説明

燃料噴射制御装置

【課題】ターボチャージャー及びDPF付きディーゼルエンジンを搭載した車両においてDPFの再生を実施する場合、過給圧の上昇遅れに伴うエンジントルクの加速性能を通常運転時と同等に保ち、通常運転時と同等のドライバビリティを得る。
【解決手段】ターボチャージャー2の過給圧を検出又は推定する過給圧検出手段21と、過給圧検出手段21により検出又は推定されたターボチャージャー2の過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、ディーゼルエンジン1の熱効率を重視した通常運転時よりもDPF3の再生運転時の方が大きくなるよう算出する燃料噴射量算出手段31と、ドライバの要求する燃料量と燃料噴射量算出手段31により算出された燃料噴射量の上限値のうち小さい方の燃料量で燃料噴射を実施する燃料噴射制御手段33と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャー及びDPFを備えたディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャー付きのディーゼルエンジン(以下、単にエンジンともいう)は、ターボチャージャーによって燃焼室からの排ガス流を用いて吸気を圧縮し、過給することによってエンジンのパワーアップを図っている。このようなエンジンでは、急加速時等にエンジン負荷が急に増大すると、燃料噴射量の増加に過給による吸入空気量の増加が追いつかないため、燃料量に対して吸入空気量が不足することになり、排ガスの中に黒煙が発生する。これを防止するために、吸入空気量として過給圧を検出し、この過給圧に応じて燃料噴射量を制限している。つまり、燃料量に対して過給圧が低いと吸入空気量が不足してしまうため、過給圧状態に応じて燃料噴射量を制限するように制御し、空気と燃料量に対する空気量不足(酸素不足)を回避することで黒煙を低減している。
【0003】
ところで、ディーゼルエンジンを搭載した車両では、通常、排出ガス中に黒煙や煤等の粒子状物質(Particulate Matter、以下、PMと略称する)が含まれており、これが直接大気中に放出されるのを防ぐために、PMを捕集するパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter、以下、DPFと略称する)と呼ばれるフィルタがエンジンの排気通路に備えられたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
DPFに捕集されて堆積したPMは、燃焼除去する必要があり、排気温度が高くなるエンジン運転、例えば高速走行時での高負荷高回転運転が実施され、この運転による排気温度の上昇に伴いDPFが所定温度(PM燃焼温度)まで昇温したときに焼失し、DPFから除去される(例えば、特許文献2参照)。
したがって、排気温度が高くなるエンジン運転が継続している場合には、DPFに堆積したPMは除去されるが、実際には排気温度が高くなる高負荷高回転運転のみが行われるわけではないため、通常はエンジン運転時間の増加に伴いPMの堆積する量(PM堆積量)は増加する。このため、堆積したPMによってDPFが目詰まりしてエンジンの排気圧力が増大し、燃費の悪化を招くこととなる。
【0005】
こうした燃費の悪化を抑制するために、PM堆積量が所定量に達したとき、エンジンの排気温度を強制的に上昇させて、高温となった排気によりDPFをPM燃焼温度まで昇温させ、酸素を供給しDPFに堆積したPMを焼失させることが行われる。このようにDPFに堆積したPMを除去することで、DPFの目詰まりが解消され捕集能力が回復(再生)するようになる。
【0006】
DPF再生のために排気温度を強制的に上昇させる方法としては、DPFの再生を実施する際、エンジンの運転を通常の熱効率重視の運転ではなく排気温度の上昇を意図した運転へと変化させ、この運転によってDPFをPM燃焼温度に向けて昇温させる方法がある。こうした排気温度の上昇を意図したエンジンの運転(以下、再生運転ともいう)としては、燃料噴射時期を熱効率重視の運転時よりも遅らせた運転,排気再循環量(以下、EGR量ともいう)を熱効率重視の運転時よりも増量した運転及びポスト噴射を実施する運転が挙げられる。
【0007】
