磁気抵抗効果素子およびその製造方法
【課題】磁気特性の低下の抑制を図る。
【解決手段】磁気抵抗効果素子は、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層33と、前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層34と、前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層35と、を具備する。前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層32と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層31と、を有する。前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域38と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域39と、を含む。
【解決手段】磁気抵抗効果素子は、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層33と、前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層34と、前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層35と、を具備する。前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層32と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層31と、を有する。前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域38と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域39と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体を用いた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)は、不揮発性、高速動作、大容量、低消費電力を備えた不揮発性メモリとして期待されている。MRAMは、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を利用するMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を記憶素子として備え、このMTJ素子の磁化状態により情報を記憶する。また、MTJ素子として、膜面に対して垂直な磁化を生じさせることで情報を記憶する垂直磁化型MTJ素子が提案されている。
【0003】
MTJ素子は、磁化方向が可変な記憶層と磁化方向が不変な参照層とを有している。記憶層は、参照層上にトンネルバリア層を介して積層されている。また、垂直磁化型MTJ素子において、参照層と記憶層とは異なる寸法を有している。より具体的には、参照層は、その上部に位置する記憶層よりも平面において大きな径を有している。すなわち、MTJ素子の形状は、断面においてステップ形状となる。また、参照層は、情報の読み出しに必要な大きな磁気抵抗比を得るために、トンネルバリア層との界面付近に高い偏極率を持つ界面層を具備している。
【0004】
一般に、トンネルバリア層と界面層の界面では垂直磁気異方性が生じる。しかし、上述したステップ構造を形成するプロセスにおいて、表面が露出するトンネルバリア層が不均一にエッチングされてしまい、結晶構造が乱れてしまう。これにより、界面層の垂直異方性が消失し、参照層の垂直磁気異方性が不安定化する問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−193103号公報
【特許文献2】特開2005−209951号公報
【特許文献3】特開2009−81216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気特性の劣化の抑制を図る磁気抵抗効果素子およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態による磁気抵抗効果素子は、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、を具備する。前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層と、を有する。前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各実施形態に係るMARMのメモリセルを示す回路図。
【図2】各実施形態に係るMARMのメモリセルの構造を示す断面図。
【図3】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る失活領域の磁化消失の原理の一例を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る失活領域の磁化消失の原理の他の例を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る失活領域にP元素を導入した場合のP元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図7】第1の実施形態に係る失活領域にN元素を導入した場合のN元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図8】第1の実施形態に係る失活領域にSi元素を導入した場合のSi元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図9】第1の実施形態に係る失活領域にB元素を導入した場合のB元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図10】第1の実施形態に係る失活領域にS元素を導入した場合のS元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図11】第1の実施形態に係る失活領域にO元素を導入した場合のO元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図12】第1の実施形態に係る失活領域に第IV族元素および第V族元素を導入した場合の導入量と磁化との関係を示すグラフ。
【図13】第1の実施形態に係る失活領域に第V族元素を導入した場合の磁場と磁化との関係とその比較例を示すグラフ。
【図14】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第1変形例の構造を示す断面図。
【図15】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第2変形例の構造を示す断面図。
【図16】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図17】図16に続く、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図18】図17に続く、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図19】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向の比較例を示す図。
【図20】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向を示す図。
【図21】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図。
【図22】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造を示す断面図。
【図23】第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。また、重複する説明は、必要に応じて行う。
【0010】
<1.MRAM構成例>
図1および図2を用いて、各実施形態に係るMARMの構成例について説明する。
【0011】
図1は、各実施形態に係るMARMのメモリセルを示す回路図である。
【0012】
図1に示すように、メモリセルアレイMA内のメモリセルは、磁気抵抗効果素子MTJとスイッチ素子(例えば、FET)Tとの直列接続体を備える。直列接続体の一端(磁気抵抗効果素子MTJの一端)は、ビット線BLAに接続され、直列接続体の他端(スイッチ素子Tの一端)は、ビット線BLBに接続される。スイッチ素子Tの制御端子、例えば、FETのゲート電極は、ワード線WLに接続される。
【0013】
ワード線WLの電位は、第1の制御回路11により制御される。また、ビット線BLA,BLBの電位は、第2の制御回路12により制御される。
【0014】
図2は、各実施形態に係るMARMのメモリセルの構造を示す断面図である。
【0015】
図2に示すように、メモリセルは、半導体基板21上に配置されたスイッチ素子Tおよび磁気抵抗効果素子MTJで構成される。
【0016】
半導体基板21は、例えば、シリコン基板であり、その導電型は、P型でもN型でもどちらでもよい。半導体基板21内には、素子分離絶縁層22として、例えば、STI構造の酸化シリコン層が配置される。
【0017】
半導体基板21の表面領域、具体的には、素子分離絶縁層22により取り囲まれた素子領域(アクティブエリア)内には、スイッチ素子Tが配置される。本例では、スイッチ素子Tは、FETであり、半導体基板21内の2つのソース/ドレイン拡散層23と、それらの間のチャネル領域上に配置されるゲート電極24とを有する。ゲート電極24は、ワード線WLとして機能する。
【0018】
スイッチ素子Tは、絶縁層(例えば、酸化シリコン)25により覆われる。コンタクトホールは、絶縁層25内に設けられ、コンタクトビア(CB)26は、そのコンタクトホール内に配置される。コンタクトビア26は、例えば、W(タングステン)、Cu(銅)などの金属材料から形成される。
【0019】
コンタクトビア26の下面は、スイッチ素子に接続される。本例では、コンタクトビア26は、ソース/ドレイン拡散層23に直接接触している。
【0020】
コンタクトビア26上には、下部電極(LE)27が配置される。下部電極27は、例えば、Ta(10nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)の積層構造を有する。
【0021】
下部電極27上、すなわち、コンタクトビア26の直上には、磁気抵抗効果素子MTJが配置される。本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについての詳細は、後述する。
【0022】
磁気抵抗効果素子MTJ上には、上部電極(UE)28が配置される。上部電極28は、例えばTiNで形成される。上部電極28は、ビア(例えば、Cu)29を介して、ビット線(例えば、Cu)BLAに接続される。
【0023】
<2.第1の実施形態>
図3乃至図20を用いて、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第1の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、トンネルバリア層34の下部に位置する参照層界面層32が、中央部の磁化領域(第1領域)38と磁化領域38よりも磁化の小さい端部の失活領域(第2領域)39とで構成される例である。以下に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。
【0024】
[2−1.第1の実施形態の構造]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0025】
図3は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す図である。より具体的には、図3(a)は磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図であり、図3(b)は磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す平面図である。
