説明

熱可塑性マトリックス中のCNT浸出繊維

複合材料は、熱可塑性マトリックス材料と、該熱可塑性マトリックス材料の少なくとも一部に分散されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条(35.U.S.C.§119)に基づき、2009年12月8日に出願された米国特許仮出願第61/267794号の優先権を主張し、それらの全内容は参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
(連邦支援研究又は開発に関する記載)
適用なし。
【背景技術】
【0003】
本発明は、概してカーボンナノチューブ(CNTs)に関し、より詳細には、複合材料に組み込まれたCNTsに関する。
【0004】
過去数年に亘ってナノ複合材料の研究が行われてきた。様々なナノ粒子材料を混入することにより、複合材料のマトリックス性質を改質する取り組みが行われてきた。特に、CNTsはナノスケールの補強材として使用されてきたが、CNTの担持、勾配及びCNT配向の制御にともなう粘性の大幅な上昇など、CNTをマトリックス材料に組み込むことの複雑さにより、本格的な生産の潜在性は実現されてこなかった。
【0005】
これらの複合材料の利用処理に沿って、ナノスケール材料を活用して複合材料の性質を強化する新たな複合材料は有益となる。本発明は、この必要性を満たすとともに、これに関連する優位性をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある態様において、本明細書で開示された実施形態は、熱可塑性マトリックス材料と、熱可塑性マトリックス材料の少なくとも一部に分散されたCNT浸出繊維材料と、を含んだ複合材料と関連している。複合材料は電気伝導度又は強化された機械強度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
今、本公開の開示について及びその利点について完全な理解をするために、ここに開示する詳細な実施形態を説明する添付図面と合わせて以下の記載を参照する。
【0008】
【図1】連続化学蒸着(CVD)処理を介してAS4炭素繊維上に成長した多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図2】連続CVD処理を介してAS4炭素繊維上に成長した2層CNT(DWNT)のTEM画像を示す。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が炭素繊維材料表面に機械的に浸出した部分のバリアコーティング内部から成長したCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図4】炭素繊維材料上で約40ミクロンの目標とされる長さの20%以内まで成長したCNTsの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。
【図5】CNT成長に対するバリアコーティングの影響を明示するSEM画像を示す。バリアコーティングのあるところではCNTsは隙間なくよく整列して成長し、バリアコーティングがないところではCNTsは成長していない。
【図6】繊維全体に亘って約10%以内でCNTの密度が均一であることを明示する炭素繊維上に成長したCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【図7】本発明の実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の製造処理を示す。
【図8】熱伝導度及び電気伝導度を向上する目的のため、炭素繊維材料が、連続処理においてCNTsにどのように浸出されるか、及びPEEKベースの熱可塑性マトリックス材料にどのように使用されるかを示す。
【図9】CNT浸出繊維材料を含むPEEKベース複合材料の断面を示す。
【図10】破壊耐性を改善する目的のため、繊維ガラス材料が、別の連続処理においてCNTsにどのように浸出されるか、及びABSベースの熱可塑性マトリックス材料にどのように使用されるかを示す。
【図11】CNT浸出繊維材料を含むABSベースの複合材料の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、熱可塑性マトリックス材料と、熱可塑性マトリックス材料の少なくとも一部に分散されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料と、を含む複合材料を提供する。熱可塑性マトリックスで構成される複合材料は、CNT分散のための追加処理を必要とせずに製造することができる。繊維表面に対して円周方向に垂直なCNT配向を制御する機能により、さらなる利益が生じる。CNTsの長さはまた、全体の担持量パーセントとともに制御が可能である。
【0010】
熱可塑性マトリックスを含む従来の製造技術を使用してガラス繊維又は炭素繊維から製造することができるあらゆる複合材料構造体は、いかなる追加処理工程も必要とせずに、CNT浸出繊維材料により同様に製造することができる。これらのマルチスケール複合材料は、カーボンナノチューブを含まない複合材料と比較した場合、熱伝導度及び電気伝導度の増幅に加えて、高い機械的性質を示すことができる。
【0011】
繊維状の複合材料の利用は、例えば構造的、熱的及び、電気的性質に対する様々な要求とともに急速に増加している。繊維状の複合材料のある部分は、繊維強化熱可塑性マトリックス複合材料である。これらの複合材料は、セラミック、金属又は有機繊維同様、ガラス又は炭素繊維によって作ることもできるが、その場合、それらは様々な技術を使用して硬化されていない熱可塑性マトリックス材料と一体化され熱サイクルを通じて硬化される。直径約5〜15ミクロンの持つガラス繊維又は炭素繊維は、主にミクロスケールの強化材が使用される。機械的、熱的、及び電気的性質を強化するために、本発明の複合材料は以下でさらに説明されるCNT浸出繊維材料を組み込む。特に、本複合材料は、カーボンナノチューブに浸出されたガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維もしくは有機繊維のいずれも含むことができる。
【0012】
CNT浸出繊維材料は、完全重合した熱可塑性マトリックスへの溶解又は溶媒含浸による含浸、又は粉体含浸による緻密な物理的混合、又は強化繊維のマトリックス繊維への混入等、これらに限定されるものではないが、様々な手法によって熱可塑性マトリックスに組み込まれる。ガラス繊維又は炭素繊維を複合材料に組み込むために使用される現在又は将来のあらゆる技術は、CNT浸出繊維材料に使用するための実行可能な選択肢である。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレン硫化物を含んだあらゆる熱可塑性マトリックスを利用することができる。
【0013】
繊維材料は、最大で約60重量%の担持量パーセントのCNTsを浸出させることができる。CNT浸出量は、正確に制御可能であり、これによりCNT担持量を所望の性質に応じた特別注文の用途に適合させることができる。例えば、熱伝導度及び電気伝導度を向上させるためには、より多くのCNTsを使用すればよい。CNT強化複合材料は、ベース繊維材料による1次強化、熱可塑性ポリマーマトリックス、及びナノスケール補強材としてのCNTsで構成される。本実施形態において、CNTsは繊維材料に浸出する。複合材料の繊維容量は、約10%から約75%までの範囲、樹脂容量は約25%から約85%、CNT容量パーセントは最大で約35%とすることができる。
【0014】
標準的な複合材料において、約60%の繊維及び約40%のマトリックスを有することが一般的であるが、第3の要素、すなわち浸出CNTsの導入により、これらの割合を変化させることができる。例えば、最大で約25容量%のCNTsを追加することにより、マトリックスの範囲を約25%から約85%までに変化させるとともに、繊維部分を約10%から約75%までの範囲に変化させることができる。様々な割合により、複合材料全体の性質を変化させることができ、1つ又は複数の目標要求性質に適合することができる。CNTsの性質自体が、CNTにより強化された繊維材料に与えられる。熱可塑性複合材料内における強化繊維の利用は、繊維区分にしたがって変化する増加を同様に与えるが、カーボンナノチューブを含まない当該技術分野で周知の熱可塑性物質と比較して、熱可塑性複合材料の性質をさらに大きく変化させることができる。
【0015】
本明細書において、用語「浸出する」とは結合することを意味し、用語「浸出」は、結合処理を意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及びファンデルワールス力媒介物理吸着が含まれる。例えば、CNTsは、繊維担体と、直接、共有結合してもよい。結合は、バリアコーティング保護膜又はCNTと繊維材料との間に配置された媒介遷移金属ナノ粒子を介した繊維材料へのCNTの浸出のように、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出繊維において、カーボンナノチューブは上記の通り、繊維材料に対して直接的又は間接的に「浸出する」ことができる。CNTが繊維材料に「浸出する」具体的な様態は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。CNT浸出繊維の実際の結合モチーフに関係なく、本明細書に述べられた浸出工程は、製造前のCNTsの繊維への緩やかな適用よりもさらに堅い結合を提供する。この点で、触媒を含む繊維基材上のCNTsの合成により、ファンデルワールス力のみの吸着よりも強い「浸出」が提供される。さらに以下に記載の処理により製造されたCNT浸出繊維は、分岐したカーボンナノチューブがよく絡み合った網状のものを提供し、それは、特に高い密度で隣り合ったCNTs間の共有壁モチーフを示すことができる。ある実施形態において、例えば、成長は、別の成長形態を提供する電場の存在下で影響を受けることができる。低密度での代替の成長形態はまた、繊維への強い浸出を提供しながら分岐した共有壁モチーフから除外することができる。
【0016】
繊維材料の一部に浸出したCNTsの長さは、一般に均一である。「均一な長さ」とは、長さが約1ミクロンから約500ミクロンまでの範囲で変化するCNTの場合、CNTsが全長に対して±約20%以下の許容誤差を有することを意味する。約1〜4ミクロンのような極めて短い長さのカーボンナノチューブにおいて、この誤差は、CNT全長の±約20%から±約1ミクロンまでの範囲、すなわち、CNTの全長の約20%より若干大きくなる。
【0017】
また繊維材料の一部に浸出したCNTsは、一般にその分布も均一である。分布が均一とは、繊維材料上のCNTsの密度の一貫性のことを言う。「均一な分布」とは、繊維材料上のCNTsの密度が、CNTsにより覆われた繊維の表面積の割合として定義される被覆率において、±約10%の許容誤差を有することを意味する。これは、直径8nmで5層のCNTにおいて±1500CNTs/μmに相当する。この数値は、CNTsの内部空間を充填可能(fillable)とみなしている。
【0018】
本明細書において、用語「繊維」又は「繊維材料」は、その基本的な構造の構成要素として繊維状構造を持った任意の材料のことを言う。この用語は繊維、フィラメント、トウ、テープ、織物及び不織布、プライ、マット等を包含する。
【0019】
本明細書において、「巻取り可能な寸法」とは、材料をスプール又はマンドレルに巻き取っておくことが可能な、長さに制限されない少なくとも1つの寸法を有する繊維材料のことを言う。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書で記載されたCNT浸出用のバッチ処理又は連続処理のいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻取り可能な寸法の繊維材料の1つの例として、800tex(1tex=1g/1,000m)又は620yard/lbで12kのAS4炭素繊維トウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、市販の炭素繊維トウは、より大きなスプールの特注品を要求してもよいが、例えば、5,10,20,50及び100lb(大きな重量を有するスプール用、通常は3k/12Kトウ)のスプールで得ることができる。本発明の処理は、5〜20lbのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールを使用する場合には、特注が必要なこともある。さらに、例えば、100lb以上の極めて大きなスプールを、2本の50lbのスプール等の扱いやすい寸法に分割する前処理工程を組み込んでもよい。
【0020】
本明細書において、用語「カーボンナノチューブ」(CNT,複数形はCNTs)は、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)、2層カーボンナノチューブ(DWNTs)及び多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン族の円筒形状の炭素同素体のうちのすべてのことを言う。CNTsは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は端部が開口してもよい。CNTsには、他の物質を封入したものが含まれる。
【0021】
本明細書において、用語「遷移金属」は、周期表のdブロックの任意の元素又はその合金のことを言う。用語「遷移金属」はまた、酸化物、炭化物及び窒化物等の遷移金属元素ベースの塩形態も含む。
【0022】
本明細書において、用語「ナノ粒子」(NP,複数形はNPs)又はその文法的な同等物は、NPsが球形である必要はないが、等価な球形における粒径が約0.1から約100ナノメートルまでの間の大きさの粒子のことを言う。特に、遷移金属NPsは、繊維材料上でCNTを成長させる触媒としての役割を果たす。
【0023】
