説明

木質系樹脂発泡成形体の製造方法、木質系樹脂発泡成形体、及びこれを用いた床材

【課題】生産工程を増やすことなく、熱寸法安定性に優れ、加えて引取方向の熱寸法安定性と、基材巾方向の熱寸法安定性の差も少なくした木質系樹脂発泡成形体の製造方法、該製造方法により製造された木質系樹脂発泡成形体、及びこれを用いた床材を提供する。
【解決手段】少なくとも熱可塑性樹脂および木質系フィラーおよび発泡剤を含有する木質系樹脂組成物を溶融して発泡させた木質系樹脂発泡材料を金型11から押出し、滑りサイジング金型14を通過させて成形するとともに、前記熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂からなる不織布13を前記木質系樹脂発泡材料と滑りサイジング金型14との間に通過させて、前記木質系樹脂発泡材料の表面に不織布13を張り合わせて木質系樹脂発泡成形体Sに一体成形することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建て住宅やマンション、アパート、保養所、オフィスビル、店舗等の建築物における室内床面に使用するための床材、これらの床材に用いられる木質系樹脂発泡成形体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、戸建て住宅等の建築物における室内床面用の床材としては、木質系フローリング材が最も広く流行している。この木質系フローリング材とは、厚み5〜15mm程度の天然木材の無垢板や、厚み5〜15mm程度の積層合板等の木質基材上に、厚み数百μm〜数mm程度の天然木材の突板を貼着したもの、或いはそれらの塗装品等である。
【0003】
これらの天然木材を使用した木質系フローリング材は、その表面の意匠が天然木材の木目という、最も自然で親しみやすく美麗な意匠であることから、従来広く消費者に受け容れられている。
【0004】
しかし、日光に当たると変色し易いことや、水に濡れると膨れや割れ、反り、腐蝕、突板の剥離等を起こし易く、特に浴室脱衣所や洗面所、厨房等の様な水廻りの部位への使用には問題があること、天然素材なので色調や木目形状などの品質や価格、供給量などが不安定であることなどの問題点も指摘されている。
【0005】
特に近年では、地球環境保護問題への社会的関心が高まるにつれて、環境破壊に繋がる天然木材の大量消費は白眼視される様になり、床材などの建築材料の分野においても、資源のリサイクル利用への取り組みが求められる様になっている。
【0006】
しかし、木質系フローリング材を再度床材としてリサイクル利用することは、技術的にも経済的にも極めて困難であり、単に粉砕してパーティクルボード用原料としてリサイクル利用される程度であることが多いが、これも近年の急激な供給増に見合った用途開発が進まないために過剰在庫を抱え、リサイクル利用は行き詰まりの状況にあり、大半は埋め立てや焼却による最終処分が行われているのが現状である。
【0007】
そこで、床材を使用後に再度、同種の床材の原料として再利用可能な、リサイクル適性のある床材の開発が、社会的に強く要望される様になっている。こうした要望に応えるものとして、本発明者らは既に、熱可塑性樹脂と木質系充填剤を含有する木質系樹脂成形体の表面に、該木質系樹脂成形体に含有される熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シートを積層してなる床材を提案した。
【0008】
この床材は、熱可塑性樹脂を主成分とするので耐水性や耐候性に優れ、物性的にも意匠的にも品質の安定した製品を安価に大量供給可能であり、切削や釘打ち等の加工性も木質系フローリング材と同等であり、しかも、使用後はそのまま粉砕して前記木質系樹脂成形体の成形材料として再利用できるという、優れたリサイクル適性を備えたものである。
【0009】
また、本発明者らはさらに、水系又は溶剤系接着剤による接着性や、天然木材に似た暖かい触感を与える断熱性、快い歩行感を与える弾力性等の改善を目的として、前記木質系樹脂成形体を発泡させてなる木質系樹脂発泡成形体を基材として使用した床材をも、既に提案した。
【特許文献1】特開2001−353815号公報
