皮膜構造及びその形成方法
【課題】表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造及びその形成方法を提供すること。
【解決手段】皮膜構造1は、金属基材10の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜12を有する。金属基材10上には、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層11が形成されており、表面平滑化層11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。表面平滑化層11は、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜である。
【解決手段】皮膜構造1は、金属基材10の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜12を有する。金属基材10上には、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層11が形成されており、表面平滑化層11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。表面平滑化層11は、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属基材等に撥水性を付与する方法として、表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を形成した皮膜構造が知られている。この皮膜構造は、加熱され、防汚性を必要とするもの、例えば燃料噴射ノズル等の自動車部品(特許文献1参照)、フライパンやコンロ等の家庭用製品に広く用いられている。
【0003】
フッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと非常に薄いことから、表面粗度が大きい金属基材に対して直接形成すると、形成後の皮膜にひけが生じて不均一な膜となり、金属基材に充分な撥水性を付与することができない。そのため、フッ素系皮膜を表面粗度が大きい金属基材に形成する場合には、形成後の皮膜にひけが生じないように、予め金属基材の表面粗度をナノオーダーまで加工する必要があった。
【0004】
それ故、表面粗度が大きい金属基材に対しても、表面を加工する等の処理を行うことなく直接形成することができ、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造が必要とされている。
【0005】
また、フッ素系皮膜が適用される上記の燃料噴射ノズルでも、近年、燃料の高噴射圧化によるノズル被熱の高温化、バイオ燃料使用による燃料事情の変化等により、ニードル部分に燃料に起因する生成物と思われる多量の異物が付着するという問題がある。
【0006】
上記燃料噴射ノズルは、燃料を噴射する噴孔を穿設したノズルボデーと、そのノズルボデー内に摺動可能に収容されたニードルとを備えており、ニードルを摺動させることによって、噴孔を開閉して燃料を噴射できるように構成されている。ニードル部分に多量の異物が付着すると、この異物が堆積して塊となったり、それがノズルボデーとニードルとの間に脱落したりする。これにより、ニードルの摺動状態が悪化し、さらにはニードルが固着してエンジン始動不良につながるおそれがある。
【0007】
それ故、燃料噴射ノズルにおいては、特に、ニードル部分への異物の付着を防止することができる、優れた撥水性を有する皮膜構造が必要とされている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−144893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたもので、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造及びその形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造において、
上記金属基材上には、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層が形成されており、
該表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されていることを特徴とする皮膜構造にある(請求項1)。
【0011】
本発明の皮膜構造は、上記金属基材上に、上記金属基材の表面を平滑化するための上記表面平滑化層と、フッ素を含有してなる上記フッ素系皮膜とを有している。そして、上記皮膜構造において注目すべき点は、上記金属基材上に上記フッ素系皮膜が直接形成されているのではなく、上記金属基材上に上記表面平滑化層が形成されており、さらにその上に上記フッ素系皮膜が形成されていることにある。これにより、上記皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
この理由について、以下に説明する。
【0012】
上記皮膜構造において、上記金属基材上には、上記表面平滑化層が形成されている。この表面平滑化層は、上記金属基材の表面を平滑化するためのものである。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0013】
また、上記表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されている。このフッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本発明の皮膜構造では、上記フッ素系皮膜は、上述のごとく上記金属基材上に形成された、表面粗度が小さい上記表面平滑化層上に形成されている。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、該金属基材の表面の凹凸の影響を受けることなく、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0014】
以上のことから、本発明の皮膜構造は、上記金属基材上に該金属基材の表面を平滑化することができる上記表面平滑化層を第1層として設け、さらにその上に薄膜の上記フッ素系皮膜を第2層として設ける構成とすることにより、上記金属基材の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め上記金属基材の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理を行う必要がなくなる。
また、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に精度よく形成された上記フッ素系皮膜を有するものとなる。上記フッ素系皮膜は、優れた撥水性を有していることから、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0015】
このように、本発明の皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用することができる。また、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
【0016】
第2の発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造を形成する方法において、
上記金属基材上に、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層を形成する表面平滑化層形成工程と、
上記表面平滑化層上に、フッ素を含有するフッ素含有液を塗布して乾燥させることにより、上記フッ素系皮膜を形成するフッ素系皮膜形成工程とを有することを特徴とする皮膜構造の形成方法にある(請求項22)。
【0017】
本発明の皮膜構造の形成方法は、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成する上記表面平滑化層形成工程と、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に形成する上記フッ素系皮膜形成工程とを行う。すなわち、上記形成方法において注目すべき点は、上記金属基材上に上記フッ素系皮膜を直接形成するのではなく、上記金属基材上に上記表面平滑化層を形成した後、該表面平滑化層上に上記フッ素系皮膜を形成することにある。これにより、上記形成方法により形成された皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができるものとなる。
この理由について、以下に説明する。
【0018】
上記形成方法において、上記表面平滑化層形成工程においては、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成する。この表面平滑化層は、上記金属基材の表面を平滑化するためのものである。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0019】
また、上記フッ素系皮膜形成工程においては、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に形成する。このフッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本発明の形成方法では、上記フッ素系皮膜は、上述のごとく上記金属基材上に形成された、表面粗度が小さい上記表面平滑化層上に形成する。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、該金属基材の表面の凹凸の影響を受けることなく、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0020】
以上のことから、本発明の皮膜構造の形成方法は、上記金属基材上に該金属基材の表面を平滑化することができる上記表面平滑化層を第1層として形成した後、さらにその上に薄膜の上記フッ素系皮膜を第2層として形成することにより、上記金属基材の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め上記金属基材の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理工程を行う必要がなくなる。
また、上記形成方法により得られる皮膜構造は、上記金属基材の表面に精度よく形成された上記フッ素系皮膜を有するものとなる。上記フッ素系皮膜は、優れた撥水性を有していることから、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0021】
このように、本発明の形成方法によれば、表面粗度が大きい金属基材に対しても皮膜構造を形成することができる。また、形成された皮膜構造は、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
【0022】
第3の発明は、ノズルボデーと、該ノズルボデー内に収容されたニードルとを備え、
上記ノズルボデーは、上記ニードルを挿通する案内孔と、該案内孔の開口端近傍に設けられた摺動孔部と、上記案内孔の途中に設けられた燃料溜まり部と、上記案内孔の先端部に設けられた弁座と、該弁座を貫通するよう設けられた複数の噴孔とを有し、
上記ニードルは、上記摺動孔部に摺動可能に挿通される摺動部と、上記弁座に着座及び離座して上記噴孔を開閉する弁部と、上記摺動部と上記弁部とをつなぐシャフト部とを有し、
上記ニードルの上記弁部を上記ノズルボデーの上記弁座から離座させ、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成された燃料噴射ノズルにおいて、
上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする上記第1の発明の皮膜構造が形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズルにある(請求項43)。
【0023】
本発明の燃料噴射ノズルは、上記ノズルボデーと該ノズルボデー内に収容された上記ニードルとを備えている。上記燃料噴射ノズルは、上記摺動部を摺動させることにより、上記弁部を上記弁座から離座させて上記噴孔を開口し、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成されている。そして、上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする上記第1の発明の皮膜構造が形成されている。
【0024】
すなわち、本発明では、燃料に起因する生成物等の異物が付着し易い上記ニードル部分に、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造を形成してある。これにより、上記ニードルの表面に上記の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。それ故、上記ニードルの摺動不良を防止し、摺動状態を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
上記第1の発明においては、上記表面平滑化層は、NiP(ニッケルリン)中にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜(以下、適宜、単に複合めっき皮膜という)であることが好ましい(請求項2)。
すなわち、上記皮膜構造において、上記金属基材上には、NiPをベース材料とする上記複合めっき皮膜が形成されている。この複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に厚膜に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均すことができる。したがって、形成された上記複合めっき皮膜よりなる上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0026】
また、上記複合めっき皮膜は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、上記金属基材が加熱されても、該金属基材と上記フッ素系皮膜との間に設けた上記複合めっき皮膜によって、上記フッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
また、上記複合めっき皮膜には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、上記複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面の上記フッ素系皮膜が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に設けた上記複合めっき皮膜によって、上記皮膜構造全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0027】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された密着層としてのNiストライクめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項7)。
この場合には、上記Niストライクめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させることができる。
【0028】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記Niストライクめっき皮膜上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項9)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0029】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項10)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0030】
なお、上記Niストライクめっき及び上記NiPめっき皮膜は、上記金属基材の種類によって必要かどうかの判断を行い、その上で上記の様々な構成をとることが好ましい。例えば、上記金属基材としてSCM420を用いた場合では、上記Niストライクめっき及び上記NiPめっき皮膜ともに必要となる。また、SPCCを用いた場合では、上記NiPめっき皮膜は必ずしも必要ではない。
【0031】
また、上記表面平滑化層は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜であることも好ましい(請求項14)。
この場合には、上記DLC膜は無極性であるため、異物とのイオン結合を抑制することができる。また、上記DLC膜上に上記フッ素系皮膜を形成することで、表面が滑らかとなり、表面粗度に起因するアンカー効果が低減し、異物の付着を抑制することができる。