本明細書において、「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素繊維の品質を保護し、複合材料中の炭素繊維とマトリックス材料との間の界面相互作用を強化し、又は炭素繊維の特定の物理的性質を変化あるいは強化するためのコーティングとして、繊維の製造において使用される材料を総称して言う。ある実施形態において、繊維材料に浸出したCNTsはサイジング剤としての役割を果たす。
【0024】
本明細書において、用語「マトリックス材料」は、サイジング剤を塗布したCNT浸出繊維材料を、ランダム配向などの特定の配向性で構成する機能を果たすバルク材のことを言う。CNT浸出繊維材料の物理的又は化学的性質の一部がマトリックス材料に付与されることにより、前記マトリックス材料はCNT浸出繊維材料の存在からの利益を享受することができる。
【0025】
本明細書において、用語「材料滞留時間」は、巻取り可能な寸法の繊維材料に沿った個々の位置が、本明細書に記載のCNT浸出処理の間にCNT成長状態にさらされる時間のことを言う。この定義は、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の滞留時間を含む。
【0026】
本明細書において、用語「ラインスピード(linespeed)」は、本明細書に記載されているCNT浸出処理により、巻取り可能な寸法の繊維材料が送り込まれる速度をいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバーの長さを材料滞留時間で除して算出される速度である。
【0027】
ある実施形態において、複合材料は熱可塑性マトリックス材料、及びCNT浸出繊維材料を含んでいる。CNT浸出繊維材料上のCNTsは、複合材料の約3重量パーセントから約10重量パーセントの範囲で存在している。ある実施形態において、CNTsは複合材料の3,4,5又は6重量パーセントで存在し、それらの分数及びそれらの間の部分的範囲を含む。
【0028】
ある実施形態において、複合材料の異なる部分に、異なる量のCNTsを組み込むことが可能である。つまり、ある実施形態においては、複合材料全体に亘るCNTsの濃度は、勾配状に変化させ得る。したがって、例えば、複合材料全体の約3重量パーセントから約10重量パーセントまでのCNT濃度勾配を作ることができる。より詳細には、ある実施形態では、約3重量パーセントから約6重量パーセントの間の濃度勾配を作ることができる。ある実施形態では、このような勾配は連続する勾配であるのに対し、他の実施形態では、このような勾配は段階状とすることができる。したがって、第1の部分に約3重量パーセント、第2の部分に約4重量パーセントのCNTsを含有させ、又は第1の部分に約3重量パーセント、第2の部分に約6重量パーセントのCNTsを含有させるなど、あらゆる重量パーセントの組み合わせと数値、及びその分数を含む。約3重量パーセントから約6重量パーセントのCNTs又は約10重量パーセントまでのCNTsは、電気伝導度の強化に役立つが、電気伝導度の強化はまた、この範囲外の約1重量パーセントから約3重量パーセントのCNTsの間、又は、約6重量パーセントから約10重量パーセントのCNTsを含有させても達成できる。
【0029】
ある実施形態において、本発明に係る複合材料は、複合材料中のCNT浸出繊維材料の重量パーセントに関連して記述されている。したがって、ある実施形態において、本発明に係る複合材料は、複合材料の約10重量パーセントと約40重量パーセントとの間のCNT浸出繊維材料を含むが、この場合、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39及び40パーセントとそれらの、分数及びそれらの間の部分的範囲が含まれる。
【0030】
本発明に係る複合材料は、約1S/mから約1000S/mの範囲の電気伝導度を有することが可能であるが、この場合、1、10、20、50、100、150、200、250、300、350、400、500、600、700、800、900、1000S/mを含み、それらの間の分数及び部分的な範囲を含む。電気伝導度は、特に、所望の伝導度に向けて調整が可能である。これは、CNT全長、CNT配向、繊維上のCNT密度及び、複合材料全体におけるCNT濃度を厳密に制御することによって可能となる。これらの変数は、ある程度は、以下に記載のCNT浸出処理によって制御される。このように電気伝導度を強化されたある複合材料はまた、約2GHzから約18GHzの周波数範囲に亘って約60dBから約120dBの範囲で電磁妨害(EMI)遮蔽効果を示すことができる。
【0031】
本発明において有用なマトリックス材料には、公知のあらゆるマトリックス材料(Mel M. Schwartz, Composite Materials Handbook(2d ed. 1992)参照)が含まれる。マトリックス材料はより一般的には、樹脂(高分子)(熱硬化性及び熱可塑性の両方)、金属、セラミック、及びセメントが含まれる。熱可塑性樹脂は特に、例えばポリソルフェン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド‐イミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート及び、液晶性ポリエステルを含む。ある実施形態において、電気伝導度強化の用途に有用な本発明の複合材料には、ABS、ポリカーボネート及び、ナイロンから選択された低機能な熱可塑性物質である熱可塑性マトリックスが含まれる。そのような低機能材料は、大型品の製造に使用できる。
【0032】
ある実施形態では、本発明は前記複合材料の製造方法を提供する。その方法には、軟化した熱可塑性マトリックス材料を備えたCNT浸出繊維材料を含浸することと、該含浸されたCNT浸出繊維をペレット(小粒)に切削することと、及び製品を形成するために前記ペレットを成型することと、が含まれる。ある実施形態では、前記成型は、射出成型又はプレス成型を含む。このような実施形態の中には、本方法が、切削されたCNT浸出短繊維材料を含むペレットを、CNT浸出繊維材料を含まない熱可塑性ペレットで希釈することをさらに含んでいるものもある。CNT浸出繊維材料を含まないペレットの付加量を調整することで、複合材料中のCNT浸出繊維材料の量を制御することができる。このようにして、複合材料のCNT浸出繊維材料の濃度を、前述したように、複合材料の約10重量パーセントから約40重量パーセントとすることができる。このような方法は、ABS、ポリカーボネート及びナイロンから選択される低機能な熱可塑性物質に容易に用いることができる。
【0033】
ある実施形態において、本発明はまた、CNT浸出繊維に、CNTsが複合材料の約0.1重量パーセントから約2重量パーセントとなるように形成された、熱可塑性マトリックス材料及びCNT浸出繊維材料を含んだ複合材料を提供する。このような複合材料の中には、カーボンナノチューブを含まない複合材料と比較して強化された機械強度を示すものがある。このような機械的強化を目的とした本発明の複合材料は、複合材料容積の約30パーセントから約70パーセントの範囲で存在するCNT浸出ガラス繊維材料を含み、この場合、複合材料の、約30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60,61、62、63、64、65,66、67,68、69、及び70重量パーセントを含み、それらの分数及び部分的な範囲を含む。
【0034】
機械的強化を目的とした本発明の複合材料には、高機能な熱可塑性マトリックスが含まれる。このような高機能な熱可塑性マトリックスの中には、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及び、PELを含むものもある。ある実施形態においては、より詳細に前述したように、かかる複合材料全体に亘ってCNTsの濃度が勾配状に変化する。CNTsが複合材料全体に亘って濃度勾配を有する場合、複合材料はさらにレーダー波吸収など、観測されにくい性質を発揮できる。他の実施形態において、複合材料全体に亘ってCNTsの濃度を均一にすることができる。
【0035】
CNT浸出繊維は、全て2009年11月2日に出願された同時係属中の米国特許出願第12/611073、12/611101、及び12/611103号明細書に記載され、これらの各出願は、参照によりその全内容が本願に組み込まれている。かかるCNT浸出繊維材料は、熱可塑性マトリックス内の補強材として使用できる繊維の種類の実施例である。他のCNT浸出繊維材料として、金属繊維、セラミック繊維及び、アラミド繊維等の有機繊維が含まれてもよい。上記の関連出願に開示されたCNT浸出処理において、繊維材料は、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(一般には単分子層より多くない)を提供するように改質される。その後、触媒を含む繊維は、CNTsを連続して直線状に成長させるために用いられるCVDベース処理にさらされる。成長したCNTsは、繊維材料に浸出する。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体が複合材料構造である。
【0036】
CNT浸出繊維材料は、様々な性質が得られるように、繊維表面の特定のCNTsと適合される。例えば、繊維上に様々な種類、径、長さ及び密度のCNTsを適用することにより、電気特性を変更することができる。適切なCNT−CNTブリッジを提供できる長さのCNTsが、複合材料の伝導度を向上させる浸出経路を形成するために必要とされる。繊維間隔は一般に繊維の直径(約5〜約50ミクロン)以上であるため、CNTsは効果的な電気経路を得るには少なくともこの長さが必要である。長さの短いCNTsは、構造特性を強化するために使用することができる。
【0037】
ある実施形態においては、CNT浸出繊維材料には、同一の繊維材料の異なる部分に沿って長さが相違するCNTsが含まれる。熱可塑性複合材料の強化に用いられる際、このような多機能CNT浸出繊維材料は、それらが組み込まれた複合材料の複数の性質を強化する。
【0038】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの第1の量が繊維材料に浸出する。カーボンナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、強靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、電磁波吸収率/反射率、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなるグループから選択される少なくとも1つの性質の値が、繊維材料自体の同一の性質の値と異なるように、前記量は選択される。結果として得られたCNT浸出繊維材料のこれらの性質は、いずれも最終的な複合材料に与えることができる。
【0039】
引張強度は、3つの異なる大きさを含む。1)材料の歪みが弾性変形から材料を永久に変形させる塑性変形に変化する応力を評価する降伏力、2)伸張、圧縮又はせん断にさらされたときに材料が耐えることができる最大応力を評価する極限強度、及び3)応力・歪み曲線上の破断点における応力の座標を評価する破壊強度である。複合せん断強度は、繊維方向と垂直な方向に荷重がかけられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。圧縮強度は、圧縮荷重がかけられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。
【0040】
特に、多層カーボンナノチューブは、これまで計測された全ての材料の中で最も高い引張強度を有し、63GPaの引張強度が達成されている。その上、理論計算によればCNTsの可能な引張強度が約300GPaであることが示されている。このように、CNT浸出繊維材料は、元になる繊維材料と比較して実質的により高い極限強度が期待される。上記の通り、引張強度の強化は、繊維材料上のCNTsの密度及び分布同様、その正確な性質にも依存する。CNT浸出繊維材料は、例えば、2倍又は3倍の引張特性の向上を示す。例示的なCNT浸出繊維材料は、元になる機能化されていない繊維材料に比べて、3倍ものせん断強度と2.5倍もの圧縮強度を有することができる。このような繊維材料の強度の向上は、CNT浸出繊維材料が組み込まれた複合材料の強度の向上に転換される。
【0041】
ヤング率は、等方性弾性材料の剛性の大きさである。これは、フックの法則に従う応力の範囲における一軸歪みに対する一軸応力の割合により定義される。これは、材料のサンプルの対して行われる引張試験の間に作成される応力・歪み曲線の傾斜から実験的に決定される。
【0042】
電気伝導度又は特定の伝導度は、電流を導く材料の性能の大きさである。CNTキラリティー(chirality)に関する撚度のような特定の構造的パラメータを備えたCNTsは高い伝導度を有し、このようにして、金属的な性質を示す。CNTキラリティーに関して広く認められた命名方式(M. S. Dresselhaus, et al. Science of Fullerenes and CNTs, Academic Press, San Diego, CApp. 756-760(1996))が当業者により正式なものと定められ、承認されている。こうして、CNTは例えば2つの指標(n,m)により識別され、n及びmは、円柱形の表面に巻きつけられ、端部が互いに閉塞されたときに筒を形成するように、六角形グラファイトの切断(cut)と巻きつけ(wrapping)とを説明する整数値である。2つの指標が等しい(m=n)場合、結果として得られるチューブは「アームチェアー」(又はn,n)型と呼ばれる。なぜなら、チューブをCNT軸に対して垂直に切断すると、六角形の辺だけが露出し、チューブのふちの外周のパターンが、n回繰り返されるアームチェアーのアーム及びシートに似ているためである。アームチェアーCNTs、特に単層CNTs(SWNTs)は、金属的であり、極めて高い電気伝導度及び熱伝導度を有する。加えて、このようなSWNTsは、極めて高い引張強度を有する。
【0043】
