説明

排ガス処理システム

【課題】半導体製造装置から排出される排ガスを処理するシステムを小型化する技術を提供する。
【解決手段】排ガス処理システム100は、半導体製造装置1から排出される少なくとも水素およびモノシランを含む混合ガスを処理する。この排ガス処理システム100は、半導体製造装置から排出された混合ガスを排気するポンプ部2と、ポンプ部2により排気された混合ガスを圧縮して後段へ送る圧縮機11と、圧縮された混合ガスを集めて収容するガス収容部3と、ガス収容部3から供給された混合ガスの流量を制御する流量制御部4と、水素を選択的に透過させ、混合ガスからモノシランと水素を分離する膜分離部6と、を備える。これにより、半導体製造装置1から排出された混合ガスの圧力変動を緩和し、安定して排ガス処理システムを運転することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置から排出される水素およびシランガスを含有するガスを処理する排ガス処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、特に、太陽電池に用いられる薄膜シリコンを成膜するためのプラズマCVD装置から排出される排ガスには、除害の必要があるモノシラン、除害が不要な水素、および微粒子(高次シラン)が混在している。従来の排ガス処理装置では、微粒子をフィルタにより除去した後、残存したモノシランおよび水素を含む混合ガス(水素/モノシラン=2〜100)に窒素を加えた後、除害装置を用いて処理が行われている。窒素の添加量は、粉体発生の観点からモノシラン濃度が2%以下になるように調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−134414号公報
【特許文献2】特開平9−239239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の排ガス処理装置では、除害が必要な少量のモノシランと、除害が必要でない大量の水素を含む混合ガスに対して除害が行われていたため、モノシランの除害に必要な設備、ひいては排ガス処理装置の大規模化を招いていた。また、モノシランを燃焼により除害する場合には、燃焼用のLPGガスの消費量が多くなり、エネルギー効率が低下していた。更に、半導体製造装置から排出される排ガスは、半導体製造装置の運転条件により圧力および流量が著しく変化するため、排ガス処理装置を安定して運転することが困難であった。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、半導体製造装置から排出される排ガスを処理するシステムを小型化する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の排ガス処理システムは、半導体製造装置から排出される少なくとも水素およびモノシランを含む混合ガスを処理する。この排ガス処理システムは、半導体製造装置から排出された混合ガスを排気するポンプと、ポンプにより排気された混合ガスを圧縮して後段に送る圧縮機と、圧縮された混合ガスを集めて収容するガス収容部と、ガス収容部から供給される混合ガスの流量を制御する流量制御部と、水素を選択的に透過させ、混合ガスからモノシランと水素を分離する膜分離部と、を備える。
【0007】
この態様によると、半導体製造装置から排出される少なくとも水素およびモノシランを含む混合ガスを、膜分離部にて除害の必要なモノシランと除害の不必要な水素とに分離し、分離後の水素とモノシランとをそれぞれ処理することにより、処理設備の規模を小さくでき、ひいては排ガス処理システムをコンパクトにすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、半導体製造装置から排出される排ガスを処理するシステムを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態に係る排ガス処理システムの概略の一例を示す系統図である。
【図2】本実施の形態に係る排ガス処理システムの構成をより詳細に示した系統図である。
【図3】本実施の形態に係る排ガス処理システムの各部におけるデータ処理の一例を示した系統図である。
【図4】実施例に係る排ガス処理システムの構成を示した系統図である。