【0032】
上記第2の発明においては、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液を塗布して乾燥させることにより、上記表面平滑化層としてのNiP/PTFE複合めっき皮膜を形成することが好ましい(請求項23)。
すなわち、上記形成方法において、上記表面平滑化層形成工程においては、NiPをベース材料とする上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に形成する。この複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に厚膜に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均すことができる。したがって、形成された上記複合めっき皮膜よりなる上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0033】
また、上記複合めっき皮膜は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、上記金属基材が加熱されても、該金属基材と上記フッ素系皮膜との間に形成した上記複合めっき皮膜によって、上記フッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
また、上記複合めっき皮膜には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、上記複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面の上記フッ素系皮膜が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に形成した上記複合めっき皮膜によって、上記皮膜構造全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0034】
また、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、Niを含有するNi含有液を塗布して、密着層としてのNiストライクめっき皮膜を形成する密着層形成工程を行うことができる(請求項28)。
この場合には、上記Niストライクめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の密着性を向上させることができる。
【0035】
また、上記密着層形成工程後に、上記Niストライクめっき皮膜上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行い、その後、上記第1層形成工程を行うことができる(請求項30)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0036】
また、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行うことができる(請求項31)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0037】
なお、上記密着層形成工程及び上記下地層形成工程は、上記金属基材の種類によって必要かどうかの判断を行い、その上で行うことが好ましい。
【0038】
また、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、上記表面平滑化層としてのDLC膜を形成することも好ましい(請求項35)。
この場合には、上記DLC膜は無極性であるため、異物とのイオン結合を抑制することができる。また、上記DLC膜上に上記フッ素系皮膜を形成することで、表面が滑らかとなり、表面粗度に起因するアンカー効果が低減し、異物の付着を抑制することができる。
【0039】
上記第1及び第2の発明においては、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、無電解めっき法により形成することが好ましい(請求項3、24)。
この場合には、上記複合めっき皮膜の膜厚精度をより一層向上させることができる。
なお、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、電気めっき等の他の方法を用いて形成することもできる。
【0040】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることが好ましい(請求項4、25)。
上記PTFE粒子の含有量が7重量%未満の場合には、上記複合めっき皮膜の撥水性が低下するおそれがある。一方、9重量%を超える場合には、上記複合めっき皮膜の耐熱性が低下するおそれがある。
【0041】
また、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることが好ましい(請求項5、26)。
上記PTFE粒子の粒子径が0.2μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の撥水性を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1μmを超える場合には、上記PTFE粒子を均一に分散させることが困難となるおそれがある。
【0042】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることが好ましい(請求項6、27)。
上記複合めっき皮膜の厚みが5μm未満の場合には、表面粗度が大きい上記金属基材上に対して精度よく形成することができないおそれがある。また、上記複合めっき皮膜の耐久性が低下するおそれがある。一方、20μmを超える場合には、上記複合めっき皮膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
したがって、上記複合めっき皮膜の厚みは、5〜15μmであることがより好ましい。
【0043】
また、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることが好ましい(請求項8、29)。
上記Niストライクめっき皮膜の厚みが0.5μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させる効果を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1.5μmを超える場合には、めっきを施す工程として経済的ではないおそれがある。
【0044】
また、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることが好ましい(請求項11、32)。
上記NiPめっき皮膜の厚みが0.5μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させる効果を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1.5μmを超える場合には、めっきを施す工程として経済的ではないおそれがある。
【0045】
また、上記Niストライクめっき皮膜は電気めっき、上記NiPめっき皮膜は無電解めっき等の方法を用いて形成することができる。いずれの方法を用いても、上記Niストライクめっき皮膜及び上記NiPめっき皮膜を精度よく形成することができる。
【0046】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜が形成されている面(NiP/PTFE複合めっき皮膜の下層の表面)の表面粗度Rzは、5μm以下であることが好ましい(請求項12、33)。
上記複合めっき皮膜が形成されている面の表面粗度Rzが5μmを超える場合には、形成後の上記複合めっき皮膜にひけが生じるおそれがあり、該複合めっき皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0047】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることが好ましい(請求項13、34)。
上記複合めっき皮膜の表面粗度Rzが0.1μmを超える場合には、上記複合めっき皮膜上に形成した上記フッ素系皮膜にひけが生じるおそれがあり、該フッ素系皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0048】
また、上記DLC膜は、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成してあることが好ましい(請求項15、36)。
この場合には、上記DLC膜の膜厚精度をより一層向上させることができる。
【0049】
また、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることが好ましい(請求項16、37)。
この場合には、上記DLC膜の厚みが0.5μm未満の場合には、表面粗度が大きい上記金属基材上に対して精度よく形成することができないおそれがある。また、上記DLC膜の耐久性が低下するおそれがある。一方、5μmを超える場合には、上記DLC膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
【0050】
また、上記DLC膜が形成されている面(DLC膜の下層の表面)の表面粗度Rzは、10μm以下であることが好ましい(請求項17、38)。
この場合には、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzが10μmを超える場合には、形成後の上記DLC膜の耐久性が低下するおそれがある。
【0051】
また、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることが好ましい(請求項18、39)。
この場合には、上記DLC膜の表面粗度Rzが10μmを超える場合には、上記DLC膜上に形成した上記フッ素系皮膜にひけが生じるおそれがあり、該フッ素系皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0052】
なお、上記DLC膜の表面粗度Rzは、言うまでもなく、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzよりも小さい。これは、上記DLC膜が形成されることによって、表面が平滑化されるためである。
【0053】
また、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることが好ましい(請求項19、40)。
この場合には、上記フッ素系皮膜は、撥水性を充分に有するものとなる。
【0054】
また、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることが好ましい(請求項20、41)。
上記フッ素系皮膜の厚みが0.01μm未満の場合には、上記フッ素系皮膜の剥離や損傷が生じ易くなり、耐久性が低下するおそれがある。一方、0.5μmを超える場合には、上記フッ素系皮膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
【0055】
また、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることが好ましい(請求項21、42)。
この場合には、上記鉄系基材に上記皮膜構造を適用することにより、該皮膜構造が有する性能を有効に発揮することができる。
【0056】
上記第3の発明においては、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項44)。
また、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記弁部、上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項45)。
いずれの場合にも、上記ニードルの表面を平滑化することができる。そのため、上記表面平滑化層上に形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。これにより、上記ニードルの所望の部分に、優れた撥水性を付与することができる。
【0057】
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項46)。
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記弁部及び上記シャフト部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項47)。
いずれの場合にも、上記ニードルの所望の部分に、優れた撥水性を付与することができる。
【0058】
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の80%以上の領域に形成されていることが好ましい(請求項48)。
この場合には、上記ニードルの表面に、燃料に起因する生成物等の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる皮膜構造及びその形成方法について、図1〜図3を用いて説明する。
本例の皮膜構造1は、図1に示すごとく、金属基材10の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜12を有するものである。金属基材10上には、金属表面10の表面を平滑化するための表面平滑化層11が形成されており、表面平滑化層11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。
なお、本例では、表面平滑化層11として、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜(以下、適宜、複合めっき皮膜という)を用いた。
以下、これを詳説する。
【0060】
本例の皮膜構造1は、図1に示すごとく、Fe(鉄)やその他種々の金属を主成分とする金属基材10に適用することができ、この金属基材10の表面に撥水性を有するフッ素系皮膜12を形成したものである。なお、本例では、金属基材10としてFeを主成分とするオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いた。また、金属基材10の表面粗度Rz(10)は2μmと非常に大きく、表面加工等の処理を行っていないものである。
【0061】
また、同図に示すごとく、金属基材10と複合めっき皮膜11との間には、複合めっき皮膜11の密着性を高めるための2層の下地が形成されている。そのうちの1層は、金属基材10上に形成された密着層としてのNiストライクめっき皮膜13であり、Ni(ニッケル)を含有してなる。もう1層は、Niストライクめっき皮膜13上に形成された下地層としてのNiPめっき皮膜14であり、NiP(ニッケルリン)を含有してなる。なお、Niストライクめっき皮膜13の厚みは1μm、NiPめっき皮膜14の厚みは1μmである。
【0062】
また、同図に示すごとく、金属基材10上に形成された2層の下地の上には、複合めっき皮膜11が形成されている。複合めっき皮膜11は、ベース材料であるNiP(ニッケルリン)中にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子が分散されたものである。なお、分散されているPTFE粒子の粒子径は0.2〜1.0μmであり、含有率は7〜9重量%(22〜26体積%)である。また、複合めっき皮膜11の厚みは10μmである。また、複合めっき皮膜11が形成されている面、すなわちNiPめっき皮膜14の表面粗度Rz(14)は0.03μmである。
【0063】
また、同図に示すごとく、複合めっき皮膜11上には、フッ素を含有してなるフッ素系皮膜12が形成されている。本例のフッ素系皮膜12は、フルオロアルキルシランを含有してなるものである。なお、フッ素系皮膜12の厚みは0.1μmである。また、フッ素系皮膜12が形成されている面、すなわち複合めっき皮膜11の表面粗度Rz(11)は0.03μmである。
【0064】
次に、本例の皮膜構造1の形成方法について説明する。
本例の皮膜構造1の形成方法は、図2、図3に示すごとく、金属基材10上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液110を塗布して乾燥させることにより、表面平滑化層としての複合めっき皮膜11を形成する表面平滑化層形成工程と、複合めっき11皮膜上に、フッ素を含有するフッ素含有液120を塗布して乾燥させることにより、フッ素系皮膜12を形成するフッ素系皮膜形成工程とを行う。
なお、本例では、図2、図3に示すごとく、金属基材10としての試験片に皮膜構造1を形成する。
以下、これを詳説する。
【0065】
