説明

有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置

【課題】高性能な有機機能性素子を製造可能とする有機膜の製造方法及び製造装置を提供し、さらに当該製造方法を用いた有機EL素子、有機太陽電池および有機機能層トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解若しくは分散した塗工液を印刷法を用いて基板上に塗布して有機機能性の塗工膜を形成する工程と、塗工膜を第二の有機溶媒の蒸気に接触させる工程と、基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは裏面に接した基板設置部に第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程と、を有し、第二の有機溶媒は、(イ)化学的に不活性であり、(ロ)かつ第一の有機溶媒に混合可能であり、(ハ)かつ有機機能性材料を溶解せず、(ニ)かつ該第二の有機溶媒の蒸気圧は常温において第一の有機溶媒の蒸気圧よりも高い、ことを特徴とする有機機能層の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に塗布された有機膜を製造する装置に関するものである。また乾燥工程を含む有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と記す。)、有機太陽電池および有機機能層トランジスタ等、有機機能性素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材の薄層軽量化やフレキシブル化を目標とした、有機機能性材料を用いた有機EL素子、有機太陽電池、有機機能層トランジスタなどの有機機能性素子の開発が盛んに行われている。これらの有機機能性素子の製造に際しては、一般に数十nmから数千nm程度の膜厚を有する有機機能層を基板上にパターン形成する必要がある。
【0003】
有機機能性材料には、低分子材料と高分子材料とがあり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように層を形成するのが困難である。また、蒸着法は高真空下で行われることが多く、そのために大掛かりな真空装置が必要となる。
【0004】
一方、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた塗工液(インキ)にし、これをウェットプロセスにて薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法等がある。特に高精細にパターニングするには、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる(例えば、特許文献1、2、3及び非特許文献1参照。)。
【0005】
印刷法により有機機能性素子を製造する方法は非常に有効である。特に高分子材料を用いた場合には、平坦で均一な有機機能層を基板上に容易にパターン形成することが可能である。しかしながら、基板上に印刷された有機機能層は溶媒を含むために、その溶媒を除去するための乾燥工程が必要となる。その方法としては、減圧乾燥法(例えば特許文献4参照。)、加熱乾燥法(例えば特許文献5参照。)、加圧加熱乾燥法(特許文献6参照。)、を用いた方式が提案されている。
【0006】
しかしながら、通常、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により基板上に有機機能層を形成し、有機機能性素子を製造する場合には、印刷工程中の塗工液の乾燥を防ぐために、大気圧での沸点が150度以上と非常に高い沸点を有する溶媒を用いることが多く、大気圧若しくは減圧・加圧条件下における加熱乾燥では有機機能層から溶媒を十分に除去することが出来ない。そして、有機機能層にこのような高沸点溶媒が残留することによって、有機機能素子の特性が、高沸点溶媒を用いない場合と比較して低下若しくは劣化するという問題があった。そのような劣化は、残留した高沸点溶媒と、有機機能性材料や無機電極との化学反応等が原因と推測される。また、有機機能層の形成後、真空蒸着法やスパッタリング法などの真空法にて無機膜などを形成する際に、有機機能層に残留した高沸点溶媒が若干揮発してチャンバーを汚し、その後に同チャンバーで形成される無機膜に悪影響を及ぼしている可能性も挙げられる。
【0007】
また、有機機能層に残留する高沸点溶媒(第1の溶媒。以下、残留溶媒ということがある。)の除去を目的として乾燥を十分に行うために高い温度をかけると、有機機能性素子を構成する材料の劣化を招く恐れがある。また、更には軽量化・フレキシブル化を目指して基板にプラスチック製フィルムを用いる場合には、高熱により基板そのものが形状変化や劣化を起こすという問題があった。加えて、加熱時に酸素や水が共存すると、それらが有機機能層と化学反応を起こし素子特性を劣化させるという問題もあった。特に酸素は、機能性材料として多く用いられるπ電子系分子の二重結合部位と反応を起こしやすい。従って、有機機能層を高温で乾燥させる場合には窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行う必要がある場合が多い。
【特許文献1】特開2003−17261号公報
【特許文献2】特表2003−527955号公報
【特許文献3】特表2005−531134号公報
【特許文献4】特開平9−97679号公報
【特許文献5】特開2002−313567号公報
【特許文献6】特開2005−26000号公報
【非特許文献1】情報科学用有機材料第142委員会C部会(有機光エレクトロニクス)第5回研究会資料 印刷プロセスによる有機機能層太陽電池(20〜27ページ)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、有機機能層を印刷法で作製した場合においても、残留溶媒の除去に伴う有機機能性素子の特性の低下が起きず、高性能な有機機能性素子を製造可能とする有機膜の製造方法及び製造装置を提供し、さらに当該製造方法を用いた有機機能性素子である有機EL素子、有機太陽電池および有機機能層トランジスタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、溶媒乾燥の際に有機機能層内の残留溶媒(第一の溶媒)を、化学的に不活性で、かつ揮発性の高い溶媒(第二の溶媒。以下、乾燥溶媒ということがある。)に置換することで、上記課題が解決できることを見いだした。更には、第二の溶媒を蒸気で供給するシステムと、第二の溶媒を液体状態で供給するシステムとを兼ね備えた装置にて、本発明に係る有機機能層の製造方法における乾燥方法が簡便に実施できることを見いだした。
【0010】
本発明の請求項1に係る有機機能層の製造方法は、第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解若しくは分散した塗工液を印刷法を用いて基板上に塗布して有機機能性の塗工膜を形成する工程と、前記塗工膜を第二の有機溶媒の蒸気に接触させる工程と、前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程と、を有し、前記第二の有機溶媒は、(イ)化学的に不活性であり、(ロ)かつ前記第一の有機溶媒に混合可能であり、(ハ)かつ前記有機機能性材料を溶解せず、(ニ)かつ該第二の有機溶媒の蒸気圧は常温において前記第一の有機溶媒の蒸気圧よりも高い、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、前記塗工膜を前記第二の有機溶媒の蒸気に接触させる工程と、前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程とを同時に行う、ことを特徴とする請求項1に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程に用いる前記第二の有機溶媒の温度は、前記基板が設置されている雰囲気の露点より高く、且つ前記第二の有機溶媒の沸点よりも低い、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程において、前記第二の有機溶媒と共に化学的に不活性なガスを同時に接触させる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、前記第二の有機溶媒は、該第二の有機溶媒の液体に前記有機機能層を浸漬させたとき、浸漬直後の前記有機機能層の表面粗さRaに対する浸漬させてから24時間後の前記有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、かつ24時間後の該第二の有機溶媒中に溶解した前記有機機能層の重量が乾燥工程後の前記有機機能層の重量の0.1%未満であること、を満たす有機溶媒である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、前記第二の有機溶媒の表面張力は25mN/m以下である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、前記第二の有機溶媒は、一分子中フッ素原子を5個以上含む有機溶媒である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一に記載の有機機能層の製造方法としたものである。
