説明

移動農作業機の変速操作装置

【課題】 農作業走行の土壌条件によって、車体の沈下が著しい場合があり、作業はもとより走行不能状態に至ることがある。又、逆に車体の沈下が少ない土壌面での走行では、走行負荷が小さく加速し易いため、この車速の加速は制限されるのが望ましい。
【解決手段】 走行しながら対地作業する移動農作業機において、車体の沈下量の検出に基づいて、この沈下量が大きいときは、変速スイッチ2の操作による変速アクチュエータ3の変速操作の速さを速くし、又、沈下量が小さいときは、この変速操作の速さを緩くする構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車体の浮、沈下状態によって走行速度を変速する変速操作の速さを、緩、速に制御する移動農作業機の変速操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
副変速電動シリンダを変速スイッチで作動させて、この副変速装置を経て伝動の車速を変速操作する技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開2004ー89066号公報(第9頁、図7)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
農作業走行の土壌条件によって、車体の沈下が著しい場合があり、作業はもとより走行不能状態に至ることがある。このような場合は、車速の加速力を上げて、車体の沈下に打ち勝つように走行駆動して推進力を高くすることによって、車体走行の沈下状態からの脱出を迅速に行わせて、円滑な走行を維持させようとするものである。又、逆に車体の沈下が少ない土壌面での走行では、走行負荷が小さく加速し易いため、この車速の加速は制限されるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、走行しながら対地作業する移動農作業機において、車体1の沈下量の検出に基づいて、この沈下量が大きいときは、変速スイッチ2の操作による変速アクチュエータ3の変速操作の速さを速くし、又、沈下量が小さいときは、この変速操作の速さを緩くすることを特徴とする変速操作装置の構成とする。作業走行時に変速スイッチ2を操作して走行の変速装置を増速、又は減速することができる。この変速スイッチ2を操作するとき、沈下量センサ等による車体1の沈下量が検出されていて、この沈下量が所定の基準域よりも大きいときは、変速アクチュエータ3の変速操作の速さが速やかに行われて、大きい走行負荷に対応する迅速なシフト操作によって、所定の加速を得る。又、沈下量が小さいときは、この変速アクチュエータ3の変速操作の速さが緩やかに行われて、小さい走行負荷の対応する緩やかなシフト操作によって急激な加速を防止するように変速することができる。
【0005】
請求項2に記載の発明は、前記変速アクチュエータ3として、油圧無段変速装置4のトラニオン軸5を操作駆動するシフトモータ6を有し、このシフトモータ6の駆動出力を変えることによって変速操作の速さを制御することを特徴とするものである。前記変速スイッチ2を操作することより、シフトモータ6を駆動出力してトラニオン軸5を操作駆動して油圧無段変速装置4を変速操作する。このとき車体1の沈下量が大きいときは、シフトモータ6の駆動出力を大きくして変速操作の速さ、即ち、トラニオン軸5の回動速が高速になり、又、沈下量が小さいときは、シフトモータ6の駆動出力を小さくして変速操作の速さ、即ち、トラニオン軸5に回動速が低速になる。このように、トラニオン軸5が走行車体1の沈下量に応じて速かに、又は緩やかに回動されて、油圧無段変速装置4の変速を行わせるものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明は、変速スイッチ2の操作によって走行変速の操作を簡単、迅速に行うことができ、車体1の沈下量が大きいときは、走行負荷が大きく加速し難いものであるが、変速アクチュエータ3の変速操作の速さを高くして、所望の加速を得ることができ、逆に、車体1の沈下量が小さいときは、走行負荷が小さく加速し易い場合が多いが、この変速アクチュエータ3の変速操作の速さを緩くして、急激な加速走行を防止し、走行速度の変速操作のショックや、違和感を抑えることