接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法
【課題】 充てん性、ダイシング性、耐電食性、作業性、保存安定性等に優れ、耐熱性や耐湿性を満足する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、その製造方法、一体型シート、半導体装置及びこの製造方法を提供する。
【解決手段】 (1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とした接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、その製造方法、一体型シート、半導体装置及びこの製造方法。
【解決手段】 (1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とした接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、その製造方法、一体型シート、半導体装置及びこの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体パッケージの小型化に伴い、半導体チップと同等サイズであるCSP(Chip Size Package)、さらに、特許文献1〜5に示されるように半導体チップを多段に積層したスタックドCSPが普及している。
【0003】
これらの例として、図13に示す配線4などに起因する凹凸を有する基板3上に半導体チップA1を積層したパッケージ又は図14に示す同サイズの半導体チップA1を2つ以上使用するパッケージであって、ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層するパッケージなどがある。
【0004】
このようなパッケージには、凹凸を埋込み、かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。なお、図13及び図14において、b1は接着剤である。
【0005】
配線、ワイヤなどの凹凸の充てんには、通常、凹凸の高さより接着シートの厚さを厚くすること、接着シートの溶融粘度を低減し、充てん性を改善することが求められる。
しかしながら、一方で、厚さが厚く、溶融粘度が低い接着シートは、積層時にチップ端部から樹脂が流動し、はみだしやすいという問題があった。
【0006】
また、貼付温度での接着シートの流動性が貼付性に影響するものと考えられており、接着シートの流動性が適度に高いものは凹凸やワイヤの充てん性に優れるが、貼り付け時に接着シートと下チップ間に気泡(ボイド)を形成し易いという問題があった。
【0007】
ボイドが形成されると、はんだリフロー時にボイド中に溜まった空気や水分が膨張することにより、接着シートがはく離するため、ボイドを低減することは凹凸やワイヤを充てんすることと同様に重要な課題であるが、貼付温度での物性(溶融粘度、硬化速度、溶融粘度の温度や時間依存性など)又は接着シートの厚さを変更するだけでは、ボイドを完全に消滅することは難しく、接着シートの厚さが厚く、溶融粘度が低い接着シートは、ウエハ及び接着シートのダイシングによって、得られる半導体チップ端部の破損が大きくなるとともに、糸状のくず(樹脂ばり)が大きくなるという問題があった。
【0008】
通常、ダイシング工程は、ウエハ、接着シート及びダイシングテープを0〜80℃で貼り合わせた後、これらを回転刃で同時に切断し、洗浄後、接着シート付き半導体チップを得る工程が採られている。この切断後にできたダイシングテープの溝に、接着シートやウエハの切断くずが付着し、それが切断後の洗浄時や半導体チップピックアップ時にダイシングテープからはく離し、樹脂ばりが生じ、半導体チップに付着し、電極などを汚染することがあった。
【0009】
また、充てん性を向上させるためには、低粘度の樹脂を加えればよいが、タック強度が上昇し、すなわち、べたつきが増すため、保護フィルムや、基材フィルムのはく離作業がやり難くなったりするなど、取り扱い作業性が低下するという課題があった。
【0010】
これらの課題を解決した接着シートの例としては、特許文献6が挙げられるが、貼り付け時に形成される接着シートと下チップ間にボイドを解決したとしても、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成物、分解生成物、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分に起因して接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、結果として、貼り付け時に形成される接着シートと下チップ間にボイドと同様に、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題があった。
【0011】
このように、残存する揮発成分に起因して硬化の加熱によって発泡する接着シートでは、低い温度から高い温度に段階を踏んで硬化させて行く、ステップキュアと呼ばれる工程を採用し、このような発泡を押さえ込む手法が取られているが、所望の半導体装置の製造工程が煩雑で長い時間を要するため好ましくない。
【0012】
一方、図13及び図14に例示したような、CSP及びスタックドCSPでは、耐電食性も重要な特性であり、特に、図14に示したような、ワイヤ2が接着シートに埋め込まれるタイプのスタックドCSPでは、高い耐電食性が要求され、さらに、近年、実用化が見込まれている銅ワイヤや銅リードフレームなどの銅配線型の半導体装置向けとしては、特許文献6のような従来の技術では性能が足りない。
【0013】
耐電食性を向上可能な従来技術の例としては、特許文献7などが挙げられるが、ポリイミド樹脂を含有しているため耐電食性の他に耐熱性には優れるもの、図14に示すような、ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層するパッケージにおける配線、ワイヤなどの凹凸を充てんすることは不可能である。
【0014】
以上の点から、配線やワイヤなどに起因する凹凸の充てん性が優れ、また凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、耐熱性、耐湿性、作業性、保存安定性を満足する接着シートを得ることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−279197号公報
【特許文献2】特開2001−308262号公報
【特許文献3】特開2002−222913号公報
【特許文献4】特開2002−359346号公報
【特許文献5】特開2004−072009号公報
【特許文献6】特開2007−270125号公報
【特許文献7】特開2004−210804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート及びその製造方法を提供することと、この接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
単一の高分子材料では相反する特性を同時に発揮することは難しく、高分子ブレンドによる特性の向上が重要となっている。高分子ブレンド材では、ブレンド材の相分離構造を制御することにより材料高機能化が図られることが多い。
【0018】
熱硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーは、多くの高分子成分と相溶する。これらの一相状態にある系を熱硬化させるとFlory−Huggins理論から予測されるように、熱硬化性樹脂の分子量が増大するにともない相図の二相域が拡大し相溶域が減る。
【0019】
例えば、Poiymer、1989年30巻、1839〜1844頁によればエポキシ樹脂とブタジエン・アクリルニトリル共重合体(CTBN)の相図は、上限臨界共溶温度(UCST)型を示し、反応とともに二相域が次第に低温側に移動し二相域に入る。即ち、反応によってスピノーダル分解が誘起されて相分離が起こる。
【0020】
このような反応誘起型相分解では、相分解の様々な過程で構造を凍結することに相分離構造を制御できる有用な方法とされている。日立化成テクニカルレポート、47号、15−20(2006年)に示されるように、このような熱硬化性樹脂と高分子量成分を組成とする熱硬化型接着剤シートは、二つの部材を両面接着するために、半導体用途で広く使われてきた。
【0021】
この熱硬化型接着剤シートは、強い接着力があるだけでなく低弾性率であり、熱硬化による接着後に二つの部材間の熱膨張率の差に起因する応力を緩和できることを特徴としている。応力を緩和することで熱硬化後のそりを低減できる。
【0022】
本発明者らは、この反応誘起型相分解技術を用いて、(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含み、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合されることを特徴とする接着剤組成物を作製した。
【0023】
さらに、本発明者らは、上記で作製した接着剤組成物を用いた接着シートは、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
本発明は、以下のものに関する。
(I) (1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合された接着剤組成物。
【0025】
(II) (I)記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態である(1)記載の接着剤組成物。
【0026】
(III) (I)又は(II)記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下である(I)又は(II)記載の接着剤組成物。
【0027】
(IV) (2)高分子量成分が、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下である(I)〜(III)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(V) (I)〜(IV)のいずれかに記載の(2)高分子量成分が、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを共重合成分とし、0.5〜10重量%を含むエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である(I)〜(IV)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0028】
(VI) (3)フェノール樹脂が、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下である(I)〜(V)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(VII) (3)フェノール樹脂が、フェノールアラルキル樹脂である(I)〜(VI)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(VIII) 接着剤組成物が、さらに0.1〜0.5重量%の(6)イミダゾール化合物を含有する接着剤組成物。
(IX) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合することを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【0029】
(X) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に形成して得られる接着シート。
(XI) 接着シートが、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度が700〜3000Pa・s、硬化にともなう粘度上昇が100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上である(X)記載の接着シート。
(XII) 接着シートが、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下である(X)又は(XI)記載の接着シート。
(XIII) 接着シートが、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPa、0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPa以下である(X)〜(XII)のいずれかに記載の接着シート。
【0030】
(XIV) 接着シートが、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%である(X)〜(XIII)のいずれかに記載の接着シート。
(XV) 接着シートが、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度が、0.2〜2.0Nである請求項(X)〜(XIV)のいずれかに記載の接着シート。
(XVI) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥することを特徴とする接着シートの製造方法。
【0031】
(XVII) (X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シート。
(XVIII) 予めウエハ形状に形成した(X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする一体型シートの製造方法。
(XIX) ウエハ、(X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【0032】
(XX)ウエハと(XVII)に記載の一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
(XXI) (XIX)又は(XX)に記載の半導体装置の製造方法により製造した半導体装置。
(XXII)半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形している(XXI)記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明は、上述の接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の接着シート、半導体ウエハ及びダンシングテープの一実施態様を示す断面図である。
【図2】本発明の接着剤付き半導体チップの一実施態様を示す断面図である。
【図3】本発明の基材フィルム付き接着シートの一実施態様を示す断面図である。
【図4】本発明の基材フィルム付き多層接着シートの一実施態様を示す断面図である。
【図5】本発明の接着シートを用いた接着剤付き半導体チップを、ワイヤボンディングされたチップに接着する際の工程の一実施態様を示す概略図である。
【図6】凸に変形した状態、及び凸に変形した量の測定方法を説明する概略図である。
【0035】
【図7】硬化前のJS1の表面SEM像である。
【図8】硬化前のHS1の表面SEM像である。
【図9】硬化後のJS1の表面SEM像である。
【図10】硬化後のHS1の表面SEM像である。
【図11】発泡性を評価したJF1の光学顕微鏡像である。
【図12】発泡性を評価したHF1の光学顕微鏡像である。
【図13】CSPの一実施態様を示す断面図である。
【図14】スタックドCSPの一実施態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明になる接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、その製造方法、一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を実施するための形態について詳細に説明する。
【0037】
まず、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂及び(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とする。
【0038】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂は、エポキシ基を分子中に二つ以上有すること意外に、特に制限はないが、硬化すると分子間で三次元的な結合を形成する性質を有する材料であり、硬化後に接着作用を呈するもので、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテルなど各種ジオール化合物のグリシジルエーテルなどの二官能エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂、また複素環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、シリコン変性エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物など、一般に知られているもの及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などを併用することもでき、これらの1種又は2種以上を併用することもできる。
【0039】
このようなエポキシ樹脂としては、市販のものでは、例えば、エピコート807,エピコート815,エピコート825,エピコート827,エピコート828,エピコート834,エピコート1001,エピコート1002,エピコート1003,エピコート1055,エピコート1004,エピコート1004AF,エピコート1007,エピコート1009,エピコート1003F,エピコート1004F(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、DER−330,DER−331,DER−301,DER−361,DER−661,DER−662,DER−663U,DER−664,DER−664U,DER−667,DER−642U,DER−672U,DER−673MF,DER−668,DER−669(以上、ダウケミカル社製、商品名)、YD8125,YDF8170(以上、東都化成(株)製、商品名)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、YDF−2004(東都化成(株)製、商品名)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、エピコート152,エピコート154(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、EPPN−201(日本化薬(株)製、商品名)、DEN−438(ダウケミカル社製、商品名)等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、エピコート180S65(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、アラルダイトECN1273,アラルダイトECN1280,アラルダイトECN1299(以上、チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、YDCN−701,YDCN−702,YDCN−703,YDCN−704(以上、東都化成(株)製、商品名)、EOCN−102S,EOCN−103S,EOCN−104S,EOCN−1012,EOCN−1020,EOCN−1025,EOCN−1027(以上、日本化薬(株)製、商品名)、ESCN−195X,ESCN−200L,ESCN−220(以上、住友化学工業(株)製、商品名)等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポン1031S,エピコート1032H60,エピコート157S70(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、アラルダイト0163(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、デナコールEX−611,デナコールEX−614,デナコールEX−614B,デナコールEX−622,デナコールEX−512,デナコールEX−521,デナコールEX−421,デナコールEX−411,デナコールEX−321(以上、ナガセ化成(株)製、商品名)、EPPN501H,EPPN502H(以上、日本化薬(株)製、商品名)等の多官能エポキシ樹脂、エピコート604(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、YH−434(東都化成(株)製、商品名)、TETRAD−X,TETRAD−C(以上、三菱瓦斯化学(株)製、商品名)、ELM−120(住友化学(株)製、商品名)等のアミン型エポキシ樹脂、アラルダイトPT810(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)などの複素環含有エポキシ樹脂、ERL4234,ERL4299,ERL4221,ERL4206(以上、UCC社製、商品名)等の脂環式エポキシ樹脂などが例示される。
【0040】
これらの中で、未硬化状態での接着シートの流動性が高い点でエポキシ樹脂の分子量が1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。流動性に優れる分子量500以下のビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂50〜90重量部と、硬化物の耐熱性に優れる分子量が800〜3000の多官能エポキシ樹脂10〜50重量%とを併用することが、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸への充てん性、取り扱い作業性、耐熱性を良好なバランスに調整可能であるため好ましい。
【0041】
また、本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下であることが、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
本発明において、硬化前とは未硬化又は半硬化の状態をいう。
【0042】
この特性の発現機構については、調査中であるが、発明者らは、島相が大きい明確な相分離がなされる系では、流動性に乏しい(2)高分子量成分が海相となってスポンジ状の構造を成しているためシート全体の流動性が阻害されているのに対し、本発明になる接着剤組成物では共連続構造のため(2)高分子量成分が、流動性の高い未硬化の(1)エポキシ樹脂及び(3)フェノール樹脂と共に流動しやすくなるためであると考えている。
【0043】
このような理由で、(1)エポキシ樹脂の平均分子量は、好ましくは3000以下、より好ましくは1000以下とされる。分子量3000を超えると、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂と分離して相溶しないことがある。
【0044】
ここで、ワニス状にした(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂の硬化前の相溶混合状態を、評価する方法としては、特に制限はないが、最も簡便には、ワニス状の本発明になる接着剤組成物を透明ガラス筒状の容器に入れて、目視で観察し、濁りや分離の有無を評価することで行える。濁りや分離がなければ、均一に相溶混合されていることになる。
【0045】
また、別な方法としては、ワニス状の接着剤組成物の濁度や光線透過率を測定装置によって評価する方法や、ワニス状の接着剤組成物を揮発しないように一定の厚さとなるようスペーサーを配した上にカバーガラスを被せて、光学顕微鏡観察する方法などが挙げられる。
【0046】
また、本発明になる接着剤組成物を塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であることを評価する方法としては、特に制限はないが、簡便には、本発明になる接着剤組成物をガラスに塗布、乾燥させたもの、又は本発明になる接着シートをガラス貼り付けるか、挟み込んで検体を作製し、位相差顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、原子間力顕微鏡等で観察する方法、また検体の一部を取り出して走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する方法が挙げられる。
【0047】
走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する際には、検体を包埋樹脂で包埋した後、ウルトラミクロトームなどで切片を作製して観察することは、本発明になる接着剤組成物又は本発明になる接着シートの内部を観察できる意味で好ましい。相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるかを判別することは、位相差顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡では難しいが、海島構造を形成しているか、いないかは、判別可能である。
【0048】
また、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後の(2)高分子量成分との相分離状態を評価する方法としては、特に制限はないが、簡便には、本発明になる接着剤組成物をガラスに塗布、乾燥後、硬化させたもの又は本発明になる接着シートをガラスに貼り付けるか、挟み込んで硬化させて検体を作製し、原子間力顕微鏡などで観察する方法、また検体の一部を取り出して走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する方法が挙げられる。
【0049】
上述のように、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察す際には、検体を包埋樹脂で包埋した後、ウルトラミクロトームなどで切片を作製して観察することは、本発明になる接着剤組成物又は本発明になる接着シートの内部を観察できる意味で好ましい。
【0050】
これらの中でも、原子間力顕微鏡で観察する方法は、弾性率の差をマッピングできるので、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂の硬化物と、(2)高分子量成分のような硬さの違う検体の島相の大きさを評価するのに好適に用いられる。ここで、島相の大きさとは、観察される島相の直径を示す。
【0051】
殆どの場合、本発明になる接着剤組成物及び接着シートにおける反応誘起型相分解で形成される海島構造の島相は、球状のものであるので簡易的には、観察された島相の直径は、使用した顕微鏡のスケールを用いて計測されるが、本発明では、島相の大きさは、定方向接線径、即ち、粒子をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値である。
【0052】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂には、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、エポキシ樹脂以外にも、ポリイミド樹脂系、ポリアミドイミド樹脂系、トリアジン樹脂系、フェノール樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、シアネートエステル樹脂系、これら樹脂の変性系などの熱硬化性樹脂の1種又は2種以上を併用して使用できる。
【0053】
これらの、本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を併用する場合は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合する組合せで選択することが好ましい。
【0054】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である。
【0055】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、官能基を含むことで、10μm以下の薄膜接着シートでも低弾性率で優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現することができる。
【0056】
官能基は、官能基を含む官能基含有単量体を、ビーズ重合、粒状重合、パール重合等とも呼ばれる懸濁重合や、溶液重合、塊状重合、沈殿重合、乳化重合等の既存の方法により、ランダム共重合させることにより導入することができる。中でも、低コストで高分子量化可能な点で懸濁重合法が好ましい。
【0057】
懸濁重合は、水性媒体中で行われ、懸濁剤を添加して行う。懸濁剤としてはポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などがあり、中でもポリビニルアルコールなどの非イオン性の水溶性高分子が好ましい。
【0058】
イオン性の水溶性高分子や難溶性無機物質を用いた場合には、得られたアクリル系ランダム共重合体内にイオン性不純物が多く残留する傾向がある。この水溶性高分子は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜1質量部使用することが好ましい。
【0059】
官能基含有単量体は、分子内にカルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つの重合性の炭素−炭素2重結合を有するものである。
【0060】
具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸などの酸無水物基含有単量体、アクリル酸−2ヒドロキシメチル、メタクリル酸−2ヒドロキシメチル、アクリル酸−2ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2ヒドロキシエチル、アクリル酸−2ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2ヒドロキシプロピル、N−メチロールメタクリルアミド、(o−,m−,p−)ヒドロキシスチレン等の水酸基含有単量体、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体、アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、アクリル酸−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、アクリル酸−3−メチル、4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、アクリル酸−β−メチルグリシジル、メタクリル酸−β−メチルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル、6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル等のエポキシ基含有単量体等を使用することができる。これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0061】
この中で、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を含むものが、10μm以下の薄膜接着シートでも優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現するため、また本発明になる接着剤組成物及び接着シートの保存安定性を確保する意味で好適に用いられる。
【0062】
これら官能基含有単量体の含有率は、エポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体のうち、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは1〜5重量%である。0.5重量%未満では接着力が低下する可能性があり、10重量%を超えるとエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体がゲル化を起こりやすくなる傾向がある。
【0063】
また、官能基含有単量体としてカルボキシル基、酸無水物基を含むアクリル酸、メタクリル酸等や、水酸基を含むアクリル酸−2ヒドロキシメチル、メタクリル酸−2ヒドロキシメチル等を用いると、ワニス状態でゲル化しやすく、接着剤組成物が未硬化の状態で硬化度の上昇による接着力の低下などの問題があるため好ましくない。
【0064】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下とすることにより、イオンマイグレーションの発生を抑制し、優れた耐電食性を発現することができる。
【0065】
窒素含有特性基を含む共重合成分とは、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類などが挙げられる。
【0066】
特に、シアン化ビニル化合物は、経過時間に伴う着色の増大も大きいため使用しない方が好ましい。この意味で、本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下であることが好ましい。
【0067】
IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下であることは、(2)高分子量成分中にニトリル基を不純物として含む程度であり、実質的にニトリル基を含まないことを意味する。
【0068】
即ち、本発明では実質的にニトリル基を含まないアクリル樹脂を樹脂組成物に用いることによって、イオンマイグレーションの発生を抑制し、優れた耐電食性を得ることが可能となる。ピーク高さの比(PCO/PCN)が、0.006を超えるとイオンマイグレーションが発生し易くなり耐電食性が低下する傾向がある。
【0069】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分のIR測定においては、KBr錠剤法による測定が好ましい。ATR法による測定では、高波数側のピークが小さく出る傾向がある。IRスペクトルは、縦軸に吸光度、横軸に波数を取り、ニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク(PCN)とカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク(PCO)の比(PCO/PCN)を取ることによってアクリル樹脂中のニトリル基の相対的な量を定量することができる。
【0070】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分中にメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含むことにより、重量平均分子量が10万以上であっても、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御することが可能である。
【0071】
本発明になる接着剤組成物を、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御する意味は、前述のように、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
【0072】