【特許文献2】特開2002−120347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、その後の試作検討の結果、前記した木質系樹脂発泡成形体を使用した床材について、更なる改善の重要性を確認した。すなわち、この床材は熱可塑性樹脂を用いた床材であるため、環境温度変化に対する熱変形が生じ、これにともなう床材の目空き、突き上げが危惧され、また、成形方法として異形押出プロセスなどで連続的に成形された床材を所望の寸法にカットし床材として施工されるが、引取方向の熱寸法安定性と、引取方向と垂直方向(基材巾方向)の熱寸法安定性に違いを生じる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生産工程を増やすことなく、熱寸法安定性に優れ、加えて引取方向の熱寸法安定性と、基材巾方向の熱寸法安定性の差も少なくした木質系樹脂発泡成形体の製造方法、該製造方法により製造された木質系樹脂発泡成形体、及びこれを用いた床材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
[1] 少なくとも熱可塑性樹脂および木質系フィラーおよび発泡剤を含有する木質系樹脂組成物を溶融して発泡させた木質系樹脂発泡材料を金型から押出し、滑りサイジング金型を通過させて成形するとともに、前記熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂からなる不織布を前記木質系樹脂発泡材料と滑りサイジング金型との間に通過させて、前記木質系樹脂発泡材料の表面に前記不織布を張り合わせて木質系樹脂発泡成形体に一体成形することを特徴とする木質系樹脂発泡成形体の製造方法。
[2] 前記不織布が、ポリエステルを芯成分とし、ポリオレフィンを鞘成分とし、該芯成分の融点が該鞘成分の融点より40℃以上高い芯鞘型複合長繊維からなる長繊維不織布であることを特徴とする前記[1]に記載の木質系樹脂発泡成形体の製造方法。
[3] 前記[1]または[2]に記載の木質系樹脂発泡成形体の製造方法により製造されたことを特徴とする木質系樹脂発泡成形体。
[4] 前記[3]に記載の木質系樹脂発泡成形体の表面に、化粧シートが積層されたことを特徴とする床材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の木質系樹脂発泡成形体の製造方法によれば、木質系樹脂発泡材料を滑りサイジング金型を通過させる際に、熱可塑性樹脂からなる不織布を木質系樹脂発泡材料と滑りサイジング金型の間に通過させることにより、熱可塑性樹脂溶融体からなる木質系樹脂発泡材料と滑りサイジング金型の滑り抵抗を軽減するとともに、引き取り時に樹脂全体に強度を持たせることで様々な成形条件に対応できるようになる。つまり、熱可塑性樹脂からなる不織布によって樹脂の破断や変形といったこれまで成形できなかった要因も排除できるため、これまで連続成形可能な押出手法によって成形できなかった軟質材料やフィラー高充填材料、高発泡倍率の発泡体についても容易に、安定した木質系樹脂発泡成形体を製造することが可能となる。
【0014】
また、熱可塑性樹脂からなる不織布と木質系樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂とを同系統の材料を用いていることで、発泡ガスによる滑りサイジング金型への圧力と溶融樹脂の熱により木質系樹脂発泡材料と不織布が強固に接着され、複合化される不織布の機能をそのまま木質系樹脂発泡成形体に付与することが可能である。発泡成形体と不織布を押出し成形後にラッピング等により積層した場合と比較して、接着性や工程が増えることによるコスト面などで本発明の製造方法は大きなメリットを持つ。
【0015】
また、本発明の木質系樹脂発泡成形体の製造方法においては、不織布として芯鞘型長繊維不織布を用いることで、ポリオレフィン単成分の長繊維不織布を用いた場合と比較して不織布の強度が高く、また、ポリエステル単成分の長繊維不織を用いた場合と比較して、該木質系樹脂発泡成形体との接着性の点で有利である。
【0016】