【0026】
図3(a)に示すように、磁気抵抗効果素子MTJは、参照層33、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク(HM)37等を備える。
【0027】
参照層33は、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して形成される。参照層33は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。ここで、磁化方向が不変とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わらないことを示す。
【0028】
また、参照層33は、例えばCoFeBで構成されるが、これに限らない。例えばCo(コバルト)、Fe(鉄)、B(ホウ素)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Mn(マンガン)、またはRu(ルテニウム)のうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられてもよい。なお、参照層33は、形成時のアモルファス状態ではCoFeBで構成されるが、結晶化した後は主にCoFeで構成される。
【0029】
また、参照層33は、下部側に形成された参照層本体層31と、上部側に形成された参照層界面層32とで構成される。すなわち、参照層本体層31は図示せぬ下地層を介して下部電極27上に形成され、参照層界面層32はトンネルバリア層34の下部に接して形成される。また、参照層本体層31は垂直磁気異方性の起源となり、参照層界面層32は上部で接するトンネルバリア層34との間で格子整合性を図る。これら参照層本体層31および参照層界面層32は、例えば同一材料(例えばCoFeB)で構成されるが、その組成比は異なっていてもよい。より具体的には、参照界面層32の組成比は、上部で接するトンネルバリア層34との間で格子整合性を図るように調整される。また、参照本体層31は、CoFeBに限らず、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等のフェリ磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等で構成されてもよい。第1の実施形態に係る参照層界面層32についての詳細は、後述する。
【0030】
ここで、垂直磁化とは、残留磁化の方向が膜面(上面/下面)に対して垂直またはほぼ垂直となることである。この明細書において、ほぼ垂直とは、残留磁化の方向が膜面に対して、45°<θ≦90°の範囲内にあることを意味する。
【0031】
トンネルバリア層34は、参照層33上に形成される。トンネルバリア層34は、非磁性層であり、例えばMgOで構成される。このトンネルバリア層34は、参照層33に接することで、参照層33との界面(参照層界面層32)に垂直異方性を生させる。なお、図3において、トンネルバリア層34は膜厚が一定で形成されているが、本実施形態では端部において不均一に形成される場合が想定され得る。
【0032】
記憶層35は、トンネルバリア層34上に形成される。記憶層35は、磁化方向が可変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。ここで、磁化方向が可変とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わることを示す。すなわち、記憶層35は、参照層33よりも磁化方向の反転閾値が小さい。
【0033】
記憶層35は、平面において参照層33およびトンネルバリア層34の寸法よりも小さい。ここで、磁気抵抗効果素子MTJの平面形状は例えば円形である。このため、記憶層35の平面における直径(以下、単に径と称す)は、参照層33およびトンネルバリア層34の径よりも小さい。また、記憶層35は、参照層33およびトンネルバリア層34の中央部における上方に位置している。なお、磁気抵抗効果素子MTJの平面形状は、円形に限らず、正方形、長方形、楕円形などであってもよい。
【0034】
記憶層35は、例えばCo、またはFeのうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられる。また、飽和磁化、または結晶磁気異方性などを調整する目的で、強磁性体にB(ホウ素)、C(炭素)、またはSi(シリコン)などの元素を添加してもよい。
【0035】
キャップ層36は記憶層35上に形成され、ハードマスク37はキャップ層36上に形成される。ハードマスクは、例えば金属からなる導電材料で形成され、その上部に上部電極28が形成される。
【0036】
磁気抵抗効果素子MTJは、例えばスピン注入型の磁気抵抗効果素子である。したがって、磁気抵抗効果素子MTJにデータを書き込む場合、または磁気抵抗効果素子MTJからデータを読み出す場合、磁気抵抗効果素子MTJは、膜面(積層面)に垂直な方向において、双方向に電流が通電される。
【0037】
より具体的には、磁気抵抗効果素子MTJへのデータの書き込みは、以下のように行われる。
【0038】
下部電極27側から電子(参照層33から記憶層35へ向かう電子)が供給される場合、参照層33の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子が記憶層35に注入される。この場合、記憶層35の磁化方向は、参照層33の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、参照層33の磁化方向と記憶層35の磁化方向とが、平行配列となる。この平行配列のとき、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も小さくなる。この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0039】
一方、上部電極28側から電子(記憶層35から参照層33へ向かう電子)が供給される場合、参照層33により反射されることで参照層33の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記憶層35に注入される。この場合、記憶層35の磁化方向は、参照層33の磁化方向と反対方向に揃えられる。これにより、参照層33の磁化方向と記憶層35磁化方向とが、反平行配列となる。この反平行配列のとき、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も大きくなる。この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0040】
また、データの読み出しは、以下のように行われる。
【0041】
磁気抵抗効果素子MTJに、読み出し電流が供給される。この読み出し電流は、記憶層35の磁化方向が反転しない値(書き込み電流よりも小さい値)に設定される。この時の磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値の変化を検出することにより、メモリ動作可能な半導体装置となる。
【0042】
ここで、第1の実施形態において、参照層界面層32は、磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい失活領域39とを有する。磁化領域38は、参照層本体層31と同一の磁化方向の垂直磁化を有する。一方、失活領域39は、磁化領域38よりも小さい磁化を有するか、望ましくは磁化を有さない。
【0043】
図3(b)に示すように、参照層界面層32において、磁化領域38は中央部(内側)に設けられ、失活領域39はその周囲を取り囲むように端部(外側)に設けられる。より具体的には、磁化領域38は、記憶層35の下部に位置し、上面から見ると記憶層35とオーバーラップする。言い換えると、記憶層35は失活領域39上には存在しない。すなわち、磁化領域38の径は、記憶層35の径と同等である。また、失活領域39の内径は記憶層35の径(磁化領域38の径)と同等であり、外径は参照層本体層31およびトンネルバリア層34の径と同等である。しかし、これに限らず、失活領域39の内径(磁化領域38の径)は、記憶層35の径より大きくてもよい。
【0044】
失活領域39は、磁化領域38に含まれる元素(第1元素)と、その元素とは異なる他の元素(第2元素)とを含む。すなわち、失活領域39は、磁化領域38と同様に第1元素で形成された後、さらに第2元素を導入することによって形成される。失活領域39は、第2元素を含むことで、磁化領域38よりも小さい磁化を有する、または磁化を有さない。なお、参照層本体層31にも第2元素が導入され、参照層界面層32に隣接する参照層本体層31の一部に失活領域39が形成されていてもよい。
【0045】
図4は、第1の実施形態に係る失活領域39の磁化消失の原理の一例を示す図である。図5は、第1の実施形態に係る失活領域39の磁化消失の原理の他の例を示す図である。
【0046】
図4に示すように、失活領域39に第2元素(X)を導入した場合、第2元素が第1元素(例えばCo、Fe)と化学的な結合を作り、化合物を形成する。これにより、非磁性(反強磁性)化合物が形成され、失活領域39の磁化が著しく低下する、または消失する。
【0047】
もしくは、図5に示すように、失活領域39に第2元素を導入した場合、第2元素が第1元素の間(格子間)に侵入する。これにより、第1元素の結晶構造が変化し、失活領域39の磁化が著しく低下する、または消失する。
【0048】
より具体的には、図5(a)に示すように、第2元素が第1元素間(Co−Fe間)に侵入することで、Co−Fe原子間距離が伸張する。原子間距離が広がることで、交換相互作用が弱くなり、磁化が消失する。
【0049】
または、図5(b)に示すように、第2元素が粒界に偏析することで、第1元素が複数の結晶粒からなる磁性クラスタに分離する。これにより、磁性クラスタが互いに磁化を打ち消す超常磁性化を起こし、磁化が消失する。
【0050】
なお、図5に示す格子間への侵入よりも、図4に示す化合物の形成のほうが化学的に安定した状態であり、熱などの外的要因による元素拡散や格子の再配列等で磁化が復活する可能性が低い。このため、第2元素としては、第1元素と化合物を形成する元素を用いたほうがよい。
【0051】
第2元素としては、プニクトゲン(第V族)元素であるN(窒素)、P(リン)、As(砒素)、またはSb(アンチモン)や第IV族元素であるC(炭素)、Si(シリコン)、またはGe(ゲルマニウム)が用いられる。また、これらに限らず、He(ヘリウム)、F(フッ素)、B(ホウ素)、Zr(ジルコニウム)、Tb(テルビウム)、Ti(チタン)、Mg(マグネシウム)、S(硫黄)、またはO(酸素)等が用いられてもよい。また、これらの元素のうち2つ以上用いられてもよい。
【0052】
図6乃至図11は、第1の実施形態に係る失活領域39に各元素を導入した場合の各元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフである。図12は、第1の実施形態に係る失活領域39に第IV族元素および第V族元素を導入した場合の導入量と磁化との関係を示すグラフである。図13は、第1の実施形態に係る失活領域39に第V族元素を導入した場合の磁場と磁化との関係とその比較例を示すグラフである。
【0053】
図6および図7に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、P、Nを導入した場合)、添加元素比が0.3程度で磁化が消失する。また、図8に示すように、失活領域39に第IV族元素を導入した場合(ここでは、Siを導入した場合)、添加元素比が0.5程度で磁化が消失する。
【0054】
一方、図9乃至図11に示すように、失活領域39に第IV族および第V族以外の元素を導入した場合(ここでは、B、S、Oを導入した場合)、添加元素比が0.5以上で磁化が消失する。
【0055】
このように、他元素と比較して、失活領域39に第V族元素または第IV族元素を導入したほうが、少ない量で磁化を消失させることが可能である。
【0056】
また、図12に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、Asを導入した場合)、失活領域39に第IV族元素を導入した場合(ここでは、Geを導入した場合)と比べて、少ない導入量で磁化を消失することができる。さらに、図13に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、Asを導入した場合)、元素を導入しない場合と比べて、磁場をかけた際の磁化が著しく低下する。
