説明

窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子及びその製造方法

【課題】窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子における電極の半導体動作層とのオーミックコンタクト抵抗を飛躍的に低下させることにより、高耐圧大電流であって、且つ低損失の電力用の半導体素子を提供する。
【解決手段】
基板上14に少なくとも電子走行層15及び電子供給層18を有するヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層と、当該半導体動作層上に形成された少なくとも一つの電極と、を備えた半導体素子において、前記電極は、電子供給層18を通って電子走行層15に達するリセス部20に形成され、当該リセス部20は、その長手方向が前記半導体動作層15、18を流れる電流の方向に沿って形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体からなる半導体素子とその製造方法に関し、特に、その電極における半導体とのオーミックコンタクト抵抗の低減化を可能にする窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子及び窒化ガリウム系化合物半導体からなる電界効果トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN,InGaN,AlGaN,AlInGaN等のGaN系化合物半導体は、SiやGaAs系等の半導体材料に比べてバンドギャップエネルギーが大きく、この半導体材料を用いた電子デバイスは、高い耐絶縁破壊電圧、高電子移動度及び高い耐熱温度等の優れた物性から、近年、高電圧大電流を制御する電力用デバイスとして利用されるようになってきている。
【0003】
窒化物系(GaN)化合物半導体を用いたFET(電界効果トランジスタ)のひとつである高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)は、シリコンやサファイア等の基板に、順次下層側から上に向って、GaN系半導体から成るバッファ層、アンドープGaNからなる電子走行層、そして、電子走行層に比べて薄いアンドープAlaGa1-aN(0<a<1)からなる電子供給層が積層されたヘテロ接合(Hetero-junction)構造を有する。そして、電子供給層の上には、ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極が配置される。ここで、このような電界効果トランジスタにおいては、ソース電極及びドレイン電極の電子供給層とのコンタクト抵抗を低くするために、n型不純物が高濃度にドーピングされたn−GaNコンタクト領域を設けることが当業者において従来から知られていた。
【0004】
しかし、このようなHEMTによる電界効果トランジスタにおいては、ソース電極とドレイン電極が、電子供給層又は電流走行層との間でオーミックコンタクト抵抗(抵抗値:R)を形成した場合、トランジスタに流れる電流の値(電流値:I)の2乗に比例した電力損(IR)を生じることとなり、大電流の制御を行う電力制御用デバイスにおいては、このオーミックコンタクト抵抗のさらなる低減化が、従来から強く望まれていたのである。
【0005】
このため、従来技術の第1の例として、図6に示すように、基板の上に形成され、2次元電子ガス層を有する第1のIII−V族窒化物半導体層と、第1のIII−V族窒化物半導体層の上に形成され、第1のIII−V族窒化物半導体と比べてバンドギャップが大きい第2のIII−V族窒化物半導体層と、下部が第2のIII−V族窒化物半導体層を貫通して形成され、第1のIII−V族窒化物半導体層における2次元電子ガス層よりも下側の領域に達するオーミック電極と、第1のIII−V族窒化物半導体層及び第2のIII−V族窒化物半導体層におけるオーミック電極と接する部分に、導電性を有する不純物が導入されて形成された不純物ドープ層とを備えるようにした半導体装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、従来技術の第2の例として、図7に示すように、基板上に積層される窒化ガリウム層と、上記窒化ガリウム層上に積層される窒化アルミニウムガリウム層とを含み、上記窒化アルミニウムガリウム層の一部もしくは全体に、複数の開口溝が形成され、上記複数の開口溝のうち少なくとも2以上を充塞し、かつ当該充塞した開口溝を電気的に導通させるオーミック電極を備える窒化ガリウム系トランジスタが提案されている(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2007−329350号公報
【特許文献2】特開2007−227409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来技術の第1の例では、オーミック電極の2次元電子ガス層(電子走行層)との接触面積が小さく、その接触面積を大きくすることができないので、オーミックコンタクト抵抗を充分に低下させることはできなかったのである。
