説明

磁気抵抗効果型磁気ヘッド

【課題】MR比のバイアス依存性を改善し、高い再生出力を有する磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】飽和磁化の異なる固定層13と自由層15を有し、かつホイスラー合金などの高スピン散乱材料を有する磁気抵抗効果素子において、固定層と自由層のうち飽和磁化が低い方の磁性層から高い磁性層の方に電子が流れるようにバイアス電圧を印加することで、高MR比と高バイアス耐性を両立し、高い再生出力を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子と、それを有する磁気ヘッドに関するものである。特に、高記録密度磁気記録再生装置用磁気ヘッドへの応用に適している。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブを主体とする磁気記録装置では年々高記録密度化が進んでおり、再生センサとして用いられる磁気抵抗効果型磁気ヘッドの高感度化、高密度化が求められている。この要求を満たすため、薄い非磁性層を2種の強磁性層で挟み込み膜面内に電流を流すCIP−GMR(Current in Plane-Giant Magnetoresistance)センサが開発され、再生ヘッドとして応用されてきた。また、更に高密度化を達成するため、強磁性層2枚で挟まれた薄い絶縁層に垂直に電圧を印加するTMR(Tunnel Magnetoresistance)効果を用いた再生ヘッドの開発・応用が進められている。一方、GMRの膜構成に膜面に垂直に電流を流すCPP−GMR(Current Perpendicular to the Plane-Giant Magnetoresistance)センサは、低抵抗で高速動作可能な次世代再生ヘッドとして研究・開発が進められている。
【0003】
CPP−GMRは、一般的には、自由層と中間層と固定層とが積層され、上記固定層が反強磁性膜との交換結合などの手段によって感知すべき磁界に対して実質的に固定されてなる。磁気的に固着された固定層は外部磁場に対して安定であり、自由層だけが外部磁場に対し動作することができる。このとき、一般的に自由層と固定層の成す角が0°であるときに最も抵抗が低くなり、180°のときに最も抵抗が高くなる。磁場角に対する抵抗変化分を磁気抵抗比(MR比=(Rmax−Rmin)/Rmin)と定義したとき、従来用いられてきたCoFe合金やNiFe合金を用いたCPP−GMRのMR比は大きくとも5%程度であった。
【0004】
CPP−GMRのMR比を増大させるため、界面散乱及びバルク散乱係数の大きな材料をCPP−GMRの強磁性層に用いることが報告されている。特許文献1には、自由層や固定層にバルク散乱係数(β)×比抵抗(ρ)の大きなホイスラー合金のうち、特にCo2MnZ(Z=Al,Si,Ga,Ge,Sn)を用いることで、MR比を大幅に向上できることが開示されている。また、特許文献2にはCo−Fe−Al(50at.%<Co<70at.%、10at.%<Fe<25at.%、15at.%<Al<30at.%)を強磁性層に用いることでMR比がCo−Feよりも増大することが開示されている。
【0005】
一方、MR比を増大させる別の方法として、特許文献3には中間層にメタルパスを有する電流狭窄層を有する構造が提案されている(特開2002−208744号公報)。
【0006】
【特許文献1】特許第3607678号公報
【特許文献2】特開2007−88415号公報
【特許文献3】特開2002−208744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、CPP−GMRセンサなどを磁気抵抗効果型磁気ヘッドとして用いる場合、出力電圧はMR比×バイアス電圧に比例するので、通常MR比を測定するバイアス電圧(5−20mV)よりも印加電圧を大きくして出力が高くなる電圧で使用することが望ましい。
【0008】
しかし、素子に印加する電圧を大きくした場合、以下のような問題が発生する。つまり、素子に印加する電圧、すなわち電流を大きくした場合、スピン偏極した電子が電圧を付加した方向と逆の方向に固定層から自由層、あるいは自由層から固定層に伝導する。このとき、自由層あるいは固定層の磁化がスピントルクによって傾く。スピントルクは電圧が大きいほど大きくなるので、結果としてMR比がバイアス電圧の増大とともに減少してしまうという問題がある。
【0009】
特に、高スピン散乱材料であるCo−Mn−Z(Z=Al,Si,Ge)などのホイスラー合金を固定層・自由層に用いたCPP−GMRでは、低バイアス電圧で大きなMR比が得られるのに対し、Co−Feを用いたCPP−GMRよりもMR比のバイアス電圧依存性が大きく、駆動電圧において低バイアス時のMR比から期待されるよりも小さな出力電圧しか得られないという問題があった。つまり、単純に高スピン散乱材料であるホイスラー合金を自由層と固定層に用いただけでは、低バイアス電圧では大きなMR比が得られても、磁気抵抗効果素子及び磁気抵抗効果型磁気ヘッドとして大きな出力電圧が望めないことがわかってきた。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためのものであり、磁気抵抗効果素子及び磁気抵抗効果型ヘッドにおいて高MR比と高バイアス電圧耐性を両立し、従来よりも高い出力電圧が得られる磁気抵抗効果素子もしくはそれを有する磁気ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、MR比のバイアス電圧依存性と種々の磁性材料との関係を検討した結果、MR比のバイアス電圧耐性が、ある駆動電圧で電子が流入する側の磁性材料の飽和磁化と相関があることを見出した。
【0012】
すなわち、自由層と固定層の一方にホイスラー合金などの高スピン散乱材料層を備え、他方に高飽和磁化材料層を備えて磁気抵抗効果素子を構成し、高スピン散乱材料層から高飽和磁化材料の方に電子が流入するように電圧を印加することで、高MR比と高バイアス電圧耐性を両立できる。ここで、ホイスラー合金とは、X−Y−Z(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)の組成で表され、L21,D03,B2構造のいずれかの結晶構造を有するものをいう。
【0013】
高飽和磁化材料としては、Co−Fe−M(MはAl,Si,Mn,Ge,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種又は2種以上の元素)、もしくは上記ホイスラー合金よりもZ組成を少なく(Z’)したホイスラー合金(X’−Y’−Z’)が好ましい。
【0014】
