説明

無段変速機

【課題】最減速段に切り替えた際に、ベルトが正確に所定の位置に変位して、最減速段を良好に構築することができる無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機100は、プライマリシャフト200と、固定シーブ260および、固定シーブ260に対して進退可能に設けられた可動シーブ270を含むプライマリプーリ250と、セカンダリシャフト300と、固定シーブ360および、固定シーブ360に対して進退可能に設けられた可動シーブ370を含むセカンダリプーリ350と、プライマリプーリ250およびセカンダリプーリ350間に亘って設けられ、プライマリプーリ250およびセカンダリプーリ350間で動力を伝達可能なベルトと、プライマリシャフト200に設けられ、ベルトと接触可能な第1摩擦材および、セカンダリシャフト300に設けられ、ベルトと接触可能な第2摩擦材の少なくとも一方と備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種の無段変速機が提案されている。たとえば、特開2006−300243号公報に記載されたベルト式無段変速機は、プーリ軸に固定された固定シーブと、該プーリ軸に相対回動不能で軸方向移動可能に嵌合された可動シーブと、該可動シーブの背面側に配置され、前記プーリ軸に固定された隔壁部材とを備えている。さらに、このベルト式無段変速機は、可動シーブを、最大変速比または最小変速比に対応する位置において、プーリ軸を含む固定部材に対し楔作用で一体化させる構造が設けられている。
【0003】
特開2004−176729号公報に記載された車両用動力伝達機構の制御装置は、所定道路状態の連続性を判断する道路状態判断手段と、この道路状態判断手段の判断結果に基づいて、前記動力伝達機構のトルク容量を制御するトルク容量制御手段とを備えている。そして、状態に応じて車輪の回転変化が生じる場合に、動力伝達機構のトルク容量を制御している。
【0004】
実開平5−14719号公報に記載された無段変速機用プーリは、固定プーリと可動プーリとを備え、固定プーリおよび可動プーリのVベルトと接する円錐面には、摩擦係数の低い表面処理層が形成されている。これにより、円錐面間のくさび角が小さくてもベルトの浮き上がり力の確保が図られている。
【0005】
実開平5−6247号公報に記載された無段変速機の変速プーリー構造は、回転軸と、この回転軸に固設された固定プーリと、回転軸に軸受を介して摺動移動可能に設けられた可動プーリとを備えている。回転軸の外周面は、硬質な滑面とされている。そして、可動プーリの軸受は、外周側が鋼製リング部となっており、鋼製リング部の内側には、多孔質青銅層が焼結され、さらにその内側に樹脂を含浸した樹脂摺動層が形成されている。そして、樹脂摺動層の内周面には、ローラバニシング加工された平滑面が形成されている。なお、特開平4−83953号公報においても、無段変速機が記載されている。
【特許文献1】特開2006−300243号公報
【特許文献2】特開2004−176729号公報
【特許文献3】実開平5−14719号公報
【特許文献4】実開平5−6247号公報
【特許文献5】特開平4−83953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特開2006−300243号公報に記載されたベルト式無段変速機においては、最減速段に切り替えた際に、ベルトがプライマリプーリの内径側にまで戻らず、良好に最減速段を構築することができないという問題があった。
【0007】
なお、上記のような問題は、特開2004−176729号公報に記載された車両用動力伝達機構の制御装置、実開平5−14719号公報に記載された無段変速機用プーリ、実開平5−6247号公報に記載された無段変速機の変速プーリー構造および特開平4−83953号公報に記載された無段変速機においても、同様に生じる問題であった。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、最減速段に切り替えた際に、ベルトが正確に所定の位置に変位して、最減速段を良好に構築することができる無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無段変速機は、回転可能に設けられた第1回転軸と、第1回転軸に設けられた第1シーブおよび、第1回転軸に設けられ、第1シーブに対して進退可能に設けられた第2シーブを含む第1プーリと、第1回転軸に対して間隔を隔てて設けられ、回転可能に設けられた第2回転軸と、第2回転軸に設けられた第3シーブおよび、第2回転軸に設けられ、第3シーブに対して進退可能に設けられた第4シーブを含む第2プーリと、第1プーリおよび第2プーリ間に亘って設けられ、第1プーリおよび第2プーリ間で動力を伝達可能なベルトと、第1回転軸に設けられ、ベルトと接触可能な第1摩擦材および、第2回転軸に設けられ、ベルトと接触可能な第2摩擦材の少なくとも一方とを備える。
