説明

放射線検出素子

【課題】位置ズレを生じることなく1回のX線の照射で異なるエネルギーのX線による放射線画像を得ることができるX線検出素子を提供する。
【解決手段】基板1の表面及び裏面に、照射されたX線に応じた電荷を発生するX線検出部22A、22Bを設けて、X線の照射方向に対して各画素20毎にX線検出部22A、22Bを積層配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出素子に係り、特に、照射された放射線により示される画像を検出する放射線検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、TFT(Thin film transistor)アクティブマトリックス基板上にX線感応層を配置し、X線情報を直接デジタルデータに変換できるFPD(flat panel detector)等のX線検出素子が実用化されている。このX線検出素子は、従来のイメージングプレートに比べて、即時に画像を確認でき、動画も確認できるといったメリットがあり、急速に普及が進んでいる。
【0003】
この種のX線検出素子は、種々のタイプのものが提案されており、例えば、X線を直接、半導体層で電荷に変換して蓄積する直接変換方式や、X線を一度CsI:Tl、GOS(Gd2O2S:Tb)などのシンチレータ(波長変換部)で光に変換し、変換した光をフォトダイオードなどのセンサ部で電荷に変換して蓄積する間接変換方式がある。
【0004】
ところで、放射線画像の撮影において、被写体の同一の部位を異なる管電圧で撮影し、各管電圧での撮影によって得られた放射線画像に重みを付けて差分を演算する画像処理(以下、「サブトラクション画像処理」と呼ぶ)を行うことで、画像中の骨部等の硬部組織に相当する画像部、及び軟部組織に相当する画像部の一方を強調して他方を除去した放射線画像(以下、「エネルギーサブトラクション画像」と呼ぶ)を得る技術が知られている。例えば、胸部の軟部組織に相当するエネルギーサブトラクション画像を用いると、肋骨で隠れていた病変を見ることが可能になり、診断性能を向上させることができる。
【0005】
アナログX線フィルムあるいはイメージングプレートでは、エネルギーサブトラクション画像を得ようとした場合、X線フィルムあるいはイメージングプレートを2枚重ねてX線を1回照射し、各X線フィルムあるいはイメージングプレートから各々得られる2つの放射線画像にサブトラクション画像処理を行うことでエネルギーサブトラクション画像を得ることができる。
【0006】
一方、X線検出素子では、エネルギーサブトラクション画像を得ようとした場合、1枚のX線検出素子に対して異なるエネルギーのX線を2回連続的に照射して2つの放射線画像を得る撮影方法と、X線フィルムあるいはイメージングプレートと同様に2枚のX線検出素子を重ねてX線を1回照射することにより、2つの放射線画像を得る方法が提案されている。
【0007】
前者の撮影方法は、X線の照射が2回になることにより、被写体の被曝量が増加し、また、2回の照射の間の画像ズレという原理的なデメリットがある。
【0008】
これに対し、後者の撮影方法は、X線検出素子製造時の寸法誤差や振動・膨張による2枚のX線検出素子のズレによる画質低下や、X線源からX線が放射状に照射されるため、2枚のX線検出素子を重ねた場合に各X線検出素子から得られる各放射線画像の画素サイズが異なるといったデメリットがあり、また、1枚のX線検出素子に比べてコストが上昇するといったデメリットがある。
【0009】
そこで、本出願人は、特許文献1に、放射線個体検出層を複数枚積層させて各放射線個体検出層から得られる各放射線画像にサブトラクション画像処理を行うことでエネルギーサブトラクション画像を得る場合に、各放射線画像の画素サイズが同一となるように画素サイズの補正を行う技術を開示した。
【特許文献1】特開2000−298198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、1回のX線の照射で異なるエネルギーのX線による放射線画像を得る場合に、各放射線画像に位置ズレが無い方が好ましい。
【0011】
