説明

検出装置及び検出方法

【課題】磁界の印加方向が磁気抵抗効果膜からなるセンサ素子の磁化容易方向に磁界を印加し、軟磁性の磁性粒子を容易に検出する検出装置を提供する。
【解決手段】第1の磁性膜(検出層)、非磁性膜、及び、第2の磁性膜(磁化固定層)がこの順に積層されたセンサ素子と、センサ素子に電流を供給する電源と、センサ素子の電圧を検出する電圧検出手段と、検出層の磁化容易方向に磁界を印加する磁気発生手段とを具備し、センサ素子に印加された磁界の強度とセンサ素子の電圧の大きさとから、磁性粒子を検出する検出装置であって、第2の磁性膜の磁化方向が磁気発生手段から印加される磁界の方向と平行であり、第1の磁性膜が、100Oe以上で磁化反転する磁性膜であり、磁気発生手段から印加される磁界が、第2の磁性膜の一方向異方性の向きであることを特徴とする検出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の存在、数量あるいは濃度を磁気的に検出するための検出装置及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子を標識とし磁気センサ素子によって間接的に生体分子を検出するバイオセンサの研究報告が幾つかの研究機関によってなされている。この検出方法で用いられる磁気センサ素子には種々のものが挙げられるが、磁気抵抗効果素子を用いたバイオセンサが多く検討されている(非特許文献1)。
【0003】
磁気抵抗効果素子を用いたバイオセンサではGMR(Giant Magnetoresistance)素子が多く使用されている。GMR素子はFe/CrやCo/Cu人工格子膜からなるものや、2つの強磁性膜の間にCuなどの非磁性金属膜が形成されているサンドイッチ構成のものが有る。非特許文献1ではこの人工格子型のGMR素子が用いられている。サンドイッチ構成のGMR素子で一方の強磁性膜に反強磁性膜を交換結合させ、強磁性膜の磁化方向が容易に回転しないようにした構造のものをスピンバルブ型GMR素子と呼ぶ。
【0004】
GMR素子の他にMRAM(Magnetic Random Access Memory)の素子として用いられるTMR(Tunnel Magnetoresistance)素子が挙げられる。この素子はサンドイッチ構成のGMR素子の非磁性膜をAlOx等からなるトンネル膜に置き換えた構造である。
【0005】
磁気抵抗効果素子は磁界の印加によってその抵抗値が変化するが、TMR素子はGMR素子よりも大きな抵抗変化を示すので、極めて小さな局所磁界の検出や高速に駆動するデバイスにおいて多く利用される。また、TMR素子において、近年、より大きな抵抗変化を示す構成が報告されている(特許文献1)。
【0006】
特許文献1に開示された構成は、磁性膜にFeCoB等のアモルファス材料を、トンネル膜にMgO単結晶膜を、用いたものとなっている。この構成では、AlOxトンネル膜を用いたTMR素子の抵抗変化の3倍から4倍程度の抵抗変化を示す。また、TMR素子のセンサ応用を示唆するものとして、特許文献2〜4が挙げられる。
【0007】
磁気抵抗効果素子を用いた磁性粒子の検出方法について、図5、図6を用いて説明する。
【0008】
図5は検出回路の一例を示すものであり、図6は素子周辺部を説明するものである。
【0009】
コイル504の磁界方向に、センサ素子501及びリファレンス素子502が配されている。電磁石用電源505、正弦波発生装置507を用いてコイル504に交流電流が印加される。センサ素子501及びリファレンス素子502は、2つの固定抵抗を用いて、ホイーストンブリッジ回路が形成されている。センスアンプ503には、ホイーストンブリッジ回路からの信号が入力される。センスアンプ503の出力と正弦波発生回路の出力の一部とがロックインアンプ506に入力され、ロックインアンプ506に接続されたコンピュータ508を用いて解析される。
【0010】
