向に開口21が整列された複数の第1列r1と、第1列r1と交差(本実施形態では直行)する方向に開口21が整列された複数の第2列r2と、を交差するように配置して、格子状の校正パターンPを形成している。
【0043】
上記ワークWは、測定光Lmの球面波の曲率と被検面Swの曲率が一致する位置、所謂ヌル位置にアライメントすることにより、開口21から入射した測定光Lmを、被検面Swに対して垂直に入射させることができる。これにより、開口21から入射した測定光Lmは、元来た方向へと反射され、同じ光路へと戻るため、撮像素子上に校正パターンPを結像することができる。従って、被検面Swが正しい位置にアライメントされて配置されていれば、被検面Swの曲率によらずに1つのアパーチャー板20を使用して形状計測装置1の横座標を校正することができる。
【0044】
[第3の実施の形態]
ついで、本発明の第3の実施の形態について説明をする。この第3の実施の形態は、本発明をシャック・ハルトマン型の形状計測装置1に適用した点において相異しており、第1及び第2の実施の形態と同一の構成についてはその説明を省略する。
【0045】
図7に示すように、レーザ光源100から射出された光は、レンズ101、開口102、レンズ103、偏光ビームスプリッタ104、1/4波長板105を経てビームエキスパンダ106でビーム径を拡大される。ビームエキスパンダ106を通過した光は、レンズ(基準レンズ)107を透過して球面波に変換されることで測定光Lmとなり、アパーチャー板20を介してワークWの被検面Swに入射する。ワークWはアライメント機構をもつ駆動ステージ16により保持され、干渉計(測定光)の光軸Aに対して垂直になるように調整されて設置されている。上記駆動ステージ16によりワークWは測定光Lmの光軸方向に移動することができる。
【0046】
アパーチャー板20の開口21を通過して被検面Swで反射され、再び開口21を通過した測定光Lmは再度レンズ107、ビームエキスパンダ106、1/4波長板105を経て偏光ビームスプリッタ104で反射される。偏光ビームスプリッタ104で反射された測定光Lmはマイクロレンズアレイ109でCCDカメラからなる撮像素子5上に集光される。
【0047】
図7(b)、(c)にそれぞれアパーチャー板20と撮像素子上でのスポットの状態を示す。アパーチャー板20の開口21からの測定光Lmは、撮像素子上では図7(c)のように複数のスポットSpをつくる。一つの開口21に対応するスポット数は開口サイズとマイクロレンズアレイ109のサイズ、光学系の倍率によって決まる。この時のスポット群の形状はアパーチャー板20の開口形状によるので、スポットSpの中心位置から撮像素子上での横座標を求めることができる。
【0048】
またアパーチャー板20の開口21の横座標は第1及び第2の実施の形態と同様に別の座標計測器等で高精度に計測されている。したがって第1及び第2の実施の形態と同様にスポット群の横座標と開口21の横座標の関係が求まり、フィッティングなどのデータ処理によって、倍率、ディストーションを求めて横座標の校正用データを取得することができる。
【0049】
なお、上述した第1乃至第3の形態の形状計測装置1では、光源2,100から出射された光を透過させて測定光Lmとする基準レンズ3,107と被検面Swとの相対距離を測定光Lmの光軸方向に変化させる駆動装置として駆動ステージ16を設けている。しかしながら、この駆動装置として、基準レンズ3,107を測定光Lmの光軸方向に移動させるピエゾ素子を設けても良い。また、この被検面Swと基準レンズ3,107の両方を移動可能に構成しても良い。
【0050】
更に、演算装置7は、必ずしもワークWの形状計測が行われる駆動装置16の光軸方向Zの全ての位置にて校正パターンPの画像の取得を行わなくても良い。即ち、被検面Swの全面について校正パターンPの画像を取得することができれば、ステップ数などを考慮して測定精度を保持できる複数位置にて校正パターンPの画像の取得を行うようにしても良い。
【0051】
また、上記第1乃至第3の実施の形態では、被検面Swの光軸方向Zの各位置における校正パターンPの画像を取得した後、基準横座標と比較して横座標の校正をした。しかしながら、各位置で校正パターンPの画像を取得するごとに基準横座標と比較して横座標の校正を行ってもよい。
【0052】
また、校正パターンPは、横座標の校正が出来れば、どのような形状でも良く、例えば、菱形や、十字形状にアパーチャー板20の開口21を配置しても良い。更に、校正パターンの横座標は、撮像素子5が検出した測定光Lmの重心を検出する以外に、既存のどのような方法を用いても良い。
【0053】
更に、上記第1乃至第3の実施形態では、撮像素子5としてCCDカメラを使用したが、CMOSカメラなど、どのような既知の撮像装置を使用しても良い。
【0054】
また、上述した第1乃至第3の実施の形態に記載された発明は、どのように組み合わされて良いことは当然である。
【符号の説明】
【0055】
1:形状計測装置、20:アパーチャー板、W:ワーク、Ws:被検面、Lm:測定光、P:校正パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
被検面を有するワークと、
前記被検面に近接して配置されると共に複数の開口が形成され、これら複数の開口の配列によって校正パターンを形成するアパーチャー板と、
前記開口を通過して前記被検面で反射され、再び前記開口を通過した測定光を検出する撮像素子と、
予め計測されている前記校正パターンの基準横座標位置と、前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置とを比較して、横座標の校正を行う演算装置と、を備えた、
ことを特徴とする形状計測装置。
【請求項2】
前記被検面の位置を測定光の光軸方向に変化させる駆動装置を備え、
前記撮像素子は、前記被検面の光軸方向の複数位置にて、前記アパーチャー板を通過して前記被検面に垂直に入射し、元来た方向に反射された測定光により結像する開口パターンからなる前記校正パターンを検出し、
前記演算装置は、前記駆動装置の光軸方向の複数位置にて、前記撮像素子上における前記校正パターンの横座標位置を演算すると共に、この演算された横座標位置と前記基準横座標位置とを比較して横座標の校正を行う、
ことを特徴とする請求項1記載の形状計測装置。
【請求項3】
前記校正パターンは、前記開口が同心円状に配置されて形成される、
請求項1又は2記載の形状計測装置。
【請求項4】
複数の開口が形成されていると共にこの開口の配列により校正パターンを形成するアパーチャー板を、被検面の前面に配置する工程と、
前記アパーチャー板の開口を通過すると共に前記被検面で反射され、再び前記開口を通過した測定光を撮像素子により検出する工程と、
前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置を演算する工程と、
前記被検面を測定光の光軸方向に移動させ、この被検面の形状計測が行われる光軸方向の複数位置にて、前記撮像素子上にて結像した前記校正パターンの横座標位置を演算する工程と、
前記演算した校正パターンの横座標位置と、予め計測されている前記校正パターンの基準横座標位置とを比較して、横座標の校正を行う工程と、を備えた、
ことを特徴とする横座標校正方法。
【請求項5】
請求項4記載の横座標校正方法によって形状計測装置の横座標位置を校正する工程と、
横座標が校正された前記形状計測装置によって光学素子の形状を計測する工程と、
計測された光学素子の形状とこの光学素子の設計値との差分を演算し、演算した設計値との差分だけ修正加工を施す工程と、を備えた、
ことを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−40858(P2013−40858A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178287(P2011−178287)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】