上記のように燃料噴射時期を熱効率重視の通常の運転時よりも遅らせると、燃料の燃焼期間が遅角側にずれることから、燃料燃焼後のガスが高温のまま排気として燃焼室から排気通路に送り出され、排気温度が上昇するようになる。また、EGR量を通常の運転時よりも増量すると、燃焼室に吸入される冷えた新気の量が減り、燃料燃焼後に燃焼室から排気通路に送り出される排気の温度が高められる。さらに、燃焼室内で燃焼しないタイミング(主に排気工程中)で燃料を噴射するポスト噴射によって、DPFの上流に設置される前段酸化触媒に燃料を供給し、この燃料を酸化触媒で酸化反応(燃焼)させることにより、排気温度を上昇させる。
【0008】
このような再生運転を活用することで、DPFをPM燃焼温度まで上昇させることができ、DPFに堆積したPMを効率よく焼失させ、DPFの再生を図ることができる。
しかしながら、DPFの再生運転中は、熱効率が通常(熱効率重視)の運転時よりも低下してエンジンの出力トルクが低下することから、要求される出力トルクが得られなくなることに起因して操縦性(ドライバビリティ)が低下することは否めない。
【0009】
そこで、例えば特許文献2に記載の排気浄化装置のように、DPF再生制御中は、通常(熱効率重視)の運転時よりもエンジンの燃料噴射量を増量させる技術が提案されている。この排気浄化装置では、アクセル踏込量及びエンジン回転数から増量させる燃料噴射量を算出している。
【0010】
つまり、図4に示すように、エンジン回転速度が一定で、アクセル踏込量がM1で示される値であるとすると、通常運転時(図4(b)の実線)では、出力トルクT1が得られる。しかし、この状態でDPFの再生運転(図4(b)の一点鎖線)を実施した場合、得られる出力トルクはT2まで減少してしまう。そこで、T1の出力トルクを再生運転時に得るために、アクセル踏込量がM2のときの燃料噴射量Q2と、アクセル踏込量がM1のときの燃料噴射量Q1との差ΔQ(図4(a))だけ燃料を増量する補正を行う。この補正により、出力トルクの低下によるドライバビリティの低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3925472号公報
【特許文献2】特開2004−19449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、可変容量ターボチャージャー及びDPF付きディーゼルエンジンを搭載した車両においてDPFの再生を実施する場合、上記したように排気温度を上昇させ、DPFをPM燃焼温度まで昇温させなければならないため、再生実施中は可変容量ターボチャージャーの排気タービンの開口面積を広くすることで過給圧を低く設定し、吸入空気量を減らすことで排気温度を上昇させている。
【0013】
なお、DPFの再生運転中の出力トルクの低下を抑える手段としては、上記したΔQだけ燃料を増量する補正と同様の手法として、よりシンプルに、エンジントルクの低下分だけ燃料噴射量に補正係数をかけて増量する補正を行うことで、出力トルクの低下によるドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0014】
ここで、DPF再生制御中におけるトルク変化について図5を用いて説明する。なお、図5(a)〜(d)は各々、アクセル開度、過給圧、燃料噴射量、及びエンジントルクの経時変化を表しており、各図中において細実線で示す線Aのグラフは通常(熱効率重視)の運転時(非再生運転時)を示し、一点鎖線で示す線Bのグラフは再生運転時(エンジントルク補正なし)を示し、太実線で示す線Cのグラフは再生運転時において、エンジントルクの補正を実施した場合を示している。なお、ここでは、燃料噴射量に上記したような補正係数をかけてトルク補正を行う場合を説明する。
【0015】
図5(a)に示すように、ある時間にアクセルを踏み込むと、図5(b)〜(d)に示すように、過給圧、燃料噴射量及びエンジントルクは徐々に増加していく。しかしながら、再生運転時は可変容量ターボチャージャーの排気タービンの開口面積を広くしているため、図5(b)に示すように、通常運転時(曲線A)の過給圧と比較すると、トルク補正なしの再生運転時(曲線B)の過給圧及びトルク補正ありの再生運転時(曲線C)の過給圧は、上昇が遅れている。
【0016】
燃料噴射量は過給圧に応じて上限値が制限されるため、エンジン負荷の急増時には、図5(c)及び(d)に示すように、トルク補正なしの再生運転時の場合の燃料噴射量(曲線B)は、通常運転時(曲線A)の燃料噴射量と比較して、過給圧の上昇遅れに伴う燃料噴射量の上限値の上昇遅れから燃料噴射量が少なくなっている。そして、このような過渡状態を過ぎると、補正なしの再生運転時の燃料噴射量(曲線B)は通常運転時(曲線A)と等しくなるが、再生運転時は通常運転時と比べて熱効率が悪いため、通常運転時(曲線A)と同等のエンジントルクを得ることができない。