【0008】
また、上記した従来技術の第2の例では、複数のV形状の開口溝がソース電極とドレイン電極間における電流の流れる方向と交差する方向になっているため、電子走行層である窒化アルミニウムガリウム層の上面側に多く流れる電流が、オーミックコンタクト部と窒化アルミニウムガリウム層との金属界面を何度も通過することになるので、オーミックコンタクトの実質的な抵抗値の低減化は困難であった。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子における電極の半導体動作層とのオーミックコンタクト抵抗を飛躍的に低下させることにより、高耐圧大電流であり且つ低損失の電力用トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明は、基板上に少なくとも電子走行層及び電子供給層を有するヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層と、当該半導体動作層上に形成された少なくとも一つの電極と、を備えた半導体素子において、前記電極は、前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部に形成され、前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記半導体動作層を流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子を提供するものである。
【0011】
そして、本発明は、基板上に少なくとも電子走行層及び電子供給層を有するヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層と、当該半導体動作層上に形成されたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を備えた電界効果トランジスタに係る半導体素子において、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部に形成され、前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記ソース電極と前記ドレイン電極間に流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする半導体素子を提供する。
【0012】
ここで、本半導体素子における前記リセス部は、並行に配置され櫛状に形成された複数のリセス構造により形成され、前記電子走行層とオーミックコンタクトするのである。そして、前記リセス部の底部は、前記電子走行層内に位置するか、又は前記電子走行層と前記電子供給層の境界面に位置するようにしている。
【0013】
そして、前記電子走行層はアンドープのGaNであり、前記電子供給層はアンドープ又はn型のAlGaNである。
【0014】
本発明は、さらに、窒化ガリウム系化合物半導体により形成され、基板上に少なくとも電子走行層と電子供給層とを有するヘテロ接合構造体の上に形成されたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を有する電界効果トランジスタの製造方法において、(a)前記基板上にバッファ層を介して電子走行層を形成するステップと、(b)前記電子走行層の上に電子供給層を形成するステップと、(c)前記電子供給層の上の所定領域にゲート電極を形成するステップと、(d)前記ソース電極及び前記ドレイン電極の形成領域において、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部を形成するステップと、(e)前記ソース電極と前記ドレイン電極が前記リセス部において前記電子供給層とオーミックコンタクトを形成するステップと、の各ステップを含み、前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記ソース電極及び前記ドレイン電極間に流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする電界効果トランジスタの製造方法を提供するものである。
【0015】
ここで、前記ステップ(a)は、(a−1)Si基板の上にAlN層を形成するステップと、(a−2)前記AlN層の上にバッファ層を形成するステップと、
の各ステップを含む。また、前記ステップ(d)は、(d−1)前記電子走行層の上にマスク層を形成するステップと、(d−2)前記ソース電極及び前記ドレイン電極の前記リセス部の形成領域において、前記マスク層を取り除くステップと、の各ステップを含むのである。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に係る半導体素子においては、ヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層上に形成された電極において、電子供給層を通って電子走行層に達するリセス部に形成され、このリセス部はその長手方向が半導体動作層を流れる電流の方向に沿って形成されて電子走行層とオーミックコンタクトするので、従来技術と比して極めて低いオーミック抵抗を実現したのである。
