説明

波長多重光伝送路構造およびそれを用いた光モジュール

【課題】短距離光伝送に用いられる光伝送路において更なる低コスト化、小型化、大容量化が図れる光伝送技術を提供する。
【解決手段】波長多重光伝送路構造21は、面発光素子22の近接した2以上の発光点22−1、22−2から異なる波長の光を入射する1つの光入射部21aと、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有することを特徴とする。また、波長多重光伝送路構造21は、面発光素子22からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部21bと、2以上に分岐した光出射部21bに設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルター24−1、24−2を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長多重光伝送路構造およびそれを用いた光モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を用いたデータ伝送は幹線通信網からメトロ、アクセス更にはラック間へと距離の短いところへ適用が広がっており、今後、更に家庭内やボード間へと広がると考えられる。このような短距離光伝送では低コスト化、小型化、大容量化が強く求められ、光源として面発光レーザ(VCSEL)を用いたものが開発されている。
【0003】
一方、光ファイバ等により伝送される光信号を受信または送信するため、光信号と電気信号とを相互に変換する光素子を備えた光モジュールが用いられている。電気信号から光信号への変換には、上記のVCSELに代表される面発光素子が用いられ、光信号から電気信号への変換には、PINフォトダイオードに代表される面受光素子が用いられており、これらの光素子は基板に対して電気的に接続され、光ファイバ等は光素子に対して光学的に接続される。
【0004】
このような光モジュールは、配線基板(プリント配線板あるいはボード)上において光ファイバ等の光配線をする際の作業性や、保守交換の容易性などの点から、光ファイバ等の光伝送体がコネクタを介して着脱可能であることが望ましい。
【0005】
また、光素子に光ファイバ等を着脱する場合、配線基板に対して水平方向に着脱する構造にすると、光素子を搭載した部品の周辺に光ファイバ等を着脱する作業用のスペースを設けざるを得ないことから、そのスペースには他の部品を実装できず、実装密度を上げられないという問題がある。したがって、光ファイバ等の着脱は配線基板に対して垂直方向に行うことができることが望ましい。
【0006】
従来、このような要求に対応するものとして、光素子をその受発光面が配線基板に対して水平になるように搭載すると共に、光ファイバ等の端面に反射ミラー等を設けて光軸を垂直に変換したコネクタを用いることで、光ファイバ等と光素子とを垂直方向へ着脱自在に光学的に接続する光モジュールが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、本発明者等は、円弧状に曲げられた構造を有し外部側の光軸と光素子側の光軸とが互いに垂直である光伝送体および当該光伝送体を保持する保持部材を備えた上部構造体と、配線基板上に配置され、光素子および光素子駆動用のドライバ集積回路装置を含む複数の電子部品が搭載された光素子搭載基板と、配線基板上の光素子・電子部品搭載基板の上面に上部構造体を垂直方向に押圧して固定することにより、光素子搭載基板の光素子に対して上部構造体の光伝送路を光学的に接続する装着体とを備えた光モジュールを提案している(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−65358号公報
【特許文献2】特願2007−217574
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような短距離光伝送においては、光ファイバや光導波路等の光伝送路について現状ではまだまだ低コスト化、小型化、大容量化の期待に十分応えきれているとはいえず、更なる検討が求められている。
【0009】
一方、上記の本発明者等が提案した光モジュールは、大幅な小型化と、光伝送体と光素子との垂直方向への着脱自在な光学的接続を達成しているが、より伝送密度(伝送スループット)を向上させ、10Gbps/チャンネル以下の駆動や、40Gbps/チャンネルや100Gbpsの高速駆動にも適合した多様な駆動を行う点については更なる改善の余地があった。