【0017】
一方、トルク補正ありの再生運転時の場合の燃料噴射量(曲線C)を見ると、補正なしの再生運転時(曲線B)と同様、過給圧の上昇遅れに伴う燃料噴射量の上限値の上昇遅れから燃料噴射量が少なくなっているが、エンジンの出力トルクが通常運転時(曲線A)と等しくなるよう燃料噴射量を補正しているため、過渡状態を過ぎれば通常運転時(曲線A)と同等のエンジントルクを得ることができる。
【0018】
しかしながら、過渡状態に着目すると、通常運転時(曲線A)と同等のエンジントルクを得るための補正を行った再生運転時の場合(曲線C)でも、図5(d)に示すように、通常運転時(曲線A)のエンジントルクと比較して補正ありの再生運転時(曲線C)のエンジントルクは加速性能が劣っている。つまり、上記したような燃料量を増量させる補正や燃料噴射量に補正係数をかける補正は、熱効率の差を補うためのものであり、ターボチャージャーの過給圧の上昇遅れを補うという観点からは不十分である。
【0019】
これは、トルク補正の有無にかかわらず、再生運転時は排気温度を上昇させるためにターボチャージャーの排気タービンの開口面積を広くするため、過渡状態では過給圧の上昇遅れが生じ、その過給圧の上昇遅れに伴う燃料噴射量の上限値の上昇遅れから、実際に噴射される燃料量が通常運転時と比べ、再生運転時は上限値で抑えられているためである。
【0020】
また、このような課題は、過給圧を調整し設定できる可変容量ターボチャージャーでなくても、過給圧が変動する一般的なターボチャージャーにおいても起こり得る課題である。つまり、例えば吸気スロットルを絞る,エキゾーストブレーキを閉じる等、何らかの手段で吸入空気量を少なくする処理をしていれば、ターボチャージャーの過給圧にも何らかの影響があるものと考えられる。
【0021】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、ターボチャージャー及びDPF付きディーゼルエンジンを搭載した車両においてDPFの再生を実施する場合、過給圧の上昇遅れに伴うエンジントルクの加速性能を通常運転時と同等に保ち、通常運転時と同等のドライバビリティを得られる燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の燃料噴射制御装置は、走行用のディーゼルエンジンの排気に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ(DPF)とターボチャージャーとを備え、該PMが所定値以上堆積すると、該DPFに堆積した該PMを燃焼して除去する再生運転を実施して該DPFを再生する車両の燃料噴射制御装置であって、該ターボチャージャーの過給圧を検出又は推定する過給圧検出手段と、該過給圧検出手段により検出又は推定された該ターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、該ディーゼルエンジンの熱効率を重視した通常運転時よりも該再生運転時の方が大きくなるよう算出する燃料噴射量算出手段と、ドライバの要求する燃料量と該燃料噴射量算出手段により算出された該燃料噴射量の上限値のうち小さい方の燃料量で燃料噴射を実施する燃料噴射制御手段と、を備えていることを特徴としている。
【0023】
該再生運転時において、該再生運転による該ディーゼルエンジンの出力トルクの低下分に応じて該燃料噴射量の増量補正を実施する燃料噴射量補正手段を備えていることが好ましい。
さらに、該車両には排ガスの再循環を行う排ガス再循環(EGR)を備え、該再生運転時は該EGRを停止させることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の燃料噴射制御装置によれば、DPFの再生運転中はターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、エンジンの熱効率を重視した通常運転時よりも高く設定するため、再生運転時に供給される燃料噴射量が増し、再生運転時においても過渡状態のエンジントルクの低下を抑制することができ、通常運転時と同等の加速性能が得られる。その結果、DPFの再生運転中であっても、通常運転時と同等のドライバビリティを得ることが可能となり、DPF付きの車両にてしばしば指摘される再生運転時と通常運転時とのドライバビリティの違和感をなくすことができる。
【0025】