まず、各種皮膜を形成する前に、試験片10の前洗浄を行う。前洗浄としては、アルカリ洗浄工程、第1酸洗浄工程、電解洗浄工程、及び第2酸洗浄工程の4つの洗浄工程(図示略)を順に行う。以下、それぞれの工程について説明する。
【0066】
<アルカリ洗浄工程>
試験片10をアルカリ洗浄剤(ユケン工業(株)製:パクナ200TA)中に浸漬し、液温:60℃、浸漬時間:10分の条件でアルカリ洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0067】
<第1酸洗浄工程>
試験片10を市販の塩酸水溶液中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:10分の条件で酸洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0068】
<電解洗浄工程>
試験片10を電解洗浄剤(上村工業(株)製:アサヒクリーナーC−4000)中に浸漬し、液温:60℃、電流密度:2A/dm2、浸漬時間:10分の条件で電解洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0069】
<第2洗浄工程>
試験片10を市販の塩酸水溶液中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:5分の条件で酸洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0070】
次に、前洗浄を行った試験片10について、下地としてのNiストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14、さらに表面平滑化層としての複合めっき皮膜11を形成するための密着層形成工程、エッチング工程、下地層形成工程、及び表面平滑化層形成工程を順に行う。以下、それぞれの工程について図2を用いて説明する。
【0071】
<密着層形成工程>
図2(a)に示すごとく、試験片10を塩化ニッケル及び酢酸を混合したNi含有溶液130中に浸漬し、液温:常温、電流密度:2A/dm2、浸漬時間:3分の条件でNiストライクめっき皮膜13を形成する。その後、試験片10を水洗いする。
【0072】
<エッチング工程>
図2(b)に示すごとく、試験片10を市販の硫酸水溶液200中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:30秒の条件でエッチングを行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0073】
<下地層形成工程>
図2(c)に示すごとく、試験片10をNiP含有溶液140(奥野製薬工業(株)製:トップニコロンTOM−S)中に浸漬し、液温:95℃、浸漬時間:5分の条件でNiPめっき皮膜14を形成する。
【0074】
<表面平滑化層形成工程>
図2(d)に示すごとく、下地層形成工程後、水洗いをせずに試験片10をNiP/PTFE含有溶液110(奥野製薬工業(株)製:トップニコジットFL−M、FM−1、FM−A)中に浸漬する。浸漬条件は、液温:95℃、浸漬時間:60分である。その後、試験片10を水洗いし、乾燥器3において60℃で乾燥させ、複合めっき皮膜11を形成する。
【0075】
次に、複合めっき皮膜11を形成した試験片10について、フッ素系皮膜12を形成するためのフッ素系皮膜形成工程を行う。本例では、フッ素系皮膜12の形成にコーティング装置4を用いた。コーティング装置4は、試験片10を保持するための保持部41と、保持部41を所定の速度で上下動させるためのモータ42とを備えている。以下、この工程について図3を用いて説明する。
【0076】
<フッ素系皮膜形成工程>
図3に示すごとく、まず試験片10をコーティング装置4の保持部41にセットする。次に、保持部41を下方に動かし、試験片10をフッ素含有液120(フルオロアルキルシラン:1〜20重量%、アルキルシラン:1〜10重量%、その他界面活性剤、消泡剤等)中に静かに浸漬する。このとき、フッ素系皮膜12を形成したい面をフッ素含有液120の液面に対して垂直にして浸漬する。そして、保持部41を上方に動かし、試験片10を一定速度(30mm/分)でフッ素含有液120から引き上げる。その後、試験片10を280℃で10分間乾燥させ、フッ素系皮膜12を形成する。
以上により、図1の皮膜構造1を形成する。
【0077】
次に、本例の皮膜構造1の作用効果について説明する。
本例の皮膜構造1は、金属基材10上に、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層としての複合めっき皮膜11と、フッ素を含有してなるフッ素系皮膜12とを有している。そして、皮膜構造1において注目すべき点は、金属基材10上にフッ素系皮膜12が直接形成されているのではなく、金属基材10上に複合めっき皮膜11が形成されており、さらにその上にフッ素系皮膜12が形成されていることにある。これにより、皮膜構造1は、表面粗度が大きい金属基材10に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
【0078】
すなわち、皮膜構造1において、金属基材10上には、NiPをベース材料とする複合めっき皮膜11が形成されている。この複合めっき皮膜11は、フッ素系皮膜12よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、本例のように金属基材10の表面粗度が大きい場合でも、複合めっき皮膜11を金属基材10上に厚膜に形成することによって、金属基材10の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された複合めっき皮膜11は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0079】
また、複合めっき皮膜11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。このフッ素系皮膜12は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本例の皮膜構造1では、フッ素系皮膜12は、上述のごとく金属基材10上に形成された、表面粗度が小さい複合めっき皮膜11上に形成されている。そのため、本例のように金属基材10の表面粗度が大きい場合でも、金属基材10の表面の凹凸の影響を受けることなく、フッ素系皮膜12を複合めっき皮膜11上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成されたフッ素系皮膜12は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0080】
以上のことから、本例の皮膜構造1は、金属基材10上に厚膜形成が可能な複合めっき皮膜11を第1層として設け、さらにその上に薄膜のフッ素系皮膜12を第2層として設ける構成とすることにより、金属基材10の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め金属基材10の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理を行う必要がなくなる。
また、皮膜構造1は、金属基材10の表面に精度よく形成されたフッ素系皮膜12を有するものとなる。フッ素系皮膜12は、優れた撥水性を有していることから、皮膜構造1は、金属基材10の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0081】
また、複合めっき皮膜11は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、金属基材10が加熱された場合でも、金属基材10とフッ素系皮膜12との間に設けた複合めっき皮膜11によって、フッ素系皮膜12の優れた撥水性を維持することができる。
また、複合めっき皮膜11には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、複合めっき皮膜11は、フッ素系皮膜12に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面のフッ素系皮膜12が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に設けた複合めっき皮膜11によって、皮膜構造1全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0082】
また、本例において、金属基材10上には、Niストライクめっき皮膜13が形成されている。そのため、Niストライクめっき皮膜13の上に形成されている各種皮膜の密着性を向上させることができる。
また、複合めっき皮膜11は、NiPめっき皮膜14上に形成されている。そのため、複合めっき皮膜11の未着を防止することができる。
また、複合めっき皮膜11は、無電解めっき法により形成してある。そのため、複合めっき皮膜11の膜厚精度をより一層向上させることができる。
【0083】
また、複合めっき皮膜11が形成されている面、すなわちNiPめっき皮膜14の表面粗度Rz(14)は0.03μmと非常に小さい。そのため、複合めっき皮膜11を精度よく形成することができる。
また、複合めっき皮膜11の表面粗度Rz(11)も0.03μmと非常に小さい。そのため、フッ素系皮膜12を複合めっき皮膜11上に精度よく形成することができる。
また、フッ素系皮膜12は、フルオロアルキルシランを含有してなる。そのため、フッ素系皮膜12は、撥水性を充分に有するものとなる。
【0084】
このように、本例の皮膜構造1は、表面粗度が大きい金属基材10に対しても適用することができる。また、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜12の優れた撥水性を維持することができる。
【0085】
なお、本例では、金属基材10と複合めっき皮膜11との間に、Niストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14の2層の下地を設けた。金属基材10の種類によっては、両者を設けない構成、又はどちらか一方のみを設ける構成とすることもできる。この場合においても、金属基材10の表面粗度に関係なく、皮膜構造1を問題なく形成することができる。
【0086】
また、本例では、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層として、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜11を用いたが、これに代えてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を用いることができる。
【0087】
(実施例2)
本例は、本発明の皮膜構造1について、撥水性の評価を行ったものである。
本例では、本発明品Eとして、金属基材10上にNiP/PTFE複合めっき皮膜11を形成し、その上にフッ素系皮膜12を形成し、Niストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14の2層の下地を設けない構成の皮膜構造1を準備した(図1参照)。
また、比較のために、金属基材上にフッ素系皮膜のみを形成した構成の皮膜構造(比較品C1)、金属基材上にNiP/PTFE複合めっき皮膜のみを形成した構成の皮膜構造(比較品C2)を準備した。
【0088】
なお、本発明品E及び比較品C1、C2において、金属基材としては、実施例1と同様に、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いており、その表面粗度Rzは2μmである。また、その他、NiP/PTFE複合めっき皮膜及びフッ素系皮膜の厚みや形成方法等も、実施例1と同様である。
【0089】
次に、撥水性の評価方法について説明する。
本発明品E及び比較品C1、C2の撥水性は、表面自由エネルギー測定装置(協和界面化学社製:CA−VE型)を用いて、シリンジ径φ0.7mm、測定液滴量3〜4μl、液滴測定法:θ/2法、平行接触角の条件で対水接触角を測定することにより評価した。本例では、加熱時間における対水接触角の変化を調べた。なお、金属基材の加熱は、250℃で50時間行った。
【0090】
対水接触角の測定結果を図4に示す。図4において、縦軸は対水接触角(°)、横軸は加熱時間(Hr)を示している。
同図から知られるように、比較品C1は、加熱によって撥水性が大幅に低下している。また、比較品C2は、加熱によっても撥水性の低下がほとんどみられないが、初期の撥水性が比較品C1よりも低い。これに対して、本発明品Eは、比較品C1、C2に比べて初期の撥水性が高く、また加熱されてもその優れた撥水性を維持していることがわかる。
【0091】
すなわち、本発明品Eの皮膜構造1は、撥水性に優れたフッ素系皮膜12と、耐熱性に優れ、かつ撥水性も有するNiP/PTFE複合めっき皮膜11とを組み合わせた構成としたことにより、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
【0092】
(実施例3)
本例は、実施例1の皮膜構造1を燃料噴射ノズルに用いた例である。
本例の燃料噴射ノズル7は、図5に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用したものであり、ディーゼルエンジンの気筒内に高圧燃料を噴射するものである。燃料噴射ノズル7は、ノズルボデー71とニードル72とにより構成され、図示しないノズルホルダに組み付けられてエンジンに取り付けられている。
【0093】
同図に示すごとく、ノズルボデー71は、ニードル72を挿通する案内孔710、案内孔710の開口端部719近傍に設けられた摺動孔部711と、案内孔710の途中に設けられた燃料溜まり部712と、燃料溜まり部712に連通される燃料導入通路713と、案内孔710の先端部に設けられた円錐状の弁座715と、弁座715を貫通するよう設けられた複数の噴孔714とを有する。
【0094】
案内孔710は、ノズルボデー71の内部において軸方向に穿設されている。また、燃料溜まり部712は、案内孔710の内径を全周に渡って拡大して形成されており、案内孔710に挿通されるニードル72の外周に環状の空間を有している。また、燃料導入通路713は、ノズルホルダに供給された高圧燃料を燃料溜まり部712に導く通路であり、ノズルボデー71に穿設されている。
【0095】
同図に示すごとく、ニードル72は、ノズルボデー71の摺動孔部711に摺動可能に挿通される摺動部723と、ノズルボデー71の弁座715に着座及び離座して噴孔714を開閉する円錐形状の弁部721と、摺動部723と弁部721とをつなぐシャフト部722とを有する。また、摺動部723の後端側には、ジャーナル部724を有する。
【0096】
シャフト部722は、摺動部723よりも外径が小さく、案内孔711に挿通され、案内孔711との間に燃料通路716を形成している。また、シャフト部722において、燃料溜まり部712に面する位置には、摺動部723側からテーパ状に縮径して設けられた受圧面725と、シャフト部722において最小径の小径部726とが設けられている。そして、この受圧面725及び小径部726は、ノズルボデー71との間に、燃料が蓄えられる燃料溜まり部712を形成している。
【0097】
上記構成の燃料噴射ノズル7は、次のように作動させる。
すなわち、図示しない燃料ポンプより圧送された高圧燃料が燃料導入通路713を介して燃料溜まり部712に蓄えられる。受圧面725に加わる燃料溜まり部712の燃料圧がニードル72の閉弁方向の圧力よりも大きくなると、ニードル72が押し上げられ、案内孔710内を所定量リフトする。そして、弁部721が弁座715から離れて燃料通路716と噴孔714とが連通され、高圧燃料が複数の噴孔714からエンジンの気筒内へ噴射される。その後、受圧面725に加わる燃料圧がニードル72の閉弁方向の圧力より小さくなると、ニードル72が案内孔710内を下降して弁部721が弁座715に当接し、燃料通路716と噴孔714との連通が遮断され、燃料噴射を停止する。
【0098】
そして、本例の燃料噴射ノズル7において、ニードル72の一部には、本発明の皮膜構造1が形成されている。すなわち、ニードル72を金属基材10とし、その上に表面平滑化層11とフッ素系皮膜12とを有する皮膜構造1(図8参照)が形成されている。
本例では、図6に示すごとく、ニードル72の領域C(弁部721及びシャフト部722)に皮膜構造1が形成されている。なお、表面平滑化層11としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を用いた。
【0099】
また、本例では、同図に示すごとく、表面平滑化層としてのDLC膜11は、ニードル72の領域A1(弁部721、シャフト部722及び摺動部723)に形成されている。また、フッ素系皮膜12は、ニードル72の領域B1(弁部721及びシャフト部722)に形成されている。
【0100】
したがって、上述したように、ニードル72の領域C、つまりDLC膜11が形成されている領域A1とフッ素系皮膜12が形成されている領域B1との重なり部分に、皮膜構造1が形成されている。