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、短距離光伝送に用いられる光伝送路において更なる低コスト化、小型化、大容量化が図れる光伝送技術を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、低コスト化、小型化、大容量化が図れる上記光伝送技術を用い、より伝送密度(伝送スループット)を向上させ、10Gbps/チャンネル以下の駆動や、40Gbpsや100Gbps等の高速駆動にも適合した多様な駆動を行うことができる光モジュールを提供することをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、本発明の波長多重光伝送路構造は、面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有することを特徴とする。
【0014】
第2に、本発明の波長多重光伝送路構造は、面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に2以上に分岐した光出射部に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有することを特徴とする。
【0015】
第3に、本発明の波長多重光伝送路構造は、面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有する波長多重光伝送路構造、並びに、面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有する波長多重光伝送路構造を有する複合化されたものであることを特徴とする。
【0016】
第4に、上記第1または第3の波長多重光伝送路構造において、光入射部が、面発光素子から発光点の中心間距離が10〜40μmである発光点からの光を入射するように構成されていることを特徴とする。
【0017】
第5に、上記第1、第3または第4の波長多重光伝送路構造において、光伝送路が光導波路であり、光入射部側のコアの幅が端部に向けて徐々に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
第6に、上記第5の波長多重光伝送路構造において、光導波路の光入射部のコアの幅が円弧をつなげた曲面状に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
第7に、上記第2または第3の波長多重光伝送路構造において、光伝送路が光導波路であり、光出射部側が分岐部分の手前でコアの幅が徐々に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0020】
第8に、上記第7の波長多重光伝送路構造において、光導波路の光出射部側の分岐部分の手前のコアの幅が円弧をつなげた曲面状に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0021】
第9に、上記第5ないし第8のいずれかの波長多重光伝送路構造において、光導波路がポリマ光導波路であることを特徴とする。
【0022】
第10に、上記第1ないし第3のいずれかの波長多重光伝送路構造において、当該波長多重伝送路構造が光ファイバにより形成されていることを特徴とする。
【0023】
第11に、上記1ないし第10のいずれかの波長多重光伝送路構造において、光伝送路がマルチモードで光を伝送することを特徴とする。
【0024】
第12に、光信号を伝送する光伝送路と、光信号を電気信号に変換する機能と電気信号を光信号に変換する機能の少なくともいずれかを有する光素子とを光学的に接続する光モジュールであって、光伝送体および当該光伝送体を保持する保持部材を備えた上部構造体と、配線基板上に配置され、光素子および光素素子駆動用のドライバ集積回路装置を含む電子部品が搭載された光素子・電子部品搭載基板と、光素子・電子部品搭載基板の光素子に対して上部構造体の光伝送路を光学的に接続する装着体とを備えており、光伝送路が上記第1ないし第11のいずれかの波長多重光伝送路構造よりなることを特徴とする光モジュール。
【0025】
第13に、上記第12の光モジュールにおいて、光伝送路がマルチモードで光を伝送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記第1ないし第3の発明の波長多重光伝送路構造によれば、2以上の異なる波長の光を合波/分波して波長多重伝送することができ、今後の急速な展開が期待される短距離光伝送において更なる低コスト化、小型化、大容量化(伝送密度の向上)、構成簡易化、低消費電力化が図れるようになる。