【0057】
このように、失活領域39の磁化を消失させるためには、失活領域39に第V族元素を導入することが最も望ましい。
【0058】
[2−2.第1の実施形態の変形例の構造]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造について説明する。
【0059】
図14は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第1変形例の構造を示す断面図であり、図15は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第2変形例の構造を示す断面図である。
【0060】
図14に示すように、第1の実施形態の第1変形例において、失活領域39上にトンネルバリア層34が形成されない。言い換えると、トンネルバリア層34は、参照層界面層32における磁化領域38上(中央部)のみに形成される。すなわち、トンネルバリア層34の径は、磁化領域38および記憶層35の径と同等である。これは、後述するエッチングプロセスにおいて、記憶層35と同時にトンネルバリア層34の端部も除去されたためである。
【0061】
また、図15に示すように、第1の実施形態の第2変形例において、失活領域39上のトンネルバリア層34の膜厚が磁化領域38上のトンネルバリア層34の膜厚よりも小さくなるように形成される。言い換えると、トンネルバリア層34は、中央部よりも端部において膜厚が小さくなるように形成される。これは、後述するエッチングプロセスにおいて、記憶層35と同時にトンネルバリア層34の端部の一部も除去されたためである。
【0062】
[2−3.第1の実施形態の製造方法]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0063】
図16乃至図18は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程を示す断面図である。
【0064】
まず、図16に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層本体層31が形成される。参照層本体層31は、例えばCoFeBや、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等のフェリ磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等で構成される。また、参照層本体層31は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0065】
次に、参照層本体層31上に、参照層界面層32が形成される。参照層界面層32は、参照層本体層31と同様に、例えばCoFeBで構成されるが、その組成比は異なってもよい。また、参照層界面層32は、参照層本体層31と同様に、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0066】
次に、参照層界面層32上に、トンネルバリア層34が形成される。トンネルバリア層34は、例えばMgOで構成され、非磁性層である。
【0067】
次に、トンネルバリア層34上に、記憶層35が形成される。記憶層35は、磁化方向が可変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0068】
その後、記憶層35上に、キャップ層36が形成される。このキャップ層36上に、ハードマスク37が形成される。ハードマスク37は、例えば金属からなる導電材料で構成されるが、これに限らず絶縁材料で構成されてもよい。その後、ハードマスク37上にレジストパターンが形成され、このレジストパターンをマスクとして、例えばIBE(Ion Beam Etching)またはRIE(Reactive Ion Etching)によりハードマスク37がパターニングされる。これにより、中央部においてハードマスク37が残存し、端部においてキャップ層36の上面が露出する。
【0069】
次に、図17に示すように、パターニングされたハードマスク37をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりキャップ層36および記憶層35がパターニングされる。これにより、中央部においてキャップ層36および記憶層35が残存し、端部においてトンネルバリア層34の上面が露出する。
【0070】
なお、この際、図14または図15に示すように、端部においてトンネルバリア層34も同様にパターニングされてもよいし、一部のみパターニングされてもよい。すなわち、端部において参照層界面層32の上面が露出してもよい。また、IBEは記憶層35のエッチング面(側面)のダメージを低減するため、このパターニング工程はIBEで行われることが望ましい。
【0071】
次に、図18に示すように、露出した面(上面)に対して不純物がイオン注入される。より具体的には、端部において露出したトンネルバリア層34の上面から不純物がイオン注入され、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。または、トンネルバリア層34もパターニングされた場合、露出した参照層界面層32の上面に直接不純物をイオン注入してもよい。これにより、参照層界面層32の中央部に磁化領域38が形成され、端部に磁化の小さい(または磁化のない)失活領域39が形成される。
【0072】
このとき、イオン注入の角度は、トンネルバリア層34の上面に対して垂直な角度で行われる。しかし、これに限らず、製造装置等の関係により、多少ずれてもよい。具体的には、記憶層35の側面から多くの不純物元素が直接注入されない角度であればよい。
【0073】
また、失活領域39にイオン注入される不純物元素(第2元素)は、参照層界面層32(磁化領域38)に含まれる元素(第1元素)とは異なる元素である。第2元素としては、第V族元素であるN、P、As、またはSbや第IV族元素であるC、Si、またはGeが用いられる。また、これらに限らず、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはO等が用いられてもよい。また、これらの元素のうち2つ以上用いられてもよい。
【0074】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)がエッチングされる。
【0075】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0076】
[2−4.第1の実施形態の効果]
上記第1の実施形態によれば、記憶層35とそれより径の大きい参照層33とを有する磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層界面層32が中央部(内側)の磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい端部(外側)の失活領域39とで構成される。これにより、記憶層35のパターニング工程において、記憶層35と参照層界面層32との間に位置するトンネルバリア層34の端部(外側)が不均一にエッチングされても、その直下に位置する失活領域39の磁化方向が乱れることはない。したがって、参照層33における磁気特性の劣化を抑制することができる。以下に、上記効果についてより詳細に説明する。
【0077】
図19は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向の比較例を示す図である。図20は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向を示す図である。
【0078】
図19および図20に示すように、記憶層35のパターニング工程において、トンネルバリア層34の端部(露出した端部)が不均一にエッチングされ、結晶不良を起こした場合について考える。
【0079】
図19に示すように、比較例によれば、参照層界面層32の端部に失活領域39は形成されていない。通常、トンネルバリア層34と接することで、参照層界面層32に界面異方性(垂直異方性)が生じている。しかし、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされると、その直下に位置する参照層界面層32の端部における垂直異方性が消失する。その結果、参照層界面層32の端部の磁化方向が不安定になり、参照層本体層31の磁化方向も不安定になる。
【0080】
これに対し、図20に示すように、第1の実施形態によれば、参照層界面層32の端部に磁化のない失活領域39が形成されている。このため、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされたとしても、その直下に位置する参照層界面層32の端部(失活領域39)における磁化方向が不安定になることはない。すなわち、失活領域39にはもともと磁化がないため、トンネルバリア層34の不均一性によって、失活領域39の磁化方向が不安定になることはない。その結果、参照層本体層31の磁化方向も不安定になることはない。
【0081】
なお、失活領域39に小さい磁化がある場合、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされると、失活領域39の磁化方向は不安定になる。しかし、失活領域39における磁化は小さいため、参照層本体層31に与える影響は小さく、実質無視できる。
【0082】
また、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされた場合のみならず、トンネルバリア層34の端部が完全に除去された場合でも、参照層界面層32との間における垂直異方性が消失する。すなわち、第1の実施形態は、トンネルバリア層34の端部の有無に限らず適用可能であり、不均一に形成された場合、完全に除去された場合等、種々の構造である場合に適用可能である。
【0083】
<3.第2の実施形態>
図21および図22を用いて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第2の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、磁化方向が不変で、かつ参照層33の磁化方向とは反対の磁性層であるシフト調整層50が形成される例である。以下に、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。なお、第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0084】
[3−1.第2の実施形態の構造]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0085】
図21は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図である。
【0086】
図21に示すように、第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、磁気抵抗効果素子MTJがシフト調整層50を備える点である。
【0087】
シフト調整層50は、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して形成される。シフト調整層50は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。また、その磁化方向は、参照層33の磁化方向と反対方向である。これにより、シフト調整層50は、記憶層35にかかる参照層33からの漏洩磁界を打ち消すことができる。言い換えると、シフト調整層50は、参照層33からの漏れ磁場による記憶層35に対する反転特性のオフセットを逆方向へ調整する効果を有する。このシフト調整層24は、例えば、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子などから構成される。。
【0088】
シフト調整層50上には、図示せぬスペーサ層(例えば、Ru等)を介して参照層33が形成される。また、シフト調整層50の径は、参照層33の径(失活領域39の外径)と同等であり、記憶層35の径(失活領域39の内径および磁化領域38の径)よりも大きい。
