説明

真空蒸着装置

【課題】 比較的簡単な構成で、長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できるようにすることを目的とする。
【解決手段】 蒸着材料を蒸着基板2に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空槽1内に透明フィルム7が巻回されたリール6S、6Tと蒸着窓9と検出窓10とを有するカセット4と、このカセット4のリール6S、6Tを回転駆動する駆動装置13と、このカセット4内の透明フィルム7に蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置12とを具備し、この透明フィルム7に蒸着された膜厚を計測し、この透明フィルム7の蒸着位置とこの蒸着基板2の蒸着位置とからこの蒸着基板2の膜厚を算出して、この蒸着基板2の膜厚を計測するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば有機EL(electroluminescence)材料や金属材料等の蒸着材料をガラス基板や高分子フィルム等の蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば有機EL(electroluminescence)材料や金属材料等の蒸着材料をガラス基板や高分子フィルム等の蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置が提案されている。
【0003】
斯かる、従来の真空蒸着装置においては、蒸着基板の近傍に水晶振動子膜厚計を設け、この水晶振動子に蒸着材料の分子が付着して全体の重さが変わると、機械振動の共振周波数が低下する性質を利用し、発振周波数の変化を読むことで、蒸着膜厚を知るようにしていた。
【0004】
また、この蒸着膜厚を測定するのに、X線を使用するようにしたものが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−230819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然しながら、水晶振動子膜厚計を使用して、蒸着膜厚を計測するようにしたときには、蒸着された堆積物が増すに従って、この水晶振動子の機械的振動が不安定になり、正確に蒸着膜厚を計測することが難しい。
【0006】
また、この水晶振動子膜厚計の水晶振動子が突然発振しなくなる等、この水晶振動子膜厚計の寿命を正確に読み取ることができず、長時間に渡って蒸着膜厚を計測することが困難である。
【0007】
また、この水晶振動子膜厚計においては、蒸着材料の膜密度や音響インピーダンスといったパラメータ等の入力が必要であり、最近の有機EL材料等では最適パラメータが未知であるため、蒸着時間に伴い、水晶振動子膜厚計の計測値と蒸着基板上の膜厚との相関が取れなくなるといった問題があった。
【0008】
特許文献1記載の如く、蒸着膜厚を測定するのに、X線を使用するようにしたときには、その構成が複雑となり、高価となる不都合があった。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑み、比較的簡単な構成で、長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空槽内に透明フィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、このカセットのリールを回転駆動する駆動装置と、このカセット内の透明フィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、この透明フィルムに蒸着された膜厚を計測し、この透明フィルムの蒸着位置とこの蒸着基板の蒸着位置とからこの蒸着基板の膜厚を算出して、この蒸着基板の膜厚を計測するようにしたものである。
【0011】
斯かる、本発明によれば、透明フィルムに蒸着された膜厚を計測し、この透明フィルムの蒸着位置とこの蒸着基板の蒸着位置とからこの蒸着基板の膜厚を算出して、この蒸着基板の膜厚を計測するようにしたので、簡単な構成で長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できる。
【0012】
本発明真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空槽内に反射性の高い金属フィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、このカセットのリールを回転駆動する駆動装置と、このカセット内の金属フィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、この金属フィルムに蒸着された膜厚を計測し、この金属フィルムの蒸着位置とこの蒸着基板の蒸着位置とからこの蒸着基板の膜厚を算出して、この蒸着基板の膜厚を計測するようにしたものである。
【0013】
斯かる、本発明によれば、反射性の高い金属フィルムに蒸着された膜厚を計測し、この金属フィルムの蒸着位置とこの蒸着基板の蒸着位置とからこの蒸着基板の膜厚を算出して、この蒸着基板の膜厚を計測するようにしたので、簡単な構成で長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できる。
【0014】