さらに、鞘成分と芯成分の融点に40℃以上の差があることにより、該不織布を用いて木質系樹脂組成物溶融体と滑りサイジング内で溶融密着させた際に、芯成分であるポリエステル長繊維が溶融することはないため、積層した該不織布部において繊維形状を維持している。これにより、最終的な床材における熱寸法安定性が向上し、突き上げや目空きなどの不具合を防止することが可能となる。芯成分と鞘成分の融点の差が40℃未満であると、ポリエステル長繊維の繊維形状が崩れ、本発明の効果を得られないが、芯成分にポリエステルを用いる場合、ポリオレフィンとの融点の差が小さい、融点の低いポリエステルは生産性、操業性に劣り、コストも高くなり好ましくない。
【0017】
また、これまで提案してきた木質系樹脂発泡成形体においては、いわゆる床形状の発泡成形体を連続的に押出し、引取方向に対して垂直にカットし基材を生産していた。例えば、異形押出の場合には、溶融した樹脂をサイジングにおいて冷却し、これを引取機で所望のスピードにて引き取るというプロセスをとることになる。
このように製造された木質系樹脂発泡成形体においては、木質系フィラーを充填することにより、基材の熱寸法安定性(線膨張係数)を改善できるが、木質系フィラーがアスペクト比の高い、いわゆる繊維状の構造をしていることにより、引取方向に配向する傾向がある。この木質フィラーの配向に起因し、生産した床基材において引取方向の熱寸法安定性と比較し、巾方向の熱寸法安定性は悪いという不均一性が生まれてしまう。
【0018】
また、本発明の木質系樹脂発泡成形体を基材とした床材は、生産工程を増やすことなく、熱寸法安定性に優れ、加えて引取方向の熱寸法安定性と、基材巾方向の熱寸法安定性の差も少ない。
床材を構成する木質系樹脂発泡成形体に不織布が積層されていることにより、床材の熱安定性を向上させることが可能である。また、長繊維不織を用いた場合、繊維の配列は引取り方向および巾方向にランダムに配列された状態であるため、従来の成形方法による引取り方向と巾方向の熱寸法安定性の不均一性を緩和することができる。
これまでの検証により、熱寸法安定性に起因する床基材の突き上げ現象に関して、引取方向に比べて、基材巾方向で発生する例が多い。このことから、引取方向と基材巾方向の熱寸法安定性の不均一性を改善することは、床材の熱寸法安定性に起因する不具合防止に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明はこの実施形態に限定されることはない。
【0020】
本発明の木質系樹脂発泡成形体の製造方法の一例を説明する。
まず、図1に示すような押出装置Hのホッパー10aに、発泡剤、木質フィラー、各種添加剤等を適宜添加した熱可塑性樹脂からなる木質系樹脂発泡材料12を入れ、押出機10内にて加熱可塑化しつつ混練し、こうして得られた加熱可塑化状態の木質系樹脂発泡材料12を、押出機10の先端に装着された押出金型11(金型)から押出し、滑りサイジング金型14に導入する。
【0021】
木質系樹脂発泡材料12を滑りサイジング金型14に導入する際に、不織布13を、木質系樹脂発泡材料12の表面に張り合わせながら、木質系樹脂発泡材料12と滑りサイジング金型14の内壁面14aとの間に挿入する。
以後、不織布13は、木質系樹脂発泡材料12を被覆した状態で、木質系樹脂発泡材料12と共にその流れ方向(図1の白抜き矢印の方向)へ送る。そして、滑りサイジング金型14内において、自重で変形することのない程度に冷却固化した木質系樹脂発泡材料12を、引取機16の作用力によって滑りサイジング金型14から引取り(脱型し)、冷却水槽15内を通過させることで十分に冷却した後、切断台17に送り所定の寸法に切断する。こうして、目的物である不織布13付の木質系樹脂発泡成形体Sが得られる。
【0022】
なお、滑りサイジング金型14に挿入する不織布13は、木質系樹脂発泡材料12表面の両面に張り合わせることも、例えば、床材表面の平滑性が必要な場合には、木質系樹脂発泡材料12のいずれか一面にのみ不織布13を積層させることも可能であり、用途に応じて適時選択すれば良い。
【0023】
押出金型11としては、熱可塑性樹脂溶融体を連続して押出す機構を有していればよく、Tダイや異形成形用ダイなどが挙げられる。押出金型11は滑りサイジング金型14と距離が近く、且つ位置決めも重要であるため接触面を設けることが多く、断熱が重要になると同時に、必要に応じてヒータの他にオイル循環など既存の手法を用いて、押出金型11の温度を保つことが望ましい。