上記の理由で、アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分中に含まれるメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルの含有率は、30〜50重量%がより好ましく、40〜50重量%がさらに好ましい。
【0073】
メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルの含有率が20重量%未満であると、反応誘起型相分解で形成される海島構造の島相の大きさが100nmを超え、流動性を低下させる傾向があり、50重量%を超えると、アクリル系ランダム共重合体がゲル化を起こりやすくなる傾向があり、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体を得られない場合がある。
【0074】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、重量平均分子量が10万以上とすることにより、10μm以下の薄膜接着シートでも優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現することができる。重量平均分子量が10万未満であると得られる接着剤組成物に必要な接着性、耐熱性が得られず、また硬化時に残存した未反応成分が発泡し、接着材料内にボイドが形成される場合があり、そのため、(2)高分子量成分の重量平均分子量は、10万〜100万であることが好ましく、30万〜80万であることがより好ましい。重量平均分子量が100万を超えると、流動性が著しく低下する傾向がある。
なお、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0075】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、ガラス転移温度が0℃以上とすることにより、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【0076】
接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥して接着シートを得る場合、その取扱いを容易にするため、接着剤組成物は、はく離性を高める処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基材フィルムの上に塗布、乾燥した後、ポリエチレンフィルムなどの保護フィルムを配して使用されるが、ガラス転移温度が0℃未満であると未硬化状態での接着シートの粘着性が大きくなり過ぎて保護フィルムがはがれ難くなり、取扱い性が悪化する可能性があると同時に、接着シートの柔軟性が高過ぎるため、ウエハダイシング時にシートが切断し難く、樹脂くずが発生しやすくなる場合がある。
【0077】
上記の理由で、(2)高分子量成分のガラス転移温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上とされる。一方、(2)高分子量成分のガラス転移温度は、50℃を超えると、タック強度が小さ過ぎるため仮接着などの作業がやり難くなる傾向にあり好ましくない。
【0078】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分の、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ナフチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル等のメタクリル酸エステル類、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸フェニルノルボルニル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等の脂環式単量体などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0079】
これらの中で、アクリル酸エステル類は、ゲル化せずに重量平均分子量が10万以上の(2)高分子量成分が合成可能であり、好ましく用いられる。アクリル酸エステル類の中で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルは、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルとの共重合成に優れるため、さらに好ましい。
【0080】
これらの官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体の含有率は、本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、ガラス転移温度が0℃以上となるように調整されるもので、特に制限はないが、例えば、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体として、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルを選択し、官能基含有単量体としてグリシジルメタクリレートを2.5重量%、メタクリル酸メチルを43.5重量%とした場合には、アクリル酸エチルが18.5重量%、アクリル酸ブチル35.5重量%で、ガラス転移温度が12℃で、重量平均分子量が10万以上のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分を合成できる。
【0081】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述のようなアクリル系ランダム共重合体以外に、熱可塑性プラスチック、架橋反応ゴム、熱可塑性エラストマー、フェノキシ樹脂、高分子量エポキシ樹脂等の1種又は2種以上を併用することもできる。
【0082】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(3)フェノール樹脂は、分子中に2個以上の水酸基を有すること意外特に制限はないが、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコールなどの単環二官能フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフタレンジオール類、ビフェノール類及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体などなどの多環二官能フェノール類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ビフェニレンアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、フェノールアラルキル樹脂(別名キシリレン変性フェノール樹脂)等の多官能フェノール樹脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0083】
市販されているフェノール樹脂としては、例えば、フェノライトLF2882,フェノライトLF2822,フェノライトTD−2090,フェノライトTD−2149,フェノライトVH4150,フェノライトVH4170(以上、DIC(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0084】
分子中に2個以上の水酸基を有する(3)フェノール樹脂を硬化剤に用いることで、硬化中及び硬化後の揮発分が少なくすることができ、ボイドを生じ難くできる。
これらの分子中に2個以上の水酸基を有する(3)フェノール樹脂の中で、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下のものが、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸への充てん性、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだし性、さらには、作業性、耐熱性に優れた接着剤組成物及び接着シートを得る意味で好適に用いられる。
【0085】
軟化点が60℃未満であると樹脂のはみだし性、耐熱性に劣る傾向があり、軟化点が150℃を超えると、未硬化状態での接着シートの粘着性が低下し、被着体に貼付け作業が行い難く、凹凸への充てん性が低下する傾向がある。
また、水酸基当量220g/eqを超えると、10μm以下の薄膜接着シートでは、優れた接着性、耐熱性が得られない傾向がある。このような理由で、より好ましくは、軟化点65〜120℃、水酸基当量190g/eq以下、さらに好ましくは、軟化点70〜90℃、水酸基当量180g/eq以下の範囲とされる。
【0086】
本発明者らは、(3)フェノール樹脂を種々検討の結果、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下のフェノールアラルキル樹脂が、優れた接着性、耐熱性が得られ、なお且つ、凹凸を充てんでき、硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な点で優れることを見出した。
【0087】
また、フェノールアラルキル樹脂は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御することが可能である。
【0088】
本発明になる接着剤組成物を、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御せしめることは、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
市販されているフェノールアラルキル樹脂としては、例えば、ミレックスXLCシリーズ(三井化学(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0089】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(3)フェノール樹脂は、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述のような(3)フェノール樹脂以外に、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等のアミン類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコール無水トリメリット酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物等の芳香族カルボン酸無水物類、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族カルボン酸の無水物類、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、ヘット酸無水物等の脂環式カルボン酸無水物類、イミダゾール化合物、有機リン化合物及びこれらのハロゲン化物、ポリアミド、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素等の1種又は2種以上を(1)エポキシ樹脂の硬化剤として併用して使用することができる。
【0090】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のものであること以外に特に制限はないが、その種類としては、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられるが、耐熱性や熱伝導性を向上させるため、溶融粘度の調整やチキソトロピック性を付与するため、接着シートのダイシング性の向上のためには、無機フィラーが好ましい。
【0091】
無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、アンチモン酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0092】
熱伝導性向上のためには、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカなどが好ましい。溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。
また、ダイシング性を向上させるためには、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等がより好ましい。
【0093】
ダイシングは、回転刃でウエハ、接着シート、ダイシングテープを同時に切断し、洗浄後、接着シート付き半導体チップを得る。フィラーを含有しない場合には、切断くずが粘土状であり、洗浄水と共に除去されないため、切断後にできたダイシングテープの溝に、接着シートやウエハの多量の切断くずが付着し、樹脂ばりが発生する。フィラーを添加することにより、ダイシング工程における樹脂ばりを大幅に低減することができる。
【0094】
さらに、フィラーを含有することにより、シート切断時に回転刃に樹脂を残すことなく、回転刃を研磨しながら、短時間で接着シートを良好に切削できる。従って、回転刃の研磨効果及び接着シート切断性の点から、接着シートは硬いフィラーを含有することが好ましく、モース硬度(10段階)3〜8の範囲の硬さのフィラーを含有することがより好ましく、モース硬度6〜7のフィラーを含有することがさらに好ましい。このときフィラーのモース硬度(10段階)が3未満では回転刃の研磨効果が少なく、モース硬度が8を超えるとダイシング用の回転刃の寿命が短くなる傾向がある。
【0095】
なお、モース硬度3〜8のフィラーとしては、方解石、大理石、金(18K)、鉄など(モース硬度3)、蛍石、パールなど(モース硬度4)、燐灰石、ガラスなど(モース硬度5)、正長石、オパールなど(モース硬度6)、シリカ、水晶、トルマリンなど(モース硬度7)があるが、中でも安価であり入手が容易でありことからモース硬度7のシリカが好ましい。
【0096】
フィラーの比表面積に関しても、フィラーの平均粒径と同様に、接着シートの流動性と表面平滑性の点から2〜200m2/gが好ましく、さらに流動性の点から比表面積の上限は50m2/gがより好ましく、10m2/gが特に好ましい。なお、比表面積(BET比表面積)は、ブルナウアー・エメット・テーラー(Brunauer−Emmett−Teller)式により、フィラーに窒素を吸着させてその表面積を測定した値であり、市販されているBET装置により測定できる。
【0097】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーの粒径、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装製マイクロトラック)を用いて測定した。具体的には、フィラー0.1〜1.0gを秤取り、超音波により分散した後、粒度分布を測定し、粒径5μm以上の粒子の累積重量が粒径分布に占める割合を%で表し、粒度分布の累積重量が50%となる粒径を平均粒径とした。
【0098】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、粒径5μm以上の粒子が0.01%を超えると、耐熱性、熱伝導性、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与、接着シートのダイシング性に必要な量のフィラーを配合した場合に、接着シート表面の平滑性を保つことが難しく、接着性が著しく低下する傾向がある。
【0099】
上記の傾向は、特に接着シートの厚さが20μm以下の薄い場合で顕著である。この意味で、フィラーの粒径は、粒径3μm以上の粒子が、0.01%以下が好ましく、粒径2μm以上の粒子が、0.01%以下がより好ましい。
【0100】
また、本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、平均粒径が0.8μmを超えると、同様に、耐熱性、熱伝導性、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与、接着シートのダイシング性に必要な量のフィラーを配合した場合に、接着性が著しく低下する傾向がある。
【0101】
一方、フィラーの平均粒径は、平均粒径が0.05μm未満の場合、分散性、流動性が低下する傾向があり、また、ダイシングの際のフィラーが回転刃を研磨する効果が得られない場合がある。この意味で、フィラーの平均粒径は、0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.7μmがより好ましく、0.2〜0.6μmがさらに好ましい。
【0102】
本発明になる接着剤組成物に無機フィラーを添加した際のワニスの製造には、無機フィラーの分散性を考慮して、ライカイ機、3本ロール、ボールミル及びビーズミルなどによって物理的なせん断力を与え、二次凝集した粒子がないように十分に分散させた後に使用するのが好ましい。
【0103】
上記の分散方法は、組み合せて使用することができる。
また、無機フィラーと低分子量物をあらかじめ混合した後、高分子量物を配合することによって、混合する時間を短縮することが可能になる。
【0104】
次に、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分の配合割合について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合される。
【0105】
(1)エポキシ樹脂が20重量%未満であったり、(2)高分子量成分が25重量%を超えたり、(3)フェノール樹脂が15重量%未満であると、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんされるのに必要な流動性や接着性が得られない場合がある。
【0106】
また、(1)エポキシ樹脂が40重量%を超えたり、(2)高分子量成分が5重量%未満であったり、(3)フェノール樹脂が35重量%を超えると、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが多くなったり、接着シートの貯蔵弾性率が高くなり可とう性が著しく低下する場合がある。
【0107】
ここで、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂の配合割合は、(1)エポキシ樹脂のエポキシ当量と(3)フェノール樹脂の水酸基当量の比、即ち、エポキシ当量/水酸基当量が50/50とすることが良好な硬化性を得るために好ましいが、接着シートのアウトガス量と流動性及び室温付近でのタック強度を最適化するために、調整することも可能であり、好ましい。
【0108】
具体的には、エポキシ当量を水酸基当量より多くすることで、流動性を向上させると共に、室温付近でのタック強度をあげ粘着性を高めることができる。
一方、エポキシ当量を水酸基当量より少なくすることで、接着シートのアウトガス量を低減し、硬化後のボイドを低減することもできる。このような理由で、エポキシ当量/水酸基当量は、40/60〜60/40の範囲で調整することが好ましい。
【0109】
また、(4)フィラーが20重量%未満であると、接着シートに必要な耐熱性、ダイシング性が得られなかったり、流動性が高くなりすぎて硬化時にボイドを生じ易くなり、(4)フィラーが40重量%を超えると、流動性が低くなりすぎて、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんできなくなる場合がある。
【0110】
上述した諸特性を満足させる意味で、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分の配合割合は、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が22〜38重量%、(2)高分子量成分が7〜23重量%、(3)フェノール樹脂が17〜33重量%及び(4)フィラーが22〜38重量%がより好ましく、(1)エポキシ樹脂が25〜35重量%、(2)高分子量成分が10〜20重量%、(3)フェノール樹脂が20〜30重量%及び(4)フィラーが25〜35重量%がさらに好ましい。
【0111】
本発明になる接着剤組成物には、硬化時間を短縮できる意味で硬化促進剤を用いることができる。
硬化促進剤としては、前記、発明の効果を阻害しない範囲で用いること意外特に制限はないが、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミン化合物、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアリールアンモニウム、水酸化テトラアリールアンモニウム等の第4級アンモニウム化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ジアザビシクロアルケン等のシクロアミジン化合物、テトラフェニルホスホニウムなどのテトラ置換ホスホニウム、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン化合物、テトラフェニルボレートなどのテトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0112】
これらの硬化促進剤の中で(6)イミダゾール化合物は、硬化促進効果が大きく、その添加量が接着剤組成物の0.1〜0.5重量%と少なくても必要な硬化促進効果が得られるので好適に用いられる。
【0113】
(6)イミダゾール化合物の量が、接着剤組成物の0.5重量%を超えると、硬化促進効果は大きくなるが、接着剤組成物及び接着シートの可使時間、すなわち貯蔵安定性が著しく低下するので好ましくない。
一方、(6)イミダゾール化合物の量が、接着剤組成物の0.1重量%未満であると、十分な硬化促進効果が得られず、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成成分、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分が、接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、結果として、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題を起こし易くなる。
【0114】
このような理由で、(6)イミダゾール化合物の量は、接着剤組成物の0.2〜0.45重量%がより好ましく、0.3〜0.4重量%がさらに好ましい。
イミダゾール化合物は、例えば、四国化成工業(株)から、2E4MZ、2PZ−CN、2PZ−CNSという商品名で市販されているものを用いることができる。
【0115】
また、接着シートの可使期間が長くなる点で、潜在性硬化促進剤も好ましく、その代表例としてはジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド化合物、グアナミン酸、メラミン酸、エポキシ化合物とジアルキルアミン化合物との付加化合物、アミンとチオ尿素との付加化合物、アミンとイソシアネートとの付加化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0116】
本発明になる接着剤組成物は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂及び(4)フィラーからなる必須成分を(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とすることができる。これにより、本発明になる接着剤組成物の製造方法及び接着剤組成物を用いた接着シートの製造方法を容易にすることができる。
【0117】
ワニス状にするために用いる(5)有機溶媒としては、接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合、溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、アルコール系、エーテル系、ケトン系、アミド系、芳香族炭化水素系、エステル系、ニトリル系等が挙げられ、数種類を併用した混合溶剤を使用することもできる。
【0118】
具体的には、例えば、接着シート作製時の揮発性などを考慮して低沸点のジエチルエーテル、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メチルエチルケトン、2−プロパノール、塗膜安定性を向上させるなどの目的で高沸点の、トルエン、メチルイソブチルケトン、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、ブチルセロソルブ、ジメチルスルホキシド、N−2−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
これらの中で、溶解性に優れ、乾燥速度が速いメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを使用することが好ましい。
【0119】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(5)有機溶媒の量は、ワニス状態にしたときの粘度などによって決定されるもので、特に制限はないが、概ね、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲で用いられる。
【0120】
次に、本発明になる接着剤組成物によって形成される相分離構造について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか、若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下であることが、接着性の流動性を高め基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、優れた性能を実現する意味で好ましい。流動性に余裕を持たすことで、接着シートの硬化性を高めても必要な貯蔵安定性を維持し、硬化にともなう粘度上昇により硬化時のボイドの発生を押さえ込むことを可能としている。
【0121】
(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離する性質は、反応誘起型相分解により形成されるものである。前記したように、一般に反応誘起型相分解で形成される相分離構造は、熱力学的な相分離速度と硬化速度との相対的な速度関係の大小によって決定するとされている。
【0122】
即ち、小さな相構造を得るには、相分離速度<<硬化速度の状態にして初期段階で網目を形成させればよい。相分離速度<<硬化速度を実現するには、硬化速度に比べて相分離速度はWLF式に沿ってガラス転移温度(Tg)付近では非常に遅くなるため硬化温度をTg付近まで下げることが最も効果的となる。
【0123】
しかし、硬化の温度条件だけでは微小な相分離構造物を得るには限界であり、また硬化温度を下げることにより硬化には長時間必要となり実用的ではない。
そこで、本発明者らは、十分な耐熱性と接着性を有し、高分子量成分を熱硬化性樹脂との相溶性を向上するためメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%含むランダム共重合体とした。このことで、重量平均分子量が10万以上である高分子量成分は、熱硬化性樹脂が硬化後も大きな海島構造を形成せず、優れた透明性を有することが可能となった。
【0124】
ここで、相分離構造を規定するのに、本発明になる接着剤組成物の必須成分である、(4)フィラーを加えないことは、相分離構造を各種の顕微鏡観察する際に、(4)フィラーの存在は障害となることと、本発明者らの検討によれば、シリカや酸化アルミニウムなど無機フィラーを用いた、多くの場合で、(4)フィラーは、反応誘起型相分解に大きな影響を与えないことがわかっているためである。
【0125】
また、本発明になる接着剤組成物には、材料間の界面の結合や濡れ性をよくするために、各種カップリング剤を前記の発明の効果を阻害しない範囲で添加することもできる。カップリング剤としては、特に制限はなく、シラン系、チタン系、アルミニウム系などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0126】
シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル−トリメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロイルオキシエトキシ)シラン等のメタクリロイルシラン類、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン等のエポキシ基含有シラン類、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ−エトキシ)シラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアミノプロピル−トリメトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾール−1−イル)−プロピルトリメトキシシラン、アミルトリクロロシラン等のアミノシラン類、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−メチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン類、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等の尿素結合含有シラン類、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシランイソシアネート等のイソシアネート基含有シラン類、3−クロロプロピル−メチルジメトキシシラン、3−クロロプロピル−ジメトキシシラン、3−シアノプロピル−トリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−β(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0127】
シランカップリング剤は、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがNUC A−187、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランがNUC A−189、γ−アミノプロピルトリエトキシシランがNUC A−1100、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランがNUC A−1160、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランがNUC A−1120という商品名で、いずれも日本ユニカ−(株)から市販されている。
【0128】
チタン系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(n−アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアエチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テトラプロピルオルソチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、ステアリルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ−ビス(2,4−ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル−ビス−トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、テトラ−n−ブトキシチタンポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレートポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート等が挙げられる。
【0129】
アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−イソ−プロポキシド−モノ−エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、アルミニウムイソプロピレート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウムエチレート等のアルミニウムアルコレートなどが挙げられる。
【0130】
これらのカップリング剤の中では、材料間の界面の結合や濡れ性を良くする意味で効果が高いシラン系カップリング剤を選択することが好ましい。但し、シラン系カップリング剤は、多くの場合シリカなどの無機フィラーと反応してアルコールを生成することが多く、生成されたアルコールは、接着シートを硬化時に揮発してボイドを生じる原因となるため、その添加量は、必要最小限とする必要があり、このため、本発明になる接着剤組成物の不揮発成分100重量部に対し、10重量部以下とするのが好ましく、6重量部以下とするのがより好ましく、3重量部以下とするのがさらに好ましい。
【0131】
また、本発明になる接着剤組成物には、イオン性不純物を吸着又は付着して吸湿時の絶縁信頼性をよくするために、各種イオン捕捉剤を前記の発明の効果を阻害しない範囲で添加することもできる。
【0132】
イオン捕捉剤としては、特に制限はなく、銅がイオン化して溶け出すのを防止するため銅害防止剤として知られる化合物、例えば、トリアジンチオール化合物、ビスフェノール系還元剤等や、ジルコニウム系、アンチモンビスマス系、マグネシウムアルミニウム化合物等の無機イオン吸着剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0133】
イオン捕捉剤の添加量は、その効果と耐熱性のバランスから、本発明になる接着剤組成物の不揮発成分100重量部に対し、1〜10重量部とするのが好ましい。
また、本発明になる接着剤組成物には、前記の発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、流動調整剤等の各種添加剤を添加することもできる。
【0134】
次に、本発明になる接着剤組成物の製造方法について説明する。
本発明になる接着剤組成物の製造方法は、本発明になる接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合すること以外に、特に制限はない。
本発明になる接着剤組成物となる成分の具体的な材料、調整方法は上述した通りである。
【0135】
各々の成分を均一に撹拌混合する方法については、特に制限はないが、例えば、デゾルバー、スタテックミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、プラネタリーミキサー、ミックスローター、万能撹拌機等の自転公転式撹拌機やライカイ機、3本ロール等の混練装置を用いる方法が挙げられ、適宜、組み合わせて用いることができる。ワニス状とした後は、ワニス中の気泡を除去することが好ましい。この意味で、自転公転式撹拌機は、混合、溶解と気泡の除去を同時に行うことができるため好適に用いられる。
【0136】
次に、本発明になる接着シートについて説明する。
本発明になる接着シートは、本発明になる接着剤組成物をシート状に形成して得られることを特徴とする。
【0137】