ここで、MR比のバイアス電圧依存性は、主に自由層及び固定層起因であるので、中間層に依存しない。中間層としては、Cu,Cr,Ag,Auなどの非磁性導電層の他、絶縁体層中にCu,Cr,Ag,Au,Coなどのメタルパスを有する電流狭窄層やMgO,Al−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いることもできる。
【0015】
本発明の磁気抵抗効果素子の一例では、飽和磁化が高い側の材料層の少なくとも一部にCo−Fe−M(MはAl,Si,Mn,Ge,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種又は2種以上の元素)を用いることで、自由層と固定層の両方に同組成のホイスラー合金層を用いた場合に比較してMR比のバイアス依存性を改善でき、電子がホイスラー合金層からCo−Fe−M層に流入するように電圧を印加する時、X−Y−Zを自由層と固定層の両方に含む従来構成より高い出力を得ることができる。
【0016】
また、本発明の別の形態では、飽和磁化が高い側の材料の少なくとも一部に、前記ホイスラー合金よりもZ組成が少ない材料を用いる。これにより、電子がZ組成が多いホイスラー合金層からZ組成が少ないホイスラー合金層の方に入るように駆動電圧を印加する時、高いバルク散乱効果を維持したままMR比のバイアス電圧依存性を改善でき、自由層と固定層の両方に同組成のホイスラー合金を用いた場合に比較して、駆動電圧において高い出力を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、素子の駆動電圧において従来よりも高いMR比を実現でき、高出力のCPP−GMRヘッド用の磁気抵抗効果素子及び磁気ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
はじめに、本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを構成する磁気抵抗効果膜の作製方法について説明する。本発明の磁気抵抗効果膜は、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、セラミックス基板上に作製した。形成した膜は、真空磁場中で250℃、3時間の熱処理を行い、MnIr反強磁性膜の誘導磁気異方性を付与した。磁気抵抗効果素子の形成にはリフトオフ法を用いた。作製した磁気抵抗効果膜及び素子の磁化測定とMR測定には、それぞれ振動試料型磁力計と4端子法を用いた。
【0019】
図1に、本発明の代表的な磁気抵抗効果膜の断面構造を示す。本発明の磁気抵抗効果膜10は、下地層11と、反強磁性層12と、第一の強磁性固定層130と反平行結合中間層131と第二の強磁性固定層132からなる固定層13と、中間層14と、自由層15と、保護層16とを積層してなり、固定層と自由層のいずれか一方あるいは両方にホイスラー合金層を備える。
【0020】
中間層14は、固定層13と自由層15との間を磁気的に分離するとともに、固定層13と自由層15との間を通過する電子を固定層13と自由層15の磁化状態に応じて散乱・透過・又は反射する磁気抵抗効果を生じさせる構成を有する。中間層の材料はCu,Cr,Ag,Auなどの巨大磁気抵抗効果を発現する非磁性導電層の他、メタルパスを有する電流狭窄層、あるいはMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層であってもよい。
【0021】
第一の強磁性固定層130と反平行結合中間層131と第二の強磁性固定層132からなる固定層13は、反強磁性層12によって磁気的に固着され、感知すべき磁界に対して実質的に磁化が固定されてなる。上記第一の強磁性固定層130と反平行結合中間層131と第二の強磁性固定層132からなる固定層13は反平行結合固定層と呼ばれ、外部磁場に対して安定になるので、本発明においても好ましい構成例であるが、固定層13は単層膜や二層以上の磁性層から構成される積層膜であってもよい。反平行結合中間層には、例えばRuなどを用いる。また、ホイスラー合金を固定層13、あるいは第二の強磁性固定層132に用いる場合、薄いCoFeやCoなどで挟み込むと、ホイスラー合金層の結晶化が促進され、界面拡散も抑えられることから、より好ましい。また、ホイスラー合金を形成する際には、規則化を促すために200〜400℃の加熱処理を施し、ホイスラー合金がL21構造、D03構造、B2構造のいずれかの結晶構造を取ることが望ましい。ただし、上記の加熱処理を施さない場合でも、MnIr反強磁性膜の誘導磁気異方性を付与する際に250℃もしくはそれ以上の温度で熱処理を行うことでB2構造以上の規則度を得ることが可能である。
【0022】
自由層15は、図示していないが2種類あるいはそれ以上の薄膜の積層体であってもよい。また、自由層15は中間層側から順に第一の強磁性自由層と、反平行結合中間層と、第二の強磁性自由層と、からなる反平行結合自由層であってもよく、ホイスラー合金を用いる場合にはCoFeやCoで挟み込む構成とするのが望ましい。
【0023】
反強磁性層12は、固定層や反平行結合固定層の磁化を一方向に固着する役割を有し、例えば、MnIr,MnIrCr,MnPtなどが用いられる。
【0024】
下地層11は、磁気抵抗効果素子10の必須の構成要素、というものではないが、磁気抵抗効果積層膜の結晶性及び磁気特性を良好にするので用いるのが望ましい。同様に磁気抵抗効果素子10の必須の構成要素ではないが、磁気抵抗効果積層膜10の上部に保護膜16を配置すると、予期せぬ酸化や腐食を防ぐことができて望ましい。
【0025】
ここで、本発明で特徴的な構成について述べる。通常、中間層に接した固定層と自由層にはそれぞれ少なくとも一部にX−Y−Zで表わされる同組成のホイスラー合金(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)が用いられるのに対し、本発明では固定層と自由層の少なくとも一方の磁性層に上記ホイスラー合金からなる層を備える。かつ、一方の磁性層に他方の磁性層よりも飽和磁化が大きなCo−Fe−M(MはAl,Si,Mn,Ge,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種又は2種以上の元素)あるいは上記ホイスラー合金よりもZ組成が少ないX’−Y’−Z’(X’は45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Y’は20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Z’は20at.%以上、35at.%以下、かつZ’<ZのAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)を用いることが大きな特徴である。このような構成とすることで、飽和磁化の小さい方の磁性層から大きな方の磁性層に電子が流入するように駆動電圧を印加すると、X−Y−Zを自由層と固定層の両方に含む従来構成の磁気抵抗効果素子よりも高いMR比を達成でき、結果的に高い出力電圧を得ることができる。