【0024】
滑りサイジング金型14(キャリブレーター金型、ガイド金型などとも言う)は、その内壁面14aの断面形状が、製造すべき成形体の断面形状通りに精密に製作されており、この内壁面14aに木質系樹脂発泡材料12が、自らの発泡圧により押し付けられつつ冷却固化することにより、滑りサイジング金型14の内壁面14aの断面形状を正確に写し取った、設計通りの断面形状を有する木質系樹脂発泡成形体Sを、安定して製造することができる。
【0025】
滑りサイジング金型14についても既存の設計方法が用いられる。一般的には、真鍮やアルミニウムなど熱伝導率の高い材質を用い、かつ水などの冷媒を循環させるための流路が設けられる。この流路は樹脂の流面から近い位置に、冷却効果を高めるために乱流になるようレイノルズ数等によって適宜寸法を調整して設けられる。また、滑りサイジング金型14を水中に配置することも可能で、この際は滑りサイジング金型14内に入ってくる水を吸い出すためのバキュームスリットなどを設けることもできる。
【0026】
このような発泡押出し成形法は、特に限定されるものではないが、セルカ法が好ましい。セルカ法とは、図2に示すように、製造すべき成形体の寸法とほぼ同一の内壁面寸法を有すると共に、その内部にトーピード20(マンドレル、中子などとも言う)が装着された押出金型11を使用して、木質系樹脂発泡材料12を中空状態で押出し、その発泡が殆ど進行していない状態で滑りサイジング金型14に導入し、その内部で主として内側の空洞部分に向かって発泡させる方法である。
この方法によれば、押出した木質系樹脂発泡材料12が、滑りサイジング金型14内において、内部の空洞部分に向かって発泡が進行し、その反作用として、表層部を滑りサイジング金型14の内壁面14aに向かって、すなわち不織布13に向かって、強く押し付ける圧力が発生するために、木質系樹脂発泡材料12と不織布13とを強固に接着させることができるという利点がある。
【0027】
本発明における木質系樹脂発泡成形体Sを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系の例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体や、これらを接着性の向上の目的で酸変性したもの、あるいはアイオノマー等から適宜選択が可能で、単一でも複数種の混合でも構わない。
【0028】
中でも、床材として要求される剛性や表面硬度、寸法安定性などの面で、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂が最も適している。
【0029】
しかし、ポリプロピレンは熱膨張や熱収縮という温度に対しての寸法変化、いわゆる線膨張係数が大きい材料である。我々の提案する床材は、熱可塑性樹脂と木質系充填剤を複合しているため、熱可塑性樹脂単体と比較すれば、線膨張係数は小さくなっている。しかし、床材を施工した時の温度に比べ、室温が著しく高くなった場合には木質系樹脂発泡成形体Sの熱膨張による応力は巾方向および引取方向に蓄積され、施工面積が広くなった場合に、これらの応力が一部分に集中する事により突き上げが発生する可能性がある。前述のように、木質系フィラーを充填した場合には引取方向に木質系フィラーが配向する事により、基材巾方向の線膨張係数が大きい傾向がある。
【0030】
不織布13としては、ポリエステルを芯成分とし、ポリオレフィンを鞘成分とし、該芯成分の融点が該鞘成分の融点より40℃以上高い芯鞘型複合長繊維でからなる長繊維不織布であることが好ましい。
芯成分として用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートが挙げられる。
鞘成分として用いられるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体や、これらを接着性の向上の目的で酸変性したもの、あるいはアイオノマー等から適宜選択が可能である。
【0031】
