説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】高品質な窒化物単結晶を高効率に生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】SiC、ZnOまたはサファイアからなり、負イオン極性面からのオフ角が5°以下である主表面を有する下地基板9を準備し、前記下地基板9の主表面上に、窒化物単結晶膜1を形成すると、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1c上には欠陥として複数の凸部1pが形成される。窒化物単結晶膜1から、単結晶主表面1cに平行に単結晶基板を切り出す場合、欠陥部を含め、単結晶主表面1cから極僅かの厚み(深さ)分の領域については切り出して除去することが好ましいので、下地基板9の正イオン極性面を用いた場合に形成される凹部を有する窒化物単結晶膜に比較して、除去する量が少なく、歩留まりがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物単結晶の製造方法に関するものであり、より特定的には、高品質な窒化物単結晶を高効率に生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、化合物半導体単結晶を利用して種々の電子デバイスが作製されている。化合物半導体単結晶のなかでも窒化物単結晶、たとえば六方晶系のAlGaIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)の単結晶は、種種の電子デバイスの作製に用いられる半導体材料である。
【0003】
上述した窒化物単結晶を形成する方法として、たとえば昇華法やPLD(Pulsed Laser Deposition)(パルス・レーザー堆積)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)(ハイドライド気相成長)法などがよく用いられる。これらの方法を用いて窒化物単結晶を形成する場合においては、当該窒化物単結晶を成長するための基板が必要となる。たとえば六方晶系の窒化ガリウム(GaN)結晶を形成する場合に、基板としてGaNからなる基板を用いることが好ましい。しかしGaN結晶は高価で入手が困難である。このため、たとえば炭化珪素(SiC)からなる基板、ケイ素(Si)からなる基板、サファイア基板などGaNと化学組成の異なる異種基板上にGaN結晶を形成する。
【0004】
しかし、異種基板上にGaN結晶などの窒化物単結晶を形成すると、基板を構成する結晶と、基板上に形成しようとする窒化物単結晶を構成する結晶との格子定数や線膨張係数が大きく異なる。このため、形成される窒化物単結晶の結晶性などの品質が劣化することがある。このような品質の劣化を抑制するため、窒化物単結晶を形成しようとする基板の主表面上にあらかじめ、窒化物単結晶の格子定数や線膨張係数に比較的近い材質からなる薄膜であるバッファ層を形成する。当該バッファ層の主表面上に窒化物単結晶を形成すれば、当該窒化物単結晶の結晶性を向上することができる。なお、ここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
【0005】
ところが、特にHVPE法を用いて窒化物単結晶の形成を行なう場合には、形成される結晶の結晶面に欠陥が形成されやすい。そこで、たとえば特開2008−230868号公報(特許文献1)において、窒化アルミニウム(AlN)結晶の主表面上に、HVPE法によりGaN結晶を成長させる方法が開示されている。具体的には、AlN結晶の(0001)Al表面を主表面として、当該主表面上に、1100℃を超え1400℃未満の結晶成長温度で結晶成長を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−230868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に開示されるGaN結晶の成長方法においては、GaN結晶を形成する基板であるAlN結晶のうち、正イオン極性を有するAlを表面に有する正イオン極性面((0001)Al表面)上に、上記範囲内の成膜温度で結晶成長を行なう。これは、正イオン極性面を主表面として結晶成長を行なった方が、負イオン極性面(AlN結晶におけるN)を主表面として結晶成長を行なうよりも形成される結晶の結晶性が向上すると考えられているためである。
【0008】