なお、上記では、X線検出素子がX線を検出対象としているため、X線の場合について記載したが、検出対象がガンマ線線や中性子線等の放射線による放射線画像を得る場合にも共通する課題である。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑み、位置ズレを生じることなく1回のX線の照射で異なるエネルギーの放射線による放射線画像を得ることができる放射線検出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明の放射線検出素子は、表面及び裏面に開口し且つ内部に導電体が形成されたスルーホールが穿設された絶縁性基板と、前記絶縁性基板の表面及び裏面の各々に設けられ、照射された放射線に応じた電荷を発生する放射線検出部と、前記絶縁性基板の表面及び裏面の一方の面に設けられ、当該一方の面に設けられた放射線検出部に接続され、当該放射線検出部に発生した電荷を読み出すための第1スイッチング素子と、前記絶縁性基板の前記一方の面に設けられ、前記スルーホールの前記導電体を介して他方の面に設けられた放射線検出部に接続され、当該放射線検出部に発生した電荷を読み出すための第2スイッチング素子と、を備を備えている。
【0014】
本発明の放射線検出素子は、表面及び裏面に開口し且つ内部に導電体が形成されたスルーホールが穿設された絶縁性基板の表面及び裏面の各々に放射線検出部が設けられ、放射線検出部に照射された放射線に応じた電荷を発生する。
【0015】
また、本発明の放射線検出素子は、絶縁性基板の表面及び裏面の一方の面に第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子が設けられ、第1スイッチング素子が当該一方の面に設けられた放射線検出部に接続され、第2スイッチング素子がスルーホールの導電体を介して他方の面に設けられた放射線検出部に接続されており、第1スイッチング素子により一方の面に設けられた放射線検出部に発生した電荷が読み出され、第2スイッチング素子により他方の面に設けられた放射線検出部に発生した電荷が読み出される。
【0016】
このように、本発明によれば、絶縁性基板の表面及び裏面の各々に、照射された放射線に応じた電荷を発生する放射線検出部を設けて、放射線の照射方向に対して放射線検出部を積層配置しているので、位置ズレを生じることなく1回の放射線の照射で異なるエネルギーの放射線による放射線画像を得ることができる。
【0017】
なお、請求項1記載の発明は、請求項2に記載の発明のように、前記スルーホール、前記放射線検出部、前記第1スイッチング素子、及び前記第2スイッチング素子を、放射線画像の画素に対応して放射線を検出する画素領域毎に設けてもよい。
【0018】
また、請求項1記載の発明は、請求項3に記載の発明のように、前記一方の面に設けられた前記放射線検出部、及び前記第1スイッチング素子を、放射線画像の画素に対応して放射線を検出する画素領域毎に設け、前記他方の面に設けられた前記放射線検出部、前記スルーホール、及び前記第2スイッチング素子を、複数の前記画素領域毎に設けてもよい。
【0019】
また、本発明は、請求項4に記載の発明のように、前記スルーホールを、前記他方の面に設けられた前記放射線検出部と重なる位置に配置することが好ましい。
【0020】
また、本発明は、請求項5に記載の発明のように、前記放射線検出部は、放射線が照射される照射側よりも非照射側の方が高エネルギーの放射線に対して感度が高いことが好ましい。
【0021】
また、本発明は、請求項6に記載の発明のように、放射線が照射される照射側の放射線検出部が、放射線が照射されると電荷を発生する半導体層を含んで構成され、非照射側の前記放射線検出部が、放射線が照射されると光を発生する波長変換部と、前記波長変換部で発生した光が照射されることにより電荷が発生するセンサ部と、を含んで構成されてもよい。
【0022】
また、本発明は、請求項7に記載の発明のように、非照射側の前記放射線検出部が、前記照射側に低エネルギの放射線を吸収するフィルタを有してもよい。
【0023】
また、請求項7記載の発明は、請求項8に記載の発明のように、前記照射側の放射線検出部が、前記フィルタを兼ねてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の放射線検出素子は、絶縁性基板の表面及び裏面の各々に、照射された放射線に応じた電荷を発生する放射線検出部を設けて、放射線の照射方向に対して放射線検出部を積層配置しているので、位置ズレを生じることなく1回の放射線の照射で異なるエネルギーの放射線による放射線画像を得ることができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を、X線などの放射線による放射線画像を撮影する放射線画像撮影装置100に適用した場合ついて説明する。
【0026】
図1には、本実施の形態に係る放射線画像撮影装置100の全体構成が示されている。
【0027】
同図に示すように、本実施の形態に係る放射線画像撮影装置100は、X線検出素子10を備えている。
【0028】
