説明

熱遮蔽コーティング膜及びその製造方法、並びにそれを用いた耐熱合金部材

【課題】従来よりも容易に製造でき、かつ、従来よりも耐久性に優れた熱遮蔽コーティング膜及びその製造方法、並びにそれを用いた耐熱合金部材を提供する。
【解決手段】基材3上に形成される熱遮蔽コーティング膜10であって、金属からなる金属粒子11を複数含み、複数の金属粒子11間に金属の酸化物(金属酸化物)11aが連続的に接合して形成されているボンドコート1と、金属の酸化物を含む酸化物層2とを有することを特徴とする、熱遮蔽コーティング膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱遮蔽コーティング膜及びその製造方法、並びにそれを用いた耐熱合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおいては、その高効率化を目指し、燃焼ガス温度(例えば燃料等を燃焼させて発生したガスの温度)の高温化が進んでいる。現在、通常使用される燃焼ガスの温度は、既にタービン動翼、静翼等の耐熱合金部材の基材の融点を超えており、各種の冷却技術が採用されている。さらに最近では、ガスタービンを構成する部材に対して通常トップコートとボンドコートとからなる熱遮蔽コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)膜を形成することが広く行われている。これは、TBC膜を設けることで、燃焼ガスから部材への熱流を抑制し、部材温度を低減する効果が得られるためである。
【0003】
TBC膜の形成技術においては、トップコートに熱伝導率が低い酸化物が含有されている。このような酸化物の具体例としては、イットリアの添加により結晶構造を安定化した、イットリア部分安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia:YSZ)等が挙げられる。
【0004】
また、ボンドコートには、耐酸化性及び耐腐食性を確保する観点から、例えばMCrAlY合金(Mは、鉄,ニッケル及びコバルトからなる群より選ばれる1種以上の原子を表す。)、Ni−Al、Ni−Al−Pt等のアルミナイド等が含有されている。そして、ボンドコートにおける、ボンドコートとトップコートとの境界面近傍には、通常は熱成長酸化物(Thermal Grown Oxide:TGO)が形成されている。TGOが形成されることにより、酸化性及び腐食性の環境から基材を保護する効果を奏し、トップコートとボンドコートとを密着させることができる。TGOとしては、成長速度が遅く環境の遮断能力に優れた酸化アルミニウムが好適であるため、ボンドコートにおいて酸化アルミニウムを容易に形成させる為、ボンドコートは、基材と比較して、アルミニウム濃度が高いことが多い。
【0005】
最近のTBC膜は、約150℃の遮熱効果を有することが知られている。しかしながら、TBC膜は、ガスタービン運転時に高温に暴露されるが停止時には常温に低下するので、ボンドコートにおける加熱冷却に伴う熱応力の変化が大きく、トップコートが剥離することがあるという課題があった。このような剥離は、ボンドコートとトップコートとの界面に形成されるTGO、及び、ボンドコートとトップコートとの熱膨張率の相違により発生するトップコート内の亀裂に拠るものであると考えられる。
【0006】
このような課題を解決するために、特許文献1には、ボンドコート、トップコートに加え、複数の中間層を積み重ねた多層構造の遮熱コーティング層が記載されている。中間層はMCrAlYとアスペクト比を制御した柱状酸化アルミニウムを混合して形成させ、さらにその混合量を傾斜的に変化させる技術が記載されている。また、特許文献2には、金属基材上に設けられた遮熱コーティング層が中間層を有し、当該中間層が粒子状のセラミックス相と当該セラミックス相間に隔膜状かつ連続状に備えられる金属相とからなるものとする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−279418号公報
【特許文献2】特開2003−266588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
産業用ガスタービン部材におけるTBCの成膜には、生産性、施工性が望まれ、溶射法が用いられるのが一般的であるが、特許文献1に記載の技術においては、多層構造、傾斜組成を得る為に、溶射工程が煩雑になるという課題がある。
【0009】
さらに、特許文献2に記載の技術においては、耐久性に一定の効果があるものの、粒子状のセラミックス相に金属相を被覆する工程が必要であり、さらに金属相は耐食性のある白金(Pt),イリジウム(Ir)等の貴金属が好ましく、コストが上昇するという課題がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するべくなされたものであり、その目的は、容易に製造でき、かつ、従来よりも耐久性に優れた熱遮蔽コーティング膜及びその製造方法、並びにそれを用いた耐熱合金部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、TBC膜のボンドコートとして、酸化物の骨格構造を有するボンドコートを採用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、容易に製造でき、かつ、従来よりも耐久性に優れた熱遮蔽コーティング膜及びその製造方法、並びにそれを用いた耐熱合金部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】基材上に本実施形態の一(第一実施形態)に係る熱遮蔽コーティング膜が形成された構成の断面の一部を模式的に示した図である。
【図2】実施例1及び比較例1の剥離サイクル試験結果を示すグラフである。
【図3】実施例1において製造した熱遮蔽コーティング膜の熱サイクル試験後の一部断面を、走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真である。
