火花点火内燃機関
【課題】ハイブリッド車両の火花点火内燃機関において、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、火花点火内燃機関の振動及び騒音の増大を抑制して比較的大きなエンジンブレーキを発生させる。
【解決手段】モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには(ステップ102)、自動変速器により機関回転数を高める(ステップ109)と共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させる(ステップ108)。
【解決手段】モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには(ステップ102)、自動変速器により機関回転数を高める(ステップ109)と共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させる(ステップ108)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の火花点火内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の減速時において、吸気量を増加するために吸気弁の閉弁時期を進角させて実圧縮比を高めることにより圧縮行程でのポンピング損失を増大させ、十分なエンジンブレーキ力が得られるようにすることが提案されている(特許文献1参照)。また、機関回転数を高めるようにしても吸気行程でのポンピング損失及び摩擦損失が増大するために十分なエンジンブレーキ力を得ることができる。
【0003】
ところで、モータ・ジェネレータを具備するハイブリッド車両では、車両減速時には、一般的に、モータ・ジェネレータを発電機として作動させて、バッテリを充電とすると共に制動力(回生ブレーキ)を発生させている。しかしながら、バッテリの充電量が十分であるときには、バッテリの過充電を防止するために、モータ・ジェネレータを発電機として作動させることはできず、内燃機関において十分なエンジンブレーキ力を発生させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−035178
【特許文献2】特開2004−270679
【特許文献3】特開平10−009005
【特許文献4】特開2004−239147
【特許文献5】特開2005−009366
【特許文献6】特開2006−083729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、十分なエンジンブレーキ力を発生させるために、内燃機関において実圧縮比を高めたり機関回転数を高めたりすると振動及び騒音が増大してしまう。
【0006】
従って、本発明の目的は、ハイブリッド車両の火花点火内燃機関において、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、火花点火内燃機関の振動及び騒音の増大を抑制して比較的大きなエンジンブレーキを発生させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による請求項1に記載の火花点火内燃機関は、モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには、自動変速器により機関回転数を高めると共に前記機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による請求項1に記載の火花点火内燃機関によれば、モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、自動変速器により機関回転数を高めれば、吸気行程でのポンピング損失を増大させることができると共に摩擦損失を増大させることができ、エンジンブレーキ力を大きくすることができる。しかしながら、そのままでは、高められた機関回転数により振動及び騒音が増大してしまうために、同時に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることによって、振動及び騒音が増大することを抑制するようにしている。その結果、吸気量を減少させることなく実圧縮比を低下させることができ、圧縮行程でのポンピング損失の低下を抑制することができ、増大させた吸気行程でのポンピング損失及び摩擦損失により比較的大きなエンジンブレーキ力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】火花点火式の内燃機関の全体図である。
【図2】可変圧縮比機構の分解斜視図である。
【図3】図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
【図4】可変バルブタイミング機構を示す図である。
【図5】吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
【図6】機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
【図7】理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
【図8】通常のサイクルおよび超高膨張比サイクルを説明するための図である。
【図9】機関負荷に応じた機械圧縮比等の変化を示す図である。
【図10】本発明による内燃機関が組み込まれるハイブリッド車両の概略図である。
【図11】図10のハイブリッド車両の基本的動作を説明するための共線図である。
【図12】図10のハイブリッド車両の高速定常走行時を示す共線図である。
【図13】図10のハイブリッド車両の減速時の制御を示すフローチャートである。
【図14】図10のハイブリッド車両の回生ブレーキの発生時を示す共線図である。
【図15】図10のハイブリッド車両のエンジンブレーキの発生時を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に火花点火式の内燃機関の側面断面図を示す。図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
【0011】
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。
【0012】
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
【0013】
図1に示されるようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
【0014】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
【0015】
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
【0016】
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