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記シフトモータ6の駆動出力を変えることによってトラニオン軸5の変速操作の速さを加減制御するものであるから、構成を簡単にすることができ、変速スイッチ2や、車体1の沈下量を検出する沈下量センサ等とによる電子的制御処理形態とすることが簡単、容易であり、的確な制御を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面に基づいて、苗植機は、ステアリングハンドル7で操向する前輪8と、運転席9後部に軸装の後輪10とを、この運転席9下部に搭載のエンジン11によて連動駆動して走行する四輪駆動走行形態の車体1の後方に、リフトシリンダ12の伸縮に上下回動するリフトリンク13を介して、苗植フレーム14にセンタフロート15や、サイドフロート16、マット苗を載せて後下方へ繰出す苗タンク17、この苗タンク17の苗取口18から所定本数の苗を分離保持して、側面視で略楕円形状の苗植軌跡線Dに沿って作動して苗を各フロート15、16で均平された土壌面へ植付ける苗植爪19等から構成される苗植装置20を連結する。車体1上側のステアリングポスト21の左右両側部から、運転席9の後部左右両側部にわたってフロア22を設け、後端部にフェンダ23を連結する。このステアリングポスト21のフロア22外側上部には、補助苗受枠24を設け、運転作業者は、この補助苗受枠24に載置しておく苗トレイからマット苗を取出し、このフロア22上を移動しながら各苗タンク17へ供給することができる。前記前輪8を軸装するフロントアクスルハウジング25を有したミッションケース26上には、油圧無段変速装置4を設けて、エンジン11からベルト連動し、この油圧無段変速装置4の無段変速を主変速として、ミッションケース26内の副変速装置を連動して、前輪8や後輪10等を連動する。又、このミッションケース26からはPTO軸27を連動する。このPTO軸27は、車体1後部において連動軸28を介して苗植装置20の入力軸と連動している。
【0009】
前記油圧無段変速装置4は、入力軸29によって駆動される油圧ポンプ30と、この油圧ポンプ30との間の油圧回路31を介して連動回転される油圧モータ32と、この油圧モータ32によって駆動される出力軸33、及びこの油圧ポンプ30の駆動に油圧力を変更して油圧モータ32の回転を制御するトラニオン軸5等から構成され、このトラニオン軸5回動角を操作することにより、入力軸29に対する出力軸33の伝動回転比を、中立位置Nから前進位置F、及び後進位置Rへ無段階に変更して変速することができる。前記トラニオン軸5と一体のトラニオンアーム34は、変速レバー35、及びこの変速レバー35の操作角を検出する変速レバー36によって駆動制御されるシフトモータ6等からなる変速アクチュエータ3等を介して回動制御する形態である。変速レバーセンサ36は、ポテンショメータ等から成り、変速レバー35がレバー軸38周りに操作回動される回動アーム39の角度を検出して、コントローラ40の入力側へ入力する。前記トラニオン34とリンクロッド41等を介して連動する制御軸42は、前記変速アクチュエータ3によって、スプリング45で押圧される摩擦ディスク46等によるブレーキ43に抗して噛合回転のギヤ44と一体回動される。この変速アクチュエータ3のシフトモータ6の回転が、変速レバー35の操作角に応じた回動位置に行われて停止すると、この制御軸42の回動も停止して、変速レバー35から手を放しても、ブレーキ43によりこの停止位置が維持される。又、トラニオン軸5の近くには、ポテンショメータ等から成るトラニオンアーム34の操作角度を検出するトラニオンセンサ47を設け、トラニオン軸5のフィードバック制御を設け、トラニオン軸5のフィードバック制御を正確に行わせる。
【0010】
ここにおいて、前記変速装置は、走行しながら対地作業する移動農作業機において、車体1の沈下量の検出に基づいて、この沈下量が大きいときは、変速スイッチ2の操作による変速アクチュエータ3の変速操作の速さを速くし、又、沈下量が小さいときは、この変速操作の速さを緩くするように構成する。作業走行時に変速スイッチ2を操作して走行の変速装置を増速、又は減速することができる。この変速スイッチ2を操作するとき、沈下量センサ等による車体1の沈下量が検出されていて、こ沈下量が所定の基準域よりも大きいときは、変速アクチュエータ3の変速操作の速さが速やかに行われて、大きい走行負荷に対応する迅速なシフト操作によって、所定の加速を得る。又、沈下量が小さいときは、この変速アクチュエータ3の変速操作の速さが緩やかに行われて、小さい走行負荷の対応する緩やかなシフト操作によって急激な加速を防止するように変速することができる。