【0010】
好ましくは、上記第1摩擦材は、第1回転軸のうち、第1シーブと第2シーブとの間に位置する部分に形成された環状の第1溝部内に収容され、第1摩擦材は、第2シーブよりも第1回転軸の径方向内方側に位置する。
【0011】
好ましくは、上記第2摩擦材は、第2回転軸のうち、第3シーブと第4シーブとの間に位置する部分に形成された環状の第2溝部内に収容され、第2摩擦材は、第4シーブよりも第2回転軸の径方向内方側に位置する。
【0012】
好ましくは、上記第1摩擦材が設けられ、第3および第4シーブとベルトとの間の面圧を調整することで、ベルトが第1摩擦材と接触したときにおける、第1摩擦材とベルトとの間の摩擦力を調整可能な第2プーリ用調整機構をさらに備える。
【0013】
好ましくは、第1シーブに対する第2シーブの位置を調整可能とされ、第1回転軸の径方向におけるベルトの位置を調整可能な第1プーリ用調整機構と、第1および第2プーリ用調整機構の駆動を制御可能な制御部とをさらに備える。そして、上記制御部は、第1摩擦材とベルトとが接触するように、第1プーリ用調整機構を駆動させると共に、ベルトと第1摩擦材との面圧が通常走行状態のときよりも小さくなるように、第2プーリ用駆動部を駆動する変速制御を、使用者によって操作される操作部からの信号に応じて、選択的に行う。
【0014】
好ましくは、上記第1シーブに対する第2シーブの位置を調整可能とされ、第1回転軸の径方向におけるベルトの位置を調整可能な第1プーリ用調整機構と、第1摩擦材とベルトとの間の相対速度を検知可能な第1摩擦材用速度検知部と、第1摩擦材とベルトとの間の面圧を検知可能な第1摩擦材用面圧検知部とを備える。さらに、この無段変速機は、第1摩擦材用速度検知部および第1摩擦材用面圧検知部からの出力値に基づいて、第1摩擦材の損傷値を算出し、算出された損傷値がしきい値を超えていると判断すると、第1摩擦材とベルトとの接触を抑制するように、第1プーリ用調整機構の駆動を制御する制御部をさらに備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る無段変速機によれば、最減速段に切り替えた際に、ベルトが正確に所定の位置に変位して、最減速段を良好に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施の形態に係る無段変速機について、図1から図8を用いて説明する。
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態における無段変速機を示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態に係る車両は、無段変速機100と、左右の前輪122と、無段変速機100からの動力を前輪122に伝達するシャフト123と、無段変速機100の駆動を制御するECU125とを備えている。さらに、この車両は、運転手によって操作され、変速段が選択されるシフトレバー160と、選択された変速段をセンシングして、ECU125に信号を送信するシフトセンサ161とを備えている。そして、無段変速機100は、変速機構部130を含む。
【0018】
変速機構部130は、エンジンから回転力が入力される駆動側のプライマリシャフト200と、回転力を出力する従動側のセカンダリシャフト300と、プライマリシャフト200に設けられたプライマリプーリ250と、セカンダリシャフト300に設けられたセカンダリプーリ350とを含む。プライマリシャフト200とセカンダリシャフト300とは、互いに間隔を隔てて平行に配置されている。変速機構部130は、プライマリシャフト200の回転数とセカンダリシャフト300の回転数との比率、すなわち変速比を無段階に(連続的に)変化させる。そして、変速溝130には、プライマリプーリ250と、セカンダリプーリ350との間に亘って設けられ、プライマリプーリ250からセカンダリプーリ350に動力を伝達可能なベルト390を備えている。
【0019】