【0017】
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
【0018】
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)には夫々の状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
【0019】
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
【0020】
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられており、これらウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
【0021】
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
【0022】
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
【0023】
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
【0024】
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
【0025】
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
【0026】
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
【0027】
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
【0028】
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
【0029】
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0030】
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
【0031】
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0032】
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
【0033】
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
【0034】
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
【0035】
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
【0036】
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
【0037】
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
【0038】
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
【0039】
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
【0040】
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒装置20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
【0041】
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
【0042】
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
【0043】
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
【0044】
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
【0045】
一方、図9に示される実施例では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
【0046】
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
【0047】
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができる。
【0048】
前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
【0049】
本実施例において、このように構成された火花点火式の内燃機関がハイブリッド車両に組み込まれる。図10はハイブリッド車両を示す概略図である。同図において、EGが内燃機関であり、MG1は第一モータ・ジェネレータ、MG2は第二モータ・ジェネレータである。第一モータ・ジェネレータMG1、及び、第二モータ・ジェネレータMG2も、電子制御ユニット30により制御される。
【0050】
第一及び第二モータ・ジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成されている。内燃機関EGと第一モータ・ジェネレータMG1と第二モータ・ジェネレータMG2とは、プラネタリギヤ(遊星歯車装置)を介して機械的に結合されている。
【0051】
プラネタリギヤは、中心で回転するサンギヤ131と、サンギヤ131の周囲を自転しながら公転するプラネタリピニオンギヤ133と、その外周で回転するリングギヤ132とを有している。プラネタリピニオンギヤ133はプラネタリキャリア134に軸支されている。内燃機関EGのクランクシャフト150はダンパ151を介してプラネタリキャリア134の回転軸135に結合されている。ダンパ151はクランクシャフト150に生じる捻り振動を吸収するために設けられている。
【0052】
第一モータ・ジェネレータMG1の回転子R1はサンギヤ131の回転軸136に結合されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2の回転子R2はリングギヤ132の回転軸137に結合されている。リングギヤ132の回転は、チェーンベルト138を介して駆動軸140へ伝達され、最終的に車輪141及び142へ伝達される。
【0053】
プラネタリギヤは、上述の三つの回転軸135、136、137のうちの二つの回転軸の回転数及びトルク(以下、回転状態と称する)が決定されると、残りの回転軸の回転状態が定まる性質を有している。各回転軸135、136、137の回転状態の関係は、機構学において周知の計算式によって求めることができるが、図11及び12に示すような共線図により幾何学的に求めることもできる。
【0054】