しかし実際には、AlN結晶の主表面上にGaN結晶など異種の結晶を形成する場合は、特に正イオン極性面上に窒化物単結晶の形成を行なうと、形成される窒化物単結晶の表面には凹状の欠陥が形成されやすいことを、本願発明の発明者は見出した。特に異種基板上への結晶成長は、たとえば上述した温度範囲など低温にて行なう。このため、たとえば特に成長するGaN結晶が転位の集中したファセット領域である場合、形成されるGaN結晶の表面上には凹状の形状が形成されやすい。
【0009】
凹状の形状が多数形成されたGaN結晶を半導体基板として用いるために、当該GaN結晶から半導体基板(GaN基板)を切り出す場合、凹状の形状が形成された領域は半導体基板として利用することができない。したがって、形成した結晶の厚みのうち、実際に半導体基板として利用することができる領域の厚みは、形成した結晶の厚みから凹状の形状の深さ分の厚みを減じた厚みである。このことから、結晶成長の際に凹状の形状が多数形成されれば、半導体基板を切り出すことができる枚数が減少する。すなわち当該工程における半導体基板の生産性が低下する。
【0010】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高品質な窒化物単結晶を高効率に生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る窒化物単結晶の製造方法は、負イオン極性面からのオフ角が5°以下である主表面を有する下地基板を準備する工程と、下地基板の主表面上に、窒化物単結晶膜を形成する工程とを備える。
【0012】
六方晶系の結晶にて形成された下地基板の、負イオン極性面は一般に(000−1)面で表わすことができる。一例として、当該下地基板が4H−SiC基板である場合における(000−1)C表面を挙げることができる。
【0013】
負イオン極性面、または負イオン極性面からのオフ角が小さい(5°以下である)面を主表面とする、六方晶系の結晶を下地基板として準備する。そして当該下地基板の主表面、すなわち負イオン極性面または負イオン極性面からのオフ角が小さい面を主表面として、六方晶系の結晶にて構成される窒化物単結晶を形成する。
【0014】
このように、窒化物単結晶を形成する工程において、下地基板の負イオン極性面またはそれに近い角度を有する主表面上に結晶成長を行なう。このようにすれば、正イオン極性面上に当該結晶成長を行なった場合に形成される結晶に多数形成される凹状の欠陥の発生を抑制することができる。したがって、形成される窒化物単結晶の品質を向上することができる。
【0015】
負イオン極性面またはそれに近い角度を有する主表面上に、凹状の欠陥の発生が抑制された窒化物単結晶を形成すれば、窒化物単結晶を形成した厚み分のほぼすべての領域を、半導体基板として切り出し利用することができる。すなわち、当該窒化物単結晶から切り出すことができる半導体基板の枚数が増加する。したがって、当該窒化物単結晶を用いて半導体基板を生産する生産性を向上することができる。
【0016】
本発明に係る窒化物単結晶の製造方法において、結晶成長させる窒化物単結晶膜がAlGaIn(1−x−y)Nであることが好ましい。ここで0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1とする。上述した数式から、たとえばAlN、GaNなど、窒化物を含む多種の化合物半導体の結晶を形成することができる。
【0017】
本発明に係る窒化物単結晶の製造方法において、下地基板はSiC、ZnOまたはサファイアからなることが好ましい。これらの材質の結晶は六方晶系である。このため、上述した材質の結晶を下地基板として用いれば、六方晶系の窒化物単結晶を高品質に形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高品質な窒化物単結晶を高効率に生産することが可能な窒化物単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を構成する工程を示すフローチャートである。
【図2】六方晶系の結晶構造を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を用いて窒化物単結晶を形成する炉の断面を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法を用いて形成した窒化物単結晶膜の概略断面図である。
【図5】図4の窒化物単結晶膜から基板を切り出す態様を示す概略断面図である。
【図6】従来の窒化物単結晶の製造方法を用いて形成した窒化物単結晶膜の概略断面図である。