無段変速機100は、ディファレンシャル部150を含む。ディファレンシャル部150は、変速機構部130と動力伝達可能に設けられている。ディファレンシャル部150は、リングギヤ153を含み、リングギヤ153は、ギヤ151,152を介在させてセカンダリシャフト300に連結されている。変速機構部130から動力伝達を受けたディファレンシャル部150には、シャフト123が接続されており、ディファレンシャル部150は、シャフト123を介して、車両旋回時の左右の前輪122の回転速度を変えながら、両輪に均等な駆動力を伝達する。シャフト123には、前輪122からシャフト123に加えられるトルクを測定可能なトルクセンサ120が設けられている。
【0020】
無段変速機100は、ケース体175を含む。ケース体175は、変速機構部130およびディファレンシャル部150を収容し、無段変速機100の外形をなす。ケース体175は、トランスアクスルハウジング171と、トランスアクスルケース170と、トランスアクスルリヤカバー172とを含む。トランスアクスルケース170に対してエンジン側にトランスアクスルハウジング171が配置され、その反対側にトランスアクスルリヤカバー172が配置されている。
【0021】
ケース体175は、変速機構室135を形成する。変速機構室135は、トランスアクスルケース170およびトランスアクスルリヤカバー172により形成されている。変速機構室135には、変速機構部130が収容されている。
【0022】
プライマリプーリ250は、プライマリシャフト200とともに、仮想軸であるプライマリシャフト200の中心軸を中心に回転する。プライマリプーリ250は、固定シーブ260と可動シーブ270と、可動シーブ270を駆動する油圧アクチュエータ290とを備えている。
【0023】
固定シーブ260は、プライマリシャフト200に固定されており、プライマリシャフト200に対して周方向および軸方向に移動しないように固定されている。
【0024】
固定シーブ260は、プライマリシャフト200の外周面からプライマリシャフト200の径方向外方に向けて突出する鍔部を含む。
【0025】
固定シーブ260の鍔部のうち、可動シーブ270と対向する部分は、ベルト390と接触する動力伝達面265とされている。動力伝達面265は、プライマリシャフト200の径方向外方に向かうにしたがって、可動シーブ270から離れるように傾斜している。
【0026】
可動シーブ270は、内部にプライマリシャフト200が挿入される筒部と、この筒部に形成され、プライマリシャフト200の径方向外方側に向けて張り出す鍔部とを含む。
【0027】
そして、可動シーブ270の鍔部のうち、固定シーブ260と対向する部分は、ベルト390と接触する動力伝達面275とされている。動力伝達面275は、プライマリシャフト200から径方向外方に向かうにしたがって、固定シーブ260から離れるように傾斜している。
【0028】
そして、固定シーブ260の動力伝達面265と、可動シーブ270の動力伝達面275とによって、ベルト390がはめ込まれるプーリ溝280が規定されている。
【0029】
油圧アクチュエータ290は、可動シーブ270を固定シーブ260に対して近接させたり、離間させたりすることで、プーリ溝280の溝幅を変化させる。すなわち、油圧アクチュエータ290は、固定シーブ260に対する可動シーブ270の相対的な位置を調整可能とされている。
【0030】
セカンダリプーリ350は、セカンダリシャフト300とともに、仮想軸であるセカンダリシャフト300の中心軸を中心に回転する。セカンダリプーリ350は、固定シーブ360と可動シーブ370と、この可動シーブ370を固定シーブ360に対して進退可能に駆動する油圧アクチュエータ400とを備えている。
【0031】
図2は、プライマリプーリ250の構成を示す断面図であり、最減速比時における断面図である。この図2に示すように、プライマリシャフト200の周面のうち、可動シーブ270と固定シーブ260との間に位置する部分には、摩擦部材210が固設されている。そして、プライマリプーリ250は、ベルト390と摩擦部材210との相対的な速度を検知可能な相対速度センサ180と、ベルト390によって摩擦部材210に加えられる面圧を測定可能な圧力センサ181とを備えている。なお、ベルト390の底部の形状は、略平坦面状に形成されているが、これに限られない。たとえば、ベルト390の底面に、ベルト390の長手方向に延びると共に、ベルト390の短手方向(幅方向)に間隔を隔てて複数形成するようにしてもよい。
【0032】