図11において、縦軸は各回転軸の回転数を示しており、横軸は各ギヤのギヤ比を距離的な関係で示している。サンギヤ131の回転軸136(S)と、リングギヤ132の回転軸37(R)とを両端とし、位置Sと位置Rとの間を1:pに内分する位置Cをプラネタリキャリア134の回転軸135の位置Cとする。pはリングギヤ132の歯数に対するサンギヤ131の歯数の比である。こうして定義された位置S、C、及びRに、各ギヤの回転軸135、136、137の回転数Ne、Ns、Nrをプロットすると、一直線となり、この直線が動作共線と呼ばれる。動作共線は、二点が決まれば一義的に定まるために、三つの回転軸135、136、137のうちの二つの回転軸の回転数から残りの回転軸の回転数を求めることができる。
【0055】
また、プラネタリギヤでは、各回転軸のトルクを動作共線に働く力に置き換えて示した時に、動作共線が剛体として釣り合いが保たれる。例えば、プラネタリキャリア134の回転軸135に作用するトルクをTeとする。この時に、図11に示すように、トルクTeに相当する大きさの力を位置Cにおいて動作共線に下側から鉛直方向に作用させる。また、リングギヤ132の回転軸137から出力されるトルクTrを位置Rにおいて動作共線に上側から鉛直方向に作用させる。図11において、Tes及びTerは剛体に作用する力の分配法則に基づいてトルクTeを等価な二つの力に分配したものである。すなわち、Tes=p/(1+p)*Teとなり、Ter=1/(1+p)*Teとなる。これらの力が作用した状態で、動作共線が剛体として釣り合いがとれているという条件を考慮すれば、サンギヤ131の回転軸136に作用すべきトルクTm1と、リングギヤ132の回転軸137に作用すべきトルクTm2とを求めることができる。トルクTm1はトルクTesに等しくなり、トルクTm2は駆動軸14へ与えられるトルクTrとトルクTerとの差分に等しくなる。
【0056】
プラネタリキャリア134の回転軸135に結合された内燃機関EGが回転している時に、動作共線に関する上述の条件を満足すれば、サンギヤ131及びリングギヤ132は様々な回転状態で回転することができる。サンギヤ131が回転している時は、その回転動力を利用して第一モータ・ジェネレータMG1により発電することが可能である。また、リングギヤ132が回転している時は、内燃機関EGから出力された動力を駆動軸140に伝達することが可能である。また、内燃機関EGから出力された動力を駆動軸140に機械的に伝達される動力と、電力として回生される動力に分配し、さらに回生された電力を利用して第二モータ・ジェネレータMG2を電動機として作動させて動力のアシストを行わせることもできる。
【0057】
第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動力により車両を走行させることができ、この時には、内燃機関EGを停止させたり、アイドル運転させたりすることができる。
【0058】
図12は、車両の高速定常走行時の共線図を示している。図11に示す共線図ではサンギヤ131の回転軸136の回転数Nsは正であったが、内燃機関EGの回転数Neとリングギヤ132の回転軸137の回転数Nrとによって、図12の共線図ではサンギヤ131の回転軸136の回転数Nsは負となっている。この時には、第一モータ・ジェネレータMG1では、回転の方向とトルクの作用する方向とが同じになるから、第一モータ・ジェネレータMG1は電動機として動作し、トルクTm1と回転数Nsとの積で表される電気エネルギを消費する。一方、第二モータ・ジェネレータMG2では、回転の方向とトルクの作用する方向とが逆になるから、第二モータ・ジェネレータMG2は発電機として動作し、トルクTm2と回転数Nrとの積で表される電気エネルギをリングギヤ32の回転軸137から回生することになる。このように、本ハイブリッド車両は、プラネタリギヤの作用に基づいて種々の運転状態で走行することができる。
【0059】
図13は車両減速時の制御を示すフローチャートである。先ず、ステップ101において、車両減速時であるか否かが判断される。この判断が否定されるときにはそのまま終了する。車両減速時には、ステップ101の判断が肯定され、ステップ102において、バッテリの充電量Cが設定充電量C1以上であるか否かが判断される。この判断が否定されるときには、バッテリが過充電となるまで余裕があるために、ステップ103において、第二モータ・ジェネレータMG2を発電機として作動させて回生ブレーキ力を発生させ、車両の制動エネルギを電気エネルギとしてバッテリに回収することができる。
【0060】
MG2により回生ブレーキ力を発生させるためには、図14に示す共線図のように、内燃機関EGは単にフューエルカットされ、内燃機関EGは比較的低い回転数Ne’において負のトルクTe’を発生する。このときにリングギヤ132の回転軸137は回転数Nr’となっており、サンギヤ131の回転軸136は回転数Ns’となる。負のトルクTe’は、前述のように分配され、サンギヤ131の回転軸136に作用すべきトルクTm1と、今回の車両減速において必要な制動トルクTr’(機械式ブレーキが併用される場合には、その分を小さくなる)をリングギヤ132の回転軸137に発生させることを考慮してリングギヤ132の回転軸137に作用すべきトルクTm2とが求められる。第一モータ・ジェネレータMG1は回転の方向とトルクTm1の作用する方向とが同じになるから電動機として作動するが、第二モータ・ジェネレータMG2は回転の方向とトルクTm2の作用する方向とが逆になるから発電機として作動する。第二モータ・ジェネレータMG2の発電量を大きくするためには(Tm2を大きくするためには)、例えばスロットル弁の開度を大きくしてポンピング損失を減少させることにより、内燃機関EGにより発生する負のトルクTe’の絶対値を小さくすることが好ましい。
【0061】
一方、ステップ102の判断が肯定されるときには、バッテリの過充電を防止するために、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2のいずれも発電機として作動させることはできず、回生ブレーキ力を発生させることができないために、内燃機関においてエンジンブレーキを発生させることが好ましい。
【0062】
それにより、ステップ104において、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”(機械式ブレーキが併用されることが考慮され、回生制動の場合と同じにはならない)をリングギヤ132の回転軸137に発生させるようなエンジンブレーキ力を内燃機関において発生させる第一目標回転数TN1が算出される。この場合のエンジンブレーキ力は、フューエルカットされてスロットル弁の開度が最小開度又は設定開度まで小さくされた状態において、第一目標回転数TN1において内燃機関に発生するポンピング損失と、第一目標回転数TN1において内燃機関の各部材間で発生する摩擦損失である。
【0063】
