説明

氷スラリーの製造装置および基板処理装置

【課題】 過冷却液体から氷の微粒子を含む処理液を製造する場合に、汚染物質が混入する心配が無く、生成された氷の微粒子が溶解することもない装置を提供する。
【解決手段】 下部に液体導入口18および気体噴出口24を有し上部に氷の微粒子を含む処理液の流出口28を有する本体部10を備え、液体導入口18を通って本体部内10へ導入された過冷却液体中に気体噴出口24から気体を噴出して過冷却状態を解除し、生成された氷の微粒子を含む処理液を本体部10内から流出口28を通って流出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、液晶表示装置(LCD)用ガラス基板、プラズマディスプレイ(PDP)用ガラス基板、プリント基板、セラミックス基板、電子デバイス基板等の基板の洗浄処理などに用いられる氷の微粒子を含む処理液を製造する氷スラリーの製造装置、ならびに、その氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液を用いて基板の洗浄等の処理を行う基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、LCD、PDP等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造装置における基板の洗浄は、エキシマレーザのUV照射による有機物汚染の除去→ロールブラシを使用したスクラブ洗浄による1μm以上の汚染物質の除去→置換洗浄による薬液洗浄後の薬液の除去→2流体洗浄による精密洗浄→最終水洗による仕上げ洗浄といったような一連の工程で行われる。また、近年では、ロールブラシ洗浄に代えて、液体中に氷の微粒子が分散してシャーベット状の懸濁液となった状態の氷スラリーを調製し、ノズルから氷スラリーを基板の表面へ噴射し氷の微粒子を基板に衝突させて基板を洗浄する、といった洗浄方法も提案され実施されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記したように基板の洗浄処理に用いられる氷スラリーを過冷却水から製造する場合において、過冷却水の過冷却状態を解除する方法としては、従来、金属片を励磁しブザーのように振動させて過冷却水に接触させたり、過冷却水を金属やプラスチックの平板に衝突させたりする方法が採用されていた。
【特許文献1】特許第3380021号公報(第3頁、図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のように、振動する金属片を過冷却水に接触させたり過冷却水を金属の平板に衝突させたりして過冷却水の過冷却状態を解除することにより、純水中で氷の微粒子が生成されるようにする方法では、金属イオンが純水中に混入し、金属イオンが混入した氷スラリーが製造されて、その氷スラリーを用いて基板を洗浄したときに基板を金属汚染する、といった不都合を生じる。また、過冷却水をプラスチックの平板に衝突させて過冷却水の過冷却状態を解除する方法においても、純水中への樹脂成分の混入が懸念される。さらに、過冷却水を金属やプラスチックの平板に衝突させる方法では、氷スラリーが平板上で拡散したときに平板から熱を吸収して、生成された氷の微粒子が溶解する、といった問題点がある。
【0005】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、過冷却液体から氷の微粒子を含む処理液を製造する場合において、汚染物質が混入する心配が無く、生成された氷の微粒子が溶解することもない氷スラリーの製造装置を提供すること、ならびに、その氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液を用いて基板の洗浄等の処理を好適に行うことができる基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、氷の微粒子を含む処理液を製造する氷スラリーの製造装置において、下部に液体導入口および気体噴出口を有し、上部に氷の微粒子を含む処理液の流出口を有する本体部と、この本体部の液体導入口に連通した液体供給管を通して本体部内へ過冷却液体を供給する過冷却液体供給手段と、前記本体部の気体噴出口に連通した気体供給管を通して本体部内へ過冷却解除用気体を供給する気体供給手段とを備え、前記液体導入口を通って前記本体部内へ導入された過冷却液体中に前記気体噴出口から過冷却解除用気体を噴出して過冷却液体の過冷却状態を解除し、生成された氷の微粒