説明

無段変速機

【課題】 被牽引時や急停車時に歯車機構及び無段変速装置と駆動車輪との動力伝達を切断し得、かつコンパクト化や耐久性向上が可能な無段変速機を提供する。
【解決手段】 無段変速機1の動力伝達経路上に、入力軸2、無段変速装置10、前後進切換え装置20、出力軸52r,52lの順に配置する。無段変速装置10の出力回転と同回転となるサンギヤS1、常時回転が固定されるキャリヤCR1、逆回転するリングギヤR1を有する歯車機構SPと、サンギヤS1と出力軸52r,52lとの間にクラッチC2と、リングギヤR1と出力軸52r,52lとの間にクラッチC1とを備えて前後進切換え装置20を構成する。被牽引時や急停車時にクラッチC1,C2によって歯車機構SP及び無段変速装置10と駆動車輪との動力伝達を切断可能にし、かつ大きなトルクを担持する必要が生じるブレーキを不要にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌等に搭載される無段式の自動変速機に係り、詳しくは動力伝達経路上における無段変速装置と出力軸との間に前後進切換え装置を配置し、該前後進切換え装置の歯車機構の回転固定要素を常時固定すると共に、前進時に係合するクラッチと後進時に係合するクラッチとを備えて構成した無段式自動変速に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば車輌等に搭載されるベルト式(CVT式)の無段型自動変速機(以下、「無段変速機」という)には、入力される回転を正転回転又は逆転回転に切換えし得る前後進切換え装置と、変速比を自在に変更し得る無段変速装置と、が備えられている。このような前後進切換え装置と無段変速装置とを無段変速機の動力伝達経路上に配置するには、エンジンからの回転が入力される入力軸と、駆動車輪に連結される出力軸(車軸)との間において、前後進切換え装置、無段変速装置の順に配置するものと、無段変速装置、前後進切換え装置の順に配置するものとが考えられる。
【0003】
このうち、例えば入力軸、前後進切換え装置、無段変速装置、出力軸の順に配置したもの(特許文献1参照)は、エンジンからの回転が無段変速装置により減速される前において、前後進切換え装置が配置されているため、該前後進切換え装置に大きなトルクが作用せず、該前後切換え装置を比較的コンパクトに構成することが可能である。しかしながら、このものは、駆動車輪と無段変速装置とが連結状態にあるため、例えば車輌の急停止などが生じると無段変速装置のプーリが高速段側にある状態のまま駆動車輪と共に固定されてしまい、車輌が発進できなくなってしまう場合が生じる虞や、例えばエンジン停止状態であって潤滑油が供給されない際に車輌が牽引されると駆動車輪の回転と共に無段変速装置が連れ回されてしまい、無段変速装置の耐久性に悪影響を与えてしまう虞などがある。
【0004】
そのため、無段変速装置と出力軸との間にクラッチを設けたもの(特許文献2参照)や、例えば入力軸、無段変速装置、前後進切換え装置、出力軸の順に配置したもの(特許文献3参照)など、つまり無段変速装置と出力軸との動力伝達を切断することが可能なものが提案されている。これにより、車輌(駆動車輪)が停止した状態であっても、無段変速装置のプーリを駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置の連れ回りを防止することが可能となっている。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−270542号公報
【特許文献2】特開2001−124191号公報
【特許文献3】特開平11−159596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に前後進切換え装置は、プラネタリギヤの1つの構成要素の回転をブレーキによって固定し、入力される回転に対して逆転回転するギヤを形成することで逆転回転を取り出しているが、そのブレーキには、入力されるトルクと反力となるトルクとが作用するため、動力伝達を係脱するクラッチに比して、大きなトルクが作用することになる。
【0007】
しかしながら、動力伝達経路上に入力軸、無段変速装置、前後進切換え装置、出力軸の順に配置した無段変速機においては、前後進切換え装置に無段変速装置により減速された回転が入力されるので、特に発進時には該前後進切換え装置に比較的大きなトルクが入力されることになり、上述のようなブレーキは、更に大きなトルクを担持する必要が生じて、つまり該ブレーキをかなり大きなものに構成する必要が生じてしまう。そのため、無段変速機のコンパクト化の妨げてしまうという問題が生じる。
【0008】
また、上述したように無段変速装置と出力軸との間にクラッチを設けた無段変速機においては、クラッチを1つ追加することになるため、部品点数の増加によるコストダウンの妨げ、コンパクト化の妨げ、制御の複雑化、などの問題が生じてしまう。
【0009】
そこで本発明は、動力伝達経路上における無段変速装置と出力軸との間に前後進切換え装置を配置し、前後進切換え装置の回転固定要素を常時固定すると共に、前進時又は後進時に係合する第1又は第2クラッチを備えて構成し、もって上記課題を解決した無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図8参照)、入力される回転を正逆回転に切換え出力し得る前後進切換え装置(20)と、プライマリプーリ(11)とセカンダリプーリ(12)とからなる1対のプーリ(11,12)及び該2つのプーリ(11,12)に挟持されたベルト(13)を有し、前記プライマリプーリ(11)及びセカンダリプーリ(12)のプーリ幅を制御することで変速比を変更し得る無段変速装置(10)と、を備え、入力軸(2)を介して駆動源から伝達された回転を変速し得ると共に正逆回転を切換えて出力軸(52r,52l)に伝達し得る無段変速機(1)において、
前記駆動源からの動力を、前記入力軸(2)、前記無段変速装置(10)、前記前後進切換え装置(20)、前記出力軸(52r,52l)、の順に伝達し得るように配置し、
前記前後進切換え装置(20)に、
前記無段変速装置(10)からの出力回転と同方向に回転する同方向回転要素(例えば図1のS1、図3のCR2、図5のR1、図7のCR1)、常時回転が固定される回転固定要素(例えば図1のCR1、図3のR2、図5のCR1、図7のR1)、及び前記無段変速装置(10)からの出力回転と逆方向に回転する逆方向回転要素(例えば図1のR1、図3のS2、図5のS1、図7のS1)、を有する歯車機構(例えば図1のSP、図3のPU、図5のSP、図7のDP)と、
前記同方向回転要素(例えば図1のS1、図3のCR2、図5のR1、図7のCR1)と前記出力軸(52r,52l)との間に介在する第1クラッチ(例えば図1及び図3のC2、図5及び図7のC1)と、
前記逆方向回転要素(例えば図1のR1、図3のS2、図5のS1、図7のS1)と前記出力軸(52r,52l)との間に介在する第2クラッチ(例えば図1及び図3のC1、図5及び図7のC2)と、を備えて構成した、
ことを特徴とする無段変速機(1)にある。
【0011】
請求項2に係る本発明は(例えば図1乃至図4参照)、前記入力軸(2)と、前記無段変速装置(10)のプライマリプーリ(11)と、を第1軸(CT1)上に配置し、
前記無段変速装置(10)のセカンダリプーリ(12)と、前記前後進切換え装置(20、20)と、を前記第1軸(CT1)と平行な第2軸(CT2)上に配置し、
前記出力軸(52r,52l)を前記第1軸(CT1)及び第2軸(CT2)と平行な第3軸(CT3)上に配置し、
前進時に前記第2クラッチ(C1)を係合し、
後進時に前記第1クラッチ(C2)を係合する、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1、1)にある。
【0012】
請求項3に係る本発明は(例えば図1及び図2参照)、前記歯車機構は、サンギヤ(S1)と、リングギヤ(R1)と、該サンギヤ(S1)及び該リングギヤ(R1)に噛合する1つのピニオンギヤ(P1)を有するキャリヤ(CR1)と、を備えたシングルピニオンプラネタリギヤ(SP)であり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置(10)からの回転を入力する前記サンギヤ(S1)であり、
前記回転固定要素は、前記キャリヤ(CR)であり、
前記逆方向回転要素は、前記リングギヤ(R1)である、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機(1)にある。
【0013】
請求項4に係る本発明は(例えば図2参照)、前記歯車機構は、第1サンギヤ(S1)と、第2サンギヤ(S2)と、リングギヤ(R2)と、該第1サンギヤ(S1)及び該リングギヤ(R1)に噛合するロングピニオンギヤ(P4)と該ロングピニオンギヤ(P4)及び該第2サンギヤ(S2)に噛合するショートピニオンギヤ(P3)とを有するキャリヤ(CR2)と、を備えたラビニヨ型プラネタリギヤ(PU)であり、
前記第1サンギヤ(S1)に、前記無段変速装置(10)からの回転が入力されてなり、
前記同方向回転要素は、前記キャリヤ(CR2)であり、
前記回転固定要素は、前記リングギヤ(R2)であり、
前記逆方向回転要素は、前記第2サンギヤ(S2)である、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機(1)にある。
【0014】
請求項5に係る本発明は(例えば図5乃至図8参照)、前記前後進切換え装置(20、20)と前記出力軸(52r,52l)との間に介在するカウンタシャフト部(40)を備え、
前記入力軸(2)と、前記無段変速装置(10)のプライマリプーリ(11)と、を第1軸(CT1)上に配置し、
前記無段変速装置(10)のセカンダリプーリ(12)と、前記前後進切換え装置(20、20)と、を前記第1軸(CT1)と平行な第2軸(CT2)上に配置し、
前記カウンタシャフト部(40)を前記第1軸(CT1)及び第2軸(CT2)と平行な第3軸(CT3)上に配置し、
前記出力軸(52r,52l)を前記第1軸(CT1)、第2軸(CT2)及び第3軸(CT3)と平行な第4軸(CT4)上に配置し、
前進時に前記第1クラッチ(C1)を係合し、
後進時に前記第2クラッチ(C2)を係合する、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1、1)にある。
【0015】
請求項6に係る本発明は(例えば図5参照)、前記歯車機構は、サンギヤ(S1)と、リングギヤ(R1)と、該サンギヤ(S1)及び該リングギヤ(R1)に噛合する1つのピニオンギヤ(P1)を有するキャリヤ(CR1)と、を備えたシングルピニオンプラネタリギヤ(SP)であり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置(10)からの回転を入力する前記リングギヤ(R1)であり、
前記回転固定要素は、前記キャリヤ(CR1)であり、
前記逆方向回転要素は、前記サンギヤ(S1)である、
ことを特徴とする請求項5記載の無段変速機(1)にある。
【0016】
請求項7に係る本発明は(例えば図7参照)、前記歯車機構は、サンギヤ(S1)と、リングギヤ(R1)と、該サンギヤ(S1)及び該リングギヤ(R1)にそれぞれ噛合する2つのピニオンギヤ(P1,P2)を有するキャリヤ(CR1)と、を備えたダブルピニオンプラネタリギヤ(DP)であり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置(10)からの回転を入力する前記キャリヤ(CR1)であり、
前記回転固定要素は、前記リングギヤ(R1)であり、