【図4】比較例1において製造した熱遮蔽コーティング膜の熱サイクル試験後の一部断面を、走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、適宜「本実施形態」と言う。)を詳細に説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0015】
[1.熱遮蔽コーティング膜10]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、基材上に形成される熱遮蔽コーティング膜であって、金属からなる金属粒子を複数含み、当該複数の金属粒子間に当該金属の酸化物が連続的に接合して形成されている酸化物(即ち金属酸化物)の骨格構造を有するボンドコート1と、金属酸化物を含むトップコート4を有するものである。
【0016】
[1−1.酸化物の骨格構造を有するボンドコート1]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が有する酸化物の骨格構造を有するボンドコート1(以下、適宜「本実施形態に係るボンドコート1」と言う。)は、金属からなる金属粒子を複数含み、当該複数の金属粒子間に当該金属の酸化物が連続的に接合して形成されているものである。図1は、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10における酸化物の骨格構造を有するボンドコート1断面の一部を、拡大して模式的に示した図である。図1において、金属粒子11が堆積して酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を形成しており、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1中の金属粒子11間には、太線で表される金属酸化物11aが形成されている。
なお、本実施形態における「金属」には、1種のみの金属原子からなるもののほか、2種以上の金属原子が任意の比率及び組み合わせでなる合金及び超合金等も包含されるものとする。
【0017】
本実施形態に係るボンドコート1は、熱遮蔽コーティング膜10が形成される基材(通常は金属を含む)が腐食及び酸化しないように保護する機能を有する。さらに、本実施形態に係るボンドコート1は、当該ボンドコート1上にさらに通常設けられるトップコート4の密着性を確保するための下地としても機能するものである。
【0018】
酸化物の骨格構造を有するボンドコート1にて堆積している金属粒子11を構成している金属としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、良好な耐腐食性及び耐酸化性を示すものが好適に用いられる。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)を含み、さらに、ニッケル(Ni),クロム(Cr),コバルト(Co)からなる群より選ばれる1種以上の原子を少なくとも含む金属(合金)が好適であり、中でも、下記式(1)で表される金属が好適である。
MCrAlY (1)
(ただし、Mは、鉄(Fe),ニッケル,コバルトからなる群より選ばれる1種以上の原子を表す。)
【0019】
上記式(1)で表される金属の具体例としては、CoNiCrAlY(具体的な重量分率による組成式としては、例えばCo−32Ni−21Cr−8Al−0.5Y等)、NiCoCrAlY(具体的な重量分率による組成式としてはNi−17Cr−23Co−12.5Al−0.5Y等)が挙げられる。なお、金属は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0020】
本実施形態に係るボンドコート1に連続的に堆積している金属粒子11の形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1形成時に行われる溶射によって、通常は扁平、楕円等の形状となっている。
ここで、本実施形態において「金属の酸化物が連続的に接合して形成されている」とは、例えば図1に示すような網目様の形状のように、全ての金属の酸化物(即ち金属酸化物11a)同士が、少なくとも1箇所で繋がって一体的なネットワークを形成している(即ち連続的に接合している)状態を表す。ただし、本実施形態においては、金属粒子11が、近接する他の金属粒子11と少なくとも一つの金属結合により結合していることが好ましい。このような構成となることにより、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング層をより強固なものとすることができる。
【0021】
本実施形態に係るボンドコート1においては、上記のように金属粒子11が堆積されるとともに、さらに金属酸化物11aが連続的に接合して形成されている。ただし、大部分の金属酸化物11aが酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の界面に対して平行な方向(即ち、図1において紙面左右方向)にのみ連続的に接合して形成されている場合、即ち、垂直な方向(即ち図1において紙面上下方向)においてあまり連続的ではない場合、金属粒子11間に形成されている金属酸化物11a内部に亀裂が生じ、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1が剥離する可能性がある。従って、金属酸化物11aは、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の界面に対して平行な方向だけではなく、垂直な方向に対しても満遍なく連続的に接合していることが好ましい。具体的には、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の断面において、金属酸化物11aの総断面積が、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の総断面積に対して、通常1%以上、また、その上限は、通常40%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であることが望ましい。金属酸化物11aの面積比が上記範囲内にあることにより、上記平行な方向のみならず垂直な方向に対してもより適切な形態で、金属酸化物11aが連続的に接合して形成することができる。