磁性粒子602は反応領域内で2つの磁気抵抗効果素子501(センサ素子501、リファレンス素子502)のうち一方の素子(センサ素子501)の表面にのみ固定される。検出の際には、電磁石用電源505、正弦波発生装置507を用いてコイル504に交流電流が印加される。この結果、2つの磁気抵抗効果素子の構成要素である磁気抵抗効果膜に垂直な方向に交流磁界603を印加され、磁性粒子602が磁化される。磁化ベクトル605に示すように、磁化された磁性粒子から浮遊磁界604が発生し、磁性粒子下部の磁気抵抗効果素子601に膜面内方向成分の磁界が印加される。磁気抵抗効果膜は膜面内方向の磁界の影響によって抵抗が変化する。2つの磁気抵抗効果素子と2つの固定抵抗を用いて、ホイーストンブリッジ回路を形成する。ホイーストンブリッジ回路の信号の交流成分を、センスアンプ503を用いて増幅した後に、ロックインアンプ506で印加磁界の周波数の2倍の周波数成分のみ増幅し、磁性粒子の存在を示す検出信号を得、コンピュータ508によって解析する(非特許文献1)。
【0011】
また、特許文献4では、磁界に対する感度の高い方向、すなわち磁気抵抗効果膜の膜面内方向に磁界を印加し、磁性粒子からの浮遊磁界の影響により、磁気抵抗効果膜の磁化反転が生じる印加磁界の大きさの違いを検出する。こうすることにより、磁性粒子の存在を検出する方法が記載されている。
【非特許文献1】David R.Baselt,et al,Biosensors & Bioelectronics,13,731,(1998)
【特許文献1】特開2006−080116号公報
【特許文献2】特表2003−524781号公報
【特許文献3】特表2005−513475号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0023365号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
磁性粒子は検体溶液中で分散性が良いことが好ましく、その観点から軟磁性であることが好ましい。また、例えば体液中の生体分子などに磁性粒子を結合させる場合には、反応効率の観点から、粒径の小さな磁性粒子が好ましく、そのような磁性粒子は、大きな磁化飽和磁界を示す傾向が有る。
【0013】
したがって、そのような磁性粒子を検出に用いる場合には、磁性粒子に磁界を印加し、磁化を所望の方向に誘起させる必要がある。この場合、十分大きな磁化を誘起させるためには、MRAMや磁気センサに用いられる磁気抵抗効果膜の磁化反転磁界よりも大きな磁界を印加する必要がある。もし、磁性粒子の磁化が小さければ、磁性粒子から発生する浮遊磁界も小さく、そのような場合においては磁性粒子の検出は困難である。
【0014】
磁性粒子を検出する際には、センサ素子である磁気抵抗効果素子の近傍に磁性粒子が固定されているので、磁性粒子に印加した磁界は、磁気抵抗効果素子にも印加されてしまう。したがって、特許文献4に開示されているように、磁気抵抗効果素子の磁化容易方向に磁界を印加して、磁性粒子を検出する場合、軟磁性体であって、かつ磁化飽和磁界が大きい磁性粒子を検出するには、
1.印加磁界が小さければ磁性粒子の磁化が小さいために検出信号が得られず、
2.磁性粒子の磁化が十分に大きくなるような磁界を印加すると、磁気抵抗効果素子の検出感度を超えるために磁性粒子の検出が困難であった。
【0015】
本発明は、磁界の印加方向が磁気抵抗効果素子の磁化容易方向に磁界を印加し、軟磁性の磁性粒子を容易に検出する検出装置及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、検出層となる第1の磁性膜、非磁性膜、及び、磁化固定層となる第2の磁性膜がこの順に積層された磁気抵抗効果膜からなるセンサ素子と、前記センサ素子に電流を供給する電源と、前記センサ素子の電圧を検出する電圧検出手段と、前記検出層の磁化容易方向に磁界を印加する磁気発生手段とを具備し、前記センサ素子に印加された磁界の強度と前記センサ素子の電圧の大きさとから、磁性粒子を検出する検出装置であって、
前記第2の磁性膜の磁化方向が前記磁気発生手段から印加される磁界の方向と平行であり、
前記第1の磁性膜が、100Oe以上で磁化反転する磁性膜であり、
前記磁気発生手段から印加される磁界が、前記第2の磁性膜の一方向異方性の向きであることを特徴とする検出装置である。
【0017】
さらに、上述の検出装置を用い、前記印加される磁界の強度を、前記検出層の磁化反転磁界よりも小さな磁界から徐々に大きくし、前記センサ素子の電圧の大きさを測定することで前記磁性粒子を検出することを特徴とする磁性粒子の検出方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の検出装置を用いることによって、軟磁性の磁性粒子を容易に検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の物質検出装置をバイオセンシングに用いる場合を念頭において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本発明の範囲は各請求項によって定められるものである。本願発明は、以下に記載の形態のみならず、当業者が理解可能な範囲でさまざまな形態を包含する。