【図7】図6の窒化物単結晶膜から基板を切り出す態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法は、下地基板を準備する工程(S10)と、負イオン極性面上に窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)とを備えている。
【0021】
下地基板を準備する工程(S10)は、窒化物単結晶膜を成長させる下地として用いる基板を準備する工程である。六方晶系の窒化物単結晶を形成するために用いる下地基板としては六方晶系の結晶を用いることが好ましい。たとえばSiC、ZnOまたはサファイアの結晶からなる下地基板を用いることが好ましい。
【0022】
本実施の形態に係る窒化物単結晶の製造方法において、下地基板は自立結晶基板であっても、他の基板上に形成された結晶層であってもよい。自立結晶基板は、他の基板上に形成された結晶層に比べて、結晶性がよくまた反りが少ない。このため自立結晶基板を用いれば、結晶性の良好なGaN結晶を成長することができる。ただし一般に自立結晶基板は高価である。しかしたとえばSiC基板は比較的廉価であり、大口径の基板の入手が比較的容易である。かかる観点から、上述したように、下地基板として、SiC、ZnO、サファイアの自立結晶からなる下地基板を用いることが好ましい。
【0023】
本発明者は、鋭意研究の結果、これらの下地基板の負イオン極性面上、もしくは負イオン極性面に近い角度(負イオン極性面に対するオフ角が小さい)を有する主表面上に窒化物単結晶を形成することが好ましいことを見出した。具体的には、上記負イオン極性面上などに結晶成長すれば、形成される結晶における凹状の欠陥などの発生を抑制することができる。
【0024】
なお、負イオン極性面とは、六方晶系の結晶を構成する物質のうち、負イオン極性を有する材質からなる面のことである。負イオン極性を有する材質とは、たとえばSiCにおいてはC(炭素)、ZnOにおいてはO(酸素)、サファイア(Al)においてはO(酸素)である。同様に正イオン極性面とは、六方晶系の結晶を構成する物質のうち、正イオン極性を有する材質からなる面のことである。正イオン極性を有する材質とは、たとえばSiCにおいてはSi(珪素)、ZnOにおいてはZn(亜鉛)、Al(サファイア)においてはAl(アルミニウム)である。
【0025】
六方晶系の結晶は、図3に示す六方晶構造10中に斜線を施した平面である(0001)面と(000−1)面とを備えている。一般に、2つの平面のうち図3における上側の平面である(0001)面が正イオン極性面2であり、図3における下側の平面である(000−1)面が負イオン極性面4である。正イオン極性面2よりも、負イオン極性面4を、当該窒化物単結晶が結晶成長される下地基板の主表面とすることが好ましい。あるいは、負イオン極性面4に近い角度を有する面、たとえば負イオン極性面4からのオフ角が5°以下である面を、当該下地基板の主表面としてもよい。
【0026】
このため、下地基板を準備する工程(S10)においては、下地基板として用いる材質を選定した上で、当該下地基板の結晶(たとえば基板)の主表面が負イオン極性面4、または負イオン極性面4からのオフ角が5°以下である面(以下、これらをすべて含めて「負イオン極性面4」という。)となるように加工を行なうことが好ましい。このようにするための加工方法としては、たとえばインゴットから下地基板を切り出し、切り出した下地基板の主表面を、当該主表面が負イオン極性面4であると判別されるように下地基板の主表面の切り出し、または研磨をすることが好ましい。なお、切り出した主表面が負イオン極性面4であるかどうかは、以下の方法により判別することが好ましい。切り出した主表面上を溶融アルカリを用いてエッチングする。エッチングされた表面形状を観察することにより、負イオン極性面4であるか否かを判別する。
【0027】
下地基板を準備する工程(S10)において負イオン極性面4を主表面として有する下地基板を準備したところで、負イオン極性面上に窒化物単結晶膜を形成する工程(S20)において、当該主表面上に所望の窒化物単結晶を結晶成長させる。
【0028】
