説明

磁性層を備えたトラック及びそれを備える磁性素子

【課題】磁性層を備えたトラック及びそれを備える磁性素子を提供する。
【解決手段】複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、前記トラックに連結された磁壁移動手段と、前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、前記トラックは、前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、前記磁性層の第1面に備えられた第1非磁性層と、前記磁性層の第2面に前記第1非磁性層と異なる物質で形成され、原子番号が14以上である金属及びマグネシウムのうち少なくとも一つを含む第2非磁性層と、を備える磁性素子である。かかる構造に起因して、磁性層は、高い非断熱係数(β)を有する。磁性素子は、例えば、情報保存素子(メモリ)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性層を備えたトラック及びそれを備える磁性素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電源が遮断されても、記録された情報が維持される不揮発性の情報保存装置は、HDD(Hard Disk Drive)及び不揮発性RAM(Random Access Memory)などがある。
【0003】
一般的に、HDDは、回転する部分を有する保存装置であって、摩耗される傾向があり、動作時にフェイルが発生するおそれが大きいため、信頼性が低下する。一方、不揮発性RAMの代表的な例としてフラッシュメモリが挙げられるが、フラッシュメモリは、回転する機械装置を使用しないが、読み取り/書き込み動作速度が遅く、寿命が短く、HDDに比べて保存容量が小さいという短所がある。また、フラッシュメモリの生産コストは相対的に高い。
【0004】
これによって、最近、従来の不揮発性の情報保存装置の問題点を克服するための方案として、磁性物質の磁壁移動原理を利用する新たな情報保存装置に関する研究及び開発が行われている。磁区は、強磁性体内で磁気モーメントが一定方向に整列された磁気的な微小領域であり、磁壁は、相異なる磁化方向を有する磁区の境界部である。磁区及び磁壁は、磁性トラックに印加される電流により移動しうる。磁区及び磁壁の移動原理を利用すれば、回転する機械装置を使用せずに保存容量が大きい情報保存装置を具現できるであろうと予想される。
【0005】
しかし、磁壁の移動を利用した装置の実用化のためには、磁区及び磁壁を移動させる臨界電流を低める必要がある。前記臨界電流が高いとき、電力消耗が大きく、ジュール熱により磁性体が加熱されて多様な問題が発生しうる。また、電流の印加のための駆動素子やスイッチング素子のサイズを大きくしなければならないので、集積度の改善に不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、磁壁を移動させる磁性層を備えたトラック及びそれを備える磁性素子を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、前記トラックに連結された磁壁移動手段と、前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、前記トラックは、前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、前記磁性層の第1面に備えられた第1非磁性層と、前記磁性層の第2面に前記第1非磁性層と異なる物質で形成され、原子番号が14以上である金属及びマグネシウムのうち少なくとも一つを含む第2非磁性層と、を備える磁性素子が提供される。
【0008】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有する。
【0009】
前記磁性層は、Co,CoFe,CoFeB,CoCr及びCoCrPtのうち一つで形成される。
【0010】
前記第1非磁性層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層である。
【0011】
前記第1非磁性層は、金属層である。
【0012】
前記金属層は、PdまたはPtを含む。
【0013】
前記第2非磁性層は、金属酸化物層である。
【0014】
前記原子番号が14以上である金属は、Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0015】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上である。
【0016】
本発明の他の側面によれば、複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、前記トラックに連結された磁壁移動手段と、前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、前記トラックは、前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、前記磁性層の第1面に備えられた熱伝導性の絶縁層と、前記磁性層の第2面に備えられ、原子番号が12以上である金属を含む非磁性層と、を備える磁性素子が提供される。