図3は、セカンダリプーリ350の構成を示す断面図であり、最減速比時の断面図である。この図3および上記図1を参照して、セカンダリシャフト300の外周面のうち、固定シーブ360と可動シーブ370との間に位置する部分に設けられ、環状に延びる摩擦部材220を備えている。セカンダリプーリ350は、ベルト390と摩擦部材220との相対的な速度を検知可能な相対速度センサ182と、ベルト390によって摩擦部材220に加えられる面圧を測定可能な圧力センサ183とを備えている。ここで、図4は、無段変速機100の最減速比時の状態が示されている。ここで、図2および図4に示すように、最減速段時においては、油圧アクチュエータ290が駆動することで、プライマリプーリ250の可動シーブ270と固定シーブ260とは互いに大きく離間し、ベルト390の底部と摩擦部材210とが接触する。これにより、摩擦部材210を介して、ベルト390に動力が伝達される。
【0033】
そして、図3に示すように、最減速比時においては、油圧アクチュエータ400が駆動することで、固定シーブ360と、可動シーブ370とが近接し、ベルト390が、固定シーブ360および可動シーブ370の外周側に位置している。そして、ベルト390の側面と、動力伝達面410および動力伝達面411とが接触することで、ベルト390からセカンダリプーリ350に動力が伝達されている。
【0034】
ここで、上記図2および図1において、油圧アクチュエータ290の油圧シリンダ内に供給する油量をたとえば、0(L)とすることで、可動シーブ270が固定シーブ260が大きく離間し、容易に、ベルト390を摩擦部材210に接触させることができる。
【0035】
摩擦部材210は、プライマリシャフト200の周面に形成された環状溝211内に収容されている。環状溝211は、固定シーブ260の付根部から可動シーブ270に向けて延びている。
【0036】
そして、摩擦部材210が環状溝211内に収容されることで、摩擦部材210は、可動シーブ270よりもプライマリシャフト200の径方向内方側に位置する。これにより、可動シーブ270がプライマリシャフト200の軸方向に沿って、固定シーブ260に対して近接または離間するように移動する際に、可動シーブ270が摩擦部材210と接触することが抑制されている。
【0037】
さらに、最減速段時において、ベルト390とプライマリプーリ250との間における動力の伝達は、摩擦部材210とベルト390との間で行われているため、可動シーブ270の動力伝達面275と、ベルト390の側面との間に生じる面圧が小さくなっている。このため、可動シーブ270に加えられる荷重を低減することができ、プライマリシャフト200に設けられ、可動シーブ270を支持する支持部材の剛性等を小さく抑えることができる。
【0038】
本実施の形態に係る変速機においては、可動シーブ270よりもプライマリシャフト200の径方向内方側に位置する摩擦部材210と、ベルト390とが接触することで、動力が伝達される。このため、可動シーブ270および固定シーブ260の動力伝達面275,265によってベルト390が挟まれることで規定された最減速段の減速比よりも、本実施の形態に係る変速機によって規定される最減速段における減速比の方が大きい。
【0039】
図8は、ベルト390を摩擦部材210に接触させるときにおける変速比、ベルト挟圧力およびトルクを示すグラフである。
【0040】
この図8において、時間t1において、ベルト390が摩擦部材220に接触し始めており、時間t2において、ベルト390が完全に摩擦部材220と接触する。そして、ベルト390が摩擦部材210に接触し始めてから、ベルト390が完全に摩擦部材210に接触するまでの間におけるベルト挟圧力の変化率は、摩擦部材210にベルト390を近接させるときにおけるベルト挟圧力の変化率よりも小さくなっている。
【0041】
このように、ECU125が、油圧アクチュエータ400の駆動を制御することで、少しずつベルト390を摩擦部材210に接触させることができ、ベルト390が摩擦部材210に接触する際に生じる衝撃の低減が図られている。
【0042】
なお、キックダウン時においても、図8に示すように、ECU125が油圧アクチュエータ400を駆動させることで、係合ショックを低減させつつも、大きな変速比を利用することができるため、滑らかな急加速を実現することができる。
【0043】
なお、摩擦部材210とベルト390との接触面圧は、セカンダリプーリ350におけるベルト390の挟圧力によって設定される。すなわち、セカンダリプーリ350におけるベルト390の挟圧力によって、ベルト390に引張力が付与され、この引張力によって、ベルト390と摩擦部材210との接触面圧がきまる。
【0044】
図5は、図1中の無段変速機の最増速比時の状態を示す図である。そして、図6は、最増速比時のプライマリプーリ250の断面図であり、図7は、最増速比時のセカンダリプーリ350の断面図である。