なお、ターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を設けるのは、排ガス中に黒煙が発生することを防止するためである。つまり、エンジン負荷要求の増大時には、ターボチャージャーの過給圧の応答遅れによる一時的な吸入空気量不足に起因して排ガス中に黒煙が発生する。そこで、燃料噴射量にターボチャージャーの過給圧に応じた上限値を設けて黒煙発生を防止している。したがって、かかる上限値を高くすることは、黒煙発生の防止に反することになる。しかし、再生運転中は、排気が高温となるため黒煙の発生自体が少なく、発生した排ガス中の黒煙も燃焼・除去しやすい状態となる。このため、再生運転中には、燃料噴射量の上限値を通常運転時よりも高く設定しても黒煙は増加しないのである。
【0026】
また、燃料噴射量補正手段により出力トルクの低下分だけ燃料噴射量の補正を実施した場合、上記の過渡状態における加速性能だけでなく、最終的に得られる出力トルクも通常運転時と同等に設定することができ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
また、再生運転時に排ガス再循環(EGR)を停止させた場合、黒煙がより発生しにくくなるため、ターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値をより高く設定することができ、DPFの再生運転時におけるターボチャージャーの過給圧の上昇遅れを確実に補うことができ、通常運転時と同等の加速性能を設定することができる。これにより、DPFの再生運転中であっても、通常運転時と変わらないドライバビリティを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかる燃料噴射制御装置を適用した車両に搭載されるディーゼルエンジン周りの構造を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる燃料噴射制御装置の燃料噴射量を決定するためのフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態にかかる燃料噴射制御装置を用いた場合のDPF再生中の加速性能を説明するための図であり、(a)はアクセル開度、(b)はターボチャージャーの過給圧、(c)は燃料噴射量、(d)はエンジントルクのそれぞれ経時変化を示す。
【図4】DPFの再生運転時における出力トルクの低下分を補正するための燃料噴射量補正手段を説明するための図であり、(a)はアクセル踏込量の変化に対する燃料噴射量、(b)はアクセル踏込量の変化に対する出力トルクのそれぞれ推移傾向を示す図である。
【図5】従来の課題を説明するための図であり、(a)はアクセル開度、(b)はターボチャージャーの過給圧、(c)は燃料噴射量、(d)はエンジントルクのそれぞれ経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。
図1〜図3は本発明の一実施形態にかかる燃料噴射制御装置を説明するもので、図1はその燃料噴射制御装置を適用したディーゼルエンジン周りの構造を示す概略図、図2はその燃料噴射制御装置の燃料噴射量を決定するためのフローチャート、図3はその燃料噴射制御装置を用いた場合のDPF再生中の加速性能を説明するための図である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態にかかるディーゼルエンジン(単に、エンジンともいう)1は、図示しない車両のエンジンルーム内に収容されている。エンジン1のシリンダブロック(図示せず)にはシリンダ13が設けられ、このシリンダ13内にはピストン14が上下に往復運動可能に設けられている。ピストン14はコンロッド15を介して図示しないクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトの回転角度を検出するクランク角度センサ22がエンジン1に設けられている。エンジン1のシリンダヘッド(図示せず)には、ピストン14の頂面側の図示しない燃焼室頂部の中央に向け、インジェクタ(燃料噴射装置)5が設けられており、図示しない燃料噴射ポンプから燃料が送給されてくると、インジェクタ5が開弁して燃焼室内に燃料が噴射される。
【0030】
排気通路11に設けられたエキゾーストブレーキ8の下流には、エンジン1の排ガスに含まれる黒煙や煤等のPM(Particulate Matter、粒子状物質)を捕集するDPF(Diesel Particulate Filter、ディーゼルパティキュレートフィルタ)3が設けられている。なお、エキゾーストブレーキ8は、エンジン1に使用される補助ブレーキ装置であり、排気通路11に設けられたバルブを閉じて排ガスを出にくくすることでエンジン回転を妨げ、強力なエンジンブレーキを発生させる。また、エキゾーストブレーキ8を駆動するためにアクチュエータ20が備えられている。