【0017】
本発明の請求項8に係る発明は、有機機能層を含む有機機能性素子の製造工程において、少なくとも一層の有機機能層を請求項1乃至請求項7の何れか一に記載の有機機能層の製造方法によって製造する、ことを特徴とする有機機能性素子の製造方法としたものである。
【0018】
本発明の請求項9に係る有機機能性素子製造装置は、第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解若しくは分散した塗工液を塗布して形成された有機機能層の塗工膜を有する基板を乾燥するためのチャンバーと、第二の有機溶媒の蒸気を発生させる手段と、前記チャンバー内の空間において有機機能層の塗工膜が形成された前記基板を支持する基板設置部と、前記チャンバー内に配設され、前記基板設置部に支持された前記基板の塗工膜が形成された面の裏面又は前記裏面に接した前記基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる流体吐出手段と、を具備することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項10に係る発明は、前記チャンバーは、密閉型である、ことを特徴とする請求項9に記載の有機機能性素子製造装置としたものである。
【0020】
本発明の請求項11に係る発明は、前記基板設置部は、底部に前記第二の有機溶媒を含む流体を逃がすための空間を有し、かつ複数枚の前記基板を同時に支持することができ、前記流体吐出手段は、前記基板設置部に同時に指示される前記基板と同数が配設され、それぞれの流体吐出手段が前記複数枚のそれぞれの基板の塗工膜が形成された面の裏面に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる、ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の有機機能性素子製造装置としたものである。
【0021】
本発明の請求項12に係る発明は、前記第二の有機溶媒の蒸気を発生させる手段が、前記チャンバーの外部に配設される、ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の有機機能性素子製造装置としたものである。本発明の請求項13に係る発明は、前記流体吐出手段が、スプレーである、ことを特徴とする請求項9乃至請求項12の何れか一に記載の有機機能性素子製造装置としたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機機能層を印刷法で作製した場合においても、溶媒の除去に伴う有機機能性素子の特性の低下が起きず、高性能な有機機能性素子を製造可能とする製造方法及び製造装置が提供される。また本発明によれば、該製造方法により製造された有機機能性素子、該方法を利用した有機EL素子、有機太陽電池および有機薄膜トランジスタの製造方法が提供される。
【0023】
より具体的には、請求項1に記載される方法を用いることにより、印刷法によってパターニングされた有機機能層に含まれている残留溶媒が、乾燥溶媒と置換し、加熱等による有機機能層の劣化を起こすことなく、乾燥させることが可能となる。また乾燥溶媒としてフッ素系溶媒、とくに5個以上のフッ素原子を有する分子からなるフッ素系溶媒を用いることにより、濡れ性がよく、有機機能性材料に対して劣化を起こすことなく乾燥させることができる。とくに、乾燥溶媒の表面張力が25mN/m以下とすることにより、有機機能層への乾燥溶媒の浸透が高まり、高い乾燥能力を得ることができる。これにより、有機機能層を損傷することなく、容易に残留溶媒を除去することが可能となる。さらに、請求項5の条件を満たすような乾燥溶媒を用いることにより、より有機機能層への影響を低減した製造が可能となる。また、請求項9乃至11に記載するような製造装置を用い、上述した製造方法により、結果として高品質な有機機能性素子が製造できる。
【0024】
また、請求項3に記載されるように、基板の設置されている雰囲気の露点より高く、且つ乾燥溶媒の沸点よりも低い温度である液状の乾燥溶媒を、基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に接触させ、基板を冷却して、加熱されて気化した前記乾燥溶媒の雰囲気にその基板上の塗工膜を接触させることによって、基板上に乾燥溶媒を結露させ、有機機能層中に浸透させることが可能となり、残留溶媒を乾燥溶媒に置換させることで、効率的に残留溶媒の除去ができる。また、請求項9乃至11に記載の有機機能性素子製造装置を用いることによって、上記製造方法が実現可能となった。
【0025】
また、請求項4に記載の発明によって、乾燥溶媒による残留溶媒の除去の後、とくに基板の加熱処理を行う場合、不活性ガス雰囲気で満たされた密閉空間内で処理することにより、酸素等による有機機能層の損傷を回避することができた。当該発明は、とくに複数の有機機能層を形成する場合に有効である。
【0026】
また、請求項8に記載の発明によって、本発明の有機機能層の製造方法を用いて有機機能性素子を製造することにより、乾燥工程による損傷や、また残留溶媒による輝度や発光寿命の低下等を低減した、高品質な有機機能性素子を製造することができた。
【0027】
また、請求項9乃至11に記載の発明では、乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気発生手段と、乾燥溶媒を含む流体を基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に吐出して接触させる、基板を冷却させるための手段とを兼ね備えることによって、本発明の製造方法が可能となった。さらには冷却のために乾燥溶媒に浸漬させることがないので不純物の付着も避けることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法ならびに有機機能性素子製造装置について、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、以下の実施の形態においては、同一構成要素には同一の符号を付し、実施の形態間において重複する説明は省略する。
【0029】
図1の電荷輸送層若しくは電荷移動層103a、有機発光層若しくは活性層103b、図2の有機半導体層205が本発明での有機機能層に当たる。「背景技術」で述べたように、有機機能層の微細パターニングには印刷法が優れている。そして有機機能性素子製造の上で、加熱および酸素・水に弱い有機機能層から如何に溶媒を除去し乾燥させるかが本発明にとって重要な点であるから、各機能性素子の製造で共通する印刷法を用いた有機機能層の成膜から乾燥までをまず説明する。
【0030】
(有機機能層の成膜方法)
本発明の一実施の形態に係る有機機能層の成膜方法について、図3に基づき説明する。図3に有機機能性材料からなる塗工液(インキ)を、基板上に凸版印刷法によりパターン印刷する際の凸版印刷装置の概略図を示した。本製造装置はインクタンク301とインキチャンバー302とアニロックスロール303と凸部が設けられた凸版306がマウントされた版胴305を有している。インクタンク301には、有機溶媒(第一の有機溶媒。)に溶解若しくは分散した有機機能性材料のインキが収容されており、インキチャンバー302にはインクタンク301よりインキが送り込まれるようになっている。アニックスロール303はインキチャンバー302のインキ供給部に接して回転可能に支持されている。
【0031】
アニックスロール303の回転に伴い、アニックスロール表面に供給されたインキ層304は均一な膜厚に形成される。その際、図示していないがドクターナイフで余分なインキを除去してもよい。このインキ層304はアニックスロール303に近接して回転駆動される版胴305にマウントされた凸版306の凸部に転移する。平台308には、被印刷基板307が凸版306の凸部による印刷位置にまで搬送手段(図示せず。)によって搬送されるようになっている。そして、凸版306の凸部にあるインキは被印刷基板307に対して印刷される。
【0032】
凸版306には感光性樹脂版を用いる。感光性樹脂版には、露光した樹脂版を現像する際に用いる現像液が有機溶剤である溶剤現像タイプのものと、現像液が水である水現像タイプのものがある。溶剤現像タイプのものは水系のインキに対し耐性を示し、水現像タイプのものは有機溶剤系のインキに耐性を示すため、印刷するインキの物性に合わせて適宜選択する必要がある。
【0033】
ここで、有機機能性材料を有機溶媒に溶解若しくは分散した塗工液(インキ)を用いて、凸版印刷法により基板上に有機機能層を形成する場合、有機機能性材料を塗工液化するために用いられる有機溶媒(第一の有機溶媒)には、高沸点溶媒が用いられる。これは、低沸点溶媒を用いた場合には、塗工液であるインキが、インキ供給体であるインキチャンバー302からアニロックスロール303に供給され、アニロックスロール303から凸版306へと転写される工程において徐々に乾燥し、凸版306の凸部にあるインキを非印刷基板307へと転写する際に、塗工液の乾燥により、塗工液が非印刷基板307に転写されないという問題が発生するためである。すなわち、印刷工程で、塗工液が乾燥することによる転写不良を防ぐために塗工液の第一の有機溶媒としては高沸点溶媒が用いられる。