【0022】
上記各面積の算出は下記方法に基づいて行うことができる。まず、例えば走査型電子顕微鏡写真(以下、適宜「SEM」と言う。)を用いて、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の構造を識別できる程度の任意の倍率にて酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の断面を撮影する。撮影された酸化物の骨格構造を有するボンドコート1において金属粒子11と金属酸化物11aとはその成分の相違から濃淡が異なって撮影されるため、その濃淡の差異によって金属粒子11と金属酸化物11aとを区別することができる。そして、例えば画像解析ソフト等を用いて酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に含まれる金属酸化物11aの量(面積)をその濃淡差を利用して算出し、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に含まれる金属酸化物11aの割合(面積比)を算出することができる。
【0023】
また、本実施形態においては、後述する金属酸化物の幅W及びその最短距離Dを、SEMにより撮影された写真に基づいて決定している。その理由は、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1において金属粒子11は複雑に堆積しており、金属粒子11同士が近接する箇所で金属酸化物11aが形成される場合に、形成される金属酸化物11aの部位、形成範囲、金属酸化物11aからなる層の厚さ、その形状等を明確に定義できないためである。従って、本実施形態において、形成される金属酸化物11aを三次元ではなく二次元で定義し、当該定義に際して観察手段として代表的であるSEMを用いて、本実施形態の規定を行ったものである。
【0024】
上記のように、金属酸化物11aは酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に含まれる金属粒子11の間に沿って形成されている。従って、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の断面において、金属粒子11の外周に少なくとも2本の金属酸化物11aが存在しており、当該2本の金属酸化物11a同士の金属粒子11における最短距離が、通常5μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、また、その上限は、通常100μm以下、好ましくは75μm以下、より好ましくは60μm以下とすることが望ましい。最短距離が上記範囲よりも短すぎる場合、熱遮蔽コーティング膜10を製造することが困難になる可能性があり、最短距離が上記範囲よりも長すぎる場合、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の強度が保てなくなる可能性がある。なお、当該最短距離は、通常、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を形成する際の金属粒子11の溶射条件によって制御することが可能である。また、上記最短距離は、SEMを用いて測定することができ、図1、図3及び図4(図3及び図4については後述する。)における「D」に相当するものである。
【0025】
本実施形態に係る酸化物の骨格構造を有するボンドコート1においては、複数の金属粒子11が堆積しており、堆積した複数の金属粒子11間に沿って金属酸化物11aが形成されている。金属粒子11間に沿って形成される金属酸化物11aは、通常は、当該金属に含まれる全ての金属のうち、特に酸化されやすい(即ち特に反応性に富む)金属の酸化物である。例えば金属粒子11を構成する金属が上記式(1)で表されるものである場合、複数の金属粒子11間に形成される金属酸化物11aとして、通常は酸化アルミニウムとなる。
【0026】
ただし、金属粒子11間に形成される金属酸化物11aは必ずしも全て酸化アルミニウムである必要は無いが、金属粒子11間に形成される金属酸化物11aのうち、90重量%以上が酸化アルミニウムであることが好ましい。90重量%以上が酸化アルミニウムであることにより、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成された基材3(図1に示している。)の耐酸化性及び耐腐食性がより確実なものとなる。なお、金属粒子11間に形成される金属酸化物11aに含まれる酸化アルミニウムの量は、例えば波長分散型X線分光器により、測定することでできる。
【0027】