本発明真空蒸着装置は、蒸着材料を搬送される蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空槽内にフィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、このカセットのリールをこの蒸着基板の搬送速度に同期して回転駆動する駆動装置と、このカセット内のこのフィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、このフィルムに蒸着された膜厚を計測し、このフィルムの蒸着位置とこの蒸着基板の蒸着位置とからこの蒸着基板の膜厚を算出して、この蒸着基板の膜厚を計測するようにしたものである。
【0015】
斯かる、本発明によれば、上述同様に簡単な構成で長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できると共に蒸着基板の搬送とフィルムの駆動とが同期しているので、この蒸着基板の搬送速度に変動があっても、フィルムの駆動も同様に変動するので、この蒸着基板の膜厚を正確に計測できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単な構成で長時間に渡って蒸着膜厚を正確に計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1及び図2を参照して本発明真空蒸着装置を実施するための最良の形態の例につき説明する。
【0018】
本例による真空蒸着装置は、真空槽に設置されたルツボに充填した有機材料や金属材料等の蒸着材料を加熱、蒸発する蒸着源より蒸発した材料をガラス基板や高分子フィルム等の蒸着基板に蒸着堆積させ所望の膜厚を得るようにするものである。
【0019】
図1例において、1は周知の真空槽をしめし、この真空槽1内の所定位置に所望の蒸着膜厚を得る蒸着基板としてのガラス基板2を投入する如くする。
【0020】
図1において、3は、この真空槽1内の所定位置に配された蒸着源を示し、この蒸着源3はルツボ内に有機材料や金属材料等の蒸着材料を充填し、この蒸着材料を電子ビーム、ヒータ等により加熱し、蒸発するようにしたもので、この蒸着源3よりの蒸発材料をガラス基板2に蒸着させるようにする。
【0021】
本例においては、この真空槽1内の所定位置に膜厚測定装置を構成する検出用カセット4を配置する。この検出用カセット4は、図2に示す如く、カセット筐体5内において、供給リール6Sに巻回された例えば高分子の透明フィルム7を案内ローラ8a,8b及び8cを介して巻取リール6Tに巻き取るようにする。
【0022】
この検出用カセット4のカセット筐体5の蒸着源3に対向して配される側の前側面の所定位置本例においては、案内ローラ8a及び8b間に所定大きさの蒸着窓9を設ける。この場合、このカセット筐体5内の透明フィルム7の表面にこの蒸着窓9を通して蒸着源3よりの蒸発材料が蒸着する如くする。
【0023】
また、この検出用カセット4のカセット筐体5の透明フィルム7がこの蒸着窓9を通過した後の例えば右側面の案内ローラ8b及び8c間に検出窓10を設ける。この場合、この検出窓10に対向し、このカセット筐体5内の透明フィルム7の表面に堆積された蒸着膜厚を検出する後述する例えば光透過式の膜厚計測装置11に使用する光ファイバー式のセンサ12を配する如くする。
【0024】
このセンサ12に検出信号を真空槽1の外部に設けた膜厚計測装置11に供給する。この周知の光透過式の膜厚計測装置11は蒸着された透明フィルム7対し、垂直方向にレーザー光などの光を入射し、その対向側にて入射した光を受光することでその透過光量の差分から透過率を算出し、その透過率を蒸着膜厚に変換する方式で蒸着膜厚を計測するようにしたものである。
【0025】
また、この膜厚計測装置11においては、この透明フィルム7の蒸着位置と、このガラス基板2の蒸着位置とから、このガラス基板2の蒸着膜厚を算出し、このガラス基板2の蒸着膜厚として計測表示する如くする。
【0026】
また、この真空槽1内の所定位置に検出用カセット4の供給リール6S及び巻取リール6Tを回転駆動する回転駆動装置13を設ける。この回転駆動装置13は、モータ等を持つ回転機構で構成され、真空槽1の外部に設けたモータ制御装置14により、この回転駆動装置13を制御する。
【0027】
この場合、本例においては、このモータ制御装置14により検出用カセット4内の透明フィルム7を一定速度で走行するように制御する。
【0028】
本例による真空蒸着装置は、上述の如く、構成されているので、蒸着源3から蒸発した蒸着材料は蒸着基板であるガラス基板2に蒸着されると共に検出用カセット4のカセット筐体5内の透明フィルム7に蒸着窓9を通して蒸着される。
【0029】
この場合、検出用カセット4の透明フィルム7は一定速度で走行し、巻取リール6Tに巻き取られ、この透明フィルム7に蒸着後のカセット筐体5の検出窓10でセンサ12により、蒸着膜厚が検出され、この検出信号が膜厚計測装置11に供給され、この膜厚計測装置11で透明フィルム7上に蒸着された蒸着膜厚が計測される。
【0030】
本例においては、予めこの検出用カセット4の透明フィルム7の蒸着位置とこの蒸着基板であるガラス基板2の蒸着位置とからガラス基板2の蒸着膜厚と透明フィルム7の蒸着膜厚との比率を求めておくので、この透明フィルム7の蒸着膜厚から、ガラス基板2の蒸着膜厚を求めることができる。
【0031】
この場合、上述において、透明フィルム7の蒸着膜厚が一定になるように、蒸着源3からの蒸着速度を制御することにより、ガラス基板2は安定した蒸着膜厚を得ることができる。
【0032】