子を含む処理液を本体部内から前記流出口を通って流出させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の氷スラリーの製造装置において、前記本体部が、下端面が底壁部によって閉塞され、下端部から上端部に向かって内径が漸次小さくなるように形成された直管と、この直管の底壁部を貫通して直管内部に挿通され、先端口が前記液体導入口となり、前記過冷却液体供給手段の液体供給管と接続される液体導入管部と、前記直管の内部を仕切って前記底壁部との間に気体導入室が形成されるように底壁部と間隔を設けて配設され、前記気体噴出口となる多数の貫通細孔が形成された仕切り壁部と、前記気体導入室に連通し、前記気体供給手段の気体供給管と接続される気体導入管部とを備えて構成され、前記直管の上端口が前記流出口となることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の氷スラリーの製造装置において、前記直管が鉛直姿勢に保持されたことを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の氷スラリーの製造装置において、過冷却解除用気体が二酸化炭素であって、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液を製造することを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、氷の微粒子を含む処理液を用いて基板を処理する基板処理装置において、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の氷スラリーの製造装置と、
基板を支持する基板支持手段と、この基板支持手段によって支持された基板の主面へ、前記氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液を供給する処理液供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の基板処理装置において、前記基板支持手段が、基板を支持して水平方向へ搬送する基板搬送手段であり、前記処理液供給手段により、前記基板搬送手段によって搬送される基板の主面へ氷の微粒子を含む処理液が供給され、基板の主面上で氷の微粒子を含む処理液を掻き混ぜる掻き混ぜ部材をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の基板処理装置において、前記基板搬送手段が、基板の搬送方向と直交する方向において基板を傾斜させて支持し水平方向へ搬送することを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項5に記載の基板処理装置において、前記処理液供給手段が、前記基板支持手段によって支持された基板の主面へ氷の微粒子を含む処理液を高圧で噴出させるノズルを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の基板処理装置において、基板の処理が洗浄処理であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の氷スラリーの製造装置においては、過冷却液体供給手段により本体部内へ下部の液体導入口を通って過冷却液体が供給され、本体部内へ導入された過冷却液体中に、気体供給手段によって供給された過冷却解除用気体が本体部下部の気体噴出口から噴出される。そして、過冷却液体と過冷却解除用気体の泡は、本体部下部から上部の流出口に向かって上昇し、その過程で泡によって過冷却液体の過冷却状態が解除され、多くの氷核が形成されて氷の微粒子が生成される。生成された氷の微粒子を含む処理液は、本体部内から上部の流出口を通って流出する。このように、過冷却解除用気体の泡によって過冷却液体の過冷却状態が解除され、泡となった過冷却解除用気体は、処理液中に溶解し、また本体部内から上部の流出口を通って排出される。
したがって、請求項1に係る発明の氷スラリーの製造装置を使用すると、過冷却液体から氷の微粒子を含む処理液が製造される過程で汚染物質が混入する心配が無く、生成された氷の微粒子が溶解することもない。
【0016】