従って、本実施形態に係るボンドコート1における金属は、アルミニウムと、ニッケル,クロム,コバルトからなる群より選ばれる1種以上の金属とを少なくとも含むものであるとともに、当該金属の酸化物に含まれる酸化アルミニウムの量が、該金属の酸化物の全量に対して、90重量%以上であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態に係るボンドコート1の断面において、金属酸化物11aの幅は、成膜後の任意の温度、時間での暴露後において、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、また、その上限は、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下の範囲であることが望ましい。金属酸化物11aが細すぎる場合、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の強度が不足する可能性があり、太すぎる場合、形成される金属酸化物11a内部で亀裂が発生し、発生した当該亀裂を起点として酸化物の骨格構造を有するボンドコート1が剥離する可能性がある。なお、金属酸化物の幅は、例えば上記SEMを用いて測定することができ、図1、図3及び図4における「W」に相当するものである。また、本実施形態に係る酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に含まれる金属酸化物11aの幅は全てが同じ長さとならないことがあるが、その場合でも、全ての部分における幅が上記範囲の含まれることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るボンドコート1の厚さは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50μm以上、好ましくは100μm以上、より好ましくは125μm以上、また、その上限は、通常400μm以下、好ましくは350μm以下、より好ましくは300μm以下である。酸化物の骨格構造を有するボンドコート1が薄すぎる場合、腐食及び酸化に対する保護性が不足する可能性があり、厚すぎる場合、剥離を生じる可能性がある。なお、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の厚さは、例えば上記SEMを用いて測定することができる。また、本実施形態に係るボンドコート1の厚さは全てが同じ厚さとならないことがあるが、その場合でも、全ての部分における厚さが上記範囲の含まれることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態に係るボンドコート1は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記金属及び金属酸化物以外の任意の成分を含んでいてもよい。含んでいてもよい任意の成分としては、例えばマグネシウム等のアルカリ土類元素、シリコン、ゲルマニウム等の非金属元素、ハフニウム等の活性元素、ランタン、セリウム等の希土類元素、プラチナ、イリジウム、パラジウム等の白金族元素等が挙げられる。任意の成分は1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。
【0031】
また、本実施形態に係るボンドコート1が任意の成分を含む場合、その含有量は、マグネシウム等のアルカリ土類元素とシリコン等の非金属元素では好ましくは0.1重量%以上、5重量%以下、ハフニウム等の活性元素とランタン等の希土類元素では好ましくは0.01重量%以上、3重量%以下、プラチナ等白金族元素においては、好ましくは0.1重量%以上、15重量%以下である。任意の成分の量が多すぎる場合、金属粒子11の融点、機械的特性が変化し、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の強度が不足する可能性がある。
【0032】
[1−2.熱成長酸化物層2]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10を、任意の温度、時間、酸化雰囲気中で高温暴露を行うと、上記酸化物の骨格構造を有するボンドコート1上に熱成長酸化物層2(が形成する。
【0033】
また、熱成長酸化物層2は、[1−1.酸化物の骨格構造を有するボンドコート1]において説明した金属の酸化物(即ち金属酸化物11a)と同じものを含んでなるためその説明を省略する。
【0034】
[1−3.基材3]
基材3は、その表面に本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成されるものである。基材3の種類、材質等は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は金属である。ただし、熱遮蔽コーティング膜10により基材3の耐熱性を向上させるという観点から、基材3を構成する材料としては、基材3自身がある程度の耐熱性を有するものが好ましく、具体的には高温でのクリープ強度及び疲労強度に優れた材料を用いることが好ましい。このような材料の具体例としては、IN738(Ni−16Cr−8.5Co−1.7Mo−2.6W−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al重量%),等のNi基超合金、FSX414(Co−10Ni−28Cr−7W−1Fe),等のCo基超合金が好適に用いることができる。なお、「超合金」とは、高温での優れた強度、耐酸化性、耐腐食性及び延性等を兼ね備えた合金を表す技術用語である。例えばNi基超合金は、クリープ強度及び疲労強度に特に優れるし、Co基超合金は耐腐食性及び延性に特に優れている。
【0035】
これらの中でも、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10を基材3上に形成して製造された耐熱合金部材を例えばガスタービンの動翼として用いる場合、基材としては、さらに強度に優れた一方向凝固、または単結晶のNi基超合金が好適に用いられる。これらの材料は、γ−Niとγ’−Ni3Alとの安定的なミクロな組織を備えていることにより、高強度を発現させることができる。
【0036】
[1−4.その他の層]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、上記基材3上に形成されるとともに、本実施形態に係るボンドコート1を有する限り、その他の層構成、材料等は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、例えば合金、超合金等からなる基材3上に形成され、また、トップコート4が設けられることが好ましい。
