説明

異種金属の接合方法および装置

【課題】 接合に際し、ミクロン未満、例えば数ナノオーダーの厚さの薄い金属間化合物層を生成する。
【解決手段】 固相状態での接合に金属間化合物層の形成を要する異種金属ワークを接合する異種金属の接合装置は、接合すべき異種金属ワークW1、W2が入れられる真空容器11と、真空容器11内の一方のワークW2の接合面に金属間化合物層を形成するようにクラスターを照射するクラスター源15と、金属間化合物層を形成したワークW2と他方のワークW1を加圧および加熱する加圧・加熱手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異種金属の母材であるワークを固相の状態で接合する方法およびそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異種金属の母材であるワークを固相の状態で接合する方法には、液相拡散接合方法がある。ワーク1とワーク2の間に両ワークの融点より小さい融点をもつ第3の異種金属であるインサート材を挿入したうえで、両ワークを加圧し、接合温度に加熱してインサート材および母材の表面部を溶融させ等温凝固させる方法である。
【0003】
ところで、異種金属の接合においては様々な金属の組合せがあり、特に接合する母材であるワークを固相の状態を維持して接合する場合に、少なくとも一方のワークの表面部に他の材料の元素が拡散した金属間化合物の層を形成することが条件となる組合せがある。
【0004】
この条件に相当する方法を使った例としては、母材に厚さ0.5μm以下の下地メッキ、厚さ0.5μm以下のAuメッキ、厚さ0.5μm以下のSnメッキ、厚さ0.5μm以下のAuメッキを層状に施した金属部材同士を、真空中あるいは不活性ガス中にて加熱・加圧して接合するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−168889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法ではインサート材の層が数μmに及び、それらが接合温度で溶融されたときに生成する金属間化合物の層も数μm程度になってしまう。この金属間化合物の層は母材などと比べると脆く割れやすいため、可能な限り薄くすることが望ましい。
【0006】
さらに、ワーク1およびワーク2とそれぞれ異なる第3の異種金属インサート材を用いているから、接合後はワーク1およびワーク2の中に不純物が含まれることになる。不純物の存在は脆さの原因になり、接合後の材料を強度を要する用途や不純物の存在を嫌う用途には使い辛いものとなってた。
【0007】
この発明の目的は、金属間化合物の層厚を、ミクロン未満に生成することのできる異種金属の接合方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による異種金属の接合方法は、固相状態での接合に金属間化合物層の形成を要する異種金属ワークを固相状態で加圧および加熱して接合する接合方法であって、少なくとも一方のワークの接合面にクラスター源からのクラスターを照射して金属間化合物層を形成したうえで前記加圧および加熱をすることを特徴とするものである。
【0009】
この発明による異種金属の接合方法では、クラスターを用いているため、金属間化合物層をミクロン未満、例えば、100nm以下の厚さに薄くすることができる。
【0010】
さらに、前記クラスターを金属間化合物層を形成するワークの接合相手と同一材料とすれば、第3の異種金属を用いた場合に生じる不純物混入が無いため、強度を要する用途や不純物を嫌う用途でも使用することができる。
【0011】
また、前記クラスターの照射は、ワーク表面の酸化層等の不純物層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーの照射を行い、その後低エネルギーのクラスターを照射し堆積させると、不純層を取り除く程のエネルギーをもたせたクラスターを照射することで、不純層の除去とワーク内への拡散を可能としたので、薄い金属間化合物層を形成することができる。また、その金属間化合物層上に低エネルギーをもたせたクラスターを照射し堆積させるようにしたため、接合の際には同じ金属同士の接合であるとともに微少なクラスターとの接合であるため、クラスターの表面活性(表面積が小さいことによる接合相手との原子間結合のし易さ)により接合がなされる。このため、ワークが液化せずに低温度での接合が可能となる。
【0012】
また、前記低エネルギーのクラスターは、バルク材料における融点温度の半分以下を示す直径であると、クラスターのサイズが小さいことにより、表面活性が良く接合し易いとともに、バルク材料(マクロスコピックな視点から物性値が測定できるだけの量をもつ材料)の状態よりも融点がはるかに小さくなるため、ワークの融点よりもはるかに小さな温度での加熱で済み、よって、従来よりはるかに低温での接合が可能となる。このことは、加熱温度が小さいため精密部品等温度を高めることにより状態が変化することを嫌うものの製作においても有利になる。
【0013】
この発明による異種金属の接合装置は、固相状態での接合に金属間化合物層の形成を要する異種金属ワークを固相状態で加圧および加熱して接合する接合装置であって、接合すべき異種金属ワークが入れられる真空容器と、真空容器内の一方のワークの接合面にようにクラスターを照射するクラスター源と、金属間化合物層を形成したワークと他方のワークを加圧および加熱する加圧・加熱手段とを備えているものである。
【0014】
この発明による異種金属の接合装置では、ミクロン未満、例えば数ナノオーダーの厚さの薄い金属間化合物層を生成することがてきる。
【0015】