【図5】非透過側背圧弁により圧力を50kPaGになるように調整した以外は実施例2の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(2)を満たして(C=0.5)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。
【図6】実施例1の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(3)を満たして(C=1.0)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果示した図である。
【図7】初期条件を膜分離容量が3.0Lの膜分離モジュールを用い、第3成分ガス添加部で窒素を30NL/min添加した以外は実施例1と同様として、排ガス処理システムを式(4)を満たして(C=1.0)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。
【図8】比較例に係る排ガス処理システムの構成を示した系統図である。
【図9】実施例1の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(2)を満たさずに(C=0.1)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。
【図10】実施例2の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(3)を満たさずに(C=0.25)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。
【図11】初期条件を膜分離容量が3.0Lの膜分離モジュールを用いた以外は実施例1と同様として、排ガス処理システムを式(4)を満たさずに(C=0.2)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る排ガス処理システムの概略の一例を示す系統図である。図2は、本実施の形態に係る排ガス処理システムの構成をより詳細に示した系統図である。図3は、本実施の形態に係る排ガス処理システムの各部におけるデータ処理の一例を示した系統図である。
【0012】
本実施の形態に係る排ガス処理システム100は、図1に示すように、複数の半導体製造装置1からポンプ部2を通して排出される少なくとも水素およびモノシランを含む混合ガスを集めて圧縮する圧縮機11と、圧縮機11から排出された混合ガスを収容するガス収容部3と、ガス収容部3からの混合ガスの流量を制御する流量制御部4と、混合ガスからモノシランと水素を分離する膜分離部6と、膜分離部6によって分離された水素を処理する水素ガス処理部7と、膜分離部6によって分離されたシランガスを処理するシランガス処理部8と、を備える。
【0013】
半導体製造装置1としては、特に限定されないが、太陽電池に用いられる薄膜シリコンを成膜するためのプラズマCVD装置などが挙げられる。
【0014】
半導体製造装置1から排出される混合ガスの組成は、特に限定されないが、例えば、除害が必要なモノシラン、除害が不要な水素、窒素および微量不純物を含む。微量不純物として、ジシラン、トリシランなどのSiを複数含む高次シラン、PH、B(それぞれ0.001〜1%)が挙げられる。
【0015】
ポンプ部2は、半導体製造装置1から排出された混合ガスを吸引し、後段の圧縮機11に送出する。使用されるポンプの種類としては特に限定されないが、半導体製造装置にはドライポンプが一般的に使用されることが多い。ドライポンプには、気密性保持や不要な堆積物の防止、ポンプ内部の腐食防止、排気能力の向上などの目的でパージ用ガスを導入することができる。パージ用ガスとしては特に限定されないが、窒素やアルゴン、などの不活性ガスが主に使用される。また、パージ用ガスの導入量としても特に限定されないが、ポンプ1台につき10〜50NL/min程度が一般的である。
【0016】
また、図2に示すように、ポンプ2bの前段または/および後段にフィルタ2aを設けることもできる。特に、排気ガスに高次シラン等の微粒子が比較的多く存在している場合は、フィルタ2aを設けることが好ましい。フィルタ2aは、混合ガス中に含まれる高次シラン等の微粒子を選択的に除去する微粒子捕捉フィルタである。使用するフィルタとしては特に限定されないが、渦巻式などのフィルタが使用できる。
【0017】