前記逆方向回転要素は、前記サンギヤ(S1)である、
ことを特徴とする請求項5記載の無段変速機(1)にある。
【0017】
請求項8に係る本発明は(例えば図7参照)、前記2つのピニオンギヤは、第1ピニオンギヤ(P1)と第2ピニオンギヤ(P2)とからなり、
前記第1ピニオンギヤ(P1)は、前記サンギヤ(S1)と前記第2ピニオンギヤ(P2)とに噛合し、
前記第2ピニオンギヤ(P2)は、前記リングギヤ(R1)と前記第1ピニオンギヤ(P1)とに噛合する、
ことを特徴とする請求項7記載の無段変速機(1)にある。
【0018】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る本発明によると、駆動源からの動力を、入力軸、無段変速装置、前後進切換え装置、出力軸、の順に伝達し得るように配置し、前後進切換え装置に、無段変速装置からの出力回転と同方向に回転する同方向回転要素、常時回転が固定される回転固定要素、及び無段変速装置からの出力回転と逆方向に回転する逆方向回転要素、を有する歯車機構と、同方向回転要素と出力軸との間に介在する第1クラッチと、逆方向回転要素と前記出力軸との間に介在する第2クラッチと、を備えて構成したので、例えば車輌の急停止時や被牽引時などに、第1クラッチ及び第2クラッチにより無段変速装置と出力軸との間の動力伝達を切断することができ、車輌が停止した状態であっても無段変速装置のプーリを駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置の連れ回りを防止することを可能とすることができる。これにより、動力切断用のクラッチを別に設けることを不要とすることができ、無段変速機のコンパクト化、部品点数の減少によるコストダウン、制御の複雑化の防止などを可能とすることができる。また、歯車機構の回転固定要素を常時固定するようにしたので、大きなブレーキを設けることを不要とすることができ、無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0020】
請求項2に係る本発明によると、入力軸と無段変速装置のプライマリプーリとを第1軸上に配置し、無段変速装置のセカンダリプーリと前後進切換え装置とを第1軸と平行な第2軸上に配置し、出力軸を第1軸及び第2軸と平行な第3軸上に配置し、前進時に第2クラッチを係合し、後進時に第1クラッチを係合するので、カウンタシャフト部を設けることなく、前進回転又は後進回転を出力軸に出力する構成を可能にすることができ、無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0021】
請求項3に係る本発明によると、歯車機構はシングルピニオンプラネタリギヤであって、同方向回転要素は無段変速装置からの回転を入力するサンギヤであり、回転固定要素はキャリヤであり、逆方向回転要素はリングギヤであるので、前進時にはリングギヤより逆転回転の減速回転を出力することができ、カウンタシャフト部を設けて回転を逆転すると共に減速することを不要とすることができて、無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0022】
請求項4に係る本発明によると、歯車機構はラビニヨ型プラネタリギヤであって、第1サンギヤに無段変速装置からの回転が入力されてなり、同方向回転要素はキャリヤであり、回転固定要素はリングギヤであり、逆方向回転要素は第2サンギヤであるので、前進時には第2サンギヤより逆転回転の減速回転を出力することができ、また、後進時にはキャリヤより正転回転の減速回転を出力することができ、カウンタシャフト部を設けて回転を減速することを不要とすることができて、無段変速機のコンパクト化を図ることができる。
【0023】
請求項5に係る本発明によると、前後進切換え装置と出力軸との間に介在するカウンタシャフト部を備え、入力軸と無段変速装置のプライマリプーリとを第1軸上に配置し、無段変速装置のセカンダリプーリと前後進切換え装置とを第1軸と平行な第2軸上に配置し、カウンタシャフト部を第1軸及び第2軸と平行な第3軸上に配置し、出力軸を第1軸、第2軸及び第3軸と平行な第4軸上に配置し、前進時に第1クラッチを係合し、後進時に第2クラッチを係合するので、前進回転又は後進回転を出力軸に出力する構成を可能にすることができるものでありながら、カウンタシャフト部に減速ギヤを設けることにより、前進の発進時、後進の発進時とも充分に大きなトルクを出力することを可能とすることができる。また、前進回転を出力する場合は、前後進切換え装置の歯車機構を介さずに動力伝達することが可能であるので、ギヤノイズを低減することができ、前進走行時における静粛性の向上を図ることができる。
【0024】
請求項6に係る本発明によると、歯車機構はシングルピニオンプラネタリギヤであり、同方向回転要素は無段変速装置からの回転を入力するリングギヤであり、回転固定要素はキャリヤであり、逆方向回転要素はサンギヤであるので、後進時にはサンギヤより逆転回転を出力することができて、後進回転を出力軸に出力することを可能とすることができる。また、サンギヤより逆転回転の増速回転を出力することができるので、特に急加速が不要とされる後進時において、適宜なトルクを出力軸に出力することができる。
【0025】
請求項7に係る本発明によると、歯車機構はダブルピニオンプラネタリギヤであり、同方向回転要素は無段変速装置からの回転を入力するキャリヤであり、回転固定要素はリングギヤであり、逆方向回転要素はサンギヤであるので、後進時にはサンギヤより逆転回転を出力することができて、後進回転を出力軸に出力することを可能とすることができる。
【0026】
請求項8に係る本発明によると、2つのピニオンギヤが、サンギヤと第2ピニオンギヤとに噛合する第1ピニオンギヤと、リングギヤと第1ピニオンギヤとに噛合する第2ピニオンギヤと、からなるので、ダブルピニオンプラネタリギヤを構成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1及び図2に沿って説明する。図1は第1の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図、図2は第1の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表である。
【0028】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る無段変速機(CVT)1は、トルクコンバータ3、オイルポンプ4、ベルト式無段変速装置10、前後進切換え装置20、及びディファレンシャル装置50等を有しており、ハウジングケース及びミッションケースを一体にしたケース7に収納されている。更に、ベルト式変速装置10は、プライマリプーリ11、セカンダリプーリ12及びこれら1対のプーリに挟持されて巻掛けられたベルト(ゴム製ベルト、金属製プッシュタイプベルト(いわゆるバントーネタイプ)、金属製プルタイプベルト、金属リング等のあらゆる無端ベルトを含む)13とを有している。
【0029】
即ち、不図示のエンジン(駆動源)のクランク軸に接続される入力軸2、トルクコンバータ3(及びオイルポンプ)、第1連結軸5、及び上記プライマリプーリ11が整列して第1軸CT1に配置され、また上記セカンダリプーリ12、前後進切替え装置20、出力ギヤ31が整列して第2軸CT2に配置され、上記ディファンシャル装置50の左右車軸52r,52lが第3軸CT3上に配置され、これら第1軸CT1、第2軸CT2、第3軸CT3の3軸が互いに平行に配置されていると共に、側面視3角形状に配置されている。
【0030】
上記トルクコンバータ3は、例えば入力軸2に連結しているポンプインペラ、第1連結軸5に連結しているタービンランナ、ステータ、ポンプインペラとタービンランナとを機械的に直接するロックアップクラッチなどを備えて構成されている。従って、入力軸2の回転は、ポンプインペラ、タービンライナ、スタータを経由する油流を介して、又はロックアップクラッチによる機械的結合により第1連結軸5に伝達される。
【0031】
また、オイルポンプ4は、例えばベーンポンプなどにより構成されており、そのロータは例えばポンプインペラを介して入力軸2に連結されている。従って、オイルポンプ4は、不図示のエンジンの駆動と連動して駆動するように構成されている。
【0032】
上記無段変速装置10のプライマリプーリ11は、可動シーブ11aと第1連結軸5に連結された固定シーブ11bとを有している。該可動シーブ11aは、固定シーブ11bの軸部(不図示)に摺動自在に支持されており、かつその背面に変速操作用の油圧アクチュエータ(不図示)が配置されている。また、固定シーブ11bの軸部は、例えばボールベアリングなどによりケース7に回転自在に支持されている。従って、可動シーブ11a及び固定シーブ11bは、第1連結軸5及びトルクコンバータ7を介して入力軸2(即ちエンジン)の回転が伝達されて回転駆動されるようになっている。
【0033】
一方、セカンダリプーリ12は、固定シーブ12b及び該固定シーブ12bの軸部(不図示)に摺動自在に支持されている可動シーブ12aを有しており、該可動シーブ12aの背面にはベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータ(不図示)が配置されている。また同様に、固定シーブ12bの軸部の両端は、それぞれローラベアリングなどを介してケース7に回転自在に支持されている。従って、可動シーブ12a及び固定シーブ12bは、上記ベルト13を介して両プーリ11,12のプーリ幅に基づき変速された回転が伝達されて回転駆動されるようになっている。
【0034】
前後進切替え装置20は、上記セカンダリプーリ12の固定シーブ12bの軸部に連結された第2連結軸21と、プラネタリギヤ(歯車機構)SPと、前進用クラッチ(第2クラッチ)C1と、後進用クラッチ(第1クラッチ)C2と、出力ギヤ31に連結される第3連結軸22とを有して構成されている。該プラネタリギヤSPは、サンギヤ(同方向回転要素)S1と、リングギヤ(逆方向回転要素)R1と、それらサンギヤS1とリングギヤR1とに共に噛合する1つのピニオンギヤP1を有するキャリヤ(回転固定要素)CR1とを備えた、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0035】
プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、上記第2連結軸21に接続されており、また、キャリヤCR1は、ケース7に常時固定されている。そして、サンギヤS1及び第2連結軸21と出力ギヤ31に連結される第3連結軸22との間には後進用クラッチC2が介在するように配置され、リングギヤR1と該第3連結軸22との間には前進用クラッチC1が介在するように配置されている。
【0036】
ディファレンシャル装置50は、図示を省略したディファレンシャルギヤを内包したデフケース53を有しており、該デフケース53はケース7に回転自在に支持されていると共に、比較的大径のマウントリングギヤ51を固定して有している。該マウントリングギヤ51は、デフケース53を介して上記ディファレンシャルギヤに接続されており、該ディファレンシャルギヤを介してデフケース53に支持された左右車軸52r,52lが接続されている。そして、上記第2軸CT2の出力ギヤ31と、第3軸CT3のマウントリングギヤ51とが噛合しており、かつ出力ギヤ31は比較的小径に、マウントリングギヤ51は比較的大径に構成されて、比較的大きな減速比を得ている。
【0037】