本例によれば、透明フィルム7に蒸着された膜厚を計測し、この透明フィルム7の蒸着位置とガラス基板2の蒸着位置とからガラス基板2の蒸着膜厚を算出して、このガラス基板2の蒸着膜厚を計測するようにしたので、簡単な構成で長時間に渡りガラス基板2の蒸着膜厚と透明フィルム7の蒸着膜厚との相関関係が崩れることなく、ガラス基板2の蒸着膜厚を正確に計測できる。
【0033】
また、本例によれば、透明フィルム7の巻き長さと、この透明フィルム7の走行速度とにより、計測可能時間(寿命)の算出が可能であり、この透明フィルム7の巻き長さを長くすることで長寿命化も容易に変更できる。
【0034】
また、本例においては、有機ELのドーパン材料等、膜厚が薄く計測が難しい場合には、透明フィルム7の走行速度を遅くし、この透明フィルム7への蒸着量を増すことで、より正確に蒸着膜厚を算出することができる。
【0035】
また、本例においては、メンテナンス時検出用カセット4の着脱交換のみで済みメンテナンスが容易である。
【0036】
また、本例においては、使用済み検出用カセット4については、カセット筐体5の外装のクリーニングと透明フィルム7の交換のみで再生ができ、ランニングコストメリットが高い。
【0037】
尚、上述例では、検出用カセット4内に透明フィルム7を用いた例につき述べたが、この代わりに反射性の高い金属フィルムを用いても良い。測定対象物に合わせて、金属フィルムの表面に蒸着した蒸着膜の表面と裏面とで反射した光の干渉パターンと蒸着材料の光の屈折率から蒸着膜厚を計測するような光学干渉式の膜厚計測装置など、安定した膜厚測定手法を選択することができる。
【0038】
また、上述例では、光透過式の膜厚計測装置を使用したが、膜厚が厚いものについては、この代わりに段差計等の接触式計測装置も使用できる。
【0039】
また、上述例では、蒸着基板としてのガラス基板2は固定して蒸着する如く述べたが、このガラス基板、高分子フィルム等の蒸着基板が蒸着源3上を一定方向に移動して通過し所定範囲で蒸着するようにした蒸着基板搬送方式としても良い。
【0040】
この場合、この蒸着基板2の搬送速度と検出用カセット4の例えば透明フィルム7の走行速度とを同期するようにすることにより、この蒸着基板2の搬送速度に変動があっても、透明フィルム7の走行速度も同様に変動するので、この蒸着基板2の膜厚を正確に計測できる。
【0041】
尚、本発明は上述例に限ることなく、本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成が採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明真空蒸着装置を実施するための最良の形態の例を示す構成図である。
【図2】図1の検出用カセットの例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…真空槽、2…ガラス基板、3…蒸着源、4…検出用カセット、5…カセット筐体、6S…供給リール、6T…巻取リール、7…透明フィルム、8a,8b,8c…案内ローラ、9…蒸着窓、10…検出窓、11…膜厚計測装置、12…センサ、13…回転駆動装置、14…モータ制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、
真空槽内に透明フィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、
前記カセットのリールを回転駆動する駆動装置と、
前記カセット内の透明フィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、
前記透明フィルムに蒸着された膜厚を計測し、前記透明フィルムの蒸着位置と前記蒸着基板の蒸着位置とから前記蒸着基板の膜厚を算出して、前記蒸着基板の膜厚を計測するようにしたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
蒸着材料を蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、
真空槽内に反射性の高い金属フィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、
前記カセットのリールを回転駆動する駆動装置と、
前記カセット内の金属フィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、
前記金属フィルムに蒸着された膜厚を計測し、前記金属フィルムの蒸着位置と前記蒸着基板の蒸着位置とから前記蒸着基板の膜厚を算出して、前記蒸着基板の膜厚を計測するようにしたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項3】
蒸着材料を搬送される蒸着基板に真空蒸着するようにした真空蒸着装置において、
真空槽内にフィルムが巻回されたリールと蒸着窓と検出窓とを有するカセットと、
前記カセットのリールを前記蒸着基板の搬送速度に同期して回転駆動する駆動装置と、
前記カセット内の前記フィルムに蒸着された膜厚を計測する膜厚計測装置とを具備し、
前記フィルムに蒸着された膜厚を計測し、前記フィルムの蒸着位置と前記蒸着基板の蒸着位置とから前記蒸着基板の膜厚を算出して、前記蒸着基板の膜厚を計測するようにしたことを特徴とする真空蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−283121(P2006−283121A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104494(P2005−104494)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】