【0017】
ここで、前記リセス部は、並行に配置され櫛状に形成された複数のリセス構造により形成されて前記電子走行層とオーミックコンタクトするので、電極と電子走行層との接触面積が増大しオーミック抵抗の更なる低減化を実現したのである。このため、リセス部の底部は、電子走行層内又は電子走行層と前記電子供給層との境界面に位置するようにしたのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本半導体素子に係る電界効果トランジスタについて、図面を参照しつつ詳しく説明する。図1乃至2は本電界効果トランジスタの第1の実施形態を示すものである。本第1の実施形態においては、ドレイン電極11及びソース電極13のリセス部20の底部は、電子供給層18を貫通して電子走行層15に達している。
【0019】
ここで、電子走行層15は、アンドープのGaNであり、電子供給層18は、アンドープ又はn型のAlGaNである。また、半導体基板14の部材は、シリコン(SiC)又はサファイアであるが、他の部材を用いても良い。
【0020】
図1(a)は、第1の実施形態に係る本電界効果トランジスタの上面方向から見た模式図を示す。また、図1(b)は、図1(a)の「A−A’」断面を示す。
そして、図2は、第1の実施形態に係る本電界効果トランジスタの断面図を示し、図2(a)は、図1(a)の「B−B’」断面を、図2(b)は、図1(a)の「C−C’」断面をそれぞれ示している。
【0021】
図1(a)において、右側にはドレイン電極11、中央部にゲート電極12、左側にはソース電極13が配置されている。ここで、ゲート電極12に所定の閾値を超える電圧が印加された場合、右側のドレイン電極11側から左側のソース電極13側に電流が流れることとなる(つまり、電子は、左側のソース電極13から右側のドレイン電極11側に流れる)。
【0022】
図2(a)及び(b)において、本電界効果トランジスタは、上面にバッファ層(図5の14−2及び14−3)を有する半導体基板14上に電子走行層15が形成され、電子走行層15の上に電子供給層18が積層形成されたヘテロ接合構造となっている。このヘテロ接合構造の上には、ゲート電極12、ドレイン電極11及びソース電極13が形成され、ドレイン電極11とソース電極13の底部には、複数のリセス部20が形成されるのである。そして、このような電界効果トランジスタにおいては、電子供給層18において発生した電子が、電子走行層15内の電子供給層18側との界面近傍10nm程度の厚さの領域に分布する二次元電子ガス16を形成しているのである。このため、ドレイン電極11とソース電極13の底部が、電子走行層15の表面層における二次元電子ガス16が分布している領域と広い面積で接触させることにより、低抵抗のオーミックコンタクトを得ることができるのである。
【0023】
本第1の実施形態においては、ドレイン電極11とソース電極13は、電子供給層18を貫通して電子走行層115の表面内側に到達するリセス部20を有し、このリセス部20は、図1(a)に示すように、リセス部20の長手方向が、ドレイン電極11とソース電極13間に流れる電流の方向に沿って配置され、電子走行層15と直接的にオーミックコンタクトするようにしている。
【0024】
そして、このリセス部20は、図1(a)及び(b)に示すように、並行に配置され櫛状の複数のリセス構造により形成されているので、ドレイン電極11とソース電極13は、電子走行層15とのオーミックコンタクトの接触面積が飛躍的に増大し、さらには、ドレイン電極11及びソース電極13とオーミックコンタクトする面積が、当該電極11、13間に流れる電流の方向に沿っているので、電極11、13とGaN半導体とのオーミック抵抗値の大幅な低減化を実現したのである。
【0025】
図3乃至4は、本半導体素子に係る電界効果トランジスタの第2の実施形態を示すものである。本第2の実施形態においては、ドレイン電極11及びソース電極13のリセス部20の底部は、電子供給層18と電子走行層15の界面部に位置している。
【0026】
図3(a)は、第2の実施形態に係る本電界効果トランジスタの上面方向から見た模式図を示す。また、図3(b)は、図3の「A−A’」断面を示す。
そして、図4は、第2の実施形態に係る本電界効果トランジスタの断面図を示し、図4(a)は、図3の「B−B’」断面を、図4(b)は、図3の「C−C’」断面をそれぞれ示している。
【0027】
図3(a)において、右側にはドレイン電極11、中央部にゲート電極12、左側にはソース電極13が配置されている。ここで、ゲート電極12に所定の閾値を超える電圧が印加された場合、右側のドレイン電極11側から左側のソース電極13側に電流が流れることとなる。
【0028】
図4(a)及び(b)において、本電界効果トランジスタは、上面にバッファ層(図5の符号14−3)を有する半導体基板14上に電子走行層15が形成され、電子走行層15の上に電子供給層18が積層形成されたヘテロ接合構造となっている。このヘテロ接合構造の上には、ゲート電極12、ドレイン電極11及びソース電極13が形成され、ドレイン電極11とソース電極13の底部には、複数のリセス構造によるリセス部20が形成されるのである。そして、本第2の実施形態においては、ドレイン電極11及びソース電極13のリセス部20の底部が、電子供給層18と電子走行層15の界面部に位置し、当該界面部においてドレイン電極11とソース電極13の底部が、オーミックコンタクトするのである。