【0026】
このように高い出力電圧が得られるのは次の理由による。Co2MnSiやCo2MnGeなどのホイスラー合金の飽和磁化は大きくとも1.2T程度でスピントルクに対して弱く、これらを自由層、固定層の両方に用いた磁気抵抗効果素子では、電圧を大きくするに従い、MR比が大きく低下する。そこで自由層、固定層のいずれか一方に高飽和磁化材料層を備え、ホイスラー合金層から高飽和磁化層に電子が流入するように駆動電圧を印加することで、MR比のバイアス電圧依存性を改善することができる。特に、飽和磁化の大きな材料に上記のCo−Fe−MもしくはZ組成の少ないX’−Y’−Z’を用いることで、低バイアスでのMR比は同じかあるいは若干従来よりも低くなったとしても、バイアス電圧依存性が大きく改善し、電子がこれらの層に入る駆動電圧でのMR比が従来よりも高くなり出力電圧を増大できる。
【0027】
なお、本発明の磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果型磁気ヘッドだけではなく、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)への応用も可能である。
以下、本発明の具体的な実験例について詳細に説明する。
【0028】
[実験例1]
表1に、本発明の磁気抵抗効果膜の一例の積層構造と膜厚を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
固定層は、第一の強磁性固定層と反平行結合中間層と第二の強磁性固定層(第二固定層)からなる反平行結合固定層構造とした。また、中間層はCuのナノ電流パスを有する電流狭窄層とした。ここで、第二固定層と自由層の組み合わせ、及び通電方向は本発明の核となるところであるので、さらに詳細に表2で説明する。
【0031】
【表2】

【0032】
表2の実験例1−1〜1−8には、第二固定層及び自由層のいずれか一方にCo−Mn−Ge、他方にCo−FeもしくはCo−Fe−M(M=Al,Si,Mn)を用いた磁気抵抗効果素子における第二固定層及び自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例1−9では、第二固定層と自由層の両方にCo−Mn−Geを用いた。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ移動する方向に対応し、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する方向に対応する。
【0033】
実験例1−1〜1−4を実験例1−9と比較すると、V80+が比較例と同程度なのに対し、実験例1−1〜1−4ではV80−の著しい改善が見られる。これは自由層の飽和磁化が従来構成よりも高いため、電子が固定層から自由層に伝導する負のバイアス電圧において、MR比のバイアス電圧依存性が改善したためである。一方、低バイアスでのMR比は実験例1−9よりも若干劣るが、V80−の改善が大きく、結果としてバイアス電圧を負(電子が固定層から自由層に流れる構成)にした場合、出力電圧(MR×V)を従来よりも増大することができる。逆に、実験例1−5〜1−8では第二固定層の飽和磁化が大きいため、V80+を改善でき、バイアス電圧が正のときに出力電圧を従来よりも増大することができる。
【0034】
その他にも、Al,Siと同族あるいは同メタロイド元素のGe,Ga,Sn,Sb、さらにTb,Ho,ErをMとして用いた場合にも、高いスピン散乱効率とMR比の高バイアス電圧耐性を両立することができ、飽和磁化が低い方の磁性層から高い方の磁性層に電子が流入するように駆動電圧を印加することで出力電圧を増大することができる。
【0035】
実験例1ではホイスラー合金としてCo−Mn−Geを第二固定層あるいは自由層に用いた結果だけを示したが、組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%を満たすCo又はFe、Yが20at.%≦Y≦30at.%を満たすV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zが20at.%≦Z≦35at.%を満たすAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素で構成されているときに、同様の結果が得られた。
【0036】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られる。
【0037】
[実験例2]
表3に、実験例1とは別の形態で、本発明による磁気抵抗効果膜の積層構造例と膜厚を示す。
【0038】
【表3】

【0039】
固定層は、第一の強磁性固定層と反平行結合中間層と第二の強磁性固定層からなる反平行結合固定層構造とした。さらに、第二の強磁性固定層はCoFe/中間固定層/CoFeとした。同様に自由層も、CoFe/中間自由層/CoFeとした。また、中間層はCuのナノ電流パスを有する電流狭窄層とした。ここで、中間固定層及び中間自由層の組み合わせと通電方向は本発明の核となるところであるので、さらに詳細に表4で説明する。
【0040】
表4の実験例2−1〜2−8では、中間固定層及び中間自由層のいずれか一方にCo−Mn−Ge、他方にCo−Fe−Siを用いた磁気抵抗効果素子における中間固定層及び中間自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。このとき、その他の膜構成は表3記載の構成とした。また、Co−Fe−SiのSi濃度を10at.%で一定とし、Co−Feの組成を変化させた。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例2−9では、中間固定層及び中間自由層の両方にCo−Mn−Geを用いた場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ移動し、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する。
【0041】
【表4】

【0042】