【0034】
また、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法を用いて、基板上に有機機能層を形成する場合においても、有機機能性材料を塗工液化するために用いられる第一の有機溶媒は、高沸点溶媒が用いられる。凹版オフセット印刷法は、インキ供給体から凹版にインキが供給する工程と、凹版から弾性を有するシリコーンブランケットにインキを転写する工程と、ブランケット上にあるインキパターンを基板上に転写する工程からなるものであるが、低沸点溶媒を用いた場合には、印刷工程中に塗工液が乾燥してしまうことにより、ブランケットから基板上にインキが転写されないという問題が発生するからである。
【0035】
凸版反転オフセット印刷法は、インキ供給体からブランケット一面にインキを供給する工程と、凸部パターンを有する除去版を用いて、ブランケット上のインキを除去版の凸部に転写させることによりブランケット上にインキパターンを形成する工程と、ブランケット上にあるインキパターンを基板上に転写する工程とからなるものであるが、低沸点溶媒を用いた場合には、印刷工程中に塗工液が乾燥してしまうことにより、ブランケットから基板上にインキが転写されないという問題が発生するからである。
【0036】
以上説明したように、印刷法を用いて有機機能性材料を含む塗工液を基板上にパターン形成し、有機機能層を形成する場合には、印刷工程中の塗工液の乾燥を防ぐために第一の有機溶媒として高沸点溶媒を用いることが必要不可欠である。
【0037】
また、インクジェット印刷法によって基板上に有機機能層を形成する場合においても、印刷工程中の塗工液の乾燥を考慮する必要はないが、第一の有機溶媒として高沸点溶媒が用いられる。インクジェット印刷法は、インクジェットヘッドにあるインクジェットノズルからバンク(隔壁)によって仕切られた領域に塗工液を滴下することにより、インキパターンを形成するものである。インクジェット印刷法において、低沸点溶媒を用いて有機機能層を形成した場合、基板上に滴下された塗工液の急激な乾燥により、バンク内において有機機能層の膜厚が大きく変化してしまい、均一な膜厚を有する有機機能層を得ることができなくなってしまうという問題が発生する。したがって、印刷法としてインクジェット印刷法を用いる場合においても、第一の有機溶媒として高沸点溶媒を用いる必要がある。
【0038】
以上説明したように、有機機能層の成膜方法において、印刷法により有機機能層を形成する場合には、第一の有機溶媒として高沸点溶媒を用いざるを得ない。しかし一方で、高沸点溶媒を用いることにより、特に溶媒の洗浄・乾燥工程において、加熱及び酸素・水によって有機機能層の損傷や、残留溶媒による輝度や発光寿命の低下という有機機能性素子の品質低下の問題が惹起される。そこで、本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法においては、かかる問題を以下に述べる方法によって解決している。
【0039】
(有機機能層の乾燥方法)
本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法における有機機能層の乾燥方法について、説明する。
【0040】
上述のように、有機機能層を印刷法により形成する場合には、第一の有機溶媒として高沸点溶媒を用いる必要があり、このために加熱乾燥では、残留溶媒(第一の有機溶媒)を有機機能層の塗工膜から除去するために長時間掛かり、また必ずしも十分に除去することは出来ない。さらには、有機機能層を高温下に長時間曝すことによって、有機機能性素子の損傷・劣化、ひいては有機機能性素子の特性の低下につながってしまう。
【0041】
そこで本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法における有機機能層の乾燥方法は、第一の有機溶媒として高沸点溶媒を使用するにも拘らず、有機機能層を劣化させず、かつ残留溶媒を十分に除去することを可能とすることを目的とする。そしてそのために、揮発性の高い乾燥溶媒(第二の有機溶媒)の蒸気を、冷却した基板に吸着させて残留溶媒(第一の有機溶媒)を置換することで、有機機能層を形成することを特徴とする。また、基板を冷却する方法として、乾燥溶媒の沸点未満に冷却された乾燥溶媒を含む流体を、塗工膜が形成された基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に吐出して接触させる方法を用いることで、省スペースで簡便な製造装置を構築することを可能とする。詳細は後述の本発明の製造装置とともに説明する。
【0042】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明に用いる溶媒置換が可能な乾燥溶媒としては、まず第1に、残留溶媒と混合可能な溶媒である必要があり、かつ有機機能層の有機機能層材料部分を溶解しない化学的に不活性な溶媒である必要がある。
【0043】
一般に、有機機能性材料として使用されている材料の多くは芳香環の構造を有するπ電子系の材料である。その様な化合物はトルエンやキシレンなどの芳香族系の溶媒に溶け易い。また、π電子系の材料にイオン性の置換基やドーパントを混合して用いる場合もあるが、その場合はアルコールなどの極性が高い溶媒に溶け易い。フッ素原子を多く含む溶媒は上述の有機機能性材料からなる膜に対しては非常に低い溶解性を示すが、前述の芳香族系溶媒やアルコールなどの溶媒とは混合可能であるという特徴を有する。従って、フッ素系溶媒は乾燥溶媒として上述のような条件を満たすものであり、そのため有機機能層を溶解させること無く、その中に含まれる有機機能性材料の塗工液(インキ)の残留溶媒を乾燥溶媒に置換することが可能となる。更にフッ素原子を多く含む溶媒は、同等の分子量の炭化水素溶媒に比べ揮発性が高く、濡れ性も良好である。
【0044】
また、乾燥溶媒と有機機能層内の残留溶媒を効率的に置換させるために、本発明に用いる乾燥溶媒としては、第2に、有機機能層内に乾燥溶媒を浸透させるために表面張力が低い溶媒が好ましい。具体的には、後述する実施例等から乾燥溶媒の表面張力は25mN/m以下とすることが好ましい。
【0045】
また、有機機能層内の残留溶媒を置換した後、基板上の乾燥溶媒の除去を迅速におこなうために、本発明に用いる乾燥溶媒としては、第3に、該乾燥溶媒の蒸気圧が、常温で塗工液に含まれる第一の有機溶媒(残留溶媒)の蒸気圧よりも高い必要があり、蒸気圧はより高いほど好ましい。具体的には、後述する実施例等から乾燥溶媒の乾燥工程における蒸気圧が、少なくとも5000Pa以上であることが好ましい。乾燥溶媒の揮発性が十分に高ければ真空乾燥機のような特殊な乾燥装置や、不活性ガス雰囲気を作る必要がなくなり、製造装置のコストを抑えることや、製造時間を短縮することが可能となるからである。
【0046】
また、本発明に用いる乾燥溶媒としては、第4に、有機機能層内の残留溶媒を置換する性質と有機機能性材料の乾燥薄膜(有機機能層薄膜)を溶解または剥離させない性質を有する必要がある。具体的には、乾燥溶媒に有機機能層膜が形成された基板を浸漬させたとき、有機機能層膜が溶解および剥離を起こすことは好ましくないので、溶解および剥離が起こらない基準として、浸漬直後の有機機能層の表面粗さRa(JIS B0601−1994)に対する浸漬後24時間後の有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、同様に24時間後の前記乾燥溶媒中に溶解した前記有機機能層の重量が、乾燥工程後の有機機能層の重量の0.1%未満であることが好ましい。
【0047】
このような乾燥溶媒としては、特に一分子中にフッ素原子を5個以上含む化合物を好適に用いることができる。具体的には、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、トリデカフルオロヘキシルメチルエーテルなどのフルオロエーテル類、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、オクタフルオロ−2−ブテンなどのフルオロアルカン類並びにフルオロアルケン類、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのフルオロアリール類、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールなどのフルオロアルコール類などを好適に用いることができる。即ちこれらをまとめれば、本発明にあっては、乾燥溶媒として、一分子中にフルオロ基(フッ素基)を置換基として5つ以上含むエーテル類、アルカン類、アルケン類、アリール類、アルコール類等を好適に使用することができる。
【0048】
以上説明した性質を有する乾燥溶媒を使用することによって、本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法においては、第一の有機溶媒として高沸点溶媒を使用するにも拘らず、有機機能層を劣化させず、かつ残留溶媒を効率的に確実に除去することができる。従って、かかる有機機能層の製造方法を用いた有機機能性素子の製造方法においては、加熱及び酸素・水によって有機機能層の損傷や、残留溶媒による輝度や発光寿命の低下という有機機能性素子の品質低下を生じることがなく、高品質な有機機能性素子を提供することができる。