同図に示すように、X線検出素子10は、放射線画像を構成する画素の情報としてX線を検出する複数の画素20が一方向(図1の横方向)及び当該一方向に対する交差方向(図1の縦方向)にマトリクス状に設けられている。
【0029】
また、X線検出素子10は、一方向の各画素列毎に走査配線101が並列に設けられ、交差方向の各画素列毎に信号配線3が並列に設けられている。なお、本実施の形態に係るX線検出素子10では、交差方向の各画素列毎に2本ずつ信号配線3を設けており、各画素列毎に画素20の一方側(図1の左側)に信号配線3Aを設け、画素20の他方側(図1の右側)に信号配線3Bを設けている。
【0030】
図2には、本実施の形態に係るX線検出素子10の1つの画素20の概略的な構成に示した模式図が示されている。
【0031】
同図に示すように、画素20には、照射された放射線に応じた電荷を発生する2つのX線検出部22A、22Bが、基板1の表面及び裏面の各々に設けられている。
【0032】
また、基板1には、表面及び裏面に開口し且つ内部に導電体が形成されたスルーホール28が穿設されている。
【0033】
X線検出部22Aは、X線を直接電荷に変換して蓄積する直接変換方式のものとされており、X線が照射されると電荷を発生する半導体層6を有している。
【0034】
X線検出部22Bは、X線を一度光に変換した後に電荷に変換して蓄積する間接変換方式のものとされており、X線が照射されると光を発生する波長変換部24と、波長変換部24で発生した光が照射されることにより電荷が発生するセンサ部26と、を有している。
【0035】
また、画素20は、X線検出部22Aに発生した電荷を読み出すためのTFTスイッチ4Aと、X線検出部22Bに発生した電荷を読み出すためのTFTスイッチ4Bと、が設けられている。
【0036】
TFTスイッチ4Aは、ソースがX線検出部22Aに接続され、ドレインが信号配線3Aに接続され、ゲートが走査配線101に接続されている。TFTスイッチ4Bは、スルーホール28の導電体を介してソースがX線検出部22Bに接続され、ドレインが信号配線3Bに接続され、ゲートが走査配線101に接続されている。
【0037】
各信号配線3Aには、当該信号配線3Aに接続された何れかのTFTスイッチ4AがONされることによりX線検出部22Aに発生して蓄積された電荷量に応じた電気信号が流れ、各信号配線3Bには、当該信号配線3Bに接続された何れかのTFTスイッチ4BがONされることによりX線検出部22Bに発生して蓄積された電荷量に応じた電気信号が流れる。
【0038】
各信号配線3A、3Bには、各信号配線3A、3Bに流れ出した電気信号を検出する信号検出回路105(図1参照)が接続されており、各走査配線101には、各走査配線101にTFTスイッチ4A、4BをON/OFFするための制御信号を出力するスキャン信号制御回路104が接続されている。
【0039】
信号検出回路105は、各信号配線3A、3Bのそれぞれ毎に、入力される電気信号を増幅する増幅回路を内蔵している。信号検出回路105では、各信号配線3A、3Aより入力される電気信号を各増幅回路により増幅して検出することにより、画像を構成する各画素の情報として、各画素20の2つのX線検出部22A、22Bに発生した電荷量を検出する。
【0040】
この信号検出回路105及びスキャン信号制御回路104には、信号検出回路105において検出された各画素の情報を各信号配線3Aによる画像情報と各信号配線3Bによる画像情報とに分けて所定の処理を施すとともに、信号検出回路105に対して信号検出のタイミングを示す制御信号を出力し、スキャン信号制御回路104に対してスキャン信号の出力のタイミングを示す制御信号を出力する信号処理装置106が接続されている。なお、各信号配線3A、3Bを1つの信号検出回路105に接続したが、信号検出回路105を2つ設け、信号配線3Aと信号配線3Bを別な信号検出回路105に接続するようにしてもよい。これにより、従来の1つの放射線画像を検出するX線検出素子に使用される信号検出回路を使用することができる。
【0041】
次に、図3及び図4を参照して、本実施の形態に係るX線検出素子10についてより詳細に説明する。なお、図3には、本実施の形態に係るX線検出素子10の1画素単位の構造を示す平面図が示されており、図4には、図3のA−A線断面図が示されている。
【0042】