【0037】
酸化物の骨格構造を有するボンドコート1上にトップコート4が設けられることにより、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成された基材3からなる耐熱合金部材100が例えば高温のガスに晒された場合に、当該ガスと基材3との間で温度勾配を生じさせ、基材の温度上昇を効率良く抑制することができる。
【0038】
トップコート4を構成する材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、熱伝導率が低いものが好適である。このような材料の具体例としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ;組成式:ZrO−6Y,ZrO−7Y若しくはZrO−8Y)等が挙げられる。
【0039】
トップコート4の構造は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、例えば、多孔質、柱状、縦割れを含む構造が挙げられる。
【0040】
トップコート4の厚さは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常100μm以上、好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上、また、その上限は、通常1000μm以下、好ましくは750μm以下、より好ましくは500μm以下である。トップコート4が薄すぎる場合、遮熱効果が不足となる可能性があり、厚すぎる場合、剥離を生じやすくなる可能性がある。なお、トップコート4の厚さは、例えば上記SEMを用いて測定することができる。また、本実施形態に係るトップコート4の厚さは全ての部分で同じ厚さとならないことがあるが、その場合でも、全ての部分における厚さが上記範囲に含まれることが好ましい。
【0041】
また、トップコート4は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の成分を含んでいてもよい。含んでいてもよい任意の成分としては、例えばセリア、ガドリニア等の希土類元素酸化物等が挙げられる。任意の成分は1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。
【0042】
また、トップコート4が任意の成分を含む場合、その含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、任意の成分の量が少なすぎる場合、また逆に多すぎる場合、トップコート4の結晶構造が不安定となる。また、温度変化により結晶構造が容易に変化し、それに伴う体積変化等により剥離を生じやすくなる可能性がある。
【0043】
また、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が有しうる任意の層としては、上記トップコート4のほかにも、本発明の効果を著しく損なわない限り、さらに別の表面層を設けたりしてもよい。
【0044】
[2.熱遮蔽コーティング膜10の製造方法]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は任意の方法で製造することができる。ただし、製造方法の容易さの観点から、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10の製造方法は、上記金属粒子11の堆積を溶射法により行う工程を含むことが好ましい。以下、図1に示す、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成された耐熱合金部材100(以下、適宜、「本実施形態に係る耐熱合金部材100」と言う。)の製造方法を挙げて、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10の製造方法を具体的に説明するが、以下に記載するものは本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10の製造方法のあくまでも一例であり、その製造方法は以下に記載する内容に限定されるものではない。
【0045】
図1は、基材上に本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成された耐熱合金部材の断面の一部を模式的に示したものである。図1に示す本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10が形成された耐熱合金部材100は、基材3上に、金属粒子11が堆積された酸化物の骨格構造を有するボンドコート1と、トップコート4とが、この順で積層されてなる。
【0046】
本実施形態に係る耐熱合金部材100は、主に下記工程を経て製造することができる。
(1)基材3表面に対して前処理を行う(前処理工程)。
(2)前処理を行った基材3上に金属粒子11を堆積させる(ボンドコート堆積工程)。
(3)堆積した酸化物の骨格構造を有するボンドコート1上にトップコート4を形成する(トップコート形成工程)。
以下、それぞれの工程について説明する。
【0047】
〔前処理工程〕
本実施形態に係る耐熱合金部材100の製造方法においては、はじめに基材3のボンドコート1と密着する部分に対して表面を粗面化するための加工を行う、前処理工程を行うことが好ましい。表面加工の具体的な方法としては本発明の効果を著しく損なわない限り任意の方法を適用できるが、基材3と酸化物の骨格構造を有するボンドコート1との良好な密着性を確保する観点から、基材3表面に対してブラスト処理を行うことが好ましい。ブラスト処理は、基材3の表面に例えば非金属又は金属の粒子を高速度で吹き付けるものである。この処理により、基材3の表面が粗面化されるとともに、基材3の表面から油分等の不純物を除去し、表面を清浄化することができる。そして、これにより、基材3に対する酸化物の骨格構造を有するボンドコート1のより良好な密着性を確保することができる。