撚度に加えて、CNTの直径もまた電気伝導度に影響する。上記の通り、CNTの直径は、大きさを制御されたCNT形成触媒ナノ粒子の使用により制御が可能となる。CNTsはまた、半導体材料として形成することができる。多層CNTs(MWNTs)の伝導度はより複雑である。MWNTsにおける内層反応(interwallreactions)は、個々のチューブの全面に電流を不均一に再分配する。それに反して、金属的な単層ナノチューブ(SWNTs)の異なる部位において電流は変化しない。カーボンナノチューブはまた、ダイアモンド結晶及び面内グラファイトシートに匹敵する極めて高い熱伝導度を有する。
【0044】
繊維材料に浸出したCNTsは、単層カーボンナノチューブ(SWNTs)、2層カーボンナノチューブ(DWNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を含むフラーレン族の円筒形状の多くの炭素同位体のいずれかである。CNTsはフラーレン様又構造により閉塞されているか、開口している。CNTsには、他の物質を封入したものが含まれる。
【0045】
以下に記載するように、特定の代表的な参照例は炭素繊維材料で形成されている。炭素繊維材料に適用する多くの原則は、ガラス繊維材料、金属繊維材料、セラミック繊維材料及び、有機繊維材料を含む、他の繊維材料にも同様に適用可能であることは、当業者によって理解されるであろう。したがって、他のCNT浸出繊維材料を製造するための改質は、熟練技術者には明らかであろう。例えば、炭素繊維はCNT成長触媒の相互作用に対して繊細な基材であるが、ガラス繊維基材は、例えば、後述するバリアコーティングの必要性のない触媒によるCNT成長に対して、より高い安定度を示すことができる。
【0046】
CNTsの炭素繊維材料への浸出により、例えば、湿気、酸化、磨耗及び収縮からくる損傷を保護するサイジング剤としてなど、多くの機能が与えられる。CNTベースのサイジングはまた、複合材料中の、炭素繊維材料とマトリックス材料との間の界面としての機能を果たすことができる。CNTsはまた、炭素繊維材料をコーティングするいくつかのサイジング剤のうちの1つとしても機能することができる。
【0047】
さらに、炭素繊維上に浸出したCNTsは、例えば熱又は電気伝導度、又は引張強度など炭素繊維材料の様々な性質を変更することができる。CNT浸出炭素繊維材料の製造のため採用された処理により、それらの有用な性質を、改質される炭素繊維材料全体に均一に付与する略均一な長さ及び均一な分布を備えたCNTsが提供される。さらに、本明細書で開示された処理は、巻取り可能な寸法を備えたCNT浸出炭素繊維材料の生成に適している。
【0048】
本開示はまた、一つにはCNT浸出炭素繊維材料製造用の処理を対象とする。本明細書に開示された処理は、その前に新たに生成される初期段階の炭素繊維材料へ適用すること、又は、炭素繊維材料への代表的なサイジング溶媒の代わりに適用することができる。あるいは、本明細書に開示された処理は、市販の炭素繊維材料、例えば、すでに表面にサイズジング剤が塗布された炭素トウを利用することができる。かかる実施形態においては、後述するように、バリアコーティング又は遷移金属粒子は、間接的な浸出を提供する中間層としての役割を果たせるが、サイジング剤を除去して炭素繊維材料と合成されたCNTsとの間の直接的な界面を提供することができる。CNT合成後、必要に応じて炭素繊維材料に追加のサイジング剤を塗布することができる。
【0049】
本明細書に記載の処理により、トウ、テープ、布及び、他の3次元織物構造の巻取り可能な長さに沿って均一な長さ及び均一な分布を有するカーボンナノチューブの連続生産が可能となる。様々なマット、織物及び、不織布等が、本発明の処理によって機能化される一方、これら母材のCNT機能化後には、元になるトウ、ヤーン等から、このような高度に秩序化された構造を形成することもできる。例えば、CNT浸出織布は、CNT浸出炭素繊維トウから形成することができる。
【0050】
ある実施形態においては、本発明はカーボンナノチューブ(CNT)浸出炭素繊維材料を含んだ複合材料を提供する。CNT浸出炭素繊維材料には、巻取り可能な寸法の炭素繊維材料、炭素繊維材料周りに等角に配置されたバリアコーティング、及び炭素繊維材料に浸出したカーボンナノチューブ(CNTs)が含まれる。炭素繊維材料へのCNTsの浸出には、炭素繊維材料への個々のCNTsの直接的結合又は、遷移金属NP、バリアコーティング、又はその両方を介した間接的結合の結合モチーフが含まれる。
【0051】
理論に制限されるものではないが、CNT形成触媒としての機能を果たす遷移金属NPsは、CNT成長核構造を形成することによりCNT成長に触媒作用をもたらす。一実施形態において、CNT形成触媒は、繊維材料の基部に留まり、バリアコーティングにより固定され、繊維材料の表面に浸出する。このような場合において、当該分野でしばしば観察されるCNT成長の先端部に沿った触媒の移動をさせることなく、遷移金属ナノ粒子触媒によって初期に形成された核構造は、継続した非触媒核CNT成長に十分である。このような場合、NPは、繊維材料に対するCNTの付着点としての機能を果たす。バリアコーティングの存在により、さらなる間接的結合モチーフが提供される。例えば、CNT形成触媒は、繊維材料と表面接触せずに、上記の通りバリアコーティング内に固定される。このような場合、CNT形成触媒と繊維材料との間に配置されたバリアコーティングの積層構造が生じる。いずれの場合も、形成されたCNTsは繊維材料に浸出する。ある実施形態において、バリアコーティングの中には、CNT成長触媒が成長するナノチューブの先端に追従することをなお可能にするものがある。このような場合、この結果、繊維材料への、又は付随的にバリアコーティングへのCNTsの直接的な結合が生じる。カーボンナノチューブと繊維材料との間に形成された実際の結合モチーフの性質に関わらず、浸出CNTは丈夫であり、CNT浸出繊維材料がCNTの性質又は特性を示すことが可能となる。
【0052】
また、理論に制限されるものではないが、繊維材料上にCNTsが成長する場合、反応チャンバー内に存在し得る高温又は、残留酸素又は残留湿気等は、繊維材料に損傷を与える。さらに、繊維材料それ自体が、CNT形成触媒そのものとの反応により損傷を受ける。すなわち、繊維材料は、CNT合成用に用いられる反応温度において、触媒に対して炭素原料として機能してしまう。このような過剰な炭素は、炭素原料ガスの制御された導入を妨げ、また炭素を過剰供給することにより触媒を汚染することすらある。本発明で使用されるバリアコーティングは、繊維材料上でのCNT合成が容易になるように設計されている。理論に制限されるものではないが、前記コーティングは、熱分解に対する熱障壁を提供するか、又は高温環境に繊維材料がさらされることを防ぐ物理障壁となり得る。かわりに或いはさらに、前記コーティングは、CNT形成触媒と繊維材料との間の表面領域接触を最小化するか、又はCNT成長温度におけるCNT形成触媒に繊維材料がさらされることを軽減することができる。
【0053】
CNT浸出繊維材料を有する組成物は、CNTsが略均一な長さでもたらされる。連続処理において、CNT成長チャンバー内での繊維材料の滞留時間は調節されて、CNT成長を制御、最終的にはCNTの長さを制御する。これにより、成長するCNTsの特定の性質を制御する手段を提供される。CNTの長さはまた、炭素原料並びにキャリアガスの流量及び反応温度を調節することにより制御される。例えばCNTsを形成するために使用される触媒の大きさを制御することにより、CNT特性のさらなる制御が可能となる。例えば、1nm遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTsを提供するために使用することができる。より大きな触媒は、主にMWNTsを作るために使用することができる。
【0054】
さらに、使用されるCNT成長処理は、予め形成されたCNTsを溶媒中に懸濁又は分散して、手作業で繊維材料に適用する処理中に生じるCNTsの束化又は凝集を避けつつ、炭素繊維材料上にCNTsが均一に分布したCNT浸出繊維材料を提供するのに有用である。このように凝集したCNTsは、繊維材料への付着力が弱い傾向にあり、CNTに特有の特性は、現れたとしても弱い。ある実施形態において、被覆率、すなわち被覆された繊維の表面積のパーセントで表される最大分布密度は、直径約8nmで5層のCNTsの場合約55%である。この被覆率は、CNTsの内部空間が「充填可能な」空間であるとして計算される。表面への触媒の分散を変化させ、ガス組成及び処理速度を制御することにより、様々な分布/密度の値を達成することができる。一般的に与えられるパラメータに関して、繊維表面に亘って約10%以内の被覆率を達成することができる。より高密度でより短いCNTsは、機械的性質を向上させるのに有用であるのに対し、より低密度のより長いCNTsは、熱的及び電気的性質の向上に有用ではあるが、やはり高密度の方が望ましい。より長いCNTsが成長した場合、より低密度が生じることがある。これは、触媒粒子収率を低下させる、より高温かつより急速な成長の結果である可能性がある。
【0055】
CNT浸出繊維材料を有する本発明の組成物には、炭素フィラメント、炭素繊維ヤーン、炭素繊維トウ、炭素テープ、炭素繊維ブレイド(carbon fiber-braid)、炭素織物、不織炭素マット、炭素繊維プライ、及び他の3次元織物構造等の炭素繊維材料が含まれてもよい。炭素フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの範囲の直径を有する高アスペクト比の繊維が含まれる。炭素繊維トウは、通常は密に結合したフィラメントの束であり、通常はヤーンを形成するために互いに撚り合わせられる。
【0056】
ヤーンには、撚り合わせられたフィラメントの密に結合された束が含まれる。ヤーンにおけるそれぞれのフィラメントの直径は比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメートル(linear meter)あたりのグラム重量として表される「テックス(tex)」又は10,000yardあたりのポンド重量として表される「デニール(denier)」で示される様々な重量を有し、通常は標準的なテックスの範囲は約200texから約2000texまでの間である。
【0057】
トウには、撚り合わせられていないフィラメントが結合された束が含まれる。ヤーンにおけるのと同様に、トウにおけるフィラメントの直径は概して均一である。トウはまた、様々な重量を有し、texの範囲は一般に200texから2000texまでの範囲である。トウは、例えば12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等のように、トウ内の数千本のフィラメントの数によりしばしば特徴付けられる。
【0058】
炭素テープ(carbon tapes)は、波状にまとめられるか、又は不織布の扁平トウを示すことができる材料である。炭素テープ(carbon tapes)の幅は様々であり、一般にリボンに類似する両面構造(two-sided structure)である。本発明の処理においては、テープの片面又は両面でのCNTの浸出の両立が可能である。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット」又は「森」に似ている。また、本発明の処理は、テープの巻取りを機能化するために連続モードで行うことができる。
【0059】
炭素繊維ブレイドは、高密度に炭素繊維が詰め込まれたロープ様構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンにより形成することができる。編み上げ構造(braided structure)は、中空部分(hollow portion)を含んでもよく、あるいは他のコア材料の周囲に形成されてもよい。
【0060】
ある実施形態において、多くの一次繊維材料構造体は、織物又はシート様構造に組織化される。これには、例えば、上記のテープに加えて、炭素織物製品、不織炭素繊維マット(non-woven fiber mat)及び炭素繊維プライが含まれる。このような高度な秩序構造は、母繊維に浸出したCNTsを有する元になるトウ、ヤーン又はフィラメント等から形成することができる。あるいは、このような構造体は、CNT浸出処理用の基板として機能する。
【0061】
繊維を形成するために使用される前駆体(レーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ)に基づき、炭素繊維は3種類に分類されるが、そのいずれもが本発明に使用できる。セルロース系材料であるレーヨン前駆体の炭素繊維は、約20%と比較的低い炭素含有量を有し、繊維の強度及び剛性が低い傾向にある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量の炭素繊維を提供する。一般に、PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維より高い引張強度を有する。
【0062】
また、石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体をも、炭素繊維を製造するために使用できる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率(carbon yield)が高いが、一定のバッチにおいて不均一性の問題が生じることがある。
【0063】
繊維材料への浸出に有用なCNTsには、単層CNTs、2層CNTs、多層CNTs及びこれらの組み合わせが含まれる。実際に使用されるCNTsは、CNT浸出繊維材料の用途によって決まる。CNTsは、熱伝導度又は電気伝導度の用途に、又は絶縁体として利用することができる。ある実施形態において、浸出カーボンナノチューブは単層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出カーボンナノチューブは多層ナノチューブである。ある実施形態において、浸出カーボンナノチューブは2層ナノチューブと多層ナノチューブとの組み合わせである。単層ナノチューブ及び多層ナノチューブの特有の性質にはいくつかの相違があり、繊維の最終用途によって、どちらの種類のナノチューブを合成するかが決まる。例えば、単層ナノチューブは半導体的又は金属的であり得るが、多層ナノチューブは金属的である。