【0020】
また、本発明の物質検出装置あるいは物質検出方法の一方について好ましい形態あるいは適用可能な形態として記載されている形態は、特に断りがない限り他方にも適用可能である。
【0021】
本実施形態に係る検出装置及び検出方法の概要を述べる。
【0022】
まず、検出層となる第1の磁性膜、非磁性膜、及び、磁化固定層となる第2の磁性膜がこの順に積層された磁気抵抗効果膜からなるセンサ素子が、この検出装置には含まれる。そして、センサ素子に電流を供給する電源と、センサ素子の電圧を検出する電圧検出手段と、検出層の磁化容易方向に磁界を印加する磁気発生手段とを更に具備する。この検出装置は、センサ素子に印加された磁界の強度とセンサ素子の電圧の大きさとから、センサ素子近傍に存在する磁性粒子を検出する検出装置である。検出される磁性粒子は、具体的には、センサ素子上、あるいはセンサ素子近傍に存在する磁性粒子の存在に関する情報を検出するものである。
【0023】
上述の検出装置を用い、印加される磁界の強度を、検出層の磁化反転磁界よりも小さな磁界から徐々に大きくし、センサ素子の電圧の大きさを測定することで磁性粒子を検出することを特徴とする検出方法である。
【0024】
さらに、磁気抵抗効果膜と磁性粒子とが検出対象である物質によって特異的に結合されている場合、該磁性粒子を標識として検出対象である物質を間接的に検出することが可能である。
【0025】
ここで、第2の磁性膜の磁化方向が磁気発生手段から印加される磁界の方向と平行であり、かつ、第1の磁性膜が、100Oe以上(100エルステッド以上)で磁化反転する磁性膜であることが好ましい。そして、磁気発生手段から印加される磁界が、第2の磁性膜の一方向異方性の向きであるように当該装置を構成する。
【0026】
図1は本発明の検出装置の概念図である。センサ素子である磁気抵抗効果膜に、電流を流すための電流源108と、磁気抵抗効果膜の電圧変化を検出するための電圧検出手段109が接続されている。
【0027】
磁気抵抗効果膜は、検出層101である磁性膜と磁化固定層103である磁性膜の間に非磁性膜102が形成される。非磁性膜102が金属である場合は巨大磁気抵抗効果膜(GMR膜)であり、非磁性誘電体膜である場合はスピントンネル膜(TMR膜)である。
【0028】
TMR膜には電流を膜面垂直方向に流して検出を行う。GMR膜では電流方向に制約はないが、膜面垂直方向に流すと比較的大きな検出信号が得られる。
【0029】
GMR膜の非磁性金属膜にはCuやCrなどの金属が好適に用いられる。また、TMR膜の非磁性誘電体膜にはAlOx膜やMgO膜が好適に用いられる。中でもMgO膜を用いたTMR膜は高い検出信号を得ることが可能であるのでより好ましい。
【0030】
磁化固定層は著しく大きな保磁力を有する強磁性膜、あるいは強磁性膜に一方向異方性を有する反強磁性膜を交換結合させた多層膜が用いられる。そのような磁性膜を用いることによって、磁界を印加しても磁化反転しないようにすることが可能である。大きな保磁力を有する磁性膜としてはTbと遷移金属の合金や人工格子膜などが挙げられる。Tbと遷移金属からなる合金は組成を調整することによって保磁力を所望の大きさにすることが可能である。
【0031】
また、人工格子膜では、各磁性膜の膜厚を調整することで所望の保磁力とすることが可能である。強磁性膜と反強磁性膜の交換結合膜に用いられる反強磁性膜にはMnIr、MnPtなどが好適に用いられる。この交換結合膜は強磁性膜の膜厚を調整することによって、磁化反転磁界を所望の値に調整することが可能である。
【0032】
磁気抵抗効果膜を用いたメモリ素子(MRAM)やハードディスクの検出素子などに用いられるセンサは微弱な磁界で動作するように、検出層には保磁力の小さな磁性体が用いられる。それらは例えば、NiFeCo、NiFe、FeCoB、GdFeなどである。
【0033】
しかし、軟磁性体からなる磁性粒子を検出する場合、センサに大きな磁界が印加されるため、そのような磁性膜は好ましくない。
【0034】