本発明において、滑りサイジング14内で木質系樹脂発泡材料12と不織布13を溶融密着させる観点から、鞘成分のポリオレフィンに関しては、木質系樹脂発泡材料12に用いる熱可塑性樹脂と同系統の樹脂が好ましく、前記理由からポリプロピレン系樹脂を用いることがより好ましい。
このような長繊維不織布の製造方法は、特に制限されることなく選択可能であるが、一般に公知の溶融複合紡糸によるスパンボンド法などを適用することができる。溶融紡糸により得られた紡出糸条を吸引装置にて細化して引き取り、開繊させコンベアネット上に集積させた後に熱エンボス装置にて熱圧着することにより長繊維不織布を得ることができる。
【0032】
本発明において、木質系樹脂発泡材料12と不織布13は、滑りサイジング14内で木質系樹脂発泡材料12の溶融体の熱により溶融密着するが、芯鞘型長繊維の鞘成分であるポリオレフィンのみが溶融密着し、芯成分であるポリエステル成分は不織布の状態を維持し、長繊維形状にて発泡体に付与される。このことにより、最終的な床材としての熱安定性を向上させることが可能であるが、さらに、芯成分であるポリエステル繊維の低温結晶化にともなう熱収縮性により、不織布層は環境温度が上がった場合に収縮する変形を起こすため、床材の熱膨張に起因する突き上げ挙動を抑制する効果も得られる。
また、従来の成形方法において床材の巾方向の熱変形を抑制することは、成形にかかる引取応力の関係から、木質フィラーが引取り方向に配向し困難であったが、長繊維不織布の製造方法から分かるように、芯成分であるポリエステル長繊維はすべての方向にランダムに配列されており、床材の巾方向の熱変形も効率的に抑制することが可能である。
【0033】
本発明において、木質系樹脂組成物に含有される木質系フィラーの素材としては、特に制限されることなく選択が可能であるが、一般的には木材をカッターミルなどによって破断し、これをボールミルやインペラーミルなどにより粉砕して、微粉状にしたもの(木粉)などを用いる。
【0034】
木質系フィラーの平均粒径は、1〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましい。平均粒径が1μm未満のものは取り扱いが困難であるうえに、特に木質系フィラーの配合量が多い場合は、樹脂への分散が悪いと製造され、得られる木質系樹脂発泡成形体Sの機械強度の低下が生じやすい。また、200μmより大きいと、成形品の均質性、平面性、機械的強度が低下しやすい。
【0035】
また、木質系フィラーの配合量については、熱可塑性樹脂の100重量部に対して、10重量部から300重量部まで適宜選択が可能であるが、成形性や均質性を高めるために、木質系フィラーは、熱可塑性樹脂の100重量部に対して20〜200重量部、より好ましくは30〜150重量部の配合量とすることが望ましい。木質系フィラーの配合量が多すぎると、床材の曲げ弾性率が上がり、しなやかさが失われるために、施工性が悪化して(特に、隅部への施工時や一枚交換時に、床材を撓ませて施工することが難しくなる)、曲げた時に割れ易くなる。一方、少なすぎると、線膨張係数が大きくなり、寸法安定性が低下するために、温度変化によって、床材同士の間の目隙きや、床材同士の突き上げによる浮き等を発生する原因となる。
【0036】
本発明において、木質系樹脂発泡材料12に用いる木質系樹脂組成物には、熱可塑性樹脂と木質系フィラーの他に、発泡剤を添加することで、成形過程において発泡する。
熱可塑性樹脂には、必要に応じて熱安定剤、酸中和剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、脱水剤、半透明化のための光散乱剤、艶調整剤等を添加することもできる。
これらの添加剤のうち熱安定剤としてはヒンダードフェノール系、硫黄系、リン系等があり、酸中和剤としてはステアリン酸金属塩、ハイドロタルサイト等があり、紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等があり、光安定剤としてはヒンダードアミン系等がある。
【0037】