【0027】
上記第4の発明の波長多重光伝送路構造によれば、面発光素子の発光点の中心間距離が非常に短い発光点からの光を入射できるため、上記効果に加え、面発光素子からの2以上の光をレンズやミラーを用いずに容易に直接、光入射部に入射させることができる。
【0028】
上記第5および第6の発明の波長多重光伝送路構造によれば、光入射部のコアの幅形状を端部に向かって徐々に拡がったテーパ状とし、また円弧をつなげた曲面状に拡がった形状としたので、上記効果に加え、面発光素子と光入射部の位置ずれトレランス(許容度)を大きくすることができる。さらに第6の発明の円弧をつなげた曲面状に拡がった形状として、コアのテーパ部及びその前後でコア幅の広がり方に傾きが不連続にならないようにすることで、光がコアの外に漏れずに損失を抑えることができる。
【0029】
上記第7および第8の発明の波長多重光伝送路構造によれば、光出射部の分岐部分の手前のコアの幅形状が徐々に拡がったテーパ状とし、また円弧をつなげた曲面状に拡がった形状としたので、上記の効果に加え、分岐による挿入損失を最小化することができる。
【0030】
上記第9の発明の波長多重光伝送路構造によれば、光導波路をポリマ光導波路としたので、上記の効果に加え、より容易にかつより安価に波長多重光伝送路構造を作製することができる。
【0031】
上記第10の発明の波長多重光伝送路構造によれば、光導波路に代えて光ファイバによっても、上記のようなすぐれた効果を得ることができる。
【0032】
上記第11の発明の波長多重光伝送路構造によれば、光伝送路を伝搬する光がマルチモードとなる光伝送路とすることで、上記の効果に加え、光素子と光伝送路の位置ずれトレランスを大きくとることができる。
【0033】
上記第12の発明の光モジュールによれば、容易に光接続および電気接続が行え、モジュール自体の小型化、低コスト化が図れる上、より伝送密度(伝送スループット)を向上させ、10Gbps/チャンネル以下の駆動や、40Gbpsや100Gbps等の高速駆動にも適合した多様な駆動を行うことができるようになる。
【0034】
上記第13の発明の光モジュールによれば、光伝送路を伝搬する光がマルチモードとなる光伝送路とすることで、上記の効果に加え、光素子と光伝送路の位置ずれトレランスを大きくとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0036】
先ず、本発明に係る波長多重光伝送路構造の実施形態について説明する。本発明の波長多重光伝送路構造は次の3つの形態をとりうる。
(1)面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有することを特徴とする波長多重光伝送路構造。
(2)面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有することを特徴とする波長多重光伝送路構造。
(3)面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有する波長多重光伝送路構造、並びに、面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有する波長多重光伝送路構造を有することを特徴とする複合化された波長多重光伝送路構造。
【0037】
本発明では、光伝送路を伝搬する光がマルチモードとなる光伝送路とすることができ、その場合、光素子と光伝送路の位置ずれトレランスを大きくとることができる。
【0038】
上記において、各波長多重光導波路構造は単独で構成されていてもよいし、複数のものが複数複合されて構成されていてもよい。短距離間で光伝送を行う場合には、光入射部と光反射部が1つのモジュールに一緒に設けられていてもよいし、両者がある程度、あるいはかなり離間して設けられる場合には、別々のモジュールとして設けられていてもよい。
【0039】
ここでは、波長多重光伝送構造が光導波路により構成される場合を例に述べるが、もちろん、本発明は光導波路に限らず光ファイバ等の各種光伝送路に適用される。
【0040】