また、本発明になる接着シートは、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度を700〜3000Pa・sとすることで、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんすることを可能とし、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしを抑えることが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0138】
ずり粘度は、700Pa・s未満であると樹脂のはみだし量が大きくなり、3000Pa・sを超えるとワイヤなどの凹凸に充てんすることができなくなる。このような理由で、硬化前の100℃のずり粘度は、より好ましくは1000〜2800Pa・s、さらに好ましくは1500〜2500Pa・sの範囲とされる。
【0139】
一方、本発明になる接着シートのずり粘度は、硬化にともなう粘度上昇を100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上とすることで、硬化にともなう粘度上昇により硬化時のボイドの発生を押さえ込むことが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。このような理由で、100〜150℃の粘度上昇は、より好ましくは50万Pa・s以上、さらに好ましくは80万Pa・s以上とされる。
【0140】
ここで、硬化にともなう粘度上昇を100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上とは、硬化により上昇した150℃のずり粘度から硬化前の100℃のずり粘度を差し引いた値が10万Pa・s以上であることである。
【0141】
硬化前の接着シートのずり粘度は、平行平板プレート法によるずり弾性率の測定装置を用いることにより測定することができ、例えば、TAインスツルメンツ製ARESを用いて測定することができる。本発明においては、溶融粘度を評価する手段として、上述のような方法で測定される、ずり粘度を選択した。
【0142】
本発明になる接着シートは、硬化前の70℃での剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η1と、剪断速度100(s−1)、ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η2との比η1/η2が50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましく、40以下であることがさらにより好ましい。前記η1/η2が50超の場合、中空に固定された極細ワイヤのように凹凸周辺部のみに高い剪断速度がかかり、溶融粘度が低下しチップ端部から樹脂がはみ出してしまう傾向がある。
【0143】
ずり粘度η1とη2は、例えば、TAインスツルメンツ製ARESを用いて、ひずみ量0.4%、剪断速度0.1(s−1)又は剪断速度100(s−1)における粘度の周波数依存性を測定することにより求めることができる。η1/η2の値は、フィラーの配合量、フィラーの平均粒径などで調整することが可能である。フィラーの平均粒径を小さくするとη1/η2は大きくなるが、フィラーの平均粒径が0.05μm未満の場合は溶融粘度が上昇し過ぎる傾向がある。また、フィラーの粒径が5μm超えるとη1/η2が小さくなり、充てん性が悪化する傾向がある。
【0144】
本発明になる接着シートは、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下とすることで、硬化時のボイドの発生を抑えることが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0145】
加熱による重量減少は、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成物、分解生成物、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分と考えられ、これに起因して接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題の原因となる。このような理由で、重量減少率は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0146】
重量減少率は、5cm角のアルミ箔を秤量(W1)し、4cm角に切り出した硬化前の接着シートを密着させて秤量(W2)する。これを220℃のオーブンに1時間入れた後に秤量(W3)し、次式に当てはめることで算出することができる。
【0147】
【数1】
【0148】
本発明になる接着シートは、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPaとすることで、耐熱性や耐リフロー性を満足し、接着シートの応力緩和効果によって被着体である半導体チップのクラックを抑制し、半導体チップ及び基板の反りを低減することが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0149】
貯蔵弾性率が2000MPa未満であると、耐熱性や耐リフロー性が低下する傾向があり、貯蔵弾性率が4000MPaを超えると接着シートの応力緩和効果が低減し、半導体チップのクラックが発生したり、半導体チップ及び基板の反りが大きくなる傾向がある。このような理由で、硬化後の50℃の貯蔵弾性率の変化は、より好ましくは2200〜3800MPaの範囲とされる。
【0150】
さらに、本発明になる接着シートは、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化を3000MPa以下とすることで、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に調整することが可能であり、結果として接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現することができる。
【0151】
このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。これは、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPaを超える場合には、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と明確に相分離していることにより、(2)高分子量成分のガラス転移温度の前後で貯蔵弾性率が大きく変化することによる。このような理由で、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化は、より好ましくは2000MPa以下とされる。
【0152】
硬化後の貯蔵弾性率の測定は、具体的には、例えば、硬化前の接着シートの接着層を、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、170℃で5時間硬化し、レオロジー社製、動的粘弾性測定装置DVE−V4を用いて(サンプルサイズ:長さ20mm、幅4mm、温度範囲−30〜200℃、昇温速度5℃/分及び引張りモード10Hz、自動静荷重)で行うことができる。
【0153】
接着シート単体の厚みが100μm未満である場合は、硬化前の接着シートを複数枚数貼り合わせて100〜300μmの厚さにすることで測定値が再現性よく得られる。
また、貼り合わせる温度はサンプルによって異なるが、測定中に貼り合わせ面においてはく離が生じないようにすればよく、接着シートの硬化が進まない60℃程度の温度で貼り合わせればよい。貼り合わせた後に上述のような条件で硬化して測定に供する。
【0154】
本発明になる接着シートは、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%とすることで、接着シートは、優れた流動性と貯蔵安定性を有することが可能となる。
【0155】
このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。流動性と貯蔵安定性を向上する意味では、長さ変化は、大きいほど好ましいこととなるが、30%を超える場合には、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが生じてしまい好ましくない。このような理由で、長さ変化は、より好ましくは6〜28%、さらに好ましくは7〜26%の範囲とされる。
【0156】
この長さ変化の具体的な測定は、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートをPETフィルムで挟み込んで、40℃に調整した恒温槽で50時間保管した後、5mm角に打ち抜きこの対角線の長さL1を光学顕微鏡で測定しておく。この検体を、例えば、テスター産業株式会社製の熱圧着試験装置を用いて熱板温度120℃、圧力0.4MPaで3秒保持した後、同様に対角線の長さL2を光学顕微鏡で測定して、次式に当てはめることで算出することができる。
【0157】
【数2】
【0158】
本発明になる接着シートは、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度を、0.2〜2.0Nとすることで、接着シートは、室温付近での作業性に優れることが可能となる。
【0159】
室温でのタック強度が大きい場合、接着剤付き半導体チップのピックアップ時に接着シートが伸びながらはく離するため、その表面、特にチップ端部の接着剤が伸ばされる。その結果、貼り付け時には外縁部から貼り付きやすく、ボイドが発生し易い。
【0160】
一方、タック強度が小さい場合は、貼付時にチップが容易にはく離するため、好ましくない。
本発明の接着シートは、適度なタック強度を有するため、接着剤が若干、伸ばされながらはく離し、そのまま、貼付されるため、表面に適度に凹凸が生じ、大きなボイドが発生しない。
【0161】
タック強度は、0.2N未満であると仮接着などの作業がやり難くなると共に、接着シート付き半導体チップにおける凹凸を有する基板又は半導体チップに接着した後に、はく離し易い傾向があり、2.0Nを超えるとべたつきが増すため、保護フィルムや基材フィルムのはく離作業がやり難くなったりするなど、取り扱い作業性が低下する傾向があると共に、ウエハと接着シートとダイシングテープを張り合わせた状態で1か月以上の長期保管した場合に、接着シートとダイシングテープ間ではく離し難くなる傾向がある。
【0162】
このような理由で、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度は、より好ましくは0.3〜1.5N、さらに好ましくは0.5〜1.0Nの範囲とされる。
【0163】
このタック強度の具体的な測定は、硬化前の基材フィルム付き接着シートの塗工した上面のタック強度を、レスカ(株)製、プローブタッキング試験機を用いて、JIS Z0237−1991に準じ、プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/秒、接触荷重100gf/cm2及び接触時間1秒により測定することができる。
【0164】
なお、本発明になる接着シートは、配線やワイヤに起因する凹凸の充てんのみだけでなく、種々の形状の凹凸部の充てんでも同様の効果を奏する。
本発明になる接着シートの充填性とバリア性は、高さ/幅(アスペクト比)が1以上である凸部又は中空配線の充てんに使用する場合に顕著な効果を発揮し、アスペクト比が1.5以上の凸部の充填に使用する場合に特に顕著な効果を発揮する。
【0165】
アスペクト比が大きい凸部の場合、充てんがより困難になるため、溶融粘度を低減すると、接着シート端部での樹脂のはみだしが大きくなり、端部の端子を汚染するなどの問題が生じていた。
なお、高さ/幅は凸部の最大幅、基板からの最大高さを測定して、計算する。この場合の幅は基板から10μm以上高い部分での最大値を取る。
【0166】
次に、本発明になる接着シートの製造方法について説明する。
本発明になる接着シートの製造方法は、本発明になる接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥すること以外に、特に制限はない。
【0167】
本発明になる接着剤組成物の(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂、(4)フィラーからなる必須成分及びその他の成分を(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とし、基材フィルム上に塗布後、送風、加熱し溶剤を乾燥除去する方法が簡便であり好適である。
【0168】
この基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、全芳香族ポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマーフィルム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマーフィルム、テトラフルオロエレチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーフィルム等のプラスチックフィルムを使用することができ、これらのプラスチックフィルムは表面を離型処理して使用することもできる。
【0169】
上記の基材フィルムは、使用時にはく離して接着剤層のみを使用することができ、また基材フィルムと共に使用し、後で除去することもできる。このような理由により、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
【0170】
また、本発明になる接着剤組成物を、上述の基材フィルムに塗布、乾燥した後、接着剤組成物の上に保護フィルムを積層して用いることは、接着シートの取扱いを容易にするため好ましい。
【0171】
上記の保護フィルムとしては、前記基材フィルムと同様なものを使用することができる。これらの中で、生産性が高いロールコート法などで、本発明になる接着シートを巻き取りする場合には、ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べ柔軟性に富むポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルムが好適に用いられる。
【0172】
また、基材フィルムと保護フィルムを選択する際には、本発明になる接着シートが硬化前には、基材フィルム及び保護フィルムと適度に粘着し、且つ、はがし易い適度な粘着力が得られるものであり、さらにそれぞれの粘着力は、基材フィルムの方が保護フィルムより強いものを選択することが求められる。
【0173】
基材フィルム及び保護フィルムと接着シートの粘着力が、低過ぎると輸送中にはがれるおそれがあり、高過ぎるとはがす作業がやり難く問題となる。
また、基材フィルム及び保護フィルムと接着シートの粘着力は、基材フィルムの方が保護フィルムより強いことで、接着シートを基材フィルムに残したまま容易に保護フィルムをはく離することができる。
【0174】
そのため、上記のように、例えば、保護フィルムにポリオレフィンフィルムを選択し、基材フィルムは、この保護フィルムと本発明になる接着シートの硬化前の粘着力に比べ、やや強い粘着力となるような離型処理を選択する方法が好適に用いられる。
本発明になる接着シートは、この選定が容易にできることも長所のひとつである。
【0175】
基材フィルムへの本発明になる接着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、カーテンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ドクターブレードコート法、スプレーコート法、超音波コート法、インクジェットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できる。これらの中でも、生産性が高く、厚さが均一な精密塗工が可能な、コンマブレードやキスタッチのロールコート法が好適である。
【0176】
本発明になる接着シートの厚みは、特に制限はないが、基板の配線回路や下層の半導体チップに付設された金ワイヤなどの凹凸を充てん可能とするため、好ましくは10〜250μmの範囲とされる。10μm未満であると応力緩和効果が乏しく、接着性が低下する傾向があり、250μmを超えると半導体装置の小型化の要求に応えられない可能性があるとともに、生産性の高いロールコート法では巻き取り時に乾燥した接着剤組成物が幅方向に流れ出しやすくなり塗工できない場合がある。このような理由で、より好ましくは20〜100μm、さらに好ましくは40〜80μmの範囲とされる。
【0177】
本発明になる接着シートは、所望の厚さを得るために2枚以上を貼り合わせることもできる。上記の方法による場合には、接着シート間に気泡が入り込まないようにすることが必要である。
【0178】
また、本発明になる接着剤組成物をフィルム状に塗布した後、乾燥する温度には、特に制限はないが、(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とした場合には、使用した(5)有機溶媒の沸点の10〜50℃以下とすることが、乾燥時に本発明になる接着シートに(5)有機溶媒の発泡による気泡を作らない意味で好ましい。このような理由で、より好ましくは15〜45℃以下、さらに好ましくは20〜40℃以下の範囲とされる。
【0179】
また、(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とした場合には、特に(5)有機溶媒の残存量をできるだけ少なくすることが、本発明になる接着シートの硬化後の(5)有機溶媒の発泡による気泡を作らない点で好ましい。
【0180】
具体的には、上記のように硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率がその外の揮発成分とあわせて1.0%以下とすることで、硬化時のボイドの発生を抑えることが可能となる。上記の加熱乾燥を行う時間は、使用した(5)有機溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常60〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行う。
【0181】
また、接着剤組成物を上記の基材フィルムに塗布、乾燥した後、該接着シートを基材フィルム上に形成し、この接着シートをコア材の両面に貼り合せることによりコア材の両面に接着シートを形成した場合には、基材フィルムを保護フィルムとして用いることもできる。
【0182】
この他、コア材に形成する方法としては、本発明になる接着剤組成物をコア材となるフィルムの両面に塗布、乾燥する方法も適用でき、塗布方法としては上述の基材フィルムへの本発明になる接着剤組成物の塗布方法と同様な方法が適用できる。
このようなコア材の厚みについては、特に制限はないが、好ましくは5〜200μmの範囲内とされる。
【0183】
このように、本発明になる接着シートは、多層構造を有する多層接着シートとして用いてもよく、例えば、上記した接着シートを2枚以上ラミネートしたもの、本発明の接着シートとそれ以外の接着シートを複数ラミネートしたものとして用いてもよい。
コア材の両面に本発明になる接着シートを形成した場合には、接着シート同士の接触により貼り付かないように保護フィルムで表面を保護することが好ましい。
【0184】
次に、本発明になる一体型シートについて説明する。
本発明になる一体型シートは、本発明になる接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする。このような一体型シートを用いることで、ウエハへのラミネート工程が一回で済む点で、半導体パッケージの製造プロセスの効率化が可能である。
【0185】
本発明になる一体型シートに用いられるダイシングテープは、公知のダイシングテープを用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0186】
また、ダイシングテープは、必要に応じてプライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理を行ってもよい。ダイシングテープは粘着性を有することが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを用いてもよく、上記のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けてもよい。これは、樹脂組成物において特に液状成分の比率、高分子量成分のTgを調整することによって得られる適度なタック強度を有する樹脂組成物を塗布乾燥することで形成可能である。
【0187】
次に、本発明になる一体型シートの製造方法について説明する。
本発明になる一体型シートの製造方法は、予めウエハ形状に形成した本発明になる接着シートとダイシングテープとを貼り合わせること以外に、特に制限はない。接着シートを予めウエハ形状に形成するする方法としては、予め別のフィルム上に本発明になる接着剤組成物を塗工、乾燥しシート状接着剤を形成し、これをウエハ形状に打ち抜き加工する方法が挙げられる。
【0188】
ダイシングテープ上に接着シートを積層する方法としては、印刷のほか、予め作成した接着シートをダイシングテープ上にプレス、ホットロールラミネートする方法が挙げられるが、連続的に製造でき、効率が良い点でホットロールラミネートする方法が好ましい。
【0189】
なお、ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、接着シートの膜厚やダイシングテープ一体型シートの用途によって適宜、当業者の知識に基づいて定められるものであるが、例えば、経済性がよく、フィルムの取扱い性が良い点で60〜150μm、好ましくは70〜130μmの範囲である。
【0190】
次に、本発明になる半導体装置及びこの製造方法について説明する。
本発明になる半導体装置の製造方法は、ウエハ、本発明になる接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含むことを特徴とする。
【0191】
本発明になる半導体装置の製造方法に用いるウエハとしては、単結晶シリコンの他、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素等の化合物半導体などが挙げられる。
接着シートをウエハに貼り付ける温度、即ち、ラミネート温度は、通常0〜120℃である。0℃未満では接着シートが十分な粘着性を発揮できない場合があり、120℃を超えると接着シートを貼り付け後のウエハの反りが大きくなる傾向がある。この意味で、より好ましくは15〜80℃であり、さらに好ましくは20〜70℃の範囲とされる。
【0192】
ウエハ、接着シート及びダイシングテープを同時に切断する方法は、回転刃、レーザーなどが好適に用いられる。
また、ダイシングテープは、一部のみを切断して溝を形成し、切り離されない場合もある。
【0193】
また、構造を多層化し、特に、流動性の低い層と高い層を積層した接着シート又は溶融粘度の高い層と低い層を積層した接着シートは、配線回路及びワイヤの充てん性と上下の半導体チップとの絶縁性に優れるので好ましい。
【0194】
接着シートを単層で用いる場合には、ウエハに接着シートを貼り合わせた後、次いで接着シート面にダイシングテープを貼り合わせればよい。
また、接着シートを多層で用いる場合には、ウエハに第1の接着シート、第2の接着シートを順に貼り合わせてもよく、予め第1の接着シート及び第2の接着シートを含む多層接着シートを作製しておき、当該多層接着シートをウエハに貼り合わせてもよい。
【0195】
図1に、本発明の一実施態様である接着シートb、半導体ウエハA及びダンシングテープ1の断面図を示す。
次いで、接着シート、ダイシングテープが貼り付けられた半導体ウエハを、ダイシングカッターを用いてダイシング、さらに洗浄、乾燥した後、図2に示すようにピックアップなどにより接着シートとダイシングテープ間で剥離して、接着シート付き半導体チップを得ることができる。
【0196】
接着シート付き半導体チップをピックアップするには、ダイシングの後、ダイシングテープにUV光を照射し、ダイシングテープの粘着性を低下せしめた後、吸着コレットなどにより、垂直方向にピックアップする方法が好適に用いられる。
また、他の実施態様として、本発明の接着シートは、図3に示すように基材フィルム5の上に接着シートbを設けた基材フィルム付き接着シートとして用いてもよい。
【0197】
このようにすれば、接着シート単体では扱いにくい場合でも便利であり、例えば、図3に示す構造の基材フィルム付き接着シートの接着シートbと上述のダイシングテープ1を貼り合わせた後、基材フィルム5を剥離し、接着シートbと半導体ウエハAを貼り合わせることで、容易に図1のような構造とすることができる。基材フィルム5は、ダイシングテープや半導体ウエハなどに貼り付けた後、基材フィルム5を剥離しないでそのままカバーフィルムとして使用することも可能である。
【0198】
また、本発明になる接着シートは、図4に示すように多層接着シートが第2の接着シートb’、第1の接着シートaの順に基材フィルム上に設けられた基材フィルム付き接着シートとして用いてもよい。
【0199】
また、第1の接着シートa、第2の接着シートb’の順に基材フィルム上に積層されていてもよい。これらの層の構成は接着シートの使用態様などにより適宜選択される。
さらに、他の実施態様として、本発明の接着シートは、図3及び図4に示す構造で、且つ接着シート自体がダイシングテープとしての役割を果たしてもよい。
【0200】
このような接着シートは、ダイシングダイボンド一体型接着シートなどと呼ばれ、一つのシートでダイシングテープとしての役割と、接着シートとしての役割を果たすので、図2のように、ダイシングしてピックアップするだけで接着シート付き半導体チップを得ることができる。
【0201】
接着シートにこのような機能を持たせるには、例えば、接着シートが、光硬化性高分子量成分、光硬化性モノマー、光開始剤等の光硬化性成分を含んでいればよい。このようなダイシングダイボンド一体型の接着シートは、半導体チップを基板又は半導体チップに接着する段階では光照射が行われており、本発明でいう硬化前の動的粘弾性測定による貯蔵弾性率などのそれぞれの値は、光照射を行った後であり、熱硬化が行われる前の段階における値を指す。
【0202】
また、本発明の接着シート又は多層接着シートと、ダイシングテープとを備えるダイシングテープ一体型接着シートを用いることにより、半導体装置を製造することもできる。
この、本発明になる半導体装置の製造方法は、ウエハと本発明になる一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含むことを特徴とする。
【0203】
本発明になる半導体装置の製造方法に用いる一体型シートをウエハに貼り付ける温度、ウエハと一体型シートを同時に切断する方法は、上記のウエハ、接着シート及びダイシングテープを張り合わせたものと同様にすればよい。
また、ダイシングテープ1は、図2に示すように、一部のみを切断して溝を形成し、切り離されない場合もある。
【0204】
図5は、接着シート付き半導体チップをワイヤボンディングされた半導体チップに接着する際の工程の一例を示す概略図である。
図5に示すように、得られた接着シート付き半導体チップA1は、配線4に起因する凹凸を有する基板3又はワイヤ2に起因する凹凸を有する半導体チップに、接着シートb1を介して荷重0.001〜1MPaで接着され、接着シートにより凹凸が充てんされる。
【0205】
荷重は、0.001MPa未満である場合は、ボイドが発生し耐熱性が低下する傾向があり、1MPaを超えると半導体チップが破損する傾向がある。良好に充てんする意味で、荷重は0.01〜0.5MPaであることが好ましく、0.01〜0.3MPaであることがより好ましい。
【0206】
本発明においては、接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに接着する際に、基板の配線、半導体チップのワイヤなどに起因する凹凸を加熱することが好ましい。
【0207】
加熱温度は60〜240℃であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃未満である場合は、接着性が低下する傾向があり、240℃を超える場合は、基板が変形し、反りが大きくなる傾向がある。
【0208】
加熱方法としては、凹凸を有する基板又は半導体チップを予め加熱した熱板に接触させる方法、凹凸を有する基板又は半導体チップに赤外線又はマイクロ波を照射する方法、凹凸を有する基板又は半導体チップに熱風を吹きかける方法等が挙げられる。
本発明においては、特定の樹脂組成を有する接着シートは配線回路及びワイヤの充てん性と上下の半導体チップとの絶縁性に優れる。
【0209】
また、本発明の接着シートは、配線回路及びワイヤの凹凸部の充てん性が良好である。
また、半導体装置の製造において、ウエハと接着シートを同時に切断するダイシング工程でダイシングの速度を速くすることができる。そのため、本発明の接着シートによれば、半導体装置の歩留の向上、製造速度の向上をはかることが可能となる。
【0210】
さらに、本発明の接着シートは、半導体装置の製造における半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程において、接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。即ち、本発明の接着シートは、半導体搭載用支持部材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性、絶縁性を有し、かつ、作業性に優れるものである。
【0211】
この半導体装置の製造方法では、ダイシング時には半導体チップが飛散しない粘着力を有し、その後ピックアップ時にはダイシングテープから接着シート付き半導体チップをはく離することが望まれる。例えば、接着シートの粘着性が高過ぎるとピックアップが困難になることがある。そのため、適宜、接着シートのタック強度を調節することが好ましく、その方法としては、粘着付与成分の含有量を調整する方法がなどある。
【0212】
前記粘着付与成分としては、例えば、公知、市販のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系、ゴム系、アクリル系等のタッキファイヤーの他、単官能のアクリルモノマー、単官能エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂類、ロジンエステル類等が挙げられる。
【0213】
また、本発明においては、接着シート付き半導体チップを基板又は半導体チップに接着する際に、基板の配線、半導体チップのワイヤなどの凹凸を加熱することが好ましい。接着時の温度は、60〜240℃であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましい。接着時の温度が60℃未満であると、濡れ性が低下するため接着性が不足し、240℃を超えると基板が変形し、反りが大きくなる傾向がある。
【0214】
加熱方法としては、基板又は半導体チップを予め加熱した熱板に接触させるか若しくは基板又は半導体チップに赤外線又はマイクロ波を照射する、熱風を吹きかけるなどの方法が挙げられる。
【0215】
ここで、本発明になる半導体装置は、上記のような半導体装置の製造方法により製造したものである。
特に、本発明になる半導体装置は、基板に本発明になる接着シートを用いて接着、硬化した半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形していることが、凸なる湾曲に応じて樹脂が流動、充てん可能な点で好ましい。
【0216】
半導体チップと基板又は半導体チップと半導体チップとを接着してなる半導体装置において、接着シートと相対する被着体(即ち半導体チップ)の表面が凸に変形して、被着体が接着シートの内部から外縁部に接することが好ましい。
【0217】
凸変形の程度は、120℃で、10μmから最大200μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
凸にする方法としては、接着シートの硬化収縮に起因するそりを利用することが好ましい。
【0218】
また、貼付温度から、室温に戻る過程で基板の熱膨張係数がチップの熱膨張係数より大きいことを利用して、そりを発生させることも可能であり、その効果を併用することが好ましい。
【0219】
図6に、凸に変形している基板及び半導体チップの状態と、この半導体チップの上に積層する接着シート付き半導体チップとの概略図を示す。詳しくは、図6は、凸に変形した状態及び凸に変形した量の測定方法を説明するための概略図である。
【0220】
なお、凸に変形した量は、Hとして示してある。この凸に変形した量Hは、上記のようにして接着シート付き半導体チップを基板又は半導体チップに貼り付けた後の半導体チップを、120℃に加温し、表面粗さ計を用いて半導体チップ表面の凹凸を測定して、半導体チップ周辺部に対する中央部分の高さを求めることで測定できる。
【0221】
図6のようにして、凸に変形した半導体チップに接着シートを介して半導体チップを接着する場合、本発明になる接着シートの溶融粘度の値が小さ過ぎると、樹脂のはみ出しが大きく、大き過ぎると充てん性や接着性が低下するため好ましくない。
【実施例】
【0222】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、以下の配合及び評価は、特に表記がない場合には室温18〜25℃の大気中において行った。
【0223】
各成分及び接着剤組成物の濃度の調整は、(4)有機溶媒として和光純薬工業(株)製のシクロヘキサノン試薬一級を用いた。
また、各成分及び接着剤組成物の、攪拌、溶解及び脱泡は、(株)シンキー製、自転公転式撹拌機、商品名:あわとり錬太郎ARE−250を用いて、2000min−1で3分、さらに2200min−1で2分、回転させることで行った。
【0224】
各成分の評価は、下記の方法で行った。
重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン、カラム:昭光通商(株) Shodex GPC AD806MS、検出器:RI、標準ポリスチレン換算)を用いて測定した。
【0225】
(2)高分子量成分のIR測定は、(2)高分子量成分を乾燥させその固形分をKBr錠剤法により測定した。IRスペクトルの縦軸を吸光度、横軸を波数とし、ニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク(PCN)強度とカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク(PCO)強度の比(PCO/PCN)を算出した。
【0226】
接着シートは、基材フィルムとして帝人デュポンフィルム株式会社製、離型処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム、商品名:ピューレックスA53の離型処理面に、得られた接着剤組成物を、アプリケータを用いて乾燥後の接着シートの厚さが60μmとなるように塗布し、オーブンで120℃、15分乾燥させて得た。
【実施例1】
【0227】
(1)エポキシ樹脂として、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂〔エポキシ当量156g/eq、東都化成(株)製、商品名:YDF−8170C〕24.2重量部及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔エポキシ当量209g/eq、東都化成(株)製、商品名:YDCN−703〕8.1重量部を、シクロヘキサノン5.4重量部で溶解し、濃度85.7重量%のエポキシ樹脂溶液(A1)を得た。