【0049】
(有機機能層の製造装置)
次に、上述の有機機能層の製造方法を用いた、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置の具体例を図面に基づいて説明する。図示する各装置は本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置の一例であって、本発明はこれに限定されない。
【0050】
まず図4は、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置の乾燥装置の模式図である。図4に示す乾燥装置は、チャンバー406の下部に乾燥溶媒(温液)407とヒーター403を有し、これにより乾燥溶媒(蒸気)408を発生させる。従って、チャンバー406下部とヒーター403とが蒸気発生手段を構成し、これに乾燥溶媒(温液)407を供給することにより、乾燥溶媒(蒸気)408を発生させることができる。乾燥溶媒(蒸気)408は、チャンバー406の上部内側側壁に設けられた冷却器405により冷却され、チャンバー406外への拡散が抑制される。また、チャンバー406にはドレンバルブ410が取り付けられ、ここから不要な乾燥溶媒を適宜排出することが可能である。有機機能層の塗布膜が形成された基板401は、チャンバー406内の基板設置部402に固定される。基板設置部402は、前述した蒸気発生手段の直上部に配設される。なお、基板設置部402の形状は、図では基板401の裏面を完全に覆う形状であるが、基板401を固定できれば良く、基板401の縁のみを支持する形状でも良い。また、チャンバー406内には乾燥溶媒(冷液)409を供給可能な冷液吐出部404が設置されており、ここからでた乾燥溶媒(冷液)409によって、基板401若しくは基板設置部402を冷却することができる。
【0051】
乾燥溶媒(蒸気)408を発生させるヒーター403の温度としては、少なくとも乾燥溶媒の蒸気を生じさせる程度には加熱する必要がある。しかし、有機機能層塗布膜から除去した残留溶媒が、基板401に再吸着してしまうことを防ぐために、ヒーターの403の加熱温度は、残留溶媒の沸点未満であることが好ましく、より好適には、残留溶媒の沸点よりも40℃以上低い温度であることが好ましい。これにより、基板401に接触して有機機能層に含まれる残留溶媒で汚染された乾燥溶媒は、再び基板401に触れる時には蒸留精製された状態と成っているため、基板401を汚染することは無い。また、乾燥溶媒は適宜ドレンバルブ410から抜き出した後に、図示していない溶媒再生装置により再生を行っても良い。
【0052】
冷液吐出部404としては、例えばスプレーノズルを挙げることが出来るが、基板401を乾燥溶媒の沸点未満に冷却するのに必要な液量を、必要な面積に吐出可能であれば特に制限は無い。また、スプレーノズルに二流体ノズルを用い、窒素等の不活性ガスと乾燥溶媒(冷液)409とを混合して吐出しても良い。
【0053】
この図4に示された乾燥装置による有機機能性の塗工膜の乾燥工程は以下の通りである。
【0054】
有機機能性の塗工膜が形成された基板401を基板設置部402に設置する。基板401設置の際には、基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面を、後述する冷液吐出部404に面するように設置する。この際、チャンバー406内は予め乾燥溶媒(蒸気)408で満たされていても良いし、基板401設置後に乾燥溶媒(蒸気)408を発生させても良い。この蒸気は、基板401表面に吸着し、冷液吐出部404から吐出された乾燥溶媒(冷液)409によって冷却された基板401により冷却されて結露し、チャンバー406下部に流れ落ちる。その際、有機機能層内の残留溶媒も乾燥溶媒と共に流れ落ちる。基板401の温度が乾燥溶媒の沸点と同じになった時点で、基板401表面での結露が起こらなくなる。再び結露が起きるようにするため、適宜冷液吐出部404より吐出された乾燥溶媒(冷液)409を、基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接する基板設置部402に接触させることで、基板401を冷却する。吐出された乾燥溶媒(冷液)409はチャンバー406下部に流れ落ち、乾燥溶媒(温液)407と混ざり、ヒーター403により加熱され乾燥溶媒(蒸気)408となる。乾燥溶媒(冷液)409は、基板401の乾燥中常に吐出し続けても良いし、間欠的に吐出しても良い。基板401の乾燥中に乾燥溶媒(冷液)409を吐出することによるヒートショックが起きない範囲であれば、乾燥溶媒(冷液)409を間欠的に吐出することができる。冷却液を間欠的に吐出することで、使用液量を減らすことができ、さらに冷却液を減少することでヒーターの消費電力を低減することができる。一方、乾燥溶媒と共にチャンバー406下部に流れ落ちた残留溶媒は、ヒーターの温度が該残留溶媒の沸点よりも低い温度であるため、蒸気となることはなく、乾燥溶媒(温液)407中に残留する。
【0055】
上述のように、基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接する基板設置部402を、乾燥冷媒(冷液)409によって冷却するため、有機機能層を劣化させず、かつ残留溶媒を効率的に確実に除去することができる。
【0056】
本発明の一実施形態に係る有機機能性素子製造装置の別の実施例を図5及び図6に示す。図4に示した装置と同一の部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。図5の装置では、チャンバーを密閉型とし窒素などの不活性ガスに置換することが可能である。
【0057】
図5に示す装置においては、チャンバー406内に窒素などの不活性ガスを供給し、また排気するために、吸気バルブ502及び排気バルブ501を配設している。また、チャンバー406が密閉型であるため、図4に示す冷却器405を配設してガスを再冷却する必要がないため、チャンバー406の上部内側側壁に冷却器405は配設されていない。他の構成は、図4に示した装置と同様である。チャンバー406が密閉型であるため、窒素などの不活性ガスを供給して乾燥することで、有機機能層が乾燥工程中に大気に触れるのを避けることが可能と成る。不活性ガスの供給は、上述した乾燥溶媒(冷液)409を冷液吐出部404から吐出するのと同時に行う。従って、本装置は、不活性ガス雰囲気中で乾燥を行うことにより、大気中に含まれる酸素や水が有機機能層に吸着したり有機機能層と反応したりすることで起こる有機機能層の劣化を完全に回避できるという効果を有する。また、基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接する基板設置部402を乾燥冷媒(冷液)409によって冷却するため、有機機能層を劣化させず、かつ残留溶媒を効率的に確実に除去することができる。
【0058】
図6の装置では、蒸気発生部としてチャンバー406の外部に蒸気発生器602を配設し、図5に示した装置と同様に、チャンバー406を密閉型としている。また、基板401を支持する基板支持部402の代わりに基板カセット601を用い、複数の基板401を同時に冷却することができる構成としている。従って、同時に冷却する基板401の枚数に対応して、冷液吐出部404を当該個数配設している。他の構成は、図5に示した装置と同様である。なお、基板カセット601としては、基板401を固定でき且つ乾燥溶媒がチャンバー406下部へ流れ落ちるように、底部にメッシュ若しくはパンチ穴などの溶媒が抜け落ちる機構がある物が用いられる。
【0059】
蒸気発生器602を、チャンバー406の外部に配置したことにより、図6に示す装置は、乾燥終了と共に乾燥溶媒(蒸気)408の供給を止めることが可能と成る。その結果、乾燥終了後直ちに基板401を冷却し、チャンバー406外に取り出すことが可能と成り、タクトタイムの短縮を図ることができる。また、一度に複数枚の基板401を仕込むため、大量の基板401を一括して処理することができ、それによってもタクトタイムの短縮を図ることができる。さらに、チャンバー406が密閉型であるため、不活性ガス雰囲気中で乾燥を行うことにより、大気中に含まれる酸素や水が有機機能層に吸着したり有機機能層と反応したりすることで起こる有機機能層の劣化を完全に回避できる。さらに、基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接する基板設置部402を乾燥冷媒(冷液)409によって冷却するため、有機機能層を劣化させず、かつ残留溶媒を効率的に確実に除去することができる。
【0060】
(有機機能層の製造方法及びその製造装置の効果)
以上説明したとおり、図4乃至図6に示された本発明の一実施形態に係る有機機能層の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置を用いることにより、基板の温度上昇による結露の停止を気にすることなく、任意の時間連続で基板を乾燥溶媒(蒸気)に曝し乾燥を行うことが可能となる。