さらに、半導体製造装置1では成膜によるチャンバー内の堆積物を除去するためにケミカルクリーニングが行われることがある。ケミカルクリーニングでは、チャンバーに堆積したシリコン薄膜を除去するために、NFやFなどのガスの導入下でプラズマ処理することが一般的である。しかしながら、これらのガスは支燃性であるため、水素やモノシランのような可燃性ガスとの接触は避けなければならず、図2のようにポンプ2bの後に切替バルブ2cを設置することが好ましい。これにより、ケミカルクリーニングの排ガスが出てくる際には、支燃系ガス処理系に切替えることで、そのような排ガスがシラン系ガスの処理ラインに混入することが防止される。なお、この切替バルブ2cはポンプ自体にその機構が内蔵されていても良い。
【0018】
圧縮機11としては、特に限定されないが、ダイヤフラム式圧縮機、遠心圧縮機、軸流圧縮機、レシプロ圧縮機、ツインスクリュー圧縮機、シングルスクリュー圧縮機、スクロール圧縮機、ロータリー圧縮機等があげられるが、中でもダイヤフラム式圧縮機がより好ましい。
【0019】
圧縮機11の運転条件としては、特に限定されないが、圧縮後の混合ガスの温度がモノシランの分解温度である200℃以下となるように運転するのが好ましい。つまり、ポンプ部2から排出された混合ガスを常圧から圧縮すると考えると、圧縮比4.4以下で圧縮機を運転することが望ましい。
【0020】
圧縮機11に使用される圧縮機の構成に関しては、特に限定されないが、圧縮機に供給される混合ガスの流量が変動した場合でも圧縮機を安定して運転するために、インバーターを併設した構成、あるいは、圧縮機で一旦圧縮した混合ガスを再度圧縮機のサクション側に戻すスピルバック方式の構成を有することが好ましい。
【0021】
ガス収容部3は、複数の半導体製造装置1からポンプ部2を通して排出される混合ガスを十分な容量のタンク等に集めることで、各々の半導体製造装置1から排出される混合ガスの流量、圧力変動を平均化し、膜分離部6に常に一定流量、圧力の混合ガスを流通させるためのものである。また、構造を工夫することで、混合ガスに含まれる微粒子を除去する機能を付与することも可能である。
【0022】
ガス収容部3に使用されるタンクのサイズは、特に限定されないが、各々の半導体製造装置1に供給するガスの最大流量の合計値以上にすることが望ましい。
【0023】
ガス収容部3に使用されるタンク内の圧力は、特に限定されないが、最大で1MPaGにすることが望ましい。
【0024】
また、装置の運転開始時には、ガス収容部3の出口バルブを閉じた状態で、ポンプのパージガスや排ガスを圧縮機11からガス収容部3に供給し、ガス収容部3に蓄圧することが好ましい。これにより、半導体製造装置の排ガス流量が大きく変動した際にも、分離装置への供給流量を一定に保つための十分な圧力を維持することが可能になると共に、ガス収容部3に収容できるガス量を増加することができるため、ガス収容部の容積を小さくすることができる。さらには、十分な圧力を蓄圧すれば、膜分離装置の非透過側圧力を高く設定できるため、透過側との差圧を十分取ることができ、運転上も有利になる。
【0025】
流量制御部4は、ガス収容部3に集められた混合ガスの流量、圧力を、一定に制御するためのものである。その制御方法に関して特に限定されないが、流量制御部4に供給される混合ガスの圧力変動の影響を受けないものが望ましく、例えば、マスフローコントローラーなどが挙げられる。また、圧力に関しても、圧縮機11の運転条件を選択することにより、必要な圧力を確保することができる。
【0026】
膜分離部6は、少なくとも図2に示す膜分離装置6bと透過側圧力制御部6cおよび/または非透過側圧力制御部6dを備える。膜分離装置6bは、水素を選択的に透過させる膜で、モノシランと反応するような金属成分、例えば、パラジウム、ニッケルなどを主成分として含まないものであれば特に限定されないが、各種半透膜などが挙げられる。半透膜としては、例えば、水素を選択的に透過させる緻密層と、緻密層を支持する多孔質性の基材とを含む。半透膜の形状としては、平膜、スパイラル膜、中空糸膜が挙げられるが、このうち、中空糸膜がより好ましい。
【0027】
緻密層に用いられる材料としては、ポリイミド、ポリシロキサン、ポリシラザン、アクリロニトリル、ポリエステル、セルロースポリマー、ポリスルホン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリビニルハライド、ポリビニリデンハライド、ポリカーボネートおよびこのうちのいずれかの繰り返し単位を有するブロックコポリマーが挙げられる。