【0228】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチル43.5重量%、アクリル酸エチル18.3重量%及びアクリル酸ブチル35.8重量%で、重量平均分子量が60万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度17重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B1)を得た。
【0229】
(3)フェノール樹脂として、軟化点76℃のフェノールアラルキル樹脂〔水酸基当量174g/eq、三井化学(株)製、商品名:ミレックスXLC−LL〕が濃度60重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、フェノール樹脂溶液(C1)を得た。
【0230】
(4)フィラーとして、5μm以上の粒子をトップカットした平均粒径0.8μm、球状シリカの濃度60重量%シクロヘキサノンスラリー〔(株)アドマテックス製、商品名:アドマファインSC−2050〕を、フィラースラリー(D1)として準備した。
【0231】
また、硬化促進剤として、1−シアノ−1−フェニルイミダゾール〔四国化成工業(株)製、商品名:キュアゾール2PZ−CN〕が濃度12重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、イミダゾール化合物溶液(E1)を得た。
【0232】
カップリング剤として、濃度50重量%の(株)タナック製、シランカップリング剤、商品名:SILQUEST A−1160SILANEをカップリング剤(F1)として準備した。
【0233】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、エポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、高分子量成分溶液(B1)10.4g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S1)を得た。
得られた接着剤組成物(S1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS1)を得た。
【0234】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、エポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、高分子量成分溶液(B1)10.4g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J1)を得た。
得られた接着剤組成物(J1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF1)を得た。
【実施例2】
【0235】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチル43.5重量%、アクリル酸エチル18.3重量%及びアクリル酸ブチル35.8重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B2)を得た。
【0236】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S2)を得た。
得られた接着剤組成物(S2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS2)を得た。
【0237】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、フィラースラリー(D1)8.49g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J2)を得た。
得られた接着剤組成物(J2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF2)を得た。
【実施例3】
【0238】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチルを21.8重量%、メタクリル酸エチル21.8重量%、アクリル酸エチル41.8重量%及びアクリル酸ブチル12.2重量%で、重量平均分子量が70万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度17重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B3)を得た。
【0239】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B3)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S3)を得た。
得られた接着剤組成物(S3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS3)を得た。
【0240】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J3)を得た。
得られた接着剤組成物(J3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF3)を得た。
【実施例4】
【0241】
(3)フェノール樹脂として、軟化点130℃のビスフェノールAノボラック樹脂〔水酸基当量118g/eq、DIC(株)製、商品名:フェノライトLF2882〕が濃度60重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、フェノール樹脂溶液(C2)を得た。
【0242】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、フェノール樹脂溶液(C2)5.82g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備した、エポキシ樹脂溶液(A1)5.76g、高分子量成分溶液(B1)10.5g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.425g及びカップリング剤(F1)0.0637gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S4)を得た。
得られた接着剤組成物(S4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS4)を得た。
【0243】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、フェノール樹脂溶液(C2)5.82g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.76g、高分子量成分溶液(B1)10.5g、フィラースラリー(D1)7.44g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.425g及びカップリング剤(F1)0.0637gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J4)を得た。
得られた接着剤組成物(J4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF4)を得た。
【0244】
(比較例1)
(2)高分子量成分として、アクリロニトリルを30重量%、グリシジルメタクリレート3重量%を含み、メタクリル酸メチルを含まない、重量平均分子量が80万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.01以上のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体であるナガセケムテックス(株)製、商品名:HTR−860P−3を12重量%となるようにシクロヘキサノンで調整して高分子量成分溶液(B4)を得た。
【0245】
カップリング剤として、(株)タナック製、シランカップリング剤、商品名:SILQUEST A−189SILANEをカップリング剤(F2)として準備した。
次に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B4)14.4g、カップリング剤(F2)0.0242g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備した、エポキシ樹脂溶液(A1)4.37g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.0806g、カップリング剤(F1)0.0968g及び実施例4で得たフェノール樹脂溶液(C2)4.42gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I1)を得た。
得られた接着剤組成物(I1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS1)を得た。
【0246】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B4)14.4g、カップリング剤(F2)0.0242g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.37g、フィラースラリー(D1)6.58g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.0806g、カップリング剤(F1)0.0968g及び実施例4で得られ、かつ、実施例4で準備した、フェノール樹脂溶液(C2)4.42gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H1)を得た。
得られた接着剤組成物(H1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF1)を得た。
【0247】
(比較例2)
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.14g、フェノール樹脂溶液(C1)6.19g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.366g、カップリング剤(F1)0.0550g及び比較例1で得た高分子量成分溶液(B4)12.8gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I2)を得た。
得られた接着剤組成物(I2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS2)を得た。
【0248】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.14g、フェノール樹脂溶液(C1)6.19g、フィラースラリー(D1)6.41g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.366g、カップリング剤(F1)0.0550g及び比較例1で得た高分子量成分溶液(B4)12.8gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H2)を得た。
得られた接着剤組成物(H2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF2)を得た。
【0249】
(比較例3)
(2)高分子量成分として、メタクリル酸メチル44.6重量%、アクリル酸エチル18.7重量%及びアクリル酸ブチル36.7重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のアクリル系ランダム共重合体を合成し、これを20重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B5)を得た。
【0250】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B5)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I3)を得た。
得られた接着剤組成物(I3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS3)を得た。
【0251】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B5)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、フィラースラリー(D1)8.49g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H3)を得た。
得られた接着剤組成物(H3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF3)を得た。
【0252】
(比較例4)
(2)高分子量成分として、アクリロニトリルを30.4重量%、アクリル酸エチルが29.7重量%及びアクリル酸ブチル39.9重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.01以上アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを20重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B6)を得た。
【0253】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B6)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I4)を得た。
得られた接着剤組成物(I4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS4)を得た。
【0254】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B6)10.4g、と実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H4)を得た。
得られた接着剤組成物(H4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF4)を得た。
【0255】
(比較例5)
硬化剤として、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量164g/eq、日立化成工業(株)製、商品名:HN−7000)硬化剤(C3)として準備した。
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、硬化剤(C3)8.10g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.39g、高分子量成分溶液(B1)11.4g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.463g及びカップリング剤(F1)0.0694gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I5)を得た。
得られた接着剤組成物(I5)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS5)を得た。
【0256】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、硬化剤(C3)8.10g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.39g、高分子量成分溶液(B1)11.4g、フィラースラリー(D1)8.10g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.463g及びカップリング剤(F1)0.0694gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H5)を得た。
得られた接着剤組成物(H5)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF5)を得た。
【0257】
(比較例6)
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)2.07g、高分子量成分溶液(B1)21.4g、フェノール樹脂溶液(C1)3.10g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.183g及びカップリング剤(F1)0.0275gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I6)を得た。
得られた接着剤組成物(I6)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS6)を得た。
【0258】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)2.07g、高分子量成分溶液(B1)21.4g、フェノール樹脂溶液(C1)3.10g、フィラースラリー(D1)3.21g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.183g及びカップリング剤(F1)0.0275gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H6)を得た。
得られた接着剤組成物(H6)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF6)を得た。
【0259】
(比較例7)
実施例1で得たフィラーなしの接着シート(JS1)を、接着シート(HF7)として評価した。
【0260】
上記実施例1〜3並びに比較例1、3及び4で得られた(2)高分子量成分の評価結果を表1に示す。
【0261】
【表1】
【0262】
次に、接着剤組成物の評価を、下記の方法で行った。
接着剤組成物の相溶混合状態は、フィラーなしの接着剤組成物を直径20mmの無色透明な試験管に入れて、目視で観察し、濁りや分離の有無を評価した。
実施例1〜実施例4のS1〜S4及び比較例1〜比較例6のI1〜I6のいずれの接着剤組成物とも、濁りや分離がなく、均一に相溶混合されていた。
【0263】
また、フィラー有りの実施例1〜実施例4並びに比較例1〜比較例6の接着シート及びフィラーなしの比較例7の接着シート(HF7)の評価は、下記の方法で行った。その評価結果を表2及び表3に示す。
【0264】
(相分離状態)
硬化前の接着シートが相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態の評価、即ち、硬化前の相分離状態の評価は、接着シートの基材フィルムの反対側の表面にプラチナ蒸着させ、走査型電子顕微鏡で観察する方法で行った。
【0265】
硬化後の接着シートの相分離状態の評価する方法は、基材フィルム付きの硬化前の接着シートを、オーブンで170℃、5時間硬化させて、接着シートの基材フィルムの反対側の表面にプラチナ蒸着させ、走査型電子顕微鏡で観察する方法で行った。ここで、島相の大きさは、観察された島相をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値を求めた。
【0266】
観察結果の一例として、実施例1で得た硬化前のJS1の観察結果を図7に、比較例1で得た硬化前のHS1の観察結果を図8に、実施例1で得た硬化後のJS1の観察結果を図9に及び比較例1で得た硬化後のHS1の観察結果を図10に示す。
【0267】
(タック強度)
基材フィルム付きの硬化前の接着シートの基材フィルムの反対側の表面のタック強度を、レスカ(株)製プローブタッキング試験機を用いて、JIS Z0237−1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm2、接触時間1秒)により、40℃で測定した。タック強度が0.2N未満を−×、0.2〜2.0Nを○、2.0Nを超えたものを+×として評価した。
【0268】
(重量減少率)
重量減少率は、5cm角のアルミ箔を秤量(W1)し、4cm角に切り出した硬化前の接着シートを密着させて秤量(W2)した。これを180℃のオーブンに1時間入れた後に秤量(W3)し、次式により算出した。
【0269】
【数3】
重量減少率が1.0%以下を○とし、1.0%を超えたものを×として評価した。
【0270】
(ずり粘度)
硬化前の接着シートのずり粘度は、硬化前の接着シートを二枚重ねにして平行平板プレート法によるずり弾性率の測定装置、TAインスツルメンツ製ARESを用いて、ひずみ量1.0(%)、剪断速度0.1(s−1)、昇温速度5℃/分の条件で30〜200℃の範囲で測定し、100℃と150℃のずり粘度を求めた。100℃のずり粘度が、700Pa・s未満を−×、700〜3000Pa・sを○、3000Pa・sを超えたものを+×として、また100〜150℃のずり粘度の変化、即ち、150℃のずり粘度から100℃のずり粘度をひいた値が、10万Pa・s未満を×とし、10万Pa・s以上を○として評価した。
【0271】
(フロー率)
流動性の評価のひとつとして、硬化前の接着シートをPETフィルムで挟み込んで、40℃に調整した恒温槽で50時間保管した後、5mm角に打ち抜きこの対角線の長さL1を光学顕微鏡で測定しておいた後、この検体を、テスター産業(株)製の熱圧着試験装置を用いて熱板温度120℃、圧力0.4MPaで3秒保持し、同様に対角線の長さL2を光学顕微鏡で測定して、次式(2)に当てはめて算出した。ここで、この値をフロー率と称することとする。
【0272】
【数4】
フロー率が、5%未満を−×、5〜30%を○とし、30%を超えたものを+×として評価した。
【0273】
(ダイシング性)
半導体ウエハ(厚さ80μm)に接着シートを60℃でラミネートし、端部を切断した。ダイシングテープ〔古河電工(株)製、商品名:UC3004M−80、膜厚100μm〕を接着シート側に積層し、ホットロールラミネータ(Du Pont製、Riston)を用いて25℃でラミネートした後、ウエハ、接着シート、ダイシングテープを同時に回転刃式のダイシングカッターを用いてダイシングして、水で洗浄後、乾燥を行い、切断後にできたダイシングテープの溝に、切断屑(樹脂ばり)が付着するかどうかを観察した。樹脂ばりが、ないものを○とし、あるものを×として評価した。
【0274】
(ワイヤ充てん性、樹脂のはみだし性)
ダイシング性の評価と同様に、ダイシングして、水で洗浄後、乾燥を行った後、ピックアップによりダイシングテープを剥離して半導体チップ付き接着シートを得た。この半導体チップ上に高さ60μmになるように金ワイヤ(直径25μm)を布線した半導体チップを0.05MPa、1秒、130℃の条件で貼り合せた検体を半導体チップ中央部の断面を研磨し、光学顕微鏡でボイドの有無、チップ端部からの樹脂のはみだし長さを観察、測定した。充てん性は、試験した10個の検体のすべてに直径300μm以上のボイドのないものを○、ひとつでもボイドのあるものを×として評価した。また樹脂のはみだし性は、試験した10個の検体の平均の樹脂のはみだし長さが150μmを超えるものを×とし、150μm以下のものを○とした。
【0275】
(貯蔵弾性率)
硬化後の接着シートの貯蔵弾性率は、硬化前の接着シートを二枚重ねにして、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、さらに170℃で5時間硬化して、長さが20mm及び幅が4mmの検体を動的粘弾性の測定装置、TAインスツルメンツ製RSA IIを用いて、ひずみ量0.01(%)、一定周波数10.0(s−1)、昇温速度5℃/分の条件で−50〜150℃の範囲で測定し、0℃、50℃及び100℃の貯蔵弾性率を求めた。50℃の貯蔵弾性率が、2000MPa未満を−×、2000〜4000MPaを○、4000MPaを超えたものを+×として、また0〜100℃の貯蔵弾性率の変化、即ち、0℃の貯蔵弾性率から100℃の貯蔵弾性率をひいた値が、3000MPaを超えるものを×とし、3000MPa以下を○として評価した。
【0276】
(発泡性)
硬化後の接着シートを厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み込むようにラミネートし、140℃で15分さらに170℃で20分硬化し、光学顕微鏡で泡の大きさを観察された泡をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値として求めた。泡の大きさが、0.07mmを超えるものを×とし、0.07mm以下を○として評価した。
観察結果の一例として、実施例1で得た硬化前のJF1の観察結果を図11に、比較例1で得た硬化前のHF1の観察結果を図12に示す。
【0277】
(吸湿耐リフロークラック性、耐温度サイクル性)
ワイヤ充てん性、樹脂のはみだし性で得た、半導体チップ付き接着シートと、厚み25μmのポリイミドフィルムを基材に用いた高さ10μmの凹凸を有する配線基板を0.05MPa、1秒、130℃の条件で貼り合せた半導体装置サンプル(片面にはんだボールを形成)を作製し、吸湿耐リフロークラック性、耐温度サイクル性を調べた。
【0278】
吸湿耐リフロークラック性は、半導体装置サンプルを85℃相対湿度60%の環境に168時間放置した後、サンプル表面の最高温度が260℃でこの温度を20秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通し、室温で放置することにより冷却する処理を2回繰り返したサンプル中のクラックを、目視と超音波顕微鏡で観察した。検体10個すべてでクラックの発生していないものを○とし、1個以上発生していたものを×として評価した。
【0279】
耐温度サイクル性は、サンプルを−55℃雰囲気に30分間放置し、その後125℃の雰囲気に30分間放置する工程を1サイクルとして、1000サイクル後において超音波顕微鏡を用いて剥離やクラックなどの破壊が検体10個すべてで発生していないものを○とし、1個以上発生したものを×として評価した。
【0280】
(凸に変形した量)
チップ又は基板表面の硬化後の反りの指標である凸に変形した量は、次のようにして測定した。
厚さ0.08mmで7mm角サイズのシリコンチップの片面に接着シートを介して基板(厚さ0.2mm、10mm角)に積層したサンプル(170℃、1時間、無荷重で硬化)について、シリコンチップの長さ(7mm)に渡って表面粗さ計(小坂研究所社製、SE2300)を用いて120℃において、シリコンチップ表面の凹凸を測定し、シリコンチップ周辺部に対する中央部分の高さを前記図6に示すようにして、凸に変形した量(H)とした。凸に変形した量(H)が、10μm未満を−×、10〜200μmを○、200μmを超えたものを+×として評価した。
【0281】
(耐電食性)
耐電食性は、ライン(L)アンドスペース(S)がL/S=30μm/70μmの銅配線くし型電極に接着シートを100℃、0.2MPaの条件で圧着させ、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、さらに170℃で5時間硬化した後、130℃で湿度85%RHの環境下で、5Vの電圧を100時間印加した。この操作を3つの検体で行い、イオンマイグレーションの発生の有無を光学顕微鏡で観察した。耐電食性は、イオンマイグレーションが3つすべてで発生していないものを○とし、1個以上発生したものを×として評価した。
【0282】
接着シートの評価結果の内、実施例1〜実施例4のJS1〜JS4及びJF1〜JF4を表2に、比較例1〜比較例6のHS1〜HS7及びHF1〜HF7を表3示す。
【0283】
【表2】
【0284】
【表3】
【0285】
表3に示すように比較例1〜7は、いずれかに不良があるのに対して、表2に示すように実施例1〜4は、いずれの評価項目も良好な結果を示していることが明らかである。
このように、本発明になる実施例1〜4は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性に優れ、また耐電食性に優れ、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足し、さらには、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能であると考えられ、本発明の上記特性と有する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シートを提供できる。
また、実施例1〜4の接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供可能である。
【符号の説明】
【0286】
A…半導体ウエハ、A1…半導体チップ、a…第1の接着シート、b…接着シート、b1…接着シート(接着剤)、b’…第2の接着シート、1…ダンシングテープ、2…ワイヤ、3…基板、4…配線、5…基材フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体パッケージの小型化に伴い、半導体チップと同等サイズであるCSP(Chip Size Package)、さらに、特許文献1〜5に示されるように半導体チップを多段に積層したスタックドCSPが普及している。
【0003】
これらの例として、図13に示す配線4などに起因する凹凸を有する基板3上に半導体チップA1を積層したパッケージ又は図14に示す同サイズの半導体チップA1を2つ以上使用するパッケージであって、ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層するパッケージなどがある。
【0004】
このようなパッケージには、凹凸を埋込み、かつ上部の半導体チップとの絶縁性を確保することが可能な接着シートが求められている。なお、図13及び図14において、b1は接着剤である。
【0005】
配線、ワイヤなどの凹凸の充てんには、通常、凹凸の高さより接着シートの厚さを厚くすること、接着シートの溶融粘度を低減し、充てん性を改善することが求められる。
しかしながら、一方で、厚さが厚く、溶融粘度が低い接着シートは、積層時にチップ端部から樹脂が流動し、はみだしやすいという問題があった。
【0006】
また、貼付温度での接着シートの流動性が貼付性に影響するものと考えられており、接着シートの流動性が適度に高いものは凹凸やワイヤの充てん性に優れるが、貼り付け時に接着シートと下チップ間に気泡(ボイド)を形成し易いという問題があった。
【0007】
ボイドが形成されると、はんだリフロー時にボイド中に溜まった空気や水分が膨張することにより、接着シートがはく離するため、ボイドを低減することは凹凸やワイヤを充てんすることと同様に重要な課題であるが、貼付温度での物性(溶融粘度、硬化速度、溶融粘度の温度や時間依存性など)又は接着シートの厚さを変更するだけでは、ボイドを完全に消滅することは難しく、接着シートの厚さが厚く、溶融粘度が低い接着シートは、ウエハ及び接着シートのダイシングによって、得られる半導体チップ端部の破損が大きくなるとともに、糸状のくず(樹脂ばり)が大きくなるという問題があった。
【0008】
通常、ダイシング工程は、ウエハ、接着シート及びダイシングテープを0〜80℃で貼り合わせた後、これらを回転刃で同時に切断し、洗浄後、接着シート付き半導体チップを得る工程が採られている。この切断後にできたダイシングテープの溝に、接着シートやウエハの切断くずが付着し、それが切断後の洗浄時や半導体チップピックアップ時にダイシングテープからはく離し、樹脂ばりが生じ、半導体チップに付着し、電極などを汚染することがあった。
【0009】
また、充てん性を向上させるためには、低粘度の樹脂を加えればよいが、タック強度が上昇し、すなわち、べたつきが増すため、保護フィルムや、基材フィルムのはく離作業がやり難くなったりするなど、取り扱い作業性が低下するという課題があった。
【0010】
これらの課題を解決した接着シートの例としては、特許文献6が挙げられるが、貼り付け時に形成される接着シートと下チップ間にボイドを解決したとしても、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成物、分解生成物、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分に起因して接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、結果として、貼り付け時に形成される接着シートと下チップ間にボイドと同様に、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題があった。
【0011】
このように、残存する揮発成分に起因して硬化の加熱によって発泡する接着シートでは、低い温度から高い温度に段階を踏んで硬化させて行く、ステップキュアと呼ばれる工程を採用し、このような発泡を押さえ込む手法が取られているが、所望の半導体装置の製造工程が煩雑で長い時間を要するため好ましくない。
【0012】
一方、図13及び図14に例示したような、CSP及びスタックドCSPでは、耐電食性も重要な特性であり、特に、図14に示したような、ワイヤ2が接着シートに埋め込まれるタイプのスタックドCSPでは、高い耐電食性が要求され、さらに、近年、実用化が見込まれている銅ワイヤや銅リードフレームなどの銅配線型の半導体装置向けとしては、特許文献6のような従来の技術では性能が足りない。
【0013】
耐電食性を向上可能な従来技術の例としては、特許文献7などが挙げられるが、ポリイミド樹脂を含有しているため耐電食性の他に耐熱性には優れるもの、図14に示すような、ワイヤ2などに起因する凹凸を有する半導体チップ上にさらに別の半導体チップを積層するパッケージにおける配線、ワイヤなどの凹凸を充てんすることは不可能である。
【0014】
以上の点から、配線やワイヤなどに起因する凹凸の充てん性が優れ、また凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、耐熱性、耐湿性、作業性、保存安定性を満足する接着シートを得ることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−279197号公報
【特許文献2】特開2001−308262号公報
【特許文献3】特開2002−222913号公報
【特許文献4】特開2002−359346号公報
【特許文献5】特開2004−072009号公報
【特許文献6】特開2007−270125号公報
【特許文献7】特開2004−210804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート及びその製造方法を提供することと、この接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
単一の高分子材料では相反する特性を同時に発揮することは難しく、高分子ブレンドによる特性の向上が重要となっている。高分子ブレンド材では、ブレンド材の相分離構造を制御することにより材料高機能化が図られることが多い。
【0018】
熱硬化性樹脂のモノマーやオリゴマーは、多くの高分子成分と相溶する。これらの一相状態にある系を熱硬化させるとFlory−Huggins理論から予測されるように、熱硬化性樹脂の分子量が増大するにともない相図の二相域が拡大し相溶域が減る。