さらに、クラスター源が、ワーク表面の酸化層等の不純層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーのクラスターの照射と、クラスターを堆積させる低エネルギーの照射との切換を可能とすると、1つのクラスター源から、高エネルギーおよび低エネルギーのクラスターを照射することができる。
【0016】
また、クラスタ源が、ワーク表面の酸化層等の不純層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーのクラスターを照射する高エネルギー用クラスター源と、クラスターを堆積させる低エネルギーのクラスターを照射する低エネルギー用クラスター源とよりなると、照射するクラスターのエネルギーの高低の範囲を拡げることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、金属間化合物の層厚を、ミクロン未満に生成することのできる異種金属の接合方法および装置が提供される。
【0018】
また、従来、加圧と加熱を1日程度かけて行っていたところ、この発明によれば、2時間から3時間程度に圧縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施の形態を図面を参照しながらつぎに説明する。
【0020】
図1を参照すると、接合装置は、真空容器11と、真空容器11の頂壁を貫通してその上方に突出させられている垂直ロッド12を有しかつ真空容器11内において第1ワークW1をその接合面を下向きにして保持している昇降ヘッド13と、第1ワークW1の接合面に相対させるように接合面を上に向けて第2ワークW2を支持している支持台14と、第2ワークW2の接合面に向けてクラスターのビームBを照射するクラスター源15と、第1ワークW1に対し第2ワークW2を押圧しうるように垂直ロッド12の上端に取付られている加圧手段である錘16と、真空容器11の胴壁を取り囲んでいる加熱手段である高周波誘導加熱コイル17とを備えている。
【0021】
ここでは、第1ワークW1の材料として銅が、第2ワークW2の材料としてアルミニウムが選択されている。
【0022】
クラスター源15としては、特開2001−158956号公報または特開2002−038257号公報に開示されているクラスター銃を好適に採用することができる。
【0023】
クラスター源15については詳細には図示しないが、概略構成は以下の通りである。すなわち、クラスター源15は、クラスター生成室を有しかつクラスターターゲットをその蒸発面がクラスター生成室に臨ませられるように保持するクラスター本体21と、ミラー22を介して蒸発面にレーザLを照射してターゲットを蒸発ガス化させるとともに、ターゲットの蒸発により衝撃波を発生させるレーザ光源23と、蒸発ガスを不活性ガスの流れにのせて第2ワークW2の接合面に導くように不活性ガスの流れを生じさせる不活性ガス手段24とを備えており、蒸発面に対するレーザ入射方向が、不活性ガスの流れ方向に対し所定の角度に保持されているものである。
【0024】
クラスターターゲットの材料としては、第1ワークW1の材料と同じ銅が選択されている。
【0025】
クラスター源15からは、高エネルギーのクラスターおよび低エネルギーのクラスターが切換られて照射可能となっている。高低エネルギーの切換は、不活性ガスの圧力およびレーザの強度によって調整される。また、このように高低エネルギーを調整することに代えて、高エネルギー用クラスター源および低エネルギー用クラスター源をそれぞれ第2ワークW2の接合面にクラスタービームを照射可能に用意しておき、2つのクラスター源を使い分けるようにしてもよい。そうすれば、照射されるクラスターのエネルギーの高低幅が広くなる。
【0026】
クラスター源15からは、第2ワークW2の接合面に向かって銅クラスターが照射される。まず、最初に、高エネルギーの銅クラスターが第2ワークW2の接合面に照射される。これにより、同接合面の酸化被膜が破壊・除去されるとともに、銅がアルミニウム母材中に拡散し、金属間化合物の層が形成される。ついで、低エネルギーの銅クラスターが形成された金属間化合物層の上に照射される。そうすると、金属間化合物層の上に銅クラスターの層が形成される。ついで、第1ワークW1および第2ワークW2を、昇降ヘッドを下降させて加圧しかつ高周波誘導加熱コイル17によって接合温度に加熱する。
【0027】
ここで、生成されるクラスターと、その接合条件について、詳しく検証する。
【0028】
ナノクラスターの融点Tmfはその直径rが小さくなるとともに低下する。その関係式はギブスの自由エネルギー変化を吟味することによって第1式のように示される。
【0029】
mf/T=1−2(σ−σl)/rL0 (1)
ここに、Tはバルク材料の融点、σはその固体の表面自由エネルギー、σlはその液体の表面自由エネルギー、L0は単位体積当たりの潜熱を表す。
【0030】
(1)式をグラフ化すると、図2に示す通りである。図2によれば、銅のクラスター径が2ナノメータ以下では融解温度が400℃以下になることが分かる。このように、クラスターの直径が数nmになると、その融点がバルクの半分以下まで低下する。このようなクラスターを、ここではナノクラスターと称する。
【0031】
今、銅の拡散層を形成することを想定し、銅のナノクラスタビームを第2ワークW2であるアルミニウム基板に照射する場合を考える。クラスタービーム中のナノクラスターの運動エネルギーをEk、質量をm、比熱をcとすると、温度上昇ΔTは第2式の通りである。
【0032】
ΔT=Ek/mc (2)
=1/2・mv (3)
また、クラスタービーム中のナノクラスターの速度をvとすると、運動エネルギーEkは第3式の通りであるから、第2式に第3式を代入して、第4式を得る。
【0033】
ΔT=1/2・v/c (4)
速度vは、別の実験装置で得られた数値2.8[km/s]を用い、銅の比熱cを386[J/K・kg]とし、これを第4式に代入すると、温度上昇ΔTは、