【0028】
基材に用いられる材料としては、ガラス、セラミック、焼結金属などの無機材料、および多孔質性の有機材料が挙げられる。多孔質性の有機材料としては、ポリエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリエーテル、ポリ(アリーレンオキシド)、ポリエーテルケトン、ポリスルフィド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリビニルなどが挙げられる。
【0029】
膜分離装置6bに供給される混合ガスの流量、圧力、温度、モノシランガスの濃度、および膜分離装置6bの非透過側圧力、透過側圧力は特に限定されないが、例えば、流量としては、膜分離装置の容量1Lに対して、5NL/min〜500NL/min、好ましくは、10NL/min〜100NL/minが望ましく、圧力としては、−90kPaG〜1.0MPaGが望ましく、温度としては、−20℃〜100℃程度が望ましく、モノシランガス濃度としては、30vol%以下、好ましくは20vol%以下、より好ましくは、10vol%以下が望ましく、膜分離装置6bの非透過側圧力としては、−90kPaG〜0.85MPaG、透過側圧力としては、−100kPaG〜0.9MPaGが望ましい。
【0030】
ここで、膜分離装置の容量とは、膜分離装置内の分離膜が十分密に充填された部分の容積のことを示す。
【0031】
また、上述した膜分離装置6bに供給される混合ガスの温度として室温以外で運転する場合には、図2に示すような温度制御部6aを設ける必要がある。
【0032】
温度制御部6aは、混合ガスを冷却または加熱する機能があれば、特に限定されないが、電熱ヒーターや各種熱交換器、などが挙げられる。温度制御部6aで冷却または加熱された混合ガスは膜分離装置6bに供給される。
【0033】
上述した膜分離条件は、実際には、密接に絡み合っており、例えば、膜分離容量1Lの場合では、膜分離装置に供給される流量としては、20NL/min〜50NL/min、モノシランガス濃度としては、10vol%以下、温度としては10℃〜40℃、膜分離装置の非透過側圧力としては、大気圧以上、透過側圧力としては、−100kPaG〜−60kPaGが望ましい。
【0034】
膜分離装置6bで分離されたガスはそれぞれ、水素ガス処理部7、シランガス処理部8に送られる。水素ガス処理部7では、単に回収した水素を燃焼処理や燃料として利用したり、例えば、図2に示すように、希釈部7bにて、窒素や空気などで、爆発限界以下に希釈した後、外部に放出されるように構成してもよい。また、この希釈の際は、水素濃度を爆発下限界以下(4vol%以下)まで希釈する方が安全上好ましい。希釈部7bでの希釈率は、少なくともモノシラン濃度5ppmv以下を満たす限り特に限定されないが、透過側ガス分析部6eの測定結果を元に、希釈率を制御すれば、無駄なく、効率よく制御することができる。希釈部7bにより希釈された分離ガスは、ブロア7cにより外部に放出される。また、回収ガス中のモノシラン濃度を低減するために、選択的にモノシランを除害することができるような機構を付加してもよい(図示せず)。選択的に除害する除害剤としては、特に限定されないが、酸化剤や吸着剤などが挙げられる。また、図4に示すように、水素ガス精製部7aを設置し、水素を精製して再利用できるように構成してもよい。
【0035】
また、シランガス処理部8では、例えば、図2に示すように、毒性ガスであるモノシランは、無害化する装置である除害部8cの装置仕様にあわせて希釈部8bで所定の濃度に希釈された後、除害部8cに導入されることで、モノシランの許容濃度以下に無害化され、ブロア8dにより外部に放出される。なお、シランガス精製部8aを設置し、モノシランを精製して再利用できるように構成してもよい。
【0036】
本実施の形態に係る排ガス処理システムでは、図2および図3に示すような各種付帯設備を追加することもできる。
【0037】
例えば、図2に示すように、流量制御部4で一定流量に制御された混合ガスの成分ガスの濃度、特に、ガス中の水素およびモノシラン濃度を測定するためにガス分析部5を設置することができる。このガス分析部5では、少なくとも、混合ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度を測定できれば、その方法は特に限定されないが、例えば、ガス流通式のサンプルセルを備えたFT−IRや、オンライン式のガスクロマトグラフ等が挙げられる。