実験例2−9の中間固定層及び中間自由層にCo−Mn−Geを用いた磁気抵抗効果素子では、V80−及びV80+ともに50mV程度と小さい。これに対し、実験例2−1〜2−8で示したように、中間固定層もしくは中間自由層のいずれか一方にCo−Fe−Siを用いた場合、実験例2−9のCo−Mn−GeよりもV80+もしくはV80−のいずれか一方の改善が見られる。これは、Co−Fe−Siを用いた中間固定層もしくは中間自由層の飽和磁化がCo−Mn−Geよりも大きく、電子がCo−Mn−GeからCo−Fe−Siに流入するようにバイアス電圧が印加されたときに、スピントルクによるMR比の低下が抑制されるためである。さらに、このバイアス電圧下においては、実験例2−9に対し大きな出力電圧が得られる。このように、Co−Fe−MにおけるCoとFeの組成比に関わらず、Co−Fe−Mの飽和磁化がCo−Mn−Geより高いときには出力電圧を増大することができる。ここにはMがSiのときだけの結果を示しているが、他にもMにAl,Mn,Ge,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erを用いた場合にも、Co−Feの組成比に依らず同様の結果が得られる。
【0043】
実験例2ではCo−Mn−Geを中間自由層に用いた結果だけを示したが、中間自由層に組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%を満たすCo又はFe、Yが20at.%≦Y≦30at.%を満たすV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zが20at.%≦Z≦35at.%を満たすAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素で構成されるホイスラー合金層を用いるときに、同様の結果が得られた。
【0044】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られる。
【0045】
[実験例3]
表5の実験例3−1〜3−8に、表3の中間固定層にCo−Mn−Ge、中間自由層にCo−Fe−M(M=Al,Si,Dy,Mn,Ge)を用いた実験例と、中間固定層及び中間自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例3−9〜3−10では、中間固定層及び中間自由層の両方にCo−Mn−GeもしくはCo50Fe50を用いた場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ移動し、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する。
【0046】
【表5】

【0047】
実験例3−9と実験例3−10を比較すると、Co−Mn−Geを用いた磁気抵抗効果素子ではCoFeの場合よりも1.7倍程度高いMR比が得られている。一方、Co−Mn−Geを用いたときのV80はバイアス電圧の正負に依らずCo50Fe50の半分以下と小さく、MR比のバイアス電圧依存性がCoFeよりも大きい。つまり、駆動電圧においてはMR比の差が小さくなり、出力電圧(MR×V)はCo50Fe50の1.2倍程度しか得られていない。
【0048】
実験例3−1〜3−8を実験例3−9と比較すると、V80+が比較例と同程度なのに対し、V80−の著しい改善が見られる。これは自由層の飽和磁化が従来構成よりも高いため、電子が固定層から自由層に伝導する負の電圧において、MR比のバイアス電圧依存性が改善したためである。一方、低バイアスでのMR比は実験例3−9よりも若干劣るが、V80−の改善が大きく、結果としてバイアス電圧を負(電子が固定層から自由層に流れる構成)にした場合、出力電圧(MR×V)を従来よりも増大することができる。
【0049】
表5の代表的な構成例におけるMR比と出力電圧(MR×V)のバイアス電圧依存性を、実験例3−9と実験例3−10とともに図3に示す。出力の最大値はMR比のバイアス電圧依存性にも依るが、およそ−100〜−130mVもしくは100〜130mVのときに得られており、この範囲のバイアス電圧におけるMR比が高いものほど大きな出力が得られる。実験例3−3では、低バイアス電圧での高いMR比と高バイアス電圧耐性を併せ持ち、中間自由層及び中間固定層の両方に例えばCo−Mn−Geを用いたときよりも大きな出力が得られる。このようなバイアス電圧耐性の改善は単純に電子が流入する磁性材料の飽和磁化で決まるため、CoとFeの組成比が1:1のときだけではなく、全ての組成範囲において得られる。
【0050】
図4に、中間固定層にCo−Mn−Geを用い、中間自由層にCo−Fe−M及びCo−Feを用いた磁気抵抗効果素子における、従来出力を1としたときの出力電圧のM濃度依存性を示す。ここで従来出力は、中間固定層及び中間自由層の両方にCo−Mn−Geを用いた実験例3−9の出力とした。出力の増大は、M=Al,Si,Mn,Ge,Dyとした磁気抵抗効果素子において電子を固定層から自由層に流したときに得られ、特にAl,Si,Mnを30%以下添加した場合に、従来構成よりも出力電圧を改善できる。このとき、従来構成よりも出力電圧を最大で20%程度改善することができる。また、MとしてGe,Dyを添加した場合には、添加量が20%以下であれば従来構成よりも出力電圧を改善できる。さらに、中間自由層にCo−Feを用いた場合にも、出力電圧を改善できる。その他にも、図示していないが、Al,Si,Geと同族あるいは同メタロイド元素のGa,Sn,Sb、さらにDyと同様ランタノイドに属するTb,Ho,ErをMとして用いた場合にも、高いスピン散乱効率と耐バイアス電圧依存性を両立でき、出力電圧を改善できた。
【0051】
実験例3ではCo−Mn−Geを中間固定層に用いた結果だけを示したが、中間固定層に組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%を満たすCo又はFe、Yが20at.%≦Y≦30at.%を満たすV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zが20at.%≦Z≦35at.%を満たすAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素で構成されるホイスラー合金層を用いるときに、同様の結果が得られた。
【0052】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られた。
【0053】
[実験例4]