ついで、上記構成に基づき無段変速機1の作用について説明する。例えばドライバによりシフトレバーがN(ニュートラル)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図2(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0038】
この際、不図示のエンジンが駆動されていると、入力軸2にエンジンからの駆動回転が入力され、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11が駆動回転される。また、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリプーリ11のプーリ幅が低速段側(プーリ幅が広がる方向)に制御されると共に、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力が制御され、つまり両プーリ11,12によりベルト13が挟持されて、セカンダリプーリ12にプライマリプーリ11の回転が減速されて伝達される。
【0039】
このように無段変速装置10により減速された回転は、セカンダリプーリ12より第2連結軸21に出力され、プラネタリギヤSPのサンギヤS1に入力される。またこの際、リングギヤR1は、図2(a)に示すように、上記固定されているキャリヤCR1を介し、サンギヤS1の回転に対して減速された逆転回転で回転する。
【0040】
なお、エンジンの出力回転の回転方向を正転回転とすると、入力軸2、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11は第1軸CT1上において正転回転であり、ベルト13を介して回転されるセカンダリプーリ12、第2連結軸21、サンギヤS1も第2軸CT2上において正転回転である。つまりサンギヤS1及び第2連結軸21は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と同方向の回転であって、リングギヤR1は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と逆方向の回転である。
【0041】
そして、上述のように前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態にあるため、サンギヤS1(及び第2連結軸21)の正転回転とリングギヤR1の逆転回転とは第3連結軸22に伝達されず、従って左右車軸52r,52lに動力伝達が行われずに、無段変速機1はニュートラル状態となる。
【0042】
ついで、例えばドライバによりシフトレバーがD(ドライブ)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図2(b)に示すように、前進用クラッチC1が係合状態(図中○)にされ、後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0043】
すると、上述したようにプライマリプーリ12の回転に対して僅かに減速して逆転回転するリングギヤR1の回転が(図2(a)参照)、前進用クラッチC1を介して第3連結軸22に伝達される。そして、第3連結軸22の逆転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31より第3軸CT3上にあるマウントリングギヤ51に、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと同方向の回転である正転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには正転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を前進方向に駆動する。
【0044】
この前進走行中の、特にパワーオンの状態において、キャリヤCR1は、サンギヤS1より無段変速装置10を介して入力するトルクを担持すると共に、リングギヤR1に該サンギヤS1及び該リングギヤR1の歯数比に基づき出力するトルクの反力を担持することになる。そのため、該キャリヤCR1の回転をブレーキによって固定するには、当該ブレーキが比較的大きなトルクを担持し得るような大きなブレーキ(即ち、摩擦板の枚数及び径サイズ、油圧サーボなどが大きいブレーキ)が必要となるが、本無段変速機1においては、キャリヤCR1が常時固定であり、上述のようなブレーキを設ける必要がないので、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0045】
なお、セカンダリプーリ12より出力されるトルクをTs、サンギヤS1の歯数をZs、リングギヤR1の歯数をZrとし、上記キャリヤCR1が担持するトルクTcrを数式で示すと、Tcr=(1+Zr/Zs)Tsとなる。
【0046】
また、上述のように前進走行中は、プラネタリギヤSPを介して動力伝達を行うため、該プラネタリギヤSPよりギヤノイズを生じることになる。しかしながら、例えば前後進切換え装置をトルクコンバータ3と無段変速装置10との間に配置した場合、プラネタリギヤSPは略エンジン回転数がそのまま入力されることになるが、本発明に係る無段変速機1は、前後進切換え装置20が無段変速装置10よりも後段に配置されているため、特に車輌の発進時など、変速比が大きい状態では、無段変速装置10により減速された回転が該プラネタリギヤSPに入力されるので、サンギヤS1やリングギヤR1の回転数が比較的低くなり、ギヤノイズが低減される。なお、無段変速装置10の変速比が小さい状態では、プラネタリギヤSPのサンギヤS1やリングギヤR1の回転数が高くなるが、その場合は車輌が高速走行の状態であって、他の大きな騒音(エンジン音、タイヤノイズ)に比してギヤノイズは小さなものとなる。
【0047】
また、無段変速機の中には、出力ギヤ31とディファレンシャルギヤ50との間にカウンタシャフト部を配置し、該カウンタシャフト部に設けた減速ギヤにより逆転回転にしつつ、更に(プライマリシーブの)回転を減速するものがあるが(例えば特開平11−159596号公報、特開2001−124191号公報参照)、本発明に係る無段変速機1は、プラネタリギヤSPにより逆転回転にすると共に(プライマリシーブの)回転を減速するので、カウンタシャフト部が無くても、発進時に大きなトルクを駆動車輪に出力することが可能となる。それにより、カウンタシャフト部を不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0048】
一方、例えばドライバによりシフトレバーがR(リバース)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図2(b)に示すように、後進用クラッチC2が係合状態(図中○)にされ、前進用クラッチC1が解放状態(図中×)にされる。
【0049】
すると、第2連結軸21を介してプライマリプーリ12の回転が入力されているサンギヤS1の回転が、後進用クラッチC2を介して第3連結軸22に伝達され、つまり第2連結軸21、サンギヤS1、及び第3連結軸22が直結状態となる。そして、第3連結軸22の正転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31より第3軸CT3上にあるマウントリングギヤ51に、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと逆方向の回転である逆転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには逆転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を後進方向に駆動する。
【0050】
なお、この後進走行中においては、リングギヤR1は空転状態であり、サンギヤS1、キャリヤCR1、リングギヤR1に対してトルクが作用することはない。
【0051】
また、上述した前進走行中、及び後進走行中においては、例えば制御部(ECU)からの制御信号に基づき油圧制御装置の油圧制御が行われ、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリシーブ11のプーリ幅が、また、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力がそれぞれ制御されることで、無段的に変速が行われる。
【0052】
つづいて、車輌が牽引される場合(被牽引の場合)について説明する。例えばエンジンが停止した状態で、かつ駆動車輪が接地した状態で牽引される際は、上述したように入力軸2に連結されているオイルポンプ4が駆動せず、不図示の油圧制御装置の油圧供給や無段変速機1内における潤滑油の供給などが行われないことになる。そのため、図2(b)に示すように、被牽引時は、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)になる。
【0053】
すると、不図示の駆動車輪より左右車軸52r,52lが回転駆動され、ディファレンシャル装置50、マウントリングギヤ51、出力ギヤ31を介して第3連結軸22も回転駆動されるが、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態であるので、プラネタリギヤSP、第2連結軸21、無段変速装置10、第1連結軸5、トルクコンバータ3、入力軸2、不図示のエンジンには、回転が伝達されない。即ち、特に潤滑油が供給されてない状態で回転駆動されると耐久性に悪影響を与えるプラネタリギヤSPや無段変速装置10が回転されないので、無段変速機1としての耐久性に悪影響を与えること防ぐことができる。
【0054】
ついで、車輌が急停車した場合について説明する。例えばドライバにより急ブレーキがなされ、そのまま車輌が停車した状態になるような、いわゆるパニックブレーキが行われた場合には、無段変速装置10の変速比の制御が間に合わず、つまりプライマリプーリ11及びセカンダリプーリ12のプーリ幅が高速段側にある状態で駆動車輪が停止してしまう虞がある。
【0055】
一般にベルト式の無段変速装置10は、両プーリ11,12が回転している状態では、ベルト13の周方向の位置を移動させることができ、つまり変速比を変更することが可能だが、両プーリ11,12の回転が停止している状態では、ベルト13がその摩擦力により両プーリ11,12に係着しており、つまり変速比を変更することが略不可能である。また、たとえ両プーリ11,12の回転が停止した状態で、上記変速操作用の油圧アクチュエータ及び上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによって両プーリ11,12のプーリ幅を変更できたとしても、両プーリ11,12とベルト13とを無理に引き摺る形となって、それら両プーリ11,12やベルト13の耐久性上、好ましくはない。
【0056】
そのため、両プーリ11,12を回転させつつプーリ幅を変更する必要が生じるが、例えば左右車軸52r,52l(即ち駆動車輪)と無段変速装置10との間が連結状態であるような無段変速機においては、車輌を発進させない限り駆動車輪が回転せず、つまり両プーリ11,12が回転しないので高速段のままであり、また、このような高速段の状態で車輌を発進させようとしても、該発進に必要なトルクをエンジンが出力できず、即ちエンスト(エンジンストップ)してしまう虞がある。即ち、車輌を牽引するなどして駆動車輪を回転させない限り、変速比を低速段にすることができず、自走不可能な状態になってしまう虞がある。
【0057】
しかしながら、本無段変速機1は、上述のようなパニックブレーキが行われて無段変速装置10が高速段側の状態のままになった場合であっても、例えばシフトレバーをNレンジに選択することで(或いは電子制御によってニュートラル制御を行うことで)、左右車軸52r,52l(即ち駆動車輪)と無段変速装置10との間の連結状態を解放することができ、その後、エンジンの駆動回転によって両プーリ11,12を回転させつつ無段変速装置10を低速段側に変更することが可能である。