また、ニードル72の摺動部723は、DLC膜11のみが形成されている。この部分は、DLC膜11の高硬度かつ高固体潤滑作用によって、摺動部723の耐摩耗性向上の効果がある。
【0101】
ここで、表面平滑化層であるDLC膜11の成膜方法について説明する。本例では、スパッタリング法を用いてDLC膜11をニードル72の所望の領域に成膜した。
スパッタリングを行う成膜装置5は、図7に示すごとく、電源51と、成膜装置5内を真空引きするための真空ポンプ52と、成膜装置5内にアルゴンガス531を導入するためのバルブ53とを有する。電源51には、基板電極(+)としてのニードル72と、ターゲット電極(−)54とが配設されている。また、ターゲット電極(−)54には、成膜材料となるターゲット55がセットされている。
【0102】
この成膜装置5を用いてDLC膜11を成膜するに当たっては、同図に示すごとく、まず成膜装置5内を真空ポンプ52により真空とした後、アルゴンガス531を注入する。そして、ターゲット55に電圧を印加して放電させることにより、アルゴンガス531が正イオンとなってターゲット55に衝突し、ターゲット55の原子551を叩き出す。この原子551がニードル72に堆積し、薄膜が形成される。このとき、ニードル72は、常に回転させておく。
【0103】
本例では、Cr(クロム)、W(タングステン)、C(カーボン)の3種類のターゲット55を順に変えて、ニードル72の所望の領域にスパッタリングを行い、図8に示すごとく、最終的にCr層111、W/C層112、C層113の3層からなるDLC膜11を成膜した。W/C層112は、W及びCが混在した層となっており、C層113に近づくに従ってWの割合が少なくなっている。
【0104】
次に、本例の燃料噴射ノズル7における作用効果について説明する。
本例の燃料噴射ノズル7は、燃料に起因する生成物等の異物が付着し易い部分のニードル72(本例では、弁部721及びシャフト部722)に、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造1を形成してある。そのため、ニードル72の表面に上記の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。これにより、ニードル72の摺動不良を防止し、摺動状態を良好に保つことができる。それ故に、燃料噴射ノズル7による燃料噴射を長期間に渡って良好に行うことができる。
【0105】
なお、本例では、ニードル72のジャーナル部724には、DLC膜11を形成していない。すなわち、ジャーナル部724は、DLC膜11を形成した後、ニードル72の寸法調整を行うために研削加工する場合がある。DLC膜11を実施すれば、研削加工が困難となる。そのため、ジャーナル部724には、DLC膜11を形成していない。よって、寸法調整が必要なく、研削加工を行わない場合には、ジャーナル部724にDLC膜11を形成することができる。
【0106】
また、DLC膜11及びフッ素系皮膜12の形成領域としては、図9に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A1に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B2に形成する構成としてもよい。
また、図10に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A2に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B1に形成する構成としてもよい。
また、図11に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A2に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B2に形成する構成としてもよい。
いずれの場合も、領域A1、A2と領域B1、B2との重なり部分である領域Cに、皮膜構造1が形成されている。
【0107】
なお、図6、図9〜図11に示すごとく、ニードル72におけるDLC膜11の形成領域は、領域A1及び領域A2の2種類がある。これらは次のように使い分けることができる。
例えば、新規開発品では、DLC膜11を形成する際の容易性等の観点から、ニードル72の領域A1のように全体的にDLC膜11を形成する。
一方、既に実用化されている従来品では、ニードル72における弁部721を除いた領域A2に形成する。すなわち、既に使用実績があるタイプの場合には、弁部721は、燃料噴射の際に弁座715に着座及び離座し、摩擦が生じることによる経時劣化を予想して、点検時に劣化分を補正することが行われている。そのため、弁部721にDLC膜11を形成すると、経時劣化パターンが変化してしまい、従来と同様の補正量で補正すると逆に問題が生じうる場合がある。よって、適正な補正量が変化しないように、ニードル72の領域A1から弁部721を除いた領域A2に形成する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例1における、皮膜構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、複合めっき皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図3】実施例1における、フッ素系皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図4】実施例2における、対水接触角の測定結果を示す説明図。
【図5】実施例3における、燃料噴射ノズルの構造を示す説明図。
【図6】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図7】実施例3における、DLC膜を形成する工程を示す説明図。
【図8】実施例3における、皮膜構造を示す説明図。
【図9】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図10】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図11】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【符号の説明】
【0109】
1 皮膜構造
10 金属基材
11 表面平滑化層(NiP/PTFE複合めっき皮膜)
12 フッ素系皮膜
13 Niストライクめっき皮膜
14 NiPめっき皮膜
7 燃料噴射ノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属基材等に撥水性を付与する方法として、表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を形成した皮膜構造が知られている。この皮膜構造は、加熱され、防汚性を必要とするもの、例えば燃料噴射ノズル等の自動車部品(特許文献1参照)、フライパンやコンロ等の家庭用製品に広く用いられている。
【0003】
フッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと非常に薄いことから、表面粗度が大きい金属基材に対して直接形成すると、形成後の皮膜にひけが生じて不均一な膜となり、金属基材に充分な撥水性を付与することができない。そのため、フッ素系皮膜を表面粗度が大きい金属基材に形成する場合には、形成後の皮膜にひけが生じないように、予め金属基材の表面粗度をナノオーダーまで加工する必要があった。
【0004】
それ故、表面粗度が大きい金属基材に対しても、表面を加工する等の処理を行うことなく直接形成することができ、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造が必要とされている。
【0005】
また、フッ素系皮膜が適用される上記の燃料噴射ノズルでも、近年、燃料の高噴射圧化によるノズル被熱の高温化、バイオ燃料使用による燃料事情の変化等により、ニードル部分に燃料に起因する生成物と思われる多量の異物が付着するという問題がある。
【0006】
上記燃料噴射ノズルは、燃料を噴射する噴孔を穿設したノズルボデーと、そのノズルボデー内に摺動可能に収容されたニードルとを備えており、ニードルを摺動させることによって、噴孔を開閉して燃料を噴射できるように構成されている。ニードル部分に多量の異物が付着すると、この異物が堆積して塊となったり、それがノズルボデーとニードルとの間に脱落したりする。これにより、ニードルの摺動状態が悪化し、さらにはニードルが固着してエンジン始動不良につながるおそれがある。
【0007】
それ故、燃料噴射ノズルにおいては、特に、ニードル部分への異物の付着を防止することができる、優れた撥水性を有する皮膜構造が必要とされている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−144893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたもので、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造及びその形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造において、
上記金属基材上には、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層が形成されており、
該表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されていることを特徴とする皮膜構造にある(請求項1)。
【0011】
本発明の皮膜構造は、上記金属基材上に、上記金属基材の表面を平滑化するための上記表面平滑化層と、フッ素を含有してなる上記フッ素系皮膜とを有している。そして、上記皮膜構造において注目すべき点は、上記金属基材上に上記フッ素系皮膜が直接形成されているのではなく、上記金属基材上に上記表面平滑化層が形成されており、さらにその上に上記フッ素系皮膜が形成されていることにある。これにより、上記皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
この理由について、以下に説明する。
【0012】
上記皮膜構造において、上記金属基材上には、上記表面平滑化層が形成されている。この表面平滑化層は、上記金属基材の表面を平滑化するためのものである。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0013】
また、上記表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されている。このフッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本発明の皮膜構造では、上記フッ素系皮膜は、上述のごとく上記金属基材上に形成された、表面粗度が小さい上記表面平滑化層上に形成されている。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、該金属基材の表面の凹凸の影響を受けることなく、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0014】
以上のことから、本発明の皮膜構造は、上記金属基材上に該金属基材の表面を平滑化することができる上記表面平滑化層を第1層として設け、さらにその上に薄膜の上記フッ素系皮膜を第2層として設ける構成とすることにより、上記金属基材の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め上記金属基材の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理を行う必要がなくなる。
また、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に精度よく形成された上記フッ素系皮膜を有するものとなる。上記フッ素系皮膜は、優れた撥水性を有していることから、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0015】
このように、本発明の皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用することができる。また、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
【0016】
第2の発明は、金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造を形成する方法において、
上記金属基材上に、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層を形成する表面平滑化層形成工程と、
上記表面平滑化層上に、フッ素を含有するフッ素含有液を塗布して乾燥させることにより、上記フッ素系皮膜を形成するフッ素系皮膜形成工程とを有することを特徴とする皮膜構造の形成方法にある(請求項22)。
【0017】
本発明の皮膜構造の形成方法は、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成する上記表面平滑化層形成工程と、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に形成する上記フッ素系皮膜形成工程とを行う。すなわち、上記形成方法において注目すべき点は、上記金属基材上に上記フッ素系皮膜を直接形成するのではなく、上記金属基材上に上記表面平滑化層を形成した後、該表面平滑化層上に上記フッ素系皮膜を形成することにある。これにより、上記形成方法により形成された皮膜構造は、表面粗度が大きい金属基材に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができるものとなる。
この理由について、以下に説明する。
【0018】
上記形成方法において、上記表面平滑化層形成工程においては、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成する。この表面平滑化層は、上記金属基材の表面を平滑化するためのものである。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記表面平滑化層を上記金属基材上に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0019】
また、上記フッ素系皮膜形成工程においては、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に形成する。このフッ素系皮膜は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本発明の形成方法では、上記フッ素系皮膜は、上述のごとく上記金属基材上に形成された、表面粗度が小さい上記表面平滑化層上に形成する。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、該金属基材の表面の凹凸の影響を受けることなく、上記フッ素系皮膜を上記表面平滑化層上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0020】
以上のことから、本発明の皮膜構造の形成方法は、上記金属基材上に該金属基材の表面を平滑化することができる上記表面平滑化層を第1層として形成した後、さらにその上に薄膜の上記フッ素系皮膜を第2層として形成することにより、上記金属基材の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め上記金属基材の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理工程を行う必要がなくなる。
また、上記形成方法により得られる皮膜構造は、上記金属基材の表面に精度よく形成された上記フッ素系皮膜を有するものとなる。上記フッ素系皮膜は、優れた撥水性を有していることから、上記皮膜構造は、上記金属基材の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0021】
このように、本発明の形成方法によれば、表面粗度が大きい金属基材に対しても皮膜構造を形成することができる。また、形成された皮膜構造は、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
【0022】
第3の発明は、ノズルボデーと、該ノズルボデー内に収容されたニードルとを備え、
上記ノズルボデーは、上記ニードルを挿通する案内孔と、該案内孔の開口端近傍に設けられた摺動孔部と、上記案内孔の途中に設けられた燃料溜まり部と、上記案内孔の先端部に設けられた弁座と、該弁座を貫通するよう設けられた複数の噴孔とを有し、
上記ニードルは、上記摺動孔部に摺動可能に挿通される摺動部と、上記弁座に着座及び離座して上記噴孔を開閉する弁部と、上記摺動部と上記弁部とをつなぐシャフト部とを有し、