図1に、本実施形態に係る光導波路21の構造例を模式的に平面図で示す。この例は、2波長の光伝送を行う場合であり、左側が入射側ステーション、右側が出射側ステーションである。両ステーションは別々のモジュールとして設けられる場合もあり、同一のモジュールとして設けられる場合もある。また、同じモジュールで、それぞれのステーションを任意の組合せで含む場合もある。図1において、21は光導波路、21aは光導波路21の入射側部分、21bは光導波路21の出射側部分、22は面発光素子(VCSEL)、23は面発光素子(VCSEL)駆動回路、24−1、24−2は波長選択フィルター、25(25−1、25−2)は面受光素子(PD)、26は増幅器である。
【0041】
面発光素子(VCSEL)22は隣接して設けられた2つの発光点22−1、22−2を有し、たがいに異なる波長λ1、λ2の光を発光する。この波長λ1、λ2の光は光導波路21の入射側部分21aに入射し、合波され、光導波路21中を伝送する。
【0042】
光導波路21の出射側部分21bは、21b−1と21b−2の2つの部分に分岐している。出射側部分21b−1に対して波長選択フィルター24−1と面受光素子(PD)25−1が設けられ、出射側部分21b−2に対して波長選択フィルター24−2と面受光素子(PD)25−2が設けられている。波長選択フィルター24−1は波長λ1の光は透過し、それ以外の波長の光は遮断する。一方、波長選択フィルター24−2は波長λ2の光は透過し、それ以外の波長の光は遮断する。
【0043】
ここで、実際に作製したポリマ光導波路の形状を図2に示す。ポリマ光導波路はコアとそれを包囲するクラッドより構成される。図2の(a)は光入射側のコアの形状を平面図で示したもので、図2の(b)は光出射側のコアの形状を平面図で示したものである。光導波路21はコアとクラッドからなり、コアとクラッドはアクリル系樹脂あるいはエポキシ系樹脂等を用い、屈折率を異ならせて構成することができる。本実施形態の一例においては、光入射側のコアは端面に向けて幅(縦)が50μmから90μmに拡がったテーパ状をなしている。厚み(高さ)は50μmである。本実施形態においては光入射側のコアが端面に向けて幅が拡がったテーパ状をなしていることが主要な特徴の一つである。詳しくは、光導波路21の光入射部分21aはその幅形状が円弧をつなげた曲面状に拡がったテーパ状に形成されている。このようにすると、面発光素子22からの入射光と光導波路21の入射側部分21aとの位置ずれトレランス(許容度)を大きくすることができる。図3に挿入損失の入射位置依存性を示す。この図から入射位置トレランスが40μm広がっていることがわかる。光導波路21の入射側部分21aの端面から波長λ1とλ2の2波長の光が入射する。
【0044】
一方、光出射側のコアは一度テーパをつけて50μm幅から100μm幅に拡げた後、Y分岐で2つに分かれている。より詳細には、光出射部分21bの分岐部分の手前のコアの幅形状は徐々に拡がったテーパ状となり、また円弧をつなげた曲面状に拡がった形状となっている。この円弧状の曲率は10mm以上とすると挿入損失を最小にすることができる。そして入射光を1:1に分岐できる。分岐部分の手前のコアの広がり部の長さは1000μm超とした。このテーパ部分の長さは、波長やコア幅、光の広がり角などの条件を考慮して設定されるが、好ましくは500μm以上、より好ましくは1000μm以上である。このY分岐における挿入損失を図4に示す。この図から、光パワーが分岐によって3dB減少するが、短距離の伝送のため十分なロスバジェットを確保することができる。
【0045】
上記の例では、2つの異なる波長λ1、λ2の光を入射して合波し、光導波路21よりなる光伝送路を伝送し、光出射側において、伝送してきた合波を2つに分岐させるようになっている。このようにすると、波長λ1による光データ送受信と波長λ2による光データ送受信を合わせて行うことができるため、伝送密度をより一層向上させることができる。
【0046】
次に、本実施形態に用いる面発光素子(VCSEL)の一例であるモノリシック2波長VCSEL100(22)の構造を図5に断面図で示す。VCSEL100は2つの隣接するメサ構造がp型GaAs基板101上に形成されている。このメサ構造は、積層の下部DBR(Distributed Bragg Reflector)層102、酸化狭窄層103、3層のQW(量子井戸構造)を持つ活性層104、第1の上部DBR層105より構成される。第1の上部DBR層105の上には、位相制御層106、積層の第2の上部DBR層107が設けられる。108は下部電極、109は上部電極である。位相制御層106の厚さを変えることで発振波長を変えることができる。
【0047】