【0058】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る無段変速機1によると、例えばエンジンからの動力を、入力軸2、無段変速装置10、前後進切換え装置20、左右車軸52r,52l、の順に伝達し得るように配置し、前後進切換え装置20に、無段変速装置10からの出力回転と同方向に回転するサンギヤS1、常時回転が固定されるキャリヤCR1、及び無段変速装置10からの出力回転と逆方向に回転するリングギヤR1、を有するプラネタリギヤSPと、サンギヤS1と左右車軸52r,52lとの間に介在する後進用クラッチC2と、リングギヤR1と左右車軸52r,52lとの間に介在する前進用クラッチC1とを備えて構成したので、例えば車輌の急停止時や被牽引時などに、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2により無段変速装置10と左右車軸52r,52lとの間の動力伝達を切断することができ、車輌が停止した状態であっても無段変速装置10のプーリ11,12を駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置10の連れ回りを防止することを可能とすることができる。これにより、動力切断用のクラッチを別に設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化、部品点数の減少によるコストダウン、制御の複雑化の防止などを可能とすることができる。また、プラネタリギヤSPのキャリヤCR1を常時固定するようにしたので、大きなブレーキを設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0059】
また、入力軸2と無段変速装置10のプライマリプーリ11とを第1軸CT1上に配置し、無段変速装置10のセカンダリプーリ12と前後進切換え装置20とを第1軸CT1と平行な第2軸CT2上に配置し、左右車軸52r,52lを第1軸CT1及び第2軸CT2と平行な第3軸CT3上に配置し、前進時に前進用クラッチC1を係合し、後進時に後進用クラッチC2を係合するので、例えばカウンタシャフト部を設けることなく、前進回転又は後進回転を左右車軸52r,52lに出力する構成を可能にすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0060】
更に、プラネタリギヤSPがシングルピニオンプラネタリギヤであって、サンギヤS1が無段変速装置10からの回転を入力し、キャリヤCR1が固定され、リングギヤR1が逆転回転するので、前進時にはリングギヤR1より逆転回転の減速回転を出力することができ、例えばカウンタシャフト部を設けることによって逆転回転の減速回転を形成することを不要とすることができ、前進走行の発進時などに大きなトルクを出力することが可能とするものでありながら、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0061】
<第2の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図3及び図4に沿って説明する。図3は第2の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図、図4は第2の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表である。なお、本第2の実施の形態においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に同符合を付して、その説明を省略する。
【0062】
本第2の実施の形態に係る無段変速機1は、上述した第1の実施の形態の無段変速機1に比して、前後進切換え装置20を変更したものである。図3に示すように、前後進切換え装置20は、セカンダリプーリ12に連結された第2連結軸21と、プラネタリギヤユニット(歯車機構)PUと、前進用クラッチ(第2クラッチ)C1と、後進用クラッチ(第1クラッチ)C2と、出力ギヤ31に連結される第3連結軸22とを有して構成されている。該プラネタリギヤユニットPUは、第1サンギヤS1と、第2サンギヤ(逆方向回転要素)S2と、リングギヤ(回転固定要素)R2(R1)と、それらサンギヤS1とリングギヤR1とに共に噛合するロングピニオンギヤP4、及び該ロングピニオンギヤP4と第2サンギヤS2に共に噛合するショーとピニオンギヤP3とを有するキャリヤ(同方向回転要素)CR2(CR1)とを備えた、いわゆるラビニヨタイプのプラネタリギヤである。
【0063】
プラネタリギヤユニットPUの第1サンギヤS1は、上記第2連結軸21に接続されており、また、リングギヤR1は、ケース7に常時固定されている。そして、第2サンギヤS2と出力ギヤ31に連結される第3連結軸22との間には後進用クラッチC2が介在するように配置され、キャリヤCR2と該第3連結軸22との間には前進用クラッチC1が介在するように配置されている。
【0064】
ついで、上記構成に基づき無段変速機1の作用について説明する。例えばドライバによりシフトレバーがN(ニュートラル)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図4(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0065】
この際、不図示のエンジンが駆動されていると、入力軸2にエンジンからの駆動回転が入力され、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11が駆動回転される。また、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリプーリ11のプーリ幅が低速段側(プーリ幅が広がる方向)に制御されると共に、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力が制御され、つまり両プーリ11,12によりベルト13が挟持されて、セカンダリプーリ12にプライマリプーリ11の回転が減速されて伝達される。
【0066】
このように無段変速装置10により減速された回転は、セカンダリプーリ12より第2連結軸21に出力され、プラネタリギヤユニットPUの第1サンギヤS1に入力される。この際、キャリヤCR2は、図4(a)に示すように、上記固定されているリングギヤR2によって、第1サンギヤS1の回転に対して減速された回転で回転し、また、第2サンギヤS2は、上記固定されているリングギヤR2及び減速回転するキャリヤCR2によって、第1サンギヤS1の回転に対して減速された逆転回転で回転する。
【0067】
なお、エンジンの出力回転の回転方向を正転回転とすると、入力軸2、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11は第1軸CT1上において正転回転であり、ベルト13を介して回転されるセカンダリプーリ12、第2連結軸21、サンギヤS1も第2軸CT2上において正転回転である。つまりキャリヤCR2は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と同方向の回転であって、第2サンギヤS2は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と逆方向の回転である。
【0068】
そして、上述のように前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態にあるため、第2サンギヤS2の逆転回転とキャリヤCR2の正転回転とは第3連結軸22に伝達されず、従って左右車軸52r,52lに動力伝達が行われずに、無段変速機1はニュートラル状態となる。
【0069】
ついで、例えばドライバによりシフトレバーがD(ドライブ)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図4(b)に示すように、前進用クラッチC1が係合状態(図中○)にされ、後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0070】
すると、上述したようにセカンダリプーリ12の回転に対して減速して逆転回転する第2サンギヤS2の回転が(図4(a)参照)、前進用クラッチC1を介して第3連結軸22に伝達される。そして、第3連結軸22の逆転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31より第3軸CT3上にあるマウントリングギヤ51に、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと同方向の回転である正転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには正転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を前進方向に駆動する。
【0071】
この前進走行中の、特にパワーオンの状態において、リングギヤR1は、第1サンギヤS1より無段変速装置10を介して入力するトルクをキャリヤCR2担持すると共に、第2サンギヤS2に該第1サンギヤS1、キャリヤCR2及び該リングギヤR2の歯数比に基づき出力するトルクの反力を担持することになる。そのため、該リングギヤR1の回転をブレーキによって固定するには、当該ブレーキが比較的大きなトルクを担持し得るような大きなブレーキ(即ち、摩擦板の枚数及び径サイズ、油圧サーボなどが大きいブレーキ)が必要となるが、本無段変速機1においては、リングギヤR1が常時固定であり、上述のようなブレーキを設ける必要がないので、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0072】
なお、セカンダリプーリ12より出力されるトルクをTs、第1サンギヤS1の歯数をZs1、第2サンギヤS1の歯数をZs2、リングギヤR2の歯数をZrとし、上記リングギヤR2が担持するトルクTrを数式で示すと、Tr=(1+(Zs1+Zr)/Zs1×Zs2/(Zr−Zs1))Tsとなる。
【0073】
一方、例えばドライバによりシフトレバーがR(リバース)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図4(b)に示すように、後進用クラッチC2が係合状態(図中○)にされ、前進用クラッチC1が解放状態(図中×)にされる。
【0074】
すると、上述したようにプライマリプーリ12の回転に対して僅かに減速して正転回転するキャリヤCR2の回転が(図4(a)参照)、後進用クラッチC2を介して第3連結軸22に伝達される。そして、第3連結軸22の正転回転の減速回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31より第3軸CT3上にあるマウントリングギヤ51に、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと逆方向の回転である逆転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには逆転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を後進方向に駆動する。
【0075】