【0029】
上記した本第2の実施形態においても、ドレイン電極11とソース電極13の底部がリセス部20を形成し、図3(a)に示すように、当該リセス部20の長手方向が、ドレイン電極11とソース電極13間に流れる電流の方向に沿って配置され、電子走行層15と直接的にオーミックコンタクトするようにしている。
【0030】
そして、このリセス部20は、図3(a)及び(b)に示すように、並行に配置された櫛状に形成された複数のリセス構造により形成されているので、ドレイン電極11とソース電極13は、電子走行層15とのオーミックコンタクトの接触面積が飛躍的に増大し、尚且つ、ドレイン電極11及びソース電極13とオーミックコンタクトする面積が、当該電極11、13間に流れる電流の方向に沿っているので、電極11、13とGaN半導体とのオーミック抵抗値の大幅に低減化を実現したのである。
【0031】
本発明に係るGaN化合物半導体による電界効果トランジスタにおけるドレイン電極11及びソース電極13のオーミックコンタクトの接触抵抗は、所定の条件の実験における実測値として、概ね、2.9乃至3.6×10−6(Ωcm)を示し、リセス部を有さない従来技術に係る電界効果トランジスタにおけるドレイン電極及びソース電極とGaN化合物半導体基板とのオーミックコンタクトの接触抵抗である7.3乃至14.7×10−6(Ωcm)と比較して、約60乃至75%の低減化を実現できたのである。
【0032】
次に、本発明に係る電界効果トランジスタの製造方法について説明する。
図5は、本電界効果トランジスタの製造方法を説明するための図である。図5(a)は、バッファ層(14−3)を含む半導体基板14と、半導体基板14の上に電子走行層15及び電子供給層18を形成した状態を示すものである。以下、図5(a)に示す状態に至るまでの製造方法について説明する
【0033】
はじめに、炭化シリコン(SiC)又はサファイア等からなる基板(14−1)を、例えば有機金属気層成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)させるべくMOCVD装置にセットし、濃度100%の水素ガスをキャリアガスとして用い、トリメチルガリウム(TMGa)と、トリメチルアルミニウム(TMAl)と、NHと、を、それぞれ58μmol/min、100μmol/min、12l/minの流量で導入し、成長温度1050℃で、上記基板(14−1)上に、AlN層(14−2)、バッファ層(14−3)、アンドープ−GaNからなる下部半導体層(14−4)を、順次エピタキシャル成長により形成する。
【0034】
次に、TMGaとNHを、それぞれ19μmol/min、12l/minの流量で導入し、成長温度1050℃で、下部半導体層(14−4)上に、アンドープGaNからなる電子走行層15をエピタキシャル成長させる。そして、次に、TMAlと、TMGaと、NHと、を、それぞれ125μmol/min、19μmol/min、12l/minの流量で導入し、電子走行層15の上にAl組成が25%のアンドープ−AlGaNからなる電子供給層18をエピタキシャル成長させ、これによって半導体動作層15、18が形成される。
【0035】
ここで、バッファ層14−3は、例えば、厚さ200nm/20nmのGaN/AlN複合層を8層以上積層したものとする。また、AlN層(14−2)、下部半導体層(14−4)、電子走行層15、電子供給層18の厚さは、それぞれ、100nm、50nm、100nm、20nmとする。
【0036】
次に、本発明の電界効果トランジスタの特徴であるソース電極13及びドレイン電極11のリセス部20、即ち、電子供給層18を通って電子走行層15に到達するリセス部20の形成方法について説明する。
【0037】
図5(b)は、リセス部20の底部が、電子走行層15と電子供給層18の境界面に位置する場合の例を示す。図5(b)に示すように、ソース電極13及びドレイン電極11のリセス部20を形成する領域において、プラズマ化学気相成長(PCVD)法を用いて電子供給層18上に、SiOからなるマスク層21を、厚さ200nmで形成し、フォトリソグラフィとGHFガスを用いてパターニングを行い、開口部22を形成する。
【0038】
次に、マスク層21をマスクとして、エッチングガスであるClガスを用いて電子供給層18をエッチング除去してリセス部20を形成するための溝を作成する。
【0039】
そして、エッチングマスク21をフッ酸で除去し、リフトオフ法を用いてドレイン電極11及びソース電極13を形成する。尚、これらの電極11、13は、何れも厚さ25nm/300nmのTi/Al構造とし、その金属膜の成膜は、スパッタ法や真空蒸着法を用いて行うことができる。そして、電極11、13を形成後に、600℃、10分のアニールを行なうのである。
【0040】