【0031】
DPF3の上流には、排ガス中に含まれる有害なHC(炭化水素)及びCO(一酸化炭素)を酸化して浄化する酸化触媒16が設けられている。そして、インジェクタ5を用いて、燃焼室内で燃焼しないタイミング(主に排気工程中)で燃料を噴射するポスト噴射等によってDPF3の上流の酸化触媒16に燃料を供給し、この燃料を酸化触媒16で酸化反応(燃焼)させ、排気温度を上昇させてDPF3のPMを焼却除去することでDPF3の再生が実施される。
【0032】
エンジンルームには、ターボチャージャー2がエンジン1とともに収容されている。本実施形態では過給圧の調整が可能な可変容量ターボチャージャー(以下、VGターボチャージャーともいう)を用いている。ターボチャージャー2は、エンジン1からの排ガスをタービン(図示せず)で利用し、同軸上のコンプレッサ(図示せず)を駆動して、エンジン1に高圧空気を過給する装置であり、VGターボチャージャー2は、タービン側に可変ノズルベーン機構(図示せず)を持っており、エンジン条件に合わせノズル開度を調整し、排気タービンの開口面積を調整することで過給圧をコントロールすることができる。なお、VGターボチャージャー2を駆動するためにアクチュエータ17が備えられている。
【0033】
吸気通路10の最上流には、吸入空気(新気)中の塵や埃を取り除くエアクリーナ4が設けられている。また、この吸気通路10に設けられたスロットルバルブ7の下流側には、排気通路11の途中から分岐したEGR通路12の出口が接続されている。このEGR通路12には、同通路12を開閉するEGRバルブ6が介装されており、エンジン1から排出された排ガスの一部を吸気通路10に戻し、燃焼室へ導入できる構造になっている。なお、スロットルバルブ7は、エンジン1に供給される空気量を調整するもので、アクチュエータ18により駆動される。また、EGRバルブ6はアクチュエータ19により駆動される。
【0034】
さらに、吸気通路10には吸入空気の圧力を検出する吸気圧力センサ21が設けられている。吸気圧力センサ21は、VGターボチャージャー2の過給圧を検出する過給圧検出手段としての機能も有する。つまり、VGターボチャージャー2の過給圧が変化すれば、吸気通路10に設けられた吸気圧力センサ21により検出される圧力も変化するため、吸気圧力センサ21により検出される圧力をVGターボチャージャー2の過給圧としている。なお、過給圧検出手段はこれに限られるものではなく、ターボチャージャー2のすぐ近くに圧力センサを取り付け、ターボチャージャー2の過給圧を直接検出するようにしてもよい。
【0035】
また、上記のほかに、アクセルの踏込量を検出するアクセル開度センサ23と、DPF再生が必要な場合にドライバが押すDPFクリーニングスイッチ9とが設けられており、運転時のドライバの出力要求とDPFの再生要求とを検出している。
これら各種センサ及びスイッチからの情報は、エンジン制御装置(以下、エンジンECUという)30に送られ、エンジンECU30により各種制御が実施されている。エンジンECU30は、エンジン制御にかかる各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果等が一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入出力するための入出力ポート等を備えて構成されている。
【0036】
そして、エンジンECU30は、DPF3の再生を実施するDPF再生制御手段34としての機能要素と、排ガスを再循環させる量を調整するEGR制御手段35としての機能要素と、ターボチャージャー2の過給圧を制御するターボチャージャー制御手段36としての機能要素と、燃料噴射量を算出する燃料噴射量算出手段31としての機能要素と、出力トルクの低下分だけ燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段32としての機能要素と、燃料噴射を実施する燃料噴射制御手段33としての機能要素とを有している。
【0037】
DPF再生制御手段34は、DPF3に所定量のPMが堆積した場合、熱効率を重視した通常のエンジン運転から、排気温度の上昇を意図したエンジン運転(再生運転)に切り換え、エンジン1の排気温度を強制的に上昇させて、高温となった排気によりDPF3をPM燃焼温度まで上昇させ、酸素を供給しDPF3に堆積したPMを焼失させる。