【0038】
また、図2や図3に示すように、混合ガス中のモノシラン濃度を調整するなどのために、ガス分析部5の前後に、第3成分ガス添加部10を設け、第3成分ガスを、混合ガスに一定量添加してもよい。添加する第3成分ガスとしては、モノシラン等の混合ガス中の成分ガスと急激に反応しないものであれば特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム、キセノン、炭素数1から4の炭化水素ガスなどが挙げられる。第3成分ガス添加部10を設けた場合は、その前後でガス分析部5を設け、第3成分ガスの添加前後の混合ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度を測定することが好ましい。
【0039】
また、図2に示すように、膜分離部6で分離された各々のガスの流量および成分濃度を測定するために、透過側ガス分析部6e、非透過側ガス分析部6fを設けることもできる。例えば、水素ガス処理部7では、膜分離装置6bの透過側ガスの流量およびガス中の水素濃度およびモノシラン濃度を測定することで、回収した水素ガスを大気放出する際の希釈部7bでの希釈率を、その測定結果を基に、モノシラン濃度が許容濃度(5ppmv以下)になるように制御することができる。この希釈部7bでは、回収した水素を安全に大気放出するために、窒素や空気などを添加し、モノシラン濃度を許容濃度以下、水素濃度を爆発下限界(4vol%以下)にすることができる。
【0040】
なお、膜分離装置6bの透過側から排出される透過側ガスは、透過側ガス分析部6eで、流量ならびに、水素濃度およびモノシラン濃度が測定される。また、透過側圧力制御部6cは、膜分離装置6bの透過側圧力を制御するためのものである。得られた測定結果と、膜分離装置6bに供給される分離前の混合ガスの流量ならびに水素濃度およびモノシラン濃度の測定結果を合わせて、水素ガスの回収率(水素回収率)を算出することもできる。ここで、水素回収率とは、以下に示す式(1)のように定義される。
【0041】
水素回収率(%) =100×((A/100)×B))/((C/100)×D)・・・式(1)
ここで、Aは透過側ガスの水素濃度(透過側水素濃度)(vol%)、Bは透過側ガス流量(透過側ガス総流量)(L/min)、Cは膜分離装置へ供給される混合ガスの水素濃度(供給側水素濃度)(vol%)、Dは膜分離装置に供給される混合ガスの流量(供給側ガス総流量)(L/min)を表す。
【0042】
この水素回収率をモニターすることで、膜分離装置6bの劣化状態を把握することができる。例えば、水素回収率の低下に伴い、膜分離装置6bに供給する混合ガスの温度や、膜分離装置6bの非透過側圧力、透過側圧力、第3成分ガスの添加量を制御することで、常に高い水素回収率を維持した運転が可能になる。この際、水素回収率の減少率に対して、以下に示す式(2)〜式(4)を満たすように、膜分離装置6bに供給する混合ガスの温度や、膜分離装置6bの透過側圧力、第3成分ガスの添加量を制御することが好ましい。
【0043】
ΔP=C×ΔA、C≧0.5・・・式(2)
ここで、ΔPは透過側の圧力減少分(kPa)、ΔAは水素回収率の減少分(%)をそれぞれ表す。
【0044】
ΔT=C×ΔA、C≧0.8・・・式(3)
ここで、ΔTは温度上昇分(℃)、ΔAは水素回収率の減少分(%)をそれぞれ表す。
【0045】
ΔF=C×ΔA、C≧0.3・・・式(4)
ここで、ΔFは第3成分ガス添加量の減少分(L/min)、ΔAは水素回収率の減少分(%)をそれぞれ表す。
【0046】
また、例えば、シランガス処理部8では、膜分離装置6bの非透過側ガスの流量ならびにガス中の水素濃度およびモノシラン濃度を測定することで、回収したモノシランガスを除害部8cで無害化する際の希釈部8bでの希釈率を、その測定結果を元に、モノシラン濃度が除害装置の許容濃度(例えば2vol%程度)以下になるように制御することができる。
【0047】
なお、上述の制御は、図3に示す演算制御部30を用いて実行される。また、演算制御部30は、制御する混合ガスの流量、ガス分析部5における混合ガス中のモノシラン濃度の測定結果および膜分離装置の容量を元に、混合ガスの流量を流量制御部4によって制御することができる。