請求項2に係る発明の氷スラリーの製造装置では、過冷却液体が、直管の底壁部を貫通して直管内部に挿通された液体導入管部を通して本体部内へ導入され、過冷却解除用気体が、気体導入管部を通り底壁部と仕切り壁部との間に形成された気体導入室を通って仕切り壁部の多数の貫通細孔から直管内の過冷却液体中に噴出される。そして、過冷却液体と過冷却解除用気体の泡とは共に、直管内の細長い流路を通って下部から上部の流出口に向かって上昇するので、直管上部の流出口に到達するまでの間に泡による過冷却状態の解除が効率良く行われ、多くの氷の微粒子が生成される。また、過冷却解除用気体は、仕切り壁部の多数の貫通細孔から過冷却液体中に噴出されるので、多くの細かい泡となってその総表面積が大きくなり、また、形成された泡は直管の下部に留まって泡同士がくっついたりすることなく速やかに直管上部の流出口に向かって浮上する。このため、より多くの氷核が形成されて、より小さい氷の微粒子が多数生成される。また、直管は、下端部から上端部に向かって内径が漸次小さくなるように形成されているので、生成された氷の微粒子を含む処理液は、直管内を良好に流動して上部の流出口から流出し、また、直管の上端口の内径が小さくなっていて、その流出口に配管が連通接続されるので、氷の微粒子を含む処理液は、滞留したりすることなく流出口から流出して配管内へ流入する。
したがって、この氷スラリーの製造装置では、より多くのより微小な氷の微粒子を含む処理液を製造することができ、その氷の微粒子を含む処理液をスムーズに配管内へ送り出すことができる。
【0017】
請求項3に係る発明の氷スラリーの製造装置では、請求項2に係る発明の上記作用効果が最適に奏される。
【0018】
請求項4に係る発明の氷スラリーの製造装置では、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液が製造される。ここで、二酸化炭素が溶解した処理液に含まれる氷の微粒子は、過冷却液体の過冷却状態を通常の方法で解除して生成される氷の微粒子に比べて軟らかい。このため、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液を、例えば基板の洗浄処理などに用いて、氷の微粒子を含む処理液を加圧してノズルから噴出させた際に、基板の表面上の位置によって氷の微粒子が基板の表面に衝突するときのエネルギに多少のむらがあっても、例えば液晶パターン用の金属膜、例えばアルミニウム(Al)+モリブデン(Mo)などのように物理的に軟らかい金属材料で形成された被膜が部分的にダメージを受ける、といったことが防止される。また、二酸化炭素が溶解した処理液に含まれる氷の微粒子は比較的軟らかいため、例えば基板の主面へ氷スラリーを供給しつつ基板の主面をブラシで洗浄する場合に、ロールブラシの回転速度や平面ブラシの揺動速度をより大きくすることができ、洗浄性能をより高めることができる。さらに、氷の微粒子を含む処理液中には二酸化炭素が溶解しているので、純水に比べて処理液の比抵抗値が小さい。このため、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液は、配管内を流れてノズル等へ送給されるときに静電気が発生しにくく、例えば、基板の表面へ供給されたときに、基板上の微細なパターンやデバイスが静電気によって破壊される、といった心配が無い。
したがって、請求項4に係る発明の氷スラリーの製造装置を使用すると、例えば基板の洗浄処理などにおいて、基板上に形成された金属膜等の被膜にダメージを与えることがなく、また、洗浄性能をより高めることが可能であり、さらに、静電気によって基板上の微細なパターンやデバイスを破壊することもない氷の微粒子を含む処理液を製造することができる。
【0019】
請求項5に係る発明の基板処理装置においては、処理液供給手段により、氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液が基板の主面へ供給されることにより、例えば基板の洗浄処理では、基板表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が氷の微粒子によって掻き出され、汚染物質が処理液と共に基板の主面上から流出して除去される。この場合において、請求項4に係る発明の氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液が用いられるときは、二酸化炭素が溶解した処理液に含まれる氷の微粒子は、過冷却液体の過冷却状態を通常の方法で解除して生成される氷の微粒子に比べて軟らかいため、例えば氷の微粒子を含む処理液を加圧してノズルから噴出させた際に、基板の表面上の位置によって氷の微粒子が基板の表面に衝突するときのエネルギに多少のむらがあっても、例えば液晶パターン用の金属膜、例えばAl+Moなどの軟らかい金属材料で形成された被膜が部分的にダメージを受ける、といったことが防止される。