EGR制御手段35は、EGRバルブ6を制御し、エンジン1から排出された排ガスのうち、吸気通路10に戻し燃焼室へ導入する量を調整している。
【0038】
ターボチャージャー制御手段36は、再生運転時には排気温度を上昇させるためにVGターボチャージャー2の排気タービンの開口面積を広くし、過給圧の制御を行う。
燃料噴射量算出手段31は、アクセル開度センサ23からの情報に基づき、ドライバが要求する出力トルクに応じた燃料噴射量Qaと、VGターボチャージャー2の過給圧に応じた燃料噴射量の上限値(上限燃料噴射量ともいう)とを算出する。これらの算出方法については後述する。
【0039】
燃料噴射量補正手段32は、DPF3の再生制御中のみ実施されるもので、再生運転中は、通常運転に比べ熱効率が低下する分、同じ燃料噴射量でも得られる出力トルクが低下するため、燃料噴射量を増量補正することにより、再生運転中でもドライバが要求した出力トルクが得られるようにする。
そして、燃料噴射制御手段33は、燃料噴射量算出手段31及び燃料噴射量補正手段32により得られた燃料量により、燃料噴射を実施する。
【0040】
本燃料噴射制御装置は、上記の何れもエンジンECU30の機能要素として備えられた燃料噴射量算出手段31と燃料噴射量補正手段32と燃料噴射制御手段33とから構成される。
【0041】
ここで、燃料噴射量算出手段31による算出方法について説明する。
ドライバが要求する出力トルクに応じた燃料噴射量Qaは、例えばアクセル開度センサ23によりドライバが踏み込んだアクセル量を検出して、アクセル開度に応じた燃料噴射量Qaを、予め記憶されたマップに対応させて算出する方法があるが、これに限定されるものではなく、例えば予め記憶された数式等に基づいて求めることも可能である。
【0042】
さらに、特徴的な制御として、燃料噴射量算出手段31は、VGターボチャージャー2の過給圧に応じた燃料噴射量の上限値(上限燃料噴射量ともいう)を、エンジン1の熱効率を重視した通常運転時よりもDPF3の再生運転時の方が大きくなるよう算出する。従来、ターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値は、通常運転時と再生運転時とで区別せずに算出されていたため同じ値であった。しかし、通常運転時と再生運転時とではエンジン1の運転状況が大きく異なるため、燃料噴射量算出手段31は、上記のように再生運転時の上限燃料噴射量Qp2の方が通常運転時の上限燃料噴射量Qp1よりも大きな値となるように算出する。
【0043】
この算出方法としては、例えば、吸気圧力センサ21により検出した吸入空気の圧力をVGターボチャージャー2の過給圧として検出し、この過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、予め記憶されたマップに対応させて算出する方法があるが、これに限定されるものではなく、例えば予め記憶された数式等により求めることも可能である。
【0044】
また、燃料噴射制御手段33は、燃料噴射量算出手段31により求められたアクセル開度に応じた燃料噴射量Qaと、VGターボチャージャー2の過給圧に応じた上限燃料噴射量Qp1又はQp2とを比較して、小さい方の値を最終的な燃料噴射量Q(燃料噴射量Q’)として算出し、燃料噴射を実施する。ただし、再生運転時においては、燃料噴射量補正手段32により燃料噴射制御手段33で得られた燃料噴射量Q’を補正し、得られた燃料噴射量を最終燃料噴射量Qとして燃料噴射を実施する。
【0045】
ここで、燃料噴射量補正手段32には、種々の公知技術を適用することができる。例えば、アクセル踏込量及びエンジン回転数から増量させる燃料噴射量を算出することができる。具体的には、図4に示すように、仮に通常の運転時にエンジン回転速度が一定でアクセル踏込量がM1で示される値であるとすると、この状態で再生運転を実行したときに出力トルク変化を生じさせないために、アクセル踏込量がM2のときの燃料噴射量Q2と、アクセル踏込量がM1のときの燃料噴射量Q1との差ΔQ(図4(a))だけ燃料を増量する補正を行う。なお、DPF3の再生運転中の出力トルクの低下を抑える手段としては、上記したΔQだけ燃料を増量する補正と同様の手法として、よりシンプルに、エンジントルクの低下分だけ燃料噴射量に補正係数をかけて補正を行うこともできる。
【0046】