図4に示すように、本実施の形態に係るX線検出素子10は、ポリイミド等の絶縁体を用いたフレキシブルプリント(FPC)基板(以下、「基板」という。)1を備えている。この基板1には、表面及び裏面に開口し且つ内部に導電体が形成されたスルーホール28が画素20を設ける画素領域毎に穿設されている。また、基板1は、スルーホール28の表面及び裏面部分にメタルキャップ31A、31Bが形成されている。メタルキャップ31Aとメタルキャップ31Bはスルーホール28によって電気的に接続されている。基板1にスルーホール28やメタルキャップ31A、31Bを形成する技術は、例えば、フジクラ技報 第108号(2005年4月発行) P44〜47、「市場の要求に応えるFPCの量産技術」に記載されているため、詳細な説明を省略する。
【0043】
この基板1には、走査配線101(図4参照。)、2つのゲート電極2A、2B、及びコンタクト14が形成されている。ゲート電極2A、2Bはそれぞれ走査配線101に接続されている(図4参照。)。コンタクト14はメタルキャップ31Aに接続されている。この走査配線101、ゲート電極2A、2B、及びコンタクト14が形成された配線層(以下、この配線層を「第1信号配線層」ともいう。)は、Al若しくはCu、又はAl若しくはCuを主体とした積層膜を用いて形成されているが、これらに限定されるものではない。
【0044】
第1信号配線層上には、一面に絶縁膜15が形成されている。絶縁膜15は、ゲート電極2A、2B上に位置する部位がTFTスイッチ4A、4Bにおけるゲート絶縁膜として作用する。絶縁膜15は、例えば、SiN等からなっており、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)成膜により形成される。
【0045】
絶縁膜15上には、ゲート電極2A、2Bに対応する位置に半導体層8が形成されている。半導体層8は、ゲート電極2A、2B上に位置する部位がTFTスイッチ4A、4Bにおける半導体活性層(チャネル部)として作用する。半導体層8は、例えば、アモルファスシリコン膜からなる。
【0046】
これらの上層には、ソース電極9A、9B、及びドレイン電極13A、13Bが形成されている。このソース電極9A、9B、及びドレイン電極13A、13Bが形成された配線層には、ソース電極9A、9B、及びドレイン電極13A、13Bとともに、信号配線3A、3Bが形成されており、また、コンタクト14に対応する位置にコンタクト18が形成されている。ソース電極9Aは信号配線3Aに接続され(図4参照。)、ソース電極9Bは信号配線3Bに接続され、ドレイン電極13Bはコンタクト18に接続され、コンタクト18はコンタクト14に接続されている。ソース電極9A、9B、ドレイン電極13A、13B、信号配線3A、3B、及びコンタクト18が形成された配線層(以下、この配線層を「第2信号配線層」ともいう。)は、Al若しくはCu、又はAl若しくはCuを主体とした積層膜が用いて形成されるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
このソース電極9A、9B及びドレイン電極13A、13Bと半導体活性層8との間にはコンタクト層(不図示)が形成されている。このコンタクト層は、不純物添加アモルファスシリコン等の不純物添加半導体からなる。
【0048】
本実施の形態に係るX線検出素子10では、ゲート電極2A、ゲート絶縁膜15、ソース電極9A、ドレイン電極13A、及び半導体層8によりTFTスイッチ4Aが構成され、ゲート電極2B、ゲート絶縁膜15、ソース電極9B、ドレイン電極13B、及び半導体層8によりTFTスイッチ4Bが構成されている。なお、TFTスイッチ4AはX線検出部22Aに発生する電荷の極性によってソース電極9Aとドレイン電極13Aが逆となり、TFTスイッチ4BはX線検出部22Bに発生する電荷の極性によってソース電極9Bとドレイン電極13Bが逆となる。
【0049】
第2信号配線層上には、これらを覆い、基板1上の画素20が設けられた領域のほぼ全面(ほぼ全領域)には、層間絶縁膜12が形成されている。この層間絶縁膜12は、感光性を有するアクリル樹脂などの有機材料からなり、膜厚が1〜4μm、比誘電率が2〜4である。本実施の形態に係るX線検出素子10では、この層間絶縁膜12によって層間絶縁膜12上層と下層に配置される金属間の容量を低く抑えている。また、一般的にこのような材料は平坦化膜としての機能も有しており、下層の段差が平坦化される効果も有する。これにより、上層に配置される半導体層6の形状が平坦化されるため、半導体層6の凹凸による吸収効率の低下や、リーク電流の増加を抑制することができる。この層間絶縁膜12には、ドレイン電極13Aと対向する位置にコンタクトホール16が形成されている。
【0050】
層間絶縁膜12上には、各画素20毎に、各々コンタクトホール16を埋めつつ、画素領域を覆うように下部電極11が形成されている。この下部電極11は、非晶質透明導電酸化膜(ITO)からなり、ドレイン電極13Aと接続されている。