【0061】
また、基板を冷却する他の方法としては、水や空気などの流体を内部に流すことの出来る熱交換器や、ペルチェ素子、熱容量の大きな金属塊などを用いる冷却方法がある。しかし、これらの他の冷却方法は、基板と冷却部を接触させる必要があり、基板が大型化した場合にはそれに見合った接触面積・平面度を持つ冷却器を準備する必要がある。また、中に冷媒を通すなど、基板を冷却する為の機構を冷却器に持たす必要があるため、冷却器自身の重量も大きくなり取り扱いが困難と成る。それに対し、本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置は、基板の大型化に対しても容易に対応が可能である。即ち、本発明の方法で基板の端面のみで基板を固定し乾燥溶媒(冷液)を基板の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面に直接吐出する場合では、乾燥溶媒(冷液)が勝手に前記裏面に密着するため、大型基板に対しても、冷液吐出部(例えばノズルヘッド)を交換若しくは増設すれば良く、容易に対応できる。また、基板固定部は他の冷却法で使用する物よりもはるかに軽量にすることができる。基板裏面を完全に覆う基板設置部を用いた場合においても、面積並びに平面度の問題はあるが、ただ単に基板を支えるだけであるので、薄くて軽量な金属板を用いることが可能である。
【0062】
また、基板としてフィルムのように可撓性が高いものを用いた場合、その全面を熱交換器などの表面に密着させることは難しい。本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置によれば、可撓性が高い基板であっても好ましく用いることができる。
【0063】
また、熱交換器やペルチェ素子・金属塊は、ノズルヘッドに比べ高価である。本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置によれば、装置コストも安価となり好ましい。
【0064】
更には、他の冷却方法では基板一枚毎に冷却器が必要となり、一度に大量の基板を処理するのが困難であるが、本発明の方法では図6に示したように冷液吐出部を設置することで、大量の基板を、同時に容易に処理できる。本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置によれば、大量の基板を同時に処理することができ、生産効率の向上を図ることができる。
【0065】
(有機EL素子、有機太陽電池の製造方法と素子構成)
次に、本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法を用いた有機機能性素子の製造方法及び当該方法を用いる有機機能性素子製造装置によって製造した有機EL素子、有機太陽電池について、図1に基づき説明する。
【0066】
本発明に用いられる基板101としては、透光性があり、ある程度の強度がある基板なら制限はないが、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mm〜1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子または有機太陽電池を作製することができる。
【0067】
透明導電層102としては、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性材料なら特に制限はない。具体的には酸化物としてインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)、インジウムと亜鉛の複合酸化物(以下IZOという)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等があるが、低抵抗であること、対溶剤性があること、透明性があること等からITOを好ましく用いることができ、前記透光性基板101上に真空蒸着法またはスパッタリング法により製膜することもできる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0068】
上記、透明導電層102は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行う、またはUV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0069】
本発明の一実施の形態に係る有機機能層103は、単層若しくは複数の機能性層を積層させてもよい。有機EL素子の場合では、陽極および陰極の電極間に少なくとも有機発光層を設ける必要があるが、その他にも機能性層として正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の電荷輸送層103aを設けることができ、その構成は任意である。
【0070】
また、有機太陽電池の場合には活性層と呼ばれる複数の材料がマルチへテロジャンクションと呼ばれる界面が複雑に絡み合った状態で共存する層を陽極および陰極の電極間に有する必要があるが、この他に、そこで発生した電荷を外に取り出す電荷移動層を有機機能層として設けることができる。有機機能層の厚みは任意であるが、薄すぎると短絡が起き易くなり、厚すぎると素子全体の抵抗が高くなるため、総膜厚としては50〜1000nmであることが好ましい。
【0071】
主に透明導電層102に隣接して設けられる電荷輸送層103aに用いる材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニル−1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料が成膜性の点から好ましい。また、ポリパラフェニレン(PPP)等のポリアリーレン系、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、アリールアミン類、カルバゾール誘導体、アリールスルフィド類、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導等の低分子の電荷輸送性を示す材料を混合した物を用いても良い。
【0072】
有機EL素子における有機発光層103bに用いる発光体としては、クマリン系、ペリレン系、ピレン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解若しくは高分子に共重合させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0073】
また、有機EL素子における有機発光層103bと電荷輸送層103aの間に、インターレイヤーと呼ばれる、加熱により電荷輸送層103aとの密着性を増す材料を挟んでも良い。このインターレイヤーにより、有機発光層103bの発光効率が増し、駆動寿命も長く成ることが知られている。この様な材料としては、ポリ(2,7−(9,9−ジ−オクチルフルオロレン))−alt−(1,4−フェニレン−((4−sec−ブチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))(TFB)が挙げられる。
【0074】
有機太陽電池における活性層103bに用いる材料としては、光を照射することにより電荷分離を起こすp型・n型半導体材料であればよく、具体的にはp型半導体としてポリチオフェン誘導体やポリフェニレンビニレン誘導体が、n型半導体としてはフラーレン誘導体が挙げられる。
【0075】
これらの材料は低分子の場合は蒸着法を用いて成膜しても良いが、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて塗布液として用い、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法といったコーティング法や、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により成膜することが可能である。
【0076】
ただし、有機EL素子をフルカラー表示させるには、有機発光層をR(赤)G(緑)B(青)三色にパターニングする必要がある。このように、有機発光層をパターニングする際には、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができ、発光色の異なる有機発光層を画素ごとにパターン形成することができる。また、有機EL素子において、正孔輸送層や電子輸送層といった電荷輸送層は、隣接する画素への電流のリークを防止するために、画素ごとにパターニングすることが好ましい。この場合においても、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができる。
【0077】
有機太陽電池においては、高い効率や起電力を得るためには、活性層、電荷移動層をパターニング形成する必要があり、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができる。従って、本発明の製造方法が有効である。
【0078】