なお、以上説明した前進走行中、及び後進走行中においては、例えば制御部(ECU)からの制御信号に基づき油圧制御装置の油圧制御が行われ、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリシーブ11のプーリ幅が、また、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力がそれぞれ制御されることで、無段的に変速が行われる。
【0076】
また、上述の前進走行中、及び後進走行中は、プラネタリギヤユニットPUを介して動力伝達を行うため、該プラネタリギヤユニットPUよりギヤノイズを生じることになる。しかしながら、例えば前後進切換え装置をトルクコンバータ3と無段変速装置10との間に配置した場合、プラネタリギヤユニットPUは略エンジン回転数がそのまま入力されることになるが、本発明に係る無段変速機1は、前後進切換え装置20が無段変速装置10よりも後段に配置されているため、特に車輌の発進時など、変速比が大きい状態では、無段変速装置10により減速された回転が該プラネタリギヤユニットPUに入力されるので、第1サンギヤS1、第2サンギヤS2、及びキャリヤCR2の回転数が比較的低くなり、ギヤノイズが低減される。なお、無段変速装置10の変速比が小さい状態では、プラネタリギヤユニットPUの第1サンギヤS1、第2サンギヤS2、及びキャリヤCR1の回転数が高くなるが、その場合は車輌が高速走行の状態であって、他の大きな騒音(エンジン音、タイヤノイズ)に比してギヤノイズは小さなものとなる。
【0077】
また、無段変速機の中には、出力ギヤ31とディファレンシャルギヤ50との間にカウンタシャフト部を配置し、該カウンタシャフト部に設けた減速ギヤにより、更に(プライマリシーブの)回転を減速するものがあるが(例えば特開平11−159596号公報、特開2001−124191号公報参照)、本発明に係る無段変速機1は、プラネタリギヤユニットPUによりプライマリシーブ12の回転を正転回転及び逆転回転とも減速するので、カウンタシャフト部が無くても、発進時に大きなトルクを駆動車輪に出力することが可能となる。それにより、カウンタシャフト部を不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0078】
また、第1の実施の形態と同様に、被牽引時は、図4(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)になる。これにより、プラネタリギヤユニットPU、第2連結軸21、無段変速装置10、第1連結軸5、トルクコンバータ3、入力軸2、不図示のエンジンには、回転が伝達されず、特に潤滑油が供給されてない状態で回転駆動されると耐久性に悪影響を与えるプラネタリギヤユニットPUや無段変速装置10が回転されないので、無段変速機1としての耐久性に悪影響を与えること防ぐことができる。
【0079】
更に、第1の実施の形態と同様に、車輌が急停車した場合、即ち、パニックブレーキが行われて無段変速装置10が高速段側の状態のままになった場合であっても、例えばシフトレバーをNレンジに選択することで(或いは電子制御によってニュートラル制御を行うことで)、左右車軸52r,52l(即ち駆動車輪)と無段変速装置10との間の連結状態を解放することができ、その後、エンジンの駆動回転によって両プーリ11,12を回転させつつ無段変速装置10を低速段側に変更することが可能である。
【0080】
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態に係る無段変速機1によると、例えばエンジンからの動力を、入力軸2、無段変速装置10、前後進切換え装置20、左右車軸52r,52l、の順に伝達し得るように配置し、前後進切換え装置20に、無段変速装置10からの出力回転と同方向に回転するキャリヤCR2、常時回転が固定されるリングギヤR1、及び無段変速装置10からの出力回転と逆方向に回転する第2サンギヤS2、を有するプラネタリギヤユニットPUと、キャリヤCR2と左右車軸52r,52lとの間に介在する後進用クラッチC2と、第2サンギヤS2と左右車軸52r,52lとの間に介在する前進用クラッチC1とを備えて構成したので、例えば車輌の急停止時や被牽引時などに、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2により無段変速装置10と左右車軸52r,52lとの間の動力伝達を切断することができ、車輌が停止した状態であっても無段変速装置10のプーリ11,12を駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置10の連れ回りを防止することを可能とすることができる。これにより、動力切断用のクラッチを別に設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化、部品点数の減少によるコストダウン、制御の複雑化の防止などを可能とすることができる。また、プラネタリギヤユニットPUのリングギヤR1を常時固定するようにしたので、大きなブレーキを設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0081】
また、入力軸2と無段変速装置10のプライマリプーリ11とを第1軸CT1上に配置し、無段変速装置10のセカンダリプーリ12と前後進切換え装置20とを第1軸CT1と平行な第2軸CT2上に配置し、左右車軸52r,52lを第1軸CT1及び第2軸CT2と平行な第3軸CT3上に配置し、前進時に前進用クラッチC1を係合し、後進時に後進用クラッチC2を係合するので、例えばカウンタシャフト部を設けることなく、前進回転又は後進回転を左右車軸52r,52lに出力する構成を可能にすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0082】
また、プラネタリギヤユニットPUはラビニヨ型プラネタリギヤであって、第1サンギヤS1に無段変速装置10からの回転が入力されてなり、リングギヤR1が常時固定され、キャリヤCR2が無段変速装置10の出力回転と同方向に減速回転し、第2サンギヤS2が無段変速装置10の出力回転と逆方向に減速回転するので前進時には第2サンギヤS2より逆転回転の減速回転を出力することができ、また、後進時にはキャリヤCR2より正転回転の減速回転を出力することができ、カウンタシャフト部を設けて回転を減速することを不要とすることができて、発進時などに大きなトルクを出力することが可能とするものでありながら、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0083】
<第3の実施の形態>
ついで、上記第1の実施の形態を一部変更した第3の実施の形態について図5及び図6に沿って説明する。図5は第3の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図、図6は第3の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表である。なお、本第3の実施の形態においては、上記第1の実施の形態と同様な部分に同符合を付して、その説明を省略する。
【0084】
本第3の実施の形態に係る無段変速機1は、上述した第1の実施の形態の無段変速機1に比して、前後進切換え装置20を変更し、かつカウンタシャフト部40を追加したものである。
【0085】
図5に示すように、前後進切換え装置20は、セカンダリプーリ12に連結された第2連結軸21と、プラネタリギヤ(歯車機構)SPと、前進用クラッチ(第1クラッチ)C1と、後進用クラッチ(第2クラッチ)C2と、出力ギヤ31に連結される第3連結軸22とを有して構成されている。また、該出力ギヤ31とディファレンシャルギヤ50のマウントリングギヤ51との間には、カウンタシャフト部40が備えられている。
【0086】
即ち、不図示のエンジンのクランク軸に接続される入力軸2、トルクコンバータ3(及びオイルポンプ)、第1連結軸5、及び上記プライマリプーリ11が整列して第1軸CT1に配置され、また上記セカンダリプーリ12、前後進切替え装置20、出力ギヤ31が整列して第2軸CT2に配置され、カウンタシャフト部40が第3軸CT3上に配置され、上記ディファンシャル装置50の左右車軸52r,52lが第4軸CT4上に配置され、これら第1軸CT1、第2軸CT2、第3軸CT3、第4軸CT4が互いに平行に配置されている。
【0087】
上記プラネタリギヤSPは、サンギヤ(逆方向回転要素)S1と、リングギヤ(同方向回転要素)R1と、それらサンギヤS1とリングギヤR1とに共に噛合する1つのピニオンギヤP1を有するキャリヤ(回転固定要素)CR1とを備えた、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。プラネタリギヤSPのリングギヤR1は、上記第2連結軸21に接続されており、また、キャリヤCR1は、ケース7に常時固定されている。そして、リングギヤR1及び第2連結軸21と出力ギヤ31に連結される第3連結軸22との間には前進用クラッチC1が介在するように配置され、サンギヤS1と該第3連結軸22との間には後進用クラッチC2が介在するように配置されている。
【0088】
また、上記カウンタシャフト部40は、第3軸CT3上に回転自在に配置されたカウンタシャフト42を備えており、該カウンタシャフト42の一端上には上記出力ギヤ31に噛合する大径ギヤ41が、他端上には上記マウントリングギヤ51に噛合する小径ギヤ43がそれぞれ設けられて構成されている。
【0089】
ついで、上記構成に基づき無段変速機1の作用について説明する。例えばドライバによりシフトレバーがN(ニュートラル)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図6(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0090】
この際、不図示のエンジンが駆動されていると、入力軸2にエンジンからの駆動回転が入力され、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11が駆動回転される。また、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリプーリ11のプーリ幅が低速段側(プーリ幅が広がる方向)に制御されると共に、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力が制御され、つまり両プーリ11,12によりベルト13が挟持されて、セカンダリプーリ12にプライマリプーリ11の回転が減速されて伝達される。
【0091】
このように無段変速装置10により減速された回転は、セカンダリプーリ12より第2連結軸21に出力され、プラネタリギヤSPのリングギヤR1に入力される。またこの際、サンギヤS1は、図6(a)に示すように、上記固定されているキャリヤCR1を介し、リングギヤR1の回転に対して僅かに増速された逆転回転で回転する。
【0092】
なお、エンジンの出力回転の回転方向を正転回転とすると、入力軸2、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11は第1軸CT1上において正転回転であり、ベルト13を介して回転されるセカンダリプーリ12、第2連結軸21、リングギヤR1も第2軸CT2上において正転回転である。つまりリングギヤR1及び第2連結軸21は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と同方向の回転であって、サンギヤS1は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と逆方向の回転である。