この例のモノリシック2波長VCSEL100では、発光点間距離を約30μmとし、発振波長は853nmと867nmであり、発振波長に14nmの違いがあった。図6にVCSEL100の発振した様子を示す。また、図7にVCSEL100がそれぞれ8、10、13Gbpsで動作するときのアイ・ダイアグラムを示す。13Gbpsにおいても明瞭なアイ開口が得られていることがわかる。
【0048】
上記のモノリシック2波長VCSEL100と合波用ポリマ光導波路21とGI50マルチモード光ファイバ(光入射側と光出射側との間に配置)とを組み合わせたときの入射トレランスと伝送後の光波長スペクトルを調べた。入射トレランスはVCSEL100を発光させながら光導波路21をXY平面上で移動させ、光導波路21を通った後の光パワーのマップを作成して求めた。図8(a)、(b)に発光点の中心間距離が30μm離れたVCSEL100をそれぞれ発光させたときの光パワーマップを示す。発光位置の違いのため、光パワーの大きい濃い濃度で示された領域にシフトが見られる。図8(c)はVCSEL100の両方の発光点からの発光によるマップである。図8(d)は最大強度から−1dB以内の光パワーの領域を示す。図8(d)から、VCSELチップと光導波路の1dBダウンの位置トレランスは、発光点が30μm離れているにも関わらず±10μm以上が得られた。
【0049】
図9に波長の異なる近接する2つの発光点で発光させ、光導波路を伝搬した光のスペクトルを示す。波長853nmと867nmにピークが見られ、波長の異なる2つの発光点からの光が1本の光導波路のコアに入射し、伝送されていることが示され、合波が行われていることが確認された。
【0050】
図10は、3波長の光伝送を行う場合の光導波路21の模式的平面図である。この光導波路21の光入射側部分21aには波長λ1、λ2、λ3の3つの異なる波長の光が入射するようになっている。また、光出射側部分21bは21b−1、21b−2、21b−3の3つの部分に分岐し、それぞれλ1の波長の光のみを透過させる波長選択フィルター24−1、λ2の波長の光のみを透過させる波長選択フィルター24−2、λ3の波長の光のみを透過させる波長選択フィルター24−3が設けられている。この場合も、上記の2波長の場合と同様な原理でλ1、λ2、λ3の3つの波長を用いた光データ送受信を合わせて行うことができるため、伝送密度をさらに向上させることができる。
【0051】
また、本発明によれば、4波長以上の多重波長による光データ送受信を行うことができる。
【0052】
以上、波長多重光伝送路構造を、光導波路を例に説明してきたが、本発明は光導波路に限定されず、フォトカプラ等を利用することにより光ファイバにも適用することができる。
【0053】
次に、上記の波長多重光伝送路構造を用いた光モジュールの実施形態について説明する。図11および図12は、本発明の一実施形態における光モジュールを示す斜視図であり、図11は光接続および電気接続を切り離した状態、図12は光接続および電気接続をした状態を示している。ここでは波長多重光伝送路構造を光導波路で構成した場合について述べるが、本発明はこれに限定されず、光ファイバ等を適用することができる。
【0054】
図11に示すように、本実施形態の光モジュール1は、光導波路7が保持部材6により保持された上部構造体5と、光素子40および電子部品41を搭載した光素子・電子部品搭載基板30と、異方導電性シート60と、配線基板70(プリント配線板あるいはボード)上に固定された嵌合部材50とを備えている。
【0055】
この光モジュール1は、配線基板70上の嵌合部材50内の開口部51に異方導電性シート60を配置し、その上に光素子・電子部品搭載基板30を配置し、さらにその上から上部構造体5を垂直に嵌め込んで図12に示すように装着することにより、上部構造体5の光導波路7と光素子・電子部品搭載基板30の光素子40が光学的に接続され、光素子・電子部品搭載基板30と配線基板70が異方導電性シート60を介して電気的に接続されるようになっている。図12に示す装着状態の光モジュール1は、全体として、たとえば幅10mm×10mm、厚さ6.4mmのコンパクトなサイズのモジュールを構成している。
【0056】
上部構造体5は、図13(a)および図13(b)にも示すように、樹脂製の保持部材6の背面から、複数本(本実施形態では12本)の光導波路7が並列したテープ状導波路8が保持部材6内に水平に入り込み、保持部材6内で光導波路7が円弧状に曲げられて光導波路7の端面7aが保持部材6の下面から垂直に露出した構造を有している。
【0057】