【0045】
図6に示すように、最増速比時においては、ECU125からの指令によって、油圧アクチュエータ290が駆動し、可動シーブ270は、固定シーブ260に向けて近接する。そして、ベルト390は、プライマリプーリ250と固定シーブ260の外周縁部側に変位する。
【0046】
ここで、図7に示すように、セカンダリシャフト300の外周面には、摩擦部材220が設けられている。摩擦部材220は、セカンダリシャフト300の周面に形成された環状溝221に嵌め込まれており、摩擦部材220は、可動シーブ370に対して、セカンダリシャフト300の径方向内方側に位置している。これにより、可動シーブ370が固定シーブ360に向けて変位したとしても、摩擦部材220と可動シーブ370とが接触することが抑制されている。
【0047】
環状溝221は、固定シーブ360の付根部から可動シーブ370に向けて延びている。そして、最増速比時においては、摩擦部材220とベルト390とが接触し、摩擦部材220を介して、ベルト390からセカンダリプーリ350に動力が伝達される。
【0048】
ここで、摩擦部材220が可動シーブ370よりも、セカンダリシャフト300の径方向内方側に位置しているため、固定シーブ360と可動シーブ370との動力伝達面410,411で規定された最増速比の変速比よりも、本実施の形態に係る変速機における最増速比の変速比の方が小さくなる。これにより、変速比の幅を広く確保することができる。
【0049】
さらに、最増速比時においては、摩擦部材220とベルト390との間で動力の伝達が行われているため、ベルト390の側面と、動力伝達面411との間に生じる面圧は小さく抑えられている。このため、セカンダリシャフト300に設けられ、可動シーブ370を支持する支持部材に要する剛性等を低く抑えることができる。
【0050】
図1において、トルクセンサ120は、前輪122に加えられるトルクに応じた信号をECU125に送信する。ECU125は、トルクセンサ120からの信号に基づいて、前輪122に加えられたトルクを算出する。そして、ECU125は、この算出されたトルクが、予めECU125に格納されたしきい値よりも、大きいと判断すると、油圧アクチュエータ290に供給する給油量をたとえば、0(L)(最小給油量)とする。これにより、ベルト390と、プライマリシャフト200に設けられた摩擦部材210とを接触させる。
【0051】
そして、ECU125は、油圧アクチュエータ400の駆動を制御して、セカンダリプーリ350におけるベルト390の挟圧力が、たとえば、通常の走行状態のときの挟圧力よりも小さい所定値となるようにする。
【0052】
このように、ベルト390の挟圧力を調整することで、ベルト390に加えられる引張力を調整することができる。ベルト390の引張力を調整することで、摩擦部材210とベルト390との間に生じる最大摩擦力を調整することができる。そして、たとえば、通常の走行状態のときの挟圧力よりも小さくすることで、通常の走行状態におけるときよりも、摩擦部材210とベルト390との間に生じる最大摩擦力を低減することができる。
【0053】
そして、地面から大きなトルクが前輪122を介して、無段変速機100に加えられると、ベルト390が摩擦部材210上を滑り、無段変速機100に過大なトルクが加えられることを抑制することができる。
【0054】
なお、前輪122を介して、地面から大きなトルクが加えられる場合としては、たとえば、車両がジャンプして、再度地面に着地した場合等が挙げられる。
【0055】
ここで、上述した例においては、ベルト390と摩擦部材210とを接触させているが、これに限られない。
【0056】
たとえば、ECU125が、前輪122から加えられたトルクが所定のトルク以上であると判断すると、油圧アクチュエータ400に供給する給油量をたとえば、0(L)とすることで、ベルト390をセカンダリシャフト300に設けられた摩擦部材220に接触させてもよい。この場合には、ECU125は、油圧アクチュエータ290の駆動を調整して、プライマリプーリ250におけるベルト390の挟圧力を調整して、摩擦部材220とベルト390との間に生じる摩擦力を調整する。たとえば、通常の走行状態におけるプライマリプーリ250の挟圧力よりも小さい圧力で、ベルト390を挟むようにする。
【0057】
そして、前輪122を介して、地面から大きなトルクが加えられると、ベルト390と、摩擦部材220との間の摩擦力は低減されているため、ベルト390は、摩擦部材220上を滑る。これにより、大きなトルクが地面から加えられたとしても、ベルト390を介して無段変速機100に大きなトルクが加えられることを抑制することができる。