ΔT=1/2×2800 /386
=10157[K]
となる。
【0034】
運動エネルギーの50%が熱エネルギーに変換されるものとすると、温度上昇は、5000[K]程度となる。この程度の温度上昇が見込まれると、アルミニウムの酸化被膜のエネルギーは高いが、これを、銅クラスターの熱エネルギーによって破ることができる。
【0035】
真空中において高速で銅クラスターを照射することによつて、第2ワークW2のアルミニウム基板中に銅が拡散し、アルミニウムの界面近傍では金属間化合物が形成される。この後、低エネルギーの銅ナノクラスターを堆積させることによって、基板表面上に強固に密着した銅ナノクラスター層が形成される。
【0036】
ナノオーダのクラスターが堆積してなるクラスター層は、そのクラスター表面積が小さいため第1ワークW1の表面と接合し易い状態にある。押圧し加熱することにより高い表面活性が効力を発揮するようになり、クラスター層と第1ワークW1の間で原子間結合が生じる。原子間結合によりクラスターのサイズが大きくなることによってその融点が接合温度より高くなると、クラスター層と第1ワークW1の間で凝固が開始する。つまり、接合温度をクラスター層の融点とバルク材料の融点との間に設定しておけば、クラスター層中のクラスターが第1ワークW1との接合によってそのサイズを増大することに伴い、融点が上昇するために自発的な凝固が生じ、クラスター層と第1ワークW1の接合が完了する。接合温度は、クラスターの融点とバルク材料の間であればよく、クラスターの融点より少し高めに設定しておけば、低温での接合が可能となる。このことによって、ワークに与える熱量が小さくなり、ワークに悪影響を与えずに接合することができる。
【0037】
上記において、1つの真空容器11内でクラスターの照射から加圧・加熱まで行っているが、クラスター照射および加圧・加熱を別々の真空容器内で行うようにしてもよい。この場合、この2つの真空容器の間に同じく真空容器内に配置されたハンドリングロボットでワークの受渡を行うようにすればよい。
【0038】
本願発明の対象は、固相での接合に際し金属間化合物の形成を要件とするような異種材料ワークであり、その代表例として、銅およびアルミニウムを示しているが、これに限定されるものではない。なお、アルミニウムに高エネルギーのクラスターを照射し金属間化合物を形成する理由は、銅の酸化膜よりもアルミニウムの酸化膜の方が、膜の除去に要するエネルギーが高いためである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明による接合装置の概略構成図である。
【図2】銅クラスター直径と融解温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
11 真空容器
13 昇降ヘッド
14 支持台
15 クラスター源
B クラスタービーム
L レーザ
W1 第1ワーク
W2 第2ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相状態での接合に金属間化合物層の形成を要する異種金属ワークを固相状態で加圧および加熱して接合する接合方法であって、
少なくとも一方のワークの接合面にクラスター源からのクラスターを照射して金属間化合物層を形成したうえで前記加圧および加熱をすることを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
前記クラスターは金属間化合物層を形成するワークの接合相手の材料であることを特徴とする請求項1に記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
前記クラスターの照射は、ワーク表面の酸化層等の不純層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーの照射を行い、その後低エネルギーのクラスターを照射し堆積させることを特徴とする請求項1または2に記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
前記低エネルギーのクラスターは、バルク材料における融点温度の半分以下を示す直径であることを特徴とする請求項3に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
固相状態での接合に金属間化合物層の形成を要する異種金属ワークを接合する接合装置であって、
接合すべき異種金属ワークが入れられる真空容器と、真空容器内の一方のワークの接合面に金属間化合物層を形成するようにクラスターを照射するクラスター源と、金属間化合物層を形成したワークと他方のワークを加圧および加熱する加圧・加熱手段とを備えている異種金属の接合装置。
【請求項6】
クラスター源が、ワーク表面の酸化層等の不純層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーのクラスターの照射と、クラスターを堆積させる低エネルギーの照射との切換を可能とする請求項5に記載の異種金属の接合装置。
【請求項7】
クラスタ源が、ワーク表面の酸化層等の不純層を取り除くとともに内部に拡散する高エネルギーのクラスターを照射する高エネルギー用クラスター源と、クラスターを堆積させる低エネルギーのクラスターを照射する低エネルギー用クラスター源とよりなる請求項5に記載の異種金属の接合装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−43740(P2006−43740A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229173(P2004−229173)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】