上記ニードルの上記弁部を上記ノズルボデーの上記弁座から離座させ、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成された燃料噴射ノズルにおいて、
上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする上記第1の発明の皮膜構造が形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズルにある(請求項43)。
【0023】
本発明の燃料噴射ノズルは、上記ノズルボデーと該ノズルボデー内に収容された上記ニードルとを備えている。上記燃料噴射ノズルは、上記摺動部を摺動させることにより、上記弁部を上記弁座から離座させて上記噴孔を開口し、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成されている。そして、上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする上記第1の発明の皮膜構造が形成されている。
【0024】
すなわち、本発明では、燃料に起因する生成物等の異物が付着し易い上記ニードル部分に、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造を形成してある。これにより、上記ニードルの表面に上記の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。それ故、上記ニードルの摺動不良を防止し、摺動状態を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
上記第1の発明においては、上記表面平滑化層は、NiP(ニッケルリン)中にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜(以下、適宜、単に複合めっき皮膜という)であることが好ましい(請求項2)。
すなわち、上記皮膜構造において、上記金属基材上には、NiPをベース材料とする上記複合めっき皮膜が形成されている。この複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に厚膜に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均すことができる。したがって、形成された上記複合めっき皮膜よりなる上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0026】
また、上記複合めっき皮膜は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、上記金属基材が加熱されても、該金属基材と上記フッ素系皮膜との間に設けた上記複合めっき皮膜によって、上記フッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
また、上記複合めっき皮膜には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、上記複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面の上記フッ素系皮膜が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に設けた上記複合めっき皮膜によって、上記皮膜構造全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0027】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された密着層としてのNiストライクめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項7)。
この場合には、上記Niストライクめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させることができる。
【0028】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記Niストライクめっき皮膜上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項9)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0029】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されている構成とすることができる(請求項10)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を設けることにより、上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0030】
なお、上記Niストライクめっき及び上記NiPめっき皮膜は、上記金属基材の種類によって必要かどうかの判断を行い、その上で上記の様々な構成をとることが好ましい。例えば、上記金属基材としてSCM420を用いた場合では、上記Niストライクめっき及び上記NiPめっき皮膜ともに必要となる。また、SPCCを用いた場合では、上記NiPめっき皮膜は必ずしも必要ではない。
【0031】
また、上記表面平滑化層は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜であることも好ましい(請求項14)。
この場合には、上記DLC膜は無極性であるため、異物とのイオン結合を抑制することができる。また、上記DLC膜上に上記フッ素系皮膜を形成することで、表面が滑らかとなり、表面粗度に起因するアンカー効果が低減し、異物の付着を抑制することができる。
【0032】
上記第2の発明においては、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液を塗布して乾燥させることにより、上記表面平滑化層としてのNiP/PTFE複合めっき皮膜を形成することが好ましい(請求項23)。
すなわち、上記形成方法において、上記表面平滑化層形成工程においては、NiPをベース材料とする上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に形成する。この複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、例え上記金属基材の表面粗度が大きい場合でも、上記複合めっき皮膜を上記金属基材上に厚膜に形成することによって、該金属基材の表面の凹凸を埋め均すことができる。したがって、形成された上記複合めっき皮膜よりなる上記表面平滑化層は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0033】
また、上記複合めっき皮膜は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、上記金属基材が加熱されても、該金属基材と上記フッ素系皮膜との間に形成した上記複合めっき皮膜によって、上記フッ素系皮膜の優れた撥水性を維持することができる。
また、上記複合めっき皮膜には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、上記複合めっき皮膜は、上記フッ素系皮膜に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面の上記フッ素系皮膜が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に形成した上記複合めっき皮膜によって、上記皮膜構造全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0034】
また、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、Niを含有するNi含有液を塗布して、密着層としてのNiストライクめっき皮膜を形成する密着層形成工程を行うことができる(請求項28)。
この場合には、上記Niストライクめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の密着性を向上させることができる。
【0035】
また、上記密着層形成工程後に、上記Niストライクめっき皮膜上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行い、その後、上記第1層形成工程を行うことができる(請求項30)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0036】
また、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行うことができる(請求項31)。
この場合には、上記NiPめっき皮膜を形成することにより、後工程において形成する上記複合めっき皮膜の未着を防止し、密着性を向上させることができる。
【0037】
なお、上記密着層形成工程及び上記下地層形成工程は、上記金属基材の種類によって必要かどうかの判断を行い、その上で行うことが好ましい。
【0038】
また、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、上記表面平滑化層としてのDLC膜を形成することも好ましい(請求項35)。
この場合には、上記DLC膜は無極性であるため、異物とのイオン結合を抑制することができる。また、上記DLC膜上に上記フッ素系皮膜を形成することで、表面が滑らかとなり、表面粗度に起因するアンカー効果が低減し、異物の付着を抑制することができる。
【0039】
上記第1及び第2の発明においては、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、無電解めっき法により形成することが好ましい(請求項3、24)。
この場合には、上記複合めっき皮膜の膜厚精度をより一層向上させることができる。
なお、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、電気めっき等の他の方法を用いて形成することもできる。
【0040】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることが好ましい(請求項4、25)。
上記PTFE粒子の含有量が7重量%未満の場合には、上記複合めっき皮膜の撥水性が低下するおそれがある。一方、9重量%を超える場合には、上記複合めっき皮膜の耐熱性が低下するおそれがある。
【0041】
また、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることが好ましい(請求項5、26)。
上記PTFE粒子の粒子径が0.2μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の撥水性を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1μmを超える場合には、上記PTFE粒子を均一に分散させることが困難となるおそれがある。
【0042】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることが好ましい(請求項6、27)。
上記複合めっき皮膜の厚みが5μm未満の場合には、表面粗度が大きい上記金属基材上に対して精度よく形成することができないおそれがある。また、上記複合めっき皮膜の耐久性が低下するおそれがある。一方、20μmを超える場合には、上記複合めっき皮膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
したがって、上記複合めっき皮膜の厚みは、5〜15μmであることがより好ましい。
【0043】
また、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることが好ましい(請求項8、29)。
上記Niストライクめっき皮膜の厚みが0.5μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させる効果を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1.5μmを超える場合には、めっきを施す工程として経済的ではないおそれがある。
【0044】
また、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることが好ましい(請求項11、32)。
上記NiPめっき皮膜の厚みが0.5μm未満の場合には、上記複合めっき皮膜の密着性を向上させる効果を有効に発揮することができないおそれがある。一方、1.5μmを超える場合には、めっきを施す工程として経済的ではないおそれがある。
【0045】
また、上記Niストライクめっき皮膜は電気めっき、上記NiPめっき皮膜は無電解めっき等の方法を用いて形成することができる。いずれの方法を用いても、上記Niストライクめっき皮膜及び上記NiPめっき皮膜を精度よく形成することができる。
【0046】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜が形成されている面(NiP/PTFE複合めっき皮膜の下層の表面)の表面粗度Rzは、5μm以下であることが好ましい(請求項12、33)。
上記複合めっき皮膜が形成されている面の表面粗度Rzが5μmを超える場合には、形成後の上記複合めっき皮膜にひけが生じるおそれがあり、該複合めっき皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0047】
また、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることが好ましい(請求項13、34)。
上記複合めっき皮膜の表面粗度Rzが0.1μmを超える場合には、上記複合めっき皮膜上に形成した上記フッ素系皮膜にひけが生じるおそれがあり、該フッ素系皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0048】
また、上記DLC膜は、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成してあることが好ましい(請求項15、36)。
この場合には、上記DLC膜の膜厚精度をより一層向上させることができる。
【0049】
また、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることが好ましい(請求項16、37)。
この場合には、上記DLC膜の厚みが0.5μm未満の場合には、表面粗度が大きい上記金属基材上に対して精度よく形成することができないおそれがある。また、上記DLC膜の耐久性が低下するおそれがある。一方、5μmを超える場合には、上記DLC膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
【0050】
また、上記DLC膜が形成されている面(DLC膜の下層の表面)の表面粗度Rzは、10μm以下であることが好ましい(請求項17、38)。
この場合には、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzが10μmを超える場合には、形成後の上記DLC膜の耐久性が低下するおそれがある。
【0051】
また、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることが好ましい(請求項18、39)。
この場合には、上記DLC膜の表面粗度Rzが10μmを超える場合には、上記DLC膜上に形成した上記フッ素系皮膜にひけが生じるおそれがあり、該フッ素系皮膜を精度よく形成することができないおそれがある。
【0052】
なお、上記DLC膜の表面粗度Rzは、言うまでもなく、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzよりも小さい。これは、上記DLC膜が形成されることによって、表面が平滑化されるためである。
【0053】
また、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることが好ましい(請求項19、40)。
この場合には、上記フッ素系皮膜は、撥水性を充分に有するものとなる。
【0054】
また、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることが好ましい(請求項20、41)。
上記フッ素系皮膜の厚みが0.01μm未満の場合には、上記フッ素系皮膜の剥離や損傷が生じ易くなり、耐久性が低下するおそれがある。一方、0.5μmを超える場合には、上記フッ素系皮膜の膜厚制御が困難となるおそれがある。
【0055】
また、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることが好ましい(請求項21、42)。
この場合には、上記鉄系基材に上記皮膜構造を適用することにより、該皮膜構造が有する性能を有効に発揮することができる。