次いで、ステップ105において、内燃機関を第一目標回転数TN1とした場合において発生する騒音及び振動が許容範囲内であるか否かが判断される。今回の車両減速において必要な制動トルクTr”が設定値より小さい場合には、騒音及び振動は許容範囲内となるために、ステップ105の判断は肯定され、ステップ106において、第一モータ・ジェネレータMG1を電動機として作動させて内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1に高める。この場合において、第二モータ・ジェネレータMG2は電動機としても発電機としても作動しないようにされる。
【0064】
一方、ステップ105の判断が否定されるときには、振動及び騒音が許容範囲外となるために、内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1とすることはできない。それにより、ステップ107において、第一目標回転数TN1より高い第二目標回転数TN2を算出する。第二目標回転数TN2は、フューエルカットされてスロットル弁の開度を最小開度又は設定開度に小さくした状態において、第一目標回転数TN1の場合に比較して小さくされた所望の実圧縮比を実現して振動及び騒音が許容範囲内とし、それにより、第一目標回転数TN1の場合に比較して圧縮行程でのポンピング損失は小さくなるが、第一目標回転数TN1の場合に比較して高回転のために吸気行程でのポンピング損失が大きくなると共に摩擦損失が増大し、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させるようなエンジンブレーキ力を内燃機関において発生させる回転数である。すなわち、内燃機関EGにおいて、フューエルカットされてスロットル弁の開度が最小開度又は設定開度とされ、第一目標回転数TN1の場合より小さく設定された実圧縮比の第二目標回転数TN2が実現されれば、振動及び騒音は許容範囲内となり、必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させることができる。
【0065】
こうして、第二目標回転数TN2が算出されれば、ステップ108において、第二目標回転数TN2に対して定められたように現在の実圧縮比に比較して実圧縮比を低下させ、ステップ109において、第一モータ・ジェネレータMG1を電動機として作動させて内燃機関の回転数を第二目標回転数TN2に高める。この場合において、第二モータ・ジェネレータMG2は電動機としても発電機としても作動しないようにされる。
【0066】
内燃機関の回転数を第二目標回転数TN2とした場合の共線図を図15に示す。内燃機関EGは比較的高い第二目標回転数TN2において負のトルクTe”を発生する。この負のトルクTe”は、前述のように分配され、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させる。ここで、内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1とした場合の共線図は図15において点線で示されており、内燃機関EGは、第二目標回転数TN2より低い第一目標回転数TN1において同じ大きさの負のトルクTe”を発生する(回転数の低下により摩擦損失が小さくなり、実圧縮比が高いことにより圧縮行程でのポンプ損失が大きくなる)。リングギヤ132の回転軸137の回転数は第二目標回転数TN2のときのNr”と同じであり、サンギヤ131の回転軸136の回転数は第二目標回転数TN2のときのNs”より低い回転数となる。
【0067】
図13のフローチャートのステップ108において、実圧縮比を低下させるのに、可変バルブタイミング機構Bにより吸気弁の閉弁時期を遅角させて吸気量を減少させると、圧縮行程でのポンピング損失がさらに低下するために、機械圧縮比可変機構として機能する可変圧縮比機構Aにより機械圧縮比が小さくされる。それにより、吸気量を減少させることなく実圧縮比を低下させることができ、圧縮行程でのポンピング損失の低下が抑制されるために、エンジンブレーキ力を大きくするのに有利である。
【0068】
こうして、本実施例では、ハイブリッド車両において、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、内燃機関によりエンジンブレーキを発生させるために、実圧縮比を変化させることなく自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を第一目標回転数に高めるようにし、もし、それにより振動及び騒音が許容範囲外となるならば、自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を第一目標回転数より高い第二目標回転数に高めるようにすると共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させるようにし、振動及び騒音を許容範囲内としている。もちろん、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、内燃機関によりエンジンブレーキを発生させるために、自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を目標回転数に高めるようにすると共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させるようにして振動及び騒音を許容範囲内にするようにしても良い。
【0069】
本実施例では、ハイブリッド車両の自動変速器としてプラネタリギヤが使用されているが、これは本発明を限定するものではなく、例えば、自動無段変速器(CVT)又は自動有段変速器により内燃機関が駆動軸に接続されている場合においても、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機(回生ブレーキ)として作動させることができないときに、内燃機関により所望のエンジンブレーキ力を発生させるために、振動及び騒音を許容範囲内とするように機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させて、自動無段変速器又は自動有段変速器により変速比を大きくして内燃機関の回転数を目標回転数へ高めるようにすれば良い。
【符号の説明】
【0070】
EG 内燃機関
MG1 第一モータ・ジェネレータ
MG2 第二モータ・ジェネレータ
A 可変圧縮比機構
B 可変バルブタイミング機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の火花点火内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の減速時において、吸気量を増加するために吸気弁の閉弁時期を進角させて実圧縮比を高めることにより圧縮行程でのポンピング損失を増大させ、十分なエンジンブレーキ力が得られるようにすることが提案されている(特許文献1参照)。また、機関回転数を高めるようにしても吸気行程でのポンピング損失及び摩擦損失が増大するために十分なエンジンブレーキ力を得ることができる。
【0003】