そこで本発明では、検出層の磁化反転が比較的大きな磁界で生じるようにする。そのような磁性膜としてはGdTbFe、GdTbCo、GdTbFeCoなどである。つまり、Gd、Tb及び遷移金属の合金である。あるいはDyFe、DyCo、DyFeCoなどのDyと遷移金属の合金、又は、GdDyFe、GdDyCo、GdDyFeCoなどGd、Dy、及び、遷移金属の合金が挙げられる。また、上述の希土類金属と遷移金属の人工格子膜としても所望の磁性膜を形成することが可能である。これらの保磁力は従来用いられてきた上記材料の保磁力よりも大きければ本発明の効果が生じる。従来の材料の保磁力は数Oeから数十Oe程度である。さらに、検出対象となる磁性粒子は酸化鉄を用いることが多く、例えば、その磁化は印加磁界が500Oe程度まで線形に増加する。500Oeでの磁化の大きさは飽和磁化の7割程度、1kOeで9割程度に達し、1kOeよりも大きな磁界では緩やかに飽和に近づいていく。したがって、本発明で用いる磁気抵抗効果膜の検出層の保磁力は、100Oe以上であることが好ましく、さらに500Oe以上であることがより好ましい。本発明における検出層の保持力の上限としては、例えば5kOe以下、好ましくは、1Oe以下である。
【0035】
保磁力は組成や膜厚の調整によって所望の値を得ることが可能である。さらに、Ni、Fe、Co等の遷移金属やこれらの合金に反強磁性膜を交換結合させ、磁化反転する磁界を大きくすることが可能である。
【0036】
磁気抵抗効果膜表面に検出対象である生体物質106が特異的に結合する物質107を固定しておく。このために、磁気抵抗効果膜上部には固定化膜110が形成される。また、標識として用いられる磁性粒子104表面にも検出対象である生体物質が特異的に固定される物質105が修飾される。そのようにすることで、検出対象である生体物質106が検体溶液中に存在する場合にのみ、磁性粒子104が磁気抵抗効果膜表面に固定され、生体物質106を検出することが可能となる。検出対象である生体物質106は例えば抗原であり、これに特異的に結合する物質105/107は例えば抗体である。あるいは検出対象である生体物質106は例えばDNAであり、これに特異的に結合する物質105/107は相補的なDNAである。
【0037】
検出の際には、磁界を印加し、磁気抵抗効果膜の電圧の値から生体分子の有無や数を検出する。例えば図1に示す様に膜面内方向に磁界111を印加した場合、磁性粒子104はこの磁界方向に磁化され、磁気抵抗効果膜に対して、印加磁界111の方向とは逆方向に浮遊磁界112が印加される。したがって、検体溶液中に検出対象である生体分子106が存在し、特異的に磁性粒子104が固定されれば、検出層101の磁化反転はし難くなる。つまり、磁気抵抗効果膜の電圧(電気抵抗)と印加磁界の大きさの関係から生体物質106を間接的に検出することが可能である。
【0038】
図2は検出層に一方向異方性を有する反強磁性体膜と強磁性体膜の交換結合膜を用いた場合の検出信号について説明する図であり、印加磁界の大きさと磁気抵抗効果膜の電気抵抗の関係を示す。実線は生体物質が無い場合を示し、破線は生体分子が存在し、磁性粒子がセンサ素子上部に固定された場合を示す。
【0039】
印加磁界の大きさは、使用する磁性粒子の大きさや磁気特性、磁気抵抗効果膜の磁気特性等によって適せん選択されるが、磁気粒子の磁化が飽和する磁界強度以上とすると高感度で検出することが可能となる。したがって、検出層の磁化反転磁界は磁性粒子の磁化飽和磁界程度とすることが好ましい。ただし、磁性粒子の磁化飽和磁界よりも小さな磁界であっても検出可能である場合は、検出層の磁化反転磁界を磁性粒子の磁化飽和磁界よりも小さくしても良い。
【0040】
また、図1には1つのセンサ素子に対して図示されているが、複数のセンサを配し、多くの生体分子が検出できるようにしても良い。
【0041】
なお、検出層が一方向異方性を有する反強磁性膜と強磁性膜の交換結合膜であり、
磁界を印加しない状態では一方向異方性は印加磁界と反平行に向いているように構成することも好ましい。
【0042】
そして、検出層がGd、Tb及び遷移金属の合金、あるいはDyと遷移金属の合金、あるいはGd、Dyと遷移金属の合金からなるフェリ磁性体であり、磁界を印加しない状態では検出層の磁化方向が印加磁界と反平行に向いている形態も好適である。
【0043】
前述の磁性粒子は軟磁性体であること好ましい形態である。センサ素子と磁性粒子が検出対象である物質によって特異的に結合されていることが好ましい。
【0044】