【0048】
さらに、演算制御部30は、流量制御部4での混合ガス流量値、ガス分析部5での混合ガス中のモノシラン濃度の測定結果、透過側ガス分析部6eでの透過側ガス流量および透過側ガス中のモノシラン濃度測の測定結果に基づいて、水素回収率を算出することができる。
【0049】
演算制御部30では、この算出された水素回収率の減少幅に対して、膜分離装置6bに供給する混合ガスの温度や、膜分離装置6bの非透過側圧力、透過側圧力、第3成分ガスの添加量を制御することができる。
【0050】
さらに、演算制御部30は、透過側ガス分析部6eでの透過側ガス流量ならびに透過側ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度の測定結果に基づいて、水素ガス精製部7aの運転条件や回収した水素ガスを再利用するかどうかの判定を行うことができる。演算制御部30は、回収した水素ガスを再利用しないと判定した場合には、水素ガス処理部7の希釈部7bでの希釈率を、モノシラン濃度が許容濃度(5ppmv以下)になるように制御することもできる。
【0051】
さらに、演算制御部30は、非透過側ガス分析部6fでの非透過側ガス流量ならびに非透過側ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度の測定結果に基づいて、シランガス精製部8aの運転条件や、回収したモノシランを再利用するかどうかの判定を行うことができる。演算制御部30は、回収したモノシランを再利用しないと判定した場合には、シランガス処理部8の希釈部8bでの希釈率を、モノシラン濃度が除害装置の許容濃度(例えば2vol%程度)以下になるように制御することもできる。また、非透過側ガス分析部6fの後段に、除害部8cへ向かうラインと再利用のために半導体製造装置1へ向かうラインとを切り替えるバルブが設置されているとよい。
【0052】
上述の排ガス処理システムによれば、半導体製造装置から排出される混合ガスの圧力、流量が変動しても、膜分離部に供給する混合ガスの流量、圧力を一定に保ちつつ、半導体製造装置から排出された混合ガスを排気するポンプに影響を与えるような背圧をかけることなく、安定した運転が可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
図4は、実施例に係る排ガス処理システムの構成を示した系統図である。図4に示すように、上述の実施の形態に係る排ガス処理システムを半導体製造装置1の一つである薄膜シリコン太陽電池製造用CVD装置3台に接続した。排ガス処理システムは、複数のPE−CVD装置12から排出された混合ガスを、外部から導入された窒素とともにそれぞれの装置に対応したドライポンプ13aで吸引し、フィルタ14を介し、圧縮機26に向けて送出する。なお、ドライポンプ13aの後には切替バルブ33が設置されている。これにより、ケミカルクリーニングの排ガスが出てくる際には、支燃系ガス処理系に切替えることで、そのような排ガスがシラン系ガスの処理ラインに混入することが防止される。
【0055】
圧縮機26としては圧縮比4で運転できるものを選定した。蓄圧用バルブ32を閉止した状態で、それぞれのポンプのパージ窒素を30NL/minの流量で流して、気密タンク15(容量:5m)の圧力を0.3MPaGまで昇圧した。その後、蓄圧用バルブ32を開け、マスフローコントローラー16へのガス供給を開始すると共に、それぞれのPE−CVD装置12を4分ずつずらして運転を開始した。それぞれのPE−CVD装置12の運転は、表1に示すような条件で行った。マスフローコントローラー16でガス流量を151.5NL/minに制御して、熱交換機18で温度を40℃に調整した後、膜分離モジュール20(ポリイミド中空糸膜、容量2.4L)に供給した。この際、透過側背圧弁21aは圧力が−98kPaGになるように調整した。また、非透過側背圧弁21bは圧力が0.1MPaGになるように調整した。この時の圧縮機手前の排ガスの流量、組成を表2に示した。分離された透過側ガスのSiH濃度は0.019vol%、水素回収率は90.9%であり、排ガス流量の変動によらず一定であった。
【0056】