【0093】
そして、上述のように前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態にあるため、リングギヤR1(及び第2連結軸21)の正転回転とサンギヤS1の逆転回転とは第3連結軸22に伝達されず、従って左右車軸52r,52lに動力伝達が行われずに、無段変速機1はニュートラル状態となる。
【0094】
ついで、例えばドライバによりシフトレバーがD(ドライブ)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図6(b)に示すように、前進用クラッチC1が係合状態(図中○)にされ、後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0095】
すると、プライマリプーリ12の回転が入力されている第2連結軸21及びリングギヤR1の回転が、前進用クラッチC1を介して第3連結軸22に伝達され、つまり第2連結軸21、リングギヤR1、及び第3連結軸22が直結状態となる。つづいて、第3連結軸22の正転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31よりカウンタシャフト部40の大径ギヤ41に伝達され、カウンタシャフト42は、第3軸CT3上において、該出力ギヤ31と該大径ギヤ41との歯数比に基づき、減速された逆転回転で回転する。そして、そのカウンタシャフト42の減速された逆転回転は、第4軸CT4上にあるマウントリングギヤ51に、小径ギヤ43と該マウントリングギヤ51との歯数比に基づき、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと同方向の回転である正転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには正転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を前進方向に駆動する。
【0096】
なお、この前進走行中においては、サンギヤS1は空転状態であり、サンギヤS1、キャリヤCR1、リングギヤR1に対してトルクが作用することはない。
【0097】
一方、例えばドライバによりシフトレバーがR(リバース)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図6(b)に示すように、後進用クラッチC2が係合状態(図中○)にされ、前進用クラッチC1が解放状態(図中×)にされる。
【0098】
すると、上述したようにプライマリプーリ12の回転に対して僅かに増速して逆転回転するサンギヤS1の回転が(図6(a)参照)、後進用クラッチC2を介して第3連結軸22に伝達される。つづいて、第3連結軸22の逆転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31よりカウンタシャフト部40の大径ギヤ41に伝達され、カウンタシャフト42は、第3軸CT3上において、該出力ギヤ31と該大径ギヤ41との歯数比に基づき、減速された正転回転で回転する。そして、そのカウンタシャフト42の減速された正転回転は、第4軸CT4上にあるマウントリングギヤ51に、小径ギヤ43と該マウントリングギヤ51との歯数比に基づき、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと逆方向の回転である逆転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには逆転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を後進方向に駆動する。
【0099】
この後進走行中の、特にパワーオンの状態において、キャリヤCR1は、第1の実施の形態の前進走行中と同様に、リングギヤR1より無段変速装置10を介して入力するトルクを担持すると共に、サンギヤS1に該リングギヤR1及び該サンギヤS1の歯数比に基づき出力するトルクの反力を担持することになる。そのため、該キャリヤCR1の回転をブレーキによって固定するには、当該ブレーキが比較的大きなトルクを担持し得るような大きなブレーキ(即ち、摩擦板の枚数及び径サイズ、油圧サーボなどが大きいブレーキ)が必要となるが、本無段変速機1においては、キャリヤCR1が常時固定であり、上述のようなブレーキを設ける必要がないので、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0100】
なお、セカンダリプーリ12より出力されるトルクをTs、サンギヤS1の歯数をZs、リングギヤR1の歯数をZrとし、上記キャリヤCR1が担持するトルクTcrを数式で示すと、Tcr=(1+Zs/Zr)Tsとなる。
【0101】
また同様に、後進走行中は、プラネタリギヤSPを介して動力伝達を行うため、該プラネタリギヤSPよりギヤノイズを生じることになる。しかしながら、例えば前後進切換え装置をトルクコンバータ3と無段変速装置10との間に配置した場合、プラネタリギヤSPは略エンジン回転数がそのまま入力されることになるが、本発明に係る無段変速機1は、前後進切換え装置20が無段変速装置10よりも後段に配置されているため、特に車輌の発進時など、変速比が大きい状態では、無段変速装置10により減速された回転が該プラネタリギヤSPに入力されるので、サンギヤS1やリングギヤR1の回転数が比較的低くなり、ギヤノイズが低減される。
【0102】
また、以上説明した前進走行中、及び後進走行中においては、例えば制御部(ECU)からの制御信号に基づき油圧制御装置の油圧制御が行われ、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリシーブ11のプーリ幅が、また、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力がそれぞれ制御されることで、無段的に変速が行われる。
【0103】
また、第1の実施の形態と同様に、被牽引時は、図6(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)になる。これにより、プラネタリギヤSP、第2連結軸21、無段変速装置10、第1連結軸5、トルクコンバータ3、入力軸2、不図示のエンジンには、回転が伝達されず、特に潤滑油が供給されてない状態で回転駆動されると耐久性に悪影響を与えるプラネタリギヤSPや無段変速装置10が回転されないので、無段変速機1としての耐久性に悪影響を与えること防ぐことができる。
【0104】
更に、第1の実施の形態と同様に、車輌が急停車した場合、即ち、パニックブレーキが行われて無段変速装置10が高速段側の状態のままになった場合であっても、例えばシフトレバーをNレンジに選択することで(或いは電子制御によってニュートラル制御を行うことで)、左右車軸52r,52l(即ち駆動車輪)と無段変速装置10との間の連結状態を解放することができ、その後、エンジンの駆動回転によって両プーリ11,12を回転させつつ無段変速装置10を低速段側に変更することが可能である。
【0105】
以上説明したように、本発明の第3の実施の形態に係る無段変速機1によると、例えばエンジンからの動力を、入力軸2、無段変速装置10、前後進切換え装置20、左右車軸52r,52l、の順に伝達し得るように配置し、前後進切換え装置20に、無段変速装置10からの出力回転と同方向に回転するリングギヤR1、常時回転が固定されるキャリヤCR1、及び無段変速装置10からの出力回転と逆方向に回転するサンギヤS1、を有するプラネタリギヤSPと、サンギヤS1と左右車軸52r,52lとの間に介在する後進用クラッチC2と、リングギヤR1と左右車軸52r,52lとの間に介在する前進用クラッチC1とを備えて構成したので、例えば車輌の急停止時や被牽引時などに、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2により無段変速装置10と左右車軸52r,52lとの間の動力伝達を切断することができ、車輌が停止した状態であっても無段変速装置10のプーリ11,12を駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置10の連れ回りを防止することを可能とすることができる。これにより、動力切断用のクラッチを別に設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化、部品点数の減少によるコストダウン、制御の複雑化の防止などを可能とすることができる。また、プラネタリギヤSPのキャリヤCR1を常時固定するようにしたので、大きなブレーキを設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0106】
また、前後進切換え装置20と左右車軸52r、52lとの間に介在するカウンタシャフト部40を備え、入力軸2と無段変速装置10のプライマリプーリ11とを第1軸CT1上に配置し、無段変速装置10のセカンダリプーリ12と前後進切換え装置20とを第1軸CT1と平行な第2軸CT2上に配置し、カウンタシャフト部40を第1軸CT1及び第2軸CT2と平行な第3軸CT3上に配置し、左右車軸52r,52lを第1軸CT1、第2軸CT2及び第3軸CT3と平行な第4軸CT4上に配置し、前進時に前進用クラッチC1を係合し、後進時に後進用クラッチC2を係合するので、前進回転又は後進回転を左右車軸52r,52lに出力する構成を可能にすることができるものでありながら、カウンタシャフト部40に大径ギヤ41及び小径ギヤ43からなる減速ギヤを設けることにより、前進の発進時、後進の発進時とも充分に大きなトルクを出力することを可能とすることができる。
【0107】
更に、セカンダリプーリ12の回転を、プラネタリギヤSPにより逆転せず、カウンタシャフト部40により逆転するので、前進回転を左右車軸52r,52lに出力する場合は、プラネタリギヤSPを介さずに動力伝達することが可能であるので、ギヤノイズを低減することができ、前進走行時における静粛性の向上を図ることができる。
【0108】
また、プラネタリギヤSPはシングルピニオンプラネタリギヤであって、リングギヤR1が無段変速装置10からの回転を入力し、キャリヤCR1が固定され、サンギヤS1が逆転回転するので、後進時にはサンギヤS1より逆転回転を出力することができて、後進回転をカウンタシャフト部40を介して左右車軸52r,52lに出力することを可能とすることができる。また、サンギヤS1からは、逆転回転の増速回転を出力するので、特に急加速が不要とされる後進時において、適宜なトルクを左右車軸52r,52lに出力することができる。
【0109】
<第4の実施の形態>
ついで、上記第3の実施の形態を一部変更した第4の実施の形態について図7及び図8に沿って説明する。図7は第4の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図、図8は第4の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表である。なお、本第4の実施の形態においては、上記第3の実施の形態と同様な部分に同符合を付して、その説明を省略する。
【0110】
本第4の実施の形態に係る無段変速機1は、上述した第3の実施の形態の無段変速機1に比して、前後進切換え装置20を変更したものである。図7に示すように、前後進切換え装置20は、セカンダリプーリ12に連結された第2連結軸21と、プラネタリギヤ(歯車機構)DPと、前進用クラッチ(第1クラッチ)C1と、後進用クラッチ(第2クラッチ)C2と、出力ギヤ31に連結される第3連結軸22とを有して構成されている。また、上記第3の実施の形態と同様に、出力ギヤ31とディファレンシャルギヤ50のマウントリングギヤ51との間には、カウンタシャフト部40が備えられている。