また、発泡の手法については、特に限定されるものではなく、公知の手法がいずれも利用できる。一般的には、熱分解や化学反応によってガスを発生する化学発泡と、低沸点の液体に熱をかけて気化させる物理発泡とに分類でき、化学発泡剤としては無機系の重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、ホウ化水素ナトリウム、軽金属、アジド化合物等、また有機発泡剤としてはアゾ系、ニトロソ系、ヒドラジド系等が、任意の組み合わせで使用できる。
【0038】
また、特に2倍を越える高発泡倍率での発泡には主に物理発泡が用いられ、発泡剤としては炭酸ガスや脂肪族炭化水素が主に用いられる。また、物理発泡に際しても発泡体のセル形状を整えるため化学発泡剤を併用することが多い。
【0039】
本発明において、木質系樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂、木質系フィラー、発泡剤およびその他の添加剤の混練方法については、特に限定されるものではなく、バンバリーミキサーによって混練し、ペレタイザーでペレット化する方法や、2軸押出混練機によって混合、ペレット化する方法など一般的な方法を用いることができる。また、木質系フィラーは、含水率が大きいと、ペレタイズ時に発泡の原因となるために、混練前に予め乾燥機やホッパードライヤーで含水率を8%以下に抑えることが望ましい。
【0040】
本発明の床材は、木質系樹脂発泡成形体Sの表面に、発泡成形体の熱可塑性樹脂と同系の熱可塑性樹脂を主体とする化粧シートが積層されていることが好ましい。前記同系の熱可塑性樹脂とすることで、リサイクル処理時に混合しても大きな物性変化を伴わずにリサイクルが可能となる。なお、化粧シートは、木質系樹脂発泡成形体S表面の両面に積層されていても、いずれか片面のみに積層されていてもよく、積層される部分は全面であっても一部であってもよい。
【0041】
具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体や、これらを接着性の向上を目的として酸変性したもの、アイオノマー等、或いはそれらの混合物、共重合体等、各種のポリオレフィン系樹脂の中から適宜選択が可能である。これらの中から選ばれる同種又は異種の樹脂を、木質系樹脂発泡成形層用および化粧シート用の熱可塑性樹脂として使用することができる。
【0042】
このようにして得られた本発明の床材は、生産工程を増やすことなく、熱寸法安定性に優れ、加えて引取方向の熱寸法安定性と、基材巾方向の熱寸法安定性の差も少ない。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
不織布として芯鞘型長繊維不織布を用い、木質系樹脂発泡成形体を製造した後、この木質系樹脂発泡成形体を用いて床材を作製した。
まず、芯鞘型長繊維不織布の芯成分として、融点260℃のポリエチレンテレフタレート、鞘成分として融点160℃のホモポリプロピレンを選定し、同心芯鞘型複合紡糸口金を用いた溶融紡糸によるスパンボンド法により長繊維不織布を準備した。
【0045】
一方、熱可塑性樹脂としてホモポリプロピレン樹脂にマレイン酸変性ホモポリプロピレン樹脂が20重量%添加されてなるホモポリプロピレン系樹脂100重量部と、木質系フィラーとしてと木材をカッターミルで破断し、これをボールミルにより粉砕して微粉状にした平均粒径100μmのものを用い、この100重量部とを、2軸押出混練機によって混合し、ペレット化して、木質系樹脂組成物を作製した。
【0046】
この木質系樹脂組成物100重量部に対して、トリアリルイソシアヌレートおよび重曹−クエン酸系発泡剤を3重量部添加し、図1に示す構成の押出装置Hにおける押出機10に投入し、押出金型11から押出速度1m/分にて、断面形状が中心部に高さ2.5mm×幅295mmの中空部を有する高さ5mm×幅300mmの長方形である長尺状に押出し、これを内壁面14aの断面形状が高さ5.2mm×幅300mmの長方形である滑りサイジング金型14に導入すると同時に、上下量面に上記長繊維不織布を被覆接着し、冷却、引取後、長さ1800mmに切断した。
こうして本発明の木質系樹脂発泡成形体を、滑りサイジング金型14内での樹脂詰まりや引取時の変形・破断等の成形不良事故を発生することなく、良好に製造することができた。
【0047】