【0051】
下部電極11上の基板1上の画素20が設けられた画素領域のほぼ全面には、半導体層6が一様に形成されている。この半導体層6は、X線などの電磁波が照射されることにより、内部に電荷(電子−正孔)を発生するものである。つまり、半導体層6は導電性を有し、X線による画像情報を電荷情報に変換するためのものである。また、半導体層6は、例えば、セレンを主成分とする非晶質のa−Se(アモルファスセレン)からなる。ここで、主成分とは、50%以上の含有率を有するということである。
【0052】
この半導体層6上には、上部電極7が形成されている。この上部電極7には、不図示のバイアス電源が接続されており、当該バイアス電源から数kV程度のバイアス電圧が供給されている。
【0053】
一方、基板1の裏面には、各画素20毎に、画素領域を覆うように下部電極42が形成されており、この下部電極42は、メタルキャップ31Bと接続されている。この下部電極42は、後述する半導体層44が1μm前後と厚い場合には導電性があれば材料に制限がほとんどない。このため、Al系材料、ITO(酸化スズインジウム)など導電性の金属を用いて形成すれば問題ない。
【0054】
一方、半導体層44の膜厚が薄い場合(0.2〜0.5μm前後)、半導体層44で光が吸収が十分でないため、TFTスイッチ4A、4Bへの光照射によるリーク電流の増加を防ぐため、遮光性メタルを主体とする合金、もしくは積層膜とすることが好ましい。
【0055】
下部電極42上には、画素領域のほぼ全面にフォトダイオードとして機能する半導体層44が一様に形成されている。本実施の形態では、半導体層44として、PIN構造のフォトダイオードを採用しており、下層からn層、i層、p層を順に積層して形成する。なお、本実施の形態では、半導体層44のほぼ全面に一様に形成しているが、半導体層44を各画素領域毎に分割して設けてもよい。
【0056】
この半導体層44上には、上部電極46が形成されている。この上部電極46には、例えば、ITOやIZO(酸化亜鉛インジウム)などの光透過性の高い材料を用いている。
【0057】
上部電極46には、不図示のバイアス電源に接続されており、当該バイアス電源から数十V程度のバイアス電圧が供給されている。なお、ITOやIZOなどの光透過性の高い材料は、アルミなどの低抵抗配線材料に比べて抵抗率が50〜200倍と非常に大きく、半導体層44に一律に同じバイアス電圧を印加できない場合がある。このため、上部電極46上に共通電極配線を配設し、共通電極配線を介して上部電極46にバイアス電圧を印加するものとしてもよい。
【0058】
そして、このように形成されたX線検出素子10には、光吸収性の低い接着樹脂等を用いてGOS等からなるシンチレータ30が貼り付けられている。
【0059】
次に、本実施の形態に係る放射線画像撮影装置100の動作原理について説明する。
【0060】
放射線画像撮影装置100では、放射線画像の撮影する場合、X線検出素子10に被写体を透過したX線が照射される。この被写体を透過したX線には高エネルギーな成分と低エネルギーな成分が含まれる。
【0061】
X線検出素子10は、各画素20に、図5に示すように、X線検出部22A、22Bが基板1の表面及び裏面の各々に設けており、X線の照射方向に対して積層されている。このため、低エネルギーなX線はX線検出部22Aで吸収されてX線検出部22Bまで到達せず、高エネルギーなX線はX線検出部22Aを透過してX線検出部22Bまで到達する。よって、X線検出部22Aは、低エネルギーのX線に対して感度を有することとなり、X線検出部22Bは、高エネルギーのX線に対して感度を有こととなる。
【0062】
X線検出部22Aでは、半導体層6にX線が照射されることにより半導体層6内に電荷が発生し、X線検出部22Bは、X線がシンチレータ30で可視光に変換され、変換された可視光が半導体層8に照射されることにより電荷が発生する。なお、X線検出部22AのようにX線を半導体層6で直接電荷に変換する直接変換方式の場合は、半導体層6が厚く、発生した電荷を下部電極11で十分に蓄積できない場合もある。このため、直接変換方式の場合は、下部電極11により収集された電荷を蓄積する蓄積容量を設けてもよい。
【0063】
本実施の形態に係るX線検出素子10では、X線検出部22Aを直接変換方式のものとし、半導体層6にa−Se(アモルファスセレン)を用いており、X線検出部22Bを間接変換方式のものとし、シンチレータ30にGOSを用いている。
【0064】
図6には、各種材料のX線の吸収特性が示されている。
【0065】