【0017】
前記非磁性層は、金属酸化物層である。
【0018】
前記原子番号が12以上である金属は、Mg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0019】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有する。
【0020】
前記磁性層は、Co,CoFe,CoFeB,CoCr及びCoCrPtのうち一つで形成される。
【0021】
前記熱伝導性の絶縁層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層である。
【0022】
前記熱伝導性の絶縁層は、AlNを含む。
【0023】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上である。
【0024】
本発明の他の側面によれば、複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、前記トラックに連結された磁壁移動手段と、前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、前記トラックは、前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、前記磁性層の第1面に備えられた第1非磁性層と、前記磁性層の第2面に形成され、原子番号が12以上である金属を含む第2非磁性層と、前記磁性層と前記第2非磁性層との間に備えられ、原子番号が14以上である金属を含む挿入層と、を備え、前記挿入層の金属濃度は、前記第2非磁性層の金属濃度より高い磁性素子が提供される。
【0025】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有する。
【0026】
前記磁性層は、Co,CoFe,CoFeB,CoCr及びCoCrPtのうち一つで形成される。
【0027】
前記第1非磁性層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層である。
【0028】
前記第1非磁性層は、金属層または絶縁層である。ここで、前記金属層は、PdまたはPtを含み、前記絶縁層は、AlNを含む。
【0029】
前記第2非磁性層は、金属酸化物層である。
【0030】
前記第2非磁性層は、前記原子番号が12以上である金属としてMg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0031】
前記挿入層は、金属層または金属酸化物層である。
【0032】
前記挿入層は、前記原子番号が14以上である金属としてCr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0033】
前記挿入層の厚さは、1nm以下である。
【0034】
前記挿入層に含まれた金属の原子番号は、前記第2非磁性層に含まれた金属の原子番号より大きいか、または同じである。
【0035】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、磁性層の磁壁の移動のための臨界電流を低めることができる。したがって、電力消耗が少なく、ジュールヒーティング問題が抑制された磁壁移動素子を具現できる。磁壁移動電流を印加するための駆動素子やスイッチング素子のサイズを縮小させるので、集積度の向上が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態によるトラックを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態によるトラックを示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態によるトラックを示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態によるトラックを示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態によるトラックを示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態によるトラックにおいて、磁性層の非断熱係数(β)による磁壁の移動のための臨界電流密度の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態によるトラックを備える磁壁の移動を利用した磁性素子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態による磁性層を備えたトラック及びそれを備える磁性素子を、添付された図面を参照して詳細に説明する。この過程で、図面に示した層や領域の厚さは、明細書の明確性のために多少誇張されて示されたものである。詳細な説明の全体にわたって、同じ参照番号は同じ構成要素を表す。
【0039】
図1は、本発明の実施形態によるトラックT1の断面図である。
【0040】
図1を参照すれば、トラックT1は、第1非磁性層1、磁性層2及び第2非磁性層3が順次に積層された構造を有する。すなわち、磁性層2の下面及び上面にそれぞれ第1非磁性層1及び第2非磁性層3が備えられる。トラックT1は、所定の方向、例えば、Y軸方向に延びる。