【0048】
ブラスト処理に用いる金属又は非金属粒子の種類としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば珪砂、アルミナ、シリカ等の非金属粒子、アルミ、亜鉛、銅、スチールショット等の金属の粒子を用いることができる。なお、これらの粒子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0049】
上記粒子の大きさも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、粒子が小さすぎる場合、粗面化が不十分で密着力が不足となる可能性があり、大きすぎる場合、基材3表面の凹凸が大きくなりすぎ、堆積させる金属粒子11の厚さが不均一となる可能性がある。
【0050】
ブラスト処理を行うための装置としては、例えばコンプレッサーエアーを使用した投射装置を用いることができる。そして、例えばこの装置を用いて、基材3の表面に対してブラスト処理を行うことができる。ブラスト処理を行う際の条件としても本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、粒子の投射圧力は0.1MPa以上0.8MPa以下とすることができる。
【0051】
〔ボンドコート堆積工程〕
次に、上記ブラスト処理を行った基材3表面に対して、金属粒子11を堆積させる工程を行う。具体的な堆積方法としては、例えば減圧プラズマ溶射法(Low Pressure Plasma Spray:LPPS)、高速フレーム溶射法(High Velocity Oxy−fuel Frame−spraying:HVOF)等を用いて、金属粒子11を基材3上に堆積させることができる。
【0052】
図1に示すような、金属からなる金属粒子11を複数含み、当該複数の金属粒子11の間に当該金属の酸化物(金属酸化物11a)が連続的に接合する網目様の形状をした、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を成膜させる溶射条件は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、溶射中の金属粒子11の温度、粒子速度が以下の条件を満たす事が特に重要である。
【0053】
金属酸化物11aが連続的に接合する形態で存在するためには、金属粒子11が基材3への飛行中に極薄い金属酸化物11aの膜に覆われたまま、基材3へ堆積することが特に重要である。金属粒子11の温度が高く金属粒子11が溶融しながら飛行した場合は、金属酸化物11aの膜は溶融した金属粒子11の特定部分に集合し、堆積後に金属酸化物11aが連続して接合した構造とはならない。逆に金属粒子11の温度が低い場合は、金属粒子11の堆積が起こらず、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を成膜させる事ができない。
【0054】
金属酸化物11aは堆積後、好ましい扁平、楕円等の形状となることが特に重要である。金属粒子11の速度が速い場合、堆積後の金属粒子11が過度に扁平になり、大部分の金属酸化物11aが酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の界面に対して平行な方向にのみ連続的に形成し、垂直な方向においてあまり連続的ではない場合、好ましい酸化物の骨格構造を形成する事ができない。金属粒子11の速度が遅い場合は、金属粒子11の堆積が起こらない。
【0055】
これらの金属粒子11の温度、粒子速度の条件は粉末の組成、粒径、さらには使用する溶射装置により変化する。例えばHVOFを用いる場合では、金属粒子11の粒径分布は通常45μm以下のものが20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下で、90μm以上のものが通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下であるが、以上の溶射条件は当業者により、所有する溶射装置の制御条件を改変する事で実施可能である。
【0056】
〔トップコート形成工程〕
形成した上記酸化物の骨格構造を有するボンドコート1上に、トップコート4を形成する。トップコート4の形成方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば大気圧下にて大気圧プラズマ溶射法(Air Plasma Spray:APS)を用いることができる。
【0057】
以上のようにして、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10を製造することができる。
【0058】
以上の工程を経て製造された、熱遮蔽コーティング膜10に対して、任意の温度、時間、酸化雰囲気中で高温暴露を行うと、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1で金属酸化物11aが成長し、表面に熱成長酸化物層2を形成する。
【0059】
上記の高温暴露過程において酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に酸化物の骨格構造と熱成長酸化物層2が成長する機構について説明する。トップコート4には、通常は酸素を透過させることができる空隙(即ち気孔)が存在している。そして、部材周辺に存在する酸素が、このような気孔を通ることによりトップコート4を透過して、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に到達する。そして、到達した酸素は、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1とトップコート4との界面において、金属粒子11に含まれる特に酸化されやすい金属(例えばアルミニウム等)と反応し、金属の酸化物からなる層を形成する。そして、この形成された金属の酸化物からなる層が熱成長酸化物層2である。