上述した工程(S20)における窒化物単結晶膜は、たとえば昇華法を用いて形成することが好ましい。窒化物単結晶膜は一般的にAlGaIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)の化学式で表わされる材質から形成されることが好ましい。しかしここではたとえば窒化物単結晶膜としてAlN結晶を形成する場合を考える。本実施形態における昇華法とは、図3を参照して、形成しようとする窒化物単結晶であるAlN粉末などのAlN原料(窒化物単結晶原料5)を昇華させた後、再度固化させて窒化物単結晶膜1であるAlN結晶を得る方法をいう。昇華法による結晶成長においては、たとえば、図3に示すような高周波加熱方式の縦型の昇華炉20を用いる。この縦型の昇華炉20における反応容器21の中央部には、排気口23cを有する窒化ケイ素(BN)製の坩堝23が設けられ、坩堝23の周りに坩堝23の内部から外部への通気を確保するように加熱体25が設けられている。また、反応容器21の外側中央部には、加熱体25を加熱するための高周波加熱コイル27が設けられている。さらに、反応容器21の端部には、反応容器21の坩堝23の外部にN2ガスを流すためのN2ガス導入口21aおよびN2ガス導入口21cと、坩堝23の下面および上面の温度を測定するための放射温度計29が設けられている。
【0029】
図3を参照して、上記縦型の昇華炉20を用いて、たとえば、以下のようにして本実施形態で用いられる窒化物単結晶膜1を形成することができる。窒化物単結晶膜1がAlN結晶である場合、坩堝23の下部にAlN粉末などの窒化物単結晶原料5を収納し、反応容器21内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル27を用いて加熱体25を加熱する。このようにして坩堝23内の温度を上昇させて、坩堝23のAlN原料側の温度を、それ以外の部分の温度よりも高く保持することによって、AlNを昇華させる。このようにすれば、坩堝23の上部でAlNが冷却することにより再度固化するため、AlN結晶を窒化物単結晶膜1として形成することができる。ここで、坩堝23の上部にAlN結晶を形成するための下地基板9(たとえば、SiC基板)を配置することにより、この下地基板上にAlN結晶を形成することができる。なお、上述したように下地基板9は、SiC基板である場合は窒化物単結晶膜1が形成される主表面が負イオン極性面である炭素(C)からなる主表面であることが好ましい。
【0030】
ここで、AlN結晶の成長中は、坩堝23の窒化物単結晶原料5側(AlN原料側)の温度は1800℃〜2200℃程度とし、坩堝23の上部の下地基板9の温度をAlN原料側の温度より1℃〜100℃程度低くする。このようにすれば、形成しようとする窒化物単結晶膜1と異種の下地基板9であるSiC基板上の成長であっても、他の成長方法では得られない結晶性のよいAlN結晶が得られる。また、結晶成長中も反応容器21内の坩堝23の外側にN2ガスを、ガス分圧が101.3hPa〜1013hPa程度になるように流し続けることにより、AlN結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0031】
なお、坩堝23内部の昇温中は、坩堝23のAlN原料側の温度よりもそれ以外の部分の温度を高くすることが好ましい。このようにすれば、坩堝23内部の不純物を排気口23cを通じて除去することができ、AlN結晶への不純物の混入を低減することができる。
【0032】
上記昇華法によって、転位密度が1×106cm-2以下である結晶性のよいAlN結晶が得られる。なお、昇華法の条件を最適化することによって、AlN結晶の転位密度を1×103cm-2〜1×105cm-2程度まで低減することが可能である。
【0033】
上記のように、昇華法によれば、下地基板9の有無にかかわらず、結晶性のよいAlN結晶が得られる。大口径のAlN結晶が得られる観点から、下地基板上にAlN結晶を成長させることが好ましい。下地基板としては、成長させるGaN結晶に対して格子定数が近く、またAlN昇華法での成長雰囲気下であっても分解しない観点から、SiC基板、ZnO基板またはサファイア基板を用いることが好ましい。
【0034】
以上の方法を用いて形成した窒化物単結晶膜1(AlN結晶)は、図4に示すように、下地基板9(SiC基板)の一方(上側)の主表面上に形成されており、その厚み(図4における上下方向の深さ)はTである。窒化物単結晶膜1の最上面(単結晶主表面1c)上には複数の凸部1pが形成されている。図4の断面図においては凸部1pは三角形状であるが、実際は凸部1pは六角錘状である。なお、上述した窒化物単結晶膜1の厚みTには凸部1pの厚みは含まれない。また、図4においては複数の凸部1pを一定の間隔で設けているが、実際は当該間隔は必ずしも一定ではない。
【0035】