【0011】
又、前記変速アクチュエータ3として、油圧無段変速装置4のトラニオン軸5を操作駆動するシフトモータ6を有し、このシフトモータ6の駆動出力を変えることによって変速操作の速さを制御するものである。前記変速スイッチ2を操作することより、シフトモータ6を駆動出力してトラニオン軸5を操作駆動して油圧無段変速装置4を変速操作する。このとき車体1の沈下量が大きいときは、シフトモータ6の駆動出力を大きくして変速操作の速さ、即ち、トラニオン軸5の回動速が高速になり、又、沈下量が小さいときは、シフトモータ6の駆動出力を小さくして変速操作の速さ、即ち、トラニオン軸5に回動速が低速になる。このように、トラニオン軸5が走行車体1の沈下量に応じて速かに、又は緩やかに回動されて、油圧無段変速装置4の変速を行わせるものである。
【0012】
前記ステアリングポスト21の上部に変速レバー35を設け、この変速レバー35を中立位置Nから前進位置F、又は後進位置Rへ回動操作することによって、前記変速レバーセンサ36や、変速アクチュエータ3等によって、トラニオン軸5を回動して、油圧無段変速装置4を無段変速する。又、この変速レバー35の把持頭部には、一対の押ボタン形態の変速スイッチ2が設けられ、このうち一方のスイッチを高速スイッチ2Hとし、他方のスイッチを高速スイッチ2Hとし、他方のスイッチを低速スイッチ2Lとする。高速スイッチ2Hを押す毎に変速レバーセンサ36の検出角度を大きくして、前記変速アクチュエータ3によるトラニオン軸5の回動角を大きくして高速側へ無段変速する。又、低速スイッチ2Lを押す毎に変速レバーセンサ36の検出角度を小さくして、前記変速アクチュエータ3によるトラニオン軸5の回動角を小さくして低速側へ無段変速する。
【0013】
又、この変速レバー35の把持部には、フィンガレバースイッチ48が設けられて、このフィンガレバースイッチ48を操作することにより、苗植装置20を車体1に対して昇降すると共に、この苗植装置20伝動の植付クラッチを入り、切りにすることができる。このフィンガレバースイッチ48は、上側を上げスイッチ48Uとし、下側を下げスイッチ48Dとしてこれらの側へ押し操作する毎に、前記リフトシリンダ12により苗植装置20を連続的、又は間歇的に上昇、又は下降させる。そして、上げスイッチ48UのON操作による苗植装置20の上昇操作では、この伝動の植付クラッチを切りにするが、下げスイッチ48DのON操作する毎に苗植装置20を一定量毎に間歇的に下降させると共に、植付クラッチの入りと、切りを交互に連動するものである。
【0014】
前記苗植装置20を昇降可能に支持連結するリフトリンク13の、車体1のリヤフレーム49に対する枢支部には、このリフトリンク13の上下回動角度を検出するポテンショメータ等から成る昇降センサ50を設けて、車体1の土壌面に対する沈込量を検出することができる。耕盤の深い土壌では、後輪10が深く沈下するため、各フロート15、16で浮上する苗植装置20のリフトリンク13の後下り角度は小さく、車体1の沈下量は大きく検出されるものである。
【0015】
又、前記ステアリングポスト21の下部で、フロート22近くには、副変速レバー51が設けられ、車体1の移動走行速や、苗植装置20による苗植付作業走行速、その他PTO伝動走行速等に副変速することができる。前記フェンダ23部には畦クラッッチレバー52を設け、多条植形態の苗植装置20の左側、又は右側の適数植付条分の苗植伝動クラッチを切りに操作することができる。又、これら畦クラッチレバー52の入り、切り位置を検出する畦クラッチレバーセンサ54を設けている。
【0016】