表6の実験例4−1〜4−8に、表3の中間自由層にCo−Mn−Ge、中間固定層にCo−Fe−M(M=Al,Si,Mn,Dy,Ge)及びCo−Feを用いた実験例と、中間固定層及び中間自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。このとき、その他の膜構成は表3記載の構成とする。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例3−9〜3−10では、中間固定層及び中間自由層の両方にCo−Mn−GeもしくはCoFeを用いた場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する方向に対応する。
【0054】
【表6】

【0055】
実験例3−9の中間固定層及び中間自由層にCo−Mn−Geを用いた磁気抵抗効果素子ではV80−及びV80+ともに50mV程度と実験例3−10のCoFeを用いた場合よりもバイアス電圧耐性がかなり小さい。これに対し、実験例4−1〜4−8で示したように中間固定層をCo−Fe−M(M=Al,Si,Dy,Mn,Ge)とした場合、実験例3−10のCoFeには及ばないものの実験例3−9のCo−Mn−GeよりもV80+の大幅な改善が見られる。V80−に変化がなくV80+だけに改善が見られるのは、中間固定層の飽和磁化がCo−Mn−Geよりも大きく、スピントルクによるMR比の減少が抑制されたためである。さらに、実験例4−1〜4−8に記載された構成において、電子の流れる方向が自由層から固定層になるように駆動電圧を印加すると、実験例3−9に対し大きな出力電圧が得られる。このようなバイアス電圧耐性の改善は単純に電子が流入する磁性材料の飽和磁化で決まるため、CoとFeの組成比が1:1のときだけではなく、全ての組成範囲において得られる。
【0056】
図5に、中間自由層にCo−Mn−Geを用い、中間固定層にCo−Fe−M(M=Al,Si,Mn,Dy,Ge)及びCo−Feを用いた磁気抵抗効果素子における、従来出力を1としたときの出力電圧のM濃度依存性を示す。ここで従来出力は、中間固定層及び中間自由層の両方にCo−Mn−Geを用いた実験例3−9の出力とした。出力の増大は、M=Al,Si,Mn,Ge,Dyとした磁気抵抗効果素子において電子を自由層から固定層に流したときに得られ、特にAl,Si,Mnを30%以下添加した場合に従来構成よりも出力電圧を改善できる。このとき、従来構成よりも出力電圧を最大で20%程度改善することができる。また、MとしてGe,Dyを添加した場合には、添加量が20%以下であれば従来構成よりも出力電圧を改善できる。さらに、中間固定層にCo−Feを用いた場合にも改善が見られる。その他にも、図示していないが、Al,Si,Geと同族あるいは同メタロイド元素のGa,Sn,Sb、さらにDyと同様ランタノイドに属するTb,Ho,ErをMとして用いた場合にも高いスピン散乱効率と耐バイアス電圧依存性を両立でき、出力電圧を改善できた。
【0057】
実験例4ではCo−Mn−Geを中間自由層に用いた結果だけを示したが、中間自由層に組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%を満たすCo又はFe、Yが20at.%≦Y≦30at.%を満たすV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zが20at.%≦Z≦35at.%を満たすAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素で構成されるホイスラー合金層を用いるときに、同様の結果が得られた。
【0058】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られた。
【0059】
[実験例5]
表7の実験例5−1〜5−4に、表3の中間固定層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)、中間自由層にZ組成が中間固定層より少ないCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた磁気抵抗効果素子の実験例と、中間固定層及び中間自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。このとき、その他の膜構成は表3記載の構成とする。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例5−5及び3−9では、中間固定層及び中間自由層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ移動し、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する。
【0060】
【表7】

【0061】
実験例5−5及び3−9の中間自由層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)用いた磁気抵抗効果素子に対し、Z組成を少なくした中間自由層を有する実験例5−1〜5−4では中間自由層の飽和磁化が大きくなり、電子が固定層から自由層に移動する負のバイアス電圧において、MR比のバイアス電圧依存性の改善が見られる。一方、MR比はZ組成に対して大きな減少がないため、電子が固定層から自由層に入る負のバイアス電圧では、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた従来構成よりも出力電圧を増大することができる。
【0062】
図6には、中間固定層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Si,Ge)、中間自由層に前記中間固定層よりもZ組成が少ないCo−Mn−Z’(Z’<Z)を用いた磁気抵抗効果素子において、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた実験例5−5および実験例3−9で得られる出力を1としたときの出力電圧のZ組成依存性を示す。中間自由層Co−Mn−Z’のZ’組成を20at.%≦Z’<30at.%とすることで、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Zを用いた従来構成の磁気抵抗効果素子に比較して高い出力電圧が得られた。
【0063】
このような効果は、Co−Mn−Zだけではなく、ホイスラー合金全般で成り立ち、飽和磁化が小さい磁性層から飽和磁化が大きい磁性層の側へ電子が流入するように駆動電圧が印加されたとき、同様の効果が得られる。また、ここでホイスラー合金とは、組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%のCo又はFe、20at.%≦Y≦30at.%のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、20at.%≦Z≦35at.%のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種もしくは2種以上の元素からなる合金を指す。