また、二酸化炭素が溶解した処理液に含まれる氷の微粒子は比較的軟らかいため、例えば基板の主面へ氷スラリーを供給しつつ基板の主面をブラシで洗浄する場合に、ロールブラシの回転速度や平面ブラシの揺動速度をより大きくすることができ、洗浄性能をより高めることができる。さらに、氷の微粒子を含む処理液中には二酸化炭素が溶解しているので、純水に比べて処理液の比抵抗値が小さいため、基板の主面へ供給される氷の微粒子を含む処理液は、配管内を流れてノズルへ送給されるときに静電気が発生しにくく、基板の主面へ供給されたときに基板上の微細なパターンやデバイスが静電気によって破壊される、といった心配が無い。
したがって、請求項5に係る発明の基板処理装置を、例えば基板の洗浄処理に使用するときは、基板表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質を良好に除去することができる。そして、請求項4に係る発明の氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液が用いられるときは、基板上に形成された金属膜等の被膜にダメージを与えることがなく、また、洗浄性能をより高めることが可能であり、さらに、静電気によって基板上の微細なパターンやデバイスを破壊することもない。
【0020】
請求項6に係る発明の基板処理装置では、処理液供給手段により、基板搬送手段によって水平方向へ搬送される基板の主面へ氷の微粒子を含む処理液が供給され、掻き混ぜ部材が基板の主面上で氷の微粒子を含む処理液を掻き混ぜることにより、例えば基板の洗浄処理では、基板表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が氷の微粒子によって掻き出され、汚染物質が処理液と共に基板の主面上から流出して除去される。このように、氷の微粒子を含む処理液を基板の主面上で掻き混ぜることにより汚染物質が基板上から除去されるので、処理液供給手段により氷の微粒子を含む処理液を加圧して基板の主面へ噴出させる必要が無い。
したがって、請求項6に係る発明の基板処理装置を使用すると、処理むらを生じることがなく均一な基板処理を行うことができ、また、基板上に形成された金属膜等の被膜にダメージを与えることもない。
【0021】
請求項7に係る発明の基板処理装置では、基板搬送手段により基板が傾斜姿勢に支持されて搬送されるので、処理液供給手段により基板の主面へ供給された氷の微粒子を含む処理液は、基板の傾斜に沿って流下しながら掻き混ぜ部材により基板の主面上で掻き混ぜられて、基板の低位置側の端縁から自然に流出する。
【0022】
請求項8に係る発明の基板処理装置では、氷の微粒子を含む処理液がノズルから高圧で基板の主面へ噴出されることにより、例えば基板の洗浄処理では、基板表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が氷の微粒子によって掻き出され、処理液と共に基板の主面上から流出して除去される。
【0023】
請求項9に係る発明の基板処理装置では、基板表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が基板の主面上から除去されて、基板が清浄化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の最良の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1ないし図3は、この発明の実施形態の1例を示し、図1は、氷スラリーの製造装置の本体部を縦方向に切断した状態を示す斜視図であり、図2は、その本体部を縦方向に切断した状態における一部を拡大した斜視図であり、図3は、その本体部の外観斜視図である。
【0025】
この氷スラリー製造装置は、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液(以下、「氷スラリー」という)を製造するものであって、その本体部10が細長い円管状に形成されている。すなわち、本体部10は、下端部から上端部に向かって内径が漸次小さくなるように形成された直管12を備えており、直管12の下端面は、底壁部14によって閉塞されている。直管12は、縦方向に配設され、好ましくは鉛直姿勢に保持される。この直管12の底壁部14には、液体導入管部16が底壁部14を貫通するように固着されており、液体導入管部16の先端口は、直管12の内部まで挿通されて液体導入口18となっている。また、図2に示すように、直管12の内方には、底壁部14と僅かな間隔を設けて仕切り壁部20が形設され、仕切り壁部20により直管12の内部が仕切られて、底壁部14との間に気体導入室22が形成されている。仕切り壁部20には、気体噴出口24となる多数の貫通細孔が形成されている。そして、図3に示すように、底壁部14に気体導入管部26が配設され、気体導入管部26は、気体導入室22に連通している。また、直管12の上端は開口し、その上端口が氷スラリーの流出口28となる。