【0064】
CNTsは、機械強度、低〜中程度の電気抵抗率及び高い熱伝導度等の特有の性質を、CNT浸出炭素繊維材料に与える。例えば、ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、元になる炭素繊維材料の電気抵抗率より低い。さらに一般に、結果として得られるCNT浸出繊維が示すこれらの特性の程度は、カーボンナノチューブによる繊維の被覆率の程度及び密度の関数となる。直径8nmで5層のMWNTの場合、繊維の0〜55%の範囲の任意の繊維表面積を被覆することができる(ここでもCNTsの内部空間を充填可能とみなして計算している)。この数値は、より小さな直径のCNTsの場合はより低くなり、より大きな直径のCNTsの場合はより高くなる。55%の表面積被覆率は、約15,000CNTs/ミクロンに相当する。さらに、CNTの性質は、上記の通りCNTの長さに依存した方法で繊維材料に与えることができる。浸出CNTsの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンまでの範囲で変化でき、1ミクロン,2ミクロン,3ミクロン,4ミクロン,5ミクロン,6ミクロン,7ミクロン,8ミクロン,9ミクロン,10ミクロン,15ミクロン,20ミクロン,25ミクロン,30ミクロン,35ミクロン,40ミクロン,45ミクロン,50ミクロン,60ミクロン,70ミクロン,80ミクロン,90ミクロン,100ミクロン,150ミクロン,200ミクロン,250ミクロン,300ミクロン,350ミクロン,400ミクロン,450ミクロン,500ミクロン及びこれらの間の全ての値及び部分的な範囲を含む。CNTsはまた、例えば、約0.5ミクロンを含む1ミクロンより短い長さとすることもできる。CNTsはまた、例えば、510ミクロン,520ミクロン,550ミクロン,600ミクロン,700ミクロン及びこれらの間の全ての値及び部分的な範囲を含む、500ミクロンより長い長さとすることもできる。
【0065】
本発明の組成物には、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さのCNTsを組み込むことができる。このようなCNTの長さは、せん断強度の強化に有益である。また、CNTsは、約5ミクロンから約70ミクロンまでの長さであってもよい。このようなCNTの長さは、CNTsが繊維方向に配列された場合、引張強度の強化に有益である。また、CNTsは、約10ミクロンから約100ミクロンまでの長さであってもよい。このようなCNTの長さは、機械的性質と同様、電気的性質/熱的性質の向上に有益である。また、本発明に用いられる処理により、電気的性質及び熱的性質の向上にも役に立つ約100ミクロンから約500ミクロンまでの長さを有するCNTsが提供される。このようなCNTの長さの制御は、ラインスピード及び成長温度の変化に加えて炭素原料及び不活性ガス流量を調整することにより容易に行うことができる。
【0066】
ある実施形態において、巻取り可能な寸法のCNT浸出繊維材料を含む組成物は、CNTsの長さが異なる様々な均一な領域を有する。例えば、せん断強度を強化する均一な短いCNTを備えたCNT浸出繊維の第1部分、電気的又は熱的性質を向上する均一な長いCNTを備えた同一の巻取り可能な材料の第2部分を有するのが望ましい。
【0067】
繊維材料へのCNT浸出に関する本発明の処理は、一様なCNTの長さの制御を可能にし、連続処理において、巻取り可能な繊維材料が高い割合でCNTsによる機能化を可能にする。材料滞留時間が5秒から300秒の場合、長さ3フィートのシステム用の連続処理におけるラインスピードは、約0.5ft/minから約36ft/minまでのいずれか、又はそれより大きい。選択されるスピードは、以下にさらに説明される様々なパラメータに応じて決定される。
【0068】
ある実施形態において、約5から約30秒までの材料滞留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さのCNTsの製造が可能となる。ある実施形態において、約30から約180秒までの材料滞留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンまでの長さのCNTsの製造が可能となる。さらに他の実施形態において、約180から約300秒までの材料滞留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンまでの長さのCNTsの製造が可能となる。当業者であれば、これらの範囲が概算であり、CNTの長さはまた、反応温度、並びにキャリアガス及び炭素原料の濃度及び流量によって調節することができることを理解するだろう。
【0069】
本発明のCNT浸出繊維材料はバリアコーティングを含む。バリアコーティングは、例えば、アルコキシラン(alkoxysilane)、メチルシロキサン(methylsiloxane)、アルモキサン(alumoxane)、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)及びガラスナノ粒子が含まれる。以下に記載のように、CNT形成触媒は、未硬化バリアコーティング材料に添加し、まとめて炭素繊維材料に塗布することができる。他の実施形態において、CNT形成触媒を付着させる前に、バリアコーティング材料を繊維材料に加えることができる。その後に続くCVD成長を考えて、CNT形成触媒を炭素原料にさらすことができるくらいバリアコーティング材料を十分に薄くすることができる。ある実施形態において、その厚さは、CNT形成触媒の有効径より薄いか略等しい。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmまでである。また、バリアコーティングを、1nm,2nm,3nm,4nm,5nm,6nm,7nm,8nm,9nm,10nm及び、これらの間の全ての値及び部分的な範囲を含む10nmより小さい値とすることができる。
【0070】
理論に制限されるものではないが、バリアコーティングは、炭素繊維材料とCNTsとの間の中間層の機能を果たし、CNTsを炭素繊維材料へ機械的に浸出させることに役立つ。このような機械的浸出は、CNTs特性の付与という利益を享受しながらも、繊維材料がCNTsを形成するための基盤(platform)として機能する強固な体制を依然として提供する。さらに、バリアコーティングを含むことの利益には、炭素繊維材料を蒸気にさらすことによる化学的損傷又はCNT成長を促進するために用いられる温度で炭素繊維材料を加熱することによる熱的損傷から、炭素繊維材料を直接保護することが含まれる。
【0071】
本明細書で開示される浸出CNTsは、従来の炭素繊維「サイジング」の代用品として効果的に機能する。浸出CNTsは、従来のサイジング材料よりも丈夫であり、複合材料内における繊維−マトリックス間の界面を強化し、より一般には、繊維−繊維間の界面を強化することができる。実際に、本明細書で開示されるCNT浸出炭素繊維材料は、CNT炭素浸出繊維材料の性質が炭素繊維材料の性質と浸出CNTsの性質との組み合わせであるという意味では、それ自体が複合材料である。このため、本発明の実施形態は、所望の性質が不十分又は欠如した炭素繊維材料にそのような性質を与える手段を提供する。炭素繊維材料は、特定の用途の必要性を満たすように適合又は設計することができる。サイジングとして機能するCNTsの作用は、CNTの疎水構造による蒸気の吸収から炭素繊維材料を保護することができる。その上、以下にさらに例示されるように、疎水性のマトリックス材料と疎水性のCNTsとの相互作用により、繊維とマトリックス間の相互作用が向上する。
【0072】
上記の浸出CNTsを有する炭素繊維材料へ有益な性質が与えられているにもかかわらず、本発明の組成物は、“従来”のサイジング剤をさらに含んでもよい。このようなサイジング剤の種類及び機能は幅広く、例えば、界面活性剤、帯電防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの混合物が含まれる。このような従来のサイジング剤は、CNTs自体を保護するか、又は浸出CNTsの存在によって与えられていないさらなる性質を繊維に与えることができる。
【0073】
図1〜6は、ここに記載された処理によって形成された炭素繊維材料のTEM及び、SEM画像を示す。これらの材料を形成する手順は、以下もしくは、実施例I及びIIにおいて詳細を述べる。図1及び、2は、多層及び、2層カーボンナノチューブのTEM画像を示し、それぞれ、連続処理においてAS4炭素繊維上で形成されている。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が炭素繊維材料表面に機械的に浸出した後に、バリアコーティング内で成長するCNTsの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、炭素繊維材料上で約40ミクロンの目標の長さの20%以内に成長したCNTsの長さ分布における整合性を実証するSEM画像を示す。図5は、CNTの成長に対するバリアコーティングの効果を実証するSEM画像を示す。バリアコーティングの施されたところでは緻密で、きれいに整列したCNTsが成長し、バリアコーティングの施されていないところではCNTsは成長しない。図6は、繊維全体の約10%以内のCNT密度が均一であることを実証する、炭素繊維上でのCNTsの低倍率SEM画像を示す。
【0074】
ある実施形態において、本発明により、a)巻取り可能な寸法の炭素繊維材料の表面上でのカーボンナノチューブ形成触媒の散布及び、b)炭素繊維材料上でのカーボンナノチューブの直接合成と、それによるカーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料の形成、を含むCNT浸出のための連続処理が提供される。9フィートの長さのシステムの場合、処理のラインスピード(linespeed)を約1.5ft/minから約108ft/minの間の範囲にすることが可能である。本明細書に記載されている処理により達成されるラインスピードは、商業ベースにみあう量のCNT浸出炭素繊維材料を短い製造時間で製造可能とする。例えば、36ft/minのラインスピードで、CNT浸出炭素繊維の量(繊維上に5重量%超の浸出CNTs)は、5つの別個のトウ(20lb/tow)を同時に処理するよう設計されたシステムで、一日に生産される量の100ポンド又は、それ以上を上回ることが可能である。システムは、成長ゾーンの繰り返しによって1度で、又はより速くより大量のトウを生産できるように構成されている。さらに、当業者に周知のようにCNTsの製作工程の中には、連続運転モードを阻む極めて低速度なものがある。例えば、当業者に知られている標準的な工程において、CNT形成触媒還元段階は実行するのに1〜12時間かかってしまう。また、CNT成長自体も時間がかかり、例えば、CNT成長に数十分を必要とし、このため本発明において実現される高速なラインスピードを不可能なものとする。ここに記載の処理は、このような制限手順のレートを克服する。
【0075】
本発明のCNT浸出炭素繊維材料形成処理により、予め形成されたカーボンナノチューブの懸濁液を繊維材料へ添加しようとするときに生じる、CNT同士の絡み合いを回避することが可能となる。すなわち、予め形成されたCNTsは、炭素繊維材料と融合していないので、CNTsは束になったり、絡み合ったりしやすいためである。その結果、炭素繊維材料に弱く付着するCNTsが均一に分布しずらくなる。しかしながら、本発明の処理によれば、必要に応じ成長密度を低減させることによって、炭素繊維材料の表面に高均一に絡み合ったCNTマットを提供できる。低密度で成長したCNTsは、最初に炭素繊維材料に浸出する。かかる実施形態では、繊維は、垂直な配列を生じさせる十分な密度には成長せず、結果として炭素繊維材料の表面には絡み合ったマットが生成される。対照的に、予め形成されたCNTsを手作業で添加しても、炭素繊維材料に均一な分布及び均一な密度のCNTマットの生成が確実に生成されるわけではない。
【0076】
図7は、本発明の実施形態の例示に基づいたCNT浸出繊維材料の製造処理を示す。図7は、本発明の一実施形態の例示に基づいたCNT浸出炭素繊維材料製造のための処理700のフローチャートを表す。
【0077】
処理700には少なくとも以下の工程が含まれる。
【0078】
701:炭素繊維材料の機能化。
【0079】
702:機能化した炭素繊維材料へのバリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布。
【0080】
704:カーボンナノチューブ合成に十分な温度への炭素繊維材料の加熱。
【0081】
706:触媒を含む炭素繊維上でのCVD媒介CNT成長の促進。
【0082】
ステップ701において、炭素繊維材料はきのうかされ、これにより繊維の表面湿潤を促進及び、バリアコーティングの付着力を向上させる。
【0083】
炭素繊維材料へカーボンナノチューブを浸出させるために、カーボンナノチューブはバリアコーティングを等角に被覆した炭素繊維上で合成される。一実施形態において、これは工程702のように、まずバリアコーティングを炭素繊維に等角に被覆し、そして次にバリアコーティング上にナノチューブ形成触媒を配置することにより行われる。ある実施形態において、バリアコーティングは、触媒堆積の前に部分的に硬化させることができる。これにより、前記触媒の受容が可能となり、例えばCNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面接触等の、バリアコーティングへの埋め込みが受容可能となる表面が提供される。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒を埋め込んだ後に完全に硬化させることができる。ある実施形態において、バリアコーティングは、CNT形成触媒の堆積と同時に、炭素繊維材料全体にわたって等角に被覆される。CNT形成触媒及びバリアコーティングが配置された時点で、バリアコーティングを完全に硬化させることができる。