【0041】
磁性層2は、トラックT1の延長方向(すなわち、Y軸方向)に一列に配列された複数の磁区を有し、隣接した二つの磁区間ごとに磁壁が備えられる。磁性層2は、垂直磁気異方性を有する。この場合、磁性層2は、Co系の物質を含む。例えば、磁性層2は、Co,CoFe,CoFeB,CoCr及びCoCrPtのうち一つで形成される。
【0042】
第1非磁性層1は、磁性層2の磁化を垂直に配向する層である。すなわち、第1非磁性層1により磁性層2の磁化容易軸がZ軸と決定され、それによって、磁性層2が垂直磁気異方性を有する。かかる第1非磁性層1は、金属層である。例えば、第1非磁性層1は、PdまたはPtなどを含む。第1非磁性層1は、Pd層またはPt層である。しかし、第1非磁性層1の物質は、これらに限定されない。
【0043】
第2非磁性層3は、第1非磁性層1と異なる物質で形成された層である。この場合、トラックT1は、磁性層2を基準として上下非対称構造を有する。さらに具体的に説明すれば、第2非磁性層3は、金属化合物層、例えば、金属酸化物層である。このとき、第2非磁性層3は、原子番号が14以上である金属を含む。前記原子番号が14以上である金属は、Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つである。第2非磁性層3は、前記原子番号が14以上である金属の代わりに、あるいは、それと共にマグネシウムを含む。例えば、第2非磁性層3は、MOx(ここで、Mは金属)で表現でき、このとき、Mは、Mg,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0044】
第1非磁性層1、磁性層2及び第2非磁性層3の厚さは、それぞれ約0.5ないし5.0nm、0.2ないし1.0nm及び0.5ないし3.0nmである。そして、トラックT1のX軸方向の幅は、約30ないし1000nmである。
【0045】
本実施形態のように、磁性層2の上下面に相異なる非磁性層(すなわち、第1及び第2非磁性層)1,3が備えられ、トラックT1が上下非対称構造を有する場合、また、第2非磁性層3が原子番号が比較的大きい元素(金属元素)を含む場合、磁性層2の非断熱係数(β)は大きくなる。磁性層2の非断熱係数(β)が大きいほど、磁区及び磁壁の磁気モーメントが容易に回転できるので、磁区及び磁壁の移動が容易になる。したがって、磁区及び磁壁の移動のための臨界電流密度は低くなる。
【0046】
さらに詳細に説明すれば、トラックT1が前述した上下非対称構造を有する場合、第1非磁性層1と磁性層2との界面(以下、第1界面)及び磁性層2と第2非磁性層3との界面(以下、第2界面)の電気的特徴が異なるため、前記第1界面と第2界面との間に電場が発生する。例えば、前記第2界面から前記第1界面の方向に電場が印加される。前記電場は、磁性層2に印加される。かかる電場は、“ラッシュバ(Rashba)効果”を発生させ、その結果、磁性層2を通じて移動する電子のスピンフリップ速度が速くなる。“ラッシュバ効果”は、電場下で移動する電子に磁場が印加されるというものであって、前記磁場と前記電子のスピンとの相互作用により、前記電子のスピンフリップ速度が速くなる。前記電子のスピンフリップ速度が速くなるというのは、スピンフリップ時間(τsf)が短くなるというのである。非断熱係数(β)は、下記の数式1のように、電子のエネルギー交換時間(τex)をスピンフリップ時間(τsf)で割った値で表す。したがって、前述した“ラッシュバ効果”により電子のスピンフリップ時間(τsf)が短縮すれば、非断熱係数(β)は増加する。
【0047】
【数1】

【0048】
このとき、本実施形態のように、第2非磁性層3が、原子番号が比較的大きい元素(金属元素)を含む場合、“ラッシュバ効果”はさらに大きくなる。これは、原子番号が大きい物質であるほど、原子核に陽性子を多く含むので、それほど強い電場を発生させるためであると見られる。すなわち、第2非磁性層3に含まれた金属の原子番号が大きいほど、磁性層2と第2非磁性層3との界面(すなわち、前記第2界面)で発生する磁場の強度が強くなり、“ラッシュバ効果”が大きくなるので、トラックT1に流れる電子のスピンフリップ時間(τsf)はさらに短くなる。これは、磁性層2の非断熱係数 (β)が増加することを意味する。例えば、本実施形態において、磁性層2の非断熱係数(β)は、約0.1以上である。したがって、トラックT1の磁区及び磁壁の移動のための臨界電流密度は、非常に低くなる。かかる効果は、後述する他の実施形態によるトラックでも類似して表れる。以下の実施形態によるトラックに含まれた磁性層の非断熱係数(β)も、約0.1以上である。
【0049】
図1において、第1非磁性層1と第2非磁性層3との位置は、互いに変わりうる。その例が図2に示されている。
【0050】
図2を参照すれば、トラックT2は、磁性層2’の下面及び上面にそれぞれ第2非磁性層3’及び第1非磁性層1’が備えられた構造を有する。第1非磁性層1’、磁性層2’及び第2非磁性層3’は、それぞれ図1の第1非磁性層1、磁性層2及び第2非磁性層3に対応する。図2のように、第1非磁性層1’が磁性層2’の上面に備えられても、第1非磁性層1’がPd層やPt層のような金属層である場合、それによって磁性層2’の磁化が垂直に配向する。
【0051】