【0056】
上記第3の発明においては、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項44)。
また、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記弁部、上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項45)。
いずれの場合にも、上記ニードルの表面を平滑化することができる。そのため、上記表面平滑化層上に形成された上記フッ素系皮膜は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。これにより、上記ニードルの所望の部分に、優れた撥水性を付与することができる。
【0057】
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項46)。
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記弁部及び上記シャフト部の少なくとも一部に形成されている構成とすることができる(請求項47)。
いずれの場合にも、上記ニードルの所望の部分に、優れた撥水性を付与することができる。
【0058】
また、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の80%以上の領域に形成されていることが好ましい(請求項48)。
この場合には、上記ニードルの表面に、燃料に起因する生成物等の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる皮膜構造及びその形成方法について、図1〜図3を用いて説明する。
本例の皮膜構造1は、図1に示すごとく、金属基材10の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜12を有するものである。金属基材10上には、金属表面10の表面を平滑化するための表面平滑化層11が形成されており、表面平滑化層11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。
なお、本例では、表面平滑化層11として、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜(以下、適宜、複合めっき皮膜という)を用いた。
以下、これを詳説する。
【0060】
本例の皮膜構造1は、図1に示すごとく、Fe(鉄)やその他種々の金属を主成分とする金属基材10に適用することができ、この金属基材10の表面に撥水性を有するフッ素系皮膜12を形成したものである。なお、本例では、金属基材10としてFeを主成分とするオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いた。また、金属基材10の表面粗度Rz(10)は2μmと非常に大きく、表面加工等の処理を行っていないものである。
【0061】
また、同図に示すごとく、金属基材10と複合めっき皮膜11との間には、複合めっき皮膜11の密着性を高めるための2層の下地が形成されている。そのうちの1層は、金属基材10上に形成された密着層としてのNiストライクめっき皮膜13であり、Ni(ニッケル)を含有してなる。もう1層は、Niストライクめっき皮膜13上に形成された下地層としてのNiPめっき皮膜14であり、NiP(ニッケルリン)を含有してなる。なお、Niストライクめっき皮膜13の厚みは1μm、NiPめっき皮膜14の厚みは1μmである。
【0062】
また、同図に示すごとく、金属基材10上に形成された2層の下地の上には、複合めっき皮膜11が形成されている。複合めっき皮膜11は、ベース材料であるNiP(ニッケルリン)中にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子が分散されたものである。なお、分散されているPTFE粒子の粒子径は0.2〜1.0μmであり、含有率は7〜9重量%(22〜26体積%)である。また、複合めっき皮膜11の厚みは10μmである。また、複合めっき皮膜11が形成されている面、すなわちNiPめっき皮膜14の表面粗度Rz(14)は0.03μmである。
【0063】
また、同図に示すごとく、複合めっき皮膜11上には、フッ素を含有してなるフッ素系皮膜12が形成されている。本例のフッ素系皮膜12は、フルオロアルキルシランを含有してなるものである。なお、フッ素系皮膜12の厚みは0.1μmである。また、フッ素系皮膜12が形成されている面、すなわち複合めっき皮膜11の表面粗度Rz(11)は0.03μmである。
【0064】
次に、本例の皮膜構造1の形成方法について説明する。
本例の皮膜構造1の形成方法は、図2、図3に示すごとく、金属基材10上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液110を塗布して乾燥させることにより、表面平滑化層としての複合めっき皮膜11を形成する表面平滑化層形成工程と、複合めっき11皮膜上に、フッ素を含有するフッ素含有液120を塗布して乾燥させることにより、フッ素系皮膜12を形成するフッ素系皮膜形成工程とを行う。
なお、本例では、図2、図3に示すごとく、金属基材10としての試験片に皮膜構造1を形成する。
以下、これを詳説する。
【0065】
まず、各種皮膜を形成する前に、試験片10の前洗浄を行う。前洗浄としては、アルカリ洗浄工程、第1酸洗浄工程、電解洗浄工程、及び第2酸洗浄工程の4つの洗浄工程(図示略)を順に行う。以下、それぞれの工程について説明する。
【0066】
<アルカリ洗浄工程>
試験片10をアルカリ洗浄剤(ユケン工業(株)製:パクナ200TA)中に浸漬し、液温:60℃、浸漬時間:10分の条件でアルカリ洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0067】
<第1酸洗浄工程>
試験片10を市販の塩酸水溶液中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:10分の条件で酸洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0068】
<電解洗浄工程>
試験片10を電解洗浄剤(上村工業(株)製:アサヒクリーナーC−4000)中に浸漬し、液温:60℃、電流密度:2A/dm2、浸漬時間:10分の条件で電解洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0069】
<第2洗浄工程>
試験片10を市販の塩酸水溶液中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:5分の条件で酸洗浄を行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0070】
次に、前洗浄を行った試験片10について、下地としてのNiストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14、さらに表面平滑化層としての複合めっき皮膜11を形成するための密着層形成工程、エッチング工程、下地層形成工程、及び表面平滑化層形成工程を順に行う。以下、それぞれの工程について図2を用いて説明する。
【0071】
<密着層形成工程>
図2(a)に示すごとく、試験片10を塩化ニッケル及び酢酸を混合したNi含有溶液130中に浸漬し、液温:常温、電流密度:2A/dm2、浸漬時間:3分の条件でNiストライクめっき皮膜13を形成する。その後、試験片10を水洗いする。
【0072】
<エッチング工程>
図2(b)に示すごとく、試験片10を市販の硫酸水溶液200中に浸漬し、液温:常温、浸漬時間:30秒の条件でエッチングを行う。その後、試験片10を水洗いする。
【0073】
<下地層形成工程>
図2(c)に示すごとく、試験片10をNiP含有溶液140(奥野製薬工業(株)製:トップニコロンTOM−S)中に浸漬し、液温:95℃、浸漬時間:5分の条件でNiPめっき皮膜14を形成する。
【0074】
<表面平滑化層形成工程>
図2(d)に示すごとく、下地層形成工程後、水洗いをせずに試験片10をNiP/PTFE含有溶液110(奥野製薬工業(株)製:トップニコジットFL−M、FM−1、FM−A)中に浸漬する。浸漬条件は、液温:95℃、浸漬時間:60分である。その後、試験片10を水洗いし、乾燥器3において60℃で乾燥させ、複合めっき皮膜11を形成する。
【0075】
次に、複合めっき皮膜11を形成した試験片10について、フッ素系皮膜12を形成するためのフッ素系皮膜形成工程を行う。本例では、フッ素系皮膜12の形成にコーティング装置4を用いた。コーティング装置4は、試験片10を保持するための保持部41と、保持部41を所定の速度で上下動させるためのモータ42とを備えている。以下、この工程について図3を用いて説明する。
【0076】
<フッ素系皮膜形成工程>
図3に示すごとく、まず試験片10をコーティング装置4の保持部41にセットする。次に、保持部41を下方に動かし、試験片10をフッ素含有液120(フルオロアルキルシラン:1〜20重量%、アルキルシラン:1〜10重量%、その他界面活性剤、消泡剤等)中に静かに浸漬する。このとき、フッ素系皮膜12を形成したい面をフッ素含有液120の液面に対して垂直にして浸漬する。そして、保持部41を上方に動かし、試験片10を一定速度(30mm/分)でフッ素含有液120から引き上げる。その後、試験片10を280℃で10分間乾燥させ、フッ素系皮膜12を形成する。
以上により、図1の皮膜構造1を形成する。
【0077】
次に、本例の皮膜構造1の作用効果について説明する。
本例の皮膜構造1は、金属基材10上に、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層としての複合めっき皮膜11と、フッ素を含有してなるフッ素系皮膜12とを有している。そして、皮膜構造1において注目すべき点は、金属基材10上にフッ素系皮膜12が直接形成されているのではなく、金属基材10上に複合めっき皮膜11が形成されており、さらにその上にフッ素系皮膜12が形成されていることにある。これにより、皮膜構造1は、表面粗度が大きい金属基材10に対しても適用可能であり、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
【0078】
すなわち、皮膜構造1において、金属基材10上には、NiPをベース材料とする複合めっき皮膜11が形成されている。この複合めっき皮膜11は、フッ素系皮膜12よりも比較的厚膜に形成することが可能であり、膜厚精度も高い。そのため、本例のように金属基材10の表面粗度が大きい場合でも、複合めっき皮膜11を金属基材10上に厚膜に形成することによって、金属基材10の表面の凹凸を埋め均し、平滑化することができる。したがって、形成された複合めっき皮膜11は、表面粗度が小さく、精度高い皮膜となる。
【0079】
また、複合めっき皮膜11上には、フッ素系皮膜12が形成されている。このフッ素系皮膜12は、一般的に形成膜厚が数十nmと薄膜であり、形成面の表面粗度の影響を受けやすい。しかしながら、本例の皮膜構造1では、フッ素系皮膜12は、上述のごとく金属基材10上に形成された、表面粗度が小さい複合めっき皮膜11上に形成されている。そのため、本例のように金属基材10の表面粗度が大きい場合でも、金属基材10の表面の凹凸の影響を受けることなく、フッ素系皮膜12を複合めっき皮膜11上に精度よく確実に形成することができる。したがって、形成されたフッ素系皮膜12は、ひけ等の発生がなく、均一で精度高い皮膜となる。
【0080】
以上のことから、本例の皮膜構造1は、金属基材10上に厚膜形成が可能な複合めっき皮膜11を第1層として設け、さらにその上に薄膜のフッ素系皮膜12を第2層として設ける構成とすることにより、金属基材10の表面粗度に関係なく、その表面粗度が大きい場合でも適用することができる。これにより、予め金属基材10の表面を適用可能な表面粗度まで加工する等の処理を行う必要がなくなる。
また、皮膜構造1は、金属基材10の表面に精度よく形成されたフッ素系皮膜12を有するものとなる。フッ素系皮膜12は、優れた撥水性を有していることから、皮膜構造1は、金属基材10の表面に撥水性及び防汚性を充分に付与させたものとなる。
【0081】
また、複合めっき皮膜11は、耐熱性に優れたNiPをベース材料としている。そのため、金属基材10が加熱された場合でも、金属基材10とフッ素系皮膜12との間に設けた複合めっき皮膜11によって、フッ素系皮膜12の優れた撥水性を維持することができる。
また、複合めっき皮膜11には、ベース材料としてのNiP中に撥水性を有するPTFE粒子が分散されている。つまり、複合めっき皮膜11は、フッ素系皮膜12に比べて効果は小さいが、撥水性を有している。そのため、例え表面のフッ素系皮膜12が加熱等により剥離又は損傷したとしても、その下層に設けた複合めっき皮膜11によって、皮膜構造1全体における撥水性の大幅な低下を抑制することができる。
【0082】
また、本例において、金属基材10上には、Niストライクめっき皮膜13が形成されている。そのため、Niストライクめっき皮膜13の上に形成されている各種皮膜の密着性を向上させることができる。
また、複合めっき皮膜11は、NiPめっき皮膜14上に形成されている。そのため、複合めっき皮膜11の未着を防止することができる。
また、複合めっき皮膜11は、無電解めっき法により形成してある。そのため、複合めっき皮膜11の膜厚精度をより一層向上させることができる。
【0083】
また、複合めっき皮膜11が形成されている面、すなわちNiPめっき皮膜14の表面粗度Rz(14)は0.03μmと非常に小さい。そのため、複合めっき皮膜11を精度よく形成することができる。
また、複合めっき皮膜11の表面粗度Rz(11)も0.03μmと非常に小さい。そのため、フッ素系皮膜12を複合めっき皮膜11上に精度よく形成することができる。
また、フッ素系皮膜12は、フルオロアルキルシランを含有してなる。そのため、フッ素系皮膜12は、撥水性を充分に有するものとなる。
【0084】
このように、本例の皮膜構造1は、表面粗度が大きい金属基材10に対しても適用することができる。また、優れた撥水性を有しており、加熱された場合においても、表面に形成されたフッ素系皮膜12の優れた撥水性を維持することができる。
【0085】
なお、本例では、金属基材10と複合めっき皮膜11との間に、Niストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14の2層の下地を設けた。金属基材10の種類によっては、両者を設けない構成、又はどちらか一方のみを設ける構成とすることもできる。この場合においても、金属基材10の表面粗度に関係なく、皮膜構造1を問題なく形成することができる。
【0086】
また、本例では、金属基材10の表面を平滑化するための表面平滑化層として、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜11を用いたが、これに代えてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等を用いることができる。
【0087】
(実施例2)
本例は、本発明の皮膜構造1について、撥水性の評価を行ったものである。
本例では、本発明品Eとして、金属基材10上にNiP/PTFE複合めっき皮膜11を形成し、その上にフッ素系皮膜12を形成し、Niストライクめっき皮膜13及びNiPめっき皮膜14の2層の下地を設けない構成の皮膜構造1を準備した(図1参照)。
また、比較のために、金属基材上にフッ素系皮膜のみを形成した構成の皮膜構造(比較品C1)、金属基材上にNiP/PTFE複合めっき皮膜のみを形成した構成の皮膜構造(比較品C2)を準備した。
【0088】
なお、本発明品E及び比較品C1、C2において、金属基材としては、実施例1と同様に、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)を用いており、その表面粗度Rzは2μmである。また、その他、NiP/PTFE複合めっき皮膜及びフッ素系皮膜の厚みや形成方法等も、実施例1と同様である。
【0089】
次に、撥水性の評価方法について説明する。
本発明品E及び比較品C1、C2の撥水性は、表面自由エネルギー測定装置(協和界面化学社製:CA−VE型)を用いて、シリンジ径φ0.7mm、測定液滴量3〜4μl、液滴測定法:θ/2法、平行接触角の条件で対水接触角を測定することにより評価した。本例では、加熱時間における対水接触角の変化を調べた。なお、金属基材の加熱は、250℃で50時間行った。
【0090】
対水接触角の測定結果を図4に示す。図4において、縦軸は対水接触角(°)、横軸は加熱時間(Hr)を示している。
同図から知られるように、比較品C1は、加熱によって撥水性が大幅に低下している。また、比較品C2は、加熱によっても撥水性の低下がほとんどみられないが、初期の撥水性が比較品C1よりも低い。これに対して、本発明品Eは、比較品C1、C2に比べて初期の撥水性が高く、また加熱されてもその優れた撥水性を維持していることがわかる。