【0064】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られる。
【0065】
[実験例6]
表8の実験例6−1〜6−4に、表3の中間自由層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用い、中間固定層にZ組成が中間自由層より少ないCo−Mn−Z’(Z’=Ge,Si)を用いた磁気抵抗効果素子の実験例と、中間固定層及び中間自由層の飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。このとき、その他の膜構成は表3記載の構成とする。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例5−5及び3−9では、中間固定層及び中間自由層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する方向に対応する。
【0066】
【表8】

【0067】
実験例5−5及び3−9の中間固定層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)用いた磁気抵抗効果素子に対し、Z組成を少なくした中間固定層を有する実験例6−1〜6−4では中間固定層の飽和磁化が大きくなり、電子が自由層から固定層に移動する正のバイアス電圧において、MR比のバイアス電圧依存性の改善が見られる。一方、MR比はZ組成に対して大きな減少がないため、電子が自由層から固定層に入る正のバイアス電圧では、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた従来構成よりも出力電圧を増大することができる。
【0068】
図7には、中間自由層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Si,Ge)、中間固定層に前記中間自由層よりもZ組成が少ないCo−Mn−Z’(Z’=Si,Ge)を用いた磁気抵抗効果素子において、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用いた実験例5−5および実験例3−9で得られる出力を1としたときの出力電圧のZ組成依存性を示す。中間固定層Co−Mn−Z’のZ’組成を20at.%≦Z’<30at.%とすることで、中間自由層及び中間固定層の両方にZ組成が30at.%のCo−Mn−Zを用いた従来構成の磁気抵抗効果素子に比較して高い出力電圧が得られた。
【0069】
このような効果は、Co−Mn−Zだけではなく、ホイスラー合金全般で成り立ち、同様の効果が得られる。また、ここでホイスラー合金とは、組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%のCo又はFe、Yは20at.%≦Y≦30at.%のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、20at.%≦Z≦35at.%のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種もしくは2種以上の元素からなる合金を指す。
【0070】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られる。
【0071】
[実験例7]
上記で議論した飽和磁化は、平均飽和磁化と考えることもでき、すなわちMR比の増大に寄与している高スピン散乱材料以外の磁性層の膜厚を厚くすることでバイアス電圧依存性の改善、さらには出力電圧の増大を得ることができる。
【0072】
表9に、本発明の別の形態である磁気抵抗効果素子の積層構造と膜厚を示す。ここでは、中間固定層及び中間自由層としてCo−Mn−Geを用い、それぞれ両側から接するように配置したCo50Fe50(以下、ラミネートCoFeと称す)の膜厚を変化させた結果についてのみ示す。
【0073】
【表9】

【0074】
表10の実験例7−1〜7−8に中間固定層及び中間自由層にZ組成が30at.%のCo−Mn−Z(Z=Ge,Si)を用い、ラミネートCoFeの膜厚を変えた磁気抵抗効果素子の実験例と、ラミネートCoFeの膜厚、第二の強磁性固定層及び自由層の平均飽和磁化、印加電圧10mVでのMR比(MR)、MR比が最大値の8割に減少するときの電圧(V80)、出力の最大値((MR×V)max)と、出力の最大値が得られるときの電子の流す方向を示す。ここで飽和磁化以外の値に関しては、図2に示したようにMR比と出力のバイアス電圧依存性から評価した。ここで導入したV80はMR比のバイアス電圧耐性を示す基準で、この値が大きいほどバイアス電圧耐性があり、高いバイアス電圧まで大きなMR比を維持することを意味する。また、実験例3−9では、4層のラミネートCoFeを全て0.5nmとした場合について示す。ここで、電圧が正のときは電子が自由層から固定層へ移動する方向に対応し、負のときは電子が固定層から自由層へ移動する方向に対応する。
【0075】
【表10】

【0076】
実験例7−1,7−2で示したように、固定層ラミネートCoFe層(t2)の膜厚を厚くすると、電子が自由層から固定層に伝導する正のバイアス電圧において、実験例3−9よりも正バイアス電圧でのMR比のバイアス耐性が向上する。中間層に接したバルク散乱係数の小さなCoFe厚さを厚くすると、実験例3−9よりもMR比は低下する傾向にあるが、バイアス耐性が向上した分、出力電圧を増大することができる。同様に、実験例7−3及び7−4に示したように、中間層に接した自由層のラミネートCoFe層(t3)の膜厚を厚くすると電子が固定層から自由層に伝導する負のバイアス電圧において、実験例3−9よりも負のバイアス電圧でのMR比のバイアス耐性が向上する。結果として、出力電圧を増大することができる。
【0077】
実験例7−5及び7−6では、中間層とは反対の方向で、固定層Co−Mn−Geと接するCoFeの膜厚(t1)を厚く変化させたときの結果を示す。また、実験例7−7及び7−8には中間層とは反対の方向で、自由層Co−Mn−Geと接するCoFeの膜厚(t4)を厚く変化させたときの結果を示す。t1及びt4を厚くしたときには、それぞれ正及び負のバイアス電圧でのMR比のバイアス耐性を向上することができる。また、MR比は実験例3−9と比較し同等であるので、結果として平均飽和磁化が大きな方へ電子が入るバイアス電圧において出力を向上することができる。
【0078】