前述した本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法によって、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置を用いて、有機機能層の形成を行う。すべての有機機能層について上記の方法で形成する以外にも、他のウェットプロセスおよびドライプロセスでの形成と組み合わせて各層を形成することも考えられる。
【0079】
次に、有機機能層103の上から陰極からなる電極層104を形成する。電極層としてはMg、Al、Yb、Ba、Ca等の金属単体を用いたり、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度挟んだりして、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いることが可能である。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。電極層の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。
【0080】
各層間の密着性を向上させるために、電極層104を形成する前、後、若しくは前後共に基板を加熱処理しても良い。
【0081】
最後にこれらの有機機能性積層体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止をおこなう。
【0082】
以上の工程により製造された有機EL素子、有機太陽電池は、有機機能層が劣化されることなく、かつ残留溶媒が確実に除去されているため、輝度や発光寿命の低下のない、高品質の有機EL素子及び有機太陽電池となる。
【0083】
(有機薄膜トランジスタの製造方法と素子構成)
本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法によって、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置を用いて製造した有機薄膜トランジスタについて、図2に基づき説明する。
【0084】
図2のトップゲート型の薄膜トランジスタにおいては、基板201上に無機絶縁層202が形成され、さらに、無機絶縁層202上にソース電極203、ドレイン電極204が形成され、さらに、有機半導体層205が形成され、有機半導体層205上にゲート絶縁層206が形成され、ゲート絶縁層206上にゲート電極207が形成されている。
【0085】
トップゲート型の薄膜トランジスタおいて、基板201はガラス、金属、プラスチック等の公知の材料を用いることができる。特に、プラスチック材料を好適に用いることができ、プラスチック材料としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース等のフィルムやシートを用いることができる。中でも、耐熱性のポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミドなどが好適に使用することができる。また、無機フィラーを上記樹脂に添加して耐熱性を向上させたものも好適に使用することができる。
【0086】
基板201上には必要に応じて無機絶縁層202が形成される。無機絶縁層202としては、SiO、Al、SiON、Taなど、各種の酸化物、酸窒化物などを用いることができる。形成方法としては、真空蒸着層、スパッタリング法、CVD法等を用いることができる。
【0087】
次に、無機絶縁層202上にソース電極203、ドレイン電極204が形成される。ソース電極、ドレイン電極材料としては、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム等の金属が挙げられる。これらの材料は抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法にて成膜することもできるが、これらの金属のナノ粒子を溶媒として水またはアルコールに溶解若しくは分散させることで、印刷法にて成膜ことができる。ここで、金属ナノ粒子とは、平均粒径が1μm未満の金属粒子を意味する。
【0088】
次に、無機絶縁層202、ソース電極203、ドレイン電極204上に有機半導体層205が設けられる。有機半導体層の形成材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリアリルアミン誘導体、ポリアセチレン誘導体、アセン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等を用いることができる。そして、これらを溶媒に溶解または分散させたインキ(塗工液)を用い、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法といったコーティング法や、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により成膜することが可能である。
【0089】
有機トランジスタにおいては、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、有機半導体層の少なくとも1層は凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により好適に成膜されるが、すべての構成要素を印刷法により形成する必要はない。
【0090】
これらの、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、有機半導体層は、前述した本発明の一実施の形態に係る有機機能層の製造方法によって、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置を用いて、形成される。すべての有機機能層について上記の方法で形成する以外にも、他のウェットプロセスおよびドライプロセスでの形成と組み合わせて各層を形成することも考えられる。
【0091】
次に、有機半導体層205上にゲート絶縁層206が設けられる。ゲート絶縁層206としては、成膜が容易な有機絶縁膜を好適に用いることができ、例えば、ポリビニルフェノールを使用することができる。ポリビニルフェノールにあっては、例えば、イソプロピルアルコールに溶解させスピンコート法により有機半導体層上に形成される。
【0092】
次に、ゲート絶縁層206上にゲート電極27が設けられる。ゲート電極207の形成方法としては、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等の印刷法を用いる他、マスク蒸着法を用いてもよい。印刷法でゲート電極を形成するのであれば金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの導電性材料を含むインクを使用することができる。また、真空蒸着法によりゲート電極207を形成するのであれば、Al、金、白金、パラジウム、ロジウムなどを使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により、本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0094】
<有機EL素子の実施例>
本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置によって製造した、有機EL素子の実施例について説明する。
【0095】
500mm角のITO付きガラス基板を用意し、そのITO(透明導電層)を所定のパターンにエッチングした。次いで、エッチングした透明導電層上に、電子輸送層の塗工液としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水に分散させた液を、凸版印刷法によりITO基板上にパターン状に塗布した。この基板を200℃にて3分、大気下にて乾燥させた。乾燥後の厚さは50nmであった。
【0096】
また、発光層の塗工液としてポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)(ガラス転移温度196℃)を、トルエン50%とジエチルベンゼン50%との混合溶媒に溶解し、凸版印刷法により基板上にパターン状に塗布した。
【0097】
さらに、この有機機能層を形成した基板に対し、後述する実施例1および比較例1に記載した乾燥工程を施した後、リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着法を用いてそれぞれ0.5nm、200nmの膜厚で設けて、有機EL素子を得た。以下、実施例1及び比較例1における乾燥工程の内容及び作製結果を主に説明する。
【0098】
(実施例1)
乾燥工程において、図6に示された乾燥装置を有機機能層の乾燥に用いて、有機EL素子の作製を行った。本実施例1の基板カセット601には、全体がフレームで構成されたものを用い、乾燥溶媒が容易に下部へ流れ落ちるようにした。尚、カセット601内には基板401が20枚設置可能であり、基板401はそれぞれが端面支持された状態で固定されている。また、冷液吐出部404にはスリット式2流体ノズル(スプレーイングシステムスジャパン社製)を用い、カセット601内の基板401の有機機能性の塗工膜が形成された面の裏面に選択的に乾燥溶媒(冷液)409が当たるようにした。乾燥溶媒としてノナフルオロブチルメチルエーテルを使用し、蒸気発生器602内で70℃に加熱してからチャンバー406内に導入した。チャンバー406内は予め窒素置換されており、酸素濃度は10ppm、露点は−60℃であった。このチャンバー406内で基板401を乾燥溶媒(蒸気)408に曝しながら、23℃の乾燥溶媒(冷液)409を30分掛け続けた。その後、乾燥溶媒(蒸気)408の供給並びに乾燥溶媒(冷液)409の吐出を止め、基板401を取り出し、その基板401を窒素雰囲気下にて150℃のホットプレート上で30分アニール処理を施した。尚、乾燥工程におけるタクトタイムは約2分/1枚であった。