【0058】
ここで、図2において、ECU125には、予め、摩擦部材210およびベルト390の間に生じる面圧(p)と、摩擦部材210およびベルト390の相対速度(v)とによって算出される摩擦部材210の損傷値(F=f(p,v))のしきい値(F1)が格納されている。
【0059】
そして、相対速度センサ180および圧力センサ181からの信号にの基づいて、損傷値を算出する。ECU125は、算出された損傷値がしきい値F1よりも大きいと判断すると、ベルト390と摩擦部材210とを接触させる変速モードを禁止する。具体的には、油圧アクチュエータ290に供給する給油量の下限値を上げることで、摩擦部材210とベルト390とが接触することを抑制することができる。なお、損傷値は、摩擦部材220の損傷の程度を評価するための数値であり、予め、相対速度や面圧を変えてサンプリングすることで、相対速度(v)と面圧(p)とから摩擦部材220の損傷の程度を評価する損傷値を算出している。
【0060】
これにより、磨耗または損傷した摩擦部材220に、ベルト390が当接されることを抑制することができ、ベルト390および摩擦部材220の損傷を抑制することができる。なお、図3に示すように、セカンダリプーリ350にも、ベルト390と摩擦部材220との相対的な速度を検知可能な相対速度センサ182と、ベルト390から摩擦部材220に加えられる面圧を測定可能な圧力センサ183とを備えている。
【0061】
そして、ECU125は、相対速度センサ182および圧力センサ183からの信号にも基づいて、摩擦部材220の損傷値を算出し、しきい値を超えているか否かを判断する。そして、算出された損傷値がしきい値を超えていると、ECU125が判断すると、ベルト390と摩擦部材220との接触させる変速モードを禁止する。具体的には、油圧アクチュエータ400に供給する下限値を調整することで、ベルト390が摩擦部材220に接触することを抑制することができる。
【0062】
図1において、シフトレバー160は、運転手によってドライブポジション、ニュートラルポジション、パーキングポジション等が選択される。シフトセンサ161は、シフトレバー160によって選択されたシフトポジションに対応する信号をECU125に送信する。そして、ECU125は、選択されたシフトポジションに応じて、無段変速機100を駆動する。
【0063】
ここで、シフトレバー160において、ニュートラルポジションが選択されると、シフトセンサ161がECU125にニュートラルポジションが選択された旨の信号を送信する。
【0064】
ECU125が、シフトセンサ161から上記信号を受信すると、油圧アクチュエータ290を駆動して、可動シーブ270を固定シーブ260から離間させて、ベルト390を摩擦部材210に接触させる。
【0065】
さらに、ECU125は、油圧アクチュエータ400を駆動して、セカンダリプーリ350におけるベルト390の挟圧力を調整し、通常の走行状態における挟圧力よりも、低くする。
【0066】
これにより、摩擦部材210とベルト390との間に生じる摩擦力を低減することができ、ベルト390が摩擦部材210上を滑り、ニュートラル状態とすることができる。なお、ベルト390におけるベルトの挟圧力を調整することで、半クラッチとすることができる。
【0067】
このように、摩擦部材210とベルト390とで上記のようにニュートラル状態や半クラッチ状態を作り出すことができるので、前進後進段切替機構などを省略することができ、無段変速機100のコンパクト化を図ることができる。なお、図1に示す例においては、前進段切替機構は、設けられている。
【0068】
なお、上述の例においては、ベルト390を摩擦部材210上にて滑らせているが、これに限られず、摩擦部材220上でベルト390を滑らせることで、ニュートラル状態や半クラッチ状態を構築するようにしてもよい。
【0069】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、上記数値などは、例示であり、上記数値および範囲にかぎられない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、無段変速機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施の形態における無段変速機を示す断面図である。
【図2】プライマリプーリの構成を示す断面図であり、最減速比時における断面図である。
【図3】セカンダリプーリの構成を示す断面図であり、最減速比時の断面図である。