保持部材6の上面における光導波路7と平行な両側周縁部には、当該周縁部に沿ってテーパ面を成す一対の肩部12が設けられており、図11の嵌合部材50内に嵌め込んで装着したときに嵌合部材50の上部に設けられた一対の突条部52が保持部材6の肩部12に当接して下方に押圧するようになっている。
【0058】
また、図11に示すように、保持部材6には2つの位置決め穴11が設けられており、図11の嵌合部材50内に嵌め込んで装着したときに、光素子・電子部品搭載基板30に立設された位置決めピン42が保持部材6の位置決め穴11に挿入されて上部構造体5と光素子・電子部品搭載基板30とが水平方向に位置決めされるようになっている。
【0059】
保持部材6は、図13(a)および図13(b)に示すように上側部材10と下側部材20とから構成されており、上側部材10と下側部材20によって光導波路7を挟み込んで保持するようになっている。一方、下側部材20の上面側には光導波路7の円弧形状に対応した曲面を成す光導波路保持面が設けられており、上側部材10と下側部材20によって光導波路7を挟み込むことにより、上側部材10のガイド溝と下側部材20の光導波路保持面との間で光導波路7を円弧状に曲げられた状態で保持するようになっている。
【0060】
光導波路7の外部側光軸65aと光素子側光軸65bとの間の円弧部分の曲率半径Rは、好ましくは5mm以下、より好ましくは1〜3mmである。このように円弧部分の曲率半径は非常に小さく、上部構造体5の上下方向が低背化され、かつ、水平方向も小型化されている。
【0061】
図14は、光素子・電子部品搭載基板の上面側斜視図、図15は、上部構造体と光素子・電子部品搭載基板とが光接続された状態を示す断面図である。図14に示すように、光素子・電子部品搭載基板30は、外周部に沿って壁部32が立設された箱状のセラミック基板31を備えており、セラミック基板31上の前方側の位置には光導波路7と対応した数の受発光面が並んで配置された光素子40が搭載されている。
【0062】
光素子・電子部品搭載基板30は、壁部32に囲まれたキャビティ内に光素子40、ドライバ集積回路装置41などの電子部品を搭載している。
【0063】
光素子40は、面発光素子のVCSELと面受光素子のPINフォトダイオードから構成されている。壁部32の上面32aは光学的基準面を構成しており、上部構造体5の下面に当接することにより、図15に示すように光導波路7の端面7aと光素子40とが垂直方向に位置決めされる。
【0064】
なお、図14に示すように、セラミック基板31上における光素子40の両側の位置には突出高さ2mm、突出部分の直径0.7mmの一対の位置決めピン42が立設されており、これらの位置決めピン42が上部構造体5の位置決め穴11に挿入されることにより光素子・電子部品搭載基板30と上部構造体5が水平方向に位置決めされるようになっている。
【0065】
セラミック基板31上における光素子40の後方には、光素子40のドライバ集積回路装置41が搭載されており、光素子40とドライバ集積回路装置41はボンディングワイヤによって接続されている。その他、セラミック基板31上には他の電子部品が搭載されていると共に、セラミック基板31上の電子部品の電極は、電子部品の直下あるいはプリント配線33等を介してセラミック基板31を貫通する不図示のスルーホールを通じて、セラミック基板31の下面に設けられたパッド電極に電気的に接続されている。
【0066】
図11の異方導電性シート60は、加圧によって垂直方向への導通が確保されるものであり、特に制限なく各種のものを用いることができるが、たとえばシリコーンゴムなどの弾性をもつ絶縁性基材に、金属等の導電性粒子を厚さ方向に並べたもの、あるいは導電性の線材を埋設したものなどを用いることができる。絶縁性基材上に導電性のパッドが設けられたものを用いるようにしてもよい。異方導電性シート60の厚さは、たとえば0.1〜1mmである。
【0067】
以上の構成を備えた光モジュール1を図11のように光接続および電気接続が切り離された状態から図2のように光接続および電気接続をした状態に組み立てる際には、まず図11の配線基板70上に固定された嵌合部材50の開口部51内に異方導電性シート60を配置する。次いでその上に光素子・電子部品搭載基板30を配置し、さらにその上から上部構造体5を嵌合部材50に垂直に嵌め込む。
【0068】