【0091】
すなわち、本発明品Eの皮膜構造1は、撥水性に優れたフッ素系皮膜12と、耐熱性に優れ、かつ撥水性も有するNiP/PTFE複合めっき皮膜11とを組み合わせた構成としたことにより、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる。
【0092】
(実施例3)
本例は、実施例1の皮膜構造1を燃料噴射ノズルに用いた例である。
本例の燃料噴射ノズル7は、図5に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用したものであり、ディーゼルエンジンの気筒内に高圧燃料を噴射するものである。燃料噴射ノズル7は、ノズルボデー71とニードル72とにより構成され、図示しないノズルホルダに組み付けられてエンジンに取り付けられている。
【0093】
同図に示すごとく、ノズルボデー71は、ニードル72を挿通する案内孔710、案内孔710の開口端部719近傍に設けられた摺動孔部711と、案内孔710の途中に設けられた燃料溜まり部712と、燃料溜まり部712に連通される燃料導入通路713と、案内孔710の先端部に設けられた円錐状の弁座715と、弁座715を貫通するよう設けられた複数の噴孔714とを有する。
【0094】
案内孔710は、ノズルボデー71の内部において軸方向に穿設されている。また、燃料溜まり部712は、案内孔710の内径を全周に渡って拡大して形成されており、案内孔710に挿通されるニードル72の外周に環状の空間を有している。また、燃料導入通路713は、ノズルホルダに供給された高圧燃料を燃料溜まり部712に導く通路であり、ノズルボデー71に穿設されている。
【0095】
同図に示すごとく、ニードル72は、ノズルボデー71の摺動孔部711に摺動可能に挿通される摺動部723と、ノズルボデー71の弁座715に着座及び離座して噴孔714を開閉する円錐形状の弁部721と、摺動部723と弁部721とをつなぐシャフト部722とを有する。また、摺動部723の後端側には、ジャーナル部724を有する。
【0096】
シャフト部722は、摺動部723よりも外径が小さく、案内孔711に挿通され、案内孔711との間に燃料通路716を形成している。また、シャフト部722において、燃料溜まり部712に面する位置には、摺動部723側からテーパ状に縮径して設けられた受圧面725と、シャフト部722において最小径の小径部726とが設けられている。そして、この受圧面725及び小径部726は、ノズルボデー71との間に、燃料が蓄えられる燃料溜まり部712を形成している。
【0097】
上記構成の燃料噴射ノズル7は、次のように作動させる。
すなわち、図示しない燃料ポンプより圧送された高圧燃料が燃料導入通路713を介して燃料溜まり部712に蓄えられる。受圧面725に加わる燃料溜まり部712の燃料圧がニードル72の閉弁方向の圧力よりも大きくなると、ニードル72が押し上げられ、案内孔710内を所定量リフトする。そして、弁部721が弁座715から離れて燃料通路716と噴孔714とが連通され、高圧燃料が複数の噴孔714からエンジンの気筒内へ噴射される。その後、受圧面725に加わる燃料圧がニードル72の閉弁方向の圧力より小さくなると、ニードル72が案内孔710内を下降して弁部721が弁座715に当接し、燃料通路716と噴孔714との連通が遮断され、燃料噴射を停止する。
【0098】
そして、本例の燃料噴射ノズル7において、ニードル72の一部には、本発明の皮膜構造1が形成されている。すなわち、ニードル72を金属基材10とし、その上に表面平滑化層11とフッ素系皮膜12とを有する皮膜構造1(図8参照)が形成されている。
本例では、図6に示すごとく、ニードル72の領域C(弁部721及びシャフト部722)に皮膜構造1が形成されている。なお、表面平滑化層11としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を用いた。
【0099】
また、本例では、同図に示すごとく、表面平滑化層としてのDLC膜11は、ニードル72の領域A1(弁部721、シャフト部722及び摺動部723)に形成されている。また、フッ素系皮膜12は、ニードル72の領域B1(弁部721及びシャフト部722)に形成されている。
【0100】
したがって、上述したように、ニードル72の領域C、つまりDLC膜11が形成されている領域A1とフッ素系皮膜12が形成されている領域B1との重なり部分に、皮膜構造1が形成されている。
また、ニードル72の摺動部723は、DLC膜11のみが形成されている。この部分は、DLC膜11の高硬度かつ高固体潤滑作用によって、摺動部723の耐摩耗性向上の効果がある。
【0101】
ここで、表面平滑化層であるDLC膜11の成膜方法について説明する。本例では、スパッタリング法を用いてDLC膜11をニードル72の所望の領域に成膜した。
スパッタリングを行う成膜装置5は、図7に示すごとく、電源51と、成膜装置5内を真空引きするための真空ポンプ52と、成膜装置5内にアルゴンガス531を導入するためのバルブ53とを有する。電源51には、基板電極(+)としてのニードル72と、ターゲット電極(−)54とが配設されている。また、ターゲット電極(−)54には、成膜材料となるターゲット55がセットされている。
【0102】
この成膜装置5を用いてDLC膜11を成膜するに当たっては、同図に示すごとく、まず成膜装置5内を真空ポンプ52により真空とした後、アルゴンガス531を注入する。そして、ターゲット55に電圧を印加して放電させることにより、アルゴンガス531が正イオンとなってターゲット55に衝突し、ターゲット55の原子551を叩き出す。この原子551がニードル72に堆積し、薄膜が形成される。このとき、ニードル72は、常に回転させておく。
【0103】
本例では、Cr(クロム)、W(タングステン)、C(カーボン)の3種類のターゲット55を順に変えて、ニードル72の所望の領域にスパッタリングを行い、図8に示すごとく、最終的にCr層111、W/C層112、C層113の3層からなるDLC膜11を成膜した。W/C層112は、W及びCが混在した層となっており、C層113に近づくに従ってWの割合が少なくなっている。
【0104】
次に、本例の燃料噴射ノズル7における作用効果について説明する。
本例の燃料噴射ノズル7は、燃料に起因する生成物等の異物が付着し易い部分のニードル72(本例では、弁部721及びシャフト部722)に、優れた撥水性を有し、加熱されてもその優れた撥水性を維持することができる皮膜構造1を形成してある。そのため、ニードル72の表面に上記の異物が付着・堆積することを充分に防止することができる。これにより、ニードル72の摺動不良を防止し、摺動状態を良好に保つことができる。それ故に、燃料噴射ノズル7による燃料噴射を長期間に渡って良好に行うことができる。
【0105】
なお、本例では、ニードル72のジャーナル部724には、DLC膜11を形成していない。すなわち、ジャーナル部724は、DLC膜11を形成した後、ニードル72の寸法調整を行うために研削加工する場合がある。DLC膜11を実施すれば、研削加工が困難となる。そのため、ジャーナル部724には、DLC膜11を形成していない。よって、寸法調整が必要なく、研削加工を行わない場合には、ジャーナル部724にDLC膜11を形成することができる。
【0106】
また、DLC膜11及びフッ素系皮膜12の形成領域としては、図9に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A1に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B2に形成する構成としてもよい。
また、図10に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A2に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B1に形成する構成としてもよい。
また、図11に示すごとく、DLC膜11をニードル72の領域A2に、フッ素系皮膜12をニードル72の領域B2に形成する構成としてもよい。
いずれの場合も、領域A1、A2と領域B1、B2との重なり部分である領域Cに、皮膜構造1が形成されている。
【0107】
なお、図6、図9〜図11に示すごとく、ニードル72におけるDLC膜11の形成領域は、領域A1及び領域A2の2種類がある。これらは次のように使い分けることができる。
例えば、新規開発品では、DLC膜11を形成する際の容易性等の観点から、ニードル72の領域A1のように全体的にDLC膜11を形成する。
一方、既に実用化されている従来品では、ニードル72における弁部721を除いた領域A2に形成する。すなわち、既に使用実績があるタイプの場合には、弁部721は、燃料噴射の際に弁座715に着座及び離座し、摩擦が生じることによる経時劣化を予想して、点検時に劣化分を補正することが行われている。そのため、弁部721にDLC膜11を形成すると、経時劣化パターンが変化してしまい、従来と同様の補正量で補正すると逆に問題が生じうる場合がある。よって、適正な補正量が変化しないように、ニードル72の領域A1から弁部721を除いた領域A2に形成する。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】実施例1における、皮膜構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、複合めっき皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図3】実施例1における、フッ素系皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図4】実施例2における、対水接触角の測定結果を示す説明図。
【図5】実施例3における、燃料噴射ノズルの構造を示す説明図。
【図6】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図7】実施例3における、DLC膜を形成する工程を示す説明図。
【図8】実施例3における、皮膜構造を示す説明図。
【図9】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図10】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【図11】実施例3における、DLC膜及びフッ素系皮膜の形成領域を示す説明図。
【符号の説明】
【0109】
1 皮膜構造
10 金属基材
11 表面平滑化層(NiP/PTFE複合めっき皮膜)
12 フッ素系皮膜
13 Niストライクめっき皮膜
14 NiPめっき皮膜
7 燃料噴射ノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造において、
上記金属基材上には、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層が形成されており、
該表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項2】
請求項1において、上記表面平滑化層は、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項3】
請求項2において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、無電解めっき法により形成してあることを特徴とする皮膜構造。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることを特徴とする皮膜構造。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された密着層としてのNiストライクめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項8】
請求項7において、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項9】
請求項7又は8において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記Niストライクめっき皮膜上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項10】
請求項2〜6のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項11】
請求項9又は10において、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜が形成されている面の表面粗度Rzは、5μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項13】
請求項2〜12のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項14】
請求項1において、上記表面平滑化層は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項15】
請求項14において、上記DLC膜は、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成してあることを特徴とする皮膜構造。
【請求項16】
請求項14又は15において、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項において、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか1項において、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることを特徴とする皮膜構造。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項において、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項22】
金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造を形成する方法において、
上記金属基材上に、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層を形成する表面平滑化層形成工程と、
上記表面平滑化層上に、フッ素を含有するフッ素含有液を塗布して乾燥させることにより、上記フッ素系皮膜を形成するフッ素系皮膜形成工程とを有することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項23】
請求項22において、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液を塗布して乾燥させることにより、上記表面平滑化層としてのNiP/PTFE複合めっき皮膜を形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項24】
請求項23において、上記表面平滑化層形成工程では、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜を無電解めっき法により形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項25】
請求項23又は24において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか1項において、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項27】
請求項23〜26のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項28】
請求項23〜27のいずれか1項において、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、Niを含有するNi含有液を塗布して、密着層としてのNiストライクめっき皮膜を形成する密着層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項29】
請求項28において、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項30】
請求項28又は29において、上記密着層形成工程後に、上記Niストライクめっき皮膜上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行い、その後、上記第1層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項31】
請求項23〜27のいずれか1項において、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項32】