なお、図4に示す流量計22aおよび分析装置17aは、PE−CVD装置12から排出された混合ガス中の流量ならびに混合ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度を測定するものである。マスフローコントローラー16によって流量や圧力が所定の値に制御された混合ガスは、分析装置17bによって水素濃度およびモノシランの濃度が測定された後、熱交換機18と循環恒温槽19の働きにより温度が制御され、膜分離モジュール20に流入する。膜分離モジュール20の透過側および非透過側の後段にはそれぞれ流量計22b,22cが設けられている。
【0057】
図4に示す排ガス処理システムにおいて、膜分離モジュールの透過側のガスは、流量計22b、分析装置17cを通過して透過側ガスの流量ならびに透過側ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度が測定される。ドライポンプ13bで吸引された透過側ガスは、その測定結果に基づいて適宜窒素で希釈され、ブロア25aによって大気に放出される。一方、膜分離モジュール20の非透過側の分離ガスは、流量計22c、分析装置17dを通過して非透過側ガスの流量ならびに非透過側ガス中の水素濃度およびモノシラン濃度が測定される。非透過側ガスは、その測定結果に基づいて適宜窒素で希釈され、燃焼除害装置23により燃焼され除害される。燃焼除害装置23により燃焼されて排出されるガスは、燃焼の際に発生した粉体等の異物を除去するため、ブロア25bによってバグフィルタ24に供された後、ブロア25cによって大気に放出される。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
[実施例2]
膜分離容量が4.8Lの膜分離モジュール20を用い、非透過側背圧弁21bを開放し、非透過側を常圧にし、透過側圧力を−70kPaに調節し、供給ガスの温度を80℃にした以外は実施例1と同様に運転を行った。その結果、分離された透過側ガスのSiH濃度は0.052vol%、水素回収率は63.3%であり、排ガス流量の変動によらず一定であった。
【0061】
[実施例3]
図5は、非透過側背圧弁21bにより圧力を50kPaGになるように調整した以外は実施例2の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(2)を満たして(C=0.5)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。なお、使用年数(換算値)は、加速試験における運転時間を実年数に換算した値である。加速劣化試験は、供給混合ガス総流量を実試験の50倍量とし、供給されるモノシランガス濃度及び供給される窒素ガス濃度は一定として試験を実施した。この結果より、式(2)を満たして排ガス処理システムを運転することで、水素回収率を維持したまま長期間の運転が可能であることがわかる。
【0062】
[実施例4]
図6は、実施例1の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(3)を満たして(C=1.0)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果示した図である。この結果より、式(3)を満たして排ガス処理システムを運転することで、水素回収率を維持したまま長期間の運転が可能であることがわかる。
【0063】
[実施例5]
図7は、初期条件を膜分離容量が3.0Lの膜分離モジュールを用い、第3成分ガス添加部10で窒素を30NL/min添加した以外は実施例1と同様として、排ガス処理システムを式(4)を満たして(C=1.0)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。この結果より、式(4)を満たして排ガス処理システムを運転することで、水素回収率を維持したまま長期間の運転が可能であることがわかる。
【0064】
[比較例1]
図8は、比較例に係る排ガス処理システムの構成を示した系統図である。図8に示す比較例に係る排ガス処理システムは、圧縮機、気密タンク、蓄圧用バルブ、マスフローコントローラーが設置されていない。このような排ガス処理システムに前述のCVD装置を接続し、実施例1と同様の条件で運転を行い、変動する排ガスをそのまま膜分離装置に流通した。その結果、分離後の透過側ガスのSiH濃度、水素回収率は、排ガス流量の変動に応じ、表3のように変動した。また、透過側ガスのSiH濃度が最大で0.044vol%まで高くなり、大気放出のための希釈率を実施例1に比べ2.3倍にしなければならなかった。