このとき、光素子・電子部品搭載基板30の位置決めピン42が上部構造体5の位置決め穴11に挿入されて、光素子・電子部品搭載基板30に対して上部構造体5が水平方向に所定の精度、たとえば3〜5μmの精度で位置決めされると共に、保持部材6の側面が側板部53に規制されて、光素子・電子部品搭載基板30が配線基板70に対して間接的に水平方向に位置決めされる。配線基板70上には、ピッチ500μm、直径300〜350μm、高さ100μmのはんだバンプが形成されており、これらのはんだバンプに対して、光素子・電子部品搭載基板30の下面に設けられたピッチ500μm、直径300〜350μm、高さ10μmの裏面電極が位置合わせされる。
【0069】
そして、嵌合部材50の弾性により上部構造体5は下方に押圧され、これにより異方導電性シート60が加圧されて導通状態となる。これにより、異方導電性シート60を介して光素子・電子部品搭載基板30の裏面電極と配線基板70上のはんだバンプとが電気的に接続される。
【0070】
また、光素子・電子部品搭載基板30の位置決めピン42が上部構造体5の位置決め穴11に挿入されることにより、図15の断面図に示すように光導波路7の端面7aと、光素子40との水平方向の位置決めがされると共に、保持部材6の下面6aと光素子・電子部品搭載基板30の壁部32の上面32aとが当接することにより、光導波路7の端面7aと、光素子40との垂直方向の位置決めがされて、これらが光学的に接続される。
【0071】
このようにして、光モジュール1は図12に示す状態で垂直方向へ電気的および光学的に接続され、光導波路7を通じて外部との間で伝送される光信号の送受信が可能な状態とされる。
【0072】
そして、たとえば保守交換時などにおいては、上部構造体5を嵌合部材50から垂直に抜き出すことで光接続を容易に切り離すことができ、次いで光素子搭載基板30を異方導電性シート60上から垂直に取り出すことで電気接続を容易に切り離すことができる。
【0073】
以上に、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0074】
たとえば、上記の実施形態では、装着体として嵌合部材50を用いて上部構造体5を垂直方向へ着脱自在に装着し、光素子・電子部品搭載基板30の光素子40に対して上部構造体5の光伝送路を光学的に接続するようにしたが、このような機能を有する装着構造として、クランプスプリング、ネジ止め構造、板バネ構造、ラッチ構造、開閉式クランプスプリングなど、各種のものを用いることができる。
【0075】
光素子40として、レーザダイオードなどのVCSEL以外の面発光素子を用いてもよく、PINフォトダイオード以外の面受光素子を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、本実施形態に係る光導波路の構造例を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、実際に作製したポリマ導波路の形状を示す図で、(a)は光入射側のコアの形状を示す平面図、(b)は光出射側のコアの形状を示す平面図である。
【図3】図3は、挿入損失の入射位置依存性を示す図である。
【図4】図4は、Y分岐における挿入損失を示す図である。
【図5】図5は、モノリシック2波長VCSELの構造を示す断面図である。
【図6】図6は、モノリシック2波長VCSELが発振した様子を示す図である。
【図7】図7は、VCSELが各伝送速度で動作するときのアイ・ダイアグラムである。
【図8】図8は、VCSELのパワーマップを示す図である。
【図9】図9は、波長の異なる2つの発光点で発光させ、光導波路を伝搬した光のスペクトルを示す図である。
【図10】図10は、3波長の光伝送を行う場合の光導波路の模式的平面図である。
【図11】図11は、本発明の一実施形態における光モジュールを示す斜視図であり、光接続および電気接続を切り離した状態を示す。
【図12】図12は、図11の光モジュールにおける光接続および電気接続をした状態を示す斜視図である。
【図13】図13は、上部構造体の上側部材、光導波路、および下側部材の配置状態を示した図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図14】図14は、光素子・電子部品搭載基板の斜視図である。
【図15】図15は、上部構造体と光素子・電子部品搭載基板とが光接続された状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 光モジュール
5 上部構造体
6 保持部材
6a 下面
7 光導波路
7a 端面
8 テープ状光導波路
10 上側部材
11 位置決め穴
12 肩部
20 下側部材
21 光導波路
21a 入射側部分
21b(21b−1、21b−2) 出射側部分
22 面発光素子(VCSEL)
22−1、22−2 発光点