【0089】
[3−2.第2の実施形態の変形例の構造]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造について説明する。
【0090】
図22は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造を示す断面図である。
【0091】
図22に示すように、第2の実施形態の変形例において、シフト調整層50が記憶層35上に形成される。このシフト調整層50上には、キャップ層36が形成される。また、シフト調整層50の径は、記憶層35の径(失活領域39の内径および磁化領域38の径)と同等であり、参照層33の径(失活領域39の外径)よりも小さい。
【0092】
[3−3.第2の実施形態の製造方法]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0093】
まず、図21に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介してシフト調整層50が形成される。シフト調整層50は、例えば、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子などから構成される。
【0094】
次に、シフト調整層50上に、参照層本体層31、参照層界面層32、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、ハードマスク37が順に積層される。そして、ハードマスク37、キャップ層36、および記憶層35がパターニングされる。その後、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。
【0095】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34、参照層33、およびシフト調整層50がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)、およびシフト調整層50の端部がエッチングされる。
【0096】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0097】
[3−4.第2の実施形態の変形例の製造方法]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の製造方法について説明する。
【0098】
まず、図22に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層本体層31、参照層界面層32、トンネルバリア層34、記憶層35が順に積層される。
【0099】
次に、記憶層35上に、シフト調整層50が形成される。シフト調整層50は、例えば、Pt、Pd、またはIr等で構成される。
【0100】
次に、シフト調整層50上に、キャップ層36、ハードマスク37が順に積層される。その後、例えばIBEまたはRIEによりハードマスク37、キャップ層36、シフト調整層50、および記憶層35がパターニングされる。その後、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。
【0101】
次に、記憶層35、シフト調整層50、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)がエッチングされる。
【0102】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例が完成する。
【0103】
[3−5.第2の実施形態の効果]
上記第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
さらに、第2の実施形態では、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層33の下部、または記憶層35の上部に、参照層33と反対方向の磁化を有するシフト調整層50が形成される。これにより、記憶層35にかかる参照層33からの漏洩磁界を打ち消すことができ、磁気抵抗効果素子MTJにおける磁気特性の向上を図ることができる。
【0105】
<4.第3の実施形態>
図23を用いて、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第3の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層33として、参照層界面層32および参照層本体層31の積層構造ではなく、これらが一体化して形成される例である。以下に、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。なお、第3の実施形態において、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0106】
[4−1.第3の実施形態の構造]
第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0107】
図23は、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図である。
【0108】
図23に示すように、第3の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、参照層本体層31が形成されていない点である。
【0109】
参照層33は、図示せぬ下地層上に形成される参照層界面層32のみで構成される。参照層界面層32は、例えばCoFeBで構成される。このとき、参照層界面層32は、その上部に形成されるトンネルバリア層34との界面で生じる垂直磁気異方性を有し、参照層本体層31としての機能も有する。
【0110】
この参照層33(参照層界面層32)は、磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい失活領域39とを有する。磁化領域38は、磁化方向が不変の垂直磁化を有する。一方、失活領域39は、磁化領域38よりも小さい磁化を有するか、望ましくは磁化を有さない。
【0111】
参照層界面層32において、磁化領域38は、上部側(トンネルバリア層34側)の中央部および下部側の全体に形成される。一方、失活領域39は、上部側の端部に形成される。すなわち、失活領域39は、上部側の中央部に位置する磁化領域38の周囲を取り囲んでいる。
【0112】
失活領域39は、磁化領域38に含まれる元素(第1元素)と、その元素とは異なる他の元素(第2元素)とを含む。すなわち、失活領域39は、磁化領域38と同様に第1元素で形成された後、さらに第2元素を導入することによって形成される。失活領域39は、第2元素を含むことで、磁化領域38よりも小さい磁化を有する、または磁化を有さない。
【0113】
[4−2.第3の実施形態の製造方法]
第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0114】
まず、図23に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層界面層32が形成される。参照層界面層32は、例えばCoFeBで構成される。この参照層界面層32は、その上部に形成されるトンネルバリア層34との界面で生じる垂直磁気異方性を有する。
【0115】
次に、参照層界面層32上に、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37が順に積層される。その後、例えばIBEまたはRIEによりハードマスク37、キャップ層36、および記憶層35がパターニングされる。
【0116】
次に、参照層界面層32における上部側の端部に不純物元素が導入され、失活領域39が形成される。
【0117】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層界面層32の端部)がエッチングされる。
【0118】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0119】
[4−3.第3の実施形態の効果]
上記第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0120】
さらに、第3の実施形態では、参照層33として、参照層本体層31が形成されない。通常、参照層本体層31は、CoFeBに限らず、CoPt等の合金、TbCoFe等のフェリ磁性体、Co/Pt等の積層人工格子系で構成され得る。すなわち、参照層本体層31の製造プロセスは、参照層界面層32よりも困難である。これに対し、第3の実施形態では、参照層33が参照層界面層32のみで構成され、製造プロセスが困難な参照層本体層31を形成する必要がない。このため、製造プロセスにおいて、成膜が容易なCoFeBで構成される参照層界面層32のみを形成すればよく、その結果、参照層33の製造プロセスが容易になる。
【0121】
その他、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0122】
31…参照層本体層、32…参照層界面層、33…参照層、34…トンネルバリア層、38…磁化領域、39…失活領域、50…シフト調整層。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体を用いた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)は、不揮発性、高速動作、大容量、低消費電力を備えた不揮発性メモリとして期待されている。MRAMは、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistive)効果を利用するMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を記憶素子として備え、このMTJ素子の磁化状態により情報を記憶する。また、MTJ素子として、膜面に対して垂直な磁化を生じさせることで情報を記憶する垂直磁化型MTJ素子が提案されている。
【0003】
MTJ素子は、磁化方向が可変な記憶層と磁化方向が不変な参照層とを有している。記憶層は、参照層上にトンネルバリア層を介して積層されている。また、垂直磁化型MTJ素子において、参照層と記憶層とは異なる寸法を有している。より具体的には、参照層は、その上部に位置する記憶層よりも平面において大きな径を有している。すなわち、MTJ素子の形状は、断面においてステップ形状となる。また、参照層は、情報の読み出しに必要な大きな磁気抵抗比を得るために、トンネルバリア層との界面付近に高い偏極率を持つ界面層を具備している。
【0004】
一般に、トンネルバリア層と界面層の界面では垂直磁気異方性が生じる。しかし、上述したステップ構造を形成するプロセスにおいて、表面が露出するトンネルバリア層が不均一にエッチングされてしまい、結晶構造が乱れてしまう。これにより、界面層の垂直異方性が消失し、参照層の垂直磁気異方性が不安定化する問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−193103号公報
【特許文献2】特開2005−209951号公報
【特許文献3】特開2009−81216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気特性の劣化の抑制を図る磁気抵抗効果素子およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態による磁気抵抗効果素子は、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、を具備する。前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層と、を有する。前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各実施形態に係るMARMのメモリセルを示す回路図。
【図2】各実施形態に係るMARMのメモリセルの構造を示す断面図。