【0060】
通常望まれる、金属粒子11が互いに金属結合で結ばれる緻密なボンドコートでは、金属酸化物11aが連続的に接合する形態は形成されない。その理由は、金属粒子11のうちの最上部に存在する金属粒子11の最上部表面に沿って酸素を透過しにくい熱成長酸化物層2が成長し、さらに金属粒子11は緻密で酸素がボンドコート内部に入り込まないためである。
【0061】
一方、本実施形態に係るボンドコート1では、到達した酸素は、熱成長酸化物層2に加え、酸素が侵入しやすい金属粒子11間や、連続的に接合する形態で存在する金属酸化物11aが存在し、侵入した酸素により金属酸化物11aがさらに成長し、強固な熱遮蔽コーティング膜10を形成する。
【0062】
なお、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10を有する部材を使用する際に、その使用温度は通常高温であるため、酸素が存在する環境で使用する限り上記金属酸化物11a及び熱成長酸化物層2は成長し続ける。しかしながら、トップコート4及び熱成長酸化物層2を透過する酸素の量は極めて少なく、また、酸素と金属とが反応して金属酸化物11a及び熱成長酸化物層2を形成する反応も極めて遅いことから、このような反応は短期的には十分無視できる程度のものである。
【0063】
[3.本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10の用途]
本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、任意の用途に用いることができる。例えば、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング10を、金属を含む基材3上に形成して、耐熱合金部材100を製造することができる。このような耐熱合金部材100としては、通常は耐熱性及び耐久性が要求されるものであるが、例えばガスタービンの動翼、静翼、燃焼機等が好適に挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0065】
以下の実施例において、図1に示す耐熱合金部材100を製造した。具体的な製造方法は以下の通りである。
ガスタービンの動翼として好適に用いられるNi基合金IN738(Ni−16Cr−8.5Co−1.7Mo−2.6W−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al)を棒状に鋳造して軸方向に垂直な方向に切断することにより、直径2.5cm、厚さ3mmのコイン状合金部材を作製した。そして、エアブラストマシンを用いて、粒度24の酸化アルミニウム粒子を、投射圧力0.5MPaとして、合金部材表面に対してブラスト処理を行った。そしてブラスト処理を行ったものを基材3として、下記実施例1及び比較例1で用いた。
【0066】
(実施例1)
金属粒子11としてCoNiCrAlY(重量分率による組成式:Co−32Ni−21Cr−8Al−0.5Y、公称粒径範囲:45〜75μm)を用いて、HVOF(溶射装置スルザーメテコ社製Woka star600)により、上記基材3表面に金属粒子11を堆積させてボンドコート1を最厚部約160μm、最薄部約100μmの厚さとなるように形成した。なお、HVOFの条件として、溶射時の溶射装置と基材3間の距離は300mm、溶射粉末の供給量は60g/min、酸素供給量 900リットル/min ケロシン供給量 3.9リットル/minとした。
【0067】
上記酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を成膜した基材3に対して、イットリア安定化ジルコニア(重量分率による組成式:ZrO−8Y、公称粒径範囲:11〜125μm)を用いて、APS(スルザーメテコ社製9MB)にてトップコート4を最厚部380μm、最薄部320μmとなるように形成した。なお、APSの条件として、溶射時の溶射装置と基材3間の距離は90mm、溶射粉末の供給量は30g/min、電流値は900Aとした。
【0068】
(比較例1)
金属粒子11の堆積を、減圧時の環境圧力を6.6kPaとした減圧溶射装置を用いて行い、金属粒子11としてCoNiCrAlY(重量分率による組成式:Co−32Ni−21Cr−8Al−0.5Y、公称粒径範囲:5〜37μm)を用い、最厚部140μm、最薄部100μmとなるように形成した。なお、溶射の条件として、溶射時の溶射装置と基材3間の距離は300mm、溶射粉末の供給量は30g/min、電流値は800Aとしたこと以外は実施例1と同様にして、トップコート4及び熱遮蔽コーティング膜10が形成された基材3(即ち耐熱合金部材100)を製造した。
【0069】
(熱サイクル試験)
実施例1及び比較例1で製造した耐熱合金部材100の耐久性を、下記熱サイクル試験の試験方法に従って評価した。即ち、1093℃で10時間加熱した後に自然冷却することを1サイクルとして、トップコート4が剥離するまでのサイクル数を測定した。なお、トップコート4の剥離は、目視により確認した。その結果を図2に示す。
【0070】
図2に示すように、比較例1で製造した耐熱合金部材100もある程度の耐久性を有しているが、実施例1で製造した耐熱合金部材100は、比較例1で製造した耐熱合金部材100よりもより優れた耐久性を有していた。即ち、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、従来よりも耐久性に優れていることがわかった。
【0071】