【0084】
ある実施形態において、バリアコーティングは触媒が堆積する前に完全に硬化させることができる。このような実施形態において、完全に硬化されたバリアコーティングを施した炭素繊維材料は、触媒を受け入れる表面を形成するためにプラズマ処理することができる。例えば、硬化したバリアコーティングを有するプラズマ処理された炭素繊維材料は、CNT形成触媒を堆積することができる粗面化された表面を提供することができる。バリア表面を「粗面化」のためのプラズマ処理は、触媒堆積を容易にする。表面の粗さは概してナノメートルスケールである。プラズマ処理工程において、ナノメートルスケールの深さ及びナノメートルスケールの直径を有する孔又は窪みが形成される。このような表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素など様々な異なるガスのいずれか1つ又はそれ以上のプラズマを使用して行うことができる。ある実施形態において、プラズマ粗面化はまた、炭素繊維材料自体に直接行うことができる。これにより、炭素繊維材料へのバリアコーティングの付着が容易になる。
【0085】
図7に関連して以下でさらに説明されるように、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含む溶液として作られる。上記のように、合成されたナノチューブの直径は、金属粒子の大きさに関係する。ある実施形態において、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の市販の分散系は入手可能であり、希釈せずに使用される。他の実施形態においては、触媒の市販の分散系は希釈することができる。このような溶液を希釈するか否かは、上記のように、成長したCNTの所望の密度及び長さによって決めることができる。
【0086】
図7に図示した実施形態に関して、カーボンナノチューブ合成は、化学蒸着(CVD)処理に基づいて示され、合成は高温で生じる。具体的な温度は触媒選択によるが、一般的には約500℃から1000℃の範囲である。したがって、工程704は、カーボンナノチューブの合成を支援するように、バリアコーティングを施した炭素繊維材料を上記の範囲の温度まで加熱することを含む。
【0087】
そして、工程706において、触媒を含む炭素繊維材料上でCVDにより促進されたナノチューブ成長が行われる。CVD処理は、例えば、アセチレン、エチレン又はエタノール等の炭素含有原料ガスにより促進される。CNT合成処理は一般に、一次キャリアガスとして不活性ガス(例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等)を使用する。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の間の範囲まで供給される。CVD成長用の略不活性環境は、成長チャンバーから蒸気及び酸素を除去することにより準備される。
【0088】
CNT合成処理において、CNTsは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒側の部分で成長する。プラズマが形成する強電場を、ナノチューブ成長に作用させるために任意で使用することができる。つまり、成長は電場の方向に従う傾向がある。プラズマスプレー及び電場の配置を適切に調節することで、垂直配列CNTs(すなわち、炭素繊維材料に垂直)を合成することができる。特定の状況下で、プラズマが存在せずとも、密集したナノチューブは垂直な方向を維持し、その結果、カーペット又は森のようなCNTsの密な配置を生じさせる。バリアコーティングの存在はまた、CNT成長の方向に影響を与えることができる。
【0089】
繊維材料に触媒を配置する工程は、溶液をスプレー又は浸漬被覆することにより、あるいは例えばプラズマ処理等を介した気相蒸着により行われる。バリアコーティングを配置する方法に合わせて技術を選択することができる。したがって、ある実施形態において、溶媒中の触媒溶液を作った後、触媒は溶液とともにスプレーもしくは浸漬被覆によって、あるいはスプレー及び浸漬被覆の組み合わせによって、バリアコーティングされた繊維材料に塗布される。単独で又は組み合わせて用いられるいずれかの技術は、1回、2回、3回、4回、あるいは何回でも用いられ、こうしてCNT形成触媒により十分均一に被覆された繊維材料が提供される。浸漬被覆が採用された場合、例えば、繊維材料を第1浸漬槽に第1滞留時間の間浸しておくことができる。第2浸漬槽が採用された場合、繊維材料を第2浸漬槽に第2滞留時間の間浸しておくことができる。例えば、繊維材料は、浸漬構成及びラインスピードに応じて、約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらすことができる。スプレー又は浸漬被覆処理を採用すると、繊維材料は、触媒の表面被覆が約5%未満から約80%もの表面被覆率で、CNT形成触媒ナノ粒子は、略単分子層となる。ある実施形態において、炭素繊維材料へのCNT形成触媒の被覆処理は、単分子層だけを形成すべきである。例えば、多量のCNT形成触媒上におけるCNT成長は、繊維材料へのCNTの浸出度を損なうことがある。他の実施形態において、遷移金属触媒は、蒸発技術、電解析出技術、及び有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物としての遷移金属触媒をプラズマ原料ガスへ添加する等、当業者に周知の他の処理を使用して炭素繊維材料に堆積させることができる。
【0090】
本発明の処理は連続的になるように設計されているため、巻取り可能な繊維材料は、浸漬被覆槽が空間的に分離された一連の浴槽中で、浸漬被覆することができる。発生期の炭素繊維が新たに生成される連続処理において、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、炭素繊維材料へのバリアコーティングの塗布及び硬化又は、部分的な硬化の後の最初のステップとすることができる。バリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布は、新たに形成された炭素繊維材料に対して、サイジング剤の塗布のかわりに行うことができる。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリアコーティング後に他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された炭素繊維に塗布することができる。このようなCNT形成触媒と他のサイジング剤との同時塗布により、炭素繊維材料のバリアコーティングと表面接触したCNT形成触媒が提供され、その結果CNT浸出が確かなものになる。
【0091】
使用される触媒溶液は、上記のように、dブロック遷移金属のいずれの遷移金属ナノ粒子とすることもできる。加えて、ナノ粒子には、元素形態又は塩形態のdブロック金属の合金及び非合金混合物、並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定するものではないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。制限されない例示的な遷移金属NPsには、Ni,Fe,Co,Mo,Cu,Pt,Au,Ag及びこれらの塩、並びにこれらの混合物が含まれる。ある実施形態において、このようなCNT形成触媒は、バリアコーティング堆積と同時に炭素繊維にCNT形成触媒を直接、塗布又は浸出させることにより、炭素繊維材料に配置される。これらの遷移金属触媒の多くは、例えばFerrotecCorporation(Bedford, NH)を含む様々なサプライヤーから容易に入手可能である。
【0092】
炭素繊維材料へCNT形成触媒を塗布するために使用される触媒溶液は、CNT形成触媒を均一に分散可能とするいかなる共通溶媒でもよい。このような溶媒には、これに限定するものではないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成するために制御された極性を備えた他のいかなる溶媒も含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒が、約1:1から1:10000の範囲とすることができる。このような濃度は、バリアコーティングとCNT形成触媒とが同時に塗布された場合に使用することができる。
【0093】
ある実施形態において、炭素繊維材料の加熱は、CNT形成触媒を堆積させた後にカーボンナノチューブを合成するために、約500℃から1000℃の範囲とすることができる。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入の前に、又は略同時に行うことができる。
【0094】
ある実施形態において、本発明は、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料に亘ってバリアコーティングを等角に塗布することと、繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、炭素繊維材料を少なくとも500℃まで加熱することと、炭素繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することとを含む処理を提供する。ある実施形態において、CNT浸出処理の工程には、炭素繊維材料からサイジング剤を除去することと、炭素繊維材料にバリアコーティングを塗布することと、炭素繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、前記繊維をCNT合成温度まで加熱することと、触媒を含む繊維材料上でCVD促進CNT成長させることとが含まれる。したがって、市販の炭素繊維材料が使用される場合、CNT浸出炭素繊維を構成するための処理には、炭素繊維材料にバリアコーティング及び触媒を配置する前に、炭素繊維材料からサイジング剤を除去する個別のステップが含まれてもよい。
【0095】
カーボンナノチューブを合成するステップには、全て2009年11月2日に出願された同時係属中の米国特許出願第12/611073号、12/611101号、及び12/611103号明細書に開示され、参照により本出願に組み込まれたた技術など、カーボンナノチューブを形成するための多くの技術が含まれてもよい。これに限定されるものではないが、微小共振動、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザアブレーション、アーク放電及び高圧一酸化炭素(HiPCO)など当該技術分野で周知の技術により、本発明の繊維上に成長したCNTsを得ることができる。特にCVDの間、CNT形成触媒が配置されたバリアコーティングされた炭素繊維材料は、直接使用することができる。ある実施形態において、従来のサイジング剤のいずれも、CNT合成の前に除去することができる。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマの噴流を生み出す。前記プラズマは触媒担持炭素繊維材料に向けられる。このように、ある実施形態において、炭素繊維材料上でのCNTsの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)炭素繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを向けることが含まれる。成長するCNTsの直径は、上記のように、CNT形成触媒の大きさに左右される。ある実施形態において、サイジングされた繊維基材は、約550から約800℃まで加熱され、CNT合成を促進する。CNTsの成長を開始させるために、2つのガス、例えばアルゴン、ヘリウム又は窒素等の処理ガス及び、アセチレン、エチレン、エタノール又はメタン等の炭素含有ガスが反応器内に注気される。CNTsは、CNT形成触媒の場所で成長する。
【0096】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマ助長される。プラズマは、成長処理の間に電場を与えることによって生じる。これらの状況下で成長したCNTsは、電場の方向へと向かう。このように、反応器の形状を調整することにより、円筒状繊維の周囲に放射状に垂直に配列されたカーボンナノチューブを成長させることができる。ある実施形態の場合、繊維周囲に放射状に成長するためにプラズマを必要としないものもある。テープ、マット、ファブリック、プライ等の明確な面を有する炭素繊維材料の場合、触媒は片面又は両面及び、それに対応して配置することができ、CNTsも同様に、片面又は両面で成長することができる。
【0097】
上記の通り、CNT合成は、巻取り可能な炭素繊維材料を機能化するための連続処理に十分な速度で行われる。様々な装置構成により、以下に例示されるように連続合成が容易になる。
【0098】
ある実施形態においては、CNT浸出繊維材料は、「オールプラズマ」処理により構成することができる。オールプラズマ処理は、上記のプラズマによる炭素繊維材料の粗面化をともない、これによって繊維表面の湿潤特性を向上させ、より等角なバリアコーティングを提供し、同じく、アルゴン中又は、ヘリウムベースのプラズマ中の酸素、窒素、水素等、特定の反応ガス種を使用して炭素繊維材料の機能化を通じた機械的結合及び化学的接着を介して、塗膜密着性を向上させることができる。
【0099】
バリアコーティングを施した炭素繊維材料は、多くのさらなるプラズマ媒介手順を経て、最終CNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、オールプラズマ処理には、バリアコーティングが硬化された後に第2表面改質が含まれてもよい。これは、炭素繊維材料上のバリアコーティング表面の「粗面化」のためのプラズマ処理であり、触媒堆積を容易にする。上記のように、表面改質は、これに限定するものではないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素などの様々な異なるガスのいずれか1つ又は複数のプラズマを使用して行うことができる。