【図3】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る失活領域の磁化消失の原理の一例を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る失活領域の磁化消失の原理の他の例を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る失活領域にP元素を導入した場合のP元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図7】第1の実施形態に係る失活領域にN元素を導入した場合のN元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図8】第1の実施形態に係る失活領域にSi元素を導入した場合のSi元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図9】第1の実施形態に係る失活領域にB元素を導入した場合のB元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図10】第1の実施形態に係る失活領域にS元素を導入した場合のS元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図11】第1の実施形態に係る失活領域にO元素を導入した場合のO元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフ。
【図12】第1の実施形態に係る失活領域に第IV族元素および第V族元素を導入した場合の導入量と磁化との関係を示すグラフ。
【図13】第1の実施形態に係る失活領域に第V族元素を導入した場合の磁場と磁化との関係とその比較例を示すグラフ。
【図14】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第1変形例の構造を示す断面図。
【図15】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第2変形例の構造を示す断面図。
【図16】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図17】図16に続く、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図18】図17に続く、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程。
【図19】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向の比較例を示す図。
【図20】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向を示す図。
【図21】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図。
【図22】第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造を示す断面図。
【図23】第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。また、重複する説明は、必要に応じて行う。
【0010】
<1.MRAM構成例>
図1および図2を用いて、各実施形態に係るMARMの構成例について説明する。
【0011】
図1は、各実施形態に係るMARMのメモリセルを示す回路図である。
【0012】
図1に示すように、メモリセルアレイMA内のメモリセルは、磁気抵抗効果素子MTJとスイッチ素子(例えば、FET)Tとの直列接続体を備える。直列接続体の一端(磁気抵抗効果素子MTJの一端)は、ビット線BLAに接続され、直列接続体の他端(スイッチ素子Tの一端)は、ビット線BLBに接続される。スイッチ素子Tの制御端子、例えば、FETのゲート電極は、ワード線WLに接続される。
【0013】
ワード線WLの電位は、第1の制御回路11により制御される。また、ビット線BLA,BLBの電位は、第2の制御回路12により制御される。
【0014】
図2は、各実施形態に係るMARMのメモリセルの構造を示す断面図である。
【0015】
図2に示すように、メモリセルは、半導体基板21上に配置されたスイッチ素子Tおよび磁気抵抗効果素子MTJで構成される。
【0016】
半導体基板21は、例えば、シリコン基板であり、その導電型は、P型でもN型でもどちらでもよい。半導体基板21内には、素子分離絶縁層22として、例えば、STI構造の酸化シリコン層が配置される。
【0017】
半導体基板21の表面領域、具体的には、素子分離絶縁層22により取り囲まれた素子領域(アクティブエリア)内には、スイッチ素子Tが配置される。本例では、スイッチ素子Tは、FETであり、半導体基板21内の2つのソース/ドレイン拡散層23と、それらの間のチャネル領域上に配置されるゲート電極24とを有する。ゲート電極24は、ワード線WLとして機能する。
【0018】
スイッチ素子Tは、絶縁層(例えば、酸化シリコン)25により覆われる。コンタクトホールは、絶縁層25内に設けられ、コンタクトビア(CB)26は、そのコンタクトホール内に配置される。コンタクトビア26は、例えば、W(タングステン)、Cu(銅)などの金属材料から形成される。
【0019】
コンタクトビア26の下面は、スイッチ素子に接続される。本例では、コンタクトビア26は、ソース/ドレイン拡散層23に直接接触している。
【0020】
コンタクトビア26上には、下部電極(LE)27が配置される。下部電極27は、例えば、Ta(10nm)/Ru(5nm)/Ta(5nm)の積層構造を有する。
【0021】
下部電極27上、すなわち、コンタクトビア26の直上には、磁気抵抗効果素子MTJが配置される。本実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについての詳細は、後述する。
【0022】
磁気抵抗効果素子MTJ上には、上部電極(UE)28が配置される。上部電極28は、例えばTiNで形成される。上部電極28は、ビア(例えば、Cu)29を介して、ビット線(例えば、Cu)BLAに接続される。
【0023】
<2.第1の実施形態>
図3乃至図20を用いて、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第1の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、トンネルバリア層34の下部に位置する参照層界面層32が、中央部の磁化領域(第1領域)38と磁化領域38よりも磁化の小さい端部の失活領域(第2領域)39とで構成される例である。以下に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。
【0024】
[2−1.第1の実施形態の構造]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0025】
図3は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す図である。より具体的には、図3(a)は磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図であり、図3(b)は磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す平面図である。
【0026】
図3(a)に示すように、磁気抵抗効果素子MTJは、参照層33、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク(HM)37等を備える。
【0027】
参照層33は、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して形成される。参照層33は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。ここで、磁化方向が不変とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わらないことを示す。
【0028】
また、参照層33は、例えばCoFeBで構成されるが、これに限らない。例えばCo(コバルト)、Fe(鉄)、B(ホウ素)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Mn(マンガン)、またはRu(ルテニウム)のうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられてもよい。なお、参照層33は、形成時のアモルファス状態ではCoFeBで構成されるが、結晶化した後は主にCoFeで構成される。
【0029】
また、参照層33は、下部側に形成された参照層本体層31と、上部側に形成された参照層界面層32とで構成される。すなわち、参照層本体層31は図示せぬ下地層を介して下部電極27上に形成され、参照層界面層32はトンネルバリア層34の下部に接して形成される。また、参照層本体層31は垂直磁気異方性の起源となり、参照層界面層32は上部で接するトンネルバリア層34との間で格子整合性を図る。これら参照層本体層31および参照層界面層32は、例えば同一材料(例えばCoFeB)で構成されるが、その組成比は異なっていてもよい。より具体的には、参照界面層32の組成比は、上部で接するトンネルバリア層34との間で格子整合性を図るように調整される。また、参照本体層31は、CoFeBに限らず、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等のフェリ磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu(銅)、Pd(パラジウム)、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等で構成されてもよい。第1の実施形態に係る参照層界面層32についての詳細は、後述する。
【0030】
ここで、垂直磁化とは、残留磁化の方向が膜面(上面/下面)に対して垂直またはほぼ垂直となることである。この明細書において、ほぼ垂直とは、残留磁化の方向が膜面に対して、45°<θ≦90°の範囲内にあることを意味する。
【0031】
トンネルバリア層34は、参照層33上に形成される。トンネルバリア層34は、非磁性層であり、例えばMgOで構成される。このトンネルバリア層34は、参照層33に接することで、参照層33との界面(参照層界面層32)に垂直異方性を生させる。なお、図3において、トンネルバリア層34は膜厚が一定で形成されているが、本実施形態では端部において不均一に形成される場合が想定され得る。
【0032】
記憶層35は、トンネルバリア層34上に形成される。記憶層35は、磁化方向が可変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。ここで、磁化方向が可変とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わることを示す。すなわち、記憶層35は、参照層33よりも磁化方向の反転閾値が小さい。
【0033】
記憶層35は、平面において参照層33およびトンネルバリア層34の寸法よりも小さい。ここで、磁気抵抗効果素子MTJの平面形状は例えば円形である。このため、記憶層35の平面における直径(以下、単に径と称す)は、参照層33およびトンネルバリア層34の径よりも小さい。また、記憶層35は、参照層33およびトンネルバリア層34の中央部における上方に位置している。なお、磁気抵抗効果素子MTJの平面形状は、円形に限らず、正方形、長方形、楕円形などであってもよい。
【0034】
記憶層35は、例えばCo、またはFeのうち1つ以上の元素を含む強磁性体が用いられる。また、飽和磁化、または結晶磁気異方性などを調整する目的で、強磁性体にB(ホウ素)、C(炭素)、またはSi(シリコン)などの元素を添加してもよい。
【0035】
キャップ層36は記憶層35上に形成され、ハードマスク37はキャップ層36上に形成される。ハードマスクは、例えば金属からなる導電材料で形成され、その上部に上部電極28が形成される。
【0036】
磁気抵抗効果素子MTJは、例えばスピン注入型の磁気抵抗効果素子である。したがって、磁気抵抗効果素子MTJにデータを書き込む場合、または磁気抵抗効果素子MTJからデータを読み出す場合、磁気抵抗効果素子MTJは、膜面(積層面)に垂直な方向において、双方向に電流が通電される。
【0037】
より具体的には、磁気抵抗効果素子MTJへのデータの書き込みは、以下のように行われる。
【0038】