図3は、実施例1において製造した熱遮蔽コーティング膜の熱サイクル試験後の一部断面を、走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真である。
図3に示すように、実施例1で製造した部材においては、熱サイクル試験に酸化物の骨格構造を有するボンドコート1において金属粒子11が堆積し、さらに、金属粒子11間に金属酸化物11aが形成されている。また、図3に示す写真に対して、画像解析ソフトを用いることにより、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1に含まれる金属酸化物11aの幅W、金属酸化物11a同士の最短距離D、並びに、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の全面積及び金属酸化物11aの全面積を測定した。これらの結果、金属酸化物11aの幅Wは、0.3μm〜7μm、最短距離Dは6μmであり、金属酸化物11aの総面積が、酸化物の骨格構造を有するボンドコート1の総面積に対して、2.5%であった。
【0072】
また、金属酸化物11aについて、波長分散型X線分光器により、元素分布を測定し評価したところ、全金属酸化物11aのうちの99重量%が酸化アルミニウムであることがわかった。また、酸化アルミニウム以外の金属酸化物11aの成分としては、Ni、Cr、Coが含まれていることも分かった。
【0073】
図4は、比較例1において製造した熱遮蔽コーティング膜の熱サイクル試験後の一部断面を、走査型電子顕微鏡にて撮影した図面代用写真である。
図4に示すように、比較例1で製造した耐熱合金部材100においては、図3に示す実施例1の場合と異なり、金属酸化物11aが形成されず(図4中、符号1’で示す部分)、均質なものとなっている。
【0074】
(まとめ)
通常、LPPSにより金属粒子11を堆積させた場合、金属粒子11を堆積させた層(即ちボンドコート1’)は、高温における伸びが大きい。即ち、このような特性は変形抵抗が小さく、塑性変形しやすいことを表している。従って、高温と常温とを繰り返す熱サイクル数の増加に伴ってボンドコート1’内に塑性変形が蓄積されることにより、ボンドコート1’に密着しているトップコート4の剥離を生じる傾向になる。
しかしながら、本発明者の検討によると、本実施形態においては、HVOFにより金属粒子11を堆積させた後に金属粒子11間に金属酸化物11aを形成させることにより、金属酸化物11aによって、金属酸化物11aを含む酸化物の骨格構造を有するボンドコート1を強化させることができる。従って、本実施形態に係る熱遮蔽コーティング膜10は、塑性変形の酸化物の骨格構造を有するボンドコート1への蓄積が少ないか、若しくは仮に蓄積したとしても従来よりも十分な強度を有しているため、耐久性が従来よりも優れていると考えられる。
【符号の説明】
【0075】
1 酸化物の骨格構造を有するボンドコート
1’ ボンドコート
10 熱遮蔽コーティング膜
11 金属粒子
100 耐熱合金部材
2 熱成長酸化物層
3 基材
4 トップコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成される熱遮蔽コーティング膜であって、
金属からなる金属粒子を複数含み、該複数の金属粒子間に該金属の酸化物が連続的に接合して形成されている酸化物の骨格構造を有するボンドコートを有する
ことを特徴とする、熱遮蔽コーティング膜。
【請求項2】
該ボンドコートの断面において、
該金属の酸化物の幅が0.5μm以上20μm以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の熱遮蔽コーティング膜。
【請求項3】
該ボンドコートの断面において、
該金属粒子の外周に少なくとも2本の該金属の酸化物が存在しており、
該2本の金属の酸化物同士の該金属粒子における最短距離が5μm以上100μm以下である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱遮蔽コーティング膜。
【請求項4】
該ボンドコートの断面において、
該金属の酸化物の総断面積が、該酸化物の骨格構造を有するボンドコートの総断面積に対して、40%以下である
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の熱遮蔽コーティング膜。
【請求項5】
該金属粒子が、近接する他の金属粒子と、少なくとも一つの金属結合により結合している
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の熱遮蔽コーティング膜。
【請求項6】
該金属が、アルミニウムを含み、さらに、ニッケル,クロム,コバルトからなる群より選ばれる1種以上を少なくとも含むとともに、
該金属の酸化物に含まれる酸化アルミニウムの量が、該金属の酸化物の全量に対して、90重量%以上である
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の熱遮蔽コーティング膜。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の熱遮蔽コーティング膜を製造する方法であって、
該複数の金属粒子の堆積を、高速フレーム溶射法によって行う工程を含む
ことを特徴とする、熱遮蔽コーティング膜の製造方法。
【請求項8】
金属を含む基材と、請求項1〜6の何れか1項に記載の熱遮蔽コーティング膜とを少なくとも有することを特徴とする、耐熱合金部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−52206(P2012−52206A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197336(P2010−197336)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】