【0019】
例えば、Poiymer、1989年30巻、1839〜1844頁によればエポキシ樹脂とブタジエン・アクリルニトリル共重合体(CTBN)の相図は、上限臨界共溶温度(UCST)型を示し、反応とともに二相域が次第に低温側に移動し二相域に入る。即ち、反応によってスピノーダル分解が誘起されて相分離が起こる。
【0020】
このような反応誘起型相分解では、相分解の様々な過程で構造を凍結することに相分離構造を制御できる有用な方法とされている。日立化成テクニカルレポート、47号、15−20(2006年)に示されるように、このような熱硬化性樹脂と高分子量成分を組成とする熱硬化型接着剤シートは、二つの部材を両面接着するために、半導体用途で広く使われてきた。
【0021】
この熱硬化型接着剤シートは、強い接着力があるだけでなく低弾性率であり、熱硬化による接着後に二つの部材間の熱膨張率の差に起因する応力を緩和できることを特徴としている。応力を緩和することで熱硬化後のそりを低減できる。
【0022】
本発明者らは、この反応誘起型相分解技術を用いて、(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含み、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合されることを特徴とする接着剤組成物を作製した。
【0023】
さらに、本発明者らは、上記で作製した接着剤組成物を用いた接着シートは、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
本発明は、以下のものに関する。
(I) (1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合された接着剤組成物。
【0025】
(II) (I)記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態である(1)記載の接着剤組成物。
【0026】
(III) (I)又は(II)記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下である(I)又は(II)記載の接着剤組成物。
【0027】
(IV) (2)高分子量成分が、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下である(I)〜(III)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(V) (I)〜(IV)のいずれかに記載の(2)高分子量成分が、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを共重合成分とし、0.5〜10重量%を含むエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である(I)〜(IV)のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0028】
(VI) (3)フェノール樹脂が、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下である(I)〜(V)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(VII) (3)フェノール樹脂が、フェノールアラルキル樹脂である(I)〜(VI)のいずれかに記載の接着剤組成物。
(VIII) 接着剤組成物が、さらに0.1〜0.5重量%の(6)イミダゾール化合物を含有する接着剤組成物。
(IX) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合することを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【0029】
(X) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に形成して得られる接着シート。
(XI) 接着シートが、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度が700〜3000Pa・s、硬化にともなう粘度上昇が100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上である(X)記載の接着シート。
(XII) 接着シートが、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下である(X)又は(XI)記載の接着シート。
(XIII) 接着シートが、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPa、0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPa以下である(X)〜(XII)のいずれかに記載の接着シート。
【0030】
(XIV) 接着シートが、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%である(X)〜(XIII)のいずれかに記載の接着シート。
(XV) 接着シートが、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度が、0.2〜2.0Nである請求項(X)〜(XIV)のいずれかに記載の接着シート。
(XVI) (I)〜(VIII)のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥することを特徴とする接着シートの製造方法。
【0031】
(XVII) (X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シート。
(XVIII) 予めウエハ形状に形成した(X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする一体型シートの製造方法。
(XIX) ウエハ、(X)〜(XV)のいずれかに記載の接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【0032】
(XX)ウエハと(XVII)に記載の一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
(XXI) (XIX)又は(XX)に記載の半導体装置の製造方法により製造した半導体装置。
(XXII)半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形している(XXI)記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性が優れ、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、耐電食性に優れ、さらには、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明は、上述の接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の接着シート、半導体ウエハ及びダンシングテープの一実施態様を示す断面図である。
【図2】本発明の接着剤付き半導体チップの一実施態様を示す断面図である。
【図3】本発明の基材フィルム付き接着シートの一実施態様を示す断面図である。
【図4】本発明の基材フィルム付き多層接着シートの一実施態様を示す断面図である。
【図5】本発明の接着シートを用いた接着剤付き半導体チップを、ワイヤボンディングされたチップに接着する際の工程の一実施態様を示す概略図である。
【図6】凸に変形した状態、及び凸に変形した量の測定方法を説明する概略図である。
【0035】
【図7】硬化前のJS1の表面SEM像である。
【図8】硬化前のHS1の表面SEM像である。
【図9】硬化後のJS1の表面SEM像である。
【図10】硬化後のHS1の表面SEM像である。
【図11】発泡性を評価したJF1の光学顕微鏡像である。
【図12】発泡性を評価したHF1の光学顕微鏡像である。
【図13】CSPの一実施態様を示す断面図である。
【図14】スタックドCSPの一実施態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明になる接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シート、その製造方法、一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を実施するための形態について詳細に説明する。
【0037】
まず、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂及び(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とする。
【0038】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂は、エポキシ基を分子中に二つ以上有すること意外に、特に制限はないが、硬化すると分子間で三次元的な結合を形成する性質を有する材料であり、硬化後に接着作用を呈するもので、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテルなど各種ジオール化合物のグリシジルエーテルなどの二官能エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂、また複素環含有エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、シリコン変性エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物など、一般に知られているもの及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などを併用することもでき、これらの1種又は2種以上を併用することもできる。
【0039】
このようなエポキシ樹脂としては、市販のものでは、例えば、エピコート807,エピコート815,エピコート825,エピコート827,エピコート828,エピコート834,エピコート1001,エピコート1002,エピコート1003,エピコート1055,エピコート1004,エピコート1004AF,エピコート1007,エピコート1009,エピコート1003F,エピコート1004F(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、DER−330,DER−331,DER−301,DER−361,DER−661,DER−662,DER−663U,DER−664,DER−664U,DER−667,DER−642U,DER−672U,DER−673MF,DER−668,DER−669(以上、ダウケミカル社製、商品名)、YD8125,YDF8170(以上、東都化成(株)製、商品名)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、YDF−2004(東都化成(株)製、商品名)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、エピコート152,エピコート154(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、EPPN−201(日本化薬(株)製、商品名)、DEN−438(ダウケミカル社製、商品名)等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、エピコート180S65(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、アラルダイトECN1273,アラルダイトECN1280,アラルダイトECN1299(以上、チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、YDCN−701,YDCN−702,YDCN−703,YDCN−704(以上、東都化成(株)製、商品名)、EOCN−102S,EOCN−103S,EOCN−104S,EOCN−1012,EOCN−1020,EOCN−1025,EOCN−1027(以上、日本化薬(株)製、商品名)、ESCN−195X,ESCN−200L,ESCN−220(以上、住友化学工業(株)製、商品名)等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポン1031S,エピコート1032H60,エピコート157S70(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、アラルダイト0163(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、デナコールEX−611,デナコールEX−614,デナコールEX−614B,デナコールEX−622,デナコールEX−512,デナコールEX−521,デナコールEX−421,デナコールEX−411,デナコールEX−321(以上、ナガセ化成(株)製、商品名)、EPPN501H,EPPN502H(以上、日本化薬(株)製、商品名)等の多官能エポキシ樹脂、エピコート604(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名)、YH−434(東都化成(株)製、商品名)、TETRAD−X,TETRAD−C(以上、三菱瓦斯化学(株)製、商品名)、ELM−120(住友化学(株)製、商品名)等のアミン型エポキシ樹脂、アラルダイトPT810(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)などの複素環含有エポキシ樹脂、ERL4234,ERL4299,ERL4221,ERL4206(以上、UCC社製、商品名)等の脂環式エポキシ樹脂などが例示される。
【0040】
これらの中で、未硬化状態での接着シートの流動性が高い点でエポキシ樹脂の分子量が1000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。流動性に優れる分子量500以下のビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂50〜90重量部と、硬化物の耐熱性に優れる分子量が800〜3000の多官能エポキシ樹脂10〜50重量%とを併用することが、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸への充てん性、取り扱い作業性、耐熱性を良好なバランスに調整可能であるため好ましい。
【0041】
また、本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下であることが、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
本発明において、硬化前とは未硬化又は半硬化の状態をいう。
【0042】
この特性の発現機構については、調査中であるが、発明者らは、島相が大きい明確な相分離がなされる系では、流動性に乏しい(2)高分子量成分が海相となってスポンジ状の構造を成しているためシート全体の流動性が阻害されているのに対し、本発明になる接着剤組成物では共連続構造のため(2)高分子量成分が、流動性の高い未硬化の(1)エポキシ樹脂及び(3)フェノール樹脂と共に流動しやすくなるためであると考えている。
【0043】
このような理由で、(1)エポキシ樹脂の平均分子量は、好ましくは3000以下、より好ましくは1000以下とされる。分子量3000を超えると、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂と分離して相溶しないことがある。
【0044】
ここで、ワニス状にした(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂の硬化前の相溶混合状態を、評価する方法としては、特に制限はないが、最も簡便には、ワニス状の本発明になる接着剤組成物を透明ガラス筒状の容器に入れて、目視で観察し、濁りや分離の有無を評価することで行える。濁りや分離がなければ、均一に相溶混合されていることになる。
【0045】
また、別な方法としては、ワニス状の接着剤組成物の濁度や光線透過率を測定装置によって評価する方法や、ワニス状の接着剤組成物を揮発しないように一定の厚さとなるようスペーサーを配した上にカバーガラスを被せて、光学顕微鏡観察する方法などが挙げられる。
【0046】
また、本発明になる接着剤組成物を塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であることを評価する方法としては、特に制限はないが、簡便には、本発明になる接着剤組成物をガラスに塗布、乾燥させたもの、又は本発明になる接着シートをガラス貼り付けるか、挟み込んで検体を作製し、位相差顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、原子間力顕微鏡等で観察する方法、また検体の一部を取り出して走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する方法が挙げられる。
【0047】
走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する際には、検体を包埋樹脂で包埋した後、ウルトラミクロトームなどで切片を作製して観察することは、本発明になる接着剤組成物又は本発明になる接着シートの内部を観察できる意味で好ましい。相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるかを判別することは、位相差顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡では難しいが、海島構造を形成しているか、いないかは、判別可能である。
【0048】
また、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後の(2)高分子量成分との相分離状態を評価する方法としては、特に制限はないが、簡便には、本発明になる接着剤組成物をガラスに塗布、乾燥後、硬化させたもの又は本発明になる接着シートをガラスに貼り付けるか、挟み込んで硬化させて検体を作製し、原子間力顕微鏡などで観察する方法、また検体の一部を取り出して走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察する方法が挙げられる。
【0049】
上述のように、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等で観察す際には、検体を包埋樹脂で包埋した後、ウルトラミクロトームなどで切片を作製して観察することは、本発明になる接着剤組成物又は本発明になる接着シートの内部を観察できる意味で好ましい。
【0050】
これらの中でも、原子間力顕微鏡で観察する方法は、弾性率の差をマッピングできるので、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂の硬化物と、(2)高分子量成分のような硬さの違う検体の島相の大きさを評価するのに好適に用いられる。ここで、島相の大きさとは、観察される島相の直径を示す。
【0051】
殆どの場合、本発明になる接着剤組成物及び接着シートにおける反応誘起型相分解で形成される海島構造の島相は、球状のものであるので簡易的には、観察された島相の直径は、使用した顕微鏡のスケールを用いて計測されるが、本発明では、島相の大きさは、定方向接線径、即ち、粒子をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値である。
【0052】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂には、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、エポキシ樹脂以外にも、ポリイミド樹脂系、ポリアミドイミド樹脂系、トリアジン樹脂系、フェノール樹脂系、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、シアネートエステル樹脂系、これら樹脂の変性系などの熱硬化性樹脂の1種又は2種以上を併用して使用できる。
【0053】
これらの、本発明になる接着剤組成物に用いられる(1)エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を併用する場合は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合する組合せで選択することが好ましい。
【0054】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である。
【0055】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、官能基を含むことで、10μm以下の薄膜接着シートでも低弾性率で優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現することができる。
【0056】
官能基は、官能基を含む官能基含有単量体を、ビーズ重合、粒状重合、パール重合等とも呼ばれる懸濁重合や、溶液重合、塊状重合、沈殿重合、乳化重合等の既存の方法により、ランダム共重合させることにより導入することができる。中でも、低コストで高分子量化可能な点で懸濁重合法が好ましい。
【0057】
懸濁重合は、水性媒体中で行われ、懸濁剤を添加して行う。懸濁剤としてはポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などがあり、中でもポリビニルアルコールなどの非イオン性の水溶性高分子が好ましい。
【0058】
イオン性の水溶性高分子や難溶性無機物質を用いた場合には、得られたアクリル系ランダム共重合体内にイオン性不純物が多く残留する傾向がある。この水溶性高分子は、単量体の総量100質量部に対して0.01〜1質量部使用することが好ましい。
【0059】
官能基含有単量体は、分子内にカルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、アミド基及びエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基と、少なくとも1つの重合性の炭素−炭素2重結合を有するものである。
【0060】
具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸などの酸無水物基含有単量体、アクリル酸−2ヒドロキシメチル、メタクリル酸−2ヒドロキシメチル、アクリル酸−2ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2ヒドロキシエチル、アクリル酸−2ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2ヒドロキシプロピル、N−メチロールメタクリルアミド、(o−,m−,p−)ヒドロキシスチレン等の水酸基含有単量体、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体、アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、アクリル酸−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、メタクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、アクリル酸−3−メチル、4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、アクリル酸−β−メチルグリシジル、メタクリル酸−β−メチルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、メタクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、メタクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、アクリル酸−5−メチル、6−エポキシヘキシル、メタクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル等のエポキシ基含有単量体等を使用することができる。これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0061】
この中で、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を含むものが、10μm以下の薄膜接着シートでも優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現するため、また本発明になる接着剤組成物及び接着シートの保存安定性を確保する意味で好適に用いられる。
【0062】
これら官能基含有単量体の含有率は、エポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体のうち、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは1〜5重量%である。0.5重量%未満では接着力が低下する可能性があり、10重量%を超えるとエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体がゲル化を起こりやすくなる傾向がある。
【0063】
また、官能基含有単量体としてカルボキシル基、酸無水物基を含むアクリル酸、メタクリル酸等や、水酸基を含むアクリル酸−2ヒドロキシメチル、メタクリル酸−2ヒドロキシメチル等を用いると、ワニス状態でゲル化しやすく、接着剤組成物が未硬化の状態で硬化度の上昇による接着力の低下などの問題があるため好ましくない。
【0064】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下とすることにより、イオンマイグレーションの発生を抑制し、優れた耐電食性を発現することができる。
【0065】
窒素含有特性基を含む共重合成分とは、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド類などが挙げられる。
【0066】
特に、シアン化ビニル化合物は、経過時間に伴う着色の増大も大きいため使用しない方が好ましい。この意味で、本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下であることが好ましい。
【0067】
IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下であることは、(2)高分子量成分中にニトリル基を不純物として含む程度であり、実質的にニトリル基を含まないことを意味する。
【0068】
即ち、本発明では実質的にニトリル基を含まないアクリル樹脂を樹脂組成物に用いることによって、イオンマイグレーションの発生を抑制し、優れた耐電食性を得ることが可能となる。ピーク高さの比(PCO/PCN)が、0.006を超えるとイオンマイグレーションが発生し易くなり耐電食性が低下する傾向がある。
【0069】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分のIR測定においては、KBr錠剤法による測定が好ましい。ATR法による測定では、高波数側のピークが小さく出る傾向がある。IRスペクトルは、縦軸に吸光度、横軸に波数を取り、ニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク(PCN)とカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク(PCO)の比(PCO/PCN)を取ることによってアクリル樹脂中のニトリル基の相対的な量を定量することができる。
【0070】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分中にメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含むことにより、重量平均分子量が10万以上であっても、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御することが可能である。
【0071】
本発明になる接着剤組成物を、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御する意味は、前述のように、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
【0072】
上記の理由で、アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分中に含まれるメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルの含有率は、30〜50重量%がより好ましく、40〜50重量%がさらに好ましい。
【0073】
メタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルの含有率が20重量%未満であると、反応誘起型相分解で形成される海島構造の島相の大きさが100nmを超え、流動性を低下させる傾向があり、50重量%を超えると、アクリル系ランダム共重合体がゲル化を起こりやすくなる傾向があり、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体を得られない場合がある。
【0074】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、重量平均分子量が10万以上とすることにより、10μm以下の薄膜接着シートでも優れた耐クラック性、接着性、耐熱性を発現することができる。重量平均分子量が10万未満であると得られる接着剤組成物に必要な接着性、耐熱性が得られず、また硬化時に残存した未反応成分が発泡し、接着材料内にボイドが形成される場合があり、そのため、(2)高分子量成分の重量平均分子量は、10万〜100万であることが好ましく、30万〜80万であることがより好ましい。重量平均分子量が100万を超えると、流動性が著しく低下する傾向がある。
なお、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0075】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、ガラス転移温度が0℃以上とすることにより、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れた接着剤組成物を得ることができる。
【0076】
接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥して接着シートを得る場合、その取扱いを容易にするため、接着剤組成物は、はく離性を高める処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基材フィルムの上に塗布、乾燥した後、ポリエチレンフィルムなどの保護フィルムを配して使用されるが、ガラス転移温度が0℃未満であると未硬化状態での接着シートの粘着性が大きくなり過ぎて保護フィルムがはがれ難くなり、取扱い性が悪化する可能性があると同時に、接着シートの柔軟性が高過ぎるため、ウエハダイシング時にシートが切断し難く、樹脂くずが発生しやすくなる場合がある。
【0077】
上記の理由で、(2)高分子量成分のガラス転移温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上とされる。一方、(2)高分子量成分のガラス転移温度は、50℃を超えると、タック強度が小さ過ぎるため仮接着などの作業がやり難くなる傾向にあり好ましくない。
【0078】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分の、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ナフチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ブトキシエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル等のメタクリル酸エステル類、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−フルオロスチレン、α−クロルスチレン、α−ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチルシクロヘキシル、アクリル酸トリメチルヘキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸ノルボルニルメチル、アクリル酸フェニルノルボルニル、アクリル酸シアノノルボルニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸メンチル、アクリル酸フェンチル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−8−イル、アクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−4−メチル、アクリル酸シクロデシル、メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリメチルシクロヘキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸ノルボルニルメチル、メタクリル酸シアノノルボルニル、メタクリル酸フェニルノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−8−イル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.O2,6]デカ−4−メチル、メタクリル酸シクロデシル等の脂環式単量体などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0079】
これらの中で、アクリル酸エステル類は、ゲル化せずに重量平均分子量が10万以上の(2)高分子量成分が合成可能であり、好ましく用いられる。アクリル酸エステル類の中で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルは、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルとの共重合成に優れるため、さらに好ましい。
【0080】
これらの官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体の含有率は、本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、ガラス転移温度が0℃以上となるように調整されるもので、特に制限はないが、例えば、官能基含有単量体若しくはメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチル以外の単量体として、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルを選択し、官能基含有単量体としてグリシジルメタクリレートを2.5重量%、メタクリル酸メチルを43.5重量%とした場合には、アクリル酸エチルが18.5重量%、アクリル酸ブチル35.5重量%で、ガラス転移温度が12℃で、重量平均分子量が10万以上のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である(2)高分子量成分を合成できる。