下部電極27側から電子(参照層33から記憶層35へ向かう電子)が供給される場合、参照層33の磁化方向と同じ方向にスピン偏極された電子が記憶層35に注入される。この場合、記憶層35の磁化方向は、参照層33の磁化方向と同じ方向に揃えられる。これにより、参照層33の磁化方向と記憶層35の磁化方向とが、平行配列となる。この平行配列のとき、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も小さくなる。この場合を例えばデータ“0”と規定する。
【0039】
一方、上部電極28側から電子(記憶層35から参照層33へ向かう電子)が供給される場合、参照層33により反射されることで参照層33の磁化方向と反対方向にスピン偏極された電子とが記憶層35に注入される。この場合、記憶層35の磁化方向は、参照層33の磁化方向と反対方向に揃えられる。これにより、参照層33の磁化方向と記憶層35磁化方向とが、反平行配列となる。この反平行配列のとき、磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値は最も大きくなる。この場合を例えばデータ“1”と規定する。
【0040】
また、データの読み出しは、以下のように行われる。
【0041】
磁気抵抗効果素子MTJに、読み出し電流が供給される。この読み出し電流は、記憶層35の磁化方向が反転しない値(書き込み電流よりも小さい値)に設定される。この時の磁気抵抗効果素子MTJの抵抗値の変化を検出することにより、メモリ動作可能な半導体装置となる。
【0042】
ここで、第1の実施形態において、参照層界面層32は、磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい失活領域39とを有する。磁化領域38は、参照層本体層31と同一の磁化方向の垂直磁化を有する。一方、失活領域39は、磁化領域38よりも小さい磁化を有するか、望ましくは磁化を有さない。
【0043】
図3(b)に示すように、参照層界面層32において、磁化領域38は中央部(内側)に設けられ、失活領域39はその周囲を取り囲むように端部(外側)に設けられる。より具体的には、磁化領域38は、記憶層35の下部に位置し、上面から見ると記憶層35とオーバーラップする。言い換えると、記憶層35は失活領域39上には存在しない。すなわち、磁化領域38の径は、記憶層35の径と同等である。また、失活領域39の内径は記憶層35の径(磁化領域38の径)と同等であり、外径は参照層本体層31およびトンネルバリア層34の径と同等である。しかし、これに限らず、失活領域39の内径(磁化領域38の径)は、記憶層35の径より大きくてもよい。
【0044】
失活領域39は、磁化領域38に含まれる元素(第1元素)と、その元素とは異なる他の元素(第2元素)とを含む。すなわち、失活領域39は、磁化領域38と同様に第1元素で形成された後、さらに第2元素を導入することによって形成される。失活領域39は、第2元素を含むことで、磁化領域38よりも小さい磁化を有する、または磁化を有さない。なお、参照層本体層31にも第2元素が導入され、参照層界面層32に隣接する参照層本体層31の一部に失活領域39が形成されていてもよい。
【0045】
図4は、第1の実施形態に係る失活領域39の磁化消失の原理の一例を示す図である。図5は、第1の実施形態に係る失活領域39の磁化消失の原理の他の例を示す図である。
【0046】
図4に示すように、失活領域39に第2元素(X)を導入した場合、第2元素が第1元素(例えばCo、Fe)と化学的な結合を作り、化合物を形成する。これにより、非磁性(反強磁性)化合物が形成され、失活領域39の磁化が著しく低下する、または消失する。
【0047】
もしくは、図5に示すように、失活領域39に第2元素を導入した場合、第2元素が第1元素の間(格子間)に侵入する。これにより、第1元素の結晶構造が変化し、失活領域39の磁化が著しく低下する、または消失する。
【0048】
より具体的には、図5(a)に示すように、第2元素が第1元素間(Co−Fe間)に侵入することで、Co−Fe原子間距離が伸張する。原子間距離が広がることで、交換相互作用が弱くなり、磁化が消失する。
【0049】
または、図5(b)に示すように、第2元素が粒界に偏析することで、第1元素が複数の結晶粒からなる磁性クラスタに分離する。これにより、磁性クラスタが互いに磁化を打ち消す超常磁性化を起こし、磁化が消失する。
【0050】
なお、図5に示す格子間への侵入よりも、図4に示す化合物の形成のほうが化学的に安定した状態であり、熱などの外的要因による元素拡散や格子の再配列等で磁化が復活する可能性が低い。このため、第2元素としては、第1元素と化合物を形成する元素を用いたほうがよい。
【0051】
第2元素としては、プニクトゲン(第V族)元素であるN(窒素)、P(リン)、As(砒素)、またはSb(アンチモン)や第IV族元素であるC(炭素)、Si(シリコン)、またはGe(ゲルマニウム)が用いられる。また、これらに限らず、He(ヘリウム)、F(フッ素)、B(ホウ素)、Zr(ジルコニウム)、Tb(テルビウム)、Ti(チタン)、Mg(マグネシウム)、S(硫黄)、またはO(酸素)等が用いられてもよい。また、これらの元素のうち2つ以上用いられてもよい。
【0052】
図6乃至図11は、第1の実施形態に係る失活領域39に各元素を導入した場合の各元素の添加元素比と磁化との関係を示すグラフである。図12は、第1の実施形態に係る失活領域39に第IV族元素および第V族元素を導入した場合の導入量と磁化との関係を示すグラフである。図13は、第1の実施形態に係る失活領域39に第V族元素を導入した場合の磁場と磁化との関係とその比較例を示すグラフである。
【0053】
図6および図7に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、P、Nを導入した場合)、添加元素比が0.3程度で磁化が消失する。また、図8に示すように、失活領域39に第IV族元素を導入した場合(ここでは、Siを導入した場合)、添加元素比が0.5程度で磁化が消失する。
【0054】
一方、図9乃至図11に示すように、失活領域39に第IV族および第V族以外の元素を導入した場合(ここでは、B、S、Oを導入した場合)、添加元素比が0.5以上で磁化が消失する。
【0055】
このように、他元素と比較して、失活領域39に第V族元素または第IV族元素を導入したほうが、少ない量で磁化を消失させることが可能である。
【0056】
また、図12に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、Asを導入した場合)、失活領域39に第IV族元素を導入した場合(ここでは、Geを導入した場合)と比べて、少ない導入量で磁化を消失することができる。さらに、図13に示すように、失活領域39に第V族元素を導入した場合(ここでは、Asを導入した場合)、元素を導入しない場合と比べて、磁場をかけた際の磁化が著しく低下する。
【0057】
このように、失活領域39の磁化を消失させるためには、失活領域39に第V族元素を導入することが最も望ましい。
【0058】
[2−2.第1の実施形態の変形例の構造]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造について説明する。
【0059】
図14は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第1変形例の構造を示す断面図であり、図15は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの第2変形例の構造を示す断面図である。
【0060】
図14に示すように、第1の実施形態の第1変形例において、失活領域39上にトンネルバリア層34が形成されない。言い換えると、トンネルバリア層34は、参照層界面層32における磁化領域38上(中央部)のみに形成される。すなわち、トンネルバリア層34の径は、磁化領域38および記憶層35の径と同等である。これは、後述するエッチングプロセスにおいて、記憶層35と同時にトンネルバリア層34の端部も除去されたためである。
【0061】
また、図15に示すように、第1の実施形態の第2変形例において、失活領域39上のトンネルバリア層34の膜厚が磁化領域38上のトンネルバリア層34の膜厚よりも小さくなるように形成される。言い換えると、トンネルバリア層34は、中央部よりも端部において膜厚が小さくなるように形成される。これは、後述するエッチングプロセスにおいて、記憶層35と同時にトンネルバリア層34の端部の一部も除去されたためである。
【0062】
[2−3.第1の実施形態の製造方法]
第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0063】
図16乃至図18は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造工程を示す断面図である。
【0064】
まず、図16に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層本体層31が形成される。参照層本体層31は、例えばCoFeBや、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、TbCoFe等のフェリ磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子等で構成される。また、参照層本体層31は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0065】
次に、参照層本体層31上に、参照層界面層32が形成される。参照層界面層32は、参照層本体層31と同様に、例えばCoFeBで構成されるが、その組成比は異なってもよい。また、参照層界面層32は、参照層本体層31と同様に、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0066】
次に、参照層界面層32上に、トンネルバリア層34が形成される。トンネルバリア層34は、例えばMgOで構成され、非磁性層である。
【0067】
次に、トンネルバリア層34上に、記憶層35が形成される。記憶層35は、磁化方向が可変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。
【0068】
その後、記憶層35上に、キャップ層36が形成される。このキャップ層36上に、ハードマスク37が形成される。ハードマスク37は、例えば金属からなる導電材料で構成されるが、これに限らず絶縁材料で構成されてもよい。その後、ハードマスク37上にレジストパターンが形成され、このレジストパターンをマスクとして、例えばIBE(Ion Beam Etching)またはRIE(Reactive Ion Etching)によりハードマスク37がパターニングされる。これにより、中央部においてハードマスク37が残存し、端部においてキャップ層36の上面が露出する。
【0069】
次に、図17に示すように、パターニングされたハードマスク37をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりキャップ層36および記憶層35がパターニングされる。これにより、中央部においてキャップ層36および記憶層35が残存し、端部においてトンネルバリア層34の上面が露出する。
【0070】
なお、この際、図14または図15に示すように、端部においてトンネルバリア層34も同様にパターニングされてもよいし、一部のみパターニングされてもよい。すなわち、端部において参照層界面層32の上面が露出してもよい。また、IBEは記憶層35のエッチング面(側面)のダメージを低減するため、このパターニング工程はIBEで行われることが望ましい。
【0071】
次に、図18に示すように、露出した面(上面)に対して不純物がイオン注入される。より具体的には、端部において露出したトンネルバリア層34の上面から不純物がイオン注入され、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。または、トンネルバリア層34もパターニングされた場合、露出した参照層界面層32の上面に直接不純物をイオン注入してもよい。これにより、参照層界面層32の中央部に磁化領域38が形成され、端部に磁化の小さい(または磁化のない)失活領域39が形成される。
【0072】