図3は、本発明の他の実施形態によるトラックT3の断面図である。
【0052】
図3を参照すれば、トラックT3は、第1非磁性層10、磁性層20及び第2非磁性層30が順次に積層された構造を有する。すなわち、磁性層20の下面及び上面にそれぞれ第1非磁性層10及び第2非磁性層30が備えられる。トラックT3は、所定の方向、例えば、Y軸方向に延びる。
【0053】
磁性層20は、図1の磁性層2と同じ構成を有する。
【0054】
第1非磁性層10は、熱伝導性の絶縁層である。例えば、第1非磁性層10は、AlN層である。AlN層の熱伝導度kは、約230J/(s・m・K)である。このように、第1非磁性層10が熱伝導性の絶縁層である場合、磁壁の移動のためにトラックT3に印加する電流により磁性層20が加熱されるという問題が抑制される。すなわち、前記電流により磁性層20で発生した熱は、第1非磁性層10を経て外部に抜け出るので、磁性層20の加熱による特性の劣化は抑制または防止される。また、第1非磁性層10が熱伝導性の絶縁層である場合、第1非磁性層10の電気抵抗が高いため、磁区及び磁壁の移動のための電流は、第1非磁性層10にほとんど流れない。これは、前記電流が磁性層20に集中しうるという意味である。したがって、第1非磁性層10が導電層である場合より低い電流を利用して、磁性層20の磁区及び磁壁を移動させることができる。
【0055】
加えて、第1非磁性層10が熱伝導性の絶縁層である場合であっても、第1非磁性層10は、磁性層20の磁化を垂直に配向する役割を行える。すなわち、第1非磁性層10により、磁性層20の磁化容易軸がZ軸方向と決定される。
【0056】
第2非磁性層30は、第1非磁性層10と異なる物質で形成される。したがって、トラックT3は、上下非対称構造である。さらに具体的に、第2非磁性層30は、金属化合物層、例えば、金属酸化物層である。このとき、第2非磁性層30は、原子番号が12以上である金属を含む。前記金属は、Mg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。例えば、第2非磁性層30は、MOx(ここで、Mは金属)で表現でき、このとき、Mは、Mg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0057】
一方、第1非磁性層10、磁性層20及び第2非磁性層30の厚さ及び幅は、図1の第1非磁性層1、磁性層2及び第2非磁性層3のものと類似している。
【0058】
このように、トラックT3が上下非対称構造を有し、第2非磁性層30が、原子番号が比較的大きい元素(金属元素)を含むため、“ラッシュバ効果”により磁性層20の非断熱係数(β)は大きくなり、磁区及び磁壁の移動のための臨界電流密度は低くなる。かかる効果は、図1を参照して説明したものと類似している。ただし、図3の実施形態では、第1非磁性層10が熱伝導性の絶縁層であるため、それによる効果が付加される。
【0059】
図4は、本発明の他の実施形態によるトラックT4の断面図である。
【0060】
図4を参照すれば、トラックT4は、第1非磁性層100、磁性層200、挿入層250及び第2非磁性層300が順次に積層された構造を有する。トラックT4は、所定の方向、例えば、Y軸方向に延びる。
【0061】
第1非磁性層100は、図1の第1非磁性層1と類似した金属層であるか、または図3の第1非磁性層10と類似した絶縁層である。例えば、前記金属層は、PdまたはPtを含み、前記絶縁層は、AlNを含む。具体的に、第1非磁性層100は、Pd層及びPt層のような金属層であるか、またはAlN層のような絶縁層である。かかる第1非磁性層100は、磁性層200の磁化を垂直に配向する役割を行える。
【0062】
磁性層200は、図1の磁性層2に対応する層である。すなわち、磁性層200は、垂直磁気異方性を有し、この場合、Co系の物質、例えば、Co,CoFe,CoFeB,CoCr及びCoCrPtのうち一つで形成される。
【0063】
第2非磁性層300は、図3の第2非磁性層30に対応する層である。すなわち、第2非磁性層300は、金属化合物層、例えば、金属酸化物層(MOx、Mは金属)である。このとき、第2非磁性層300は、原子番号が12以上である金属を含む。前記金属は、Mg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む。
【0064】
磁性層200と第2非磁性層300との間の挿入層250は、原子番号が14以上である金属を含む。挿入層250の金属濃度は、第2非磁性層300の金属濃度より高い。挿入層250に含まれた金属の原子番号は、第2非磁性層300に含まれた金属の原子番号より大きいか、または同じである。例えば、挿入層250は、Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含む金属層であるか、または金属酸化物層である。挿入層250の厚さは、相対的に薄い。例えば、挿入層250は、1nm以下の非常に薄い厚さに形成される。挿入層250の厚さが薄い場合、挿入層250は、磁性層200と第2非磁性層300との界面で、前記界面の特徴を変化させる役割を行う。挿入層250の金属濃度は、第2非磁性層300の金属濃度より高く、また、挿入層250に含まれた金属の原子番号は、第2非磁性層300に含まれた金属の原子番号より大きいので、挿入層250により“ラッシュバ効果”がさらに向上する。したがって、磁区及び磁壁の移動のための臨界電流密度はさらに低くなる。