なお、前述の検出装置を用いて磁性粒子を検出する方法としては、以下のように行うのがよい。具体的には、印加される磁界の強度を、検出層の磁化反転磁界よりも小さな磁界から徐々に大きくし、センサ素子の電圧の大きさを測定することで磁性粒子を検出する。
【0045】
(実施例)
(実施例1)
本実施例では、前立腺特異抗原(PSA)を検出するバイオセンサに本発明を適用した例について図3を用いて詳細に説明する。
【0046】
半導体プロセスにより、Si基板310上に選択トランジスタ311と、該選択トランジスタ311に電気的に接続された磁気抵抗効果膜を形成する。選択トランジスタ311にはセンサ素子に電流を流す電流源308と、電圧計309とが接続される。
【0047】
本実施例及び後述の実施例2では、選択トランジスタとしてn型のMOS FETを用いた。選択トランジスタ311は、通常の方法で製造できるので特に製造方法については記載しない。
【0048】
磁気抵抗効果膜となる、Ta、MnIr、CoFeB、Ru、CoFeB、MgO、CoFeB、MnIr、Taを、スパッタリング法を用いて順次形成する。
【0049】
ここで、MnIr/CoFeB/Ru/CoFeBは磁化固定層303であり、非磁性膜302であるMgOの後に形成されるCoFeB/MnIrは検出層301である。
【0050】
尚、Taは、MnIrの結晶性の向上及び磁気特性の劣化を防止する働きをする。
【0051】
これらの磁性膜は膜面内方向に一方向異方性、及び、一軸異方性を有する。磁化固定層303の2つのCoFeBの磁化は相互作用により反平行に向く。また、磁化固定層303のMnIrと検出層301のMnIrの一方向異方性は反平行とする。
【0052】
成膜された磁気抵抗効果膜は、エッチング法を用い、選択トランジスタ311と接続される互いに絶縁されたセンサ素子に切り分けられる。本実施例においてはセンサ素子の大きさを3μm×9μmとし、上記一方向異方性、及び、一軸異方性の方向は、素子長辺平行な方向とする。磁気抵抗効果膜の上部には、生体物質が特異的に結合する物質を固定しておく固定化膜となるAuからなる上部電極315及び非固定化膜312となるSiN膜が形成される。磁気抵抗効果膜と対応する領域の非固定化膜312となるSiN膜が除去され、上部電極315が露出されている。
【0053】
非固定化膜312となるSiN膜から露出している上部電極315上に抗体(第一の抗体)307が固定されている。非固定化膜は、抗体が固定されない膜で、抗体が固定化されない膜であればSiN以外の材料であっても良い。
【0054】
検査プロトコールは次の通りである。検体溶液をセンサ素子表面に滴下し5分間インキュベートし、リン酸緩衝生理食塩水によって、未反応のPSA306を洗浄除去する。次いで、磁性粒子304により標識された第二の抗体(標識抗体)305を含むリン酸緩衝生理食塩水をセンサ素子表面に滴下し、5分間インキュベートする。
【0055】
その後、未反応の標識抗体をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄除去する。検体溶液中にPSA306が存在するならば、センサ素子表面上に磁性粒子304が固定される。
【0056】
磁性粒子304を固定させた後、磁化固定層303の一方向異方性の向きに磁界を印加する。磁界は、コイル313に電磁石用電源から電流をコイルに流すことで得ることができる。図3では、一方向異方性の向きがシリコン基板310の表面に平行な方向であるので、コイル313は、発生する磁界が、シリコン基板310の表面と平行になるように配置されている。尚、磁界の向きはいずれの方向であっても基板に平行な磁界であれば特に問題はない。
【0057】
本実施例で用いる磁気抵抗効果素子の検出層301の磁化反転磁界は約500Oeである。本実施例で使用する磁性粒子304は、粒径が200nmで、ポリスチレン中に20nmの粒径のFe23を複数含有する構造を持っている。Fe23は、磁化飽和磁界が、約10kOeで、500Oeで飽和磁化の約70%の磁化の大きさを示す軟磁性体である。検出時に印加磁界を400Oeから600Oeの範囲で徐々に大きくしていく。もし、磁性粒子304が素子上に固定されていれば、センサ素子の磁化反転は比較的大きな磁界で生じることから、PSA306が検体溶液中に存在することが確認される。ひとつの素子に10個程度の磁性粒子が固定されている場合、その素子で10μVの信号が検出される。ただし、この場合、検出電流の大きさは20μAで、素子上部から下部へ向けて流す。各素子に接続される選択トランジスタ311を順次ONにしていき、全素子の検出信号を積算することで、素子上に固定される磁性粒子の個数を知ることが可能である。