このとき、イオン注入の角度は、トンネルバリア層34の上面に対して垂直な角度で行われる。しかし、これに限らず、製造装置等の関係により、多少ずれてもよい。具体的には、記憶層35の側面から多くの不純物元素が直接注入されない角度であればよい。
【0073】
また、失活領域39にイオン注入される不純物元素(第2元素)は、参照層界面層32(磁化領域38)に含まれる元素(第1元素)とは異なる元素である。第2元素としては、第V族元素であるN、P、As、またはSbや第IV族元素であるC、Si、またはGeが用いられる。また、これらに限らず、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはO等が用いられてもよい。また、これらの元素のうち2つ以上用いられてもよい。
【0074】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)がエッチングされる。
【0075】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0076】
[2−4.第1の実施形態の効果]
上記第1の実施形態によれば、記憶層35とそれより径の大きい参照層33とを有する磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層界面層32が中央部(内側)の磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい端部(外側)の失活領域39とで構成される。これにより、記憶層35のパターニング工程において、記憶層35と参照層界面層32との間に位置するトンネルバリア層34の端部(外側)が不均一にエッチングされても、その直下に位置する失活領域39の磁化方向が乱れることはない。したがって、参照層33における磁気特性の劣化を抑制することができる。以下に、上記効果についてより詳細に説明する。
【0077】
図19は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向の比較例を示す図である。図20は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの磁化方向を示す図である。
【0078】
図19および図20に示すように、記憶層35のパターニング工程において、トンネルバリア層34の端部(露出した端部)が不均一にエッチングされ、結晶不良を起こした場合について考える。
【0079】
図19に示すように、比較例によれば、参照層界面層32の端部に失活領域39は形成されていない。通常、トンネルバリア層34と接することで、参照層界面層32に界面異方性(垂直異方性)が生じている。しかし、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされると、その直下に位置する参照層界面層32の端部における垂直異方性が消失する。その結果、参照層界面層32の端部の磁化方向が不安定になり、参照層本体層31の磁化方向も不安定になる。
【0080】
これに対し、図20に示すように、第1の実施形態によれば、参照層界面層32の端部に磁化のない失活領域39が形成されている。このため、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされたとしても、その直下に位置する参照層界面層32の端部(失活領域39)における磁化方向が不安定になることはない。すなわち、失活領域39にはもともと磁化がないため、トンネルバリア層34の不均一性によって、失活領域39の磁化方向が不安定になることはない。その結果、参照層本体層31の磁化方向も不安定になることはない。
【0081】
なお、失活領域39に小さい磁化がある場合、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされると、失活領域39の磁化方向は不安定になる。しかし、失活領域39における磁化は小さいため、参照層本体層31に与える影響は小さく、実質無視できる。
【0082】
また、トンネルバリア層34の端部が不均一にエッチングされた場合のみならず、トンネルバリア層34の端部が完全に除去された場合でも、参照層界面層32との間における垂直異方性が消失する。すなわち、第1の実施形態は、トンネルバリア層34の端部の有無に限らず適用可能であり、不均一に形成された場合、完全に除去された場合等、種々の構造である場合に適用可能である。
【0083】
<3.第2の実施形態>
図21および図22を用いて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第2の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、磁化方向が不変で、かつ参照層33の磁化方向とは反対の磁性層であるシフト調整層50が形成される例である。以下に、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。なお、第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0084】
[3−1.第2の実施形態の構造]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0085】
図21は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図である。
【0086】
図21に示すように、第2の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、磁気抵抗効果素子MTJがシフト調整層50を備える点である。
【0087】
シフト調整層50は、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して形成される。シフト調整層50は、磁化方向が不変の磁性層であり、膜面に対して垂直またはほぼ垂直となる垂直磁化を有する。また、その磁化方向は、参照層33の磁化方向と反対方向である。これにより、シフト調整層50は、記憶層35にかかる参照層33からの漏洩磁界を打ち消すことができる。言い換えると、シフト調整層50は、参照層33からの漏れ磁場による記憶層35に対する反転特性のオフセットを逆方向へ調整する効果を有する。このシフト調整層24は、例えば、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子などから構成される。。
【0088】
シフト調整層50上には、図示せぬスペーサ層(例えば、Ru等)を介して参照層33が形成される。また、シフト調整層50の径は、参照層33の径(失活領域39の外径)と同等であり、記憶層35の径(失活領域39の内径および磁化領域38の径)よりも大きい。
【0089】
[3−2.第2の実施形態の変形例の構造]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造について説明する。
【0090】
図22は、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の構造を示す断面図である。
【0091】
図22に示すように、第2の実施形態の変形例において、シフト調整層50が記憶層35上に形成される。このシフト調整層50上には、キャップ層36が形成される。また、シフト調整層50の径は、記憶層35の径(失活領域39の内径および磁化領域38の径)と同等であり、参照層33の径(失活領域39の外径)よりも小さい。
【0092】
[3−3.第2の実施形態の製造方法]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0093】
まず、図21に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介してシフト調整層50が形成される。シフト調整層50は、例えば、FePd、FePt、CoPd、CoPt等のL10構造あるいはL11構造を持つ強磁性材料、Ni、Fe、Co等の磁性材料とCu、Pd、Pt等の非磁性材料との積層構造からなる人工格子などから構成される。
【0094】
次に、シフト調整層50上に、参照層本体層31、参照層界面層32、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、ハードマスク37が順に積層される。そして、ハードマスク37、キャップ層36、および記憶層35がパターニングされる。その後、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。
【0095】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34、参照層33、およびシフト調整層50がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)、およびシフト調整層50の端部がエッチングされる。
【0096】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0097】
[3−4.第2の実施形態の変形例の製造方法]
第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例の製造方法について説明する。
【0098】
まず、図22に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層本体層31、参照層界面層32、トンネルバリア層34、記憶層35が順に積層される。
【0099】
次に、記憶層35上に、シフト調整層50が形成される。シフト調整層50は、例えば、Pt、Pd、またはIr等で構成される。
【0100】
次に、シフト調整層50上に、キャップ層36、ハードマスク37が順に積層される。その後、例えばIBEまたはRIEによりハードマスク37、キャップ層36、シフト調整層50、および記憶層35がパターニングされる。その後、参照層界面層32における端部に不純物元素が導入される。
【0101】
次に、記憶層35、シフト調整層50、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層本体層31の端部)がエッチングされる。
【0102】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの変形例が完成する。
【0103】
[3−5.第2の実施形態の効果]
上記第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
さらに、第2の実施形態では、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層33の下部、または記憶層35の上部に、参照層33と反対方向の磁化を有するシフト調整層50が形成される。これにより、記憶層35にかかる参照層33からの漏洩磁界を打ち消すことができ、磁気抵抗効果素子MTJにおける磁気特性の向上を図ることができる。
【0105】
<4.第3の実施形態>
図23を用いて、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて説明する。第3の実施形態は、磁気抵抗効果素子MTJにおいて、参照層33として、参照層界面層32および参照層本体層31の積層構造ではなく、これらが一体化して形成される例である。以下に、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJについて詳説する。なお、第3の実施形態において、上記第1の実施形態と同様の点については説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0106】
[4−1.第3の実施形態の構造]
第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造について説明する。
【0107】
図23は、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの構造を示す断面図である。
【0108】
図23に示すように、第3の実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、参照層本体層31が形成されていない点である。
【0109】