【0065】
図4の構造は、図5のように変形される。
【0066】
図5を参照すれば、トラックT5は、磁性層200’の上面に第1非磁性層100’が備えられ、磁性層200’の下面に挿入層250’及び第2非磁性層300’が順次に備えられた構造を有する。第1非磁性層100’、磁性層200’、挿入層250’及び第2非磁性層300’は、それぞれ図4の第1非磁性層100、磁性層200、挿入層250及び第2非磁性層300に対応する。図5のトラックT5は、図4のトラックT4をひっくり返した構造といえる。ただし、図5のトラックT5において、第1非磁性層100’により磁性層200’の磁化を垂直に配向させるためには、第1非磁性層100’は、PdまたはPtのような金属で形成できる。第1非磁性層100’としてAlN層を使用する場合、磁性層200’の磁化を垂直に配向しがたい。しかし、場合によっては、第1非磁性層100’が磁性層200’の磁化を垂直に配向する層として使われないこともあるので、第1非磁性層100’の物質は、前述したPd及びPtのような金属に限定されない。
【0067】
図5のような構造でも、図4と類似して“ラッシュバ効果”により、磁区及び磁壁の移動のための臨界電流密度が低くなる。
【0068】
一方、本発明の実施形態によるトラックの形成方法について簡略に説明すれば、次の通りである。トラックT1ないしT5を構成する層は、半導体工程で使われる一般的な薄膜蒸着工程で形成できる。ただし、磁性層2,2’,20,200,200’の垂直磁化のために、第2非磁性層3,3’,30,300,300’(MOx)を、プラズマ酸化を経て形成するか、またはトラックT1ないしT5を所定の温度でアニーリングできる。前記アニーリングの温度は、約400℃以下である。前記プラズマ酸化及びアニーリングは、選択的な工程である。すなわち、トラックT1ないしT5の構造及び構成物質によって、前記プラズマ酸化及びアニーリングなしにも磁性層2,2’,20,200,200’を垂直磁化させる。また、以上、磁性層2,2’,20,200,200’が垂直磁気異方性を有する場合について説明したが、磁性層2,2’,20,200,200’は、垂直磁気異方性でない水平磁気異方性を有する物質及び構造で形成してもよい。したがって、第1非磁性層1,1’,10,100,100’は、磁性層2,2’,20,200,200’の磁化を垂直配向する役割を行わないこともある。
【0069】
図6は、本発明の実施形態によるトラックにおいて、磁性層の非断熱係数(β)による磁壁の移動のための臨界電流密度の変化を示すグラフである。図6は、タンピング定数(α)が相異なる磁性層を有する複数のトラックに対する結果である。
【0070】
図6を参照すれば、非断熱係数(β)が約0.1ないし0.15以上である場合、非断熱係数(β)が増加するにつれて、臨界電流密度が低くなるということが分かる。図6の結果では、非断熱係数(β)が約0.1ないし0.15である地点から臨界電流密度が低くなり始めたが、臨界電流密度が低くなり始めるポイントは、トラックの構造及び構成物質によって変わりうる。一方、図6において、タンピング定数(α)が小さくなるほど、臨界電流密度は低くなる傾向があるということが分かる。
【0071】
本発明の実施形態によるAlN/Co/PtOx構造では、非断熱係数(β)が約1.0である一方、比較例によるPt/Co/Pt構造では、非断熱係数(β)が約0.02であるので、図6の結果に基づく時、前記実施形態による構造(AlN/Co/PtOx)では、前記比較例の場合より臨界電流密度が約1/3に低くなると予想される。
【0072】
前述したトラックは、磁壁の移動を利用した磁性素子に適用できる。その一例が図7に示されている。すなわち、図7は、本発明の実施形態によるトラック1000を備える磁壁の移動を利用した磁性素子を示す斜視図である。
【0073】
図7を参照すれば、所定の方向、例えば、Y軸方向に延びたトラック1000が備えられる。トラック1000は、図1ないし図5のトラックT1ないしT5のうちいずれか一つの構造を有する。トラック1000は、その延長方向(すなわち、Y軸方向)に沿って一列に連続配列された複数の磁区を有し、隣接した二つの磁区間に磁壁が備えられる。トラック1000は、各磁区に情報を保存する情報保存要素として使われる。トラック1000の形態は、図示されたところに限定されず、多様に変形される。
【0074】
トラック1000の両端のうち少なくとも一つは、トランジスタと連結される。例えば、図7に示したように、トラック1000の両端は、第1及び第2トランジスタTr1,Tr2と連結される。第1及び第2トランジスタTr1,Tr2のうち少なくとも一つは、電流源(図示せず)に連結される。前記電流源、第1及び第2トランジスタTr1,Tr2は、トラック1000に連結された“磁壁移動手段”を構成できる。前記電流源、第1及び第2トランジスタTr1,Tr2を利用してトラック1000に所定の電流を印加して、トラック1000内で磁区及び磁壁を移動させることができる。第1及び第2トランジスタTr1,Tr2のオン・オフ状態を制御して前記電流の方向を調節でき、前記電流の方向によって、磁区及び磁壁の移動方向が変わりうる。電流の方向は、電子の方向と逆であるので、磁区及び磁壁は、電流の方向と逆方向に移動する。トラック1000の両端をそれぞれ第1及び第2トランジスタTr1,Tr2と連結させる代わりに、トラック1000の両端のうち一つに一つまたは二つ以上のトランジスタを連結してもよい。トランジスタの代わりに、他のスイッチング素子、例えば、ダイオードを使用してもよい。その他にも、前記“磁壁移動手段”の構成は多様に変形される。