下地基板9の負イオン極性面4を主表面とすれば、形成される窒化物単結晶膜1の最上面(単結晶主表面1c)上には複数の凸部1pが形成される。なお、単結晶主表面1cの総面積をSとすれば、Sは単結晶主表面1cの凸部1pが形成されている領域の総面積Spと、凸部1pが形成されていない領域の総面積Scとの和になる。
【0036】
図4に示す複数の凸部1pを有する窒化物単結晶膜1から、図5に示すように単結晶基板102、103、104、105を切り出す。なお、窒化物単結晶膜1の最上面である単結晶主表面1c上には複数の凸部1pが形成されている。このため、凸部1pを含め、単結晶主表面1cから極僅かの厚み(深さ)分の領域101については切り出して除去することが好ましい。また、下地基板9の図5における最上面(負イオン極性面4からなる主表面)から極僅かの厚み(深さ)分の領域106についても、単結晶基板を切り出す領域としては用いないことが好ましい。しかし、窒化物単結晶膜1のうち、上述した領域101および領域106を除いた領域については、図5に示すように単結晶基板102、103、104、105として切り出すことができる。このように、形成した窒化物単結晶膜1から、結晶性の高い窒化物単結晶基板を効率的に歩留まりよく得ることができる。
【0037】
窒化物単結晶膜1から単結晶基板102、103、104、105を切り出す方法としては従来公知の任意の方法を用いることができる。ただし大口径の主表面を有する基板1sを得る観点から、図5に示すように、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1cに沿った(ほぼ平行である)主面1smにおいて、たとえばダイシングなどの方法により切り出すことが好ましい。また、基板1s(単結晶基板102、103、104、105)は、その主面1sm上に結晶性の良好な半導体層を形成するために用いられる。したがって主面1smが研磨またはエッチングなどにより鏡面化されることが好ましい。研磨方法としては、機械的研磨方法、化学機械的研磨方法(CMP)を用いることが好ましい。エッチング方法としては、気相エッチング、液相エッチングなど任意の方法を用いることができる。
【0038】
以上のように、下地基板9の負イオン極性面4上に凸部1pを複数有する窒化物単結晶膜1を形成すれば、当該窒化物単結晶膜1から切り出すことができる基板1sの枚数を増加し、生産性を向上することができる。このことを説明するために以下の図6および図7を比較用に用いる。図6に示す窒化物単結晶膜1は、従来から用いられている下地基板9の正イオン極性面2(図2参照)、または正イオン極性面2に近い角度を有する(たとえば正イオン極性面2に対するオフ角が5°以下である)面に対して形成されたものである。なお、以下においては正イオン極性面2および正イオン極性面2に近い角度を有する面をすべて含めて「正イオン極性面2」という。
【0039】
この場合、下地基板9や窒化物単結晶膜1の材質が図4および図5と同様であり、形成される窒化物単結晶膜1の厚みが図4と同じくTである場合、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1c上には複数の凹部1fが形成される。図6の断面図においては凹部1fは三角形状であるが、実際は凹部1fは六角錘状である。なお、単結晶主表面1cの総面積をSとすれば、Sは単結晶主表面1cの凹部1fが形成されている領域の総面積Spと、凸部1pが形成されていない領域の総面積Scとの和になる。
【0040】
この場合、図6に示す窒化物単結晶膜1から、図7に示すように単結晶基板112、113、114を切り出すことができる。単結晶基板112、113、114は図5の単結晶基板102、103、104、105と同様に、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1cに沿った(ほぼ平行である)主面1smにおいて基板1sとして切り出す。なお当該基板1sを切り出す方法および、主面1smを研磨する方法は図5と同様である。
【0041】
ここで、図6における窒化物単結晶膜1や、切り出そうとする個々の基板1sの厚みが、図4の場合と同様であると仮定する。この場合において、図6、図7に示す凹部1fが多数存在するため、凹部1fの厚み(深さ)分および、凹部1fの最下部から極僅かの厚み分を占める領域111は、基板1sとして用いることができないため切り出される。また、下地基板9の図7における最上面(正イオン極性面2からなる主表面)から極僅かの厚み(深さ)分の領域115についても、単結晶基板を切り出す領域としては用いないことが好ましい。領域115の厚みは図5の領域106の厚みとほぼ同じである。しかし領域111の厚みは、図5の領域101の、凸部1pを除いた厚みよりも大きい。したがって図7に示すように、単結晶主表面1c上に複数の凹部1fが形成される場合、単結晶主表面1c上に複数の凸部1pが形成される場合に比べて、切り出すことができる基板1sの枚数が少ない。基板1sとして切り出すことができる厚みが、凹部1fの存在する分だけ薄くなるためである。具体的には、図5に示す基板1sと図7に示す基板1sの厚みがほぼ等しいと仮定して、図5に示すように本実施の形態においては基板1sが単結晶基板102、103、104、105の4枚切り出せるのに対して、図7においては単結晶基板112、113、114の3枚しか切り出せない。