23 面発光素子駆動回路
24−1、24−2 波長選択フィルター
25(25−1、25−2) 面受光素子(PD)
30 光素子・電子部品搭載基板
31 セラミック基板
40 光素子
41 ドライバ集積回路装置
42 位置決めピン
50 嵌合部材
60 異方導電性シート
70 配線基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有することを特徴とする波長多重光伝送路構造。
【請求項2】
面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有することを特徴とする波長多重光伝送路構造。
【請求項3】
面発光素子の近接した2以上の発光点から異なる波長の光を入射する1つの光入射部と、入射した2以上の異なる波長の光を合波して伝送する光伝送路本体を有する波長多重光伝送路構造、並びに、面発光素子からの2以上の異なる波長の光の合波を伝送する光伝送路本体と、光伝送路本体の出射側に2以上に分岐して設けられた光出射部と、光出射部から出た光を受ける受光素子の受光部があり、光伝送路の分岐部から受光部の間に設けられたそれぞれ波長の異なる光に分波する波長選択フィルターを有する波長多重光伝送路構造を有することを特徴とする複合化された波長多重光伝送路構造。
【請求項4】
光入射部が、面発光素子から発光点の中心間距離が10〜40μmである発光点からの光を入射するように構成されていることを特徴とする請求項1または3に記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項5】
光伝送路が光導波路であり、光入射部側のコアの幅が端部に向けて徐々に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1、3または4に記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項6】
光導波路の光入射部のコアの幅が円弧をつなげた曲面状に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項7】
光伝送路が光導波路であり、光出射部側が分岐部分の手前でコアの幅が徐々に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項8】
光導波路の光出射部側の分岐部分の手前のコアの幅が円弧をつなげた曲面状に拡がったテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項9】
光導波路がポリマ光導波路であることを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項10】
当該波長多重光伝送路構造が光ファイバにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項11】
光伝送路がマルチモードで光を伝送することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の波長多重光伝送路構造。
【請求項12】
光信号を伝送する光伝送路と、光信号を電気信号に変換する機能と電気信号を光信号に変換する機能の少なくともいずれかを有する光素子とを光学的に接続する光モジュールであって、光伝送体および当該光伝送体を保持する保持部材を備えた上部構造体と、配線基板上に配置され、光素子および光素素子駆動用のドライバ集積回路装置を含む電子部品が搭載された光素子・電子部品搭載基板と、光素子・電子部品搭載基板の光素子に対して上部構造体の光伝送路を光学的に接続する装着体とを備えており、光伝送路が請求項1ないし11のいずれかの波長多重光伝送路構造よりなることを特徴とする光モジュール。
【請求項13】
光伝送路がマルチモードで光を伝送することを特徴とする請求項12に記載の光モジュール。

【図1】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−199038(P2009−199038A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43650(P2008−43650)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(390005049)ヒロセ電機株式会社 (383)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】