【0100】
表面改質の後、バリアコーティングを施した炭素繊維材料は触媒を塗布される。これは、前記繊維上にCNT形成触媒を堆積させるためのプラズマ処理である。前記CNT形成触媒は、一般に上記の遷移金属である。遷移金属触媒は、気相輸送を促進するために、磁性流体、有機金属、金属塩又は他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに加えることができる。前記触媒は、真空も不活性雰囲気も必要とはしない、周囲環境の室温で塗布することができる。ある実施形態においては、炭素繊維材料は、触媒塗布の前に冷却される。
【0101】
オールプラズマ処理を継続すると、カーボンナノチューブ合成がCNT成長反応器内で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることにより行うことが可能であり、この場合、炭素プラズマは、触媒を含む繊維にスプレーされる。カーボンナノチューブ成長は高温(触媒に応じて、一般に約500から1000℃の範囲)で生じるため、触媒を含む繊維は、炭素プラズマにさらされる前に加熱することができる。浸出処理のために、炭素繊維材料は、任意で軟化するまでさらに加熱されてもよい。加熱後、炭素繊維材料は炭素プラズマを受容可能な状態となる。前記炭素プラズマは、例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等の炭素含有ガスを、イオン化が可能な電場を通過させることで発生する。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、炭素繊維材料へ向けられる。炭素繊維材料は、プラズマを受けるために、スプレーノズルから約1センチメートル以内等に近接させる。ある実施形態においては、炭素繊維材料を高温に維持するために、炭素繊維材料上方のプラズマスプレイヤーに加熱器が設けられる。
【0102】
連続カーボンナノチューブ合成の他の構成には、カーボンナノチューブを炭素繊維材料に直接合成及び成長させるための特別な矩形反応器が含まれる。反応器は、カーボンナノチューブ担持繊維を製造する連続インライン処理で使用するために設計される。ある実施形態において、CNTsは、化学蒸着(「CVD」)を介して、マルチゾーン(multi-zone)反応器内にて、大気圧かつ約550℃から約800℃までの範囲の高温で成長する。大気圧で合成されるという事実は、繊維上にCNTを合成するために反応器を連続処理ラインへ組み込むのが容易になる一因である。このようなゾーン反応器(zone reactor)を用いるインライン連続処理のもう1つの利点は、CNT成長が、当該技術分野では標準的な他の処理又は装置構成では数分(又はそれ以上)で生じるのに対し、数秒で生じることである。
【0103】
様々な実施形態に係るCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0104】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器の断面は円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では大抵円筒形反応器が使用される)、便宜上(円筒形反応器では流動力学のモデル化が容易である)、加熱システムは円管(石英等)に容易に対応する、及び製造の容易さを含む多くの理由がある。円筒形の慣習から離れ、本発明は、矩形断面を有するCNT合成反応器を提供する。離脱の理由は以下の通りである。1.反応器により処理することができる多くの炭素繊維材料は、平坦なテープ又はシート様形態等のように比較的平面的なので、円形断面は反応器容量の使用に対して非効率である。この非効率が原因で、例えば、次のような欠点が、円筒形CNT合成反応器に生じる。a)十分なシステムパージの維持:反応器容量が増加すると、同レベルのガスパージを維持するために、さらなるガス流量を必要となる。円筒形CNT合成反応器に対していくつかの欠点を生じさせる。これは、開放環境におけるCNTsの大量生産に対して非効率なシステムを生じさせる。b)増加した炭素原料ガス流:不活性ガス流内での相対的な増加は、上記aのように、さらなる炭素原料ガス流を必要とする。12K炭素繊維トウの容量は、矩形断面を有する合成反応器の全容量の2000分の1であると考えられたい。同等の成長円筒形反応器(すなわち、矩形断面反応器と同一の平面的な炭素繊維材料に対応する幅を有する円筒形反応器)において、炭素繊維材料の容量は、前記チャンバーの17500分の1である。一般に、CVD等のガス蒸着処理は、圧力又は温度にもっぱら影響されるが、容量は蒸着の効率に大きな影響力を有する。矩形反応器を用いても、それでもまだ容量は過剰である。この過剰容量は望ましくない反応を容易にするが、円筒形反応器はこの約8倍の容量を有するのである。競合する反応が生じるこの大きな機会により、所望の反応は、円筒形反応器チャンバー内で事実上緩やかに生じる。CNT成長のこのような減速は、連続処理の進行において問題となる。矩形反応器構成の1つの利点は、高さの低い矩形チャンバーを使用することにより、反応器容量を減少させ、これによって、容量比をより良好にし、反応をより効率的にすることである。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する炭素繊維材料の全容量のわずか約3000倍に過ぎない。さらなる実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する炭素繊維材料の全容量のわずか約4000倍に過ぎない。またさらなる実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する炭素繊維材料の全容量の約10000倍未満である。さらに、円筒形反応器を使用した場合、矩形断面の反応器と同じ流率(flow percent)を提供するために、より多くの炭素原料ガスが必要となることは注目すべきである。他の実施形態において、合成反応器は、矩形ではないが、比較的それに類似しており、円形断面の反応器に対して反応器容量を同様に減少させる多角形形状で表される断面を有することは十分に評価されてよい。c)問題のある温度分布:比較的小さな直径の反応器が使用された場合、チャンバーの中央部からその壁面までの温度勾配は最小となる。しかし、工業規模の生産に使用される等、規模が大きくなるにつれ、温度勾配は大きくなる。このような温度勾配は、繊維基材全域での製品品質のばらつきを生じさせる(すなわち、製品の品質は、半径方向の位置の関数として変化する)。矩形断面の反応器を使用した場合、この問題は略回避することができる。特に、平面的な基材が使用された場合、反応器の高さを、基材の上向きの大きさに一定に保つことができる。反応器の頂部と底部との間の温度勾配は、基本的にごくわずかであり、結果として、熱問題及びこれにより生じる製品品質のばらつきは避けられる。2.ガス導入:当該技術分野では管状炉が通常使用されるため、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端から導入し、反応器を通じてそれを他端から引き出す。本明細書に開示のある実施形態において、ガスは、反応器の側面を通るか、反応器の天板及び底板を通って、反応器の中央部又は目標成長領域に、対照的に導入することができる。流入する原料ガスがシステムの最も高温の(CNT成長がもっとも活発な)部分に連続的に補給されるため、これはCNT成長率全体を向上させる。この持続するガス補給は、矩形CNT反応器が示す高い成長率における重要な側面である。
【0105】
(領域化)
比較的低温のパージ領域を提供するチャンバーは、矩形合成反応器の両端から延びている。出願人は、高温のガスが外部環境(すなわち、反応器の外側)と接した場合、炭素繊維材料の劣化が増すことを究明している。低温のパージ領域は、内部システムと外部環境との間の緩衝材を提供する。当該技術分野で周知の一般的なCNT合成反応器構成は、基材を注意深く(そして緩やかに)冷却することが通常求められる。この矩形CNT成長反応器の出口の低温パージ領域は、連続的なインライン処理に必要とされる短時間の冷却を実現する。
【0106】
(非接触、ホットウォール型(hot-walled)、金属反応器)
ある実施形態において、金属製、特にステンレス鋼のホットウォール型反応器が使用される。金属及び特にステンレス鋼は、炭素析出(すなわち、煤及び副生成物形成)の影響を受けやすいため、これは常識に反するように思える。したがって、ほとんどのCNT反応器構成は、炭素の析出がより少なく、石英は洗浄しやすく、石英は試料の観察を容易にするため、石英反応器を使用する。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上の煤及び炭素析出の増大が、より着実で、より速く、より効率的で、より安定したCNT成長につながるという事実に気づいた。理論に拘束されるものではないが、大気稼働と関連して、反応器内で生じるCVD処理は拡散律速であることが示されている。すなわち、触媒は、その相対的に(反応器が不完全真空下で稼働していた場合より)高い分圧により、反応器システム内で得られる多すぎる炭素を「過剰供給」される。結果として、特にクリーン(clean)な開放システムにおいて、過量の炭素が触媒粒子に付着し、そのCNTsの合成能力を低下させる。ある実施形態において、矩形反応器は、反応器が金属反応器壁面の煤の析出によって「汚れている(dirty)」場合、故意に稼働される。炭素が反応器の壁面の単分子層として堆積すると、炭素はその上に容易に堆積するはずである。このメカニズムにより、得られる炭素の一部が「回収される」ため、ラジカルの形態で残っている炭素原料は、触媒を害さない速度で触媒と反応する。既存のシステムは、「クリーンに」稼働し、もしそれが連続処理のために開放していれば、低い成長速度でCNTsのはるかに低い収率をもたらすだろう。
【0107】
上記のように、CNT合成を「汚い」状態で行うことは概して有益であるが、ガスマニフォールド及び吸入口等の装置の一部は、煤によって閉塞状態になった場合、それにも関わらず、CNT成長処理に悪影響を与えることがある。この問題を解決するために、CNT成長反応器チャンバーのこのような領域を、シリカ、アルミナ又は酸化マグネシウム等の煤抑制コーティングにより保護することができる。実際には、装置のこれらの部分を、これらの煤抑制コーティングに浸漬被覆することができる。INVAR(登録商標)は、高温でコーティングの適切な付着を確実なものとし、煤が重要な領域に大幅に蓄積するのを妨げる類似したCTE(熱膨張係数)を有するため、INVAR(登録商標)等の金属をこれらのコーティングに使用することができる。
【0108】
(触媒還元とCNT合成の組み合わせ)
本明細書で開示のCNT合成反応器において、触媒還元とCNT成長とはいずれも反応器内で生じる。もし別々の工程として行われた場合、連続処理での使用に十分適時に還元ステップを行うことができないため、これは重要である。当該技術分野で周知の一般的な処理において、還元ステップを行うのに通常は1〜12時間かかる。本発明によれば、両方の工程は1つの反応器内で生じるが、これは少なくとも1つには、当該技術分野で一般的になっている円筒形反応器では、その端部に炭素ガス原料が導入されるが、ここでは反応器の中央部に導入されるためである。繊維が加熱領域に入ると、還元処理が行われる:この時点までにガスは触媒と反応し、(水素ラジカル相互作用を介した)酸化還元を引き起こす前に壁面と反応し冷却されるだけの時間がある。還元はこの遷移領域で行われる。システム内で最も高温の等温領域でCNT成長は生じ、反応器の中央部付近のガス吸入口近傍で最大成長速度となる。
【0109】
ある実施形態において、炭素トウ等の緩やかに構成された炭素繊維材料が使用された場合、連続処理には、前記トウのストランド又はフィラメントを開繊するステップを含むことができる。したがって、トウが巻き出されるにしたがい、例えば、真空ベース開繊システムを使用してトウが開繊されてもよい。比較的固いサイジング炭素繊維が使用される場合、トウを「軟化」させて繊維の開繊を容易にするために、さらに加熱が行われてもよい。個別のフィラメントを含んで構成された開繊繊維は、フィラメントの全表面領域をさらすのに十分に開繊され、このようにして、トウはその後の処理ステップでより効率的に反応できる。このような開繊は、3Kのトウに対して約4インチから約6インチの範囲に達してもよい。開繊されたトウは、上記のプラズマシステムからなる表面処理ステップを経ることができる。バリアコーティングが塗布され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒浸漬槽を通過することができる。結果として、その表面に触媒粒子が半径方向に分布した炭素トウの繊維が得られる。それから、前記トウの触媒を含む繊維は、例えば上記の矩形チャンバー等の適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは大気圧CVD又はPE−CVD処理を経た流れが、秒速数ミクロンにも及ぶ高速度でCNTsを合成するために用いられる。放射状に配列されたCNTsを備えたトウの繊維は、CNT成長反応器から出ていく。
【0110】
ある実施形態において、CNT浸出炭素繊維材料は、さらに他の加工処理を経ることができるが、これは、ある実施形態においてはCNTsを機能化するために使用されるプラズマ処理である。さらなるCNTsの機能化を、特定の樹脂に対するその付着を促進させるために用いることができる。このように、ある実施形態において、本発明は、機能化したCNTsを有するCNT浸出炭素繊維材料を提供する。
【0111】