【図4】無段変速機の最減速比時の状態が示されている。
【図5】図1中の無段変速機の最増速比時の状態を示す図である。
【図6】最増速比時のプライマリプーリの断面図である。
【図7】最増速比時のセカンダリプーリの断面図である。
【図8】ベルトを摩擦部材に接触させるときにおける変速比、ベルト挟圧力およびトルクを示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
100 無段変速機、120 トルクセンサ、200 プライマリシャフト、210 摩擦部材、211 環状溝、220 摩擦部材、221 環状溝、250 プライマリプーリ、260 固定シーブ、270 可動シーブ、290 油圧アクチュエータ、300 セカンダリシャフト、350 セカンダリプーリ、360 固定シーブ、370 可動シーブ、390 ベルト、400 油圧アクチュエータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられた第1回転軸と、
前記第1回転軸に設けられた第1シーブおよび、前記第1回転軸に設けられ、前記第1シーブに対して進退可能に設けられた第2シーブを含む第1プーリと、
前記第1回転軸に対して間隔を隔てて設けられ、回転可能に設けられた第2回転軸と、
前記第2回転軸に設けられた第3シーブおよび、前記第2回転軸に設けられ、前記第3シーブに対して進退可能に設けられた第4シーブを含む第2プーリと、
前記第1プーリおよび前記第2プーリ間に亘って設けられ、前記第1プーリおよび前記第2プーリ間で動力を伝達可能なベルトと、
前記第1回転軸に設けられ、前記ベルトと接触可能な第1摩擦材および、前記第2回転軸に設けられ、前記ベルトと接触可能な第2摩擦材の少なくとも一方と、
を備えた、無段変速機。
【請求項2】
前記第1摩擦材は、前記第1回転軸の周面に形成された環状の溝部内に収容され、前記第1摩擦材は、前記第2シーブよりも前記第1回転軸の径方向内方側に位置する、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第2摩擦材は、前記第2回転軸の周面に形成された環状の溝部内に収容され、前記第2摩擦材は、前記第4シーブよりも前記第2回転軸の径方向内方側に位置する、請求項1または請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第1摩擦材が設けられ、
前記第3および前記第4シーブと前記ベルトとの間の面圧を調整することで、前記第1摩擦材と前記ベルトとの間の摩擦力を調整可能な第2プーリ用調整機構をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の無段変速機。
【請求項5】
前記第1シーブに対する前記第2シーブの位置を調整可能とされ、前記第1回転軸の径方向における前記ベルトの位置を調整可能な第1プーリ用調整機構と、
前記第1および第2プーリ用調整機構の駆動を制御可能な制御部とをさらに備え、
前記制御部は、前記第1摩擦材と前記ベルトとが接触するように、前記第1プーリ用調整機構を駆動させると共に、前記ベルトと前記第1摩擦材との面圧が通常走行状態のときよりも小さくなるように、前記第2プーリ用駆動部を駆動させる変速制御を、使用者によって操作される操作部からの信号に応じて、選択的に行う、請求項4に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記第1シーブに対する前記第2シーブの位置を調整可能とされ、前記第1回転軸の径方向における前記ベルトの位置を調整可能な第1プーリ用調整機構と、
前記第1摩擦材と前記ベルトとの間の相対速度を検知可能な前記第1摩擦材用速度検知部と、
前記第1摩擦材と前記ベルトとの間の面圧を検知可能な第1摩擦材用面圧検知部と、
前記第1摩擦材用速度検知部および前記第1摩擦材用面圧検知部からの出力値に基づいて、前記第1摩擦材の損傷値を算出し、算出された前記損傷値がしきい値を超えていると判断すると、前記第1摩擦材と前記ベルトとを接触させないように、前記第1プーリ用調整機構の駆動を制御する制御部と、
をさらに備えた、請求項4または請求項5に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−7777(P2010−7777A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168606(P2008−168606)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】