参照層33は、図示せぬ下地層上に形成される参照層界面層32のみで構成される。参照層界面層32は、例えばCoFeBで構成される。このとき、参照層界面層32は、その上部に形成されるトンネルバリア層34との界面で生じる垂直磁気異方性を有し、参照層本体層31としての機能も有する。
【0110】
この参照層33(参照層界面層32)は、磁化領域38と磁化領域38よりも磁化の小さい失活領域39とを有する。磁化領域38は、磁化方向が不変の垂直磁化を有する。一方、失活領域39は、磁化領域38よりも小さい磁化を有するか、望ましくは磁化を有さない。
【0111】
参照層界面層32において、磁化領域38は、上部側(トンネルバリア層34側)の中央部および下部側の全体に形成される。一方、失活領域39は、上部側の端部に形成される。すなわち、失活領域39は、上部側の中央部に位置する磁化領域38の周囲を取り囲んでいる。
【0112】
失活領域39は、磁化領域38に含まれる元素(第1元素)と、その元素とは異なる他の元素(第2元素)とを含む。すなわち、失活領域39は、磁化領域38と同様に第1元素で形成された後、さらに第2元素を導入することによって形成される。失活領域39は、第2元素を含むことで、磁化領域38よりも小さい磁化を有する、または磁化を有さない。
【0113】
[4−2.第3の実施形態の製造方法]
第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJの製造方法について説明する。
【0114】
まず、図23に示すように、下部電極27上に、図示せぬ下地層を介して参照層界面層32が形成される。参照層界面層32は、例えばCoFeBで構成される。この参照層界面層32は、その上部に形成されるトンネルバリア層34との界面で生じる垂直磁気異方性を有する。
【0115】
次に、参照層界面層32上に、トンネルバリア層34、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37が順に積層される。その後、例えばIBEまたはRIEによりハードマスク37、キャップ層36、および記憶層35がパターニングされる。
【0116】
次に、参照層界面層32における上部側の端部に不純物元素が導入され、失活領域39が形成される。
【0117】
次に、記憶層35、キャップ層36、およびハードマスク37の側面に、図示せぬ側壁スペーサ層が形成される。この側壁スペーサ層をマスクとして、例えばIBEまたはRIEによりトンネルバリア層34および参照層33がパターニングされる。すなわち、トンネルバリア層34の端部、および参照層33の端部(失活領域39および参照層界面層32の端部)がエッチングされる。
【0118】
その後、全面に図示せぬ保護層が形成されて、第3の実施形態に係る磁気抵抗効果素子MTJが完成する。
【0119】
[4−3.第3の実施形態の効果]
上記第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0120】
さらに、第3の実施形態では、参照層33として、参照層本体層31が形成されない。通常、参照層本体層31は、CoFeBに限らず、CoPt等の合金、TbCoFe等のフェリ磁性体、Co/Pt等の積層人工格子系で構成され得る。すなわち、参照層本体層31の製造プロセスは、参照層界面層32よりも困難である。これに対し、第3の実施形態では、参照層33が参照層界面層32のみで構成され、製造プロセスが困難な参照層本体層31を形成する必要がない。このため、製造プロセスにおいて、成膜が容易なCoFeBで構成される参照層界面層32のみを形成すればよく、その結果、参照層33の製造プロセスが容易になる。
【0121】
その他、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0122】
31…参照層本体層、32…参照層界面層、33…参照層、34…トンネルバリア層、38…磁化領域、39…失活領域、50…シフト調整層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、
前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、
を具備し、
前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層と、を有し、
前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第2領域は、前記第1領域に含まれる第1元素と前記第1元素と異なる第2元素とを含むことで、前記第1領域よりも磁化が小さくなることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記第2元素は、第V族元素または第IV族元素であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記第2元素は、N、P、As、Sb、C、Si、Ge、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはOのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第2領域は、前記第2元素が前記第1元素と化学的な結合を作り、化合物を形成する、もしくは、前記第2元素が前記第1元素の作る格子間に入り結晶構造を変化させることで、前記第1領域よりも磁化が小さくなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1磁性層の径は前記第2磁性層の径より大きく、前記第1領域の径は前記第2磁性層の径と同等であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の磁気メモリ。
【請求項7】
前記第2磁性層は、前記第2領域上には存在しないことを特徴とする請求項6に記載の磁気メモリ。
【請求項8】
前記第1磁性層の下部、もしくは前記第2磁性層の上部に、磁化方向が前記第1磁性層の磁化方向と反対方向でかつ不変であり、前記第2磁性層にかかる前記第1磁性層からの漏洩磁界を打ち消す第3磁性層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、
前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、
を具備し、
前記第1磁性層は、上部側の内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変であり、第1元素を含む第1磁性層を形成する工程と、
前記第1磁性層上に、トンネルバリア層を形成する工程と、
前記トンネルバリア層上に、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層を形成する工程と、
前記第2磁性層上に、ハードマスク層を形成する工程と、
前記ハードマスクをマスクとして、前記第2磁性層をパターニングする工程と、
前記パターニングによって露出した上面に対して、前記第1元素と異なる第2元素を導入する工程と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記パターニングする工程は、イオンビームエッチングを用いて行うことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
前記パターニングする工程によって露出する面は、前記トンネルバリア層、または前記第1磁性層あることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2元素は、N、P、As、Sb、C、Si、Ge、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはOのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項1】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、
前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、
を具備し、
前記第1磁性層は、上部側に形成され、前記トンネルバリア層の下部に接する界面層と、下部側に形成され、垂直磁気異方性の起源となる本体層と、を有し、
前記界面層は、内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第2領域は、前記第1領域に含まれる第1元素と前記第1元素と異なる第2元素とを含むことで、前記第1領域よりも磁化が小さくなることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記第2元素は、第V族元素または第IV族元素であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記第2元素は、N、P、As、Sb、C、Si、Ge、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはOのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第2領域は、前記第2元素が前記第1元素と化学的な結合を作り、化合物を形成する、もしくは、前記第2元素が前記第1元素の作る格子間に入り結晶構造を変化させることで、前記第1領域よりも磁化が小さくなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記第1磁性層の径は前記第2磁性層の径より大きく、前記第1領域の径は前記第2磁性層の径と同等であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の磁気メモリ。
【請求項7】
前記第2磁性層は、前記第2領域上には存在しないことを特徴とする請求項6に記載の磁気メモリ。
【請求項8】
前記第1磁性層の下部、もしくは前記第2磁性層の上部に、磁化方向が前記第1磁性層の磁化方向と反対方向でかつ不変であり、前記第2磁性層にかかる前記第1磁性層からの漏洩磁界を打ち消す第3磁性層をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変である第1磁性層と、
前記第1磁性層上に形成されたトンネルバリア層と、
前記トンネルバリア層上に形成され、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層と、
を具備し、
前記第1磁性層は、上部側の内側に設けられた磁化を有する第1領域と、その外側に前記第1領域を取り囲むように設けられた前記第1領域よりも磁化の小さい第2領域と、を含む
ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
磁化方向が膜面に対して垂直でかつ不変であり、第1元素を含む第1磁性層を形成する工程と、
前記第1磁性層上に、トンネルバリア層を形成する工程と、
前記トンネルバリア層上に、磁化方向が膜面に対して垂直でかつ可変である第2磁性層を形成する工程と、
前記第2磁性層上に、ハードマスク層を形成する工程と、
前記ハードマスクをマスクとして、前記第2磁性層をパターニングする工程と、
前記パターニングによって露出した上面に対して、前記第1元素と異なる第2元素を導入する工程と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項11】
前記パターニングする工程は、イオンビームエッチングを用いて行うことを特徴とする請求項10に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項12】
前記パターニングする工程によって露出する面は、前記トンネルバリア層、または前記第1磁性層あることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2元素は、N、P、As、Sb、C、Si、Ge、He、F、B、Zr、Tb、Ti、Mg、S、またはOのうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−69727(P2013−69727A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205323(P2011−205323)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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