同図に示すように、低エネルギー(<40[KeV])のX線は、a−Seで多くが吸収される。このため、GOSもa−Seと略同等の吸収率ではあるが、下層にあるシンチレータ30まで到達するX線は少なく、半導体層6を有するX線検出部22Aで多くが検出される。
【0066】
一方、高エネルギー放射線(>50[KeV])は、a−Seでは吸収が少ない。これに対しGOSは、Kエッジが50[KeV]付近にあるため、高エネルギーのX線を効率よく吸収できる。
【0067】
よって、本実施の形態に係るX線検出素子10では、放射線が照射される照射側のX線検出部22Aよりも非照射側のX線検出部22Bの方が高エネルギーのX線に対して感度が高い。X線検出部22Aにおける好ましい条件は、撮影に使用するX線のエネルギー範囲にKエッジを持たないことであり、半導体層6を構成する構成元素の原子番号に依存する。
【0068】
このように、X線検出部22Aは、低エネルギーの放射線画像を撮影するため、低エネルギー部分のX線の吸収率μがX線検出部22Bと同等以上であることが好ましく、X線検出部22Bは、高エネルギーの放射線画像を撮影するため、高エネルギー部分のX線の吸収率μがX線検出部22Aよりも高くなっている材料の組合せが理想的である。
【0069】
本実施の形態では、半導体層6とシンチレータ30の材料の組合せをa−SeとGOSとしたが、a−SeとCsI(ヨウ化セシウム)、a−SeとBa(バリウム)でもよく、他の材料でも組合せが上記のコンセプトを満たせばよりエネルギーの異なるX線による放射線画像を得ることができる。
【0070】
画像読出時には、TFTスイッチ4A、4Bのゲート電極2A、2Bに走査配線101を介して順次ON信号が印加される。これにより、TFTスイッチ4A、4Bは順次ONされ、信号配線3Aには、X線検出部22Aに発生した電荷が電気信号として流れ、信号配線3Bには、X線検出部22Bに発生した電荷が電気信号として流れる。
【0071】
信号検出回路105は、各信号配線3A、3Bに流れ出した電気信号に基づいてX線検出部22A及びX線検出部22Bに発生した電荷量を、画像を構成する各画素の情報として検出する。信号処理装置106は、信号検出回路105において検出された各画素の情報を各信号配線3Aによる画像情報と各信号配線3Bによる画像情報とに分けて所定の処理を施す。これにより、X線検出素子10に照射された高エネルギーのX線により示される放射線画像を示す画像情報と、低エネルギーのX線により示される放射線画像を示す画像情報を得ることができる。
【0072】
この得られた高エネルギーのX線による画像情報と低エネルギーのX線による画像情報を用いてサブトラクション画像処理を行うことにより、エネルギーサブトラクション画像を得ることができる。
【0073】
以上のように、本実施の形態によれば、基板1の表面及び裏面に、照射されたX線に応じた電荷を発生するX線検出部22A、22Bを設けて、X線の照射方向に対して各画素20毎にX線検出部22A、22Bを積層配置しているので、X線検出素子10によって得られる高エネルギーのX線により示される放射線画像と低エネルギーのX線により示される放射線画像との間に画素間の位置ズレが発生を生じることなく1回のX線の照射で2つのエネルギーの放射線画像を得ることができる。
【0074】
なお、上記実施の形態では、X線検出部22A、22Bをそれぞれ画素領域毎に設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、一方の面にX線検出部22A、及びTFTスイッチ4Aを、放射線画像の画素に対応してX線を検出する画素領域毎に設け、他方の面に複数の画素領域毎(例えば、2×2画素領域毎)にX線検出部22B、スルーホール28、及びTFTスイッチ4Bを設けてもよい。エネルギーサブトラクション画像を得る場合、診断画像は高精細な画像であることが好ましいが、診断画像に対して重みを付けて差分を演算する画像は高精細な画像である必要は必ずしもない。このように重みを付けて差分を演算する画像の画素の数を減らすことにより、撮影によって得られた画像データを転送する際の転送時間を短くすることができ、当該画像データの記憶領域も削減することができる。
【0075】
また、上記実施の形態では、X線検出部22Aを直接変換方式のものとした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、X線検出部22Aを間接変換方式のものとしてもよい。また、X線検出部22Bを間接変換方式のものとした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、X線検出部22Bを直接変換方式のものとしてもよい。
【0076】