前記センタフロート15は、滑走する土壌面の抵抗を受けて上下に揺動するが、苗植装置20が土壌面に深く沈むと、このセンタフロート15の迎い角が大きくなり、これによってリフトシリンダ12の油圧回路の切替弁を切替えて、リフトアーム13を上昇させて、苗植装置20を浮上させて、苗植爪19による苗植付深さを一定に維持するようにピッチング制御するものである。そして、このセンタフロート15の迎い角を検出するフロート迎い角センサ53を設けている。又、左、右各サイドフロート16の迎い角度を検出するサイドフロート角度センサ55を設けている。更には、ステアリングハンドル7の切れ角を検出するハンドル切れ角センサ56、左、右各後輪10の回転を検出する後輪回転センサ57、及び、左、右の後輪10を軸支する後輪ローリングフレーム58の左右傾斜角度を検出する左右傾斜センサ61等を設けている。この後輪ローリングフレーム58は、中央部を車体1後端中央部の後輪ローリング軸59の周りに揺動自在に支持し、車体1との間には後輪ローリングシリンダ60を設けて、この後輪ローリングシリンダ60の伸縮によって、これら車体1を後輪ローリングフレーム58に対してローリングさせ、左右水平状の姿勢に維持することができる。
【0017】
前記構成において、苗植作業中にセンタフロート15が垂れ下って接地しない状態になったときは、前記フロート迎い角センサ53の検出によって、変速アクチュエータ3を出力制御して、車速を自動減速し、苗植装置20の昇降による苗付作動の不安定性をなくするものである。
【0018】
又、前記畦クラッチレバー52により、畦クラッチを切りにすると、畦クラッチレバーセンサ54による検出により、変速アクチュエータ3を出力して車速を減速し、枕地植作業操作を行い易くする。
【0019】
又、前記左、右のサイドフロート16の角度差が大きいときは、これらサイドフロート角度センサ55の検出によって変速アクチュエータ3によって車速を自動減する。
又、走行中に左、右後輪10の後回転センサ57による回転差がないのに、ステアリングハンドル7による操向操作が大きいときは、変速アクチュエータ3により自動減速する。又、直進走行中に、後輪回転センサ57が左、右の後輪10の回転差を検出すると自動減速して、直進性を維持し向上するように構成している。
【0020】
又、高速走行中に植付クラッチを入りにした場合は、植付の乱れを防止するため、自動減速した後で、植付クラッチが入りになり、除々に車速を増速制御する。
前記畦クラッチレバー52により畦クラッチ切りにしているときのバックリフトは、苗植装置20がセンタフロート15が垂れ下った位の高さで停止することにより、能率、作業性を向上させるものである。
【0021】
前記後輪ローリングシリンダ60によるローリング制御において、フルスロットル状態ではローリングをロックするように設定している。油圧無段変速装置4が最高速位置になったとき、後輪ローリングシリンダ60の追従性が悪くなるため、この後輪ローリングシリンダ60の追従性が悪くなる。このため、この後輪ローリングシリンダ60を中立位置でロック状態とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】走行変速操作装置の制御ブロック図。
【図2】油圧無段変速装置の変速操作機構の斜視図。
【図3】苗植機側の側面図。
【図4】その平面図。
【図5】車体伝動機構の平面図。
【符号の説明】
【0023】
1 車体
2 変速スイッチ
3 変速アクチュエータ
4 油圧無段変速装置
5 トラニオン軸
6 シフトモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行しながら対地作業する移動農作業機において、車体(1)の沈下量の検出に基づいて、この沈下量が大きいときは、変速スイッチ(2)の操作による変速アクチュエータ(3)の変速操作の速さを速くし、又、沈下量が小さいときは、この変速操作の速さを緩くすることを特徴とする変速操作装置。
【請求項2】
前記変速アクチュエータ(3)として、油圧無段変速装置(4)のトラニオン軸(5)を操作駆動するシフトモータ(6)を有し、このシフトモータ(6)の駆動出力を変えることによって変速操作の速さを制御することを特徴とする請求項1に記載の移動農作業機の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−51187(P2010−51187A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216856(P2008−216856)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】