このように、ラミネートCoFeの膜厚を厚くし、電子が流入する側の平均飽和磁化を増大することでも、MR比のバイアス耐性を改善することができ、結果として出力電圧を増大することができる。
【0079】
図8に、各ラミネートCoFe膜厚を変化させた磁気抵抗効果素子の出力電圧を示す。ここで、変化させるパラメータ以外のCoFeの膜厚は0.5nmとした。t1及びt2を厚くした場合には、電子が自由層から固定層に移動する正のバイアス電圧において出力電圧の増大が見られ、またt3,t4を厚くした場合には、電子が固定層から自由層に移動する負のバイアス電圧において出力電圧の増大が見られた。ラミネートCoFeが厚くするに従いMR比のバイアス電圧耐性が向上するのに対し、スピン散乱効果が少ないCoFeの膜厚が厚くなるためMR比が減少し、出力電圧にはピークが現れる。このとき、出力の増大が見られるラミネートCoFeの膜厚(t)は0.5<t≦2.0nmの範囲であった。また、特にt2及びt3を厚くしたときの出力増大が顕著であった。
【0080】
このような効果はCo50Fe50の一組成に限られるものではなく、電流が流入する側の平均飽和磁化が他方よりも大きいときに得られるので、Co1-xFexの組成を限定するものではない。また、ラミネートCo−FeにNi,Al,Mn,Ge,Dy,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種もしくは2種以上の元素が添加されている場合にも、膜厚差が設けられているときには同様の効果が得られる。
【0081】
実験例7ではCo−Mn−Geを中間自由層及び中間固定層に用いた結果だけを示したが、中間自由層及び中間固定層が、組成がX−Y−Zで表され、Xが45at.%≦X≦55at.%を満たすCo又はFe,Yが20at.%≦Y≦30at.%を満たすV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zが20at.%≦Z≦35at.%を満たすAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素で構成されているときに、同様の結果が得られた。
【0082】
また、上記の結果はAlCu−Ox電流狭窄層を中間層に用いたときの結果であるが、MR比のバイアス電圧依存性は自由層及び固定層が主因であるため、上記中間層にCu,Ag,Au,Crなどの非磁性導電層やMgOやAl−Ox,Ti−Oxなどの絶縁層を用いた磁気抵抗効果素子についても同様の効果が得られる。
【0083】
[実験例8]
図9は、本発明の磁気抵抗効果膜10からなる磁気抵抗効果型磁気ヘッドの断面構造を示す図である。ここで形状や膜厚は必ずしも図示した通りである必要はない。本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、下部シールド電極100及び上部シールド電極103に挟み込まれるように配置され、下地層11、反強磁性層12、固定層13、中間層14、自由層15、保護層16を積層してなる。絶縁層101によって磁気抵抗効果素子10と電気的に分離されたハードバイアス層102は、自由層にトラック幅方向のバイアス磁界を印加し、自由層の磁化を単磁区化するために用いられる。ハードバイアス層102には、例えばCo−Cr−Pt合金などが用いられる。絶縁層101には、例えばAl23やSiO2などを用いることができる。
【0084】
図10は、本発明の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果型磁気ヘッドを搭載した垂直記録用記録再生分離型磁気ヘッドの概念図である。スライダーを兼ねる基体20上に磁気抵抗効果積層膜10、下部磁気シールド兼電極100、上部磁気シールド兼電極103、副磁極30、コイル31、主磁極32を形成してなり、記録媒体に対向する対向面40を形成してなる。図9記載の絶縁層101及びハードバイアス層102に相当する構造については、本図では記載を省略した。本発明の磁気ヘッドは再生部分の能力を高めるものであるので、垂直記録及び従来の面内記録の双方に対応できる技術であるが、特に垂直磁気記録ヘッドと組み合わせることでより高い記録密度を実現することができる。
【0085】
図11は、本発明の磁気ヘッドを用いた磁気記録再生装置の構成例を示す概略図である。磁気的に情報を記録する記録媒体51を保持するディスク55をスピンドルモーター53にて回転させ、アクチュエーター52によってヘッドスライダー50をディスク55のトラック上に誘導する。即ち磁気ディスク装置においては、ヘッドスライダー50上に形成した再生ヘッド、及び記録ヘッドがこの機構に依ってディスク55上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、及び読み取る。アクチュエーター52はロータリーアクチュエーターであることが望ましい。記録信号は信号処理系54を通じて記録ヘッドにて媒体上に記録し、再生ヘッドの出力を、信号処理系54を経て信号として得る。さらに再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動せしめるに際して、再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエーター52を制御して、ヘッドスライダー50の位置決めを行うことができる。図11にはヘッドスライダー50、ディスク55を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。またディスク55は、両面に記録媒体51を有して情報を記録してもよい。情報の記録がディスク両面の場合、ヘッドスライダー50はディスクの両面に配置する。
【0086】
上述したような構成について、本発明の磁気抵抗効果型磁気ヘッド及びこれを搭載した磁気記録再生装置を試験した結果、従来よりも高い出力を示すことが確認され、また作製時の歩留まりも良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の磁気抵抗効果積層膜の一例の積層構造を示す図である。
【図2】本発明の磁気抵抗効果素子の特性評価方法を示す図である。
【図3】本発明の代表的な磁気抵抗効果素子のMR比及び出力電圧のバイアス電圧依存性を示した図である。
【図4】CoFe−M中間自由層を用いたときの出力電圧のM添加量依存性を示した図である。
【図5】CoFe−M中間固定層を用いたときの出力電圧のM添加量依存性を示した図である。
【図6】Co−Mn−Z’(Z’=Si,Ge)中間自由層を用いたときの出力電圧のZ’添加量依存性を示した図である。
【図7】Co−Mn−Z’(Z’=Si,Ge)中間固定層を用いたときの出力電圧のZ’添加量依存性を示した図である。