巻取り可能な長さの炭素繊維材料の連続処理の一部として、CNT浸出炭素繊維材料は、サイジング剤浸漬槽をさらに通過し、これにより、最終製品に有用となるさらなる任意のサイジング剤を塗布することができる。最終的に湿式巻き付けが所望ならば、CNT浸出炭素繊維材料は、樹脂浴(resin bath)を通過し、マンドレル又はスプールに巻き付けられてもよい。得られた繊維材料/樹脂との組み合わせは、CNTsを炭素繊維材料に固定し、これによって取り扱い及び複合材料の形成がより容易になる。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメントの巻き付けを向上させるために使用される。このようにして、炭素トウ等の炭素繊維上に形成されたCNTsは、樹脂を含んだCNT浸出炭素トウを製造するために、樹脂浴を通過してもよい。樹脂含浸の後、炭素トウは、送出し水頭により、回転するマンドレルの表面に設置されてもよい。そしてトウは、周知の方法により、正確な幾何学パターンでマンドレルに巻きつけられてもよい。
【0112】
上記の巻き付け処理により、パイプ(pipe)、チューブ(tube)又は雄型により特徴的に製造される他の構造物が提供される。しかし、本明細書で開示の巻き付け処理により作られる前記構造物は、従来のフィラメント巻き付け処理を介して作られるものとは異なる。特に、本明細書で開示の処理において、前記構造物はCNT浸出トウを含む複合材料から形成される。それゆえ、このような構造物は、CNT浸出トウから与えられた高い強度等からの利益を享受する。
【0113】
ある実施形態において、巻取り可能な長さの炭素繊維材料上でのCNTsの浸出のための連続処理は、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のラインスピードを達成することができる。CNT成長チャンバーは3フィート長であり、750℃の成長温度で稼働するこの実施形態において、前記処理は、例えば、約1ミクロンから約10ミクロンの範囲の長さのCNTsを生成するために、約6ft/分から約36ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理はまた、約10ミクロンから約100ミクロンの範囲の長さのCNTsを生成するために、約1ft/分から約6ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記処理は、約100ミクロンから約200ミクロンの範囲の長さのCNTsを生成するために、約0.5ft/分から約1ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。しかしながら、CNTの長さはラインスピード及び成長温度のみによって制限されるわけではなく、炭素原料及び不活性キャリアガスの両方の流量もまたCNTの長さに影響し得る。例えば、高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%未満の炭素原料を含む流量は、1ミクロンから約5ミクロンの長さのCNTsを生じさせるだろう。高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%より多い炭素原料を含む流量は、5ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTsを生じさせるだろう。
【0114】
ある実施形態において、複数の炭素材料の処理を同時に実行することができる。例えば、複数のテープトウ、フィラメント、ストランド等を並列に処理を実行することができる。したがって、炭素繊維材料の予め形成されたスプールはいくつでも並列に処理を実行し、処理の最後に再びスプールに巻き取ることができる。並列して実行することができる巻き取られた炭素繊維材料の数には、1,2,3,4,5,6及びCNT成長反応チャンバーの幅に合った任意の数までが含まれる。さらに、複数の炭素繊維材料が処理される場合、回収スプールの数は、処理開始時点のスプールの数より少なくすることができる。このような実施形態において、炭素ストランド又はトウ等は、これらの炭素繊維材料を、織物ファブリック等のより高度な秩序構造を有する炭素繊維材料へ組み合わせるさらなる処理に送ることができる。また、連続処理には、例えば、CNT浸出短繊維マットの形成を容易にする後処理切削を組み込むことができる。
【0115】
ある実施形態において、本発明の処理は、炭素繊維材料上にカーボンナノチューブの第1の種類の第1の量を合成可能とし、この場合、カーボンナノチューブの第1の種類は、炭素繊維材料の少なくとも1つの第1の性質を変化させるように選択される。次に、本発明の処理は、炭素繊維材料上にカーボンナノチューブの第2の種類の第2の量を合成可能とし、カーボンナノチューブの第2の種類は、炭素繊維材料の少なくとも1つの第2の性質を変化させるように選択される。
【0116】
ある実施形態において、CNTsの第1の量及び第2の量は異なる。これは、CNTの種類の変化によることもあるし、そうでないこともある。したがって、CNTの種類が変化しないままであっても、CNTsの密度を変更することにより、元になる炭素繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えばCNTの長さ及び層の数が含まれてもよい。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は等しい。この場合において、巻き取り可能な材料の2つの異なる長さに沿って性質が異なるのが望ましければ、CNTの長さのようなCNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTsは電気/熱用途に有用となり、より短いCNTsは機械的強化用途に有用となり得る。
【0117】
炭素繊維材料の性質の変更に関する上記の議論を考慮すると、カーボンナノチューブの第1の種類及びカーボンナノチューブの第2の種類は、ある実施形態においては同一であってもよいが、一方、他の実施形態においてはカーボンナノチューブの第1の種類及びカーボンナノチューブの第2の種類は異なってもよい。同様に、第1の性質及び第2の性質は、ある実施形態においては同一であってもよい。例えば、第1の量及び種類のCNTs並びに第2の量及び種類のCNTsにより対処される性質がEMI遮蔽特性であってもよいが、使用されたCNTsの量又は種類の相違を反映して、この性質における変化の程度が異なってもよい。最後に、ある実施形態において、第1の性質及び第2の性質は異なってもよい。この場合も、これはCNTの種類の変化を反映してもよい。例えば、第1の性質はより短いCNTsによってもたらされる機械的強化であってもよいが、一方、第2の性質はより長いCNTsによってもたらされる電気的/熱的性質であってもよい。当業者は、例えば異なるCNTの密度、CNTの長さ、及び単層、2層、多層などのCNTsにおける層の数の使用を通じて、炭素繊維材料の性質を調節することができることを理解するだろう。
【0118】
ある実施形態において、本発明の処理は、繊維材料上でのカーボンナノチューブの第1の量の合成を含み、その結果この第1の量は、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料が、炭素繊維材料自体が示す性質の第1のグループとは異なる性質の第2のグループを示すことを可能にする。すなわち、量を選択することにより、引張強度のような炭素繊維材料の性質の複数を変化させることができる。性質の第1のグループ及び性質の第2のグループには、少なくとも1つの同一の性質が含まれてもよく、これにより繊維材料が既に示している性質が強化されてもよい。ある実施形態において、CNT浸出は、炭素繊維材料自体により示される性質の第1のグループに含まれない性質の第2のグループを、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料に与えることができる。
【0119】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの第1の量は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、強靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、EM波吸収性/反射性、音響透過率、電気伝導度、及び熱伝導度からなるグループから選択される少なくとも1つの性質の値が、繊維材料自体の同一の性質の値と異なるように選択される。
【0120】
炭素繊維材料上のCNTs成長用処理についての上記記載はまた、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は、有機繊維上のCNTs成長について、その全部又は、一部が適用可能であることに留意すべきである。当然のことながら、これらのあらゆる種類の繊維がCNT浸出繊維材料を生成する処理において置き換わる。
【0121】
CNT浸出炭素繊維材料は、前述の性質においてのみならず、処理においてより軽い材料を提供できるCNTsの存在から恩恵を受けることができる。したがって、このような低密度で高強度な材料が、対重量比強度が非常に高い値に変換される。
【0122】
また、本発明の様々な実施形態の活性に実質的に影響を与えない変更が、本明細書で提供される本発明の定義に含まれることは当然である。したがって、以下の実施例は、説明を意図しており、本発明を限定するものではない。
【0123】
(実施例I)
本実施例は、熱伝導度及び電気伝導度の向上を目的として、炭素繊維が連続処理中にCNTsによってどのように浸出されるか、及びPEEKベースの熱可塑性マトリックス材料とどのように混ぜ合わされるかを示す。
【0124】
この実施例において、熱的及び電気的性質の向上のため繊維状のCNTsの最大担持量が目的となる。テックス値800の34‐700の12K炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が、炭素繊維基盤として与えられる。この炭素繊維トウのそれぞれのフィラメントの直径はおよそ7μmである。
【0125】
図8は、熱伝導度及び電気伝導度を向上する目的のため、炭素繊維材料が、連続処理においてCNTsにどのように浸出されるか、及びPEEKベースの熱可塑性マトリックス材料にどのように使用されるかを示す。図8は、本発明の図による実施形態に従ってCNT浸出繊維材料を製造するシステム800を示す。システム800は、図示されたように関連する、炭素繊維材料繰り出し及び伸張化(tensioner)工程805と、サイジング剤除去及び開繊化(spreader)工程810と、プラズマ処理工程815と、バリアコーティング塗布工程820と、空気乾燥工程825と、触媒塗布工程830と、CNT浸出工程840と、繊維束化(bundler)工程845と、炭素繊維材料取り込みボビン850とが含まれる。
【0126】
繰り出し及び伸張化(tensioner)工程805は、繰り出しボビン806及び伸張化807を含む。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860を処理へ運び、繊維は伸張化807により伸張される。例えば、炭素繊維材料は、2ft/分のラインスピードで処理される。
【0127】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び開繊化870を含むサイジング剤除去及び開繊化手段810へ運ばれる。この工程において、繊維860上の全てのサイジング剤は除去される。一般に、除去は繊維のサイジング剤を燃焼させることにより行われる。例えば、赤外線加熱器、マッフル炉及び他の非接触加熱処理を含む様々な加熱手段はいずれもこの目的で使用することができる。サイジング剤除去はまた、化学的に行うこともできる。開繊化870は、繊維の個々の要素を分離する。均一な直径のバー(bar)の上方及び下方に平坦に、不均一な直径のバーの上方及び下方に、半径方向に広がった溝とニーディングローラー(kneading roller)とを備えたバーの上方に、又は振動バー(vibratory bar)の上方に、繊維を引っ張る等の様々な技術及び装置を、開繊のために使用することができる。開繊は、より広い繊維表面領域を暴露することにより、プラズマ適用、バリアコーティング塗布及び触媒塗布等の下流工程の効率を向上させる。
【0128】
複数のサイジング剤除去加熱器865を、繊維ののり抜き(desizing)及び開繊を同時に徐々に行うことを可能にする開繊化870の至る所に配置することができる。繰り出し及び伸張化工程805並びにサイジング剤除去及び開繊化工程810は、繊維工業においてごく普通に使用される。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0129】
サイジング剤を燃焼するために要する温度及び時間は、(1)サイジング剤及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性の関数として変化する。炭素繊維材料上の従来のサイジング剤は、約650℃で除去することができる。この温度において、サイジング剤の完全な燃焼を確保するために15分を要することがある。温度を前記燃焼温度を越えるまで上げることで、燃焼時間を削減することができる。特定の商品のサイジングのための最低の燃焼温度を決定するために熱重量分析(thermogravimetricanalysis)が使用される。
【0130】
サイジング剤除去に要する時間次第では、サイジング剤除去加熱器は必ずしも厳密な意味でのCNT浸出処理に含まれなくてもよく、つまり除去は別々に(例えば、並列して)行うことができる。このような方法で、サイジング剤を含まない(sizing-free)炭素繊維材料の在庫は蓄積され、繊維除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために巻取ることができる。そして、サイジング剤を含まない繊維は、繰り出し及び伸張化工程805に巻取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含む製造ラインより高速で稼働させることができる。
【0131】
サイジング剤を除去された繊維880は、プラズマ処理工程815に運ばれる。例えば、大気圧プラズマ処理は、「流れ」に沿って、開繊炭素繊維材料から1mmの距離から利用される。ガス状原料は、100%のヘリウムから構成される。
【0132】