【0065】
【表3】

【0066】
[比較例2]
排ガス処理システムの膜分離容量を1.2Lにした以外は比較例1と同様の構成、条件で運転を行った。その結果、表3のように透過側ガスのSiH濃度は低減できたが、水素回収率が低くなった。
【0067】
[比較例3]
図9は、実施例1の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(2)を満たさずに(C=0.1)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。この結果より、式(2)を満たさずに排ガス処理システムを運転すると、水素回収率が短期間で減少することがわかる。
【0068】
[比較例4]
図10は、実施例2の条件を初期条件として、排ガス処理システムを式(3)を満たさずに(C=0.25)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。この結果より、式(3)を満たさずに排ガス処理システムを運転すると、水素回収率が短期間で減少することがわかる。
【0069】
[比較例5]
図11は、初期条件を膜分離容量が3.0Lの膜分離モジュールを用い、第3成分ガス添加部10で窒素を30NL/min添加した以外は実施例1と同様として、排ガス処理システムを式(4)を満たさずに(C=0.2)運転した際の使用年数(換算値)に対する水素回収率の変化をモニターした結果を示した図である。この結果より、式(4)を満たさずに排ガス処理システムを運転すると、水素回収率が短期間で減少することがわかる。
【0070】
本発明は、上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0071】
1 半導体製造装置、 2 ポンプ部、 2a フィルタ、 2b ポンプ、 2c 切替バルブ、 3 ガス収容部、 4 流量制御部、 5 ガス分析部、 6 膜分離部、 6a 温度制御部、 6b 膜分離装置、 6c 透過側圧力制御部、 6d 非透過側圧力制御部、 6e 透過側ガス分析部、 6f 非透過側ガス分析部、 7 水素ガス処理部、 7a 水素ガス精製部、 7b 希釈部、 7c ブロア、 8 シランガス処理部、 8a シランガス精製部、 8b 希釈部、 8c 除害部、 8d ブロア、 10 第3成分ガス添加部、 11 圧縮機、 12 PE−CVD装置、 13a ドライポンプ、 14 フィルタ、 15 気密タンク、 16 マスフローコントローラー、 17a,17b,17c,17d 分析装置、 18 熱交換機、 19 循環恒温槽、 20 膜分離モジュール、 21a 透過側背圧弁、 21b 非透過側背圧弁、 22a,22b,22c 流量計、 23 燃焼除害装置、 24 バグフィルタ、 25a,25b,25c ブロア、 26 圧縮機、 30 演算制御部、 32 蓄圧用バルブ、 33 切替バルブ、 100 排ガス処理システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置から排出される少なくとも水素およびモノシランを含む混合ガスを処理する排ガス処理システムであって、
半導体製造装置から排出された混合ガスを排気するポンプと、
前記ポンプにより排気された混合ガスを圧縮して後段へ送る圧縮機と、
圧縮された混合ガスを集めて収容するガス収容部と、
前記ガス収容部から供給された混合ガスの流量を制御する流量制御部と、
水素を選択的に透過させ、混合ガスからモノシランと水素を分離する膜分離部と、
を備えることを特徴とする排ガス処理システム。
【請求項2】
運転を開始する際には、前記ガス収容部に蓄圧してから運転を開始することを特徴とする請求項1に記載の排ガス処理システム。
【請求項3】
前記膜分離部の非透過側圧力を制御する圧力制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−189228(P2011−189228A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55396(P2010−55396)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】