ところで、モータ・ジェネレータを具備するハイブリッド車両では、車両減速時には、一般的に、モータ・ジェネレータを発電機として作動させて、バッテリを充電とすると共に制動力(回生ブレーキ)を発生させている。しかしながら、バッテリの充電量が十分であるときには、バッテリの過充電を防止するために、モータ・ジェネレータを発電機として作動させることはできず、内燃機関において十分なエンジンブレーキ力を発生させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−035178
【特許文献2】特開2004−270679
【特許文献3】特開平10−009005
【特許文献4】特開2004−239147
【特許文献5】特開2005−009366
【特許文献6】特開2006−083729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、十分なエンジンブレーキ力を発生させるために、内燃機関において実圧縮比を高めたり機関回転数を高めたりすると振動及び騒音が増大してしまう。
【0006】
従って、本発明の目的は、ハイブリッド車両の火花点火内燃機関において、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、火花点火内燃機関の振動及び騒音の増大を抑制して比較的大きなエンジンブレーキを発生させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による請求項1に記載の火花点火内燃機関は、モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには、自動変速器により機関回転数を高めると共に前記機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による請求項1に記載の火花点火内燃機関によれば、モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、自動変速器により機関回転数を高めれば、吸気行程でのポンピング損失を増大させることができると共に摩擦損失を増大させることができ、エンジンブレーキ力を大きくすることができる。しかしながら、そのままでは、高められた機関回転数により振動及び騒音が増大してしまうために、同時に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることによって、振動及び騒音が増大することを抑制するようにしている。その結果、吸気量を減少させることなく実圧縮比を低下させることができ、圧縮行程でのポンピング損失の低下を抑制することができ、増大させた吸気行程でのポンピング損失及び摩擦損失により比較的大きなエンジンブレーキ力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】火花点火式の内燃機関の全体図である。
【図2】可変圧縮比機構の分解斜視図である。
【図3】図解的に表した内燃機関の側面断面図である。
【図4】可変バルブタイミング機構を示す図である。
【図5】吸気弁および排気弁のリフト量を示す図である。
【図6】機械圧縮比、実圧縮比および膨張比を説明するための図である。
【図7】理論熱効率と膨張比との関係を示す図である。
【図8】通常のサイクルおよび超高膨張比サイクルを説明するための図である。
【図9】機関負荷に応じた機械圧縮比等の変化を示す図である。
【図10】本発明による内燃機関が組み込まれるハイブリッド車両の概略図である。
【図11】図10のハイブリッド車両の基本的動作を説明するための共線図である。
【図12】図10のハイブリッド車両の高速定常走行時を示す共線図である。
【図13】図10のハイブリッド車両の減速時の制御を示すフローチャートである。
【図14】図10のハイブリッド車両の回生ブレーキの発生時を示す共線図である。
【図15】図10のハイブリッド車両のエンジンブレーキの発生時を示す共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に火花点火式の内燃機関の側面断面図を示す。図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
【0011】
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。
【0012】
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
【0013】
図1に示されるようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
【0014】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
【0015】
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。
【0016】
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される円形カム58が固定されている。これらの円形カム58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム58の両側には図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸57が延びており、この偏心軸57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各円形カム58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
【0017】
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55上に固定された円形カム58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心軸57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において円形カム58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心軸57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心軸57は最も低い位置となる。
【0018】
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)には夫々の状態における円形カム58の中心aと偏心軸57の中心bと円形カム56の中心cとの位置関係が示されている。
【0019】
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離によって定まり、円形カム58の中心aと円形カム56の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
【0020】
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられており、これらウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