【0099】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/mのパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/mにて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は6000hrであった。窒素雰囲気下での加熱を行う前の状態で、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度をGC−MS法(ガスクロマトグラフィで分離したものを質量分析する方法)にて調べたところ、トルエン、ジエチルベンゼン、ノナフルオロブチルメチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0100】
(比較例1)
次に、乾燥装置として図5に記載されたのと同様の装置を用い、冷液吐出での冷却の代わりに、基板設置部402をSUS316製の箱に23℃の冷却水を循環させた基板冷却装置としたものを用い、それ以外は実施例1と同様な工程で有機EL素子を作製した。
【0101】
得られた有機EL素子は実施例1と同様な素子特性を示したが、一度に1枚しか乾燥機内に仕込めなかったため、タクトタイムは約40分/1枚であった。
【0102】
以上説明した実施例1と比較例1とによって、本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置を用いた場合に、タクトタイムの短縮を図ることができることが理解される。
【0103】
(実施例2)
発光層の塗工液の溶媒を、トルエン50%とジエチルベンゼン50%との混合溶媒から、パラジクロロベンゼン100%に変更して有機EL素子を作製した。その他の工程はすべて実施例1と同様な工程とした。
【0104】
次に、発光層の乾燥工程において蒸気及び冷却液を掛ける時間を下記(A)〜(D)のように変更した。これ以外の工程は、実施例1と同様な条件とした。
(A)蒸気及び冷却液を掛ける時間:30分
(B)蒸気及び冷却液を掛ける時間:20分
(C)蒸気及び冷却液を掛ける時間:10分
(D)蒸気及び冷却液を掛ける時間:0分(ノナフルオロブチルメチルエーテルによる乾燥を行わないで自然乾燥)
【0105】
条件(A)を用いて作製した有機EL素子は実施例1と同様な特性を示した。また、窒素雰囲気下での加熱を行う前の状態で、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度をGC−MS法にて調べたところ、パラジクロロベンゼン、ノナフルオロブチルメチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0106】
実施例2で作製した有機EL素子の特性を、窒素雰囲気下での加熱を行う前の有機機能層中のパラジクロロベンゼンの濃度と共に、表1に記す。併せて、陰極を真空蒸着法で形成した後に有機EL素子として封止を行わず、有機層を削り取り、その薄膜中のパラジクロロベンゼンの濃度を測定した結果も示す。また、条件(D)に関しては、乾燥工程後のアニール工程に置いても乾燥が進行していたため、その結果も併せて示す。
【0107】
【表1】

【0108】
表1に示したとおり、残留したパラジクロロベンゼンが1ppm以下になると特性が安定した。従って、この有機EL素子構成及び溶媒の組み合わせでは残留溶媒の許容量が1ppmであることが分かった。
【0109】
また、第二の有機溶媒を用いた乾燥法の方が、加熱乾燥法にて乾燥した場合よりも残留溶媒量が少ないことが分かった。特に、本発明の方法を用い、蒸気に曝しながら冷却液にて基板を冷却する方法が優れていた。
【0110】
また、実施例2の条件(A)〜条件(C)においては、蒸着前後に残留溶媒量はほぼ変化していないが、条件(D)においては、その残留溶媒量は変化している。これにより、蒸着時の高真空下において、有る程度の乾燥が起こるものの、数ppm程度の低濃度となると更なる乾燥は起きないことが示された。条件(D)では、アニール処理によっても乾燥が進行するが、蒸着後には更に乾燥が進んでいる。この差分のパラジクロロベンゼンは、蒸着機内にて揮発したと考えられるが、それにより蒸着機内が汚染された可能性もあり得る。
【0111】
<有機太陽電池の実施例>
本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置によって製造した、有機太陽電池の実施例について説明する。
【0112】
(実施例3)
有機機能性材料の塗工液として、ポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)を、トルエン50%とジエチルベンゼン50%との混合溶媒に溶解したものの代わりに、ポリ(2−メトキシ−5−(3,7−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO−PPV)と[6,6]−フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)を1:4に混合したものを、パラジクロロベンゼン(沸点180−183℃)に溶解させたものとした点と、乾燥溶媒を1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンに変更した点以外は、上述した実施例1と同様の工程を用いて有機太陽電池を作製した。
【0113】
得られた有機太陽電池はAM1.5にて効率2.0%を得た。また、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度をGC−MS法にて調べたところ、パラジクロロベンゼンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0114】
<有機薄膜トランジスタの実施例>
本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置によって製造した、有機薄膜トランジスタの実施例について説明する。
【0115】
(実施例4)
基板401としてポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用い、無機絶縁層としてSiOを30nmの膜厚で成膜した。そして、凸版印刷によってAgナノインクの塗工液を基板401上に塗布し、ソース電極、ドレイン電極を形成し、その後、180℃1分の乾燥を行った。さらに有機半導体層としてポリチオフェンのジエチルベンゼン溶液を凸版印刷にてソース電極、ドレイン電極間に塗布した。
【0116】
この基板401を端面支持の基板設置部402に設置し、図4に示された乾燥装置にて乾燥を行った。乾燥溶媒として1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを使用し、冷液吐出部404としては充角錐ノズル(いけうち製)を用いた。30分間、基板401を乾燥溶媒(蒸気)408に曝しながら、乾燥溶媒(冷液)409にて基板401の塗工膜が形成された面の裏面を直接冷却した。
【0117】
乾燥後の基板401に、ゲート絶縁層としてポリビニルフェノールのイソプロピルアルコール溶液をスピンコートし、100℃30分の乾燥をおこなった。最後に、マスク蒸着によってAlを30nm蒸着し、トップゲート型の薄膜トランジスタとした。
【0118】
作製した有機薄膜トランジスタは、良好なVd−Id特性やVg−Id特性を示した。移動度は5×10−4cm/Vs程度であった。有機機能層中のジエチルベンゼンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの濃度をGC−MS法にて調べたところ、<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0119】
(比較例3)
ポリチオフェンのジエチルベンゼン溶液塗布後の乾燥工程において、冷液吐出での冷却の代わりに、SUS316製の箱に23℃の冷却水を循環させた冷却部を用いて基板設置部402を冷却したこと以外は、実施例4と同様の工程で薄膜トランジスタを作製した。尚、乾燥工程において、フィルム状の基板401がたわみ、基板設置部402の冷却部にうまく接触しなかったため、乾燥溶媒(蒸気)408に曝し始めてから3分程度で、基板401上での1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの結露が見られなくなった。
【0120】
得られた有機薄膜トランジスタの移動度は1×10−4cm/Vs程度であった。GC−MS法にて調べたところ、有機機能層中のジエチルベンゼンの濃度は200ppm、1,1,1,3,3,−ペンタフルオロブタンの濃度は<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0121】