本実施形態にかかる燃料噴射制御装置は上述のように構成されているので、本実施形態にかかる燃料噴射制御は、図2に示すフローチャートに従って実施される。
図2に示すように、まず燃料噴射量算出手段31により、アクセル開度に応じた燃料噴射量Qaを算出する(ステップS1)。この算出方法は、上記したようなマップを用いる方法でもよく、その他に数式等を用いる方法でもよい。次に、DPF再生制御手段34によりDPF3の再生が実施されている(DPF再生制御中)か否かを判定する(ステップS2)。
【0047】
DPF3の再生制御中ではなく、熱効率を重視した通常の運転中であれば、燃料噴射量算出手段31によりVGターボチャージャー2の過給圧に応じた燃料噴射量の上限値(上限燃料噴射量)Qp1を算出し(ステップS3)、燃料噴射制御手段33によりアクセル開度に応じた燃料噴射量Qaと上限燃料噴射量Qp1とを比較し、小さい方の値を最終的な燃料噴射量Qとして算出し(ステップS4)、燃料噴射を実施する(ステップS8)。
【0048】
一方、ステップS2において、DPF3の再生制御中であった場合は、燃料噴射量算出手段31によりVGターボチャージャー2の過給圧に応じた燃料噴射量の上限値(上限燃料噴射量)Qp2を算出する(ステップS5)。このとき、再生制御中の上限燃料噴射量Qp2は、通常運転時のときに算出される上限燃料噴射量Qp1よりも大きな値とする。
そして、燃料噴射制御手段33によりアクセル開度に応じた燃料噴射量Qaと上限燃料噴射量Qp2とを比較し、小さい方の値を燃料噴射量Q’として算出する(ステップS6)。そして、燃料噴射量補正手段32により、この燃料噴射量Q’に出力トルクの低下分の補正を行い最終的な燃料噴射量Qを算出し(ステップS7)、燃料噴射を実施する(ステップS8)。
【0049】
ここで、図3を用いて、本実施形態にかかる燃料噴射制御装置を用いた場合のDPF再生中の加速性能を説明する。(a)はアクセル開度、(b)はターボチャージャーの過給圧、(c)は燃料噴射量、(d)はエンジントルクのそれぞれの経時変化を示す。各図中に細実線で示す線Aのグラフは通常(熱効率重視)の運転時(非再生運転時)を示し、破線で示す線Cのグラフは再生運転時において燃料噴射量補正手段32により出力トルクの補正のみを実施した場合を示し、太実線で示す線Dのグラフは本実施形態にかかる燃料噴射制御装置を用いた場合の再生運転時において、燃料噴射量補正手段32により出力トルクの補正を実施した場合を示す。なお、ここでは燃料噴射量補正手段32により実施する補正は、燃料噴射量に補正係数をかける場合を示す。
【0050】
図3(a)に示すように、ある時間にアクセルを踏み込むと、図3(b)〜(d)に示すように、過給圧,燃料噴射量及びエンジントルクは徐々に増加していくが、再生運転時はVGターボチャージャー2の排気タービンの開口面積を広くしているため、図3(b)に示すように、通常運転時(曲線A)の過給圧と比較すると、再生運転時(曲線C及びD)の過給圧は、上昇が遅れている。
【0051】
しかしながら、本実施形態にかかる燃料噴射制御装置では、再生運転時は通常運転時と比較して、過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を大きくしているため、図3(c)に示すように、過渡状態において、本実施形態にかかる燃料噴射制御装置を用いた場合の再生運転時(曲線D)の燃料噴射量の方が通常運転時(曲線A)及び従来の再生運転時(曲線C)の燃料噴射量よりも多くなっている。
【0052】
この結果、図3(d)に示すように、再生運転時(曲線D)でも通常運転時(曲線A)と同等のエンジントルクが得られ、従来の再生運転時(曲線C)のエンジントルクと比較しても加速性能が向上している。
【0053】
このように、本燃料噴射制御装置によれば、DPFの再生運転中はターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、エンジンの熱効率を重視した通常運転時よりも高く設定するため、再生運転時に供給される燃料噴射量が増し、再生運転時においても過渡状態のエンジントルクの低下を抑制することができ、通常運転時と同等の加速性能が得られる。その結果、DPFの再生運転中であっても、通常運転時と同等のドライバビリティを得ることが可能となり、DPF付きの車両にてしばしば指摘される再生運転時と通常運転時とのドライバビリティの違和感をなくすことができる。
【0054】