プラズマ助長繊維885は、バリアコーティング塗布工程820に運ばれる。本実施例において、シロキサンベースのバリアコーティング溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、容量比40対1の希釈率でイソプロピルアルコールに希釈された「T−11スピンオンガラスAccuglass(登録商標)(Honeywell Inc., Morristown, NJ)」である。結果として得られる炭素繊維材料上のバリアコーティングの厚さは、およそ40nmである。バリアコーティングは、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0133】
バリアコーティングされた繊維890は、ナノスケールバリアコーティングの部分的硬化のため空気乾燥工程825へ運ばれる。空気乾燥工程は、開繊された繊維全体に熱気流を送る。使用される温度は、約100℃から約500℃の範囲でよい。
【0134】
空気乾燥後、バリアコーティングされた繊維890は、触媒塗布工程830へ運ばれる。本実施例において、酸化鉄ベースのCNT形成触媒溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。溶液は、2000対1の容量希釈率でヘキサンで希釈された「EFH−1(FerrotecCorporation, Bedford, NH)である。単原子層の触媒被覆が、繊維材料上に形成される。希釈される前の「EFH−1」は、3〜15容量%のナノ粒子濃度を有する。酸化鉄ナノ粒子の組成は、Fe2O3及びFe3O4であり、およそ8nmの粒径を有する。
【0135】
触媒を含む繊維材料895は、残りのヘキサンを除去するために溶媒の蒸発分離工程で扱われる。この段階で、気流は開繊繊維全体に送られる。
【0136】
溶媒の蒸発分離の後、触媒を含む繊維895は、最終的にCNT浸出工程840へと送られる。本実施例において、12インチの成長領域を有する矩形反応器が、大気圧でのCVD成長を採用するために使用される。全ガス流の98.0%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.0%は炭素原料(アセチレン)である。前記成長領域は、750℃に保たれる。上記矩形反応器の場合、750℃は、最高の成長率を可能にする比較的高い成長温度である。
【0137】
CNT浸出の後、CNT浸出繊維897は、繊維束化工程845において、再び束ねられる。この工程は、繊維のストランドのそれぞれを再びまとめるものであり、工程810において行われた開繊工程とは、事実上逆方向である。
【0138】
束ねられたCNT浸出繊維897は、保管のために、取り込み繊維ボビン850の周りに巻かれる。CNT浸出繊維897は、およそ50μmの長さのCNTsを担持し、高い熱伝導度、及び電気伝導度を備えた複合材料に使用する用意ができる。
【0139】
複合材料の形成に関して、CNT浸出繊維897は、平坦なマンドレル上の一方向パネルに巻かれたフィラメントであった。次いで、一方向に巻かれた表面は、加熱加圧器に置かれ、フィラメント巻材料に対して高温加圧された溶融PEEK熱可塑性マトリックスに浸された。PEEKは380℃の温度で融解し、型の中の一方向に巻かれた繊維上に置かれた。加圧器内の型は、1〜3時間の間、170℃〜240℃の温度及び1000〜3000psi(1平方インチの面積に加わる圧力(ポンド))の圧力に保持された。結果物であるパネルは、冷却され、そして熱及び電気的性質の検査のため、型から取り除かれた。
【0140】
一方向巻きCNT浸出繊維材料を備えた最終のPEEKベース熱可塑性パネルは、強化された熱及び電気的性質を実証した。図9は、PEEKベースのCNT浸出繊維複合材料構造の断面を示す。CNT浸出繊維材料を含んだPEEKベースの熱可塑性マトリックスの電気伝導度は、厚さ方向で4〜30S/m、及び平面内で100〜5000S/mであった。熱伝導度は厚さ方向で、0.5〜0.8W/m・Kであった。
【0141】
上記の工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下、又は真空下で行えるものがあることは注目に値する。例えば、サイジングが繊維材料を燃焼させる場合、繊維を環境分離して、ガス漏れを抑制し及び、湿気からの損傷を防止することができる。便宜上、システム800においては、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維の取り込みを除く、全ての工程に提供される。
【0142】
(実施例II)
この実施例は、ガラス繊維材料が、連続処理において、ABS熱可塑性マトリックス構造体を使用してCNTsにどのように浸出されるかを示す。この場合、短いCNTsの高密度配列が破壊耐性の改善のために使用される。
【0143】
図10は、破壊耐性の改善する目的のため、ガラス繊維材料が、別の連続処理において、CNTsにどのように浸出されるか、及びABSベースの熱可塑性マトリックス材料にどのように使用されるかを示す。図10は、本発明の図による実施形態に従ってCNT浸出繊維材料を製造するシステム900を示す。システム900は、図示されたように関連する、ガラス繊維材料繰り出し及び伸張化(tensioner)システム902と、CNT浸出システム912及び繊維巻取り924と、が含まれる。
【0144】
繰り出し及び伸張化システム902は、繰り出しボビン904及び伸張化906を含む。繰り出しボビンは、繊維巻取りを保持し、ガラス繊維材料901を9ft/分のラインスピードで処理に運ぶ。繊維張力は伸張化906を経由して1〜5lbs以内に保たれる。繰り出し及び伸張化工程902は、ごく普通に繊維産業において使用されており、当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0145】
伸張された繊維905はCNT浸出システム912へ運ばれる。システム912は触媒塗布システム914、及び微小共振器CVDベースのCNT浸出工程925を含む。
【0146】
この実施例において、触媒溶液は、例えば伸張された繊維930を触媒浸漬槽935に浸すことによって浸漬処理を経由して利用される。この実施例において、体積比1の磁性流体ナノ粒子溶液及び100のヘキサンで構成されるCNT浸出繊維材料が用いられる。CNT浸出繊維材料の破壊耐性の改善を目的とする処理のラインスピードにおいて、繊維材料は10秒間浸漬槽935に残る。触媒は、真空又は不活性雰囲気のどちらも必要とせずに室温で塗布される。
【0147】
次いで、触媒を含むガラス繊維907は、成長前の低温不活性ガスパージ領域と、CNT成長領域と、及び成長後ガスパージ領域とで構成されるCNT浸出工程925に運ばれる。室温の窒素ガスは、流出ガスを冷却するために前述のCNT成長領域から成長前のパージ領域へと注入される。流出ガスは、繊維の酸化を防ぐために、急速な窒素パージを経由して250℃以下に冷却される。繊維は、質量流量97.7%の不活性ガス(窒素)と、ガス多様体を経由して中央に注入された原料ガス(アセチレン)を含む質量流量2.3%の炭素と、の混合物を高い温度で熱するようなCNT成長領域に入る。この実施例においてシステムの長さは3フィートで、CNT成長領域内の温度は650℃である。触媒を含む繊維907は、この実施例で20秒間CNT成長環境にさらされ、容量被覆率4%でガラス繊維表面に浸出した5ミクロンの長さのCNTsが生じる。CNT浸出ガラス繊維は最後にCNT成長後のパージ領域を通り、繊維表面及びCNTsの酸化を防ぐために、繊維及び流出パージガスの両方が250℃以下に冷却される。
【0148】
CNT浸出繊維909は、繊維巻取り器924に収集され、次いで、破壊耐性の改善を必要とするABSマトリックスベースの用途に使用する準備をする。
【0149】
ABS熱可塑性マトリックス複合材料を生成するために、CNT浸出繊維909は、CNT浸出ガラス繊維に連続的に針金被覆(wire coat)するために使用される含浸成型を介して処理される。ABSは、溶形態において押出機に注入され、押出スクリューを介して275℃で押し出される。溶解したABSは、混合及び熱可塑性針金の形成を補助する含浸成型を経由してCNT浸出ガラス繊維に注入される。含浸成型は255℃〜275℃に保たれ、直径2〜10mmの金型サイズが修正した直径の熱可塑性針金を絞るために使用される。結果として得られるCNT浸出繊維熱可塑性針金は冷却され、原料ローラー機によって伸ばされ、そして1〜25mmの長さのペレットに切削される。
【0150】
CNT浸出繊維熱可塑性針金を用いて製造されるペレットは、255℃〜275℃の処理温度で維持される従来の可塑性射出成型装置を通じて処理された。ペレットは、特定の利用のために所望する形状に成型された。結果として得られるCNT浸出ガラス繊維ABSマトリックス複合材料は、CNTsを含まない複合材料と比較して、最大で約50%の破壊耐性の改善を示す。CNT浸出繊維ABSマトリックス複合材料の断面の例が図11において示される。
【0151】
上記工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下、又は真空下で行えるものがあることは注目に値する。便宜上、システム900においては、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し、及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維材料の取り込みを除く、全ての工程に提供される。
【0152】
開示された実施形態の参照しつつ本発明が説明されたが、当業者は、これらが本発明の例に過ぎないことをただちに理解するだろう。本発明の精神から逸脱することなく、様々な変更を行うことが可能なのは当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性マトリックス材料と、
CNT浸出ガラス繊維材料と、
を含んで構成される複合材料であって、
前記CNTガラス繊維材料上のCNTsは、前記複合材料の約重量3パーセントから約10重量パーセントを構成し、
前記複合材料は電気伝導性を示す複合材料。
【請求項2】
前記CNT浸出ガラス繊維材料は、前記複合材料の約10重量パーセントから約40重量パーセントを構成する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記熱可塑性マトリックス材料は、ABS、ポリカーボネート、及びナイロンで構成されるグループから選択された低機能な熱可塑性物質である請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記複合材料は、約1S/mから約1000S/mの範囲の電気伝導度を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記複合材料は、約2GHzから約18GHzの周波数範囲に亘って約60dBから約120dBの範囲で電磁妨害(EMI)遮蔽効果を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項6】
軟化した熱可塑性マトリックス材料を備えたCNT浸出ガラス繊維材料を含浸することと、
前記含浸されたCNT浸出ガラス繊維材料をペレット(小粒)に切削することと、
製品を形成するために前記ペレットを成型することと、
を含んで構成される請求項1に記載の複合材料を製造する方法。
【請求項7】
前記成型は、射出成型又はプレス成型を含んで構成される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記ペレットを、CNT浸出ガラス繊維材料を含まない熱可塑性ペレットで希釈することを含んだ請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記CNT浸出ガラス繊維材料は、前記複合材料の約10重量パーセントから約40重量パーセントを構成する請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記熱可塑性マトリックス材料は、ABS、ポリカーボネート及びナイロンで構成されるグループから選択された低機能な熱可塑性物質である請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記製品は、約1S/mから約1000S/mの範囲の電気伝導度を有する請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記製品は、約2GHzから約18GHzの周波数範囲に亘って約60dBから約120dBの範囲の電磁妨害(EMI)遮蔽効果を有する請求項6に記載の方法。
【請求項13】
熱可塑性マトリックス材料と、
CNT浸出ガラス繊維材料と、
を含んで構成される複合材料であって、
前記CNT浸出ガラス繊維材料上のCNTsは、前記複合材料の約0.1重量パーセントから約2重量パーセントを構成し、
前記複合材料は、CNTsを含まない複合材料と比較して強化された機械強度を示す複合材料。
【請求項14】
前記CNT浸出ガラス繊維材料は、複合材料の約30重量パーセントから約70重量パーセントを構成する請求項13に記載の複合材料。
【請求項15】
前記熱可塑性マトリックス材料は、PEEK及びPEIで構成されるグループから選択された高機能な熱可塑性物質である請求項13に記載の複合材料。
【請求項16】
前記複合材料全体に亘ってCNTの濃度が勾配状に変化する請求項13に記載の複合材料。
【請求項17】
前記複合材料はさらに、観測されにくい性質を発揮する請求項13に記載の複合材料。
【請求項18】
前記複合材料全体に亘ってCNTの濃度が均一である請求項13に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−513020(P2013−513020A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543264(P2012−543264)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059565
【国際公開番号】WO2011/072071
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】