【0111】
即ち、不図示のエンジンのクランク軸に接続される入力軸2、トルクコンバータ3(及びオイルポンプ)、第1連結軸5、及び上記プライマリプーリ11が整列して第1軸CT1に配置され、また上記セカンダリプーリ12、前後進切替え装置20、出力ギヤ31が整列して第2軸CT2に配置され、カウンタシャフト部40が第3軸CT3上に配置され、上記ディファンシャル装置50の左右車軸52r,52lが第4軸CT4上に配置され、これら第1軸CT1、第2軸CT2、第3軸CT3、第4軸CT4が互いに平行に配置されている。
【0112】
上記プラネタリギヤDPは、サンギヤ(逆方向回転要素)S1と、リングギヤ(回転固定要素)R1と、サンギヤS1及び第2ピニオンギヤP2に共に噛合する第1ピニオンギヤP1とリングギヤR1及び第1ピニオンギヤP1に共に噛合する第2ピニオンギヤP2と(つまり、サンギヤS1及びリングギヤR1にそれぞれ噛合する2つのピニオンギヤP1,P2)を有するキャリヤ(同方向回転要素)CR1とを備えた、いわゆるダブルピニオンプラネタリギヤである。プラネタリギヤDPのキャリヤCR1は、上記第2連結軸21に接続されており、また、リングギヤR1は、ケース7に常時固定されている。そして、キャリヤCR1及び第2連結軸21と出力ギヤ31に連結される第3連結軸22との間には前進用クラッチC1が介在するように配置され、サンギヤS1と該第3連結軸22との間には後進用クラッチC2が介在するように配置されている。
【0113】
ついで、上記構成に基づき無段変速機1の作用について説明する。例えばドライバによりシフトレバーがN(ニュートラル)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図8(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0114】
この際、不図示のエンジンが駆動されていると、入力軸2にエンジンからの駆動回転が入力され、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11が駆動回転される。また、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリプーリ11のプーリ幅が低速段側(プーリ幅が広がる方向)に制御されると共に、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力が制御され、つまり両プーリ11,12によりベルト13が挟持されて、セカンダリプーリ12にプライマリプーリ11の回転が減速されて伝達される。
【0115】
このように無段変速装置10により減速された回転は、セカンダリプーリ12より第2連結軸21に出力され、プラネタリギヤDPのキャリヤCR1に入力される。またこの際、サンギヤS1は、図8(a)に示すように、上記固定されているリングギヤR1を介し、キャリヤCR1の回転に対して僅かに増速された逆転回転で回転する。
【0116】
なお、エンジンの出力回転の回転方向を正転回転とすると、入力軸2、トルクコンバータ3、第1連結軸5を介してプライマリプーリ11は第1軸CT1上において正転回転であり、ベルト13を介して回転されるセカンダリプーリ12、第2連結軸21、リングギヤR1も第2軸CT2上において正転回転である。つまりキャリヤCR1及び第2連結軸21は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と同方向の回転であって、サンギヤS1は、無段変速装置10の出力回転(セカンダリプーリ12の回転)と逆方向の回転である。
【0117】
そして、上述のように前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態にあるため、リングギヤR1(及び第2連結軸21)の正転回転とサンギヤS1の逆転回転とは第3連結軸22に伝達されず、従って左右車軸52r,52lに動力伝達が行われずに、無段変速機1はニュートラル状態となる。
【0118】
ついで、例えばドライバによりシフトレバーがD(ドライブ)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図8(b)に示すように、前進用クラッチC1が係合状態(図中○)にされ、後進用クラッチC2が解放状態(図中×)にされる。
【0119】
すると、プライマリプーリ12の回転が入力されている第2連結軸21及びキャリヤCR1の回転が、前進用クラッチC1を介して第3連結軸22に伝達され、つまり第2連結軸21、キャリヤCR1、及び第3連結軸22が直結状態となる。つづいて、第3連結軸22の正転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31よりカウンタシャフト部40の大径ギヤ41に伝達され、カウンタシャフト42は、第3軸CT3上において、該出力ギヤ31と該大径ギヤ41との歯数比に基づき、減速された逆転回転で回転する。そして、そのカウンタシャフト42の減速された逆転回転は、第4軸CT4上にあるマウントリングギヤ51に、小径ギヤ43と該マウントリングギヤ51との歯数比に基づき、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと同方向の回転である正転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには正転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を前進方向に駆動する。
【0120】
なお、この前進走行中においては、サンギヤS1は空転状態であり、サンギヤS1、キャリヤCR1、リングギヤR1に対してトルクが作用することはない。
【0121】
一方、例えばドライバによりシフトレバーがR(リバース)レンジに選択されると、不図示の油圧制御装置の油圧制御により、図8(b)に示すように、後進用クラッチC2が係合状態(図中○)にされ、前進用クラッチC1が解放状態(図中×)にされる。
【0122】
すると、上述したようにプライマリプーリ12の回転に対して僅かに増速して逆転回転するサンギヤS1の回転が(図8(a)参照)、後進用クラッチC2を介して第3連結軸22に伝達される。つづいて、第3連結軸22の逆転回転は、第2軸CT2上にある出力ギヤ31よりカウンタシャフト部40の大径ギヤ41に伝達され、カウンタシャフト42は、第3軸CT3上において、該出力ギヤ31と該大径ギヤ41との歯数比に基づき、減速された正転回転で回転する。そして、そのカウンタシャフト42の減速された正転回転は、第4軸CT4上にあるマウントリングギヤ51に、小径ギヤ43と該マウントリングギヤ51との歯数比に基づき、更に減速されると共に逆転されて伝達される。これにより、マウントリングギヤ51には、エンジンと逆方向の回転である逆転回転となって伝達され、つまり左右車軸52r,52lには逆転回転の駆動回転が伝達されて、不図示の駆動車輪を後進方向に駆動する。
【0123】
この後進走行中の、特にパワーオンの状態において、リングギヤR1は、第3の実施の形態と同様に、キャリヤCR1より無段変速装置10を介して入力するトルクを担持すると共に、サンギヤS1に該リングギヤR1及び該サンギヤS1の歯数比に基づき出力するトルクの反力を担持することになる。そのため、該リングギヤR1の回転をブレーキによって固定するには、当該ブレーキが比較的大きなトルクを担持し得るような大きなブレーキ(即ち、摩擦板の枚数及び径サイズ、油圧サーボなどが大きいブレーキ)が必要となるが、本無段変速機1においては、リングギヤR1が常時固定であり、上述のようなブレーキを設ける必要がないので、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0124】
なお、セカンダリプーリ12より出力されるトルクをTs、サンギヤS1の歯数をZs、リングギヤR1の歯数をZrとし、上記リングギヤR1が担持するトルクTrを数式で示すと、Tr=(1+Zs/(Zr−Zs))Tsとなる。
【0125】
また同様に、後進走行中は、プラネタリギヤDPを介して動力伝達を行うため、該プラネタリギヤDPよりギヤノイズを生じることになる。しかしながら、例えば前後進切換え装置をトルクコンバータ3と無段変速装置10との間に配置した場合、プラネタリギヤDPは略エンジン回転数がそのまま入力されることになるが、本発明に係る無段変速機1は、前後進切換え装置20が無段変速装置10よりも後段に配置されているため、特に車輌の発進時など、変速比が大きい状態では、無段変速装置10により減速された回転が該プラネタリギヤDPに入力されるので、サンギヤS1やキャリヤCR1の回転数が比較的低くなり、ギヤノイズが低減される。
【0126】
また、以上説明した前進走行中、及び後進走行中においては、例えば制御部(ECU)からの制御信号に基づき油圧制御装置の油圧制御が行われ、上記変速操作用の油圧アクチュエータによりプライマリシーブ11のプーリ幅が、また、上記ベルト挟圧力保持用の油圧アクチュエータによりセカンダリプーリ12の挟持力がそれぞれ制御されることで、無段的に変速が行われる。
【0127】
また、第3の実施の形態と同様に、被牽引時は、図8(b)に示すように、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2が解放状態(図中×)になる。これにより、プラネタリギヤDP、第2連結軸21、無段変速装置10、第1連結軸5、トルクコンバータ3、入力軸2、不図示のエンジンには、回転が伝達されず、特に潤滑油が供給されてない状態で回転駆動されると耐久性に悪影響を与えるプラネタリギヤDPや無段変速装置10が回転されないので、無段変速機1としての耐久性に悪影響を与えること防ぐことができる。
【0128】
更に、第3の実施の形態と同様に、車輌が急停車した場合、即ち、パニックブレーキが行われて無段変速装置10が高速段側の状態のままになった場合であっても、例えばシフトレバーをNレンジに選択することで(或いは電子制御によってニュートラル制御を行うことで)、左右車軸52r,52l(即ち駆動車輪)と無段変速装置10との間の連結状態を解放することができ、その後、エンジンの駆動回転によって両プーリ11,12を回転させつつ無段変速装置10を低速段側に変更することが可能である。
【0129】
以上説明したように、本発明の第4の実施の形態に係る無段変速機1によると、例えばエンジンからの動力を、入力軸2、無段変速装置10、前後進切換え装置20、左右車軸52r,52l、の順に伝達し得るように配置し、前後進切換え装置20に、無段変速装置10からの出力回転と同方向に回転するキャリヤCR1、常時回転が固定されるリングギヤR1、及び無段変速装置10からの出力回転と逆方向に回転するサンギヤS1、を有するプラネタリギヤDPと、サンギヤS1と左右車軸52r,52lとの間に介在する後進用クラッチC2と、キャリヤCR1と左右車軸52r,52lとの間に介在する前進用クラッチC1とを備えて構成したので、例えば車輌の急停止時や被牽引時などに、前進用クラッチC1及び後進用クラッチC2により無段変速装置10と左右車軸52r,52lとの間の動力伝達を切断することができ、車輌が停止した状態であっても無段変速装置10のプーリ11,12を駆動回転しつつ低速段側に戻すことや、車輌の牽引時に無段変速装置10の連れ回りを防止することを可能とすることができる。これにより、動力切断用のクラッチを別に設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化、部品点数の減少によるコストダウン、制御の複雑化の防止などを可能とすることができる。また、プラネタリギヤDPのリングギヤR1を常時固定するようにしたので、大きなブレーキを設けることを不要とすることができ、無段変速機1のコンパクト化を図ることができる。