【0021】
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するためのカムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられるタイミングプーリ71と、タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁駆動用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
【0022】
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
【0023】
吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
【0024】
これに対し、吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
【0025】
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
【0026】
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁駆動用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
【0027】
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
【0028】
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
【0029】
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0030】
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
【0031】
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
【0032】
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
【0033】
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
【0034】
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
【0035】
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
【0036】
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
【0037】
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
【0038】
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
【0039】
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
【0040】
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒装置20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
【0041】
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
【0042】
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
【0043】
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
【0044】
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
【0045】
一方、図9に示される実施例では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
【0046】
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
【0047】
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができる。
【0048】
前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
【0049】
本実施例において、このように構成された火花点火式の内燃機関がハイブリッド車両に組み込まれる。図10はハイブリッド車両を示す概略図である。同図において、EGが内燃機関であり、MG1は第一モータ・ジェネレータ、MG2は第二モータ・ジェネレータである。第一モータ・ジェネレータMG1、及び、第二モータ・ジェネレータMG2も、電子制御ユニット30により制御される。
【0050】
第一及び第二モータ・ジェネレータMG1及びMG2は、同期電動発電機として構成されている。内燃機関EGと第一モータ・ジェネレータMG1と第二モータ・ジェネレータMG2とは、プラネタリギヤ(遊星歯車装置)を介して機械的に結合されている。
【0051】
プラネタリギヤは、中心で回転するサンギヤ131と、サンギヤ131の周囲を自転しながら公転するプラネタリピニオンギヤ133と、その外周で回転するリングギヤ132とを有している。プラネタリピニオンギヤ133はプラネタリキャリア134に軸支されている。内燃機関EGのクランクシャフト150はダンパ151を介してプラネタリキャリア134の回転軸135に結合されている。ダンパ151はクランクシャフト150に生じる捻り振動を吸収するために設けられている。
【0052】
第一モータ・ジェネレータMG1の回転子R1はサンギヤ131の回転軸136に結合されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2の回転子R2はリングギヤ132の回転軸137に結合されている。リングギヤ132の回転は、チェーンベルト138を介して駆動軸140へ伝達され、最終的に車輪141及び142へ伝達される。
【0053】
プラネタリギヤは、上述の三つの回転軸135、136、137のうちの二つの回転軸の回転数及びトルク(以下、回転状態と称する)が決定されると、残りの回転軸の回転状態が定まる性質を有している。各回転軸135、136、137の回転状態の関係は、機構学において周知の計算式によって求めることができるが、図11及び12に示すような共線図により幾何学的に求めることもできる。
【0054】