【0081】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(2)高分子量成分は、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述のようなアクリル系ランダム共重合体以外に、熱可塑性プラスチック、架橋反応ゴム、熱可塑性エラストマー、フェノキシ樹脂、高分子量エポキシ樹脂等の1種又は2種以上を併用することもできる。
【0082】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(3)フェノール樹脂は、分子中に2個以上の水酸基を有すること意外特に制限はないが、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコールなどの単環二官能フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフタレンジオール類、ビフェノール類及びこれらのハロゲン化物、アルキル基置換体などなどの多環二官能フェノール類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ビフェニレンアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、フェノールアラルキル樹脂(別名キシリレン変性フェノール樹脂)等の多官能フェノール樹脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0083】
市販されているフェノール樹脂としては、例えば、フェノライトLF2882,フェノライトLF2822,フェノライトTD−2090,フェノライトTD−2149,フェノライトVH4150,フェノライトVH4170(以上、DIC(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0084】
分子中に2個以上の水酸基を有する(3)フェノール樹脂を硬化剤に用いることで、硬化中及び硬化後の揮発分が少なくすることができ、ボイドを生じ難くできる。
これらの分子中に2個以上の水酸基を有する(3)フェノール樹脂の中で、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下のものが、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸への充てん性、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだし性、さらには、作業性、耐熱性に優れた接着剤組成物及び接着シートを得る意味で好適に用いられる。
【0085】
軟化点が60℃未満であると樹脂のはみだし性、耐熱性に劣る傾向があり、軟化点が150℃を超えると、未硬化状態での接着シートの粘着性が低下し、被着体に貼付け作業が行い難く、凹凸への充てん性が低下する傾向がある。
また、水酸基当量220g/eqを超えると、10μm以下の薄膜接着シートでは、優れた接着性、耐熱性が得られない傾向がある。このような理由で、より好ましくは、軟化点65〜120℃、水酸基当量190g/eq以下、さらに好ましくは、軟化点70〜90℃、水酸基当量180g/eq以下の範囲とされる。
【0086】
本発明者らは、(3)フェノール樹脂を種々検討の結果、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下のフェノールアラルキル樹脂が、優れた接着性、耐熱性が得られ、なお且つ、凹凸を充てんでき、硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な点で優れることを見出した。
【0087】
また、フェノールアラルキル樹脂は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御することが可能である。
【0088】
本発明になる接着剤組成物を、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に制御せしめることは、接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現する意味で好ましい。
市販されているフェノールアラルキル樹脂としては、例えば、ミレックスXLCシリーズ(三井化学(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0089】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(3)フェノール樹脂は、前記、発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述のような(3)フェノール樹脂以外に、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等のアミン類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコール無水トリメリット酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物等の芳香族カルボン酸無水物類、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族カルボン酸の無水物類、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、ヘット酸無水物等の脂環式カルボン酸無水物類、イミダゾール化合物、有機リン化合物及びこれらのハロゲン化物、ポリアミド、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素等の1種又は2種以上を(1)エポキシ樹脂の硬化剤として併用して使用することができる。
【0090】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のものであること以外に特に制限はないが、その種類としては、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられるが、耐熱性や熱伝導性を向上させるため、溶融粘度の調整やチキソトロピック性を付与するため、接着シートのダイシング性の向上のためには、無機フィラーが好ましい。
【0091】
無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、アンチモン酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することもできる。
【0092】
熱伝導性向上のためには、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカなどが好ましい。溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が好ましい。
また、ダイシング性を向上させるためには、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等がより好ましい。
【0093】
ダイシングは、回転刃でウエハ、接着シート、ダイシングテープを同時に切断し、洗浄後、接着シート付き半導体チップを得る。フィラーを含有しない場合には、切断くずが粘土状であり、洗浄水と共に除去されないため、切断後にできたダイシングテープの溝に、接着シートやウエハの多量の切断くずが付着し、樹脂ばりが発生する。フィラーを添加することにより、ダイシング工程における樹脂ばりを大幅に低減することができる。
【0094】
さらに、フィラーを含有することにより、シート切断時に回転刃に樹脂を残すことなく、回転刃を研磨しながら、短時間で接着シートを良好に切削できる。従って、回転刃の研磨効果及び接着シート切断性の点から、接着シートは硬いフィラーを含有することが好ましく、モース硬度(10段階)3〜8の範囲の硬さのフィラーを含有することがより好ましく、モース硬度6〜7のフィラーを含有することがさらに好ましい。このときフィラーのモース硬度(10段階)が3未満では回転刃の研磨効果が少なく、モース硬度が8を超えるとダイシング用の回転刃の寿命が短くなる傾向がある。
【0095】
なお、モース硬度3〜8のフィラーとしては、方解石、大理石、金(18K)、鉄など(モース硬度3)、蛍石、パールなど(モース硬度4)、燐灰石、ガラスなど(モース硬度5)、正長石、オパールなど(モース硬度6)、シリカ、水晶、トルマリンなど(モース硬度7)があるが、中でも安価であり入手が容易でありことからモース硬度7のシリカが好ましい。
【0096】
フィラーの比表面積に関しても、フィラーの平均粒径と同様に、接着シートの流動性と表面平滑性の点から2〜200m2/gが好ましく、さらに流動性の点から比表面積の上限は50m2/gがより好ましく、10m2/gが特に好ましい。なお、比表面積(BET比表面積)は、ブルナウアー・エメット・テーラー(Brunauer−Emmett−Teller)式により、フィラーに窒素を吸着させてその表面積を測定した値であり、市販されているBET装置により測定できる。
【0097】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーの粒径、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装製マイクロトラック)を用いて測定した。具体的には、フィラー0.1〜1.0gを秤取り、超音波により分散した後、粒度分布を測定し、粒径5μm以上の粒子の累積重量が粒径分布に占める割合を%で表し、粒度分布の累積重量が50%となる粒径を平均粒径とした。
【0098】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、粒径5μm以上の粒子が0.01%を超えると、耐熱性、熱伝導性、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与、接着シートのダイシング性に必要な量のフィラーを配合した場合に、接着シート表面の平滑性を保つことが難しく、接着性が著しく低下する傾向がある。
【0099】
上記の傾向は、特に接着シートの厚さが20μm以下の薄い場合で顕著である。この意味で、フィラーの粒径は、粒径3μm以上の粒子が、0.01%以下が好ましく、粒径2μm以上の粒子が、0.01%以下がより好ましい。
【0100】
また、本発明になる接着剤組成物に用いられる(4)フィラーは、平均粒径が0.8μmを超えると、同様に、耐熱性、熱伝導性、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与、接着シートのダイシング性に必要な量のフィラーを配合した場合に、接着性が著しく低下する傾向がある。
【0101】
一方、フィラーの平均粒径は、平均粒径が0.05μm未満の場合、分散性、流動性が低下する傾向があり、また、ダイシングの際のフィラーが回転刃を研磨する効果が得られない場合がある。この意味で、フィラーの平均粒径は、0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.7μmがより好ましく、0.2〜0.6μmがさらに好ましい。
【0102】
本発明になる接着剤組成物に無機フィラーを添加した際のワニスの製造には、無機フィラーの分散性を考慮して、ライカイ機、3本ロール、ボールミル及びビーズミルなどによって物理的なせん断力を与え、二次凝集した粒子がないように十分に分散させた後に使用するのが好ましい。
【0103】
上記の分散方法は、組み合せて使用することができる。
また、無機フィラーと低分子量物をあらかじめ混合した後、高分子量物を配合することによって、混合する時間を短縮することが可能になる。
【0104】
次に、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分の配合割合について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合される。
【0105】
(1)エポキシ樹脂が20重量%未満であったり、(2)高分子量成分が25重量%を超えたり、(3)フェノール樹脂が15重量%未満であると、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんされるのに必要な流動性や接着性が得られない場合がある。
【0106】
また、(1)エポキシ樹脂が40重量%を超えたり、(2)高分子量成分が5重量%未満であったり、(3)フェノール樹脂が35重量%を超えると、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが多くなったり、接着シートの貯蔵弾性率が高くなり可とう性が著しく低下する場合がある。
【0107】
ここで、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂の配合割合は、(1)エポキシ樹脂のエポキシ当量と(3)フェノール樹脂の水酸基当量の比、即ち、エポキシ当量/水酸基当量が50/50とすることが良好な硬化性を得るために好ましいが、接着シートのアウトガス量と流動性及び室温付近でのタック強度を最適化するために、調整することも可能であり、好ましい。
【0108】
具体的には、エポキシ当量を水酸基当量より多くすることで、流動性を向上させると共に、室温付近でのタック強度をあげ粘着性を高めることができる。
一方、エポキシ当量を水酸基当量より少なくすることで、接着シートのアウトガス量を低減し、硬化後のボイドを低減することもできる。このような理由で、エポキシ当量/水酸基当量は、40/60〜60/40の範囲で調整することが好ましい。
【0109】
また、(4)フィラーが20重量%未満であると、接着シートに必要な耐熱性、ダイシング性が得られなかったり、流動性が高くなりすぎて硬化時にボイドを生じ易くなり、(4)フィラーが40重量%を超えると、流動性が低くなりすぎて、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんできなくなる場合がある。
【0110】
上述した諸特性を満足させる意味で、本発明になる接着剤組成物に用いられる必須成分の配合割合は、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が22〜38重量%、(2)高分子量成分が7〜23重量%、(3)フェノール樹脂が17〜33重量%及び(4)フィラーが22〜38重量%がより好ましく、(1)エポキシ樹脂が25〜35重量%、(2)高分子量成分が10〜20重量%、(3)フェノール樹脂が20〜30重量%及び(4)フィラーが25〜35重量%がさらに好ましい。
【0111】
本発明になる接着剤組成物には、硬化時間を短縮できる意味で硬化促進剤を用いることができる。
硬化促進剤としては、前記、発明の効果を阻害しない範囲で用いること意外特に制限はないが、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール化合物、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミン化合物、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアリールアンモニウム、水酸化テトラアリールアンモニウム等の第4級アンモニウム化合物、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ジアザビシクロアルケン等のシクロアミジン化合物、テトラフェニルホスホニウムなどのテトラ置換ホスホニウム、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン化合物、テトラフェニルボレートなどのテトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0112】
これらの硬化促進剤の中で(6)イミダゾール化合物は、硬化促進効果が大きく、その添加量が接着剤組成物の0.1〜0.5重量%と少なくても必要な硬化促進効果が得られるので好適に用いられる。
【0113】
(6)イミダゾール化合物の量が、接着剤組成物の0.5重量%を超えると、硬化促進効果は大きくなるが、接着剤組成物及び接着シートの可使時間、すなわち貯蔵安定性が著しく低下するので好ましくない。
一方、(6)イミダゾール化合物の量が、接着剤組成物の0.1重量%未満であると、十分な硬化促進効果が得られず、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成成分、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分が、接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、結果として、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題を起こし易くなる。
【0114】
このような理由で、(6)イミダゾール化合物の量は、接着剤組成物の0.2〜0.45重量%がより好ましく、0.3〜0.4重量%がさらに好ましい。
イミダゾール化合物は、例えば、四国化成工業(株)から、2E4MZ、2PZ−CN、2PZ−CNSという商品名で市販されているものを用いることができる。
【0115】
また、接着シートの可使期間が長くなる点で、潜在性硬化促進剤も好ましく、その代表例としてはジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド化合物、グアナミン酸、メラミン酸、エポキシ化合物とジアルキルアミン化合物との付加化合物、アミンとチオ尿素との付加化合物、アミンとイソシアネートとの付加化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0116】
本発明になる接着剤組成物は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂及び(4)フィラーからなる必須成分を(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とすることができる。これにより、本発明になる接着剤組成物の製造方法及び接着剤組成物を用いた接着シートの製造方法を容易にすることができる。
【0117】
ワニス状にするために用いる(5)有機溶媒としては、接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合、溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、アルコール系、エーテル系、ケトン系、アミド系、芳香族炭化水素系、エステル系、ニトリル系等が挙げられ、数種類を併用した混合溶剤を使用することもできる。
【0118】
具体的には、例えば、接着シート作製時の揮発性などを考慮して低沸点のジエチルエーテル、アセトン、メタノール、テトラヒドロフラン、ヘキサン、酢酸エチル、エタノール、メチルエチルケトン、2−プロパノール、塗膜安定性を向上させるなどの目的で高沸点の、トルエン、メチルイソブチルケトン、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、ブチルセロソルブ、ジメチルスルホキシド、N−2−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
これらの中で、溶解性に優れ、乾燥速度が速いメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを使用することが好ましい。
【0119】
本発明になる接着剤組成物に用いられる(5)有機溶媒の量は、ワニス状態にしたときの粘度などによって決定されるもので、特に制限はないが、概ね、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%の範囲で用いられる。
【0120】
次に、本発明になる接着剤組成物によって形成される相分離構造について説明する。
本発明になる接着剤組成物は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること、又は、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか、若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下であることが、接着性の流動性を高め基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能な、優れた性能を実現する意味で好ましい。流動性に余裕を持たすことで、接着シートの硬化性を高めても必要な貯蔵安定性を維持し、硬化にともなう粘度上昇により硬化時のボイドの発生を押さえ込むことを可能としている。
【0121】
(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離する性質は、反応誘起型相分解により形成されるものである。前記したように、一般に反応誘起型相分解で形成される相分離構造は、熱力学的な相分離速度と硬化速度との相対的な速度関係の大小によって決定するとされている。
【0122】
即ち、小さな相構造を得るには、相分離速度<<硬化速度の状態にして初期段階で網目を形成させればよい。相分離速度<<硬化速度を実現するには、硬化速度に比べて相分離速度はWLF式に沿ってガラス転移温度(Tg)付近では非常に遅くなるため硬化温度をTg付近まで下げることが最も効果的となる。
【0123】
しかし、硬化の温度条件だけでは微小な相分離構造物を得るには限界であり、また硬化温度を下げることにより硬化には長時間必要となり実用的ではない。
そこで、本発明者らは、十分な耐熱性と接着性を有し、高分子量成分を熱硬化性樹脂との相溶性を向上するためメタクリル酸メチル及び/又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%含むランダム共重合体とした。このことで、重量平均分子量が10万以上である高分子量成分は、熱硬化性樹脂が硬化後も大きな海島構造を形成せず、優れた透明性を有することが可能となった。
【0124】
ここで、相分離構造を規定するのに、本発明になる接着剤組成物の必須成分である、(4)フィラーを加えないことは、相分離構造を各種の顕微鏡観察する際に、(4)フィラーの存在は障害となることと、本発明者らの検討によれば、シリカや酸化アルミニウムなど無機フィラーを用いた、多くの場合で、(4)フィラーは、反応誘起型相分解に大きな影響を与えないことがわかっているためである。
【0125】
また、本発明になる接着剤組成物には、材料間の界面の結合や濡れ性をよくするために、各種カップリング剤を前記の発明の効果を阻害しない範囲で添加することもできる。カップリング剤としては、特に制限はなく、シラン系、チタン系、アルミニウム系などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0126】
シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル−トリメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロイルオキシエトキシ)シラン等のメタクリロイルシラン類、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン等のエポキシ基含有シラン類、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エトキシ−エトキシ)シラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアミノプロピル−トリメトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾール−1−イル)−プロピルトリメトキシシラン、アミルトリクロロシラン等のアミノシラン類、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−メチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン類、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン等の尿素結合含有シラン類、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシランイソシアネート等のイソシアネート基含有シラン類、3−クロロプロピル−メチルジメトキシシラン、3−クロロプロピル−ジメトキシシラン、3−シアノプロピル−トリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N−β(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0127】
シランカップリング剤は、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランがNUC A−187、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランがNUC A−189、γ−アミノプロピルトリエトキシシランがNUC A−1100、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランがNUC A−1160、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランがNUC A−1120という商品名で、いずれも日本ユニカ−(株)から市販されている。
【0128】
チタン系カップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(n−アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアエチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テトラプロピルオルソチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、ステアリルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ−ビス(2,4−ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル−ビス−トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、テトラ−n−ブトキシチタンポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレートポリマー、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート等が挙げられる。
【0129】
アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセトアセテート、アルミニウム−ジ−イソ−プロポキシド−モノ−エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、アルミニウムイソプロピレート、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム−sec−ブチレート、アルミニウムエチレート等のアルミニウムアルコレートなどが挙げられる。
【0130】
これらのカップリング剤の中では、材料間の界面の結合や濡れ性を良くする意味で効果が高いシラン系カップリング剤を選択することが好ましい。但し、シラン系カップリング剤は、多くの場合シリカなどの無機フィラーと反応してアルコールを生成することが多く、生成されたアルコールは、接着シートを硬化時に揮発してボイドを生じる原因となるため、その添加量は、必要最小限とする必要があり、このため、本発明になる接着剤組成物の不揮発成分100重量部に対し、10重量部以下とするのが好ましく、6重量部以下とするのがより好ましく、3重量部以下とするのがさらに好ましい。
【0131】
また、本発明になる接着剤組成物には、イオン性不純物を吸着又は付着して吸湿時の絶縁信頼性をよくするために、各種イオン捕捉剤を前記の発明の効果を阻害しない範囲で添加することもできる。
【0132】
イオン捕捉剤としては、特に制限はなく、銅がイオン化して溶け出すのを防止するため銅害防止剤として知られる化合物、例えば、トリアジンチオール化合物、ビスフェノール系還元剤等や、ジルコニウム系、アンチモンビスマス系、マグネシウムアルミニウム化合物等の無機イオン吸着剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0133】
イオン捕捉剤の添加量は、その効果と耐熱性のバランスから、本発明になる接着剤組成物の不揮発成分100重量部に対し、1〜10重量部とするのが好ましい。
また、本発明になる接着剤組成物には、前記の発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、流動調整剤等の各種添加剤を添加することもできる。
【0134】
次に、本発明になる接着剤組成物の製造方法について説明する。
本発明になる接着剤組成物の製造方法は、本発明になる接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合すること以外に、特に制限はない。
本発明になる接着剤組成物となる成分の具体的な材料、調整方法は上述した通りである。
【0135】
各々の成分を均一に撹拌混合する方法については、特に制限はないが、例えば、デゾルバー、スタテックミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、プラネタリーミキサー、ミックスローター、万能撹拌機等の自転公転式撹拌機やライカイ機、3本ロール等の混練装置を用いる方法が挙げられ、適宜、組み合わせて用いることができる。ワニス状とした後は、ワニス中の気泡を除去することが好ましい。この意味で、自転公転式撹拌機は、混合、溶解と気泡の除去を同時に行うことができるため好適に用いられる。
【0136】
次に、本発明になる接着シートについて説明する。
本発明になる接着シートは、本発明になる接着剤組成物をシート状に形成して得られることを特徴とする。
【0137】
また、本発明になる接着シートは、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度を700〜3000Pa・sとすることで、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸に充てんすることを可能とし、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしを抑えることが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0138】
ずり粘度は、700Pa・s未満であると樹脂のはみだし量が大きくなり、3000Pa・sを超えるとワイヤなどの凹凸に充てんすることができなくなる。このような理由で、硬化前の100℃のずり粘度は、より好ましくは1000〜2800Pa・s、さらに好ましくは1500〜2500Pa・sの範囲とされる。
【0139】
一方、本発明になる接着シートのずり粘度は、硬化にともなう粘度上昇を100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上とすることで、硬化にともなう粘度上昇により硬化時のボイドの発生を押さえ込むことが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。このような理由で、100〜150℃の粘度上昇は、より好ましくは50万Pa・s以上、さらに好ましくは80万Pa・s以上とされる。
【0140】
ここで、硬化にともなう粘度上昇を100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上とは、硬化により上昇した150℃のずり粘度から硬化前の100℃のずり粘度を差し引いた値が10万Pa・s以上であることである。
【0141】
硬化前の接着シートのずり粘度は、平行平板プレート法によるずり弾性率の測定装置を用いることにより測定することができ、例えば、TAインスツルメンツ製ARESを用いて測定することができる。本発明においては、溶融粘度を評価する手段として、上述のような方法で測定される、ずり粘度を選択した。
【0142】
本発明になる接着シートは、硬化前の70℃での剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η1と、剪断速度100(s−1)、ひずみ量0.4%の条件で測定したずり粘度η2との比η1/η2が50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましく、40以下であることがさらにより好ましい。前記η1/η2が50超の場合、中空に固定された極細ワイヤのように凹凸周辺部のみに高い剪断速度がかかり、溶融粘度が低下しチップ端部から樹脂がはみ出してしまう傾向がある。
【0143】
ずり粘度η1とη2は、例えば、TAインスツルメンツ製ARESを用いて、ひずみ量0.4%、剪断速度0.1(s−1)又は剪断速度100(s−1)における粘度の周波数依存性を測定することにより求めることができる。η1/η2の値は、フィラーの配合量、フィラーの平均粒径などで調整することが可能である。フィラーの平均粒径を小さくするとη1/η2は大きくなるが、フィラーの平均粒径が0.05μm未満の場合は溶融粘度が上昇し過ぎる傾向がある。また、フィラーの粒径が5μm超えるとη1/η2が小さくなり、充てん性が悪化する傾向がある。
【0144】
本発明になる接着シートは、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下とすることで、硬化時のボイドの発生を抑えることが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0145】
加熱による重量減少は、接着シートに内部及び/又は表面に存在する、例えば、残存溶媒、低分子量不純物、反応生成物、分解生成物、材料由来の水分及び/又は表面吸着水などの揮発成分と考えられ、これに起因して接着シートを硬化させる際の加熱によって発泡し、はんだリフロー時に接着シートがはく離するという問題の原因となる。このような理由で、重量減少率は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0146】
重量減少率は、5cm角のアルミ箔を秤量(W1)し、4cm角に切り出した硬化前の接着シートを密着させて秤量(W2)する。これを220℃のオーブンに1時間入れた後に秤量(W3)し、次式に当てはめることで算出することができる。
【0147】
【数1】
【0148】
本発明になる接着シートは、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPaとすることで、耐熱性や耐リフロー性を満足し、接着シートの応力緩和効果によって被着体である半導体チップのクラックを抑制し、半導体チップ及び基板の反りを低減することが可能となる。このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。