【0042】
このことから、本実施の形態に示すように、負イオン極性面4上に窒化物単結晶膜1を形成することにより、形成される窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1c上に凸部1pが形成されるようにすることが好ましい。このようにすれば、たとえば正イオン極性面2上に窒化物単結晶膜1を形成して当該単結晶主表面1c上に凹部1fを形成させた場合に比べて、窒化物単結晶膜1から切り出すことができる基板1sの枚数が増加する。このため、当該基板(単結晶基板)の生産性を向上することができる。
【実施例1】
【0043】
図3に示す昇華炉20を用いて、昇華法により下地基板9(図3〜図7参照)の一方の主表面上に窒化物単結晶膜1(図3〜図7参照)を形成した。具体的には、実施例1においては上述した4H−SiC基板を図3に示す下地基板9として用いた。なお、当該下地基板9(4H−SiC基板)の主表面は直径2インチの円形である。坩堝23の内部の、下地基板9の主表面が対向する位置に、窒化物単結晶原料5としてAlGaIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)の焼結体原料をセットした。下地基板9は、窒化物単結晶原料5に対向する主表面が正イオン極性面2である4H−SiC基板と、負イオン極性面4である4H−SiC基板との両方を準備した。ここで、成膜される主表面が正イオン極性面2または負イオン極性面4となるようにするために、当該主表面を研磨し、当該主表面のイオン極性を確認した。このような作業を繰り返すことにより、所望の表面を主表面として露出させた。
【0044】
以上のようにして準備した各下地基板9に対して、昇華法を用いて窒化物単結晶原料5を2000℃に加熱し、窒化物単結晶原料5を昇華させた。このとき、対向する下地基板9(4H−SiC基板)の主表面(正イオン極性面2または負イオン極性面4のいずれか)上に、昇華した窒化物単結晶原料5を再度固化させて、窒化物単結晶膜1を形成した。
【0045】
窒化物単結晶原料5としてのAlGaIn(1−x−y)N(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)のxとyの値を様々に変化させ、以下の表1に示す6種類の窒化物単結晶膜1を、4H−SiC基板の正イオン極性面2と負イオン極性面4とのそれぞれの主表面上に形成した。このようにして形成したいずれの窒化物単結晶膜1についても、その厚みは5mmであった。
【0046】
以上の手順により形成した各窒化物単結晶膜1の最上面である単結晶主表面1c(図4〜図7参照)を光学顕微鏡を用いて観察した。すなわち、単結晶主表面1c上に上述した凸部1pまたは凹部1fのいずれの欠陥が発生しているかを調査した。そして、各窒化物単結晶膜1から、基板1s(図5、図7参照)として切り出すことが可能な領域の厚み(切り出し可能厚さ)を測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1を参考にして、形成した窒化物単結晶膜1は、AlN(AlGaIn(1−x−y)Nのx=1、y=0。以下同じ)、Al0.5Ga0.5N(同x=0.5、y=0.5)、GaN(同x=0、y=1)、Ga0.5In0.5N(同x=0、y=0.5)、InN(同x=0、y=0)、Al0.5In0.5N(同x=0.5、y=0)の合計6種類である。これら6種類の窒化物単結晶膜1のいずれについても、下地基板9である4H−SiC基板の正イオン極性面2((0001)面ないし、(0001)面からのオフ角が5°以下の面)上に形成した場合は、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1c上に凹部1fが形成され、切り出し可能厚さが4mmとなった。これに対して、これら6種類の窒化物単結晶膜1のいずれについても、下地基板9である4H−SiC基板の負イオン極性面4((000−1)面ないし、(000−1)面からのオフ角が5°以下の面)上に形成した場合は、窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1c上に凸部1pが形成された。このため、切り出し可能厚さが5mmとなった。なお、図5に示す領域101の厚み(凸部1pの厚みを除く)と領域106の厚み分は切り出し可能厚さには含まれない。しかしこれらの領域の厚みは極めて薄いため、実質切り出し可能厚さは図4に示す厚みTにほぼ等しい。