以上説明した実施例4と比較例3とによって、本発明の一実施の形態に係る有機機能層及び有機機能性素子の製造方法により、本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置を用いて有機薄膜トランジスタを製造した場合に、良好な特性の有機薄膜トランジスタを製造できることが理解される。
【0122】
上記実施例4で使用した乾燥溶媒と、その他に使用され得る乾燥溶媒の物性値を下記表2に示す。条件は気圧が1atm、温度が20℃である。表2に示すとおり、実施例の乾燥溶媒は特許請求の範囲の請求項1に記載の乾燥溶媒の条件を満たしている。
【0123】
【表2】

【0124】
上記実施例にて、本発明による乾燥工程にて有機薄膜中の残留溶媒量はいずれの場合においても0.1ppm程度まで低減可能であることが示された。残留溶媒の許容範囲は、有機機能性素子の構造や材料、製造法、使用目的などによって異なると考えられるが、有機機能層内にて頻繁に酸化還元反応を繰り返すことで駆動される有機EL素子は、最も駆動条件が厳しいものの一つであると考えられる。
【0125】
一方、実施例2では、その有機EL素子において、残留溶媒の許容範囲が1ppm程度であることが示された。従って、本発明の方法にて有機機能層の乾燥を行うことで、いかなる有機機能性素子においても十分な乾燥を行えることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、印刷法による有機機能性素子の製造方法及びその製造装置に利用することができ、さらに、有機EL素子、有機太陽電池及び有機薄膜トランジスタの製造法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の一実施の形態に係る有機EL素子または有機太陽電池の一例の断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る有機薄膜トランジスタの一例の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る印刷装置の模式図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置における乾燥装置の模式図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置における乾燥装置の模式図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る有機機能性素子製造装置における乾燥装置の模式図である。
【符号の説明】
【0128】
101……透光性基板、102……透明導電層、103……有機機能層、103a……電荷輸送層若しくは電荷移動層、103b……有機発光層若しくは活性層、104……電極層、201……基板、202……無機絶縁層、203……ソース電極、204……ドレイン電極、205……有機半導体層、206……ゲート絶縁層、207……ゲート電極、301……インクタンク、302……インキチャンバー、303……アニロックスロール、304……インキ層、305……版胴、306……凸版、307……被印刷基板、308……平台、401……基板、402……基板設置部、403……ヒーター、404……冷液吐出部、405……冷却器、406……チャンバー、407……乾燥溶媒(温液)、408……乾燥溶媒(蒸気)、409……乾燥溶媒(冷液)、410……ドレンバルブ、501……排気バルブ、502……吸気バルブ、503……逆止弁、601……基板カセット、602……蒸気発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解若しくは分散した塗工液を印刷法を用いて基板上に塗布して有機機能性の塗工膜を形成する工程と、
前記塗工膜を第二の有機溶媒の蒸気に接触させる工程と、
前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程と、を有し、
前記第二の有機溶媒は、
(イ)化学的に不活性であり、
(ロ)かつ前記第一の有機溶媒に混合可能であり、
(ハ)かつ前記有機機能性材料を溶解せず、
(ニ)かつ該第二の有機溶媒の蒸気圧は常温において前記第一の有機溶媒の蒸気圧よりも高い、ことを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項2】
前記塗工膜を前記第二の有機溶媒の蒸気に接触させる工程と、
前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程とを同時に行う、ことを特徴とする請求項1に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項3】
前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程に用いる前記第二の有機溶媒の温度は、前記基板が設置されている雰囲気の露点より高く、且つ前記第二の有機溶媒の沸点よりも低い、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項4】
前記基板の塗工膜が形成された面の裏面若しくは前記裏面に接した基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる工程において、
前記第二の有機溶媒と共に化学的に不活性なガスを同時に接触させる、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項5】
前記第二の有機溶媒は、該第二の有機溶媒の液体に前記有機機能層を浸漬させたとき、浸漬直後の前記有機機能層の表面粗さRaに対する浸漬させてから24時間後の前記有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、かつ24時間後の該第二の有機溶媒中に溶解した前記有機機能層の重量が乾燥工程後の前記有機機能層の重量の0.1%未満である、ことを満たす有機溶媒であること、を特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項6】
前記第二の有機溶媒の表面張力は25mN/m以下である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項7】
前記第二の有機溶媒は、一分子中フッ素原子を5個以上含む有機溶媒である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一に記載の有機機能層の製造方法。
【請求項8】
有機機能層を含む有機機能性素子の製造工程において、
少なくとも一層の有機機能層を請求項1乃至請求項7の何れか一に記載の有機機能層の製造方法によって製造する、ことを特徴とする有機機能性素子の製造方法。
【請求項9】
第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解若しくは分散した塗工液を塗布して形成された有機機能層の塗工膜を有する基板を乾燥するためのチャンバーと、
第二の有機溶媒の蒸気を発生させる手段と、前記チャンバー内の空間において有機機能層の塗工膜が形成された前記基板を支持する基板設置部と、
前記チャンバー内に配設され、前記基板設置部に支持された前記基板の塗工膜が形成された面の裏面又は前記裏面に接した前記基板設置部に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる流体吐出手段と、
を具備することを特徴とする有機機能性素子製造装置。
【請求項10】
前記チャンバーは、密閉型である、ことを特徴とする請求項9に記載の有機機能性素子製造装置。
【請求項11】
前記基板設置部は、底部に前記第二の有機溶媒を含む流体を逃がすための空間を有し、かつ複数枚の前記基板を同時に支持することができ、
前記流体吐出手段は、前記基板設置部に同時に指示される前記基板と同数が配設され、それぞれの流体吐出手段が前記複数枚のそれぞれの基板の塗工膜が形成された面の裏面に前記第二の有機溶媒を含む流体を吐出して接触させる、ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の有機機能性素子製造装置。
【請求項12】
前記第二の有機溶媒の蒸気を発生させる手段が、前記チャンバーの外部に配設される、ことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の有機機能性素子製造装置。
【請求項13】
前記流体吐出手段が、スプレーである、ことを特徴とする請求項9乃至請求項12の何れか一に記載の有機機能性素子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−90637(P2009−90637A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187649(P2008−187649)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】