【0149】
貯蔵弾性率が2000MPa未満であると、耐熱性や耐リフロー性が低下する傾向があり、貯蔵弾性率が4000MPaを超えると接着シートの応力緩和効果が低減し、半導体チップのクラックが発生したり、半導体チップ及び基板の反りが大きくなる傾向がある。このような理由で、硬化後の50℃の貯蔵弾性率の変化は、より好ましくは2200〜3800MPaの範囲とされる。
【0150】
さらに、本発明になる接着シートは、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化を3000MPa以下とすることで、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態であること又は(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下に調整することが可能であり、結果として接着剤組成物及び/又は接着シートの優れた流動性を発現することができる。
【0151】
このような特性を発揮する成分の処方は、上述した本発明になる接着剤組成物の通りである。これは、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPaを超える場合には、(1)エポキシ樹脂と、(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と明確に相分離していることにより、(2)高分子量成分のガラス転移温度の前後で貯蔵弾性率が大きく変化することによる。このような理由で、硬化後の0〜100℃の貯蔵弾性率の変化は、より好ましくは2000MPa以下とされる。
【0152】
硬化後の貯蔵弾性率の測定は、具体的には、例えば、硬化前の接着シートの接着層を、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、170℃で5時間硬化し、レオロジー社製、動的粘弾性測定装置DVE−V4を用いて(サンプルサイズ:長さ20mm、幅4mm、温度範囲−30〜200℃、昇温速度5℃/分及び引張りモード10Hz、自動静荷重)で行うことができる。
【0153】
接着シート単体の厚みが100μm未満である場合は、硬化前の接着シートを複数枚数貼り合わせて100〜300μmの厚さにすることで測定値が再現性よく得られる。
また、貼り合わせる温度はサンプルによって異なるが、測定中に貼り合わせ面においてはく離が生じないようにすればよく、接着シートの硬化が進まない60℃程度の温度で貼り合わせればよい。貼り合わせた後に上述のような条件で硬化して測定に供する。
【0154】
本発明になる接着シートは、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%とすることで、接着シートは、優れた流動性と貯蔵安定性を有することが可能となる。
【0155】
このような特性を発揮する成分の処方は、上記した本発明になる接着剤組成物の通りである。流動性と貯蔵安定性を向上する意味では、長さ変化は、大きいほど好ましいこととなるが、30%を超える場合には、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが生じてしまい好ましくない。このような理由で、長さ変化は、より好ましくは6〜28%、さらに好ましくは7〜26%の範囲とされる。
【0156】
この長さ変化の具体的な測定は、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートをPETフィルムで挟み込んで、40℃に調整した恒温槽で50時間保管した後、5mm角に打ち抜きこの対角線の長さL1を光学顕微鏡で測定しておく。この検体を、例えば、テスター産業株式会社製の熱圧着試験装置を用いて熱板温度120℃、圧力0.4MPaで3秒保持した後、同様に対角線の長さL2を光学顕微鏡で測定して、次式に当てはめることで算出することができる。
【0157】
【数2】
【0158】
本発明になる接着シートは、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度を、0.2〜2.0Nとすることで、接着シートは、室温付近での作業性に優れることが可能となる。
【0159】
室温でのタック強度が大きい場合、接着剤付き半導体チップのピックアップ時に接着シートが伸びながらはく離するため、その表面、特にチップ端部の接着剤が伸ばされる。その結果、貼り付け時には外縁部から貼り付きやすく、ボイドが発生し易い。
【0160】
一方、タック強度が小さい場合は、貼付時にチップが容易にはく離するため、好ましくない。
本発明の接着シートは、適度なタック強度を有するため、接着剤が若干、伸ばされながらはく離し、そのまま、貼付されるため、表面に適度に凹凸が生じ、大きなボイドが発生しない。
【0161】
タック強度は、0.2N未満であると仮接着などの作業がやり難くなると共に、接着シート付き半導体チップにおける凹凸を有する基板又は半導体チップに接着した後に、はく離し易い傾向があり、2.0Nを超えるとべたつきが増すため、保護フィルムや基材フィルムのはく離作業がやり難くなったりするなど、取り扱い作業性が低下する傾向があると共に、ウエハと接着シートとダイシングテープを張り合わせた状態で1か月以上の長期保管した場合に、接着シートとダイシングテープ間ではく離し難くなる傾向がある。
【0162】
このような理由で、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度は、より好ましくは0.3〜1.5N、さらに好ましくは0.5〜1.0Nの範囲とされる。
【0163】
このタック強度の具体的な測定は、硬化前の基材フィルム付き接着シートの塗工した上面のタック強度を、レスカ(株)製、プローブタッキング試験機を用いて、JIS Z0237−1991に準じ、プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/秒、接触荷重100gf/cm2及び接触時間1秒により測定することができる。
【0164】
なお、本発明になる接着シートは、配線やワイヤに起因する凹凸の充てんのみだけでなく、種々の形状の凹凸部の充てんでも同様の効果を奏する。
本発明になる接着シートの充填性とバリア性は、高さ/幅(アスペクト比)が1以上である凸部又は中空配線の充てんに使用する場合に顕著な効果を発揮し、アスペクト比が1.5以上の凸部の充填に使用する場合に特に顕著な効果を発揮する。
【0165】
アスペクト比が大きい凸部の場合、充てんがより困難になるため、溶融粘度を低減すると、接着シート端部での樹脂のはみだしが大きくなり、端部の端子を汚染するなどの問題が生じていた。
なお、高さ/幅は凸部の最大幅、基板からの最大高さを測定して、計算する。この場合の幅は基板から10μm以上高い部分での最大値を取る。
【0166】
次に、本発明になる接着シートの製造方法について説明する。
本発明になる接着シートの製造方法は、本発明になる接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥すること以外に、特に制限はない。
【0167】
本発明になる接着剤組成物の(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分、(3)フェノール樹脂、(4)フィラーからなる必須成分及びその他の成分を(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とし、基材フィルム上に塗布後、送風、加熱し溶剤を乾燥除去する方法が簡便であり好適である。
【0168】
この基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、全芳香族ポリエステルフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマーフィルム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマーフィルム、テトラフルオロエレチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマーフィルム等のプラスチックフィルムを使用することができ、これらのプラスチックフィルムは表面を離型処理して使用することもできる。
【0169】
上記の基材フィルムは、使用時にはく離して接着剤層のみを使用することができ、また基材フィルムと共に使用し、後で除去することもできる。このような理由により、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
【0170】
また、本発明になる接着剤組成物を、上述の基材フィルムに塗布、乾燥した後、接着剤組成物の上に保護フィルムを積層して用いることは、接着シートの取扱いを容易にするため好ましい。
【0171】
上記の保護フィルムとしては、前記基材フィルムと同様なものを使用することができる。これらの中で、生産性が高いロールコート法などで、本発明になる接着シートを巻き取りする場合には、ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べ柔軟性に富むポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルムが好適に用いられる。
【0172】
また、基材フィルムと保護フィルムを選択する際には、本発明になる接着シートが硬化前には、基材フィルム及び保護フィルムと適度に粘着し、且つ、はがし易い適度な粘着力が得られるものであり、さらにそれぞれの粘着力は、基材フィルムの方が保護フィルムより強いものを選択することが求められる。
【0173】
基材フィルム及び保護フィルムと接着シートの粘着力が、低過ぎると輸送中にはがれるおそれがあり、高過ぎるとはがす作業がやり難く問題となる。
また、基材フィルム及び保護フィルムと接着シートの粘着力は、基材フィルムの方が保護フィルムより強いことで、接着シートを基材フィルムに残したまま容易に保護フィルムをはく離することができる。
【0174】
そのため、上記のように、例えば、保護フィルムにポリオレフィンフィルムを選択し、基材フィルムは、この保護フィルムと本発明になる接着シートの硬化前の粘着力に比べ、やや強い粘着力となるような離型処理を選択する方法が好適に用いられる。
本発明になる接着シートは、この選定が容易にできることも長所のひとつである。
【0175】
基材フィルムへの本発明になる接着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、カーテンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ドクターブレードコート法、スプレーコート法、超音波コート法、インクジェットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できる。これらの中でも、生産性が高く、厚さが均一な精密塗工が可能な、コンマブレードやキスタッチのロールコート法が好適である。
【0176】
本発明になる接着シートの厚みは、特に制限はないが、基板の配線回路や下層の半導体チップに付設された金ワイヤなどの凹凸を充てん可能とするため、好ましくは10〜250μmの範囲とされる。10μm未満であると応力緩和効果が乏しく、接着性が低下する傾向があり、250μmを超えると半導体装置の小型化の要求に応えられない可能性があるとともに、生産性の高いロールコート法では巻き取り時に乾燥した接着剤組成物が幅方向に流れ出しやすくなり塗工できない場合がある。このような理由で、より好ましくは20〜100μm、さらに好ましくは40〜80μmの範囲とされる。
【0177】
本発明になる接着シートは、所望の厚さを得るために2枚以上を貼り合わせることもできる。上記の方法による場合には、接着シート間に気泡が入り込まないようにすることが必要である。
【0178】
また、本発明になる接着剤組成物をフィルム状に塗布した後、乾燥する温度には、特に制限はないが、(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とした場合には、使用した(5)有機溶媒の沸点の10〜50℃以下とすることが、乾燥時に本発明になる接着シートに(5)有機溶媒の発泡による気泡を作らない意味で好ましい。このような理由で、より好ましくは15〜45℃以下、さらに好ましくは20〜40℃以下の範囲とされる。
【0179】
また、(5)有機溶媒に溶解又は分散してワニス状とした場合には、特に(5)有機溶媒の残存量をできるだけ少なくすることが、本発明になる接着シートの硬化後の(5)有機溶媒の発泡による気泡を作らない点で好ましい。
【0180】
具体的には、上記のように硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率がその外の揮発成分とあわせて1.0%以下とすることで、硬化時のボイドの発生を抑えることが可能となる。上記の加熱乾燥を行う時間は、使用した(5)有機溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常60〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行う。
【0181】
また、接着剤組成物を上記の基材フィルムに塗布、乾燥した後、該接着シートを基材フィルム上に形成し、この接着シートをコア材の両面に貼り合せることによりコア材の両面に接着シートを形成した場合には、基材フィルムを保護フィルムとして用いることもできる。
【0182】
この他、コア材に形成する方法としては、本発明になる接着剤組成物をコア材となるフィルムの両面に塗布、乾燥する方法も適用でき、塗布方法としては上述の基材フィルムへの本発明になる接着剤組成物の塗布方法と同様な方法が適用できる。
このようなコア材の厚みについては、特に制限はないが、好ましくは5〜200μmの範囲内とされる。
【0183】
このように、本発明になる接着シートは、多層構造を有する多層接着シートとして用いてもよく、例えば、上記した接着シートを2枚以上ラミネートしたもの、本発明の接着シートとそれ以外の接着シートを複数ラミネートしたものとして用いてもよい。
コア材の両面に本発明になる接着シートを形成した場合には、接着シート同士の接触により貼り付かないように保護フィルムで表面を保護することが好ましい。
【0184】
次に、本発明になる一体型シートについて説明する。
本発明になる一体型シートは、本発明になる接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする。このような一体型シートを用いることで、ウエハへのラミネート工程が一回で済む点で、半導体パッケージの製造プロセスの効率化が可能である。
【0185】
本発明になる一体型シートに用いられるダイシングテープは、公知のダイシングテープを用いることができる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0186】
また、ダイシングテープは、必要に応じてプライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理を行ってもよい。ダイシングテープは粘着性を有することが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを用いてもよく、上記のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けてもよい。これは、樹脂組成物において特に液状成分の比率、高分子量成分のTgを調整することによって得られる適度なタック強度を有する樹脂組成物を塗布乾燥することで形成可能である。
【0187】
次に、本発明になる一体型シートの製造方法について説明する。
本発明になる一体型シートの製造方法は、予めウエハ形状に形成した本発明になる接着シートとダイシングテープとを貼り合わせること以外に、特に制限はない。接着シートを予めウエハ形状に形成するする方法としては、予め別のフィルム上に本発明になる接着剤組成物を塗工、乾燥しシート状接着剤を形成し、これをウエハ形状に打ち抜き加工する方法が挙げられる。
【0188】
ダイシングテープ上に接着シートを積層する方法としては、印刷のほか、予め作成した接着シートをダイシングテープ上にプレス、ホットロールラミネートする方法が挙げられるが、連続的に製造でき、効率が良い点でホットロールラミネートする方法が好ましい。
【0189】
なお、ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、接着シートの膜厚やダイシングテープ一体型シートの用途によって適宜、当業者の知識に基づいて定められるものであるが、例えば、経済性がよく、フィルムの取扱い性が良い点で60〜150μm、好ましくは70〜130μmの範囲である。
【0190】
次に、本発明になる半導体装置及びこの製造方法について説明する。
本発明になる半導体装置の製造方法は、ウエハ、本発明になる接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含むことを特徴とする。
【0191】
本発明になる半導体装置の製造方法に用いるウエハとしては、単結晶シリコンの他、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素等の化合物半導体などが挙げられる。
接着シートをウエハに貼り付ける温度、即ち、ラミネート温度は、通常0〜120℃である。0℃未満では接着シートが十分な粘着性を発揮できない場合があり、120℃を超えると接着シートを貼り付け後のウエハの反りが大きくなる傾向がある。この意味で、より好ましくは15〜80℃であり、さらに好ましくは20〜70℃の範囲とされる。
【0192】
ウエハ、接着シート及びダイシングテープを同時に切断する方法は、回転刃、レーザーなどが好適に用いられる。
また、ダイシングテープは、一部のみを切断して溝を形成し、切り離されない場合もある。
【0193】
また、構造を多層化し、特に、流動性の低い層と高い層を積層した接着シート又は溶融粘度の高い層と低い層を積層した接着シートは、配線回路及びワイヤの充てん性と上下の半導体チップとの絶縁性に優れるので好ましい。
【0194】
接着シートを単層で用いる場合には、ウエハに接着シートを貼り合わせた後、次いで接着シート面にダイシングテープを貼り合わせればよい。
また、接着シートを多層で用いる場合には、ウエハに第1の接着シート、第2の接着シートを順に貼り合わせてもよく、予め第1の接着シート及び第2の接着シートを含む多層接着シートを作製しておき、当該多層接着シートをウエハに貼り合わせてもよい。
【0195】
図1に、本発明の一実施態様である接着シートb、半導体ウエハA及びダンシングテープ1の断面図を示す。
次いで、接着シート、ダイシングテープが貼り付けられた半導体ウエハを、ダイシングカッターを用いてダイシング、さらに洗浄、乾燥した後、図2に示すようにピックアップなどにより接着シートとダイシングテープ間で剥離して、接着シート付き半導体チップを得ることができる。
【0196】
接着シート付き半導体チップをピックアップするには、ダイシングの後、ダイシングテープにUV光を照射し、ダイシングテープの粘着性を低下せしめた後、吸着コレットなどにより、垂直方向にピックアップする方法が好適に用いられる。
また、他の実施態様として、本発明の接着シートは、図3に示すように基材フィルム5の上に接着シートbを設けた基材フィルム付き接着シートとして用いてもよい。
【0197】
このようにすれば、接着シート単体では扱いにくい場合でも便利であり、例えば、図3に示す構造の基材フィルム付き接着シートの接着シートbと上述のダイシングテープ1を貼り合わせた後、基材フィルム5を剥離し、接着シートbと半導体ウエハAを貼り合わせることで、容易に図1のような構造とすることができる。基材フィルム5は、ダイシングテープや半導体ウエハなどに貼り付けた後、基材フィルム5を剥離しないでそのままカバーフィルムとして使用することも可能である。
【0198】
また、本発明になる接着シートは、図4に示すように多層接着シートが第2の接着シートb’、第1の接着シートaの順に基材フィルム上に設けられた基材フィルム付き接着シートとして用いてもよい。
【0199】
また、第1の接着シートa、第2の接着シートb’の順に基材フィルム上に積層されていてもよい。これらの層の構成は接着シートの使用態様などにより適宜選択される。
さらに、他の実施態様として、本発明の接着シートは、図3及び図4に示す構造で、且つ接着シート自体がダイシングテープとしての役割を果たしてもよい。
【0200】
このような接着シートは、ダイシングダイボンド一体型接着シートなどと呼ばれ、一つのシートでダイシングテープとしての役割と、接着シートとしての役割を果たすので、図2のように、ダイシングしてピックアップするだけで接着シート付き半導体チップを得ることができる。
【0201】
接着シートにこのような機能を持たせるには、例えば、接着シートが、光硬化性高分子量成分、光硬化性モノマー、光開始剤等の光硬化性成分を含んでいればよい。このようなダイシングダイボンド一体型の接着シートは、半導体チップを基板又は半導体チップに接着する段階では光照射が行われており、本発明でいう硬化前の動的粘弾性測定による貯蔵弾性率などのそれぞれの値は、光照射を行った後であり、熱硬化が行われる前の段階における値を指す。
【0202】
また、本発明の接着シート又は多層接着シートと、ダイシングテープとを備えるダイシングテープ一体型接着シートを用いることにより、半導体装置を製造することもできる。
この、本発明になる半導体装置の製造方法は、ウエハと本発明になる一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含むことを特徴とする。
【0203】
本発明になる半導体装置の製造方法に用いる一体型シートをウエハに貼り付ける温度、ウエハと一体型シートを同時に切断する方法は、上記のウエハ、接着シート及びダイシングテープを張り合わせたものと同様にすればよい。
また、ダイシングテープ1は、図2に示すように、一部のみを切断して溝を形成し、切り離されない場合もある。
【0204】
図5は、接着シート付き半導体チップをワイヤボンディングされた半導体チップに接着する際の工程の一例を示す概略図である。
図5に示すように、得られた接着シート付き半導体チップA1は、配線4に起因する凹凸を有する基板3又はワイヤ2に起因する凹凸を有する半導体チップに、接着シートb1を介して荷重0.001〜1MPaで接着され、接着シートにより凹凸が充てんされる。
【0205】
荷重は、0.001MPa未満である場合は、ボイドが発生し耐熱性が低下する傾向があり、1MPaを超えると半導体チップが破損する傾向がある。良好に充てんする意味で、荷重は0.01〜0.5MPaであることが好ましく、0.01〜0.3MPaであることがより好ましい。
【0206】
本発明においては、接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに接着する際に、基板の配線、半導体チップのワイヤなどに起因する凹凸を加熱することが好ましい。
【0207】
加熱温度は60〜240℃であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃未満である場合は、接着性が低下する傾向があり、240℃を超える場合は、基板が変形し、反りが大きくなる傾向がある。
【0208】
加熱方法としては、凹凸を有する基板又は半導体チップを予め加熱した熱板に接触させる方法、凹凸を有する基板又は半導体チップに赤外線又はマイクロ波を照射する方法、凹凸を有する基板又は半導体チップに熱風を吹きかける方法等が挙げられる。
本発明においては、特定の樹脂組成を有する接着シートは配線回路及びワイヤの充てん性と上下の半導体チップとの絶縁性に優れる。
【0209】
また、本発明の接着シートは、配線回路及びワイヤの凹凸部の充てん性が良好である。
また、半導体装置の製造において、ウエハと接着シートを同時に切断するダイシング工程でダイシングの速度を速くすることができる。そのため、本発明の接着シートによれば、半導体装置の歩留の向上、製造速度の向上をはかることが可能となる。
【0210】
さらに、本発明の接着シートは、半導体装置の製造における半導体チップと基板や下層の半導体チップなどの支持部材との接着工程において、接着信頼性に優れる接着シートとして使用することができる。即ち、本発明の接着シートは、半導体搭載用支持部材に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性、絶縁性を有し、かつ、作業性に優れるものである。
【0211】
この半導体装置の製造方法では、ダイシング時には半導体チップが飛散しない粘着力を有し、その後ピックアップ時にはダイシングテープから接着シート付き半導体チップをはく離することが望まれる。例えば、接着シートの粘着性が高過ぎるとピックアップが困難になることがある。そのため、適宜、接着シートのタック強度を調節することが好ましく、その方法としては、粘着付与成分の含有量を調整する方法がなどある。
【0212】
前記粘着付与成分としては、例えば、公知、市販のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系、ゴム系、アクリル系等のタッキファイヤーの他、単官能のアクリルモノマー、単官能エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂類、ロジンエステル類等が挙げられる。
【0213】
また、本発明においては、接着シート付き半導体チップを基板又は半導体チップに接着する際に、基板の配線、半導体チップのワイヤなどの凹凸を加熱することが好ましい。接着時の温度は、60〜240℃であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましい。接着時の温度が60℃未満であると、濡れ性が低下するため接着性が不足し、240℃を超えると基板が変形し、反りが大きくなる傾向がある。
【0214】
加熱方法としては、基板又は半導体チップを予め加熱した熱板に接触させるか若しくは基板又は半導体チップに赤外線又はマイクロ波を照射する、熱風を吹きかけるなどの方法が挙げられる。
【0215】
ここで、本発明になる半導体装置は、上記のような半導体装置の製造方法により製造したものである。
特に、本発明になる半導体装置は、基板に本発明になる接着シートを用いて接着、硬化した半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形していることが、凸なる湾曲に応じて樹脂が流動、充てん可能な点で好ましい。
【0216】
半導体チップと基板又は半導体チップと半導体チップとを接着してなる半導体装置において、接着シートと相対する被着体(即ち半導体チップ)の表面が凸に変形して、被着体が接着シートの内部から外縁部に接することが好ましい。
【0217】
凸変形の程度は、120℃で、10μmから最大200μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
凸にする方法としては、接着シートの硬化収縮に起因するそりを利用することが好ましい。
【0218】
また、貼付温度から、室温に戻る過程で基板の熱膨張係数がチップの熱膨張係数より大きいことを利用して、そりを発生させることも可能であり、その効果を併用することが好ましい。
【0219】
図6に、凸に変形している基板及び半導体チップの状態と、この半導体チップの上に積層する接着シート付き半導体チップとの概略図を示す。詳しくは、図6は、凸に変形した状態及び凸に変形した量の測定方法を説明するための概略図である。
【0220】
なお、凸に変形した量は、Hとして示してある。この凸に変形した量Hは、上記のようにして接着シート付き半導体チップを基板又は半導体チップに貼り付けた後の半導体チップを、120℃に加温し、表面粗さ計を用いて半導体チップ表面の凹凸を測定して、半導体チップ周辺部に対する中央部分の高さを求めることで測定できる。
【0221】
図6のようにして、凸に変形した半導体チップに接着シートを介して半導体チップを接着する場合、本発明になる接着シートの溶融粘度の値が小さ過ぎると、樹脂のはみ出しが大きく、大き過ぎると充てん性や接着性が低下するため好ましくない。
【実施例】
【0222】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、以下の配合及び評価は、特に表記がない場合には室温18〜25℃の大気中において行った。
【0223】
各成分及び接着剤組成物の濃度の調整は、(4)有機溶媒として和光純薬工業(株)製のシクロヘキサノン試薬一級を用いた。
また、各成分及び接着剤組成物の、攪拌、溶解及び脱泡は、(株)シンキー製、自転公転式撹拌機、商品名:あわとり錬太郎ARE−250を用いて、2000min−1で3分、さらに2200min−1で2分、回転させることで行った。
【0224】
各成分の評価は、下記の方法で行った。
重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン、カラム:昭光通商(株) Shodex GPC AD806MS、検出器:RI、標準ポリスチレン換算)を用いて測定した。
【0225】
(2)高分子量成分のIR測定は、(2)高分子量成分を乾燥させその固形分をKBr錠剤法により測定した。IRスペクトルの縦軸を吸光度、横軸を波数とし、ニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク(PCN)強度とカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク(PCO)強度の比(PCO/PCN)を算出した。
【0226】
接着シートは、基材フィルムとして帝人デュポンフィルム株式会社製、離型処理された厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム、商品名:ピューレックスA53の離型処理面に、得られた接着剤組成物を、アプリケータを用いて乾燥後の接着シートの厚さが60μmとなるように塗布し、オーブンで120℃、15分乾燥させて得た。
【実施例1】
【0227】
(1)エポキシ樹脂として、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂〔エポキシ当量156g/eq、東都化成(株)製、商品名:YDF−8170C〕24.2重量部及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂〔エポキシ当量209g/eq、東都化成(株)製、商品名:YDCN−703〕8.1重量部を、シクロヘキサノン5.4重量部で溶解し、濃度85.7重量%のエポキシ樹脂溶液(A1)を得た。
【0228】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチル43.5重量%、アクリル酸エチル18.3重量%及びアクリル酸ブチル35.8重量%で、重量平均分子量が60万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度17重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B1)を得た。
【0229】
(3)フェノール樹脂として、軟化点76℃のフェノールアラルキル樹脂〔水酸基当量174g/eq、三井化学(株)製、商品名:ミレックスXLC−LL〕が濃度60重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、フェノール樹脂溶液(C1)を得た。
【0230】
(4)フィラーとして、5μm以上の粒子をトップカットした平均粒径0.8μm、球状シリカの濃度60重量%シクロヘキサノンスラリー〔(株)アドマテックス製、商品名:アドマファインSC−2050〕を、フィラースラリー(D1)として準備した。
【0231】
また、硬化促進剤として、1−シアノ−1−フェニルイミダゾール〔四国化成工業(株)製、商品名:キュアゾール2PZ−CN〕が濃度12重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、イミダゾール化合物溶液(E1)を得た。
【0232】
カップリング剤として、濃度50重量%の(株)タナック製、シランカップリング剤、商品名:SILQUEST A−1160SILANEをカップリング剤(F1)として準備した。
【0233】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、エポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、高分子量成分溶液(B1)10.4g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S1)を得た。
得られた接着剤組成物(S1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS1)を得た。
【0234】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、エポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、高分子量成分溶液(B1)10.4g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J1)を得た。
得られた接着剤組成物(J1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF1)を得た。
【実施例2】
【0235】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチル43.5重量%、アクリル酸エチル18.3重量%及びアクリル酸ブチル35.8重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B2)を得た。
【0236】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S2)を得た。
得られた接着剤組成物(S2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS2)を得た。
【0237】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、フィラースラリー(D1)8.49g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J2)を得た。
得られた接着剤組成物(J2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF2)を得た。
【実施例3】
【0238】
(2)高分子量成分として、グリシジルメタクリレート2.4重量%、メタクリル酸メチルを21.8重量%、メタクリル酸エチル21.8重量%、アクリル酸エチル41.8重量%及びアクリル酸ブチル12.2重量%で、重量平均分子量が70万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを濃度17重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B3)を得た。
【0239】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B3)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S3)を得た。