【0049】
表1から、下地基板9としてSiC基板を用いた場合、正イオン極性面2上に窒化物単結晶膜1を形成するよりも、負イオン極性面4上に窒化物単結晶膜1を形成した方が、切り出し可能厚さが厚くなる。すなわち、同様に形成した窒化物単結晶膜1から切り出す(生産する)ことが可能な基板1sの枚数が多くなり、基板1sの生産性が向上するといえる。
【実施例2】
【0050】
実施例1と同様の試験を、下地基板9として4H−SiC基板の代わりにサファイア(Al)基板を用いて実施した。準備した下地基板9の種類や形成した窒化物単結晶膜1の種類や加工条件などはすべて実施例1と同様である。その結果を以下の表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2に示すように、下地基板9としてサファイアを用いた場合においても、形成される各窒化物単結晶膜1の単結晶主表面1cに形成される欠陥の形状や、切り出し可能厚さはすべて、下地基板9としてSiC基板を用いた場合と同様となった。すなわち、下地基板9としてサファイア基板を用いた場合についても、SiC基板を用いた場合と同様に、正イオン極性面2上に窒化物単結晶膜1を形成するよりも、負イオン極性面4上に窒化物単結晶膜1を形成した方が、切り出し可能厚さが厚くなる。すなわち、同様に形成した窒化物単結晶膜1から切り出す(生産する)ことが可能な基板1sの枚数が多くなり、基板1sの生産性が向上するといえる。
【実施例3】
【0053】
さらに実施例1と同様の試験を、下地基板9として酸化亜鉛(ZnO)基板を用いて実施した。準備した下地基板9の種類や形成した窒化物単結晶膜1の種類や加工条件などはすべて実施例1と同様である。その結果を以下の表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示すように、下地基板9として酸化亜鉛を用いた場合においても、下地基板9としてサファイアやSiCを用いた場合と全く同様の結果となった。
【0056】
今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、高品質な窒化物単結晶を高効率に生産することが可能な窒化物単結晶を形成する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0058】
1 窒化物単結晶膜、1c 単結晶主表面、1f 凹部、1p 凸部、1s 基板、1sm 主面、2 正イオン極性面、4 負イオン極性面、5 窒化物単結晶原料、9 下地基板、10 六方晶構造、20 昇華炉、21 反応容器、21a,21c N2ガス導入口、23 坩堝、23c 排気口、25 加熱体、27 高周波加熱コイル、29 放射温度計、101,106,111,115 領域、102,103,104,105,112,113,114 単結晶基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオン極性面からのオフ角が5°以下である主表面を有する下地基板を準備する工程と、
前記下地基板の前記主表面上に、窒化物単結晶膜を形成する工程とを備える、窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物単結晶膜がAlGaIn(1−x−y)Nである、請求項1に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記下地基板はSiC、ZnOまたはサファイアからなる、請求項1または2に記載の窒化物単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−265131(P2010−265131A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116687(P2009−116687)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】