【0026】
本体部10の液体導入管部16には、図4に氷スラリー製造装置のブロック構成図を示すように過冷却水供給用の液体供給管30が接続される。また、気体導入管部26には、ボンベ等の炭酸ガス供給源に流路接続された気体供給管32が接続される。液体供給管30は、熱交換器34に流路接続され、熱交換器34の内部流路を通して、純水供給源に流路接続された純水供給管36に連通している。また、熱交換器34には、チラー(冷却装置)38が併設されており、熱交換器34の内部通路とチラー38との間で不凍液(冷媒)が循環用配管40、42を通して循環させられている。そして、純水供給管36を通して供給される純水が、チラー38によって熱交換器34を介し氷点以下の温度に冷却されることにより過冷却水とされ、その過冷却水が液体供給管30を通して本体部10の液体導入管部16へ供給されるように構成されている。また、氷スラリー製造装置の本体部10の流出口28には、氷スラリー送液用の配管44が接続され、その配管44を通して、後述する基板洗浄装置46へ氷スラリーが供給される。
【0027】
図1ないし図3に示した構成を備えた氷スラリー製造装置の本体部10においては、液体導入管部16を通り液体導入口18を通って直管12内へ過冷却水が導入され、また、気体導入管部26を通って気体導入室22内へ炭酸ガスが導入されて、気体導入室22内から仕切り壁部20の多数の気体噴出口24を通って直管12内の過冷却水中に炭酸ガスが噴出される。そして、過冷却水と炭酸ガスの泡は、直管12の下部から上部の流出口28に向かって上昇する。この泡が上昇する過程で泡による振動が過冷却水に付与され、この振動によって過冷却水の過冷却状態が解除され、また、泡の上昇過程で泡がはじけることによって発生するエネルギーにより過冷却水の過冷却状態が解除される。これにより、氷核が形成されて氷の微粒子が生成される。このとき、過冷却水と炭酸ガスの泡とは共に、直管12内の細長い流路を通り下部から小径の流出口28に向かって上昇するので、直管12の流出口28に到達するまでの間に泡による過冷却状態の解除が効率良く行われ、多くの氷の微粒子が生成される。また、炭酸ガスは、仕切り壁部20の多数の貫通細孔からなる気体噴出口24より過冷却水中に噴出されるので、多くの細かい泡となってその総表面積が大きくなり、また、形成された泡は直管12の下部に留まって泡同士がくっついたりすることなく速やかに上部の流出口28に向かって浮上する。このため、より多くの氷核が形成されて、より多くのより微小な氷の微粒子を含む氷スラリーが製造される。
【0028】
また、直管12は、下端部から上端部に向かって内径が漸次小さくなるように形成されているので、生成された氷の微粒子を含む氷スラリーは、直管12内を良好に流動する。さらに、直管12の流出口28の内径が小さくなっていて、その流出口28に氷スラリー送液用の配管44が接続されるので、氷スラリーは、滞留したりすることなく直管12内から流出口28を通って流出し、配管44内へ流入する。また、低温の過冷却水中に炭酸ガスが噴出されるので、二酸化炭素の溶解量が多くなり、比較的多くの二酸化炭素が溶解した氷スラリーが得られる。この二酸化炭素が溶解した氷スラリーに含まれる氷の微粒子は、過冷却水の過冷却状態を通常の方法で解除して生成される氷の微粒子に比べて軟らかい。また、氷スラリー中に二酸化炭素が溶解していることにより、氷スラリーの比抵抗値が比較的小さい。
【0029】
なお、上記した実施形態では、過冷却水中に炭酸ガスを噴出させて氷スラリーを製造する装置について説明したが、純水以外の過冷却液体中に炭酸ガス以外の気体、例えば窒素ガス等の不活性ガスや空気などを噴出させ、過冷却液体の過冷却状態を解除して氷スラリーを製造するようにしてもよい。また、本体部の形状は、上記実施形態で示したような細長い円管状でなく、例えば円筒状等であってもよい。
【0030】
次に、図5ないし図7は、上記した氷スラリー製造装置によって製造された氷スラリーを用いて基板の処理、この例では基板の洗浄を行う基板洗浄装置46の構成の1例を示し、図5は、基板洗浄装置46の要部を示す概略斜視図であり、図6は、その正面図であり、図7は、その側面図である。