得られた接着剤組成物(S3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS3)を得た。
【0240】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B2)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J3)を得た。
得られた接着剤組成物(J3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF3)を得た。
【実施例4】
【0241】
(3)フェノール樹脂として、軟化点130℃のビスフェノールAノボラック樹脂〔水酸基当量118g/eq、DIC(株)製、商品名:フェノライトLF2882〕が濃度60重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、フェノール樹脂溶液(C2)を得た。
【0242】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、フェノール樹脂溶液(C2)5.82g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備した、エポキシ樹脂溶液(A1)5.76g、高分子量成分溶液(B1)10.5g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.425g及びカップリング剤(F1)0.0637gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(S4)を得た。
得られた接着剤組成物(S4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(JS4)を得た。
【0243】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、フェノール樹脂溶液(C2)5.82g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.76g、高分子量成分溶液(B1)10.5g、フィラースラリー(D1)7.44g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.425g及びカップリング剤(F1)0.0637gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(J4)を得た。
得られた接着剤組成物(J4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(JF4)を得た。
【0244】
(比較例1)
(2)高分子量成分として、アクリロニトリルを30重量%、グリシジルメタクリレート3重量%を含み、メタクリル酸メチルを含まない、重量平均分子量が80万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.01以上のエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体であるナガセケムテックス(株)製、商品名:HTR−860P−3を12重量%となるようにシクロヘキサノンで調整して高分子量成分溶液(B4)を得た。
【0245】
カップリング剤として、(株)タナック製、シランカップリング剤、商品名:SILQUEST A−189SILANEをカップリング剤(F2)として準備した。
次に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B4)14.4g、カップリング剤(F2)0.0242g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備した、エポキシ樹脂溶液(A1)4.37g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.0806g、カップリング剤(F1)0.0968g及び実施例4で得たフェノール樹脂溶液(C2)4.42gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I1)を得た。
得られた接着剤組成物(I1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS1)を得た。
【0246】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B4)14.4g、カップリング剤(F2)0.0242g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.37g、フィラースラリー(D1)6.58g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.0806g、カップリング剤(F1)0.0968g及び実施例4で得られ、かつ、実施例4で準備した、フェノール樹脂溶液(C2)4.42gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H1)を得た。
得られた接着剤組成物(H1)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF1)を得た。
【0247】
(比較例2)
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.14g、フェノール樹脂溶液(C1)6.19g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.366g、カップリング剤(F1)0.0550g及び比較例1で得た高分子量成分溶液(B4)12.8gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I2)を得た。
得られた接着剤組成物(I2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS2)を得た。
【0248】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.14g、フェノール樹脂溶液(C1)6.19g、フィラースラリー(D1)6.41g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.366g、カップリング剤(F1)0.0550g及び比較例1で得た高分子量成分溶液(B4)12.8gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H2)を得た。
得られた接着剤組成物(H2)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF2)を得た。
【0249】
(比較例3)
(2)高分子量成分として、メタクリル酸メチル44.6重量%、アクリル酸エチル18.7重量%及びアクリル酸ブチル36.7重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.006以下のアクリル系ランダム共重合体を合成し、これを20重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B5)を得た。
【0250】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B5)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I3)を得た。
得られた接着剤組成物(I3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS3)を得た。
【0251】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B5)7.27g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.48g、フェノール樹脂溶液(C1)8.20g、フィラースラリー(D1)8.49g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.485g及びカップリング剤(F1)0.0727gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H3)を得た。
得られた接着剤組成物(H3)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF3)を得た。
【0252】
(比較例4)
(2)高分子量成分として、アクリロニトリルを30.4重量%、アクリル酸エチルが29.7重量%及びアクリル酸ブチル39.9重量%で、重量平均分子量が40万、ガラス転移温度が5℃以上、PCO/PCNが0.01以上アクリル系ランダム共重合体を合成し、これを20重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解し、これを濃度28重量%となるようにシクロヘキサノンで溶解して高分子量成分溶液(B6)を得た。
【0253】
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B6)10.4g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I4)を得た。
得られた接着剤組成物(I4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS4)を得た。
【0254】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、高分子量成分溶液(B6)10.4g、と実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)4.74g、フェノール樹脂溶液(C1)7.08g、フィラースラリー(D1)7.34g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.419g及びカップリング剤(F1)0.0629gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H4)を得た。
得られた接着剤組成物(H4)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF4)を得た。
【0255】
(比較例5)
硬化剤として、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(酸無水物当量164g/eq、日立化成工業(株)製、商品名:HN−7000)硬化剤(C3)として準備した。
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、硬化剤(C3)8.10g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.39g、高分子量成分溶液(B1)11.4g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.463g及びカップリング剤(F1)0.0694gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I5)を得た。
得られた接着剤組成物(I5)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS5)を得た。
【0256】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、硬化剤(C3)8.10g、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)5.39g、高分子量成分溶液(B1)11.4g、フィラースラリー(D1)8.10g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.463g及びカップリング剤(F1)0.0694gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H5)を得た。
得られた接着剤組成物(H5)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF5)を得た。
【0257】
(比較例6)
キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)2.07g、高分子量成分溶液(B1)21.4g、フェノール樹脂溶液(C1)3.10g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.183g及びカップリング剤(F1)0.0275gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、フィラーなしの接着剤組成物(I6)を得た。
得られた接着剤組成物(I6)を塗布、乾燥して、厚さ60μmのフィラーなしの接着シート(HS6)を得た。
【0258】
上記と同様に、キャップを備えた50mlのポリプロピレン容器に、実施例1で得られ、かつ、実施例1で準備したエポキシ樹脂溶液(A1)2.07g、高分子量成分溶液(B1)21.4g、フェノール樹脂溶液(C1)3.10g、フィラースラリー(D1)3.21g、イミダゾール化合物溶液(E1)0.183g及びカップリング剤(F1)0.0275gを加え、攪拌、溶解、脱泡し、接着剤組成物(H6)を得た。
得られた接着剤組成物(H6)を塗布、乾燥して、厚さ60μmの接着シート(HF6)を得た。
【0259】
(比較例7)
実施例1で得たフィラーなしの接着シート(JS1)を、接着シート(HF7)として評価した。
【0260】
上記実施例1〜3並びに比較例1、3及び4で得られた(2)高分子量成分の評価結果を表1に示す。
【0261】
【表1】
【0262】
次に、接着剤組成物の評価を、下記の方法で行った。
接着剤組成物の相溶混合状態は、フィラーなしの接着剤組成物を直径20mmの無色透明な試験管に入れて、目視で観察し、濁りや分離の有無を評価した。
実施例1〜実施例4のS1〜S4及び比較例1〜比較例6のI1〜I6のいずれの接着剤組成物とも、濁りや分離がなく、均一に相溶混合されていた。
【0263】
また、フィラー有りの実施例1〜実施例4並びに比較例1〜比較例6の接着シート及びフィラーなしの比較例7の接着シート(HF7)の評価は、下記の方法で行った。その評価結果を表2及び表3に示す。
【0264】
(相分離状態)
硬化前の接着シートが相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態の評価、即ち、硬化前の相分離状態の評価は、接着シートの基材フィルムの反対側の表面にプラチナ蒸着させ、走査型電子顕微鏡で観察する方法で行った。
【0265】
硬化後の接着シートの相分離状態の評価する方法は、基材フィルム付きの硬化前の接着シートを、オーブンで170℃、5時間硬化させて、接着シートの基材フィルムの反対側の表面にプラチナ蒸着させ、走査型電子顕微鏡で観察する方法で行った。ここで、島相の大きさは、観察された島相をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値を求めた。
【0266】
観察結果の一例として、実施例1で得た硬化前のJS1の観察結果を図7に、比較例1で得た硬化前のHS1の観察結果を図8に、実施例1で得た硬化後のJS1の観察結果を図9に及び比較例1で得た硬化後のHS1の観察結果を図10に示す。
【0267】
(タック強度)
基材フィルム付きの硬化前の接着シートの基材フィルムの反対側の表面のタック強度を、レスカ(株)製プローブタッキング試験機を用いて、JIS Z0237−1991に記載の方法(プローブ直径5.1mm、引き剥がし速度10mm/s、接触荷重100gf/cm2、接触時間1秒)により、40℃で測定した。タック強度が0.2N未満を−×、0.2〜2.0Nを○、2.0Nを超えたものを+×として評価した。
【0268】
(重量減少率)
重量減少率は、5cm角のアルミ箔を秤量(W1)し、4cm角に切り出した硬化前の接着シートを密着させて秤量(W2)した。これを180℃のオーブンに1時間入れた後に秤量(W3)し、次式により算出した。
【0269】
【数3】
重量減少率が1.0%以下を○とし、1.0%を超えたものを×として評価した。
【0270】
(ずり粘度)
硬化前の接着シートのずり粘度は、硬化前の接着シートを二枚重ねにして平行平板プレート法によるずり弾性率の測定装置、TAインスツルメンツ製ARESを用いて、ひずみ量1.0(%)、剪断速度0.1(s−1)、昇温速度5℃/分の条件で30〜200℃の範囲で測定し、100℃と150℃のずり粘度を求めた。100℃のずり粘度が、700Pa・s未満を−×、700〜3000Pa・sを○、3000Pa・sを超えたものを+×として、また100〜150℃のずり粘度の変化、即ち、150℃のずり粘度から100℃のずり粘度をひいた値が、10万Pa・s未満を×とし、10万Pa・s以上を○として評価した。
【0271】
(フロー率)
流動性の評価のひとつとして、硬化前の接着シートをPETフィルムで挟み込んで、40℃に調整した恒温槽で50時間保管した後、5mm角に打ち抜きこの対角線の長さL1を光学顕微鏡で測定しておいた後、この検体を、テスター産業(株)製の熱圧着試験装置を用いて熱板温度120℃、圧力0.4MPaで3秒保持し、同様に対角線の長さL2を光学顕微鏡で測定して、次式(2)に当てはめて算出した。ここで、この値をフロー率と称することとする。
【0272】
【数4】
フロー率が、5%未満を−×、5〜30%を○とし、30%を超えたものを+×として評価した。
【0273】
(ダイシング性)
半導体ウエハ(厚さ80μm)に接着シートを60℃でラミネートし、端部を切断した。ダイシングテープ〔古河電工(株)製、商品名:UC3004M−80、膜厚100μm〕を接着シート側に積層し、ホットロールラミネータ(Du Pont製、Riston)を用いて25℃でラミネートした後、ウエハ、接着シート、ダイシングテープを同時に回転刃式のダイシングカッターを用いてダイシングして、水で洗浄後、乾燥を行い、切断後にできたダイシングテープの溝に、切断屑(樹脂ばり)が付着するかどうかを観察した。樹脂ばりが、ないものを○とし、あるものを×として評価した。
【0274】
(ワイヤ充てん性、樹脂のはみだし性)
ダイシング性の評価と同様に、ダイシングして、水で洗浄後、乾燥を行った後、ピックアップによりダイシングテープを剥離して半導体チップ付き接着シートを得た。この半導体チップ上に高さ60μmになるように金ワイヤ(直径25μm)を布線した半導体チップを0.05MPa、1秒、130℃の条件で貼り合せた検体を半導体チップ中央部の断面を研磨し、光学顕微鏡でボイドの有無、チップ端部からの樹脂のはみだし長さを観察、測定した。充てん性は、試験した10個の検体のすべてに直径300μm以上のボイドのないものを○、ひとつでもボイドのあるものを×として評価した。また樹脂のはみだし性は、試験した10個の検体の平均の樹脂のはみだし長さが150μmを超えるものを×とし、150μm以下のものを○とした。
【0275】
(貯蔵弾性率)
硬化後の接着シートの貯蔵弾性率は、硬化前の接着シートを二枚重ねにして、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、さらに170℃で5時間硬化して、長さが20mm及び幅が4mmの検体を動的粘弾性の測定装置、TAインスツルメンツ製RSA IIを用いて、ひずみ量0.01(%)、一定周波数10.0(s−1)、昇温速度5℃/分の条件で−50〜150℃の範囲で測定し、0℃、50℃及び100℃の貯蔵弾性率を求めた。50℃の貯蔵弾性率が、2000MPa未満を−×、2000〜4000MPaを○、4000MPaを超えたものを+×として、また0〜100℃の貯蔵弾性率の変化、即ち、0℃の貯蔵弾性率から100℃の貯蔵弾性率をひいた値が、3000MPaを超えるものを×とし、3000MPa以下を○として評価した。
【0276】
(発泡性)
硬化後の接着シートを厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで挟み込むようにラミネートし、140℃で15分さらに170℃で20分硬化し、光学顕微鏡で泡の大きさを観察された泡をはさむ一定方向の二本の平行線の間隔(Feret径)で計測される値の平均値として求めた。泡の大きさが、0.07mmを超えるものを×とし、0.07mm以下を○として評価した。
観察結果の一例として、実施例1で得た硬化前のJF1の観察結果を図11に、比較例1で得た硬化前のHF1の観察結果を図12に示す。
【0277】
(吸湿耐リフロークラック性、耐温度サイクル性)
ワイヤ充てん性、樹脂のはみだし性で得た、半導体チップ付き接着シートと、厚み25μmのポリイミドフィルムを基材に用いた高さ10μmの凹凸を有する配線基板を0.05MPa、1秒、130℃の条件で貼り合せた半導体装置サンプル(片面にはんだボールを形成)を作製し、吸湿耐リフロークラック性、耐温度サイクル性を調べた。
【0278】
吸湿耐リフロークラック性は、半導体装置サンプルを85℃相対湿度60%の環境に168時間放置した後、サンプル表面の最高温度が260℃でこの温度を20秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通し、室温で放置することにより冷却する処理を2回繰り返したサンプル中のクラックを、目視と超音波顕微鏡で観察した。検体10個すべてでクラックの発生していないものを○とし、1個以上発生していたものを×として評価した。
【0279】
耐温度サイクル性は、サンプルを−55℃雰囲気に30分間放置し、その後125℃の雰囲気に30分間放置する工程を1サイクルとして、1000サイクル後において超音波顕微鏡を用いて剥離やクラックなどの破壊が検体10個すべてで発生していないものを○とし、1個以上発生したものを×として評価した。
【0280】
(凸に変形した量)
チップ又は基板表面の硬化後の反りの指標である凸に変形した量は、次のようにして測定した。
厚さ0.08mmで7mm角サイズのシリコンチップの片面に接着シートを介して基板(厚さ0.2mm、10mm角)に積層したサンプル(170℃、1時間、無荷重で硬化)について、シリコンチップの長さ(7mm)に渡って表面粗さ計(小坂研究所社製、SE2300)を用いて120℃において、シリコンチップ表面の凹凸を測定し、シリコンチップ周辺部に対する中央部分の高さを前記図6に示すようにして、凸に変形した量(H)とした。凸に変形した量(H)が、10μm未満を−×、10〜200μmを○、200μmを超えたものを+×として評価した。
【0281】
(耐電食性)
耐電食性は、ライン(L)アンドスペース(S)がL/S=30μm/70μmの銅配線くし型電極に接着シートを100℃、0.2MPaの条件で圧着させ、110℃で1時間、120℃で1時間、140℃で1時間、さらに170℃で5時間硬化した後、130℃で湿度85%RHの環境下で、5Vの電圧を100時間印加した。この操作を3つの検体で行い、イオンマイグレーションの発生の有無を光学顕微鏡で観察した。耐電食性は、イオンマイグレーションが3つすべてで発生していないものを○とし、1個以上発生したものを×として評価した。
【0282】
接着シートの評価結果の内、実施例1〜実施例4のJS1〜JS4及びJF1〜JF4を表2に、比較例1〜比較例6のHS1〜HS7及びHF1〜HF7を表3示す。
【0283】
【表2】
【0284】
【表3】
【0285】
表3に示すように比較例1〜7は、いずれかに不良があるのに対して、表2に示すように実施例1〜4は、いずれの評価項目も良好な結果を示していることが明らかである。
このように、本発明になる実施例1〜4は、基板の配線や、半導体チップに付設されたワイヤなどの凹凸を充てんでき、凹凸の充てん時にチップ端部からの樹脂のはみだしが少なく、ダイシング性に優れ、また耐電食性に優れ、室温付近でのタック強度が低く作業性に優れ、保存安定性に優れ、耐熱性や耐湿性を満足し、さらには、貼り付け時及び硬化時にボイドを生じ難くステップキュア工程が簡素化可能であると考えられ、本発明の上記特性と有する接着剤組成物、その製造方法、これを用いた接着シートを提供できる。
また、実施例1〜4の接着シートを用いた一体型シート、その製造方法、半導体装置及びその製造方法を提供可能である。
【符号の説明】
【0286】
A…半導体ウエハ、A1…半導体チップ、a…第1の接着シート、b…接着シート、b1…接着シート(接着剤)、b’…第2の接着シート、1…ダンシングテープ、2…ワイヤ、3…基板、4…配線、5…基材フィルム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合された接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下である請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
(2)高分子量成分が、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下である請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の(2)高分子量成分が、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを共重合成分とし、0.5〜10重量%を含むエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
(3)フェノール樹脂が、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
(3)フェノール樹脂が、フェノールアラルキル樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項8】
接着剤組成物が、さらに0.1〜0.5重量%の(6)イミダゾール化合物を含有する接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合することを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に形成して得られる接着シート。
【請求項11】
接着シートが、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度が700〜3000Pa・s、硬化にともなう粘度上昇が100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上である請求項10記載の接着シート。
【請求項12】
接着シートが、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下である請求項10又は11記載の接着シート。
【請求項13】
接着シートが、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPa、0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPa以下である請求項10〜12のいずれかに記載の接着シート。
【請求項14】
接着シートが、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%である請求項10〜13のいずれかに記載の接着シート。
【請求項15】
接着シートが、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度が、0.2〜2.0Nである請求項10〜14のいずれかに記載の接着シート。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥することを特徴とする接着シートの製造方法。
【請求項17】
請求項10〜15のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シート。
【請求項18】
予めウエハ形状に形成した請求項10〜15のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする一体型シートの製造方法。
【請求項19】
ウエハ、請求項10〜15のいずれかに記載の接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【請求項20】
ウエハと請求項17に記載の一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の半導体装置の製造方法により製造した半導体装置。
【請求項22】
半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形している請求項21記載の半導体装置。
【請求項1】
(1)二官能基以上のエポキシ樹脂、(2)官能基を含み、窒素含有特性基を含む共重合成分が1重量%以下であって、メタクリル酸メチル及び又はメタクリル酸エチルを20〜50重量%を含む、ガラス転移温度が0℃以上、重量平均分子量が10万以上のアクリル系ランダム共重合体である高分子量成分、(3)分子中に2個以上の水酸基を有するフェノール樹脂並びに(4)粒径5μm以上の粒子が0.01%以下で、平均粒径が0.8μm以下のフィラーを必須成分とし、総量が100重量%となるように、(1)エポキシ樹脂が20〜40重量%、(2)高分子量成分が5〜25重量%、(3)フェノール樹脂が15〜35重量%及び(4)フィラーが20〜40重量%配合された接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後も、硬化前は、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに相溶を維持し相分離しないか、相分離しても海島構造を形成せず、共連続構造でとどまった状態である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接着剤組成物の必須成分のうち、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂を総計30〜50重量%となるように(5)有機溶媒に溶解されワニス状にしたものが、5〜40℃で、(1)エポキシ樹脂、(2)高分子量成分及び(3)フェノール樹脂がともに分離せず均一に相溶混合し、これを塗布、乾燥後、(1)エポキシ樹脂と(3)フェノール樹脂が硬化後に、(2)高分子量成分と相分離していないか、相分離しても共連続構造でとどまった状態であるか若しくは海島構造を形成しても島相の大きさが1μm以下である請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
(2)高分子量成分が、IRスペクトルにおけるカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピーク高さ(PCO)に対するニトリル基に由来する2240cm−1付近のピーク高さ(PCN)の比(PCO/PCN)が、0.006以下である請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の(2)高分子量成分が、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを共重合成分とし、0.5〜10重量%を含むエポキシ基含有アクリル系ランダム共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
(3)フェノール樹脂が、軟化点60〜150℃、水酸基当量220g/eq以下である請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
(3)フェノール樹脂が、フェノールアラルキル樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項8】
接着剤組成物が、さらに0.1〜0.5重量%の(6)イミダゾール化合物を含有する接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物となる成分を均一に撹拌混合することを特徴とする接着剤組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に形成して得られる接着シート。
【請求項11】
接着シートが、硬化前の剪断速度0.1(s−1)、ひずみ量0.4%で測定した100℃のずり粘度が700〜3000Pa・s、硬化にともなう粘度上昇が100〜150℃の範囲で10万Pa・s以上である請求項10記載の接着シート。
【請求項12】
接着シートが、硬化前の接着シートの180℃、1時間後の重量減少率が1.0%以下である請求項10又は11記載の接着シート。
【請求項13】
接着シートが、硬化後の50℃での動的粘弾性測定による貯蔵弾性率が2000〜4000MPa、0〜100℃の貯蔵弾性率の変化が3000MPa以下である請求項10〜12のいずれかに記載の接着シート。
【請求項14】
接着シートが、厚さ40〜60μmで5mm角の硬化前の接着シートを、40℃で50時間保管し、120℃、0.4MPaで3秒、加温加圧した後の対角線方向の長さ変化が、5〜30%である請求項10〜13のいずれかに記載の接着シート。
【請求項15】
接着シートが、厚さ40〜60μmの硬化前の接着シートの40℃におけるタック強度が、0.2〜2.0Nである請求項10〜14のいずれかに記載の接着シート。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤組成物をシート状に塗布した後、乾燥することを特徴とする接着シートの製造方法。
【請求項17】
請求項10〜15のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせた一体型シート。
【請求項18】
予めウエハ形状に形成した請求項10〜15のいずれかに記載の接着シートとダイシングテープとを貼り合わせることを特徴とする一体型シートの製造方法。
【請求項19】
ウエハ、請求項10〜15のいずれかに記載の接着シート、ダイシングテープの順に0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハ、接着シート及びダンシングテープを同時に切断し、接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【請求項20】
ウエハと請求項17に記載の一体型シートの接着シート側とを0〜120℃で貼り合わせる工程、ウエハと一体型シートを同時に切断し、一体型シートの接着シートとダイシングテープ間ではく離して接着シート付き半導体チップを得る工程、前記接着シート付き半導体チップを、凹凸を有する基板又は半導体チップに荷重0.001〜1MPaで接着する工程を含む半導体装置の製造方法。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の半導体装置の製造方法により製造した半導体装置。
【請求項22】
半導体チップが、120℃において10〜200μm凸に変形している請求項21記載の半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−254763(P2010−254763A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104125(P2009−104125)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】
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