【0130】
また、前後進切換え装置20と左右車軸52r、52lとの間に介在するカウンタシャフト部40を備え、入力軸2と無段変速装置10のプライマリプーリ11とを第1軸CT1上に配置し、無段変速装置10のセカンダリプーリ12と前後進切換え装置20とを第1軸CT1と平行な第2軸CT2上に配置し、カウンタシャフト部40を第1軸CT1及び第2軸CT2と平行な第3軸CT3上に配置し、左右車軸52r,52lを第1軸CT1、第2軸CT2及び第3軸CT3と平行な第4軸CT4上に配置し、前進時に前進用クラッチC1を係合し、後進時に後進用クラッチC2を係合するので、前進回転又は後進回転を左右車軸52r,52lに出力する構成を可能にすることができるものでありながら、カウンタシャフト部40に大径ギヤ41及び小径ギヤ43からなる減速ギヤを設けることにより、前進の発進時、後進の発進時とも充分に大きなトルクを出力することを可能とすることができる。
【0131】
更に、セカンダリプーリ12の回転を、プラネタリギヤDPにより逆転せず、カウンタシャフト部40により逆転するので、前進回転を左右車軸52r,52lに出力する場合は、プラネタリギヤDPを介さずに動力伝達することが可能であるので、ギヤノイズを低減することができ、前進走行時における静粛性の向上を図ることができる。
【0132】
また、プラネタリギヤDPはダブルピニオンプラネタリギヤであって、キャリヤCR1が無段変速装置10からの回転を入力し、リングギヤR1が固定され、サンギヤS1が逆転回転するので、後進時にはサンギヤS1より逆転回転を出力することができて、後進回転をカウンタシャフト部40を介して左右車軸52r,52lに出力することを可能とすることができる。また、サンギヤS1からは、逆転回転の増速回転を出力するので、特に急加速が不要とされる後進時において、適宜なトルクを左右車軸52r,52lに出力することができる。
【0133】
また、2つのピニオンギヤが、サンギヤS1と第2ピニオンギヤP2とに噛合する第1ピニオンギヤP1と、リングギヤR1と第1ピニオンギヤP1とに噛合する第2ピニオンギヤP2とからなるので、ダブルピニオンプラネタリギヤDPを構成することが可能となる。
【0134】
なお、以上説明した第1乃至第4の実施の形態において、無段変速機1にトルクコンバータ3を備えたものを一例に説明したが、これに限らず、例えば発進クラッチを備えたものであってもよく、つまり発進時などに、エンジンからの回転を調整して無段変速装置10に入力し得るものであれば、いずれのものを備えていてもよい。
【0135】
また、第1乃至第4の実施の形態において、無段変速機1は、エンジンに接続されるものとして説明したが、これに限らず、モータ及びエンジンの組合せ、或いはモータのみを駆動源とするものであってもよく、つまりハイブリッド車輌や電気自動車などに本発明に係る無段変速機1を用いてもよい。また、これらに限らず、本発明に係る無段変速機を接続し得る駆動源として用いることができるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0136】
また、第1乃至第4の実施の形態において説明した無段変速機1は、FF車輌に用いて好適なものであるが、これに限らず、勿論、FR車輌や四輪駆動車などに用いても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】第1の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図2】第1の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表。
【図3】第2の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図4】第2の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表。
【図5】第3の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図6】第3の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表。
【図7】第4の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図。
【図8】第4の実施の形態に係る前後進切替え装置の作用を説明する図で、(a)は速度線図、(b)は係合表。
【符号の説明】
【0138】
1 無段変速機
2 入力軸
10 無段変速装置
11 プライマリプーリ
12 セカンダリプーリ
13 ベルト
20 前後進切換え装置
40 カウンタシャフト部
52r 出力軸(右車軸)
52l 出力軸(左車軸)
CT1 第1軸
CT2 第2軸
CT3 第3軸
CT4 第4軸
図1のS1 同方向回転要素(サンギヤ)
図1のCR1 回転固定要素(キャリヤ)
図1のR1 逆方向回転要素(リングギヤ)
図3のS1 第1サンギヤ
図3のS2 逆方向回転要素、第2サンギヤ
図3のCR2 同方向回転要素(キャリヤ)
図3のR2 回転固定要素(リングギヤ)
図5のS1 逆方向回転要素(サンギヤ)
図5のCR1 回転固定要素(キャリヤ)
図5のR1 同方向回転要素(リングギヤ)
図7のS1 逆方向回転要素(サンギヤ)
図7のCR1 同方向回転要素(キャリヤ)
図7のR1 回転固定要素(リングギヤ)
図1のSP 歯車機構(シングルピニオンプラネタリギヤ)
図3のPU 歯車機構(プラネタリギヤユニット)
図5のSP 歯車機構(シングルピニオンプラネタリギヤ)
図7のDP 歯車機構(ダブルピニオンプラネタリギヤ)
図1のC1 第2クラッチ(前進用クラッチ)
図1のC2 第1クラッチ(後進用クラッチ)
図3のC1 第2クラッチ(前進用クラッチ)
図3のC2 第1クラッチ(後進用クラッチ)
図5のC1 第1クラッチ(前進用クラッチ)
図5のC2 第2クラッチ(後進用クラッチ)
図7のC1 第1クラッチ(前進用クラッチ)
図7のC2 第2クラッチ(後進用クラッチ)
図1、図3、図5のP1 ピニオンギヤ
図7のP1 第1ピニオンギヤ
P2 第2ピニオンギヤ
P3 ショートピニオンギヤ
P4 ロングピニオンギヤ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される回転を正逆回転に切換え出力し得る前後進切換え装置と、プライマリプーリとセカンダリプーリとからなる1対のプーリ及び該2つのプーリに挟持されたベルトを有し、前記プライマリプーリ及びセカンダリプーリのプーリ幅を制御することで変速比を変更し得る無段変速装置と、を備え、入力軸を介して駆動源から伝達された回転を変速し得ると共に正逆回転を切換えて出力軸に伝達し得る無段変速機において、
前記駆動源からの動力を、前記入力軸、前記無段変速装置、前記前後進切換え装置、前記出力軸、の順に伝達し得るように配置し、
前記前後進切換え装置に、
前記無段変速装置からの出力回転と同方向に回転する同方向回転要素、常時回転が固定される回転固定要素、及び前記無段変速装置からの出力回転と逆方向に回転する逆方向回転要素、を有する歯車機構と、
前記同方向回転要素と前記出力軸との間に介在する第1クラッチと、
前記逆方向回転要素と前記出力軸との間に介在する第2クラッチと、を備えて構成した、
ことを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記入力軸と、前記無段変速装置のプライマリプーリと、を第1軸上に配置し、
前記無段変速装置のセカンダリプーリと、前記前後進切換え装置と、を前記第1軸と平行な第2軸上に配置し、
前記出力軸を前記第1軸及び第2軸と平行な第3軸上に配置し、
前進時に前記第2クラッチを係合し、
後進時に前記第1クラッチを係合する、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記歯車機構は、サンギヤと、リングギヤと、該サンギヤ及び該リングギヤに噛合する1つのピニオンギヤを有するキャリヤと、を備えたシングルピニオンプラネタリギヤであり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置からの回転を入力する前記サンギヤであり、
前記回転固定要素は、前記キャリヤであり、
前記逆方向回転要素は、前記リングギヤである、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
前記歯車機構は、第1サンギヤと、第2サンギヤと、リングギヤと、該第1サンギヤ及び該リングギヤに噛合するロングピニオンギヤと該ロングピニオンギヤ及び該第2サンギヤに噛合するショートピニオンギヤとを有するキャリヤと、を備えたラビニヨ型プラネタリギヤであり、
前記第1サンギヤに、前記無段変速装置からの回転が入力されてなり、
前記同方向回転要素は、前記キャリヤであり、
前記回転固定要素は、前記リングギヤであり、
前記逆方向回転要素は、前記第2サンギヤである、
ことを特徴とする請求項2記載の無段変速機。
【請求項5】
前記前後進切換え装置と前記出力軸との間に介在するカウンタシャフト部を備え、
前記入力軸と、前記無段変速装置のプライマリプーリと、を第1軸上に配置し、
前記無段変速装置のセカンダリプーリと、前記前後進切換え装置と、を前記第1軸と平行な第2軸上に配置し、
前記カウンタシャフト部を前記第1軸及び第2軸と平行な第3軸上に配置し、
前記出力軸を前記第1軸、第2軸及び第3軸と平行な第4軸上に配置し、
前進時に前記第1クラッチを係合し、
後進時に前記第2クラッチを係合する、
ことを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項6】
前記歯車機構は、サンギヤと、リングギヤと、該サンギヤ及び該リングギヤに噛合する1つのピニオンギヤを有するキャリヤと、を備えたシングルピニオンプラネタリギヤであり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置からの回転を入力する前記リングギヤであり、
前記回転固定要素は、前記キャリヤであり、
前記逆方向回転要素は、前記サンギヤである、
ことを特徴とする請求項5記載の無段変速機。
【請求項7】
前記歯車機構は、サンギヤと、リングギヤと、該サンギヤ及び該リングギヤにそれぞれ噛合する2つのピニオンギヤを有するキャリヤと、を備えたダブルピニオンプラネタリギヤであり、
前記同方向回転要素は、前記無段変速装置からの回転を入力する前記キャリヤであり、
前記回転固定要素は、前記リングギヤであり、
前記逆方向回転要素は、前記サンギヤである、
ことを特徴とする請求項5記載の無段変速機。
【請求項8】
前記2つのピニオンギヤは、第1ピニオンギヤと第2ピニオンギヤとからなり、
前記第1ピニオンギヤは、前記サンギヤと前記第2ピニオンギヤとに噛合し、
前記第2ピニオンギヤは、前記リングギヤと前記第1ピニオンギヤとに噛合する、
ことを特徴とする請求項7記載の無段変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−46468(P2006−46468A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227283(P2004−227283)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】