図7には、X線検出部22Aを間接変換方式とした場合のX線検出素子10の1つの画素20の概略的な構成に示した模式図が示されている。図7に示すX線検出部22Aは、X線が照射されると光を発生する波長変換部48及び波長変換部48で発生した光が照射されることにより電荷が発生するセンサ部49を有している。
【0077】
この図7に示すようにX線検出部22Aを間接変換方式とした場合においても、各画素20にX線検出部22A、22Bを積層配置しているので、X線検出素子10によって得られる高エネルギーのX線により示される放射線画像と低エネルギーのX線により示される放射線画像との間に画素間の位置ズレが発生を生じることなく1回のX線の照射で2つのエネルギーの放射線画像を得ることができる。
【0078】
また、図8には、X線検出部22Bを直接変換方式とした場合のX線検出素子10の1つの画素20の概略的な構成に示した模式図が示されている。図8に示すX線検出部22Bは、X線検出部22Aは、X線が照射されると電荷を発生する半導体層47を有している。
【0079】
この図8に示すようにX線検出部22Bを直接変換方式とした場合においても、各画素20にX線検出部22A、22Bを積層配置しているので、X線検出素子10によって得られる高エネルギーのX線により示される放射線画像と低エネルギーのX線により示される放射線画像との間に画素間の位置ズレが発生を生じることなく1回のX線の照射で2つのエネルギーの放射線画像を得ることができる。
【0080】
また、上記実施の形態では、X線検出部22A、22Bの間(例えば、層間絶縁膜12上)に低エネルギのX線を吸収するフィルタを形成してもよい。上記実施の形態のようにX線検出部22Bを覆うようにX線検出部22Aを形成した場合、低エネルギーのX線はX線検出部22Aによって吸収され、X線検出部22Aが低エネルギのX線を吸収するフィルタを兼ねるが、X線検出部22BのX線検出部22A側に低エネルギのX線を吸収するフィルタを有することが好ましい。
【0081】
また、上記実施の形態では、センサ部26をPIN型のフォトダイオードとした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、センサ部26をMIS型のフォトダイオードとしてもよい。
【0082】
また、上記実施の形態では、図1に示すように、一方向の各画素列毎に1本ずつ走査配線101を設けて、各画素列の各画素20のTFTスイッチ4A、4Bを同じ走査配線101に接続した場合について説明したが、例えば、一方向の各画素列毎に2本ずつ走査配線101を設けて、各画素列の各画素20のTFTスイッチ4AとTFTスイッチ4Bを別な走査配線101に接続して、TFTスイッチ4AとTFTスイッチ4Bを別々にスイッチングするようにしてもよい。また、この場合、交差方向の各画素列毎に1本ずつ信号配線3を設けてTFTスイッチ4AとTFTスイッチ4Bを同じ信号配線3に接続するようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、基板1としてポリイミド等の絶縁体を用いた場合について説明したが、無アルカリガラス等からなる基板を用いもよい。この場合は、例えば、ウェットエッジ又はサンドブラスト工程を行うことにより基板にスルーホールを形成することができる。
【0084】
また、上記実施の形態では、信号配線3を第2信号配線層に形成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、より多くの金属層を用いて形成してもよい。
【0085】
また、上記実施の形態では、各信号配線層を導電性を有する金属材料によって形成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、導電性を有すれば金属材料に限定されるものではない。
【0086】
また、上記各実施の形態では、検出対象とする放射線としてX線を検出することにより画像を検出するX線検出素子に本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、検出対象とする放射線はガンマ線や中性子線、ガンマ線と中性子線等いずれであってもよく、例えば、ガンマ線のエネルギー弁別、中性子線とガンマ線の弁別を行なう放射線検出素子に適用してもよい。
【0087】
ガンマ線のエネルギー弁別は、原理的には上記実施の形態と同様だがより広いエネルギー範囲になり、主に高エネルギー側なので、Kエッジが関係なくなる場合もある。非照射側に金属箔+シンチレータの適用も考えられる。
【0088】