図11において、縦軸は各回転軸の回転数を示しており、横軸は各ギヤのギヤ比を距離的な関係で示している。サンギヤ131の回転軸136(S)と、リングギヤ132の回転軸37(R)とを両端とし、位置Sと位置Rとの間を1:pに内分する位置Cをプラネタリキャリア134の回転軸135の位置Cとする。pはリングギヤ132の歯数に対するサンギヤ131の歯数の比である。こうして定義された位置S、C、及びRに、各ギヤの回転軸135、136、137の回転数Ne、Ns、Nrをプロットすると、一直線となり、この直線が動作共線と呼ばれる。動作共線は、二点が決まれば一義的に定まるために、三つの回転軸135、136、137のうちの二つの回転軸の回転数から残りの回転軸の回転数を求めることができる。
【0055】
また、プラネタリギヤでは、各回転軸のトルクを動作共線に働く力に置き換えて示した時に、動作共線が剛体として釣り合いが保たれる。例えば、プラネタリキャリア134の回転軸135に作用するトルクをTeとする。この時に、図11に示すように、トルクTeに相当する大きさの力を位置Cにおいて動作共線に下側から鉛直方向に作用させる。また、リングギヤ132の回転軸137から出力されるトルクTrを位置Rにおいて動作共線に上側から鉛直方向に作用させる。図11において、Tes及びTerは剛体に作用する力の分配法則に基づいてトルクTeを等価な二つの力に分配したものである。すなわち、Tes=p/(1+p)*Teとなり、Ter=1/(1+p)*Teとなる。これらの力が作用した状態で、動作共線が剛体として釣り合いがとれているという条件を考慮すれば、サンギヤ131の回転軸136に作用すべきトルクTm1と、リングギヤ132の回転軸137に作用すべきトルクTm2とを求めることができる。トルクTm1はトルクTesに等しくなり、トルクTm2は駆動軸14へ与えられるトルクTrとトルクTerとの差分に等しくなる。
【0056】
プラネタリキャリア134の回転軸135に結合された内燃機関EGが回転している時に、動作共線に関する上述の条件を満足すれば、サンギヤ131及びリングギヤ132は様々な回転状態で回転することができる。サンギヤ131が回転している時は、その回転動力を利用して第一モータ・ジェネレータMG1により発電することが可能である。また、リングギヤ132が回転している時は、内燃機関EGから出力された動力を駆動軸140に伝達することが可能である。また、内燃機関EGから出力された動力を駆動軸140に機械的に伝達される動力と、電力として回生される動力に分配し、さらに回生された電力を利用して第二モータ・ジェネレータMG2を電動機として作動させて動力のアシストを行わせることもできる。
【0057】
第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2の動力により車両を走行させることができ、この時には、内燃機関EGを停止させたり、アイドル運転させたりすることができる。
【0058】
図12は、車両の高速定常走行時の共線図を示している。図11に示す共線図ではサンギヤ131の回転軸136の回転数Nsは正であったが、内燃機関EGの回転数Neとリングギヤ132の回転軸137の回転数Nrとによって、図12の共線図ではサンギヤ131の回転軸136の回転数Nsは負となっている。この時には、第一モータ・ジェネレータMG1では、回転の方向とトルクの作用する方向とが同じになるから、第一モータ・ジェネレータMG1は電動機として動作し、トルクTm1と回転数Nsとの積で表される電気エネルギを消費する。一方、第二モータ・ジェネレータMG2では、回転の方向とトルクの作用する方向とが逆になるから、第二モータ・ジェネレータMG2は発電機として動作し、トルクTm2と回転数Nrとの積で表される電気エネルギをリングギヤ32の回転軸137から回生することになる。このように、本ハイブリッド車両は、プラネタリギヤの作用に基づいて種々の運転状態で走行することができる。
【0059】
図13は車両減速時の制御を示すフローチャートである。先ず、ステップ101において、車両減速時であるか否かが判断される。この判断が否定されるときにはそのまま終了する。車両減速時には、ステップ101の判断が肯定され、ステップ102において、バッテリの充電量Cが設定充電量C1以上であるか否かが判断される。この判断が否定されるときには、バッテリが過充電となるまで余裕があるために、ステップ103において、第二モータ・ジェネレータMG2を発電機として作動させて回生ブレーキ力を発生させ、車両の制動エネルギを電気エネルギとしてバッテリに回収することができる。
【0060】
MG2により回生ブレーキ力を発生させるためには、図14に示す共線図のように、内燃機関EGは単にフューエルカットされ、内燃機関EGは比較的低い回転数Ne’において負のトルクTe’を発生する。このときにリングギヤ132の回転軸137は回転数Nr’となっており、サンギヤ131の回転軸136は回転数Ns’となる。負のトルクTe’は、前述のように分配され、サンギヤ131の回転軸136に作用すべきトルクTm1と、今回の車両減速において必要な制動トルクTr’(機械式ブレーキが併用される場合には、その分を小さくなる)をリングギヤ132の回転軸137に発生させることを考慮してリングギヤ132の回転軸137に作用すべきトルクTm2とが求められる。第一モータ・ジェネレータMG1は回転の方向とトルクTm1の作用する方向とが同じになるから電動機として作動するが、第二モータ・ジェネレータMG2は回転の方向とトルクTm2の作用する方向とが逆になるから発電機として作動する。第二モータ・ジェネレータMG2の発電量を大きくするためには(Tm2を大きくするためには)、例えばスロットル弁の開度を大きくしてポンピング損失を減少させることにより、内燃機関EGにより発生する負のトルクTe’の絶対値を小さくすることが好ましい。
【0061】
一方、ステップ102の判断が肯定されるときには、バッテリの過充電を防止するために、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2のいずれも発電機として作動させることはできず、回生ブレーキ力を発生させることができないために、内燃機関においてエンジンブレーキを発生させることが好ましい。
【0062】
それにより、ステップ104において、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”(機械式ブレーキが併用されることが考慮され、回生制動の場合と同じにはならない)をリングギヤ132の回転軸137に発生させるようなエンジンブレーキ力を内燃機関において発生させる第一目標回転数TN1が算出される。この場合のエンジンブレーキ力は、フューエルカットされてスロットル弁の開度が最小開度又は設定開度まで小さくされた状態において、第一目標回転数TN1において内燃機関に発生するポンピング損失と、第一目標回転数TN1において内燃機関の各部材間で発生する摩擦損失である。
【0063】
次いで、ステップ105において、内燃機関を第一目標回転数TN1とした場合において発生する騒音及び振動が許容範囲内であるか否かが判断される。今回の車両減速において必要な制動トルクTr”が設定値より小さい場合には、騒音及び振動は許容範囲内となるために、ステップ105の判断は肯定され、ステップ106において、第一モータ・ジェネレータMG1を電動機として作動させて内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1に高める。この場合において、第二モータ・ジェネレータMG2は電動機としても発電機としても作動しないようにされる。