さらに、再生運転時において、燃料噴射量補正手段により出力トルクの低下分だけ燃料噴射量の増量補正を実施した場合、上記の過渡状態における加速性能だけでなく、最終的に得られる出力トルクも通常運転時と同等に設定することができ、さらなるドライバビリティの向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形させて実施することができる。
【0055】
例えば、DPFの再生運転中では、通常はEGRバルブを開けてEGR量を増量させることにより排気温度の上昇を図るが、本発明では逆に再生運転中にEGRバルブを閉じてEGRを停止させてもよい。この場合、排気温度の上昇は他の手段で補わなければならないが、その代わり黒煙が発生しにくくなるため、再生運転中におけるターボチャージャーの過給圧に応じた上限燃料噴射量をより高く設定することができ、DPFの再生運転時におけるターボチャージャーの過給圧の上昇遅れを確実に補うことが可能となり、通常運転時と同等の加速性能を設定することができる。
【0056】
また、上記の実施形態では、ターボチャージャーは過給圧の調整が可能な可変容量ターボチャージャー(VGターボチャージャー)を用いているが、これに限定されるものではなく、通常のターボチャージャーを用いてもよい。VGターボチャージャーは、積極的に過給圧を調整することができるが、一般的なターボチャージャーでも、吸気スロットルやエキゾーストブレーキ等の制御を行い、吸入空気量を少なくする処理を行っていれば、再生運転時におけるターボチャージャーの過給圧の遅れは生じるため、上記した実施形態と同様の制御を実施することにより、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
2 ターボチャージャー(可変容量ターボチャージャー,VGターボチャージャー)
3 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
4 エアクリーナ
5 インジェクタ(燃料噴射装置)
6 EGRバルブ
7 スロットルバルブ
8 エキゾーストブレーキ
9 DPFクリーニングスイッチ
10 吸気通路
11 排気通路
12 EGR通路
13 シリンダ
14 ピストン
15 コンロッド
16 酸化触媒
17 ターボチャージャー用アクチュエータ
18 スロットルバルブ用アクチュエータ
19 EGRバルブ用アクチュエータ
20 エキゾーストブレーキ用アクチュエータ
21 吸気圧力センサ(過給圧検出手段)
22 クランク角度センサ
23 アクセル開度センサ
30 エンジン制御装置(エンジンECU)
31 燃料噴射量算出手段
32 燃料噴射量補正手段
33 燃料噴射制御手段
34 DPF再生制御手段
35 EGR制御手段
36 ターボチャージャー制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のディーゼルエンジンの排気に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ(DPF)とターボチャージャーとを備え、該PMが所定値以上堆積すると、該DPFに堆積した該PMを燃焼して除去する再生運転を実施して該DPFを再生する車両の燃料噴射制御装置であって、
該ターボチャージャーの過給圧を検出又は推定する過給圧検出手段と、
該過給圧検出手段により検出又は推定された該ターボチャージャーの過給圧に応じた燃料噴射量の上限値を、該ディーゼルエンジンの熱効率を重視した通常運転時よりも該再生運転時の方が大きくなるよう算出する燃料噴射量算出手段と、
ドライバの要求する燃料量と該燃料噴射量算出手段により算出された該燃料噴射量の上限値のうち小さい方の燃料量で燃料噴射を実施する燃料噴射制御手段と、を備えている
ことを特徴とする、燃料噴射制御装置。
【請求項2】
該再生運転時において、該再生運転による該ディーゼルエンジンの出力トルクの低下分に応じて該燃料噴射量の増量補正を実施する燃料噴射量補正手段を備えている
ことを特徴とする、請求項1記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
該車両には排ガスの再循環を行う排ガス再循環(EGR)を備え、
該再生運転時は該EGRを停止させる
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−111948(P2011−111948A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267725(P2009−267725)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】