【0031】
この基板洗浄装置46は、互いに平行に並設された複数の搬送ローラ48から構成され基板Wを傾斜姿勢に支持してその傾斜方向と直交する方向でかつ水平方向へ基板Wを搬送するローラコンベア(図5および図7には図示を省略)、このローラコンベアによって搬送される基板Wの主面へ、二酸化炭素が溶解した氷スラリーを供給するノズル50、および、基板Wの主面上で氷スラリーを掻き混ぜる平面ブラシ52を備えて構成されている。ノズル50は、基板Wの、その搬送方向と直交する幅方向の寸法とほぼ同等の長さを有し、基板Wの直上位置に、基板搬送方向と交叉するようにかつ基板Wの傾斜に沿うように配設されている。ノズル50の下端面には、その長手方向にスリット状流出口が形設されており、そのスリット状流出口から氷スラリーがほとんど加圧されていない状態で流出するようになっている。このノズル50には、その内部に形成された流路に連通するように配管44が接続されており、ノズル50は、その配管44を通して上述した氷スラリー製造装置の本体部10に流路接続している。
【0032】
平面ブラシ52は、ノズル50の設置位置より基板搬送方向における前方側にかつノズル50の近くに設置されており、その下面にモヘア、ナイロンなどの毛54が平面状に植設されている。この平面ブラシ52は、基板Wの幅方向の寸法とほぼ同等の長さを有し、基板Wの直上位置に、基板搬送方向と交叉するようにかつ基板Wの傾斜に沿うように配設されている。また、図示を省略しているが、平面ブラシ52は、毛54の先端が基板Wの主面に接触もしくは近接するように支持・移動機構に支持され、支持・移動機構によって長手方向へ基板Wの全幅にわたり往復移動させられるようになっている。
【0033】
上記した構成を有する基板洗浄装置46においては、氷スラリー製造装置の本体部10から配管44を通してノズル50へ送られた氷スラリーは、特に加圧されることなくノズル50のスリット状流出口から流出して、ローラコンベアによって傾斜姿勢で水平方向へ搬送される基板Wの主面へ供給される。基板Wの主面へ供給された氷スラリーは、基板Wの傾斜に沿って流下しながら、基板搬送方向と交叉する方向へ往復移動する平面ブラシ52によって基板Wの主面上で掻き混ぜられ、基板Wの低位置側の端縁から自然に流出する。この際、氷スラリーが平面ブラシ52によって基板Wの主面上で掻き混ぜられることにより、基板Wの表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が氷スラリー中の氷の微粒子によって掻き出され、汚染物質が氷スラリーおよびその融解水と共に基板Wの主面上から流出して除去される。また、氷スラリー中には二酸化炭素が溶解しているので、氷スラリー中の氷の微粒子が比較的軟らかく、このため、平面ブラシ52の揺動速度(平面ブラシ52に代えてロールブラシを用いる場合は回転速度)をより大きくすることができ、平面ブラシ52による洗浄性能をより高めることができる。さらに、氷スラリー中には二酸化炭素が溶解しているので、氷スラリーの比抵抗値が比較的小さい。このため、氷スラリーが配管44内を流れてノズル50へ送給されるときに静電気が発生しにくく、氷スラリーが基板Wの主面へ供給されたときに基板W上の微細なパターンやデバイスが静電気によって破壊される、といった心配が無い。そして、氷スラリーは低温であるため、二酸化炭素は液中に長く溶存したままの状態で維持される。
【0034】
なお、この基板洗浄装置46では、上記したように氷スラリーを加圧することなくノズル50から基板Wの主面へ供給すればよいが、氷スラリーを加圧してノズル50から基板Wの主面へ吐出するようにしても、氷スラリー中には二酸化炭素が溶解しているために、氷スラリー中の氷の微粒子は比較的軟らかい。このため、基板Wの主面へ吐出された氷スラリー中の氷の微粒子によって、例えば液晶パターン用の金属膜、例えばAl+Moなどの軟らかい金属材料で形成された被膜が部分的にダメージを受ける、といった心配が無い。
【0035】