中性子線とガンマ線の弁別は、例えば照射側では6Liや10Bに吸収させて2次粒子を発生させ、ZnS:Agのようなシンチレータを用いて中性子線を検出する一方、非照射側にCsI:Tlシンチレータを用いてガンマ線を検出、あるいは照射側にa-Se厚膜を用いてガンマ線を検出し、非照射側にGd2O2S:Tbを用いて中性子線を検出する系が考えられる。
【0089】
その他、上記実施の形態で説明した放射線画像撮影装置100の構成(図1参照。)及びX線検出素子10の構成(図2〜図8参照)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施の形態に係る放射線画像撮影装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】実施の形態に係るX線検出素子の1つの画素の概略的な構成に示した模式図である。
【図3】実施の形態に係るX線検出素子の構成を示す平面図である。
【図4】実施の形態に係るX線検出素子の線断面図である。
【図5】実施の形態に係るX線検出素子の1つの画素に入射したX線の流れを示した模式図である。
【図6】各種材料のX線の吸収特性を示すグラフである。
【図7】別な形態に係るX線検出素子の1つの画素の概略的な構成に示した模式図である
【図8】別な形態に係るX線検出素子の1つの画素の概略的な構成に示した模式図である
【符号の説明】
【0091】
1 基板(絶縁性基板)
4A TFTスイッチ(第1スイッチング素子)
4B TFTスイッチ(第2スイッチング素子)
6 半導体層
10 X線検出素子(放射線検出素子)
18 コンタクト
20 画素
22A、22B X線検出部(放射線検出部)
24 波長変換部
26 センサ部
28 スルーホール
30 シンチレータ
44 半導体層
47 半導体層
48 波長変換部
49 センサ部
100 放射線画像撮影装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面に開口し且つ内部に導電体が形成されたスルーホールが穿設された絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の表面及び裏面の各々に設けられ、照射された放射線に応じた電荷を発生する放射線検出部と、
前記絶縁性基板の表面及び裏面の一方の面に設けられ、当該一方の面に設けられた放射線検出部に接続され、当該放射線検出部に発生した電荷を読み出すための第1スイッチング素子と、
前記絶縁性基板の前記一方の面に設けられ、前記スルーホールの前記導電体を介して他方の面に設けられた放射線検出部に接続され、当該放射線検出部に発生した電荷を読み出すための第2スイッチング素子と、
を備えた放射線検出素子。
【請求項2】
前記スルーホール、前記放射線検出部、前記第1スイッチング素子、及び前記第2スイッチング素子を、放射線画像の画素に対応して放射線を検出する画素領域毎に設けた
請求項1記載の放射線検出素子。
【請求項3】
前記一方の面に設けられた前記放射線検出部、及び前記第1スイッチング素子を、放射線画像の画素に対応して放射線を検出する画素領域毎に設け、
前記他方の面に設けられた前記放射線検出部、前記スルーホール、及び前記第2スイッチング素子を、複数の前記画素領域毎に設けた
請求項1記載の放射線検出素子。
【請求項4】
前記スルーホールを、前記他方の面に設けられた前記放射線検出部と重なる位置に配置した
請求項1〜請求項3記載の放射線検出素子。
【請求項5】
前記放射線検出部は、放射線が照射される照射側よりも非照射側の方が高エネルギーの放射線に対して感度が高い
請求項1〜請求項4の何れか1項記載の放射線検出素子。
【請求項6】
放射線が照射される照射側の放射線検出部は、放射線が照射されると電荷を発生する半導体層を含んで構成され、
非照射側の前記放射線検出部は、放射線が照射されると光を発生する波長変換部と、前記波長変換部で発生した光が照射されることにより電荷が発生するセンサ部と、を含んで構成された
請求項1〜請求項5の何れか1項記載の放射線検出素子。
【請求項7】
非照射側の前記放射線検出部は、前記照射側に低エネルギの放射線を吸収するフィルタを有する
請求項1〜請求項6の何れか1項記載の放射線検出素子。
【請求項8】
前記照射側の放射線検出部は、前記フィルタを兼ねる
請求項7記載の放射線検出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−80636(P2010−80636A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246421(P2008−246421)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】