【0075】
トラック1000の所定の領域上に、読み取り手段2000及び書き込み手段3000が備えられる。読み取り手段2000及び書き込み手段3000は、それぞれ一つの磁区に対応する長さを有する。読み取り手段2000は、巨大磁気抵抗(Giant Magneto Resistance:GMR)効果を利用したGMRセンサ、またはトンネル磁気抵抗(Tunnel Magneto Resistance:TMR)効果を利用したTMRセンサである。書き込み手段3000は、GMRまたはTMR記録装置である。書き込み手段3000は、外部磁場を利用して書き込みを行う装置であることもあるが、この場合、書き込み手段3000は、トラック1000と所定の間隔ほど離隔される。読み取り手段2000及び書き込み手段3000の読み取り及び書き込みメカニズム、構造及び形成位置などは、前述したところ及び図示されたものに限定されず、多様に変更される。例えば、読み取り手段2000及び書き込み手段3000をそれぞれ備える代わりに、読み取り機能及び書き込み機能を兼ねる一体型の読み取り/書き込み手段を備えてもよい。また、読み取り手段2000及び書き込み手段3000は、トラック1000の上面でない下面に備え、場合によってはトラック1000の側面に備えてもよい。
【0076】
第1及び第2トランジスタTr1,Tr2を備える電流印加手段でもってトラック1000に電流を印加して、磁区及び磁壁をビット単位で移動させつつ、読み取り手段2000または書き込み手段3000を利用して情報を再生または記録できる。したがって、図7の磁性素子は、磁壁の移動を利用した情報保存装置である。
【0077】
本実施形態では、トラック1000の磁区及び磁壁を移動させるための臨界電流密度が低いため、前記磁性素子の電力消耗は少なく、ジュール加熱問題も抑制される。また、磁区及び磁壁の移動のための電流を印加する素子(すなわち、図7の第1及び第2トランジスタTr1,Tr2)のサイズを縮小させるので、集積度の向上が容易である。
【0078】
前記した説明で多くの事項が具体的に記載されているが、それらは、発明の範囲を限定するというより、望ましい実施形態の例示として解釈されねばならない。例えば、当業者ならば、本発明の実施形態によるトラックは、図7のような情報保存装置(メモリ)だけでなく、磁壁移動原理が適用される他のあらゆる分野に適用されるということが分かるであろう。また、図1ないし図5及び図7の構造は、多様に変形されるということが分かるであろう。具体的な例として、磁性層2,2’,20,200,200’は、垂直磁気異方性でない水平磁気異方性を有する物質及び構造で形成され、第1非磁性層1,1’,10,100,100’は、磁性層2,2’,20,200,200’の磁化を垂直に配向する役割を行わず、第2非磁性層3,3’,30,300,300’は、金属酸化物でない他の金属化合物で形成されるということが分かるであろう。このため、本発明の範囲は、説明された実施形態により決まるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想により決まらねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、磁性素子関連の技術分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1,1’,10,100,100’ 第1非磁性層
2,2’,20,200,200’ 磁性層
3,3’,30,300,300’ 第2非磁性層
250,250’ 挿入層
T1,T2,T3,T4,T5 トラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、
前記トラックに連結された磁壁移動手段と、
前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、
前記トラックは、
前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、
前記磁性層の第1面に備えられた第1非磁性層と、
前記磁性層の第2面に前記第1非磁性層と異なる物質で形成され、原子番号が14以上である金属及びマグネシウムのうち少なくとも一つを含む第2非磁性層と、を備える磁性素子。
【請求項2】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有することを特徴とする請求項1に記載の磁性素子。
【請求項3】
前記第1非磁性層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層であることを特徴とする請求項2に記載の磁性素子。
【請求項4】
前記第1非磁性層は、金属層であることを特徴とする請求項1に記載の磁性素子。
【請求項5】
前記金属層は、PdまたはPtを含むことを特徴とする請求項4に記載の磁性素子。
【請求項6】
前記第2非磁性層は、金属酸化物層であることを特徴とする請求項1に記載の磁性素子。