上記した実施形態では、ノズル50を基板搬送方向と交叉するようにかつ基板Wの傾斜に沿うように配設したが、ノズルを、傾斜した基板の高位置側の端縁部の直上位置に基板搬送方向に沿って配設するようにしてもよい。また、上記実施形態では、基板Wを傾斜姿勢に支持して水平方向へ搬送しながら、ノズル50から基板Wの主面へ氷スラリーを供給し、平面ブラシ52によって基板Wの主面上で氷スラリーを掻き混ぜるようにしたが、基板Wのサイズがそれほど大きくないときには、基板Wを水平姿勢に支持して水平方向へ搬送しながら、ノズル50から基板Wの主面へ氷スラリーを供給して平面ブラシ52で氷スラリーを掻き混ぜるようにし、その後に、基板Wを傾斜させて水洗処理するようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、平面ブラシ52によって基板Wの主面上で氷スラリーを掻き混ぜるようにしたが、平面ブラシ52に代えてロールブラシ等を用いるようにしてもよい。
【0036】
図8は、上記した氷スラリー製造装置によって製造された氷スラリーを用いて基板の洗浄を行う基板洗浄装置の別の構成例を示し、基板回転式洗浄装置(スピンスクラバ)の要部の構成を示す概略正面図である。
この基板回転式洗浄装置56は、基板Wを水平姿勢に保持するスピンチャック58を備えている。スピンチャック58は、回転支軸60により鉛直軸回りに回転自在に支持されており、回転支軸60に連結されたモータ(図示せず)によって鉛直軸回りに回転させられる。図示を省略しているが、スピンチャック58に保持された基板Wの周囲には、基板W上から周囲へ飛散する氷スラリーを捕集するためのカップが基板Wを取り囲むように配設されている。また、スピンチャック58に保持された基板Wの上方には、二酸化炭素が溶解した氷スラリーを基板Wの表面へ吐出する吐出ノズル62が配設されている。吐出ノズル62には、氷スラリー送液用の配管44が接続されており、吐出ノズル62は、その配管44を通して上述した氷スラリー製造装置の本体部10に流路接続している。
【0037】
図8に示した装置においては、スピンチャック58により保持されて回転する基板Wの表面へ、二酸化炭素が溶解した氷スラリーが加圧されて吐出ノズル62から吐出される。これにより、基板Wの表面の凹部などに存在するパーティクル等の汚染物質が氷の微粒子によって掻き出され氷スラリーと共に基板Wの表面上から流出して除去される。この場合において、吐出ノズル62から基板Wの表面へ吐出される氷スラリー中には二酸化炭素が溶解しているので、氷スラリー中の氷の微粒子は、過冷却水の過冷却状態を通常の方法で解除して生成される氷の微粒子に比べて比較的軟らかい。このため、基板Wの表面上において、吐出ノズル62から吐出される氷スラリー中の氷の微粒子が基板Wの表面に衝突するときのエネルギに多少のむらがあっても、基板Wの表面に形成されたパターン状の金属膜等が部分的にダメージを受ける、といったことが防止される。また、氷スラリーは、その氷スラリー中に二酸化炭素が溶解していることにより比抵抗値が比較的小さい。このため、氷スラリーが配管44内を流れて吐出ノズル62へ送給される過程で静電気が発生しにくく、吐出ノズル62から氷スラリーが基板Wの主面へ供給されたときに基板W上の微細なパターンやデバイスが静電気によって破壊される、といったことが防止される。
【0038】
なお、上記した各実施形態では、基板を洗浄する基板洗浄装置について説明したが、この発明は、洗浄以外の基板の処理を行う基板処理装置についても適用し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の実施形態の1例を示し、氷スラリーの製造装置の本体部を縦方向に切断した状態を示す斜視図である。図3は、その本体部の外観斜視図である。
【図2】図1に示した氷スラリーの製造装置の本体部を縦方向に切断した状態における一部を拡大した斜視図である。
【図3】図1に示した氷スラリーの製造装置の本体部の外観斜視図である。
【図4】図1に示した氷スラリーの製造装置のブロック構成図である。
【図5】図1ないし図4に示した氷スラリーの製造装置によって製造された氷スラリーを用いて基板の洗浄を行う装置構成の1例を示す図であって、基板洗浄装置の要部を示す概略斜視図である。
【図6】図5に示した基板洗浄装置の要部正面図である。
【図7】図5に示した基板洗浄装置の要部側面図である。
【図8】図1ないし図4に示した氷スラリーの製造装置によって製造された氷スラリーを用いて基板の洗浄を行う装置の別の構成例を示し、基板回転式洗浄装置の要部の構成を示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 氷スラリー製造装置の本体部
12 直管
14 底壁部
16 液体導入管部
18 液体導入口
20 仕切り壁部
22 気体導入室
24 気体噴出口
26 気体導入管部
28 氷スラリーの流出口
30 過冷却水供給用の液体供給管
32 気体供給管
34 熱交換器
36 純水供給管
38 チラー