【0064】
一方、ステップ105の判断が否定されるときには、振動及び騒音が許容範囲外となるために、内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1とすることはできない。それにより、ステップ107において、第一目標回転数TN1より高い第二目標回転数TN2を算出する。第二目標回転数TN2は、フューエルカットされてスロットル弁の開度を最小開度又は設定開度に小さくした状態において、第一目標回転数TN1の場合に比較して小さくされた所望の実圧縮比を実現して振動及び騒音が許容範囲内とし、それにより、第一目標回転数TN1の場合に比較して圧縮行程でのポンピング損失は小さくなるが、第一目標回転数TN1の場合に比較して高回転のために吸気行程でのポンピング損失が大きくなると共に摩擦損失が増大し、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させるようなエンジンブレーキ力を内燃機関において発生させる回転数である。すなわち、内燃機関EGにおいて、フューエルカットされてスロットル弁の開度が最小開度又は設定開度とされ、第一目標回転数TN1の場合より小さく設定された実圧縮比の第二目標回転数TN2が実現されれば、振動及び騒音は許容範囲内となり、必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させることができる。
【0065】
こうして、第二目標回転数TN2が算出されれば、ステップ108において、第二目標回転数TN2に対して定められたように現在の実圧縮比に比較して実圧縮比を低下させ、ステップ109において、第一モータ・ジェネレータMG1を電動機として作動させて内燃機関の回転数を第二目標回転数TN2に高める。この場合において、第二モータ・ジェネレータMG2は電動機としても発電機としても作動しないようにされる。
【0066】
内燃機関の回転数を第二目標回転数TN2とした場合の共線図を図15に示す。内燃機関EGは比較的高い第二目標回転数TN2において負のトルクTe”を発生する。この負のトルクTe”は、前述のように分配され、今回の車両減速において必要な制動トルクTr”をリングギヤ132の回転軸137に発生させる。ここで、内燃機関の回転数を第一目標回転数TN1とした場合の共線図は図15において点線で示されており、内燃機関EGは、第二目標回転数TN2より低い第一目標回転数TN1において同じ大きさの負のトルクTe”を発生する(回転数の低下により摩擦損失が小さくなり、実圧縮比が高いことにより圧縮行程でのポンプ損失が大きくなる)。リングギヤ132の回転軸137の回転数は第二目標回転数TN2のときのNr”と同じであり、サンギヤ131の回転軸136の回転数は第二目標回転数TN2のときのNs”より低い回転数となる。
【0067】
図13のフローチャートのステップ108において、実圧縮比を低下させるのに、可変バルブタイミング機構Bにより吸気弁の閉弁時期を遅角させて吸気量を減少させると、圧縮行程でのポンピング損失がさらに低下するために、機械圧縮比可変機構として機能する可変圧縮比機構Aにより機械圧縮比が小さくされる。それにより、吸気量を減少させることなく実圧縮比を低下させることができ、圧縮行程でのポンピング損失の低下が抑制されるために、エンジンブレーキ力を大きくするのに有利である。
【0068】
こうして、本実施例では、ハイブリッド車両において、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、内燃機関によりエンジンブレーキを発生させるために、実圧縮比を変化させることなく自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を第一目標回転数に高めるようにし、もし、それにより振動及び騒音が許容範囲外となるならば、自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を第一目標回転数より高い第二目標回転数に高めるようにすると共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させるようにし、振動及び騒音を許容範囲内としている。もちろん、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときに、内燃機関によりエンジンブレーキを発生させるために、自動変速器により変速比を大きくして機関回転数を目標回転数に高めるようにすると共に機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させるようにして振動及び騒音を許容範囲内にするようにしても良い。
【0069】
本実施例では、ハイブリッド車両の自動変速器としてプラネタリギヤが使用されているが、これは本発明を限定するものではなく、例えば、自動無段変速器(CVT)又は自動有段変速器により内燃機関が駆動軸に接続されている場合においても、車両減速時にモータ・ジェネレータを発電機(回生ブレーキ)として作動させることができないときに、内燃機関により所望のエンジンブレーキ力を発生させるために、振動及び騒音を許容範囲内とするように機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させて、自動無段変速器又は自動有段変速器により変速比を大きくして内燃機関の回転数を目標回転数へ高めるようにすれば良い。
【符号の説明】
【0070】
EG 内燃機関
MG1 第一モータ・ジェネレータ
MG2 第二モータ・ジェネレータ
A 可変圧縮比機構
B 可変バルブタイミング機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには、自動変速器により機関回転数を高めると共に前記機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることを特徴とする火花点火内燃機関。
【請求項1】
モータ・ジェネレータと共にハイブリッド車両に組み込まれる火花点火内燃機関において、機械圧縮比可変機構を具備し、車両減速時に前記モータ・ジェネレータを発電機として作動させることができないときには、自動変速器により機関回転数を高めると共に前記機械圧縮比可変機構により実圧縮比を低下させることを特徴とする火花点火内燃機関。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−86720(P2012−86720A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236318(P2010−236318)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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