請求項30又は31において、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項33】
請求項23〜32のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜を形成する面の表面粗度Rzは、5μm以下であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項34】
請求項23〜33のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項35】
請求項22において、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、上記表面平滑化層としてのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項36】
請求項35において、上記表面平滑化層形成工程では、上記DLC膜をプラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項37】
請求項35又は36において、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項38】
請求項35〜37のいずれか1項において、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項39】
請求項35〜38のいずれか1項において、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項40】
請求項22〜39のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項41】
請求項22〜40のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項42】
請求項22〜41のいずれか1項において、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項43】
ノズルボデーと、該ノズルボデー内に収容されたニードルとを備え、
上記ノズルボデーは、上記ニードルを挿通する案内孔と、該案内孔の開口端近傍に設けられた摺動孔部と、上記案内孔の途中に設けられた燃料溜まり部と、上記案内孔の先端部に設けられた弁座と、該弁座を貫通するよう設けられた複数の噴孔とを有し、
上記ニードルは、上記摺動孔部に摺動可能に挿通される摺動部と、上記弁座に着座及び離座して上記噴孔を開閉する弁部と、上記摺動部と上記弁部とをつなぐシャフト部とを有し、
上記ニードルの上記弁部を上記ノズルボデーの上記弁座から離座させ、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成された燃料噴射ノズルにおいて、
上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の皮膜構造が形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項44】
請求項43において、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項45】
請求項43において、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記弁部、上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項46】
請求項43〜45のいずれか1項において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項47】
請求項43〜45のいずれか1項において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記弁部及び上記シャフト部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項48】
請求項46又は47において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の80%以上の領域に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項1】
金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造において、
上記金属基材上には、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層が形成されており、
該表面平滑化層上には、上記フッ素系皮膜が形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項2】
請求項1において、上記表面平滑化層は、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE複合めっき皮膜であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項3】
請求項2において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、無電解めっき法により形成してあることを特徴とする皮膜構造。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることを特徴とする皮膜構造。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項において、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された密着層としてのNiストライクめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項8】
請求項7において、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項9】
請求項7又は8において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記Niストライクめっき皮膜上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項10】
請求項2〜6のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記金属基材上に施された下地層としてのNiPめっき皮膜上に形成されていることを特徴とする皮膜構造。
【請求項11】
請求項9又は10において、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜が形成されている面の表面粗度Rzは、5μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項13】
請求項2〜12のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項14】
請求項1において、上記表面平滑化層は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項15】
請求項14において、上記DLC膜は、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成してあることを特徴とする皮膜構造。
【請求項16】
請求項14又は15において、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項において、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか1項において、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることを特徴とする皮膜構造。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることを特徴とする皮膜構造。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項において、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項22】
金属基材の表面にフッ素を含有してなるフッ素系皮膜を有する皮膜構造を形成する方法において、
上記金属基材上に、該金属基材の表面を平滑化するための表面平滑化層を形成する表面平滑化層形成工程と、
上記表面平滑化層上に、フッ素を含有するフッ素含有液を塗布して乾燥させることにより、上記フッ素系皮膜を形成するフッ素系皮膜形成工程とを有することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項23】
請求項22において、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、NiP中にPTFE粒子が分散されてなるNiP/PTFE含有液を塗布して乾燥させることにより、上記表面平滑化層としてのNiP/PTFE複合めっき皮膜を形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項24】
請求項23において、上記表面平滑化層形成工程では、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜を無電解めっき法により形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項25】
請求項23又は24において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜は、上記PTFE粒子を7〜9重量%含有していることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項26】
請求項23〜25のいずれか1項において、上記PTFE粒子の粒子径は、0.2〜1μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項27】
請求項23〜26のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の厚みは、5〜20μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項28】
請求項23〜27のいずれか1項において、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、Niを含有するNi含有液を塗布して、密着層としてのNiストライクめっき皮膜を形成する密着層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項29】
請求項28において、上記Niストライクめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項30】
請求項28又は29において、上記密着層形成工程後に、上記Niストライクめっき皮膜上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行い、その後、上記第1層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項31】
請求項23〜27のいずれか1項において、上記第1層形成工程前に、上記金属基材上に、NiPを含有するNiP含有液を塗布して、下地層としてのNiPめっき皮膜を形成する下地層形成工程を行うことを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項32】
請求項30又は31において、上記NiPめっき皮膜の厚みは、0.5〜1.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項33】
請求項23〜32のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜を形成する面の表面粗度Rzは、5μm以下であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項34】
請求項23〜33のいずれか1項において、上記NiP/PTFE複合めっき皮膜の表面粗度Rzは、0.1μm以下であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項35】
請求項22において、上記表面平滑化層形成工程では、上記金属基材上に、上記表面平滑化層としてのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項36】
請求項35において、上記表面平滑化層形成工程では、上記DLC膜をプラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法のいずれかの方法により形成することを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項37】
請求項35又は36において、上記DLC膜の厚みは、0.5〜5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項38】
請求項35〜37のいずれか1項において、上記DLC膜が形成されている面の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項39】
請求項35〜38のいずれか1項において、上記DLC膜の表面粗度Rzは、10μm以下であることを特徴とする皮膜構造。
【請求項40】
請求項22〜39のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜は、フルオロアルキルシランを含有してなることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項41】
請求項22〜40のいずれか1項において、上記フッ素系皮膜の厚みは、0.01〜0.5μmであることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項42】
請求項22〜41のいずれか1項において、上記金属基材は、鉄を含有してなる鉄系基材であることを特徴とする皮膜構造の形成方法。
【請求項43】
ノズルボデーと、該ノズルボデー内に収容されたニードルとを備え、
上記ノズルボデーは、上記ニードルを挿通する案内孔と、該案内孔の開口端近傍に設けられた摺動孔部と、上記案内孔の途中に設けられた燃料溜まり部と、上記案内孔の先端部に設けられた弁座と、該弁座を貫通するよう設けられた複数の噴孔とを有し、
上記ニードルは、上記摺動孔部に摺動可能に挿通される摺動部と、上記弁座に着座及び離座して上記噴孔を開閉する弁部と、上記摺動部と上記弁部とをつなぐシャフト部とを有し、
上記ニードルの上記弁部を上記ノズルボデーの上記弁座から離座させ、上記ノズルボデーと上記ニードルとの間に供給された燃料を上記噴孔から噴射するよう構成された燃料噴射ノズルにおいて、
上記ニードルの少なくとも一部には、該ニードルを上記金属基材とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の皮膜構造が形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項44】
請求項43において、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項45】
請求項43において、上記皮膜構造の上記表面平滑化層は、上記ニードルにおける上記弁部、上記シャフト部及び上記摺動部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項46】
請求項43〜45のいずれか1項において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項47】
請求項43〜45のいずれか1項において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記弁部及び上記シャフト部の少なくとも一部に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【請求項48】
請求項46又は47において、上記皮膜構造の上記フッ素系皮膜は、上記ニードルにおける上記シャフト部の80%以上の領域に形成されていることを特徴とする燃料噴射ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−327135(P2007−327135A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50745(P2007−50745)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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