40、42 循環用配管
44 氷スラリー送液用の配管
46 基板洗浄装置
48 搬送ローラ
50 ノズル
52 平面ブラシ
56 基板回転式洗浄装置
58 スピンチャック
60 回転支軸
62 吐出ノズル
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷の微粒子を含む処理液を製造する氷スラリーの製造装置において、
下部に液体導入口および気体噴出口を有し、上部に氷の微粒子を含む処理液の流出口を有する本体部と、
この本体部の液体導入口に連通した液体供給管を通して本体部内へ過冷却液体を供給する過冷却液体供給手段と、
前記本体部の気体噴出口に連通した気体供給管を通して本体部内へ過冷却解除用気体を供給する気体供給手段と、
を備え、前記液体導入口を通って前記本体部内へ導入された過冷却液体中に前記気体噴出口から過冷却解除用気体を噴出して過冷却液体の過冷却状態を解除し、生成された氷の微粒子を含む処理液を本体部内から前記流出口を通って流出させることを特徴とする氷スラリーの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の氷スラリーの製造装置において、
前記本体部が、
下端面が底壁部によって閉塞され、下端部から上端部に向かって内径が漸次小さくなるように形成された直管と、
この直管の底壁部を貫通して直管内部に挿通され、先端口が前記液体導入口となり、前記過冷却液体供給手段の液体供給管と接続される液体導入管部と、
前記直管の内部を仕切って前記底壁部との間に気体導入室が形成されるように底壁部と間隔を設けて配設され、前記気体噴出口となる多数の貫通細孔が形成された仕切り壁部と、
前記気体導入室に連通し、前記気体供給手段の気体供給管と接続される気体導入管部と、
を備えて構成され、前記直管の上端口が前記流出口となることを特徴とする氷スラリーの製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の氷スラリーの製造装置において、
前記直管が鉛直姿勢に保持されたことを特徴とする氷スラリーの製造装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の氷スラリーの製造装置において、
過冷却解除用気体が二酸化炭素であって、二酸化炭素が溶解し氷の微粒子を含む処理液を製造することを特徴とする氷スラリーの製造装置。
【請求項5】
氷の微粒子を含む処理液を用いて基板を処理する基板処理装置において、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の氷スラリーの製造装置と、
基板を支持する基板支持手段と、
この基板支持手段によって支持された基板の主面へ、前記氷スラリーの製造装置によって製造された氷の微粒子を含む処理液を供給する処理液供給手段と、
を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の基板処理装置において、
前記基板支持手段が、基板を支持して水平方向へ搬送する基板搬送手段であり、前記処理液供給手段により、前記基板搬送手段によって搬送される基板の主面へ氷の微粒子を含む処理液が供給され、基板の主面上で氷の微粒子を含む処理液を掻き混ぜる掻き混ぜ部材をさらに備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の基板処理装置において、
前記基板搬送手段が、基板の搬送方向と直交する方向において基板を傾斜させて支持し水平方向へ搬送することを特徴とする基板処理装置。
【請求項8】
請求項5に記載の基板処理装置において、
前記処理液供給手段が、前記基板支持手段によって支持された基板の主面へ氷の微粒子を含む処理液を高圧で噴出させるノズルを備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項9】
請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の基板処理装置において、基板の処理が洗浄処理であることを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−205065(P2006−205065A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20801(P2005−20801)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】