【図8】ラミネートCoFe膜厚を変化させたときの出力電圧を示した図である。
【図9】磁気抵抗効果ヘッドの断面構造の概念図である。
【図10】垂直記録用記録再生分離型磁気ヘッドの概念図である。
【図11】磁気記録再生装置の構成例を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
10 磁気抵抗効果積層膜
11 下地膜
12 反強磁性膜
13 固定層
14 中間層
15 自由層
16 保護層
20 基体
30 副磁極
31 コイル
32 主磁極
40 対向面
50 ヘッドスライダー
51 記録媒体
52 アクチュエーター
53 スピンドル
54 信号処理系
55 磁気ディスク
100 下部磁気シールド兼電極
101 絶縁層
102 磁区制御バイアス膜
103 上部磁気シールド兼電極
130 第一の強磁性固定層
131 反平行結合中間層
132 第二の強磁性固定層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自由層と中間層と固定層とが積層され、上記固定層が感知すべき磁界に対して実質的に固定されてなる垂直通電型の磁気抵抗効果素子を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、
上記固定層もしくは自由層のいずれか一方にX−Y−Z(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)の組成で表わされるホイスラー合金層を備え、他方に上記ホイスラー合金よりも飽和磁化が大きい高飽和磁化材料層を備え、
上記垂直通電の方向が、上記ホイスラー合金層から上記高飽和磁化材料層に電子が流入する方向であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項2】
自由層と中間層と固定層とが積層され、上記固定層が感知すべき磁界に対して実質的に固定されてなる垂直通電型の磁気抵抗効果素子を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、
上記固定層もしくは自由層のいずれか一方にX−Y−Z(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)の組成で表わされるホイスラー合金層を備え、他方にCo−Fe−M(MはAl,Si,Mn,Ge,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種もしくは2種以上の元素)もしくはCo−Feから構成される層を備えることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項3】
請求項2記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、上記垂直通電の方向が、前記ホイスラー合金層から前記Co−Fe−MもしくはCo−Feから構成される層の方向であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項4】
請求項2又は3記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、MはAl,Si,Mnから選択された1種もしくは2種以上の元素であり、Mの添加量が0at.%以上、30at.%以下であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項5】
請求項2又は3記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、MはGe,Ga,Sn,Sb,Dy,Tb,Ho,Erから選択された1種もしくは2種以上の元素であり、Mの添加量が0at.%以上、20at.%以下であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項6】
自由層と中間層と固定層とが積層され、上記固定層が感知すべき磁界に対して実質的に固定されてなる垂直通電型の磁気抵抗効果素子を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、
上記固定層もしくは自由層のいずれか一方にX−Y−Z(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)の組成で表わされるホイスラー合金層を備え、他方に前記ホイスラー合金よりもZ組成が少ないホイスラー合金層を備えることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項7】
請求項6記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、上記垂直通電の方向が、前記Z組成の多い方のホイスラー合金層からZ組成の少ない方のホイスラー合金層に電子が流入する方向であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項8】
自由層と中間層と固定層とが積層され、上記固定層が感知すべき磁界に対して実質的に固定されてなる垂直通電型の磁気抵抗効果素子を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、
上記固定層と自由層の両方にX−Y−Z(Xは45at.%以上、55at.%以下のCo又はFe、Yは20at.%以上、30at.%以下のV,Cr,Mn,Feから選択された1種もしくは2種以上の元素、Zは20at.%以上、35at.%以下のAl,Si,Ga,Ge,Sn,Sbから選択された1種又は2種以上の元素)の組成で表わされるホイスラー合金層とCo−Fe層とが積層された膜を備え、上記固定層と自由層に含まれる上記Co−Fe層の膜厚合計が異なり、
上記垂直通電の方向が、平均した飽和磁化が低いホイスラー合金層とCo−Fe層とが積層された側から平均した飽和磁化が高いホイスラー合金層とCo−Fe層とが積層された側に電子が流入する方向であることを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、前記ホイスラー合金がL21,D03,B2構造のいずれかの結晶構造を有することを特徴とする磁気抵抗効果型磁気ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−140586(P2010−140586A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318875(P2008−318875)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】