これにより、図4(a)に示すように、リセス部20は、その長手方向がドレイン電極11(又はソース電極13)間に流れる電流の方向に沿って配置され、電子走行層15の表面(電子供給層18との界面)においてオーミックコンタクトさせるのである。
【0041】
図5(c)は、リセス部20の底部を、電子供給層18を貫通して電子走行層15内に位置させる場合の例を示す。
【0042】
図5(c)に示すように、ソース電極13及びドレイン電極11のリセス部20を形成する領域において、プラズマ化学気相成長(PCVD)法を用いて電子供給層18上に、SiOからなるマスク層21を、厚さ200nmで形成し、フォトリソグラフィとGHFガスを用いてパターニングを行い、開口部22を形成する。そして、マスク層21をマスクとして、エッチングガスであるClガスを用いて電子走行層15の一部および電子供給層18をエッチング除去し、電子走行層15内に至るリセス部20を形成するための溝を作成するのである。電極11、13の形成方法は、上記した方法と同様であるので、ここでの重複記載は省略する。
【0043】
これにより、図2(a)に示すように、電極11、13のリセス部20の底部は、その長手方向がドレイン電極11(又はソース電極13)間に流れる電流の方向に沿って配置され、電子走行層15の内側においてオーミックコンタクトさせるのである。
【0044】
以上詳しく説明したように、本半導体素子に係る電界効果トランジスタにおいては、ソース電極13及びドレイン電極11は、電子供給層18を通って電子走行層15に達するリセス部20を有し、このリセス部20は、その長手方向がソース電極13とドレイン電極11間に流れる電流の方向に沿って形成され、半導体動作層15、18とオーミックコンタクトする。
【0045】
これにより、本半導体素子に係る電界効果トランジスタの電極(ソース電極13及びドレイン電極11)は、従来技術と比して、半導体動作層15、18との間で、極めて低い抵抗値のオーミックコンタクを可能にしたのである。
【0046】
以上、説明したように、本発明に係る半導体素子は、窒化ガリウム系化合物半導体からなるヘテロ接合構造を有する電界効果トランジスタはもちろん、他の半導体素子、例えばダイオード、HEMT,MOSFET(Metal Oxide Semiconductor FET)等のトランジスタへの適用が可能である。また、実施の形態では、横型の電界効果トランジスタについて説明したが、縦型構造や、いわゆる擬似縦型構造の半導体素子にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体による本半導体素子及びその製造方法に関し、特に、その電極における半導体動作層とのオーミックコンタクト抵抗の低減化を可能にする本半導体素子とその製造方法に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本半導体素子に係る電界効果トランジスタの第1の実施形態を示し、図1(a)は、第1の実施形態に係る本電界効果トランジスタの上面方向から見た模式図を示し、図1(b)は、図1(a)の「A−A’」断面を示す。
【図2】図1に示した第1の実施形態に係る本電界効果トランジスタの断面図を示し、図2(a)は、図1(a)の「B−B’」断面を、図2(b)は、図1(a)の「C−C’」断面をそれぞれ示す。
【図3】本半導体素子に係る本電界効果トランジスタの第2の実施形態を示し、図3(a)は、第2の実施形態に係る本電界効果トランジスタの上面方向から見た模式図を示し、図3(b)は、図3(a)の「A−A’」断面を示す。
【図4】図3に示した第1の実施形態に係る本電界効果トランジスタの断面図を示し、図4(a)は、図3(a)の「B−B’」断面を、図4(b)は、図3(a)の「C−C’」断面をそれぞれ示す。
【図5】本電界効果トランジスタの製造方法を説明するための図である。
【0049】
図5(a)は、半導体基板14と、半導体基板14の上に電子走行層15及ぶ電子供給層18を形成した状態を示すものである。
【0050】
図5(b)は、リセス部20の底部が、電子走行層15と電子供給層18の境界面に位置する場合の例(図3に示す第2の実施形態の例)を示す。
【0051】
図5(c)は、リセス部20の底部を、電子供給層18を貫通して電子走行層15内に位置させる場合の例(図1に示す第1の実施形態の例)を示す。
【図6】本電界効果トランジスタに関連する従来技術の第1の例を示す。
【図7】本電界効果トランジスタに関連する従来技術の第2の例を示す。
【符号の説明】
【0052】
11:ドレイン電極
12:ゲート電極
13:ソース電極
14:半導体基板
15:電子走行層(キャリア走行層)
18:電子供給層(キャリア供給層)
20:リセス部(複数のリセス構造)
21:マスク層
22:マスク層開口部(リセス部を有する電極形成領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも電子走行層及び電子供給層を有するヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層と、当該半導体動作層上に形成された少なくとも一つの電極と、を備えた半導体素子において、
前記電極は、前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部に形成され、