【請求項7】
前記原子番号が14以上である金属は、Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または6に記載の磁性素子。
【請求項8】
前記第1非磁性層は、金属層であり、
前記第2非磁性層は、金属酸化物層であることを特徴とする請求項1に記載の磁性素子。
【請求項9】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁性素子。
【請求項10】
複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、
前記トラックに連結された磁壁移動手段と、
前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、
前記トラックは、
前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、
前記磁性層の第1面に備えられた熱伝導性の絶縁層と、
前記磁性層の第2面に備えられ、原子番号が12以上である金属を含む非磁性層と、を備える磁性素子。
【請求項11】
前記非磁性層は、金属酸化物層であることを特徴とする請求項10に記載の磁性素子。
【請求項12】
前記原子番号が12以上である金属は、Mg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項10または11に記載の磁性素子。
【請求項13】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有することを特徴とする請求項10に記載の磁性素子。
【請求項14】
前記熱伝導性の絶縁層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層であることを特徴とする請求項13に記載の磁性素子。
【請求項15】
前記熱伝導性の絶縁層は、AlNを含むことを特徴とする請求項10に記載の磁性素子。
【請求項16】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上であることを特徴とする請求項10に記載の磁性素子。
【請求項17】
複数の磁区及びそれらの間に磁壁を有するトラックと、
前記トラックに連結された磁壁移動手段と、
前記トラックについての情報の再生及び記録のための読み取り/書き込み手段と、を備え、
前記トラックは、
前記磁区及び磁壁を有する磁性層と、
前記磁性層の第1面に備えられた第1非磁性層と、
前記磁性層の第2面に形成され、原子番号が12以上である金属を含む第2非磁性層と、
前記磁性層と前記第2非磁性層との間に備えられ、原子番号が14以上である金属を含む挿入層と、を備え、
前記挿入層の金属濃度は、前記第2非磁性層の金属濃度より高い磁性素子。
【請求項18】
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有することを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項19】
前記第1非磁性層は、前記磁性層の磁化を垂直に配向する層であることを特徴とする請求項18に記載の磁性素子。
【請求項20】
前記第1非磁性層は、金属層または絶縁層であることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項21】
前記第2非磁性層は、金属酸化物層であることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項22】
前記第2非磁性層は、前記原子番号が12以上である金属としてMg,Al,Cr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項17または21に記載の磁性素子。
【請求項23】
前記挿入層は、金属層または金属酸化物層であることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項24】
前記挿入層は、前記原子番号が14以上である金属としてCr,Ru,Pd,Ta及びPtのうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項17または23に記載の磁性素子。
【請求項25】
前記挿入層の厚さは、1nm以下であることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項26】
前記挿入層に含まれた金属の原子番号は、前記第2非磁性層に含まれた金属の原子番号より大きいか、または同じであることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。
【請求項27】
前記磁性層の非断熱係数(β)は、0.1以上であることを特徴とする請求項17に記載の磁性素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−44693(P2011−44693A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154693(P2010−154693)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】