一方、ランダムポリプロピレンに酸化鉄、酸化チタン等の顔料を配合して製膜した厚さ100μmの着色ポリプロピレンシートにウレタン系インキで木目印刷をして、エクストルージョンラミネート法にてホモポリプロピレン樹脂を100μmの厚みでエンボス同時ラミネートし、この裏面にプライマーコートを、表面にトップコートを施して、ポリプロピレン系樹脂製の化粧シートを作製した。しかる後、この化粧シートを前記木質系樹脂発泡成形体の表面にラッピング加工法にて貼り合わせて連続で作製し、本発明の床材を作製した。
【0048】
<比較例1>
上記実施例1において、滑りサイジング金型として内壁面の断面形状が高さ5mm×幅300mmの長方形であるものを使用し、木質系樹脂発泡材料の滑りサイジング金型14への導入時の、不織布の被覆接着を省略し、その他は実施例1と同一の要領にて床材を作製した。
実施例1と比較して、同じ押出条件では滑りサイジング金型14の内部で詰まり易く、安定した発泡成形が困難であったため、木質系樹脂発泡材料の押出速度(すなわち成形体の引取速度)を低下させて、成形不良を発生することなく良好に発泡押出成形可能な条件を探したところ、押出速度を0.6m/分にまで低下させないと良好に成形できないことが判明した。
【0049】
<性能比較>
実施例1および比較例1で成形した基材について、0℃から60℃まで環境温度を変化させた際の、基材寸法変化を測定し、引取方向、基材巾方向の線膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1の基材の線膨張係数は、比較例1の基材に比べて、引取方向、巾方向ともに改善されている。特に巾方向に関して、比較例1の場合には、木質フィラーの配向に起因して、巾方向の線膨張係数が大きい値であるが、実施例1の場合には、長繊維不織布中の長繊維が巾方向にも配列しているため、より効果的に線膨張係数を抑えられていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の滑りサイジングの構造を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の滑りサイジングの冷却部の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
10…押出機、
10a…ホッパー、
11…押出金型、
12…木質系樹脂発泡材料、
13…不織布、
14…滑りサイジング金型、
15…冷却水槽、
16…引取機、
17…切断機、
20…トーピード、
H…押出装置、
S…木質系樹脂発泡成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂および木質系フィラーおよび発泡剤を含有する木質系樹脂組成物を溶融して発泡させた木質系樹脂発泡材料を金型から押出し、滑りサイジング金型を通過させて成形するとともに、前記熱可塑性樹脂と同系統の熱可塑性樹脂からなる不織布を前記木質系樹脂発泡材料と滑りサイジング金型との間に通過させて、前記木質系樹脂発泡材料の表面に前記不織布を張り合わせて木質系樹脂発泡成形体に一体成形することを特徴とする木質系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記不織布が、ポリエステルを芯成分とし、ポリオレフィンを鞘成分とし、該芯成分の融点が該鞘成分の融点より40℃以上高い芯鞘型複合長繊維からなる長繊維不織布であることを特徴とする請求項1記載の木質系樹脂発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の木質系樹脂発泡成形体の製造方法により製造されたことを特徴とする木質系樹脂発泡成形体。
【請求項4】
請求項3に記載の木質系樹脂発泡成形体の表面に、化粧シートが積層されたことを特徴とする床材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−113450(P2009−113450A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291910(P2007−291910)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】