前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記半導体動作層を流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体素子。
【請求項2】
基板上に少なくとも電子走行層及び電子供給層を有するヘテロ接合構造体を有する窒化ガリウム系化合物半導体からなる半導体動作層と、当該半導体動作層上に形成されたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を備えた電界効果トランジスタに係る半導体素子において、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部に形成され、
前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記ソース電極と前記ドレイン電極間に流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする半導体素子。
【請求項3】
前記リセス部は、並行に配置され櫛状に形成された複数のリセス構造により形成され、前記電子走行層とオーミックコンタクトすることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記リセス部の底部は、前記電子走行層内に位置することを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載の半導体素子。
【請求項5】
前記リセス部の底部は、前記電子走行層と前記電子供給層の境界面に位置することを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載の半導体素子。
【請求項6】
前記電子走行層はアンドープのGaNであり、前記電子供給層はアンドープ又はn型のAlGaNである、請求項4又は5に記載の半導体素子。
【請求項7】
窒化ガリウム系化合物半導体により形成され、基板上に少なくとも電子走行層と電子供給層とを有するヘテロ接合構造体の上に形成されたソース電極、ドレイン電極及びゲート電極を有する電界効果トランジスタの製造方法において、
(a)前記基板上にバッファ層を介して電子走行層を形成するステップと、
(b)前記電子走行層の上に電子供給層を形成するステップと、
(c)前記電子供給層の上の所定領域にゲート電極を形成するステップと、
(d)前記ソース電極及び前記ドレイン電極の形成領域において、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が前記電子供給層を通って前記電子走行層に達するリセス部を形成するステップと、
(e)前記ソース電極と前記ドレイン電極が前記リセス部において前記電子供給層とオーミックコンタクトを形成するステップと、の各ステップを含み、
前記リセス部は、当該リセス部の長手方向が前記ソース電極及び前記ドレイン電極間に流れる電流の方向に沿って形成されたことを特徴とする電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)は、
(a−1)Si基板の上にAlN層を形成するステップと、
(a−2)前記AlN層の上にバッファ層を形成するステップと、
の各ステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(d)は、
(d−1)前記電子走行層の上にマスク層を形成するステップと、
(d−2)前記ソース電極及び前記ドレイン電極の前記リセス部の形成領域において、前記マスク層を取り除くステップと、
の各ステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記リセス部は、並行に配置され櫛状に形成された複数のリセス構造により形成され、前記電子走行層とオーミックコンタクトすることを特徴とする請求項7乃至9の何れかの項に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項11】
前記リセス部の底部は、前記電子走行層内に位置することを特徴とする請求項10に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項12】
前記リセス部の底部は、前記電子走行層と前記電子供給層の境界面に位置することを特徴とする請求項10に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記電子走行層はアンドープのGaNであり、前記電子供給層はアンドープ又はn型のAlGaNである、請求項10に記載の電界効果トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−239144(P2009−239144A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85473(P2008−85473)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】