【0058】
従来の磁気抵抗効果素子を用いた場合には、印加磁界の大きさは例えば10Oe程度で、そのような磁界を印加した際に磁性粒子から生じる浮遊磁界は、本実施例において磁性粒子が発する浮遊磁界の大きさの2〜3%程度である。そのような場合、検出信号はノイズレベルよりも低く、磁性粒子の検出は不可能である。
【0059】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様に前立腺特異抗原(PSA)を検出するバイオセンサに本発明を適用した例について記載する。ただし、本実施例で用いる磁気抵抗効果膜は、垂直磁化膜である磁性体が用いられる。
【0060】
デバイスの回路構成は実施例1と同様である。磁気抵抗効果膜はTa、TbFeCo、FeCo、Al23、FeCo、GdDyFeCo、Taをスパッタリングによって順次形成する。TbFeCo/FeCoは磁化固定層403であり、FeCo/GdDyFeCoは検出層401である。
【0061】
これらの磁性膜は膜面垂直方向に一軸異方性を有する。本実施例で用いられるフェリ磁性膜、すなわちTbFeCo膜とGdDyFeCo膜の組成はいずれも遷移金属副格子磁化優勢な組成とする。ただし、希土類副格子磁化優勢となる組成としても本発明は実施可能である。
【0062】
また、磁化固定層403の2つの膜の遷移金属副格子磁化は交換結合により常に平行となっている。検出層401についても同様である。検出層401の磁化方向(すなわち遷移金属副格子磁化方向)と磁化固定層403の磁化方向は、初期状態では反平行に向けておく。
【0063】
成膜された磁気抵抗効果膜は、エッチング法を用い、選択トランジスタ411と接続される互いに絶縁されたセンサ素子に切り分けられる。選択トランジスタ411にはセンサ素子に電流を流す電流源408と、電圧計409とが接続される。
【0064】
磁気抵抗効果膜の上部には、生体物質が特異的に結合する物質を固定しておく固定化膜となるAuからなる上部電極415及び非固定化膜412となるSiN膜が形成される。磁気抵抗効果膜と対応する領域の非固定化膜412となるSiN膜が除去され、上部電極415が露出されている。
【0065】
非固定化膜412となるSiN膜から露出している上部電極415上に抗体(第一の抗体)407が固定されている。非固定化膜は、抗体が固定されない膜で、抗体が固定化されない膜であればSiN以外の材料であっても良い。
【0066】
検査プロトコールは次の通りである。検体溶液をセンサ素子表面に滴下し5分間インキュベートし、リン酸緩衝生理食塩水によって、未反応のPSA406を洗浄除去する。次いで、磁性粒子404により標識された第二の抗体(標識抗体)405を含むリン酸緩衝生理食塩水をセンサ素子表面に滴下し、5分間インキュベートする。
【0067】
その後、未反応の標識抗体をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄除去する。本実施例で用いる磁性粒子404の粒径は200nmとした。検体溶液中にPSA406が存在するならば、センサ素子表面上に磁性粒子404が固定される。
【0068】
磁性粒子404を固定させた後、磁化固定層403の一方向異方性の向きに磁界を印加する。磁界は、コイル413に電磁石用電源から電流をコイルに流すことで得ることができる。図4では、一方向異方性の向きがシリコン基板410の表面に垂直な方向であるので、コイル413は、発生する磁界が、シリコン基板410の表面と垂直になるように配置されている。尚、磁界の向きはいずれの方向であっても基板に垂直な磁界であれば特に問題はない。
【0069】
本実施例で用いる磁気抵抗効果膜を用いたセンサ素子の検出層401の磁化反転磁界は約1kOeである。本実施例で使用する磁性粒子404の粒径は100nmで、ポリスチレン中に15nmの粒径のFe23を複数含有する構造を持っている。Fe23は、磁化飽和磁界が、約10kOeで、1kOeで飽和磁化の約80%の磁化の大きさを示す軟磁性体である。検出時に印加磁界を900Oeから1100Oeの範囲で徐々に大きくしていく。もし、磁性粒子404がセンサ素子上に固定されていれば、センサ素子の磁化反転は比較的大きな磁界で生じることから、PSAが検体溶液中に存在することが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の検出装置の構成の概略を説明する図。
【図2】本発明の検出装置の検出信号を説明するグラフ。
【図3】本発明の検出装置の一実施例の構成の概要を説明する図。
【図4】本発明の検出装置の一実施例の構成の概要を説明する図。
【図5】従来の検出方法を説明する概念図。
【図6】従来の検出方法を説明するためのセンサ素子周辺の概念図。
【符号の説明】
【0071】
101、301、401 検出層
102、302、402 非磁性層
103、303、403 磁化固定層
104、304、404、602 磁性粒子
105、107 特異的結合物質
106 生体物質(検出対象)
108、308、408 電流源
109 電圧検出手段
110 固定化膜
111 磁界
112、604 浮遊磁界
305、405 第二の抗体
306、406 PSA
307、407 第一の抗体
309、409 電圧計
310、410 シリコン基板
311、411 選択トランジスタ
312、412 非固定化膜
313、413、504 コイル
314、414、505 電磁石用電源
315、415 上部電極
501 センサ素子
502 リファレンス素子
503 センスアンプ
506 ロックインアンプ
507 正弦波発生装置
508 コンピュータ
601 磁気抵抗効果素子
603 高流磁界
605 磁化ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出層となる第1の磁性膜、非磁性膜、及び、磁化固定層となる第2の磁性膜がこの順に積層された磁気抵抗効果膜からなるセンサ素子と、前記センサ素子に電流を供給する電源と、前記センサ素子の電圧を検出する電圧検出手段と、前記検出層の磁化容易方向に磁界を印加する磁気発生手段とを具備し、前記センサ素子に印加された磁界の強度と前記センサ素子の電圧の大きさとから、磁性粒子を検出する検出装置であって、
前記第2の磁性膜の磁化方向が前記磁気発生手段から印加される磁界の方向と平行であり、
前記第1の磁性膜が、100Oe以上で磁化反転する磁性膜であり、
前記磁気発生手段から印加される磁界が、前記第2の磁性膜の一方向異方性の向きであることを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記検出層が一方向異方性を有する反強磁性膜と強磁性膜の交換結合膜であり、
磁界を印加しない状態では前記一方向異方性は印加磁界と反平行に向いていることを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記検出層がGd、Tb、及び、遷移金属の合金、あるいはDyと遷移金属の合金、あるいはGd、Dyと遷移金属の合金からなるフェリ磁性体であり、
磁界を印加しない状態では前記検出層の磁化方向が印加磁界と反平行に向いていることを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
前記磁性粒子が軟磁性体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記センサ素子と前記磁性粒子が検出対象である物質によって特異的に結合されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の検出装置を用いて前記磁性粒子を検出する方法であって、
前記印加される磁界の強度を、前記検出層の磁化反転磁界よりも小さな磁界から徐々に大きくし、前記センサ素子の電圧の大きさを測定することで前記磁性粒子を検出することを特徴とする検出方法。
【請求項7】
前記磁気抵抗効果膜と前記磁性粒子とが検出対象である物質によって特異的に結合されている場合、前記磁性粒子を標識として前記検出対象である物質を間接的に検出することを特徴とする請求項6に記載の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−2838(P2009−2838A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165047(P2007−165047)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】